(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】コバルト酸リチウム正極活物質及びそれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240802BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G51/00 A
(21)【出願番号】P 2019188421
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2018245217
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】智原 久仁子
(72)【発明者】
【氏名】松原 恵子
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-037617(JP,A)
【文献】特表2008-536285(JP,A)
【文献】特開2009-043477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用正極活物質であって、
コバルト酸リチウムを備えてなり、
前記コバルト酸リチウムは、原子結合基として、少なくとも、Co-F結合及びCo-O結合を備えてなり、
X線光電子分光法(XPS)により、
前記Co-F結合に対するCo2p3/2ピークが780.5-779.5eVに現れてなり、及び、
前記Co-O結合に対するCo2p3/2ピークが781-783eVに現れてなり、
前記原子結合基として、Al-F結合、Al-O結合、及びAl-Co結合からなる群から選択されてなる一種又は二種以上のものを備えてなる、二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記Co-F結合由来Co2p3/2ピークに対する前記Co-O結合由来Co2p3/2ピークのピーク面積比S(CoF)/S(CoO)が、0.05以上0.12以下である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記原子結合基を構成するAl原子が、前記二次電池用正極活物質の全質量に対して、0.03質量%以上0.35質量%以下で存在してなる、請求項1又は2に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記原子結合基が、前記コバルト酸リチウムの構成原子及び/又はフッ化アルミニウム(AlF
3)の構成原子由来のものである、請求項1~3の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記Co-F結合におけるCo原子が3価又は2価である、請求項1~4の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記Co-F結合におけるCo原子が3価である、請求項1~5の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
正極であって、
集電体と、請求項1~6の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質を備えてなる、正極。
【請求項8】
二次電池であって、
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータとを備えてなり、
前記正極が、請求項7に記載のものである、二次電池。
【請求項9】
請求項1~6の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法であって、
フッ化アルミニウム(AlF
3)と極性溶媒とを混合し、フッ化アルミニウムゾル組成物を調製し、
コバルト酸リチウムを前記フッ化アルミニウムゾル組成物で処理し、二次電池用正極活物質前駆体を調製し、
前記二次電池用正極活物質前駆体を焼成又は乾燥し、
前記コバルト酸リチウムの表面に、原子結合基として、少なくとも、Co-F結合及びCo-O結合を形成してなることを含んでなる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト酸リチウム正極活物質、特に、特定の原子結合基を備えたコバルト酸リチウム正極活物質及びそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイルツール、電気モーターの開発及び普及に伴って、高容量のエネルギー源が求められており、その代表的な例として、二次電池が挙げられる。特に、リチウムイオン二次電池は、平均動作電圧が高く、高容量である為、モバイル及び定置型パーソナルコンピューター(PC)のみならず、蓄電池用大型電源・車両搭載用高出力電源としても、その汎用範囲が急速に拡大している。
【0003】
また、駆動電源用二次電池としての応用範囲拡大に伴い、高エネルギー密度を有する新たな二次電池用活物質の開拓及び開発が行われており、更なるエネルギー密度の向上と出力特性の改善を図る新たな二次電池用正極活物質の開発が活発化している。
【0004】
二次電池用正極活物質であるLiCoO2の理論容量は274mAh/gを呈するが、実際、充放電サイクル寿命の長期化を図るため、充放電容量は160mAh/g程度に抑えられている。このように、現在の酸化物系正極活物質においては、理論的に利用できるレドックス量に余裕がある為、充電電圧の上限を上げてリチウム挿入脱離範囲を広げる事で、より多くの容量及びより高い平均作動電圧を確保し、エネルギー密度の向上を図る試みがなされている。
【0005】
しかしながら、理論的に、充電電圧を上げる事でより高いエネルギー密度を達成することは可能であるが、電解液の分解電圧を考慮すると、従来技術ではサイクル寿命及び安全性を確保する事が困難であり、特にサイクルの急劣化は実用化に向けて大きな課題となっている。
【0006】
また、二次電池の用途範囲の広汎化及び多様化により、例えば、40℃超過という高温環境下、或は零度未満のマイナス温度環境下、といった過酷な温度環境下でも稼働できる温度安定性に優れた二次電池が要求されている。
【0007】
従来、サイクル特性向上等を目的として、正極材料に酸化物及びフッ化物等の表面層を形成させ、電解液の分解及び酸化を抑制する手法が提案されている。
【0008】
正極活物質に酸化物を被覆する手法として、例えば、非特許文献1〔Y. Akira, et al., J. Electro. Chem. Soc., 164 (1) A6116-A6122 (2017)〕によれば、電気化学的に不活性な化合物、例えば酸化アルミニウムを用いて、表面にLiAlO2-LiCoO2固溶体を形成し、表面原子の再配列による酸素欠損やスピネル転移を抑制する手段が提案されている。しかしながら、当該提案であっても、高電圧系正極活物質では長期サイクルに亘り安定した駆動性を保つことは困難であり、未だ、実用化には多くの課題が残されている。
【0009】
また、正極活物質にフッ化物を被覆した技術としては、例えば、特許文献1(特表2014-531718号公報)では、アルミニウム塩を含む水溶液にNH4Fを含む形成溶液を使用して、活物質を被覆しサイクル特性を改善する方法が提案されている。しかしながら、被覆工程における正極活物質の溶出及び前記形成溶液が大量に必要である等の解決すべき課題が多い。また、特許文献2(特開2009-164139号公報)並びに特許文献3(特表2006-514913号公報)では、常温或いは低温でフッ素ガスやフッ化水素(HF)を使用し、表面金属をフッ素化する手法が提案されている。
【0010】
しかし、フッ化物(ガス)の取扱い及び安全性に注意が必要であり、人体への影響、周辺環境の保全及び作業効率等、改善すべき余地がある。又、強力な酸化剤であるフッ素系ガスは、殆ど全ての原子と反応しうるが、直接フッ素化法(ガス)によって導入されたフッ素は遷移金属よりも、ある程度優先的にLiと相合作用する。しかしながら、極めて高い電気陰性度を有するフッ素に結合するリチウムのイオンキャリアとしての寄与は消滅する為、エネルギー密度を確保する為には表面原子に総合作用するフッ素の相手はリチウム以外の元素であることが好ましい。
【0011】
よって、今尚、取扱容易性、安全性、作業効率向上、電池性能の向上等の観点から、新たな正極活物質の研究及び開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特表2014-531718号公報
【文献】特開2009-164139号公報
【文献】特表2006-514913号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Y. Akira, et al., J. Electro. Chem. Soc., 164 (1) A6116-A6122 (2017)
【発明の概要】
【0014】
本発明は、正極活物質に特定の原子結合基を備えてなることにより、高い電池容量、高い平均作動電圧を確保し、エネルギー密度の向上を図ることができるとの知見に基づいてなされたものである。
【0015】
〔本発明の一の態様〕
本発明の一の態様は以下の通りである。
〔1〕 二次電池用正極活物質であって、
二次電池用正極活物質であって、
化学式:LixCoO2(0.1<x<1.0)で表されるコバルト酸リチウムを備えてなり、
前記コバルト酸リチウムは、原子結合基として、少なくとも、Co-F結合及びCo-O結合を備えてなり、
X線光電子分光法(XPS)により、
前記Co-F結合に対するCo2p3/2ピークが780.5-779.5eVに現れてなり、及び、
前記Co-O結合に対するCo2p3/2ピークが781-783eVに現れてなる、二次電池用正極活物質。
〔2〕 前記Co-F結合由来Co2p3/2ピークに対する前記Co-O結合由来Co2p3/2ピークのピーク面積比S(CoF)/S(CoO)が、0.05以上0.12以下である、〔1〕に記載の二次電池用正極活物質。
〔3〕 前記原子結合基として、活物質表面にAl-F結合、Al-O結合、及びAl-Co結合からなる群から選択されてなる一種又は二種以上の混合物を備えてなる、〔1〕又は〔2〕に記載の二次電池用正極活物質。
〔4〕 前記原子結合基を構成するAl原子が、前記二次電池用正極活物質の全質量に対して、0.03質量%以上0.35質量%以下で存在してなる、〔3〕に記載の二次電池用正極活物質。
〔5〕 前記原子結合基が、前記コバルト酸リチウムの構成原子及び/又はフッ化アルミニウム(AlF3)の構成原子由来のものである、〔1〕~〔4〕の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質。
〔6〕 前記Co-F結合におけるCo原子が3価又は2価である、〔1〕~〔5〕の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質。
〔7〕 前記Co-F結合におけるCo原子が3価である、〔1〕~〔6〕の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質。
〔8〕 正極であって、
集電体と、〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質を備えてなる、正極。
〔9〕 二次電池であって、
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータとを備えてなり、前記正極が、〔8〕に記載のものである、二次電池。
〔10〕 〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法であって、
フッ化アルミニウム(AlF3)と極性溶媒とを混合し、フッ化アルミニウムゾル組成物を調製し、
前記化学式で表されるコバルト酸リチウムを前記フッ化アルミニウムゾル組成物で処理し、二次電池用正極活物質前駆体を調製し、
前記二次電池用正極活物質前駆体を焼成もしくは乾燥し、
前記コバルト酸リチウムの表面に、原子結合基として、少なくとも、Co-F結合及びCo-O結合を形成してなることを含んでなる、製造方法。
〔11〕 〔10〕に記載の二次電池用正極活物質の製造方法よって得られた、〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【発明の効果】
【0016】
本発明による特定の原子結合基を表面に備えたコバルト酸リチウム正極活物質によれば、正極活物質表面における電解液の分解反応が抑制され、大幅なサイクル寿命向上が実現できる。特に、正極活物質表面における特定の原子結合基の存在により、高温下で利用され、リチウム基準で4.5V以上(特に好ましくは4.55V以上)の高電圧で印加される系に対し極めて優れた二次電池性能を発揮させることができる。
【0017】
本発明による製造方法によれば、特異性及び安全性に優れたフッ化アルミニウムと極性溶媒を使用することにより、原子結合基形成(処理、被覆)工程おいて、安全性確保、作業容易性、周辺環境の保全、及び製造効率向上を確保しながら、コバルト酸リチウム正極材料表面に特定の原子結合基を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例1-1及び比較例について、25℃におけるサイクル特性を示したものである。
【
図2】
図2は、実施例1-1乃至1-3及び比較例について、45℃におけるサイクル特性を示したものである。
【
図3】
図3は、50サイクル目における、AlF
3処理量に対する容量維持率推移を示したものである。
【
図4】
図4は、実施例2-1乃至2-3及び比較例の45℃におけるサイクル特性を示すものである。
【
図5】
図5は、実施例1-1、実施例1-3、実施例2-2及び比較例のCo2pスペクトルを示すものである。
【
図6】
図6は、Co2p3/2スペクトルを各成分でピーク分離した結果を示したものである。
【
図7】
図7は、撹拌乾燥、前(a)、後(b)のAlF
3粉末の粉末回折線パターンを示したものである。
【
図8】
図8は、実施例1-1、実施例1-3、実施例2-2及び比較例のAl2pスペクトル比較を示したものである。
【
図9】
図9は、実施例1-1、実施例1-3、実施例2-2及び比較例のF1sスペクトル比較を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔定義〕
(X線光電子分光法)
X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)は、試料、特に試料表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、試料の構成元素と、その電子状態を分析する方法である。特に、XPSは、表面数nmに存在する元素に対して、定性分析及び定量分析のみならず、試料の特性を決定する化学結合状態を分析することに使用することができる。
【0020】
(体積累積粒度分布)
体積累積粒度分布は、一つの粉体の集合を仮定し、その粒度分布が求められたものであり、その粒度分布において、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、例えば、累積カーブが最小(min)、50%、最大(max)となる点の粒子径をそれぞれD(min)径、D(50)径、D90(max)径(μm)として表されるものである。実際には、マイクロトラック(レーザー回折・散乱法)では測定し、粒子の形状を球形と仮定し、解析ソフトを用いて個数基準等に換算して求めることができる。
【0021】
(平均粒径)
本発明にあっては、平均粒径は、体積平均径(MV)であり、粒状物質について、体積基準(体積分布)を用いて測定することができ、例えば、マイクロトラック(レーザー回折・散乱法)等の方法及び装置を用いて体積分布を測定し、解析ソフトを用いて算出することができる。
【0022】
(一次粒子・二次粒子)
本発明にあっては、「一次粒子」とは、基本的に、粒子一粒(基本粒子)のことを意味する。「一次粒子」の平均粒径は、通常、0超過1000nm以下程度であり、好ましくは、100nm以下程度である。「二次粒子」とは、この「一次粒子」が幾つか集まって形成された凝集体(又は造粒体)であるとして形成されてなるが、粒子状体を形成しているものである。
【0023】
〔コバルト酸リチウム正極活物質〕
(コバルト酸リチウム)
本発明は、正極活物質として、LixCoO2(0.1<x<1.0)を使用する。本発明にあっては、上記式中、xが1.0である、コバルト酸リチウム(LiCoO2)が好ましい。
【0024】
(原子結合基)
本発明による正極活物質は、前記正極活物質の表面に一種又は二種以上の原子結合基を備えてなるものである。本発明にあっては、コバルト酸リチウムの構成原子、フッ化アルミニウム(AlF3)の構成原子、及びこれらの構成原子とによる原子結合基によって構成されてなる。従って、本発明にあっては、Li、Co、O、Al、及びFからなる群から選択される一種又は二種以上の原子による原子結合基を備えてなる。
【0025】
原子結合基の存在により、Co高価数状態まで充放電を繰り返した時に発生する、スタッキングフォルト及びスピネル転移を抑制し、その結果、電解液へのCo溶出を防ぐことが可能で、更にフッ化結合基の存在により、充放電に付随する正極活物質表面上の副反応に対する、熱及び化学的安定性並びに耐還元性が極めて改善される為、安定した充放電サイクルを高い次元において実現することができる。
【0026】
例えば、Al-O結合によれば、表面金属孔食及び電解液反応を抑制し、特に、Co高価数状態でのLiCoO2構造安定化に寄与し、また、Co-F結合、Al-F結合等が正極活物質(粒子)の表面に共存する事で長期サイクルにわたり耐高電圧性を付与することが可能となる。
【0027】
本発明にあっては、前記原子結合基は、例えば、Co-F結合、Co-O結合、Al-F結合、Al-O結合、及びAl-Co結合からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を挙げることができ、好ましくは、Co-F結合、Co-O結合、及びAl-O結合からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を挙げることができる。本発明にあっては、少なくともCo-F結合及びCo-O結合を備えてなるものである。
【0028】
本発明にあっては、正極活物質の全質量(100質量%)を基準にして、Alは、0.03質量%以上0.35質量%以下で存在してよい。
【0029】
〈原子結合基形成〉
本発明にあっては、「原子結合基」は、コバルト酸リチウムの構成原子と、フッ化アルミニウム(AlF3)の構成原子とが、コバルト酸リチウムの表面において、固溶化又はイオン結合する等して形成されるものである。より具体的には、後記するが、コバルト酸リチウムをフッ化アルミニウムにより、化学結合(形成、処理又は被覆)することにより形成することができる。
【0030】
本発明にあっては、上記形成処理の意味において、原子結合基が存在する部位を、機能層、表面層、処理層、又は被覆層ということがある。
【0031】
(ピーク)
本発明による正極活物質は、原子結合基が、X線光電子分光法(以下、「XPS」と云う。)解析により得られた、780.5-779.5eVに現れるCoFピークと、781-783eVに現れるCoOピークとを有するものである。
【0032】
(ピーク面積比S)
そして、好ましくは、前記CoFピークと前記CoOピークとの面積比S(CoF)/S(CoO)が、0.05以上0.12以下である。
【0033】
本発明にあっては、コバルト酸リチウム正極活物質は粉状体が好ましい。コバルト酸リチウム正極活物質は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子、又は、一次粒子及び二次粒子の混合物で構成されてなるものが好ましい。この場合、一次粒子及び二次粒子の平均粒径はそれぞれ、2μm以上20μm以下である。
【0034】
平均粒径が上記下限値以上とすることにより、集電体への塗布が容易となり、かつ、充放電における電解液との表面反応を抑制し、サイクル劣化を有意に防止することが可能となる。また、平均粒径が上記上限値以下とすることにより、正極充填時に空隙の発生を有意に防止することができ、かつ、充填性効率を向上させることができる。また、大小異なる粒径の粉末を混ぜることで充填率を上げることも可能である。
【0035】
〔正極活物質の製造方法〕
(原料準備)
本発明にあっては、コバルト酸リチウムと、フッ化アルミニウム(AlF3)と、極性溶媒とを用意する。
【0036】
〈正極活物質〉
正極活物質は上記した通りリチウムコバルト酸化物LixCoO2(0.1<x<1.0)を使用する。
【0037】
〈フッ化アルミニウム(AlF3)〉
本発明においては、従来の製造法によってフッ化アルミニウムを調製してもよく、また、市販品を原料とすることも可能である。市販品としては、例えば、AlF3(富士フィルム和光純薬株式会社製;密度2.882g/cm3)を使用することが可能である。本発明にあっては、好ましくは、リチウムコバルト酸化物に対し緩やかな反応が期待できる中間生成物AlF3ゾルによる原子結合形成工程を経ることにより、選択的にCoをフッ素化する事ができる。
【0038】
本発明にあっては、後記するゾル組成物として調製することを考慮すると、不純物が少ないフッ化アルミニウムを使用することが好ましい。本発明にあっては、フッ化アルミニウムは、Alの含有量が、フッ化アルミニウム全質量(100%)に対して、25質量%以上40質量%以下であり、好ましく32質量%以下である。また、フッ化アルミニウムの平均粒径は、極性溶媒に溶解する範囲内であればいずれであってもよいが、可溶性を考慮すると10μm以下であることが好ましい。
【0039】
原子結合基を形成するフッ化アルミニウムゾルの含有量は、コバルト酸リチウム正極活物質100(質量%)とした時に、AlF3固形分として、0.05質量%以上5質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは、0.1質量%以上1質量%以下である。コバルト酸リチウム正極活物質の含有量が上記の数値範囲内にあることにより、コバルト酸リチウム正極活物質の表面に所望の原子結合基を形成することが可能となる。
【0040】
〈極性溶媒〉
極性溶媒は、ゾル組成物を調製する上で使用されるものである。極性溶媒としては、水(純水、蒸留水、イオン交換水、無イオン水)、アルコール(炭素数5以下の低級アルコール、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール)、ケトン(アセトン)、低級ジオール(エチレングリコール)等の一種又は二種以上の混合物が使用できる。
【0041】
(フッ化アルミニウムゾル組成物調製)
本発明にあっては、前記フッ化アルミニウム(AlF3)と、前記極性溶媒と、任意の添加剤(必要に応じて)を混合し、フッ化アルミニウムゾル組成物を調製する。混合手法は、通常の手法であってよく、また、混合機又は撹拌機等を使用してもよく、必要に応じて加温してもよい。
【0042】
フッ化アルミニウム(AlF3)の含有量は、極性溶媒の全質量を100(質量%)とした時に1.0質量%以下程度であれば、所望のフッ化アルミニウムゾル組成物を得ることができる。
【0043】
(原子結合基の形成工程)
本発明にあっては、前記フッ化アルミニウムゾル組成物に、コバルト酸リチウム正極活物質を混合する。
【0044】
本発明にあっては、前記フッ化アルミニウムゾル組成物とコバルト酸リチウム正極活物質の混合物(以下、単に、「混合物」という)を撹拌混合し、又は、前記混合物を静置する。混合又は撹拌は、混合機又は撹拌機を用いて行うことができ、好ましくは実施例で説明する方法で行うことがきる。静置は、前記混合物の量にもよるが、通常は、1日から2日程度である。
【0045】
前記混合物は、攪拌しながら、加熱乾燥する(100℃以上180℃以下、好ましくは、110℃以上150℃以下)。又、前記の静置した混合物は濾過乾燥する。濾過は、通常の手法で行ってよく、簡易及び経済性から固液分離濾過であってよい。濾過後、通常状態で乾燥してもよく、乾燥温度は100℃以上が好ましく、真空下で120℃加熱乾燥する事がより好ましい。これにより、粉体状の混合物を得ることができる。本発明にあっては、この乾燥工程により、所望の原子結合基を備えたコバルト酸リチウム正極活物質を得てもよい。また、この乾燥工程により、原子結合基を備えたコバルト酸リチウム正極活物質前駆体として、次工程の焼成工程へ付してもよい。
【0046】
(焙焼工程)
本発明にあっては、乾燥した前記混合物を400℃以上600℃以下で焼成するが、500℃近傍で加熱(焼成)することがより好ましい。この焼成工程により、より所望の原子結合基を備えたコバルト酸リチウム正極活物質を得ることができる。
【0047】
好ましくは、フッ化物被覆正極活物質であって、フッ化アルミニウム(AlF3)と、極性溶媒と、正極活物質を用意し、前記フッ化アルミニウム(AlF3)と、前記極性溶媒とを混合し、フッ化アルミニウムゾル組成物を調製し、前記フッ化アルミニウムゾル組成物に、前記正極活物質を加熱混合し、又は、前記混合物を静置した後に濾過乾燥し、必要に応じて、400℃以上600℃以下の温度で焼成することを含んでなる製造方法で得られた、原子結合基を有するコバルト酸リチウム正極活物質を提案することが可能である。
【0048】
〔正極〕
本発明にあっては、本発明による正極活物質を備えた二次電池用正極を提案することができる。前記正極は、本発明による正極活物質(粉体)、導電剤、バインダー又は増粘剤等を添加した正極組成物を調製し、正極集電体上に形成することで調製することが可能である。
【0049】
<集電体>
集電体は、正極充電電圧で電気化学的に安定に使用できるものであればいずれのものであってよく、例えば、銅、アルミニウム、ステンレススチール、チタン、銀、パラジウム、ニッケル、これらの合金、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一種又は二種以上の混合物であってよい。また、前記ステンレススチールは、カーボン、ニッケル、チタン、又は銀で表面処理されてもよく、前記合金としては、アルミニウム-カドミウム合金を好ましく使用することができる。また、集電体は、その他にも、焼成炭素、導電材で表面処理された非伝導性高分子又は伝導性高分子などを使用することもできる。
【0050】
〈導電剤〉
導電材は電極に導電性を与えるものであり、電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性を有するものであれば、特に制限されることなく使用可能である。導電材の具体的な例としては、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファネースブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀等の金属粉末又は金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;或いは、ポリフェニレン誘導体等の伝導性高分子;からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が挙げられる。導電剤の含有量は、正極の全質量を基準にして、0.3質量%超過7質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以上であり、4質量%以下であってよい。
【0051】
<バインダー>
バインダーは、正極活物質の粒子等間の付着、及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を担うものである。バインダーの具体的な例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、又はこれらの多様な共重合体からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が挙げられる。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して、1重量%以上30重量%以下程度で含有されてよい。
【0052】
〔二次電池〕
本発明にあっては、本発明による正極活物質を含む正極と、負極と、セパレータとにより構成される二次電池(好ましくは、リチウム二次電池)を提案することができる。
【0053】
本発明にあっては、本発明による正極活物質を採用してなることから、特に、高充電電圧を伴う充放電において、サイクル特性に優れた二次電池を提案することが可能となる。具体的には、本発明による二次電池によれば、1気圧、40℃の高温度、好ましくは45℃の高温下において、好ましくは、25℃以上60℃以下の温度領域において、好ましくは40℃以上60℃以下の温度(高温)領域において、更に好ましくは45℃において実行可能である。また、本発明によれば、カットオフ電圧(3Vから4.55V、好ましくは、4.5Vから4.55V、最も好ましくは4.55V)において実行可能な、安定したサイクル特性を有する二次電池を提供することが可能となる。
【0054】
(正極)
正極は上記した本発明のものを用いる。
【0055】
(負極)
前記負極は、負極活物質、導電剤、バインダー又は増粘剤等を添加した負極組成物を調製し、負極集電体上に形成することで調製することが可能である。
【0056】
〈負極活物質〉
負極活物質としては、リチウムの可逆的に挿入・脱離が可能な化合物であれば、いずれの材料でもよい。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などのリチウムとの合金化が可能な金属質化合物;SiOx(0<x<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などを挙げることができ、これらのうちいずれか一つまたは2以上の混合物が用いられてよい。さらに、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料は低結晶炭素及び高結晶性炭素などが全て用いられてよい。
【0057】
〈集電体〉
集電体は、二次電池に化学的変化を誘発せず、高い導電性を持つものであればよい。例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結炭素、アルミニウムやステンレススチールの表面に、カーボン、ニッケル、チタン、銀からなる群より選択される一種又は二種以上の混合物などで表面処理したもの等が用いられる。
【0058】
〈導電剤〉
導電剤は、二次電池に化学的変化を誘発しないものが好ましく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(商品名)、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維;が挙げられる。導電剤の含有量は、負極の全質量を基準にして、0質量%超過5質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上であり、3質量%以下であってよい。
【0059】
〈バインダー〉
バインダーとしては、水系又は溶剤系のものが挙げられ、水系のものとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン‐クロロトリフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、アクリロニトリル‐スチレン‐ブタジエン共重合体、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体からなる群より選択される一種又は二種以上の混合物が好ましくは挙げられる。
【0060】
(セパレータ)
セパレータは、正極及び負極間に介在され、高いイオン透過度及び機械的強度を持つ絶縁性の薄膜が用いられる。一般に、セパレータの気孔直径は0.01~10μmであり、厚さは5~300μmである。このようなセパレータとしては、例えば、耐化学性及び疎水性のポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー、ポリイミド、ガラス繊維又はポリエチレンなどで作られたシートや不織布などが用いられ、さらに、安全性を高めるため、表面にアルミナ、チタニア、シリカなどの酸化物層があってもよい。電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には、固体電解質がセパレータを兼ねることができる。
【0061】
また、本発明にあっては、セパレータは、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン‐ブテン共重合体、エチレン‐ヘキセン共重合体及びエチレン‐メタクリレート共重合体からなる群より選択されたポリオレフィン系高分子を備えた多孔性高分子基材;ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド及びポリエチレンナフタレートからなる群より選択された高分子を備えた多孔性高分子基材;有機物粒子又は無機物粒子(好ましい)とバインダー高分子との混合物とを備えた多孔性基材;又は、前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に有機物粒子又は無機物粒子(好ましい)とバインダー高分子との混合物から形成された多孔性コーティング層を備えた多孔性基材層等を使用することができる。
【0062】
多孔性基材(層)の場合、有機物粒子又は無機物粒子(好ましい)とバインダー高分子との混合物から形成された前記多孔性コーティング層では、有機物粒子又は無機物粒子(好ましい)粒子同士が互いに結着した状態を維持できるように、バインダー高分子がこれらを互いに付着(すなわち、バインダー高分子が有機物粒子又は無機物粒子同士の間を連結及び固定)しており、また、前記多孔性コーティング層は高分子バインダーによって前記多孔性高分子基材と結着した状態を維持する。このような多孔性コーティング層の有機物粒子又は無機物粒子は、実質的に互いに接触した状態で最密充填された構造で存在し、無機物粒子同士が接触した状態で生じるインタースティシャル・ボリューム(interstitial volume)が前記多孔性コーティング層の気孔になる。
【0063】
本発明の好ましい態様によれば、リチウムイオンが外部電極にも容易に伝達されるためには、前記ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド及びポリエチレンナフタレートからなる群より選択された高分子を備えた多孔性高分子基材に該当する不織布材質のセパレータを使用することができる。
【0064】
〔非水系電解質〕
本発明にあっては、非水系電解質として、例えば、環状カーボネート及び/又は鎖状カーボネートを含むことができる。環状カーボネートの例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などが挙げられる。鎖状カーボネートの例としては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びメチルプロピルカーボネート(MPC)からなる群より選択された一種又は二種以上の混合物が好ましいが、これに限定されるものではなく、γ-ブチルラクトン(γ-BL)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル及びその誘導体、並びにイオン液体からなる群より選択された一種又は二種以上の混合物などを用いてもよい。
【0065】
本発明にあっては、環状カーボネート及び鎖状カーボネートは任意の割合で混合して用いられる。一般に環状カーボネートは高誘電率・高粘度で、鎖状カーボネートは低誘電率・低粘度であるため、これらを適切に混合することにより、後述のリチウム塩を良好に溶解しつつ適当な粘度を有し、高いイオン伝導度の非水系電解質を得ることができる。
【0066】
その他の非水系電解質溶媒成分の含有量は、非水系電解質全質量(100質量%)を基準にして、下限値が5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、上限値が94質量%以下であり、好ましくは92質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下である。含有量が上記数値範囲内とすることにより、非水系電解質の粘度及びイオン伝導度を適切な範囲とし、二次電池の大電流充放電特性に対応し易くなる。
【0067】
〈リチウム塩〉
非水系電解質は、リチウム塩を含有することができる。リチウム塩の例としては、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、クロロホウ酸リチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、及びテトラフェニルホウ酸リチウムからなる群より選択される一種又は二種以上の混合物が挙げられる。
【0068】
リチウム塩の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、その含有量は特に制限されないが、電解質のイオン伝導度を良好な範囲とし、良好な二次電池特性を確保する観点から、非水系電解質全質量(100質量%)を基準にして、下限値が4質量%以上であり、好ましくは6質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、上限値が30質量%以下であり、好ましくは25質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。リチウム塩の含有量を上記範囲内にすることによって、適正な粘度を有する高イオン伝導度の非水系電解質を構築ことができ、良好な二次電池特性を得ることができる。
【0069】
〈その他の非水電解質添加剤〉
本発明にあっては、非水電解質添加剤として、ビニレンカーボネート、ビフェニル、プロパンスルトン、及びジフェニルジスルフィドからなる群より選択された1種又は二種以上の混合物などを加えてもよい。
【0070】
本願発明にあっては、リチウムイオンを伝導する非水系電解質は液体、固体のいずれであってもよく、好ましくは、液体である。固体(層形態を含む)とする場合には、例えば、PEO、PVdF、PVdF‐HFP、PMMA、PAN、又はPVAcを使用したゲル型高分子電解質;又は、PEO、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエーテルイミン(PEI)、ポリエチレンスルフィド(PES)、又はポリビニルアセテート(PVAc)を使用した固体非水系電解質として製造することができる。
【0071】
(製造方法)
本発明による二次電池は、通常の方法により正極及び負極間に多孔性のセパレータを挿入し、電解質を投入して製造することになる。本発明による二次電池は、円筒型、角型、パウチ型電池など、外形に関係なく用いられる。二次電池は、単一であっても、複数の二次電池として構成されてなるものであってよい。
【実施例】
【0072】
本発明の内容を以下の実施例を用いて説明するが、本発明の範囲は、これら実施例に限定して解釈されるものではない。また、本明細書に開示された様々な本発明の態様は、本実施例から当業者が容易に実施することができるものである。
【0073】
(正極活物質調製1)
(1)正極活物質(LiCoO2)に対して、0.2重量%又は0.1重量%のフッ化アルミニウム(AlF3)に、0.18l/gのイオン交換水を加えて、フッ化アルミニウムゾル組成物を調製した。
(2)得られたフッ化アルミニウムゾル組成物それぞれに、正極活物質(LiCoO2)を加え、110~150℃の温度範囲で加熱し、前記イオン交換水が蒸発するまで撹拌加熱乾燥した。得られた混合物(粉体)を、窒素還流下において500℃で2時間加熱し、フッ化物被覆正極活物を得た。このフッ化物被覆正極活物は、0.2重量%AlF3ゾル組成物で作成したものを実施例1-1及び0.1重量%AlF3ゾル組成物で作成したものを実施例1-2の二次電池の正極として用いた。
(3)正極活物質(LiCoO2)に対して、0.2重量%のフッ化アルミニウム(AlF3)に、0.18l/gのイオン交換水を加えて、フッ化アルミニウムゾル組成物を調製した。冷蔵庫(9℃)において1日(24時間)冷却静置した後、濾過した。得られた混合物(粉体)を、窒素還流下において500℃で2時間加熱(焼成)し、フッ化物被覆コバルト酸リチウム正極活物を得た。このフッ化物被覆コバルト酸リチウム正極活物は、実施例1-3の二次電池の正極として用いた。
【0074】
(正極活物質調製2)
(1)正極活物質(LiCoO2)に対して、0.2重量%又は1.0重量%のフッ化アルミニウムに、0.18l/gのイオン交換水を加えて、フッ化アルミニウムゾル組成物を調製した。
(2)得られたフッ化アルミニウムゾル組成物それぞれに、正極活物質(LiCoO2)を加え、110~150℃の温度範囲で加熱し、前記イオン交換水が蒸発するまで撹拌加熱乾燥した。得られた混合物(粉体)を、真空下において120℃で12時間加熱し、フッ化物被覆正極活物を得た。このフッ化物被覆正極活物は、0.2重量%AlF3ゾル組成物で作成したものを実施例2-1及び1.0重量%AlF3ゾル組成物で作成したものを実施例2-2の二次電池の正極として用いた。
(3)正極活物質(LiCoO2)に対して、0.2重量%のフッ化アルミニウムに、0.18l/gのイオン交換水を加えて、フッ化アルミニウムゾル組成物を調製した。冷蔵庫(9℃)において1日(24時間)冷却静置した後、濾過した。得られた混合物(粉体)を、真空下において120℃で12時間加熱し、フッ化物被覆コバルト酸リチウム正極活物を得た。このフッ化物被覆コバルト酸リチウム正極活物は、実施例2-3の二次電池の正極として用いた。
【0075】
(電池の調製)
〈正極調製〉
上記で調製した被覆正極活物質それぞれ96重量%に、導電材としてカーボンブラック(商品名:SuperP:IMERYS社製)2重量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン2重量%を混合し、N-メチル2-ピロリドンを用いてスラリーとし、このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔に塗布して、130℃で乾燥し、約60μmの厚さになるようにプレス後、直径13mmの円形に打ち抜き、電極密度3.8~3.9g/ccの正極を作製した。
〈負極調製〉
厚さ0.3mmの金属リチウムを、直径14mmの円形に打ち抜き対極を調製した。
〈電解質〉
エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:ジエチルカーボネートを1:2:1の割合で混合し、LiPF6が1モル溶解されている電解質(液)を用いた。
〈調製〉
上記正極及び負極の間に高分子セパレータを介して、前記電解液を入れて、2016型コインセルを製造し、それぞれ、実施例1-1乃至実施例2-3の電池とした。
【0076】
〔比較例〕
正極活物質調製1又は2を行わなかった正極活物質(LiCoO2)を用いた以外は、実施例1-1に準じた構成と手順で電池を作成し、比較例の電池とした。
【0077】
〔評価試験1:容量維持評価〕
(1) 実施例及び比較例のコイン電池について、25℃と45℃との温度に保たれた恒温槽中で、電圧範囲を4.55V-3Vとして、充電0.5C、放電1Cの電流レートにて充放電を50回繰り返した。Cレートは1C=190mAhと規定した。その結果は、〔表1〕、〔
図1〕~〔
図4〕に記載した通りであった。
(2) 比較例(非被覆)を基準(100)として、各実施例の25℃充放電測定における、初回放電容量、初回効率、2C/0.1Cレート特性比率を測定した。その結果は、〔表2〕に記載した通りであった。
(3) 実施例1-1において、LiCoO
2に対して、AlF
3による処理量を、0.1、0.2、0.3、0.4重量%として、上記(1)の充放電サイクル試験を行った。その結果は、〔
図3〕に記載した通りであった。
【0078】
【0079】
〔評価結果1-1〕
表1は、25th又は20th、並びに、50th又は40thにおける容量維持率を示すものである。比較例では、全サイクルの50%に相当する25th或いは20th、並びに、サイクル終了の50th或いは40thの維持率減少率を比較すると、25th以降にサイクル劣化が加速したことが確認された。また、高温45℃試験において、比較例では、その劣化度が著しく進行する事が確認された。一方、実施例では、放電容量は安定したサイクル特性を示し、一連の試験でサイクル終了時の容量維持率は、すべて90%近い値を示した。
【0080】
〔評価結果1-2〕
表2は、比較例を100とし、各実施例の25℃充放電測定における、初回放電容量、初回効率、2C/0.1Cレート特性比率を示したものである。初回放電容量、初回効率、2C/0.1Cレート特性の全ての項目において、比較例とほぼ同等の値を示していた。このことから、本発明に記載する原子結合基形成工程を用いることで、原子結合基による抵抗増加やレドックス反応場減少に対する影響を最小限にとどめながら、電解質と表面反応を抑制し安定したサイクル特性を得ることができる。
【0081】
〔評価結果1-3〕
図1は、実施例1-1と比較例とについて、25℃におけるカットオフ4.55-3.0Vにて50回充放電を繰り返した時のサイクル特性を示したものである。また参考例として比較例を4.50V充電上限で充放電を繰り返した結果を参照例として
図1に併記する。実施例1-1では、50サイクル目容量維持率は96.0%であったのに対して、比較例では83.5%と明らかに低かった。
実施例1-1では、放電容量が徐々に単調低下する安定的なサイクル特性が得られたものの、比較例では、35サイクル目以降にサイクルが急激に劣化した。また、併記する参照例の4.50V充電サイクルでは、原子結合基を呈していない例においても、50サイクル目にて、96%のサイクル特性を示した。この事から、4.50-4.55Vにかけて、電解液と活物質表面の反応がレドックスに対し優位になるなど、サイクル劣化を引き起こす要因が内在しており、おそらく、電解質と正極活物質表面の反応が進行したため、正極又は負極表面上に堆積物が蓄積され表面抵抗が上がった為と考えられる。このことから、本発明による正極活物質では、その表面と電解質との反応が優位に抑制され、その結果、サイクル特性が向上したものと考えられる。
【0082】
〔評価結果1-4〕
図2は、実施例1-1乃至1-3及び比較例について、45℃におけるサイクル特性を示したものである。
実施例1-1乃至1-3では、50サイクル目の容量維持率は、其々92.5%、89.8%、89.8%であり、実施例1-1が最も高いサイクル特性を示した。また、これら実施例にあっては、比較例に見られた、不安定なサイクル劣化挙動は認められず、サイクルを通して安定した充放電を繰り返したことが確認された。
他方、比較例では、25℃サイクル試験と比較しても、著しいサイクル劣化が認められ、50サイクル目での容量維持率は77.9%と実施例と比較して極端に低いものであった。また、得られる充電容量値が各サイクルでばらつき、単純劣化することもなく、不安定なサイクル挙動及びサイクル劣化挙動が明らかに確認された。
【0083】
〔評価結果1-5〕
図3は、50サイクル目における、AlF
3処理量に対する容量維持率推移を示すものである。得られた50サイクル目の容量維持率は、比較例の容量維持率77.9%に対し、すべての条件で10%以上向上しており、その中でも0.2%処理量のAlF
3を採用した実施例1-1が最も高い値を示した。
【0084】
〔評価結果1-6〕
図4は、実施例2-1乃至2-3及び比較例の45℃におけるサイクル特性を示すものである。実施例2-1乃至実施例2-3における、50サイクル目における容量維持率は、それぞれ90.5%、90.8%、88.2%であり、500℃2時間の焼結工程を経ていない実施例の中では、実施例2-3が最も高い値を示した。
【0085】
〔評価試験2:表面解析〕
調製した正極活物質を、XPS(Kratos製、Axis-NOVA X光源 Monochromated-Al-Kα(1486.6eV);測定深さ:5nm)を用いて測定し、実施例1-1、実施例1-3、実施例2-2、及び比較例を用いて、それら正極活物質のCo2p、Al2p、F1sの表面状態をXPSにて測定した。
【0086】
〔評価試験3:ピーク面積比S〕
得られたCo 2P3/2スペクトルの780.5-779.5eVに現れるCoFピークと、781-783eVに現れるCoOのピーク面積比S(CoF)/S(CoO)から半定量値を算出した。
【0087】
〔評価結果2‐1並びに評価結果3:Co2p〕
図5は、実施例1-1、実施例1-3、実施例2-2及び比較例における正極活物質表面状態のCo2pスペクトル比較を示すものである。
図6は、Co2p2/3スペクトルを各成分で分離した結果を示したものである。表3は、其々のピーク成分に対する存在比を示したものである。
【0088】
一般的に、779.5eV付近に存在するピークは酸素に結合するCo3+に由来し、780.3eV付近に存在するピークは酸素に結合するCo2+に由来することを基準にして、ピーク分離を行った。過去の知見よりCo3+はLiCoO2由来、Co2+はCoO由来とすることができる。
その結果、比較例における正極活物質表面のCoの約28.39%がCo3+、約71.61%がCo2+の状態で存在していたことが分かった。実施例1-1においては、782.0eV付近にF-Co3+結合に由来するピークが確認でき、その存在比は10.30%であった。一方、LiCoO2由来のCo3+の割合は5.33%で著しく減少しているが、これは表面のLiCoO2を形成するCo八面体に結合する酸素が、一部フッ素に置換され、Co-F結合が形成されためである。相対的に、Co2+成分の割合は84.36%まで増加した。実施例1-3及び実施例2-2における正極活物質表面では、F-Co2+に由来する782.6eVが存在し、その割合は5.39%と7.12%であった。一方でLiCoO2由来のCo3+の割合は16.09%と22.28%まで減少したが、実施例1-1と比較するとその減少量が小さく、F-Co2+に帰属されるピークが観測された事から、CoO由来のCo-O結合のOがフッ素に置換されていると共に、LiCoO2の酸素が一部フッ素に置換されていると考察できる。このことから、実施例1-3及び実施例2-2においても、フッ素置換は可能であるが、実施例1-1が最も好ましい状態で原子結合基が形成していると考えられる。
【0089】
【0090】
参考データとして、110℃~150℃撹拌乾固(a)前(b)後のAlF
3粉末の粉末回折線パターンを
図7に示す。110℃~150℃で撹拌乾固する前後のAlF
3粉末について、AlF
3回折線パターンは変化せず、アルミニウム酸化物に相当する回折線は一切確認できなかった。従って、フッ化アルミニウムは110℃~150℃における単純な加熱やゾル化により、フッ素が遊離する事はないが、AlF
3ゾルにLiCoO
2を混合し、110℃~150℃撹拌する事で、FとCoが反応しCo-F結合を形成していると考えられる。
【0091】
〔評価結果2‐2:Al2p)
図8は、実施例1-1、実施例1-3、実施例2-2及び比較例のAl2pスペクトル比較を示したものである。また、図に記載のAl化合物名と結合エネルギーは一般的に公知のデータベース例えば、NIST X-ray Photoelectron Spectroscopy Database等より抜粋したものである。全サンプルのAl2pスペクトルで確認される71.0eV付近のピークはCo3pサテライト成分に帰属できる。一方、75-71eVに幅の広いピークが確認できた。ピークの広がりと対称性を考慮すると、複数のピークが混在していることが予測される。まず、Al
2O
3中のAl由来のピークはAl
2O
3が多形を有し、そのAl2pスペクトルは73.0-74.0eVの広範囲に存在する上、マウントする基盤や基材によって大きくケミカルシフトする。また、M(金属)-Al結合由来のピークも同範囲内に確認できる為、これらのピークの帰属においては、Al-O結合、Al-Co結合、Al-Li結合であると推認できる。
【0092】
また、実施例2-2のAl2pスペクトルで特異的にみられる、74.3eVのピークはAlF3ピークに由来する事ができる。よって、焼結工程を経ていない実施例2-2においては、原子結合基としてAlF3が存在すると考えられる。また、73eVから76eVにかけてみられるブロード上のピークは、データベースの値から、AlOOHとAlハロゲン化物と推測できる。これは、110-150℃撹拌時に一部Coにフッ素が結合する事により、対を失ったAlがAlF3とは異なる結合のハロゲン化物(AlOF(x)、AlxFy)や、一部ベーマイト(AlOOH)に転移したためと考察できる。
【0093】
〔評価結果2-3:F1s〕
図9は、実施例1-1、実施例1-3、実施例2-2及び比較例のF1sスペクトル比較を示したものである。実施例2-2のF1sスペクトルにおける687.1eV付近のピークは、AlF
3由来のA-F成分に帰属する事ができる。この結果は、前述のAl2pピークと相関が取れた結果となる。一方、685.0eV付近のF1sピークの帰属においては、F1sピークの対称性から一本のピークであり、Co2pスペクトルのピーク分離結果からCo-F成を確認したことから、実施例1-1、実施例1-3、実施例2-2における約685.0eVのピークは、Coに結合するFに由来するものと考察される。