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特許7531275飲料、飲料の製造方法、およびジメチルスルフィド臭のマスキング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】飲料、飲料の製造方法、およびジメチルスルフィド臭のマスキング方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20240802BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240802BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20240802BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/52
C12C5/02
C12G3/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019222284
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021090371
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】大橋 巧弥
(72)【発明者】
【氏名】前川 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲ジュン▼穆
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-269651(JP,A)
【文献】特開2005-229905(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098733(WO,A1)
【文献】特開2019-004721(JP,A)
【文献】特開2015-216904(JP,A)
【文献】特開2014-166170(JP,A)
【文献】特開2017-169481(JP,A)
【文献】分析化学,2005年,Vol.54, No.11,pp.1075-1082
【文献】Journal of Bioscience and Bioengineering,2018年,Vol.126, No.3,pp.330-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12G
Google
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルスルフィドを含む飲料において、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度を0.1ppb以上に調整する工程を含む、ジメチルスルフィド臭のマスキング方法。
【請求項2】
ジメチルスルフィドを含む飲料において、2-エチル-3,6ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選択される少なくとも一種であるジメチルピラジン類の濃度を0.2ppb以上に調整する工程を含む、ジメチルスルフィド臭のマスキング方法。
【請求項3】
2-エチル-3-メチルピラジンを含有する、ジメチルスルフィド臭のマスキング剤。
【請求項4】
2-エチル-3,6ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選択される少なくとも一種であるジメチルピラジン類を含有する、ジメチルスルフィド臭のマスキング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料、飲料の製造方法、およびジメチルスルフィド臭のマスキング方法に関し、特に、ビール様発泡性飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ジメチルスルフィド(以下、DMSという)は、ビール様発泡性飲料等に含まれることのある化合物である。
例えば、特許文献1(特開2018-18716号公報)には、DMS含有量が15ppb以上であり、3-メチル-2-ブテン-1-チオール含有量が5ppt以上であることを特徴とする、発酵麦芽飲料が開示されている。特許文献1には、麦汁の煮沸処理によって、主に麦芽由来のS-メチルメチオニンが分解され、DMSが生成される旨も記載されている。
また、特許文献2(特開2015-154748号公報)には、所定の麦芽比率を有し、それぞれ所定の量で、酪酸、3-メチルブタン酸、4-ヴィニルグアイアコール、DMS、フラネオール、およびリナロールを含有する、発酵麦芽飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-18716号公報
【文献】特開2015-154748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DMSには特有の臭気(以下、DMS臭という)が存在する。DMS臭が不快であると感じる需要者も存在する。よって、DMS臭をマスキングする技術が望まれる。すなわち、本発明の課題は、飲料に含まれるDMS臭をマスキングすることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、2-エチル-3-メチルピラジン、並びに、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び/又は2-エチル-3,5-ジメチルピラジンに、DMS臭に対するマスキング効果があることを見出した。すなわち、本発明は、以下の事項を含んでいる。
[1]ジメチルスルフィドを含む飲料の製造方法であって、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度を0.1ppb以上に調整する工程を含む、製造方法。
[2]前記2-エチル-3-メチルピラジンの濃度が、0.1~10.0ppbに調整される、[1]に記載の製造方法。
[3]前記飲料が、ビール様発泡性飲料である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記飲料が、麦芽飲料である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記飲料が、発酵飲料である、[1]乃至[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]更に、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選ばれる少なくとも一種であるジメチルピラジン類の濃度を、0.1ppb以上に調整する工程を含む、[1]乃至[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記ジメチルピラジン類の濃度が、0.1~5.0ppbに調整される、[6]に記載の製造方法。
[8]前記飲料中の前記ジメチルスルフィドの濃度が、5ppb以上である、[1]乃至[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]ジメチルスルフィドを含む飲料の製造方法であって、2-エチル-3,6、-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選ばれる少なくとも一種であるジメチルピラジン類の濃度を、0.2ppb以上に調整する工程を含む、製造方法。
[10]更に、前記飲料の色度を、20°EBC以下になるように調整する工程を含む、[1]乃至[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]ジメチルスルフィドと、0.1ppb以上の2-エチル-3-メチルピラジンと、を含有する、飲料。
[12]ジメチルスルフィドと、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選択される少なくとも一種のジメチルピラジン類を0.2ppb以上と、を含有する、飲料。
[13]ジメチルスルフィドを含む飲料において、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度を0.1ppb以上に調整する工程を含む、ジメチルスルフィド臭のマスキング方法。
[14]ジメチルスルフィドを含む飲料において、2-エチル-3,6、-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選択される少なくとも一種であるジメチルピラジン類の濃度を0.2ppb以上に調整する工程を含む、ジメチルスルフィド臭のマスキング方法。
[15]2-エチル-3-メチルピラジンを含有する、ジメチルスルフィド臭のマスキング剤。
[16]2-エチル-3,6、-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選択される少なくとも一種であるジメチルピラジン類を含有する、ジメチルスルフィド臭のマスキング剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、飲料におけるDMS臭をマスキングすることのできる技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1:第1の実施形態
本実施形態に係る飲料は、DMSと、2-エチル-3-メチルピラジンとを含有する。本実施形態に係る飲料によれば、2-エチル-3-メチルピラジンにより、DMS臭がマスキングされる。
【0008】
飲料の種類は、特に限定されないが、ビール様発泡性飲料であることが好ましい。本実施形態において、「ビール様発泡性飲料」とは、ビールと同等、又はビールに似た風味、味覚及びテクスチャーを有する発泡性の飲料を意味する。ビール様発泡性飲料には、ビールそのものも含まれる。
【0009】
ビール様発泡性飲料は、麦芽飲料であってもよいし、非麦芽飲料であってもよい。好ましくは、麦芽飲料である。麦芽飲料には、麦芽を由来とする様々な成分が含まれるが、その中にDMSが含まれていることがある。本実施形態によれば、2-エチル-3-メチルピラジンによって、麦芽飲料におけるDMS臭をマスキングすることができ、その結果、新たな香気を有する麦芽飲料が実現できる。
【0010】
ビール様発泡性飲料は、発酵飲料であってもよいし、非発酵飲料であってもよい。好ましくは、発酵飲料である。
【0011】
ビール様発泡性飲料は、アルコール飲料(エタノール濃度が1容量%以上の飲料)であってもよいし、非アルコール飲料(エタノール濃度が1容量%未満の飲料)であってもよい。
【0012】
本実施形態に係る飲料におけるDMSの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば5ppb以上、好ましくは10ppb以上、より好ましくは15ppb以上である。このような濃度でDMSが含まれていると、通常、DMS臭が感じられやすい。従って、2-エチル-3-メチルピラジンによるDMS臭マスキングの効果の価値が高くなる。
また、DMSの濃度は、例えば2000ppb以下、好ましくは500ppb以下、より好ましくは150ppb以下、更に好ましくは100ppb以下である。このような範囲内であれば、2-エチル-3-メチルピラジンによるDMS臭のマスキング効果が十分に得られる。
【0013】
本実施態様に係る飲料は、20°EBC以下の色度を有していることが好ましい。飲料の色度は、より好ましくは6~12°EBCである。飲料の色度は、例えば、原料として使用される麦芽の種類等を適当に選択することにより、調整できる。
飲料の色度は、EBC(European Brewery Convention)のAnalytica-EBC標準法、又はこれに準じた方法により測定できる。
【0014】
飲料中のDMSの濃度は、例えば、炎光光度検出器を用いたガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography-Flame Photometric Detector;GC-FPD)分析により測定することができる。具体的には、まず、サンプルをスターラーバーの入ったバイアル瓶に入れる。次いで、バイアル瓶に、所定量の塩化ナトリウムを加える。更に、内部標準液(硫化エチルメチル10μg/mL)を所定量加え、アルミキャップで密栓する。密栓した状態で、室温で30分間スターラーバーを回転させ、液を攪拌し、塩化ナトリウムを溶解させる。塩化ナトリウムを溶解させたサンプルを40℃の条件下で気液平衡に到達させ、ヘッドスペースGC-FPDに供す。そして内部標準比からサンプルのDMS濃度を定量する。
【0015】
本実施形態に係る飲料における2-エチル-3-メチルピラジンの濃度は、好ましくは0.1ppb以上である。0.1ppb以上の濃度で2-エチル-3-メチルピラジンが含まれていれば、DMS臭のマスキング効果が得られる。
ビール様発泡性飲料である場合、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度は、例えば10.0ppb以下、好ましくは1.0ppb以下である。このような範囲内であれば、ビールらしい風味を有するビール様発泡性飲料が得られやすい。
【0016】
本実施形態に係る飲料は、好ましくは、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選ばれる少なくとも一種の化合物(以下、ジメチルピラジン類という)を更に含有する。本発明者らの知見によれば、ジメチルピラジン類も、DMS臭に対するマスキング作用を有している。ジメチルピラジン類を飲料に含有させることによって、DMS臭をより効果的にマスキングすることができる。
【0017】
飲料中における、ジメチルピラジン類の濃度(2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンの両者を含む場合は合計濃度)は、例えば0.1ppb以上である。0.1ppb以上であれば、DMS臭のマスキング効果が得られやすい。また、ジメチルピラジン類の濃度は、好ましくは0.2ppb以上である。
また、ビール様発泡性飲料である場合、ジメチルピラジン類の濃度は、例えば5.0ppb以下、好ましくは2.0ppb以下である。このような範囲内であれば、ビールらしい風味を有するビール様発泡性飲料が得られやすい。
【0018】
2-エチル-3-メチルピラジン及びジメチルピラジン類の濃度は、サンプルの前処理を伴うガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)という方法により測定することができる。具体的には、以下の条件を用いて、測定できる。
(前処理)
内部標準液(2-methyl-3-propylpyrazine)を加えたサンプルとInertSep SAX固相カラム(ジーエルサイエンス社製)を用いて固相抽出を行う。その素通り画分を回収し、クエン酸ナトリウム緩衝液を用いてpH4.5~5.0に合わせる。
(抽出)
前処理液に対してNaCl、5gとジクロロメタン5mlを加えて振とうし、液々抽出を行う。遠心分離後ジクロロメタン層を回収し、水層部分に対してジクロロメタン5mlを加え、振とうによる液々抽出を行い、ジクロロメタン層を回収する。この一連の操作を計2回行う。
回収したジクロロメタン層に無水硫酸ナトリウムを加え、脱水後窒素パージにより濃縮する。
(GC/MS条件)
・ガスクロマトグラフィー:GC-6890(Agilent Technologies社製)
・検出器:MS-5973(Agilent Technologies社製)
・カラム:DB-17(長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚0.5μm)(Agilent Technologies社製)
・オーブン昇温条件:40℃(5分)→5℃/分→220℃(0分) →10℃/分→280℃(5分)
・注入口温度:230℃
・注入条件:注入量:1μl、 パルスドスプリットレスモード
・流量:1.0ml/分(キャリアガス:He)
・イオン化条件:70 eV
・測定モード:シングルイオン-モニタリングモード(single ion-monitoring(SIM) mode)
・定量:表1に記載の通りの当該香気成分と内部標準品のターゲットイオン(T.I)とクオリファヤーイオン(Q.I)によるピークエリア面積を用いて標準添加法を準拠し、実施する。
【表1】
【0019】
(飲料の製造方法)
続いて、本実施形態に係る飲料の製造方法について説明する。本実施形態に係る飲料の製造方法は、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度を0.1ppb以上に調整する工程を有していればよく、その他の点については、特に限定されない。
2-エチル-3-メチルピラジンの濃度は、例えば、外部から2-エチル-3-メチルピラジンを添加剤として原料液に添加することにより、調整することができる。あるいは、製造条件を調整することにより、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度を調整することもできる。
【0020】
以下では、飲料がビール様発泡性飲料である場合の一例を挙げて、製造方法をより詳しく説明する。
【0021】
(A)原料液の調製
まず、穀物由来成分を含有する原料液を調製する。
例えば、麦芽飲料を得る場合には、麦芽の粉砕物と、必要に応じて副原料である米やコーンスターチ等のデンプン質とを用意し、これらに温水を加えて混合・加温する。これにより、主に麦芽の酵素により穀物原料の糖化反応が進み、糖化液が得られる。得られた糖化液を濾過することにより、原料液が得られる。あるいは、麦芽粉砕物の懸濁液を糖化させ、穀皮を分離した後、ショ糖等の副原料を加えることにより、原料液を得ることも可能である。
一方、非麦芽飲料を得る場合には、例えば、炭素源を含有する液糖、及び麦芽以外の窒素源含有材料(例えば、大豆、エンドウ豆及びトウモロコシ等のタンパク質原料の分解物)等を温水と共に混合する。これにより、原料液が得られる。
なお、原料液には、ホップ、食物繊維、果汁、苦味料、着色料、香草、および香料等が必要に応じて更に添加されてもよい。
【0022】
(B)原料液の煮沸
次いで、原料液を煮沸する。例えば、原料として麦芽を使用している場合には、原料液の煮沸時に、麦芽由来のS-メチルメチオニンが分解され、DMSが生成する。生成したDMSは、煮沸に伴い、揮発する。すなわち、DMSの濃度は、煮沸条件(原料液の蒸発量等)に依存する。従って、煮沸条件を調整することにより、DMS濃度を調整することが可能である。
【0023】
また、原料として麦芽が使用されている場合、煮沸前の原料液には、通常、2-エチル-3-メチルピラジン及びジメチルピラジン類が含まれている。これら2-エチル-3-メチルピラジン及びジメチルピラジン類の含有量は、煮沸に伴い、減少していく傾向にある。従って、煮沸工程における原料液の蒸発量を少なくすると、2-エチル-3-メチルピラジン及びジメチルピラジン類が残存しやすい。すなわち、煮沸工程における煮沸条件を調整することにより、2-エチル-3-メチルピラジン及びジメチルピラジン類の濃度を調整することもできる。
【0024】
例えば、原料液が麦芽を含む場合(すなわち麦汁である場合)、煮沸工程における蒸発率を制御することにより、上記各成分の濃度を制御できる。尚、ここでいう煮沸工程とは、「煮沸釜内で」麦汁が98℃以上に保温された状態で、更に麦汁に対して加熱が行われている工程をいう。すなわち、「煮沸釜内で」麦汁が98℃以上に保温されていたとしても、麦汁に対して熱が加えられていない状態は、本発明における「煮沸する工程」にはあたらない。
例えば、麦芽使用比率(水とホップを除く全原料に対する麦芽の割合(質量%))が50%以下の飲料を得る場合、煮沸工程における蒸発率を2.7%以下になるように制御することが好ましい。麦汁の蒸発率は、好ましくは2.5%以下、より好ましくは0.8~2.4%、更に好ましくは0.8~2.0%である。
また、煮沸工程において、麦汁に加えられるエネルギーが、1~100kJ/kg麦汁であることが好ましく、20~70kJ/kg麦汁であることがより好ましい。
煮沸工程の時間は、15分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましく、2~10分であることが更に好ましい。
【0025】
上述のように煮沸条件を制御すると、煮沸工程を経ても、DMSが残存しやすくなるが、DMS臭のマスキング効果を有する2-エチル-3-メチルピラジン及びジメチルピラジン類も有効な量で残存しやすくなるから、DMS臭が結果的にマスキングされる。
【0026】
煮沸に用いる装置は特に限定されるものではないが、好ましくは、内部沸騰方式の煮沸釜が用いられる。より好ましくは、加熱時に原料液の対流が生じるような煮沸釜が用いられる。そのような煮沸釜としては、内部に加熱管が設けられており、その加熱管に加熱された蒸気が供給されるように構成された装置が挙げられる。このような煮沸釜を用いる場合、加熱管に蒸気を供給することにより、加熱管を介して原料液が加熱される。加熱管を介した加熱時には、原料液に対流が生じる。
【0027】
(C)沈殿物の除去
次いで、煮沸によって生じたたんぱく質等の沈殿物を除去する。例えば、煮沸後、原料液をワールプールと呼ばれる固液分離槽に移送し、沈殿物を固液分離する。ワールプールにおいては、例えば50~100℃程度で、固液分離が行われる。
【0028】
(D)冷却、発酵
沈殿物の除去後、原料液を発酵に適切な温度にまで、熱交換機(プレートクーラー)等を用いて、冷却する。次いで、冷却した原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。
【0029】
(E)熟成
さらに、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。その後、熟成後の発酵液を濾過し、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去する。これにより、目的のビール様発泡性飲料を得ることができる。
【0030】
尚、発酵及び熟成工程を省略し、煮沸後(あるいは沈殿物除去後)の溶液に炭酸ガスを添加することにより、非発酵のビール様発泡性飲料を得ることもできる。
【0031】
以上説明した製造方法において、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度は、既述のように、添加剤として2-エチル-3-メチルピラジンを添加することにより、調整されてもよいし、製造条件(例えば煮沸工程における煮沸条件)を制御することにより、調整されてもよい。2-エチル-3-メチルピラジンを添加剤として添加する場合、その添加剤は、DMS臭のマスキング剤として機能する。
同様に、ジメチルピラジン類の濃度についても、添加剤としてジメチルピラジン類を添加することで調整できるし、製造条件(例えば煮沸工程における煮沸条件)を制御することにより、調整することもできる。ジメチルピラジン類を添加剤として添加する場合、その添加剤は、DMS臭のマスキング剤として機能する。
【0032】
2:第2の実施形態
続いて、第2の実施形態について説明する。
第1の実施形態では、飲料に2-エチル-3-メチルピラジンが含まれている場合について説明した。これに対して、本実施形態では、ジメチルピラジン類が飲料に含まれている。2-エチル-3-メチルピラジンは含まれていても含まれていなくてもよい。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
第1の実施形態において述べたように、ジメチルピラジン類も、DMS臭のマスキング作用を有している。従って、2-エチル-3-メチルピラジンの有無にかかわらず、ジメチルピラジン類を用いることによっても、DMS臭のマスキング効果を得ることができる。
飲料がビール様発泡性飲料である場合、ジメチルピラジン類の濃度は、好ましくは0.2~5.0ppb、より好ましくは0.2~2.0ppbである。このような範囲内であれば、ビールらしい風味を有するビール様発泡性飲料が得られやすい。
【実施例
【0033】
以下、本発明についてより詳細に説明するため、実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されて解釈されるべきものではない。
【0034】
(実験例1)
市販のビール様飲料(商品名、アサヒスーパードライ、アサヒビール株式会社製、麦芽比率67%以上、アルコール、5容量%、DMS濃度:7.2ppb、色度7.4°EBC)を対照として準備した。対照に係る飲料について、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン濃度を測定したところ、0.06ppbであった。また、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン及び2-エチル-3、6-ジメチルピラジンの合計濃度を測定したところ、0.09ppbであった。
【0035】
対照に係る飲料に対して、DMS、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、並びに、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン及び2-エチル-3、6-ジメチルピラジンの混合物(ジメチルピラジン類)を、それぞれ所定の量で添加し、例1~31に係る飲料を得た。
表2~表8に、対照及び各例に係る飲料中の各成分の含有量を示す。
【0036】
得られた各飲料について、官能評価により、DMS臭、およびビールらしい風味を評価した。官能評価は、パネリスト6名により、下記の基準で行い、平均値を結果とした。尚、DMS臭の官能評価にあたっては、醸造用水に、DMSを20ppbの濃度になるように添加したサンプル(後述の例32)を基準として用意し、このサンプルを基準に評価した。
(DMS臭)
5:非常に強く感じる。
4:強く感じる。
3:感じる(基準サンプル(例32と同程度))
2:ほとんど感じない。
1:まったく感じない。
(ビールらしい風味)
5:非常に強く感じる。
4:強く感じる。
3:感じる(対照と同程度)
2:ほとんど感じない。
1:まったく感じない。
【0037】
表2~表8に、官能評価の結果を、得られたコメントと共に示す。
【0038】
表2~表5の結果から、2-エチル-3-メチルピラジン濃度の増加に伴い、DMS臭が低下することが判った。すなわち、ビール様発泡性飲料において、2-エチル-3-メチルピラジンにより、DMS臭のマスキング効果が得られることが理解できる。
また、2-エチル-3-メチルピラジン濃度が1.0ppb以下であれば、ビールらしい風味が損なわれることもなかった。
【0039】
表6~表8の結果から、ジメチルピラジン類の濃度の増加に伴い、DMS臭が低下することが判った。すなわち、ビール様発泡性飲料において、ジメチルピラジン類により、DMS臭のマスキング効果が得られることが理解できる。
また、ジメチルピラジン類が2.0ppb以下である飲料においては、ビールらしい風味が損なわれることもなかった。
【0040】
(実験例2)
醸造用水に、DMSを所定の量で添加し、例32に係る飲料を得た。
例32に係る飲料に、2-エチル‐3-メチルピラジン、並びに2-エチル-3,5-ジメチルピラジン及び2-エチル-3、6-ジメチルピラジンの混合物(ジメチルピラジン類)を、それぞれ所定の量で添加し、例33~65に係る飲料を得た。
得られた例32~65に係る飲料について、実験例1と同様の方法及び基準で、DMS臭について官能評価を行った。
【0041】
各飲料の組成及び官能評価の結果を表9~表15に示す。
表9~表13より、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度が増加するに従い、DMS臭は減少することが判る。すなわち、醸造用水を用いた場合でも、2-エチル-3-メチルピラジンによるDMS臭のマスキング効果が確認される。従って、2-エチル-3-メチルピラジンによるDMS臭のマスキング効果は、ビール様発泡性飲料だけではなく、DMSを含有する飲料であれば他の飲料においても得られることが理解できる。
【0042】
表14~表15より、ジメチルピラジン類の濃度が増加するに従い、DMS臭は減少した。すなわち、醸造用水を用いた場合でも、ジメチルピラジン類によるDMS臭のマスキング効果が確認された。従って、ジメチルピラジン類によるDMS臭のマスキング効果も、ビール様発泡性飲料だけではなく、DMSを含有する飲料であれば他の飲料においても得られることが理解できる。
【0043】
(実験例3)
淡色麦芽290kg(色度4.3°EBC)、クリスタル麦芽20kg及び未発芽大麦340kgを糖化し、76℃で酵素失活を行った。得られた液(麦汁)を濾過した。ろ過後、麦汁を煮沸釜に入れ、3100Lになるように水を加えた。その後、麦汁を煮沸し、3070Lの麦汁を得た。その後、湯を加え3100Lになるように液量を再調整した後、沈殿物を除去した。沈殿物の濾過後、熱交換器によって麦汁を冷却した。冷却後、麦汁に酵母を添加し7日間発酵させた。発酵後、11.5℃で7日、麦汁を熟成させた。その後、熟成後の麦汁を濾過し、壜に詰め、例66に係る飲料とした。
なお、煮沸工程は、内部に加熱管が設けられた煮沸釜を用いて実施した。すなわち、加熱管に加熱した蒸気を供給することにより、麦汁を煮沸した。煮沸時には、麦汁が対流した。煮沸温度は100℃であった。蒸発率は、1.0%であった。麦汁が98℃以上に保持されていた時間は80分であり、このうち蒸気投入時間(すなわち煮沸工程の時間)は7分であった。煮沸する工程において麦汁に加えられるエネルギーは、22.7kJ/kg麦汁であった。
得られた飲料の色度は、10°EBCであった。
得られた例66に係る飲料について、実験例1と同様の方法及び基準で、DMS臭について官能評価を行った。
【0044】
結果及び製造条件を、表16に示す。
表16に示されるように、例66に係る飲料には、DMSが35ppbの濃度で含まれており、すなわち、対照(例32)よりも多量のDMSが含まれていた。にもかかわらず、DMS臭の評点は、1.7であり、対照よりもDMS臭が抑制されていた。例66に係る飲料には、2-エチル-3-メチルピラジン及びジメチルピラジン類が、それぞれ、0.24及び0.57ppbの量で含まれていた。
【0045】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】