(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】撥水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240802BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C09D183/04
C03C17/30 B
(21)【出願番号】P 2020019656
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000106771
【氏名又は名称】シーシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】堀田 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】青木 達也
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/067769(WO,A1)
【文献】米国特許第05166000(US,A)
【文献】特開平05-254823(JP,A)
【文献】特開2002-038092(JP,A)
【文献】特開2018-076434(JP,A)
【文献】特開平06-248259(JP,A)
【文献】特開2015-145463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
C03C 15/00 - 23/00
B32B 1/00 - 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤として、一般式R
4-nSi(OR’)
n(式中、Rは炭素数18の炭化水素基であり、R’は炭素数1~5のアルキル基である。nは1~3の整数である。)で表されるアルキルシラン
、及びフッ素シランを、少なくとも水を含む溶媒中に含む、撥水性コーティング組成物。
(但し、(A)成分;部分加水分解縮合していてもよい下記式(1)で表される化合物、
又は、
(B)成分;部分加水分解縮合および/または共縮合していてもよい、下記式(2)で表される化合物および前記式(2)で表される化合物の含有量100質量%に対して0.5~50質量%の含有量の下記式(3)で表される化合物
を含有する組成物を除く
R
3-(SiR
2
2O)
k1-SiR
2
2-Y
1-Si(R
1)
3-n1(X
1)
n1・・・(1))
(ただし、式(1)中、R
3は炭素原子数4~30のアルキル基を、R
2はそれぞれ独立して炭素原子数3以下のアルキル基を、Y
1は炭素原子数2~4のアルキレン基を、R
1はそれぞれ独立して1価の炭化水素基を、X
1はそれぞれ独立して加水分解性基を示す。
k1は10~300の整数であり、
n1は1~3の整数である。)
R
5-(SiR
5
2O)
k2-SiR
5
2-Y
2-Si(R
4)
3-n2(X
2)
n2・・・(2)
(ただし、式(2)中、R
5はそれぞれ独立して炭素原子数3以下のアルキル基を、Y
2は炭素原子数2~4のアルキレン基を、R
4はそれぞれ独立して1価の炭化水素基を、X
2はそれぞれ独立して加水分解性基を示す。k2は10~300の整数であり、n2は1~3の整数である。)
【請求項2】
ガラス用撥水性コーティング組成物である、請求項
1に記載の撥水性コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撥水性コーティング組成物に関し、更に詳細には、アルキルシランを含み、撥水性及び耐久性に優れた撥水性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンオイル、フッ素シラン、又はアルキルシランを主剤とし、これに酸触媒又はアルカリ触媒を配合し、更に水及びアルコール類を配合してなる撥水性コーティング組成物が知られている。このような撥水性コーティング組成物をガラス等の対象物の表面に塗布することより、耐久性を有する撥水塗膜が該表面に形成される。
【0003】
例えば、特許文献1には、フッ素シラン又はアルキルシランである主剤と、金属アルコキシド又はキレート化合物からなる安定化剤と、を含むガラス用撥水性コーティング組成物が開示されている。特許文献2には、炭素数1~8の有機基を含むオルガノシランとオルガノポリシロキサンとを共縮合させたコーティング組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-38092号公報
【文献】特開平11-286652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
撥水塗膜による撥水性を維持するには、該塗膜の耐久性が優れていることが求められる。特許文献1記載のガラス用撥水性コーティング組成物により、撥水塗膜の耐久性が向上するが、より一層耐久性を向上させることが求められている。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みなされたものであり、耐久性及び撥水性に優れた撥水塗膜を形成することができる撥水性コーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の撥水性コーティング組成物(以下、「本組成物」という。)は、主剤として、一般式R4-nSi(OR’)n(式中、Rは炭素数9以上の炭化水素基であり、R’は炭素数1~5のアルキル基である。nは1~3の整数である。)で表されるアルキルシランを、少なくとも水を含む溶媒中に含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本組成物では、主剤として一般式R4-nSi(OR’)nで表されるアルキルシランを含む。ここで、「主剤として」とは、「塗膜を形成する成分として」の意味であり、含有量及び含有割合とは関連がない。例えば、本組成物が、「塗膜を形成する成分」として、前記アルキルシランと他のシラン系化合物を1種以上含む場合、前記アルキルシランの配合量が前記他のシラン系化合物の配合量より少なくても、「主剤として」の要件を満たす。
【0009】
前記アルキルシラン中のRは、炭素数9以上、好ましくは9~20の炭化水素基である。前記炭化水素基は直鎖状でも分岐状でもよい。また、前記炭化水素基は飽和炭化水素基でもよく、1以上の不飽和結合(二重結合及び/又は三重結合)を含んでいてもよい。
【0010】
前記アルキルシラン中のR’は、炭素数1~5のアルキル基である。該アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、及びt-ブチル基が挙げられる。
【0011】
前記アルキルシランは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
本組成物中の前記アルキルシランの含有量には特に限定はない。該含有量として好ましくは0.05~12質量部、好ましくは0.05~10質量部、更に好ましくは0.1~7質量部である。含有量が前記範囲内であると、撥水性を発揮するのに十分な撥水塗膜を形成することができ、経済的であることから好ましい。
【0013】
前記溶剤は、少なくとも水を含み、且つ前記アルキルシランを溶解させることができる限り、その種類には特に限定はない。前記溶剤は水のみで構成されていてもよく、水と1以上の他の溶媒との混合溶剤でもよい。前記溶剤として好ましくは、水とアルコールとの混合溶媒である。前記水は水道水等の通常の水でもよく、脱塩素水及び超純水でもよい。
【0014】
前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、nブタノール、イソブタノール、オクタノール、n-プロピルアルコール等、またグリコール誘導体としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブロピルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。特にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールが取り扱い性、保存安定性の点で好ましい。
【0015】
前記水とアルコール類との混合比には特に限定はない。該混合比は通常、0.1:99.9~10:90の重量比で、好ましくは1:99~5:95の重量比である。混合比が前記範囲であると、前記アルキルシランを溶解させて良好な塗膜を形成できることから好ましい。
【0016】
本組成物は更にフッ素シランを含めることができる。フッ素シランを含むことにより、塗膜の耐熱性を高めることができるので好ましい。前記フッ素シランの構造には特に限定はない。前記フッ素シランとして、例えば、炭素数3~10のフッ素シランを用いることができる。また、前記フッ素シランの含有量は、必要に応じて適宜の範囲とすることができる。前記フッ素シランの含有量は0.05~3質量部、好ましくは0.1~1質量部、より好ましくは0.1~0.5質量部とすることができる。更に、前記アルキルシランと前記フッ素シランの割合(重量比)は1:(0.1~30)、好ましくは1:(0.3~10)、更に好ましくは1:(0.1~5)とすることができる。
【0017】
本組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分として例えば、本組成物のゲル化又は沈殿の発生を抑制するための安定化剤が挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、金属アルコキシド又はキレート化合物が挙げられる。前記金属アルコキシドを構成する金属としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、及びチタニウムが挙げられる。前記安定化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記安定化剤として具体的には、例えば、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(エチルアセチルアセテート)、トリエトキシアルミニウム、トリ-イソ-プロキシアルミニウム、テトラ-イソ-プロキシチタン、テトラ-イソ-プロポキシジルコニウム、テトラ-イソ-ブトキシジルコニウム、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(トリエタノールアミン)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセトアセトネート)、ジルコニウムトリス(n-ブトキシ)モノ(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(n-ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0019】
前記安定化剤の含有量は必要に応じて適宜選択することができる。該含有量は通常、前記主剤100質量部に対して0.1~100質量部である。前記含有量が上記範囲であると、本組成物のゲル化、沈殿の発生を十分に抑制することができ、且つ経済的であることから好ましい。
【0020】
前記安定化剤以外の前記他の成分として具体的には、例えば、凍結防止剤、pH調整、紫外線吸収剤、及び赤外線吸収剤が挙げられる。
【0021】
本組成物の適用対象は、撥水性が求められる限り特に限定はない。該適用対象としては例えば、ガラスが挙げられる。よって、本組成物は、ガラス用撥水性コーティング組成物として用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。また、実施例における結果に対する考察は、全て発明者の見解に過ぎず、何ら本発明を定義付ける趣旨の説明ではないことを付言する。
【0023】
(1)組成物の調製
以下の成分を用いて、実施例1~17及び比較例1~5の撥水性コーティング組成物を調製した。実施例1~17及び比較例1~5の組成を表1及び表2に示す。表1及び表2において、各成分の数値は質量部である。
アルコール;イソプロピルアルコール
添加剤;アルミニウムキレート化合物
C4フッ素シラン;トリメトキシ(1H,1H,2H,2Hノナフルオロヘキシル)シラン
C6フッ素シラン;トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン
C8アルキルシラン;トリメトキシ-n-オクチルシラン
C10アルキルシラン;デシルトリメトキシシラン
C12アルキルシラン;ドデシルトリメトキシシラン
C16アルキルシラン;ヘキサデシルトリメトキシシラン
C18アルキルシラン(I);オクタデシルトリメトキシシラン
C18アルキルシラン(II);オクタデシルトリエトキシシラン
【0024】
【0025】
【0026】
(2)初期接触角及び初期転落角の測定
実施例1~17及び比較例1~5の撥水性コーティング組成物を手塗りでガラス表面に塗布し、風乾後、70℃で30分間加熱して試験片を調製した。該試験片を用いて、2μLの水滴をガラス表面に滴下し、液適法により初期接触角(°)を、50μLの水滴をガラス表面に滴下し、滑落法により初期転落角(°)を測定した。結果を表1及び表2に併記する。
【0027】
(3)耐久性試験(I)(研磨剤法)
炭化ケイ素及び珪藻土を1:1(重量比)で混合し、水で13.5倍に希釈して研磨液(15g)を調製した。前記研磨液を用いて、以下の条件で前記試験片の研磨を行った。その後、(2)と同じ方法により、接触角(°)及び転落角(°)を測定した。結果を表1及び表2に併記する。
試験機;摩擦耐久性試験機(自社製)
試験片のサイズ;75mm×150mm
摩擦子;ウレタンスポンジ
荷重;400g
試験回数;150往復
【0028】
(4)耐久性試験(II)(ワイパー法)
前記試験片を75mm×25mmのサイズにカットした。次いで、以下の条件で前記試験片のワイパー摩擦を行った。その後、(2)と同じ方法により、接触角(°)及び転落角(°)を測定した。結果を表1及び表2に併記する。
試験機;ワイパー摩擦耐久性試験機(自社製)
試験片のサイズ;75mm×25mm
摩擦子;ワイパー(長さ15mm)
荷重;20g
試験回数;1000往復
【0029】
(5)耐熱性試験
前記試験片を75mm×25mmのサイズにカットした。次いで、該試験片を恒温槽中で100℃、120時間の条件で加熱した。その後、(2)と同じ方法により、接触角(°)及び転落角(°)を測定した。結果を表1及び表2に併記する。
【0030】
(6)結果
実施例1~4では、耐久性試験及び耐熱性試験後の接触角及び転落角の変化が小さく、耐久性及び耐熱性に優れている。一方、比較例3(C8アルキルシラン)は、耐熱性は同等である反面、耐久性試験(I)及び(II)後の接触角の変化が大きく、耐久性に劣ることが分かる。また、比較例1及び2(フッ素シラン)は、耐熱性は向上しているが、比較例3と同様に、耐久性試験(I)及び(II)後の接触角の変化が大きく、耐久性に劣ることが分かる。
【0031】
実施例5は初期接触角が大きく、また、耐久性試験及び耐熱性試験後の接触角の低下の割合も低く、耐久性及び耐熱性に優れている。一方、比較例5(溶媒に水を含まない)は、実施例5と比べて初期接触角が小さく、また、耐久性試験及び耐熱性試験後の接触角の低下の割合も高く、耐久性及び耐熱性に劣ることが分かる。
【0032】
実施例1~4(C10~C18アルキルシラン)と実施例5~17(C10~C18アルキルシラン+フッ素シランを含む。)とを対比すると、実施例5~17は、実施例1~4よりも耐熱性試験後の接触角が大きい。一方、上記のように、比較例1及び2(フッ素シラン)では、耐久性試験(I)及び(II)後の接触角の変化が大きいのに対し、実施例5~17ではこの変化が小さい。よって、フッ素シランを含むことにより、耐久性を維持しつつ、塗膜の耐熱性を向上させることができる。