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特許7531291非水電解質二次電池用負極材料及び当該負極材料を含む非水電解質二次電池用負極、並びに当該負極を備える非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極材料及び当該負極材料を含む非水電解質二次電池用負極、並びに当該負極を備える非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240802BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240802BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240802BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240802BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020044796
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021144923
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516309866
【氏名又は名称】ATTACCATO合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 牧子
(72)【発明者】
【氏名】木下 智博
(72)【発明者】
【氏名】田名網 潔
(72)【発明者】
【氏名】青柳 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】池内 勇太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 太地
(72)【発明者】
【氏名】山下 直人
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188334(JP,A)
【文献】特開平09-306541(JP,A)
【文献】特開2018-063912(JP,A)
【文献】特開2018-085276(JP,A)
【文献】国際公開第2008/143027(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用負極材料であって、
シリコン系材料で構成される負極活物質と、
シロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤と、
前記負極活物質と前記骨格形成剤との界面に形成され、シリコン及びナトリウム又はシリコン及びカリウムを含む無機物で構成される界面層と、を備え、
前記骨格形成剤は、下記一般式(1)で表されるケイ酸塩を含み、
[化1]
O・nSiO ・・・式(1)
[上記一般式(1)中、Aはナトリウム又はカリウムを表し、nは1.6以上3.9以下を表す。]
前記界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合が前記骨格形成剤の硬化物の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合の3倍以上であり、
前記非水電解質二次電池用負極材料の単位面積に対する前記骨格形成剤の質量比が0.15~1.0mg/cmである非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記非水電解質二次電池用負極材料の単位面積に対する前記骨格形成剤の質量比が0.15~0.28mg/cmである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項3】
前記界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合が前記骨格形成剤の硬化物の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合の17倍以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項4】
前記界面層の厚みは、3~30nmである、請求項1から3いずれかに記載の非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載の非水電解質二次電池用負極材料を備える、非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
請求項5に記載の非水電解質二次電池用負極を備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極及びこれを備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、小型且つ軽量であるうえ高出力が得られることから、自動車等への使用が増大している。非水電解質二次電池とは、電解質に水を主成分としない電解質を用いた電池系で、且つ充放電可能な蓄電デバイスの総称である。例えば、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、リチウム全固体電池、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池、多価イオン電池、フッ化物電池、ナトリウム硫黄電池などが知られている。この非水電解質二次電池は、主として、正極、負極、電解質から構成される。また、電解質が流動性を有する場合には正極と負極との間にさらにセパレータを介在させて構成される。
【0003】
ところで、上記非水電解質二次電池では、電池寿命の向上が求められている。そこで、シロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤を少なくとも活物質層の表面に存在させ、表面から内部に骨格形成剤を浸透させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、活物質層に強固な骨格を形成できるため、電池寿命を向上できるとされている。また、上記骨格形成剤を、シリコン(Si)系活物質を含む負極に適用した技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6369818号公報
【文献】特許第6149147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の技術では長期にわたって十分な電池寿命が得られない場合があり、更なる電池寿命の改善が望まれる。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、従来に比して電池寿命を向上できる非水電解質二次電池用負極材料及び当該負極材料を含む非水電解質二次電池用負極、並びに当該負極を備える非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 上記目的を達成するため本発明は、シリコン系材料と、シロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤と、前記シリコン系材料と前記骨格形成剤との界面に形成され、無機物で構成される界面層と、を備える非水電解質二次電池用負極材料を提供する。
【0008】
(2) (1)の非水電解質二次電池用負極材料において、前記骨格形成剤は、下記一般式(1)で表されるケイ酸塩を含み、前記界面層は、シリコン及びアルカリ金属を含んでよい。
[化1]

O・nSiO ・・・式(1)

[上記一般式(1)中、Aはアルカリ金属を表す。]
【0009】
(3) (1)又は(2)の非水電解質二次電池用負極材料において、前記界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合は、前記骨格形成剤の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合よりも高くてよい。
【0010】
(4) (3)の非水電解質二次電池用負極材料において、前記界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合は、前記骨格形成剤の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合の5倍以上であってよい。
【0011】
(5) (1)から(4)いずれかの非水電解質二次電池用負極材料において、前記界面層の厚みは、3~30nmであってよい。
【0012】
(6) また本発明は、(1)から(5)いずれかの非水電解質二次電池用負極材料を含む、非水電解質二次電池用負極を提供する。
【0013】
(7) また本発明は、(6)の非水電解質二次電池用負極を備える、非水電解質二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来に比して電池寿命を向上できる非水電解質二次電池用負極材料及び当該負極材料を含む非水電解質二次電池用負極、並びに当該負極を備える非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例3に係る負極のTEM画像である。
図2図1における負極活物質と骨格形成剤との界面の拡大図である。
図3】実施例1に係る負極のEDXスペクトル図である。
図4】実施例4に係る負極のEDXスペクトル図である。
図5】比較例4に係る負極のEDXスペクトル図である。
図6】実施例1に係る負極のEDXマッピング図である。
図7】比較例4に係る負極のEDXマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について詳しく説明する。
【0017】
<第1実施形態>
[負極材料]
本実施形態に係る非水電解質二次電池用負極材料は、シリコン系材料と、シロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤と、前記シリコン系材料と前記骨格形成剤との界面に形成され、無機物で構成される界面層と、を備える。例えば本実施形態の負極材料を含むリチウムイオン二次電池用負極は、高強度で耐熱性に優れ、且つ高容量でありながら、サイクル寿命特性が向上したリチウムイオン二次電池用負極及びこれを備えるリチウムイオン二次電池を提供できるものである。以下、本実施形態をリチウムイオン二次電池用負極に適用した例について、詳しく説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。
【0018】
本実施形態の負極活物質としては、シリコン系材料が用いられる。シリコン系材料は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能であり、負極活物質として機能する。具体的には、シリコンを必須元素として構成される負極材料であり、シリコン単体、シリコン合金、シリコン酸化物、シリコン化合物等が該当する。ここで、シリコン単体とは、純度95質量%以上の結晶質または非晶質のシリコンをいう。シリコン合金とは、シリコンと他の遷移元素(M)からなるSi-M合金を意味し、Mは例えば、Al、Mg、La、Ag、Sn、Ti、Y、Cr、Ni、Zr、V、Nb、Moなどが挙げられ、全率固溶型合金、共晶合金、亜共晶合金、過共晶合金、包晶型合金であってもよい。シリコン酸化物とは、シリコンの酸化物、あるいはシリコン単体とSiOからなる複合体を意味し、SiとOの元素比は、Siが1に対してOが1.7以下であればよい。シリコン化合物とは、シリコンと他の2種類以上の元素が化学結合した物質である。このうち、後述する界面層が良好に形成できることから、シリコン単体が好ましい。
【0019】
なお、上述したシリコン系材料は、2種以上使用してもよく、シリコン系材料を含んでなる混合体や複合体であってもかまわない。混合体や複合体を形成する場合は、非水電解質二次電池用負極材料として用いられる公知の材料と混合または複合化してもよい。
【0020】
シリコン系材料の形状は特に限定されず、球状、楕円状、切子状、帯状、ファイバー状、フレーク状、ドーナツ状、中空状の粉末であってもよい。
【0021】
シリコン系材料の粒子径としては、粒径の小さな活物質粉末を用いると、粒子の崩壊が低減され、電極の寿命特性が改善される傾向にある。また、比表面積が増大して、出力特性が向上される傾向にある。
【0022】
例えば、本実施形態の骨格形成剤を造粒用結着剤として用いたナノ造粒体を用いた負極材料が提示できる。ナノオーダーの活物質を骨格系製剤で造粒することで、負極材料の膨張収縮により集電体に付与される応力が緩和され、集電体の変形や破壊等を防ぐことができる。
【0023】
本実施形態の骨格形成剤としては、シロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤が用いられる。より具体的には、骨格形成剤は、下記一般式(1)で表されるケイ酸塩を含むことが好ましい。
[化2]

O・nSiO ・・・式(1)
【0024】
上記一般式(1)中、Aはアルカリ金属を表している。中でも、好ましいAは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)のうち少なくともいずれか1種である。骨格形成剤としてこのようなシロキサン結合を有するケイ酸のアルカリ金属塩を用いることにより、高強度で耐熱性に優れ、サイクル寿命に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0025】
また、上記一般式(1)中、nは1.6以上3.9以下であることが好ましい。nがこの範囲内であることにより、骨格形成剤と水を混合して骨格形成剤液とした場合に適度な粘性が得られ、後述するように負極活物質としてシリコンを含む負極に塗布したときに骨格形成剤が負極内に浸透し易くなる。そのため、高強度で耐熱性に優れ、サイクル寿命に優れたリチウムイオン二次電池がより確実に得られる。より好ましいnは、2.0以上3.5以下である。
【0026】
上記ケイ酸塩は、非晶質であることが好ましい。非晶質のケイ酸塩は、無秩序な分子配列からなるため、結晶のように特定方向に割れることがない。そのため、非晶質のケイ酸塩を骨格形成剤として用いることにより、負極のサイクル寿命特性が改善される。
【0027】
本実施形態の骨格形成剤は、界面活性剤を含んでいてもよい。これにより、骨格形成剤の負極内への親液性が向上し、骨格形成剤が負極内に均一に浸透する。従って、負極内の活物質層間に均一な骨格が形成され、サイクル寿命特性がさらに向上する。
【0028】
界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤などが使用可能である。骨格形成剤の固形分全体を100質量%とした場合、界面活性剤の含有量は、0~5質量%であることが好ましい。
【0029】
本実施形態では、界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合は、骨格形成剤の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合よりも高いことが好ましい。より具体的には、界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合は、骨格形成剤の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合の5倍以上であることが好ましい。これにより、負極活物質と骨格形成剤との結合がより強固になり、充放電時における負極材料の膨張収縮による体積変化が緩和される。従って、これを負極材料として用いた負極では、充放電時おける負極材料の膨張収縮による剥がれや、集電体の皺や亀裂の発生がより抑制され、サイクル寿命がより向上する。
【0030】
また本実施形態では、上記界面層の厚みが3~30nmであることが好ましい。界面層の厚みがこの範囲内であることにより、シリコン系材料と骨格形成剤との結合がより強固になり、充放電時における負極材料の膨張収縮による剥がれや、集電体の皺や亀裂の発生がより抑制され、サイクル寿命がより向上する。
【0031】
シリコン系材料の比表面積が大きいほど負極材料に対する骨格形成剤の含有量が多いことが好ましい。例えば、シリコン系材料の比表面積が0.1~50m/gである場合では、0.05~2.0mg/gであることが好ましい。負極材料に対する骨格形成剤の含有量がこの範囲内であれば、上述の骨格形成剤の使用による効果がより確実に発揮される。
【0032】
また、上記した負極材料とは、負極を構成する材料をいう。負極を構成する材料としては、例えば、活物質、導電助剤、バインダ、集電体及びその他の材料が挙げられるが、活物質として用いることが好ましい。
【0033】
上記した負極材料のメディアン径(D50)は、0.01μm以上20μm以下が好ましく、0.05μm以上10μm以下がより好ましく、0.1μm以上8μm以下がさらに好ましく、0.15μm以上6μm以下が最も好ましい。複合粉末のメディアン径(D50)を上記の範囲内にすることで、出力特性及びサイクル寿命特性に優れた電極が得られる電極材料とすることができる。0.1μm以上であることにより、比表面積が高くなりすぎず、電極形成に必要なバインダが多くならない。その結果、電極の出力特性とエネルギー密度に優れる。また、20μm以下であることにより、粒子表面積が大きくなり、実用的な入出力特性が得られる。
【0034】
ここで、メディアン径(D50)とは、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定法を用い、体積基準の体積換算で頻度の累積が50%になる粒子径であり、本願における粒径はこれを意味している。
【0035】
本実施形態の骨格形成剤は、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、電子伝導性を有していれば特に制限はなく、公知の材料を用いることができる。具体的には、後述する負極に含まれる各種導電助剤と同じ材料が使用可能である。
【0036】
上記した負極材料は、その粉末を構成する1つの粒子中にシリコン系材料とシロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤と、前記シリコン系材料と前記骨格形成剤との界面に形成され、無機物で構成される界面層と、を備える。また、前記粒子は、シリコン系材料の表面にシロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤が担持又は被覆された構造である。
【0037】
例えば、シリコン系材料を核としてその表面にシロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤が担持又は被覆され、さらに前記シリコン系材料と前記骨格形成剤との界面には無機物で構成される界面層を備えたものであってよい。担持又は被覆とは、シリコン系材料の表面がケイ酸塩によって部分被覆又は完全被覆されていることを意味する。
【0038】
前記粒子は、前記ケイ酸塩をマトリックスとし、前記マトリックス中に前記シリコン系材料が分散した状態で存在する粒子であることが好ましい。
【0039】
なお、本願において複合は、混合とは異なる概念であり、混合粉末がシリコン系材料とケイ酸塩との単なる集合であるのに対して、複合粉末とは当該粉末を構成する1つの粒子中にシリコン系材料とケイ酸塩の両方が含まれている。
【0040】
上記の負極材料は、主に活物質として用いられる。なお、活物質とは、電気伝導を担うイオン(キャリア)を電気化学的に吸蔵及び放出することができる物質をいう。
【0041】
上記の負極材料を非水電解質二次電池用の負極材料として用い、集電体上に被着形成することで、非水電解質二次電池用の負極として良好に機能させることができる。
【0042】
負極は、例えば、本実施形態の負極材料の他に、必要に応じて導電性を付与するための導電助剤、結着性を付与するためのバインダを含有させてもよい。なお、負極材料中に導電助剤や骨格形成剤等を含ませる場合であっても、さらに、導電助剤、骨格形成剤等を含ませてもよい。
【0043】
例えば、溶媒(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、水、アルコール、キシレン、トルエン等)を用いてスラリー状の負極材料含有組成物とし、この組成物を集電体表面に塗布、乾燥し、更にプレスすることで集電体表面に負極材料含有層を形成し、負極とすることができる。
【0044】
また、上記の負極材料を負極活物質として用いて、負極活物質、骨格形成剤、バインダ及び導電助剤の固形分合計を100質量%とした場合、骨格形成剤の含有量は0.1~30質量%であることが好ましい。骨格形成剤の含有量がこの範囲内であれば、上述の骨格形成剤の使用による効果がより確実に発揮される。より好ましい骨格形成剤の含有量は、0.2~20質量%であり、さらに好ましくは、0.5~10質量%である。
【0045】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極は、導電助剤を含むことが好ましい。導電助剤としては、電子伝導性を有していれば特に制限はなく、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラス等を用いることができる。具体的には、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、ファーネスブラック(FB)、サーマルブラック、ランプブラック、チェンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、カーボンブラック(CB)、カーボンファイバー(例えば気相成長炭素繊維VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、グラッシーカーボン、アモルファスカーボン等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0046】
負極に含有される負極活物質、バインダ及び導電助剤の合計を100質量%とした場合、導電助剤の含有量は、0~20質量%であることが好ましい。導電助剤の含有量がこの範囲内であれば、負極容量密度を低下させることなく、導電性を向上できる。また、後述する第2実施形態のように、さらに電極としての骨格形成剤を含ませても構わない。
【0047】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極は、バインダを含んでいてもよい。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キタンサンガム、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸アミン、ポリアクリル酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン、塩化ビニル、シリコーンゴム、ニトリルゴム、シアノアクリレート、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ラテックス、ポリウレタン、シリル化ウレタン、ニトロセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル、ポリスチレン、クロロプロピレン、レゾルシノール樹脂、ポリアロマティック、変性シリコーン、メタクリル樹脂、ポリブテン、ブチルゴム、2-プロペン酸、シアノアクリル酸、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルオリゴマー、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アルギン酸、デンプン、うるし、ショ糖、にかわ、ガゼイン、セルロースナノファイバー等の有機材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
また、上記の各種有機バインダと無機バインダを混合したものを用いてもよい。無機バインダとしては、ケイ酸塩系、リン酸塩系、ゾル系、セメント系等が挙げられる。例えば、リチウムケイ酸塩、ナトリウムケイ酸塩、カリウムケイ酸塩、セシウムケイ酸塩、グアニジンケイ酸塩、アンモニウムケイ酸塩、ケイフッ化塩、ホウ酸塩、リチウムアルミン酸塩、ナトリウムアルミン酸塩、カリウムアルミン酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸アルミニウム、ポリ硫酸ケイ酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アンモニウムミョウバン、リチウムミョウバン、ナトリウムミョウバン、カリウムミョウバン、クロムミョウバン、鉄ミョウバン、マンガンミョウバン、硫酸ニッケルアンモニウム、珪藻土、ポリジルコノキサン、ポリタンタロキサン、ムライト、ホワイトカーボン、シリカゾル、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルミナゾル、コロイダルアルミナ、ヒュームドアルミナ、ジルコニアゾル、コロイダルジルコニア、ヒュームドジルコニア、マグネシアゾル、コロイダルマグネシア、ヒュームドマグネシア、カルシアゾル、コロイダルカルシア、ヒュームドカルシア、チタニアゾル、コロイダルチタニア、ヒュームドチタニア、ゼオライト、シリコアルミノフォスフェートゼオライト、セピオライト、モンモリナイト、カオリン、サポナイト、リン酸アルミニウム塩、リン酸マグネシウム塩、リン酸カルシウム塩、リン酸鉄塩、リン酸銅塩、リン酸亜鉛塩、リン酸チタン塩、リン酸マンガン塩、リン酸バリウム塩、リン酸スズ塩、低融点ガラス、しっくい、せっこう、マグネシウムセメント、リサージセメント、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、リン酸セメント、コンクリート、固体電解質等の無機材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本実施形態に係る負極材料を用いて構成される負極に使用される集電体としては、電子伝導性を有し、保持した負極活物質に通電し得る材料であれば特に限定されない。例えば、C、Ti、Cr、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Os、Ir、Pt、Al、Au等の導電性物質、これら導電性物質の二種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。上記の導電性物質以外のものを用いる場合、例えば、鉄にCuやNiを被覆したような異種金属の多層構造体であってもよい。
【0050】
電気伝導性が高く、電解液中の安定性が高い観点から、集電体としてはC、Ti、Cr、Au、Fe、Cu、Ni、ステンレス鋼等が好ましく、さらに耐還元性と材料コストの観点からC、Cu、Ni、ステンレス鋼等が好ましい。なお、集電基材に鉄を用いる場合は、集電基材表面の酸化を防ぐため、NiやCuで被覆されたものであることが好ましい。
【0051】
なお、集電体の形状には、線状、棒状、板状、箔状、多孔状があり、このうち充填密度を高めることができることと、骨格形成剤が活物質層に浸透しやすいことから多孔状であってもよい。多孔状には、メッシュ、織布、不織布、エンボス体、パンチング体、エキスパンド、又は発泡体などが挙げられる。
【0052】
上述したように第1実施形態は、シリコン系材料と、シロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤と、前記負極活物質と前記骨格形成剤との界面に形成され、無機物で構成される界面層と、を備える非水電解質二次電池用負極材料を製造し、これを負極材料として用いることを特徴としている。
【0053】
<第2実施形態>
[負極]
次に、本発明の第2実施形態について詳しく説明するが、第1実施形態と共通する用語(例えば、骨格形成剤、界面層など)については、特に記載がない限り、第1実施形態と同様であるため適宜省略する。第2実施形態のリチウムイオン二次電池用負極では、第1実施形態の負極材料が負極に含まれる点について同じといえるが、負極活物質としてシリコン系材料を含む負極に上記骨格形成剤液を塗布することにより、負極活物質間に骨格形成剤を浸透させる点で異なる。当該負極活物質間に骨格形成剤が浸透すると、負極活物質を構成するシリコン系材料と、骨格形成剤を構成する上記ケイ酸塩とが融合して、例えば加水分解したケイ酸塩が加熱により脱水反応(シラノール基の縮合反応)することで、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成すると推測される。即ち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極では、負極活物質と骨格形成剤との界面に、無機物で構成される界面層が形成され、この界面層には、シロキサン結合由来のシリコンと、ケイ酸塩の加水分解等により生成されるアルカリ金属が含まれる。そしてこの界面層の存在により、負極活物質と骨格形成剤とが強固に結合される結果、優れたサイクル寿命特性が得られるようになっていると推測される。
【0054】
本実施形態では、界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合は、骨格形成剤の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合よりも高いことが好ましい。より具体的には、界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合は、骨格形成剤の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合の5倍以上であることが好ましい。これにより、負極活物質と骨格形成剤との結合がより強固になり、充放電時における負極活物質の膨張収縮による剥がれや、集電体の皺や亀裂の発生がより抑制され、サイクル寿命がより向上する。
【0055】
また本実施形態では、上記界面層の厚みが3~30nmであることが好ましい。界面層の厚みがこの範囲内であることにより、負極活物質と骨格形成剤との結合がより強固になり、充放電時における負極活物質の膨張収縮による剥がれや、集電体の皺や亀裂の発生がより抑制され、サイクル寿命がより向上する。
【0056】
負極に対する骨格形成剤の含有量(密度)は、0.1~1.0mg/cmであることが好ましい。負極に対する骨格形成剤の含有量がこの範囲内であれば、上述の骨格形成剤の使用による効果がより確実に発揮される。
【0057】
また、負極活物質、骨格形成剤、バインダ及び導電助剤の固形分合計を100質量%とした場合、骨格形成剤の含有量は0.1~30質量%であることが好ましい。骨格形成剤の含有量がこの範囲内であれば、上述の骨格形成剤の使用による効果がより確実に発揮される。より好ましい骨格形成剤の含有量は、0.2~20質量%であり、さらに好ましくは、0.5~10質量%である。
【0058】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極は、導電助剤を含むことが好ましい。導電助剤としては、電子伝導性を有していれば特に制限はなく、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラス等を用いることができる。具体的には、第1実施形態で説明した各種材料が使用可能である。
【0059】
負極に含有される負極活物質、バインダ及び導電助剤の合計を100質量%とした場合、導電助剤の含有量は、0~20質量%であることが好ましい。導電助剤の含有量がこの範囲内であれば、負極容量密度を低下させることなく、導電性を向上できる。
【0060】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極は、バインダを含んでいてもよい。バインダとしては、第1実施形態で説明した材料が使用可能である。
【0061】
また、上記の各種有機バインダと無機バインダを混合したものを用いてもよい。無機バインダとしては、第1実施形態で説明した各種材料が使用可能である。
【0062】
なお本実施形態では、骨格形成剤の使用により形成される上述の界面層により、負極活物質と骨格形成剤とが強固に結合されるため、上述のバインダ全てが使用可能である。負極に含有される負極活物質、バインダ及び導電助剤の合計を100質量%とした場合、バインダの含有量は、0.1~60質量%であることが好ましい。バインダの含有量がこの範囲内であることにより、負極容量密度を低下させることなく、イオン伝導性を向上できるとともに高い機械強度が得られ、優れたサイクル寿命特性が得られる。より好ましいバインダの含有量は、0.5~30質量%である。
【0063】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極に用いられる集電体としては、電子伝導性を有し、保持した負極活物質に通電し得る材料であれば特に限定されない。例えば、第1実施形態で説明した各種材料が使用可能である。
【0064】
また、従来の合金系負極は充放電に伴う負極材料の体積変化が大きいため、集電基材はステンレス鋼又は鉄が好ましいとされていたところ、本実施形態では、骨格形成剤で集電体にかかる応力を緩和することが可能であるため、上述のもの全てが使用可能である。
【0065】
[正極]
次に、上述の負極(第1実施形態の負極材料と用いた負極あるいは第2実施形態の負極)を用いてリチウムイオン二次電池を構成する場合の正極について説明するが、第1実施形態や第2実施形態と共通する用語(例えば、バインダ、導電助剤など)については、特に記載がない限り、第1実施形態や第2実施形態と同様であるため適宜省略する。
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池で通常使用される正極活物質であれば特に限定されない。例えば、アルカリ金属遷移金属酸化物系、バナジウム系、硫黄系、固溶体系(リチウム過剰系、ナトリウム過剰系、カリウム過剰系)、カーボン系、有機物系、等の正極活物質が用いられる。
【0066】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、上述の負極と同様に、骨格形成剤を含んでいてもよい。骨格形成剤としては、上述の負極と同様のものを用いることができ、骨格形成剤の好ましい含有量も、負極と同様である。
【0067】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、負極で使用可能な上述の各種導電助剤が用いられる。導電助剤の好ましい含有量も、負極と同様である。
【0068】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、バインダを含んでいてもよい。バインダとしては、公知の材料が使用でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル、アルギン酸、等の有機材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの有機バインダと無機バインダを混合したものでもよい。無機バインダは、例えば、ケイ酸塩系、リン酸塩系、ゾル系、セメント系等が挙げられるが、第1実施形態や第2実施形態で説明した各種材料が使用可能である。
【0069】
正極に用いられる集電体としては、電子伝導性を有し、保持した正極活物質に通電し得る材料であれば特に限定されない。例えば、C、Ti、Cr、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Os、Ir、Pt、Au、Al等の導電性物質、これら導電性物質の二種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。上記の導電性物質以外のものを用いる場合、例えば、鉄にAlを被覆したような異種金属の多層構造体であってもよい。電気伝導性が高く、電解液中の安定性が高い観点から、集電体としてはC、Ti、Cr、Au、Al、ステンレス鋼等が好ましく、さらに耐酸化性と材料コストの観点からC、Al、ステンレス鋼等が好ましい。より好ましくは、炭素被覆されたAl、炭素被覆されたステンレス鋼である。なお、集電体の形状については、負極に用いられる集電体と同様のものが使用可能である。
【0070】
[セパレータ]
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、セパレータとして、リチウムイオン二次電池に通常使用されるものが使用できる。例えば、セパレータとしてガラス不織布やアラミド不織布、ポリイミド微多孔膜、ポリオレフィン微多孔膜などを用いることができる。
【0071】
[電解質]
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、電解質として、リチウムイオン二次電池で通常使用されるものが使用できる。例えば、電解質が溶媒に溶解された電解液、ゲル電解質、固体電解質、イオン性液体、溶融塩、固体電解質が挙げられる。ここで、電解液とは、電解質が溶媒に溶解した状態のものをいう。
【0072】
リチウムイオン二次電池としての電解質としては、電気伝導を担うキャリアとしてリチウムイオンを含有する必要があることから、その電解質塩としては、リチウムイオン二次電池で用いられるものであれば特に限定されないが、リチウム塩が好適である。このリチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(SOCF)、リチウムビスペンタフルオロエタンスルホニルイミド(LiN(SO)、リチウムビスオキサレートボレート(LiBC)等からなる群より選択される少なくとも1種以上を用いることができ、又は二種以上を併用することができる。
【0073】
電解質の溶媒としては、リチウムイオン二次電池で用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、メチル-γ-ブチロラクトン、ジメトキシメタン(DMM)、ジメトキシエタン(DME)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(EVC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルファイト(ES)よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることができ、又は二種以上を併用することができる。
【0074】
また、電解液の濃度(溶媒中の塩の濃度)は、特に限定されないが、0.1~3.0mol/Lであることが好ましく、0.8~2.0mol/Lであることが更に好ましい。
【0075】
イオン性液体や溶融塩は、カチオン(陽イオン)の種類でピリジン系、脂環族アミン系、脂肪族アミン系等に類別される。これに組み合わせるアニオン(陰イオン)の種類を選択することで、多様なイオン性液体又は溶融塩を合成できる。カチオンには、イミダゾリウム塩類・ピリジニウム塩類等のアンモニウム系、ホスホニウム系イオン、無機系イオン等、アニオンの採用例としては、臭化物イオンやトリフラート等のハロゲン系、テトラフェニルボレート等のホウ素系、ヘキサフルオロホスフェート等のリン系等がある。
【0076】
イオン性液体や溶融塩は、例えば、イミダゾリニウム等のカチオンと、Br、Cl、BF4-、PF6-、(CFSO、CFSO3-、FeCl4-等のアニオンと組み合わせて構成するような公知の合成方法で得ることができる。イオン性液体や溶融塩であれば、電解質を加えなくても電解液として機能することができる。
【0077】
固体電解質は、硫化物系、酸化物系、水素化物系、有機ポリマー系等に類別される。これらの多くはキャリアとなる塩と無機誘導体から構成される非晶質や結晶質である。電解液のように可燃性の非プロトン性有機溶媒を用いらなくてもよいため、ガスや液の印可、液漏れなどが起こりにくくなり、安全性に優れた二次電池なることが期待される。
【0078】
[製造方法]
(第1実施形態の製造方法)
次に、第1実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法について説明する。
【0079】
本実施形態に係る非水電解質二次電池用負極材料の製造方法では、先ず、シリコン系材料と骨格形成剤を含む骨格形成剤液とを接触させることが重要である。例えば、粒径1μmのシリコン系材料と骨格形成剤液を混合する。次いで、この混合液をスプレードライ法により乾燥後、分球することで負極材料を得る。ここで、骨格形成剤液が固体の骨格形成剤である場合は、得られる負極材料として、シリコン系材料と骨格形成剤との間に界面層が介在されにくい。このため、骨格形成剤は液体であることが好ましい。
【0080】
なお、負極材料の骨格形成剤に、導電助剤を含ませる場合は、上述した導電助剤をケイ酸塩水溶液に分散させたものを用いればよい。
【0081】
骨格形成剤を含む骨格形成剤液は、シロキサン結合を有するアルカリ金属ケイ酸塩を、乾式又は湿式により合成し、これを加水調整して製造することができる。このとき、界面活性剤を混合してもよい。乾式により合成する方法としては、例えば、アルカリ金属水酸化物を溶解した水に、SiOを加え、オートクレーブ中で150℃~250℃で処理することで、アルカリ金属ケイ酸塩を製造できる。湿式により合成する方法としては、例えば、アルカリ金属炭酸化合物とSiOとからなる混合体を1000℃~2000℃で焼成し、これを熱水に溶解させることで製造することができる。
【0082】
次いで、シリコン系材料の表面に骨格形成剤液を接触させ、シリコン系材料をコーティングする。シリコン系材料と骨格形成剤とを接触させる方法は、骨格形成剤液を貯留した槽にシリコン系材料を加えることにより可能である。骨格形成剤液は、シリコン系材料の表面と接触することでシリコン系材料の表面を覆う。そして、熱処理により乾燥させ、骨格形成剤を硬化させる。これにより、骨格形成剤がシリコン系材料の骨格を形成する。
【0083】
上記熱処理は、温度が高温になれば、熱処理時間が短くすることができることと、骨格形成剤の強度が向上することから、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、望ましくは110℃以上である。なお、熱処理の上限温度としては、シリコン系材料や骨格形成剤が反応や分解をしなければ特に限定されず、例えば、シリコンの融点である約1400℃まで上昇させてもよい。従来の造粒体であれば、造粒助剤が炭化することがあったため、上限温度は1400℃よりもはるかに低く見積もられていたが、本実施形態では造粒助剤として無機の骨格形成剤を用いることで、骨格形成剤が優れた耐熱性を示すことから、温度の上限は1400℃である。
【0084】
また、熱処理の時間は、0.5~100時間保持することによって行うことができる。熱処理の雰囲気は、大気中であってもかまわないが、シリコン系材料の酸化を防ぐため、非酸化雰囲気下で処理することが好ましい。
【0085】
このようにして得られた負極材料は、バインダとともに混合され、集電体上に塗工乾燥することで負極となる。また、本負極及び正極をそれぞれ所望のサイズに切断してからセパレータを介して接合し、電解液内に浸漬した状態で密閉化することにより、非水電解質二次電池を得ることができる。非水電解質二次電池の構造としては、積層式電池や捲回式電池等の既存の電池形態や構造に適用可能である。
【0086】
(第2実施形態の製造方法)
次に、第2実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。なお、負極と正極とでは、使用する集電体及び活物質が異なるのみで製造方法は同様である。従って、負極の製造方法についてのみ説明し、正極の製造方法については説明を省略する。
【0087】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極の製造方法では、先ず、銅箔に負極材料を塗布する。例えば、薄さ10μmの圧延銅箔を製造し、予めロール状に巻き取られた銅箔を準備する一方で、負極材料として、負極活物質のシリコン、バインダ、導電助剤等を混ぜ合わせてペースト状のスラリーを調製する。次いで、銅箔の表面にスラリー状の負極材料を塗工し、乾燥後、調圧処理することで負極の前駆体を得る。
【0088】
なお、上述のように負極の前駆体は、乾燥させることなくウエットな状態のままでもよい。また、上記スラリー塗工以外にも、例えば負極活物質(前駆体)を、化学めっき法やスパッタリング法、蒸着法、ガスデポジション法等を用いて、集電体上に負極活物質層を形成して一体化する方法等が挙げられる。ただし、骨格形成剤の親液性と電極製造コストの観点から、スラリー塗工法が好ましい。
【0089】
一方、骨格形成剤を含む骨格形成剤液を調製する。具体的には、シロキサン結合を有するアルカリ金属ケイ酸塩を、乾式又は湿式により精製し、これを加水調整して製造する。このとき、界面活性剤を混合してもよい。乾式による手法としては、例えば、アルカリ金属水酸化物を溶解した水に、SiOを加え、オートクレーブ中で150℃~250℃で処理することで、アルカリ金属ケイ酸塩を製造できる。湿式による手法としては、例えば、アルカリ金属炭酸化合物とSiOとからなる混合体を1000℃~2000℃で焼成し、これを熱水に溶解させることで製造することができる。
【0090】
次いで、負極の前駆体の表面に骨格形成剤液を塗工して、負極活物質をコーティングする。骨格形成剤の塗工方法は、骨格形成剤液を貯留した槽に負極の前駆体を含浸する方法の他、負極の前駆体の表面に骨格形成剤を滴下、塗布する方法、スプレー塗工、スクリーン印刷、カーテン法、スピンコート、グラビアコート、ダイコート等により可能である。負極の前駆体の表面に塗工された骨格形成剤は、負極内部に浸透し、負極活物質や導電助剤の隙間等に入り込む。そして、熱処理により乾燥させ、骨格形成剤を硬化させる。これにより、骨格形成剤が負極活物質層の骨格を形成する。
【0091】
上記熱処理は、温度が高温になれば、熱処理時間が短くすることができることと、骨格形成剤の強度が向上することから、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、望ましくは110℃以上である。なお、熱処理の上限温度としては、集電体が溶融しなければ特に限定されず、例えば、銅の融点である約1000℃まで上昇させてもよい。従来の電極であれば、バインダが炭化したり、集電体が軟化することがあったため、上限温度は1000℃よりもはるかに低く見積もられていたが、本実施形態では骨格形成剤を用いることで、骨格形成剤が優れた耐熱性を示し、集電体の強度よりも強固であることから、温度の上限は1000℃である。
【0092】
また、熱処理の時間は、0.5~100時間保持することによって行うことができる。熱処理の雰囲気は、大気中であってもかまわないが、集電体の酸化を防ぐため、非酸化雰囲気下で処理することが好ましい。
【0093】
最後に、得られた負極及び正極をそれぞれ所望のサイズに切断してからセパレータを介して接合し、電解液内に浸漬した状態で密閉化することにより、リチウムイオン二次電池を得ることができる。リチウムイオン二次電池の構造としては、積層式電池や捲回式電池等の既存の電池形態や構造に適用可能である。
【0094】
[効果]
第1実施形態および第2実施形態によれば、以下の効果が奏される。
第1実施形態および第2実施形態では、シリコン系材料で構成される負極活物質と、シロキサン結合を有するケイ酸塩を含む骨格形成剤と、負極活物質と骨格形成剤との界面に形成され、無機物で構成される界面層と、を備える非水電解質二次電池用負極材料及び当該負極材料を含む非水電解質二次電池用負極、並びに当該負極を備える非水電解質二次電池を提供した。
第1実施形態および第2実施形態によれば、シリコン系材料と骨格形成剤との界面に、両者を接合する無機物で構成された界面層を形成することにより、シリコン系材料と骨格形成剤との結合がより強固になる。そのため、充放電時におけるシリコン系材料の膨張収縮による剥がれや、集電体の皺や亀裂の発生を抑制できる。ひいては、高強度で耐熱性に優れ、従来に比して電池寿命を向上できる。
【0095】
また本実施形態では、骨格形成剤は、上記一般式(1)で表されるケイ酸塩を含み、界面層は、シリコン及びアルカリ金属を含む。第1実施形態および第2実施形態のようにシリコン系材料で負極活物質を構成し、上記一般式(1)で表されるケイ酸塩で骨格形成剤を構成することにより、負極活物質を構成するシリコン系材料と、骨格形成剤を構成するケイ酸塩とが融合して、例えば加水分解したケイ酸塩が加熱により脱水反応(シラノール基の縮合反応)することで、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成し、これが界面層を形成するものと推測される。そのため、界面層にはケイ酸塩の加水分解等により生成されるアルカリ金属が多く含まれるものと推測される。
【0096】
また特に第1実施形態および第2実施形態では、界面層の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合が、骨格形成剤の構成原子全体に対するアルカリ金属原子の割合よりも高く、具体的には3倍以上であることにより、上述の効果が高められる。さらに効果を高めるには、5倍以上であることがより好ましい。さらには、界面層の厚みが3~30nmであれば、上述の効果をさらに高められる。
【0097】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。例えば、非水電解質二次電池は、電解質に有機溶媒などの非水電解質を用いた二次電池(蓄電デバイス)であって、リチウムイオン二次電池の他、ナトリウムイオン二次電池やカリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池などが含まれる。また、リチウムイオン二次電池とは、水を主成分としない非水電解質の二次電池であり、且つ電気伝導を担うキャリアにリチウムイオンが含まれる電池を意味する。例えば、リチウムイオン二次電池、金属リチウム電池、リチウムポリマー電池、全固体リチウム電池、空気リチウムイオン電池などが該当する。また、その他の二次電池も同様である。ここで、水を主成分としない非水電解質とは、電解質中の主な成分が水ではないことを意味している。すなわち、非水電解質二次電池に用いられる公知の電解質である。この電解質は、多少の水を含んでも二次電池として機能しうるが、二次電池のサイクル特性や保存特性、入出力特性に悪影響を及ぼすため、可能な限り水を含有することのない電解質であることが望ましい。現実的には、電解質中の水は5000ppm以下であることが好ましい。
【実施例
【0098】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0099】
[実施例1~4、比較例1~6]
固形分比で、表1に示される各負極活物質を92質量%、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)を4質量%、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を4質量%含むスラリーをそれぞれ調製した。次いで、調製した各スラリーを、集電体としての銅箔に塗布し、乾燥後、調圧処理して各負極の前駆体を得た。
【0100】
一方、表1に示される各骨格形成剤と水を含む骨格形成剤液をそれぞれ調製した。調製した各骨格形成剤液中に、上記で得られた各負極の前駆体を浸漬させた。そして、浸漬後、表1に示される各熱処理温度で各負極の前駆体を加熱、乾燥することにより、各負極を得た。得られた各負極における骨格形成剤の質量比は、0.15~0.41mg/cmであった。
【0101】
負極の対極としては、リチウム金属箔(厚さ500μm)を用いた。また、セパレータとしてはガラス不織布を用い、電解質のヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を有機溶媒のエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジエチルカーボネート(DEC)に溶解させた電解液(1.1M LiPF/(EC:EMC:DEC=3:4:3vol.)を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0102】
【表1】
【0103】
[TEM観察、EDX測定]
各実施例及び比較例の負極に対して、TEM(透過型電子顕微鏡)による拡大観察を実施した。TEM観察は、約15nm角域について実施し、界面層の有無と界面層の厚みを調べた。また、TEM観察しながらEDX(エネルギー分散型X線分光法)による元素分析を行い、活物質、界面層及び骨格形成剤のそれぞれにおけるアルカリ金属原子の割合(構成原子全体に対する質量%)を、EDXスペクトルのピーク強度から求め、表1に示した。加えて、EDXによる元素マッピング測定も実施した。装置としては、FEI株式会社製の収差補正操作透過型電子顕微鏡「Titan3 G2 60-300」を用い、倍率1300k、加速電圧300kVで観察を実施した。試料加工は、PIPSを用い、各負極をMoリングで補強してミリングを実施した。加工時のイオンビームエネルギは5kV、仕上げ時のイオンビームエネルギは3kVとした。
【0104】
[サイクル寿命試験]
各実施例及び比較例の負極に対して、サイクル寿命試験を実施した。サイクル寿命試験は、試験環境温度を25℃、電流密度を0.2C-rate、カットオフ電位を0.01~1.5V(vs.Li+/Li)として実施した。結果を表1に示した。
【0105】
[考察]
図1は、実施例3に係る負極のTEM画像である。図2は、図1における負極活物質と骨格形成剤との界面の拡大図である。図1及び図2のTEM画像から、負極活物質と骨格形成剤との界面には、これら負極活物質と骨格形成剤とを接合する界面層が形成されていることが確認された。また、図2によれば、界面層の厚みは10nmであることが確認された。ここでは代表として実施例3に係る負極のTEM画像のみを示したが、他の全ての実施例においても同様の界面層が確認された。
【0106】
図3は、実施例1に係る負極のEDXスペクトル図である。図4は、実施例4に係る負極のEDXスペクトル図である。図5は、比較例4に係る負極のEDXスペクトル図である。図3図5では、EDX測定結果による酸素、シリコン及びカリウムのEDXスペクトルを示している。図中の領域Aが骨格形成剤、領域Cが負極活物質、領域Bが負極活物質と骨格形成剤との界面を示している。図3及び図4を見ると、負極活物質と骨格形成剤との界面を示す領域Bにおいて、カリウムの含有量が多く、シリコンも含有していることが分かった。これらの結果から、負極活物質を構成するシリコンと、骨格形成剤を構成するケイ酸のアルカリ金属塩とが融合して、例えば加水分解したケイ酸塩が加熱により脱水反応(シラノール基の縮合反応)することで、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成することにより、界面層が形成されているものと推測された。これに対して図5では、負極活物質と骨格形成剤との界面を示す領域Bにおいて、カリウム、ケイ素及び酸素いずれの含有量も検出下限以下であった。
【0107】
また、代表として実施例1に係る負極の活物質、界面層及び骨格形成剤それぞれにおけるアルカリ金属原子(カリウム)の割合を表2に示した。表2に示されるように、界面層における構成原子全体に対するカリウムの質量割合は1.7%であり、これは、骨格形成剤における構成原子全体に対するカリウムの質量割合0.1%よりも高く、その3倍以上であることが確認された。なお、TEM観察により界面層が確認された他の全ての実施例においても、表1に示されるように同様の傾向があることが確認された。
【0108】
【表2】
【0109】
図6は、実施例1に係る負極のEDXマッピング図である。図7は、比較例4に係る負極のEDXマッピング図である。図6及び図7では、各負極のTEM画像と、そのTEM画像に対応した視野域のEDXマッピング測定による酸素、シリコン及びカリウムの分布を示している。図6に示されるように、実施例1に係る負極では、負極活物質と骨格形成剤との界面にカリウムが多く存在していることが分かった。これに対して比較例4に係る負極では、カリウム元素は全体的に少なく、負極活物質と骨格形成剤との界面にもカリウムが多く存在していないことが分かった。従ってこの結果からも、本実施例では、負極活物質と骨格形成剤との界面にアルカリ金属であるカリウムを含む界面層が形成されていることが確認された。
【0110】
以上より、本実施例によれば、負極活物質と骨格形成剤との界面に、両者を接合する無機物、即ちアルカリ金属を骨格形成剤領域よりも多く含みシロキサン結合により負極活物質と骨格形成剤とを接合する界面層が形成されることにより、表1に示されるようにサイクル寿命試験において高い容量が得られ、電池寿命が向上していることが確認された。
【0111】
より詳しくは、表1から明らかであるように、界面層におけるアルカリ金属原子の割合が骨格形成剤におけるアルカリ金属原子の割合の3倍以上である実施例1~4によれば、界面層におけるアルカリ金属原子の割合が骨格形成剤におけるアルカリ金属原子の割合の3倍未満である比較例1~4と比べてサイクル寿命試験において高い容量が得られ、電池寿命が向上していることが確認された。特に、界面層におけるアルカリ金属原子の割合が骨格形成剤におけるアルカリ金属原子の割合の5倍以上である実施例1~3によれば、サイクル寿命試験においてより高い容量が得られ、電池寿命がより向上していることが確認された。なお、実施例3、4の結果から、骨格形成剤としてカリウムを含む場合に熱処理温度を高温(300℃)とするとサイクル寿命試験が悪くなることも分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7