(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】リチウム分離シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/64 20060101AFI20240802BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20240802BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240802BHJP
C02F 1/469 20230101ALI20240802BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20240802BHJP
C04B 35/634 20060101ALI20240802BHJP
C25B 1/14 20060101ALI20240802BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240802BHJP
【FI】
C04B35/64
B01D61/44 500
B01D71/02
C02F1/469
C04B35/50
C04B35/634 240
C25B1/14
H01M4/485
(21)【出願番号】P 2020060872
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】相川 規一
(72)【発明者】
【氏名】村上 和久
(72)【発明者】
【氏名】安武 裕太郎
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-102271(JP,A)
【文献】特開2012-201525(JP,A)
【文献】特開2017-131863(JP,A)
【文献】特開2001-247373(JP,A)
【文献】特開2003-327476(JP,A)
【文献】特開2004-010421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C01G 23/00
B01D 61/44
C02F 1/469
C25B 1/14
H01M 4/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料を粉砕混合した混合物を形成する第1工程と、
前記混合物をか焼することなく、前記混合物の成形物を成形する第2工程と、
セッター上に載置される前記成形物を焼成する第3工程と、
を備え、
前記第1工程では、前記ランタン原料、前記チタン原料、前記リチウム原料、バインダー及び溶媒を湿式混合することによって前記混合物を形成し、
前記第2工程では、湿式混合された前記混合物を塗工することによって前記成形物を成形し
、
前記セッターは、前記成形物が載置される載置面を有すると共に、アルミナの純度が99%以上のアルミナセッターであり、
前記第3工程にて、前記成形物は、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の第2混合物のか焼物である混合粉体が存在する前記載置面上に載置され、
前記第2混合物におけるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料は、前記混合物におけるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料とそれぞれ同一であり、
前記第2混合物におけるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の質量比は、前記混合物におけるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の質量比とそれぞれ同一もしくは実質的に同一である、
リチウム分離シートの製造方法。
【請求項2】
前記載置面の少なくとも一部は、前記混合粉体である、請求項1に記載のリチウム分離シートの製造方法。
【請求項3】
前記載置面上には、前記混合粉体が分散配置される、請求項1に記載のリチウム分離シートの製造方法。
【請求項4】
前記混合物において、前記チタン原料に対する前記ランタン原料のモル比は、0.6以上0.65以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム分離シートの製造方法。
【請求項5】
前記混合物において、前記チタン原料に対する前記リチウム原料のモル比は、0.15以上0.5以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム分離シートの製造方法。
【請求項6】
前記バインダーは、炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類、炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類、ヒドロキシアルキルアクリレート類、ヒドロキシアルキルメタクリレート類、アミノアルキルアクリレート類、アミノアルキルメタクリレート類及びカルボキシル基含有モノマーの中から少なくとも1種を重合又は共重合させることによって得られるアクリレート系及びメタクリレート系共重合体であって、前記共重合体の数平均分子量が20,000以上200,000以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム分離シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム分離シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム(Li)は、例えば、携帯機器、車両等の二次電池用の材料として広く利用されている。リチウムは、鉱石から採取する方法の他に、海水等の液体から回収する方法が挙げられる。後者の方法では、例えば、リチウムイオンの伝導が可能な焼結体によって形成されるシートが利用される。下記特許文献1には、固体電解質層として利用可能なリチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法が開示される。下記特許文献1では、材料となる混合粉体に対して、仮焼工程、粉砕工程、成形工程、及び焼結工程が順に実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体からリチウムを回収する方法を実用化するにあたっては、当該方法を実施するためのコスト低減が望まれる。
【0005】
本発明の一側面の目的は、コスト低減が可能なリチウム分離シートの製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、以下の[1]~[8]に示す発明を完成させた。
[1] ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料を粉砕混合した混合物を形成する第1工程と、
混合物をか焼することなく、混合物の成形物を成形する第2工程と、
セッター上に載置される成形物を焼成する第3工程と、
を備える、リチウム分離シートの製造方法。
[2]第1工程では、ランタン原料、チタン原料、リチウム原料、バインダー及び溶媒を湿式混合することによって混合物を形成し、
第2工程では、湿式混合された混合物を塗工することによって成形物を成形する、[1]に記載のリチウム分離シートの製造方法。
[3] セッターは、成形物が載置される載置面を有し、
載置面の少なくとも一部は、ランタン、チタン及びリチウムの少なくとも一つを含む無機酸化物を含む、[1]又は[2]に記載のリチウム分離シートの製造方法。
[4] 酸化物は、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の混合物のか焼物である、[3]に記載のリチウム分離シートの製造方法。
[5] セッターは、成形物が載置される載置面を有し、
第3工程にて、成形物は、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の混合粉体が分散配置される載置面上に載置される、[1]又は[2]に記載のリチウム分離シートの製造方法。
[6] 第3工程は、
1250℃以下にてセッター上に配置される成形物を仮焼成する第4工程と、
仮焼成後、第4工程よりも高い温度にて、セッターとは異なる第2セッターの載置面上に配置される成形物を焼成する第5工程と、を有し、
載置面の少なくとも一部は、ランタン、チタン及びリチウムの少なくとも一つを含む無機酸化物を含む、[1]又は[2]に記載のリチウム分離シートの製造方法。
[7] 第3工程は、
1250℃以下にてセッター上に配置される成形物を仮焼成する第4工程と、
仮焼成後、第4工程よりも高い温度にて、セッターとは異なる第2セッターの載置面上に配置される成形物を焼成する第5工程と、を有し、
第5工程では、成形物は、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の混合粉体が分散配置される載置面上に載置される、[1]又は[2]に記載のリチウム分離シートの製造方法。
[8] セッターは、アルミナセッターである、[3]~[7]のいずれか一項に記載のリチウム分離シートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、コスト低減が可能なリチウム分離シートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係るリチウム分離シートを示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、グリーンシートを示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、比較例1のインピーダンス測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の一側面に係る実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0010】
<リチウム分離シート>
図1は、本実施形態に係るリチウム分離シートを示す概略断面図である。
図1に示されるリチウム分離シート1は、例えば海水、塩湖かん水等からリチウムを回収するために用いられる多孔質の無機シートである。リチウム分離シート1は、液体に含まれるリチウム(もしくはリチウムイオン)を選択的に透過する機能を示す。シートの厚さ方向から見て、リチウム分離シート1は例えば矩形形状を呈するが、これに限られない。シートの耐久性及びリチウム伝導性の観点から、リチウム分離シート1の厚さは、例えば0.08mm以上2mm以下である。リチウム分離シート1は、固体電解質としても利用され得る。以下では、シートの厚さ方向から見ることは、平面視に相当する。
【0011】
リチウム分離シート1は、第1主面1a及び第2主面1bを有する。第1主面1aと第2主面1bとは、リチウム分離シート1の厚さ方向において互いに反対側に位置する面である。リチウムを効率よく透過させる観点から、第1主面1a及び第2主面1bの少なくとも一方には、リチウムイオンを吸着するLi吸着膜等が形成されてもよい。Li吸着膜は、リチウム分離シート1に含まれる元素の一部が水素に置換された表面処理膜である。Li吸着膜は、例えばリチウム分離シート1に対して塩酸、硝酸等を用いた酸処理を実施することによって形成される。
【0012】
リチウム分離シート1を構成する材料は、少なくともLiを含む結晶である。当該結晶は、例えばペロブスカイト結晶構造を有する。この場合、Liがリチウム分離シート1内を移動しやすくなる。リチウム分離シート1の周囲に位置する電解液中のLiイオンが、上記結晶中のLiサイト間を移動することによって、リチウム分離シート1のLiイオン伝導性が発揮される。このとき、例えばLiの水和物イオン等はLiサイトには入れないので、上記結晶内を伝導するのはLiイオン(Li+)である。
【0013】
本実施形態では、少なくともLiを含む結晶は、ランタン、チタン及びリチウムを含む複合酸化物の結晶である。より具体的には、当該結晶は、チタン酸リチウムランタン:(La2/3-xLi3xTiO3、0<x≦1/6もしくは0.05≦x≦0.166)(以下、LLTO)であるが、これに限られない。少なくともLiを含む結晶は、Li,Ti,Laとは異なる元素(例えば、Na、K、Ca、Ba、Si、Pb、Sr、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Y、Eu、Tb、Ce、Ag、Bi、Mg、Co、Ni、Cu、Cr、Fe、Ga、Gd、In、Sc、Ge、Hf、Mn、Pr、Sn、Tb、Zn、Zr、W、Ru、Nb、Ta、Al等)をさらに含んでもよい。
【0014】
以下では、リチウム分離シート1を用いたリチウムの分離方法の概要を説明する。まず、海水などのLiイオンを含む電解液を収容するための処理槽を準備する。続いて、リチウム分離シート1によって当該処理槽内を2つの領域に仕切る。このとき、第1主面1aが処理槽内の一方の領域を向き、且つ、第2主面1bが処理槽内の他方の領域を向くように、リチウム分離シート1を処理槽内に配置する。続いて、処理槽内の一方の領域に上記電解液を供給すると共に、処理槽内の他方の領域に回収用の電解液を供給する。続いて、リチウム分離シート1の第1主面1a上に設けられる正極と、第2主面1b上に設けられる負極とに対して、外部から電圧を印加する。このとき、Liイオンが負極に向かってリチウム分離シート1内を移動する。これにより、移動したLiイオンが回収用の電解液に選択的に蓄積される。そして、回収用の電解液からLiイオン(または、Li単体、Li化合物等)を取り出すことにより、海水等からLiを分離できる。
【0015】
<リチウム分離シートの製造方法>
第1の実施形態のリチウム分離シートの製造方法は、
ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料を粉砕混合した混合物を形成する第1工程と、
混合物をか焼することなく、混合物の成形物を成形する第2工程と、
セッター上に載置される成形物を焼成する第3工程と、
を備える。
【0016】
この製造方法によれば、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料を粉砕混合した混合物をか焼することなく、当該混合物の成形物を成形する。これにより、成形物の形成に要する工程を簡略化できる。したがって、本実施形態の製造方法は、従来の製造方法と比較してリチウム分離シートの特性を大きく変化させることなく、コスト低減を実現できる。
【0017】
以下、第1の実施形態のリチウム分離シートの製造方法について詳細に説明する。
【0018】
(混合物の形成)
まず、リチウム分離シートの主原料となる混合物を形成する(第1工程)。この工程では、ランタン(La)原料、チタン(Ti)原料及びリチウム(Li)原料を粉砕混合した混合物を形成する。以下では、ランタン(La)原料、チタン(Ti)原料及びリチウム(Li)原料を含む粉末を原料粉末とも呼称する。混合物には、当該原料粉末に加えて、例えば焼結助剤等が混合されてもよい。焼結助剤は、例えばホウ素等である。混合物には、ホウ素を含む複合酸化物が混合されてもよい。
【0019】
ランタン原料は、ランタンを主構成とする粉末であり、例えば酸化ランタン、炭酸ランタン、水酸化ランタン等である。ランタン原料は、単一材料を含んでもよいし、複数の材料を含んでもよい。例えば、ランタン原料は、酸化ランタンのみを含んでもよいし、酸化ランタンと炭酸ランタンとを含んでもよい。ランタン原料は、ランタンの含有量が最も大きい材料に相当する。このため、ランタン原料には、La以外の元素(例えば、Na、K、Ca、Ba、Si、Pb、Sr、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Y、Eu、Tb、Ce、Ag、Bi、Mg、Co、Ni、Cu、Cr、Fe、Ga、Gd、In、Sc、Ge、Hf、Mn、Pr、Sn、Tb、Zn、Zr、W、Ru、Nb、Ta、Al等)が含まれ得る。ランタン原料には、各種不純物が含まれ得る。例えば、ランタン原料は酸化ランタンのみに設定した場合であっても、当該ランタン原料には不純物が含まれ得る。本実施形態では、ランタン原料として、酸化ランタン(La2O3)が用いられる。
【0020】
チタン原料は、チタンを主構成とする粉末であり、チタン原料は、例えば酸化チタン、水酸化チタン、各種チタン酸塩等である。チタン原料は、単一材料を含んでもよいし、複数の材料を含んでもよい。例えば、チタン原料は、酸化チタンのみを含んでもよいし、酸化チタンと水酸化チタンとを含んでもよい。チタン原料は、チタンの含有量が最も大きい材料に相当する。このため、チタン原料には、ランタン原料と同様にTi以外の元素が含まれ得る。チタン原料には、各種不純物が含まれ得る。例えば、チタン原料は酸化チタンのみに設定した場合であっても、当該チタン原料には不純物が含まれ得る。コスト低減の観点から、チタン原料として酸化チタンが用いられてもよい。この場合、アナターゼ型の酸化チタン(TiO2)が用いられてもよいし、ルチル型の酸化チタン(TiO2)が用いられてもよい。本実施形態では、チタン原料として、アナターゼ型の酸化チタン(TiO2)が用いられる。
【0021】
リチウム原料は、リチウムを主構成とする粉末であり、例えば酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム等である。リチウム原料は、単一材料を含んでもよいし、複数の材料を含んでもよい。例えば、リチウム原料は、水酸化リチウムのみを含んでもよいし、水酸化リチウムと炭酸リチウムとを含んでもよい。リチウム原料は、リチウムの含有量が最も大きい材料に相当する。このため、リチウム原料には、ランタン原料及びチタン原料と同様にLi以外の元素が含まれ得る。リチウム原料は、リチウム原料には、各種不純物が含まれ得る。例えば、リチウム原料は水酸化リチウムのみに設定した場合であっても、当該リチウム原料には不純物が含まれ得る。本実施形態では、リチウム原料として、酸化リチウム(Li2O)が用いられる。
【0022】
不純物は、主構成元素以外の有機物もしくは無機物である。不純物は、例えば、Na、K、Ca、Ba、Pb、Sr、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Y、Eu、Tb、Ce、Ag、Bi、Mg、Co、Ni、Cu、Cr、Fe、Ga、Gd、In、Sc、Ge、Hf、Mn、Pr、Sn、Tb、Zn、Zr、W、Ru、Nb、Ta、Al、Yの少なくともいずれかを含む酸化物、塩化物、水酸化物等である。
【0023】
混合物において、チタン原料に対するランタン原料のモル比(すなわち、La原料/Ti原料)は、例えば0.6以上0.65以下であり、チタン原料に対するリチウム原料のモル比(すなわち、Li原料/Ti原料)は、例えば0.15以上0.5以下である。リチウム原料もしくはリチウム原料を含む混合物を高温で焼成するとき、リチウムの一部が蒸発することがある。このため、必要に応じて、混合物におけるリチウム原料のモル比は、上記範囲を超えた値でもよい。各原料の計量は、公知の方法にて実施する。
【0024】
計量された各原料は、公知の方法にて粉砕混合される。例えば、公知の混合粉砕機を用いることによって、各原料が粉砕混合されてもよい。混合粉砕機は、例えば、媒体流動型混合粉砕機(ボールミル、遊星ミルなど)、攪拌型混合粉砕機(塔式粉砕機、攪拌曹型ミル、流通管型ミルなど)、もしくは乳鉢(瑪瑙乳鉢、アルミナ乳鉢、らいかい機など)である。各原料は、湿式混合されてもよいし、乾式混合されてもよい。計量された各原料は、容器回転式混合機(水平円筒、傾斜円筒、V型など)、機械攪拌式混合機(リボン、スクリュー、ロッドなど)等の混合機にて各原料を混合した後、当該混合物が乳鉢等にて粉砕処理されてもよい。
【0025】
本実施形態では、計量されたランタン原料、チタン原料及びリチウム原料は、ボールミルにて湿式混合される。このとき、各原料を分散させるための溶媒が用いられる。加えて、湿式混合中にバインダーが少なくとも加えられた後、当該湿式混合が引き続き実施される。よって本実施形態では、ランタン原料、チタン原料、リチウム原料、バインダー及び溶媒を湿式混合することによって混合物を形成する。これにより、各原料の粉砕混合物を含むスラリー(原料スラリー)が形成される。この原料スラリーには、例えば脱泡処理等が実施される。上記湿式混合中には、原料粉末、溶媒及びバインダーとは異なる材料が加えられてもよい。なお、本実施形態では、原料粉末に対して溶媒とバインダーとが順に加えられるが、これに限られない。原料粉末に対して溶媒及びバインダー等は、同一のタイミングで加えられてもよい。上記湿式混合は、例えば、混合物に含まれる全ての材料が混合されるまで実施される。
【0026】
バインダーの種類には、特に制限がない。バインダーは、例えば、従来のセラミックシートの製造方法で公知となっている有機バインダー及び無機バインダーの中から適宜選択される。
【0027】
有機バインダーとしては、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ビニルアルコール系樹脂、エチルセルロース等のセルロース類及びワックス類等が例示される。これらの中でもグリーンシートの成形性及び/又は強度、特に量産のために大量焼成するときの熱分解性などの点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等の炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等の炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレート又はヒドロキシアルキルメタクリレート類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレート又はアミノアルキルメタクリレート類;アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレート等のマレイン酸半エステル等のカルボキシル基含有モノマー等の中から少なくとも1種を重合又は共重合させることによって得られるアクリレート系及びメタクリレート系共重合体が好ましい。有機バインダーに含まれる共重合体もしくは樹脂の数平均分子量は、20,000以上200,000以下でもよく、50,000以上100,000以下でもよい。数平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いることによって測定される。これらの有機バインダーは、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。特に好ましいのは、イソブチルメタクリレート及び/又は2-エチルヘキシルメタクリレートを60質量%以上含むモノマーの共重合体である。
【0028】
無機バインダーとしては、例えば、ジルコニアゾル、シリカゾル、アルミナゾル及びチタニアゾル等から選択される少なくともいずれか1種を使用することができる。
【0029】
原料スラリーにおける原料粉末とバインダーとの質量比は、特には限定されない。原料粉末100質量部に対して、例えばバインダーは5質量部以上30質量部以下でもよく、10質量部以上20質量部以下でもよい。原料スラリーにおけるバインダーの含有量は、製造されるリチウム分離シートに要求される強度及び柔軟性等の性能に応じて選択される。
【0030】
原料スラリーに用いられる溶媒の種類には、特に制限がない。例えば、従来のセラミックシートの製造方法で公知となっている溶媒の中から適宜選択される。例えば、水;エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、等の中から適宜選択した溶媒を、単独で使用してもよいし、2種以上を適宜混合して使用してもよい。溶媒の使用量は、原料スラリーの粘度を考慮して調節される。本実施形態では、溶媒としてトルエンと酢酸エチルとの混合溶媒が用いられる。
【0031】
原料スラリーには、必要に応じて、分散剤、可塑剤、潤滑剤、界面活性剤及び/又は消泡剤等が添加されてもよい。例えば分散剤は、セラミック原料粉末の解膠及び/又は分散を促進するために添加される。分散剤としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質;クエン酸、酒石酸等の有機酸;イソブチレン又はスチレンと無水マレイン酸との共重合体及びそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体及びそのアンモニウム塩、等が例示される。例えば可塑剤は、グリーンシートに柔軟性を付与するために添加される。可塑剤としては、フタル酸ジブチル(ジブチルフタレート)、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類;フタル酸ポリエステル類;プロピレングリコール等のグリコール類;グリコールエーテル類、等が例示される。
【0032】
(成形物の成形)
続いて、得られた混合物をか焼することなく、上記第1工程に続いて、当該混合物の成形物(グリーンシート)を成形する(第2工程)。この工程では、まず、基材フィルムの一方の面に、湿式混合された混合物である原料スラリーを塗工する。例えば、ブレードコート法、ドクターブレード法、ダイコーター若しくはリップコーター等を用いたロールコート法などによって、原料スラリーが塗工される。続いて、塗工された原料スラリーを乾燥及び剥離する。例えば、100℃、1時間の条件にて原料スラリーを乾燥する。乾燥した原料スラリーを剥離する前、例えばトムソン刃等を用いて余剰部分を除去してもよい。以上により、成形物であるグリーンシートを形成する。
【0033】
図2は、グリーンシートを示す概略断面図である。グリーンシート10は、平面視にて略矩形状を呈する板状部材である。グリーンシート10は、第1主面10a及び第2主面10bを有する。第1主面10aと第2主面10bとは、グリーンシート10の厚さ方向において互いに反対側に位置する面である。第1主面10aは、グリーンシート10が基材フィルムから剥離する前、基材フィルムに接していた接触面である。第1主面10aは、基材フィルムの表面に沿った表面形状を有する。第2主面10bは、グリーンシート10が基材フィルムから剥離する前、基材フィルムから露出していた露出面である。第2主面10bには、原料粉末に起因した凹凸が形成されることがある。このため、グリーンシート10の成形時において、第1主面10aの表面粗さは、第2主面10bの表面粗さよりも小さい傾向にある。
【0034】
基材フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムである。基材フィルムとして長尺のものを用いることによって、長尺のグリーンシートを形成できる。グリーンシートのサイズ及び厚さは、例えば、焼成されたシートのサイズ及び厚さと、焼成による収縮率とを考慮して決定され得る。
【0035】
(成形物の焼成)
続いて、成形物を焼成する(第3工程)。この工程では、まず、グリーンシート10をセッターの載置面上に載置する。このとき、第1主面10aが露出するようにグリーンシート10をセッターに載置するが、これに限られない。第2主面10bが露出するようにグリーンシート10をセッターに載置してもよい。続いて、セッター上に載置されるグリーンシート10を焼成する。例えば、電気炉等の公知の手法を用いて1100℃以上1500℃以下にてグリーンシート10を焼成する。ここで、電気炉によるグリーンシートの焼成は、グリーンシートが焼成された電気炉を所定温度に所定時間保持することに相当する。グリーンシート10は、例えば空気雰囲気下もしくは低酸素濃度雰囲気下で10分以上6時間以下焼成される。これにより、バインダー、溶媒等の有機成分が除去され、ランタン、リチウム及びチタンを含む酸化物から構成される複合酸化物のシート(リチウム分離シート)が形成される。そして、当該シートをセッターから剥離させることによって、リチウム分離シート1を得る。本実施形態では、複合酸化物は、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料をか焼して得られるLLTO相当のペロブスカイト結晶構造を有する。
【0036】
図3は、セッターの平面図である。セッター20は、グリーンシート10を支持する耐熱部材であり、例えば酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、酸化ケイ素(シリカ)等、もしくはこれらの複合酸化物から構成される。コスト及び耐久性等の観点から、セッター20は、アルミナを含むアルミナ質セッターでもよい。この場合、セッター20におけるアルミナの純度は、例えば99%以上である。セッター20の気孔率は、例えば20%以下である。
【0037】
リチウム分離シートをセッター20から良好に剥離する観点から、セッター20の載置面20aの少なくとも一部は、ランタン、チタン及びリチウムの少なくとも一つを含む酸化物を有する。当該酸化物は、例えば、ランタン酸化物、チタン酸化物、リチウム酸化物、ランタン-チタン酸化物、ランタン-リチウム酸化物、チタン-リチウム酸化物、もしくはランタン-チタン-リチウム酸化物である。セッター20がアルミナセッターである場合、上記酸化物は、例えばランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の少なくとも一つを含む粉末が、載置面20aに焼き付けられることによって形成される。具体的には、載置面20aに上記粉末が配置されたセッター20を加熱することによって、当該粉末が載置面20aの一部となる。上記粉末の載置面20aへの配置は、例えばふるい、刷毛等を用いて実施される。
【0038】
本実施形態では、載置面20aの少なくとも一部である酸化物は、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の混合物のか焼物である。当該混合物に含まれるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料のそれぞれは、リチウム分離シートの原料粉末に含まれるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料のそれぞれと同一物である。上記混合物は、例えば、公知の方法にて粉砕混合される。上記酸化物は、例えば、1000℃以上1300℃以下にて上記混合物をか焼することによって得られる。上記酸化物は、ペロブスカイト結晶構造を有することが好ましい。上記混合物におけるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の質量比は、リチウム分離シートの原料粉末に含まれるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の質量比と同一もしくは実質的に同一である。このため、載置面20aの少なくとも一部は、原料粉末のとも材によって形成される。なお、上記混合物におけるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の質量比は、リチウム分離シートの原料粉末に含まれるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の質量比と異なってもよい。
【0039】
次に、本実施形態に係る製造方法によって製造されるリチウム分離シート1の作用効果について、以下にて説明する参照例に係る製造方法と比較しながら説明する。参照例に係る製造方法では、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料を乾式混合して混合粉体を形成した後、当該混合粉体をか焼する。例えば、当該混合粉体を1100℃以上にて1時間以上か焼する。これにより、ペロブスカイト結晶構造を有するLLTOを含むか焼粉が得られる。ここで、か焼粉の形成時において、各原料同士が焼結する。このため、か焼粉の平均粒径は、混合粉体の平均粒径よりも顕著に大きくなる。よって参照例においては、か焼粉に対して粉砕処理を実施する。例えば、か焼粉とバインダーと溶媒とを用いた湿式混合を実施することによって、原料スラリーを形成する。そして参照例では、この原料スラリーの成形物(グリーンシート)を焼成することによって、リチウム分離シートを製造する。
【0040】
このような参照例においては、成形物を成形するために、2回の粉砕混合処理と、1回のか焼処理とが実施される。これに対して、本実施形態に係る上記製造方法によれば、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料を粉砕混合した混合物をか焼処理することなく、当該混合物の成形物であるグリーンシート10を成形する。すなわち本実施形態では、上記か焼処理が実施されないので、か焼物に対する粉砕混合処理も実施されない。これにより、成形物の形成に要する工程を簡略化できる。加えて、本実施形態においては、成形物を焼成するとき、ペロブスカイト結晶構造を有するLLTOから構成されるリチウム分離シート1が形成される。したがって、本実施形態に係る製造方法は、参照例に係る製造方法と比較して、リチウム分離シート1の特性を大きく変化させることなく、コスト低減を実現できる。
【0041】
本実施形態では、上記第1工程では、ランタン原料、チタン原料、リチウム原料、バインダー及び溶媒を湿式混合することによって混合物を形成する。この場合、1度の湿式混合にてスラリー状の混合物を形成できるので、成形物の形成に要する工程をさらに簡略化できる。加えて、スラリー状の混合物を用いて成形物を形成することによって、リチウム分離シート1の第1主面1a及び第2主面1bの表面が、粗くなりにくい。このため、第1主面1a及び第2主面1bに対して研磨処理を実施することなく、リチウム分離シート1を用いることができる。したがって、リチウム分離シート1の製造コストをさらに低減できる。
【0042】
本実施形態では、セッター20は、成形物が載置される載置面20aを有し、載置面20aの少なくとも一部は、ランタン、チタン及びリチウムの少なくとも一つを含む酸化物を有する。この場合、焼成後のリチウム分離シート1が載置面20aから剥離されやすくなる。
【0043】
本実施形態では、酸化物は、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の混合物のか焼物でもよい。この場合、焼成後のリチウム分離シート1が載置面20aからさらに剥離されやすくなる。
【0044】
次に、上記実施形態の各変形例について説明する。以下の各変形例において、上記実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、上記実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0045】
第1変形例では、上記実施形態と比較して、成形物を焼成する工程(第3工程)が異なる。第1変形例の第3工程では、まず、セッターの載置面上に成形物であるグリーンシート10を載置する。このセッター(第1セッター)は、例えばアルミナ質セッターである。この場合、当該セッターの載置面は、例えばアルミナを主成分とする。例えば、当該載置面には、ランタン、チタン及びリチウムの少なくとも一つを含む酸化物が実質的に存在しない。続いて、グリーンシート10を仮焼成する(第4工程)。この工程では、電気炉等の公知の手法を用いて1000℃以上1250℃以下にてグリーンシート10を仮焼成する。この場合、仮焼成後のシートがセッターに融着することを良好に抑制できる。グリーンシート10は、例えば空気雰囲気下もしくは低酸素濃度雰囲気下で10分以上6時間以下仮焼成される。これにより、仮焼成後の成形物が形成される。
【0046】
続いて、上記第4工程にて用いたセッターとは異なるセッター(第2セッター)の載置面上に、仮焼成後の成形物を載置する。このセッターは、上記実施形態と同様のセッターである。このため、当該セッターの載置面の少なくとも一部は、ランタン、チタン及びリチウムの少なくとも一つを含む酸化物を有する。そして、仮焼成後の成形物を、上記第4工程よりも高い温度にて焼成する(第5工程)。この工程では、電気炉等の公知の手法を用いて1300℃以上1500℃以下にて、仮焼成後の成形物を焼成する。仮焼成後の成形物は、例えば空気雰囲気下もしくは低酸素濃度雰囲気下で10分以上6時間以下焼成される。以上の工程を経て、リチウム分離シート1が得られる。
【0047】
上記第1変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、上記第1変形例では、第3工程中に成形物が破損しにくくなるので、リチウム分離シート1の収率を向上できる。
【0048】
第2変形例では、上記実施形態と比較して、セッターが異なる。第2変形例に係るセッターは、例えば上記第1変形例の第4工程にて用いられるアルミナセッターである。このセッターの載置面には、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の混合粉体が分散配置される。第2変形例では、載置面上に分散配置される混合粉体は、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の混合物のか焼物である。当該混合物に含まれるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料のそれぞれは、リチウム分離シートの原料粉末に含まれるランタン原料、チタン原料及びリチウム原料のそれぞれと同一物である。このため、載置面上には、原料粉末のとも材が分散配置される。か焼物は、例えば混合粉砕機を用いて乾式混合された粉体であり、ふるい、刷毛等を用いて載置面上に配置される。そして上記第3工程にて、まず、成形物は、上記混合粉体が分散配置される載置面上に載置される。続いて、上記実施形態と同様に成形物を焼成することによって、リチウム分離シート1が得られる。
【0049】
上記第2変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、リチウム分離シート1がセッターから剥離しやすくなる。さらには、上記混合粉体の一部がリチウム分離シート1に溶着した場合であっても、リチウム分離シート1の性能が変化しにくい。
【0050】
以上の実施形態及び各変形例は、本発明の一側面を説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態及び上記変形例に限定されることなく変形され得る。また、上記実施形態及び上記変形例は、適宜組み合わされてもよい。例えば、上記第1変形例と上記第2変形例とは、互いに組み合わされてもよい。この場合、例えば第4工程及び第5工程の少なくとも一方にて、ランタン原料、チタン原料及びリチウム原料の混合粉体が分散配置されるセッターの載置面に仮焼成後の成形物を載置してもよい。この場合もまた、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0051】
上記実施形態及び上記変形例では、乾燥した原料スラリーを剥離する前、余剰部分を除去するが、これに限られない。例えば、原料スラリーは、基材フィルムの一方の面上に配置される型枠内に塗工されてもよい。この場合、余剰部分を除去することなく成形物を形成できる。
【0052】
上記実施形態及び上記変形例では、湿式混合にて原料スラリーを形成しているが、これに限られない。例えば、各原料粉末を乾式混合したものをタブレット成形してもよい。この場合もまた、上記原料粉末をか焼することなく、リチウム分離シートを製造できる。なお、当該リチウム分離シートの各主面には、研磨処理がなされることが好ましい。
【0053】
上記実施形態では、セッターの載置面の少なくとも一部は、ランタン、チタン及びリチウムの少なくとも一つを含む酸化物を有するが、これに限られない。例えば、セッターがアルミナセッターである場合、当該セッターの載置面はアルミナのみから形成されてもよい。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
(グリーンシート)
原料粉末として、酸化ランタン(関東化学株式会社製)、アナターゼ型酸化チタン(関東化学株式会社製)、炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を準備した。酸化ランタンは、アルミナ製の匣鉢に入れた後、700℃で1時間加熱及び乾燥させたものを用いた。続いて、酸化ランタン50.4質量部、酸化チタン43.6質量部、並びに、炭酸リチウム6.0質量部とした合計100質量部の混合粉末を、ジルコニアボールが装入されたナイロンミルに入れた。ここで、上記混合粉末だけでなく、分散剤と溶剤との混合液50質量部を、上記ナイロンミルに入れた。混合液において、分散剤は市販のポリカルボン酸エステル型高分子分散剤3質量部とし、溶剤はトルエン及び酢酸エチルの混合溶媒(溶剤トルエンの質量:酢酸エチルの質量=1:1)とした。続いて、混合粉末と混合液とを20時間ミリングした。続いて、上記ナイロンミルに対して、メタクリル系共重合体からなるバインダー(株式会社日本触媒製、数平均分子量;100,000、ガラス転移温度;0℃)と可塑剤(ジブチルフタレート)を追加した。ここでは、バインダーを固形分換算で16質量部、可塑剤を3質量部追加した。続いて、20時間さらにミリングすることによって、スラリーを調製した。
【0056】
次に、調整したスラリーを、碇型の攪拌機が装着されたジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移した。続いて、30rpmにて攪拌機を回転させながら、減圧雰囲気、ジャケット温度:40℃の条件下にてスラリーを濃縮脱泡した。これにより、25℃での粘度を3Pa・sに調整した原料スラリーを形成した。
【0057】
次に、塗工装置を用いて、原料スラリーを基材フィルムであるPETフィルム上に連続的に塗工した。このとき、ドクターブレード法にて原料スラリーを塗工した。続いて、同一の塗工装置内で、塗工した原料スラリーを100℃にて1時間乾燥した。これにより、厚さ約0.32mm、平面視にて長尺のシートを得た。このシートを基材フィルムから剥離した後、トムソン刃により、平面視にて直径約100mmの円形状を呈するグリーンシートを得た。以下、グリーンシートに含まれ、基材フィルムであるPETフィルムに接していた面を「PET面」とする。また、グリーンシートに含まれ、且つ、シートの厚さ方向においてPET面と反対側の面を「Air面」と記載することがある。
【0058】
(セッター)
まず、上記グリーンシートの作製で用いた原料粉末と同一の混合粉末を準備した。続いて、当該混合粉末を、ジルコニアボールが装入されたナイロンミルに収容した。続いて、20時間乾式混合することにより、混合粉体を得た。続いて、当該混合粉体をアルミナ製の匣鉢に収容した後、当該匣鉢を高温箱型電気炉に収容した。続いて、当該電気炉を1350℃まで昇温して2時間保持した。これにより、匣鉢に収容される混合粉体をか焼した。か焼された混合粉末を乳鉢で粉砕した後、目開き500μmの金網でふるった。そして、当該金網を通過した粉を回収した。
【0059】
次に、金網にてふるいにかけた粉を、アルミナ製のセッター(株式会社ヨータイ製、アルミナ約99%、気孔率:16.9%、嵩比重3.2)の載置面上に配置した。このとき、上記粉は、刷毛を用いて、載置面上にて薄く均一になるように広げられた。続いて、粉が敷かれたセッターを高温箱型電気炉に収容し、当該電気炉を1350℃まで昇温して2時間保持した。これにより、上記原料粉末と同一の混合粉末をセッターの載置面に焼き付けた。セッターの冷却後、上記粉の全量が焼き付いていた。すなわち、セッターの冷却後、上記粉の脱落はみられなかった。
【0060】
(リチウム分離シート)
まず、上記グリーンシートを上記セッターの載置面上に載置した。このとき、Air面が載置面に接触するように、グリーンシートをセッター上に載置した。次に、高温箱型電気炉にセッター及びグリーンシートを収容し、当該電気炉を1350℃まで昇温して1時間保持した。これにより、直径約60mm、厚さ約0.24mmのランタン、リチウム、チタンの酸化物から構成されるペロブスカイト系の複合酸化物シート(リチウム分離シート)を得た。
【0061】
<比較例1>
まず、酸化ランタン50.4質量部、酸化チタン43.6質量部、並びに、炭酸リチウム6.0質量部とした合計100質量部の混合粉末を、アルミナ製の匣鉢に収容した。続いて、当該匣鉢を高温箱型電気炉に収容し、当該電気炉を1153℃まで昇温して3時間保持した。続いて、匣鉢から取り出したか焼物を、ジルコニアボールが装入されたナイロンミルに収容した。続いて、か焼物を20時間乾式粉砕処理することにより、か焼後の混合粉体を得た。この混合粉体に対してX線回折装置(X線源:CuKα線、スペクトリス株式会社製)を用いて、X線回折パターンを測定した。これにより、か焼後の混合粉体のX線回折パターンは、ペロブスカイト結晶構造を有するLa0.565Li0.305TiO3もしくはLa0.557Li0.33TiO3のX線回折パターンにほぼ同定できた。
【0062】
続いて、か焼後の混合粉体100質量部と、分散剤と溶剤との混合液50質量部とを、ジルコニアボールが装入されたナイロンミルに収容した。分散剤と溶剤とは、実施例1と同一物とした。続いて、混合粉末と混合液とを20時間ミリングした。続いて、上記ナイロンミルに対して、メタクリル系共重合体からなるバインダー(株式会社日本触媒製、数平均分子量;100,000、ガラス転移温度;0℃)と可塑剤(ジブチルフタレート)を追加した。実施例1と同様に、バインダーを固形分換算で16質量部、可塑剤を3質量部追加した。続いて、20時間さらにミリングすることによって、スラリーを調製した。当該スラリーを用いて、上記実施例1と同様の手法を実施することによって、リチウム分離シートを得た。
【0063】
[評価方法]
実施例及び比較例において、リチウム分離シートの組成分析、及びリチウム分離シートのLiイオン伝導度を、以下の方法にて評価した。
【0064】
(組成分析)
実施例及び比較例のそれぞれに対して、ICP分析法(誘導結合プラズマ分析法)により、組成分析を実施した。その際、まず、試料0.05gを、硫酸15mL、硫酸アンモニウム5gの混合液に入れた。続いて、当該混合液をマイクロウェーブで加熱することによって試料を溶解した後、100mLにメスアップした溶液をICP分析用の検液とした。実施例1において、チタンに対するリチウムのモル比は約0.23であり、チタンに対するランタンのモル比は約0.60であった。比較例1において、チタンに対するリチウムのモル比は約0.23であり、チタンに対するランタンのモル比は約0.58であった。このことから、混合粉末のか焼の有無によって、リチウム分離シートにおけるリチウム、チタン及びランタンの組成比は変化しない、もしくはほぼ変化しないことが示された。
【0065】
(Liイオン伝導性)
実施例及び比較例のそれぞれに対して、リチウム分離シートと、10mm×10mmの大きさに切り取った2枚のろ紙とを準備した。なお、準備したリチウム分離シートには、表面研磨加工はなされていない。次に、1Mの塩化リチウム水溶液を2枚のろ紙のそれぞれに染み込ませた後、当該2枚のろ紙にてリチウム分離シートを挟んだ。次に、一方のろ紙における露出面と、他方のろ紙における露出面とのそれぞれに対して、正極もしくは負極として機能するステンレスメッシュを接触させた。次に、インピーダンスアナライザー(Solartron Analytical製)を用いて、測定周波数を5Hz以上20MHz以下、測定温度:27℃の条件下にて、コール・コールプロットを測定した。測定データから、リチウム分離シートのリチウムイオン伝導度を算出した。
【0066】
図4は、比較例1のインピーダンス測定結果である。
図4において、横軸はインピーダンスの抵抗的成分Z’を示し、縦軸はインピーダンスの容量的部分Z’’を示す。
図4より、測定周波数が1MHzにおけるデータを、リチウム分離シートのバルクインピーダンスとした。このバルクインピーダンスの測定結果と、ステンレスメッシュ等の抵抗値と、ろ紙の面積と、電極間距離とから、リチウム分離シートのLiイオン伝導度を求めた。比較例1の算出結果は、約8×10
-4[S/cm]だった。ここでは、電極間距離は、リチウム分離シートの厚さとみなしている。
【0067】
実施例1に対しても同様にLiイオン伝導度を求めたところ、実施例1の算出結果は、約8×10-4[S/cm]だった。このことから、混合粉末のか焼の有無によって、リチウム分離シートのLiイオン伝導度が変化しない、もしくはほぼ変化しないことが示された。
【符号の説明】
【0068】
1…リチウム分離シート、1a,10a…第1主面、1b,10b…第2主面、10…グリーンシート、20…セッター、20a…載置面。