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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】没食子酸合成酵素
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/42 20060101AFI20240802BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20240802BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20240802BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
C12P7/42 ZNA
C12N9/02
C12N15/53
C12N1/21
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020094648
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021185830
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】壺井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史員
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-213392(JP,A)
【文献】WP_040354425, 4-hydroxybenzoate 3-monooxygenase [Corynebacterium ammoniagenes]. [online],2019年,検索日2021.07.02, インターネット<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/WP_040354425.1/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00-9/99
C12P 7/00-7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドにより、プロトカテク酸を没食子酸に変換することを含む、没食子酸の製造方法。
【請求項2】
配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、プロトカテク酸を没食子酸へと変換する機能を有するポリペプチドにより、プロトカテク酸を没食子酸に変換することを含む、没食子酸の製造方法であって、
該ポリペプチドは、配列番号2の208位に相当する位置にVal、及び397位に相当する位置にPheを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列からなる酵素と比べてプロトカテク酸を没食子酸へと変換する活性が高い、
方法。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
プロトカテク酸を含有する培地で、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する形質転換体を培養することを含む、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する形質転換体を培養することを含み、該形質転換体がプロトカテク酸の産生能を有する、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記形質転換体が、前記ポリヌクレオチドを含有するベクター、又は前記ポリヌクレオチドを含有するDNA発現カセットを含有する、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記形質転換体がエシェリヒア属又はコリネバクテリウム属に属する細菌である、請求項4~6のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、没食子酸合成酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)は、還元力が強く、還元剤、写真の現像剤に用いられている。また、鉄塩の形成により着色する性質があるためインクの製造等にも用いられている。さらに、没食子酸からは没食子酸エステル等の数多くの誘導体が得られ、それらは食品分野、電子材料分野等の様々な分野において広く用いられている。
【0003】
微生物を利用して、芳香族カルボン酸やグルコース等の安価な原料から没食子酸を製造する方法が報告されている。特許文献1、2には、プロトカテク酸を没食子酸へと変換する酵素として、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032株由来の、プロトカテク酸の5位を酸化する酵素活性を有する酵素が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-065839号公報
【文献】特開2009-213392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な没食子酸合成酵素を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、配列番号2のアミノ酸配列又は当該配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、プロトカテク酸を没食子酸へと変換する機能を有するポリペプチドを提供する。
また本発明は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
また本発明は、前記ポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。
また本発明は、前記ポリヌクレオチド又はベクターを含有する形質転換体を提供する。
また本発明は、前記ポリペプチドによりプロトカテク酸を没食子酸に変換することを含む、没食子酸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリペプチドは、プロトカテク酸を没食子酸に変換する機能を有する、高活性な没食子酸合成酵素である。本発明は、生化学的な没食子酸の製造に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0009】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETY Ver.12のホモロジー解析プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0010】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上、さらに好ましくは99.7%以上の同一性をいう。
【0011】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」又は「相当する領域」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号2のアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。また、相当する位置により挟まれた領域、または相当するモチーフからなる領域は、相当する領域とみなされる。
【0012】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリシン;グルタミン酸とアスパラギン酸;セリンとトレオニン;グルタミンとアスパラギン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0014】
本明細書において、プロモーター等の制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0015】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3'側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5'側の領域を意味する。
【0016】
本明細書において、「没食子酸合成酵素」とは、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)の合成反応を触媒する酵素をいう。没食子酸合成酵素の例としては、プロトカテク酸を没食子酸に変換する機能を有する酵素が挙げられ、より詳細な例としては、プロトカテク酸の5位を酸化して没食子酸に変換する反応を触媒する酵素が挙げられる。
【0017】
本発明は、没食子酸合成酵素として機能するポリペプチドを提供する。一実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列又は当該配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。本発明のポリペプチドは、プロトカテク酸を没食子酸へと変換する機能を有する。より詳細には、本発明のポリペプチドは、プロトカテク酸の5位を酸化することで、プロトカテク酸を没食子酸に変換する機能を有する。
【0018】
本発明のポリペプチドは、通常の化学合成法又は遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号2のアミノ酸配列に基づいて、本発明のポリペプチドを化学合成することができる。ペプチドの化学合成には、例えば、GenScript社等から提供される市販のペプチド合成サービスを利用することができる。あるいは、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)由来の4-ヒドロキシ安息香酸-3-モノオキシゲナーゼ(NCBI:WP_040354425.1)のアミノ酸配列に変異導入することで取得することができる。例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来の4-ヒドロキシ安息香酸-3-モノオキシゲナーゼ(WP_040354425.1)をコードする遺伝子に変異導入して本発明のポリペプチドをコードする遺伝子(例えば、配列番号6のポリヌクレオチド)を作製し、得られた遺伝子から配列番号2のアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドを発現させることができる。
【0019】
配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドに突然変異を導入することによって製造することができる。ポリペプチドのアミノ酸残基を変異させる手段としては、当技術分野で公知の各種変異導入技術を使用することができる。例えば、配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子(例えば、配列番号6のポリヌクレオチド)において、変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させ、さらにその変異遺伝子を発現させることにより、目的の変異ポリペプチドを得ることができる。あるいは、目的とする変異ポリペプチドのアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列を化学合成し、これを発現させることで目的の変異ポリペプチドを得ることができる。好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドは、配列番号2の208位に相当する位置にVal及び397位に相当する位置にPheを有する。
【0020】
遺伝子への目的の変異の導入は、基本的には、当業者に周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法などの任意の手法により行うことができる。市販の部位特異的変異導入用キット(例えば、Stratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等)を使用することもできる。
【0021】
遺伝子への部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異用プライマーを用いて行うことができる。該変異用プライマーは、標的遺伝子における変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有するヌクレオチド配列を含むように設計すればよい。変異前及び変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。あるいは、部位特異的変異導入は、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つのプライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Gene,1989,77(1):p61-68)により1つに連結する方法を用いることもできる。
【0022】
標的遺伝子を含む鋳型DNAは、コリネバクテリウム・アンモニアゲネスから、常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。あるいは、目的とするポリペプチドのアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列を化学合成し、鋳型DNAとして用いてもよい。
【0023】
変異用プライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids R4esearch,1989,17:7059-7071)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて実施することもできる。該変異用プライマーを含むプライマーセットを使用し、上記の標的遺伝子を鋳型DNAとして上述のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0024】
したがって、本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖又は2本鎖のDNA、cDNA、RNAもしくは他の人工核酸を含み得る。該DNA、cDNA及びRNAは、化学合成されていてもよい。また本発明のポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレーム(ORF)に加えて、非翻訳領域(UTR)のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。また本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチド産生用の形質転換体の種にあわせて、コドン至適化されていてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの例としては、配列番号6のヌクレオチド配列又は当該配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0025】
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するDNA断片を提供する。好ましくは、該DNA断片は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、その上流に作動可能に連結された制御領域とを含む。該DNA断片に含まれる制御領域は、好ましくはプロモーターを含み、さらに該プロモーターの転写活性を向上させるシスエレメント、ターミネーターなどを含んでいてもよい。さらに、該DNA断片は、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性マーカー遺伝子等の選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。好ましくは、該DNA断片は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現させるためのDNA発現カセットである。
【0026】
該DNA断片は、両末端に制限酵素認識配列を有することができる。該制限酵素認識配列を使用して、該DNA断片をベクターに導入することができる。例えば、ベクターを制限酵素で切断し、そこに、該制限酵素切断配列を有するDNA断片を添加することによって、該DNA断片をベクターに導入することができる(制限酵素法)。
【0027】
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。該ベクターは、該本発明のポリヌクレオチドを常法により任意のベクター中に挿入することにより作製することができる。該ベクターの種類は特に限定されず、プラスミド、コスミド、ファスミド、ファージ、トランスポゾン、BACベクター等の任意のベクターであってよい。また該ベクターは、宿主細胞の染色体に導入するためのベクターであっても、染色体外に保持されるベクターであってもよい。宿主細胞内で増幅可能なものが好ましい。
【0028】
該ベクターは、限定ではないが、好ましくは細菌用ベクターであり、より好ましくはエシェリヒア属(Escherichia)又はコリネバクテリウム属(Corynebacterium)に属する細菌用のベクターである。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pET21-a(+)、pUC18/19、pUC118/119、pBR322、pMW218/219、pZ1(Applied and Environmental Microbiology,1989,55:684-688)、pEKEx1(Gene,1991,102:93-98)、pHS2-1(Gene,1991,107:69-74)、pCLiK5MCS(特表2005-522218号公報)、pCG2(特開昭58-35197号公報)、pNG2(FEMS Microbiology Letters,1990,66:119-124)、pAG1(特開昭61-52290号公報)、pHKPsacB1(WO2014/007273)などが挙げられる。
【0029】
本発明のポリペプチドを組換え生産する場合、当該ベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターは、転写プロモーター、ターミネーター等の宿主生物における遺伝子発現に必須な各種エレメント;ポリリンカー、エンハンサー等のシスエレメント;ポリA付加シグナル;リボソーム結合配列(SD配列);薬剤耐性遺伝子、栄養要求性マーカー遺伝子等の選択マーカー遺伝子、などの有用な配列を必要に応じて含み得る。
【0030】
本発明はまた、上述した本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はそれを含有するベクターを含む、形質転換体を提供する。該形質転換体は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又はそれを含有するDNA断片もしくはベクターを宿主に導入することにより製造することができる。
【0031】
当該形質転換体の宿主としては、特に限定されないが、好ましくは細菌、より好ましくはエシェリヒア属又はコリネバクテリウム属に属する細菌が挙げられる。エシェリヒアの例としては、大腸菌が挙げられる。コリネバクテリウムの例としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・エフィシェンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)などが好ましく、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・アンモニアゲネスがより好ましく、コリネバクテリウム・グルタミカムがさらに好ましい。なお、分子生物学的分類により、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(Brevibacterium divaricatum)、コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)等のコリネ型細菌は、コリネバクテリウム・グルタミカムに菌名が統一されている(Liebl W et al,Int J Syst Bacteriol,1991,41:255-260;駒形和男ら,発酵と工業,1987,45:944-963)。
【0032】
ポリヌクレオチドやベクターの宿主細胞への導入には、一般的な形質転換方法、例えば、エレクトロポレーション法、トランスフォーメーション法、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、パーティクル・ガン法、アグロバクテリウム法などの周知の形質転換技術を適用することができる。
【0033】
本発明の形質転換体を培養することにより、本発明のポリペプチドを製造することができる。したがって、本発明はまた、本発明の形質転換体を用いる本発明のポリペプチドの製造方法を提供する。より詳細には、本発明のポリペプチドの製造方法は、本発明の形質転換体を培養することを含む。例えば、形質転換体が大腸菌の場合、好ましい培地としては、LB培地、M9培地などが挙げられ、培養条件としては、培養温度は15℃~45℃、培養時間は1日~7日が挙げられる。形質転換体がコリネバクテリウムの場合、好ましい培地としては、LB培地、CGXII培地(Journal of Bacteriology,1993,175:5595-5603)などが挙げられ、培養条件としては、培養温度は15℃~45℃、培養時間は1日~7日が挙げられる。
【0034】
あるいは、本発明のポリペプチドは、無細胞翻訳系を使用して、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
【0035】
当該形質転換体又は無細胞翻訳系で製造された本発明のポリペプチドは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、細胞の破砕、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養液、細胞破砕液、無細胞翻訳系の反応液などから回収することができる。
【0036】
本発明のポリペプチドは、没食子酸合成酵素であり、従来知られたコリネバクテリウム由来の没食子酸合成酵素(例えば、配列番号1:特許文献2に開示される、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株のパラヒドロキシ安息香酸水酸化酵素(HFM145)の200位のLeuをValへと置換し、385位のTyrをPheに置換した変異酵素)と比べて、没食子酸合成活性(プロトカテク酸を没食子酸に変換する活性)が高い。好ましくは、本発明のポリペプチドの没食子酸合成活性(プロトカテク酸を没食子酸に変換する活性)は、配列番号1のポリペプチドに対して110%以上であり得る。ポリペプチドの没食子酸合成活性は、例えば、基質であるプロトカテク酸と該ポリペプチドとの反応で生成した没食子酸を定量することで測定することができる。没食子酸の定量には、例えばクロマトグラフィーを用いることができる。
【0037】
したがって、本発明はまた、本発明のポリペプチドを用いた没食子酸の製造方法を提供する。本発明による没食子酸の製造方法は、本発明のポリペプチドによりプロトカテク酸を没食子酸に変換することを含む。より詳細な例において、該方法は、基質であるプロトカテク酸を含む液に本発明のポリペプチドを加え、プロトカテク酸を没食子酸に変換させることを含む。該方法において、本発明のポリペプチドは、精製されたポリペプチドやそれを含む溶液の形態で用いられてもよく、あるいは上述した本発明の形質転換体の菌体破砕液、菌体抽出液、又はそれらの上清、又はそれらの溶液や懸濁液の形態で用いられてもよい。あるいは、本発明による没食子酸の製造方法は、基質であるプロトカテク酸を含有する培地で上述した本発明の形質転換体を培養することを含み、これによって、該形質転換体の発現する本発明のポリペプチドによりプロトカテク酸が没食子酸に変換される。あるいは、本発明による没食子酸の製造方法は、プロトカテク酸の産生能を有する本発明の形質転換体を製造し、これを培養することを含む。すなわち、プロトカテク酸の産生能を有する微生物を宿主として、これに本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又はそれを含有するDNA断片もしくはベクターを導入することで、本発明のポリペプチドと、基質であるプロトカテク酸を産生する形質転換体を製造する。該形質転換体を培養することで、産生された本発明のポリペプチドとプロトカテク酸から没食子酸が製造される。反応液(又は培養物)中におけるプロトカテク酸の初期濃度は、0.1~500mM程度が好ましく、本発明のポリペプチドの濃度は、1mg/L~10g/L程度が好ましい。反応液の温度は、好ましくは10~60℃、より好ましくは15~50℃であり、反応液中のpHは、好ましくはpH5~10、より好ましくはpH6~9である。該反応液は、緩衝剤、pH調整剤、補酵素などを含有していてもよい。反応液が培養物の場合、温度やpHの条件、及び培地の組成は、形質転換体の培養条件に従うことが好ましい。
【0038】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0039】
〔1〕配列番号2のアミノ酸配列又は当該配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、プロトカテク酸を没食子酸へと変換する機能を有するポリペプチド。
〔2〕好ましくは、配列番号2の208位に相当する位置にVal、及び397位に相当する位置にPheを有する、〔1〕記載のポリペプチド。
〔3〕〔1〕又は〔2〕記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
〔4〕〔3〕記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
〔5〕〔3〕記載のポリヌクレオチドを含有するDNA断片。
〔6〕好ましくはDNA発現カセットである、〔5〕記載のDNA断片。
〔7〕〔3〕記載のポリヌクレオチド、〔4〕記載のベクター、あるいは〔5〕又は〔6〕記載のDNA断片を含有する、形質転換体。
〔8〕好ましくはエシェリヒア属又はコリネバクテリウム属に属する細菌である、〔7〕記載の形質転換体。
〔9〕好ましくは、前記形質転換体がプロトカテク酸の産生能を有する、〔7〕又は〔8〕記載の形質転換体。
〔10〕〔1〕又は〔2〕記載のポリペプチドによりプロトカテク酸を没食子酸に変換することを含む、没食子酸の製造方法。
〔11〕好ましくは、前記プロトカテク酸を含有する培地で〔7〕又は〔8〕記載の形質転換体を培養することを含む、〔10〕記載の方法。
〔12〕好ましくは、〔7〕又は〔8〕記載の形質転換体を培養すること含み、該形質転換体がプロトカテク酸の産生能を有する、〔10〕記載の方法。
【実施例
【0040】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1 没食子酸合成酵素の調製
1)没食子酸合成酵素Cg145をコードする遺伝子の調製
特許文献2には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株のパラヒドロキシ安息香酸水酸化酵素(Genbank Accession No.:NP_600305.1)のアミノ酸配列に対して200位のLeuをValへと置換し、385位のTyrをPheに置換した変異酵素(特許文献2に配列番号22として開示される)が、プロトカテク酸から没食子酸への変換活性が高いことが開示されている。以下の実施例では、該変異酵素をCg145と称し、そのアミノ酸配列を配列番号1として開示する。コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株のゲノムDNAから、パラヒドロキシ安息香酸水酸化酵素(Genbank Accession No.:NP_600305.1)をコードするDNAをPCRにて増幅してサブクローニングした。得られたDNAにPCRにより上記のアミノ酸置換を導入して、配列番号1のポリペプチドをコードする配列番号5のDNAを調製した。
【0042】
2)没食子酸合成酵素Ca145、Cc145及びCe145をコードする遺伝子の調製
Genbankデータベースより、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、コリネバクテリウム・カルナエ及びコリネバクテリウム・エフィシェンス由来の4-ヒドロキシ安息香酸-3-モノオキシゲナーゼのアミノ酸配列(それぞれ、WP_040354425.1、WP_015650893.1、及びWP_006769907.1)を取得した。各アミノ酸配列に対して、Cg145と同様に、配列番号1の200位に相当する位置のLeuをValに、385位に相当する位置のTyrをPheに置換したアミノ酸配列を設計した。すなわち、WP_040354425.1のアミノ酸配列の208位LeuをValに、397位TyrをPheに置換したアミノ酸配列(配列番号2)を設計した。同様に、WP_015650893.1から配列番号3を、WP_006769907.1から配列番号4を設計した。以下の実施例では、配列番号2、3及び4で示されるポリペプチドをそれぞれCa145、Cc145、及びCe145と称する。配列番号2、3及び4のポリペプチドをコードするDNA(それぞれ配列番号6、7及び8)をGenScript社に依頼して人工的に合成した。
【0043】
3)発現ベクターの作製
上記1)及び2)で調製したDNAを、それぞれpET21-a(+)プラスミド(MERCK社)に導入した。pET21-a(+)を鋳型にプライマーHis-pET21a-F及びpET21a-R(表1)を用いたPCRにより、pET21-a(+)ベクター断片を増幅した。Cg145をコードするDNA(配列番号5)を導入したプラスミドを鋳型に、プライマーpET-Cg145-F及びpET-Cg145-R(表1)を用いたPCRにより、Cg145遺伝子断片を増幅した。PCR用酵素はPrimeSTAR Max DNA Polymerase(TaKaRa社)を用いた。pET21-a(+)ベクター断片とCg145遺伝子断片をIn-Fusion HD cloning kit(clontech社)にて連結し、pET21-Cg145を得た。
【0044】
同様の手順で、Ca145をコードするDNA(配列番号6)を導入したプラスミドを鋳型に、プライマーpET-Ca145-FとpET-Ca145-R(表1)を用いたPCRにより、Ca145遺伝子断片を増幅した。pET21-a(+)ベクター断片とCa145遺伝子断片をIn-Fusion HD cloning kit(clontech社)にて連結し、pET21-Ca145を得た。
【0045】
同様の手順で、Cc145をコードするDNA(配列番号7)を導入したプラスミドを鋳型に、プライマーpET-Cc145-FとpET-Cc145-R(表1)を用いたPCRにより、Cc145遺伝子断片を増幅した。pET21-a(+)ベクター断片とCc145遺伝子断片をIn-Fusion HD cloning kit(clontech社)にて連結し、pET21-Cc145を得た。
【0046】
同様の手順で、Ce145をコードするDNA(配列番号8)を導入したプラスミドを鋳型に、プライマーpET-Ce145-FとpET-Ce145-R(表1)を用いたPCRにより、Ce145遺伝子断片を増幅した。pET21-a(+)ベクター断片とCe145遺伝子断片をIn-Fusion HD cloning kit(clontech社)にて連結し、pET21-Ce145を得た。
【0047】
得られたプラスミド溶液を用いてECOS Competent E.Coli DH5α株(ニッポンジーン社)に形質転換し、細胞液を、アンピシリンを含有するLB寒天培地に塗布して、37℃で一晩静置した。得られたコロニーを鋳型にして、Sapphire Amp(TaKaRa社)を酵素として用い、コロニーPCRを行った。プライマーはT7promoter-2及びT7terminator-2(表1)を用いた。目的遺伝子の導入が確認されたプラスミドを持つ形質転換体を、アンピシリンを含むLB液体培地2mLに接種し、37℃で一晩培養した。この培養液よりNucleoSpin Plasmid EasyPure(TaKaRa社)を用いてプラスミドを精製した。
【0048】
【表1】
【0049】
4)各没食子酸合成酵素の発現
上記3)で得られたプラスミドをECOS Competent E.coli BL21(DE3)に形質転換した。アンピシリンを含むLB液体培養液2mLにそれぞれの形質転換体を接種し、37℃で一晩培養した。続いてこの培養液1mLを、アンピシリンを含むOvernight Express Instant LB Medium(Merck社)液体培養液10mLに接種し、250rpm、37℃で24時間培養した。培養終了後、4℃、3000rpmで10分間遠心を行い、菌体を回収した。xTractor buffer kit(TaKaRa社)を用いて菌体を破砕し、続いて4℃、14500rpmで5分間遠心し、上清を回収した。得られた上清を、没食子酸合成酵素を含む酵素溶液として用いた。TaKaRa Bradford Protein Assay Kit(TaKaRa社)を用いて、該酵素溶液のタンパク質濃度を定量した。
【0050】
実施例2 酵素活性測定
100μLの基質溶液(100mM Tris-HCl(pH7.5)溶液60μLと、20mM NADH溶液20μLと、20mMのプロトカテク酸溶液20μLの混合液)に、適宜希釈した実施例1で得た酵素溶液を100μL添加し、室温で1時間静置した。反応液10μLをサンプリングし、190μLの37mM硫酸と混合することで反応を停止させた。この溶液の没食子酸生成量を参考例1の方法に従って定量した。タンパク質濃度当たりの没食子酸生成量から、各没食子酸合成酵素の活性を測定した。Cg145の活性を100としたときの各没食子酸合成酵素の相対活性を表2に示した。公知の酵素Cg145と比較して、Ca145は、没食子酸変換活性が18%高かった。
【0051】
【表2】
【0052】
参考例1 没食子酸の定量
HPLCにより没食子酸を定量した。HPLC装置は、Chromaster(日立ハイテクサイエンス社)を用いた。分析カラムは、L-カラム ODS(4.6mm I.D.×150mm、×化学物質評価研究機構)を用いた。溶離液Aに0.1Mリン酸二水素カリウムを含む0.1%リン酸溶液、溶離液Bに70%メタノールを用い、流速1.0mL/分、カラム温度40℃の条件でのグラジエント溶出により没食子酸を分離した。没食子酸の検出には、UV検出器(検出波長210nm)を用いた。標準試料(没食子酸、関東化学社、製品番号40205)を用いて濃度検量線を作成し、濃度検量線に基づいて没食子酸の定量を行った。HPLC分析に供した実施例2の反応溶液及び標準試料は、37mM硫酸にて適宜希釈した後、AcroPrep 96-well Filter Plates(0.2μm GHP膜、ポール社)を用いて不溶物の除去を行なった。
【配列表】
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