IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝機械株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図1
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図2
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図3
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図4
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図5
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図6A
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図6B
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図7
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図8
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図9
  • 特許-射出成形機およびその制御方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】射出成形機およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/77 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
B29C45/77
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020115634
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013219
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 卓久
(74)【代理人】
【識別番号】100213654
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 晃樹
(72)【発明者】
【氏名】榎本 潤
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-290449(JP,A)
【文献】特開2001-191383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締された金型へ材料を射出する射出装置と、
前記射出装置を制御する制御部であって、予め行われる成形サイクルにおける、過去に設定された射出速度の過去速度設定、および、射出速度を検出する速度センサが過去に検出した過去速度検出結果に基づいて、前記射出装置が前記金型へ材料を射出する射出工程における射出速度を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、
前記射出工程のうち第1工程において、前記過去速度設定に基づいて射出速度を制御し、
前記射出工程のうち前記第1工程後の第2工程において、前記過去速度検出結果に基づいて射出速度を制御し、
前記射出装置は、バレル内でスクリュを移動させることによって、型締された前記金型へ材料を射出し、
前記制御部は、前記過去速度検出結果に基づいて前記スクリュの速度指令を生成し、
前記第2工程において、前記速度指令に基づく前記スクリュの位置指令をフィードフォワード制御により修正する指令修正部をさらに備え、
前記指令修正部は、前記第2工程において、前記過去速度検出結果に基づく前記位置指令に、前記過去速度検出結果に基づく前記スクリュの前記速度指令と所定値との積を加算するフィードフォワード制御により、前記位置指令を修正する、射出成形機。
【請求項2】
前記制御部は、
予め行われる成形サイクルの前記第1工程において、前記射出工程の開始から射出圧力を検出する圧力センサの圧力検出結果が所定の上限値に達するまで、前記過去速度設定に基づいて射出速度を制御し、
予め行われる成形サイクルの前記第2工程において、前記圧力検出結果が前記所定の上限値以下になるように射出圧力を制御する、請求項に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記指令修正部は、前記速度センサが検出する速度検出結果が前記過去速度検出結果に近づくように、前記位置指令を修正する、請求項に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記所定値は、前記位置指令と前記スクリュの位置フィードバックとの偏差と略等しくなるように設定される、請求項に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記制御部は、前記過去速度設定および前記過去速度検出結果を射出速度の速度設定とすることにより、前記射出工程における射出速度を制御する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の射出成形機。
【請求項6】
前記制御部は、前記過去速度設定および前記過去速度検出結果に追従するように、前記射出工程における射出速度を制御する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の射出成形機。
【請求項7】
前記制御部は、予め行われる成形サイクルのうち成形品が良品である成形サイクルにおける、前記過去速度設定および前記過去速度検出結果に基づいて、前記射出工程における射出速度を制御する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の射出成形機。
【請求項8】
予め行われる成形サイクルにおける前記過去速度設定および前記過去速度検出結果を記憶部に記憶させる記憶制御部をさらに備える、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の射出成形機。
【請求項9】
型締された金型へ材料を射出する射出装置と、前記射出装置を制御する制御部と、を備える射出成形機の制御方法であって、
予め行われる成形サイクルにおける、過去に設定された射出速度の過去速度設定、および、射出速度を検出する速度センサが過去に検出した過去速度検出結果に基づいて、前記射出装置が前記金型へ材料を射出する射出工程における射出速度を前記制御部により制御する、ことを具備し、
前記射出工程のうち第1工程において、前記過去速度設定に基づいて射出速度を前記制御部により制御し、
前記射出工程のうち前記第1工程後の第2工程において、前記過去速度検出結果に基づいて射出速度を前記制御部により制御する、ことをさらに具備し、
前記射出装置は、バレル内でスクリュを移動させることによって、型締された前記金型へ材料を射出し、
前記制御部は、前記過去速度検出結果に基づいて前記スクリュの速度指令を生成し、
前記射出成形機は、前記第2工程において、前記速度指令に基づく前記スクリュの位置指令をフィードフォワード制御により修正する指令修正部をさらに備え、
前記第2工程において、前記過去速度検出結果に基づく前記位置指令に、前記過去速度検出結果に基づく前記スクリュの前記速度指令と所定値との積を加算するフィードフォワード制御により、前記位置指令を前記指令修正部により修正する、ことをさらに具備する、射出成形機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、射出成形機およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形において、溶融樹脂等の材料にあまり圧力を付加しない低圧射出成形が行われる場合がある。この低圧射出成形の1つとして、射出工程の途中において、速度制御から圧力制御へ切り替える方法が知られている。例えば、射出開始時において、実射出速度が速度設定値となるように速度制御が行われる。その後、低く設定された圧力設定値付近に実射出圧力が達した場合、実射出圧力が圧力設定値を超えないように圧力制御が行われる。
【0003】
しかし、上記の成形方法では、圧力制御中の射出速度がショット毎にばらつく場合があった。また、このような射出速度のばらつきにより、得られる成形品の品質がショット毎に異なる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-191383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製品品質の再現性を向上させることができる射出成形機およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態による射出成形機は、金型へ材料を射出する射出装置と、射出装置を制御する制御部であって、予め行われる成形サイクルにおける、過去に設定された射出速度の過去速度設定、および、射出速度を検出する速度センサが過去に検出した過去速度検出結果に基づいて、射出装置が金型へ材料を射出する射出工程における射出速度を制御する制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態による射出成形機の構成の一例を示すブロック図。
図2】第1実施形態による制御装置の構成の一例を示すブロック図。
図3】ふかし成形における速度波形および圧力波形の一例を示すグラフ。
図4図3の成形サイクルを基準とする射出成形における速度波形および圧力波形の一例を示すグラフ。
図5】第1実施形態による射出成形機の動作の一例を示すフロー図。
図6A】複数の制御方法における速度波形の一例を示すグラフ。
図6B】複数の制御方法における圧力波形の一例を示すグラフ。
図7】ラミナ制御における速度波形および圧力波形の一例を示すグラフ。
図8】第2実施形態による制御装置の構成を示すブロック図。
図9】フィードフォワード制御による速度指令の変化の一例を示すグラフ
図10】第2工程におけるフィードフォワード制御による速度指令の変化の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による射出成形機1の構成の一例を示すブロック図である。射出成形機1は、一連の射出成形動作を繰り返し実行可能な機械であり、例えば、成形品を1回成形する動作をサイクル動作として繰り返す。一連のサイクル動作を実行する時間をサイクルタイムという。
【0010】
射出成形機1は、フレーム2と、固定盤3と、移動盤4と、タイバー5と、型締駆動機構6と、射出装置7と、制御装置8と、押出機構9と、ヒューマン・マシン・インタフェース60と、記憶装置110と、射出圧力センサS1と、スクリュ位置センサS2とを備えている。
【0011】
フレーム2は、射出成形機1の土台である。固定盤3は、フレーム2上に固定されている。固定盤3には、第1金型としての固定金型11が取り付けられる。タイバー5の一端は、固定盤3に固定されており、その他端は、支持盤10に結合されている。タイバー5は、固定盤3から移動盤4を通過して支持盤10まで延びている。
【0012】
移動盤4は、フレーム2に設けられたリニアガイド、すべり板またはローラ等(図示せず)の上に載置されている。移動盤4は、タイバー5またはリニアガイドに案内され、固定盤3に接近しあるいは固定盤3から離れるように移動することができる。移動盤4には、第2金型としての移動金型12が取り付けられる。移動金型12は、固定金型11に対向しており、移動盤4とともに固定金型11へ接近し、固定金型11に組み合わされる。移動金型12と固定金型11とが合わされ接触することによって、移動金型12と固定金型11との間に製品形状に対応した空間が形成される。
【0013】
型締駆動機構6は、トグル機構13と、トグル機構駆動部14とを備えている。トグル機構駆動部14は、トグル機構13を駆動するために、型締サーボモータ21と、ボールねじ22と、伝達機構23とを備えている。ボールねじ22の先端部には、クロスヘッド15が取り付けられている。ボールねじ22が回転することで、クロスヘッド15が移動盤4に接近し、あるいは、移動盤4から離れるように移動する。伝達機構23は、型締サーボモータ21の回転をボールねじ22に伝達し、クロスヘッド15を移動させる。
【0014】
トグル機構駆動部14がクロスヘッド15を移動させると、トグル機構13が作動する。例えば、クロスヘッド15が移動盤4へ向かって移動すると、移動盤4が固定盤3に向かって移動し、金型11、12の型締が行われる。逆に、クロスヘッド15が移動盤4から離れる方向に移動すると、移動盤4が固定盤3から離れる方向に移動し、金型11、12の型開が行われる。
【0015】
押出機構9は、成形後の製品を移動金型12から取り外すために、押出サーボモータ71と、ボールねじ72と、伝達機構73と、押出ピン74とを備えている。押出ピン74の先端部は、移動金型12の内面に貫通している。ボールねじ72が回転することによって、押出ピン74が移動金型12の内面に付着した製品を押し出す。伝達機構73は、押出サーボモータ71の回転をボールねじ72に伝達し、ボールねじ72が回転して押出ピン74を図1の左右方向に移動させる。
【0016】
射出装置7は、加熱バレル(バンドヒータ)41と、スクリュ42と、計量駆動部43と、射出駆動部44とを備えている。加熱バレル41は、溶融状態の樹脂を、型締めされた金型のキャビティ内に注入するノズル41aを備える。加熱バレル41は、ホッパ45からの樹脂を加熱溶融しつつ貯えておき、その溶融樹脂をノズルから射出する。スクリュ42は、加熱バレル41の内部で回転しながらあるいは回転せずに移動可能に設けられている。計量工程において、スクリュ42は回転し、溶融樹脂が加熱バレル41の先端側に押し出され、更に押し出された溶融樹脂に押されてスクリュ42が後退する。スクリュ42の後退した移動距離によってバレル41から射出される溶融樹脂の射出量が計量され決定される。射出工程においては、スクリュ42は、回転することなく移動し、溶融樹脂をノズルから射出する。
【0017】
計量駆動部43は、計量サーボモータ46と、計量サーボモータ46の回転をスクリュ42に伝える伝達機構47とを有する。計量サーボモータ46が駆動され、加熱バレル41内でスクリュ42が回転されると、樹脂がホッパ45から加熱バレル41内に導入される。導入された樹脂は、加熱されかつ混練されながら加熱バレル41の先端側に送られる。樹脂は、溶融されて加熱バレル41の先端部分に貯えられる。計量時と逆方向にスクリュ42を移動させることによって、溶融樹脂はバレル41から射出される。このとき、スクリュ42は、回転することなく移動し、溶融樹脂をノズルから押し出す。尚、本実施形態では、成形材料として溶融樹脂を用いているが、成形材料は溶融樹脂に限定されることはなく、金属、ガラス、ゴム、炭素繊維を含む炭化化合物などでもよい。
【0018】
射出駆動部44は、射出サーボモータ51と、ボールねじ52と、伝達機構53とを有する。ボールねじ52が回転することで、加熱バレル41内でスクリュ42が図1の左右方向に移動する。伝達機構53は、射出サーボモータ51の回転をボールねじ52に伝達する。これにより、射出サーボモータ51が回転すると、スクリュ42が移動する。スクリュ42が加熱バレル41の先端部分に貯えられた溶融樹脂をノズル41aから押し出すことによって、溶融樹脂がノズル41aから射出される。
【0019】
射出圧力センサS1は、バレル41から金型へ溶融樹脂を充填する際の充填圧力や保圧工程における保圧圧力を検出する。射出工程においては、射出圧力センサS1は、バレル41から金型への溶融樹脂料の射出圧力を検出する。保圧工程においては、射出圧力センサS1は、速度制御から圧力制御への保圧切替え後の溶融樹脂の保圧圧力を検出する。
【0020】
スクリュ位置センサS2は、スクリュ42の位置を検出する。スクリュ42は、射出サーボモータ51の回転に伴って移動するので、スクリュ位置センサS2は、射出サーボモータ51の回転数や角度位置からスクリュ42の位置を検出してもよい。所定の制御周期ごとにスクリュ42の位置を検出することによって、スクリュ42の速度や加速度が分かる。
【0021】
ヒューマン・マシン・インタフェース(HMI/F)60は、射出成形機1に関する様々な情報を表示する。HMI/F60は、例えば、表示部100およびキーボードを備えてもよく、あるいは、タッチパネル式ディスプレイであってもよい。ユーザは、HMI/F60を通じて、射出成形機1の動作に関する指令等の設定を入力することができる。例えば、射出成形機1は、型締された金型へ溶融樹脂を射出する射出工程と、金型における溶融樹脂の保圧圧力を制御する保圧工程と、金型における溶融樹脂を冷却する冷却工程とによって成形サイクルごとに製品を成形する。
【0022】
制御装置8は、各種センサ(図示せず)から受け取るセンサ情報を監視し、そのセンサ情報に基づいて射出装置7を制御する。また、制御装置8は、HMI/F60を通じて設定された上記設定値に従ってスクリュ42を制御する。さらに、制御装置8は、必要なデータを表示部100に表示させる。
【0023】
記憶装置110は、射出成形機1の複数の動作情報を格納する。動作情報は、金型11,12、型締駆動機構6、あるいは、射出装置7の動作を示す情報である。尚、記憶装置110は、制御装置8内に設けられていてもよく、射出成形機1の外部に設けられていてもよい。
【0024】
図2は、第1実施形態による制御装置8の構成の一例を示すブロック図である。
【0025】
制御装置8は、インターフェース81と、位置・速度変換部82と、記憶制御部83と、射出速度設定部84と、射出制御部85と、射出制御用サーボアンプ86と、インターフェース87と、射出圧力制御部88と、アラーム89と、を備える。尚、図2に示す例では、記憶装置110は、制御装置8内に設けられている。
【0026】
位置・速度変換部82は、インターフェース81を介してスクリュ位置センサS2と接続されている。スクリュ位置センサS2は、例えば、エンコーダである。この場合、位置・速度変換部82は、エンコーダ位置を射出速度に換算する。位置・速度変換部82は、例えば、シーケンサ(図示せず)からの信号により充填時間(射出時間)をカウントする。位置・速度変換部82は、例えば、射出時間に応じたサンプリングモードで射出速度の波形(時間変化)を記憶装置110に出力する。
【0027】
記憶装置110は、データメモリ111と、基準波形メモリ112と、を有する。
【0028】
データメモリ111は、位置・速度変換部82から1成形サイクル毎に送られる射出速度波形をその都度取り込む。
【0029】
記憶部としての基準波形メモリ112は、予め行われる成形サイクルにおける過去速度設定および過去速度検出結果を記憶する。「過去速度設定」は、予め行われる成形サイクルにおいて、過去に設定された射出速度の設定である。速度設定は、例えば、スクリュ42の速度設定でもある。「過去速度検出結果」は、予め行われる成形サイクルにおいて、射出速度を検出する速度センサが過去に検出した検出結果である。射出速度の検出結果は、例えば、1成形サイクル毎の射出速度波形である。速度センサは、例えば、スクリュ位置センサS2である。スクリュ位置センサS2が検出したスクリュ42の位置は、上記のように、位置・速度変換部82により射出速度に変換される。
【0030】
記憶制御部83は、予め行われる成形サイクルにおける過去速度設定および過去速度検出結果を記憶装置110(基準波形メモリ112)に記憶させる。より詳細には、記憶制御部83は、ユーザの操作に基づいて、過去速度設定および過去速度検出結果を基準波形メモリ112に記憶させる。記憶制御部83は、例えば、HMI/F60を介して、データメモリ111に記憶される射出速度波形を、基準波形メモリ112に記憶させる。また、記憶制御部83は、例えば、HMI/F60を介して、過去の成形サイクルにおいて入力された過去速度設定を基準波形メモリ112に記憶させる。尚、記憶制御部83は、射出成形機1の外部に設けられる記憶部から、過去速度設定および過去速度検出結果を基準波形メモリ112に記憶させてもよい。HMI/F60は、例えば、キー入力装置を有し、ユーザから種々の操作を受け付ける。
【0031】
速度情報取得部としての射出速度設定部84は、基準波形メモリ112に予め記憶される過去速度設定および過去速度検出結果を取得する。射出速度設定部84は、例えば、過去速度設定および過去速度検出結果を自動で取得し、射出制御部85に送る。尚、射出速度設定部84は、ユーザの操作に基づいて、記憶装置110(データメモリ111)に記憶される過去速度設定および過去速度検出結果を取得してもよい。
【0032】
制御部としての射出制御部85は、射出装置7を制御する。射出制御部85は、速度制御および圧力制御により、射出装置7の射出を制御する。射出制御部85は、例えば、射出速度設定部84から送られる過去速度設定および過去速度検出結果を速度指令に変換し、射出制御用サーボアンプ86に送る。これにより、射出制御部85は、射出サーボモータ51を介してスクリュ42の移動を制御し、射出装置7による射出を制御することができる。尚、射出制御部85による射出制御の詳細については、図3および図4を参照して、後で説明する。
【0033】
射出圧力制御部88は、インターフェース87を介して射出圧力センサS1と接続されている。射出圧力制御部88は、圧力設定部881と、比較部882と、を備える。
【0034】
圧力設定部881は、HMI/F60からユーザの操作に基づいて、射出圧力設定Lpsおよび設定圧力の上限変更値を設定する(図3を参照)。尚、射出圧力設定Lpsと上限変更値との和は、上限射出圧力設定Lps2と呼ばれる(図4を参照)。圧力設定部881は、射出制御部85に射出圧力設定Lpsおよび上限変更値を送る。これにより、射出制御部85は、圧力制御により射出を制御することができる。射出制御部85は、例えば、射出圧力が射出圧力設定Lpsを超えないように圧力制御を行う。
【0035】
比較部882は、射出圧力センサS1が検出する検出値(実圧力)と、上限射出圧力設定Lps2と、を比較する。比較部882は、実圧力が上限射出圧力設定Lps2を超えた場合、アラーム89に信号を送る。
【0036】
アラーム89は、例えば、実圧力が上限射出圧力設定Lps2を超えたことを報知する。
【0037】
次に、射出制御部85による射出制御について説明する。尚、以下では、射出工程における射出制御ついて説明する。
【0038】
図3は、ふかし成形における速度波形および圧力波形の一例を示すグラフである。縦軸は射出速度および射出圧力を示す。横軸は時間を示す。尚、原点Oは、射出工程の開始時である。従って、原点Oでは、速度および圧力はほぼゼロである。
【0039】
Lvsは、射出速度設定を示し、例えば、射出速度設定部84に入力される設定値である。Lvは、実速度を示し、例えば、位置・速度変換部82により変換される射出速度である。Lpsは、射出圧力設定を示し、例えば、圧力設定部881に入力される設定値である。Lpは、実圧力を示し、例えば、射出圧力センサS1により検出される射出圧力である。
【0040】
ふかし成形とは、射出工程の初期において射出速度設定Lvsにより射出速度(実速度Lv)を制御し、射出工程の途中から、実圧力Lpが上限値である射出圧力設定Lpsを超えないように圧力制御する、低圧射出成形法である。従って、図3に示すように、ふかし成形における射出工程は、速度制御工程と圧力制御工程とに分けられる。速度制御工程と圧力制御工程との切り替えタイミングtは、例えば、実圧力Lpが上昇して射出圧力設定Lpsに達するタイミングである。尚、切り替えタイミングtは、実圧力Lpが射出圧力設定Lpsを含む所定の圧力範囲内に達するタイミングであってもよい。
【0041】
ふかし成形では、溶融樹脂に大きな圧力を印加しないように成形が行われる。従って、過充填による金型の破損を抑制することができる。また、高圧力の充填ができる射出成形機を必要としないため、装置自体のコストが低い。また、低圧で充填操作を行うため、射出成形機のランニングコストも低減できる。また、低圧で射出を行うため、金型・周辺機器を小型化でき、この点からも装置自体のコストおよびランニングコストを低減できる。また、成形品の残留応力を低減することができる。
【0042】
しかし、ふかし成形では、圧力制御工程における射出速度がショット毎にばらつく場合がある。これは、樹脂射出が圧力制御に依存するため、金型11、12内での樹脂挙動の変化があるためと考えられる。この射出速度のばらつきにより、ショット毎の充填時間がばらつき、外観品質が不安定になる可能性がある。すなわち、射出速度のばらつきにより、ショット毎に得られる成形品の品質が異なる場合がある。従って、必ずしも良品が得られるとは限らない。
【0043】
そこで、射出制御部85は、予め行われる成形サイクルにおける、過去に設定された射出速度の過去速度設定、および、射出速度を検出する速度センサが過去に検出した過去速度検出結果に基づいて、射出装置7が金型11、12へ材料を射出する射出工程における射出速度を制御する。まず、図3に示すように、予め実行されるふかし成形により、基準となる速度パターンのサンプリングが行われる。その後、図4に示すように、基準となる速度パターンとしての過去速度設定および過去速度検出結果を用いた成形運転が行われる。射出制御部85は射出工程全域において速度制御を行うため、ショット毎の射出速度のばらつきを抑制することができる。この結果、低圧射出成形における成形品の品質の再現性を向上させることができる。
【0044】
また、より詳細には、射出制御部85は、予め行われる成形サイクルのうち成形品が良品である成形サイクルにおける、過去速度設定および過去速度検出結果に基づいて、射出工程における射出速度を制御する。すなわち、基準となる成形サイクルは、ふかし成形により良品が得られた成形サイクルである。
【0045】
(ふかし成形による速度パターンのサンプリング)
図3に示すように、射出制御部85は、予め行われる成形サイクルの第1工程において、射出工程の開始から射出圧力を検出する圧力センサの圧力検出結果が所定の上限値に達するまで、過去速度設定に基づいて射出速度を制御する。「第1工程」は、射出工程の開始時から途中までを含む。ふかし成形時における第1工程は、速度制御工程である。圧力センサは、例えば、射出圧力センサS1である。「所定の上限値」は、射出圧力設定Lpsである。過去速度設定は、射出速度設定Lvsである。尚、図3に示す射出速度設定Lvsは、例えば、100mm/sec等の指令値であり、階段状(矩形状)の波形を示す。図3に示す射出速度設定Lvsは、モータへの実際の速度指令における速度の立ち下がりおよび立ち下がりは考慮されていない。
【0046】
速度制御工程では、実速度Lvは、射出工程の開始から上昇する。射出制御部85は、射出速度設定Lvsに追従するように射出サーボモータ51を制御する。射出サーボモータ51の制御には、例えば、PID制御等のフィードバック制御が用いられる。従って、実速度Lvは、実際の速度指令である射出速度設定Lvsに対して遅れが生じる。図3に示す例では、速度制御工程の終了時において、実速度Lvが射出速度設定Lvsに達している。また、実圧力Lpは、射出工程の開始から実速度Lvとともに上昇する。実圧力Lpが射出圧力設定Lpsに達するタイミングは、切り替えタイミングtとなる。その後、圧力制御工程が行われる。
【0047】
尚、実速度Lvが射出速度設定Lvsに達するタイミングは、図3に示す例に限られず、実圧力Lpの上昇速度によって変化する場合がある。例えば、実圧力Lpの上昇速度が遅い場合、実速度Lvは射出速度設定Lvsに達し、射出速度設定Lvsと所定期間ほぼ一致した後に、実圧力Lpが射出圧力設定Lpsに達してもよい。実圧力Lpの上昇速度は、例えば、金型のキャビティ容積、および、射出速度設定Lvsの大きさ等によって変化する。
【0048】
また、射出制御部85は、予め行われる成形サイクルの第2工程において、圧力検出結果が所定の上限値以下になるように射出圧力を制御する。「第2工程」は、第1工程後の工程であり、射出工程の途中から終了時までを含む。ふかし成形時における第2工程は、圧力制御工程である。圧力制御工程の開始時は、切り替えタイミングtに対応する。例えば、射出制御部85は、実圧力Lpが射出圧力設定Lps以上になった場合、射出速度を減少させる。速度制御工程直後の射出速度のままでは、実圧力Lpは上昇し続けてしまう。従って、射出制御部85は、圧力制御により大きく射出速度を減少させる。図3に示すように、圧力制御工程へ切り替わってすぐに、実速度Lvは急激に減少する。急減速後も射出の継続によって射出圧力は上昇する。従って、実速度Lvは、実圧力Lpが射出圧力設定Lpsを超えないように、徐々に減少し続ける。尚、圧力制御工程では、射出速度設定Lvsは無視される(図3の破線を参照)。圧力制御工程の終了(射出工程の終了)は、例えば、スクリュ42の位置によって設定される。圧力制御工程の終了後、保圧工程が行われる。
【0049】
ユーザは、例えば、図3に示す成形サイクルを、基準となるふかし成形の成形サイクルとする。この場合、記憶制御部83は、速度制御工程における射出速度設定Lvsおよび圧力制御工程における実速度Lvを基準波形メモリ112に記憶させる。
【0050】
(速度パターンを用いた成形運転)
図4は、図3の成形サイクルを基準とする射出成形における速度波形および圧力波形の一例を示すグラフである。
【0051】
Lps2は、上限射出圧力設定を示す。上限射出圧力設定Lps2は、上記のように、射出圧力設定Lpsに上限変更値を加えた値である。圧力制御工程への切り替えに関する射出圧力の設定値を引き上げることにより、射出速度が不安定になる圧力制御を実行されないようにすることができる。すなわち、基準となる成形サイクルの決定後の成形運転では、射出工程全域で速度制御を実行することができる。上限射出圧力設定Lps2は、射出圧力設定Lpsよりも十分高い値になるように設定される。
【0052】
射出制御部85は、射出工程のうち第1工程において、過去速度設定に基づいて射出速度を制御する。より詳細には、第1工程は、射出工程の開始時を含む工程である。第1工程では、図3に示す基準となるふかし成形時の射出速度設定Lvsと同じ射出速度設定Lvsが用いられる。従って、図4に示す実速度Lvは、図3に示す実速度Lvとほぼ一致する。これにより、基準となるふかし成形時の速度制御工程における射出速度をほぼ完全に再現することができる。
【0053】
また、射出制御部85は、射出工程のうち第1工程後の第2工程において、過去速度検出結果に基づいて射出速度を制御する。従って、第2工程では、図3に示す基準となるふかし成形時の実速度Lvが図4に示す射出速度設定Lvsになる。基準となるふかし成形時では、圧力制御工程において射出速度設定Lvsが無視されている。そこで、ふかし成形時の実速度Lvである過去速度検出結果が速度制御に用いられている。これにより、基準となるふかし成形時の圧力制御工程を再現するように、速度制御により射出成形を実行することができる。この結果、ショット毎の射出速度のばらつきを抑制することができ、成形品の品質の再現性を向上させることができる。
【0054】
また、より詳細には、射出制御部85は、過去速度設定および過去速度検出結果を射出速度の速度設定とすることにより、射出工程における射出速度を制御する。「速度設定」は、過去速度設定とは異なり、現在またはこれから行われる成形サイクルにおける射出速度の設定である。ふかし成形時の速度制御工程における過去速度設定は、上記のように、第1工程における速度設定に用いられる。ふかし成形時の圧力制御工程における過去速度検出結果は、上記のように、第2工程における速度設定に用いられる。また、射出制御部85は、過去速度設定および過去速度検出結果に追従するように、射出工程における射出速度を制御する。射出制御部85は、例えば、PID制御等のフィードバック制御をする。
【0055】
次に、射出成形機1の制御方法について説明する。
【0056】
図5は、第1実施形態による射出成形機1の動作の一例を示すフロー図である。
【0057】
まず、射出成形機1は、ふかし成形を実行し、データメモリ111は、ふかし成形による射出速度波形を記憶する(S10)。
【0058】
次に、ユーザは、成形品が良品であるか否かを判定する(S20)。成形品が良品ではない場合(S20のNO)、ステップS10が再び実行される。従って、良品が得られるまで、ステップS10、S20が繰り返し実行される。尚、ステップS10、S20は、例えば、1成形サイクル毎に実行される。
【0059】
一方、成形品が良品である場合(S20のYES)、記憶制御部83は、過去速度設定および過去速度検出結果を基準波形メモリ112に記憶させる(S30)。ユーザは、例えば、HMI/F60の操作により記憶制御部83を動作させ、射出速度設定部84で設定した過去速度設定、および、データメモリ111に記憶された過去速度検出結果を基準波形メモリ112に記憶させる。
【0060】
次に、射出速度設定部84は、射出速度を自動設定する(S40)。射出速度設定部84は、基準波形メモリ112に記憶された過去速度設定および過去速度検出結果を取得し、後の成形運転時の速度設定とする。
【0061】
次に、射出成形機1は、射出速度設定部84による設定に基づいて、成形運転を開始する(S50)。
【0062】
次に、ユーザは、成形品が良品であるか否かを判定する(S60)。成形品が良品ではない場合(S60のNO)、ユーザは、射出速度を修正する(S70)。すなわち、ユーザは、射出速度設定部84の速度設定を調整する。その後、ステップS50が再び実行される。従って、良品が得られるまで、ステップS50~S70が繰り返し実行される。尚、ステップS50~S70は、例えば、1成形サイクル毎に実行される。
【0063】
一方、成形品が良品である場合(S60のYES)、ユーザは、そのまま運転を継続する。従って、製品の量産が行われる。
【0064】
尚、図5に示すふかし成形(ステップS10)および成形運転(ステップS50)は、一連の操作で行われる場合に限られない。例えば、ふかし成形が成形運転に先立って別に行われ、その後独立に行われる成形運転において、ふかし成形で得られた過去速度設定および過去速度検出結果が用いられてもよい。これにより、多種少量生産において、成形品の変化に伴い金型が頻繁に交換されても、同じ金型の過去速度設定および過去速度検出結果が再利用可能になる。この結果、ふかし成形における速度波形のサンプリングを省略して、製造効率を向上させることができる。
【0065】
図6Aは、複数の制御方法における速度波形の一例を示すグラフである。図6Bは、複数の制御方法における圧力波形の一例を示すグラフである。図6Aおよび図6Bに示す速度波形および圧力波形は、実測値である。
【0066】
V1は、基準となるふかし成形時の実速度を示す。V2は、本実施形態の成形運転における実速度を示す。V3は、比較例としてのラミナ制御における実速度を示す。図6Aに示す実速度V1~V3は、図3および図4に示す実速度Lvのように、ピークを示し、その後減少する。
【0067】
P1は、基準となるふかし成形時の実圧力を示す。P2は、本実施形態の成形運転における実圧力を示す。P3は、比較例としてのラミナ制御における実圧力を示す。図6Bに示す実圧力P1~P3は、図3および図4に示す実圧力Lpのように、上昇し、その後、略一定になる。尚、図6Bに示すように、実圧力P1~P3は、略一定にならずに緩やかに上昇する場合がある。
【0068】
ラミナ制御とは、予め実行されるふかし成形時における過去速度検出結果に基づいて、射出工程全域における射出速度を制御する制御方法である。従って、ラミナ制御では、過去速度設定は用いられない。尚、ラミナ制御の詳細については、図7を参照して、後で説明する。
【0069】
図6Aに示すように、実速度V1が最高速度に到達するまでの時間は、約65msである。また、実速度V2が最高速度に到達するまでの時間は、約64msである。それぞれの到達時間は、近い値である。従って、本実施形態の成形運転における実速度V2は、基準となるふかし成形時の実速度V1と似た時間変化を示す。
【0070】
0ms~約40msにおいて、実速度V2は、実速度V1とほぼ一致する。また、約40ms~約65msにおいて、実速度V2は、実速度V1よりも低い。これは、設定に対して遅れる実速度が射出速度設定の最大値を超えること(オーバーシュート)を抑制するために、第1工程が終わる前に減速を開始する制御方法が用いられているためである。尚、例えば、実速度Lvが射出速度設定Lvsと所定期間ほぼ一致した(安定した)後に第1工程が終了する場合、第1工程における実速度V2は実速度V1とほぼ一致する。また、第1工程において減速が行われない制御方法が用いられてもよい。この場合も、第1工程における実速度V2は実速度V1とほぼ一致する。
【0071】
約65ms~約150msにおいて、実速度V2は、実速度V1から遅れて追従する。また、約150ms以降において、実速度V2は、実速度V1とほぼ一致する。
【0072】
図6Bに示すように、基準となるふかし成形時の実圧力P1は、約77msにおいてピークを示す。実圧力P2が実圧力P1のピーク圧力に到達するまで時間は、約90msである。従って、本実施形態の成形運転における実圧力P2は、基準となるふかし成形時の実圧力P1と似た時間変化を示す。
【0073】
従って、本実施形態における成形運転では、基準となるふかし成形時の射出速度および射出圧力に近い射出速度および射出圧力で、射出成形を実行することができる。
【0074】
以上のように、第1実施形態によれば、射出制御部85は、予め行われる成形サイクルにおける過去速度設定および過去速度検出結果に基づいて、射出工程における射出速度を制御する。これにより、過去の成形サイクルである、基準となるふかし成形時における射出速度および射出圧力を再現するように、速度制御により射出工程を実行することができる。この結果、金型保護、低圧成形および低残留応力成形を可能とするとともに、低圧射出成形における成形品の品質の再現性を速度制御により向上させることができる。
【0075】
図7は、ラミナ制御における速度波形および圧力波形の一例を示すグラフである。
【0076】
図7に示すように、ラミナ制御では、基準となるふかし成形時の射出工程全域における実速度Lvを、射出速度設定Lvsとする。すなわち、射出工程の開始時においても過去速度検出結果が速度設定に用いられ、過去速度設定が速度設定に用いられない点で、ラミナ制御は、図4に示す本実施形態の成形運転とは異なる。
【0077】
図7に示す射出工程の開始直後における実速度Lvは、図3および図4に示す実速度Lvよりも低くなっている。これは、ラミナ制御では、基準となるふかし成形時の実速度Lvを射出速度設定Lvsとしているためである。すなわち、図7に示す実速度Lvは、図3に示す基準となるふかし成形時の射出速度設定Lvsに対して2重の制御遅れの影響を受ける。ラミナ制御では、射出工程全域で速度制御が行われるため、本実施形態の成形運転と同様に、ショット毎の成形品の品質の再現性が得られる。しかし、ラミナ制御における射出速度および射出圧力の時間変化は、基準の成形サイクルとは大きく異なってしまう場合がある。この場合、基準の成形サイクルには発生していなかった成形不良が発生する可能性がある。
【0078】
図6Aに示すように、実速度V3が最高速度に到達するまでの時間は、約95msである。この約95msは、実速度V1、V2における到達時間である約65msおよび約64msよりも大きい。すなわち、ラミナ制御における実速度V3は、0ms~約150msにおいて、実速度V1および実速度V2に対して大きく遅れている。
【0079】
図6Bに示すように、実圧力P3が実圧力P1のピーク圧力に到達するまで時間は、約117msである。この約117msは、実圧力P1、P2における到達時間である約77msおよび約90msよりも大きい。すなわち、ラミナ制御における実圧力P3は、0ms~約150msにおいて、実圧力P1および実圧力P2に対して大きく遅れている。
【0080】
これに対して、本実施形態では、第1工程において、過去速度検出結果に代えて過去速度設定が速度制御に用いられる。これにより、第1工程における実速度Lvおよび実圧力Lpを、基準となるふかし成形時とほぼ同じにすることができる。この結果、第1工程後の第2工程における実速度Lvおよび実圧力Lpを、基準となるふかし成形時に近づけることができる。従って、外観品質等の成形品の品質をラミナ制御よりも向上させることができる。
【0081】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態による制御装置8の構成を示すブロック図である。第2実施形態は、第2工程において、射出速度の制御にフィードフォワード制御(FF(Feed Forward)制御とも呼ばれる)が用いられる点で、第1実施形態と異なる。
【0082】
第1実施形態の成形運転では、図4に示すように、第2工程における実速度Lvは、制御遅れにより射出速度設定Lvsに対して遅れて追従する。従って、第2工程の開始時等のように射出速度設定Lvsが急激に変化する場合、実速度Lvは、射出速度設定Lvsと一致しない可能性がある。そこで、フィードフォワード制御を用いて制御遅れを抑制することにより、第2工程における実速度Lvを射出速度設定Lvsに近づけることができる。尚、第1工程では、フィードフォワード制御は行われない。従って、第2実施形態における第1工程は、第1実施形態と同様である。
【0083】
制御装置8は、積分器INと、指令修正部Cと、をさらに備える。
【0084】
射出制御部85は、射出速度設定部84で設定される過去速度検出結果に基づいてスクリュ42の速度指令を生成する。
【0085】
指令変換部としての積分器INは、射出制御部85による速度指令を積分することにより、速度指令を位置指令に変換する。積分器INは、変換した位置指令を射出制御用サーボアンプ86に送る。
【0086】
指令修正部Cは、速度指令に基づくスクリュ42の位置指令を修正する。より詳細には、指令修正部Cは、速度センサが検出する速度検出結果が過去速度検出結果に近づくように、位置指令を修正する。「速度検出結果」は、過去速度検出結果とは異なり、現在またはこれから行われる成形サイクルにおける射出速度の検出結果である。
【0087】
また、指令修正部Cは、フィードフォワード制御部FCと、加算器Aと、を備える。
【0088】
フィードフォワード制御部FCは、過去速度検出結果に基づくスクリュ42の速度指令と所定値との積を算出する。所定値は、例えば、図8に示すフィードフォワード制御量(FF量とも呼ばれる)Fである。フィードフォワード制御量Fは、例えば、定数である。
【0089】
加算器Aは、過去速度検出結果に基づく位置指令に、過去速度検出結果に基づくスクリュ42の速度指令とフィードフォワード制御量Fとの積を加算することにより、位置指令を修正する。加算器Aは、加算結果である位置指令を射出制御用サーボアンプ86に送る。従って、本来の位置指令とフィードフォワード制御量Fとの和が、指令として射出制御用サーボアンプ86に送られる。これにより、第2工程における速度の応答性を向上させ、制御遅れによる速度フィードバックの遅れを抑制することができる。
【0090】
図9は、フィードフォワード制御による速度指令の変化の一例を示すグラフである。尚、速度指令は、位置指令を時間微分することにより得られる。
【0091】
L1(破線)は、フィードフォワード制御が行われない場合(フィードフォワード制御量Fがゼロである場合)における速度指令の時間変化を示す。L1は、時間の経過とともに、上昇し、一定となり、その後、下降する。L2(実線)は、フィードフォワード制御が行われる場合における速度指令の時間変化を示す。
【0092】
図9に示すように、フィードフォワード制御が行われる場合の速度指令は、フィードフォワード制御量Fの加算により、本来の指令速度とは異なる速度波形を示す。
【0093】
図10は、第2工程におけるフィードフォワード制御による速度指令の変化の一例を示すグラフである。図10に示す速度は、速度指令の時間変化の概略である。
【0094】
L1a(破線)は、フィードフォワード制御が行われない場合における速度指令の時間変化を示す。従って、L1aは、図4に示す射出速度設定Lvsの概略を示す。尚、L1aは、射出工程開始時の速度の立ち上がりが考慮されている。L2a(実線)は、フィードフォワード制御が行われる場合における速度指令の時間変化を示す。また、図10に示す150ms~300msの時間は、図6Aに示す時間に対応する。
【0095】
図10に示す例では、第1工程におけるフィードフォワード制御量Fは、ゼロに設定される。フィードフォワード制御が行われないため、第1工程におけるL2aは、L1aとほぼ一致する。
【0096】
第1工程と第2工程との切り替えタイミングtaにおいて、フィードフォワード制御量Fの設定が入力され、フィードフォワード制御が実行される。これにより、L2aは、フL1aよりも小さくなる。従って、切り替えタイミングta直後の速度減少を急激にすることができる。これにより、速度指令に対する速度フィードバックの制御遅れを抑制することができ、例えば、図4の第2工程における実速度Lvを射出速度設定Lvsに近づけることができる。
【0097】
150msにおいて、L1aとL2aとの差が減少している。これは、フィードフォワード制御量Fの値が減少するためである。第2工程では、フィードバックの制御遅れの大きさ、すなわち、速度指令の変化の大きさに応じて、フィードフォワード制御量Fの設定が変更されてもよい。
【0098】
また、フィードフォワード制御量Fは、位置指令とスクリュ42の位置フィードバックとの偏差と略等しくなるように設定される。位置フィードバックは、例えば、スクリュ位置センサS2の検出結果である。これにより、フィードバックの制御遅れを相殺(抑制)することができる。フィードフォワード制御量Fは、例えば、フィードバックの遅れを適切に解消できるように、所望の値がユーザにより予め設定される。ユーザは、例えば、射出成形機1の性能確認において実速度を確認しながらフィードフォワード制御量Fの値を決定する。フィードフォワード制御量Fは、例えば、基準波形メモリ112等の記憶部に記憶されればよい。
【0099】
尚、図10において、速度を積分することによりスクリュ42の移動量が得られる。図10に示す例では、L1aとL2aとの間で移動量が異なっているように見える。しかし、厳密には、フィードフォワード制御を開始すると、開始直後の1制御スキャン分だけ、L1aとL2aとの間の移動量の差を相殺する方向の速度指令が発生する。この結果、L1aとL2aとの移動量はほぼ等しくなる。尚、1制御スキャンだけであるため、発生する速度指令は、速度フィードバックの変動にはほとんど影響しない。
【0100】
このように、フィードフォワード制御を用いることにより、第2工程における射出速度の遅れを抑制することができる。また、射出速度の遅れだけでなく、射出圧力の遅れも抑制することができる。この結果、実速度Lvおよび実圧力Lpの時間変化を基準(良品成形時)の成形サイクルの値にさらに近づけることができる。従って、成形品の品質をさらに向上させ、また、基準となる成形時の品質に近づけることができる。
【0101】
第2実施形態による射出成形機1のその他の構成は、第1実施形態による射出成形機1の対応する構成と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0102】
第2実施形態による射出成形機1は、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0103】
本実施形態による射出成形機1およびその制御方法の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、射出成形機1およびその制御方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。また、射出成形機1およびその制御方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0105】
1 射出成形機、7 射出装置、11 固定金型、 12 移動金型、41 バレル、42 スクリュ、82 位置・速度変換部、83 記憶制御部、84 射出速度設定部、85 射出制御部、112 基準波形メモリ、C 指令修正部、F フィードフォワード制御量、S1 射出圧力センサ、S2 スクリュ位置センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10