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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240802BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20240802BHJP
   G02B 26/02 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
B23K26/00 N
B23K26/067
G02B26/02 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020139499
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035286
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】荻原 孝文
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-115613(JP,A)
【文献】特開2020-006392(JP,A)
【文献】特開2007-007975(JP,A)
【文献】特開2019-064863(JP,A)
【文献】特開2018-158375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
G02B 26/02
G02F 1/00 - 1/125、
1/21 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を支持するための支持部と、
レーザ光を出射するための光源と、
前記光源から出射された前記レーザ光を前記支持部に支持された前記対象物に照射するためのレーザ照射部と、
少なくとも前記レーザ照射部を制御することにより、前記対象物のレーザ加工を行うための制御部と、
前記対象物における前記レーザ光の集光点が前記対象物に対して相対移動するように前記支持部及び前記レーザ照射部の少なくとも一方を移動させる移動部と、
を備え、
前記レーザ照射部は、
前記光源から出射された前記レーザ光の出力を、波長板の駆動量に応じた調整量で調整して出射するためのアッテネータと、
前記アッテネータから出射された前記レーザ光を、変調パターンに応じて変調して出射するための空間光変調器と、
前記空間光変調器から出射された前記レーザ光を、前記支持部に支持された前記対象物に向けて集光するための集光レンズと、
を有し、
前記制御部は、
前記空間光変調器から出射されて前記集光レンズに入射する前記レーザ光の入射量が変化するように前記レーザ光を変調するための調整パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることによって、前記集光レンズから出射される前記レーザ光の出力である加工出力を調整する第1調整処理と、
前記加工出力が、前記第1調整処理での調整量と合わせてレーザ加工時の目標値となるように、前記波長板を駆動させて前記レーザ光の出力を調整する第2調整処理と、
前記第1調整処理及び前記第2調整処理の後に、出力が調整された前記レーザ光により前記レーザ加工を行うレーザ加工処理と、
を実行し、
前記制御部は、
前記移動部を制御することにより前記集光点を第1方向に相対移動させ、前記対象物に前記レーザ光を走査して前記対象物のレーザ加工を行う第1加工処理と、
前記第1加工処理の後に、前記レーザ加工処理として、前記移動部を制御することにより、前記集光点を第1方向と反対の第2方向に相対移動させ、前記対象物に前記レーザ光を走査して前記対象物のレーザ加工を行う第2加工処理と、
を実行すると共に、
前記第1加工処理と前記第2加工処理との間において、前記第1調整処理及び前記第2調整処理を実行する、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1調整処理及び前記第2調整処理の前において、
前記第1加工処理での前記目標値と前記第2加工処理での前記目標値との出力差分を算出する算出処理と、
調整量の異なる複数の前記調整パターンから、前記算出処理で算出した前記出力差分に応じた調整量となる前記調整パターンを選択する選択処理と、
前記選択処理の後に、前記選択処理で選択された前記調整パターンを含む前記変調パターンが前記空間光変調器に表示されている状態において、前記加工出力をモニタしつつ前記波長板を駆動することにより、前記加工出力が前記第2加工処理での前記目標値となる前記波長板の駆動量を取得する取得処理と、
を含むキャリブレーション処理を実行する、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、調整量の異なる複数の前記調整パターンのそれぞれと、それぞれの前記調整パターンを前記空間光変調器に表示するための制御値と、を関連付けたテーブルを保持しており、前記選択処理では、前記テーブルを参照することにより、前記算出処理で算出した前記出力差分に応じた調整量となる前記調整パターンを選択する、
請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1加工処理によって前記集光点が前記第1方向に相対移動され、前記集光点が前記対象物から退出したタイミングで、前記第1調整処理及び前記第2調整処理を開始する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記空間光変調器と前記集光レンズとの間に配置され、前記空間光変調器から出射された前記レーザ光の少なくとも一部を遮蔽するためのダンパを備え、
前記制御部は、前記第1調整処理において、前記レーザ光を複数の回折光に分岐するための回折格子パターンを前記調整パターンとして含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることにより、前記複数の回折光のうちの一部の次数の回折光が前記ダンパによって遮蔽されて前記集光レンズに入射しないように前記レーザ光を変調する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記変調パターンは、前記空間光変調器における前記集光レンズの瞳面に対応する領域の外側に表示されるマーキングを含み、
前記制御部は、前記空間光変調器から出射された前記レーザ光の画像と前記マーキングとの比較に基づいて、前記空間光変調器の動作状態を判定する判定処理を実行する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザダイシング装置が記載されている。このレーザダイシング装置は、ウェハを移動させるステージと、ウェハにレーザ光を照射するレーザヘッドと、各部の制御を行う制御部と、を備えている。レーザヘッドは、ウェハの内部に改質領域を形成するための加工用レーザ光を出射するレーザ光源と、加工用レーザ光の光路上に順に配置されたダイクロイックミラー及び集光レンズとを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5743123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーザ加工装置にあっては、光源から出射されたレーザ光の出力を、アッテネータを用いて適切な出力に減衰させてから対象物に照射する場合がある。アッテネータは、一例として、レーザ光の偏光方向を変えるためのλ/2波長板と、λ/2波長板を回転駆動させる回転ステージと、λ/2波長板から出射されたレーザ光が入射される偏光板と、を用いて構成することが考えられる。このようなアッテネータでは、λ/2波長板に入射した直線偏光のレーザ光は、λ/2波長板によって偏光方向が変えられた後に偏光板に入射される。
【0005】
偏光板に入射したレーザ光は、偏光板を透過する偏光成分(例えばP偏光成分)と偏光板で反射される偏光成分(例えばS偏光成分)とに分離される。したがって、このようなアッテネータでは、λ/2波長板の回転駆動の駆動量を調整し、偏光板の透過成分と反射成分との割合を調整することにより、レーザ光の出力を任意に減衰させることができる。しかし、このようなアッテネータでは、所望される減衰量が大きくなると、その減衰量を達成するためのλ/2波長板の駆動量も大きくなる。すなわち、λ/2波長板の駆動量が必要な駆動量に達するまでに要する時間が長くなる。この結果、レーザ光の出力の調整に係る時間が長くなるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、レーザ光の出力の調整に要する時間を短縮可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るレーザ加工装置は、対象物を支持するための支持部と、レーザ光を出射するための光源と、光源から出射されたレーザ光を支持部に支持された対象物に照射するためのレーザ照射部と、少なくともレーザ照射部を制御することにより、対象物のレーザ加工を行うための制御部と、を備え、レーザ照射部は、光源から出射されたレーザ光の出力を、波長板の駆動量に応じた調整量で調整して出射するためのアッテネータと、アッテネータから出射されたレーザ光を、変調パターンに応じて変調して出射するための空間光変調器と、空間光変調器から出射されたレーザ光を、支持部に支持された対象物に向けて集光するための集光レンズと、を有し、制御部は、空間光変調器から出射されて集光レンズに入射するレーザ光の入射量が変化するようにレーザ光を変調するための調整パターンを含む変調パターンを空間光変調器に表示させることによって、集光レンズから出射されるレーザ光の出力である加工出力を調整する第1調整処理と、加工出力が、第1調整処理での調整量と合わせてレーザ加工時の目標値となるように、波長板を駆動させてレーザ光の出力を調整する第2調整処理と、第1調整処理及び第2調整処理の後に、出力が調整されたレーザ光によりレーザ加工を行うレーザ加工処理と、を実行する。
【0008】
このレーザ加工装置では、光源から出射されたレーザ光は、アッテネータを介して集光レンズに入射され、集光レンズによって対象物に向けて集光される。したがって、アッテネータの波長板の駆動量を調整することにより、対象物に照射されるレーザ光の出力が調整され得る。さらに、このレーザ加工装置では、レーザ光は、空間光変調器を介して集光レンズに入射される。したがって、空間光変調器の変調パターンを制御することにより、レーザ光の出力がさらに調整され得る。
【0009】
より具体的には、このレーザ加工装置では、制御部が、集光レンズに入射するレーザ光の入射量が変化するようにレーザ光を変調させるための調整パターンを含む変調パターンを空間光変調器に表示させることによって、集光レンズから出射されるレーザ光の出力である加工出力を調整する第1調整処理と、当該加工出力が、第1調整処理での調整量と合わせてレーザ加工時の目標値となるように、波長板を駆動させてレーザ光の出力を調整する第2調整処理と、を実行する。
【0010】
このように、このレーザ加工装置では、アッテネータと空間光変調器との両方によりレーザ光の出力の調整が行われる。これにより、アッテネータのみを用いた場合と比較して、目的とする調整量のうちの空間光変調器の負担分だけアッテネータが負担する調整量が低減され、波長板の駆動量が低減される。よって、波長板の駆動量が必要な量に達するまでの時間が短縮され、結果的に、レーザ光の出力の調整に係る時間が短縮可能とされる。
【0011】
本発明に係るレーザ加工装置は、対象物におけるレーザ光の集光点が対象物に対して相対移動するように支持部及びレーザ照射部の少なくとも一方を移動させる移動部を備え、制御部は、移動部を制御することにより集光点を第1方向に相対移動させ、対象物にレーザ光を走査して対象物のレーザ加工を行う第1加工処理と、第1加工処理の後に、レーザ加工処理として、移動部を制御することにより、集光点を第1方向と反対の第2方向に相対移動させ、対象物にレーザ光を走査して対象物のレーザ加工を行う第2加工処理と、を実行すると共に、第1加工処理と第2加工処理との間において、第1調整処理及び第2調整処理を実行してもよい。
【0012】
このように、一方向にレーザ光を走査(往路)した後に反対方向にレーザ光を走査(復路)する往復加工を行う場合であって、往路と復路との間にレーザ光の出力の調整を行う場合には、当該調整に係る時間が長くなると、往路と復路との間の待ち時間が長くなり、レーザ加工の全体に係る時間が長くなる。よって、この場合には、上記のようにレーザ光の出力の調整に係る時間を短縮すれば、往路と復路との間の待ち時間が削減されてレーザ加工の全体に係る時間が短縮される。すなわち、このように往復加工を行う場合には、特に、レーザ光の出力の調整に係る時間を短縮することが有効となる。
【0013】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第1調整処理及び第2調整処理の前において、第1加工処理での目標値と第2加工処理での目標値との出力差分を算出する算出処理と、調整量の異なる複数の調整パターンから、算出処理で算出した出力差分に応じた調整量となる調整パターンを選択する選択処理と、選択処理の後に、選択処理で選択された調整パターンを含む変調パターンが空間光変調器に表示されている状態において、加工出力をモニタしつつ波長板を駆動することにより、加工出力が第2加工処理での目標値となる波長板の駆動量を取得する取得処理と、を含むキャリブレーション処理を実行してもよい。このように、第1調整処理及び第2調整処理に先立ってキャリブレーションを行うことにより、第1調整処理及び第2調整処理において、より正確且つ迅速にレーザ光の出力の調整を行うことができる。
【0014】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、調整量の異なる複数の調整パターンのそれぞれと、それぞれの調整パターンを空間光変調器に表示するための制御値と、を関連付けたテーブルを保持しており、選択処理では、テーブルを参照することにより、算出処理で算出した出力差分に応じた調整量となる調整パターンを選択してもよい。この場合、キャリブレーション処理を迅速に行うことができる。
【0015】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第1加工処理によって集光点が第1方向に相対移動され、集光点が対象物から退出したタイミングで、第1調整処理及び第2調整処理を開始してもよい。この場合、第1調整処理及び第2調整処理に係る時間を、集光点が対象物から退出されて集光点の相対移動が停止するまでの間の時間に重複させることにより、往復加工における往路と復路との間の待ち時間をさら削減することが可能となる。
【0016】
本発明に係るレーザ加工装置は、空間光変調器と集光レンズとの間に配置され、空間光変調器から出射されたレーザ光の少なくとも一部を遮蔽するためのダンパを備え、制御部は、第1調整処理において、レーザ光を複数の回折光に分岐するための回折格子パターンを調整パターンとして含む変調パターンを空間光変調器に表示させることにより、複数の回折光のうちの一部の次数の回折光がダンパによって遮蔽されて集光レンズに入射しないようにレーザ光を変調してもよい。この場合、空間光変調器を用いてレーザ光の出力を容易且つ確実に調整することができる。
【0017】
本発明に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、空間光変調器における集光レンズの瞳面に対応する領域の外側に表示されるマーキングを含み、制御部は、空間光変調器から出射されたレーザ光の画像とマーキングとの比較に基づいて、空間光変調器の動作状態を判定する判定処理を実行してもよい。この場合、空間光変調器が正常に動作しているか否かの判定を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レーザ光の出力の調整に要する時間を短縮可能なレーザ加工装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の模式図である。
図2図2は、図1に示されたアッテネータの模式図である。
図3図3は、図1に示された空間光変調器の構成を示す模式図である。
図4図4は、図1に示された4fレンズユニット及びダンパの模式図である。
図5図5は、図1,4に示されたダンパの機能を説明するための模式図である。
図6図6は、変調パターンの一例を示す模式図である。
図7図7は、変調パターンの一例を示す模式図である。
図8図8は、レーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、レーザ加工の対象物を示す模式図である。
図10図10は、レーザ加工を行う工程を説明するための模式図である。
図11図11は、レーザ加工を行う工程を説明するための模式図である。
図12図12は、変形例に係るレーザ加工方法を示すフローチャートである。
図13図13は、変形例に係る判定処理を説明するための図である。
図14図14は、変形例に係る一連の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
【0021】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。図1に示されるように、レーザ加工装置1は、光源10と、ステージ(支持部)20と、レーザ照射部30と、移動部40と、制御部50と、を備えている。ここでは、レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するための装置である。なお、各図では、対象物11における加工予定を示す仮想的なラインAが図示される場合がある。
【0022】
光源10は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出射する。光源10から出射されたレーザ光Lは、レーザ照射部30に導入される。なお、光源10は、レーザ照射部30に含まれていてもよい。
【0023】
ステージ20は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを保持することにより、対象物11を支持する。ステージ20は、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。ステージ20は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能とされてもよい。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。対象物11は、第1面11aと第1面11aの反対側の第2面11bとを有する。対象物11は、例えば半導体を含むウェハ(一例としてシリコンウェハ)である。
【0024】
レーザ照射部30は、光源10から出射されたレーザ光Lを導入し、当該レーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ここでは、レーザ光Lは対象物11に対して透過性を有する。ステージ20に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。なお、集光点Cは、レーザ光Lが集光される点である。ただし、集光点Cは、例えば、空間光変調器7に提示された変調パターンに応じてレーザ光Lが変調されている場合(例えば各種の収差が付与されている場合)等であって、レーザ光Lが一点に集光されない場合には、レーザ光Lのビーム強度が最も高くなる位置又はビーム強度の重心位置から所定範囲の領域であり得る。
【0025】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0026】
一例として、ステージ20をX方向に沿って(ラインAに沿って)移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0027】
移動部40は、ステージ20をZ方向に交差(直交)する面内の一方向(例えばX方向)に沿って移動させると共にステージ20をZ方向に交差(直交)する面内の別方向(例えばY方向)に沿って移動させるための第1ユニット41を含む。第1ユニット41は、ステージ20をZ方向に平行な軸線を回転軸として回転させる機能を有していてもよい。また、移動部40は、レーザ照射部30を支持すると共に、レーザ照射部30をX方向、Y方向、及びZ方向に沿って移動させる第2ユニット42を含む。
【0028】
これにより、レーザ光Lの集光点Cが形成されている状態においてステージ20及び/又はレーザ照射部30が移動されることにより、集光点Cが対象物11に対して相対移動させられる。すなわち、移動部40は、第1ユニット41及び/又は第2ユニット42を駆動することにより、対象物11に対してレーザ光Lの集光点Cが相対移動するようにステージ20及びレーザ照射部30の少なくとも一方を移動させることができる。
【0029】
制御部50は、光源10、ステージ20、レーザ照射部30、及び、移動部40の動作を制御する。制御部50は、処理部、記憶部、及び入力受付部を有している(不図示)。処理部は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。入力受付部は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0030】
引き続いて、レーザ照射部30の詳細について説明する。レーザ照射部30は、アッテネータ6、空間光変調器7、集光レンズ33、ミラー34、4fレンズユニット35、ダンパ36、及び、カメラ37を有する。ここでは、アッテネータ6は、光源10と空間光変調器7との間においてレーザ光Lの光路上に配置されている。空間光変調器7は、アッテネータ6と集光レンズ33との間においてレーザ光Lの光路上に配置されている。さらに、4fレンズユニット35及びダンパ36は、空間光変調器7と集光レンズ33との間においてレーザ光Lの光路上に配置されている。
【0031】
図2は、図1に示されたアッテネータの模式図である。図1,2に示されるように、アッテネータ6は、光源10から出射されたレーザ光Lを入力する。アッテネータ6は、レーザ光の偏光方向を変えるためのλ/2波長板(波長板)61、λ/2波長板61を回転駆動させるための回転ステージ62、及び、λ/2波長板61から出射されたレーザ光Lが入射される偏光板63を含む。アッテネータ6では、λ/2波長板61に入射した直線偏光のレーザ光Lは、λ/2波長板61によって偏光方向が変えられつつ出射され、偏光板63に入射される。
【0032】
偏光板63に入射されたレーザ光Lは、偏光板63を透過する偏光成分(レーザ光L)(例えばP偏光成分)と偏光板で反射される偏光成分La(例えばS偏光成分)とに分離される。したがって、アッテネータ6では、回転ステージ62によるλ/2波長板61の回転駆動の駆動量を調整し、偏光板63での透過成分と反射成分との割合を調整することにより、レーザ光Lの出力を任意に調整することができる。すなわち、アッテネータ6は、λ/2波長板61を含み、λ/2波長板61の駆動量に応じた調整量でレーザ光Lの出力を調整して出射するためのものである。
【0033】
図3は、図1に示された空間光変調器の構成を示す模式図である。図1,3に示されるように、空間光変調器7は、アッテネータ6から出射されたレーザ光Lを、変調パターンに応じて変調して出射するためのものである。空間光変調器7は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。空間光変調器7は、半導体基板71上に、駆動回路層72、画素電極層73、反射膜74、配向膜75、液晶層76、配向膜77、透明導電膜78及び透明基板79がこの順序で積層されることで構成されている。
【0034】
半導体基板71は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層72は、半導体基板71上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層73は、半導体基板71の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極73aを含んでいる。各画素電極73aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極73aには、駆動回路層72によって電圧が印加される。
【0035】
反射膜74は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜75は、液晶層76における反射膜74側の表面に設けられており、配向膜77は、液晶層76における反射膜74とは反対側の表面に設けられている。各配向膜75,77は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜75,77における液晶層76との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜75,77は、液晶層76に含まれる液晶分子76aを一定方向に配列させる。
【0036】
透明導電膜78は、透明基板79における配向膜77側の表面に設けられており、液晶層76等を挟んで画素電極層73と向かい合っている。透明基板79は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜78は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板79及び透明導電膜78は、レーザ光Lを透過させる。
【0037】
以上のように構成された空間光変調器7では、変調パターンを示す信号が制御部50から駆動回路層72に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極73aに印加され、各画素電極73aと透明導電膜78との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層76において、各画素電極73aに対応する領域ごとに液晶分子76aの配列方向が変化し、各画素電極73aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、液晶層76に変調パターンが表示された状態である。変調パターンは、レーザ光Lを変調するためのものである。
【0038】
すなわち、液晶層76に変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板79及び透明導電膜78を介して液晶層76に入射し、反射膜74で反射されて、液晶層76から透明導電膜78及び透明基板79を介して外部に出射させられると、液晶層76に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器7によれば、液晶層76に表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。なお、図4に示された変調面7aは、例えば液晶層76である。
【0039】
図4は、図1に示された4fレンズユニット及びダンパの模式図である。図1,4に示されるように、4fレンズユニット35は、空間光変調器7から集光レンズ33に向かうレーザ光Lの光路上に順に配列された一対のレンズ35A,35Bを有している。一対のレンズ35A,35Bは、空間光変調器7の変調面7aと集光レンズ33の入射瞳面(瞳面)33aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器7の変調面7aでのレーザ光Lの像(空間光変調器7において変調されたレーザ光Lの像)が、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像(結像)される。なお、図中のFsはフーリエ面を示す。
【0040】
図5は、図1,4に示されたダンパの機能を説明するための模式図である。図1,4,5に示されるように、ダンパ36は、空間光変調器7と集光レンズ33との間に配置されている。より具体的には、ダンパ36は、レンズ35Aとレンズ35Bとの間において(例えばフーリエ面Fsにおいて)、レーザ光Lの光路上に配置されている。ダンパ36は、空間光変調器7から出射されたレーザ光Lの少なくとも一部を遮蔽するためのものである。
【0041】
より具体的には、一例として、空間光変調器7に回折格子パターンを含む変調パターンが表示されることによりレーザ光Lが変調され(回折され)、レーザ光Lが複数の回折光に分岐された場合(図5の(b)の例)では、0次の回折光L0(レーザ光L)を集光レンズ33に向けて通過させると共に、1次の回折光L1を遮蔽することにより集光レンズ33に至らないようにする。一方で、ダンパ36は、レーザ光Lが回折されていない場合(図5の(a)の例)では、レーザ光Lの略全体を集光レンズ33に向けて通過させるように構成されている。
【0042】
したがって、レーザ加工装置1では、空間光変調器7に表示する変調パターンの制御により、レーザ光Lの全体がダンパ36を通過して集光レンズ33に入射される状態(図5の(a)の状態)と、レーザ光Lの少なくとも一部がダンパ36により遮蔽されて集光レンズ33に入射しない状態(図5の(b)の状態)とが切り替え可能とされている。この結果、レーザ加工装置1では、集光レンズ33から出射されるレーザ光Lの出力が調整可能とされている。すなわち、ここでは、アッテネータ6に加えて、空間光変調器7(及びダンパ36)も、レーザ光Lの出力を調整するための機能を有することとなる。
【0043】
なお、アッテネータ6では、レーザ光Lの全体が偏光板63を透過する状態を基準とすると、λ/2波長板61の駆動量に応じた減衰量でレーザ光Lの出力が減衰されることとなる。一方、アッテネータ6では、レーザ光Lの少なくとも一部が偏光板63を透過しない状態を基準とすると、λ/2波長板61の駆動量に応じた増幅量でレーザ光Lの出力が増幅される場合も想定され得る。また、空間光変調器7からのレーザ光Lの全体が集光レンズ33に入射する状態(例えば図5の(a)の状態)を基準とすると、空間光変調器7からのレーザ光Lの一部が集光レンズ33に入射しない状態(例えば図5の(b)の状態)とされることにより、レーザ光Lの出力が減衰されることとなる。
【0044】
他方、空間光変調器7からのレーザ光Lの一部が集光レンズに入射しない状態を基準とすると、空間光変調器7に表示される変調パターンの制御により、集光レンズ33に入射するレーザ光Lの出力が増幅される場合も想定され得る。したがって、本実施形態において、レーザ光Lの出力を調整するとは、レーザ光Lの出力を減衰させる場合と増幅させる場合との両方を含み得る。同様に、レーザ光Lの出力の調整量とは、レーザ光Lの出力の減衰量と増幅量の両方を含み得る。
【0045】
ここで、空間光変調器7から出射されて4fレンズユニット35及びダンパ36を通過したレーザ光Lの一部は、例えばミラー34により集光レンズ33に向けて反射され、当該レーザ光Lの残部は、ミラー34を透過してカメラ37に入射される。カメラ37は、集光レンズ33の入射瞳面33aにおけるレーザ光Lの像を取得するためのカメラである。したがって、カメラ37の前段には、例えば、カメラ37の撮像面と集光レンズ33の入射瞳面33aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成する図示しないレンズ等が配置される。
【0046】
これにより、集光レンズ33の入射瞳面33aでのレーザ光Lの像が、カメラ37の撮像面に転像(結像)される。集光レンズ33の入射瞳面33aでのレーザ光Lの像は、空間光変調器7を介したレーザ光Lの像である。したがって、レーザ加工装置1では、カメラ37による撮像結果に基づいて、空間光変調器7の動作状態を把握することが可能となる。
【0047】
引き続いて、レーザ加工装置1におけるレーザ光Lの出力を調整するための制御部50の処理の一例について説明する。レーザ加工装置1では、上述したように、アッテネータ6及び空間光変調器7のそれぞれの制御により、集光レンズ33から出射されるレーザ光Lの出力(以下、「加工出力」という)を調整することが可能である。すなわち、レーザ加工装置1では、制御部50は、空間光変調器7に表示する変調パターンを調整することにより、加工出力を調整する第1調整処理と、アッテネータ6におけるλ/2波長板61の駆動量を調整することにより加工出力を調整する第2調整処理と、を実行する。
【0048】
より具体的には、制御部50は、第1調整処理では、空間光変調器7から出射されて集光レンズ33に入射するレーザ光Lの入射量が変化するようにレーザ光Lを変調するための調整パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることによって加工出力を調整する。図6及び図7は、変調パターンの一例を示す模式図である。
【0049】
図6の(a)に示される変調パターンP0では、空間光変調器7の変調面7aにおける集光レンズ33の入射瞳面33aに対応する領域(以下、「入射領域」という)の全体が、集光レンズ33へのレーザ光Lの入射量を変化させるための調整パターンを含まない非調整領域Raとされている。すなわち、変調パターンP0によってレーザ光Lを変調した場合には、例えば図5の(a)に示されるように、レーザ光Lの全体が集光レンズ33に入射されることとなる。なお、変調パターンP0(非調整領域Ra)は、球面収差を補正するためのパターンといったように、調整パターン以外の任意のパターンを含むことができる。
【0050】
図6の(b)に示される変調パターンP1では、空間光変調器7の変調面7aの入射領域の全体が、レーザ光Lを複数の回折光に分岐するための回折格子パターンを調整パターンとして含む調整領域Rbとされている。このような変調パターンP1によってレーザ光Lを変調した場合、例えば、図5の(b)に示されるように、レーザ光Lの一部の次数(0次)の回折光のみが集光レンズ33に入射することとなる。すなわち、この場合には、変調パターンP0を用いた場合と比較して、集光レンズ33へのレーザ光Lの入射量が減少させられ、加工出力が減衰される。
【0051】
なお、変調パターンP1(調整領域Rb)についても、球面収差を補正するためのパターンといった調整パターン以外の任意のパターンがさらに含まれ得る。また、空間光変調器7の変調面7aにおける回折格子パターンの輝度値を調整することにより、各次数の回折光の割合を調整することも可能である。すなわち、制御部5は、変調面7aに表示される回折格子パターンの輝度値を調整することにより、集光レンズ33へのレーザ光Lの入射量、ひいては、加工出力を調整することができる。
【0052】
図7に示される変調パターンP2,P3では、空間光変調器7の変調面7aの入射領域の一部が非調整領域Raとされており、且つ、入射領域の別の一部が調整領域Rbとされている。具体的には、図7の(a)に示される変調パターンP2は、入射領域の中央部分にスリット状の非調整領域Raが設定され、且つ、非調整領域Raを挟むように入射領域の外側部分に調整領域Rbが設定されたスリットパターンを調整パターンとして含んでいる。これにより、レーザ光Lのうちの非調整領域Ra(スリット)に入射した部分は、回折されることなくダンパ36を介して集光レンズ33に入射される。
【0053】
一方で、レーザ光Lのうちの調整領域Rbに入射した部分は、回折されてダンパ36により遮蔽され、集光レンズ33に入射しない。すなわち、この場合にも、変調パターンP0を用いた場合と比較して、集光レンズ33へのレーザ光Lの入射量が減少させられ、加工出力が減衰される。特に、変調パターンP2では、非調整領域Raの幅(スリット幅W)を調整することにより、集光レンズ33へのレーザ光Lの入射量、ひいては、加工出力を調整することができる。
【0054】
図7の(b)に示される変調パターンP3は、入射領域の中央部分に円形の調整領域Rbが設定されており、且つ、調整領域Rbを囲むように円環状の非調整領域Raが設定された調整パターンを含んでいる。このような変調パターンP3でも、変調パターンP2と同様に、集光レンズ33へのレーザ光Lの入射量が減少させられ、加工出力が減衰される。また、変調パターンP3では、調整領域Rbの大きさを調整することにより、集光レンズ33へのレーザ光Lの入射量、ひいては、加工出力を調整することができる。
【0055】
このように、第1調整処理では、制御部50は、集光レンズ33へのレーザ光Lの入射量が変化するようにレーザ光Lを変調するための調整パターンを含む上記の変調パターンP1~P3を空間光変調器7に表示させることによって、集光レンズ33から出射されるレーザ光Lの出力である加工出力を調整することができる。
【0056】
一方、制御部50は、第2調整処理では、加工出力が、以上の第1調整処理での調整量と合わせてレーザ加工時の目標値となるように、λ/2波長板61を駆動させてレーザ光Lの出力を調整する。これにより、第1調整処理と第2調整処理との合計により、加工出力が目標値に調整され、適切な出力でのレーザ加工が行われる。
【0057】
引き続いて、以上のような出力の調整処理を含むレーザ加工方法の一例について説明する。図8は、レーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、まず、図9に示されるように、対象物11が用意される。対象物11は、第1面11aが集光レンズ33側に臨むようにステージ20に支持されている。したがって、ここでは、第1面11aが対象物11におけるレーザ光Lの入射面となる。
【0058】
また、ここでは、1つのラインAに対して、Z方向の2つの異なる位置Z1,Z2のそれぞれにおいてレーザ加工を行う。Z方向は、対象物11の第2面11bから第1面11aに向かう方向であり、位置Z2は位置Z1よりもレーザ光Lの入射面である第1面11a側の位置である。このレーザ加工方法では、制御部50は、後述するように、位置Z1に集光点Cが合わせられた状態でステージ20をX正方向に移動させることにより、対象物11に対して集光点CをX負方向にラインAに沿って相対移動させ、位置Z1においてラインAに沿って改質領域12を形成する第1加工処理を実行する。
【0059】
その後、制御部50は、位置Z2に集光点が合わせられる状態で、ステージ20をX負方向に移動させることにより、対象物11に対して集光点CをX正方向にラインAに沿って相対移動させ、位置Z2においてラインAに沿って改質領域12を形成する第2加工処理を実行する。つまり、ここでは、複数パスでの往復加工が行われる。位置Z1での加工をパスPT1(往路)とし、位置Z2での加工をパスPT2(復路)とする。また、ここでは、パスPT1でのレーザ光Lの加工出力に対して、パスPT2でのレーザ光Lの加工出力が小さく設定されている。このため、少なくともパスPT1とパスPT2との間において、レーザ光Lの加工出力を減衰するために、制御部50が、上記の第1調整処理及び第2調整処理を実行する。以下、各工程について具体的に説明する。
【0060】
図8に示されるように、このレーザ加工方法では、まず、制御部50が、例えば入力受付部を用いて、加工条件の選択を受け付ける(工程S1)。加工条件は、例えば、パス数、各パスのZ方向の位置、各パスでの加工出力の目標値等である。ここでは、上述したように、パス数が2であり、パスPT1,PT2のそれぞれのZ方向の位置が位置Z1,Z2であり、パスPT1での加工出力の目標値が5Wであり、パスPT2での加工出力の目標値が1Wであるような加工条件が選択されたものとする。
【0061】
続いて、制御部50が、工程S1で選択された加工条件に基づいて、パスPT1での加工出力の目標値とパスPT2での加工出力の目標値との出力差分を算出する(工程S2:算出処理)。ここでは、パスPT1での加工出力の目標値が5Wであり、パスPT2での加工出力の目標値が1Wであるから、出力差分は4Wとなる。つまり、この工程S2では、制御部50が、第1加工処理(パスPT1)での加工出力の目標値(5W)と第2加工処理での加工出力の目標値(1W)との出力差分(4W)を算出する算出処理を実行することとなる。
【0062】
続いて、制御部50が、工程S2で算出した出力差分に応じた調整パターンを選択する(工程S3:選択処理)。この工程S3についてより具体的に説明する。ここでは、制御部50は、出力の調整量の異なる複数の調整パターンと、それぞれの調整パターンを空間光変調器7に表示するための制御値と、を関連付けたテーブルを保持している。このようなテーブルの一例としては、調整パターンが、図6の(b)に示されるような入射領域の全体が回折格子パターンを調整パターンとして含む場合、諧調値が異なることに起因して0次の回折光と1次の回折光とのバランスが異なる複数の回折格子パターンと、それぞれの回折格子パターンの諧調値と、が関連付けられた以下のようなものである。
【0063】
[テーブルの一例]
諧調値 バランス(0次の回折光:1次の回折光)
0 100:0
32 90:10
64 70:30
96 50:50
128 30:70
160 10:90
192 0:100
【0064】
この場合、例えば、制御部50が、諧調値が32の回折格子パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させた場合、空間光変調器7を経たレーザ光Lは、全体の出力の90%の出力の0次の回折光と10%の出力の1次の回折光とに分岐されることとなる。そして、1次の回折光がダンパ36により遮蔽され、0次の回折光のみがダンパ36を介して集光レンズ33に入射することにより、結果的に、加工出力が10%程度減衰されることとなる。ここでは、調整量は減衰量であり、制御値は階調値である。
【0065】
上記のように、パスPT1での加工出力の目標値が5Wであり、パスPT2での加工出力の目標値が1Wであり、出力差分が4Wである場合には、例えば、制御部50は、128の諧調値の回折格子パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、加工出力を70%程度減衰させて1.7W程度とすることができる。このように、制御部50は、調整量(減衰量)の異なる複数の調整パターン(回折格子パターン)から、算出処理で算出した出力差分に応じた調整量となる調整パターンを選択する選択処理を実行することとなる。なお、ここでは、制御部50は、上記のテーブルに示された複数の回折格子パターンから、減衰後の加工出力がパスPT2での加工出力(1W)を下回らない範囲で、算出処理で算出した出力差分に最も近い減衰量となる回折格子パターンを選択している。
【0066】
続いて、制御部50が、アッテネータ6の調整を行う(工程S4:取得処理)。より具体的には、工程S4では、制御部50は、例えば集光レンズ33の直下に配置されたパワーメータの出力信号を入力することによって、加工出力をモニタする。この状態において、制御部50は、アッテネータ6の回転ステージ62を制御することによってλ/2波長板61を駆動し、加工出力を調整する。これにより、制御部50は、加工出力が目標値となるλ/2波長板61の駆動量を取得することができる。
【0067】
より具体的には、制御部50は、まず、パスPT1のための変調パターン(例えば調整パターンを含まない変調パターンP0)を空間光変調器7に表示させた状態において、加工出力をモニタしつつλ/2波長板61を駆動させることにより、加工出力がパスPT1の目標値である5Wとなるようなλ/2波長板61の駆動量を取得する。
【0068】
これ共に、制御部50は、パスPT2のための変調パターン(例えば調整パターンとしての回折格子パターンが入射領域の全体に設定された変調パターンP1)を空間光変調器7に表示させた状態において、加工出力をモニタしつつλ/2波長板61を駆動させることにより、加工出力がパスPT2の目標値である1Wとなるようなλ/2波長板61の駆動量を取得する。上記の例では、128の諧調値の回折格子パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、加工出力を70%程度減衰させて1.7W程度とする。このため、ここでは、目標値との差分である0.7W分の減衰量を実現するためのλ/2波長板61の駆動量を取得することとなる。
【0069】
このように、ここでは、制御部50は、工程S3で選択された調整パターン(第1パターン)を含む変調パターンが空間光変調器7に表示されている状態において、加工出力をモニタしつつλ/2波長板61を駆動することにより、パスPT1のためのλ/2波長板61の駆動量に加えて、加工出力がパスPT2での目標値となるλ/2波長板61の駆動量を取得する。
【0070】
以上の工程により、レーザ加工時の加工出力の調整処理のためのキャリブレーションが完了する。すなわち、制御部50は、第1加工処理(パスPT1)での目標値と第2加工処理(パスPT2)での目標値との出力差分を算出する算出処理(工程S2)と、調整量(減衰量)の異なる複数の調整パターン(回折格子パターン)から、算出処理で算出した出力差分に応じた調整量となる調整パターンを選択する選択処理(工程S3)と、選択処理の後に、当該調整パターンを含む変調パターンが空間光変調器7に表示されている状態において、加工出力をモニタしつつλ/2波長板61を駆動することにより、加工出力が第2加工処理での目標値となるλ/2波長板61の駆動量を取得する取得処理(工程S4)と、を含むキャリブレーション処理を実行することとなる。
【0071】
続く工程では、制御部50が光源10、レーザ照射部30、及び移動部40を制御することにより、対象物11のレーザ加工を行う(工程S5:第1加工処理)。工程S5についてより具体的に説明する。図10は、レーザ加工を行う工程を説明するための模式図である。図10に示されるように、工程S5では、まず、制御部50が、移動部40を制御することにより、位置Z1に合わせられたレーザ光Lの集光点CをラインAに沿ってX負方向(第1方向)に相対移動させ、対象物11にレーザ光Lを走査して対象物11に改質領域12Aを形成するレーザ加工を行う第1加工処理(パスPT1)を実行する。
【0072】
より具体的には、第1加工処理では、図10の(a)に示されるように、制御部50が、移動部40を制御することにより、レーザ光Lの集光点CのZ方向の位置が対象物11内において位置Z1となるように、ステージ20及びレーザ照射部30の少なくとも一方をZ方向に沿って移動させる。その状態において、制御部50が、移動部40を制御することにより、ここではステージ20をX正方向に移動させる。
【0073】
これにより、図10の(a),(b)に示されるように、レーザ光Lの集光点Cが対象物11に対してX負方向に相対移動される。この結果、対象物11のX正方向の外縁から対象物11の内部に集光点Cが進入すると共に、対象物11の内部を集光点Cが進行し、ラインAに沿ってのレーザ光Lの照射が実施される。これにより、位置Z1において、ラインAに沿って対象物11に改質領域12Aが形成される。さらに、図10の(c)に示されるように、制御部50が、移動部40を制御して集光点Cの相対移動を継続することにより、集光点Cが対象物11のX負方向の外縁から対象物11の外部に退出され、第1加工処理(パスPT1)が終了する。その後、制御部50は、移動部40の制御により、ステージ20を停止させる。
【0074】
なお、この第1加工処理に先立って、制御部50は、レーザ光Lの加工出力が、パスPT1の目標値(ここでは5W)となるように、工程S4で取得されたλ/2波長板61の駆動量にてλ/2波長板61を駆動させる。これと共に、制御部50が、パスPT1のための変調パターン(例えば調整パターンを含まない変調パターンP0)を空間光変調器7に表示させる。これらのアッテネータ6及び空間光変調器7の制御は、集光点Cの相対移動が開始される前に実行されてもよいし、集光点Cの相対移動が開始された後であって、集光点Cが対象物11の内部に進入するまでの間に実行されてもよい。
【0075】
続く工程では、後述する工程S6を実施した後に、制御部50が光源10、レーザ照射部30、及び移動部40を制御することにより、対象物11のレーザ加工を行う(工程S7:第2加工処理)。工程S7についてより具体的に説明する。図11は、レーザ加工を行う工程を説明するための模式図である。図11に示されるように、工程S7では、まず、制御部50が、移動部40を制御することにより、位置Z2に合わせられたレーザ光Lの集光点CをラインAに沿ってX正方向(第2方向)に相対移動させ、対象物11にレーザ光Lを走査して対象物11に改質領域12Bを形成するレーザ加工を行う第2加工処理(パスPT2)を実行する。
【0076】
より具体的には、工程S7では、図11の(a)に示されるように、制御部50が、移動部40を制御することにより、レーザ光Lの集光点CのZ方向の位置が対象物11内において位置Z2となるように、ステージ20及びレーザ照射部30の少なくとも一方をZ方向に沿って移動させる。その状態において、制御部50が、移動部40を制御することにより、ここではステージ20をX負方向に移動させる。
【0077】
これにより、図11の(a),(b)に示されるように、レーザ光Lの集光点Cが対象物11に対してX正方向(第2方向)に相対移動される。この結果、対象物11のX負方向の外縁から対象物11の内部に集光点Cが進入すると共に、対象物11の内部を集光点Cが進行し、ラインAに沿ってのレーザ光Lの照射が実施される。これにより、位置Z2において、ラインAに沿って対象物11に改質領域12Bが形成される。さらに、図11の(c)に示されるように、制御部50が、移動部40を制御して集光点Cの相対移動を継続することにより、集光点Cが対象物11のX正方向の外縁から対象物11の外部に退出され、第2加工処理が終了する。その後、制御部50は、移動部40の制御により、ステージ20を停止させる。
【0078】
ここで、工程S5と工程S7との間、すなわち、第1加工処理と第2加工処理との間において、レーザ光Lの出力の調整処理が行われる(工程S6:第1調整処理、第2調整処理)。より具体的には、工程S6では、制御部50が、上述したように、空間光変調器7から出射されて集光レンズ33に入射するレーザ光Lの入射量が変化するようにレーザ光Lを変調するための調整パターンを含む変調パターン(パスPT2のための変調パターンであって、例えば調整パターンとしての回折格子パターンを含む変調パターンP1)を空間光変調器7に表示させることによって、加工出力を調整する第1調整処理を実行する。
【0079】
ここでは、制御部50は、上記のキャリブレーション処理の選択処理(工程S3)で選択された調整パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。一例として、調整パターンは、レーザ光Lの加工出力を、パスPT1の加工出力の目標値(5W)からパスPT2の加工出力の目標値(1W)に減衰させるためのものである。
【0080】
これと共に、制御部50は、レーザ光Lの加工出力が、第1調整処理での調整量と合わせてパスPT2の加工出力の目標値となるように、λ/2波長板61を駆動させてレーザ光Lの加工出力を調整する第2調整処理を実行する。ここでは、制御部50は、上記のキャリブレーション処理の取得処理(工程S4)で取得された駆動量でλ/2波長板61を駆動させる。ここでは、λ/2波長板61の駆動量は、第1調整処理での減衰量と合わせて加工出力をパスPT2の目標値(1W)に減衰させるための駆動量である。これにより、レーザ光Lの加工出力が適切な値に調整(減衰)された状態で、上記の工程S7が実施される。すなわち、工程S7では、制御部50は、第1調整処理及び第2調整処理の後に、出力が調整されたレーザ光Lによりレーザ加工を行うレーザ加工処理を実行することとなる。
【0081】
なお、第1調整処理及び第2調整処理は、少なくとも一部が互いに重複して実施され得る。一例として、制御部50は、第1調整処理及び第2調整処理を同時に開始することができる。また、第1調整処理及び第2調整処理は、工程S5で集光点Cが対象物11の外部に退出された後であって、工程S7で集光点Cが対象物11の内部に進入するまでの間の任意のタイミングで実行され得る。一例として、制御部50は、工程S5において集光点Cが対象物11から退出したタイミングで第1調整処理及び第2調整処理を開始させることができる。これにより、第1調整処理及び第2調整処理に係る時間のうち、集光点Cの相対移動の加減速に係る時間に重複する時間が最大化される。
【0082】
以上説明したように、レーザ加工装置1では、光源10から出射されたレーザ光Lは、アッテネータ6を介して集光レンズ33に入射され、集光レンズ33によって対象物11に向けて集光される。したがって、アッテネータ6のλ/2波長板61の駆動量を調整することにより、対象物11に照射されるレーザ光Lの出力が調整され得る。さらに、このレーザ加工装置1では、レーザ光Lは、空間光変調器7を介して集光レンズ33に入射される。したがって、空間光変調器7の変調パターンを制御することにより、レーザ光Lの出力がさらに調整され得る。
【0083】
より具体的には、レーザ加工装置1では、制御部50が、集光レンズ33に入射するレーザ光Lの入射量が変化するようにレーザ光Lを変調させるための調整パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることによって、集光レンズ33から出射されるレーザ光Lの出力である加工出力を調整する第1調整処理と、当該加工出力が、第1調整処理での調整量と合わせてレーザ加工時の目標値となるように、λ/2波長板61を駆動させてレーザ光Lの出力を調整する第2調整処理と、を実行する。
【0084】
このように、レーザ加工装置1では、アッテネータ6と空間光変調器7との両方によりレーザ光Lの出力の調整が行われる。これにより、アッテネータ6のみを用いた場合と比較して、目的とする調整量のうちの空間光変調器7の負担分だけアッテネータ6が負担する調整量が低減され、λ/2波長板61の駆動量が低減される。よって、λ/2波長板61の駆動量が必要な量に達するまでの時間が短縮され、結果的に、レーザ光Lの出力の調整に係る時間が短縮可能とされる。さらに、λ/2波長板61の駆動量が低減されることから、回転ステージ62といったλ/2波長板61を機械的に駆動する装置の損耗が抑制される。
【0085】
また、レーザ加工装置1は、対象物11におけるレーザ光Lの集光点Cが対象物11に対して相対移動するようにステージ20及びレーザ照射部30の少なくとも一方を移動させる移動部40を備えている。そして、制御部50は、移動部40を制御することにより集光点CをX負方向に相対移動させ、対象物11にレーザ光Lを走査して対象物11のレーザ加工を行う第1加工処理(パスPT1)と、第1加工処理の後に、移動部40を制御することにより、集光点CをX正方向に相対移動させ、対象物11にレーザ光Lを走査して対象物11のレーザ加工を行う第2加工処理(パスPT2)と、を実行する。そして、制御部50は、第1加工処理と第2加工処理との間において、第1調整処理及び第2調整処理を実行する。
【0086】
このように、一方向にレーザ光Lを走査(往路)した後に反対方向にレーザ光Lを走査(復路)する往復加工を行う場合であって、往路と復路との間にレーザ光Lの出力の調整を行う場合には、当該調整に係る時間が長くなると、往路と復路との間の待ち時間が長くなり、レーザ加工の全体に係る時間が長くなる。よって、この場合には、上記のようにレーザ光Lの出力の調整に係る時間を短縮すれば、往路と復路との間の待ち時間が削減されてレーザ加工の全体に係る時間が短縮される。すなわち、このように往復加工を行う場合には、特に、レーザ光Lの出力の調整に係る時間を短縮することが有効となる。
【0087】
また、レーザ加工装置1では、制御部50は、第1調整処理及び第2調整処理の前において、第1加工処理での目標値と第2加工処理での目標値との出力差分を算出する算出処理と、調整量の異なる複数の調整パターンから、算出処理で算出した出力差分に応じた調整量となる調整パターンを選択する選択処理と、選択処理の後に、選択処理で選択された調整パターンを含む変調パターンが空間光変調器7に表示されている状態において、加工出力をモニタしつつλ/2波長板61を駆動することにより、加工出力が第2加工処理での目標値となるλ/2波長板61の駆動量を取得する取得処理と、を含むキャリブレーション処理を実行する。このように、第1調整処理及び第2調整処理に先立ってキャリブレーションを行うことにより、第1調整処理及び第2調整処理において、より正確且つ迅速にレーザ光Lの出力の調整を行うことができる。
【0088】
また、レーザ加工装置1では、制御部50は、調整量の異なる複数の調整パターンのそれぞれと、それぞれの調整パターンを空間光変調器7に表示するための制御値と、を関連付けたテーブルを保持しており、選択処理では、テーブルを参照することにより、算出処理で算出した出力差分に応じた調整量となる調整パターンを選択する。このため、キャリブレーション処理を迅速に行うことができる。
【0089】
また、レーザ加工装置1では、制御部50は、第1加工処理によって集光点CがX負方向に相対移動され、集光点Cが対象物11から外れたタイミングで第1調整処理及び第2調整処理を開始する。これにより、第1調整処理及び第2調整処理に係る時間を、集光点Cが対象物11から退出されて集光点Cの相対移動が停止するまでの間の時間に重複させることにより、往復加工における往路と復路との間の待ち時間をさら削減することが可能となる。
【0090】
さらに、レーザ加工装置1は、空間光変調器7と集光レンズ33との間に配置され、空間光変調器7から出射されたレーザ光Lの少なくとも一部を遮蔽するためのダンパ36を備えている。そして、制御部50は、第1調整処理において、レーザ光Lを複数の回折光に分岐するための回折格子パターンを調整パターンとして含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、複数の回折光のうちの1次の回折光がダンパ36によって遮蔽されて集光レンズ33に入射しないようにレーザ光Lを変調する。このため、空間光変調器7を用いてレーザ光Lの出力を容易且つ確実に調整することができる。
【0091】
以上の実施形態は、本発明の一態様を説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、任意に変形された態様であり得る。
[第1変形例]
【0092】
例えば、図8に示された上記実施形態に係るレーザ加工方法では、第1調整処理において、図6の(b)のような回折格子パターンが入射領域の全体に設定された調整パターンを含む変調パターンP1を用いる場合を例示した。しかし、第1調整処理では、図7の(a)のように、入射領域の一部に回折格子パターンが設定されることによってスリットが形成されたスリットパターンを調整パターンとして含む変調パターンP2を用いることもできる。変調パターンP1を用いる場合には、選択処理において、制御値としての諧調値が異なる複数の回折格子パターンから適切な調整量となるものを選択した。一方で、例えば図7の(a)の変調パターンP2を用いる場合には、選択処理において、制御値としてのスリット幅Wが異なる複数のスリットパターンから適切な調整量となるものを選択することができる。
【0093】
図12は、そのような場合のレーザ加工方法を示すフローチャートである。図12に示されるように、第1変形例に係るレーザ加工方法は、図8に示されたレーザ加工方法と比較すると、工程S1と工程S2との間に工程S8をさらに備える点で主に相違している。工程S8について具体的に説明する。工程S8では、制御部50が、調整量の異なる複数のスリットパターンのそれぞれと、それぞれのスリットパターンを空間光変調器7に表示するための制御値(スリット幅W)と、を関連付けたテーブルを取得する。
【0094】
そのために、制御部50は、空間光変調器7に表示するスリットパターンのスリット幅Wを変化させながら、例えば集光レンズ33の直下に配置されたパワーメータの出力信号を入力することによって、加工出力をモニタする。これにより、制御部50は、複数のスリット幅Wのそれぞれと、各スリット幅Wのときのレーザ光Lの加工出力と、を関連付けたテーブルを取得する。このようなテーブルの一例は以下のとおりである。なお、以下のテーブルの加工出力の値は、レーザ光Lの全体がダンパ36を通過した場合の加工出力を100とした場合の値である。
【0095】
スリット幅 加工出力
0 0
20 10
40 30
60 50
80 70
100 90
120 100
【0096】
この場合、例えば、制御部50が、スリット幅Wが100のスリットパターンを含む変調パターンP2を空間光変調器7に表示させた場合、空間光変調器7を経たレーザ光Lは、全体の90%がダンパ36を通過して集光レンズ33に入射し、全体の10%がダンパ36により遮蔽されることとなる。結果的に、加工出力が10%程度減衰されることとなる。したがって、上記実施形態のように、パスPT1での加工出力の目標値が5Wであり、パスPT2での加工出力の目標値が1Wであり、出力差分が4Wである場合には、例えば、制御部50が、40のスリット幅Wのスリットパターンを選択して変調パターンP2を空間光変調器7に表示させることにより、加工出力を70%程度減衰させて1.7W程度とすることができる。
【0097】
このように、空間光変調器7の変調面7aの入射領域の一部に回折格子パターンが設定されたスリットパターンを用いる場合、入射領域の全体に回折格子パターンを設定する場合と比較して、例えばビーム形状を楕円状にコントールすることが可能であるといったように、ビーム形状の設定の自由度が確保されやすい。一方で、入射領域の全体に回折格子パターンを設定する場合には、ビーム品質が良好となる。
[第2変形例]
【0098】
ここで、図13の(a)は、空間光変調器7の変調面7aに表示された変調パターンP4を示す図である。変調パターンP4は、空間光変調器7の変調面7aにおける入射領域の外側に表示されるマーキング7Mを含む。マーキング7Mの形状は任意であるが、ここでは、2次元の格子状である。図13の(b)は、カメラ37により取得されたレーザ光Lの画像70である。カメラ37には、空間光変調器7を介したレーザ光Lの像が形成される。このため、空間光変調器7にマーキング7Mを含む変調パターンP4が表示されている状態では、画像70にもマーキング7Mに対応した像70Mが生じることとなる。よって、変調パターンP4と画像70とを比較することにより、空間光変調器7に正しく変調パターンP4が表示されているか否か、すなわち、空間光変調器7の正常に動作がしているか否かの判定を行うことが可能となる。
【0099】
そこで、本変形例に係るレーザ加工装置1では、制御部50が、空間光変調器7から出射されたレーザ光Lの画像70と、変調パターンP4のマーキング7Mとの比較に基づいて、空間光変調器7の動作状態を判定する判定処理を実行する。この判定処理では、制御部50は、画像70(像70M)とマーキング7Mとが一致する場合には、空間光変調器7の動作が正常と判定し、画像70(像70M)とマーキング7Mとが一致しない場合には、空間光変調器7の動作が以上であると判定することができる。
[第3変形例]
【0100】
ここで、上記実施形態では、空間光変調器7を用いた第1調整処理と、アッテネータ6を用いた第2調整処理とが、少なくとも一部が互いに重複しつつ、集光点Cが対象物11から外れたタイミングで開始される例について説明した。
【0101】
しかし、第1調整処理を行わずに、アッテネータ6のみでレーザ光Lの加工出力の調整を行う場合であっても、同様のタイミングで実施されることにより、往復加工時の待機時間を削減できる。すなわち、レーザ光Lの加工出力の調整をアッテネータ6のみで行う場合には、上記実施形態のようにアッテネータ6と空間光変調器7とを併用する場合と比較して、加工出力の調整に係る時間が長くなるものの、当該加工出力の調整に係る時間を集光点Cの加減速に係る時間と重複させることにより、往復加工時の待機時間を削減できるのである。
【0102】
図14の(a)~(e)は、この場合の一連の動作を示す図である。図14の(a)に示されるように、対象物11を保持したステージ20がX正方向に移動されることにより、集光点Cが、X負方向に相対移動させられ、対象物11のX正方向の外縁から対象物11の内部に進入される(第1加工処理が開始される)。その後、図14の(b)に示されるように、集光点Cの相対移動が進められ、集光点Cが対象物11のX負方向の外縁に到達して対象物11から退出される(第1加工処理が完了する)。このこき、集光点Cが対象物11から退出されたことを示す信号を、制御部50が取得する。この信号は、移動部40の第1ユニット41からのステージ20の移動量を示す信号であってもよいし、対象物11の入射面(第1面11a)の変位を取得するAFユニットからの信号であってもよい。
【0103】
制御部50は、集光点Cが対象物11から退出されたことを示す信号を入力すると、アッテネータ6の回転ステージ62を制御することにより、λ/2波長板61を駆動して加工出力の調整を開始する。すなわち、制御部50は、集光点Cが対象物11から退出されたタイミングで、アッテネータ6による加工出力の調整処理を開始する。例えば、第1加工処理における加工出力の目標値が5Wであり、続く第2加工処理における加工処理の目標値が1Wである場合には、制御部50は、4Wの出力差分の分だけ加工出力が減衰するように、λ/2波長板61を駆動させる。
【0104】
これと共に、図14の(c)に示されるように、集光点Cの相対移動が停止された後に、ステージ20がX負方向に移動されることにより、集光点CのX正方向への相対移動が開始される。図14の(d)に示されるように、集光点Cは、対象物11のX負方向の外縁から対象物11の内部に進入される(第2加工処理が開始される)。その後、図14の(e)に示されるように、集光点Cの相対移動が進められ、集光点Cが対象物11のX正方向の外縁に到達して対象物11から退出される(第2加工処理が完了する)。このこき、集光点Cが対象物11から退出されたことを示す信号を、制御部50が取得する。その後、さらなる加工を行う場合には、このタイミングで加工処理の調整がさらに行われる。
【0105】
このように、アッテネータ6を用いた加工出力の調整処理に係る時間を、集光点Cが対象物11から退出されて集光点Cの相対移動が停止するまでの間の時間に重複させることにより、往復加工における往路と復路との間の待ち時間をさら削減することが可能となる。
【0106】
この場合のレーザ加工装置について、以下に付記する。対象物を支持するための支持部と、レーザ光を出射するための光源と、前記光源から出射された前記レーザ光を前記支持部に支持された前記対象物に照射するためのレーザ照射部と、少なくとも前記レーザ照射部を制御することにより、前記対象物のレーザ加工を行うための制御部と、を備え、前記レーザ照射部は、前記光源から出射された前記レーザ光の出力を、波長板の駆動量に応じた調整量で調整して出射するためのアッテネータと、アッテネータから出射された前記レーザ光を、前記支持部に支持された前記対象物に向けて集光するための集光レンズと、を有し、前記制御部は、前記集光レンズから出射される前記レーザ光の出力である加工出力が、レーザ加工時の目標値となるように、前記加工出力を調整する調整処理と、前記調整処理の後に、出力が調整された前記レーザ光により前記レーザ加工を行うレーザ加工処理と、を実行する、レーザ加工装置。
[その他の変形例]
【0107】
以上の例では、対象物11に対して直線状のラインAが設定され、そのラインAに対して2つの位置Z1,Z2の2つのパスPT1,PT2での加工を行う場合について説明した。しかし、ラインAは、例えば、対象物11の外縁と同心の円形状に設定されていてもよいし、Z方向について1つ以上の任意のパス数での加工を行うことができる。また、上記のように、レーザ光Lの一部である高出力のビームをダンパ36で遮蔽する場合には、ダンパ36を冷却するための冷却部を設けることが可能である。冷却部の冷却方式については、水冷や空冷等、任意の方式を採用できる。
【符号の説明】
【0108】
1…レーザ加工装置、6…アッテネータ、7…空間光変調器、10…光源、11…対象物、20…ステージ(支持部)、30…レーザ照射部、33…集光レンズ、40…移動部、50…制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14