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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】発現及び分泌システム
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240802BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240802BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20240802BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240802BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/00
C07K7/08
C12N15/13
C12N15/62 Z ZNA
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020188390
(22)【出願日】2020-11-12
(62)【分割の表示】P 2018046320の分割
【原出願日】2013-07-03
(65)【公開番号】P2021045139
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2020-12-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】61/668,397
(32)【優先日】2012-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/852,483
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/819,063
(32)【優先日】2013-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】テーザー, デヴィン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, シャオチョン
(72)【発明者】
【氏名】デニス, マーク
(72)【発明者】
【氏名】ホッツェル, イシドロ
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】小金井 悟
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-516195(JP,A)
【文献】特表2009-535063(JP,A)
【文献】特表2011-514807(JP,A)
【文献】Protein Expression and Purification,2000,vol.20,no.2,p.252-264
【文献】J Cell Sci Suppl,1989,vol.11,p.115-137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファージディスプレイ工程において発現されるポリペプチドであって、N末端からC末端方向に、
(i)配列番号3のアミノ酸配列を含むシグナルペプチド、ここで、前記シグナルペプチドは、原核細胞及び真核細胞の両方で機能的である
(ii)VH-HVR1、VH-HVR2及びVH-HVR3を含む可変重鎖(VH)ドメイン;又は
VL-HVR1、VL-HVR2及びVL-HVR3を含む可変軽鎖(VL)ドメイン;及び
(iii)コートタンパク質又はアダプタータンパク質
を含宿主細胞において、前記シグナルペプチドは最初に翻訳され、膜を通過した後に切断される、ポリペプチド。
【請求項2】
前記VHドメインが、CH1ドメインに対してN末端であり、前記CH1ドメインが、コートタンパク質又はアダプタータンパク質に対してN末端である、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記VLドメインが、CLドメインに対してN末端である、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記CLドメインが、コートタンパク質又はアダプタータンパク質に対してN末端である、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記VH又はVLドメインが、ユーティリティペプチドに連結される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
ユーティリティペプチドが、コントロールタンパク質、タグ、及び標識からなる群から選択される、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記コントロールタンパク質が、gDタンパク質、又はその断片である、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記コートタンパク質が、バクテリオファージM13、f1又はfdのpI、pII、pIII、pIV、pV、pVI、pVII、pVIII、pIX及びpXからなる群から選択される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記コートタンパク質が、pIIIタンパク質のアミノ酸267-421又は262-418である、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
ファージディスプレイ工程において発現されるポリペプチドであって、N末端からC末端方向に、
(i)配列番号3のアミノ酸配列を含むシグナルペプチド、ここで、前記シグナルペプチドは、原核細胞及び真核細胞の両方で機能的である;
(ii)VH-HVR1、VH-HVR2及びVH-HVR3を含む可変重鎖(VHドメイン;又は
VL-HVR1、VL-HVR2及びVL-HVR3を含む可変軽鎖(VL)ドメイン;及び
(iii)Fc領域
を含宿主細胞において、前記シグナルペプチドは最初に翻訳され、膜を通過した後に切断される、ポリペプチド。
【請求項11】
体断片である、請求項10に記載のポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2012年7月5日に出願された米国仮出願番号61/668397、2013年3月15日に出願された61/852483及び2013年5月3日に出願された61/819063の利益を主張し、それらの全ては、本明細書にその全体が参考として援用される。
【技術分野】
【0002】
発明の分野
本発明は、核酸がファージディスプレイのために原核細胞に形質転換された場合には一のFab融合タンパク質、核酸が発現及び精製のために真核細胞にトランスフェクトされた場合には別個又は同一のFab融合タンパク質の発現及び分泌のための、発現及び分泌系及びその使用方法に関する。また、本明細書で提供されるのは、核酸分子、ベクター及びそのようなベクター及び核酸分子を含む宿主細胞である。
【背景技術】
【0003】
背景
繊維状ファージ粒子上のペプチド又はタンパク質のファージディスプレイは、変異体ペプチド又はタンパク質の大きなプールから所望の特性を有するペプチド又はタンパク質の選択を可能にするインビトロの技術である(McCafferty et al., Nature, 348: 552-554 (1990); Sidhu et al., Current Opinion in Biotechnology, 11: 610-616 (2000); Smith et al., Science, 228: 1315-1317 (1985))。ファージディスプレイは、抗体の検出の場において、Fabのような抗体断片を含む、ペプチド又はタンパク質の多様なライブラリーを、後に目的の特定の抗原への結合のために選択される、糸状ファージ粒子の表面上に提示するために使用することができる。抗体断片は、抗体断片の遺伝子をファージコートタンパク質の遺伝子に対して融合することによって、繊維状ファージ粒子の表面上に提示することができ、コードされた抗体断片を表面上に表示するファージ粒子を生じる。この技術は、大きなファージライブラリーから、多数の抗原に対して所望の親和性を有する抗体断片の単離を可能にする。
【0004】
ファージに基づく抗体発見のため、選択された抗体断片及び機能アッセイ(標的結合、細胞ベースの活性アッセイ、インビボでの半減期など)におけるそれらの同族IgGの特性の評価は、ファージディスプレイのために使用されたベクターのうち、HC及びLCをコードするDNA配列を、IgG発現用の哺乳類発現ベクター中へサブクローニングすることによる、完全長のIgGへのFab重鎖(HC)配列と軽鎖(LC)配列の再フォーマットを必要とする。選択したHC/LCペアの数十又は数百をサブクローニングする労力の要るプロセスは、ファージに基づく抗体の検出プロセスにおける主要なボトルネックを表している。更に、選択されたFabのかなりの割合は、一度再フォーマットされると、初期スクリーニングアッセイにおいて満足に機能することができないので、この再フォーマット化/スクリーニング工程を通して運ばれたクローンの数を増やすことにより、最終的な成功確率を大幅に増加させる。
【0005】
本明細書では、大腸菌に形質転換された場合のFabファージ融合体の発現を駆動するための発現及び分泌系の生成、及び哺乳動物細胞にトランスフェクトされた場合に、同一のFab断片を有する完全長IgGの発現の駆動の生成を説明する。我々は、マウスの結合性免疫グロブリンタンパク質からの哺乳動物シグナル配列(mBiP)(Haas et al., 免疫グロブリン重鎖結合タンパク質(Immunoglobulin heavy chain binding protein), Nature, 306: 387-389 (1983); Munro et al., ERにおけるHsp70様タンパク質は、78kdのグルコース調節タンパク質及び免疫グロブリン重鎖結合タンパク質と同一である(An Hsp70-like protein in the ER: identify with the 78 kd glucose-regulated protein and immunoglobulin heavy chain binding protein), Cell, 4:291-300 (1986) は、原核細胞及び真核細胞の両方で効率的なタンパク質の発現を駆動することができることを示している。ヒトIgG HCのヒンジ領域内に挿入されたファージ融合ペプチドを含有する合成イントロンを除去するために、我々は、哺乳動物のmRNAスプライシングを用いて、宿主細胞依存的に二つの異なるタンパク質:大腸菌においてファージディスプレイアダプターペプチドに融合したFab断片及び哺乳動物細胞における天然型ヒトIgGを生成することができる。この技術は、サブクローニングを必要としない、哺乳動物細胞におけるその後の発現及び同族完全長IgGの精製を伴う、ファージディスプレイライブラリーからの、目的の抗原に結合するFab断片の選択を可能にする。
【発明の概要】
【0006】
概要
一態様において、本発明は、(1)原核細胞における非原核生物起源の機能のシグナル配列及び(2)異なったFab融合タンパク質は、mRNAプロセシングが原核細胞でなく真核細胞において起きる場合に、宿主細胞依存的に同一の核酸分子から発現される(原核細胞中のFabファージ融合タンパク質及び真核細胞中のFab-Fc融合タンパク質)ことを実証する実験的発見に一部基づいている。従って、本明細書中に記載されるのは、サブクローニングを必要とせずに、核酸が、原核生物宿主細胞(例えば大腸菌)に形質転換された場合に、細菌におけるファージディスプレイのための、ファージ粒子タンパク質、コートタンパク質又はアダプタータンパク質に融合したFab断片、及び核酸が真核細胞(例えば、哺乳動物細胞)に形質転換された場合に、Fcに融合したFab断片の発現及び分泌のための核酸分子、及びその使用の方法である。
【0007】
一実施態様において、本発明は、可変重鎖ドメイン(VH)のVH-HVR1、VH-HVR2及HVR3を含む第一ポリペプチド、及び/又は可変軽鎖ドメインのVL-HVR1、VL-HVR2及びVL-HVR3を含む第二ポリペプチドをコードする核酸分子を提供し、ここで、その核酸分子は、原核細胞及び真核細胞の両方で機能的であり、及び、第一及び/又は第二ポリペプチド配列に作動可能に連結される核酸配列によってコードされているシグナル配列を更にコードし、完全長抗体は、核酸分子の第一及び/又は第二ポリペプチドから発現される。別の実施態様において、第一及び/又は第二ポリペプチドは、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを更に含む。更なる実施態様では、VHドメインはCH1に連結され、VLドメインはCLに連結される。
【0008】
一態様において、本発明は、原核細胞及び真核細胞内で、可変重鎖ドメイン(VH)のVH-HVR1、VH-HVR2及びVH-HVR3及び可変軽鎖ドメイン(VL)のVL-HVR1、VL-HVR2及びVL-HVR3をコードし、VHのHVR及び/又はVLのHVRに作動可能に連結され、VHのHVR及びVLのHVRの発現を可能にする、原核生物プロモーター及び真核生物プロモーターを含む核酸分子を提供し、ここで、VH及び/又はVLのHVRは、真核細胞によって発現された場合にユーティリティペプチド(utility peptide)に連結され、核酸は、原核細胞及び真核細胞の両方で機能的であるシグナル配列を更にコードする。
【0009】
一態様において、本発明は、原核細胞及び真核細胞内で、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインをコードし、VHドメイン及び/又はVLドメインに作動可能に連結され、VHドメイン及び/又はVLドメインの発現を可能にする、原核生物プロモーター及び真核生物プロモーターを含む核酸分子を提供し、ここで、VHドメイン及び/又はVLドメインは、真核細胞によって発現された場合にユーティリティペプチド(utility peptide)に連結され、核酸は、原核細胞及び真核細胞の両方で機能的であるシグナル配列を更にコードする。
【0010】
一実施態様において、VL及びVHはユーティリティペプチドに連結される。更なる実施態様では、VHはCH1に更に連結され、VLはCLに連結される。ユーティリティペプチドは、Fc、タグ、標識及びコントロールタンパク質からなる群から選択される。一実施態様において、VLは、コントロールタンパク質に連結され、VHはFcに連結される。例えば、コントロールタンパク質は、gDタンパク質、又はその断片である。
【0011】
更に別の実施態様において、本発明の第一及び/又は第二ポリペプチドは、コートタンパク質(例えば、バクテリオファージM13、f1又はfdのpI、pII、pIII、pIV、pV、pVI、pVII、pVIII、pIX及びpX、又はそれらの断片であって、例えばpIIIタンパク質のアミノ酸267-421又は262-418等(「pI」、「PII」、「pIII」、「pIV」、「pV」、「pVI」、「pVII」、「pVIII」、「pIX」、及び「pX」は本明細書で使用される場合、特に断らない限り、完全長タンパク質又はその断片を指す))又はアダプタータンパク質
又はその変異体(改変され得る配列番号12及び配列番号13のアミノ酸は、限定されないが、下線で太字で記載されるものを含む)に融合されており、ここで、変異体はアミノ酸の改変を有し、その改変は、アダプタータンパク質の、別のアダプタータンパク質、又は配列番号6(ASIARLRERVKTLRARNYELRSRANMLRERVAQLGGC)又は配列番号7(ASLDELEAEIEQLEEENYALEKEIEDLEKELEKLGGC))からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は、配列番号8(GABA-R1:EEKSRLLEKENRELEKIIAEKEERVSELRHQLQSVGGC)又は配列番号9(GABA-R2:TSRLEGLQSENHRLRMKITELDKDLEEVTMQLQDVGGC)又は配列番号14(Cys:AGSC)又は配列番号15(Hinge:CPPCPG)のアミノ酸配列を含むポリペプチドへの親和性を維持するか又は増加させる。コートタンパク質又はアダプタータンパク質をコードする核酸分子は合成イントロン内に含まれる。合成イントロンは、VHドメインをコードする核酸及びFcをコードする核酸との間に位置する。合成イントロンは、天然に存在するイントロンが、IgG1からのイントロン1、イントロン2又はイントロン3を含む群から選択され得る、IgG1からの天然に存在するイントロンをコードする核酸を更に含む。
【0012】
一実施態様において、本発明は、原核細胞においては第一融合タンパク質が発現され、真核細胞においては第二融合タンパク質が発現される核酸分子を提供する。第一融合タンパク質と第二融合タンパク質は、同一であるか異なる場合がある。更なる実施態様において、第一融合タンパク質は、Fabファージ融合タンパク質(例えば、Fabファージ融合タンパク質はpIIIに融合したVH/CH1を含む)及び第二融合体は、Fab-Fc又はFab-ヒンジ-Fc融合タンパク質であってもよい(例えば、Fab-Fc又はFab-ヒンジ-Fc融合タンパク質は、Fcに融合したVH/CH1を含む)。
【0013】
一実施態様において、本発明は、シグナル配列は、真核細胞において、細胞の小胞体又は外部へのタンパク質の分泌を指示し、及び/又はシグナル配列は、原核細胞において、細胞のペリプラズム又は外部へのタンパク質分泌を指示する核酸分子を提供する。更に、シグナル配列は、配列番号10(XMKFTVVAAALLLLGAVRA、ここでX=0アミノ酸又は1又は2アミノ酸(例えば、X=M(配列番号3;MMKFTVVAAALLLLGAVRA;野生型mBIP)又はX=MT(配列番号19;MTMKFTVVAAALLLLGAVRA)又はXは存在しない(配列番号20;MKFTVVAAALLLLGAVRA)のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードする核酸配列により、又はmBIP(配列番号4;ATG ATG AAA TTT ACC GTG GTG GCG GCG GCG CTG CTG CTG CTG GGC GCG GTC CGC GCG)及びその変異体をコードする核酸配列により、又は配列番号3(mBIPアミノ酸配列)から選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%アミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列によりコードされ得、且つここではシグナル配列は原核細胞及び真核細胞の両方で機能し、又は配列番号11(コンセンサスmBIP配列、X ATG AAN TTN ACN GTN GTN GCN GCN GCN CTN CTN CTN CTN GGN GCN GTN CGN GCN、ここでN=A、T、C又はG、ここでX=ATG(配列番号5;ATG ATG AAN TTN ACN GTN GTN GCN GCN GCN CTN CTN CTN CTN GGN GCN GTN CGN GCN)、X=ATG ACC(配列番号21;ATG ACC ATG AAN TTN ACN GTN GTN GCN GCN GCN CTN CTN CTN CTN GGN GCN GTN CGN GCN)又はX=は存在しない (配列番号22; ATG AAN TTN ACN GTN GTN GCN GCN GCN CTN CTN CTN CTN GGN GCN GTN CGN GCN)の核酸配列により、又は配列番号16(mBIP.Opt1:ATG ATG AAA TTT ACC GTT GTT GCT GCT GCT CTG CTA CTT CTT GGA GCG GTC CGC GCA)、配列番号17(mBIP.Opt2:ATG ATG AAA TTT ACT GTT GTT GCG GCT GCT CTT CTC CTT CTT GGA GCG GTC CGC GCA)及び配列番号18(mBIP.Opt3:ATG ATG AAA TTT ACT GTT GTC GCT GCT GCT CTT CTA CTT CTT GGA GCG GTC CGC GCA)の群から選択される核酸配列によりコードされ得る。
【0014】
更なる実施態様において、核酸分子中の合成イントロンは、その5’末端でCH1をコードする核酸及びその3’末端でFcをコードする核酸に隣接している。更に、CH1ドメインをコードする核酸は、天然のスプライスドナー配列の一部、及びFcをコードする核酸は、天然のスプライスアクセプター配列の一部を含む。あるいは、CH1ドメインをコードする核酸は、改変したスプライスドナー配列の一部を含み、ここで改変されたスプライスドナー配列は少なくとも一の核酸残基の改変を含み、そしてその改変はスプライシングを増加させる。
【0015】
一実施態様において、原核生物のプロモーターは、phoA、Tac、Tphac又はLacプロモーターであり、及び/又は真核生物プロモーターは、CMV又はSV40又はモロニーマウス白血病ウイルスのU3領域又はヤギ関節炎脳炎ウイルスのU3領域又はビスナウイルスのU3領域又はレトロウイルスのU3領域配列である。原核生物のプロモーターによる発現は、細菌細胞内で起き、真核生物のプロモーターによる発現は、哺乳動物細胞内で起こる。更なる実施態様において、細菌細胞は大腸菌細胞であり、真核細胞は、酵母細胞、CHO細胞、293細胞又はNSO細胞である。
【0016】
別の実施態様において、本発明は、本明細書に記載の核酸分子を含むベクター、及び/又はそのベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。宿主細胞は、細菌細胞(例えば大腸菌細胞)又は真核細胞(例えば酵母細胞、CHO細胞、293細胞又はNSO細胞)であり得る。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、核酸が発現されるように、本明細書に記載の宿主細胞を培養することを含む、抗体を生成するための方法を提供する。本方法は、宿主細胞により発現された抗体を回収する工程を更に含み、そして抗体は宿主培養培地から回収される。
【0018】
一態様において、本発明は、配列番号8、9、12、13、14又は15のアミノ酸配列の少なくとも一残基の改変を含むアダプタータンパク質を提供する。一実施態様において、アミノ酸配列は、配列番号6(ASIARLRERVKTLRARNYELRSRANMLRERVAQLGGC)又は配列番号7(ASLDELEAEIEQLEEENYALEKEIEDLEKELEKLGGC)からなる群から選択される。一実施態様において、本発明は、そのようなアダプタータンパク質をコードする核酸を提供する。
【0019】
一態様において、本発明は、原核細胞及び真核細胞の両方で機能的である、配列番号3のアミノ酸配列を含むmBIPポリペプチド又はその変異体、又は配列番号3のアミノ酸配列と85%の相同性を持つアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。一実施態様において、本発明は、原核細胞及び真核細胞の両方において、配列番号3のアミノ酸配列を含むmBIPポリペプチド又はその変異体を発現する方法を提供する。一実施態様において、本発明は、配列番号3のアミノ酸配列を含むmBIP配列又はその変異体を発現する細菌細胞を提供する。
【0020】
一態様において、本発明は、合成イントロンが抗体のVHドメインをコードする核酸とFc又はヒンジをコードする核酸の間、抗体のCH2とCH3ドメインをコードする核酸の間、抗体のヒンジ領域とCH2ドメインをコードする核酸の間に位置することを与える。
【0021】
一態様において、本発明は、配列番号3のアミノ酸配列を含むシグナル配列、又はその変異体、VHドメインがVLドメインのN末端に連結された可変重鎖ドメイン(VH)及び可変軽鎖ドメイン(VL)を含むポリペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列を含むシグナル配列、又はその変異体、VHドメインがVLドメインのC末端に連結された可変重鎖ドメイン(VH)及び可変軽鎖ドメイン(VL)を含むポリペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列を含むシグナル配列、及び可変重鎖ドメイン(VH)のVH-HVR1、VH-HVR2、及びVH-HVR3を含むポリペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列を含むシグナル配列、及び可変軽鎖ドメイン(VL)のVL-HVR1、VL-HVR2、及びVL-HVR3を含むポリペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列を含むシグナル配列、又はその変異体、可変重鎖ドメイン(VH)のVH-HVR1、VH-HVR2、及びVH-HVR3、可変軽鎖ドメイン(VL)のVL-HVR1、VL-HVR2、及びVL-HVR3を含むポリペプチドを含む。一実施態様において、本発明のポリペプチドは、抗体又は抗体断片である。本発明の抗体又は抗体断片は、F(ab’)2及びFv断片、ダイアボディー、及び一本鎖抗体分子からなる群から選択され得る。
【0022】
一態様において、本発明は、タンパク質のファージディスプレイを増強するための変異型ヘルパーファージを含む。一実施態様において、ヘルパーファージのヌクレオチド配列はpIIIにアンバー変異を含み、そのアンバー変異を含むヘルパーファージは、ファージ上のpIIIに融合したタンパク質のディスプレイを増強する。更なる実施態様においては、アンバー変異は、M13KO7の核酸のヌクレオチド2613、2614及び2616における変異である、請求項70に記載のヌクレオチド配列である。更に別の実施態様においては、M13KO7の核酸のヌクレオチド2613、2614及び2616における変異は、アンバー終止コドンを導入する、請求項71に記載のヌクレオチド配列である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(A)4つの異なる真核生物のシグナル配列(mBiP、Gaussia princeps、yBGL2、HGH)の制御下で、抗Her2のFabを示す精製されたファージのHer2ファージELISA。一般的にファージミドに使用される熱安定性エンテロトキシンII(STII)原核生物のシグナル配列は、ベンチマークとしての役割を果たす。(B)ファージライブラリーパニングにより得られた、野生型真核生物mBiPシグナル配列(mBiP.wt)に融合した抗Her2 Fabファージディスプレイ、及びコドンを最適化したバージョン(mBiP.Opt1、mBiP.Opt2及びmBip.Opt3(配列番号16-18))。
図2】(A)個々のクローンの30mLの293細胞懸濁培養からの発現収率及び(B)真核生物のmBiP又は原核生物の天然型IgG HC(VHS)シグナル配列のいずれかに対する融合体として発現されたhIgG1クローンの総統計。
図3】(A)3つの天然型イントロンを含むヒトIgG1 HCのゲノム構造。イントロン1は、ヒンジ領域の直前に存在する。(B)イントロン1又は3からの合成イントロンを含み、ファージアダプター融合ペプチドを含むHCコンストラクト。合成イントロンは、天然のイントロンスプライスドナー(D)とイントロン1又は3からのアクセプター(A)に隣接している。(C)イントロン1又は3からの合成イントロンを含み、ファージコート融合タンパク質を含むHCコンストラクト。合成イントロンは、天然のイントロンスプライスドナー(D)とイントロン1又は3からのアクセプター(A)に隣接している。(B)及び(C)の両方のコンストラクトは、アダプターペプチド又はファージコートタンパク質配列の3’末端に終止コドンを含む。
図4】(A)イントロン無し、ファージアダプターペプチドを含む合成イントロン(図3Bを参照)、又はファージコートタンパク質を含む合成イントロン(遺伝子IIIは、図3Cを参照)の何れかを含むコンストラクトからのh4D5 IgGの発現レベル。(B)トランスフェクトした細胞からのhIgG1 HCのRT-PCR。適切にスプライスされたmRNA HCについて予測される大きさは1650ntである。アダプター+イントロン1のコンストラクトにおけるバンドは、スプライシングされていない前駆体mRNAを表す。アダプターと遺伝子-III含有コンストラクト中の下側のバンドは、VHにおける潜在スプライスドナーによって誤ってスプライシングされる。
図5】(A)天然のイントロン1スプライスドナーで生成される点変異は、哺乳類のmRNAのコンセンサススプライスドナーへの適合性を向上させる。(B)イントロンスプライスドナーの最適化は、スプライシングされていない、及び誤ってスプライシングされたHCのmRNAの蓄積を排除し、(C)哺乳動物細胞における発現を、イントロンが存在しない場合に観察されるレベルまで増加させる。
図6】(A)pDV.5.0及び野生型KO7(一価ディスプレイ)又はアダプターKO7(多価ディスプレイ)の何れかを使用したディスプレイの調節。(B)三つの異なる哺乳動物細胞株におけるpDV.5.0からの4つの異なるmAbの発現。
図7】原核細胞及び真核細胞におけるポリペプチドの発現及び分泌のためのベクターの模式図。合成イントロンは、hIgG1からの天然に存在するイントロン配列の何れかとともに、アダプター配列、又はファージコートタンパク質の配列の何れかを含んでいてもよい。HC及びLCの両方とも、1)ORFの上流の哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーター、2)ORFの上流の細菌プロモーターのみ(図14も参照)、又は3)ORFの上流の哺乳動物プロモーターのみの何れかを有する可能性がある。HC及びLCの両方が、両方のプロモーターの種類を持っているコンストラクトが示される。アダプタペプチド融合体とともに遺伝子-IIIを含むカセット(pDV5.0、示される)は、合成イントロンがアダプターペプチド融合体を含む場合においてのみ存在するが、ファージコートタンパク質融合体が合成イントロンに存在しない場合には存在しない。
図8】M13ファージのpIII上に融合したタンパク質のディスプレイを増強する、変異ヘルパーファージアンバーKO7のpIIIのヌクレオチド配列(ヌクレオチド1579から2853(配列番号24))。アンバーKO7は部位特異的変異誘発によってM13KO7ヘルパーファージゲノムに導入されたアンバーコドンを有する。下線の残基は、コドン346でアンバー終止(TAG)を、及びM13KO7遺伝子IIIのコドン345でのAvrII制限部位のためのサイレント変異を導入するヌクレオチド2613、2614及び2616での変異(T2613C、C2614T及びA2616G)である。M13KO7のヌクレオチド1は、固有のHpaI制限部位の第三番目の残基である。
図9】アンバーKO7ヘルパーファージの使用によるM13のファージのpIII上のFab断片の増強されたディスプレイ。野生型M13KO7を含む従来の高ディスプレイファージミド(白菱形)は、野生型M13KO7がファージ生成のために使用される場合、Fabディスプレイのレベルを、低ディスプレイファージミドベクターによって達成されるものよりも有意に高く上昇させる(黒四角)。pIII中にアンバー変異を有する改変されたM13KO7(アンバーKO7)の使用は、低ディスプレイファージミド(閉三角形)のディスプレイレベルを野生型M13KO7(白菱形)の高ディスプレイファージミドのものへと上昇させる。
図10図10は、固定化VEGFに対する、実施例5に記載のナイーブ二重ベクターFabファージライブラリーのファージライブラリー選別から選択されるクローンの(ファージELISAによって測定される)結合を示す棒グラフである。4ラウンドの選択の後に個々のクローンを採取し、ファージ上清を、結合特異性を評価するために、固定化抗原(VEGF)及び無関係なタンパク質(Her2の)に対する結合について試験した。
図11図11は、BIAcore T100装置上でのFc捕獲アッセイにより測定される、VEGFに結合する抗原についてのBIAcoreによる、IgGフォーマットで選択されたファージクローンのスクリーニングを示す。配列解析及びファージELISAのために採取した96個のクローンを293S細胞にトランスフェクトし(1mL)、IgGの発現のために7日間培養した。上清を0.2μmで濾過し、ビアコアT100装置上でのFc-捕獲アッセイによるVEGF抗原の結合を評価するために使用した。
図12図12は、実施例5におけるVEGFパニング実験からのポジティブバインダーの配列を示す。8つのクローン(VEGF50(出現順にそれぞれ、配列番号25-27)、VEGF51(出現順にそれぞれ、配列番号28-30)、VEGF52(出現順にそれぞれ、配列番号31-33)、VEGF59出現順にそれぞれ、配列番号34-36)、VEGF55(出現順にそれぞれ、配列番号37-39)、VEGF60(出現順にそれぞれ、配列番号40-42)、VEGF61(出現順にそれぞれ、配列番号43-45)及びVEGF64(出現順にそれぞれ、配列番号46-48))の重鎖CDR配列が示される。全てのクローンは、同一の軽鎖CDR配列を共有する。
図13図13は、VEGFに対するファージソーティングから選択された選択された抗VEGF IgGの、VEGFのその天然受容体の一つであるVEGF-R1への結合を阻害する能力を示す。VEGFに対してのソーティングから選択された抗体は、CHO細胞で発現され、精製されたIgGは、VEGF-R1へのVEGFの結合を阻害する、選択されたクローンの能力を測定するために用いられた。一つのクローン(VEGF55)は、ベバシズマブ(アバスチン)のの3.5倍範囲内であるIC50でVEGF-R1結合を阻害した。
図14図14は、原核細胞及び真核細胞におけるポリペプチドの発現及び分泌のためのベクターの概略を示し、ここで、合成イントロンがhIgG1由来で天然に存在するイントロン配列の何れかとともに、pIIIを含み、そしてLCは、ORFの上流に細菌プロモーターを有し、そしてHCはORFの上流に哺乳類と細菌プロモーターの両方を有する。図7に示すベクターとは異なり、このベクター(pDV6.5)は、ファージ粒子への融合のための付加的なgIIIカセットを必要としない。大腸菌及び哺乳動物細胞における発現から生じるタンパク質は、ベクターの模式図の下に示されている。破線は、哺乳動物細胞においてスプライシングされた重鎖転写物中のイントロンを示す。IgG1のヒンジをコードする配列の一部は、大腸菌及び哺乳動物細胞の両方で発現されたタンパク質を包含することを可能にするために、ベクター中に繰り返されることに注意のこと。
図15図15は、pDV6.5から発現された完全長抗VEGF IgGの性質を示す。IgGを、100mLのトランスフェクトされたCHO細胞培養物中で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーにより精製した。精製されたIgGの最終収量を、非特異的結合を測定するために使用されるバキュロウイルスELISAでのスコアと一緒に示す。ファージフォーマット(ファージELISA)又はIgGフォーマット(ビアコア)での各クローンの正又は負の結合も示される。
【0024】
本発明の実施態様の詳細な記述
I.定義
用語「合成イントロン」は、本明細書において、CH1をコードする核酸とヒンジ-Fc又はFcをコードする核酸との間に位置している核酸のセグメントを定義するために使用される。「合成イントロン」は、ファージ粒子のタンパク質又はコートタンパク質(例えばPI、PII、pIII、pIV、PV、PVI、pVII、pVIII、pIX、pX)、又はアダプタータンパク質(例えば、ロイシンジッパーなど)、又はそれらの任意の組み合わせなどの、タンパク質合成のためにコードしない任意の核酸、タンパク質合成のためにコードしない任意の核酸であってもよい。一実施態様において、「合成イントロン」は、スプライス事象を可能にするスプライスドナー配列及びスプライスアクセプター配列の一部を含む。スプライスドナー配列及びスプライスアクセプター配列は、スプライス事象を可能にし、天然又は合成の核酸配列を含んでもよい。
【0025】
本明細書において、用語「ユーティリティーポリペプチド」は、タンパク質精製、タンパク質のタグ付け、タンパク質標識化(例えば、検出可能な化合物又は組成物(例えば、放射性標識、蛍光標識又は酵素標識)による標識化)に有用であるなど数多くの活動に有用であるポリペプチドを言及するために使用される。標識は、間接的に、アミノ酸側鎖、活性化されたアミノ酸側鎖、システイン改変抗体などとコンジュゲートさせることができる。例えば、抗体はビオチンとコンジュゲートすることができ、上述した標識の3つの広範なカテゴリーのいずれかが、アビジン又はストレプトアビジン、又はその逆にコンジュゲートさせることができる。ビオチンは、ストレプトアビジンに選択的に結合し、従って、標識はこの間接的な方法で抗体にコンジュゲートすることができる。あるいは、ポリペプチド変異体と標識の間接的結合を達成するために、ポリペプチド変異体は小ハプテン(例えば、ジゴキシン)とコンジュゲートされ、そして、上述した標識の異なるタイプのうちの1つは抗ハプテンポリペプチド変異体(例えば抗ジゴキシン抗体)とコンジュゲートされる。このように、ポリペプチド変異体との標識の間接的なコンジュゲーションを達成することができる(Hermanson, G. (1996) in Bioconjugate Techniques Academic Press, San Diego)。
【0026】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作動可能に連結」している。例えば、プレ配列又は分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されている場合、そのポリペプチドのDNAに作動可能に連結している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にある場合、コード配列と作動可能に連結している。一般的に、「作動可能に連結される」とは、それらが、核酸として、又はそれらによって発現されるタンパク質としてお互いに機能的な関係を有する様式で、連結されたDNA配列が核酸分子中に存在することを意味する。それらは、連続であってもなくてもよい。分泌リーダーの場合には、それらはしばしば連続しており、読取段階にある。しかし、エンハンサーは必ずしも連続している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが使用される。
【0027】
VHドメイン又はVLドメインは、異種タンパク質配列(例えば、VH又はVLドメイン)をコードする核酸が、ファージコートタンパク質(例えば、pII、pVI、pVII、pVIII又はpIX)をコードする核酸に直接挿入される場合に、ファージに「連結」される。原核細胞に導入された場合、コートタンパク質がVH又はVLドメインをディスプレイすることができるファージが生成される。一実施態様では、得られたファージ粒子は、ファージコートタンパク質のアミノ末端又はカルボキシ末端に融合した抗体断片をディスプレイする。
【0028】
本明細書で使用される用語「連結された」又は「連結」又は「連結」は、2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列が、それぞれペプチド結合又はホスホジエステル結合を介して一緒に共有結合することを意味し、そのような結合は結合される2つのアミノ酸配列又は核酸配列の間に任意の数の付加的アミノ酸配列又は核酸配列を含むことができる。例えば、第一と第二アミノ酸配列の間の直接ペプチド結合の連鎖又は第一のアミノ酸配列と第二のアミノ酸配列の間に一以上のアミノ酸配列を含む連鎖であっても良い。
【0029】
本明細書で用いられる「リンカー」とは、2以上のアミノ酸長のアミノ酸配列を意味する。リンカーは、天然の極性又は非極性アミノ酸から成り得る。リンカーは、例えば、2から100アミノ酸長、例えば2アミノ酸長と50アミノ酸長の間、例えば、3、5、10、15、20、25、30、35、40、45又は50アミノ酸長であり得る。リンカーは、例えば自己切断又は酵素的もしくは化学的切断により、「切断可能」であり得る。アミノ酸配列内の切断部位ならびにそのような部で切断する酵素及び化学物質は、当該技術分野において周知であり、本明細書にも記載する。
【0030】
用語「シグナル配列の機能」は、分泌されるタンパク質をER(真核生物において)又はペリプラズム(原核生物において)又は細胞の外側へと導くシグナル配列の生物学的活性をいう。
【0031】
本明細書で使用される「コントロールタンパク質」は、その発現が、タンパク質配列のディスプレイのレベルを定量化するために測定されるタンパク質配列を指す。例えば、タンパク質配列は、VH又はVLが、抗タグ抗体又はエピトープタグに結合する他の型の親和性マトリクスを用いた親和性精製によって容易に精製されることを可能にする「エピトープタグ」であり得る。タグポリペプチド及びそれらの適切なそれぞれの抗体は、ポリ-ヒスチジン(ポリ-His)又はポリ-ヒスチジン-グリシン(ポリ-his-gly)タグ;インフルエンザHAタグポリペプチド及びその抗体12CA5[Field et al., Mol. Cell. Biol., 8:2159-2165 (1988)];c-mycタグ並びにその8F9、3C7、6E10、G4、B7及び9E10抗体[Evan et al., Molecular and Cellular Biology, 5:3610-3616 (1985)];及び単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D(gD)タグ及びその抗体[Paborsky et al., Protein Engineering, 3(6):547-553 (1990)]が含まれる。他のタグポリペプチドは、Flag-ペプチド[Hopp et al., BioTechnology, 6:1204-1210 (1988)];KT3エピトープペプチド[Martin et al., Science, 255:192-194 (1992)];α-チューブリンエピトープペプチド[Skinner et al., J. Biol. Chem., 266:15163-15166 (1991)];及びT7遺伝子10タンパク質ペプチドタグ [Lutz-Freyermuth et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6393-6397 (1990)]を含む。
【0032】
本明細書で使用する「コートタンパク質」は,pIII、pVI、pVII、pVIIIの及びpIXを含むファージ粒子の成分である5つのカプシドタンパク質の何れかを指す。一実施態様において、「コートタンパク質」とは、タンパク質又はペプチドをディスプレイするために使用することができる(Phage Display, A Practical Approach, Oxford University Press, edited by Clackson and Lowman, 2004, p. 1-26を参照)。一実施態様において、コートタンパク質は、pIIIタンパク質又は一部の変異体、その一部及び/又はその誘導体であってもよい。例えば、M13ファージのタンパク質IIIのC末端残基267から421をコードする配列など、M13バクテリオファージのpIIIコートタンパク質のC末端部分(cP3)を使用することができる。一実施態様において、pIII配列は、配列番号1(AEDIEFASGGGSGAETVESCLAKPHTENSFTNVWKDDKTLDRYANYEGCLWNATGVVVCTGDETQCYGTWVPIGLAIPENEGGGSEGGGSEGGGSEGGGTKPPEYGDTPIPGYTYINPLDGTYPPGTEQNPANPNPSLEESQPLNTFMFQNNRFRNRQGALTVYTGTVTQGTDPVKTYYQYTPVSSKAMYDAYWNGKFRDCAFHSGFNEDPFVCEYQGQSSDLPQPPVNAGGGSGGGSGGGSEGGGSEGGGSEGGGSEGGGSGGGSGSGDFDYEKMANANKGAMTENADENALQSDAKGKLDSVATDYGAAIDGFIGDVSGLANGNGATGDFAGSNSQMAVGDGDNSPLMNNFRQYLPSLPQSVECRPFVFSAGKPYEFSIDCDKINLFRGVFAFLLYVATFMYVFSTFANILRNKES)のアミノ酸配列を含む。一実施態様において、pIII断片は、配列番号2(SGGGSGSGDFDYEKMANANKGAMTENADENALQSDAKGKLDSVATDYGAAIDGFIGDVSGLANGNGATGDFAGSNSQMAQVGDGDNSPLMNNFRQYLPSLPQSVECRPFVFGAGKPYEFSIDCDKINLFRGVFAFLLYVATFMYVFSTFANILRNKES)のアミノ酸配列を含む。
【0033】
本明細書で使用する「アダプタータンパク質」とは、溶液中の他のアダプタータンパク質配列と特異的に相互作用するタンパク質配列を意味する。一実施態様において、「アダプタータンパク質」とは、ヘテロ多量体化ドメインを含む。一実施態様において、アダプタータンパク質は、cJUNタンパク質又はFos蛋白質である。別の実施態様において、アダプタータンパク質は、配列番号6(ASIARLRERVKTLRARNYELRSRANMLRERVAQLGGC)又は配列番号7(ASLDELEAEIEQLEEENYALEKEIEDLEKELEKLGGC)の配列を含む。
【0034】
本明細書に記載されるように、「ヘテロ多量体化ドメイン」は生体分子に対して、ヘテロ多量体形成を促進し、ホモ多量体の形成を阻害するなどの改変や追加を指す。ホモダイマーよりもヘテロダイマーの形成について強い優先度を持つ任意のヘテロ二量体化ドメインが、本発明の範囲内にある。実例となる例として、限定されないが、例えば、米国特許出願公開第20030078385号(Arathoon et al. Genentech;ノブ・イントゥー・ホールを記載);国際公開第2007147901号(Kjaergaard et al. Novo Nordisk:イオン性相互作用を記載);国際公開第2009089004号(Kannan et al. Amgen:静電的ステアリング効果(electrostatic steering effects)を記載);国際公開第2011/034605号(Christensen et al. - Genentech;コイルドコイルを記載)を含む。また、例えば、ロイシンジッパーを記述するPack, P. & Plueckthun, A., Biochemistry 31, 1579-1584 (1992)、又はヘリックス・ターン・ヘリックスモチーフを記述するPack et al., Bio/Technology 11, 1271-1277 (1993) を参照。語句「ヘテロ多量体化ドメイン」及び「ヘテロ多二量体化ドメイン」は、本明細書にて互換的に用いられる。
【0035】
本明細書中で使用される用語「Fab融合タンパク質」は、原核細胞中のFabファージ融合タンパク質及び/又は真核細胞中のFab-Fc融合タンパク質を指す。Fab-Fc融合はまた、Fab-ヒンジ-Fc融合とすることもできる。
【0036】
用語「抗体」は最も広い意味で用いられ、様々な抗体構造を包含し、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び、所望の抗原結合活性を示す限り、抗体断片を含む。
【0037】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原を結合するインタクトな抗体の一部を含むインタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’);ダイアボディ;直鎖状抗体;単鎖抗体分子(例えばscFv);及び抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0038】
抗体の「クラス」は、その重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体の5つの主要なクラスがあり:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、及びこれらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgGに、IgG、IgG、IGA、及びIgAに分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0039】
用語「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。その用語は、天然配列Fc領域と変異体Fc領域を含む。一実施態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで伸長する。しかし、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は存在しているか、又は存在していない場合がある。本明細書に明記されていない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。
【0040】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に4つのFRのドメインで構成される:FR1、FR2、FR3、及びFR4。従って、HVR及びFR配列は一般にVH(又はVL)の以下の配列に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0041】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は、本明細書中で互換的に使用され、天然型抗体構造と実質的に類似の構造を有するか、又は本明細書で定義されるFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0042】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養」は互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含める。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含み、継代の数に関係なく、それに由来する一次形質転換細胞及び子孫が含まれる。子孫は親細胞と核酸含量が完全に同一ではないかもしれないが、突然変異が含まれる場合がある。最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物活性を有する変異型子孫が本明細書において含まれる。
【0043】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列が超可変であるか、及び/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成する抗体可変ドメインの各領域を指す。一般的に、天然型4鎖抗体は、VH(H1、H2、H3)に3つ、及びVL(L1、L2、L3)に3つの6つのHVRを含む。HVRは、一般的に超可変ループ由来及び/又は「相補性決定領域」(CDR)からのアミノ酸残基を含み、後者は、最高の配列可変性であり、及び/又は抗原認識に関与している。典型的な超可変ループはアミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)、及び96-101(H3)で生じる。(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。典型的なCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)は、アミノ酸残基L1の24-34、L2の50-56、L3の89-97、H1の31-35B、H2の50-65、及びH3の95-102で生じる。(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))。VHのCDR1の例外を除いて、CDRは一般的に超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。CDRは、抗原に接触する残基である「特異性決定残基」又は「SDR」をも含む。SDRは、略称(abbreviated-)CDR、又はa-CDRと呼ばれる、CDRの領域内に含まれている。典型的なa-CDR(a-CDR-L1、a-CDR-L2、a-CDR-L3、a-CDR-H1、a-CDR-H2、及びa-CDR-H3)は、アミノ酸残基L1の31-34、L2の50-55、L3の89-96、H1の31-35B、H2の50-58、及びH3の95-102で生じる。(Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)を参照)。特に断らない限り、可変ドメイン内のHVR残基及び他の残基(例えば、FR残基)は、上掲のKabatらに従い、本明細書において番号が付けられる。
【0044】
「個体」又は「被検体」は、哺乳動物である。哺乳動物は、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、サルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む。所定の実施態様において、個体又は被検体はヒトである。
【0045】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から分離されたものである。幾つかの実施態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)により決定されるように、95%以上又は99%の純度に精製される。抗体純度の評価法の総説としては、例えばFlatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照のこと。
【0046】
「単離された」核酸は、その自然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離された核酸は、核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、しかし、その核酸分子は、染色体外又はその自然の染色体上の位置とは異なる染色体位置に存在している。
【0047】
「抗体をコードする単離された核酸」は、抗体の重鎖及び軽鎖(又はその断片)をコードする一以上の核酸分子を指し、単一のベクター又は別個のベクター内のそのような核酸分子、及び宿主細胞の一以上の位置に存在するそのような核酸分子を含む。
【0048】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を意味し、即ち、例えば、天然に存在する変異を含み、又はモノクローナル抗体製剤の製造時に発生し、一般的に少量で存在している変異体などの、可能性のある変異体抗体を除き、集団を構成する個々の抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を一般的に含む、ポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。従って、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、限定されないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含む様々な技術によって作成され、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法及び他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0049】
「ネイキッド抗体」とは、異種の部分(例えば、細胞傷害性部分)又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体を指す。ネイキッド抗体は薬学的製剤中に存在してもよい。
【0050】
「天然型抗体」は、天然に存在する様々な構造をとる免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から成る約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)が続く。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、定常軽鎖(CL)ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプのいずれかに割り当てることができる。
【0051】
用語「パッケージ挿入物」は、効能、用法、用量、投与、併用療法、禁忌についての情報、及び/又はそのような治療用製品の使用に関する警告を含む、治療用製品の商用パッケージに慣習的に含まれている説明書を指すために使用される。
【0052】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)を含む各ドメインを持ち、一般的に似たような構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., 91頁 (2007)を参照)。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。更に、特定の抗原に結合する抗体は、相補的なVL又はVHドメインのそれぞれのライブラリーをスクリーニングするために、抗原に特異的に結合する抗体からのVH又はVLドメインを用いて単離することができる。例えば、Portolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991)を参照。
【0053】
本明細書で使用される用語「ベクター」は、それが連結されている別の核酸を伝播することができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、並びにそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。ある種のベクターは、それらが動作可能なように連結されている核酸の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と言う。
【0054】
II.詳細の説明
ファージに基づく抗体の検出プロセスは、個々のファージクローン1-3の大規模なプールから所望の結合特異性を有するFab断片を選択するファージディスプレイ技術を利用する。このアプローチでは、直接的又は間接的に主要コートタンパク質の一つ介してM13繊維状ファージ粒子に融合し、多様な相補性決定領域(CDR)を含むFab断片からなるファージライブラリーは、確立された分子生物学技術及び特殊なファージディスプレイベクターを使用して生成される(Tohidkia et al., Journal of drug targeting, 20: 195-208 (2012); Bradbury et al., Nature biotechnology, 29: 245-254 (2011); Qi et al., Journal of molecular biology, 417: 129-143 (2012))。そうしたライブラリーの理論的多様性は、1025のユニークな配列を容易に超過ことができるが、ファージプールの構築における実際的な限界は、実際の多様性を、特定のライブラリにおいて≦1011のクローンへ制限する(Sidhu et al., Methods in enzymology, 328: 333-363 (2000))。
【0055】
出発ライブラリーに含めることのできるユニークな配列の実質的な数を考慮すると、選択したクローンのスクリーニングのスループットは非常に重要である。ファージに基づく抗体発見のため、選択されたFab及び機能アッセイ(標的結合、細胞ベースの活性アッセイ、インビボでの半減期など)におけるそれらの同族完全長IgGの特性の十分な評価は、ディスプレイのために使用されたファージミドベクターのうち、HC及びLCをコードするDNA配列を、IgG発現用の哺乳類発現ベクター中へサブクローニングすることによる、完全長のIgGへのFab重鎖(HC)配列と軽鎖(LC)配列の再フォーマットを必要とする。選択したHC/LCペアの数十又は数百をサブクローニングする労力の要るプロセスは、ファージに基づく抗体の検出プロセスにおける主要なボトルネックを表している。更に、選択されたFabのかなりの割合は、一度再フォーマットされると、初期スクリーニングアッセイにおいて満足に機能することができないので、この再フォーマット化/スクリーニング工程を通して運ばれたクローンの数を増やすことにより、最終的な成功確率を大幅に増加させる。
【0056】
我々は、本明細書において、原核細胞において一のFab融合タンパク質、及び真核細胞において異なる(又は同一の)Fab融合体の発現及び分泌のための発現及び分泌系の作製を記述する。例えば、発現及び分泌系は、大腸菌に形質転換された場合のFabファージ融合体の発現を駆動し、哺乳動物細胞にトランスフェクトされた場合には、同一のFab断片を有する完全長IgGの発現を駆動する。我々は、マウスの結合性免疫グロブリンタンパク質(mBiP)8,9からの哺乳動物シグナル配列は、原核細胞及び真核細胞の両方で効率的なタンパク質の発現を駆動することができることを実証する。ヒトIgG HCのヒンジ領域内に挿入されたファージ融合ペプチドを含有する合成イントロンを除去するために、我々は、哺乳動物のmRNAスプライシングを用いて、宿主細胞依存的に二つの異なるタンパク質:大腸菌においてファージディスプレイアダプターペプチドに融合したFab断片及び哺乳動物細胞における天然型ヒトIgGを生成することができる。この技術は、サブクローニングを必要としない、哺乳動物細胞におけるその後の発現及び同族完全長IgGの精製を伴う、ファージディスプレイライブラリーからの、目的の抗原に結合するFab断片の選択を可能にする。
【0057】
本発明は、(1)非細菌起源のシグナル配列は、真核細胞においてIgGの発現を損なうことなく、ファージライブラリの選別のために十分なレベルで、原核細胞において機能し、及び(2)異なるFab融合タンパク質は、mRNAプロセシングが原核細胞でなく真核細胞において起きる場合に、宿主細胞依存的に同一の核酸分子から発現される(原核細胞中のFabファージ融合タンパク質及び真核細胞中のFab-Fc融合タンパク質)ことを実証する実験的発見に一部基づいている。従って、本明細書に記載されるのは、サブクローニングを必要とせずに、原核宿主細胞(例えば大腸菌)におけるファージディスプレイのためのファージ粒子タンパク質、コートタンパク質又はアダプタータンパク質に融合されたFab断片、及び真核細胞(例えば、哺乳動物細胞)においてFcに融合したFab断片の発現及び分泌のための発現及び分泌系、及びその発現及び分泌システムの構築及び使用に関する方法である。特に、原核細胞におけるFab-ファージ融合タンパク質及び真核細胞におけるFab-Fc融合タンパク質の発現及び分泌のためのベクター、原核細胞及び真核細胞におけるタンパク質又はペプチドの発現及び分泌のための核酸分子、及びそのようなベクターを含む宿主細胞が本明細書に記載される。更に、目的のタンパク質に対する新規抗体のスクリーニング及び選択のための発現及び分泌系の使用方法を含む、発現及び分泌系の使用方法が本明細書中に記載される。
【0058】
発明を実施するための様式
本発明の実施は、特に明記しない限り、当分野の技術の範囲内である、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術を使用する。このような技術は、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」,第2版(Sambrook et al., 1989);「オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)」(M.J. Gait, ed., 1984);「動物細胞培養(Animal Cell Culture)」(R.I. Freshney, ed., 1987);「酵素学における方法(Methods in Enzymology)」(Academic Press, Inc.);「実験免疫学のハンドブック(Handbook of Experimental Immunology)」,第4版(D.M. Weir & C.C. Blackwell, eds., Blackwell Science Inc., 1987);「哺乳動物細胞のための遺伝子導入ベクター(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells)」(J.M. Miller & M.P. Calos, eds., 1987);「分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」(F.M. Ausubel et al., eds., 1987);「PCR:ポリメラーゼ連鎖反応(PCR: The Polymerase Chain Reaction)」, (Mullis et al., eds., 1994);及び「免疫学の最新プロトコル(Current Protocols in Immunology)」 (J.E. Coligan et al., eds., 1991)などの文献において十分に説明されている。
【0059】
原核細胞及び真核細胞のための発現及び分泌システム
原核細胞及び真核細胞のための発現及び分泌系は、目的のタンパク質(例えば、IgG分子の重鎖又は軽鎖)の調節配列及びコード化配列を含むベクターを含み、ここで原核生物プロモーター及び真核生物プロモーター(例えば、CMV(真核生物)及びPhoA(原核生物))は、目的の遺伝子の上流にタンデムに配置され、単一のシグナル配列が、原核細胞及び真核細胞における目的のタンパク質の発現を駆動する。本発明は、宿主細胞依存的に、IgG1のVH/CH1とヒンジ-Fc領域との間に位置する合成イントロンであって、真核細胞におけるmRNAプロセシング中にスプライスされる合成イントロンを使用することにより、目的のタンパク質の2つの異なる融合形態を生成するこのベクターのための手段を提供する。
【0060】
A.原核細胞及び真核細胞両方で機能するシグナル配列
原核生物(大腸菌)細胞及び真核生物(哺乳動物)細胞で目的のタンパク質を発現することが可能なベクターの構築における一つの問題は、これらの細胞型に見い出されるシグナル配列の違いから生じる。シグナル配列の特定の機能は、一般的に原核細胞及び真核細胞の両方で保存されているが(例えば配列の中央に位置する疎水性残基のパッチ及び成熟ポリペプチドのN末端における切断部位に隣接する極性/荷電残基)、他の機能は、他方よりも一細胞型でより特徴的なものである。また、配列が全て哺乳動物起源であっても、別のシグナル配列は、哺乳動物細胞における発現レベルに大きな影響を与えることができることが当技術分野で知られている(Hall et al., J of Biological Chemistry, 265: 19996-19999 (1990); Humphreys et al., Protein Expression and Purification, 20: 252-264 (2000))。例えば、細菌のシグナル配列は、典型的には正に帯電した残基(最も一般的にリジン)を開始メチオニンの直後に有するが、一方哺乳動物のシグナル配列には必ずしも存在しない。両方の細胞型において分泌を指示することができるシグナル配列が知られているが、そのようなシグナル配列は、典型的には、一方の細胞型又は他方においてのみ、タンパク質分泌の高レベルを指向する。
【0061】
細菌のシグナル配列は哺乳動物細胞中で任意の機能性を示すことがごくまれに示されているが、細菌のペリプラズムへのトランスロケーションを駆動することが可能な哺乳動物起源のシグナル配列が報告されている(Humphreys et al., The Protein Expression and Purification, 20: 252-264 (2000))。しかし、シグナル配列の単なる機能は、ファージディスプレイ及びIgGの発現のために使用される堅牢な二重発現系に適していない。むしろ、選択されたシグナル配列は、低レベルのディスプレイはファージパニング実験を行うためのシステムの能力を損なうであろうファージディスプレイのために、両方の発現系において十分に機能しなければならない。
【0062】
本発明は、非細菌起源のシグナル配列は、真核細胞においてIgGの発現を損なうことなく、ファージライブラリの選別のために十分なレベルで、原核細胞において機能するというに発見に一部基づいている。
【0063】
本発明は、目的のポリペプチドを原核生物においてはペリプラズムへ、及び真核生物においては小胞体/胞体へと標的にし、使用することができる任意のシグナル配列(コンセンサスシグナル配列を含む)を提供する。使用することができるシグナル配列は、限定されるものではないが、マウス結合性免疫グロブリンタンパク質(mBiP)シグナル配列(UniProtKB:アクセッションP20029)、ヒト成長ホルモン由来シグナル配列(hGH)(UniProtKB:アクセッションBIA4G6)、Gaussia princepsルシフェラーゼ(UniProtKB:アクセッションQ9BLZ2)、酵母エンド-1,3-グルカナーゼ(yBGL2)(UniProtKB:アクセッションP15703)が含まれる。一実施態様において、シグナル配列は、天然又は合成のシグナル配列である。更なる実施態様において、合成シグナル配列は、最適化されていない天然のシグナル配列と比較して、最適化されたレベルでディスプレイのレベルを駆動する最適化されたシグナル分泌配列である。
【0064】
原核細胞において目的のポリペプチドのディスプレイを駆動するシグナル配列の能力を測定するための適切なアッセイとしては、例えば、本明細書に記載されるファージELISAを含む。
【0065】
真核細胞において目的のポリペプチドのディスプレイを駆動するシグナル配列の能力を測定するための適切なアッセイとしては、例えば、本明細書に記載されるように、目的のシグナルとともに目的のポリペプチドをコードする哺乳動物発現ベクターを、培養された哺乳動物細胞へのトランスフェクション、一定期間の細胞の増殖、培養細胞からの上清の回収、及びアフィニティークロマトグラフィーによる上清からIgGの精製が含まれる。
【0066】
B.同じ核酸からホスト依存性融合タンパク質の発現をもたらす合成イントロン
本発明は、異なるFab融合タンパク質は、原核細胞でなく真核細胞においてmRNAのプロセシング中に起きるイントロンスプライシングの天然のプロセスを利用することにより、宿主細胞依存的に同一の核酸分子から発現され得るという発見に一部基づいている。
【0067】
hIgG1のHC定常領域のゲノム配列は、3つの天然イントロン(図3A)、イントロン1、イントロン2及びイントロン3が含まれている。イントロン1は、HC可変ドメイン/CH1(VH/CH1)及びヒンジ領域との間に位置する391塩基対のイントロンである。イントロン2は、ヒンジ領域及びCH2との間に位置する118塩基対のイントロンである。イントロン3は、CH2及びCH3との間に位置する97塩基対のイントロンである。
【0068】
本発明は、VH/CH1とヒンジ領域の間に位置するイントロン1を含むベクターを提供する。他の例としては、VH/CH1とヒンジ領域との間に位置するイントロン2又はイントロン3を含む。幾つかのベクターにおいて、コートタンパク質又はアダプタータンパク質をコードする核酸は、その5’末端でイントロンに対する天然のスプライスドナー、その3’末端で天然のスプライスアクセプターにより、VH/CH1及びヒンジ領域との間に位置するイントロンに挿入される。
他の例としては、スプライスドナーの8つの位置のうち、位置1と5で置換を有する変異体スプライスドナーを含む。
【0069】
例えば、ファージELISAは、原核細胞での発現及び分泌系を分析するために使用することができる。
【0070】
例えば、プロテインA及びゲル濾過クロマトグラフィーを用いる培養上清からのIgGの精製は、真核細胞における発現及び分泌系を分析するために使用することができる。更に、RT-PCRは、真核細胞中で合成イントロンを含有するHCカセットのスプライシングを分析するために使用することができる。
【0071】
C.原核細胞及び真核細胞におけるポリペプチドの発現及び分泌のためのベクター。
原核細胞及び真核細胞におけるFab融合タンパク質の発現及び分泌のための発現及び分泌系は、当該分野の技術範囲内である様々な技術を用いて構築することができる。
【0072】
一態様では、発現及び分泌系は、(1)哺乳動物プロモーター;(2)(5’から3’の順に)細菌プロモーター、シグナル配列、抗体軽鎖配列、コントロールタンパク質(gD)を含む、LCカセット;(3)(5’から3’の順に)哺乳動物のポリアデニル化/転写終止シグナル、原核細胞における転写を停止させるための転写ターミネーター配列、HCの発現を駆動するための哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーターを含む合成カセット;(4)シグナル配列及び抗体の重鎖配列を含むHCカセット;(5)哺乳動物ポリアデニル化/転写終止シグナル及び原核細胞における転写を停止させるための転写ターミネーター配列を含む第2の合成カセットを含むベクターを含む。LC及びHCに先行する分泌シグナル配列は、原核細胞及び真核細胞の両方で機能する同じシグナル配列(例えば、哺乳動物mBiPシグナル配列)でもあってもよい。一実施態様において、抗体の重鎖配列は、合成イントロンを含む。合成イントロンは、(その5’末端で)VH/CH1ドメインに(その3’末端で)ヒンジ領域に配置される。一実施態様において、合成イントロンは、5’末端で最適化されたスプライスドナー配列、及び3’末端で天然のイントロン1のスプライスアクセプター配列により隣接される。一実施態様において、合成イントロンは、直接融合ディスプレイのためにファージコートタンパク質(例えば、pIII)(図14を参照)、又は間接融合ディスプレイのためにイントロン1へヌクレオチドレベルで融合したアダプタータンパク質(図7を参照)をコードするヌクレオチド配列を含む。間接的融合ディスプレイでは、ベクターは(5’から3’の順に)細菌プロモーター、細菌のシグナル配列、パートナーのアダプターペプチドがコートタンパク質のN末端にヌクレオチドレベルで融合したファージコートタンパク質(例えば、pIII)及び転写ターミネーター配列を含む別個の細菌発現カセットを更に含む(図7参照)。更に、HC及びLCの両方がタンデムな哺乳動物及び細菌プロモーターによって制御され(図7参照)、又は一方のみ(例えば、HC)のカセットがタンデムな哺乳動物及び細菌プロモーターによって制御されるのに対して、他方(例えば、LC)カセットは、細菌のプロモーターによってのみ制御される、上記コンストラクトの異なる実施態様が可能である(図14を参照)。
【0073】
更に、ベクターは、細菌の複製起点、哺乳動物の複製起点、コントロール(例えばgDタンパク質)として有用な又はタンパク質精製、タンパク質のタグ付け、タンパク質の標識化(検出可能な化合物又は組成物、例えば標識(例えば、放射性標識、蛍光可能な標識又は酵素標識)による標識化)などの活性のために有用なポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0074】
一実施態様において、哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーター及びシグナル配列は抗体軽鎖配列に作動可能に連結され、哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーター及びシグナル配列は抗体重鎖配列に作動可能に連結される。
【0075】
D.目的の抗原に対する抗体の選択とスクリーニング
本発明は、abベースのライブラリのファージ又は細菌ディスプレイによって目的のタンパク質に対する抗体をスクリーニングし選択する方法、又は同様の方法により、既存の抗体を最適化する方法を提供する。上述の二重ベクターの使用は、原核細胞におけるFab断片のスクリーニング及び選択、及びサブクローニングを必要としない更なる試験用に、完全長IgG分子として容易に発現することができるFabの選択のために使用することができる。
【0076】
発明の抗体
本発明の更なる態様では、上記実施態様のいずれかに記載の抗体は、キメラ、ヒト化又はヒト抗体を含むモノクローナル抗体である。一実施態様において、抗体は、抗体断片、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、又はF(ab’)断片である。その他の態様において、抗体は、全長抗体、例えば、インタクトなIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4抗体、又は本明細書において定義された他の抗体クラス又はアイソタイプである。
【0077】
更なる態様にて、以下のセクション1-7で説明されるように、上記実施態様のいずれかに記載の抗体は、単独又は組み合わせで、任意の特徴を組み込むことができる:
【0078】
1.抗体親和性
所定の実施態様において、本明細書において与えられる抗体は、解離定数(Kd)が、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10-M以下、例えば、10-Mから10-13M、例えば、10-Mから10-13M)である。
【0079】
一実施態様において、以下のアッセイにより説明されるように、Kdは、目的の抗体のFab型とその抗原を用いて実施される放射標識抗原結合アッセイ(RIA)により測定される。非標識抗原の滴定系列の存在下で、最小濃度の(125I)-標識抗原にてFabを均衡化して、抗Fab抗体コートプレートと結合した抗原を捕獲することによって抗原に対するFabの溶液結合親和性を測定する(例としてChen, et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999)を参照)。アッセイの条件を決めるために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、5μg/mlの捕獲抗Fab抗体(Cappel Labs)を含む50mM炭酸ナトリウム(pH9.6)にて一晩コートして、その後2%(w/v)のウシ血清アルブミンを含むPBSにて室温(およそ23℃)で2~5時間、ブロックする。非吸着プレート(Nunc#269620)に、100pM又は26pMの[125I]抗原を段階希釈した目的のFabと混合する(例えば、Presta等, (1997) Cancer Res. 57: 4593-4599の抗VEGF抗体、Fab-12の評価と一致する)。ついで目的のFabを一晩インキュベートする;しかし、インキュベーションは平衡状態に達したことを確認するまでに長時間(例えばおよそ65時間)かかるかもしれない。その後、混合物を捕獲プレートに移し、室温で(例えば1時間)インキュベートする。そして、溶液を取り除き、プレートを0.1%のポリソルベート20(Tween20(登録商標))を含むPBSにて8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルの閃光物質(MICROSCINT-20TM;Packard)を加え、プレートをTOPCOUNTTMγ計測器(Packard)にて10分間計測する。最大結合の20%か又はそれ以下濃度のFabを選択してそれぞれ競合結合測定に用いる。
【0080】
他の実施態様に従って、~10反応単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃でBIACORE(登録商標)-2000又はBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を用いる表面プラズモン共鳴アッセイを使用してKdを測定する。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.)を、提供者の指示書に従ってN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化した。抗原を10mM酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(~0.2μM)に希釈し、結合したタンパク質の反応単位(RU)がおよそ10になるように5μl/分の流速で注入する。抗原の注入後、反応しない群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入する。動力学的な測定のために、Fabの2倍の段階希釈(0.78nMから500nM)を、25℃で、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN20TM)界面活性剤(PBST)を含むPBSに注入した。会合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model)(BIACORE(登録商標)Evaluationソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合速度(kon)と解離速度(koff)を算出した。平衡解離定数(Kd)をkoff/kon比として算出した。例えば、 Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999)を参照。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによる結合速度が10M-s-を上回る場合、分光計、例えば、流動停止を備えた分光光度計(stop-flow equipped spectrophometer)(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-AMINCOTM分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、漸増濃度の抗原の存在下にて、PBS(pH7.2)中、25℃の、20nMの抗抗原抗体(Fab型)の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)の増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて結合速度を測定することができる。
【0081】
2.抗体断片
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片は、限定されないが、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、Fv,及びscFv断片、及び下記の他の断片を含む。所定の抗体断片の総説については、 Hudson et al. Nat. Med. 9:129-134 (2003)を参照。scFv断片の総説については、例えば、Pluckthuen, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp. 269-315 (1994)を参照;また、国際公開第93/16185号;及び米国特許第5,571,894号及び第5,587,458号も参照。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、かつインビボ半減期を増加させたFab及びF(ab’)断片の議論については、米国特許第5869046号を参照のこと。
【0082】
ダイアボディは2価又は二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号;国際公開第1993/01161号; Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003);及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)を参照。トリアボディ及びテトラボディもまた Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003)に記載されている。
【0083】
単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部、又は軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む抗体断片である。ある実施態様において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1を参照)。
【0084】
抗体断片は様々な技術で作成することができ、限定されないが、本明細書に記載するように、インタクトな抗体の分解、並びに組換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による生産を含む。
【0085】
3.キメラ及びヒト化抗体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、キメラ抗体である。所定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号、及びMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))に記載されている。一例において、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又はサル等の非ヒト霊長類由来の可変領域)及びヒト定常領域を含む。更なる例において、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のものから変更された「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0086】
所定の実施態様において、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、ヒトに対する免疫原性を低減するために、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を保持したまま、ヒト化されている。一般に、ヒト化抗体は、HVR、例えば、CDR(又はその一部)が、非ヒト抗体から由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する、一以上の可変ドメインを含む。ヒト化抗体はまた、任意で、ヒト定常領域の少なくとも一部をも含む。幾つかの実施態様において、ヒト化抗体の幾つかのFR残基は、例えば抗体特異性又は親和性を回復もしくは改善するめに、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換されている。
【0087】
ヒト化抗体及びそれらの製造方法は、例えば、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)に総説され、更に、 Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989);米国特許第5,821,337、第7,527,791号、第6,982,321号及び第7,087,409号;Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005)(SDR(a-CDR)グラフティングを記述); Padlan, Mol. Immunol. 28:489-498 (1991) (「リサーフェシング」を記述); Dall'Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005)(「FRシャッフリング」を記述);及びOsbourn et al., Methods 36:61-68 (2005) 及びKlimka et al., Br. J. Cancer, 83:252-260 (2000) (FRのシャッフリングへの「誘導選択」アプローチを記述)に記載されている。
【0088】
ヒト化に用いられ得るヒトフレームワーク領域は、限定されないが、「ベストフィット」法を用いて選択されるフレームワーク領域(例えば、Sims et al. J. Immunol. 151:2296 (1993));軽鎖又は重鎖の可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列由来のフレームワーク領域(例えば、Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);及びPresta et al. J. Immunol., 151:2623 (1993)を参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域又はヒト生殖細胞系フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)を参照);及びFRライブラリスクリーニング由来のフレームワーク領域(例えば、Baca et al., J. Biol. Chem. 272:10678-10684 (1997)及びRosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611-22618 (1996)を参照)を含む。
【0089】
4.ヒト抗体
所定の実施態様において、本明細書で提供される抗体はヒト抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で公知の様々な技術を用いて生産することができる。ヒト抗体は一般的にvan Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-74 (2001) 及びLonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008)に記載されている。
【0090】
ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答して、インタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を持つ又はインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に、免疫原を投与することにより調製することができる。このような動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座を置換するか、又は染色体外に存在するかもしくは動物の染色体にランダムに組み込まれている、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含む。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化される。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の総説については、Lonberg, Nat. Biotech. 23:1117-1125 (2005)を参照。また、例えば、XENOMOUSETM技術を記載している、米国特許第6,075,181号及び6,150,584号;HuMab(登録商標)技術を記載している米国特許第5,770,429号;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載している米国特許第7,041,870号及び、VelociMouse(登録商標)技術を記載している米国特許出願公開第2007/0061900号)も参照のこと。このような動物で生成されたインタクトな抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることにより、更に改変される可能性がある。
【0091】
ヒト抗体は、ハイブリドーマベース法によって作成することができる。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ細胞株が記載されている。(例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991)を参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体はまた、Li et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)に記載されている。更なる方法は、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載している)及びNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載している)に記載されたものを含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005) 及びVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載される。
【0092】
ヒト抗体はまた、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって生成され得る。このような可変ドメイン配列は、次に所望のヒト定常ドメインと組み合わせてもよい。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術を以下に説明する。
【0093】
5.ライブラリー由来の抗体
本発明の抗体は、所望の活性又は活性(複数)を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。例えば、様々な方法が、ファージディスプレイライブラリーを生成し、所望の結合特性を有する抗体についてのライブラリーをスクリーニングするために、当該技術分野で知られている。そのような方法は、例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001)に総説され、更に、例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554; Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992); Marks and Bradbury, in Methods in Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003); Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004); Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004); Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467-12472 (2004); 及びLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004)に記載されている。
【0094】
所定のファージディスプレイ法において、VH及びVL遺伝子のレパートリーがポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により個別にクローニングされ、ファージライブラリーにランダムに再結合され、その後、Winter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994)に記載されるように、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、通常、抗体断片を、単鎖Fv(scFv)断片、又はFab断片のいずれかとして提示する。免疫された起源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要性を伴うことなく免疫原に高親和性抗体を提供する。あるいは、ナイーブレパートリーを(例えばヒトから)クローニングして、Griffiths等,EMBO J, 12: 725-734(1993)に記載のように如何なる免疫化をも伴うことなく、幅広い非自己抗原及び自己抗原に対する抗体の単一源を提供することが可能である。最終的には、ナイーブライブラリーは、また、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227: 381-388(1992)に記載のように、幹細胞からの再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを利用して高度可変CDR3領域をコードせしめ、インビトロでの再配列を達成させることによって合成的に作製することができる。ヒト抗体ファージライブラリーを記述する特許公報は、例えば、米国特許第5,750,373号、及び米国特許出願公開第2005/0079574号、第2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号及び2009/0002360を含む。
【0095】
ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書でヒト抗体又はヒト抗体の断片とみなされる。
【0096】
6.多重特異性抗体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる部位に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある実施態様において、結合特異性の一つは第一抗原に対してであり、他は、任意の他の抗原に対してである。所定の実施態様において、二重特異性抗体は、第一抗原の2つの異なるエピトープに結合することができる。二重特異性抗体はまた第一抗原を発現する細胞に細胞傷害性薬物を局所化するために用いることができる。二重特異性抗体は、全長抗体又は抗体断片として調製することができる。
【0097】
多重特異性抗体を作製するための技術は、限定されないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983))、国際公開第93/08829号、及びTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991)を参照)及び「ノブ-イン-ホール(knob-in-hole)」エンジニアリング(例えば、米国特許第5,731,168号を参照)を含む。多重特異抗体はまた、抗体のFc-ヘテロ2量体分子を作成するための静電ステアリング効果を操作すること(国際公開第2009/089004A1号)、2つ以上の抗体又は断片を架橋すること(例えば米国特許第4,676,980号;及びBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)を参照);2重特異性抗体を生成するためにロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)を参照);二重特異性抗体断片を作製するため、「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)を参照);単鎖Fv(sFv)ダイマーを使用すること(例えば、Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照);及び、例えばTutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)に記載されているように、三重特異性抗体を調製することによって作成することができる。
【0098】
「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能性抗原結合部位を持つ改変抗体もまた本明細書に含まれる(例えば、米国特許出願公開第2006/0025576A1号を参照)。
【0099】
本明細書中の抗体又は断片はまた、第一抗原並びにその他の異なる抗原(例えば米国特許出願公開第2008/0069820号参照)に結合する抗原結合部位を含む、「2重作用(Dual Acting)FAb」又は「DAF」を含む。
【0100】
7.抗体変異体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体のアミノ酸配列変異体が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善することが望まれ得る。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な改変を導入することにより、又はペプチド合成によって調製することができる。このような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列内における、残基の欠失、及び/又は挿入及び/又は置換を含む。最終コンストラクトが所望の特性、例えば、抗原結合を有していることを条件として、欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせが、最終コンストラクトに到達させるために作成され得る。
【0101】
a)置換、挿入、及び欠失変異体
ある実施態様において、一つ以上のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換型変異誘発の対象となる部位は、HVRとFRを含む。保存的置換は、表1の「保存的置換」の見出しの下に示されている。より実質的な変更が、表1の「典型的な置換」の見出しの下に与えられ、アミノ酸側鎖のクラスを参照して以下に更に説明される。アミノ酸置換は、目的の抗体に導入することができ、その産物は、所望の活性、例えば、抗原結合の保持/改善、免疫原性の減少、又はADCC又はCDCの改善についてスクリーニングされる。
【0102】
【0103】
アミノ酸は共通の側鎖特性に基づいてグループに分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe.
【0104】
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。
【0105】
置換された変異体の一つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト化又はヒト抗体など)の一以上の高頻度可変領域残基の置換を含む。一般的には、更なる研究のために選択され得られた変異体は、親抗体と比較して、特定の生物学的特性の改変(例えば、改善)(例えば、親和性の増加、免疫原性を減少)を有し、及び/又は親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持しているであろう。典型的な置換型変異体は、親和性成熟抗体であり、例えば、本明細書に記載されるファージディスプレイに基づく親和性成熟技術を用いて、簡便に生成され得る。簡潔に言えば、一つ以上のHVR残基が変異し、変異体抗体は、ファージ上に表示され、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0106】
改変(例えば、置換)は、例えば抗体の親和性を向上させるために、HVRで行うことができる。このような変更は、HVRの「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟過程中に高頻度で変異を受けるコドンにコードされた残基で(例えばChowdhury, Methods Mol. Biol. 207:179-196 (2008)を参照)、及び/又はSDR(a-CDR)で行うことができ、得られた変異体VH又はVLが結合親和性について試験される。二次ライブラリから構築し再選択すことによる親和性成熟が、例えばHoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, (2001)に記載されている。親和性成熟の幾つかの実施態様において、多様性が、種々の方法(例えば、変異性PCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチドを標的とした突然変異誘発)の何れかにより、成熟のために選択された可変遺伝子中に導入される。次いで、二次ライブラリーが作成される。次いで、ライブラリーは、所望の親和性を持つ抗体変異体を同定するためにスクリーニングされる。多様性を導入するするもう一つの方法は、いくつかのHVR残基(例えば、一度に4から6残基)がランダム化されたHVR指向のアプローチを伴う。抗原結合に関与するHVR残基は、例えばアラニンスキャニング突然変異誘発、又はモデリングを用いて、特異的に同定され得る。CDR-H3及びCDR-L3がしばしば標的にされる。
【0107】
所定の実施態様において、置換、挿入、又は欠失は、そのような改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に低下させない限りにおいて、一以上のHVR内で生じる可能性がある。例えば、実質的に結合親和性を低下させない保存的改変(例えば本明細書で与えられる保存的置換)をHVR内で行うことができる。このような改変は、HVR「ホットスポット」又はSDRの外側であってもよい。上記に与えられた変異体VH又はVL配列の所定の実施態様において、各HVRは不変であるか、又はわずか1個、2個又は3個のアミノ酸置換が含まれているかの何れかである。
【0108】
突然変異誘発のために標的とすることができる抗体の残基又は領域を同定するための有用な方法は、Cunningham and Wells (1989) Science, 244:1081-1085により説明されるように、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれる。この方法では、標的残基の残基又はグループ(例えば、arg、asp、his、lys及びgluなどの荷電残基)が同定され、抗原と抗体との相互作用が影響を受けるかどうかを判断するために、中性又は負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)に置換される。更なる置換が、最初の置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸の位置に導入され得る。代わりに、又は更に、抗原抗体複合体の結晶構造が、抗体と抗原との接触点を同定する。そのような接触残基及び隣接残基が、置換の候補として標的とされるか又は排除され得る。変異体はそれらが所望の特性を含むかどうかを決定するためにスクリーニングされ得る。
【0109】
アミノ酸配列挿入は、一残基から百以上の残基を含有するポリペプチド長にわたるアミノ及び/又はカルボキシル末端融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニン残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体は、酵素に対する抗体のN末端又はC末端への融合(例えばADEPTの場合)、又は抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドへの融合を含む。
【0110】
b)グリコシル化変異体
所定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加又は減少するように改変される。抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、一以上のグリコシル化部位が作成又は削除されるようにアミノ酸配列を変えることによって簡便に達成することができる。
【0111】
抗体がFc領域を含む場合には、それに付着する糖を変えることができる。哺乳動物細胞によって生成された天然型抗体は、典型的には、Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN-結合により一般的に付着した分岐鎖、二分岐オリゴ糖を含んでいる。例えばWright et al. TIBTECH 15:26-32 (1997)を参照。オリゴ糖は、様々な炭水化物、例えば、二分岐オリゴ糖構造の「幹」のGlcNAcに結合した、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、シアル酸、並びにフコースを含み得る。幾つかの実施態様において、本発明の抗体におけるオリゴ糖の改変は、一定の改善された特性を有する抗体変異体を作成するために行われ得る。
【0112】
一実施態様において、抗体変異体は、Fc領域に(直接又は間接的に)付着されたフコースを欠いた糖鎖構造を有して提供される。例えば、このような抗体のフコース量は、1%から80%、1%から65%、5%から65%、又は20%から40%であり得る。
【0113】
フコースの量は、例えば、国際公開第2008/077546号に記載されているように、MALDI-TOF質量分析法によって測定されるAsn297に付着しているすべての糖構造の合計(例えば、コンプレックス、ハイブリッド及び高マンノース構造)に対して、Asn297の糖鎖中のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域(Fc領域残基のEU番号付け)でおよそ297の位置に位置するアスパラギン残基を指し、しかし、Asn297もまた位置297の上流又は下流のおよそ±3アミノ酸に、すなわち抗体の軽微な配列変異に起因して、位置294と300の間に配置され得る。このようなフコシル化変異体はADCC機能を改善させた可能性がある。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号(Presta, L.);米国特許出願公開第2004/0093621号(協和発酵工業株式会社)を参照。「非フコシル化」又は「フコース欠損」抗体変異体に関連する出版物の例としては、米国特許出願公開第2003/0157108号、国際公開第2000/61739号、国際公開第2001/29246号、米国特許出願公開第2003/0115614号、米国特許出願公開第2002/0164328号、米国特許出願公開第2004/0093621号、米国特許出願公開第2004/0132140号、米国特許出願公開第2004/0110704号、米国特許出願公開第2004/0110282号、米国特許出願公開第2004/0109865号、国際公開第2003/085119号、国際公開第2003/084570号、国際公開第2005/035586号、国際公開第2005/035778号、国際公開第2005/053742号、国際公開第2002/031140号、Okazaki et al. J. Mol. Biol. 336:1239-1249 (2004); Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004)が含まれる。非フコシル化抗体を産生する能力を有する細胞株の例としては、タンパク質フコシル化を欠損しているLec13 CHO細胞(Ripka et al. Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許出願公開第2003/0157108号A1、Presta, L;及び国際公開第2004/056312号A1、Adams et al., 特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、アルファ-1、6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004); Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);及び国際公開第2003/085107号を参照)を含む。
【0114】
抗体変異体は、例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている二分オリゴ糖を更に備えている。このような抗体変異体はフコシル化を減少させ、及び/又はADCC機能を改善している可能性がある。そのような抗体変異体の例は、例えば、国際公開第2003/011878号(Jean-Mairettら);米国特許第6,602,684号(Umanaら);及び米国特許出願公開第2005/0123546号(Umanaら)に記載されている。Fc領域に結合したオリゴ糖内に少なくとも1つのガラクトース残基を持つ抗体変異体も提供される。このような抗体変異体はCDC機能を改善させた可能性がある。このような抗体変異体は、例えば、国際公開第1997/30087号(Patelら);国際公開第1998/58964号(Raju, S.);及び国際公開第1999/22764号(Raju, S.)に記載されている。
【0115】
c)Fc領域変異体
ある実施態様において、1つ又は複数のアミノ酸改変を、本明細書で提供される抗体のFc領域に導入することができ、それによってFc領域変異体を生成する。Fc領域の変異体は、1つ又は複数のアミノ酸位置においてアミノ酸修飾(例えば置換)を含むヒトFc領域の配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のFc領域)を含んでもよい。
【0116】
ある実施態様において、本発明は、インビボにおける抗体の半減期が重要であるが、ある種のエフェクター機能(例えば補体及びADCCなど)が不要又は有害である用途のための望ましい候補とならしめる、全てではないが一部のエフェクター機能を有する抗体変異体を意図している。インビトロ及び/又はインビボでの細胞毒性アッセイを、CDC活性及び/又はADCC活性の減少/枯渇を確認するために行うことができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイは、抗体がFcγR結合を欠くが(それゆえ、おそらくADCC活性を欠く)、FcRn結合能力を保持していることを確認するために行うことができる。ADCC、NK細胞を媒介する初代細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-492 (1991)の464ページの表3に要約されている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom, I. et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986)を参照)及びHellstrom, I et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985); 5,821,337 (Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987)を参照)に記述されている。あるいは、非放射性アッセイ法を用いることができる(例えば、フローサイトメトリー用のACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega, Madison, WI)を参照。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。代わりとして、又は更に、対象の分子のADCC活性は、例えば、Clynes等, (USA) 95:652-656 (1998)において開示されているような動物モデルにおいて、インビボで評価することが可能である。C1q結合アッセイはまた、抗体が体C1qを結合することができないこと、したがって、CDC活性を欠いていることを確認するために行うことができる。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, M.S. et al., Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。また、FcRn結合、及びインビボでのクリアランス/半減期の測定は、当該分野で公知の方法を用いて行うことができる(例えば、Petkova, S.B. et al., Int'l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006)を参照)。
【0117】
エフェクター機能が減少した抗体は、Fc領域の残基238、265、269、270、297、327、329の一つ以上の置換を有するものが含まれる(米国特許第6737056号)。そのようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を有する、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む、アミノ酸位置265、269、270、297及び327の2以上での置換を有するFc変異体を含む(米国特許第7,332,581号)。
【0118】
FcRへの結合を改善又は減少させた特定の抗体変異体が記載されている。(例えば、米国特許第6,737,056号;国際公開第2004/056312号、及びShields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001))。
【0119】
所定の実施態様において、抗体変異体はADCCを改善する1つ又は複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の位置298、333、及び/又は334における置換(EUの残基番号付け)を含む。
【0120】
幾つかの実施態様において、改変された(即ち、改善されたか又は減少した)C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)を生じる、Fc領域における改変がなされ、例えば、米国特許第6,194,551号、国際公開第99/51642号、及びIdusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)に説明される。
【0121】
増加した半減期を持ち、胎仔への母性IgGの移送を担う、新生児Fc受容体(FcRn)への結合が改善された抗体(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)及びKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))が、米国特許出願公開第2005/0014934号A1(Hinton et al.)に記載されている。これらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する一つ又は複数の置換を有するFc領域を含む。このようなFc変異体は、Fc領域の残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434の一以上の置換、例えば、Fc領域の残基434の置換を有するものが含まれる(米国特許第7,371,826号)。
【0122】
Fc領域の変異体の他の例に関しては、Duncan & Winter, Nature 322:738-40 (1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;及び国際公開第94/29351号も参照のこと。
【0123】
d)システイン操作抗体変異体
ある実施態様において、抗体の1つ以上の残基がシステイン残基で置換されている、システイン操作抗体、例えば、「thioMAbs」を作成することが望まれ得る。特定の実施態様において、置換された残基は、抗体のアクセス可能な部位で生じる。それらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基は、それによって抗体のアクセス可能な部位に配置され、本明細書中でさらに記載されるように、イムノコンジュゲーを作成するために、例えば薬物部分又はリンカー-薬剤部分などの他の部分に抗体をコンジュゲートするために使用することができる。ある実施態様において、一以上の以下の残基がシステインで置換され得る:軽鎖のV205(Kabatの番号付け);重鎖のA118(EU番号付け);及び重鎖Fc領域のS400(EU番号付け)。システイン改変抗体は、例えば、米国特許第7521541号に記載のように生成され得る。
【0124】
e)抗体誘導体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られ、容易に入手される追加の非タンパク質部分を含むように更に改変することができる。抗体の誘導体化に適した部分としては、限定されないが、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの非限定的な例は、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアミノ酸(単独重合体又はランダム共重合体の何れか)及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコール単独重合体、プロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール及びこれらの混合物を包含する。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドはその水中での安定性に起因して製造における利点を有し得る。ポリマーは何れかの分子量のものであってよく、そして分枝鎖又は未分枝鎖であってよい。抗体に結合するポリマーの数は変動してよく、そして、一以上の重合体が結合する場合は、それらは同じか又は異なる分子であってよい。一般的に、誘導体化に使用するポリマーの数及び/又は種類は、限定されないが、向上させるべき抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が限定された条件下で治療に使用されるのか等を含む考慮に基づいて決定することができる。
【0125】
別の実施態様において、放射線への曝露によって選択的に加熱され得る抗体と非タンパク質部分とのコンジュゲートが提供される。一実施態様において、非タンパク質部分はカーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005)。放射線は、任意の波長であって良いが、限定されないものの、通常の細胞に害を与えないが、抗体-非タンパク質部分の近位細胞が死滅される温度に非タンパク質部分を加熱する波長が含まれる。
【0126】
組換え方法及び組成物
抗体は、例えば米国特許第4,816,567号で説明したように、組換えの方法及び組成物を用いて製造することができる。一実施態様において、本明細書に記載される抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列、及び/又は抗体のVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードし得る。更なる実施態様において、そのような核酸を含む一以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。更なる実施態様において、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。一実施態様において、宿主細胞は以下を含む(例えば、以下で形質転換される):(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列、及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第一ベクター、及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二ベクター。一実施態様において、宿主細胞は、真核生物、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施態様において、抗体を作る方法が提供され、その方法は、上記のように、抗体の発現に適した条件下で、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養することを含み、及び必要に応じて、宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)から抗体を回収することを含む。
【0127】
抗体の組換え生産のために、例えば上述したように、抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞内での更なるクローニング及び/又は発現のために一以上のベクターに挿入される。このような核酸は、容易に単離され、従来の手順を用いて(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定することができる。
【0128】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現に適切な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞又は真核細胞を含む。例えば、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能が必要ない場合には、抗体は、細菌で産生することができる。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号及び第5,840,523号を参照。(また、大腸菌における抗体の発現を説明している、Charlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245-254も参照)。発現の後、抗体は可溶性画分において細菌の細胞ペーストから単離され、更に精製することができる。
【0129】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、菌類や酵母菌株を含む抗体をコードするベクターのための、適切なクローニング宿主又は発現宿主であり、そのグリコシル化経路が、「ヒト化」されており、部分的又は完全なヒトのグリコシル化パターンを有する抗体の生成をもたらす。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)、及びLi et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006)を参照。
【0130】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物と脊椎動物)から派生している。無脊椎動物細胞の例としては、植物及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株が同定され、これらは特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と組み合わせて使用することができる。
【0131】
植物細胞培養を宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5959177号、第6040498号、第6420548号、第7125978号及び第6417429号(トランスジェニック植物における抗体産生に関するPLANTIBODIESTM技術を記載)を参照。
【0132】
脊椎動物細胞もまた宿主として用いることができる。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)で形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載された293又は293T細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスのセルトリ細胞(Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980)に記載されるTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頚癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2);マウス乳腺腫瘍(MMT060562);例えばMather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に記載されるTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR-CHO細胞(Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;及びY0、NS0及びSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞系の評価については、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003)を参照。
【0133】
アッセイ
本明細書で提供される抗体は、当技術分野で公知の様々なアッセイによってその物理的/化学的性質及び/又は生物学的活性について同定され、スクリーニングされ、又は特徴づけることができる。
【0134】
1.結合アッセイとその他のアッセイ
一態様において、本発明の抗体は、例えばELISA、ウエスタンブロット法など公知の方法により、その抗原結合活性について試験される。
【0135】
別の態様において、競合アッセイが、目的の抗原に結合するための本発明の抗体と競合する抗体を同定するために用いることができる。所定の実施態様において、このような競合する抗体は、本発明の抗体により結合される同一のエピトープ(例えば、直鎖状又は立体構造エピトープ)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な典型的な方法が、Morris (1996) “Epitope Mapping Protocols," in Methods in Molecular Biology vol. 66 (Humana Press, Totowa, NJ)に提供されている。
【0136】
典型的な競合アッセイにおいて、目的の固定化抗原は、目的の抗原に結合する第一の標識された抗体(例えば、本発明の抗体)、及び目的の抗原へ結合について第一の抗体と競合する能力について試験される第二の未標識抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第二抗体はハイブリドーマ上清中に存在してもよい。対照として、目的の固定化抗原が、第二の未標識の抗体でなく、第一の標識された抗体を含む溶液中でインキュベートされる。目的の抗原への第一の抗体の結合を許容する条件下でインキュベートした後、過剰の未結合の抗体が除去され、固定化された目的の抗原に結合した標識の量が測定される。もし、固定化した目的の抗原に結合した標識の量が、対照サンプルと比較して試験サンプル中で実質的に減少している場合、それは、第二抗体が目的の抗原への結合に対して、第一の抗体と競合していることを示している。Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual ch.14 (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY)を参照。
【0137】
2.活性のアッセイ
一態様において、アッセイは、生物学的活性を有するその抗体を同定するために提供される。インビボ及び/又はインビトロでこのような生物学的活性を有する抗体もまた提供される。
【0138】
所定の実施態様において、本発明の抗体は、そのような生物学的活性について試験される。
【0139】
以下の実施例は、事例のためだけであって、本発明の権利範囲が制限されるものでは決してない。
【0140】
本明細書で引用した全ての特許文献及び参考文献は、本明細書において参照によりその全体が明確に援用される。
【実施例
【0141】
以下は本発明の方法及び組成物の例である。上記提供される一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0142】
M13KO7ヘルパーファージは、New England Biolabsからであった。ウシ血清アルブミン(BSA)及びTween20は、Sigmaからであった。カゼインは、Pierceから入手した。抗M13コンジュゲート西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)はAmersham Pharmaciaからであった。マキシソープイムノプレートはNUNCからであった。テトラメチルベンジジン(TMB)基質は、Kirkegaard及びPerry Laboratoriesからであった。他の全てのタンパク質抗原は、ジェネンテック社での研究グループによって生成された。
【0143】
実施例1:原核細胞及び真核細胞での発現のためのシグナル配列の選択
ベクターが、大腸菌及び真核(哺乳動物)細胞の両方において目的のタンパク質を発現することができるかどうかを検討するために、哺乳動物細胞中で機能することができるとする考えを支持する事例証拠が存在する非細菌起源の4つのシグナル配列が選択された。我々は、これらのシグナル配列を、ファージELISAを使用してM13ファージ上で抗Her2(h4D5)Fabディスプレイを駆動するその能力について試験した(図1A)。ディスプレイのレベルは、細菌の熱安定性エンテロトキシンII(STII)のシグナル配列と比較して評価した。Fabファージディスプレイを駆動するシグナル配列の能力は大きく変化し、マウス結合性免疫グロブリンタンパク質(mBiP)からの、一つのシグナル配列が、Fabディスプレイの効率的なレベルを恐らくは可能としうるディスプレイのレベルを駆動した。
【0144】
細菌中での真核生物シグナル配列の機能はコドン使用頻度により大きく影響されることが以前に実証されていたので、mBiPシグナル配列の能力を更に向上させるため、我々はファージに基づくコドン最適化アプローチを利用した(Humphreys et al., The Protein Expression and Purification, 20: 252-264 (2000)。mBiPシグナル配列が、標準的なファージミドベクター中でh4D5 Fab HCのN末端に融合したファージライブラリーを構築した。mBiPシグナルペプチドのDNA配列は、サイレント変異のみを可能とする、最初の二つのメチオニンに続く各コドンの3番目の塩基が多様化していた。固定化Her2に対する固相パニングを4ラウンドの後、個々のクローンを採取し、配列決定した。我々は、選択されたクローンのコンセンサス配列は、グアニン又はシトシンよりむしろ、ランダム化した位置でアデニン又はチミンを非常に好むということを見いだした。この結果は、野生型mBiPの配列内の17のコドンのうち15は、第三塩基の位置でグアニン又はシトシンを含むが、選別されたライブラリ内の17コドンのそれぞれは、60-90%の確率でこれらの位置にアデニン又はチミンを含んでいたという事実によって強調される。ELISAファージで試験した場合、最適化されたmBiPシグナル配列は、原核生物のSTIIシグナル配列に匹敵するレベルでh4D5 Fabのディスプレイを駆動し、mBiPシグナル配列は、能力の明らかな減少を伴うことなく、原核生物のSTIIシグナル配列の代わりに、ファージディスプレイ実験及びパニング実験のために利用することができることを示唆している(図1B)。
【0145】
次いで、哺乳動物細胞におけるIgGの発現及び分泌を支援するmBiPシグナル配列の能力を評価した。各々がN末端に融合したmBiPシグナル配列を有するh4D5 hIgGのHC及びLCをコードする哺乳動物発現ベクターが懸濁液の293S細胞に同時導入され、5日間増殖させ、その後に上清を回収し、そしてIgGをアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。30mLの培養物からのIgGの収率は決まって約2.0mgであり、両方の鎖の天然型HCシグナル(VHS)を使用して得られた収率に匹敵する(データ非表示)。興味深いことに、mBiPシグナル配列のコドンが最適化された形態に対する野生型の使用は、IgGの発現レベルにおいて識別可能な影響を及ぼさなかった(データ非表示)。ゲル濾過クロマトグラフィー及び質量分析において、精製されたタンパク質は溶液中で>90%が単量体であり、mBiPシグナル配列はHC及びLC両方の適切な位置で完全に切断されたことを確認した(データ非表示)。h4D5は良好な発現体であることが知られているので、我々は、ファージパニング実験から任意に選択された未同定クローンのプールでVHSに比較したmBiPの性能を試験した。これらのクローンからの平均収量は、30mLの懸濁培養から約1.0mgであって、有意な差は、2つのシグナル配列の間で観察されなかった(図2A及びB)。
【0146】
要約すると、mBiP哺乳動物分泌シグナル配列は、スクリーニング用に十分なレベルで、哺乳動物細胞中でIgGを発現させることができ、そしてまた一度コドンが最適化されると、IgGの発現レベルを損なうことなく、ファージ上で堅牢なFabディスプレイを駆動することができた。
【0147】
実施例2:原核細胞及び真核細胞における代替のFab融合体の発現
宿主細胞依存的に異なるFab融合タンパク質を生成するために、我々は、原核細胞でなく真核生物においてmRNAのプロセシング中に生じるイントロンスプライシングの天然のプロセスを活用しようとした。hIgGのHC定常領域のゲノム配列は、3つの天然イントロンが含まれる(図3A)。これらのうち最初(イントロン1)は、HC可変ドメイン(V)及びヒンジ領域との間に位置する384塩基対のイントロンである。RT-PCR及び転写産物の配列決定によって評価されるように、イントロン1及び最適化されたスプライスドナー配列を含むHC発現ベクターは、完全にスプライシングされたmRNAを発現し、LCベクターを同時導入されると、イントロンを含まないベクターに匹敵するレベルでIgGを発現した(図5)。
【0148】
イントロン1の配列内に埋め込まれたファージアダプターペプチドへのFab断片が、細菌細胞及び哺乳動物細胞のそれぞれにおいてファージ上のディスプレイ及びIgGの発現の両方を可能にするかどうかを決定するため、アダプターペプチド(図3B)又はファージコートタンパク質遺伝子III(図3C)が、イントロン1又はイントロン3の5’末端で、h4D5 HC.イントロン1のコンストラクトに挿入されたイントロン1又は3からの天然スプライスドナーは、アダプタペプチドのすぐ上流に移動させた。HC-アダプター.イントロン1コンストラクトが、哺乳動物細胞においてh4D5 LCと共発現させた場合、h4D5 IgGの発現はイントロンを含まないコントロールコンストラクトのそれの約40%(アダプターを含むイントロンについて)であり、又は約5%(遺伝子-III含有イントロンについて)であった(図4A)。RT-PCRは、HC-アダプターmRNAの一部は適切にスプライシングされつつ(図4B、中央のバンド)、V領域における潜在性スプライスドナーから有意な量のmRNAがスプライシングされなかった(図4B、上のバンド)又は不正確にスプライシングされた(図4B、下のバンド)かの何れかであることを実証した。。HC-遺伝子-IIIのmRNAは、ほぼ完全に潜在性スプライスドナーからスプライシングされた。潜在性スプライスドナー配列のサイレント変異は、スプライシングされていないmRNAの蓄積のみをもたらした(非表示)。
【0149】
アダプター配列を挿入したときに、イントロンの効率的なスプライシングの不全に照らして、我々は、哺乳動物のmRNAのためのスプライスドナーの既知のコンセンサス配列に対して天然のスプライスドナーの配列を比較した(Stephens et al., J of Molecular Biology, 228: 1124-1136 (1992))。図5に示すように、hIgGのイントロン1からの天然スプライスドナーは、8つのうち3つの位置でコンセンサスドナー配列とは異なる。位置1及び5での置換は、これらの位置が位置8よりも保存されているので更に分析された。位置1及び5での塩基がコンセンサス配列と一致するように変更された変異体スプライスドナー(ドナー1)(図5A)が生成され、HCにおいて合成イントロンのスプライシングを媒介するこれらの改変されたドナーの能力を試験した。この最適化されたスプライスドナーは、イントロンを含まないコントロールコンストラクトのレベルと一致したレベルまでh4D5 IgGの発現の随伴性増加を伴って(図5C)、完全に合成イントロンのスプライシングを回復した(図5B)。合成イントロンがアダプターペプチド又は遺伝子IIIを含むか、及びまた、合成イントロンがhIgG1のイントロン1又はイントロン3に基づいているかによらず、スプライシング及びIgGの発現の改善が観察された。
【0150】
実施例3:原核細胞及び真核細胞のための発現及び分泌システムの生成
二重ベクタープラスミドの生成のために、我々はファージディスプレイに現在使用したpBR322由来のファージミドベクター、pRSを使用した。このバイシストロン性ベクターは、その関連するSTIIシグナル配列を有する抗体の軽鎖カセット、続いて関連するSTIIシグナル配列を有する抗体の重鎖カセットの発現を駆動する細菌のPhoAプロモーターからなる。軽鎖配列の最後に、ファージ粒子上のFabディスプレイを検出するためのgDエピトープタグがある。従来のファージミドでは、重鎖配列は、hIgGのV及びC1ドメインのみからなり、ファージ融合タンパク質、ほとんどの場合ファージコートタンパク質pIII又はアダプターペプチドをコードする、遺伝子IIIなどのユーティリティペプチドに対してヌクレオチドレベルで融合される。軽鎖及び重鎖カセットの3’末端は、大腸菌において転写を停止するためのラムダ転写ターミネーター配列を含む。このベクターは、単一のmRNA転写産物からの軽鎖及び重鎖のpIIIを生成するので、LC配列及びHC配列間に転写調節エレメントは存在しない。ベクターは、アンピシリン耐性を付与するβ-ラクタマーゼ(BLAの)遺伝子、大腸菌における複製のためのpMB1起点、及びM13ファージによる感染を可能にする細菌表面上での線毛の発現のためのf1起点を含む。このベクターの別の形態はまた、哺乳動物細胞の適切な菌株におけるプラスミドのエピソーム複製のためのSV40複製起点を含む。
【0151】
初期二重ベクター(ここでは「pDV.6.0」と呼ぶ)の構築のため、我々は最初に、pRK(IgGの発現及び他のタンパク質のために使用される哺乳動物発現ベクター)からの哺乳動物のCMVプロモーターを、LC-HCのシストロンを駆動するphoAプロモーターの上流に挿入した。LC抗体コード配列の終端に、我々は、アンバーサプレッサー大腸菌株でディスプレイされたときにファージ上のタグ付きLCの検出を可能とする、アンバー終止コドン、続いてgDエピトープタグを挿入した。ベクターが哺乳動物細胞で発現される場合、エピトープタグは存在しない。従って、LCカセットは(5’から3’の順に)、真核生物プロモーター、細菌プロモーター、シグナル配列、抗体軽鎖(LC)をコードする配列、及びエピトープタグ(gD)を含む。
【0152】
次に、HCカセットとLCカセットとの間に、我々は(5’から3’から順に)SV40哺乳動物ポリアデニル化/転写終止シグナル、大腸菌における転写終結のためのラムダターミネーター配列、CMVプロモーター及びPhoAプロモーターを含む合成カセットを挿入した。
【0153】
次に、SV40哺乳動物ポリアデニル化/転写終止シグナル及びラムダターミネーター配列をHCカセットの後に挿入した。HCカセットは、シグナル配列、及び抗体重鎖(HC)コード配列を含む。
【0154】
原核細胞と真核細胞の両方において目的の融合タンパク質の分泌を可能にするために、我々は、LC及びHCの前のSTIIシグナル配列を真核生物のマウス結合性免疫グロブリンタンパク質(mBiP)シグナル配列と置換した。幾つかの候補シグナル配列のスクリーニングは、このシグナル配列は、原核生物の発現(即ち、ファージディスプレイ)及び/又は真核生物の発現(即ち、哺乳動物細胞におけるIgGの発現)を必要とする用途で機能することが可能であり、そしてmBiPは、この作業の前に用いられた各々のシグナル配列が機能を果たしたのと同様に、これらの設定の両方で良好に機能を果たしたという発見へと我々を導いている。
【0155】
大腸菌内でFabファージを、及び哺乳動物細胞中でIgGの発現を可能にするために、我々は、HCカセット中に合成イントロンを生成した。我々は、ファージ粒子上にディスプレイするための融合タンパク質(遺伝子III)を含む合成イントロンを作製するために、ヒトIgG1のイントロン1又はイントロン3からの天然イントロンを改変した。ヒトIgG1からのイントロン1(又はイントロン3)のゲノム配列が、大腸菌でFab HC-p3融合体を生成するために停止コドンによって分離される遺伝子III配列の直後に挿入された。合成イントロンの5’フランキング領域で天然のスプライスドナーオクタヌクレオチドの配置は、大腸菌で発現された場合、ヒンジ領域中に2つのアミノ酸変異を必要とし(E212G及びP213K、Kabatの番号付け)、最適化されたスプライスドナーを作製するための変異は、リジンに変異されているこれらの残基の両方を生じる。これらの変異は、ファージ上のディスプレイのレベルに影響を与えず(非表示)、ファージヒンジ領域はスプライシングプロセスの間に除去されるので、哺乳動物細胞で発現する完全長IgGには存在しないであろう。
【0156】
また、アダプターファージディスプレイの利用のために、我々は、異なる合成イントロンを有し、上記のpDV6.0ベクターに類似するベクターを生成した(pDV5.0と呼ぶ。図7に示す)。遺伝子III配列は、ロイシンジッパー対の2つのメンバーの片方(本明細書では「アダプター」と呼ばれる)と置換した。この合成イントロンでは、アダプターペプチド配列の後に、終止コドン及びイントロン1又は3のゲノム配列が続く。このコンストラクトでは、我々はまた、ロイシンジッパー対の同族メンバーに融合された遺伝子IIIからなる別個の細菌発現カセットを挿入した。LC CMVプロモーターの上流に導入され、PhoAプロモーターによって制御されるこの別個の細菌発現カセットは、大腸菌に対してアダプター遺伝子IIIの発現を制限するSTIIシグナル配列を含み、そしてすぐ下流にラムダターミネーターを含む。大腸菌で発現された場合、重鎖及び軽鎖はペリプラズム中で会合してFabを形成し、重鎖に融合したアダプターはpIII-アダプタータンパク質上の同族アダプターに安定的に結合する。この会合したFabアダプターpIII複合体のファージ粒子中へのパッケージングは、目的のFabをディスプレイするファージを得ることとなる。加えて、我々は、パートナーアダプターが遺伝子IIIのN末端へ融合される(アダプター-KO7)KO7ヘルパーファージのカスタム変異体を生成した。アダプター-KO7とpDV.5.0を有する大腸菌の感染は、アダプターに融合した成熟ファージミド上に存在するpIIIの全てのコピーを生じる。その結果、pDV5から由来するpIIIのそれらのコピーのみよりむしろFabアダプターに結合するpIIIの全てのコピーが利用可能である。しかしながら、時には、低レベルのディスプレイは、まれな高親和性クローンが求められるときに望ましい場合がある(例えば、親和性成熟の用途において)。この場合、従来のKO7ヘルパーファージとともにpDV.5.0を保有する大腸菌の感染は、ファージ粒子上にディスプレイされる(pDV.5.0からの)アダプター-pIII及び(KO7ヘルパーファージからの)野生型pIIIの混合物を生じるであろう。このシナリオでは、全体的なpIIIプールのサブセットのみがアダプター-Fabと結合することができるので、得られるディスプレイレベルは、アダプターKO7を用いた場合よりも低くなるであろう。単に適切なヘルパーファージを選択することにより、ディスプレイレベルを調節する能力が本発明のユニークな利点である。
【0157】
我々は、哺乳動物細胞において異なるIgGを発現するpDV5.0の能力を評価した。四つの異なるヒトIgGからのHC及びLCはpDV5.0にサブクローニングされ、293細胞中で発現させた。若干驚くべきことに、pDVからの総収量は、2-プラスミド系からよりも一貫して約10倍低かった。しかしながら、収量は依然として30mLの培養あたり約0.1-0.4mgのオーダーである(図6B)。物質のこの量は、日常的なスクリーニングアッセイのためより適切であり、より大量の物質が必要な場合、容易に0.1-1L以上までスケールアップすることができる。IgGは溶液中で、ゲルろ過クロマトグラフィーにより、>90%が単量体であることが示された。
【0158】
実施例4:遺伝子-III中にアンバー変異を有する、変異型ヘルパーファージ、M13KO7の構築(アンバーKO7)
M13ファージ上のpIIIに融合したタンパク質のディスプレイを増強するため、我々は部位特異的突然変異誘発を使用して、変異体ヘルパーファージ、アンバーKO7を生成させた。アンバーKO7は部位特異的変異誘発によってM13KO7ヘルパーファージゲノムに導入されたアンバーコドンを有する。pIIIのヌクレオチド配列(変異体ヘルパーファージアンバーKO7のヌクレオチド1579から2853)が図8に示されている。
【0159】
アンバーKO7を生成するため、ヘルパーファージM13KO7が大腸菌CJ236株(遺伝子型dut/ung)を感染させるために使用され、子孫のビリオンは、ssDNAを精製キット(QIAGEN)を使用してssDNAを精製するために回収された。合成オリゴヌクレオチド(配列5’-GTGAATTATCACCGTCACCGACCTAGGCCATTTGGGAATTAGAGCCA-3’)(配列番号23)が、オリゴヌクレオチド特異的部位変異誘発によってM13KO7の遺伝子-IIIを変異させるために使用された。変異誘発されたDNAが大腸菌XL1-ブルー細胞を形質転換するために使用され(Agilent Technologies)、ソフト寒天プレート上で感染していないXL1-ブルー細胞の菌叢に播種した。プラークを個別に採取し、細胞は50μg/mlのカナマイシンを含むLB培地で増殖させた。二本鎖複製形態(RF)のDNAを、DNAミニプレップキットを用いて抽出し、アンバー終止変異の存在を確認するために配列決定した。個体群の均質性を、RF DNAのAvrII制限エンドヌクレアーゼ消化及び寒天ゲル電気泳動により確認した。全ての組換えDNA操作工程を記載されるように行った(Sambrook, J. et al., A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratroy Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001)。
【0160】
アンバーKO7を用いて生成されたファージ粒子上のFabディスプレイのレベルは、ファージELISAによって測定した。抗原(Her2)をイムノプレート上に固定化し、野生型KO7(WT KO7)又はpIIIヘルパーファージ中にアンバー変異を有する改変されたM13KO7(アンバーKO7)の何れかを使用して、抗Her2 Fabを有するファージがXL1-ブルー細胞中で生成された。結合は、マウス抗M13-HRPコンジュゲートと共にインキュベートし、その後450nmでのTMB基質OD測定により検出した。アンバーKO7の使用は、野生型KO7がファージ生成のために使用される場合に同じファージミドによって達成されるレベルと比較して(閉じた四角形)、低ディスプレイファージミドから、より高いディスプレイレベルをもたらした(閉じた三角形)(図9)。アンバーKO7を使用した低ディスプレイファージミドによるFabディスプレイのレベル(閉じた三角形)はまた、野生型KO7による高ディスプレイファージミドを使用した場合に観察されたFabディスプレイのレベルと同様であった(白い菱形)(図9)。
【0161】
実施例5:ナイーブHC-のみライブラリーの生成のための原核細胞及び真核細胞の発現及び分泌系の生成及びファージパニング用システムの利用
実施例3に記載のHC及びLCの両方で、原核生物プロモーター及び真核生物プロモーターを特徴づける直接的及び間接的な融合ベクターに加えて(pDV5.0とpDV6.0)、我々は、改変された直接融合二重ベクターコンストラクトを生成し(図14に示すpDV.6.5)、ここではFab LCはSTIIシグナル配列に融合され、細菌のPhoAプロモーターによってのみ駆動されるが、一方Fab HC(哺乳動物細胞における完全長hIgG1 HCの発現のための遺伝子III-合成イントロン配列及びhIgG Fc配列を含有する)は、真核生物のCMVプロモーター、及び原核生物のPhoAプロモーターの両方によって駆動された。このコンストラクトは、多様性がHCのみに導入される、前述の合成ヒトFabライブラリーを再現するために使用された(Lee, et al., Journal of Molecular Biology, 340. 1073-1093 (2004))。このベクターからの完全長IgGの発現は、LCをコードする哺乳動物発現ベクターの同時導入を必要とする。
【0162】
ファージディスプレイライブラリーは、オリゴヌクレオチド特異的(クンケル)変異誘発、及び終止コドン(TAA)が3つ全ての重鎖CDRに配置されたpDV.6.5の「終止テンプレート」バージョンを使用して生成された。これらの終止は、CDRH1、H2及びH3をコードする領域にわたってアニールし、縮重コドンとのランダム化のために選択された位置でコドンを置換したオリゴヌクレオチドの混合物による変異誘発反応の間に修復された。変異誘発反応は、XL1-ブルー細胞に電気穿孔され、培養物を、アンバーKO7ヘルパーファージ、50μg/mlのカルベニシリン及び25μg/mlのカナマイシンを補充した2YTブロス中で温度シフトプロトコール(37℃で4時間、続いて30℃で36時間)を用いて増殖させた。ファージを、PEG/NaClによる沈殿によって培養液から回収した。各電気穿孔反応は、約5μgのDNAを使用し、1×10-7×10の形質転換体が得られた。
【0163】
このベクター中に生成されたナイーブファージライブラリーのパニングは、ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)に対して実施された。ファージライブラリーの選別のため、タンパク質抗原をマキシソープイムノプレート上に固定化し、ライブラリーを4から5ラウンドの結合選択に供した。ウェルは、交互のラウンドで、BSA又はカゼインを用いて交互に遮断した。ラウンド3から5を通じて選択されたランダムクローンは、標的抗原(VEGF)及び非特異的結合をチェックするための無関係なタンパク質(Her2)への結合を比較するためにファージELISAを用いてアッセイした。簡潔には、ファージクローンは、アンバー.KO7ヘルパーファージを補充した2YTブロス1.6mLの中で一晩増殖させた(実施例4)。上清を、固定化抗原又は無関係なタンパク質でコーティングされたプレートに室温で1時間結合させた。洗浄後、結合したファージはHRPコンジュゲート抗M13抗体を用いて検出し(室温で20分間)続いてTMB基質で検出した。我々は、VEGFについてELISA陽性であるが、無関係のコントロールタンパク質(Her2)についてはELISA陽性でない複数のクローンを単離した(図10-棒グラフ)。
【0164】
VEGFに対する特異性を実証したこれらのクローンからのDNAは、その後、完全長hIgG1の発現用の小規模懸濁培養物中で、293細胞において共通のLCをコードする哺乳動物の発現ベクターの同時導入によって完全長IgGを発現させるために使用した。1mLの培養物は、製造業者の説明書に従ってExpifectamine又はJetPEIを使用してトランスフェクトし、37℃/8%COで5~7日間インキュベートした。スケールアップしたトランスフェクションを、30mLの293細胞中で実施した。
【0165】
培養上清は、次いで、ビアコアT100機器でのFc捕獲アッセイで、VEGF結合についてIgGをスクリーニングするために使用した(図11)。1mLの培養物からのIgGの上清を、抗原結合についてスクリーニングした。抗ヒトFc捕獲抗体は、シリーズS CM5センサーチップ上に固定化した(10000RU)。上清からのIgGの捕獲を可能にするため(50~150RU)、上清を順次フローセル2、3及び4の上に流し(5μL/分で4分間)、その後抗原(100-1000nM)を固定化されたIgG上に流し(30μL/分で2分間)、結合応答を測定した。
【0166】
正の結合剤の配列決定は、正の結合特性を有する8つの固有配列を示している(重鎖CDR配列は図12に示されている)。ファージELISA(図10)及びビアコアデータ(図11)と組み合わせた配列決定データ(図12)が、更なる分析のための8つの抗VEGFクローンのプールを選択するために使用された。
【0167】
これらの8つのクローンの発現は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養物100mLにスケールアップされ(図15を参照)、そして精製された物質は、抗VEGFクローンの、受容体遮断ELISAを介したその同族受容体(VEGFR1)の一つへのVEGFの結合をブロックする能力を評価するために使用された。ビオチニル化hVEGF165(2nM)を、PBS/0.5%のBSA/0.05%のTween-20で3倍に連続希釈した抗VEGF抗体(200nMの上限濃度)とともにインキュベートした。室温でのインキュベーションの1~2時間後に、混合物をVEGFR1固定プレートに移し、15分間インキュベートした。次いで、VEGFR-1に結合したVEGFを30分間、ストレプトアビジン-HRPによって検出し、続いてTMB基質で現像し、IC50値を測定した。
【0168】
我々は、市販の抗VEGF抗体であるベバシズマブと同等のIC50を有する1クローン(VEGF55)を同定した(図13)。この方法では、我々は、ファージパニングからIgG発現へ直接移行することができ、全てはサブクローニングする必要性無く、クローンのプールを単一候補に至るまで順序をトリアージで決定することができた。
【0169】
要約すれば、この改変された直接融合二重ベクター(pDV.6.5)を、大腸菌においてランダム化された重鎖及び定常軽鎖によるファージディスプレイライブラリーの構築に使用することができ、そして、軽鎖発現ベクターで補われる場合にはサブクローニングすることなく、哺乳動物細胞における天然のIgG1として選択されるクローンを続いて発現させるために使用することもできた。哺乳動物のCMVプロモーターはHCのみの上流に存在するので、PDVは、大腸菌ではFab LCとFab HC-pIIIの両方を発現したが、しかし、哺乳動物細胞ではhIgG1HCのみを発現した。このベクターは、複数の抗原を結合するナイーブ合成FabライブラリーからFab断片を選択し、その後、改変された直接融合二重ベクタークローンに、共通のLCをコードする哺乳動物発現ベクターを同時導入することにより、哺乳動物の293細胞及びCHO細胞において選択されたクローンから完全長天然hIgG1を発現するために使用された。天然型IgG1は、いくつかのアッセイを行うためのこれらの発現実験から、例えば、ELISA及びビアコアによる結合活性を示す8つの固有の抗VEGFクローンのプールから得られ、我々は、元のファージベクタークローンからHC配列をサブクローニングする必要なく、IgG形態の候補の溶液内の挙動、非特異的結合、及び生物学的活性を評価する単一候補boまで順序をトリアージで決定することができた。
【0170】
前述の発明は、理解を明確にする目的のために例示及び実施例によってある程度詳細に説明してきたが、説明や例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。すべての特許及び本明細書に引用される科学文献の開示は、参照によりその全体が援用される。
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【配列表】
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