(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】機械式継手
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
E02D5/24 103
(21)【出願番号】P 2020200230
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】杉原 宏英
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 崇志
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22- 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭を構成する上杭及び下杭の継ぎ目において、前記上杭に設けられた上側配設部と、前記下杭の上端部に設けられた下側配設部とから構成されるキー配設部に回転抑止キーを配設することによって前記上杭及び前記下杭の回り止めが可能に構成され
、且つ、前記上杭及び前記下杭のいずれか一方の内周面に設けられた内向き溝部と、前記上杭及び前記下杭のいずれか他方の外周面に設けられた外向き溝部とに跨るように荷重伝達キーを配置することによって前記上杭及び前記下杭の抜け止めが可能に構成された機械式継手であって、
前記回転抑止キー、及び少なくとも前記上側配設部又は前記下側配設部には、前記キー配設部に当該回転抑止キーを固定するためのボルトを挿通するために、当該鋼管杭の径方向に沿って、キー貫通孔及び配設部貫通孔が設けられ、
前記配設部貫通孔は、当該鋼管杭の厚みを貫いて設けられるとともに、当該鋼管杭の内面側にのみに、前記ボルトの雄ネジと螺合可能な雌ネジが設けられ、当該雌ネジが設けられていない部分は
、当該雌ネジの谷径及び前記ボルトの外径よりも大きなキリ穴から構成されていることを特徴とする機械式継手。
【請求項2】
前記雌ネジの長さは、前記配設部貫通孔の全長の10%以上50%以下の長さであることを特徴とする請求項1に記載の機械式継手。
【請求項3】
前記雌ネジの山数は3~7.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機械式継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭を構成する上杭及び下杭の継ぎ目において、前記上杭に設けられた上側配設部と、前記下杭の上端部に設けられた下側配設部とから構成されるキー配設部に回転抑止キーを配設することによって前記上杭及び前記下杭の回り止めが可能に構成された機械式継手に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、施工の省力化、工期短縮の観点から施工現場での鋼管杭を構成する上杭及び下杭の継杭作業の効率化を図るために機械式継手が開示されている。
【0003】
当該機械式継手は、前記上杭の下端部に溶接されたボックス継手と、前記下杭の上端部に溶接されたピン継手とを互いに嵌合させ、ボックス継手内のキー溝に内蔵した荷重伝達キーをセットボルトによってボックス継手内のキー溝とピン継手側のキー溝との跨る位置で固定することによって上杭及び下杭が抜け止めされる。
【0004】
また、上杭及び下杭の継ぎ目において、ボックス継手の下端部に設けられた上側配設部と、ピン継手の上端部に設けられた下側配設部とによりキー配設部が構成されており、ボルトを、回転抑止キーに設けられたキー貫通孔を介して、下側配設部に設けられた雌ネジに螺着することにより、回転抑止キーが上杭及び下杭の継ぎ目に跨るように固定され、上杭及び下杭の回り止めが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、下側配設部の部分においてピン継手の厚みにわたって雌ネジが設けられているため、当該ボルトを着脱する際にそれなりの回転トルクが必要であり取付けや取外し作業時間が長くなる。また、ネジ山やネジ穴に土砂が付着したり錆が発生したりしたときに取付けや取外し作業が煩雑であった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、上杭及び下杭の継ぎ目に跨設された回転抑止キーを固定するボルトの取付けや取外しの作業性が良好な機械式継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するための、本発明の機械式継手の特徴構成は、鋼管杭を構成する上杭及び下杭の継ぎ目において、前記上杭の下端部に設けられた上側配設部と、前記下杭の上端部に設けられた下側配設部とから構成されるキー配設部に回転抑止キーを配設することによって前記上杭及び前記下杭の回り止めが可能に構成され、且つ、前記上杭及び前記下杭のいずれか一方の内周面に設けられた内向き溝部と、前記上杭及び前記下杭のいずれか他方の外周面に設けられた外向き溝部とに跨るように荷重伝達キーを配置することによって前記上杭及び前記下杭の抜け止めが可能に構成された機械式継手であって、前記回転抑止キー、及び少なくとも前記上側配設部又は前記下側配設部には、前記キー配設部に当該回転抑止キーを固定するためのボルトを挿通するために、当該鋼管杭の径方向に沿って、キー貫通孔及び配設部貫通孔が設けられ、前記配設部貫通孔は、当該鋼管杭の厚みを貫いて設けられるとともに、当該鋼管杭の内面側にのみに、前記ボルトの雄ネジと螺合可能な雌ネジが設けられ、当該雌ネジが設けられていない部分は、当該雌ネジの谷径及び前記ボルトの外径よりも大きなキリ穴から構成されている点にある。
【0009】
上述の構成によると、配設部貫通孔において、鋼管杭の内面側にのみに雌ネジが形成されているため、ボルトを鋼管杭の厚み、つまり、配設部貫通孔の全長にわたって螺着させる場合に比べて、必要な回転トルクは小さくてよいため作業時間を短縮することができ作業性が良い。
【0010】
また、ネジ山やネジ穴に土砂が付着したり錆が発生したりしたときであっても、清掃や錆落とし作業が不要ないし容易である。
【0011】
なお、配設部貫通孔において、当該鋼管杭の外面側にのみに雌ネジを形成し、当該雌ネジが設けられていない部分にキリ穴から構成する場合は、当該キリ穴の加工を鋼管杭の内面側からする必要があるため加工に係る作業性が悪い。これに対して、配設部貫通孔において当該鋼管杭の内面側にのみに雌ネジを形成し、当該雌ネジが設けられていない部分にキリ穴から構成する場合は当該キリ穴の加工を前記鋼管杭の外面側からすることができるため加工に係る作業性が良い。
【0012】
配設部貫通孔が全長にわたってキリ穴のみから構成されていると、ボルトを配設部貫通孔に螺着させることができないため、上杭及び下杭に引き抜き力や回転力がかかったときに、ボルトが脱落する虞がある。これに対して、少なくとも配設部貫通孔において雌ネジが設けられているため、ボルトを配設部貫通孔に螺着させることができるので、上杭及び下杭に引き抜き力や回転力がかかっても、ボルトは容易に脱落しない。
【0013】
なお、ボルトは、少なくとも雌ネジに対応する部分にのみ雄ネジが形成されていればよい。
【0014】
本発明においては、前記雌ネジの長さは、前記配設部貫通孔の全長の10%以上50%以下の長さであると好適である。
【0015】
発明者らの鋭意研究の結果、雌ネジの長さは、配設部貫通孔の全長の10%以上50%以下の長さであると、ボルトの取付けや取外しの作業性を良好に保ちながら、当該ボルトを配設部貫通孔に十分に固定することができるという知見が得られた。
【0016】
本発明においては、前記雌ネジの山数は3~7.5であると好適である。
【0017】
発明者らの鋭意研究の結果、雌ネジの山数は3~7.5であると、ボルトの取付けや取外しの作業性を良好に保ちながら、当該ボルトを配設部貫通孔に十分に固定することができるという知見が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】別実施形態に係る機械式継手の説明図である。
【
図4】別実施形態に係る機械式継手の説明図である。
【0019】
以下に本発明に係る機械式継手の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示すように、鋼管杭1は複数の鋼管2が機械式継手10によって連結されて構成されている。機械式継手10は、ボックス継手11、ピン継手12、荷重伝達キー13及び回転抑止キー14等を備えている。
【0021】
各鋼管2は、下端部にボックス継手11が溶接されるともに、上端部にピン継手12が溶接されて構成されている。
【0022】
上杭すなわち上側の鋼管2のボックス継手11と、下杭すなわち下側の鋼管2のピン継手12とが、荷重伝達キー13及び回転抑止キー14によって抜け止め状態、かつ、回り止め状態で連結される。
【0023】
ボックス継手11は、鋼製の筒状体を加工することによって作成される。ボックス継手11は、当該ボックス継手11の内周面15に二条の内向き溝部16が備えられ、当該ボックス継手11の外周面から内向き溝部16に連通する開口部17が設けられている。
【0024】
ピン継手12は、鋼製の筒状体を加工することによって作成される。ピン継手12は、当該ピン継手12の外周面18に二条の外向き溝部19が備えられている。ただし、内向き溝部16や外向き溝部19の数はこの限りではなく、それぞれ一条であってもよい。
【0025】
ボックス継手11にピン継手12を差し込んだ状態であるときに、開口部17からねじ込んだ挿入固定ボルト20によって、内向き溝部16と外向き溝部19とに跨るように荷重伝達キー13を配置させることにより、ボックス継手11とピン継手12とが抜け止め状態に維持される。
【0026】
さらにボックス継手11とピン継手12には、当該ボックス継手11及びピン継手12との外周面における継ぎ目において、それぞれボックス側配設部21及びピン側配設部22が形成されている。
【0027】
ボックス継手11にピン継手12を差し込んだ状態であるときに、ボックス側配設部21及びピン側配設部22から構成されるキー配設部23に回転抑止キー14を配設することにより、ボックス継手11とピン継手12とが回り止め状態に維持される。本実施形態においては、ボックス側配設部21が上側配設部を構成し、ピン側配設部22が下側配設部を構成する。
【0028】
図2に示すように、ピン側配設部22には、キー配設部23に当該回転抑止キー14を固定するためのボルト24を挿通するために、鋼管杭の径方向に沿って配設部貫通孔25が設けられている。なお、回転抑止キー14にも、配設部貫通孔25と対応するようにキー貫通孔26が設けられている。
【0029】
配設部貫通孔25は、ピン側配設部22の部分において鋼管杭1、ここではピン継手12の厚みを貫いて設けられている。配設部貫通孔25には、ピン継手12の内面側にのみにボルト24の雄ネジ27と螺合可能な雌ネジ28が設けられている。配設部貫通孔25のうち当該雌ネジ28が設けられていない部分はボルト24の外径よりも大きなキリ穴29から構成されている。
【0030】
回転抑止キー14に設けられているキー貫通孔26は、ボルト24の外径より大きなキリ穴30と、ボルト24の頭部を収容可能な座ぐり30とから構成されている。
【0031】
本実施形態においては、ボルト24はM8×19.35の六角穴付きボルトから構成され、ピン継手12の配設部貫通孔25に対応する部分の厚みは19.35mmであり、雌ネジ28はM8×6.25、キリ穴29はΦ9mmから構成されている。M8ボルトのピッチは1.25mmであることから雌ネジ28の山数は5である。キー貫通孔26のキリ穴29はΦ9mmから構成され、座ぐり30は、ボルト24の頭部を収容可能な深さとなっている。
【0032】
キー配設部23に回転抑止キー14を配設して、ボルト24の雄ネジ27と配設部貫通孔25の雌ネジ28とを螺合させることにより、回転抑止キー14がキー配設部23から脱落することが防止される。
【0033】
なお、本実施形態においては、ボルト24は全ネジであるが、少なくとも雌ネジ28に対応する部分にのみ雄ネジ27が形成されていればよい。また、ボルト24はメートルネジに限らずインチネジであってもよく、したがってピッチは1.25mmに限らない。なお、雌ネジ28はこれに対応するようにタップが切られる。さらに、ボルト24は六角穴付きボルトに限らない。
【0034】
例えば、ピン継手12の厚みは、32.2mm~40.7mm程度であり、回転抑止キー14の厚みが13mm程度であることから、ピン継手12の配設部貫通孔25に対応する部分の厚みは19.2~27.7mm程度である。上述のように、M8ボルトのピッチは1.25mmであり、ボルト24の雄ネジ27と配設部貫通孔25の雌ネジ28とは少なくとも3山が螺合することが好ましいことから、雌ネジ28の最低長さは3.75mmとなる。一方、ボルト24の雄ネジ27と配設部貫通孔25の雌ネジ28とは多くても7.5山も螺合すれば十分であることから、雌ネジ28の最高長さは9.375mmである。これらから、雌ネジ28の長さは、配設部貫通孔25の全長、すなわちピン継手12の配設部貫通孔25に対応する部分の厚みの10%以上50%以下の長さあればよく、雌ネジ28の山数は3~7.5であるとよい。
【0035】
上述した実施形態においては、各鋼管2は、下端部にボックス継手11が溶接されるともに、上端部にピン継手12が溶接されていたが、この限りではない。各鋼管2は、上端部にボックス継手11が溶接されるともに、下端部にピン継手12が溶接されていてもよい。したがってこの場合は、ボックス側配設部21が下側配設部を構成し、ピン側配設部22が上側配設部を構成する。
【0036】
また、
図3及び
図4に示すように、ピン継手12の内側からボルト32を挿入して回転抑止キー14をキー配設部23にナット33によって固定するような構成であっても、上述のような配設部貫通孔25に設けられる配設部貫通孔25に設けられる雌ネジ28及びキリ穴29の構成を採用することができる。このような場合においては、ボルト32として、M8の低頭六角穴付ボルトが好ましく用いられる。
【0037】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 :鋼管杭
2 :鋼管
10 :機械式継手
11 :ボックス継手
12 :ピン継手
13 :荷重伝達キー
14 :回転抑止キー
15 :内周面
16 :内向き溝部
17 :開口部
18 :外周面
19 :外向き溝部
20 :挿入固定ボルト
21 :ボックス側配設部
22 :ピン側配設部
23 :キー配設部
24 :ボルト
25 :配設部貫通孔
26 :キー貫通孔
27 :雄ネジ
28 :雌ネジ
29 :キリ穴
30 :キリ穴
31 :座ぐり
32 :ボルト
33 :ナット