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特許7531408光検出器、光検出システム、ライダー装置、移動体及び車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】光検出器、光検出システム、ライダー装置、移動体及び車
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0232 20140101AFI20240802BHJP
   H01L 31/107 20060101ALI20240802BHJP
   G01S 7/486 20200101ALI20240802BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20240802BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H01L31/02 D
H01L31/10 B
G01S7/486
G01C3/06 120Q
H01L27/146 D
H01L27/146 A
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021002071
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107240
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和晃
(72)【発明者】
【氏名】権 鎬楠
(72)【発明者】
【氏名】清水 真理子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和拓
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】藤原 郁夫
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-103614(JP,A)
【文献】特開2020-148644(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003972(WO,A1)
【文献】特開2020-013950(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088479(WO,A1)
【文献】特開2015-032636(JP,A)
【文献】特開昭60-060756(JP,A)
【文献】中国実用新案第209045574(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20
H01L 27/144-27/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子であって、前記複数の素子のそれぞれは、第1導電形の第1半導体領域と、前記第1半導体領域の上に設けられ前記第1半導体領域よりも高い第1導電形の不純物濃度を有する第1導電形の第2半導体領域と、前記第2半導体領域の上に設けられた第2導電形の第3半導体領域と、を含み、前記複数の素子は、前記第1半導体領域から前記第2半導体領域へ向かう第1方向と交差する第2方向において第1周期で並ぶ、前記複数の素子と、
前記第3半導体領域と電気的に接続されたクエンチ部と、
前記複数の素子のそれぞれの上に設けられた複数のレンズであって、前記複数のレンズのうちの1つが前記複数の素子のうちの1つの上に位置する前記複数のレンズと、
前記複数の素子と前記複数のレンズとの間に設けられた第1厚さの屈折層であって、前記第1周期に対する前記第1厚さの比は、0.16以上0.72以下であり、前記レンズよりも厚い屈折層と、
前記第1半導体領域と異なる屈折率を有する第1構造体と、
を備え、
前記複数の素子は、互いに隣接する第1素子と第2素子とを含み、
前記第1構造体の少なくとも一部は、前記第1素子の前記第1半導体領域と、前記第2素子の前記第1半導体領域と、の間に設けられ、
前記第1構造体の上端は、前記屈折層の内部に位置し、前記第1素子を含む第1半導体層の上面よりも高く、前記屈折層の上面より低い、光検出器。
【請求項2】
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域、及び前記第3半導体領域を含む第1半導体層の厚さは、第2厚さであり、
前記1周期に対する前記第2厚さの比は、0.4以上1.2以下である、請求項1記載の光検出器。
【請求項3】
前記屈折層は、前記複数のレンズと前記複数の素子との間に設けられた第1層と、前記第1層と前記複数のレンズとの間に設けられた第2層と、を含む、請求項1または2に記載の光検出器。
【請求項4】
前記第3半導体領域と前記クエンチ部とを接続する導電部をさらに備え、
前記導電部の少なくとも一部は、前記第1方向に垂直な平面において前記屈折層に囲まれた、請求項1~3のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項5】
前記第1周期は、15マイクロメートル以下である、請求項1~4のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項6】
前記第1厚さは、2マイクロメートル以上8マイクロメートル以下である、請求項1~4のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項7】
前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域は、前記第1方向に垂直な平面において、前記第1半導体領域の一部に囲まれた、請求項1~6のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項8】
前記第1半導体領域と異なる屈折率を有する第2構造体をさらに備え、
前記第2構造体の少なくとも一部は、前記第1構造体の前記少なくとも一部と、前記第2素子の前記第1半導体領域と、の間に設けられ、
前記第1構造体の前記少なくとも一部と、前記第2構造体の前記少なくとも一部とは、互いに離れた、請求項記載の光検出器。
【請求項9】
前記第1構造体は、前記第1素子を囲む、請求項またはに記載の光検出器。
【請求項10】
前記第1構造体及び前記第2構造体は、前記第1素子及び前記第2素子をそれぞれ囲む請求項記載の光検出器。
【請求項11】
少なくとも前記第1構造体及び前記第2構造体のいずれかは、前記第1方向から見たときに、八角形である請求項10記載の光検出器。
【請求項12】
前記第1構造体は、前記第1方向から見たときに、前記第1素子を不連続に囲む、請求項1、8~10のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項13】
前記第1半導体領域よりも高い第1導電形の不純物濃度を有する第1導電形の第2半導体層をさらに備え、
前記第1半導体領域は、前記第2半導体層の上に設けられ、
前記第1構造体の下部は、前記第2半導体層に囲まれた、請求項1、8~12のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項14】
前記第1構造体の上部は、前記屈折層に囲まれた、請求項1、8~13のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項15】
前記複数の素子は、ガイガーモードで動作するアバランシェフォトダイオードである請求項1~1のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項16】
前記複数のレンズの配置を上方から見た場合に互いに隣接する前記レンズの間に間隔が設けられる請求項1~1のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項17】
前記屈折層は、互いに隣接する前記素子の上において前記第1厚さを有する請求項1~1のいずれか1つに記載の光検出器。
【請求項18】
請求項1~1のいずれか1つに記載の光検出器と、
前記光検出器の出力信号から光の飛行時間を算出する距離計測回路と、
を備えた光検出システム。
【請求項19】
物体に光を照射する光源と、
前記物体に反射された光を検出する請求項1記載の光検出システムと、
を備えたライダー装置。
【請求項20】
前記光源と前記光検出器との配置関係に基づいて、3次元画像を生成する画像認識システムをさらに備えた、請求項19記載のライダー装置。
【請求項21】
請求項19または2に記載のライダー装置を備えた移動体。
【請求項22】
車体の4つの隅に請求項19または2に記載のライダー装置を備えた車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光検出器、光検出システム、ライダー装置、移動体及び車に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体領域に入射した光を検出する光検出器がある。光検出器について、性能の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-90034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、性能を向上可能な、光検出器、光検出システム、ライダー装置、移動体及び車を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、光検出器は、複数の素子と、クエンチ部と、複数のレンズと、屈折層と、を含む。前記複数の素子のそれぞれは、第1導電形の第1半導体領域と、前記第1半導体領域の上に設けられ前記第1半導体領域よりも高い第1導電形の不純物濃度を有する第1導電形の第2半導体領域と、前記第2半導体領域の上に設けられた第2導電形の第3半導体領域と、を含む。前記複数の素子は、前記第1半導体領域から前記第2半導体領域へ向かう第1方向と交差する第2方向において第1周期で並ぶ。前記クエンチ部は、前記第3半導体領域と電気的に接続される。前記複数のレンズは、前記複数の素子のそれぞれの上に設けられる。前記複数のレンズのうちの1つが前記複数の素子うちの1つの上に位置する。前記屈折層は、前記複数の素子と前記複数のレンズとの間に設けられ第1厚さある。前記第1周期に対する前記第1厚さの比は、0.16以上0.72以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態に係る光検出器を例示する模式的平面図である。
図2図2(a)及び図2(b)は、第1実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式図である。
図3図3(a)~図3(c)は、光検出器における光路の計算結果を表す模式的断面図である。
図4図4は、光検出器における光吸収効率の計算結果を表すグラフ図である。
図5図5(a)及び図5(b)は、第1実施形態に係る別の光検出器の一部を例示する模式的平面図である。
図6図6は、第1実施形態に係る別の光検出器の一部を例示する断面図である。
図7図7は、第2実施形態に係る光検出器を例示する平面図である。
図8図8は、第2実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式的断面図である。
図9図9(a)~図9(d)は、第2実施形態に係る別の光検出器の一部を例示する模式的平面図である。
図10図10(a)及び図10(b)は、第2実施形態に係る別の光検出器の一部を例示する模式的断面図である。
図11図11は、第2実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式的平面図である。
図12図12は、第2実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式的断面図である。
図13図13は、第2実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式的平面図である。
図14図14は、第2実施形態に係る光検出器の一部を表す平面図である。
図15図15は、第2実施形態に係る光検出器の一部を表す平面図である。
図16図16(a)及び図16(b)は、光検出器のアバランシェ領域の分布範囲の計算結果を表す模式的断面図である。
図17図17は、アバランシェ確率の分布の計算結果を表すグラフ図である。
図18図18(a)~図18(c)は、光検出器における光路の計算結果を表す模式的断面図である。
図19図19は、第3実施形態に係るライダー(Laser Imaging Detection and Ranging:LIDAR)装置を例示する模式図である。
図20図20は、ライダー装置の検出対象の検出を説明するための図である。
図21図21は、第3実施形態に係るライダー装置を備えた車の上面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る光検出器を例示する模式的平面図である。
図1に表したように、第1実施形態に係る光検出器100は、複数の素子10(受光素子)と、屈折層30と、複数のレンズ40と、を含む。複数の素子10の上に屈折層30が設けられ、屈折層30の上にレンズ40が設けられている。
【0009】
複数の素子10は、X-Y平面に沿って、アレイ状または格子状に並んでいる。例えば、複数の素子10は、X軸方向及びY軸方向において、周期的に等ピッチで並んでいる。
【0010】
なお、実施形態の説明においては、X-Y平面に対して交差する方向、又は、後述する第1半導体領域11(図2参照)から第2半導体領域12(図2参照)へ向かう方向をZ軸方向とする。Z軸方向に対して垂直な方向な方向をX軸方向(第2方向)とする。Z軸方向及びX軸方向に垂直な方向をY軸方向(第3方向)とする。また、説明のために、第1半導体領域11から第2半導体領域12に向かう方向を「上」と言い、その反対方向を「下」と言う。これらの方向は、第1半導体領域11と第2半導体領域12との相対的な位置関係に基づき、重力の方向とは無関係である。「上」は、レンズ40が設置される光検出器の光が入射される側に対応する。
【0011】
複数のレンズ40のそれぞれは、複数の素子10のそれぞれの上に設けられる。言い換えれば、複数のレンズ40は、複数の素子10の周期に合わせて配列されており、複数のレンズ40のうちの1つは、複数の素子10のうちの1つの上に位置している。複数のレンズ40は、例えばマイクロレンズアレイである。マイクロレンズアレイは、受光素子が配置されていないエリアに照射される光の光路を屈折により変更し、受光素子内に照射することで光検出器の受光感度を向上させる。
【0012】
複数の素子10は、X軸方向において第1周期L1で並び、Y軸方向において第2周期L2で並ぶ。この例では、1つの素子10において、X軸方向の長さとY軸方向の長さとは、実質的に互いに同じである。また、この例では、Z軸方向から見たときに、複数の素子10の形状は、実質的に互いに同じであり、第1周期L1と第2周期L2とは、実質的に互いに等しい。
【0013】
例えば、複数の素子10は、第1素子10aと、第2素子10bと、第3素子10cと、を含む。第2素子10bは、第1素子10aとX軸方向において隣接している。第3素子10cは、第1素子10aとY軸方向において隣接している。周期(ピッチ)は、位置の繰り返しの単位の長さである。第1周期L1は、第1素子10aのX軸方向の中心と、第2素子10bのX軸方向の中心と、を結ぶ長さに対応する。また、第2周期L2は、第1素子10aのY軸方向の中心と、第3素子10cのY軸方向の中心と、を結ぶ長さに対応する。例えば、第1素子10aと隣接する別の素子10のうち、第1素子10aの中心と当該別の素子の中心とを結ぶ距離が最小となる素子10を第2素子10bとする。
【0014】
図2(a)及び図2(b)は、第1実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式図である。
図2(a)は、図1に示したA1-A2線断面を示す。すなわち、図2(a)は、図1に示した光検出器100の1つ分、言い換えると周期構造の1周期分の断面を表す。図2(a)に表したように、光検出器100は、電極50と、半導体層22(第2半導体層)と、素子10(第1半導体領域11、第2半導体領域12、及び第3半導体領域13)と、屈折層30と、レンズ40と、導電部61と、を含む。図2(b)は、図2(a)に対応する回路図である。図2(b)に表したように、光検出器100は、クエンチ部63と、第1配線51と、をさらに含む。なお、図2(a)においては、便宜上、クエンチ部63及び第1配線51を省略している。また、図1では、配線等の図示は、省略している。
【0015】
電極50は、例えば裏面電極である。半導体層22は、電極50の上に設けられ、電極50と電気的に接続される。半導体層22は、例えば、第1導電形の半導体基板である。
【0016】
第1半導体領域11は、半導体層22の上に設けられ、半導体層22と接する。第1半導体領域11は、第1導電形であり、半導体層22と電気的に接続される。
【0017】
第2半導体領域12は、第1半導体領域11の上に設けられ、第1半導体領域11と接する。第2半導体領域12は、第1導電形であり、第1半導体領域11と電気的に接続される。第2半導体領域12の第1導電形の不純物濃度は、第1半導体領域11の第1導電形の不純物濃度よりも高い。
【0018】
第3半導体領域13は、第2半導体領域12の上に設けられ、第2半導体領域12と接する。第3半導体領域13は、第2導電形であり、第2半導体領域12と電気的に接続される。
【0019】
第1導電形は、p形及びn形の一方である。第2導電形は、p形及びn形の他方である。以下では、第1導電形がp形、第2導電形がn形の場合について説明する。
【0020】
第1半導体領域11、第2半導体領域12及び第3半導体領域13は、例えば1つの半導体層21(第1半導体層)に設けられた領域である。第2半導体領域12と第3半導体領域13との界面でpn接合が形成される。例えば、第2半導体領域12及び第3半導体領域13は、半導体層21内に設けられた拡散層である。第2半導体領域12と第3半導体領域13とによって、フォトダイオードが形成される。複数の素子10のそれぞれが、第1半導体領域11、第2半導体領域12及び第3半導体領域13を含む。
【0021】
この例では、第3半導体領域13の幅は、第2半導体領域12の幅よりも広い。「幅」とは、Z軸方向に垂直な方向(例えばX軸方向)に沿った長さである。ただし、実施形態において、第3半導体領域13の幅は、第2半導体領域12の幅と同じであってもよい。第2半導体領域12及び第3半導体領域13のそれぞれは、Z軸方向に垂直な方向において、第1半導体領域11の一部と並ぶ。すなわち、第2半導体領域12及び第3半導体領域13は、X-Y平面に沿って第1半導体領域11に囲まれている。第2半導体領域12の側面12s及び第3半導体領域13の側面13sは、第1半導体領域11と接する。Z軸方向に垂直な方向において、第2半導体領域12の中心または第3半導体領域13の中心が、素子10の中心に対応する。
【0022】
半導体層21(第1半導体領域11、第2半導体領域12及び第3半導体領域13)及び半導体層22は、シリコン、炭化シリコン、ガリウムヒ素、及び窒化ガリウムからなる群より選択される少なくとも1つの半導体材料を含む。例えば、半導体層21及び半導体層22は、シリコンを含む。例えば、半導体層22の第1導電形の不純物濃度は、第1半導体領域11の第1導電形の不純物濃度よりも高い。第2半導体領域12は、シリコンに例えばボロンをp形不純物として注入することで得られる。第3半導体領域13は、シリコンに例えばリン、ヒ素、又はアンチモンをn形不純物として注入することで得られる。半導体層21は、例えば基板の上に形成されたエピタキシャル層である。半導体層21及び半導体層22に含まれるシリコン単結晶の(100)面は、例えばZ軸方向に対して垂直である。
【0023】
屈折層30は、複数の素子10(半導体層21)と複数のレンズ40との間に設けられる。屈折層30は、複数の素子10の受光面、すなわち半導体層21の上面21Uと接する。屈折層30は、複数のレンズ40と接する。屈折層30の厚さは、1μm(マイクロメートル)以上10μm以下が好ましく、2μm以上8μm以下がより好ましい。
【0024】
屈折層30は、例えば絶縁層である。屈折層30には、例えば光透過性の材料が用いられる。屈折層30は、シリコンと、酸素及び窒素からなる群より選択される1つと、を含む。例えば、屈折層30は、酸化シリコン及び窒化シリコンの少なくともいずれかを含む。屈折層30の屈折率は、例えば1.4以上2以下である。なお、本願明細書において、屈折率とは、絶対屈折率である。
【0025】
屈折層30の厚さ(Z軸方向に沿った長さ)を、第1厚さIとする。後述するように、第1周期L1に対する第1厚さIの比(第1厚さ/第1周期=I/L1)は、例えば0.16以上0.72以下が好ましく、0.24以上0.64以下がより好ましい。
【0026】
導電部61は、第3半導体領域13の上に設けられ、第3半導体領域13と接する。導電部61は、第3半導体領域13と電気的に接続される。この例では、導電部61の少なくとも一部は、屈折層30内に設けられている。導電部61の少なくとも一部は、X軸方向及びY軸方向において屈折層30の一部と並び、すなわち、Z軸方向から見て、導電部61の少なくとも一部が屈折層30の一部と重ならない領域を有しており、X-Y平面に沿って屈折層30に囲まれている。これにより、導電部61が外部と接触して短絡することを抑制できる。
【0027】
クエンチ部63は、導電部61と電気的に接続される。これにより、クエンチ部63の一端は、導電部61を介して、第3半導体領域13と電気的に接続される。クエンチ部63は複数設けられ、複数のクエンチ部63のそれぞれが、複数の半導体領域13のそれぞれと電気的に接続される。クエンチ部63の他端は、第1配線51と電気的に接続される。
【0028】
例えば、クエンチ部63は、クエンチ抵抗であり、クエンチ部63の電気抵抗は、導電部61の電気抵抗よりも大きい。抵抗体としてのクエンチ部63は、例えばポリシリコンを含む。クエンチ部63には、n形不純物又はp形不純物が添加されていても良い。クエンチ部63の抵抗は、例えば、50kΩ以上2MΩ以下である。
【0029】
電極50、導電部61及び各配線は、例えば、チタン、タングステン、銅、金、アルミニウムからなる群より選択された少なくとも1つの金属を含む。電極50及び導電部61は、例えば、アルミニウム(またはアルミニウム含有材料)、銅(または銅含有材料)、金(または金含有材料)、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)、または、これらの材料と他の金属材料との組合せである。
【0030】
レンズ40は、屈折層30の上に設けられる。例えば、1つのレンズ40は、1つの素子10の上に位置する。レンズ40の上面は、上方に向けて凸である。レンズ40は、素子10に向けて光を集める。この例では、レンズ40の形状は、Z軸方向から見た時に、略円形であり、隣接するレンズ40同士は互いに離れている(図1参照)。レンズ40の幅は、8μm以上30μm以下が好ましく、10μm以上15μm以下であることがより好ましい。レンズ40の上面の曲率半径は、例えば4μm以上10μm以下である。
【0031】
レンズ40は、光透過性の樹脂を含む。樹脂は、例えばアクリル樹脂を含む。レンズ40には、例えば東京応化工業社製のアクリル樹脂(TMR-C006)を使用することができる。例えば、レンズ40は、屈折層30上に、透明性の平坦化膜と感光性のマイクロレンズ用樹脂とを塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて受光素子とおおよそ同周期の樹脂パターンを形成した後、熱処理により樹脂パターンを熱変形させることで形成される。レンズ40の製作に使用するマイクロレンズ用樹脂の屈折率は、1.4以上2以下であることが好ましい。レンズ40の屈折率は、例えば屈折層30の屈折率よりも高い。レンズ40の屈折率は、屈折層30の屈折率よりも低くてもよい。
【0032】
光検出器100の動作を説明する。
上方から光検出器100に入射した光は、レンズ40を通過して、屈折層30に入射する。屈折層30に入射した光は、屈折層30を通過して、素子10(半導体層21)に入射する。素子10に光が入射すると、半導体層21で電荷が発生する。電荷が発生すると、クエンチ部63及び第1配線51に電流が流れる。第1配線51に流れる電流を検出することで、素子10への光の入射を検出できる。
【0033】
導電部61及び電極50は、第2半導体領域12と第3半導体領域13とに電圧を印加して受光素子を駆動させる。第2半導体領域12内で光電変換により生じた電気信号は、クエンチ部63及び第1配線51等を介して、駆動・読み出し部(図面には省略)に出力される。電極50の電位を制御することで、第2半導体領域12と第3半導体領域13との間に電圧が印加される。例えば、第2半導体領域12と第3半導体領域13との間には、逆電圧が印加される。素子10は、アバランシェフォトダイオードとして機能する。第2半導体領域12と第3半導体領域13との間には、降伏電圧を超える逆電圧が印加されても良い。すなわち、素子10は、ガイガーモードで動作しても良い。ガイガーモードで動作することにより、高いゲインと短い時定数を持ったパルス状の信号が出力される。これにより、光検出器100の受光感度を向上できる。
【0034】
クエンチ部63は、素子10に光が入射し、アバランシェ降伏が発生した際に、アバランシェ降伏の継続を抑制するために設けられる。アバランシェ降伏が発生し、クエンチ部63に電流が流れると、クエンチ部63の電気抵抗に応じて電圧降下が生じる。電圧降下により、第2半導体領域12と第3半導体領域13との間の電位差が小さくなり、アバランシェ降伏が停止する。これにより、次に素子10へ入射した光を検出できるようになる。
【0035】
上述したように、大きな電圧降下を生じさせる抵抗体がクエンチ部63として設けられても良いし、抵抗体に代えて電流を遮断する制御回路がクエンチ部63として設けられても良い。例えば、制御回路は、コンパレータ、制御ロジック部、及び2つのスイッチング素子を含む。制御回路には、アクティブクエンチ回路を適用可能である。アクティブクエンチ回路には公知の構成を用いることができる。
【0036】
図3(a)~図3(c)は、光検出器における光路の計算結果を表す模式的断面図である。
図3(a)に表した例では、屈折層の厚さが1μmであり、素子の周期に対する屈折層の厚さ(I/L1)は0.08である。図3(b)に表した例では、屈折層の厚さが5μmであり、素子の周期に対する屈折層の厚さ(I/L1)は、0.4である。図3(c)に表した例では、屈折層の厚さが15μmであり、素子の周期に対する屈折層の厚さ(I/L1)は1.2である。
【0037】
図3(a)~図3(c)の各光路の計算において、屈折層の厚さ以外のパラメータは共通である。レンズ40の幅(X軸方向に沿った長さ)は、12.5μmであり、レンズ40の高さ(Z軸方向に沿った長さ)は、5.3μmであり、半導体層21の屈折率は3.621であり、屈折層30の屈折率は1.452であり、レンズ40の屈折率は1.545である。上記以外については、図3(a)~図3(c)に表した各素子は、図2に関する説明と同様である。
【0038】
シミュレーションにおいて、光検出器への入射光の波長は900nmである。レンズ40及び屈折層30は、素子10に照射される光の光路を調節する。レンズ40に照射された光Li(入射光)は、レンズ40の表面で素子10の中心に向かって屈折し、レンズ40と屈折層30内を通過する。その後、光Liは、屈折層30と半導体層21との界面で再度屈折して、半導体層21内を直進する。
【0039】
図3(a)~図3(c)に表したように、レンズ40を変更しなくても、第1周期L1に対する屈折層30の厚さ(I/L1)を変更することで、半導体層21を通る入射光の光路が変化する。半導体層21を通過する光の光路が、第1周期L1に対する屈折層30の厚さ(I/L1)によって変化するため、第1周期L1に対する屈折層30の厚さ(I/L1)によって素子10の特性を向上させることができる。
【0040】
図4は、光検出器における光吸収効率の計算結果を表すグラフ図である。
図4は、図3(a)~図3(c)と同様の光検出器において、屈折層の厚さによりI/L1を変化させたときの、光吸収効率の計算結果を表す。ここで吸収とは、光検出器内で入射光が光電変換による電子を発生させる現象のことを指す。光吸収効率の評価に際しては、まず、半導体層21内において発生したキャリアがアバランシェ倍増を起こす可能性(アバランシェ確率)のある領域(アバランシェ領域)を計算する。光吸収効率は、光検出器に入射される光量Iiに対するアバランシェ領域内で吸収される光量Iaの比(吸収光量/入射光量=Ia/Ii)によって評価される。従って、Ia/Iiの値が大きいほど、光が光検知素子内で検出される確率が高くなる。図4の光吸収効率の計算に使用するアバランシェ領域には後述する図16(b)のアバランシェ領域を使用している。
【0041】
図4に表したように、第1周期L1に対する第1厚さIの比(I/L1)が0.16以上0.72以下の場合に、高い光吸収効率(光検出効率)が得られる。すなわち、光検出器100の感度が向上可能である。
【0042】
比I/L1を0.16以上0.72以下とすることにより、光検出器100に入射した光の光路が、素子中央に集中しやすいと考えられる。例えば、図3(b)に表した半導体層21への入射光の分布範囲R1bは、図3(a)に表した半導体層21への入射光の分布範囲R1aよりも狭い。つまり、半導体層21への入射光は、図3(a)におけるよりも図3(b)において、素子中央に集中している。
【0043】
例えば、素子10の半導体層21内においては、入射した光の検知確率(例えば発生したキャリアがアバランシェ倍増を起こす可能性)に分布がある。複数の素子10が受光面に配列された光検出器100においては、素子10の端部(Z軸方向から見たときの外周部)に比べて、素子10の中央において、検知確率が高い。また、例えば、素子10の端部には、隣接する素子を電気的又は光学的に分離する分離構造が設けられる場合もある。分離構造としては、例えば、半導体層21におけるトレンチ構造や不純物濃度分布が挙げられる。入射光が素子中央に集中することにより、高い光検出効率が得られると考えられる。
【0044】
実施形態においては、比I/L1は、0.16以上が好ましい。これにより、例えば、光の検知確率が高い素子10の中央を、光路が通過しやすくできる。例えば、屈折層30は、レンズ40よりも厚くてもよい。入射光の一部の屈折層30内における光路長は、入射光の当該一部のレンズ40内における光路長よりも長くてもよい。
【0045】
一方、光検出効率は、比I/L1が0.72よりも大きくなるにつれて低下する。比I/L1が大きい場合、光検出器100に入射した光は、半導体層21に入射する前に、屈折層30内において収束しやすい。例えば、図3(c)に表した屈折層30内の光の分布範囲R2cは、図3(b)に表した屈折層30内の光の分布範囲R2bよりも狭い。屈折層30内において光が収束した場合、半導体層21内において、光は素子10の外側に向かって進行する。例えば、図3(c)に表した半導体層21内の光の分布範囲R3cは、図3(b)に表した半導体層21内の光の分布範囲R3bよりも広い。半導体層21内において光が素子10の外側に向かって進行する場合、半導体層21において、光は検知確率の高い素子中央を通過しにくくなる。
【0046】
実施形態においては、比I/L1は、0.72以下が好ましい。これにより、例えば、光の検知確率が高い素子10の中央を、光路が通過しやすくできる。屈折層30の応力による歪みや材料費の観点からも、屈折層30は厚過ぎないことが好ましい。例えば、屈折層30の第1厚さIは、2μm以上8μm以下が好ましい。
【0047】
半導体層21(第1半導体領域11)の厚さ(Z軸方向に沿った長さ)を、第2厚さT(図2(a)参照)とする。第1周期L1に対する第2厚さTの比(第2厚さ/第1周期=T/L1)は、0.4以上が好ましい。例えば、第1周期L1を短くすることで比T/L1を0.4以上とする。第1周期L1が短いことにより、光検出器100の解像度を向上させることができる。また、例えば、第2厚さTを厚くすることで、比T/L1を0.4以上とする。半導体層21が厚いことにより、半導体層21中の光路長を確保することができ、光の検知確率を向上させることができる。
【0048】
一方、第1周期L1が短すぎる場合は、素子10の受光面において、素子端部(外周部)の割合が大きくなり、光検知確率の高い素子中央を通過する光が減少する恐れがある。これに対して、第1周期L1に対する第2厚さTの比T/L1は、1.2以下が好ましい。この場合、第1周期L1が短すぎることが抑制され、素子中央を通過する光が減少することを抑制できる。例えば、第1周期L1は、10μm以上15μm以下が好ましい。
【0049】
第1周期L1が比較的短い場合に、第1周期L1に対する第1厚さIの比I/L1を、0.16以上0.72以下とすることがより好ましい。これにより、第1周期L1が比較的短く、素子端部の割合が相対的に大きくなる場合であっても、素子中央を光が通過しやすくでき、素子中央を通過する光が減少することを抑制できる。
以上説明したように、実施形態によれば、例えば受光素子の小面積化と高感度との両立が図れる。
【0050】
図5(a)及び図5(b)は、第1実施形態に係る別の光検出器の一部を例示する模式的平面図である。
図5(a)は、第1実施形態の変形例に係る光検出器101の一部を表す。このように、複数のレンズ40のうち、隣接するレンズ40同士は、互いに接していていてもよい。また、隣接するレンズ40の一部は互いに重なるように並べられてもよい。
図5(b)は、第1実施形態の変形例に係る光検出器102の一部を表す。この例では、レンズ40の形状は、Z軸方向から見たときに、角に曲率を有する四角形である。レンズ40の形状は、Z軸方向から見たときに、円形でなくてもよく、概ね、多角形、または角丸の多角形でもよい。
【0051】
図6は、第1実施形態に係る別の光検出器の一部を例示する断面図である。
図6は、図2(a)と同様に、第1実施形態の変形例に係る光検出器103の一部を表す。光検出器103においては、屈折層30は、複数の層を含む積層構造を有する。これ以外については、光検出器103には、光検出器100と同様の説明を適用することができる。なお、図6においては、導電部61、クエンチ部63及び第1配線51の図示を省略している。
【0052】
この例では、屈折層30は、第1層31と、第2層32と、第3層33と、を含む。第1層31は、複数のレンズ40と複数の素子10との間に設けられる。第2層32は、第1層31と複数のレンズ40との間に設けられる。第3層33は、第2層32と複数のレンズ40との間に設けられる。積層構造は、必ずしも3層に限らず、2層でもよいし、4層以上でもよい。
【0053】
第1層31~第3層33の厚さは、互いに異なっていてもよいし、同じでもよい。第1層31~第3層33の屈折率は、互いに異なっていてもよいし、同じでもよい。第1層31~第3層33のそれぞれの屈折率は、例えば1.4以上2以下である。例えば、第1層31~第3層33のそれぞれは、シリコンと、酸素及び窒素からなる群より選択される1つと、を含む。例えば、第1層31~第3層33のそれぞれは、酸化シリコン、窒化シリコン及び樹脂の少なくともいずれかを含む。
【0054】
屈折層30は、前述した入射光の光路調節とは別の役割を有していてもよい。例えば、屈折層30は、光検出器の製造プロセス(例えばエッチングや研磨など)におけるストッパとしての役割、または電極(例えば導電部61)が外部と接触して短絡しないように保護する役割などを有していてもよい。このような場合、これらの役割に応じて絶縁層を積層させることで屈折層30を作成してもよい。例えば、第1層31は、半導体層21の表面を保護するシリコン酸化膜であり、第2層32は、プロセスにおけるストッパ層であるシリコン窒化膜であり、第3層33は、電極を保護するシリコン酸化膜でもよい。
【0055】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る光検出器を例示する平面図である。
図7に表したように、第2実施形態に係る光検出器120は、複数の構造体70を含む。例えば、構造体70は、半導体層21に設けられたトレンチ部である。これ以外については、光検出器120には、第1実施形態に係る光検出器100と同様の説明を適用できる。なお、図7においては、屈折層30、複数のレンズ40、導電部61、及びクエンチ部63などの図示を省略している。
【0056】
この例では、構造体70は、Z軸方向に沿ってみたときに、略八角形である。複数の構造体70のそれぞれは、X-Y平面に沿って複数の素子10のそれぞれを囲むように設けられる。そのため、複数の構造体70は、複数の素子10の周期に合わせて配列されている。例えば、複数の構造体70は、第1構造体70aと、第2構造体70bと、を含む。第1構造体70aは、第1素子10aを囲む。第2構造体70bは、第2素子10bを囲む。
【0057】
ここでは、「囲む」とは、ある構成要素が、別の構成要素を途切れること無く連続的に囲んでいる場合だけで無く、互いに離れて設けられた複数の前記構成要素が、前記別の構成要素の周りに並んで設けられる場合も含む。例えば、前記複数の構成要素を辿って得られる軌跡の内側に前記別の構成要素が位置する場合、前記別の構成要素は、前記複数の構成要素によって囲まれていると見なすことができる。
【0058】
第1構造体70a及び第2構造体70bのそれぞれは、Z軸方向から見たときに八角形である。ここで八角形とは角丸の八角形でもよい。この例では、1つの構造体70において、X軸方向の長さとY軸方向の長さとは、実質的に互いに同じである。また、この例では、Z軸方向から見たときに、複数の構造体70の形状は、実質的に互いに同じである。複数の構造体70の配列の周期は、複数の素子10の配列の周期(第1周期L1及び第2周期L2)と実質的に同じでよい。
【0059】
図8は、第2実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式的断面図である。
図8は、図7に示したA3-A4線断面を示す。図8に表したように、構造体70の少なくとも一部は、半導体層21に設けられる。
【0060】
この例では、構造体70の上端の高さは、半導体層21の上面(受光面)の高さと略同じである。構造体70の上面は、屈折層30と接していてもよい。また、この例では、構造体70は、半導体層22まで到達しておらず、構造体70の下端は、半導体層21の下面よりも高い。構造体70の少なくとも一部は、第1半導体領域11、第2半導体領域12及び第3半導体領域13のそれぞれと、Z軸方向と垂直な方向において並ぶ。
【0061】
第2半導体領域12及び第3半導体領域13は、構造体70に接触しない。第2半導体領域12と構造体70との間に、第1半導体領域11の一部が位置し、第2半導体領域12と構造体70とに接触している。第3半導体領域13と構造体70との間に、第1半導体領域11の別の一部が位置し、第3半導体領域13と構造体70とに接触している。ただし、第2半導体領域12及び第3半導体領域13は、構造体70に接触していてもよい。
【0062】
構造体70の屈折率は、半導体層21の屈折率と異なる。構造体70の屈折率は、第1半導体領域11、第2半導体領域12及び第3半導体領域13のそれぞれの屈折率と異なる。構造体70は、絶縁性である。構造体70は、素子10同士の間における電気的な導通及び光学的な干渉を抑制するために設けられる。構造体70により、素子10同士の間における二次光子及びキャリアの移動が抑制される。素子10に光が入射し、二次光子が発生したとき、隣接する素子10へ進む二次光子は、構造体70の界面で反射、屈折される。構造体70が設けられることでクロストークノイズを低減できる。
【0063】
例えば、第1構造体70aの少なくとも一部は、第1素子10aの第1半導体領域11と、第2素子10bの第1半導体領域11と、の間に設けられている。これにより、第1素子10aと第2素子10bとの間における二次光子及びキャリアの移動を抑制できる。
【0064】
複数の構造体70は、素子毎に独立して設けられる。すなわち、複数の構造体70は、互いに物理的に接触しておらず離れている。例えば、第2構造体70bの少なくとも一部は、第1構造体70aの少なくとも一部と、第2素子10bの第1半導体領域11と、の間に設けられる。第1構造体70aと第2構造体70bとは、互いに離れている。これにより、例えば、隣り合う素子10同士の間に1つの分離構造が設けられる場合に比べて、隣り合う素子10同士の間において構造体70の界面の数が増加する。界面の数の増加により、素子10で二次光子が発生したとき、隣接する素子10に向けて進む二次光子がより反射されやすくなる。これにより、クロストークノイズをさらに低減できる。第1構造体70aと第2構造体70bとの間には、半導体領域14(例えば半導体層21の一部)が設けられてもよい。半導体領域14は、第1構造体70aと第2構造体70bと接触する。例えば、半導体領域14は、X軸方向において隣り合う構造体70同士の間をY軸方向に延びている。半導体領域14は、Y軸方向において隣り合う構造体70同士の間をX軸方向において延びている。
【0065】
構造体70は、絶縁材料を含む。例えば、構造体70は、酸素及び窒素からなる群より選択される1つと、シリコンと、を含む。例えば、構造体70は、酸化シリコン又は窒化シリコンを含む。構造体70は、積層構造であってもよい。
【0066】
構造体70が設けられる場合、素子10と構造体70との界面には、例えば熱膨張係数の差に起因して、欠陥が生じる場合がある。例えば、素子10の端部(外周部)の半導体層21内に結晶欠陥が生じる。このような欠陥は、ノイズの原因となることがある。例えば、欠陥で生じたキャリアが半導体層21内でアバランシェ倍増を起こす可能性がある。
【0067】
光検出器120においても、例えば、第1周期L1に対する第1厚さIの比は、0.16以上0.72以下である。これにより、第1実施形態と同様に、光の検知確率が高い素子中央を、光路が通過しやすくなる。また、多くの光が通過する領域を、結晶欠陥が生じやすい素子端部から離すことができる。例えば素子端部におけるアバランシェ確率を低くすることで、ノイズを抑制しつつ、高い光検出効率を得ることができる。
【0068】
図9(a)~図9(d)は、第2実施形態に係る別の光検出器の一部を例示する模式的平面図である。
図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)は、それぞれ、第2実施形態の変形例に係る光検出器121、122、123、124の一部を表す。図7に表した光検出器120と比較して、光検出器121、122、123、124は、構造体70の形状が異なる。これ以外については、光検出器121、122、123、124には、光検出器120と同様の説明を適用できる。
【0069】
図9(a)に表した光検出器121のように、構造体70は、Z軸方向から見たときに、四角形でもよい。構造体70の形状は、Z軸方向から見たときに、多角形、または角丸の多角形でもよい。
【0070】
図9(b)~図9(d)に表したように、構造体70は、Z軸方向から見たときに、素子10を不連続に囲む。言い換えれば、構造体70は、Z軸方向から見たときに、完全な環状構造でなく、一部が開いている形状であってもよい。これにより、導電部61と構造体70との干渉を抑制できる。例えば、構造体70の途切れた部分に、導電部61の一部を配置してもよい。構造体70の形状を変化させることで、導電部61、クエンチ部63及び第1配線51などの配置が容易となる。
【0071】
図9(b)に表した光検出器122においては、Z軸方向から見たときに略八角形の構造体70が素子10を囲んでいる。構造体70の平面形状は、八角形の一辺に設けられた1つの開口部70i(環状が途切れた部分)を有する。
【0072】
図9(c)に表した光検出器123においては、Z軸方向から見たときに略四角形の構造体70が素子10を囲んでいる。構造体70の平面形状は、四角形の各角に設けられた計4つの開口部70iを有する。
【0073】
図9(d)に表した光検出器124においては、Z軸方向から見たときに略四角形の構造体70が素子10を囲んでいる。構造体70の平面形状は、四角形の対角に設けられた計2つの開口部70iを有する。
【0074】
図9(b)~図9(d)に表したように、半導体層21は、Z軸方向から見たときに、開口部70iに位置する半導体領域15を含む。構造体70の内側の素子10は、構造体70の外側の半導体領域14と、半導体領域15を介して連続している。
【0075】
図10(a)及び図10(b)は、第2実施形態に係る別の光検出器の一部を例示する模式的断面図である。
図10(a)、図10(b)は、それぞれ、図8と同様に、第2実施形態の変形例に係る光検出器125、126の一部を表す。図8に表した光検出器120と比較して、光検出器125、126においては、構造体70の配置が異なる。これ以外については、光検出器125、126には、光検出器120と同様の説明を適用できる。
【0076】
構造体70の深さは、例えば素子10の特性や製造プロセスに応じて変更することができる。例えば、図10(a)に表したように、構造体70は、半導体層21を貫通して、半導体層22まで延びていてもよい。すなわち、構造体70の下端は、半導体層21の下面よりも低くてもよい。構造体70の下部70pは、X-Y平面において、半導体層22に囲まれていてもよい。
【0077】
図10(b)に表したように、構造体70は、屈折層30内に延びていてもよい。すなわち、構造体70の上端は、半導体層21の上面よりも高くてもよい。構造体70の上部70qは、X-Y平面において、屈折層30に囲まれていてもよい。
【0078】
構造体70を、屈折層30内または半導体層21内まで延ばすことにより、素子間のクロストークをより抑制することができる。
【0079】
図11は、第2実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式的平面図である。
図12は、第2実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式的断面図である。
これらの図は、第2実施形態の変形例に係る光検出器127を表している。図11においては、レンズ40及び屈折層30の図示が省略されている。図12は、図11のA4-A5断面を示す。
構造体70は、図12に表したように、第1絶縁層IL1及び第2絶縁層IL2を含んでも良い。第2絶縁層IL2は、第1絶縁層IL1と素子10との間、及び第1絶縁層IL1と半導体層22との間に設けられる。例えば、第1絶縁層IL1及び第2絶縁層IL2は酸化シリコンを含み、第2絶縁層IL2は第1絶縁層IL1に比べて緻密な構造を有する。
【0080】
図12に表したように、Z軸方向において半導体層22と構造体70との間にp形の半導体領域23が設けられても良い。半導体領域23におけるp形不純物濃度は、第1半導体領域11におけるp形不純物濃度よりも高い。
【0081】
この例では、クエンチ部63として、各素子10に、クエンチ抵抗が電気的に接続されている。例えば、Z軸方向から見たときに、クエンチ部63は、フォトダイオードPDと異なる位置に存在する。例えば、クエンチ部63は、Z軸方向において、構造体70又は半導体領域14と並ぶ。クエンチ部63の他端は、第1配線51と電気的に接続される。
【0082】
複数の導電部61のそれぞれが、複数の素子10のそれぞれに接続される。複数の導電部61のそれぞれは、コンタクト64及び接続配線65を含む。クエンチ部63は、コンタクト64及び接続配線65を介して第3半導体領域13と電気的に接続され、コンタクト66を介して第1配線51と電気的に接続される。
【0083】
コンタクト64及び66は、金属材料を含む。例えば、コンタクト64及び66は、チタン、タングステン、銅、及びアルミニウムからなる群より選択された少なくとも1つを含む。コンタクト64及び66は、チタン、タングステン、銅、及びアルミニウムからなる群より選択された少なくとも1つの窒化物又はシリコン化合物からなる導電体を含んでも良い。図12に示すように、コンタクト64は、金属層64a及び金属層64bを含んでも良い。コンタクト66は、金属層66a及び金属層66bを含んでも良い。金属層64bは、金属層64aと第1層31との間、金属層64aと第2層32との間、及び金属層64aと第3層33との間に設けられる。金属層66bは、金属層66aと第2層32との間、及び金属層66aと第3層33との間に設けられる。例えば、金属層64a及び66aは、タングステンを含む。金属層64b及び66bは、チタンを含む。金属層64bは、チタン層と、チタン層と金属層64aとの間に設けられた窒化チタン層と、を含んでも良い。金属層66bは、チタン層と、チタン層と金属層66aとの間に設けられた窒化チタン層と、を含んでも良い。接続配線65、銅及びアルミニウムからなる群より選択された少なくとも1つを含む。
【0084】
例えば、クエンチ部63のZ軸方向における位置は、第3半導体領域13のZ軸方向における位置と、第1配線51のZ軸方向における位置と、の間にある。1つの第1配線51は、Y軸方向に並ぶ複数のフォトダイオードPDと電気的に接続される。
【0085】
クエンチ部63の電気抵抗は、コンタクト64、コンタクト66、及び接続配線65のそれぞれの電気抵抗よりも大きい。クエンチ抵抗は、半導体材料としてポリシリコンを含む。クエンチ抵抗には、n形不純物又はp形不純物が添加されていても良い。
【0086】
例えば、屈折層30は、第1~第4層31~34を含む。第1層~第3層31~33は、Z軸方向において複数の素子10と第4層34との間に設けられる。第1層31及び第2層32は、Z軸方向において複数の素子10と第3層33との間に設けられる。第1層31は、Z軸方向において複数の素子10と第2層32との間に設けられる。
【0087】
コンタクト64及び66は、X-Y平面に沿って、第1層31、第2層32、及び第3層33に囲まれる。第1層31の一部は、Z軸方向において半導体領域14とクエンチ部63との間に設けられる。第1配線51及び接続配線65は、第4層34に囲まれる。
【0088】
第1半導体領域11におけるp形不純物濃度は、例えば1.0×1013atom/cm以上、1.0×1016atom/cm以下である。この濃度範囲に設定することで、第1半導体領域11で空乏層を十分に広げ、光子検出効率又は受光感度を高めることができる。
第2半導体領域12におけるp形不純物濃度は、例えば1.0×1016atom/cm以上、1.0×1018atom/cm以下である。この濃度範囲に設定することで、第2半導体領域12を、第3半導体領域13とpn接合させ、且つ第2半導体領域12において空乏層を広がり易くできる。
【0089】
第3半導体領域13におけるn形不純物濃度は、例えば1.0×1018atom/cm以上、1.0×1021atom/cm以下である。この濃度範囲に設定することで、第3半導体領域13における電気抵抗を低減し、第2半導体領域12におけるキャリアの損失を低減できる。
半導体層22におけるp形不純物濃度は、1.0×1017atom/cm以上、1.0×1021atom/cm以下である。半導体層22の代わりに、金属を含む導電層を用いても良い。例えば、アルミニウム、銅、チタン、金、及びニッケルからなる群より選択された少なくとも1つを含む導電層が用いられる。
【0090】
図13は、第2実施形態に係る光検出器の一部を例示する模式的平面図である。
図13に示すように、光検出器127は、共通配線54及びパッド55をさらに含む。なお、図11は、図13に示す部分Pを示す。Y軸方向に並ぶ複数の素子10に、1つの第1配線51が電気的に接続される。X軸方向に並ぶ複数の第1配線51は、共通配線54と電気的に接続される。共通配線54は、1つ以上のパッド55と電気的に接続される。パッド55には、外部のデバイスの配線が電気的に接続される。
【0091】
図14及び図15は、第2実施形態に係る光検出器の一部を表す平面図である。
図14に示すように、構造体70は、Z軸方向から見たときに、5角以上の多角形である。図14の例では、構造体70は、Z軸方向から見たときに、八角形である。例えば、構造体70は、Z軸方向に延びる一対の第1延在部71-1、X方向に延びる一対の第2延在部71-2、及び複数の連結部71Cを含んでも良い。第1~第3半導体領域11~13半導体(フォトダイオードPD)は、X軸方向において、一対の第1延在部71-1の間に設けられる。第1~第3半導体領域11~13は、Y軸方向において、一対の第2延在部71-2の間に設けられる。各連結部71Cは、第1延在部71-1の一端と、第2延在部71-2の一端と、を連結している。
【0092】
このような構造によれば、構造体70の角の角度をより大きくし、構造体70の角における応力を緩和できる。例えば、応力の緩和により、半導体領域14にクラックが発生することを抑制でき、クラックの発生に起因する動作不良を抑制できる。また、構造体70の形成時に、半導体層にクラックが発生すると、この後のフォトリソグラフィ工程において、レジストがクラックに入り込む可能性がある。レジストがクラックに入ると、レジストを剥離する際に、クラック内にレジストの残渣が発生しうる。レジストの残渣は、その後の酸化等熱工程において酸化炉の有機汚染を引き起こす。構造体70の角における応力を緩和することで、これらの課題を解決できる。
【0093】
第1延在部71-1のY軸方向における長さは、連結部71CのY軸方向における長さよりも長い。第2延在部71-2のX軸方向における長さは、連結部71CのX軸方向における長さよりも長い。例えば、Z軸方向から見たときに、連結部71Cは直線状であり、構造体70は八角形である。Z軸方向から見たときに、構造体70の形状は、八角以上であることが好ましい。すなわち、第1延在部71-1と連結部71Cとの間の角度θ1は、135度以上が好ましい。第2延在部71-2と連結部71Cとの間の角度θ2は、135度以上が好ましい。これにより、第1延在部71-1と連結部71Cとの間の外角、及び第2延在部71-2と連結部71Cとの間の外角の角度をより大きくできる。これらの外角の角度が大きくなることで、構造体70の角における応力を緩和できる。
【0094】
連結部71CのX軸方向における長さLn1及び連結部71CのY軸方向における長さLn2は、それぞれ1μm以上であることが好ましい。これにより、連結部71Cで発生する応力をさらに緩和できる。
【0095】
又は、図15に示すように、構造体70は、Z軸方向から見たときに、角が湾曲した多角形であっても良い。すなわち、Z軸方向から見たときに、連結部71Cが湾曲していても良い。図15の例では、構造体70は、Z軸方向から見たときに、角丸の四角形である。このような構造により、構造体70の角における応力を緩和できる。
【0096】
例えば、第1延在部71-1と連結された連結部71Cの一端は、Y軸方向に沿う。第2延在部71-2と連結された連結部71Cの他端は、X軸方向に沿う。これにより、連結部71Cは、第1延在部71-1及び第2延在部71-2と滑らかに連結される。同様に、Z軸方向から見たときに、連結部71Cが湾曲していても良い。連結部71Cを湾曲させることで、構造体70における応力の集中をさらに緩和できる。
【0097】
なお、光検出器の構造は、図示した例に限らず、種々の変形が可能である。例えば、Z軸方向から見たときに、複数のフォトダイオードPDの1つ(第1フォトダイオード)を囲む構造体70(第1構造体)の形状は、複数のフォトダイオードPDの別の1つ(第2フォトダイオード)を囲む別の構造体70(第2構造体)の形状と異なっていても良い。Z方向から見たときに、第1フォトダイオードの形状は、第2フォトダイオードの形状と異なっていても良い。Z方向から見たときに、第1フォトダイオードの面積は、第2フォトダイオードの面積と異なっていても良い。第1フォトダイオードと電気的に接続されたクエンチ部63の電気抵抗と第2フォトダイオードと電気的に接続されたクエンチ部63の電気抵抗が、互いに異なっていても良い。第1フォトダイオードと電気的に接続された第1配線51と第2フォトダイオードと電気的に接続された第1配線51に、互いに異なる動作電圧が印加されても良い。第1フォトダイオードと電気的に接続された第1配線51の信号と、第2フォトダイオードと電気的に接続された第1配線51の信号が、分けて読み出されても良い。
【0098】
次に、第1、2実施形態の光検出器における、理論計算によるシミュレーションについて説明する。以下のシミュレーションにおいて、半導体層22は、ボロン濃度4.5×1018/cmの高濃度p形基板であり、半導体層21は、ボロン濃度1.0×1015/cmの半導体層であり、素子10(受光セル)の第1周期L1は、12.5μmである。
【0099】
図16(a)及び図16(b)は、光検出器のアバランシェ領域の分布範囲の計算結果を表す模式的断面図である。
まずは、半導体層21内で発生したキャリアがアバランシェ増倍を起こす可能性(アバランシェ確率)のある領域(アバランシェ領域)の分布を理論計算により確認した。図中の色の濃淡は、アバランシェ確率の高低を表す。色が濃い(黒い)ほどアバランシェ確率が低く、色が薄い(白い)ほどアバランシェ確率が高い。光検出器が高い光子検出効率を得るために、受光素子の内の入射光の光路とアバランシェ領域との重なりは多いことが望ましい。
【0100】
アバランシェ領域の分布は、半導体層21内の不純物濃度プロファイルに影響を受ける。図16(a)及び図16(b)は、第2半導体領域12を作製するためのボロン(B)注入条件を変更した2条件の受光セルのアバランシェ領域分布を示している。
【0101】
図16(a)は、ボロンの条件が加速電圧400keV、ドーズ量3.3×1012/cmの場合に、アバランシェ領域分布の計算を行った結果である。図16(b)は、ボロンの注入条件が加速電圧400keV、ドーズ量2.6×1012/cmの場合に、アバランシェ領域分布の計算を行った結果である。受光セルへの印加電圧としては、ブレークダウン電圧よりも5V高い電圧を設定した。
【0102】
図16(a)の場合の不純物濃度プロファイルのピークは、図16(b)の場合の不純物濃度プロファイルのピークよりも高い。図16(a)では、アバランシェ領域は、X軸方向(及びY軸方向)に広がっており、Z軸方向にはあまり広がっていない。例えば、図16(a)では、アバランシェ領域の分布範囲RAのZ軸方向に沿った長さは、アバランシェ領域の分布範囲RAのX軸方向に沿った長さよりも短い。一方、図16(b)では、アバランシェ領域は、X軸方向(及びY軸方向)にはあまり広がらず、Z軸方向に広がっている。例えば、図16(b)では、アバランシェ領域の分布範囲RAのZ軸方向に沿った長さは、アバランシェ領域の分布範囲RAのX軸方向に沿った長さよりも長い。
【0103】
実施形態に係る光検出器は、例えばLiDAR用近赤外光(例えば波長0.7μm以上2.5μm以下)の検知に用いられる。近赤外光の半導体層21への侵入長は長い。この場合、光検出器の光検出効率を上げるために入射光の光路とアバランシェ領域との重なりが多いことが望ましい。例えば、図16(b)のようなアバランシェ領域を有する受光素子が望ましい。
【0104】
また、第2実施形態に関して述べたとおり、構造体70のようなトレンチ構造を使用した場合、トレンチ構造と半導体層21との界面付近には、例えば熱膨張係数の差に起因して欠陥が発生する。欠陥から発生した熱電子によるアバランシェ倍増は、光検出器のノイズ出力となる。そのため、光検出器のノイズ低減のためには、図16(a)のようなアバランシェ領域の形状よりも、図16(b)のようなアバランシェ領域の形状が望ましい。例えば、素子10の動作中において、第2半導体領域12及び第3半導体領域13によって形成される空乏層のZ軸方向に沿った長さは、当該空乏層のX軸方向に沿った長さよりも長くてもよい。
【0105】
図16(b)は、図3(a)~図3(c)に示した受光素子において行った計算結果に相当する。
【0106】
図17は、アバランシェ確率の分布の計算結果を表すグラフ図である。
図17は、図16(b)に示したアバランシェ領域の範囲p-p’間におけるアバランシェ確率Pa1の分布の計算結果を示す。アバランシェ確率は、素子中央に近いほど高く、素子中央から離れて素子端部に近いほど低くなっている。そのため、入射される光の光路が受光素子中央付近を通るほど、光検出効率が高い。
【0107】
図18(a)~図18(c)は、光検出器における光路の計算結果を表す模式的断面図である。
図18(a)~図18(c)は、それぞれ、図3(a)~図3(c)に、図16(b)に示したアバランシェ領域の分布範囲RAを重ねて表す。
【0108】
図18(a)に表したように、第1周期L1に対する屈折層30の厚さ(I/L1)が0.08の場合、多くの入射光がアバランシェ領域の分布範囲RAを通過するが、アバランシェ確率の低いアバランシェ領域端(分布範囲RAの端部)も光が通過している。
【0109】
図18(b)に表したように、第1周期L1に対する屈折層30の厚さ(I/L1)が0.4の場合、光路がアバランシェ領域の分布範囲RA内により集中しており、多くの入射光がアバランシェ確率の高い素子中央を通過している。
【0110】
図18(c)に表したように、第1周期L1に対する屈折層30の厚さ(I/L1)が1.2の場合、光路の収束が早すぎるため、光がアバランシェ領域に到達するころには、光路が再度発散し始めている。そのため、入射光の一部がアバランシェ確率の低いアバランシェ領域端を通過している。
【0111】
(第3実施形態)
図19は、第3実施形態に係るライダー(Laser Imaging Detection and Ranging:LIDAR)装置を例示する模式図である。
この実施形態は、ライン光源、レンズと構成され長距離被写体検知システム(LIDAR)などに応用できる。ライダー装置5001は、対象物411に対してレーザ光を投光する投光ユニットUと、対象物411からのレーザ光を受光しレーザ光が対象物411までを往復してくる時間を計測し距離に換算する受光ユニットR(光検出システムともいう)と、を備えている。
投光ユニットUにおいて、レーザ光発振器(光源ともいう)404はレーザ光を発振する。駆動回路403は、レーザ光発振器404を駆動する。光学系405は、レーザ光の一部を参照光として取り出し、そのほかのレーザ光をミラー406を介して対象物411に照射する。ミラーコントローラ402は、ミラー406を制御して対象物411にレーザ光を投光する。ここで、投光とは、光を当てることを意味する。
【0112】
受光ユニットRにおいて、参照光用光検出器409は、光学系405によって取り出された参照光を検出する。光検出器410は、対象物411からの反射光を受光する。距離計測回路408は、参照光用光検出器409で検出された参照光と光検出器410で検出された反射光に基づいて、対象物411までの距離を計測する。画像認識システム407は、距離計測回路408で計測された結果に基づいて、対象物411を認識する。
【0113】
ライダー装置5001は、レーザ光が対象物411までを往復してくる時間(飛行時間)を計測し距離に換算するToF法を採用している。ライダー装置5001は、車載ドライブ-アシストシステム、リモートセンシング等に応用される。光検出器410として上述した実施形態の光検出器を用いると、特に近赤外線領域で良好な感度を示す。このため、ライダー装置5001は、人が不可視の波長帯域への光源に適用することが可能となる。ライダー装置5001は、例えば、車向け障害物検知に用いることができる。
【0114】
図20は、ライダー装置の検出対象の検出を説明するための図である。
光源3000は、検出対象となる物体600に光412を発する。光検出器3001は、物体600を透過あるいは反射、拡散した光413を検出する。
【0115】
光検出器3001は、例えば、上述した本実施形態に係る光検出器を用いると、高感度な検出を実現する。なお、光検出器410および光源のセットを複数設け、その配置関係を前もってソフトウェア(回路でも代替可)に設定しておくことが好ましい。光検出器410および光源のセットの配置関係は、例えば、等間隔で設けられることが好ましい。それにより、各々の光検出器410の出力信号を補完しあうことにより、正確な3次元画像を生成することができる。
【0116】
図21は、第3実施形態に係るライダー装置を備えた車の上面略図である。
ライダー装置5001は、例えば、車、ドローンまたはロボットなどの移動体に搭載される。図21の例では、移動体として車両700が用いられている。本実施形態に係る車両700は、車体710の4つの隅にライダー装置5001を備えている。本実施形態に係る車両は、車体の4つの隅にライダー装置を備えることで、車両の全方向の環境をライダー装置によって検出することができる。
【0117】
以上で説明した各実施形態における、各半導体領域の間の不純物濃度の相対的な高低については、例えば、SCM(走査型静電容量顕微鏡)を用いて確認することが可能である。なお、各半導体領域におけるキャリア濃度は、各半導体領域において活性化している不純物濃度と等しいとみなせる。従って、各半導体領域の間のキャリア濃度の相対的な高低についても、SCMを用いて確認することができる。また、各半導体領域における不純物濃度については、例えば、SIMS(二次イオン質量分析法)により測定することが可能である。
【0118】
実施形態によれば、性能を向上可能な、光検出器、光検出システム、ライダー装置、移動体及び車が提供できる。
【0119】
本願明細書において、「垂直」は、厳密な垂直だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直であれば良い。
【0120】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、光検出器に含まれる複数の素子、クエンチ部、複数のレンズ、及び屈折層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0121】
各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0122】
その他、本発明の実施の形態として上述した光検出器、光検出システム、ライダー装置、移動体及び車を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての光検出器、光検出システム、ライダー装置、移動体及び車も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0123】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0124】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0125】
10…素子、 10a…第1素子、 10b…第2素子、 10c…第3素子、 11…第1半導体領域、 12…第2半導体領域、 12s…側面、 13…第3半導体領域、 13s…側面、 14、15…半導体領域、 21…半導体層、 21U…上面、 22…半導体層、 23…半導体領域、 30…屈折層、 31~34…第1~第4層、 40…レンズ、 50…電極、 51…第1配線、 54…共通配線、 55…パッド、 61…導電部、 63…クエンチ部、 64…コンタクト、 64a…金属層、 64b…金属層、 65…接続配線、 66…コンタクト、 66a…金属層、 66b…金属層、 70…構造体、 70a…第1構造体、 70b…第2構造体、 70i…開口部、 70p…下部、 70q…上部、 71-1…第1延在部、 71-2…第2延在部、 71C…連結部、 θ1、θ2…角度、 100~103、120~127…光検出器、 3000…光源、 3001…光検出器、 402…ミラーコントローラ、 403…駆動回路、 404…レーザ光発振器、 405…光学系、 406…ミラー、 407…画像認識システム、 408…距離計測回路、 409…参照光用光検出器、 410…光検出器、 411…対象物、 412、413…光、 5001…ライダー装置、 600…物体、 700…車両、 710…車体、 I…第1厚さ、 IL1…第1絶縁層、 IL2…第2絶縁層、 Ia…吸収光量、 Ii…入射光量、 L1…第1周期、 L2…第2周期、 Ln1…長さ、 Ln2…長さ、 Li…光、 PD…フォトダイオード、 Pa1…アバランシェ確率、 R…受光ユニット、 R1a、R1b、R2b、R2c、R3b、R3c…分布範囲、 RA…分布範囲、 T…第2厚さ、 U…投光ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図18
図19
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図21