(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】溶接部の焼鈍装置及び焼鈍方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20240802BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20240802BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
B23K31/00 B
F02C7/00 D
F01D25/00 X
(21)【出願番号】P 2021043009
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】夏目 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】幡野 王男
(72)【発明者】
【氏名】森 英夫
(72)【発明者】
【氏名】三浦 秀一
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-144650(JP,A)
【文献】特開2011-012549(JP,A)
【文献】特開2007-046108(JP,A)
【文献】特開平11-314145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
F02C 7/00
F01D 25/00
C21D 1/26
C21D 1/42
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の回転体を構成するホイールとシャフトとの間に設けられた溶接部の焼鈍装置であって、
環状に形成され、前記溶接部を加熱可能な高周波コイルと、
液体が流通可能であって、前記高周波コイルの軸線方向一方側において前記高周波コイルの軸線に沿って螺旋状に巻き巡らされた冷却用パイプと、
を備えた溶接部の焼鈍装置。
【請求項2】
前記冷却用パイプは、前記冷却用パイプに挿通された前記シャフトとの間に気体供給源から供給された気体が流通可能な隙間を有する、
請求項1に記載の溶接部の焼鈍装置。
【請求項3】
前記冷却用パイプを収容する筒を備えた
請求項1又は2に記載の溶接部の焼鈍装置。
【請求項4】
回転機械の回転体を構成するホイールとシャフトとの間に設けられた溶接部の焼鈍方法であって、
前記シャフトを冷却するとともに、前記溶接部を加熱する、
溶接部の焼鈍方法。
【請求項5】
前記シャフトは、前記シャフトを囲繞する螺旋状に巻き巡らされた冷却用パイプに流通する液体によって冷却され、
前記溶接部は、前記溶接部を囲繞する環状の高周波コイルの通電によって加熱される、
請求項4に記載の溶接部の焼鈍方法。
【請求項6】
前記シャフトは、更に、気体供給源から供給され、前記冷却用パイプとの間に流通する気体によっても冷却される、
請求項5に記載の溶接部の焼鈍方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接部の焼鈍装置及び焼鈍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、排気ターボ過給機に用いられるタービンロータの製造方法が開示されている。かかるタービンロータの製造方法では、電子ビームの照射によってホイールとシャフトを溶接している。また、特許文献1には、ホイールとシャフトとの間に設けられた溶接部の残留応力を熱処理(焼鈍)によって除去することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された熱処理(焼鈍)では、シャフトの変質を考慮する必要があり、溶接部を所定温度(シャフトが変質しない温度)以上に加熱することができない。よって、排気ターボ過給機の運転によりホイールが排気ガスに曝されると溶接部に残っていた残留応力が開放されタービンロータがアンバランスとなり、タービンロータのバランスが崩れた状態で排気ターボ過給機(回転機械)が運転される虞がある。
【0005】
本開示は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、シャフトの変質を防ぎつつ溶接部の残留応力を小さくできる溶接部の焼鈍装置及び焼鈍方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る溶接部の焼鈍装置は、
回転機械の回転体を構成するホイールとシャフトとの間に設けられた溶接部の焼鈍装置であって、
環状に形成され、前記溶接部を加熱可能な高周波コイルと、
液体が流通可能であって、前記高周波コイルの軸線方向一方側において前記高周波コイルの軸線に沿って螺旋状に巻き巡らされた冷却用パイプと、
を備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る溶接部の焼鈍方法は、
回転機械の回転体を構成するホイールとシャフトとの間に設けられた溶接部の焼鈍方法であって、
前記シャフトを冷却するとともに、前記溶接部を加熱する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る溶接部の焼鈍装置によれば、シャフトの変質を防ぎつつ溶接部の残留応力を小さくできる。
【0009】
本開示に係る溶接部の焼鈍方法によれば、シャフトの変質を防ぎつつ溶接部の残留応力を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態に係る溶接部の焼鈍装置を概略的に示す図である。
【
図3】
図2に示した溶接部の焼鈍装置の断面図である。
【
図4】実施形態に係る溶接部の焼鈍方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】溶接部の焼鈍後におけるシャフトの性能(硬度)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態係る溶接部の焼鈍装置1及び焼鈍方法について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1は、回転機械の回転体を構成するホイールとシャフトとの間に設けられた溶接部の焼鈍装置である。例えば、回転機械はターボチャージャであって、回転機械の回転体は、ターボチャージャのタービンロータTRである。ターボチャージャのタービンロータTRは、内燃機関(例えば、自動車のエンジン)から排出された排気ガスの流れを受けて回転する回転体であって、
図1に示すように、タービンホイールTWとシャフトTSとにより構成される。例えば、タービンホイールTWとシャフトTSは異種金属によって構成され、本実施形態に係るタービンロータTRにおいて、シャフトTSは熱処理(焼入れ)によって表面硬度が所定の硬度(以下「基準硬度」という)以上に調整されている。
【0013】
タービンホイールTWとシャフトTSは同一の軸線上に配置され、タービンホイールTWとシャフトTSは電子ビーム溶接によって溶接される。これにより、タービンホイールTWとシャフトTSとの間には溶接部WPが設けられ、溶接部WPには溶接による応力が残留する(これを残留応力という)。よって、本実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1は、回転機械の回転体を構成するホイールとシャフトとの間に設けられた溶接部、例えば、ターボチャージャのタービンロータTRのタービンホイールTWとシャフトTSとの間に設けられた溶接部WPが焼鈍対象となる。
【0014】
図2及び
図3に示すように、実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1は、高周波コイル11と冷却用パイプ13とを備えている。
高周波コイル11は、環状に形成され、溶接部WPを加熱可能である。高周波コイル11は、溶接部WPを囲繞可能な大きさに形成され、シャフトTSが挿通され、溶接部WPが囲繞される。高周波コイル11は、通電によって高周波コイル11に囲繞された溶接部WPの加熱が可能であって、溶接部WPに残留した応力が十分小さくなるのに必要な温度まで加熱可能である。
冷却用パイプ13は、液体CLが流通可能であって、高周波コイル11の軸線方向一方側において高周波コイル11の軸線に沿って螺旋状に巻き巡らされている。冷却用パイプ13は、シャフトTSを囲繞可能な大きさに巻き巡らされ、シャフトTSが挿通されかつ囲繞される。冷却用パイプ13に流通可能な液体CLは、溶接部WPの焼鈍時にシャフトTSを冷却するための液体CLであって、例えば、冷却水である。高周波コイル11の軸線方向一方側は、高周波コイル11の軸線が重力方向に沿って配置された場合に、高周波コイル11の重力方向下方側又は上方側であり、
図2及び
図3に示す例では、高周波コイル11の重力方向下方側である。例えば、冷却用パイプ13は高周波コイル11に近い側が入口側、遠い側が出口側となり、高周波コイル11に近い側から液体CLが供給され、高周波コイル11に遠い側から液体CLが排出される。
【0015】
上述した実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1では、回転機械の回転体を構成するシャフトTSが高周波コイル11、冷却用パイプ13の順に挿通されることで、シャフトTSが冷却用パイプ13に囲繞され、溶接部WPが高周波コイル11に囲繞される。そして、
図4に示すように、冷却用パイプ13に液体CLを流通させるとともに、高周波コイル11に通電させることで、シャフトTSを冷却するとともに、溶接部WPを加熱する(ステップS11,S12)。溶接部WPは溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなるのに必要な所定温度まで加熱され、溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなるのに必要な所定時間その温度で保持される(ステップS13,S14)。その後、溶接部WPが徐冷され(ステップS15)、溶接部WPの焼鈍が終了する。
【0016】
上述した実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1によれば、冷却用パイプ13に流通する液体CLがシャフトTSを冷却するとともに、高周波コイル11が溶接部WPを加熱するので、溶接部WPを所定温度(シャフトTSが変質しない温度)以上に加熱することができる。これにより、シャフトTSの変質を防ぎつつ溶接部WPに残留した応力を十分に小さくできる。
【0017】
図2及び
図3に示すように、実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1では、冷却用パイプ13は、冷却用パイプ13に挿通されたシャフトTSとの間に気体供給源(図示せず)から供給された気体CAが流通可能な隙間を有する。例えば、気体供給源は、溶接部の焼鈍装置1が設置された工場に設けられたコンプレッサ、ガスボンベ等であり、気体CAは圧縮空気である。気体CAは、例えば、高周波コイル11に近い側から供給され、高周波コイル11から遠い側から排出される。
【0018】
上述した実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1では、冷却用パイプ13に液体CLを流通させるときに合わせて、気体供給源から供給された気体CAを冷却用パイプ13に挿通されたシャフトTSと冷却パイプとの間の隙間を通り流通する。
【0019】
上述した実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1によれば、気体供給源から供給された気体CAが冷却用パイプ13に挿通されたシャフトTSと冷却用パイプ13との間の隙間を通り流通するので、シャフトTSを効果的に冷却することができる。
【0020】
図2に示すように、実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1は、さらに、冷却用パイプ13を収容する筒15を備えている。例えば、筒15には、気体供給源から冷却用パイプ13に挿通されたシャフトTSと冷却用パイプ13との間の隙間に気体CAを供給するための入口、隙間から気体CAを排出するための出口が設けられている。
【0021】
上述した実施形態に係る溶接部の焼鈍装置1によれば、冷却用パイプ13が筒15に収容されるので、冷却用パイプ13を保護することができる。
【0022】
図5は、溶接部WPの焼鈍後におけるシャフトTSの性能(硬度)を示す図である。
図5において左側にタービンホイールTWが設けられ、コンプレッサホイール取付側に向けて計測点P1,P2,P3が設けられている。「1」はシャフトTSが変質しない温度まで溶接部WPを加熱焼鈍した後の性能(硬度)、「2」は溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなる所定温度まで溶接部WPを加熱焼鈍した後の性能(硬度)、「3」は冷却用パイプ13に液体CLを流通させた状態(水冷)で溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなる所定温度まで加熱焼鈍した後の性能(硬度)、「4」「5」「6」は冷却用パイプ13に液体CLを流通させるとともに隙間に気体CAを流通させた状態(水冷+空冷)で溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなる所定温度まで加熱焼鈍した後の性能(硬度)を示す。
【0023】
図5「1」に示すように、シャフトTSが変質しない温度まで溶接部WPを加熱焼鈍すると、P2及びP3において基準硬度を超えるが、溶接部WPに残留した応力が十分に小さくできない。
図5「2」に示すように、溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなる所定温度まで溶接部WPを加熱焼鈍すると、P1及びP2において基準硬度を満たすことができない。
図5「3」に示すように、冷却用パイプ13に液体CLを流通させた状態(水冷)で溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなる所定温度まで加熱焼鈍すると、P1及びP2において基準硬度を満たすことができない。一方、
図5「4」「5」「6」に示すように、冷却用パイプ13に液体CLを流通させるとともに隙間に気体CAを流通させた状態(水冷+空冷)で溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなる所定温度まで加熱焼鈍すると、ばらつきはあるもののP1,P2及びP3の全てにおいて基準硬度を満たすことができる。よって、冷却用パイプ13に液体CLを流通させるとともに隙間に気体CAを流通させた状態(水冷+空冷)で溶接部WPに残留した応力が十分に小さくなる所定温度まで加熱焼鈍することが好ましいことが確認された。
【0024】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0025】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば、以下のように把握される。
【0026】
[1]の態様に係る溶接部の焼鈍装置(1)は、
回転機械の回転体を構成するホイール(タービンホイールTW)とシャフト(シャフトTS)との間に設けられた溶接部(溶接部WP)の焼鈍装置であって、
環状に形成され、前記溶接部(溶接部WP)を加熱可能な高周波コイル(11)と、
液体(CL)が流通可能であって、前記高周波コイル(11)の軸線方向一方側において前記高周波コイル(11)の軸線に沿って螺旋状に巻き巡らされた冷却用パイプ(13)と、
を備える。
【0027】
このような構成によれば、冷却用パイプ(13)に流通する液体(CL)がシャフト(シャフトTS)を冷却するとともに、高周波コイル(11)が溶接部(溶接部WP)を加熱するので、溶接部(溶接部WP)を所定温度(シャフト(シャフトTS)が変質しない温度)以上に加熱することができる。これにより、シャフト(シャフトTS)の変質を防ぎつつ溶接部(溶接部WP)の残留応力を十分に小さくできる。
【0028】
[2]別の態様に係る溶接部の焼鈍装置(1)は、[1]に記載の溶接部の焼鈍装置(1)であって、
前記冷却用パイプ(13)は、前記冷却用パイプ(13)に挿通された前記シャフト(シャフトTS)との間に気体供給源から供給された気体(CA)が流通可能な隙間を有する。
【0029】
このような構成によれば、気体供給源から供給された気体(CA)が冷却用パイプ(13)に挿通されたシャフト(シャフトTS)と冷却用パイプ(13)との間の隙間を通り流通するので、シャフト(シャフトTS)を効果的に冷却することができる。
【0030】
[3]別の態様に係る溶接部の焼鈍装置(1)は、[1]又は[2]に記載の溶接部の焼鈍装置(1)であって、
前記冷却用パイプ(13)を収容する筒(15)を備える。
【0031】
このような構成によれば、冷却用パイプ(13)が筒(15)に収容されるので、冷却用パイプ(13)を保護することができる。
【0032】
[4]の態様に係る溶接部の焼鈍方法は、
回転機械の回転体を構成するホイール(タービンホイールTW)とシャフト(シャフトTS)との間に設けられた溶接部(溶接部WP)の焼鈍方法であって、
前記シャフト(シャフトTS)を冷却するとともに、前記溶接部(溶接部WP)を加熱する。
【0033】
このような方法によれば、シャフト(シャフトTS)を冷却するとともに、溶接部(溶接部WP)を加熱するので、溶接部(溶接部WP)を所定温度(シャフト(シャフトTS)が変質しない温度)以上に加熱することができる。これにより、シャフト(シャフトTS)の変質を防ぎつつ溶接部(溶接部WP)の残留応力を小さくできる。
【0034】
[5]別の態様に係る溶接部の焼鈍方法は、[4]に記載の溶接部の焼鈍方法であって、
前記シャフト(シャフトTS)は、前記シャフト(シャフトTS)を囲繞する螺旋状に巻き巡らされた冷却用パイプ(13)に流通する液体(CL)によって冷却され、
前記溶接部(溶接部WP)は、前記溶接部(溶接部WP)を囲繞する環状の高周波コイル(11)の通電によって加熱される。
【0035】
このような方法によれば、シャフト(シャフトTS)は、シャフト(シャフトTS)を囲繞する螺旋状に巻き巡らされた冷却用パイプ(13)に流通する液体(CL)によって冷却され、溶接部(溶接部WP)は、溶接部(溶接部WP)を囲繞する環状の高周波コイル(11)の通電によって加熱されるので、溶接部(溶接部WP)を所定温度(シャフト(シャフトTS)が変質しない温度)以上に加熱することができる。
【0036】
[6]別の態様に係る溶接部の焼鈍方法は、[5]に記載の溶接部の焼鈍方法であって、
前記シャフト(シャフトTS)は、更に、気体供給源から供給され、前記冷却用パイプ(13)との間に流通する気体(CA)によっても冷却される。
【0037】
このような方法によれば、シャフト(シャフトTS)は、更に、気体供給源から供給され、冷却用パイプ(13)との間に流通する気体(CA)によっても冷却されるので、シャフト(シャフトTS)を効果的に冷却することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 溶接部の溶接装置
11 高周波コイル
13 冷却用パイプ
15 筒
TR タービンロータ
TW タービンホイール
TS シャフト
WP 溶接部
CL 液体
CA 気体