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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/08 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
B60N2/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021093333
(22)【出願日】2021-06-03
(65)【公開番号】P2022111019
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2021006122
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 健介
(72)【発明者】
【氏名】中谷 航平
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-154355(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0051208(US,A1)
【文献】特開2015-116998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床に固定されるロアレールと、
シートに固定される共に、前記ロアレールに対してスライド可能なアッパーレールと、
前記ロアレールと前記アッパーレールとの相対移動を解除可能にロックするロック部材と、
操作部と、前記操作部と一体的に接続され、前記ロック部材上に配置されるアーム部とを有し、前記操作部を引き上げてロック解除操作を行った際に、前記アーム部によって前記ロック部材を押圧してロック解除を行うレバーと、
前記レバーを前記アッパーレールに向けて付勢する弾性部材と、
を備え、
前記ロック部材は、前記レバーの非操作時において前記アーム部よりも下方に間隔をあけて配置されるストッパ部を備え、
前記レバーは、前記弾性部材を係止するための切欠きを備え、
前記ストッパ部のうち、前記レバーが上方を通過する部分の前端部と後端部との間の間隔は、前記切欠きの幅よりも大きく、
前記操作部側が下方へ移動する前記レバーのキャンセル動作時に、前記アーム部が前記ストッパ部に接触することで前記レバーは停止する、
シートスライド装置。
【請求項2】
前記ロック部材は、前記アッパーレールに固定されている、
請求項1に記載のシートスライド装置。
【請求項3】
前記アッパーレールは、前記レバーのロック解除操作時に、前記弾性部材が前方に撓むことを規制する撓み規制部を備える、
請求項1又は2に記載のシートスライド装置。
【請求項4】
前記ストッパ部は、湾曲形状である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のシートスライド装置。
【請求項5】
前記ロック部材は、前記レバーを組み付ける際に前記レバーを案内するためのガイド部を備える、
請求項1からのいずれか1項に記載のシートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートの前後位置を調節するためのシートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートの前後位置を調節し、所定の位置でシートをロックできるシートスライド装置が知られている。図15(a)は、従来のシートスライド装置の一例を示す断面図である。図15(b)は、従来のシートスライド装置の分解斜視図である。なお、図15(b)では、一部の部品を省略している。
【0003】
従来のシートスライド装置100は、主として、ロアレール110と、アッパーレール120と、ロック装置130と、レバー機構140とを備える。シートスライド装置100は、一つのシートに対し左右一対(インナ側とアウタ側)設けられている(ただし、後述するレバー141は、左右一対のシートスライド装置100に共通の部品である)。ロアレール110とアッパーレール120とは、ロック装置130によるロック時には前後方向に相対移動不能であり、ロック解除時には前後方向に相対移動可能になる。ロック装置130は、レバー機構140によりロック解除される。
【0004】
レバー機構140は、レバー141と、レバーブラケット142と、バネブラケット143とを備える。レバー141の一部は、レバーブラケット142上に配置されている。レバーブラケット142の後方側には、ロック装置130を作動させる押圧部142aが設けられている。レバーブラケット142は、突起状の軸部142bを有している。バネブラケット143は、板バネから成り、貫通穴143aを有する。レバーブラケット142の軸部142bは、バネブラケットの貫通穴143aに挿入されると共に、アッパーレール120の側壁に設けられた貫通穴120aに軸支される。
【0005】
搭乗者がレバー141を持ち上げることにより、レバーブラケット142が軸部142bを中心として回転し、押圧部142a側が下がる。押圧部142aがロック装置130に力を及ぼすことにより、ロック装置130がロック解除される。
【0006】
ところで、特許文献1に記載のように、車両衝突時などには、例えばインナ側のアッパーレールに、アッパーレールの後端部を持ち上げようとする荷重が作用することがある。アッパーレールの後端部が持ち上げられると、ロック装置のロックが解除されるおそれがある。
【0007】
そこで、従来のシートスライド装置は、車両衝突時などに意図せずロックが解除されることを防止するために、左右一対のレールのうちの一方が持ち上がった場合、その持ち上がり現象を実質的に打ち消す(キャンセルする)ようにレバーが動作するよう構成されている(このレバーの動作を「キャンセル動作」と表記する)。
【0008】
図15(a)に示すシートスライド装置では、レバー141の前方部分及びレバーブラケット142の前方部分は、ロアレール110の底壁と間隔をあけて配置されている。したがって、レバー141及びレバーブラケット142には、その前方部分が下方に移動するように回転する余地がある。そのため、車両衝突時などに、アッパーレール120の後端部及びロック装置130が持ち上がり、ロック装置130がレバーブラケット142の押圧部142aに接触したとしても、レバーブラケット142の押圧部142aが上方に移動し、レバーブラケット142及びレバー141の前方部分が下方に移動するように、レバーブラケット142及びレバー141が回転することで、ロック装置130によるロック解除が防止できるようになっている。図15(a)に示すシートスライド装置では、キャンセル動作時、レバー141の下方への移動量は、レバーブラケット142のストッパ部142cによって規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-116998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のシートスライド装置では、レバー機構は多数の部品から構成されているため、構造が複雑になっていた。
【0011】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、シートスライド装置の構造を簡略化することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(項目1)
車両の床に固定されるロアレールと、
シートに固定される共に、前記ロアレールに対してスライド可能なアッパーレールと、
前記ロアレールと前記アッパーレールとの相対移動を解除可能にロックするロック部材と、
操作部と、前記操作部と一体的に接続され、前記ロック部材上に配置されるアーム部とを有し、前記操作部を引き上げてロック解除操作を行った際に、前記アーム部によって前記ロック部材を押圧してロック解除を行うレバーと、
前記レバーを前記アッパーレールに向けて付勢する弾性部材と、
を備え、
前記ロック部材は、前記レバーの非操作時において前記アーム部よりも下方に間隔をあけて配置されるストッパ部を備え、
前記操作部側が下方へ移動する前記レバーのキャンセル動作時に、前記アーム部が前記ストッパ部に接触することで前記レバーは停止する、
シートスライド装置。
【0013】
(項目2)
前記ロック部材は、前記アッパーレールに固定されている、
項目1に記載のシートスライド装置。
【0014】
(項目3)
前記アッパーレールは、前記レバーのロック解除操作時に、前記弾性部材が前方に撓むことを規制する撓み規制部を備える、
項目1又は2に記載のシートスライド装置。
【0015】
(項目4)
前記レバーは、前記弾性部材を係止するための切欠きを備え、
前記ストッパ部のうち、前記レバーが上方を通過する部分の前端部と後端部との間の間隔は、前記切欠きの幅よりも大きい、
項目1から3のいずれか1項に記載のシートスライド装置。
【0016】
(項目5)
前記ストッパ部は、湾曲形状である、
項目4に記載のシートスライド装置。
【0017】
(項目6)
前記ロック部材は、前記レバーを組み付ける際に前記レバーを案内するためのガイド部を備える、
項目1から5のいずれか1項に記載のシートスライド装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシートスライド装置では、操作部とアーム部とが一体的に接続されたレバーによってロック部材をロック解除位置に直接移動させることができると共に、レバーのキャンセル移動量を規制するストッパ部がロック部材に設けられている。そのため、従来のシートスライド装置で使用されているレバーブラケットが不要となり、部品数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】シート及びシートスライド装置の概略側面図である。
図2】シートスライド装置の分解斜視図である。
図3図2におけるIII-III線断面図である。
図4】(a)弾性部材が取り付けられたアッパーレールの斜視図、(b)弾性部材が取り付けられたアッパーレールの断面図である。
図5】シートスライド装置の組立後の斜視図である。
図6】(a)図5のVIa-VIa線断面図、(b)図5のVIb-VIb線断面図、(c)図5のVIc-VIc線断面図である。
図7】(a)ロック部材の斜視図、(b)ロック部材の側面図である。
図8】(a)レバーのアーム部の側面図、(b)レバーのアーム部の底面図である。
図9】弾性部材の斜視図である。
図10】レバーの組み付け方法を説明する斜視図である。
図11】(a)レバーの非操作時のシートスライド装置の断面図、(b)レバーのロック解除操作時のシートスライド装置の断面図である。
図12】(a)本発明(アッパーレールの側壁に突起部が設けられている場合)においてロック解除を行った際の弾性部材の挙動を示す図、(b)アッパーレールの側壁に突起部が設けられていない場合に、ロック解除を行った際の弾性部材の挙動を示す図である。
図13】レバーがキャンセル動作しているときのシートスライド装置の断面図である。
図14】(a)ロック部材の変形例の斜視図、(b)(a)のXIVb部分の平面図である。
図15】(a)従来のシートスライド装置を示す断面図、(b)従来のシートスライド装置の一部の構成要素の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のシートスライド装置について図面を参照しながら説明する。以下で説明する実施形態は、本発明の好ましい一具体例を示すものである。本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。なお、明確性のため、図面において一部の構成要素及びハッチングを省略することがある。
【0021】
<1 シートスライド装置の全体構造>
図1は、車両のシートS及びシートスライド装置1の概略側面図である。以下では、「車両上下方向」、「車両前後方向」、「車両左右方向(車幅方向)」をそれぞれ単に「上下方向」、「前後方向」、「左右方向」と表記する。
【0022】
シートスライド装置1は、ロアレール2と、アッパーレール3と、ロック部材4と、レバー5と、弾性部材6(図2参照)と、固定部材7(図2参照)と、を備える。ロアレール2、アッパーレール3、ロック部材4、弾性部材6及び固定部材7は、一つのシートSに対し、左右一対(すなわち、インナ側とアウタ側に)設けられている。
【0023】
ロアレール2は、ブラケットBを介して車両のフロアに固定される。アッパーレール3は、シートSに固定されると共に、ロアレール2に組み付けられている。ロアレール2とアッパーレール3とは、ロック部材4によって解除可能にロックされている。ロック部材4がロック位置にあるとき、ロアレール2とアッパーレール3とは、前後方向に相対移動不能である。ロック部材4がロック解除位置にあるとき、ロアレール2とアッパーレール3とが前後方向に相対移動可能になるため、搭乗者はシートSの前後位置を調節できる。ロック部材4のロック状態とロック解除状態は、レバー5によって切り替えることができる。以下、各構成要素について詳述する。
【0024】
<1-1 ロアレール及びアッパーレール>
主に図2を参照して、ロアレール2について説明する。図2は、シートスライド装置1の分解斜視図である。なお、図2では、左右一対設けられた各構成要素のうちの一方のみを示している。
【0025】
ロアレール2は、底壁21と、側壁22と、上壁23と、フランジ部24と、を備えた、前後方向に延びる長尺な部材から成る。側壁22、上壁23及びフランジ部24はそれぞれ一対設けられている。ロアレール2は、例えば金属製であり、プレス加工によって一体成形される。
【0026】
底壁21は、前後方向に延びる略平板状である。側壁22は、底壁21の左右両端から、底壁21と略直角を成して上方に延びている。上壁23は、側壁22の上端から相手側の側壁22に向けて延びている。フランジ部24は、上壁23の端部から下方に、側壁22と略平行に延びている。
【0027】
フランジ部24には、複数の切欠き24aが前後方向に間隔をあけて形成されている。複数の切欠き24aを設けることによって、フランジ部24の下端には複数のロック歯24bが形成される。ロック部材4がロック位置に配置されているとき、ロック歯24bは、後述するロック部材4の貫通穴41a(図7(a)参照)内に配置される。
【0028】
次に、主に図2から図5を参照して、アッパーレール3について説明する。図3は、図2のIII-III線断面図である。図4(a)は、弾性部材6が取り付けられたアッパーレール3の斜視図であり、図4(b)は、弾性部材6が取り付けられたアッパーレール3の断面図である。なお、図4(a)では、弾性部材6の取付状態を明瞭にするために、アッパーレール3は断面斜視図として描かれている。図5はシートスライド装置1の組立後の斜視図であり、内部構造を見やすくするため、ロアレール2及びアッパーレール3は断面斜視図として描かれている。図6(a)から(c)はそれぞれ、図5のVIa-VIa線断面図、VIb-VIb線断面図、及びVIc-VIc線断面図である。
【0029】
図2及び図3に示すように、アッパーレール3は、上壁31と、側壁32と、底壁33と、フランジ部34と、を備えた、前後方向に延びる長尺な部材から成る。アッパーレール3は、例えば金属製であり、プレス加工によって一体成形される。
【0030】
側壁32、底壁33及びフランジ部34はそれぞれ一対設けられている。上壁31は、前後方向に延びる略平板状である。側壁32は、上壁31の左右両端から、上壁31と略直角を成して下方に延びている。底壁33は、側壁32から離れるように、側壁32から斜め上方に向けて延びている。フランジ部34は、側壁32に近づくように底壁33から斜め上方に向けて延びている。
【0031】
図2図3及び図4に示すように、上壁31と側壁32との間のコーナ部には、切欠き31aが設けられている。図4(b)及び図5に示すように、切欠き31aは、弾性部材6の係止部64を取り付けるための被係止部として機能する。図2及び図3に示すように、切欠き31aよりも後方には、貫通穴31bが設けられている。貫通穴31b内には、ロック部材4をアッパーレール3に固定するための固定部材7が挿入される。また、貫通穴31bよりも後方には、下方に突出する突出部31cが設けられている。突出部31cは、例えば、上壁31の一部を切り起こすことにより形成される。レバー5の非操作時には、この突出部31cに、レバー5のアーム部52が接触している(図11(a)参照)。
【0032】
図2及び図3に示すように、各側壁32には、複数の切欠き32aが、前後方向に、ロアレール2の切欠き24aと同じ間隔で形成されている。複数の切欠き32aを設けることにより、各側壁32には、複数のロック歯32bが形成される。ロック部材4がロック位置に配置されているとき、ロック歯32bは、後述するロック部材4の貫通穴41a(図7(a)参照)内に配置される。各側壁32には、後述するロック部材4の凸部44b(図7(a)参照)を圧入するための、上下方向に延びる切欠き32cが設けられている。また、各側壁32には、相手側の側壁32に向けて突出する突起部32dが設けられている。突起部32dは、後述するように、弾性部材6の前方への撓みを規制するための撓み規制部として機能する。突起部32dは、例えば、側壁32の一部を切り起こすことにより形成される。
【0033】
図6(a)に示すように、ロアレール2とアッパーレール3とは、ロアレール2の一対のフランジ部24間にアッパーレール3の側壁32が配置され、ロアレール2の側壁22とフランジ部24との間に、アッパーレール3のフランジ部34が配置されるように組み立てられる。
【0034】
ロアレール2の底壁21と側壁22との間のコーナ部と、アッパーレール3の底壁33との間には、図2に示すボール等の転動手段8が配置されている。また、ロアレール2の側壁22の上端と、アッパーレール3のフランジ部34の上端との間にも、転動手段8が配置されている。この転動手段8により、ロアレール2とアッパーレール3とは、前後方向に円滑にスライドできるようになっている。
【0035】
<1-2 ロック部材>
主に図5から図7を参照して、ロック部材4について説明する。図7(a)はロック部材4の斜視図、図7(b)はロック部材4の側面図である。
【0036】
ロック部材4は、バネ鋼などの弾性変形可能な一枚の板材を、例えばプレス加工することにより製造される。図7に示すように、ロック部材4は、ロック片41と、被押圧部42と、二つの延出部43と、二つの立上部44と、装着部45と、垂下部46と、を備える。
【0037】
図7(a)に示すように、ロック片41には、複数の貫通穴41aが前後方向に間隔をあけて設けられている。ロック片41のうち、前後方向において複数の貫通穴41aに隣接する部分は、ロック歯41bとして機能する。ロック部材4がロック位置に配置されているとき、ロアレール2のロック歯24b及びアッパーレール3のロック歯32bは、貫通穴41a内に挿入され、ロック部材4のロック歯41bは、ロアレール2の切欠き24a及びアッパーレール3の切欠き32a内に挿入される。こうして、ロアレール2とアッパーレール3とは前後にスライド不能にロックされる。
【0038】
被押圧部42は、ロック片41の前方に設けられている。被押圧部42上にはレバー5の後端が配置される(図5及び図11(a)参照)。レバー5の操作部51を持ち上げた際(すなわち、ロック解除操作を行った際)に、被押圧部42はレバー5によって下方に押圧される(図11(b)参照)。
【0039】
二つの延出部43は、左右方向に離隔されていると共に、前後方向に延びている。立上部44は、二つの延出部43のそれぞれの前端から上方に立ち上がる部分である。図7(b)に示すように、立上部44は、やや後方に傾斜しながら上方に立ち上がっている。図6(a)及び図7(a)に示すように、二つの立上部44は、それらの上部で接続されている。これにより、二つの立上部44の間には、上方が閉鎖された開口部44aが形成される。開口部44aには、レバー5のアーム部52が挿入される(図5及び6(a)参照)。
【0040】
図7に示すように、各立上部44は、外方に突出する凸部44bを備える。前記の通り、立上部44は後方に傾斜しながら立ち上がっているため、凸部44bも後方に傾斜している。凸部44bの前後方向における幅(すなわち、凸部44bの上部後端と下部前端との間の距離)は、アッパーレール3の切欠き32cの幅よりも大きくなっている。そのため、凸部44bを切欠き32cに挿入したとき、凸部44bは切欠き32c内に圧入されることになる。凸部44bが切欠き32cに圧入されると、凸部44bの上部後端は切欠き32cの後方側の内面に接触し、凸部44bの下部前端は切欠き32cの前方側の内面に接触する。そして、凸部44bは、切欠き32cの前方及び後方の内面に接触した時点で弾性変形し、前後方向に保持荷重を発生させる。凸部44bはこの保持荷重によって切欠き32c内で固定される。そのため、ロック部材4は負荷が入力されても、前後にガタつくことはない。
【0041】
装着部45は、ロック部材4を固定部材7によってアッパーレール3に固定するための部分である。図7(a)に示すように、装着部45は、固定部材7を挿入するための貫通穴45aを有している。固定部材7は、アッパーレール3の貫通穴31b及びロック部材4の貫通穴45aに挿入される。そして、固定部材7の下部は装着部45にカシメられ、固定部材7の上部はアッパーレール3にカシメられる。こうして、ロック部材4は、アッパーレール3に固定される。
【0042】
図7(a)に示すように、垂下部46は、装着部45の前端から下方に延びる部分である。垂下部46は、左右方向に離隔した二つの側部46aと、二つの側部46aの下端と一体的に接続された下部46bと、を備える。そして、垂下部46は、二つの側部46a及び下部46bによって形成される開口部46cを有している。
【0043】
図6(b)に示すように、開口部46cには、レバー5のアーム部52が挿入される。後述するように、垂下部46は、レバー5を組み付ける際に、アーム52が真っ直ぐに挿入されるように案内するためのガイド部として機能する。側部46aとアーム部52との間の隙間W1(図6(b)参照)は、レバー5の左右方向のガタつきを抑えるためにできる限り小さくすることが好ましく、例えば0.2mm~1mmとすることが好ましい。
【0044】
下部46bは、レバー5の前方側がキャンセル動作によって下がった際に、レバー5の下方への移動量を規制するストッパ部46bとして機能する。つまり、レバー5の前方側がキャンセル動作によって下がった際に、レバー5はストッパ部46bに接触し、レバー5はそれ以上下がらないようになる。
【0045】
<1-3 レバー及び弾性部材>
主に、図2図4図5図8図9図10及び図11(a)を参照してレバー5及び弾性部材6について説明する。図8(a)は、レバー5のアーム部52の側面図であり、図8(b)は、アーム部52の底面図である。図9は、弾性部材6の斜視図である。図10は、レバー5の組み付け方法を説明する斜視図である。図11(a)はレバー5の非操作時のシートスライド装置1の断面図である。
【0046】
図2に示すように、レバー5は、操作部51と、左右一対のアーム部52と、を備える(図2では、操作部51の一部及び左側のアーム部52を省略している)。一対のアーム部52は、操作部51を介して一体的に接続されている。レバー5は、例えば、一本のパイプをプレス加工することにより一体成形される。図8に示すように、アーム部52の下面には、幅W2を有する切欠き52aが設けられている。切欠き52aには、レバー5を上方に付勢するための弾性部材6が取り付けられる。
【0047】
図9に示すように、弾性部材6は、例えば一本の線状バネを折り曲げることにより構成されている。弾性部材6は、二つのアーム部61と、接続部62と、二つの立上部63と、二つの係止部64と、を備える。二つのアーム部61は、左右に離隔されると共に、前後方向に延びている。接続部62は、二つのアーム部61の後端を一体的に接続している。接続部62は、レバー5の切欠き52aに係止される(図11(a)参照)。二つの立上部63は、二つのアーム部61の前端からそれぞれ立ち上がる部分である。二つの係止部64はそれぞれ、側壁32に向けて突出している。図4図5及び図10に示すように、アーム部61、接続部62及び立上部63はアッパーレール3内に配置され、係止部64は、アッパーレール3の切欠き31a内に係止される。そして、立上部63の下部は、アッパーレール3の突起部32dと接触している。
【0048】
図10に示すように、アーム部52は、弾性部材6の二つのアーム部61の間、ロック部材4の開口部46c及び開口部44aに挿入される。垂下部46(開口部46c)は、アーム部52を挿入する目印及びガイド部として機能する。図11(a)に示すように、弾性部材6の接続部62は、アーム部52の切欠き52aに係止される。また、アーム部52の後端は、ロック部材4の被押圧部42上に配置される。
【0049】
レバー5に係止された弾性部材6はレバー5の重さ(下方荷重)を受け止めることになるが、この下方荷重よりも弾性部材6の上向きの付勢力の方が大きい。つまり、レバー5は、弾性部材6によって上方に付勢されている。したがって、図11(a)に示すように、レバー5の非操作時には、レバー5の前方部分は、ロアレール2の底壁21と離隔している。図11(a)に示すように、アーム部52は、レバー5の非操作時には、アッパーレール3の突出部31cに接触している。アーム部52は、レバー5の非操作時には、ストッパ部46bと間隔をあけて配置されている。アーム部52は、レバー5の非操作時には、開口部44aの上縁と接触しているか、あるいは、開口部44aとの間にわずかな隙間を開けて配置されている。後述するように、レバー5は、操作部51を持ち上げた際に(すなわち、ロック解除操作を行った際に)、アーム部52と開口部44aの上縁との接触箇所P1を中心として回転する。
【0050】
<2 ロック解除操作>
主に図11(a)、図11(b)及び図12(a)を参照して、シートスライド装置1のロック解除操作について説明する。図11(b)は、レバー5のロック解除操作時のシートスライド装置1の断面図である。図12(a)は、レバー5のロック解除操作時の弾性部材6の挙動を示す図である。
【0051】
図11(a)に示す状態から、搭乗者がレバー5の操作部51を持ち上げると、図11(b)に示すように、レバー5は、アーム部52とロック部材4の開口部44aの上縁との接触箇所P1を中心として回転する。つまり、レバー5は、接触箇所P1よりも前方部分が上方に移動し、接触箇所P1よりも後方部分が下方に移動するように回転する。
【0052】
レバー5の回転に伴い、アーム部52の後端が、ロック部材4の被押圧部42を下方に押圧する。これにより、主に延出部43が弾性変形により下方に撓み、その結果、ロック片41が下方に移動する。そして、図11(b)に示すように、ロック歯41bが、ロアレール2の切欠き24a内、及びアッパーレール3の切欠き32a内から離脱する。こうして、ロアレール2とアッパーレール3とのロックが解除され、ロアレール2とアッパーレール3とは互いに前後方向にスライド可能になる。ロック部材4がロック解除状態のとき、搭乗者は、シートSの前後位置を調節することができる。なお、レバー5のロック解除操作時、図11(b)及び図12(a)に示すように、弾性部材6の接続部62にも下方への力が加わるため、立上部63の下部(すなわち、立上部63のうち突起部32dと接触している箇所)が支点となって、主にアーム部61及び接続部62が下方に撓む。
【0053】
レバー5の操作部51に印加された力を除荷すると、レバー5自体の自重、弾性部材6の復元力及びロック部材4の復元力によりレバー5の操作部51が下がり、アーム部52の後端は上昇する。その結果、ロック部材4はその弾性力により元の位置(すなわち、図11(a)の状態)に戻り、ロック歯41bは、切欠き24a及び切欠き32a内に挿入され、ロック歯24b及びロック歯32bは、貫通穴41a内に挿入される。こうして、ロアレール2とアッパーレール3とが前後方向にスライド不能となるようにロックされる。
【0054】
<3 レバーのキャンセル動作>
主に、図11(a)及び図13を参照して、レバー5のキャンセル動作について説明する。図13は、レバー5のキャンセル動作時の断面図である。なお、図13では、図11(a)の状態からレバー5のみが動作した状態を描いている。
【0055】
図11(a)に示すように、レバー5の非操作時において、レバー5のアーム部52の前方部分とロアレール2の底壁21との間、及び、レバー5のアーム部52とストッパ部46bとの間には、隙間が存在する。したがって、レバー5には、車両衝突時などに、その前方部分が下方に移動するようにキャンセル動作する余地がある。つまり、車両衝突時などにおいて、例えばインナ側のアッパーレール3の後端部及びロック部材4の後端部が持ち上がり、ロック部材4の被押圧部42がアーム部52の後端に接触したとしても、図13に示すように、レバー5は、アーム部52と突出部31cとの接触箇所P2を中心として、レバー5のうち接触箇所P2よりも後方部分が上方に移動し、接触箇所P2よりも前方部分が下方に移動するように回転する。そして、レバー5は、ストッパ部46bに接触して停止する。このレバー5のキャンセル動作により、ロック部材4のロック解除を防止でき、ロアレール2とアッパーレール3とのロック状態を維持できる。
【0056】
<4 特徴>
本発明のシートスライド装置1では、図11(b)に示すように、操作部51とアーム部52とが一体的に接続されたレバー5によって、レバー5の力をロック部材4に直接伝達することができる。つまり、本発明のシートスライド装置1では、レバー5によって、ロック部材4をロック解除位置に直接移動させることができる。したがって、レバーの動作をレバーブラケットによってロック部材に伝達する従来の構造と比較して、少ない部品数でシートスライド装置1を構成することができる。
【0057】
また、図11(b)に示すように、レバー5は、ロック部材4の開口部44aの上縁(接触箇所P1)を中心として回転し、ロック部材4のロック解除を行う。つまり、レバー5の回転中心はロック部材4に設けられている。したがって、レイアウトの調整時には、ロック部材4のみを前後方向に移動させればレバー5の回転中心も同時に変更されることになるため、レイアウト性が向上する。
【0058】
本発明のシートスライド装置1では、図7(a)及び図13に示すように、ロック部材4に、レバー5のキャンセル移動量を規制するストッパ部46bが設けられているため、従来のようなレバーブラケットは不要になり、少ない部品数でシートスライド装置1を構成することができる。また、ロック部材4が固定部材7によってアッパーレール3に固定されていることにより、レバー5に乗員の足が当たるなどして、レバー5が押し下げられストッパ部46bに荷重が掛かったとしても、ストッパ部46bの保持強度を維持できる。
【0059】
本発明のシートスライド装置1では、図12(a)に示すように、アッパーレール3の側壁32に、弾性部材6の前方への撓みを規制する突起部32dが設けられているため、レバー5のロック解除操作時に接続部62に下方への力が加わっても、立上部63が前方に撓むことがない。これにより、弾性部材6に、設計通りの付勢力を発生させることができる。仮に、図12(b)に示すように、側壁32に突起部32dが設けられていない場合にレバー5によってロック解除操作を行うと、接続部62及びアーム部61が下方に撓むことで、立上部63も前方に撓むことになる。立上部63が前方に撓んでしまうと、弾性部材6が、設計通りの付勢力を生じないおそれがある。特に、本発明のシートスライド装置1では、図6(c)に示すように、弾性部材6の係止部64のうち、切欠き31aから外側に突出した部分が、ロアレール2の上壁23に接触することを防止するために、切欠き31aは側壁32の上部に設けられている。このような構成を採用する場合、弾性部材6の立上部63の上下方向長さを長くする必要があるため、立上部63がより前方に撓みやすくなる。上記の通り、側壁32に弾性部材6の前方への撓みを防止する突起部32dを設けることにより、このような問題を解決できる。
【0060】
図10に示すように、ロック部材4の垂下部46はレバー5のアーム部52を挿入する際のガイドとして機能するため、レバー5の組み付けが容易になる。また、垂下部46の開口部46c内にアーム部52を挿入することにより、垂下部46の側部46aによって、アーム部52の左右方向のガタつきを抑えることができる。垂下部46の側部46aとアーム部52との間の間隔を0.2mm~1mmとすることにより、レバー5の左右方向のガタつきをより抑えることができる。
【0061】
<5 変形例>
図10に示すように、シートスライド装置1の組み立て時、アーム部52は、ロック部材4の垂下部46の開口部46c内に挿入される。このとき、アーム部52の切欠き52aが、垂下部46の下部(ストッパ部)46bに引っ掛かるおそれがある。そこで、下部46bのうち、アーム部52の切欠き52aが通過する部分の前後方向の幅が、切欠き52aの幅W2よりも大きくなるように、下部46bが設計されていることが好ましい。図14に示す実施形態では、下部46bを後方に弓なりに湾曲させることで、下部46bの前端部と後端部との間の距離Lを、切欠き52aの幅W2よりも大きくしている。これにより、アーム部52を開口部46c内に挿入する際に、アーム部52の切欠き52aが、下部46bに引っ掛かるおそれがない。なお、下部46bは湾曲形状に限らず、折れ線形状であってもよい。あるいは、下部46bの厚みを、切欠き52aの幅W2よりも大きい厚みにすることでも、切欠き52aが、下部46bに引っ掛からないようにすることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 シートスライド装置
2 ロアレール
3 アッパーレール
32d 突起部(撓み規制部)
4 ロック部材
44a 開口部
45
46 垂下部(ガイド部)
46a 側部
46b 下部(ストッパ部)
46c 開口部
5 レバー
51 操作部
52 アーム部
52a 切欠き
6 弾性部材
7 固定部材
P1 (レバーのアーム部とロック部材の開口部の上縁との)接触箇所
P2 (レバーのアーム部とアッパーレールの突出部との)接触箇所
S シート
W2 切欠きの幅
L ストッパ部の前端部と後端部との間の間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15