(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】水田作業機
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
A01B69/00 303A
A01B69/00 303Z
(21)【出願番号】P 2021206430
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】吉水 健悟
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-240102(JP,A)
【文献】特開2020-146043(JP,A)
【文献】特開平8-228535(JP,A)
【文献】特開2016-021890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00-69/08
A01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
対地作業として圃場に農用資材を供給する作業機構と、
前記圃場を整地するフロートと、
1または複数の操作具と、
前記機体の位置を算出する機体位置算出部と、
前記機体の位置に基づいて自動走行を制御する自動走行制御部とを備え、
前記自動走行制御部は所定の発進条件が成立することにより前記対地作業を伴う前記自動走行である自動作業走行を開始し、
前記発進条件として、前記操作具の1つが操作されることにより前記フロートが下降されて前記フロートの前記圃場の泥面に対する傾きが所定の範囲内になる第1条件、および、前記操作具の1つが操作されることにより前記作業機構が駆動される第2条件を有し、
前記圃場の所定の領域が特定領域として設定され、
前記自動走行制御部は、
前記特定領域においては、前記第1条件が成立しなくても前記第2条件が成立することにより前記自動作業走行を開始し、
前記圃場の前記特定領域以外の領域においては、前記第1条件および前記第2条件の両方が成立することにより前記自動作業走行を開始する水田作業機。
【請求項2】
前記フロートを下降させる前記操作具と、前記作業機構を駆動させる前記操作具とは同一である請求項1に記載の水田作業機。
【請求項3】
前記操作具は、前記作業機構と前記フロートとを有する作業装置の昇降操作を受け付け、前記作業装置の下降操作を受け付けた後に、さらに前記操作具が操作されると、前記作業機構を駆動させる請求項2に記載の水田作業機。
【請求項4】
前記特定領域は、前記圃場の外周に沿う外側周回経路であり、
前記自動走行制御部は、前記機体の位置に基づいて前記機体が前記外側周回経路に位置しているか否かを判断し、前記機体が前記外側周回経路に位置している場合には、前記第2条件のみを前記発進条件に用いて前記自動作業走行の開始を行う請求項1から3のいずれか一項に記載の水田作業機。
【請求項5】
前記自動走行制御部は、前記自動作業走行中の少なくとも一部に手動操作が要求される進行方向変更走行において、前記発進条件の成立を条件とする前記自動作業走行の開始を行う請求項1から4のいずれか一項に記載の水田作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に農用資材を供給する水田作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、田植機(水田作業機)は、圃場を走行しながら、苗植付作業を行う。また、自動走行が可能な田植機は、自動走行しながら苗植付作業を行う自動作業走行を行う。自動走行が可能な田植機は、走行経路を算出し、GNSS(Global Navigation Satellite System)等を用いて算出した機体の位置に基づいて走行経路に沿った自動走行を行う。
【0003】
旋回等により苗植付装置が上昇された後、自動作業走行が開始(機体が発進)される際には、苗植付装置が下降されていることが条件となる。苗植付装置が下降されていることは、フロートが接地していることにより確認される。フロートが接地していることはフロートの傾きが圃場の泥面に対して所定の角度範囲内であることにより判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
畦際から自動作業走行により機体が発進する場合、フロートの後側の領域が畦等に乗り上げていると、フロートが傾斜し機体は発進しない。
【0006】
ここで、機体が畦際に寄せられている状態から自動作業走行が開始(機体が発進)されても、植付機構の回転状態によっては、実際に苗が圃場に植え付けられるまでにタイムラグがあり、畦際から機体が多少進んだ位置から苗の植え付けが開始される場合がある。一方、機体が進み始めると直ちに苗の植え付けが行われるような植付機構の回転状態である場合でも、畦がコンクリートのように固い物でない限り、畦に苗が植えられても大きな問題はない。そのため、畦の状態を判断したうえで、フロートが畦等に乗り上げている状態からでも自動作業走行を開始(機体を発進)したいという要望がある。
【0007】
本発明は、自動作業走行を適切な発進条件で開始することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る水田作業機は、機体と、対地作業として農用資材を供給する作業機構と、前記圃場を整地するフロートと、1または複数の操作具と、前記機体の位置を算出する機体位置算出部と、前記機体の位置に基づいて自動走行を制御する自動走行制御部とを備え、前記自動走行制御部は所定の発進条件が成立することにより前記対地作業を伴う前記自動走行である自動作業走行を開始し、前記発進条件として、前記操作具の1つが操作されることにより前記フロートが下降されて前記フロートの前記圃場の泥面に対する傾きが所定の範囲内になる第1条件、および、前記操作具の1つが操作されることにより前記作業機構が駆動される第2条件を有し、前記圃場の所定の領域が特定領域として設定され、前記自動走行制御部は、前記特定領域においては、前記第1条件が成立しなくても前記第2条件が成立することにより前記自動作業走行を開始し、前記圃場の前記特定領域以外の領域においては、前記第1条件および前記第2条件の両方が成立することにより前記自動作業走行を開始する。
【0009】
自動作業走行を開始することが適切であるか否かは人為的に判断することができる。上記構成により、フロートが圃場の泥面に対して傾いた状態であっても、機体と畦との位置関係やフロート・作業機構の状態等を確認したうえで、操作具を人為操作することにより自動作業走行により機体を発進させることができる。その結果、機体を適切な発進条件で発進させることができ、作業状態に応じて、自動作業走行における機体の発進を自由度高く開始することができる。特に、作業機構が駆動状態であることが発進条件であるため、対地作業を行うことができる状態で自動作業走行により機体を発進させることができる。
【0010】
また、前記フロートを下降させる前記操作具と、前記作業機構を駆動させる前記操作具とは同一であっても良い。
【0011】
このような構成により、他の機能を有する操作具に自動作業走行を開始するための機能を付加することにより、自動作業走行を開始するための操作具を別途設ける必要がない。そのため、簡易な構成で、人為的な操作により、自動作業走行による機体の発進を適切に行うことができる。
【0012】
また、前記操作具は、前記作業機構と前記フロートとを有する作業装置の昇降操作を受け付け、前記作業装置の下降操作を受け付けた後に、さらに前記操作具が操作されると、前記作業機構を駆動させることが好ましい。
【0013】
このような構成により、フロートを下降させる操作を行ったうえで、さらに同じ操作具を操作することで発進条件を満たすことができる。そのため、簡易な構成で、分かりやすい人為的な操作により、自動作業走行による機体の発進を適切に行うことができる。
【0014】
また、前記特定領域は、前記圃場の外周に沿う外側周回経路であり、前記機体の位置に基づいて前記機体が前記外側周回経路に位置しているか否かを判断し、前記機体が前記外側周回経路に位置している場合には、前記第2条件のみを前記発進条件に用いて前記自動作業走行の開始を行っても良い。
【0015】
外側周回経路では、圃場の角部で、自動作業走行を一時停止させて、作業装置を上昇させた状態で、前進と後進を行って機体の進行方向が変更される。また、外側周回経路での進行方向変更後の作業走行では、できるだけ畦際から対地作業が行われることが好ましい。そのため、外側周回経路では、フロートの状態によらずに自動作業走行を開始する必要性が高い。上記構成によると、外側周回経路での自動作業走行において、機体の発進条件として操作具が操作を受け付けたことが適用されるため、周り植え走行の進行方向変更後に自動作業走行による機体の発進を適切に行うことができる。さらに、発進条件として、フロートの状態を含めず、操作具が操作を受け付けたことのみを用いることにより、効率的に作業走行を行うことができる。
【0016】
また、前記自動走行制御部は、前記自動作業走行中の少なくとも一部に手動操作が要求される進行方向変更走行において、前記発進条件の成立を条件とする前記自動作業走行の開始を行っても良い。
【0017】
外側周回経路以外にも、自動作業走行が一時停止され、作業装置を上昇させて機体の進行方向の変更が行われる場合がある。上記構成により、圃場内での任意の進行方向変更走行後においても、自動作業走行における機体の発進条件として操作具が操作を受け付けたことが適用されるため、進行方向変更走行後に自動作業走行による機体の発進を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】周り植えにおける進行方向変更を説明する図である。
【
図5】自動走行の発進条件であるフロートの傾きを説明する図である。
【
図6】畦際における苗植付の開始位置を説明する図である。
【
図7】田植機の制御系を示す機能ブロック図である。
【
図8】自動走行を開始する際の処理フローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、水田作業機の一例として、圃場を作業走行する田植機について説明する。
【0020】
ここで、理解を容易にするために、本実施形態では、特に断りがない限り、「前」(
図1に示す矢印Fの方向)は機体前後方向(走行方向)における前方を意味し、「後」(
図1に示す矢印Bの方向)は機体前後方向(走行方向)における後方を意味するものとする。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味し、「左」(
図2に示す矢印Lの方向)および「右」(
図2に示す矢印Rの方向)は、それぞれ、機体の左方向および右方向を意味するものとする。
【0021】
〔全体構造〕
図1,
図2に示すように、田植機は、乗用型で四輪駆動形式の機体1を備える。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構13、リンク機構13を揺動駆動する油圧式の昇降リンク13a、リンク機構13の後端部領域にローリング可能に連結される苗植付装置3、機体1の後端部領域から苗植付装置3にわたって架設されている施肥装置4、および、苗植付装置3の後端部領域に設けられる薬剤散布装置18等を備える。苗植付装置3(作業装置)、施肥装置4、および薬剤散布装置18は作業装置の一例である。
【0022】
機体1は、走行のための機構として車輪12、エンジン2、および主変速装置である油圧式の無段変速装置9を備える。無段変速装置9は、例えばHST(Hydro-Static Transmission)であり、モータ斜板およびポンプ斜板の角度を調節することにより、エンジン2から出力される駆動力を変速する。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン2および無段変速装置9は、機体1の前部に搭載される。エンジン2からの動力は、無段変速装置9等を介して前輪12A、後輪12B、作業装置等に供給される。
【0023】
苗植付装置3は、一例として10条植え形式に構成される。苗植付装置3は、苗載せ台21、10条分の植付機構22(作業機構)、5つのフロート15等を備える。なお、この苗植付装置3は、各条クラッチ(植付クラッチ23
図7参照)の制御により、2条植え、4条植え、6条植え、8条植え等の形式に変更可能である。
【0024】
苗載せ台21は、10条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台21は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、苗載せ台21が左右のストローク端に達する毎に、苗載せ台21上の各マット状苗を苗載せ台21の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。
【0025】
10個の植付機構22は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置される。そして、各植付機構22は、植付クラッチ23が伝動状態に移行されることによりエンジン2から駆動力が伝達され、苗載せ台21に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗(植付苗とも称す)を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。これにより、苗植付装置3は、苗載せ台21に載置されたマット状苗から苗を取り出して水田の泥土部に植え付けることができる。
【0026】
フロート15は苗植付作業の際に圃場を整地する。各フロート15は、2条分の植付機構22と対応付けて設けられる。
【0027】
施肥装置4は、貯留された粒状または粉状の肥料(薬剤やその他の農用資材)を、所定量ずつ繰り出して圃場へ排出し、圃場に肥料を供給する。
【0028】
機体1は、その後部側領域に運転部14を備える。運転部14は、前輪操舵用のステアリングホイール10、無段変速装置9の変速操作を行うことで車速を調節する主変速レバー7A、副変速装置の変速操作を可能にする副変速レバー7B、苗植付装置3の昇降操作と植付クラッチ23の入切(伝動状態と非伝動状態との間の切り替え)を操作する作業操作レバー11(操作具)、各種の情報を表示してオペレータに報知(出力)すると共に、各種の情報の入力を受け付けるタッチパネルを有する情報端末5、および、オペレータ(運転者・作業者)用の運転座席16等を備える。副変速レバー7Bは、走行車速を、作業中の作業速と移動中の移動速とに切り替える操作に用いられる。例えば、圃場間の移動は移動速で行われ、植付作業等は作業速で行われる。さらに、運転部14の前方に、予備苗を収容する予備苗収納装置17Aが予備苗支持フレーム17に支持される。
【0029】
また、予備苗支持フレーム17には、測位ユニット8、積層灯24、ボイスアラーム発生装置25が設けられる。
【0030】
測位ユニット8は、機体1の位置および方位を算出するための測位データを出力する。測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている。
【0031】
積層灯24は各種の情報や警告を点灯パターンにより報知する。ボイスアラーム発生装置25は、音声により各種の情報や警告を報知する。
【0032】
後述のように、本実施形態の田植機は自動走行を行うことができる。自動走行による走行開始時や自動走行中に、進行方向の前方や機体1の周囲に障害物があると、走行や作業に問題が生じる場合がある。そのため、本実施形態の田植機は、機体1の周囲の障害物を検知する検知器の一例としてソナーセンサ30を備える。障害物の検知は、基本的には自動走行中に行われるが、手動走行中に障害物の検知が行われる構成とすることもできる。
【0033】
具体的には、例えば、ソナーセンサ30は、機体1の前方の領域の障害物を検知する4つの前ソナー31と、機体1の後方の領域の障害物を検知する4つの後ソナー32と、機体1の左右の横側方の前側領域の障害物を検知する左右一対の横ソナー33とから構成される。
【0034】
〔自動走行〕
自動走行により、田植機が圃場を田植作業する作業走行について
図1,
図2を参照しながら、
図3を用いて説明する。
【0035】
本実施形態における田植機は、手動走行および自動走行を選択的に行うことができる。手動走行は、運転者が手動で、ステアリングホイール10、主変速レバー7A、副変速レバー7B、作業操作レバー11等の作業走行操作具を操作して作業走行を行うものである。自動走行は、あらかじめ設定された走行経路に沿って、田植機が自動制御で走行および作業を行うものである。また、自動走行は、運転者の搭乗を要する有人自動走行(有人自動走行モード)と、運転者の搭乗を要しない無人自動走行(無人自動走行モード)とを行うことができる。有人自動走行は、田植機から提供されるガイダンスに沿って一部の操作を運転者が行いながら、その他の走行および作業に伴う動作を田植機が自動制御するものである。無人自動走行では、運転者が搭乗することは要しないが、無人自動走行中に運転者が搭乗していても良い。また、無人自動走行は、運転者が自動走行の開始操作、例えば田植機を操作するリモコン(図示せず)による開始操作を行うことにより、自動制御で作業走行を開始し、あらかじめ設定された作業走行を自動制御で行うものである。有人自動走行が行われる有人自動モードと無人自動走行が行われる無人自動モードとは、情報端末5を用いて設定される。
【0036】
田植機が植え付け作業を行う際には、まず、圃場の外周に沿って、運転者が手動操作で、作業を行わずに田植機を走行させる。この外周走行によって、圃場の外周形状(圃場マップ)が生成され、圃場が外周領域OAと内部領域IAに区分けされる。また、この際、田植機が圃場に侵入する出入口Eが設定されると共に、圃場の外周辺のうちの一辺または指定された複数辺が、田植機にマット状苗や肥料、薬剤、燃料等を補給するための補給辺SLとして設定される。
【0037】
圃場マップが生成された後に、田植機が作業走行を行う走行経路が設定される。内部領域IAでは、圃場の一つの辺に略平行な複数の経路を旋回経路で繋ぐ内部往復経路IPLが生成される。内部往復経路IPLは、内部領域IAの全体をくまなく走行する走行経路である。
【0038】
外周領域OAでは、圃場の外周に沿って外周領域OA内を周回する、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLの2つの走行経路が生成される。内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとを作業走行することにより、外周領域OAの全体の作業走行が行われる。なお、外周領域OA内を周回する走行経路は、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとの2つに限らず、1以上の走行経路であれば良い。この場合、もっとも外側の走行経路が外側周回経路ORLとなる。
【0039】
なお、内部往復経路IPLおよび内側周回経路IRLは、無人の自動走行で行われるが、有人の自動走行または手動走行で作業走行が行われても良い。また、外側周回経路ORLは、有人自動走行で行われるが、手動走行で作業走行が行われても良く、無人自動走行で作業走行が行われても良い。
【0040】
また、有人自動走行は、少なくとも運転者が搭乗していることと、主変速レバー7Aが中立位置にあることとが自動走行の開始条件である。開始条件を満たした状態において、主変速レバー7Aが進行方向に移動されると自動走行が開始される。上記圃場の走行経路おいて、有人自動走行は、外側周回経路ORLでの作業走行の際に行われるが、その他の走行経路において行われても良い。また、有人自動走行において、苗植付装置3の昇降は自動制御により行われる。例えば、内部往復経路IPLや内側周回経路IRLでの無人自動走行における作業走行では、苗植付装置3の昇降は自動制御により行われる。ただし、外側周回経路ORLでの作業走行の際には、苗植付装置3の下降は手動操作により行われる。具体的には、外側周回経路ORLの旋回位置に機体1が到達すると、苗植付装置3は自動制御で上昇される。その状態で旋回が完了すると、機体1は停止し、手動操作により苗植付装置3を下降させることにより、自動走行による作業走行が継続される。外側周回経路ORLでは周囲に障害物が存在する可能性が他の走行経路より高い。円滑な作業走行を行うために、外側周回経路ORLでの作業走行では、障害物等が存在しないことが確認されたうえで、苗植付装置3の下降は手動操作により行われる。なお、無人自動走行および外側周回経路ORL以外での有人自動走行においても、苗植付装置3の下降が手動操作により行われる構成とされても良い。
【0041】
〔自動走行における機体の発進〕
自動作業走行、特に有人自動走行において、自動走行により機体1を発進させる際、または、一時的に自動走行が停止された後に機体1を発進させる際(以下いずれの場合も単に、機体1を発進させる、または、自動作業走行を開始すると称す)には、所定の条件(発進条件)を満たす必要がある。このような自動作業走行による機体1の発進の際には、所定の手動操作が必要な場合がある。
【0042】
例えば、
図4に示すように、圃場の外周に沿った周回経路における周り植え走行を行う外側周回経路ORLでの進行方向変更の際には、外側周回経路ORLの自動作業走行が行われる2つの直進走行ST1および直進走行ST2を繋ぐように、進行方向変更走行TTが行われる。
【0043】
進行方向変更走行TTは、直進走行ST1の後に、後進、旋回しながらの前進、旋回しながらの後進等を行うことにより、直進走行ST2を行う外側周回経路ORLの開始位置に移動する。なお、進行方向変更走行TTにおいて、
図4では、直進走行を実線で、後進走行を破線で示している。
【0044】
進行方向変更走行TTにおいて、一時的に自動走行が停止されて、苗植付装置3が上昇された後、自動制御または手動操作により進行方向変更を伴う走行が行われる。そして、直進走行ST2での自動作業走行において機体1を発進させる際には、作業操作レバー11(
図2参照 操作具に相当)が作業者(運転者)により操作されて苗植付装置3が下降される。この際、上述の自動作業走行の発進条件が満たされていれば、自動作業走行による直進走行ST2が自動的に開始される。
【0045】
自動作業走行の発進条件の一つは、作業操作レバー11が操作されて苗植付装置3が下降され、フロート15、例えば、左右方向において真ん中に配置されるセンターフロート15Aが、圃場の泥面に接する状態になること(第1条件)である。
【0046】
図5に示すように、第1条件であるフロート15が圃場の泥面に接する状態は、フロート15の水平面15aが圃場の泥面に略平行になる状態であり、フロート15の水平面15aと、圃場の泥面と平行な面とのなす角度θが所定の角度範囲θR以内となる状態である(
図5のフロート15を破線で示す状態)。このように、フロート15が発進条件を満たすと、自動作業走行において機体1が発進されて植付機構22が駆動され、直進走行ST2が開始される。
【0047】
〔苗植付作業の開始位置〕
上述のような周り植えを行う外側周回経路ORLでの進行方向変更後等の自動作業走行は畦際から開始される場合がある。自動作業走行において機体1を発進させるために、
図5に示すように、フロート15が圃場の泥面に接する(泥面と平行となる)ように苗植付装置3が下降される(第1条件を満たす)必要がある。また、できるだけ畦際から苗植付作業を開始するために、
図6に示すように、下降されたフロート15が圃場の泥面と平行になるように、下降されたフロート15の後端が畦RIに可能な限り寄せられる(
図6(a)の状態)。
【0048】
このように、フロート15が畦RIに乗り上げない(下降されたフロート15の水平面15aと、圃場の泥面と平行な面とのなす角度θが所定の角度範囲θR以内となる)範囲で、下降されたフロート15が畦際に寄せられたとしても、苗植付作業の開始位置は畦RIから距離n1だけ離れた位置となる。すなわち、作業走行開始時の、回転する植付機構22の状態によっては、植付機構22が苗載せ台21条の苗をつかんで圃場に植え付けるまでにタイムラグが生じ、タイムラグが最大の場合、畦RIから距離n1だけ離れた位置から苗植付作業が開始される。このようなタイムラグを考慮すると、機体1(
図1参照)をさらに畦際に寄せた位置から苗植付作業を開始する必要がある。
【0049】
そのため、本実施形態では、下降されたフロート15が傾いた状態でも、所定の操作が行われることにより、自動作業走行において機体1を発進させる構成とする。つまり、自動作業走行において機体1を発進させる発進条件として、フロート15の角度θが所定の角度範囲θR以内となること(第1条件)に加え、第1条件が満たされていなくても作業者が所定の操作を行うことを加える。
【0050】
具体的には、機体1をさらに畦際に寄せるために、フロート15が畦RIに乗り上げた状態から自動作業走行において機体1を発進させることを許容する(
図6(b)の状態)。下降されたフロート15が畦RIに乗り上げると、フロート15の角度θが所定の角度範囲θRを超える。そのため、発進条件の第1条件は成立しない。このような状態でも、畦RI上から苗植付作業が開始されても問題のないことを作業者が確認し、植付機構22を駆動させる手動操作を行うことにより、この手動操作、または、植付機構22が駆動されたことを第2条件として、自動作業走行により機体1が発進される。
【0051】
フロート15が畦RIに乗り上げた状態から自動作業走行が開始されると、より畦RIに近い位置から作業走行(苗植付作業)が開始されるため、苗植付作業の開始位置は畦RIから距離n2(n2<n1)だけ離れた位置となる。そのため、苗植付作業の開始位置が、フロート15が畦RIに乗り上げない状態に比べて、畦RIに近い位置となる。その結果、圃場に無駄なく苗を植え付けることができる。なお、この際、作業走行開始時の回転される植付機構22の状態によっては、畦RIに苗が植え付けられる場合がある。そのため、作業者は、植付機構22を駆動させる手動操作を行う際に、苗が植え付けられても問題のない畦RIであるかの確認や、苗植付装置3を下降する操作が行われた後におけるフロート15の状態の確認等を行う。
【0052】
なお、このような、2つの発進条件により自動作業走行において機体1を発進させる構成は、
図4に示した進行方向変更走行後の自動作業走行における機体1の発進時に限らず、任意の進行方向変更走行後の自動作業走行における機体1の発進時に適用されても良い。例えば、後進を行わず、直進走行ST1,直進走行ST2を繋ぐ、自動走行が一時停止した状態での進行方向の変更を伴う走行の後に、直進走行ST2での自動走行において機体1を発進させる際に適用されても良い。また、このような構成は、外側周回経路ORLに限らず、任意の走行経路において、進行方向変更走行以外に自動走行が一時停止された後に所定の手動操作(苗植付装置3の昇降操作)が行われることにより自動走行が再開(機体1が発進)されるような走行が行われる際にも適用されて良い。なお、外側周回経路ORLにおいては、第1条件を用いず、第2条件のみを発進条件として、自動作業走行の開始が行われても良い。外側周回経路ORLにおいては、畦際から植え付ける要望が多い。そのため、外側周回経路ORLにおいては、フロート15の状態を考慮することなく、作業者がフロート15の状態等を確認したうえで、植付機構22を駆動する操作が行われたことだけを発進条件として自動作業走行により機体1を発進させることが、作業効率のうえで好適である。
【0053】
〔自動作業走行における機体の発進制御〕
次に、
図1,
図5を参照しながら、
図7,
図8を用いて、自動作業走行における機体1の発進制御を含む作業走行を制御する構成について説明する。
【0054】
田植機の自動作業走行における機体1の発進制御は、制御ユニット40によって行われる。制御ユニット40は、測位ユニット8、フロート15、植付機構22、作業操作レバー11、走行装置である車輪12、情報端末5、積層灯24、および、ボイスアラーム発生装置25等と通信可能に接続される。情報端末5、積層灯24、およびボイスアラーム発生装置25は、情報や警告を報知する報知部としての機能を有する。また、植付機構22は、植付クラッチ23が伝動状態(入状態)となることにより駆動され、植付クラッチ23は作業操作レバー11(操作具)により伝動状態(入状態)または非伝動状態(切状態)に操作される。
【0055】
制御ユニット40は、機体位置算出部42、走行制御部43、作業制御部45を備える。
【0056】
機体位置算出部42は、測位ユニット8から測位データを取得し、測位データに基づいて、所定の時間毎に断続的に、機体1の位置および機体1の位置における機体1の走行方位を算出する。
【0057】
走行制御部43は、自動走行および手動走行における、操舵制御および駆動制御を行う。手動走行において、走行制御部43は、作業者(運転者)の操作に応じて車輪12の動作を制御する。
【0058】
走行制御部43は自動走行制御部44を備え、自動走行制御部44は自動走行の操舵制御および駆動制御を行う。自動走行制御部44は、あらかじめ設定された目標走行経路に沿って作業走行が行われるように、機体1の位置、または、機体1の位置および機体1の走行方位に基づいて、車輪12の動作を自動制御する。
【0059】
作業制御部45は、作業者(運転者)の操作、あるいはあらかじめ設定されたプログラムに応じて、苗植付装置3等の作業装置の動作を制御する。
【0060】
自動走行制御部44は、上記発進条件が成立することを確認し、自動作業走行において機体1を発進させる。
【0061】
具体的には、自動作業走行における機体1の発進時に、まず、自動走行制御部44は、フロート15が圃場の泥面に接しているか否かを判定する。そのため、自動走行制御部44は、第1条件として、フロート15の水平面15aと圃場の泥面と平行な面とのなす角度θが所定の角度範囲θR以内であるか否かを判定する(
図8のステップ#1)。角度θは、任意の方法で計測されて自動走行制御部44が取得する構成とすることができるが、例えば、フロート15の水平方向の傾きを検知するセンサ等により計測される。
【0062】
自動走行制御部44は、角度θが所定の角度範囲θR以内であり、第1条件が満足していると判定すると(
図8のステップ#1 Yes)、自動作業走行を開始して機体1を発進させる(
図8のステップ#2)。
【0063】
角度θが所定の角度範囲θRより大きいと判定すると(
図8のステップ#1 No)、自動走行制御部44は、第2条件として、植付機構22が駆動されているか否かを判定する(
図8のステップ#3)。なお、第2条件として、自動走行制御部44は、作業操作レバー11が操作されたか否かを判定しても良い。また、自動走行制御部44は、作業操作レバー11により、苗植付装置3が下降されたにもかかわらず、第1条件が満足されていない場合、情報端末5、積層灯24、およびボイスアラーム発生装置25の少なくともいずれかを介して、角度θが所定の角度範囲θRより大きい旨を報知させても良い。この報知を契機として、作業者(運転者)は、植付機構22の状態、フロート15の周辺の状態等を確認したうえで、必要に応じて、苗植付装置3を下降させた作業操作レバー11をさらに操作して、植付機構22を駆動させる。なお、第2条件が作業操作レバー11により植付機構22を駆動させる操作が行われることとする場合、作業操作レバー11に設けられたセンサ(図示せず)等により、このような操作が行われたことを検知する構成とすることができる。
【0064】
自動走行制御部44は、第2条件が満足していると判定すると(
図8のステップ#3 Yes)、自動作業走行を開始して機体1を発進させ(
図8のステップ#2)、第2条件が満足していないと判定すると(
図8のステップ#3 No)、自動作業走行における機体1の発進を行わず、第1条件または第2条件が満足されるまで待機する。
【0065】
このように、フロート15の水平面15aと圃場の泥面と平行な面とのなす角度θが所定の角度範囲θR以内(第1条件)となっていない場合であっても、手動操作により植付機構22を駆動させる(第2条件)ことにより自動作業走行において機体1を発進させることができる。そのため、作業状況に応じて、自由度の高い発進条件により、自動作業走行において機体1を発進させることができる。
【0066】
また、苗植付装置3を下降させる操作具と、植付クラッチ23を伝動状態にして植付機構22を駆動させる操作具とを共通の操作具である作業操作レバー11とすることにより、操作具の数を少なくし、1つの操作具を続けて操作することにより、第1条件および第2条件の両方を満足させることができ、操作性を向上させることができる。
【0067】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態において、圃場に、所定の領域である特定領域が設けられても良い。この場合、特定領域においては、第1条件が成立していなくても、第2条件が成立することにより、自動走行が開始される。さらに、圃場の特定領域以外の領域においては、第1条件および第2条件の両方が成立することにより、自動走行が開始されても良い。
【0068】
特定領域は、外側周回経路ORLにおける圃場の角部等の進行方向が変更される領域とされても良いが、外側周回経路ORLの全体が特定領域とされても良い。さらに、特定領域は、圃場内と畦RIとの両方にまたがる境界領域等の任意の領域であっても良い。
【0069】
このような構成により、圃場や作業の状況に応じて、適切な発進条件を用いることができ、自動作業走行を適切な発進条件で開始することができる。
【0070】
(2)上記各実施形態において、苗植付装置3を下降させる操作具と、植付クラッチ23を伝動状態にして植付機構22を駆動させる操作具とが共通の操作具である作業操作レバー11である構成に限定されず、それぞれが別々の操作具であっても良い。
【0071】
これにより、操作具の構成の自由度が向上し、運転部14における操作具の配置構成を容易に最適化することができる。
【0072】
(3)上記各実施形態において、制御ユニット40の一部または全部は、機体1に設けられる構成に限らず、情報端末5または、機体1と通信可能に機体1の外部に設けられる管理コンピュータ等に設けられても良い。
【0073】
これにより、田植機本体の機能を最小限にとどめ、田植機を簡素の構成とすることができる。
【0074】
(4)上記各実施形態において、制御ユニット40は上記のような機能ブロックから構成されるものに限定されず、任意の機能ブロックから構成されても良い。例えば、制御ユニット40の各機能ブロックはさらに細分化されても良く、逆に、各機能ブロックの一部または全部がまとめられても良い。また、制御ユニット40の機能は、上記機能ブロックに限らず、任意の機能ブロックが実行する方法により実現されても良い。また、制御ユニット40の機能の一部または全部は、ソフトウエアで構成されても良い。ソフトウエアに係るプログラムは、任意の記憶装置に記憶され、制御ユニット40が備えるCPU等のプロセッサ、あるいは別に設けられたプロセッサにより実行される。
【0075】
(5)上記各実施において、作業機構は、苗を植え付ける植付機構22に限らず、籾を播種する播種機構や薬剤を散布する薬剤散布機構等の、対地作業として農業資材を圃場に供給する各種の作業機構であっても良い。同様に、作業装置は苗植付装置3に限らず、播種装置や薬剤散布装置18であっても良い。また、水田作業機は、田植機に限らず、播種機や薬剤散布機等の地作業として農業資材を圃場に供給する各種の水田作業機であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、自動走行が可能な田植機をはじめ、各種の水田作業機に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 機体
3 苗植付装置(作業装置)
11 作業操作レバー(操作具)
15 フロート
22 植付機構(作業機構)
42 機体位置算出部
44 自動走行制御部