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▶ ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィアの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】がんを治療するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240802BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20240802BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240802BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K38/48
A61P35/00
A61P35/02
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021529792
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 US2019063594
(87)【国際公開番号】W WO2020112991
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】62/771,869
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/796,959
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/893,492
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリック イアン
(72)【発明者】
【氏名】シュウ マーガレット エム
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】HENRICH, I. et al.,J Immunother Cancer,2017年,Vol. 5, Suppl. 2,pp. 223-224
【文献】ISLAM, M.A. et al.,Biomater Sci,2015年,Vol. 3,pp. 1519-1533
【文献】SAHIN, U. et al.,Nat Rev Drug Discov,2014年,Vol. 13,pp. 759-780
【文献】AVCI-ADALI, M. et al.,J Vis Exp,2014年,Vol. 93, Article No. e51943,pp. 1-11
【文献】HENRICH, I.C. et al.,Mol Cancer Res,2018年08月,Vol. 16, No. 12,pp. 1834-1843
【文献】HENRICH, I. et al.,J Immunother Cancer,2016年,Vol. 4, Suppl. 1,pp. 118-120
【文献】HENRICH, I. et al.,Clin Cancer Res,2018年01月,Vol. 24, Suppl. 2,Abstract No. PR08
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 48/00
A61K 38/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを治療するための医薬組成物であって、ユビキチン特異的プロテアーゼ6(USP6)活性を増加させる薬剤を含み、前記薬剤がUSP6をコードする核酸分子であり、前記USP6をコードする核酸分子がmRNAである医薬組成物
【請求項2】
前記組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記USP6をコードする核酸分子が、in vitroで転写されたUSP6 mRNAである、請求項に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記mRNAが5'キャップを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記5’キャップがアンチリバースキャップアナログ(ARCA)である、請求項に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記mRNAがポリアデニル酸テールを含む、請求項のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記ポリアデニル酸テールが100~150個のアデノシンを含む、請求項に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記mRNAが、少なくとも1つのシュードウリジンおよび/または5-メチルシチジンを含む、請求項のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項9】
ウリジンの少なくとも40%がシュードウリジンで置換されており、シチジンの少なくとも40%が5-メチルシチジンで置換されている、請求項のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記mRNAが、アンチリバースキャップアナログ(ARCA)および100~150個のアデノシンのポリアデニル酸テールを含み、ウリジンの少なくとも40%がシュードウリジンで置換され、シチジンの少なくとも40%が5-メチルシチジンで置換されている、請求項に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記mRNAが3’UTRを欠く、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
免疫療法と組み合わせて投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項13】
インターフェロン(IFN)と組み合わせて投与される、請求項に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記IFNがIFNβである、請求項13に記載の医薬組成物
【請求項15】
前記がんがユーイング肉腫である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項16】
前記がんが、膵臓がん、子宮頸部がん、肺がん、卵巣がん、または膀胱がんである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項17】
前記がんが急性骨髄性白血病である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記薬剤が脂質ナノ粒子内に含まれている、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項19】
前記脂質ナノ粒子が、ターゲティング部位またはナノボディを含む、請求項18に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年11月27日に出願された米国仮特許出願第62/771,869号、2019年1月25日に出願された米国仮特許出願第62/796,959号、および2019年8月29日に出願された米国仮特許出願第62/893,492号に対して、35 U.S.C. §119(e)に基づく優先権を主張するものである。 前述の出願は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所が授与する助成番号TG 32GM008076、CA178601、CA168452の政府支援を受けて行われた。政府は本発明について一定の権利を有する。
【0003】
本出願は、抗がん療法の分野に関するものである。より具体的には、本発明はがんを治療するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
本発明が関連する技術の状況を説明するために、いくつかの出版物や特許文書が本明細書中に引用されている。これらの引用文は、参照することにより、すべてが記載されているかのように、本明細書に援用される。
【0005】
免疫療法はがんの治療に革命をもたらし、これまで難治性であった悪性腫瘍の患者に希望を与えている。しかし、すべての患者が近年の免疫療法の進歩の恩恵を受けているわけではない。メラノーマ、腎細胞がん、非小細胞肺がんでは有望な結果が得られているものの、固形がんのかなりの部分はほとんどの免疫療法に適していない。膵管腺がん(PDAC)は、毎年~53,000人のアメリカ人が罹患し、従来の治療法に反応しないこともあって、5年生存率は~15%という悲惨な状況にある(Zhang, et al. (2018) Cancers (Basel) 10(2):E39; Adamska, et al. (2018) Adv. Biol. Regul.,68:77-87)。有効な治療法がないことから、免疫療法の研究が進められてきたが、その結果は残念なものであった。PDACの免疫抑制微小環境は、効果的な免疫療法に対する重要な障壁と考えられている。PDACは一般的に「コールド」がんと呼ばれ、細胞障害性Tリンパ球(CTL)などの免疫エフェクター細胞が腫瘍から排除されることが多い。さらに、なんとか侵入できたCTLは、しばしば不活性化される(Johnson, et al. (2017) Clin.Cancer Res., 23(7):1656-69)。浸潤した免疫細胞は、Tregs、M2極性マクロファージ、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)など、不均一ではあるが、非常に腫瘍化しやすい組み合わせとなっている。従来の免疫療法を成功させるためには、新たなアプローチとして、まず抗腫瘍免疫エフェクター細胞の浸潤を増やし、高度に免疫抑制された微小環境を克服する必要がある。
【0006】
免疫原性治療薬のデリバリーは、標的病変の退縮を引き起こすだけでなく、前臨床モデルと複数のがんにおける臨床試験の両方で、遠隔転移のクリアランスにつながることが示されている(Sagiv-Barfi, et al. (2018) Sci. Transl. Med., 10:12)。腫瘍に対する免疫原性反応を誘発するために、ベクターは、CXCL10(Liu, et al. (2002) Cancer Gene Ther., 9(6):533-42)、CCL5 (Lavergne, et al. (2004) J. Immunol., 173(6):3755-62)、またはNY-ESO-1のようながん-精巣抗原 (Nishikawa, et al. (2006) J. Clin. Invest., 116(7):1946-54) などのさまざまな免疫賦活因子を過剰に発現するように設計されている。しかし、薬剤の単独療法ががんではほとんど成功しないように、単一の因子の産生が持続的な反応につながるとは考えられない。したがって、がんに対する持続的な免疫反応を促進するためには、複数の免疫誘導経路の過剰発現が必要となる。以上のことから、免疫治療法の改善が必要であることは明らかである。
【発明の概要】
【0007】
本発明によれば、対象において、がん、特に「コールド」がんまたはCD8+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)および/または他の免疫賦活特性を欠くがんを阻害または治療する方法が提供される。特定の実施形態では、方法は、ユビキチン特異的プロテアーゼ6(USP6)の活性および/または発現を増加させる薬剤を対象に投与することを含む。薬剤は、薬学的に許容される担体をさらに含む組成物の一部として投与できる。特定の実施形態では、薬剤は、腫瘍内に、全身に、および/または腫瘍部位に投与される。特定の実施形態では、USP6活性を増加させるための薬剤は、USP6タンパク質またはUSP6をコードする核酸分子(例えば、in vitroで転写されたUSP6 mRNA)である。本発明の方法は、免疫療法の投与をさらに含み得る。特定の実施形態では、治療されるがんは、ユーイング肉腫(ES)、急性骨髄性白血病(AML)、子宮頸部、肺、卵巣、膀胱、または膵臓のがんである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1A~1Cは、USP6がin vitroのES細胞および原発性腫瘍においてIFN応答を誘導することを示している。図1A:原発性ユーイング肉腫のデータセット(GSE7007およびGSE37371)のサンプルをUSP6の発現レベルでランク付けし、最高レベルの5サンプルと最低レベルの5サンプルを比較してGSEAを行った。また、ドキシサイクリン(dox)を投与したUSP6/RD-ESと投与しなかったUSP6/RD-ESについてRNA配列決定を行い、続いてGSEAによるパスウェイ解析を行った。また、Illumina Human HT12 v4.0 BeadChipを利用して結節性筋膜炎のデータセットについてもGSEAを行った。このプラットフォームには、USP6に特異的な1つのUSP6プローブが含まれている。生殖細胞腫瘍のデータセットのGSEA(セミノーマと卵黄嚢腫瘍の比較)も提供されている。図1B:記載のRD-ES細胞株をドキシサイクリンの存在下で一晩培養した後、記載の通りにブロッティングした。USP6株はプールされた集団を表し、USP6(High)とUSP6(Med)はクローン性である。図1C:生殖細胞腫瘍のデータセットGSE10615(U133Aマイクロアレイ)のサンプルにおいて、USP6の相対的なレベルを評価した。
【0009】
図2図2A-2Bは、USP6がシグナル伝達を促進し、I型およびII型IFNに対するユーイング肉腫細胞の感受性を高めることを示している。図2A:親細胞またはUSP6/RD-ES細胞をドキシサイクリンで一晩培養した後、IFNα(左)またはIFNγ(右)(1,000U/mL)で示した時間だけ処理し、ブロットした。図2B:細胞をドキシサイクリンで一晩処理した後、示した用量のIFNβで0.5時間または8時間処理した。STAT3はローディングコントロールとして使用した。
【0010】
図3図3A-3Fは、USP6がI型IFNによるアポトーシスに対してユーイング肉腫細胞を感受性にすることを示している。USP6/RD-ユーイング肉腫細胞をドキシサイクリン(dox)の非存在下または存在下で培養した後、示されたIFNを1,000U/mLで24時間処理した。細胞は、ブロッティング(図3A)、またはトリパンブルー排除アッセイで生存率をモニターした(n=3)(図3B)。 図3C:細胞をドキシサイクリンで培養した後、1,000U/mLのIFNβで18時間または24時間処理した。アポトーシスはアネキシンV染色で定量化した(n=4)。図3D:USP6(Med)、USP6(High)、および親のRD-ES細胞をドキシサイクリン(dox)とIFNβで一晩処理した後、示した通りにブロッティングした。矢印は切断されたPARP産物を示す。図3E:ドキシサイクリン(dox)の非存在下または存在下でUSP6/TC-71細胞を培養した後、100U/mLの示したIFNで24時間処理した。図3F:細胞をドキシサイクリン(dox)で培養した後、100U/mLの示したIFNで24時間処理した。アポトーシスはアネキシンV染色で定量化した(n=3)。ERKまたはp65をローディングコントロールとして使用した。
【0011】
図4図4A-4Fは、IFNβ誘導アポトーシスがJak1-STAT1/STAT3を必要とし、外因性および内因性の死経路を伴うことを示している。図4Aおよび4B:50μmol/Lの汎カスパーゼ阻害剤ZVAD(pan)またはカスパーゼ8阻害剤IETDの非存在下または存在下で、細胞をドキシサイクリン(dox)およびIFNβで一晩処理した。ライセートを記載の通りにブロッティングした。図4Cおよび4D:ドキシサイクリン(dox)およびIFNβで一晩処理した細胞を、表示したカスパーゼ阻害剤の存在下で、カスパーゼ-9(n=6)およびカスパーゼ-3/7活性を測定した(n=3)。活性は未処理のUSP6(High)/RD-ESでの活性に対する倍数として計算した。図4E:USP6(High)/RD-ESを、汎Jak阻害剤(1μmol/L)またはNFκB阻害剤PS-1145(15μmol/L)の存在下で、ドキシサイクリン(dox)およびIFNβで一晩処理した。図4F:CRISPR遺伝子編集により、Jak1、STAT1、またはSTAT3を削除した。細胞をドキシサイクリンとIFNβで一晩処理した後、示したようにブロットした。矢印は切断されたPARP産物を示し、ERKはローディングコントロールとして用いた。
【0012】
図5図5Aー5Gは、IFNβがTRAILを相乗的に産生することで、USP6陽性のユーイング肉腫細胞のアポトーシスを誘導することを示している。図5Aおよび5B:細胞をドキシサイクリン(dox)および示されているようにIFN(1,000U/mL)で24時間処理した。TRAIL mRNAレベルをqRT-PCRで定量し、未処理のRD-ESと比較した誘導倍率を決定した。図5C:示した細胞をドキシサイクリン(dox)とIFNβ(1,000U/mL)で24時間処理し、示した通りにブロットした。図5Dおよび5E:示された細胞を、増加する量(1.0、1.5、または2.0mg)の抗TRAILまたはコントロールIgGの存在下で、IFNβ(1,000U/mL)またはreTRAIL(200ng/mL)で一晩処理した。図5Dではサンプルをブロッティングし、図5EではアネキシンVの染色を行った。図5F:CRISPRを用いてUSP6/RD-ES細胞からTRAILを枯渇させた。示されているように細胞を一晩処理し、示されているようにブロットした。図5G:示されたユーイング肉腫細胞株は、示されているようにブロットされた。ERKまたはp65をローディングコントロールとして使用した。
【0013】
図6図6Aー6Dは、I型IFNがTRAILおよびカスパーゼ媒介メカニズムを介してUSP6のダウンレギュレーションを誘導することを示している。図6A-6C:USP6/RD-ES細胞は、ドキシサイクリン(dox)と、示された用量のTRAILまたはIFNα(1,000U/mL)で示された時間処理された。図6Cでは、TRAILを10ng/mLで使用し、示されているように汎カスパーゼ阻害剤ZVAD(pan)またはカスパーゼ-8阻害剤(8)を添加した。STAT3またはp65をローディングコントロールとして使用した。図6D:USP6陽性ユーイング肉腫細胞のIFN誘導アポトーシスのメカニズム:Jak1レベルは、USP6を介した脱ユビキチン化によってアップレギュレートされ、細胞をIFNに大きく感作させる。I型IFN、特にIFNβはTRAILの転写を誘導し、TRAILはその受容体DR4に結合することでアポトーシスを誘導する。次に、TRAIL/DR4は、カスパーゼの活性化を通じてUSP6のダウンレギュレーションを引き起こす。
【0014】
図7図7A:ドキシサイクリンプロモーター下のUSP6は、J:NUマウスの腫瘍形成細胞株293Tの増殖を減少させる。図7B:USP6は、J:NUマウスのユーイング肉腫における免疫細胞浸潤(CD45+)を増強する。図7C:USP6は、ヌードマウスのユーイング肉腫異種移植片の分析に基づいて、単球由来系統の腫瘍浸潤を刺激する。図7D:USP6は、自然免疫系を保持しているヌードマウスの腫瘍増殖を遅らせ、生存率を高める。図7E:最大腫瘍体積までの時間と個々の増殖曲線のグラフ。図7F:USP6の高発現は、示されたがんの生存率の向上と関連している。
【0015】
図8図8Aは、USP6発現の高低に基づく急性骨髄性白血病患者の生存率を示すグラフである。図8Bは、USP6発現の高低に基づくユーイング肉腫患者の生存率を示すグラフである。
【0016】
図9図9は、ユーイング肉腫細胞株TC-71(上)とRD-ES(下)におけるUSP6発現を伴う(+Dox)または伴わない(-Dox)TRAIL-R1とTRAIL-R2の発現を示している。表面発現はフローサイトメトリーで測定した。
【0017】
図10図10は、ユーイング肉腫細胞株CHLA10、RD-ES、TC-71におけるCD54とHLA-ABCの発現の増加を示している。表面発現はフローサイトメトリーで測定した。
【0018】
図11図11は、肉腫細胞株RD-ESにUSP6を添加した(+Dox)場合と添加しない(-Dox)場合のナチュラルキラー(NK)細胞傷害性アッセイのグラフである。E:Tは、エフェクター(NK細胞):ターゲット(腫瘍細胞)の比率を表す。
【0019】
図12図12は、USP6を発現させるためのUSP6プラスミドマップの模式図である。提示されたチミジン配列は配列番号6であり、提示されたポリAテールは配列番号7である。
【0020】
図13図13は、ユーイング肉腫細胞(A673)および急性骨髄性白血病(AML)細胞(THP-1およびU937)におけるUSP6 mRNAの倍数変化を示すグラフである。細胞を無処理(-)、コントロール(cLuc)で処理、またはUSP6またはUSP6(CS/A6)のmRNAで処理した。
【0021】
図14図14は、ユーイング肉腫細胞(A673)および急性骨髄性白血病(AML)細胞(THP-1およびU937)におけるCXCL9 mRNA(上段)またはTRAIL mRNA(下段)の倍数変化を示すグラフである。細胞を無処理(-)、コントロール(cLuc)で処理、またはUSP6またはUSP6(CS/A6)のmRNAで処理した。
【0022】
図15図15は、増加する量のUSP6 mRNAを導入したHeLa細胞における、HAタグ付きUSP6タンパク質の量を示すグラフである。また、図15は、USP6のmRNA導入後の293T細胞におけるUSP6、CD54、MHCクラスI、およびDR5のタンパク質発現の時間経過を示すグラフである。
【0023】
図16図16Aは、USP6 mRNA導入後のNB4またはU937 AML細胞におけるCD54およびMHCクラスIの発現を示すグラフである。USP6のmRNAが存在すると、未処理の細胞や、変異体のUSP6(CS)とUSP6(A6)、あるいは二重変異体のUSP6(CS/A6)で処理した細胞と比較して、CD54とMHCクラスIの表面発現が増加していた。図16Bは、USP6 mRNA導入後のTHP-1またはU937 AML細胞におけるDR5およびMHCクラスIの発現を示すグラフである。
【0024】
図17図17は、無処理(NT)、コントロール(cLuc)で処理、またはUSP6もしくはUSP6(CS/A6)で処理したHeLa、ユーイング肉腫細胞(A673)および急性骨髄性白血病(AML)細胞(THP-1)における死細胞の割合を示すグラフである。
【0025】
図18図18は、ユーイング肉腫細胞(A673)におけるCXCL9、CXCL10、CCL5、およびTRAIL mRNAの倍数変化を示すグラフである。細胞は無処理(-)、コントロール(cLuc)で処理、またはUSP6 mRNAで処理した。
【0026】
図19図19は、表面のCD54、DR5、およびCD155が陽性の細胞の割合を示すグラフである。ユーイング肉腫細胞(A673)は、未処理またはUSP6 mRNAをトランスフェクトした後、抗腫瘍性表面受容体の表面発現判定に先立ち、USP6-またはUSP6+の集団に選別した。
【0027】
図20図20Aは、293Tにトランスフェクションした後の、様々なUSP6(Y162H)IVT mRNAコンストラクトまたはDNAコントロールの発現を示すグラフである。図20Bは、293Tにトランスフェクションした後の、酵素的に付加されたpolyAテールまたは定義されたpolyAテールまたはDNAコントロールのいずれかを有するUSP6(Y162H)IVT mRNAコンストラクトの発現を示すグラフである。図20Cは、酵素的に付加されたpolyAテールまたは定義されたpolyAテールまたはDNAコントロールのいずれかを有するUSP6(Y162H)IVT mRNAコンストラクトをトランスフェクションした後の293T細胞におけるCD54およびCD155の表面発現を示すグラフである。
【0028】
図21図21Aは、様々な細胞株におけるUSP6の発現を示すグラフである。細胞は、トランスフェクションしないか、またはUSP6(Y162H)IVT mRNA、USP6 IVT mRNA、もしくはUSP6(Y162H)DNAでトランスフェクションした。図21Bは、USP6(Y162H)IVT mRNA、USP6 IVT mRNA、またはUSP6(Y162H)DNAをトランスフェクションした後の、様々な細胞株の293TにおけるCD54およびCD155の発現を示すグラフである。NT:トランスフェクションされていない。
【0029】
図22図22は、未処理の細胞、またはUSP6 DNA、USP6 mRNA(未改変)、USP6 mRNA(改変ヌクレオチド)、cLuc mRNA(未改変)、またはcLuc mRNA(改変ヌクレオチド)をトランスフェクトした細胞におけるPARP発現のウェスタンブロットの画像を提供する。
【0030】
図23図23は、cLuc、USP6 mRNA、またはUSP6(CS/A6)mRNAをトランスフェクションした後のA673におけるUSP6、CXCL9、CXCL10、TRAIL、またはCCL5の発現を示すグラフである。
【0031】
図24図24は、IFNγ処理の有無にかかわらず、cLucまたはUSP6 mRNAをトランスフェクトしたTC-71細胞におけるUSP6、CXCL9、TRAIL、およびCXCL10のmRNAの発現を示すグラフである。NT:トランスフェクションされていない。
【0032】
図25図25は、USP6 mRNAまたはコントロールとしてcLucをトランスフェクトしたAML細胞株THP-1におけるUSP6、CXCL9、TRAIL、およびCXCL10 mRNAの発現を示すグラフである。トランスフェクション後、これらの細胞を1000U/mL IFNβまたは5ng/mL IFNγで24時間処理した。NT:トランスフェクションされていない。
【0033】
図26図26は、USP6 mRNAまたはコントロールとしてcLucをトランスフェクトしたAML細胞株U937におけるT17、CXCL9、TRAIL、およびCXCL10 mRNAの発現を示すグラフである。トランスフェクション後、これらの細胞を1000U/mL IFNβまたは5ng/mL IFNγで24時間処理した。NT:トランスフェクションされていない。
【0034】
図27図27は、USP6 mRNAまたはコントロールとしてcLucをトランスフェクションした後のAML細胞株THP-1における1日目、2日目、3日目のCXCL9、TRAIL、およびCXCL10 mRNAの発現を示すグラフである。
【0035】
図28図28は、cLucまたはUSP6のmRNAをトランスフェクトしたU937(左)またはTHP-1(右)細胞において、表面のMHCクラスI、DR5、CD155、およびCD54を発現する細胞の割合を示すグラフである。細胞はUSP6-(HA-)またはUSP6+(HA+)として選別された。NT:トランスフェクションされていない。
【0036】
図29図29は、USP6(CS/A6-)またはUSP6 mRNAをトランスフェクトしたNB4(左)またはU937(右)細胞において、表面のMHCクラスI、DR5、およびCD54を発現する細胞の割合を示すグラフである。細胞はUSP6-(HA-)またはUSP6+(HA+)として選別された。NT:トランスフェクションされていない。
【0037】
図30図30は、USP6 mRNAをトランスフェクトしたHeLa(左)またはA673(右)の細胞において、表面のMHCクラスI、DR5、DR4、およびCD54を発現する細胞の割合を示すグラフである。細胞はUSP6-(HA-)またはUSP6+(HA+)として選別された。NT:トランスフェクションされていない。
【0038】
図31図31Aー31Cは、USP6 mRNA、cLuc mRNA、またはUSP6(CS/A6-)mRNAをトランスフェクトしたHeLa(図31A)、A673(図31B)、およびTHP-1(図31C)の死細胞の割合を示すグラフである。NT:トランスフェクションされていない。
【0039】
(発明の詳細な説明)
本明細書では、ユビキチン特異的プロテアーゼ6(USP6)遺伝子が、致死率の高い小児悪性腫瘍であるユーイング肉腫において、強力な抗腫瘍性を有することが示されている。ユーイング肉腫細胞のUSP6の高発現は、免疫賦活性サイトカインおよびケモカインの分泌を誘導し、腫瘍免疫の浸潤を強固にし、免疫細胞を抗腫瘍性の表現型に分化させる。USP6はまた、ナチュラルキラー細胞やCD8+Tリンパ球などの免疫エフェクター細胞による腫瘍細胞の認識と殺傷を促進する受容体の表面発現を増加させるきっかけとなる。具体的には、I型のIFNはプロ・アポトーシス・リガンドであるTRAILの相乗的な発現を誘導し、USP6+ユーイング肉腫細胞を選択的に殺傷する。IFNはまた、USP6+ユーイング肉腫細胞において、CXCL9/10/11やCCL5などの多数の抗腫瘍形成性ケモカインの発現の亢進を誘発する。これらの細胞からの馴化培地は、in vitroで初代単球および活性型CD4+/CD8+T細胞の遊走を促進する。さらに、USP6は、MHC Iの表面発現を増加させる。USP6+ ES細胞の異種移植を受けたマウスでは、無イベント生存期間および終末腫瘍塊までの時間が延長された。USP6+の腫瘍では、免疫の浸潤も劇的に亢進していた。最後に、初代ユーイング肉腫サンプルのトランスクリプトーム解析により、USP6の高い発現が生体内の免疫浸潤遺伝子シグネチャーと関連していることが明らかになった。
【0040】
さらに、USP6の高い発現は、肉腫だけでなく、膵臓管腺がん、膀胱がん、子宮頸部がん、肺腺がんなど、致死率の高いがんの肉腫においても、生存率の劇的な上昇と関連している。実際、USP6の発現は正常組織では非常に制限されている。しかし、USP6の発現上昇は、肉腫を含むいくつかの小児および成人のがんで見られる。ユーイング肉腫患者のうち、約25%がUSP6の発現を増加させていることがわかった。驚くべきことに、USP6の発現が多い肉腫患者は、発現が少ない患者と比較して、無イベント生存率および全生存率が劇的に向上した。
【0041】
このように生存率が高いのは、USP6の強力な免疫賦活作用によるものである。例えば、USP6は、血管新生を減少させ、主要な抗腫瘍免疫エフェクター細胞の移動/活性化を促進することが知られている多くの抗腫瘍性サイトカインの分泌を誘導する。また、USP6は、腫瘍細胞の免疫認識に関わる重要なサイトカインであるインターフェロン(IFN)の免疫調節作用を細胞に感応させる。IFNは、USP6を発現している腫瘍細胞を直接殺すこともできる。USP6を過剰に発現している腫瘍では、免疫細胞の浸潤も亢進している。最後に、USP6は、免疫細胞の認識や腫瘍の除去に関わるいくつかの重要な受容体の表面発現を増加させる。例えば、USP6を発現している腫瘍細胞は、MHCクラスIやナチュラルキラー細胞による細胞傷害に関与するいくつかのリガンドを増強している。
【0042】
本明細書に記載されているデータは、USP6の活性を調節することが、悪性腫瘍と闘うための有効な治療法であることを示している。in vivoのデータは、腫瘍細胞内のUSP6発現および/または活性を人為的に増加させると、マウスの腫瘍増殖が減少し、生存率が向上することを示し、USP6発現の増加が抗腫瘍形成性であるという概念実証データを提供する。USP6の高い発現を示すがんの多くは、チェックポイント阻害剤や改変T細胞などの新しいクラスの免疫療法を含む現在の治療法に抵抗性を示している。
【0043】
具体的には、PDACはアグレッシブながんであり、現在利用できる治療法はほとんどない。近年、他の腫瘍では進歩しているが、PDACでは免疫抑制的な微小環境のため、免疫療法は広く成功していない。PDACにおいてUSP6を一時的に過剰発現させることで、通常は免疫学的に「コールド」な腫瘍(すなわち、CD8+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)やその他の免疫賦活性の特徴を欠く)と考えられているものが、免疫療法の可能性を最大限に発揮できる腫瘍へと変化する。実際、上述したように、USP6は、IFNシグナル伝達への影響を介して、「ホット」な腫瘍微小環境と腫瘍の除去を引き起こす能力により、患者の転帰を改善する。
【0044】
注目すべきは、Jak1がPDACで高発現していることである。従って、PDACは、本明細書に記載のUSP6の作用機序に基づいて、一過性のUSP6の過剰発現による免疫賦活効果を特に受けやすいと考えられる。USP6の活性を高めることで、PDACの免疫抑制的な微小環境を逆転させ、抗腫瘍エフェクター細胞のリクルートを促進できる。
【0045】
本発明によれば、がんの阻害(例えば、減少、遅延など)、予防、および/または治療のための方法が提供される。方法は、特にがん細胞または腫瘍および/または腫瘍微小環境において、USP6の発現および/または活性を増加させることを含む。特定の実施形態において、本方法は、USP6タンパク質をがん細胞または腫瘍に、および/または腫瘍微小環境に投与することを含む。特定の実施形態において、本方法は、USP6をコードする核酸分子(例えば、mRNA)をがん細胞または腫瘍に、および/または腫瘍微小環境に投与することを含む。USP6をコードする核酸分子は、例えば、ベクター、ウイルスベクター、ナノ粒子、リポソーム、ミセルなどで投与できる。特定の実施形態では、内因性のUSP6の発現または活性を薬理学的に増強することにより、USP6の発現および/または活性を増加させる。特に、外因性の核酸分子および/またはタンパク質の送達は、対象の免疫活性化を有益に誘導することが知られている(例えば、送達された薬剤はアジュバントとして機能する)。本発明の薬剤は、少なくとも1つの担体(例えば、薬学的に許容される担体)を含む組成物で対象に投与してもよい。
【0046】
特定の実施形態では、USP6の活性/発現が一過性に増加する。一過性発現させることで、非腫瘍組織におけるUSP6の構成的なオフターゲット発現の可能性を回避できる。USP6の活性/発現が一時的に増加することで、患者の免疫系を「ジャンプスタート」させることができ、治療効果が期待できる。さらに、USP6を一過性に発現させることで、必要に応じて薬剤を腫瘍やがんの細胞に繰り返し投与できる。特定の実施形態では、対象に投与されるUSP6をコードする核酸分子は、RNA分子(例えば、mRNA)であり、これにより、プラスミドまたはウイルスベクターを使用した場合に起こり得る宿主ゲノム内の統合を回避できる。
【0047】
特定の実施形態では、対象に投与されるUSP6をコードする核酸分子は、mRNA、特にin vitro transcribed(IVT)mRNAである。特定の実施形態では、mRNAは成熟したRNAであり、かつ、イントロンを欠いている。修飾されていないmRNAは、一般的に、in vitroおよびin vivoでの安定性、翻訳、および取り込み(uptake)が悪い (Islam, et al. (2015) Biomater. Sci., 3(12):1519-33; Sahin, et al. (2014) Nat. Rev. Drug Discov., 13(10):759-80)。しかし、最近の進歩により、有効性を高めるmRNAの改変が発見された (参照、例えば Loomis et al. (2018) Bioconjugate Chem., 29(9):3072-3083)。mRNAは、以下の特徴のうち1つまたは複数(またはすべて)で改変されていてもよいし、Sahin, et al (Nat. Rev. Drug Discov. (2014) 13(10):759-80)に記載のように改変されていてもよい。
【0048】
最初に、mRNAは細胞内で翻訳されるために必要な5’と3’エレメントを持っている。特定の実施形態では、mRNAはポリAテールを含む。ポリアデニル酸テールは、テールに存在するアデニル酸の数を変えることができる(Steinle, et al. (2017) Stem Cells 35:68-79)。特定の実施形態では、ポリAテールは、50~500塩基、100~250塩基、100~200塩基、100~175塩基、120~150塩基、100~150塩基、110~130塩基、または約120塩基を有する。
【0049】
mRNAは、3’UTRを含んでいてもよいし、3’UTRを欠いていてもよい。特定の実施形態では、mRNAは3’UTRを欠いている。特定の実施形態では、mRNAは、USP6 3’UTRを含む。特定の実施形態では、mRNAは、mRNAの安定性および/または翻訳を向上させる3’UTRを含む。例えば、mRNAは、βグロビン3’UTR(例えば、ヒト)を含んでいてもよい。
【0050】
特定の実施形態では、mRNAは5’キャップ、特にARCA(Anti-Reverse Cap Analog)を含む。mRNAの強力な翻訳は、機能的な5’キャップ構造によって助けられる。例えば、mRNA産物は、転写され、5’キャップで改変され、確立されたプロトコルを用いて精製できる(Islam, et al.(2015)Biomater.Sci., 3(12):1519-33; Sahin, et al. (2014) Nat. Rev. Drug Discov., 13(10):759-80; Holtkamp, et al. (2006) Blood 108(13):4009-17)。HiScribeTM T7 ARCA (Anti-Reverse Cap Analog) mRNA Kit (New England BioLabs; Ipswich, MA)などの市販のキットを使用して、キャップ付きおよびテール付きのmRNAを生成できる。5’キャップの例としては、7-メチルグアノシン(m7Gおよびm7GpppGキャップ類似体(例えば、ARCA)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない(Wolff, et al. (1990) Science 247:1465-1468; Malone, et al. (1989) Proc. Natl Acad. Sci., 86:6077-6081)。任意にホスホロチオエートを含む抗リバースキャップ類似体(ARCA、m2 7,3'-OGpppG)は、様々な細胞種で優れた翻訳効率を示す (Stepinski, et al. (2001) RNA 7:1486-1495; Jemielity, et al. (2003) RNA 9:1108-1122; Mockey, et al. (2006) Biochem. Biophys. Res. Commun. 340:1062-1068; Rabinovich, et al. (2006) Hum. Gene Ther. 17:1027-1035; Grudzien-Nogalska, et al. (2007) RNA 13:1745-1755; Kowalska, et al. (2008) RNA 14:1119-1131; Kuhn, et al. (2010) Gene Ther. 17:961-971)。
【0051】
プロタミンを結合させたmRNAは、臨床の場で幅広く活躍しており(Weide, et al. (2009) J. Immunother., 32(5):9)、また、血清中で速やかに(2時間未満)分解されるという利点もあり、標的細胞におけるカーゴの免疫賦活効果を高めることができる (Islam, et al. (2015) Biomater. Sci., 3(12):1519-33; Sahin, et al. (2014) Nat. Rev. Drug Discov., 13(10):759-80)。第I/II相試験において、腫瘍全体にオンコジーンを含むIVT mRNAを注入することは、安全で効果的であることが示されている (Weide, et al. (2008) J. Immunother., 32(2):7)。他の改変されたIVT mRNAの安定性から、改変されたUSP6 mRNAの半減期は数日から1週間の範囲になると考えられる。
【0052】
USP6 mRNAのポリAテールを改変し、5’末端をキャッピングすることで安定性と発現が高まるが、コーディング領域、5’および3’UTRを改変すること、および/または改変ヌクレオシドを使用することも可能である(Sahin, et al. (2014) Nat. Rev. Drug Discov., 13(10):759-80; Steinle, et al. (2017) Stem Cells, 35:68-79)。 特定の実施形態では、mRNAは、少なくとも1つの改変または非天然(例えば、A、C、U、またはGではない)の塩基を含む (Limbach et al. (1994) Nucleic Acids Res. 22(12):2183-2196)。 特定の実施形態では、mRNAは、改変または非天然(例えば、A、C、U、またはGではない)塩基のみを含む。特定の実施形態では、mRNAはシュードウリジン(Ψ)および/または5-メチルシチジン(例えば、ウリジンおよびシトジンのそれぞれの代わりに)を含む。特定の実施形態では、mRNAのウリジンのうち、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、またはそれ以上(すべて(100%)を含む)がシュードウリジンで置換されている。特定の実施形態では、mRNAのウリジンの約30%~約70%、約40%~約60%、約45%~約55%、または約50%がシュードウリジンに置き換えられている。特定の実施形態では、mRNAのシトジンのうち、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、またはそれ以上(すべて(100%)を含む)が5-メチルシトジンで置換されている。特定の実施形態では、mRNAのシトジンのうち、約30%~約70%、約40%~約60%、約45%~約55%、または約50%が5-メチルシトジンで置換されている。他の改変されたヌクレオシドとしては、限定されないが、5-メトキシウリジン、5-メチルウリジン、N1-メチルシュードウリジン、5-ヒドロキシメチルシチジン、N1-エチルシュードウリジン、5-メトキシシチジン、5-カルボキシメチルエステルウリジン、2-チオウリジン、7-メチルグアノシン、N6-メチルアデノシンなどがある。
【0053】
また、mRNAはカプセル化されていてもよい。カプセル化されたIVT mRNAは、いくつかの臨床試験において、安全であり、多くのタンパク質を短期間で発現させることができることが示されている。特定の実施形態では、IVT mRNAは、ナノ粒子、リポソーム、またはミセル(例えば、脂質ナノ粒子またはミセル)の中に含まれている。特定の実施形態では、カプセル化されたIVT mRNAは、腫瘍抗原(例えば、他の細胞と比較して腫瘍またはがんに優先的に発現する表面タンパク質)を結合する結合薬剤を使用することによって、治療対象の腫瘍またはがんに向けられてもよい。例えば、ナノ粒子、リポソーム、またはミセルは、腫瘍抗原(例えば、CD13)に特異的な結合薬剤、特に抗体(例えば、腫瘍抗原に免疫学的に特異的なもの)またはナノボディ (Bannas, et al., Front. Immunol. (2017) 8:1603) に連結されていてもよい。 注目すべきは、上述したように、血清中および細胞内におけるIVT mRNAの一過性の性質から、IVT USP6 mRNAは病原性を持たないと考えられることである。必要に応じて、投与量を減らしたり、安定性を低下させるためにmRNAを改変したりすることで、長期的な病原性を持つUSP6の発現を防ぐことができる。
【0054】
特定の実施形態では、USP6は哺乳類のものである。特定の実施形態では、USP6はヒト上科のものである。特定の実施形態では、USP6はヒトのものである。USP6のアミノ酸および核酸配列は、Gene ID: 9098およびGenBank Accession Nos. NM_001304284.1, NP_001291213.1, NM_004505.3, NP_004496.2で提供されている。USP6のアミノ酸配列の例としては以下がある:
【0055】
USP6をコードする核酸配列の例としては、以下がある(4221ヌクレオチド):
特定の実施形態では、USP6をコードする核酸配列は、配列番号2のRNAバージョンである。
【0056】
特定の実施形態では、本発明の方法は、化学療法薬剤および/または免疫療法を対象に投与することをさらに含む。免疫療法は、USP6の活性/発現を高めるための薬剤の前、後、および/または同時に投与してもよい。免疫療法の例としては、チェックポイント阻害剤、インターフェロン(IFN)、I型のIFN(例えば、IFNαおよび/またはIFNβ)、IFNγ、養子縁組T細胞療法、改変T細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。チェックポイント阻害剤(例えば、抗PD-1Lまたは抗CTLA4)は、免疫賦活剤とのアジュバントとして使用すると、免疫応答を劇的に向上させる(Sagiv-Barfi, et al.Med., 10:12)。チェックポイント阻害剤の例としては、限定されるものではないが、PD-1阻害剤(例えば、ペムブロリズマブ(pembrolizumab )(Keytruda(登録商標))やニボルマブ(nivolumab)(Opdivo(登録商標))などのPD-1に免疫学的に特異的な抗体、特にモノクローナル抗体);PD-L1阻害剤(例えば、アテゾリズマブ(atezolizumab)(テセントリク(Tecentriq)(登録商標))などのPD-L1に免疫学的に特異的な抗体、特にモノクローナル抗体);CTLA-4阻害剤(例えば、イピリムマブ(ipilimumab)(ヤーボイ(Yervoy)(登録商標)などのCTLA-4に免疫学的に特異的な抗体、特にモノクローナル抗体)などを含む。
【0057】
本発明の組成物および方法を用いて治療され得るがんとしては、これらに限定されないが、前立腺がん、結腸直腸がん、膵臓がん、子宮頸部がん、胃がん(胃がん、stomach cancer、gastric cancer)、子宮内膜がん、脳がん、膠芽腫、肝臓がん、膀胱がん、卵巣がん、精巣がん、頭頸部がん、咽喉がん、皮膚がん、メラノーマ、基底がん、中皮腫、リンパ腫、白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、食道がん、乳房がん、横紋筋肉腫、肉腫、肺がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、副腎がん、甲状腺がん、腎がん、骨がん、神経内分泌がん、絨毛がんなどを含む。特定の実施形態では、がんが腫瘍を形成する。特定の実施形態では、がんは転移を伴う。特定の実施形態では、がんは子宮頚部がんである。特定の実施形態では、がんは肺がんである。特定の実施形態では、がんは膀胱がんである。特定の実施形態では、がんは卵巣がんである。特定の実施形態では、がんは、膵臓のがん(例えば、膵管腺がん)である。特定の実施形態では、がんはユーイング肉腫である。特定の実施形態では、がんは急性骨髄性白血病である。
【0058】
本発明の薬剤は、一般的に医薬製剤として患者に投与される。本明細書で使用される用語「患者」は、ヒト対象または動物対象を指す。これらの薬剤は、がんの治療のために、医師の指導のもとで治療的に使用できる。
【0059】
本発明の薬剤を含む医薬製剤は、水、緩衝生理食塩水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、油、洗剤、懸濁剤またはそれらの適切な混合物などの許容可能な媒体を用いて投与するために好都合に製剤化できる。選択された媒体中の薬剤の濃度を変化させてもよく、また、医薬製剤の望ましい投与経路に基づいて媒体を選択してもよい。従来の媒体や薬剤が投与される薬剤と相容れない場合を除き、医薬製剤への使用が考えられている。
【0060】
特定の患者に投与するのに適した本発明による薬剤の用量および投与レジメンは、医師が患者の年齢、性別、体重、一般的な医学的状態、薬剤を投与する特定の症状およびその重症度を考慮して決定できる。また、医師は、薬剤の投与経路、薬剤と組み合わせられる医薬品担体、および薬剤の生物学的活性を考慮できる。
【0061】
適切な医薬品の選択は、投与方法によって異なる。例えば、本発明の薬剤は、任意のがん組織(例えば、腫瘍)またはその周辺に直接注入して投与できる。この例では、医薬製剤は、がん組織に適合する媒体に分散された薬剤を含む。
【0062】
薬剤はまた、血流への静脈内注射によって、または皮下、筋肉内または腹腔内注射によって非経口的に投与され得る。非経口注射用の医薬製剤は当技術分野で知られている。薬剤を投与する方法として非経口注射を選択した場合、生物学的効果を発揮するのに十分な量の分子が標的細胞に到達することを確実にするための措置を講じる必要がある。
【0063】
本発明の薬剤を有効成分として、医薬用担体と密接に混和した医薬組成物は、通常の医薬配合技術に従って調製できる。担体は、投与したい製剤の形態に応じて、さまざまな形態をとることができる。非経口剤の場合、担体は通常、滅菌水で構成されているが、溶解性を高めるためや保存料などの他の成分が含まれることもある。また、注射用の懸濁液を調製してもよく、その場合、適切な液体担体、懸濁液薬剤などを採用できる。
【0064】
本発明の医薬製剤は、投与を容易にし、投与量を均一にするために、投与量単位の形態で製剤化できる。本明細書で使用する「投与量単位」とは、治療を受ける患者に適した、物理的に分離した医薬製剤の単位のことである。各投与量には、選択された医薬用担体との組み合わせで所望の効果をもたらすよう計算された量の活性成分が含まれている必要がある。適切な投与量単位を決定するための手順は、当業者にはよく知られている。投与量単位は、患者の体重に応じて比例的に増加または減少させることができる。特定の病状を緩和するための適切な濃度は、当技術分野で知られているように、投与濃度曲線計算によって決定できる。
【0065】
本発明に従って、本発明の薬剤を投与するための適切な投与量単位は、動物モデルにおける薬剤の毒性を評価することによって決定され得る。ヒトの腫瘍を移植したマウスに、様々な濃度の本発明の薬剤を投与し、治療の結果、腫瘍の大きさや副作用が著しく減少したという結果に基づいて、最小および最大の投与量を決定してもよい。適切な投与量単位は、他の標準的な抗がん薬との併用による薬剤の有効性を評価することによっても決定できる。薬剤の投与量単位は、腫瘍のより大きな収縮および/または増殖率の低下に応じて、個別にまたは各抗がん治療と組み合わせて決定できる。
【0066】
本発明の薬剤を含む組成物は、適切な間隔で、例えば、病理学的症状が軽減または緩和されるまで1日2回以上投与し、その後、維持レベルまで投与量を減らしてもよい。特定のケースでの適切な間隔は、通常、患者の状態によって異なる。
【0067】
定義
単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに他の意味を持たない限り、複数の参照対象を含む。
【0068】
「薬学的に許容される」とは、連邦政府または州政府の規制機関によって承認されているか、米国薬局方またはその他の一般に認められた薬局方に記載されており、動物、特にヒトへの使用が認められていることを意味する。
【0069】
「担体」とは、例えば、希釈剤、アジュバント、防腐剤(例:チメロサール、ベンジルアルコール)、酸化防止剤(例:アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、可溶化剤(例:ポリソルベート80)、乳化剤、緩衝剤(例:TrisHCl、酢酸、リン酸)、水、水性溶液、油、増量剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、賦形剤、補助剤、または本発明の活性薬剤が投与されるビヒクルを指す。担体としては、水や生理食塩水、デキストロースやグリセロールの水溶液が好ましく、特に注射剤の場合に採用される。適切な医薬用担体は、以下の文献に記載されている:"Remington's Pharmaceutical Sciences" by E.W. Martin (Mack Publishing Co., Easton, PA); Gennaro, A. R., Remington: The Science and Practice of Pharmacy, (Lippincott, Williams and Wilkins); Liberman, et al., Eds., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, New York, N.Y.; and Kibbe, et al., Eds., Handbook of Pharmaceutical Excipients (3rd Ed.), American Pharmaceutical Association, Washington.
【0070】
本明細書では、「対象」という言葉は、動物、特に哺乳類、特にヒトを指す。
【0071】
本明細書では、「予防する」という用語は、状態を発症する危険性のある対象に対する予防的治療で、対象が状態を発症する確率の低下をもたらすことを意味する。
【0072】
本明細書で使用する「治療」とは、病気にかかっている患者の状態(例えば、1つ以上の症状)の改善、病気の進行の遅延など、患者に利益をもたらすあらゆる種類の治療のことを指す。
【0073】
化合物や医薬組成物の「治療上有効な量」とは、特定の障害や疾患、およびその症状を予防、抑制、または治療するのに有効な量を指す。
【0074】
化学療法薬剤は、抗がん作用を示す化合物および/または細胞に有害な化合物(例えば、毒素)である。好適な化学療法薬剤としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない: 毒素(例:サポリン、リシン、アブリン、臭化エチジウム、ジプテリア毒素、およびシュードモナス外毒素); タキサン類;アルキル化薬剤(例えば、テモゾロミド、クロラムブシル、シクロホスファミド、イソファミド、メクロレタミン、メルファラン、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタードなど); チオテパなどのアジリジン類;ブスルファンなどのメタンスルホン酸エステル類;カルムスチン、ロムスチン、およびストレプトゾシンなどのニトロソ尿素類;白金錯体(例、シスプラチン、カルボプラチン、テトラプラチン、オルマプラチン、チオプラチン、サトラプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ヘプタプラチン、イプロプラチン、トランスプラチン、ロバプラチンなど); ミトマイシン、プロカルバジン、ダカルバジン、およびアルトレタミンなどの生物還元性アルキル化剤);DNA鎖切断薬剤(ブレオマイシンなど); トポイソメラーゼII阻害剤(例、アムサクリン、メノガリル、アモナフィド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、N,N-ジベンジルダウノマイシン、エリプチシン、ダウノマイシン、ピラゾロアクリジン、イダルビシン、ミトキサントロン、m-AMSA、ビサントレン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、デオキシドキソルビシン、エトポシド(VP-16)、エトポシドリン酸塩、オキサントラゾール、ルビダゾン、エピルビシン、ブレオマイシン、およびテニポシド); DNA副溝結合剤(例:プリカミジン);代謝拮抗薬(例:メトトレキサート、トリメトレキサートなどの葉酸拮抗薬);フルオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、CB3717、アザシチジン、シタラビン、およびフロクスリジンなどのピリミジン系アンタゴニスト;メルカプトプリン、6-チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチンなどのプリン系アンタゴニスト;アスパルギナーゼ; およびヒドロキシウレアなどのリボヌクレオチド還元酵素阻害剤); アントラサイクリン類;およびチューブリン相互作用剤(例:ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル(タキソール(登録商標)))。
【0075】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明するために提供される。これらは、本発明を何ら限定するものではない。
【実施例
【0076】
(実施例1)
肉腫は、腫瘍学における重要な課題を表す多様なクラスの悪性腫瘍である。ユーイング肉腫は2番目に多い骨肉腫であり、通常、生後20年以内に個人に発症する (Biswas, et al. (2016) World J. Orthop., 7:527-38)。限局性の患者の5年生存率は75%であるが、転移性の患者の生存確率は約20%と悲惨な状況である。そのため、再発や治療効果を予測できるバイオマーカーを特定し、転移性疾患に対抗する戦略を立てることが急務となっている。
【0077】
ユーイングの肉腫では、EWSのRNA結合タンパク質とEtsファミリー転写因子(最も一般的にはFLI1)を融合させた転座産物が重要な病因となる(Cidre-Aranaz, et al. (2015) Front. Oncol., 5:162)。EWS-FLI1の活性が持続することがトランスフォーメーションには必要であり、その重要なターゲットを特定するために多大な努力が払われてきた。病因に関与する複数のエフェクターが、in vitroの培養細胞とマウスモデルの両方で同定されている。さらに、IGF、VEGF、およびEWS-FLI1そのものを含む、これらのエフェクターのいくつかに対する治療薬も開発されている (Gaspar, et al. (2015) J. Clin. Oncol., 33:3036-46; Toomey, et al. (2010) Oncogene 29:4504-16)。しかし、その臨床効果は限られており、ユーイング肉腫治療のための新たな標的とアプローチを特定する必要性が強調されている。
【0078】
ユビキチン特異的プロテアーゼ6(USP6)オンコジーンは、原発性動脈瘤性骨嚢胞(ABC)、結節性筋膜炎などの複数の良性間葉系腫瘍で転座している (Oliveira, et al. (2004) Cancer Res., 64:1920-3; Erickson-Johnson, et al. (2011) Lab. Invest., 91:1427-33)。USP6の転座は、腱鞘の線維腫や巨細胞に富む肉芽腫でも確認された (Agaram, et al. (2014) Hum. Pathol., 45:1147-52; Carter, et al. (2016) Mod. Pathol., 8:865-9)。いずれの場合も、転座によってプロモーターが入れ替わり、野生型のUSP6が高レベルで発現した。USP6の発現は通常、成人のヒト組織では非常に限られており、精巣でのみ有意なレベルが観察される(Paulding, et al. (2003) Proc. Natl. Acad. Sci., 100:2507-11)。USP6は1992年に初めてクローニングされたが(Nakamura, et al. (1992) Oncogene 7:733-41)、最近までその分子機能については、生理学的にも腫瘍形成時にもほとんど知られていなかった。ABCおよび結節性筋膜炎の起源となる候補細胞(すなわち、線維芽細胞および前骨芽細胞)にUSP6を異所性に発現させると、ヒトの腫瘍の主要な臨床的、組織学的、分子的特徴を再現した腫瘍の形成が誘導され (Pringle, et al. (2012) Oncogene 31:3525-35; Ye, et al. (2010) Oncogene 29:3619-29; Lau, et al. (2010) J. Biol. Chem., 285:37111-20)、そのためには、脱ユビキチン化酵素としての触媒活性が不可欠である(Ye, et al. (2010) Oncogene 29:3619-29)。USP6は、Jak1/STAT3、Wnt/b-catenin、NFkBなどの複数の経路を通じて腫瘍形成を促進する (Pringle, et al. (2012) Oncogene 31:3525-35; Madan, et al. (2016) Proc. Nat. Acad. Sci., 113:E2945-54; Quick, et al. (2016) Cancer Res., 76:5337-47)。Jak1/STAT3経路では、Jak1自体がUSP6の重要なターゲットとなっている (Quick, et al. (2016) Cancer Res., 76:5337-47)。USP6によるJak1の脱ユビキチン化は、プロテアソームによる分解からJak1を回復させ、キナーゼレベルを大幅に上昇させ、細胞をIL6などのJak1アゴニストに感応させることになる(Quick, et al. (2016) Cancer Res., 76:5337-47)。
【0079】
USP6の転位による過剰発現は、良性の新生物では重要な役割を果たしているが、USP6が発がん因子ではない悪性腫瘍では、その役割はまだ解明されていない。USP6ががんの細胞株に広く発現しているというのは、よく間違って引用される。しかし、この誤った結論は、ノーザンプローブが非常に関連性が高く、広く発現しているUSP32遺伝子と交差反応した初期の研究に基づいている (Nakamura, et al. (1992) Oncogene 7:733-41)。その後、USP6に特異的なプライマーを用いて原発性腫瘍の逆転写定量PCR(RT-qPCR)を行ったところ、USP6の発現はより限定的であることがわかった(Oliveira, et al. (2005) Oncogene 24:3419-26)。しかし、これまでに悪性細胞におけるUSP6の機能を調査した論文は少なく、ほとんどがHeLa細胞での調査であった (Madan, et al. (2016) Proc. Nat. Acad. Sci., 113:E2945-54; Masuda-Robens, et al. (2003) Mol. Cell Biol., 23:2151-61; Rueckert, et al. (2012) Biol. Cell., 104: 22-33; Li, et al. (2017) Mol. Cell. Biol., 38:e00320-17; Funakoshi, et al. (2014) J. Cell. Sci., 127:4750-61)。
【0080】
USP6の機能は、高レベルの発現が確認された悪性腫瘍の1つであるユーイング肉腫で調べられた (Oliveira, et al. (2005) Oncogene 24:3419-26)。本明細書では、USP6が、免疫機能を担うJak1アゴニストであるIFNに対する応答を反映した遺伝子シグネチャーを誘発することが示されている。USP6は、外因性IFNに対してユーイング肉腫細胞を絶妙に感応させる。USP6を発現する細胞では、IFN処理によりSTAT1を介した遺伝子発現が劇的に増強されるだけでなく、I型IFNは、USP6陽性のユーイング肉腫細胞には選択的に細胞毒性を示すが、USP6陰性のユーイング肉腫細胞には示さない。IFNによる死は、強力なプロアポトーシス・リガンドであるTRAILによって媒介される。本研究は、悪性細胞におけるUSP6の機能を調べた第1の研究の一つであり、USP6がIFN治療に対するユーイング肉腫の反応性の予後指標となる可能性を示している。
【0081】
材料と方法
細胞株とCRISPRを用いたジーンターゲティング
RD-ESとTC-71は、それぞれ国立がん研究所(メリーランド州ベセスダ)とロサンゼルス小児病院、ケック医学校(カリフォルニア州ロサンゼルス)から入手した。CHLA-10およびSK-N-MCは、ペンシルベニア大学(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のペレルマン医学部から入手した。ドキシサイクリンで誘導してUSP6を発現させた株を作成した (Ye, et al. (2010) Oncogene 29:3619-29)。 細胞は3~6ヶ月ごとにマイコプラズマの検査を行い、解凍後2週間はMycoplasma Removal薬剤(MP Biomedicals #09350044)で予防的に維持した。すべての実験で、解凍後20回以下の継代で維持された細胞を使用した。細胞株の同一性は、原稿提出の直前に短タンデムリピート解析で確認した。
【0082】
Jak1、STAT1、およびSTAT3の検証済みCRISPRターゲット配列は、公開された配列のものである (Sanjana, et al. (2014) Nat. Methods 11:783-4)。標的 gRNA [Jak1 (CACCGTCCCATACCTCATCCGGTAG; 配列番号 3), STAT1 (CACCGTCCCATTACAGGCTCAGTCG; 配列番号 4), および STAT3 (CACCGAGATTGCCCGGATTGTGGCC; 配列番号 5)] は、記載のようにLentiCRISPRv2 (Addgene #52961) にサブクローン化した (Sanjana, et al. (2014) Nat. Methods 11:783-4)。USP6/RD-ES細胞にCRISPRコンストラクトをトランスフェクトし、ピューロマイシンセレクションを行った。クローンはイムノブロッティングでスクリーニングした。
【0083】
試薬
ドキシサイクリンはClonTech社から入手した(#8634-1)。Jak Inhibitor I (CAS 457081-03-7; #420099)とPS-1145 (P6624)はSigma-Aldrich社から入手した。Lipofectamine 2000は、Life Technologies社から入手した。IFNα、IFNβ、IFNγは、それぞれPBL Assay Science社(#11410-2、#11200-1)、PeproTech社(#300-02)から入手した。ZVAD(FMK001)とIETD(FMK007)はRandD Systems社から入手した。TRAIL(カタログ番号752904)および抗TRAIL(カタログ番号308202)はBioLegend社から入手した。カスパーゼ-3/7(#G8090)とカスパーゼ-9(#G8210)の活性化キットはPromega社から購入し、Molecular Devices社のSpectroMaxでアッセイを行った。アネキシンV染色キットはeBioscience社から入手し(#88-8007-72)、サンプルはBD Biosciences社のAccuri C6およびLSR II機器で分析した。
【0084】
イムノブロッティングとqRT-PCR
細胞溶解は、記載されている通りに行った (Sanjana, et al. (2014) Nat. Methods 11:783-4)。Jak1(cs-3332),pSTAT1(cs-9167),pSTAT3(cs-9145),TRAIL(cs-3219),PARP(cs-9542),カスパーゼ-8(cs-9746),およびBid(cs-2002)は Cell Signaling Technology 社から入手した。HA(sc-805)、STAT1(sc-346)、STAT3(sc-482)、およびp65(sc-372)は、Santa Cruz Biotechnology社から入手した。Erk抗体はWeill Cornell Medical College(New York, NY)から入手した。定量化はImage Studio Liteを用いて行った。RNAの単離にはTRIzolを用い、SYBR Green(カタログ番号436765、Thermo Fisher Scientific社)を用いてqPCRを行った。Erk、STAT3、およびp65は、説明されているように、タンパク質負荷のコントロールとして使用された (Hwang, et al. (2005) J. Biol. Chem., 280:12758-65; Huang, et al. (2004) J. Biol. Chem., 279:13866-77; Banerjee, et al. (2010) Cancer Res., 70:1356-66; Chien, et al. (2011) Genes Dev., 25:2125-36)。示したように、これらのレベルはすべての条件で同程度であった。
【0085】
遺伝子発現プロファイリング/経路解析、およびDNAメチル化
ドキシサイクリンとIFNαを24時間処理した、または処理しなかったUSP6/RD-ES細胞からRNAを分離した。RNAシーケンス(RNA-seq)、アラインメント、処理、リポジトリへの登録は、ペンシルバニア大学次世代シーケンスコア(GSE107307)で行った。Affymetrix U133AおよびU133 Plus 2.0アレイのCDFファイルを編集し、USP32や他の遺伝子と交差反応するプローブをUSP6プローブセット(206405__at)から削除した。この洗練されたUSP6特異的プローブセットは、Probe 4、8、9、11から構成されている。公開されているユーイング肉腫のデータセット[GSE7007 (Tirode, et al. (2007) Cancer Cell 11:421-9) and GSE37371 U133A (Martignetti, et al. (2012) PLoS One, 7:e41770)]をUSP6の発現量でソートした。USP6レベルが最も高い患者と最も低い患者を比較した(各グループ5名)。生殖細胞腫瘍のデータセットGSE10615(Palmer, et al. (2008) Cancer Res., 68:4239-47)では、サンプルをセミノーマ(USP6high)と卵黄嚢腫瘍(USP6low)に分離した。遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)は、「Hallmarks」分子シグネチャーデータベースを用いて、前述の方法で行った。結節性筋膜炎の遺伝子発現解析は、記述されているように、他のUSP6非発現の間葉系腫瘍と比較した (Quick, et al. (2016) Cancer Res., 76:5337-47)。
【0086】
5つの肉腫細胞株(CADO-ES1,SK-NMC, A673,RD-ES,SK-ES-1)のDNAメチル化データセットは、「Cell Line Encyclopedia」から入手した (CCLE; portals.broadinstitute.org/ccle; Barretina, et al. (2012) Nature 483:603-7; Cancer Cell Line Encyclopedia Consortium (2015) Nature 528:84-7), そして、様々な遺伝子の相対的なCpGメチル化をGraphPadを使ってプロットした。USP6プロモーターのメチル化プローブIDはMExpress社から入手し (Koch, et al. (2015) BMC Genomics 16:636) そして、GSE89041(Huertas-Martinez, et al. (2017) Cancer Lett., 386:196-207)と組み合わせて使用した。
【0087】
結果
ユーイング肉腫においてUSP6がIFN応答を誘発することを、患者サンプルおよび培養細胞を用いて明らかにした
USP6が発がん因子ではない悪性細胞でどのように機能するかについては、ほとんど知られておらず、主にHeLaに限定した報告はわずかしかない (Madan, et al. (2016) Proc. Nat. Acad. Sci., 113:E2945-54; Masuda-Robens, et al. (2003) Mol. Cell Biol., 23:2151-61; Rueckert, et al. (2012) Biol. Cell., 104: 22-33; Li, et al. (2017) Mol. Cell. Biol., 38:e00320-17; Funakoshi, et al. (2014) J. Cell. Sci., 127:4750-61)。前述したように、新生物におけるUSP6の発現は、当初考えられていたよりもはるかに制限されている。幅広い原発性サンプルをスクリーニングしたところ、高発現は主にユーイング肉腫などの間葉系腫瘍に限られていた (Oliveira, et al. (2005) Oncogene 24:3419-26)。
【0088】
ユーイングの肉腫においてUSP6がどのような機能を持っているかを調べるために、原発性患者のサンプルで遺伝子の発現パターンを調べた。大規模な肉腫患者データの多くは、Affymetrix社のマイクロアレイを使用している。このマイクロアレイは、特定の遺伝子に対する11種類のプローブからなるプローブセットを使用している。しかし、USP6プローブセット(206405__at)のほとんどのプローブは、USP32や他の遺伝子と交差反応した。そこで、USP6に特異的なサブセットのプローブのみを使用するようにGSEA分析を改良し、USP6の発現レベルが最も高い肉腫と最も低い肉腫を比較した。2つの独立した患者データセットから、IFNα(I型)およびIFNγ(II型)反応が、USP6の高発現と関連する上位のシグネチャーとして浮かび上がった(図1A)。さらに、IL6/Jak/STAT3経路が強力に活性化された。
【0089】
USP6がこれらの遺伝子シグネチャーを直接誘導するかどうかを明らかにするために、不死化したユーイング肉腫細胞でメカニズムの研究を行った。しかし、一般的に使用されている肉腫株の中には、USP6を顕著に発現しているものはなかった。調べたすべての不死化肉腫細胞株において、USP6プロモーター全体に広範なCpGメチル化が見られたが、原発性肉腫では比較的低いメチル化が見られた。CpGメチル化ヒートマップでは、複数の肉腫細胞株において、MycやEZH2などの肉腫で高発現していることが知られている遺伝子と比較して、USP6が有意にサイレンシングされていることが明らかになった。細胞の不死化に伴ってUSP6がどのようにメチル化されるかは不明だが、いずれにしても、USP6を異所的に発現させる必要があった。患者由来の肉腫細胞株であるRD-ESを用いて、様々なレベルのUSP6をドキシサイクリンで誘導して発現させたクローンおよびプールされた安定株を作製した(図1B)。USP6は、ABCおよび結節性筋膜炎のモデルで観察されたのと同様に、Jak1キナーゼ(USP6による直接的な脱ユビキチン化によって安定化される)の用量依存的なアップレギュレーションとSTAT3のリン酸化を誘導した(図1B)(Quick, et al. (2016) Cancer Res., 76:5337-47)。さらに、IFNシグナル伝達を媒介する主要なSTATファミリーメンバーであるSTAT1の強力なリン酸化が観察された(図1B)。RNA-seqは、プールされた細胞株であるUSP6/RD-ESを、ドキシサイクリンの存在下と非存在下で比較して行った。原発性ユーイング肉腫サンプルと同様に、IFNαとIFNγの反応がトップヒットとなり、次いでIL6/Jak/STAT3の活性化が見られた(図1A)。以上のことから、USP6はin vivoでのユーイング肉腫のIFN応答と関連するだけでなく、この経路を活性化するのに十分であることが示された。また、RD-ES細胞モデルは、ユーイング肉腫患者のサンプルにおけるUSP6の生理的機能を忠実に反映していることが検証された。
【0090】
そこで、USP6が他の腫瘍タイプのIFN応答と関連しているかどうかが検討された。結節性筋膜炎でもIFNシグネチャーが誘導されており、これはUSP6の転座による過剰発現によって引き起こされている(図1A)。また、生殖細胞腫瘍では、USP6の発現がIFN反応と関連していた。卵黄嚢腫瘍(通常は卵巣や精巣になる運命にある卵黄嚢を覆う細胞から発生した胚細胞腫瘍)は一様にUSP6の発現量が低いのに対し、セミノーマ(精巣の胚葉上皮から発生した胚細胞腫瘍)は高い発現量を示している(図1C)。セミノーマと卵黄嚢腫瘍を比較したGSEAでは、USP6の高い発現がIFNやJak-STAT3のシグネチャーと再び相関していることが明らかになった(図1A)。これらの結果を総合すると、USP6はヒトの腫瘍におけるIFN応答とより広範に関連していることがわかる。
【0091】
USP6は外因性IFN処理に対してユーイング肉腫細胞を感作する
USP6は、それ自体でIFN応答を引き起こすだけでなく、Jak1レベルの上昇により、RD-ESを外因性IFNに対して過敏にさせることができる。実際、USP6/RD-ES細胞におけるSTAT1/3活性化の劇的な増強と延長は、I型およびII型のIFN(それぞれIFNα/IFNβとIFNγ、図2)で観察された。親のRD-ES細胞をIFNαまたはIFNγで処理すると、STAT1とSTAT3のリン酸化が誘導され、30分以内にピークに達し、8時間後までに徐々に減少した。一方、USP6/RD-ESでは、STAT1およびSTAT3のリン酸化が増強され、8時間後には顕著な活性化が持続した(図2AおよびB)。興味深いことに、I型IFNはUSP6のダウンレギュレーションを誘導した(図2A)。
【0092】
USP6は、STAT1/3の活性化を延長することに加え、低用量IFNに対する感受性を高めた(図2B)。10から1,000U/mLの用量で、USP6/RD-ES細胞は、親のRD-ESと比較してSTAT1/3リン酸化の上昇を示した。USP6がSTATの活性化を促進・延長する能力は、TC-71、CHLA-10、およびSKN-MCという3つの患者由来のユーイング肉腫株でも確認されたことから、USP6の作用はユーイング肉腫株で広く認められ、RD-ES株の特異性ではないことが示された。
【0093】
驚くべきことに、長時間の処理により、I型IFNは親のRDES細胞ではなく、USP6を発現した細胞に対して選択的に細胞傷害性を示した。PARP切断とトリパンブルー排除でモニターすると、IFNβが最も大きな細胞傷害性を示し、次いでIFNα、IFNγの順であった(図3AおよびB)。アネキシンV染色により、IFNβによる死がアポトーシスによって起こることが確認された(図3C)。IFNβは、2,500U/mLまでの投与量でIFNαよりも効果的にアポトーシスを誘導したが、これはIFNβの方がI型IFN受容体に対する親和性が高いためと考えられる。さらに、USP6は用量依存的にIFNβに対する感受性をもたらし、死滅の程度はUSP6の発現レベルと相関していた(図3D)。USP6はまた、IFNβによるアポトーシスに対してTC-71細胞を感作した(図3EおよびF)。しかし、USP6はCHLA-10細胞とSK-N-MC細胞の死を最小限に抑えた。しかし、これらの結果は、USP6がIFNに対する反応の大きさを決定し、IFNのアポトーシスの可能性に対してES細胞を大きく感応させることができることを示している。
【0094】
IFNによるアポトーシスは、外因性と内因性の経路があり、Jak1-STAT1/3が必要である。
IFNは、細胞の種類によって、細胞表面の受容体にリガンドが結合することで起こる外因性アポトーシスや、ミトコンドリアの制御異常によって起こる内因性アポトーシスを引き起こすことができる。これらの経路は、異なるカスパーゼプロテアーゼを必要とすることで区別される。外因性アポトーシスでは、カスパーゼ-8が切断・活性化され、続いてカスパーゼ-3/7が活性化される。内因性アポトーシスでは、ミトコンドリアのタンパク質であるBidが切断され、カスパーゼ-9が活性化され、さらにカスパーゼ-3/7が活性化される。しかし、IFNによって誘導された外因性アポトーシスがミトコンドリアルートに流れ込み、Bidやカスパーゼ-9の切断・活性化を引き起こす状況もある。
【0095】
IFNによって誘導されたUSP6/RD-ESの死は、カスパーゼ-8特異的阻害剤であるIETDによって阻止され(図4A)、カスパーゼ-8の切断を伴っていた(図4B)ことから、外因性経路が関与していると考えられる。しかし、IFNβは、Bidの切断(図4B)とカスパーゼ-9の活性化(図4C)も誘導し、ミトコンドリアルートの関与を示した。カスパーゼ-3/7の活性化も観察され、カスパーゼ-8阻害剤で阻止できた(図4D)。以上のことから、IFNβによるUSP6/RD-ES細胞の死は、ミトコンドリアの制御異常を伴う細胞表面を介した外因性の経路で起こることが示された。
【0096】
アポトーシスのシグナル伝達機構をさらに解明するために、IFNによる死に関与することが明らかになっているJak1-STATとNFkBの役割を調べた (Hwang, et al. (2005) J. Biol. Chem., 280:12758-65; Huang, et al. (2004) J. Biol. Chem., 279:13866-77)。汎Jakファミリー阻害剤は、USP6/RD-ESのアポトーシスを完全に阻害したが、NFkB阻害剤は効果がなかった(図4E)。レポーターアッセイでは、NFkB阻害剤が機能していることが確認された。Jak1/STAT経路の必要性を確認するために、USP6/RD-ES細胞でJak1、STAT1、およびSTAT3のCRISPRによるノックアウトを行った(図4F)。図4Fは、Jak1を欠失させると、死滅が著しく低下することを示している。このことは、STAT1とSTAT3がアポトーシス反応において異なる役割を果たしていることを示しており、IFNに応答してホモまたはヘテロダイマーとして機能することと一致している。これらの遺伝学的、薬理学的アプローチにより、Jak1、STAT1、およびSTAT3がIFNβを介したUSP6/RD-ESのアポトーシスに必要であることが示された。
【0097】
IFNβによるUSP6/RD-ES細胞のアポトーシスは、TRAIL経路を介して行われる
IFNはプロアポトーシスのリガンドであるFasLとTRAILの発現を誘導する。RNA-seqデータによると、USP6/RD-ESでは、親細胞と比較して、FasではなくTRAILがIFNによって相乗的に誘導されることが示された。RT-qPCRにより、IFNがRD-ESのTRAIL発現にほとんど影響を及ぼさないことが確認された(図5A)。しかし、IFNβで処理したUSP6/RD-ESでは、TRAIL mRNAレベルが劇的に上昇していた。また、IFNαおよびIFNγでも、より程度は低いものの誘導が見られ(図5A)、それぞれで誘導された死の程度と相関していた(図3)。一方、FasLの発現はUSP6の影響を大きく受けなかった。5つのTRAIL受容体の発現も調べ、活性型(DR4/DR5)と不活性型デコイ(TNFRSF10C/DおよびOPG)の両方で、そのバランスがTRAIL誘発性アポトーシスに対するがん細胞の感作に重要な役割を果たすことが示されている (von Karstedt, et al. (2017) Nat. Rev. Cancer 17:352-66)。USP6は、死への感応と一致する方法で受容体の発現を変化させなかった。
【0098】
図5Cは、USP6/RD-ESにIFNβを投与すると、ドキシサイクリン依存的にTRAILタンパク質が強く誘導されることを確認している。TRAILの転写およびタンパク質の誘導は、USP6/TC-71ユーイング肉腫の細胞株でも確認された(図5BおよびC)。抗TRAIL中和抗体は、USP6/RD-ESおよびUSP6/TC-71細胞のIFNβによるアポトーシスを阻害した(PARP切断およびアネキシンV染色で測定)(図5DおよびE)。さらに、CRISPRを介してTRAILを欠失させると、IFNβによるUSP6/RD-ESの死を完全に阻止できた(図5F)。これらのデータは、TRAILがIFNβによるUSP6陽性細胞のアポトーシスを媒介する上で支配的な役割を果たしていることを確認している。
【0099】
前述のように、USP6存在下でのIFNβによるアポトーシスに対して、様々なユーイング肉腫株は異なる感受性を示した:RD-ESとTC-71は非常に感受性が高く、CHLA-10とSK-N-MCはほとんど反応しなかった(図3)。これが、これらの株でTRAILの誘導が異なることによるものかどうかを調べるために、qRT-PCRを行った。しかし、TRAILの転写は、感受性の低いユーイング肉腫株でも相乗的に誘導された(図5B)。次に、この反応性の違いが、TRAIL受容体の発現の違いに起因するのかどうかを検討した。驚くべきことに、USP6存在下でのIFNβに対する感受性は、TRAIL受容体DR4の発現と正確に相関していることがわかった。DR4レベルは、RD-ESとTC-71で最も高く、感受性のないユーイング肉腫株ではほとんど検出されなかった(図5G)。
【0100】
IFNは、TRAIL依存性のカスパーゼ活性化を介してUSP6のダウンレギュレーションを誘発する
上記のように、I型IFNはUSP6タンパク質のダウンレギュレーションを誘導する(図2、3、4)。TRAILはまた、時間および用量依存的にUSP6のダウンレギュレーションを引き起こした(図6AおよびB)。TRAILはより迅速に作用し、USP6のダウンレギュレーションが4時間以内に観察されたが、IFNβは12~18時間を必要とした(図2Aおよび6B)。カスパーゼはTRAILシグナル伝達において重要な役割を果たすため、USP6のダウンレギュレーションを媒介するかどうかをテストした。汎カスパーゼ阻害剤ZVADとカスパーゼ8阻害剤IETDの両方が、IFNβおよびTRAILによって誘導されるUSP6のダウンレギュレーションを完全にブロックした(それぞれ図4Aおよび6C)。総合すると、これらの結果は、USP6がTRAIL転写を誘導し、それがDR4を介してシグナルを送り、USP6のカスパーゼ依存性ダウンレギュレーションを引き起こすという負のフィードバックメカニズムを明らかにしている(モデルを参照、図6D)。注目すべきは、I型IFNとTRAILがUSP6を制御する第1の生理的なアゴニストであることである。
【0101】
USP6がいくつかの良性新生物において重要な役割を果たしていることは以前から認識されていたが、悪性新生物の生物学におけるUSP6の機能はあまり理解されていない。原発性腫瘍サンプルを分析したところ、ヒトの悪性腫瘍の中で、USP6の発現が最も高いのは、ユーイング肉腫を含む間葉系がんであることが明らかになった。本研究は、ユーイング肉腫におけるUSP6の機能を探る初めての試みである。USP6の発現は、原発ユーイング肉腫腫瘍のIFNシグネチャーと関連している。さらに、培養したユーイング肉腫細胞にUSP6を誘導的に発現させると、この反応を引き起こすのに十分である。USP6はまた、外因性IFNに対するユーイング肉腫細胞の絶妙な感受性をもたらす。驚くべきことに、I型IFN(特にIFNβ)は、DR4依存的に、USP6陰性ではなく、USP6陽性のユーイング肉腫細胞のTRAILを介したアポトーシスを誘導する(結果の概要は図6D参照)。
【0102】
これまでUSP6に関する研究はほとんど行われておらず、そのため、USP6の発現がどのように制御されているのか、その活性がどのように調節されているのか、また、USP6がどのような正常な生理過程に関与しているのかについては何もわかっていない。本願では、USP6の翻訳後修飾を引き起こす第1の生理的なアゴニストとして、I型IFNとTRAILが同定された。TRAILはカスパーゼに依存したUSP6のプロセッシングとダウンレギュレーションを誘発するが、I型IFNはTRAILシグナルの誘導によってもこのダウンレギュレーションを誘発できる。この負のフィードバック・ループ(USP6がIFNを介したTRAILの誘導を増幅させ、次にUSP6のダウンレギュレーションを引き起こす)は、正常な生理機能において、アポトーシスだけでなく炎症を含むTRAIL誘導機能を制限するために重要な役割を果たしていると考えられる (Zoller, et al. (2017) Sci. Rep., 7:5691; Azijli, et al. (2013) Cell Death Differ., 20:858-68)。
【0103】
今後の課題としては、USP6を介したIFNシグナルがユーイング肉腫の病因にどのように影響するかを明らかにすることである。数多くの研究により、IFNは幅広い種類の腫瘍において、腫瘍の進行を促進したり、弱めたりすることが示されている (Bekisz, ET AL. (2013) J. Interferon Cytokine Res., 33:154-61; Wang, ET AL. (2013) J. Interferon Cytokine Res., 33:181-8; Zaidi, et al. (2011) Clin. Cancer Res., 17:6118-24)。この複雑さは、腫瘍細胞だけでなく、免疫細胞や腫瘍の微小環境にある他の細胞にも作用する能力があるからだと考えられる。いくつかのシナリオでは、IFNは、腫瘍細胞の増殖と転移を促進する炎症性微小環境を促進できる (Zaidi, et al. (2011) Clin. Cancer Res., 17:6118-24). また、IFNは免疫の浸潤を刺激し、それによって腫瘍細胞の殺傷を促進することもある。注目すべきは、IFNとTRAILは、in vitroマウス異種移植でも、ユーイング肉腫の抗腫瘍性に大きく機能していることである(Kontny, et al. (2001) Cell Death Differ., 8:506-14; Wietzerbin, et al. (2003) Ann. NY Acad. Sci., 1010:117-120; Picarda, et al. (2010) Clin. Cancer Res., 16:2363-74)。
【0104】
ユーイング肉腫の患者に対する標準的な治療は、過去20年間でほとんど進歩していない。一般的な細胞障害性化学療法は、播種性疾患や再発性疾患の患者には有効ではない。そのため、再発性/播種性疾患を予防・治療するための新しい治療法の開発や、治療に対する反応を予測するバイオマーカーの同定が重要な目標となっている。I型IFNはいくつかのがんの治療薬として検討されているが、現在のところ、その使用は進行したメラノーマの症例に限られている (Wang, et al. (2011) J. Interferon Cytokine Res., 31:545-52)。しかし、その強力な免疫賦活作用に起因する重篤な全身性の副作用のために、その広範な使用は制限されている(Wang, et al. (2011) J. Interferon Cytokine Res., 31:545-52)。今回の結果では、USP6が低用量IFNに対して細胞を大きく感作するため、この問題は緩和される。したがって、全身性の副作用を最小限に抑えつつ、殺腫瘍活性を維持できるIFNの低用量投与が可能となる。さらに、USP6は他のがんでもIFN反応と関連することがあるため、今回の知見はUSP6が過剰に発現している他の悪性腫瘍にも適用可能である。
【0105】
(実施例2)
ユビキチン特異的ペプチダーゼ6(USP6)は、多くの免疫賦活因子の産生を促進する。USP6はヒトに特異的な遺伝子で、ほとんどの組織や器官で発現が制限されており、精巣でのみかなりの発現が検出されている。悪性腫瘍の中では、ユーイング肉腫を含むいくつかの肉腫で最も高発現しているが、他のがんでは高発現することはまれである (Oliveira, et al. (2014) Hum. Pathol., 45(1):1-11; Oliveira, et al. (2005) Oncogene 24(21):3419-26)。USP6は、動脈瘤性骨嚢胞(ABC)および結節性筋膜炎(NF)として知られる2つの良性骨軟部腫瘍の主要な病因となっている。NFとABCでは、USP6がプロモーターを交換する転座を起こし、その結果、野生型タンパク質が持続的に高発現する。NFの臨床経過は独特であり、急速な増殖とそれに続く数週間または数ヶ月の自然退縮が見られる(Erickson-Johnson, et al. (2011) Lab Invest., 91(10):1427-33)。NF病変は、CD163マクロファージ、CD8+およびCD4+T細胞を含む免疫細胞の豊富な浸潤を示すが、Tregは示さない。ABCおよびNFにおけるUSP6の役割が調査され、USP6がJak1キナーゼを直接脱ユビキチン化および安定化する適応性および自然免疫応答を仲介する重要なエフェクターであるという発見につながった(Quick et al. (2016) Cancer Res., 76(18):5337-47)。
【0106】
USP6のレベルが上昇している数少ないがんの1つであるユーイング肉腫におけるUSP6の役割も調査された。USP6は、患者由来の肉腫細胞株A673およびRD-ESでドキシサイクリン誘導性の方法で発現した。USP6の発現レベルは、原発性患者の腫瘍サンプルの発現レベルに近いことが確認された。USP6の高発現は、インターフェロン応答シグネチャーを誘発し、表面のMHCクラスI発現を増強し(Funakoshi, et al. (2014) J. Cell Sci., 127(Pt 21):4750-61)、これらに限定されないがCCL5、CCL20、CXCL9、CXCL10、CXCL11、TRAILなどの多数の免疫賦活因子の産生につながる。ユーイング肉腫でUSP6を発現させると、腫瘍の増殖が弱まり(図7A)、in vivoでの免疫細胞の浸潤が促進される(図7B、7C)。doxによって誘導されたUSP6の発現は、ヌードマウスに異種移植されたユーイング肉腫細胞(TC71)の増殖を阻害し、生存率を高めた(図7D)。図7Eに見られるように、USP6を発現させると、腫瘍体積が最大になるまでの時間が長くなり、腫瘍の増殖が遅くなる。さらに、USP6は、in vitroでCD8+ T細胞の活性化を促進する因子の分泌を誘導し、腫瘍微小環境において、成熟樹状細胞の存在を増加させる一方で、M2マクロファージの存在を減少させる。また、USP6発現が高い患者は、発現が低い患者に比べて、全生存期間および無イベント生存期間が良好であることが、マウスのユーイング肉腫異種移植モデルと一致している。注目すべきは、USP6の高い発現が、他の多くのがんにおける生存率の向上と関連していることである(図7F)。
【0107】
(実施例3)
図8Aに示すように、USP6発現が高い急性骨髄性白血病患者は、予後が有意に改善している。同様に、図8Bは、USP6の発現量が高いユーイング肉腫患者の予後が有意に改善していることを示している。
【0108】
ユーイング肉腫細胞株TC-71、RD-ES、およびCHLA10を追加実験で使用した。注目すべきは、ドキシサイクリン(dox)の添加により、USP6の発現が起こることである。図9に示すように、USP6は、プロアポトーシスのリガンドであり、腫瘍の増殖をコントロールするのに有用なTRAILの受容体であるTRAIL-R1とTRAIL-R2の発現をアップレギュレートする。図10に示すように、USP6はCD54(細胞傷害性免疫細胞が標的腫瘍細胞に結合することを可能にする)およびHLA-ABC/MHCクラスI(細胞傷害性T細胞が腫瘍細胞を認識して殺すために使用)の発現もアップレギュレートする。ナチュラルキラー(NK)細胞は、腫瘍細胞を殺すことができる細胞毒性免疫細胞である。特に、USP6の誘導は、腫瘍細胞をNK細胞株NK-92に感作させる(図11)。
【0109】
(実施例4)
図12は、in vitro転写(IVT)mRNAのUSP6プラスミドマップの概略図を示している。HiScribeTM T7 ARCA(アンチリバースキャップアナログ)mRNAキット(ニューイングランドバイオラボ、マサチューセッツ州イプスウィッチ)などの市販のキットを使用して、キャップ付きおよびテール付きのmRNAを生成できる。In vitroで転写されたRNAは、細胞に投与できる(例えば、ナノ粒子、リポソーム、またはミセルを介して)。ここでは、市販の脂質キャリアであるLipofectamine MessengerMaxTM(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてmRNAをカプセル化し、細胞に送達した。カプセル化とトランスフェクションは、メーカーの推奨する方法で行った。
【0110】
USP6は、TBC(Tre-2/Bub2/Cdc16)ドメインとユビキチン特異的プロテアーゼドメイン(USP)を含む。USP6のA6変異体は、TBCドメインの3重の点変異体で、USP6がArf6を活性化し、表面の受容体を輸送する能力を失っている(Lau et al. (2010) J. Biol. Chem., 285(47): 37111-37120)。USP6のCS変異体は、重要な触媒残基(Cys541→Ser)に点変異があり、タンパク質のレスキュー活性が失われている (Madan et al. (2016) PNAS 113(21):E2945-E2954)。
【0111】
図13に見られるように、定量的PCR(qPCR)により、ユーイング肉腫とAMLでUSP6 mRNAの発現に成功したことが示された。USP6またはUSP6(CS/A6)を投与した細胞では、未処理の細胞やコントロール(cLuc(Cypridina luciferase))で処理した細胞と比較して、USP6の発現が大きくなっていた。
【0112】
図14に見られるように、USP6 mRNAは、AMLおよびユーイング肉腫において抗腫瘍性サイトカインを誘導する。実際、CXCL9とTRAILのmRNAの発現は、USP6で処理した細胞では、未処理の細胞、コントロール(cLuc)で処理した細胞、不活性変異体USP6(CS/A6)で処理した細胞と比較して、有意に増加した。
【0113】
図15に見られるように、USP6のmRNAは機能的なタンパク質に翻訳される。HAタグ付きのUSP6タンパク質は、USP6のmRNAを増量して導入したHeLa細胞で測定した(図15)。293T細胞を用いた実験では、HAタグ付きUSP6タンパク質の増加は一過性であり、USP6 mRNAの導入により、CD54、MHCクラスI、DR5の表面発現が増加することが示された。USP6 mRNAはまた、いくつかのAML細胞株(NB4、U937)において、免疫認識マーカーの表面発現を増加させる(図16A)。実際、USP6のmRNAが存在すると、未処理の細胞や、変異体USP6(CS)とUSP6(A6)、あるいは二重変異体USP6(CS/A6)で処理した細胞と比較して、CD54とMHCクラスIの発現が増加したのである。図16Bは、USP6 mRNAを導入したTHP-1またはU937 AML細胞において、DR5およびMHC クラスIの発現がコントロールと比較して増加したことを示している。
【0114】
図17に見られるように、USP6 mRNAはいくつかの細胞株で選択的に死を誘導した。HeLa、ユーイング肉腫(A673)およびAML (THP-1)細胞をUSP6 mRNAで処理すると、アポトーシスが誘導されたが、未処理の細胞や、コントロールのcLucまたは不活性二重変異体USP6(CS/A6)で処理した細胞では誘導されなかった。
【0115】
また、ユーイング肉腫の細胞株A673は、1μgのコントロールmRNA(cLuc)またはUSP6 mRNAをLipofectamine(登録商標)MessengerMaxTMでトランスフェクションした。その後、細胞を1000U/mL IFNβまたは0.5ng/mL IFNγで処理した。USP6 mRNAは、コントロール群と比較して、抗腫瘍性サイトカインであるCXCL9、CXCL10、CCL5、TRAILの発現を選択的に強力に誘導する(図18)。
【0116】
未処理またはUSP6 mRNAをトランスフェクトしたユーイング肉腫細胞株A673を、USP6-またはUSP6+の集団に選別した。そして、抗腫瘍性表面受容体の表面発現を分析した。図19に見られるように、USP6を発現した細胞は、抗腫瘍性の受容体であるCD54、DR5、CD155を高レベルで発現している。
【0117】
(実施例5)
USP6の3’UTRがタンパク質の発現に必要かどうかを、3種類のコンストラクトを用いて調べた。IVTのmRNAを合成するためには、まず、3’と5’の末端に対するプライマーを使って、作業可能な断片を作ることが必要である。ここでは、IVTのmRNAを合成するT7 RNAポリメラーゼの結合部位となるT7プロモーターを使用した。また、このコンストラクトは、USP6タンパク質の発現を検出するために、USP6コード領域の5’末端にHAタグを含んでいる。第1のコンストラクトは、USP6のコーディング領域(CDSと呼ぶ)の3’エンドで終了する。第2のコンストラクトは、さらにUSP6 3’UTRを含む。第3のコンストラクトは、USP6 3’UTR(UTRと呼ばれる)と、USP6 3’UTRのすぐ下流にあるSP6サイトをさらに含む。
【0118】
IVT mRNAはNEBのキットで合成された (www.neb.com/products/ e2060-hiscribe-t7-arca-mrna-kit-with-tailing#Product%20Information)。発現を改善するために、mRNAをARCA(アンチリバースキャップアナログ)でキャップした。ウリジンとシトシンの50%を合成5-メチルシトシンとシュードウリジンに置き換えて、発現を改善し、細胞死を減らした。なお、今回の実験で使用したUSP6には点変異(Y162H)があり、USP6の機能や発現には影響していないようである。適切なmRNAの翻訳と安定性のためのポリAテールの付加には、酵素プロセスが採用された。酵素法では、様々な長さのテールを有する産物(通常100~200塩基)のプールを作成する。
【0119】
USP6(Y162H) IVTのmRNAまたはDNAコントロールを、市販の脂質キャリアー(Lipofectamine(登録商標) MessengerMaxTM for mRNA and Lipofectamine(登録商標) 2000 for DNA)を用いて293Tにトランスフェクションした。1サンプルあたり1.6μgのDNAまたはmRNAを使用した。USP6を発現している細胞の割合は、抗HA抗体を用いた細胞内フローサイトメトリーにより決定した。図20Aに見られるように、すべてのコンストラクトがUSP6を発現していた。ただし、CDSおよびUTRバージョンはSP6バージョンよりも優れていた。USP6の3’UTRは、その発現を負に制御する複数のmiRNAの標的になっていると考えられることから、CDSコンストラクトを選択し、さらなる実験を行った。
【0120】
前述のように、ポリAテールは最初、酵素法を用いて付加された。この手法により、様々な長さのテールを有する産物のプールが得られる。より明確な産物を提供するために、120個のチミンを含むリバースCDSプライマーを介してポリAテールを直接追加した。そのため、IVTのmRNAは、120個のアデノシンからなる一定のポリAテールを含む。
【0121】
酵素法やPCR法でポリAテールを付加したUSP6(Y162H) IVT mRNAやDNAコントロールを、市販の脂質キャリア(Lipofectamine(登録商標) MessengerMaxTM for mRNA and Lipofectamine(登録商標) 2000 for DNA) を用いて293Tに様々な量でトランスフェクションした。USP6を発現している細胞の割合を、抗HA抗体を用いた細胞内フローサイトメトリーで測定した。USP6は、腫瘍に対する免疫細胞の認識に重要な2つの受容体であるCD155とCD54の表面発現を増加させることができる。したがって、フローサイトメトリーでCD155とCD54の表面発現を見ることで、USP6(Y162H)IVTのmRNAが機能しているかどうかも判断した。
【0122】
図20Bに見られるように、酵素によるポリ(A)テーリングは、USP6 mRNAの発現をわずかに増加させる。しかし、120塩基の一定のポリ(A)テールを追加しても、USP6や主要な抗腫瘍表面マーカー(CD155およびCD54)のUSP6による発現に悪影響を与えることはない(図20C)。そこで、120塩基のポリ(A)テールを持つUSP6のmRNA産物を選択し、研究を進めた。
【0123】
USP6(Y162H)に対する野生型USP6の発現を、293T(胚性腎臓)、A673(ユーイング肉腫)、K562(慢性骨髄性白血病)を含むいくつかの細胞株で試験した。USP6(Y162H)または120塩基の一定のポリ(A)テールを有するUSP6 IVT mRNAまたはDNAコントロールを、市販の脂質キャリアー (Lipofectamine(登録商標) MessengerMaxTM for mRNA and Lipofectamine(登録商標) 2000 for DNA)を用いて293Tにトランスフェクションした。mRNAは0.5μg、DNAは1.6μgで使用した。USP6を発現している細胞の割合を、抗HA抗体を用いた細胞内フローサイトメトリーで測定した。
【0124】
図21Aに見られるように、すべての細胞株でIVT USP6またはUSP6(Y162H)が高レベルで発現しており、A673株およびK562株ではDNAコントロールの発現をも上回っていた。WT USP6のmRNAの発現は、USP6(Y162H)のmRNAと同一であった。
【0125】
USP6 IVT mRNAの機能性は、CD54とCD155の表面のアップレギュレーションを見ることで、上記の細胞株で確認された。DNAサンプルのHA+集団は、K562システムには存在しなかったため、解析から除外した。図21Bに見られるように、WT USP6 mRNAは、主要な抗腫瘍性表面マーカーのアップレギュレーションをもたらし、USP6(Y162H)mRNAと同様の働きをする。
【0126】
外因性のIVT mRNAは、ウイルスを模倣して標的細胞を死滅させることができる。このような非特異的な細胞死は、細胞がIVTのmRNAを異物として認識するのを防ぐために、改変ヌクレオチドを組み込むことで回避できる。ウリジンとシトシンをそれぞれシュードウリジンと5-メチルシトシンに置換(例えば50%)することで、非特異的な細胞死を防ぐことができる。これを検証するために、改変ヌクレオチドを有するまたは有しないUSP6やシプリディナルシフェラーゼ(cLuc)のmRNAを、細胞内でテストした。cLuc mRNAはコントロールmRNAとして使用した。細胞死はPARPの切断によってモニターされた。細胞が死ぬと、PARPタンパク質が切断され、低分子量のバンドが現れる。蛋白質p65はローディングコントロールとした。図22にあるように、改変ヌクレオチドは非特異的な細胞死を防ぐ。USP6 mRNAや、改変ヌクレオチドを含まないコントロールのcLuc mRNAは、著しい非特異的な細胞死をもたらす。
【0127】
USP6は、強力な抗腫瘍サイトカインであるインターフェロン(IFN)に対する腫瘍細胞の反応を劇的に高める。USP6は、抗腫瘍性サイトカインであるCXCL9、CXCL10、CCL5、TRAILの産生を誘導し、IFNを投与すると、これらのケモカインの発現が相乗的に増加する。また、変異型のUSP6 mRNA(USP6(CS/A6-)と命名)も作成した。USP6(CS/A6-)は、TBCドメインとUSPドメインの両方に不活性化の変異があり、機能的に不活性となっていること以外は、WT USP6のmRNAと同一である。ここでは、A673細胞にUSP6 mRNA(ARCAキャップ、改変ヌクレオチド、3’UTRなし、一定のpolyA)またはコントロールとしてcLuc/USP6(CS/A6-)をトランスフェクトした。トランスフェクション後、これらの細胞を1000U/mL IFNβまたは0.5ng/mL IFNγで24時間処理した。USP6と抗腫瘍性サイトカインの発現をRT-qPCRで測定した。図23に見られるように、USP6 mRNAおよび変異型USP6 mRNAが標的細胞で発現している。しかし、USP6のmRNAのみが強力なサイトカインの発現を誘導し、IFN処理により相乗的に増強されることがわかった。
【0128】
ユーイング肉腫の細胞株A673では、強い相乗効果のある抗腫瘍性サイトカインの産生が観察されたため、別のユーイング肉腫の細胞(TC-71)も試験した。ここでは、TC-71細胞にUSP6のmRNAまたはコントロールとしてcLucをトランスフェクトした。トランスフェクション後、これらの細胞を5ng/mLのIFNγで24時間処理した。USP6と抗腫瘍性サイトカインの発現をRT-qPCRで測定した。図24に見られるように、USP6 mRNAはTC-71細胞に発現し、単独で強力な抗腫瘍性サイトカインの発現を誘導し、IFNγとの相乗効果を発揮した。この結果は、A673細胞で見られた結果を再現している。
【0129】
USP6 mRNAの効果がユーイング肉腫だけに限定されないことを確認するために、AML細胞株THP-1にUSP6 mRNAまたはコントロールとしてcLucをトランスフェクトした。トランスフェクション後、これらの細胞を1000U/mL IFNβまたは5ng/mL IFNγで24時間処理した。USP6と抗腫瘍性サイトカインの発現をRT-qPCRで測定した。図25に見られるように、USP6 mRNAはAML細胞株THP-1に発現し、単独で強力な抗腫瘍性サイトカインの発現を誘導し、IFNβ/γと相乗効果を発揮した。この結果は、ユーイング肉腫の細胞株で見られた結果を再現している。
【0130】
さらに、AML細胞株U937に、USP6のmRNAまたはコントロールとしてcLucをトランスフェクトした。トランスフェクション後、これらの細胞を1000U/mL IFNβまたは5ng/mL IFNγで24時間処理した。USP6と抗腫瘍性サイトカインの発現をRT-qPCRで測定した。図26に見られるように、USP6 mRNAはAML細胞株U937で発現し、単独で強力な抗腫瘍性サイトカインの発現を誘導し、IFNβ/γとの相乗効果を発揮した。この結果は、ユーイング肉腫の細胞株で見られた結果を再現している。
【0131】
炎症性物質の強力で長期的な発現は、患者にとって有害である。従って、USP6の発現は一過性であることが望ましい。ここでは、THP-1細胞株にUSP6のmRNAまたはコントロールとしてcLucをトランスフェクトした。トランスフェクション後、1日、2日、3日後に細胞を採取した。図27に示すように、USP6 mRNAは、1日後に強力な抗腫瘍性サイトカインの産生を引き起こし、3日目には急速に減少した。
【0132】
以上のように、USP6のmRNAの発現がqPCRによって確認された。ここでは、機能的なタンパク質レベルを調べた。このmRNAはHAでタグ付けされたUSP6をコードしているので、細胞内フローサイトメトリー(ICフロー)を用いて、数日間にわたってUSP6を発現した細胞の割合を観察した。さらに、この細胞をUSP6+とUSP6-の集団(HA+とHA-)に分けて、USP6の影響を受けることが知られている抗腫瘍性受容体の発現を観察することもできた。図15に示すように、293T細胞におけるUSP6の発現は、1日目にピークに達した後、3日目までに急速に減少してベースラインに戻り、これはTHP-1における前回のqPCRタイムコースと同様である。USP6を発現している細胞の割合が減少しても、USP6を発現している細胞(すなわち、HA+)は、抗腫瘍性表面受容体を高発現している。
【0133】
さらに実験では、HeLa(子宮頸部がん)に、何もしないか、(NT)、cLuc、USP6のmRNAをトランスフェクトした。その後、USP6タンパク質の発現をICフロー(HA抗体による染色)で検出し、抗腫瘍性表面受容体DR5とCD54のアップレギュレーションを検出した。サンプルは処理後6時間および24時間後に採取した。USP6の発現は、mRNAを処理した6時間後に検出され、24時間後には急速に増加した。また、処理後6時間という早い段階で、主要な抗腫瘍性表面マーカーのアップレギュレーションが観察された。
【0134】
また、USP6のmRNAは、AML細胞の抗腫瘍性表面マーカーをアップレギュレートすることも判明した。AML細胞(U937およびTHP-1)にcLucまたはUSP6のmRNAをトランスフェクトし、DR5、CD155、MHCクラスI、CD54などの抗腫瘍性表面マーカーの表面発現をフローサイトメトリーで分析し、サンプルをHAー集団とHA+集団(USP6-およびUSP6+)に分けて解析した。図28に見られるように、主要な抗腫瘍表面受容体の強い、特異的なアップレギュレーションは、USP6細胞でのみ観察された。
【0135】
さらに、AML細胞に、コントロールとしてUSP6 mRNAまたは不活性なUSP6(CS/A6-)変異体をトランスフェクトした。USP6-/+の集団では、上記と同様に抗腫瘍性表面受容体を分析した。図29に見られるように、不活性化したUSP6(CS/A6-)変異体ではなく、USP6+細胞では、主要な抗腫瘍表面受容体の強い特異的なアップレギュレーションが観察されたが、NB4細胞ではDR5は例外であった。
【0136】
さらに、細胞株HeLaとA673にリードUSP6のmRNAをトランスフェクトした。USP6-/+の集団では、上記と同様に抗腫瘍性表面受容体を分析した。図30に見られるように、主要な抗腫瘍表面受容体の強力で特異的なアップレギュレーションは、USP6+細胞のみならず、両細胞株でも観察された。
【0137】
USP6は、インターフェロン(IFN)の細胞毒性や強力なアポトーシス促進リガンドであるTRAILに対して、がんの細胞を感作できる。USP6が主要な死の受容体をアップレギュレートすることから、USP6のmRNAががんの細胞株に選択的に死を誘導できるかどうかが検証された。HeLa、A673、THP-1の各細胞株に、USP6またはコントロールのmRNAをトランスフェクトした後(cLucまたはUSP6(CS/A6-))、アネキシン染色により細胞の死をモニターした。図31に示すように、USP6 mRNAは、いくつかの異なるがん細胞株において選択的に死を誘導した。これらの結果は、図17に示したデータをさらに発展させたものである。
【0138】
以上、本発明の好ましい実施形態の一部を説明し、具体的に例示してきたが、本発明がこのような実施形態に限定されることを意図しているわけではない。以下の特許請求の範囲に記載されているように、本発明の範囲と精神から逸脱することなく、これに様々な変更を加えることができる。
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