(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】眼球装着装置からのプログラム可能な治療剤送達
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
A61F9/007 170
A61F9/007 160
(21)【出願番号】P 2021539573
(86)(22)【出願日】2020-01-07
(86)【国際出願番号】 US2020012548
(87)【国際公開番号】W WO2020146358
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-11-03
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520497472
【氏名又は名称】トゥウェンティ トゥウェンティ セラピューティクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】グティアレズ、クリスチャン
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168703(JP,A)
【文献】特表2016-517547(JP,A)
【文献】特表2008-528176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療剤放出および送達システムであって、
患者の眼の治療部位に治療剤を送達するために前記患者の眼の表面上に位置決めされるように構成された治療剤送達デバイスと、および
前記治療剤送達デバイスに接続されたコントローラーであって、実行可能な命令を格納するための非一過性メモリと、少なくとも以下の前記命令を実行するためのプロセッサとを備える、前記コントローラーと、を含み、
前記命令が、
第1の推奨送達プロファイルによる治療剤の投与量を送達するための第1のコマンド信号を受信することであって、前記第1の推奨送達プロファイルが投与時間帯を含む、前記受信することと、
前記治療剤送達デバイスが、前記治療剤の投与量が前記患者の眼の前記治療部位に送達される前に、1つまたはそれ以上のコンプライアンス条件を満たすかどうかを、最初の時点で決定することと、
前記治療剤を前記眼に送達するための前記1つまたはそれ以上のコンプライアンス条件が満たされた時、次に、
前記患者の眼に前記治療剤を送達するための放出および送達プロトコルを初期化することと、および
ポジティブなコンプライアンスイベントを記録することと、
前記1つまたはそれ以上のコンプライアンス条件が満たされない場合、前記投与時間帯の境界と現在の時間とを比較することによって、前記投与時間帯がまだアクティブであるかどうかを判断することと、
前記投与時間帯がアクティブでなくなった時、
前記治療剤の前記投与量の送達をスキップすることと、
前記スキップがネガティブなコンプライアンスイベントとして記録することと、
前記投与時間帯がアクティブである時、次に
前記1つまたはそれ以上のコンプライアンス条件が2回目に満たされるかどうかを決定することと、を含む、
治療剤放出および送達システム。
【請求項2】
請求項1に記載の治療剤放出および送達システムにおいて、少なくとも1つの遠隔装置をさらに含み、前記遠隔装置が、医療提供者端末、患者コントロールモバイル装置、またはバイオセンサーのうちの1つである、治療剤放出および送達システム。
【請求項3】
請求項1に記載の治療剤放出および送達システムにおいて、前記1つまたはそれ以上のコンプライアンス条件が、前記コントローラーの非一過性メモリに格納される、治療剤放出および送達システム。
【請求項4】
請求項1に記載の治療剤放出および送達システムにおいて、
前記治療剤を保持するように構成された1つまたはそれ以上のリザーバと、
前記治療剤を開放および放出するように構成された1つまたはそれ以上の治療剤送達機構であって、1つの治療剤送達機構が1つのリザーバを開放および放出するように構成される、前記治療剤送達機構と、
前記コントローラーと通信する信号発生器と、
前記信号発生器からの信号を前記1つまたはそれ以上の治療剤送達機構に送達するように構成されたコンデンサーおよび/または1つまたはそれ以上の回路と、
をさらに含む、治療剤放出および送達システム。
【請求項5】
請求項4に記載の治療剤放出および送達システムにおいて、
前記コントローラーが、前記コンデンサーおよび/または前記1つまたはそれ以上の回路に、前記1つまたはそれ以上の治療剤送達機構が開放して1つまたはそれ以上のリザーバから前記治療剤の投与量を放出する原因となる作動信号を送達させる第2のコマンド信号を生成して送信する命令を信号発生器に伝達するようにさらに構成される、治療剤放出および送達システム。
【請求項6】
請求項5に記載の治療剤放出および送達システムおいて、
前記命令が、信号発生器に命じて、コンデンサーまたは1つまたはそれ以上の回路に別の作動信号を送達させ、電界を用いてイオントフォレシス電極システムに前記治療剤の投与量を標的組織に送達させる第3のコマンド信号を生成および送信することをさらに含む、治療剤放出および送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、治療剤の送達に関するものであり、より詳細には、眼球装着装置から治療剤をオンデマンドで送達するためのシステムおよび方法に関するものである。
【0002】
医療行為を行う際には、患者の身体の特定の部位に治療剤(医薬品、化学物質、低分子医薬品、遺伝子など)を投与する必要がある。多くの治療剤が直面する大きな課題は、特定の部位に効果的な方法で送達できないことである。従来の治療剤の送達システムでは、経口摂取(例:固体や液体)、吸入剤、または血管内注射などにより、治療剤は循環系、肺系、またはリンパ系などを経由して全身に行き渡る。ほとんどの治療剤では、患者に投与された治療剤のかなりの部分(例えば、約99%)が腫瘍部位に到達しない化学療法のように、治療剤のごく一部だけが影響を受ける特定の部位や病的組織に到達する。
【0003】
従来の全身的なデリバリーシステムとは対照的に、ターゲットを絞った治療剤送達では、治療剤を目的の部位や組織に集中させ、残りの組織では治療剤の相対的な濃度を下げることを目指す。標的治療剤デリバリーシステムの目的は、病気の組織(体の特定の部分)と治療剤の相互作用を長持ちさせ、局所化し、標的化し、保護することにある。しかし、病気の中には、現在利用可能な治療法では治療が困難なものや、アクセスが困難な解剖学的領域に薬剤を投与しなければならないものがある。患者の眼は、アクセスが困難な解剖学的領域の典型的な例であり、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、および緑内障などの多くの眼疾患は、現在利用可能な治療法の多くで治療が困難である。
【0004】
過去数十年にわたり、これらの眼疾患に対処するために、治療剤の処方とデリバリーシステムの開発の両方を含む多くのアプローチが行われてきた。しかし、治療剤の開発には大きな進歩があったにもかかわらず、現在利用可能な治療剤の送達装置やシステムは、主に2つの投与経路:1)局所的な点眼、2)眼内注射に限られる。これらの2つの投与方法は、治療法が厳密に維持される場合には有効ですが、眼の治療部位における治療剤の局在性の維持や、治療剤の投与における患者のコンプライアンスの欠如が主な原因で、患者に長期的な治癒結果をもたらすことができない。そのため、局所点眼薬や眼内注射の欠点を補うために、眼内治療剤の投与方法の改善が求められる。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 米国特許出願公開第2014/207048号明細書
(特許文献2) 米国特許出願公開第2014/228783号明細書
(特許文献3) 国際公開第2018/064377号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
様々な実施形態において、治療剤放出および送達装置のコントローラーで、投与時間帯に基づいて治療剤の用量を送達するための第1のコマンド信号を受信する工程であって、第1のコマンド信号を受信すると、コントローラーは、1またはそれ以上のコンプライアンス条件が満たされているかどうかを決定し、1またはそれ以上の条件が満たされていない場合、コントローラーは、治療レジメンに基づいて投与時間帯がまだアクティブであるかどうかを決定し、1またはそれ以上の条件が満たされた場合、コントローラーは、信号発生器に第2のコマンド信号を生成して送信し、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に作動信号を送信して、1またはそれ以上の治療剤送達機構に1またはそれ以上のリザーバから治療剤を開放して放出させるように命令する、放出および送達プロトコルを開始する、方法が提供される。
【0006】
いくつかの実施形態では、第1のコマンド信号は、コントローラーまたは治療剤送達装置のメモリに格納されたアルゴリズムまたはデータテーブルからコントローラーによって受信される。いくつかの実施形態では、治療プロトコルがアルゴリズムまたはデータテーブルに格納されており、これは、治療レジメンの投与時間帯に従って治療剤の用量の送達を引き起こすために第1のコマンド信号を生成する命令を含む。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のコンプライアンス条件は、コントローラーまたは治療剤送達装置のメモリに格納される。
【0007】
いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のコンプライアンス条件は、治療剤送達装置を標的組織に接触させる工程を含み、1またはそれ以上の遵守条件が満たされているかどうかを決定する工程は、治療剤送達装置が標的組織に接触しているかどうかを決定する工程を含む。いくつかの実施形態では、コントローラーは、現在の時間を治療レジメンにおける投与時間帯の時間境界と比較することによって、投与時間帯がまだアクティブであるかどうかを決定する。
【0008】
オプションとして、本方法は、コントローラーによって、治療剤の投与をポジティブなコンプライアンスイベントとして記録する工程をさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、放出および送達プロトコルは、信号発生器に、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電界を用いて治療剤の用量を標的組織に送達するための別の作動信号を送達させる第3のコマンド信号を生成して送信するように命令する工程をさらに含む。
【0010】
様々な実施形態において、治療剤放出および送達装置のコントローラーにおいて、標的組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して生理学的パラメータをモニタリングする工程と、コントローラーによって、生理学的パラメータが異常であるかどうかを決定する工程と、生理学的パラメータが異常でない場合、コントローラーによって、生理学的パラメータのモニタリングを継続する工程とを含む方法が提供される。生理的パラメータに異常がある場合、コントローラーは、信号発生器に第1のコマンド信号を生成して送信し、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に作動信号を送達して、1またはそれ以上の治療剤送達機構を開放し、1またはそれ以上のリザーバから治療剤を放出させるように命令する、放出および送達プロトコルを開始する。
【0011】
いくつかの実施形態では、生理的パラメータは眼圧である。いくつかの実施形態では、本方法は、コントローラーによって、生理学的パラメータの目標値またはベースライン値を取得および記録することをさらに含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、生理学的パラメータが異常であるかどうかを決定する工程は、(i)モニタリング中の生理学的パラメータの値を目標値またはベースライン値と比較して、生理学的パラメータの偏差誤差の大きさおよび方向を決定する工程と、(ii)決定された生理学的パラメータの偏差誤差の大きさおよび方向を、生理学的パラメータに設定された所定の閾値または値の範囲と比較して、生理異常が検出されたかどうかを決定する工程とを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、放出および送達プロトコルは、信号発生器に、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電界を用いて治療剤の用量を標的組織に送達するための別の作動信号を送達させる第2のコマンド信号を生成して送信するように命令する工程をさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、放出・送達プロトコルは、保存された治療レジメンに基づいて、現在の状況に合わせて放出される治療剤の種類と用量を決定する。
【0015】
いくつかの実施形態では、現在の状況は、異常な生理学的パラメーターの検出であり、生理学的パラメーターの測定された大きさと偏差の方向を含み、コントローラーによって開始された放出および配信プロトコルは、生理学的パラメーターの測定された大きさと偏差の方向に特異的に放出される治療剤の種類と用量を特定する。
【0016】
様々な実施形態において、以下を含む方法が提供される。治療剤放出および送達装置のコントローラーによって、医療提供者によって設定された1またはそれ以上のパラメータを取得する工程と、前記コントローラーによって、標的組織に接続される1またはそれ以上のセンサーを介して生理学的パラメータをモニタリングする工程と、前記コントローラーによって、医療提供者によって設定された1またはそれ以上のパラメータに基づき、生理学的パラメータが異常であるかどうかを決定する工程と、生理的パラメータが異常である場合、前記コントローラーにより、1またはそれ以上のパラメータに基づき、患者に特有の治療レジメンを取得する工程であって、前記治療レジメンは、治療剤のクラス、推奨される投与量、および投与時間帯を含む、前記取得する工程と、前記コントローラーにより、生理的パラメータのモニタリングに基づいて、治療レジメンを調整すべきかどうかを決定する工程と、治療レジメンを調整すべき場合、前記コントローラーにより、以下:(i)1またはそれ以上のパラメータ、および(ii)生理学的パラメータのモニタリングに基づいて、前記治療レジメンを調整する工程と、コントローラーにより、信号発生器に第1のコマンド信号を生成して送信し、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に作動信号を送達し、1またはそれ以上の治療剤送達機構を開放し、1またはそれ以上のリザーバから少なくとも1つの治療剤の用量を放出するように命令する放出および送達プロトコルを開始する工程と、を含み、調整された治療レジメンに基づいて、コントローラーによって、放出および送達プロトコルが選択される。
【0017】
いくつかの実施形態では、生理学的パラメータは眼圧である。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のパラメーターは、複数の治療剤を含む治療剤治療階層と、治療剤治療階層における各治療剤の1日の最大投与量と、患者の現在の医学的状態および治療目標に基づく生理学的パラメータの1またはそれ以上の目標またはベースラインプロファイルとを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、生理学的パラメータが異常であるかどうかを決定することは、以下:(i)モニタリング中の生理学的パラメータの値を、1またはそれ以上の目標またはベースラインプロファイルからの目標またはベースライン値と比較して、生理学的パラメータの偏差誤差の大きさおよび方向を決定する工程と、(ii)決定された生理学的パラメータの偏差誤差の大きさおよび方向を、生理学的パラメータに設定された所定の閾値または値の範囲と比較して、異常な生理学が検出されたかどうかを決定する工程とを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、治療レジメンを調整すべきかどうかの判断は、生理学的パラメータのモニタリング、患者の健康因子、およびパーソナライゼーション因子に基づいて行われる。いくつかの実施形態では、コントローラーは、(i)1またはそれ以上のパラメータ、(ii)生理学的パラメータのモニタリング、および(iii)患者の健康因子、パーソナライゼーション因子、またはそれらの組み合わせ、に基づいて、治療レジメンを調整する。
【0020】
いくつかの実施形態では、放出および送達プロトコルは、信号発生器に、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電界を用いて少なくとも1つの治療剤の用量を標的組織に送達するための別の作動信号を送達させる第2のコマンド信号を生成して送信するように命令することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明は、以下の非限定的な図を見て、よりよく理解されるだろう。
【0022】
【
図1A】
図1Aは、様々な実施形態に従った、局所的、注射、および能動的な薬物送達モダリティを描いた図である。
【
図1B】
図1Bは、様々な実施形態に沿った動的な治療帯を有する局所的、注射、および能動的な薬物送達モダリティを描いた図である。
【
図2A】
図2A~2Cは、様々な実施形態に沿った治療剤放出装置を示す。
【
図2B】
図2A~2Cは、様々な実施形態に沿った治療剤放出装置を示す。
【
図2C】
図2A~2Cは、様々な実施形態に沿った治療剤放出装置を示す。
【
図3】
図3は、様々な実施形態に沿った治療剤の放出および送達のためのシステムを示す。
【
図4】
図4~6は、様々な実施形態に沿った治療を提供するための例示的なフローを示す。
【
図5】
図4~6は、様々な実施形態に沿った治療を提供するための例示的なフローを示す。
【
図6】
図4~6は、様々な実施形態に沿った治療を提供するための例示的なフローを示す。
【
図7】
図7は、様々な実施形態に沿った2つの薬剤に対する治療剤送達装置によって実行可能なプログラムされた投与タイミングの例を示す、および
【
図8】
図8は、3つの薬剤について、治療剤送達装置が実行可能なプログラムされた投与タイミングの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
I.導入
以下の開示は、眼球装着装置から治療剤をオンデマンドで送達(能動的送達)するためのシステムおよび方法を説明するものである。本明細書に記載されるシステムおよび/または方法の様々な実施形態は、1またはそれ以上の治療剤(異なる種類または同じ種類)のプログラムされた標的送達のための制御方法、タイミングおよびアルゴリズムに向けられる。本明細書では、「標的」または「標的送達」という語句は、治療剤を対象者に局所的に送達する技術であって、対象者の治療部位における治療剤の濃度を治療部位の外側の領域と比較して増加させるものを指す。本明細書では、「制御された」または「制御された送達」という用語は、治療剤を局所的または全身的に、所定の速度で、所定の期間送達する技術を意味する。本明細書では、「治療剤」または「エージェント」という用語は、患者の領域に1またはそれ以上の活性剤を投与するための、任意の所望の医薬剤または個々の医薬剤の混合物などからなる。様々な実施形態において、装置またはシステムは、治療剤を眼球の治療部位に標的化して制御して送達するために、眼球の表面(例えば、角膜または強膜の表面)に配置されるように設計される。これらの装置やシステムは、水性(液体)、ゲル、乾燥(粉末)、またはそれらの組み合わせを含む1またはそれ以上の物理的形態の治療剤を収容するリザーバーを含む。リザーバーは、治療部位に治療剤を投与する前に、治療剤を一時的に保管するための手段となる。いくつかの実施形態では、治療剤の放出および送達は、能動的、受動的、またはそれらの組み合わせで、1またはそれ以上の機構によって制御され、目薬などの局所投与と比較して、治療剤の関心領域(例えば、強膜、角膜外層、後眼部など)における滞留時間を約30秒から30分以上に大幅に増加させる、完全にカスタマイズ可能な標的治療剤送達レジームを実現する。
【0024】
従来の眼の治療剤を投与するシステムや装置(1)局所点眼、2)眼内注射、には、コンプライアンスや投与プロファイルのカスタマイズという問題がある。例えば、従来の眼の治療剤投与システムや装置では、コンプライアンスの欠如が主な原因で、最終的に患者の長期的な治療効果を得ることができず、患者がコンプライアンスを達成できるような補助的な薬剤投与技術が必要とされる。さらに、従来のシステムおよび装置は、投与量または送達の積極的な制御がない患者支援処置(例えば、点眼薬)または外来処置(例えば、針注射)に依存しており、したがって、患者固有の治療を実施する能力がない。
図1Aは、局所投与、注射、および能動的な薬剤投与の様式を描いた図である。従来の薬剤投与方法と比較して、能動的な投与方法は、治療域内の生理的に適切な濃度を維持するのに理想的である。
図1Bは、動的な治療域を有する局所的、注射、および能動的な薬物送達様式を示す図である。従来の薬剤投与方法と比較して、アクティブデリバリーは、治療域が時間的に変化する条件下で、生理的に適切な濃度を維持できる唯一の方法である。
【0025】
これらの問題に対処するために、本発明は、治療剤のリザーバと、硝子体液などの標的領域に治療剤をオンデマンドで送達するための1またはそれ以上の治療剤送達機構とを有する装置またはシステムに向けられる。いくつかの実施形態では、装置またはシステムは、出力信号または状態が測定されず、入力信号またはシステム設定点と比較するためにフィードバックされない開放制御システムまたは開放ループシステムを使用して、治療剤のオンデマンド送達を提供する。例えば、1またはそれ以上の治療剤送達機構からの治療剤のバーストまたは周期的な放出は、コマンド信号によってトリガされ得る。他の実施形態では、装置またはシステムは、閉制御システムまたは閉ループシステム(フィードバック制御)を使用して、治療剤のオンデマンド送達を提供する。ここでは、開ループシステムが前進経路として使用されるが、1またはそれ以上のフィードバックループまたは経路が、出力信号と入力信号との間に含まれる。例えば、1またはそれ以上の治療剤送達機構からの治療剤のバーストまたは周期的な放出は、1またはそれ以上のセンサーから得られた1またはそれ以上のパラメータに基づいて引き金となり得る。本明細書では、動作が何かによって「引き金とされ得る」または何かに「基づく」場合、これは、動作が何かの少なくとも一部に引き金とされるか、または何かの少なくとも一部に基づくことを意味する。
【0026】
本開示の1つの例示的な実施形態は、以下:治療剤放出および送達装置のコントローラーで、投与時間帯に基づいて治療剤の用量を送達するための第1のコマンド信号を受信する工程と、第1のコマンド信号を受信すると、前記コントローラーは、1またはそれ以上のコンプライアンス条件が満たされているかどうかを判断する工程と、1またはそれ以上の条件が満たされている場合、前記コントローラーは、信号発生器に、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、1またはそれ以上の治療剤送達機構が開いて1またはそれ以上のリザーバから治療剤の用量を放出する作動信号を送達する第2のコマンド信号を生成して送信するように命令する放出および送達プロトコルを開始する工程と、を含む。
【0027】
本開示の別の例示的な実施形態は、以下:治療剤放出および送達装置のコントローラーで、標的組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して生理学的パラメータをモニタリングする工程と、前記コントローラーによって、生理学的パラメータが異常であるかどうかを判断する工程と、生理学的パラメータが異常である場合、前記コントローラーによって、信号発生器に第1のコマンド信号を生成して送信するように命令し、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に作動信号を送達して、1またはそれ以上の治療剤送達機構が開き、1またはそれ以上のリザーバから治療剤の用量を放出する放出および送達プロトコルを開始する工程とを備える。
【0028】
本開示の別の例示的な実施形態は、以下を含む:治療剤放出および送達装置のコントローラーによって、医療提供者によって設定された1またはそれ以上のパラメータを取得する工程と、前記コントローラーによって、標的組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して生理学的パラメータをモニタリングする工程と、前記コントローラーによって、医療提供者によって設定された1またはそれ以上のパラメータに基づいて、生理学的パラメータが異常であるかどうかを判断する工程とを含み、生理的パラメータが異常である場合、前記コントローラーにより、1またはそれ以上のパラメータに基づいて、患者に特有の治療レジメンを取得する工程であって、前記治療レジメンは、治療剤クラス、推奨される投与量、および投与時間帯を含む、工程と、前記コントローラーにより、生理的パラメータのモニタリングに基づき、治療レジメンを調整すべきかどうかを判断する工程と、治療レジメンを調整すべき場合、前記コントローラーにより、以下:(i)1またはそれ以上のパラメータ、および(ii)生理学的パラメータのモニタリングに基づき、治療レジメンを調整する工程と、前記コントローラーにより、信号発生器に、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、1またはそれ以上の治療剤送達機構が開き、1またはそれ以上のリザーバから少なくとも1つの治療剤の用量を放出するための作動信号を送達するように、第1のコマンド信号を生成して送達するように命令する放出および送達プロトコルを開始する工程を含み、前記放出および送達プロトコルは、調整された治療レジメンに基づきコントローラーにより選択される。
【0029】
有利なことに、これらのアプローチは、一次の一定した放出プロファイルからオンデマンドのパルス性放出(例えば、バースト、周期的、または連続的)まで、完全にカスタマイズ可能な薬物放出レジームを達成することができるオンデマンドの治療剤送達を可能にし、許容できる濃度の薬剤を眼内組織に安全に送達し、薬剤への全身暴露を最小限に抑えることができる。また、有利なことに、治療剤を多重化して、「活性剤のカクテル」を所定の治療ウィンドウで標的組織に送達することができる。さらに、ここに記載される装置やシステムは、個々の患者に合わせた治療剤の投与を可能にする。
【0030】
治療剤送達装置またはシステム
図2Aおよび2Bは、様々な実施形態に従った治療剤放出のための装置200を示す。装置200は、1またはそれ以上のリザーバ210および1またはそれ以上の治療剤送達機構215を含むポリマー基板205を含む。ポリマー基板205は、ポリイミド、液晶ポリマー、パリレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、硬質ガス透過性フルオロシリコーンアクリレート、シリコンベースのポリマー、シリコーンアクリレート、環状オレフィン共重合体(COP/COC)、ヒドロゲル、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。ポリマー基板205は、眼球などの組織の輪郭に取り付けるための形状および十分な柔軟性を有する。特定の実施形態では、形状は半円の形状である。他の実施形態では、形状は、
図2Aに示すように、円またはドーナツ形状(例えば、コンタクトレンズの形状)である。
【0031】
様々な実施形態において、1またはそれ以上のリザーバ210は、ポリマーの1またはそれ以上の層と一体化しているか、またはそれ内に形成される。1またはそれ以上のリザーバ210は、治療剤225のための保持チャンバー220と、保持チャンバー220から治療剤225を放出するための出口230とを含んでいても良い。1またはそれ以上のリザーバ210は、水性(液体)、ゲル、乾燥(粉末)、またはそれらの他の組み合わせを含む、様々な物理的形態の治療剤に適合する。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のリザーバ210は、1またはそれ以上のタイプの治療剤225を一時的に保管するための手段を提供して、制御された速度でプログラムされた時間に治療剤をオンデマンドで放出および送達することを可能にし、それによって経強膜吸収を介して眼に治療効果を提供する。いくつかの実施形態では、各リザーバ210は、単一のタイプの治療剤225(他のリザーバと同じまたは異なる)を保持する。本明細書で使用される治療剤の種類とは、医薬剤または個々の医薬剤などの混合物の化学的構成、医薬剤または個々の医薬剤などの混合物の投与量、または化学的構成と投与量の組み合わせを意味する。他の実施形態では、各リザーバ210は、複数の種類の治療剤225(他のリザーバと同じまたは異なる)を保持する。他の実施形態では、第1のタイプの治療剤225は、複数のリザーバ210の第1のサブセット内に配置され、第2のタイプの治療剤225は、複数のリザーバ215の第2のサブセット内に配置される。1またはそれ以上のリザーバ210は、0.01nL~100μL、例えば0.01nL~10μLまたは約1.0μLの体積を有し、既知の量または体積の治療剤を貯蔵することができる。本明細書では、「実質的に」、「およそ」、「約」という用語は、当業者が理解するように、大部分は指定されたものであるが、必ずしも完全には指定されていない(完全に指定されたものを含む)と定義される。開示された任意の実施形態において、「実質的に」、「およそ」、または「約」という用語は、指定されたものの「[パーセンテージ]以内」で置き換えられても良く、パーセンテージには0.1、1、5、および10パーセントが含まれる。1またはそれ以上のリザーバ210は、誘電体(例えば、SiO2、Al2O3)、または他の承認された薬剤接触材料などの受動的、密閉的、絶縁体、および/または不活性なコーティングで裏打ちされても良い。
【0032】
様々な実施形態において、装置200は、1またはそれ以上の治療剤送達機構215を介して、1またはそれ以上のリザーバ210から組織への治療剤225の放出を達成する。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上の治療剤送達機構215は、能動的な装置、または能動的および受動的な装置の組み合わせである。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のリザーバ210は、治療剤225のための保持チャンバー220と、出口230と、保持チャンバー220から出口230を通る治療剤225の通過を一時的に遮断する能動的装置または能動的および受動的装置の組み合わせと、を備える。いくつかの実施形態では、単一の治療剤送達機構215が、1またはそれ以上のリザーバのそれぞれに対して提供される(同一または異なる機構が各リザーバに対して提供される)。他の実施形態では、複数の治療剤送達機構215が、1またはそれ以上のリザーバのそれぞれに対して提供される(同じまたは異なる機構が各リザーバに対して提供される)。他の実施形態では、単一の治療剤送達機構215が1またはそれ以上のリザーバの一部に対して提供され、一方で、複数の治療剤送達機構215が1またはそれ以上のリザーバの他の部分に対して提供される(同一または異なる機構(複数)が各リザーバに対して提供される)。治療剤送達機構、リザーバ、および治療剤の配置は、本明細書において、いくつかの記載された実施形態に関して特に詳細に記載されるが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、他の配置が企図されることが理解されるべきである。例えば、治療剤送達機構、リザーバ、および治療剤の異なる配置は、治療剤(複数可)の放出および送達が、組織内への最適な治療剤の移送が起こり得る組織の表面(例えば、眼の強膜表面)に時間的および空間的に標的化されるように、本明細書において企図される。
【0033】
いくつかの実施形態では、1またはそれ以上の治療剤送達機構215は能動的である。本明細書で使用される「能動的(active)」とは、治療剤の放出のための機構の開閉を引き起こすために外部刺激が加えられることを意味する。例えば、装置200は、装置200内の1またはそれ以上のリザーバ210に物理的に結合された少なくとも1つの弁(治療剤送達機構215)の電子制御によって、オンデマンドの薬剤放出を実現することができる。特定の実施形態では、ポリマー基板205上に回路が形成され、回路は、少なくとも1つの弁を開閉するために刺激を加えることができるように、電流源および少なくとも1つの弁(治療剤送達機構215)を備える。単一のリザーバーは、組織表面への拡散に利用可能な有効表面積を増加させるために、選択された時間に活性化することができるいくつかの「弁」を含むことができる。これにより、所定の時間に提供される有効量が増加する。また、バルブは時間をかけて作動させることで、治療に必要な有効量を一定に保つことができる。また、複数のバルブ付きリザーバーを設置して、それぞれのリザーバーに個別に薬剤を充填し、ボーラス投与することも可能である。
【0034】
バルブは、単回使用で、リザーバー内の治療剤がバルブの開口部を通って組織(例えば強膜表面)に向かって通過するように、電子的にオンデマンドで開くことができる。あるいは、バルブは複数回使用可能で、電子的にオンデマンドで開閉され、リザーバー内の治療剤がバルブの開口部を通って組織(例えば強膜表面)に向かって通過することができる。バルブの開口部の動作は、装置と強膜の間に位置する装置後の薄い涙膜に治療剤の放出を開始する。バルブの開口部と強膜の間の距離は、涙液によって満たされており(20μm未満)、治療剤が強膜表面に拡散するための短い距離を提供する。薄い涙液、足下の装置の配置、強膜表面への治療剤の優先的な放出の組み合わせにより、治療剤の滞留時間の増加(30分以上、局所投与の場合は30秒程度)と強膜表面での治療剤の利用可能性の増加を促進する準静的な環境を提供し、経強膜吸収と後眼部のバイオアベイラビリティを最大化する。
【0035】
特定の実施形態では、治療剤送達機構215は、活性ポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)を含む。例えば、活性ポリマー装置は、治療剤225の制御された放出を、長期間にわたって一定の用量で、一次の一定の放出プロファイルに従って、またはオンデマンドのパルス性信号/命令に従って提供するために、制御放出機構の一部として使用されても良い。いくつかの実施形態では、治療剤は、ポリマー膜の後ろにカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能するポリマー層によってリザーバ内にカプセル化されるか、または閉鎖される)。ポリマー膜は、外部からの刺激に応じて物理的または化学的な挙動変化を起こす能力を有する環境コントローラーであっても良い。例えば、温度またはpHの変化がポリマーの挙動変化を引き起こすために使用されても良いが、超音波、イオン強度、酸化還元電位、電磁放射線、および化学的または生化学的薬剤などの他の刺激が使用されても良い。挙動変化の種類としては、溶解性の遷移、親水性-疎水性バランスの遷移、コンフォメーションの遷移などが考えられる。刺激を受けて挙動が変化すると、環境コントローラーはリザーバーから治療剤を放出することができる。環境コントローラーのポリマーには、ヒドロゲル、ミセル、ポリプレックス、ポリマーと薬物の結合体、またはそれらの組み合わせが含まれる。ヒドロゲルは、多量の水や生物学的流体を吸収することができる親水性の(共)ポリマーネットワークである。物理的または共有結合的な架橋により、ヒドロゲルは水に溶けなくなることがある。本発明では、様々な刺激に反応するようにヒドロゲルを設計することができる。
【0036】
特定の実施形態では、治療剤送達機構215は、活性金属装置(または同様の材料で構成された装置)を含む。例えば、活性金属装置は、制御放出機構の一部として使用され、治療剤225の制御放出を、長期間にわたって一定量で、一次の一定放出プロファイルに従って、またはオンデマンドのパルス性信号/命令に従って提供することができる。いくつかの実施形態では、治療剤は、金属膜の後ろにカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能する金属層によってリザーバ内にカプセル化されるか、または閉鎖される)。治療剤の放出は、バルブを構成する金属薄膜に電位または低レベルの電圧刺激を加えることで、電子的に起動させることができる。いくつかの実施形態では、薄膜がリザーバーの側面にシールを形成し、組織に対して配置されることがある(例えば、
図2B参照)。金属膜は、環境流体(例えば、涙の膜)の存在下で電位が印加されると、電解を起こす。放出メカニズムは、以下の平衡方程式で記述することができる。
【数1】
であり、速度制限工程は、表面からの金錯体の活性化された脱着である。
【0037】
いくつかの実施形態では、金が金属膜材料として使用される。これは、金は蒸着やパターン化が容易で、他の物質との反応性が低く、全pH範囲にわたる多くの溶液で自発的な腐食に抵抗するためである。また、金は生体適合性の高い材料であることがわかる。しかし、涙液に自然に含まれるような少量の塩化物イオンが存在すると、可溶性の塩化金錯体の形成に有利な電位領域が生じる。この腐食領域の陽極電位を0.8~1.2V、例えば約1.0Vに保つことで、約50nm~約500nmの厚さを持つフィルムの再現性のある金溶解が可能になる。この領域より低い電位では、低すぎて腐食が起こりにくいが、この領域より高い電位では、ガスが発生し、不動態化する金酸化物層が形成されるため、腐食が遅くなったり、止まったりする。銅やチタンなどの他の金属は、このような条件では自然に溶解する傾向があり、電位を印加しても可溶性物質を形成しない。いくつかの実施形態では金を使用するが、他の材料を使用して同様の電気分解を介した薬剤放出を実現することができることを理解されたい。
【0038】
いくつかの実施形態では、治療剤送達機構215は、1またはそれ以上の受動的な装置と1またはそれ以上の能動的な装置との組み合わせを含む。特定の実施形態では、治療剤送達機構215は、受動的なポリマー装置(または同様の材料で構成された装置)および能動的なポリマーまたは金属装置である。例えば、1またはそれ以上のリザーバ210からの治療剤225の制御された放出を提供するために、制御放出機構の一部として、能動的なポリマーまたは金属装置を使用しても良い。治療剤225は、ポリマー層または金属層の背後にカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能するポリマー層または金属層によってリザーバ内にカプセル化されるか、または閉鎖される)。活性ポリマーまたは金属装置が外部刺激を介して開かれると、治療剤225は、排出口230を介して保持チャンバー220からポリマーマトリックスまたはヒドロゲルなどの受動的ポリマー装置に放出されても良い。治療剤225が受動的ポリマー装置を通過すると(例えば、拡散または浸透圧ポンプを介して)、治療剤225が放出され、標的組織の表面(例えば、強膜表面)に送達されても良い。あるいは、1またはそれ以上のリザーバ210から治療剤225の制御された放出を提供するために、制御放出機構の一部として受動的なポリマー装置を使用しても良い。治療剤225は、ポリマー層の後ろにカプセル化され、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能するポリマー層によってリザーバ内にカプセル化され、または閉鎖される)。治療剤225が受動的ポリマー装置を通過すると(例えば、拡散または浸透圧ポンプを介して)、治療剤225は、出口230を介して保持チャンバー220から、ポリマー層または金属層の背後にカプセル化または提供されているような能動的ポリマーまたは金属装置に放出されても良い。活性ポリマーまたは金属装置が外部刺激を介して開かれると、治療剤225が放出され、標的組織の表面(例えば、強膜表面)に送達されても良い。
【0039】
いくつかの実施形態では、治療剤送達機構215は、治療剤225の組織内への送達を促進するために、イオントフォレシス電極システムを含む。イオントフォレシスは、電界を印加して、イオン化された治療剤の組織への浸透を促進する局所的な非侵襲性の技術である。特定の実施形態では、局所的なpHレベルを維持し、可溶性のバルク電極種を排除する能力のために、Ag-Ag/Cl電極系などのイオントフォレシス電極系が使用される。しかし、イオントフォレティック電極システムは、白金、白金/イリジウム(PtIr)およびそれらの合金、炭素、塩化亜鉛/塩化亜鉛、金、所定のpH範囲で溶液中の電気分解に抵抗する他の適切な不溶性および不活性金属、およびそれらの組み合わせなどの他の電極材料から構成されていても良い。アノードチャンバーには、イオン化可能な治療剤D+とその対イオンA-およびNaCl(涙液)が入っている。電極(例えば、アノード)に電位を印加すると、回路に電流が流れる。電極溶液の界面では、Ag+とCl-が反応して不溶性のAgClが生成され、電極表面に析出する。エレクトロマイグレーションにより、イオン化剤であるD+を含む陽イオンがアノードのコンパートメントから組織内へと運ばれる。同時に、内因性アニオン(主にCl-)がアノードチャンバーに移動する。カソードチャンバーでは、Cl-イオンが電極(例えば、陰極)表面から放出され、電気的に中性であるためには、陰イオンがカソードチャンバーから失われるか、陽イオンが組織から陰極室に入ることが必要である。イオントフォレティックデリバリーの範囲と浸透深さは、電界と適用時間に関連する。
【0040】
いくつかの実施形態では、イオントフォレシス電極システムは、能動素子または能動装置と受動装置の組み合わせの放出点から、エレクトロマイグレーションを介して標的組織(例えば、硝子体液)に治療剤225を輸送するための第1のイオントフォレシス電極240(例えば、アノード)を含む1またはそれ以上のチャンバーまたはコンパートメント235(例えば、アノードチャンバー)を含む。特定の実施形態では、第1のイオントフォレシス電極240は、ポリマー基板205内に形成される1またはそれ以上のリザーバ210の下に位置する。さらに、1またはそれ以上のチャンバーまたはコンパートメント235の少なくとも一部は、ポリマー基板205の外部の環境にさらされる。1またはそれ以上のチャンバーまたはコンパートメント235は、能動的または能動的および制御された放出装置の組み合わせを介した治療剤225の放出時に、リザーバから治療剤225を受け取ることができる。治療剤225は、イオン化可能であっても良く、対イオン(対イオンは、治療剤225の電荷と反対の電荷を有する)が、1またはそれ以上のリザーバ210または1またはそれ以上のチャンバーもしくはコンパートメント235内に配置されても良い。複数の種類の治療剤が使用される実施形態では、複数の種類の対イオンも使用されても良い(例えば、第1の種類の治療剤がイオン化され、第1の種類の対イオンが第1の種類の治療剤とは反対の電荷を有し、第2の種類の治療剤がイオン化され、第2の種類の対イオンが第2の種類の治療剤とは反対の電荷を有する場合がある)。イオントフォレシス電極システムは、組織(例えば、強膜)内の電気的中立性を維持するための第2のイオントフォレシス電極250(例えば、カソード)を含む1またはそれ以上のチャンバまたはコンパートメント245(例えば、カソードチャンバー)をさらに含む。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のチャンバーまたはコンパートメント245が、ポリマーの1またはそれ以上の層内に形成され、1またはそれ以上のチャンバーまたはコンパートメント245の少なくとも一部が、ポリマー基板205の外部の環境にさらされる。
【0041】
図2Cに示すように、装置200は、ポリマー基板205の実質的に全体の周りに形成されたオーバーモールドポリマー層255をさらに含んでも良い。いくつかの実施形態では、ポリマー基板205は、オーバーモールドポリマー層255によって完全に封入される。オーバーモールドポリマー層255は、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロゲル、シリコンベースのポリマー、シリコーンエラストマー、またはそれらの組み合わせで形成されても良い。特定の実施形態では、オーバーモールドポリマー層255は、30%から50%の間の含水率、例えば約45%の含水率を有する。いくつかの実施形態では、治療剤送達機構215は、能動的装置(複数)(例えば、ポリマーまたは金属の能動的装置およびイオントフォレティック電極システム)とオーバーモールドポリマー層255(ポリマー受動装置)との組み合わせである。治療剤225は、ポリマー製または金属製の活性装置の背後にカプセル化されるか、または提供されても良い(例えば、バルブとして機能する金属層によってリザーバー内にカプセル化されるか、または閉鎖される)。外部刺激および溶解を介してポリマーまたは金属活性装置が開かれると、治療剤225は、
図2Cに示すように、リザーバ210の保持チャンバー220から、出口230を介してオーバーモールドポリマー層に放出されても良い。治療剤225が受動的ポリマー装置を通過すると(例えば、拡散または浸透圧ポンプを介して)、治療剤225は、第1の電極240および第2の電極250を含むイオントフォレシス電極システムを介して、標的組織の表面(例えば、強膜表面)に放出および送達されても良い。治療剤の放出および送達のためのこの機構は、完全にプログラム可能でカスタマイズ可能な能動的放出および送達の開始を伴うとはいえ、受動的な負荷および放出の薬剤溶出アプローチに類似した薬剤放出動態を達成するために使用されても良い。
【0042】
他の実施形態では、装置200は、オーバーモールドポリマー層255(例えば、ヒドロゲル)に露出したアクセスポイントまたは開口部を含み、1またはそれ以上のリザーバ210の表面を露出させる。これらの実施形態では、装置後の涙膜または組織は、治療剤送達機構215またはリザーバ210の出口230と直接接触する。本明細書で使用される用語「直接的」または「直接」は、その間に何かがないこととして定義されても良い。本明細書で使用される「間接」または「間接的」という用語は、その間に何かがあると定義しても良い。治療剤225がチャンバ220から放出されると、治療剤225は、第1の電極240および第2の電極250を含むイオントフォレシス電極システムからの促進された送達により、装置後の涙膜または組織に直接浸透する。この放出および送達のメカニズムを使用して、目薬の局所的な適用と同様に、完全にプログラム可能でカスタマイズ可能な活性放出および送達の代替放出動態を達成することができるが、滞留時間が大幅に増加し、バイオアベイラビリティが向上し、薬物損失が最小限になるという利点がある。より一般的には、装置200は、局所的な点眼薬や眼球内注射では現在利用できない、カスタマイズされた送達プロファイルを可能にする。有利なことに、治療帯が変化する場合や周期的に変化する場合(例えば、緑内障のような概日リズムに起因する場合)、装置200は完全にカスタマイズされた方法でこれらの変化に対応することができる。
【0043】
装置200は、電源260、コンデンサー265、通信装置270(例えば、WiFiアンテナ)、および電子機器モジュール275(すなわち、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせ)をさらに含んでも良い。いくつかの実施形態では、電源260、コンデンサー265、通信装置275、および電子モジュール280は、ポリマーの1またはそれ以上の層と一体化しているか、またはその内に形成される。他の実施形態では、電源260、コンデンサー265、通信装置270、および電子機器モジュール275は、ポリマーの1またはそれ以上の層の上面に形成され、例えば、近位面に形成される。他の実施形態では、電源260、コンデンサー265、通信装置270、および電子機器モジュール275は、基板205と統合された別のポリマー基板上に形成される。さらに他の実施形態では、電源260、コンデンサー265、通信装置270、および電子機器モジュール275は、基板205および/または別個の基板と一体化したハウジング内に形成される。ハウジングは、高周波透過用のポリマー、バイオセラミックスまたはバイオガラスなどの生体適合性を有する材料、またはチタンなどの金属で構成されていても良い。
【0044】
電源260は、電子機器モジュール275の構成要素に電力を供給し、動作させるために、電子機器モジュール275に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電源260は、コンデンサー265に接続(例えば、電気的に接続)されて、1またはそれ以上の回路280に電力を供給し、電流の流れを提供しても良い。通信装置270は、例えば高周波(RF)テレメトリまたはWiFiを介して外部装置と有線または無線で通信するために、電子機器モジュール275に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電子機器モジュール275は、電子機器モジュール275が1またはそれ以上の回路280に接続されたゲート、電極、またはセンサーなどの電子部品に信号または電流を印加することができるように、コンデンサー265および1またはそれ以上の回路280に接続(例えば、電気的に接続)されても良い。電子機器モジュール275は、1またはそれ以上の治療剤送達機構215に電位を印加すること、回路に電位を印加すること、または1またはそれ以上の電極に電位を印加することなど、装置200に起因する機能を生成することができるアナログおよび/またはデジタル回路を実装する離散型および/または集積型の電子回路コンポーネント(例えば、1またはそれ以上のプロセッサ)を含んでも良い。様々な実施形態において、電子機器モジュール275は、コンデンサー265または1またはそれ以上の回路280に電圧、電位、電流、光信号、または超音波信号を電子部品に送達させる信号を生成する信号発生器、通信装置270を介して外部装置から受信した信号、または1またはそれ以上の回路280に接続された電極もしくはセンサーを介して信号を決定または感知するコントローラーなどのソフトウェアおよび/または電子回路部品を含むことができる。装置200の放出および送達パラメータを制御し、および/または、1またはそれ以上のリザーバ210を介して治療剤225の放出および送達を行うコントローラーと、治療剤225を放出または送達するための1またはそれ以上のプロセスを実行するために、信号発生器およびコントローラーによって動作可能なプログラム命令を有するメモリとを備える。
【0045】
装置200、治療剤送達機構215、および電子機器モジュール275は、いくつかの記載された実施形態に関して、単一のウェアラブル眼球ユニットとして本明細書に記載されているが、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、装置200、治療剤送達機構215、および電子機器モジュール275を構成する様々なシステムおよび配置が企図されていることを理解すべきである。例えば、装置200は、クラウドコンピューティング環境などの分散環境内に治療剤送達機構215および電子機器モジュール275を含んでいても良く、装置205、1またはそれ以上の治療剤送達機構215、および電子機器モジュール275は、1またはそれ以上の通信ネットワークを介して通信しても良い。通信ネットワークの例には、制限なく、インターネット、ワイドエリアネットワーク(WAN)、ローカルエリアネットワーク(LAN)、イーサネットネットワーク、パブリックネットワークまたはプライベートネットワーク、有線ネットワーク、無線ネットワークなど、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0046】
図3は、様々な実施形態に従った治療剤放出および送達システム300を示す。いくつかの実施形態では、治療剤放出および送達システム300は、1またはそれ以上の送達装置305(例えば、
図2A~2Cに関して説明した装置200)、任意のカプセル化層310、および基板315を含む。特定の実施形態では、治療剤放出および送達システム300は、患者の片目または両目に配置される。基板315は、能動的またはカスタマイズされたオンデマンドのイオントフォレティック経強膜または経角膜治療剤送達を提供することができるソフトウェアおよび/または電子回路コンポーネントを含む。ソフトウェアおよび/または電子回路構成要素は、電源320(例えば、
図2A~2Cに関して記載された電源260)、コントローラー325(例えば、
図2A~2Cに関して記載された電子機器モジュール275)、1またはそれ以上のリザーバ330、イオントフォレシス電極送達システム335、1またはそれ以上のセンサー340、および通信装置345を含む。
【0047】
特定の実施形態では、コントローラー325は、本実施形態の機能性、工程、および/または性能を実装するために、装置305の他の様々なコンポーネントの1またはそれ以上の動作および性能を制御するためのプログラム命令などの、コンピュータ可読プログラム命令を解釈および実行するように動作する処理回路を含む、1またはそれ以上の従来のプロセッサー、マイクロプロセッサー、または特殊な専用プロセッサを含む。特定の実施形態では、コントローラー325は、コンピュータ可読プログラム命令によって動作可能に実装され得る本発明のプロセス、工程、機能、および/または動作を解釈し、実行する。例えば、コントローラー325は、1またはそれ以上の回路365を介して、1またはそれ以上のリザーバ330、イオントフォレシス電極送達システム335、1またはそれ以上のセンサー340、および通信装置345と対話的に通信する制御ロジック345、投与ロジック350、変調ロジック355、および通信ロジック360を含む。いくつかの実施形態では、コントローラー325によって取得または生成された情報、例えば、薬剤の送達の状態、薬剤の投与量、治療ウィンドウ内の時間的な位置などは、記憶装置370に格納することができる。
【0048】
記憶装置370は、磁気および/または光記録媒体などの非一過性機械可読記憶媒体およびそれらに対応するドライブなどの、取り外し可能/非取り外し可能、揮発性/不揮発性のコンピュータ可読媒体を含むことができるが、これらに限定されない。ドライブおよびそれらの関連するコンピュータ可読媒体は、本発明の異なる態様に従ったコントローラー325の動作のためのコンピュータ可読プログラム命令、データ構造、プログラムモジュールおよび他のデータの記憶を提供する。いくつかの実施形態では、記憶装置370は、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラム、およびプログラムデータを格納する。
【0049】
システムメモリ375は、例えば、フラッシュメモリなどの非一過性機械可読記憶媒体、リードオンリーメモリ(「ROM」)などの永久メモリ、ランダムアクセスメモリ(「RAM」)などの半永久メモリ、他の任意の適切なタイプの非一過性の記憶構成要素、またはそれらの任意の組み合わせを含む、1またはそれ以上の記憶媒体を含んでも良い。いくつかの実施形態では、起動時などに装置305の様々な他のコンポーネント間で情報を転送するのに役立つ基本的なルーチンを含む入出力システム(BIOS)が、ROMに格納されても良い。さらに、オペレーティングシステム、プログラムモジュール、アプリケーションプログラム、および/またはプログラムデータの少なくとも一部など、1またはそれ以上のプロセッサにアクセス可能であり、かつ現在操作されているデータおよび/またはプログラムモジュールが、RAMに含まれていても良い。実施形態では、プログラムモジュールおよび/またはアプリケーションプログラムは、例えば、制御ロジック345、投与ロジック350、変調ロジック355、および通信ロジック360を構成することができ、これらは、1またはそれ以上のプロセッサーの実行のための命令を提供する。
【0050】
通信装置345は、装置305が、モバイル装置や、ネットワーク環境、例えば、クラウド環境のサーバなどの他のコンピューティング装置などのリモート装置またはシステムと通信することを可能にする、任意のトランシーバのような機構(例えば、ネットワークインターフェース、ネットワークアダプタ、モデム、またはそれらの組み合わせ)を含んでも良い。例えば、装置305は、通信装置845を使用して、1またはそれ以上のローカルエリアネットワーク(LAN)および/または1またはそれ以上のワイドエリアネットワーク(WAN)を介して、リモート装置またはシステムに接続されても良い。
【0051】
コントローラー325は、外部コンピューティング装置などの外部プログラマまたはリーダー345を介して、インプラント後にリモートアクセスすることができる。例えば、外部プログラマまたはリーダー345は、患者への配布前または配布後に(例えば、患者が装置305を装着している間に)コントローラー325をチェックおよびプログラムし、送達プロセス中に放出および送達パラメータを調整し、例えば、放出および送達パラメータの初期セットを提供し、投薬レジメン中または投薬レジメン後に装置の投与量、送達、およびコンプライアンスに関する任意のデータを読み取るために、医療専門家が使用することができる。いくつかの実施形態では、外部プログラマまたはリーダー345は、メモリ350(例えば、記憶装置またはシステムメモリ)と、1またはそれ以上のプロセッサー355と、WiFiアンテナなどの通信装置とを備える。外部プログラマまたはリーダー345は、例えば、無線電波送信などの有線または無線の通信手段を介してコントローラー325と通信しても良い。
【0052】
本明細書で述べたように、装置300は、1またはそれ以上のリザーバから送達領域への治療剤の放出を制御し、送達領域から組織への治療剤のエレクトロマイグレーションを引き起こす回路を流れる電流を生成するために、回路への電位の印加を制御するように構成されても良い。特に、装置300は、コントローラー325が、システムメモリ375などの非一過性機械可読記憶媒体に含まれるプログラム命令を実行することに応答して、タスク(例えば、プロセス、工程、方法および/または機能)を実行することができる。プログラム命令は、データ記憶装置370などの別のコンピュータ可読媒体(例えば、非一過性機械可読記憶媒体)から、または通信装置345もしくはクラウド環境の内外のサーバを介して外部プログラマもしくはリーダー345などの別の装置から、システムメモリ375に読み込まれても良い。いくつかの実施形態では、オペレータは、本明細書に記載された様々な態様に従って、タスクの実行を容易にし、および/またはそのようなタスクの最終結果を実現するために、1またはそれ以上の入力装置および/または1またはそれ以上の出力装置を介して、外部プログラマまたはリーダー345と対話することができる。追加的または代替的な実施形態では、ハードワイヤード回路をプログラム命令の代わりに、またはプログラム命令と組み合わせて使用して、異なる側面に一致するタスク、例えば、工程、方法および/または機能を実現することができる。したがって、本明細書に開示される工程、方法および/または機能は、ハードウェア回路とソフトウェアの任意の組み合わせで実装することができる。
【0053】
治療剤の投与方法
図4~6は、本発明の実施形態によるオンデマンドの治療剤放出および送達のために実行される処理を示す簡略化されたフローチャートである。いくつかの実施形態では、電子的に制御された薬剤放出および送達(例えば、1またはそれ以上の治療剤送達機構を介して)により、複数の治療剤を離散的にまたは組み合わせて投与することが可能である。薬剤の放出および送達は、1またはそれ以上の投与レジメンを遵守するために管理者(例えば、医療提供者)によって指定される1またはそれ以上の送達プロファイルに従うようにプログラムされても良い。例えば、緑内障の治療のために臨床現場で現在使用される標準的な投与スケジュールを表1に示す。これは例示のためのものであり、他の疾患/状態では独自の特定の投与スケジュールが必要となる可能性があり、本実施形態ではそれが考慮される。各薬剤クラスは、緑内障の治療における独自の作用機序(例えば、房水生成対眼球排出)を標的としており、複数の薬剤の生物学的効果が相加的であると理解される場合、薬剤クラスは、個別に(単剤療法)または組み合わせて(例えば、二剤療法、三剤療法、四剤療法)使用することができる。提案された特定の時間は、医療従事者が推奨する投与法をユーザーが遵守する限り、個々のユーザーに合わせて調整することができる。したがって、カスタマイズされたまたはプログラムされた放出および送達プロファイルは、β遮断薬を毎日2回まで送達するなど、単一の治療レジメンに対して指定することができ、これは、
図4~6に関して記載されたプロセスによって実行することができる。
【表1】
【0054】
さらに、マルチセラピーレジメンでは、カスタマイズまたはプログラムされた放出および送達プロファイルを指定することができる。表2は、緑内障のための例示的なバイセラピーレジメンを示す。
図7は、表2に示された2つの薬剤について、治療剤送達装置によって実行可能なプログラムされた投与タイミングの例を示す。ここでは、医療従事者が患者に点眼薬を処方するのと同じ推奨投与法を装置が提供する。しかし、現在の臨床的に推奨されているスケジュールで配信することができる一方で、装置は任意の所望の時間に放出して配信することができ、所望であればより高い頻度で配信することができることを明らかにすべきである。さらに、薬剤は、
図7に描かれているように同時に放出されても良いし、眼球内への独立した非競合的な拡散を可能にするために、時間をずらしても良い。タイミングは、例えば、投与イベントの間に±1時間をプログラミングすることでずらすことができるが、患者の個々のスケジュールに合わせて完全にカスタマイズ可能である。
【表2】
【0055】
表3は、緑内障のための例示的な三剤療法レジメンを示す。
図8は、表3に示された3つの薬剤について、治療剤送達装置によって実行可能なプログラムされた投与タイミングの例を示す。ここでは、医療従事者が患者に点眼薬を処方するのと同じ推奨投与法を装置が提供する。しかし、現在の臨床的に推奨されるスケジュールで配信することができる一方で、装置は任意の所望の時間に、また所望であればより高い頻度で放出して配信することができることを明らかにすべきである。さらに、薬剤は、
図8に示すように同時に放出されても良いし、眼球内への独立した非競合的な拡散を可能にするために、時間をずらしても良い。タイミングは、例えば、投与イベントの間に±1時間をプログラミングすることでずらすことができるが、患者の個々のスケジュールに合わせて完全にカスタマイズ可能である。
【表3】
【0056】
本明細書で述べたように、
図4~6のフローチャートは、本発明の様々な実施形態によるシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品の可能な実装のアーキテクチャ、機能、および動作を示す。これに関連して、フローチャートまたはブロック図の各ブロックは、指定された論理機能を実装するための1またはそれ以上の実行可能な命令からなる、コードのモジュール、セグメント、または部分を表すことができる。また、いくつかの代替実装では、ブロックに記載される機能が、図に記載される順序から外れて発生する可能性があることにも留意する必要がある。例えば、連続して示される2つのブロックは、実際には実質的に同時に実行されることがあり、また、関係する機能に応じて、ブロックは時に逆の順序で実行されることがある。また、ブロック図および/またはフローチャート図の各ブロック、およびブロック図および/またはフローチャート図のブロックの組み合わせは、指定された機能または行為を実行する特別目的のハードウェアベースのシステム、または特別目的のハードウェアとコンピュータ命令の組み合わせによって実装することができることにも留意されたい。
【0057】
図4は、従来の受動的な薬剤溶出アプローチでは不可能な、カスタマイズされたプログラム可能な投与レジメンを可能にするために、電子的に制御された治療剤の放出および送達を提供するオープン制御システムまたはオープンループシステムによって使用されるプロセスを示す簡略化されたフローチャート400を示す。いくつかの実施形態では、治療剤の投与は、患者や医療従事者の介入を必要とせず、システムによって自動的に行われる。これらの技術は、治療剤の送達のタイミングおよび速度を制御し、治療活動の持続時間を維持し、治療剤の送達を患者の特定の領域または組織にターゲティングすることができる。これにより、患者が治療剤の投与のために医療機関を訪れる予定を立てたり、治療剤を自己投与したりする必要がなくなり、便利な投与経路が提供され、患者のコンプライアンスが向上する可能性がある。これらの実施形態では、システム(例えば、
図2に関して記載されたシステム200)は、1またはそれ以上の治療剤送達装置(例えば、
図1A~1Cに関して記載された装置100)を含むことができ、この装置は、1またはそれ以上のリザーバを含むポリマー基板、1またはそれ以上の治療剤送達機構、およびコントローラーを含む。
【0058】
工程405では、治療剤放出・送達システムのコントローラーが、治療剤の送達のための第1のコマンド信号を受信する。第1のコマンド信号は、無線または有線のコマンド信号として、またはユーザボタンなどの操作可能な装置(「manipulandum」)によって手動で受信されても良い。いくつかの実施形態では、第1コマンド信号は、医療提供者端末、スマートフォンなどの患者コントローラー、眼圧センサーなどのバイオセンサー、独立した移植可能なコントローラーなどの遠隔装置からコントローラーによって受信されても良い。他の実施形態では、第1コマンド信号は、コントローラーまたは治療剤送達装置のメモリに格納されたアルゴリズムまたはデータテーブルなどの内部コンポーネントからコントローラーによって受信されても良い。例えば、治療プロトコルは、アルゴリズムまたはデータテーブルに格納されていても良く、このアルゴリズムまたはデータテーブルは、治療レジメン、例えば、プログラムされた投与時間帯が開かれる/閉じられるときを指定する所定のスケジュールまたはテーブルに従って治療剤の送達を引き起こすための第1のコマンド信号を生成する命令を含む。
【0059】
工程410では、第1のコマンド信号を受信すると、コントローラーは、1またはそれ以上のコンプライアンス条件が満たされているかどうかを判断する。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上のコンプライアンス条件は、コントローラーまたは治療剤送達装置のメモリに格納される。1またはそれ以上のコンプライアンス条件は、標的組織と接触する装置の位置を含むことができる。例えば、コントローラーは、接触センサーを使用して、治療剤送達装置が標的組織と接触しているかどうかを判断しても良い。1またはそれ以上の条件が満たされていない(例えば、装置が患者の眼に配置されていない)場合、プロセスは工程415に続き、コントローラーは、保存された治療レジメンに基づいて、投与時間帯がまだアクティブであるかどうかを決定する。いくつかの実施形態では、コントローラーは、現在の時間を、保存された治療レジメンにおける投与時間帯の時間境界(例えば、開始時間および終了時間)と比較することによって、投与時間帯がまだアクティブであるかどうかを決定することができる。投与時間帯がまだアクティブでない場合、プロセスは工程420に進み、コントローラーは治療剤の投与量の配信をスキップし、スキップを負のコンプライアンスイベントとして記録する。いくつかの実施形態では、治療剤の投与量の送達をスキップすることは、コントローラーが、1またはそれ以上のリザーバから治療剤を放出および送達する信号を送信する放出および送達プロトコルを開始しないことを意味する。代わりに、コントローラーは、治療剤の投与量の配信をスキップしたことを、コンプライアンス追跡目的のために負のコンプライアンスイベントとして記録する。ネガティブコンプライアンスの記録は、記録保持/追跡、およびその後の検索と報告のために、コントローラーまたは治療剤投与装置のメモリに保存されても良い。投与時間帯がまだアクティブである場合、プロセスは工程410に戻り、コントローラーは、1またはそれ以上のコンプライアンス条件が満たされているかどうかを判断し続ける。
【0060】
1またはそれ以上の条件が満たされた場合(例えば、装置が患者の眼に配置された場合)、プロセスは工程425に進み、コントローラーは、信号発生器に、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電圧、電位、電流、光信号、または超音波信号などの作動信号を送達させる第2のコマンド信号を生成および送達するように命令する放出および送達プロトコルを開始し、1またはそれ以上の治療剤送達機構が開き、1またはそれ以上のリザーバから治療剤を放出する。いくつかの実施形態では、放出・送達プロトコルは、信号発生器に第3のコマンド信号を生成して送信するように命令し、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電圧、電位、電流、光信号、または超音波信号などの作動信号を送達させて、イオン穿孔電極システムが電界を用いて治療剤を標的組織に送達するようにすることをさらに含む。いくつかの実施形態では、放出および送達プロトコルは、保存された治療レジメンに基づいて信号発生器に命令する。例えば、放出・送達プロトコルは、保存された治療レジメンに基づいて、現在の投与時間帯に放出される治療剤の種類と用量を決定し、信号発生器に、決定された治療剤の種類と用量を保存するリザーバーを開くように命令し、任意で、開かれたリザーバーに関連するイオン穿孔電極システムの電極を活性化して、決定された治療剤の種類と用量を電界を用いて標的組織に送達するように命令する。
【0061】
工程430では、コントローラーは、治療剤の投与量の放出および送達を、肯定的なコンプライアンスイベントとして記録する。いくつかの実施形態では、ポジティブなコンプライアンスを記録する前に、コントローラーは、治療剤の投与量の放出および送達を確認する。確認は、第2のコマンド信号および任意に第3のコマンドシングルを生成して送信したことを信号発生器から確認することを含むことができる。さらに、または代わりに、確認は、治療剤の放出および任意に送達を検出する1またはそれ以上のセンサーからの信号を受信することを含んでも良い。いくつかの実施形態では、コントローラーは、治療剤の投与量の放出および送達を、コンプライアンス追跡目的のための肯定的なコンプライアンスイベントとして記録する。肯定的なコンプライアンスの記録は、記録保持/追跡、およびその後の検索と報告のために、コントローラーまたは治療剤送達装置のメモリに保存されても良い。コントローラーが治療剤の投与量の放出と送達を記録すると、プロセスは工程405に戻り、コントローラーは他の投与時間帯の開閉を示す他のコマンド信号のモニタリングを続ける。
【0062】
図5は、従来の受動的な薬剤溶出アプローチでは不可能であったカスタマイズされたプログラム可能な投与レジメンを可能にするために、電子的に制御された治療剤の放出および送達を提供する閉鎖制御システムまたは閉ループシステムによって使用されるプロセスを示す簡略化されたフローチャート500を示す。いくつかの実施形態では、治療剤の投与は、患者や医療従事者の介入を必要とせず、システムによって自動的に行われます。これらの技術は、治療剤の送達のタイミングおよび速度を制御し、治療活動の持続時間を維持し、治療剤の送達を患者の特定の領域または組織にターゲティングすることができる。これにより、患者が治療剤の投与のために医療機関を訪れる予定を立てたり、治療剤を自己投与したりする必要がなくなり、便利な投与経路が提供され、患者のコンプライアンスが向上する可能性があります。これらの実施形態において、システム(例えば、
図2に関して記載されたシステム200)は、1またはそれ以上の治療剤送達装置(例えば、
図1A~1Cに関して記載された装置100)を含んでもよく、この装置は、1またはそれ以上のリザーバを含むポリマー基板、1またはそれ以上の治療剤送達機構、およびコントローラーを含む。これらの実施形態では、システムは、標的組織からの信号を記録する1またはそれ以上のセンサーをさらに含み(例えば、眼圧センサーは、緑内障または高血圧を示すまたは評価することができる眼球内部の流体圧力を記録しても良い)、システムの制御システムと通信して、制御システムが治療剤送達に対する患者の生理学的応答を検出し、患者または医療提供者からの入力を減らしてまたは全く行わずに、本明細書に記載されている治療剤送達プロセスに自動的に調整(閉ループ制御システム)を行うことを可能にする。
【0063】
工程505では、治療剤放出・送達システムのコントローラーが、標的組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して、生理学的パラメータを検出・モニタリングする。1またはそれ以上のセンサーは、装置に搭載されていても良いし、患者の外部にあっても良いし、患者の内部に埋め込まれていても良い。様々な実施形態において、生理学的パラメータの検出およびモニタリングは、眼の液体または組織と接触している1またはそれ以上の眼内圧センサーからの眼内圧(IOPactual)の測定および記録を含む。コントローラーは、すべての検出および治療剤の放出と送達の日付と時間を記録し、さらなる分析と処理のためにデータのセグメントを保存することができる。生理データの記録は、連続的に行われても良いし、検出、応答性のある刺激、予定された時間、磁石(患者がイベントを示すために使用される)、および/または医療チームによってプログラムされた他のイベントによってトリガされても良い。治療剤放出および送達システムの検出アルゴリズムは、限られた電力および処理能力など、現在利用可能な技術の制約の中でリアルタイム検出を行うために、計算効率が高く、最適化されていても良い。いくつかの実施形態では、検出アルゴリズムのパラメータは設定可能であり、検出の感度、特異性、および待ち時間を調整するために医療チームによって選択されても良い。特定の実施形態では、検出アルゴリズムは、生理学的パラメータに発生するスパイクおよびリズミカルな活動を検出し、生理学的パラメータの振幅および周波数の両方の変化を識別し、周波数を考慮せずに生理学的パラメータの変化を識別し、および/または生理学的パラメータ測定データの時間分解能に応じて生理学的パラメータの変化を検出する。これらの検出アルゴリズムは、効率的(低い計算能力を必要とする)であり、数分の1秒以内の生理学的イベントを検出するように、または数秒にわたって起こる振幅、周波数、パワー、血流、炎症、流体圧などのより微妙な変化を検出するように構成することができます。
【0064】
工程510では、治療剤放出・送達システムのコントローラーが、検出された生理学的パラメータが異常であるかどうかを判断する。様々な実施形態において、所望の生理学的パラメータの目標値またはベースライン値が得られ、患者について記録される。いくつかの実施形態では、目標値またはベースライン値は、医療提供者から得られ、治療剤放出・送達装置のコントローラーまたはメモリに記録されても良い。ある実施形態では、眼圧の目標値またはベースライン値(IOPTarget)が、治療剤投与装置のコントローラーまたはメモリに記録される。いくつかの実施形態では、患者のモニタリングが開始されると、生理学的パラメータに記録された値が、目標値またはベースライン値とそれぞれ比較され、生理学的パラメータの変化の程度を決定することができる。そして、生理学的パラメータの変化の程度を、生理学的パラメータに設定された所定の閾値または値の範囲と比較して、異常な生理学が検出されたかどうかを判断しても良い。例えば、眼圧などの生理学的パラメータは、IOPTargetとIOPActualとの間の変化の程度が、設定された所定の閾値を超えるか、下回るか、または設定された所定の閾値の範囲外の我々の範囲内にとどまる場合に、異常であると判定されても良く、IOPTargetとIOPActualとの間の変化の程度が、異常とは逆の場合、例えば、設定された所定の閾値を下回るか、上回るか、または設定された所定の閾値の範囲外の我々の範囲内にとどまる場合に、眼圧は正常であると判定されても良い。検出された生理学的パラメータが異常であると判断されると、処理は工程515に進む。生理的パラメータが正常であると判断された場合、プロセスは工程505に進み、治療の残りの期間を通して生理的パラメータをモニタリングする。
【0065】
他の実施形態では、患者のモニタリングが開始されると、生理学的パラメータに記録された値を目標値またはベースライン値とそれぞれ比較して、生理学的パラメータの偏差誤差の大きさおよび方向を決定しても良い。そして、生理学的パラメータの偏差誤差の大きさと方向を、生理学的パラメータに設定された所定の閾値または値の範囲と比較して、異常な生理学が検出されたかどうかを判断しても良い。例えば、眼圧などの生理学的パラメータは、IOPActualのIOPTargetからの偏差誤差の大きさおよび方向が、設定された所定の閾値を超えるか下回るか、または設定された所定の閾値の範囲外にとどまる場合に、異常であると判定されてもよく、IOPActualのIOPTargetからの偏差誤差の大きさおよび方向が異常とは逆の場合、例えば、眼圧が正常であると判定されても良い。設定された所定のしきい値を下回るか超えるか、または設定された所定のしきい値の範囲外にとどまっている。検出された生理学的パラメータが異常であると判断されると、プロセスは工程515に進む。生理的パラメータが正常であると判断された場合、プロセスは工程505に進み、治療の残りの期間を通して生理的パラメータをモニタリングする。
【0066】
工程515では、コントローラーは、信号発生器に、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電圧、電位、電流、光信号、超音波信号などの作動信号を生成・送信させる第1のコマンド信号を命令し、1またはそれ以上の治療剤送達機構が開き、1またはそれ以上のリザーバから治療剤を放出させる放出・送達プロトコルを開始する。いくつかの実施形態では、放出および送達プロトコルは、信号発生器に、第2のコマンド信号を生成して送信するように命令することをさらに含み、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電圧、電位、電流、光信号、または超音波信号などの作動信号を送達させて、イオン穿孔電極システムが電界を使用して治療剤を標的組織に送達する。いくつかの実施形態では、放出および送達プロトコルは、保存された治療レジメンに基づいて信号発生器に命令する。例えば、放出・送達プロトコルは、保存された治療レジメンに基づいて、現在の状況に応じて放出される治療剤の種類と用量を決定し、信号発生器に、決定された治療剤の種類と用量を保存するリザーバを開くように命令し、任意で、開かれたリザーバに関連するイオン交換電極システムの電極を活性化して、決定された治療剤の種類と用量を電界を用いて標的組織に送達する。現在の状況は、異常な生理学的パラメータの検出である。いくつかの実施形態では、現在の状況は、生理学的パラメータの測定された変化の程度、または生理学的パラメータの測定された偏差の大きさおよび方向をさらに含み、コントローラーによって開始される放出および送達プロトコルは、生理学的パラメータの測定された変化の程度、または生理学的パラメータの測定された偏差の大きさおよび方向に特異的に放出される治療剤の種類および用量を特定することができる。したがって、コントローラーは、生理学的パラメータの変化の程度、あるいは生理学的パラメータの偏差の測定値に比例して、投与量と治療剤の種類を調整することができる。
【0067】
工程520では、治療剤が患者に投与されると、プロセスは工程505に進み、治療の残りの期間中、標的組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して、生理学的パラメータを検出およびモニタリングする。コントローラーは、システムに提供された生理学的パラメータ測定データの時間分解能に応じて、数時間から数日の間に制御をさらに精密化することができる。任意で、コントローラーは、治療剤の投与量の放出および送達を記録する。いくつかの実施形態では、投与量を記録する前に、コントローラーは治療剤の投与量の放出と送達を確認する。確認は、第1のコマンド信号および任意に第2のコマンドシングルを生成して送信したことを信号発生器から確認することを含むことができる。さらに、または代わりに、確認は、治療剤の投与量の放出および任意の送達を検出する1またはそれ以上のセンサーからの信号を受信することを含んでも良い。いくつかの実施形態では、コントローラーは、追跡目的で治療剤の投与量の放出および送達を記録する。投与量の記録は、記録保持/追跡、およびその後の検索と報告のために、コントローラーまたは治療剤投与装置のメモリに保存されても良い。コントローラーが治療剤の投与量を記録すると、プロセスは工程505に戻り、治療の残りの期間中、ターゲット組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して生理学的パラメータを検出し、モニタリングする。
【0068】
図6は、従来の受動的な薬剤溶出アプローチでは不可能な、カスタマイズされたプログラム可能な投与レジメンを可能にするために、電子的に制御された複数の治療剤の放出および送達を提供する閉鎖制御システムまたは閉ループシステムによって使用されるプロセスを示す簡略化されたフローチャート600を示す。いくつかの実施形態では、複数の治療剤の投与は、患者や医療従事者の介入を必要とせず、システムによって自動的に行われる。これらの技術は、治療剤の送達のタイミングと速度を制御し、治療活動の持続時間を維持し、治療剤の送達を患者の特定の領域または組織にターゲティングすることができる。これにより、患者が治療剤の投与のために医療機関を訪れる予定を立てたり、治療剤を自己投与したりする必要がなくなり、便利な投与経路が提供され、患者のコンプライアンスが向上する可能性がある。これらの実施形態では、システム(例えば、
図2に関して説明したシステム200)は、1またはそれ以上の治療剤送達装置(例えば、
図1A~1Cに関して説明した装置100)を含んでもよく、この装置は、複数のリザーバ、複数の治療剤送達機構、およびコントローラーを含むポリマー基板を含む。これらの実施形態では、システムは、標的組織からの信号を記録する1またはそれ以上のセンサーをさらに含み(例えば、眼圧センサーは、緑内障または高血圧を示すまたは評価することができる眼球内部の流体圧力を記録しても良い)、システムの制御システムと通信して、制御システムが治療剤送達に対する患者の生理学的応答を検出し、患者または医療提供者からの入力を減らすまたは全く行わずに、本明細書に記載された治療剤送達プロセスに自動的に調整を加える(閉ループ制御システム)ことを可能にする。
【0069】
工程605では、治療剤放出・送達システムのコントローラーが、医療提供者によって設定された1またはそれ以上のパラメータを取得する。1またはそれ以上のパラメータは、治療剤治療階層を含んでも良い。治療剤治療階層は、患者に影響を与える疾患または状態の治療または療法のために処方される様々なクラスの薬剤(例えば、表1~3に示される薬剤のクラス)を含んでも良い。治療剤治療階層は、様々なクラスの薬剤に対する優先順位システムを記述することができる。例えば、階層の上部にある薬剤のクラスは、階層の下部にある薬剤のクラスよりも優先されても良い。1またはそれ以上のパラメータは、追加的または代替的に、各クラスの薬剤(例えば、表1~3に示された推奨投与量)に対する最大処方日投与量制限を含んでも良い。1日の最大処方量の制限は、治療投与ごとの最大投与量および1日などの時間枠ごとの最大投与量を記述することができる。1またはそれ以上のパラメータは、1またはそれ以上の生理学的パラメータの1またはそれ以上の目標プロファイルを追加または代替的に含んでも良い。1またはそれ以上のターゲットプロファイルは、患者に影響を与える疾患または状態の治療または療法のための指標または評価である1またはそれ以上の生理学的パラメータに対して提供されても良い。1またはそれ以上の目標プロファイルは、1またはそれ以上の生理学的パラメータ(例えば、IOPTarget)の目標値またはベースライン値を記述しても良い。様々な実施形態において、医療提供者は、患者の現在の医学的状態および治療目標に基づいて、複数の治療剤を含む治療剤治療階層、治療剤治療階層における各治療剤の1日当たりの最大投与量、および1またはそれ以上の生理学的パラメータの1またはそれ以上の目標プロファイルをコントローラーに提供する。
【0070】
工程610では、コントローラーは、工程605で得られた1またはそれ以上のパラメータに基づいて、標的組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して、1またはそれ以上の生理学的パラメータを検出およびモニタリングする。1またはそれ以上のセンサーは、装置に搭載されていても良いし、患者の外部にあっても良いし、患者の内部に埋め込まれていても良い。様々な実施形態において、1またはそれ以上の生理学的パラメータの検出およびモニタリングは、眼の流体または組織と接触している1またはそれ以上の眼内圧センサーからの眼内圧(IOPactual)の測定および記録を含む。コントローラーは、すべての検出および治療剤の放出および送達の日時を記録し、さらなる分析および処理のためにデータのセグメントを保存しても良い。生理データの記録は、連続的に行われても良いし、検出、応答性のある刺激、予定された時間、磁石(患者がイベントを示すために使用される)、および/または医療チームによってプログラムされた他のイベントによってトリガされても良い。治療剤放出および送達システムの検出アルゴリズムは、限られた電力および処理能力など、現在利用可能な技術の制約の中でリアルタイム検出を行うために、計算効率が高く、最適化されていても良い。いくつかの実施形態では、検出アルゴリズムのパラメータは設定可能であり、検出の感度、特異性、および待ち時間を調整するために医療チームによって選択されても良い。特定の実施形態では、検出アルゴリズムは、生理学的パラメータに発生するスパイクおよびリズミカルな活動を検出し、生理学的パラメータの振幅および周波数の両方の変化を識別し、周波数を考慮せずに生理学的パラメータの変化を識別し、および/または生理学的パラメータ測定データの時間分解能に応じて生理学的パラメータの変化を検出する。これらの検出アルゴリズムは、効率的(低い計算能力を必要とする)であり、数分の1秒以内の生理学的イベントを検出するように、または数秒にわたって起こる振幅、周波数、パワー、血流、炎症、流体圧などのより微妙な変化を検出するように構成することができる。
【0071】
工程615では、治療剤放出・送達システムのコントローラーが、工程605で得られた1またはそれ以上のパラメータに基づいて、検出された1またはそれ以上の生理学的パラメータが異常であるかどうかを判断する。様々な実施形態において、所望の生理学的パラメータのそれぞれの目標値またはベースライン値は、患者について取得され記録される(例えば、工程605で取得され記録される)。いくつかの実施形態では、目標値またはベースライン値は、医療提供者から取得され、治療剤送達装置のコントローラーまたはメモリに記録されても良い。ある実施形態では、眼圧の目標値またはベースライン値(IOPTarget)は、治療剤送達装置のコントローラーまたはメモリに記録される。いくつかの実施形態では、患者のモニタリングが開始されると、生理学的パラメータに記録された値が、目標値またはベースライン値とそれぞれ比較され、生理学的パラメータの変化の程度を決定することができる。そして、生理学的パラメータの変化の程度を、生理学的パラメータに設定された所定の閾値または値の範囲と比較して、異常な生理学が検出されたかどうかを判断しても良い。例えば、眼圧などの生理現象は、IOPTargetとIOPActualとの間の変化の程度が、設定された所定の閾値を超えるか、下回るか、または設定された所定の閾値の範囲の外側で我々の範囲内に留まっている場合に、異常であると判定されてもよく、IOPTargetとIOPActualとの間の変化の程度が、異常とは逆の場合、例えば、設定された所定の閾値を下回るか、上回るか、または設定された所定の閾値の範囲の外側で我々の範囲内に留まっている場合に、眼圧が正常であると判定されても良い。
【0072】
他の実施形態では、患者のモニタリングが開始されると、生理学的パラメータについて記録された値を目標値またはベースライン値とそれぞれ比較して、生理学的パラメータの偏差誤差の大きさおよび方向を決定することができる。そして、生理学的パラメータの偏差誤差の大きさと方向を、生理学的パラメータに設定された所定の閾値または値の範囲と比較して、異常な生理学が検出されたかどうかを判断しても良い。例えば、眼圧などの生理現象は、IOPActualのIOPTargetからの偏差誤差の大きさおよび方向が、設定された所定の閾値を超えるか下回るか、または設定された所定の閾値の範囲外にとどまる場合に異常と判定され、IOPActualのIOPTargetからの偏差誤差の大きさおよび方向が異常とは逆の場合、例えば、眼圧が正常と判定される場合がある。設定された所定のしきい値を下回るか超えるか、または設定された所定のしきい値の範囲外にとどまっている。
【0073】
検出された1またはそれ以上の生理学的パラメータが異常であると判断された場合、プロセスは工程620に進む。1またはそれ以上の生理学的パラメータが正常であると判定された場合、プロセスは工程610に進み、治療の残りの期間中、1またはそれ以上の生理学的パラメータをモニタリングする。複数の生理学的パラメータがモニタリングされている場合、いくつかの実施形態では、全体的な異常または正常の状態の決定は、生理学的パラメータが異常または正常である組み合わせに基づいて決定されても良い。例えば、3つの生理学的パラメータのうち2つが異常であると判定された場合、全体の状態が異常であると判定されても良い。他の実施形態では、全体的な異常または正常な状態の決定は、生理学的パラメータの組み合わせおよび生理学的パラメータの階層的な性質に基づいて決定されても良い。例えば、一次の生理学的パラメータが正常であるが、一次の二次の生理学的パラメータが異常である場合、全体の状態は正常であると判定されても良いが、一次の生理学的パラメータが正常であるが、二次の生理学的パラメータが2つ異常である場合、全体の状態は異常であると判定されても良いし、一次の生理学的パラメータが異常であるが、二次の生理学的パラメータが2つ正常である場合、全体の状態は異常であると判定されても良い。
【0074】
工程620では、コントローラーは、工程605で得られた1またはそれ以上のパラメータに基づいて、患者に特有の治療レジメンを得る。治療レジメンは、治療剤クラス、推奨される投与量、および投与時間帯を含む。いくつかの実施形態では、治療レジメンは、1またはそれ以上のパラメータとして医療提供者によって提供される。他の実施形態では、治療レジメンは、工程605で得られた1またはそれ以上のパラメータを用いてコントローラーによって生成される。いくつかの実施形態では、治療レジメンは、コントローラーが、医療提供者から受け取った最初の治療レジメンから得られた治療剤クラス、推奨投与量、および/または投与時間帯を調整して生成した修正治療レジメンである。工程625では、コントローラーは、治療レジメンを調整すべきかどうかを判断した。いくつかの実施形態では、判定アルゴリズムは、生理学的パラメータデータ、患者の健康因子、および個人化因子を用いて、治療レジメンの更新(薬剤の種類/組み合わせ、薬剤の投与量(量)、および/または投与のタイミング)を生成し、治療レジメンを調整すべきかどうかを判定する。健康要因には、患者が現在服用している薬、ホルモンレベル、睡眠サイクルなどが含まれる。個人化要因としては、機器の装着スケジュール、患者の旅行、患者の活動などが挙げられる。治療レジメンを調整する場合には、プロセスは工程630に進む。治療レジメンを調整しない場合には、プロセスは工程635に進む。
【0075】
工程630では、コントローラーは、工程605で得られた1またはそれ以上のパラメータと、(ii)生理学的パラメータデータとに基づいて、治療レジメンを調整する。(i)工程605で得られた1またはそれ以上のパラメータ、および(ii)生理学的パラメータデータ。いくつかの実施形態では、コントローラーは、以下に基づいて、治療レジメンを調整する。(i)工程605で得られた1またはそれ以上のパラメータ、(ii)生理学的パラメータデータ、および(iii)患者の健康因子、パーソナライゼーション因子、またはそれらの組み合わせ。いくつかの実施形態では、コントローラーは、追加の因子(例えば、健康因子および/またはパーソナライゼーション因子)を利用して、既知の薬物の薬物動態および/または薬力学的挙動に重みを適用する。例えば、患者が太っていたり、房水の量が多かったり、血液希釈剤を使用している場合、特定の薬剤に対するレジメン変更の影響に異なる重みを付けて、個々の薬剤の最適な滴定を行うことができます。このような治療レジメンの最適化は、制約付き最適化アルゴリズム、適応ニューラルネットワーク、機械学習による最適化、またはその他の技術によって達成されます。また、システムは、これらの最適化に必要な場合、オフボード処理を可能にする外部ハードウェア(充電ステーションなど)と相互作用することが期待されます。また、最適化の頻度は、システムが1またはそれ以上のセンサーから受信する物理パラメータデータの量と頻度に依存する可能性があることを理解すべきである。調整または更新された治療レジメンは、治療剤投与装置のコントローラーまたはメモリに格納される。
【0076】
工程635において、コントローラーは、信号発生器に、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電圧、電位、電流、光信号、または超音波信号などの作動信号を送達させる第1のコマンド信号を生成および送達するように命令し、1またはそれ以上の治療剤送達機構が開き、1またはそれ以上のリザーバから少なくとも1つの治療剤を放出させる、放出および送達プロトコルを開始する。いくつかの実施形態では、放出および送達プロトコルは、信号発生器に、第2のコマンド信号を生成して送信するように命令することをさらに含み、コンデンサーまたは1またはそれ以上の回路に、電圧、電位、電流、光信号、または超音波信号などの作動信号を送達させ、イオン穿孔電極システムに、電界を用いて少なくとも1つの治療剤を標的組織に送達させる。いくつかの実施形態では、放出および送達プロトコルは、保存された治療レジメン(例えば、初期治療レジメンまたは更新/調整された治療レジメン)に基づいて選択される。例えば、放出および送達プロトコルは、保存された治療レジメンに基づいて、現在の状況に対して放出される治療剤の種類および用量を決定し、信号発生器に、決定された治療剤の種類および用量を保存するリザーバを開放し、任意に、開放されたリザーバに関連するイオン交換電極システムの電極を活性化して、決定された治療剤の種類および用量を電界を用いて標的組織に送達するように命令する。現在の状況は、異常な生理学的パラメータの検出である。いくつかの実施形態では、現在の状況は、生理学的パラメータの測定された変化の程度、または生理学的パラメータの測定された偏差の大きさおよび方向をさらに含み、コントローラーによって開始される放出および送達プロトコルは、生理学的パラメータの測定された変化の程度、または生理学的パラメータの測定された偏差の大きさおよび方向に特異的に放出される治療剤の種類および用量を決定することができる。従って、コントローラーは、生理学的パラメータの変化の程度、または生理学的パラメータの偏差の測定値に比例して、投与量と治療剤の種類を調整することができる。
【0077】
工程640では、治療剤が患者に投与されると、プロセスは工程610に進み、治療の残りの期間中、標的組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して1またはそれ以上の生理学的パラメータを検出およびモニタリングする。コントローラーは、システムに提供される生理学的パラメータ測定データの時間分解能に応じて、数時間から数日の間に制御をさらに精緻化することができる。任意で、コントローラーは、治療剤の投与量の放出および送達を記録する。いくつかの実施形態では、投与量を記録する前に、コントローラーは治療剤の投与量の放出と送達を確認する。確認は、第1のコマンド信号および任意に第2のコマンドシングルを生成して送信したことを信号発生器から確認することを含むことができる。さらに、または代わりに、確認は、治療剤の放出および任意に投与量の送達を検出する1またはそれ以上のセンサーからの信号を受信することを含んでも良い。いくつかの実施形態では、コントローラーは、追跡目的で治療剤の投与量の放出および送達を記録する。投与量の記録は、記録保持/追跡、およびその後の検索と報告のために、コントローラーまたは治療剤投与装置のメモリに保存されても良い。コントローラーが治療剤の投与量を記録すると、プロセスは工程505に戻り、治療の残りの期間中、標的組織に接続された1またはそれ以上のセンサーを介して生理学的パラメータを検出し、モニタリングする。
【0078】
本発明を詳細に説明してきましたが、本発明の精神と範囲内での変更は、当業者には容易に明らかになるでしょう。本発明の側面および様々な実施形態の一部と、上記および/または添付の特許請求の範囲に記載された様々な特徴は、全体または一部を組み合わせたり、交換したりすることができることを理解すべきである。様々な実施形態に関する前述の説明において、他の実施形態を参照しているそれらの実施形態は、当業者が理解するように、他の実施形態と適切に組み合わせることができる。さらに、当業者は、前述の説明が例示に過ぎず、本発明を限定することを意図していないことを理解するだろう。