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特許7531507ソバ由来C-配糖化酵素遺伝子及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】ソバ由来C-配糖化酵素遺伝子及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/52 20060101AFI20240802BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20240802BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20240802BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20240802BHJP
   A01H 6/14 20180101ALI20240802BHJP
   A01H 6/56 20180101ALI20240802BHJP
   A01H 6/30 20180101ALI20240802BHJP
   A01H 6/74 20180101ALI20240802BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240802BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240802BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240802BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240802BHJP
【FI】
C12N15/52 Z ZNA
C12N15/29
C12N15/82 130Z
A01H5/00 A
A01H6/14
A01H6/56
A01H6/30
A01H6/74
C12N5/10
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/113 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021551206
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036451
(87)【国際公開番号】W WO2021065749
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019181693
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】中村 典子
(72)【発明者】
【氏名】興津 奈央子
(72)【発明者】
【氏名】勝元 幸久
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069946(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/156206(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169699(WO,A1)
【文献】特開2014-140376(JP,A)
【文献】NAGATOMO, Y. et al.,Purification, molecular cloning and functional characterization of flavonoid C-glucosyltransferases from Fagopyrum esculentum M. (buckwheat) cotyledon,The Plant Journal,2014年,Vol. 80,P. 437-448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A01H
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログを含むベクターであって、
前記ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログが、
(1-a)配列番号11の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(1-b)配列番号11の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(1-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードし、かつ、(1-a)に記載のポリヌクレオチドと90%以上の同一性を有する、ポリヌクレオチド;
(1-c)配列番号12のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-d)配列番号12のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(1-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-e)配列番号12のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(1-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
からなる群から選択される、ベクターであって、前記ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログにシロイヌナズナADH遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号15)又はシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号13)が付加されており、前記ベクターが、
フラバノン 2-水酸化酵素(F2H)遺伝子又はそのホモログ、及びフラバノン 脱水酵素(FDH)遺伝子又はそのホモログ、及びフラボノイドF3’5’水酸化酵素(F3’5’H)遺伝子又はそのホモログ、及びメチル基転移酵素(MT)遺伝子又はそのホモログをさらに含み、ここで、
前記F2H遺伝子又はそのホモログが、
(2-a)配列番号5の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(2-b)配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(2-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードし、かつ、(2-a)に記載のポリヌクレオチドと90%以上の同一性を有する、ポリヌクレオチド;
(2-c)配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-d)配列番号6のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-e)配列番号6のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記FDH遺伝子又はそのホモログが、
(3-a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(3-b)配列番号9の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(3-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードし、かつ、(3-a)に記載のポリヌクレオチドと90%以上の同一性を有する、ポリヌクレオチド;
(3-c)配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-d)配列番号10のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(3-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-e)配列番号10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(3-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記F3’5’H遺伝子又はそのホモログが、
(4-a)配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4-b)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(4-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードし、かつ、(4-a)に記載のポリヌクレオチドと90%以上の同一性を有する、ポリヌクレオチド;
(4-c)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-d)配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(4-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-e)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(4-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、そして
前記MT遺伝子又はそのホモログが、
(5-a)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(5-b)配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(5-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードし、かつ、(5-a)に記載のポリヌクレオチドと90%以上の同一性を有する、ポリヌクレオチド;
(5-c)配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-d)配列番号4のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(5-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-e)配列番号4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(5-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、前記MT遺伝子又はそのホモログにシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号13)が付加されている、ベクター。
【請求項2】
請求項1に記載のベクターを含む、形質転換植物又はその自殖もしくは他殖後代。
【請求項3】
前記植物がバラ、キク、カーネーション又はユリから選択される、請求項2に記載の形質転換植物又はその自殖もしくは他殖後代。
【請求項4】
前記植物がバラである、請求項3に記載の形質転換植物又はその自殖もしくは他殖後代。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載の形質転換植物又はその自殖もしくは他殖後代の栄養繁殖体、植物体の一部、組織、又は細胞であって、請求項1に記載のベクターを含む、栄養繁殖体、植物体の一部、組織、又は細胞。
【請求項6】
請求項2~4のいずれか1項に記載の形質転換植物又はその自殖もしくは他殖後代の切り花、又は該切り花から作成された加工品であって、請求項1に記載のベクターを含む、切り花、又は該切り花から作成された加工品。
【請求項7】
青系花色を有する形質転換植物を作出するための方法であって、請求項1に記載のベクターを宿主植物に導入することにより、デルフィニジン型アントシアニンとフラボン モノ-C-配糖体を植物の細胞内で共存させる工程を含む、方法。
【請求項8】
前記フラボン モノ-C-配糖体が、アピゲニン 6-C-グルコシド、ルテオリン 6-C-グルコシド、トリセチン 6-C-グルコシド、アピゲニン 8-C-グルコシド、ルテオリン 8-C-グルコシド、トリセチン 8-C-グルコシド又はそれらの誘導体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記デルフィニジン型アントシアニンが、マルビジン、デルフィニジン、ペチュニジン及びそれらの組み合せから成る群から選択される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記植物がバラ、キク、カーネーション又はユリから選択される、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記植物がバラである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソバ由来C-配糖化酵素(CGT)遺伝子又はそのホモログ、及びこれらを用いてデルフィニジン型アントシアニンとフラボン モノ-C-配糖体を植物の細胞内で共存させる工程を含む、青系花色を有する形質転換植物を作出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バラ、キク、カーネーション等は世界的に産業上重要な花卉である。特にバラは最も人気のある花卉植物であり、紀元前から栽培されていた記録があり、数百年にわたり人為的な品種改良がされてきた。しかしながら、交雑可能な近縁種に青系の花色の野生種が無いなどの問題により、従来の交雑育種や突然変異育種では、青系花色を有するバラ品種の作出は困難であった。全く新しい青系花色の創出は、花卉の利用場面の拡大に伴う新たな需要を喚起し、生産や消費の拡大に繋がる。そこで、遺伝子工学的手法により青系花色をもつバラの作出が試みられてきた。
【0003】
例えば、紫から青色の花には、デルフィニジン、ペチュニジン及びマルビジンを骨格としたデルフィニジン型アントシアニンが多く含まれることが知られているが、バラなどの花卉は、このようなデルフィニジン型アントシアニンを生産できないため、これらの合成に必要なフラボノイド3’,5’-水酸化酵素遺伝子を発現させることにより、デルフィニジンを人為的に生産させる研究が行われている(非特許文献1)。しかしながら、目的の物質を生産する酵素遺伝子を組換え植物において発現させるために植物の代謝を人為的に改変したとしても、目的の物質の蓄積がまったく、あるいはほとんど起こらないことが多い。
【0004】
さらに、花の色は、アントシアニン自身の構造のほかに、共存するフラボノイド(コピグメントと呼ばれる)や金属イオン、液胞のpHなどによっても変化する。フラボンやフラボノールは、代表的なコピグメントであり、アントシアニンとサンドイッチ状に積み重なることにより、アントシアニンを青くし、濃く見えるようにする効果がある(非特許文献2)。これはコピグメント効果として知られている。特にフラボンは強いコピグメント効果を示すことが知られており、たとえば遺伝子組換えカーネーションの解析ではフラボンが有意なコピグメント効果を示すことが報告されている(非特許文献3)。また、ダッチアイリスにおいて、総デルフィニジン量に対する総フラボン量の比が高いほど強いコピグメント効果を示し、色が青くなることが報告されている(非特許文献4)。
【0005】
しかしながら、すべての植物がフラボンを生産できるわけではなく、バラやペチュニアなどはフラボンを蓄積しない。したがって、フラバノンからフラボンを合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をこのような植物で発現させ、花色を改変させる試みが行われている(特許文献1)。
【0006】
また、植物では、フラボンは遊離形態の他に配糖体としても分布しており、主にフラボン O-配糖体とフラボン C-配糖体が生成されるが、特にフラボン C-配糖体は強いコピグメント効果を示すことが知られている。例えば、フラボン C-配糖体の一種であるイソビテキシンは、ハナショウブ(Iris ensata Thunb.)においてアントシアニンに対しコピグメント効果を示し、アントシアニンを安定化することにより花色を青色化することが報告されている(非特許文献5)。フラボン C-配糖体の生合成経路の1つとして、フラバノン 2-水酸化酵素(F2H)及びC-配糖化酵素(CGT)、脱水酵素(FDH)が触媒する反応によりフラバノンから合成されることが知られている(非特許文献6)。
【0007】
これまでに、カンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子を導入して、デルフィニジン型アントシアニンとフラボン C-配糖体を植物の細胞内で共存させることにより、青系花色を有するバラを作出したことが報告されている(特許文献2)。しかしながら、このようにして作出されたバラ系統の花色は、赤みの強い傾向が認められており、均一的かつ安定的に、より青い花色をもつバラの作出可能にするための青色発現制御技術の開発が依然として望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-279182号公報
【文献】国際公開第2019/069946号
【文献】国際公開第2008/156206号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Phytochemistry Reviews 5,283-291
【文献】Prog.Chem.Org.Natl.Prod.52
【文献】Phytochemistry,63,15-23(2003)
【文献】Plant Physiol.Bioch.72,116-124(2013)
【文献】Euphytica 115,1-5(2000)
【文献】FEBS Lett.589,182-187(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、花色における赤みの原因を究明することにより、均一的かつ安定的に、青系花色(RHSカラーチャート第5版:Violet-Blueグループ/Blueグループかつ/または色相角度:339.7°~270.0°)を有する形質転換植物を作出することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、赤みの原因がフラボン ジ-C-配糖体にあり、デルフィニジン型アントシアニンとのコピグメント効果はフラボン モノ-C-配糖体の方が、フラボン ジ-C-配糖体よりも有意に高いことを見出した。さらに、本願発明者らは、様々なCGT遺伝子の中で、ソバ由来CGT遺伝子を導入することにより、植物の花弁において、フラボン モノ-C-配糖体のみを有意に蓄積させることに成功した。このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、以下の通りである。
[1] ソバ由来C-配糖化酵素(CGT)遺伝子又はそのホモログであって、
前記ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログが、
(1-a)配列番号11の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(1-b)配列番号11の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(1-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(1-c)配列番号12のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
からなる群から選択される、ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログ。
[2]シロイヌナズナADH遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号15)又はシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号13)が付加されている、1に記載のソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログ。
[3] ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログを含むベクターであって、
前記ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログが、
(1-a)配列番号11の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(1-b)配列番号11の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(1-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(1-c)配列番号12のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-d)配列番号12のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(1-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-e)配列番号12のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(1-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
からなる群から選択される、ベクター。
[4] 前記ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログにシロイヌナズナADH遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号15)又はシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号13)が付加されている、3に記載のベクター。
[5] フラバノン 2-水酸化酵素(F2H)遺伝子又はそのホモログ、及び脱水酵素(FDH)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、3又は4に記載のベクター。
[6] 前記F2H遺伝子又はそのホモログが、
(2-a)配列番号5の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(2-b)配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(2-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(2-c)配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-d)配列番号6のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-e)配列番号6のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記FDH遺伝子又はそのホモログが、
(3-a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(3-b)配列番号9の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(3-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(3-c)配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-d)配列番号10のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(3-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-e)配列番号10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(3-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される、5に記載のベクター。
[7] フラボノイドF3’5’水酸化酵素(F3’5’H)遺伝子又はそのホモログ、及びメチル基転移酵素(MT)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、3~6のいずれかに記載のベクター。
[8] 前記F3’5’H遺伝子又はそのホモログが、
(4-a)配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4-b)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(4-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(4-c)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-d)配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(4-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-e)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(4-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、そして
前記MT遺伝子又はそのホモログが、
(5-a)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(5-b)配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(5-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(5-c)配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-d)配列番号4のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(5-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-e)配列番号4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(5-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される、7に記載のベクター。
[9] 1又は2に記載のソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログ、あるいは3~8のいずれかに記載のベクターを含む形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代。
[10] 前記植物がバラ、キク、カーネーション又はユリから選択される、9に記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代。
[11] 前記植物がバラである、10に記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代。
[12] 9~11のいずれかに記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代の栄養繁殖体、植物体の一部、組織、又は細胞。
[13] 9~11のいずれかに記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代の切り花、又は該切り花から作成された加工品。
[14] 青系花色を有する形質転換植物を作出するための方法であって、ソバ由来C-配糖化酵素(CGT)遺伝子又はそのホモログを宿主植物に導入することにより、デルフィニジン型アントシアニンとフラボン モノ-C-配糖体を植物の細胞内で共存させる工程を含む、方法。
[15] 前記フラボン モノ-C-配糖体が、アピゲニン 6-C-グルコシド、ルテオリン 6-C-グルコシド、トリセチン 6-C-グルコシド、アピゲニン 8-C-グルコシド、ルテオリン 8-C-グルコシド、トリセチン 8-C-グルコシド又はそれらの誘導体である、14に記載の方法。
[16] 前記デルフィニジン型アントシアニンが、マルビジン、デルフィニジン、ペチュニジン及びそれらの組み合せから成る群から選択される、14又は15に記載の方法。
[17] 1又は2に記載のソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログ、あるいは3~8のいずれかに記載のベクターを宿主植物の細胞内に導入する工程を含む、14~16のいずれかに記載の方法。
[18] 前記植物がバラ、キク、カーネーション又はユリから選択される、14~17のいずれかに記載の方法。
[19] 前記植物がバラである、18に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、均一的かつ安定的に、青系花色(RHSカラーチャート第5版:Violet-Blueグループ/Blueグループかつ/または色相角度:339.7°~270.0°)を有する植物品種を作出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】植物におけるフラボン モノ-C-配糖体の生合成経路を示す。
図2】pSPB6486の構造を示す。
図3】pSPB7473の構造を示す。
図4】pSPB7473の詳細な構造を示す。
図5】pSPB7472の詳細な構造を示す。
図6】pSPB7808の詳細な構造を示す。
図7】pSPB7809の詳細な構造を示す。
【0015】
アントシアニンは、植物において広く存在する色素群であり、赤色、青色、紫色の花色を呈することが知られている。アグリコンであるアントシアニジン部位のB環のヒドロキシ基の数により、ペラルゴジニン、シアニジン及びデルフィニジンの3系統に分類される。発色団はアグリコン部分であり、ペラルゴニジン型アントシアニンは橙色、シアニジン型アントシアニンは赤色、デルフィニジン型アントシアニンは紫~青色を呈する。本願明細書中、例えば、「デルフィニジン型アントシアニン」は、デルフィニジン、マルビジン、ペチュニジンを骨格にもつそれらの誘導体が挙げられるが、好ましくはマルビジンである。
【0016】
デルフィニジン型アントシアニンは、フラボン、フラボノール、有機酸エステル類、タンニン類などの物質と共存することで、それらと分子間相互作用をして青みを帯びた色を発現する場合がある。この現象はコピグメント作用と呼ばれ、このような現象を引き起こす物質はコピグメント(補助色素)と呼ばれる。コピグメント作用には青色の発現を引き起こす深色効果だけでなく、濃色効果や色の安定性向上の効果もある。本発明者らにより、デルフィニジン型アントシアニンとフラボン C-配糖体とのコピグメント作用によって、バラの花弁が青色発現することが確認されている(特許文献2)。
【0017】
フラボンは、有機化合物の一種で、フラバン誘導体の環状ケトンであり、植物内では、主に配糖体として存在する。フラボンは、狭義には化学式C15102、分子量222.24の化合物、2,3-ジデヒドロフラバン-4-オンを指すが、広義のフラボン(フラボン類)は、フラボノイドのカテゴリーの1つであり、フラボノイドの中でフラボン構造を基本骨格とし、さらに3位に水酸基を持たないものが「フラボン」に分類される。本願明細書中、「フラボン C-配糖体」は、広義のフラボン、すなわち、フラボン類に属する誘導体の配糖体のうち、アルドースのアノメリック炭素に直接アグリコンが結合した配糖体を意味する。フラボン C-配糖体としては、ルテオリン C-配糖体、トリセチン C-配糖体、アピゲニン C-配糖体、アカセチン C-配糖体が挙げられるがこれらに限定されない。フラボン C-配糖体はまた、アピゲニン、ルテオリン、トリセチン、アカセチン誘導体の配糖体も含む。植物においては、フラボン C-配糖体の生合成経路の1つとして図1に示される経路が知られている。当該経路では、F2H、CGT、及びFDHの作用を介して、フラボン C-配糖体が産生される。
【0018】
このような合成経路においては、フラボン モノ-C-配糖体の他に、ビセニン-2(アピゲニン6,8-ジ-C-グルコシド)などのフラボン ジ-C-配糖体も合成されるが、発明者らは、このたび、赤みの原因がフラボン ジ-C-配糖体にあり、デルフィニジン型アントシアニンとのコピグメント効果はフラボン モノ-C-配糖体の方が、フラボン ジ-C-配糖体よりも高いという驚くべき知見を見出した。均一的かつ安定的に、青系花色を有する形質転換植物を作出するためには、フラボン ジ-C-配糖体の蓄積を極力減らし、フラボン モノ-C-配糖体のみを花弁中に有意に蓄積させる必要がある。フラボン モノ-C-配糖体は、典型的には、フラボン 6-C-グルコシド、又はフラボン 8-C-グルコシドであり、好適には、フラボン 6-C-グルコシドである。このようなフラボン モノ-C-配糖体としては、例えば、アピゲニン 6-C-グルコシド(イソビテキシン)、ルテオリン 6-C-グルコシド(イソオリエンチン)、トリセチン 6-C-グルコシド、アピゲニン 8-C-グルコシド(ビテキシン)、ルテオリン 8-C-グルコシド(オリエンチン)、トリセチン 8-C-グルコシド又はそれらの誘導体が挙げられる。
【0019】
植物の細胞内において、フラボン C-配糖体の蓄積は、上記合成経路における必須遺伝子(すなわち、F2H遺伝子、CGT遺伝子、及びFDH遺伝子)又はそれらのホモログを含むベクターで宿主植物を形質転換することによって達成できる。そして、CGT遺伝子として、ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログ、特に、翻訳増強配列としてシロイヌナズナADH遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号15)又はシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号13)を付与したソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログを用いることにより、フラボン ジ-C-配糖体と比較して、フラボン モノ-C-配糖体を花弁中に有意に蓄積させることが可能となる。
【0020】
前記ソバ由来CGT遺伝子又はそのホモログは、以下のポリヌクレオチド:
(1-a)配列番号11の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(1-b)配列番号11の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(1-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(1-c)配列番号12のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-d)配列番号12のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(1-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-e)配列番号12のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(1-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0021】
前記F2H遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはカンゾウ由来のF2H遺伝子又はそのホモログであり、以下のポリヌクレオチド:
(2-a)配列番号5の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(2-b)配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(2-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(2-c)配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-d)配列番号6のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-e)配列番号6のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0022】
前記FDH遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはミヤコグサ由来のFDH遺伝子又はそのホモログであり、以下のポリヌクレオチド:
(3-a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(3-b)配列番号9の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(3-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(3-c)配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-d)配列番号10のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(3-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-e)配列番号10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(3-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0023】
植物の細胞内におけるデルフィニジン型アントシアニンの蓄積は、フラボノイドF3’5’水酸化酵素(F3’5’H)遺伝子又はそのホモログ、及びメチル基転移酵素(MT)遺伝子又はそのホモログを宿主植物に組み込むことによって達成できる(特許文献3)。したがって、上述のフラボン モノ-C-配糖体の合成経路における必須遺伝子又はそれらのホモログに加えて、F3’5’H遺伝子又はそのホモログ、及びMT遺伝子又はそのホモログをさらに含むベクターで宿主植物を形質転換することによって、デルフィニジン型アントシアニンとフラボン モノ-C-配糖体を宿主植物の細胞内で共存させることができる。
【0024】
F3’5’H遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはカンパニュラ由来のF3’5’H遺伝子又はそのホモログであり、
(4-a)配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4-b)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(4-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(4-c)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-d)配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(4-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-e)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(4-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0025】
MT遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはトレニア由来のMT遺伝子又はそのホモログであり、
(5-a)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(5-b)配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(5-a)に記載のポリヌクレオチドと同様の活性を有するポリヌクレオチド;
(5-c)配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-d)配列番号4のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(5-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-e)配列番号4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(5-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0026】
前記MT遺伝子又はそのホモログには、翻訳増強配列としてシロイヌナズナADH遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号15)又はシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号13)を付加することができる。
【0027】
本明細書中、用語「ポリヌクレオチド」は、DNA又はRNAを意味する。
本明細書中、用語「ストリンジェント条件」とは、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドと、ゲノムDNAとの選択的かつ検出可能な特異的結合を可能とする条件である。ストリンジェント条件は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、又はハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。さらに、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。したがって、用語「ストリンジェント条件」とは、各塩基配列間の「同一性」の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上であるような、高い同一性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリダイズするような条件を意味する。「ストリンジェント条件」としては、例えば、温度60℃~68℃において、ナトリウム濃度150~900mM、好ましくは600~900mM、pH6~8であるような条件を挙げることができ、具体例としては、5×SSC(750mM NaCl、75mM クエン酸三ナトリウム)、1%SDS、5×デンハルト溶液50%ホルムアルデヒド、及び42℃の条件でハイブリダイゼーションを行い、0.1×SSC(15mM NaCl、1.5mM クエン酸三ナトリウム)、0.1%SDS、及び55℃の条件で洗浄を行うものを挙げることができる。
【0028】
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M.Ausubel et al.,1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。このようなハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては、天然由来のもの、例えば、植物由来のもの、植物由来以外のものであってもよい。また、ハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであっても化学合成したDNAでもよい。
【0029】
本明細書中、「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1~20個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を意味する。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
また、ポリヌクレオチドは、当業者に公知の方法、例えば、ホスホアミダイド法等により化学的に合成する方法、植物の核酸試料を鋳型とし、目的とする遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて設計したプライマーを用いる核酸増幅法などによって得ることができる。
【0030】
本明細書中、用語「同一性」とは、ポリペプチド配列(又はアミノ酸配列)あるいはポリヌクレオチド配列(又は塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同志又は各塩基同志の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのポリペプチド配列又は二つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものであり、「同一性」は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の同一性を測定する方法は数多く知られており、用語「同一性」は、当業者には周知である(例えば、Lesk,A.M.(Ed.),Computational Molecular Biology,Oxford University Press,New York,(1988);Smith,D.W.(Ed.),Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Academic Press,New York,(1993);Grifin,A.M.&Grifin,H.G.(Ed.),Computer Analysis of Sequence Data:Part I,Human Press,New Jersey,(1994);von Heinje,G.,Sequence Analysis in Molecular Biology,Academic Press,New York,(1987);Gribskov,M.& Devereux,J.(Ed.),Sequence Analysis Primer,M-Stockton Press,New York,(1991)等参照)。
【0031】
また、本明細書に記載される「同一性」の数値は、特に明示した場合を除き、当業者に公知の同一性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、好ましくは、MacVectorアプリケーション(バージョン9.5 Oxford Molecular Ltd.,Oxford,England)のClustalWプログラムを用いて算出される数値である。本発明において、各ポリヌクレオチド配列間又はアミノ酸配列間の「同一性」の程度は、例えば、約90%以上、好ましくは約95%以上、さらに好ましくは約97%以上、最も好ましくは約98%以上である。
【0032】
本発明のポリヌクレオチド(核酸、遺伝子)は、着目のタンパク質を「コードする」ものである。ここで、「コードする」とは、着目のタンパク質をその活性を備えた状態で発現させるということを意味している。また、「コードする」とは、着目のタンパク質を連続する構造配列(エクソン)としてコードすること、又は介在配列(イントロン)を介してコードすることの両者の意味を含んでいる。
【0033】
生来の塩基配列を有する遺伝子は、例えば、DNAシークエンサーによる解析によって得られる。また、修飾されたアミノ酸配列を有する酵素をコードするDNAは生来の塩基配列を有するDNAを基礎として、常用の部位特定変異誘発やPCR法を用いて合成することができる。例えば、修飾したいDNA断片を生来のcDNA又はゲノムDNAの制限酵素処理によって得て、これを鋳型にして、所望の変異を導入したプライマーを用いて部位特定変異誘発やPCR法を実施し、所望の修飾したDNA断片を得る。その後、この変異を導入したDNA断片を目的とする酵素の他の部分をコードするDNA断片と連結すればよい。
あるいは短縮されたアミノ酸配列からなる酵素をコードするDNAを得るには、例えば、目的とするアミノ酸配列より長いアミノ酸配列、例えば、全長アミノ酸配列をコードするDNAを所望の制限酵素により切断し、その結果得られたDNA断片が目的とするアミノ酸配列の全体をコードしていない場合は、不足部分の配列からなるDNA断片を合成し、連結すればよい。
【0034】
また、得られたポリヌクレオチドを大腸菌及び酵母での遺伝子発現系を用いて発現させ、酵素活性を測定することにより、得られたポリヌクレオチドが所望の活性を有するタンパク質をコードすることを確認することができる。
【0035】
本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む(組換え)ベクター、特に発現ベクター、さらに該ベクターによって形質転換された植物にも関する。
【0036】
また、本発明のベクターは、それらを導入する宿主植物の種類に依存して発現制御領域、例えば、プロモーター、ターミネーター、複製起点などを含有する。植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター、35Sプロモーターのエンハンサー領域を2つ連結したEl235Sプロモーター、rd29A遺伝子プロモーター、rbcSプロモーター、mac-1プロモーター等が挙げられる。また、組織特異的な遺伝子発現のためには、その組織で特異的に発現する遺伝子のプロモーターを用いることができる。
【0037】
ベクターの作製は、制限酵素、リガーゼなどを用いて常法に従って行うことができる。また、発現ベクターによる宿主植物の形質転換も常法に従って行うことができる。
【0038】
現在の技術水準の下では、植物にポリヌクレオチドを導入し、そのポリヌクレオチドを構成的又は組織特異的に発現させる技術を利用することができる。植物へのDNAの導入は、当業者に公知の方法、例えば、アグロバクテリウム法、バイナリーベクター法、エレクトロポレーション法、PEG法、パーティクルガン法等によって行なうことができる。
【0039】
本発明中、宿主に用いることができる植物は、特に制限されないが、バラ科バラ属、キク科キク属、ナデシコ科ナデシコ属(カーネーションなど)、ユリ科ユリ属の植物を用いることができ、特に好ましくはバラ科バラ属の栽培バラ(学名:Rosa hybrida)である。なお本明細書で使用する用語「バラ植物」とは、分類学上の位置づけではバラ科バラ属の栽培バラ(学名:Rosa hybrida)のことをいう。バラは、樹形と花の大きさにより主にハイブリッド・ティー系、フロリバンダ系、ポリアンサ系などに分けられるが、いずれの系統でも花弁に含まれる主要な色素(アントシアニン)はシアニジン型とペラルゴニジン型の2種類のみである。本発明において宿主に用いられるバラ植物の種類については特に制限されず、これらの品種や系統に好適に用いることができる。例えば、宿主として用いることができるバラ品種としては、オーシャンソング、ノブレス、リタ・パフューメラ、クールウォーター、フェイム、トップレス、ピーチアヴァランチェなどが挙げられる。
【0040】
本発明により、均一的かつ安定的に、青系花色を有する形質転換植物、好ましくは、バラ科バラ属、キク科キク属、又はナデシコ科ナデシコ属(カーネーションなど)、特に好ましくはバラ植物を作出することができる。得られた形質転換植物は、RHSカラーチャートでBlueグループもしくはViolet-Blueグループ、かつ/又はCIEL***表色系の色相角度で339.7°~270.0°、好適には315°以下の花色を示す。
【0041】
さらに、本発明は、上記で得られた形質転換植物又はその自殖もしくは他殖後代の切り花、それらの栄養繁殖体、植物体の一部、組織、又は細胞、あるいは切り花から作成された加工品(特に切花加工品)にも関する。ここで、切花加工品としては、当該切花を用いた押し花、プリザードフラワー、ドライフラワー、樹脂密封品などを含むが、これに限定されるものではない。
【0042】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【実施例
【0043】
[実施例1:アントシアニン(マルビン)に対するフラボン C-配糖体のコピグメント効果のシミュレーション]
アントシアニン(マルビン)に対するフラボン C-配糖体のコピグメント効果のシミユレーションを行うため、マルビン及びフラボン C-配糖体を調整した。本実験に用いたマルビン(マルビジン3,5-ジグルコシド)及びフラボン C-配糖体(ビテキシン(アピゲニン 8-C-グルコシド)、イソビテキシン(アピゲニン 6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン 8-C-グルコシド)、イソオリエンチン(ルテオリン 6-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン6,8-ジ-C-グルコシド))はナカライテスク株式会社より購入した。
このようにして入手したマルビンに対して各フラボン C-配糖体(ビテキシン、イソビテキシン、オリエンチン、イソオリエンチン、ビセニン-2)を、pH5.0の緩衝液中、5当量のモル濃度比で添加し、吸収スペクトルを測定した。マルビンの濃度は0.5mMとした。
【0044】
【表1】
【0045】
フラボン C-配糖体の添加により、マルビン水溶液の吸光度は増大し、いずれのフラボン C-配糖体を添加した場合でもマルビン単独の場合に比べて吸収極大(λmax)は長波長側へシフトした。またその効果は、イソビテキシン>イソオリエンチン>オリエンチン>ビテキシン>ビセニン-2の順で吸収極大が長波長側へシフトすることが確認できた。さらに色相角度についても同様に、イソビテキシン>イソオリエンチン>オリエンチン>ビテキシン>ビセニン-2の順で小さくなることが確認できた。以上のことから、コピグメント効果はフラボン モノ-C-配糖体の方が、フラボン ジ-C-配糖体よりも高いことが判明した。さらに、フラボン モノ-C-配糖体のうち特に、フラボン 6-C-配糖体のコピグメント効果が高いことが判明した。
【0046】
[実施例2:バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来コドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB6486は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の5つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号1)とD8ターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来MT完全長cDNA(配列番号3)とNOSターミネーター
(3)35Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号5)とシソ由来ATターミネーター
(4)35Sプロモーターとイネ由来コドンUsage改変CGT完全長cDNA(配列番号7)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(5)35Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号9)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’5’H遺伝子とトレニアのMT遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、イネのコドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現する。
【0047】
このようにして作製したpSPB6486を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計27個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、26個体でマルビジンの蓄積を確認でき、マルビジン含有率は最高74.5%(平均57.0%)であった。さらに、フラボン C-配糖体としてイソビテキシン(アピゲニン 6-C-グルコシド)、ビテキシン(アピゲニン 8-C-グルコシド)、イソオリエンチン(ルテオリン 6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン 8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン 6,8-C-ジグルコシド)の同定・定量を行った。マルビジンが検出できたすべての個体でフラボン C-配糖体が検出でき、主成分としてはフラボン ジ-C-配糖体であるビセニン-2が検出された。生成量はビセニン-2>イソビテキシン>ビテキシン>イソオリエンチン>オリエンチンの順で多く、総量は最高で花弁新鮮重量1gあたり1.563mgであった。また、フラボン C-配糖体の総量はマルビジンに対して約10倍以上の生成量であった。
【0048】
代表的な形質転換体の分析値を下表2に示す。
【表2】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Mal(%):総アントシアニジン中のマルビジンの割合
【0049】
[実施例3:バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、ソバ由来コドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB7473は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の5つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号1)とD8ターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来MT完全長cDNA(配列番号3)(5’位側にシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来5’-UTR(配列番号13)を付加)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(3)El235Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号5)とシソ由来ATターミネーター
(4)El235Sプロモーターとソバ由来コドンUsage改変CGT完全長cDNA(配列番号11)(5’位側にシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来5’-UTR(配列番号13)を付加)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(5)El235Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号9)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’5’H遺伝子とトレニアのMT遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、ソバのコドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現する。
【0050】
このようにして作製したpSPB7473を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計35個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、21個体でマルビジンの蓄積を確認でき、マルビジン含有率は最高20.8%(平均9.1%)であった。さらに、フラボン C-配糖体としてイソビテキシン(アピゲニン 6-C-グルコシド)、ビテキシン(アピゲニン 8-C-グルコシド)、イソオリエンチン(ルテオリン 6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン 8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン 6,8-C-ジグルコシド)の同定・定量を行った。マルビジンが検出できたすべての個体でフラボン C-配糖体が検出でき、主成分としてフラボン 6-C-配糖体であるイソビテキシンが検出された。生成量はイソビテキシン>ビテキシン>ビセニン-2>イソオリエンチン>オリエンチンの順で多く、総量は最高で花弁新鮮重量1gあたり7.418mgと、非常に高い含有量であった。実施例2で示したOS/6486系統に比べて、ほとんどの個体でフラボン C-配糖体の総量が花弁新鮮重量1gあたり3mg以上と高い含有量を示し、デルフィニジンに対して約100倍以上の生成量であった。
【0051】
代表的な形質転換体の分析値を下表3に示す。
【表3】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Mal(%):総アントシアニジン中のマルビジンの割合
【0052】
[実施例4:バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、ソバ由来CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB7472は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の5つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号1)とD8ターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来MT完全長cDNA(配列番号3)(5’位側にシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来5’-UTR(配列番号13)を付加)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(3)El235Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号5)とシソ由来ATターミネーター
(4)El235Sプロモーターとソバ由来CGT完全長cDNA(配列番号14)(5’位側にシロイヌナズナHSPRO遺伝子由来5’-UTR(配列番号13)を付加)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(5)El235Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号9)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’5’H遺伝子とトレニアのMT遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、ソバのCGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現する。
【0053】
このようにして作製したpSPB7472を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計33個体の形質転換体を得た。次に、フラボン C-配糖体としてイソビテキシン(アピゲニン 6-C-グルコシド)、ビテキシン(アピゲニン 8-C-グルコシド)、イソオリエンチン(ルテオリン 6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン 8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン 6,8-C-ジグルコシド)を、アントシアニジンとしてデルフィニジン、シアニジン、ペチュニジン、ペラルゴニジン、マルビジンの同定・定量を行った。その結果、11個体でフラボン C-配糖体及びマルビジンの蓄積を確認できた。フラボン C-配糖体の平均含有量は花弁新鮮重量1gあたり3.75mgであり、主成分としてフラボン 6-C-配糖体であるイソビテキシンが検出された。また、マルビジンの含有率は最高15.6%(平均8.8%)であった。
【0054】
以上のように、花弁新鮮重量1gあたりのフラボン C-配糖体の平均含有量は実施例3で示したOS/7473系統の方が4.19mgと高かった。つまり、オリジナルのソバ由来CGT遺伝子よりもコドンを改変したCGT遺伝子の方がより効率的にフラボン C-配糖体を生成できることが示された。
【0055】
代表的な形質転換体の分析値を下表4に示す。
【表4】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Mal(%):総アントシアニジン中のマルビジンの割合
【0056】
[実施例5:バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、ソバ由来CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB7808は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の5つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号1)とD8ターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来MT完全長cDNA(配列番号3)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(3)El235Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号5)とシソ由来ATターミネーター
(4)El235Sプロモーターとソバ由来CGT完全長cDNA(配列番号14)(5’位側にシロイヌナズナ アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)遺伝子由来5’-UTR(配列番号15)を付加)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(5)El235Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号9)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’5’H遺伝子とトレニアのMT遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、ソバのCGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現する。
【0057】
このようにして作製したpSPB7808を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計65個体の形質転換体を得た。次に、フラボン C-配糖体としてイソビテキシン(アピゲニン 6-C-グルコシド)、ビテキシン(アピゲニン 8-C-グルコシド)、イソオリエンチン(ルテオリン 6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン 8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン 6,8-C-ジグルコシド)を、アントシアニジンとしてデルフィニジン、シアニジン、ペチュニジン、ペラルゴニジン、マルビジンの同定・定量を行った。その結果、32個体でフラボン C-配糖体及びマルビジンの蓄積を確認できた。フラボン C-配糖体の平均含有量は花弁新鮮重量1gあたり3.00mgであり、主成分としてフラボン 6-C-配糖体であるイソビテキシンが検出された。また、マルビジンの含有率は最高69.2%(平均43.9%)であった。
【0058】
代表的な形質転換体の分析値を下表5に示す。
【表5】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Mal(%):総アントシアニジン中のマルビジンの割合
【0059】
[実施例6:バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、ソバ由来コドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB7809は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の5つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号1)とD8ターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来MT完全長cDNA(配列番号3)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(3)El235Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号5)とシソ由来ATターミネーター
(4)El235Sプロモーターとソバ由来コドンUsage改変CGT完全長cDNA(配列番号11)(5’位側にシロイヌナズナ アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)遺伝子由来5’-UTR(配列番号15)を付加)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(5)El235Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号9)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’5’H遺伝子とトレニアのMT遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、ソバのコドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現する。
【0060】
このようにして作製したpSPB7809を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計143個体の形質転換体を得た。次に、フラボン C-配糖体としてイソビテキシン(アピゲニン 6-C-グルコシド)、ビテキシン(アピゲニン 8-C-グルコシド)、イソオリエンチン(ルテオリン 6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン 8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン 6,8-C-ジグルコシド)を、アントシアニジンとしてデルフィニジン、シアニジン、ペチュニジン、ペラルゴニジン、マルビジンの同定・定量を行った。その結果、58個体でフラボン C-配糖体の蓄積を確認できた。フラボン C-配糖体の平均含有量は花弁新鮮重量1gあたり3.24mgであり、主成分としてフラボン 6-C-配糖体であるイソビテキシンが検出された。また、マルビジンの含有率は最高80.3%(平均46.6%)であった。
【0061】
以上のように、花弁新鮮重量1gあたりのフラボン C-配糖体の平均含有量は本実施例で示したOS/7809系統の方が高かった。よって、実施例3及び4で得られた結果と同様に、オリジナルのソバ由来CGT遺伝子よりもコドンを改変したCGT遺伝子の方がより効率的にフラボン C-配糖体を生成できることが示された。
【0062】
代表的な形質転換体の分析値を下表6に示す。
【表6-1】
【表6-2】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Mal(%):総アントシアニジン中のマルビジンの割合
【0063】
[実施例7:フラボン C-配糖体を含むバラの花色の評価]
実施例2及び3において作出された形質転換体(バラ品種「オーシャンソング」を宿主とする)について、それぞれの花弁の色彩について分光測色計CM-2022(ミノルタ株式会社)を用いて10度視野、D65光源で測定し、色彩管理ソフトSpectraMagicTM(ミノルタ株式会社)により解析を行った。
色相角度の平均値の比較ではCGT遺伝子がソバ由来(実施例3)のバラとイネ由来(実施例2)のバラの間で花弁の色相角度に違いは認められなかった。しかしながら、個体別にみるとソバ由来CGT遺伝子を導入したバラでは色相角度が315°以下を示した個体が多く、中でも294.5°を示す、これまでで最も青く変化した個体を取得した。以上の結果から、ソバ由来のCGT遺伝子を利用することにより、フラボン C-配糖体の生成量、特にモノ-C-配糖体の生成量が有意に増加し、これがアントシアニンとの共存により花弁の色彩が青く変化することが確認された。
【0064】
結果を表7に示す。
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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