(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】ブレーシングボディ(BRACING BODY)を有する付加製造義歯床
(51)【国際特許分類】
A61C 13/007 20060101AFI20240802BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
A61C13/007
A61C13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021575328
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 US2020037450
(87)【国際公開番号】W WO2020257073
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-08
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ハサン,エムディー,アブ
【審査官】松山 雛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-506525(JP,A)
【文献】特開昭60-222051(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02465465(EP,A1)
【文献】米国特許第04133110(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスであって、
(a) i.頬に面した側;
ii.舌に面した側;および
iii.前記頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、
を有する前記歯列弓形態を含む義歯床と、
(b) i.前記歯列弓形態の前部内の前部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;
ii.前記歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および
iii.前記歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、
を含むように、複数の場所で前記義歯床に接合され
て隣接する前記義歯床を支持し、前記義歯床から取り外し可能な少なくとも1つ
のブレーシングボディ(bracing body)と、
を含み、
前記義歯床および前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、
付加製造歯科デバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが、前記歯列弓形態の前記左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、前記歯列弓形態の前記右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、をさらに含む、請求項1に記載の歯科デバイス。
【請求項3】
前記歯列弓形態の前記舌に面した側との各固定接合点が、前記固定接合点が前記舌に面した側に沿って近接した前記歯槽の縁の下の少なくとも約1mmかつ約4mm以下に配置される、請求項1に記載の歯科デバイス。
【請求項4】
前記歯列弓形態の前記舌に面した側との各固定接合点が、少なくとも約0.8mm
2かつ約25mm
2以下の断面積を含む、請求項1に記載の歯科デバイス。
【請求項5】
歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスであって、
(a) i.頬に面した側;
ii.舌に面した側;および
iii.前記頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、
を有する前記歯列弓形態を含む義歯床と、
(b) i.前記歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;
ii.前記歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;
iii.前記歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および
iv.前記歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、
を含むように、複数の場所で前記義歯床に接合され
て隣接する前記義歯床を支持し、前記義歯床から取り外し可能な少なくとも1つ
のブレーシングボディと、
を含み、
前記義歯床および前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、
付加製造歯科デバイス。
【請求項6】
前記歯列弓形態の前記舌に面した側との各固定接合点が、少なくとも約0.8mm
2かつ約25mm
2以下の断面積を含む、請求項5に記載の歯科デバイス。
【請求項7】
歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスであって、
(a) i.頬に面した側;
ii.舌に面した側;および
iii.前記頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、
を有する前記歯列弓形態を含む義歯床と、
(b) i.前記歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および
ii.前記歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、
を含むように、2つ以上の場所で前記義歯床に接合され
て隣接する前記義歯床を支持し、前記義歯床から取り外し可能な第一
のブレーシングボディと、
(c) i.前記歯列弓形態の前記左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および
ii.前記歯列弓形態の前記右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、
を含むように、2つ以上の場所で前記義歯床に接合され
て隣接する前記義歯床を支持し、前記義歯床から取り外し可能な第二
のブレーシングボディと、
を含み、
前記第一
のブレーシングボディが、前記第二
のブレーシングボディに接合されておらず、前記義歯床および
各ブレーシングボディが、光重合されたポリマー組成物を含む、
付加製造歯科デバイス。
【請求項8】
前記歯列弓形態の前記舌側との各固定接合点が、少なくとも約0.8mm
2かつ約25mm
2以下の断面積を含む、請求項7に記載の歯科デバイス。
【請求項9】
歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスであって、
(a) i.頬に面した側;
ii.舌に面した側;
iii.前記頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽;および
iv.前記歯列弓形態の前記舌に面した側と一体成形されていて前記舌に面した側に拡張している口蓋部、
を有する前記歯列弓形態を含む上顎義歯床と、
(b) i.前記口蓋部の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;
ii.前記歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および
iii.前記歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、
を含むように、複数の場所で前記上顎義歯床に接合され
て隣接する前記義歯床を支持し、前記上顎義歯床から取り外し可能な少なくとも1つ
のブレーシングボディと、
を含み、
義歯床および前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、
付加製造歯科デバイス。
【請求項10】
前記口蓋部の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点が、実質的に前記歯列弓形態の正中線に位置する、請求項9に記載の歯科デバイス。
【請求項11】
前記口蓋部の前記舌に面した側との2つ以上の固定接合点が、前記歯列弓形態の正中線に対して実質的に等距離に位置する、請求項9に記載の歯科デバイス。
【請求項12】
前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが、前記歯列弓形態の前記左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、前記歯列弓形態の前記右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、をさらに含む、請求項9に記載の歯科デバイス。
【請求項13】
前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが、前記歯列弓形態の前部内の前部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点をさらに含む、請求項9に記載の歯科デバイス。
【請求項14】
前記歯列弓形態の前記舌側との各固定接合点が、少なくとも約0.8mm
2かつ約25mm
2以下の断面積を含む、請求項9に記載の歯科デバイス。
【請求項15】
前記歯列弓形態の前記舌側との各固定接合点が、少なくとも約0.8mm
2かつ約25mm
2以下の断面積を含む、請求項12に記載の歯科デバイス。
【請求項16】
前記歯列弓形態の前記舌側との各固定接合点が、少なくとも約0.8mm
2かつ約25mm
2以下の断面積を含む、請求項13に記載の歯科デバイス。
【請求項17】
付加製造歯科デバイスから歯科補綴物を組み立てる方法であって、
(a)光造形(light-based)三次元プリント機器から付加製造歯科デバイスを得るステップであって、前記付加製造歯科デバイスが、
i. a.頬に面した側;
b.舌に面した側;および
c.前記頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、
を有する前記歯列弓形態を含む義歯床と、
ii.a.前記歯列弓形態の前部内の前部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;
b.前記歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および
c.前記歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、
を含むように、複数の場所で前記義歯床に接合され
て隣接する前記義歯床を支持し、前記義歯床から取り外し可能な少なくとも1つ
のブレーシングボディと、
を含み、
前記義歯床および前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを得るステップと;
(b)前記付加製造歯科デバイスで少なくとも1回の洗浄処置を実施して、前記付加製造歯科デバイスの表面から未反応の、または残留する光重合性ポリマー組成物を除去するステップと;
(c)前記付加製造歯科デバイスの前記歯槽内に人工歯を結合させるステップと;
(d)前記付加製造歯科デバイスで二次光硬化処置を実施して、前記光重合されたポリマー組成物の硬化を実質的に完了するステップと;
(e)前記付加製造歯科デバイスから前記少なくとも1つ
のブレーシングボディの各々を分離するステップと、
を含む、方法。
【請求項18】
付加製造歯科デバイスから歯科補綴物を組み立てる方法であって、
(a)光造形三次元プリント機器から付加製造歯科デバイスを得るステップであって、前記付加製造歯科デバイスが、
i. a.頬に面した側;
b.舌に面した側;および
c.前記頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、
を有する前記歯列弓形態を含む義歯床と、
ii.a.前記歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;
b.前記歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;
c.前記歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および
d.前記歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、
を含むように、複数の場所で前記義歯床に接合され
て隣接する前記義歯床を支持し、前記義歯床から取り外し可能な少なくとも1つ
のブレーシングボディと、
を含み、前記義歯床および前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを得るステップと;
(b)前記付加製造歯科デバイスで少なくとも1回の洗浄処置を実施して、前記付加製造歯科デバイスの表面から未反応の、または残留する光重合性ポリマー組成物を除去するステップと;
(c)前記付加製造歯科デバイスの前記歯槽内に人工歯を結合させるステップと;
(d)前記付加製造歯科デバイスで二次光硬化処置を実施して、前記光重合されたポリマー組成物の硬化を実質的に完了するステップと;
(e)前記付加製造歯科デバイスから前記少なくとも1つ
のブレーシングボディの各々を分離するステップと、
を含む、方法。
【請求項19】
付加製造歯科デバイスから歯科補綴物を組み立てる方法であって、
(a)光造形三次元プリント機器から付加製造歯科デバイスを得るステップであって、前記付加製造歯科デバイスが、
i. a.頬に面した側;
b.舌に面した側;
c.前記頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽;および
d.前記歯列弓形態の前記舌に面した側と一体成形されていて前記舌に面した側に拡張している口蓋部、
を有する前記歯列弓形態を含む上顎義歯床と、
ii.a.前記口蓋部の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;
b.前記歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および
c.前記歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、前記歯列弓形態の前記舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、
を含むように、複数の場所で義歯床に接合され
て隣接する前記義歯床を支持し、前記義歯床から取り外し可能な少なくとも1つ
のブレーシングボディと、
を含み、前記義歯床および前記少なくとも1つ
のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを得るステップと;
(b)前記付加製造歯科デバイスで少なくとも1回の洗浄処置を実施して、前記付加製造歯科デバイスの表面から未反応の、または残留する光重合性ポリマー組成物を除去するステップと;
(c)前記付加製造歯科デバイスの前記歯槽内に人工歯を結合させるステップと;
(d)前記付加製造歯科デバイスで二次光硬化処置を実施して、前記光重合されたポリマー組成物の硬化を実質的に完了するステップと;
(e)前記付加製造歯科デバイスから前記少なくとも1つ
のブレーシングボディの各々を分離するステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、全ての目的で参照により本明細書に組み入れられる2019年6月17日出願の米国特許仮出願第62/862,221号の利益および優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、歯科補綴物を作製する際に用いられる歯科デバイスおよび方法に関する。より具体的には本発明は、義歯床と、特有の場所で該義歯床に接合された少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディと、で構成された付加製造(三次元プリントとしても知られる)歯科デバイスに関する。本発明はまた、歯科補綴物の組み立てにおいて付加製造歯科デバイスを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
義歯床または歯板は、補綴歯科医業において広範囲に使用されてきた。これらの義歯床または歯板は、着脱自在および固定の義歯における人工歯の安定した位置および位置合わせを維持して部分性および/または完全無歯症患者の歯科修復の要件を満たすことに不可欠な役割を担う。義歯床内で人工歯を保持するために形成された歯列弓形態および歯槽を含む義歯床の最終的なサイズおよび個々の形状が、患者特有の要件に合わせて作製される。特有のサイズおよび形状パラメータが、物理的印象、または患者の口内顎構造(要件に応じて上顎および/または下顎)、口内画像、口外画像、もしくはそれらの幾つかの組み合わせから得られた鋳型から決定されてもよい。
【0004】
義歯床は、種々の耐久性材料から形成されてきたが、ポリマー樹脂組成物が、その汎用特性(製造および使用の両方において)、生体適合性、および相対的な費用対効果により、この適用に特に良好に適合することが見出されている。歴史的には、これらの組成物から作製された義歯床は、慣例的に注型成形工程またはCNC(コンピュータ数値制御)切削工程のどちらかの幾つかのバージョンにより生成されてきた。
【0005】
注型成形工程を利用して組み立てられた義歯床では、未硬化または部分硬化ポリマー樹脂組成物(例えば、流動性形態、液体、またはペースト状)が、患者特有の予備成形された義歯床鋳型に注入、圧縮、または射出された後、制御された熱および/または光処置の幾つかを適用して、予備成形鋳型の中に組成物の最終的な硬化/ハードニングを誘導してもよい。この工程の幾つかの変形例において、鋳造工程の際、充填および硬化ステップと同時に、義歯床組成物が各人工歯の床と順応および結合するように、所定の人工歯が予め鋳型内で配列および固定され得る。鋳造工程の他の変形例において、所定の人工歯形態が次に挿入され、後硬化された成形義歯床に接着剤で結合され得るように、予備成形された歯槽が、成形された義歯床の中に設けられてもよい。注型成形のバージョンにより生成された義歯床は一般に、仕上げステップを通して一貫した寸法精度および充分な寸法完全性を保有し、患者にふさわしい最終的適合性を維持する。しかし、注型成形工程の短所または欠点として、工程の完了に必要となる膨大な時間、労力、および材料がある。
【0006】
CNC切削工程を利用して組み立てられた義歯床では、一般的アプローチは、円形ディスク、ブランク(blanks)、または「パック」の形状に既に完全硬化された固形のポリマー樹脂組成物を利用することであった。そのような硬化樹脂ディスクは、患者の歯列弓の高さおよびスパンの両方を収容するのに充分な径および厚さで提供される。CAD/CAM(計算機援用設計/計算機援用製造)ソフトウエアをCNC機械加工ツールと共に利用すれば、ツールソケットコンパートメントを有する歯列弓形態が、非常に精密かつ信頼性のある手法でこれらの硬化樹脂ディスクから切り抜かれ得る。所望の義歯床形態を生成するためのディスクの切削に続いて、所定の人工歯形態が、次に切削された歯槽の中に挿入され、義歯床に接着剤で結合される。注型成形により生成された義歯床と同様に、これらの樹脂ディスクは、完全硬化状態で予備成形されたブランクとして供与されるため、CNC切削により生成された義歯床は、一般に仕上げステップを通して一貫した寸法精度および充分な寸法完全性を保有し、患者にふさわしい最終的適合性を維持する。しかしCNC切削工程はまた、義歯床を製造する上で複数の短所または欠点を有する。1つは、このアプローチが、大型で標準化された予備成形ディスクの機械加工を必要とするため(小型から大型までの全範囲の患者歯列弓サイズを収容するため)、樹脂材料または組み立て時間のどちらかの最も効率的な利用にならない場合が多い。例えば、それぞれの患者の解剖学的必要条件が、比較的小さいものから平均的である場合、膨大な量の材料が、これらのディスクから除去/切り出されなければならない。これらの材料の差分は、おそらく全開始樹脂ディスクの90%以上に達する可能性がある。その結果、これは、CNC切削デバイスの労働集約的な加工時間につながり得る。さらに、フライスヘッドは、ブランクの加工の際に摩損を受けるため、それぞれの切削ツールの摩損の度合いは、相対的に高く、そのため切削ツールは、定期的間隔で交換されなければならない。その上、切り出された材料(ミリング(millings))は、捨てられるか、またはリサイクルされなければならない。
【0007】
より近年になり、これらの付加製造工程のために開発された設備および材料の両方において、付加製造(AM)技術(三次元(3D)プリントとしても知られる)の開発が著しく有利になってきた。これらの技術的進歩は現在、複雑な3D対象物の単なる「迅速な試作」というより限定された領域から、持続的利用の用途において重大な機能的性能を要求する対象物のための信頼性のある「迅速な生産」というより広範囲の領域への移行をより良好に可能にしている。したがって、付加製造を利用した機能的に信頼性のある高品質義歯床の効率的な「迅速生産」は、補綴歯科学のためのより到達可能な展望になりつつある。特に、光重合性流動樹脂組成物は、調製されて、プログラム可能なデジタル制御光硬化システム(SLAまたはDLPに基づくAMシステム)にロードされ、あつらえられた患者特有の義歯床の仮想設計が、層ごとに、または革新的な光硬化の手法で形成され得る。歴史的に、標準のSLAプリンタおよびDLP-SLAプリンタは両者とも、一般に正確さ、分解能、およびプリント対象物の表面仕上げなどの最高のプリント品質特性を提供するための最良の能力を有すると一般に見なされている。これらのプリント品質特性は、プリント機器の多くの一般に知られる因子(例えば、用いられる光源および光学系の品質および分解能)、および基本的プリント工程の条件またはパラメータ(例えば、スライスまたは層厚、および光硬化の露光時間)の選択による影響を受け得る。しかし、義歯床および/または歯科補綴物に関して、これらの付加製造技術を含む設計および組み立ての態様には、依然として欠陥がある。
【0008】
前述の理由のために、改善された付加製造歯科デバイス、および歯科補綴物の組み立てにおける付加製造歯科デバイスの改善された使用方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、これらおよび他の要件に最良に適合する歯科補綴物の組み立てにおける付加製造歯科デバイス、および付加製造歯科デバイスを使用する方法を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態において、本開示は、歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスであって、(a)頬に面した側;舌に面した側;および該頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、を有する該歯列弓形態を含む義歯床と、(b)該歯列弓形態の前部内の前部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、を含むように、複数の場所で該義歯床に接合された少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディと、を含み、該義歯床および着脱自在のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを提供する。任意選択による態様において、該着脱自在のブレーシングボディは、歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、をさらに含んでいてもよい。
【0011】
本開示の態様において、歯列弓形態の該舌に面した側との各固定接合点は、該固定接合点が該舌に面した側に沿って近接した歯槽の縁の下の少なくとも約1mmかつ約4mm以下に配置されていてもよい。
【0012】
本開示の別の態様において、該歯列弓形態の該舌に面した側との各固定接合点は、少なくとも約0.8mm2および約25mm2以下の断面積を含んでいてもよい。
【0013】
別の実施形態において、本開示は、歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスであって、(a)頬に面した側;舌に面した側;および該頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、を有する該歯列弓形態を含む義歯床と、(b)該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;該歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および該歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、を含むように、複数の場所で該義歯床に接合された少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディと、を含み、該義歯床および着脱自在のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを提供する。
【0014】
別の実施形態において、本開示は、歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスであって、(a)頬に面した側;舌に面した側;および該頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、を有する該歯列弓形態を含む義歯床と、(b)該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、を含むように、2つ以上の場所で該義歯床に接合された第一の着脱自在のブレーシングボディと、(c)該歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および該歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、を含むように、2つ以上の場所で該義歯床に接合された第二の着脱自在のブレーシングボディと、を含み、該第一の着脱自在のブレーシングボディが、該第二の着脱自在のブレーシングボディに接合されておらず、該義歯床および各着脱自在のブレーシングボディが、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを提供する。
【0015】
別の実施形態において、本開示は、歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスであって、(a)頬に面した側;舌に面した側;該頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽;および該歯列弓形態の該舌に面した側と一体成形されていて該舌に面した側に拡張している口蓋部、を有する該歯列弓形態を含む上顎義歯床と、(b)該口蓋部の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、を含むように、複数の場所で該上顎義歯床に接合された少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディと、を含み、該記義歯床および着脱自在のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを提供する。任意選択による態様において、該着脱自在のブレーシングボディは、歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、をさらに含んでいてもよい。別の任意選択による態様において、該着脱自在のブレーシングボディは、歯列弓形態の前部内の前部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点をさらに含んでいてもよい。
【0016】
別の実施形態において、本開示は、付加製造歯科デバイスから歯科補綴物を組み立てる方法であって、(a)光造形(light-based)三次元プリント機器から付加製造歯科デバイスを得るステップであって、該付加製造歯科デバイスが、(i)頬に面した側;舌に面した側;および該頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、を有する該歯列弓形態を含む義歯床と、(ii)該歯列弓形態の前部内の前部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、を含むように、複数の場所で該義歯床に接合された少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディと、を含み、該義歯床および着脱自在のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを得るステップと;(b)該付加製造歯科デバイスで少なくとも1回の洗浄処置を実施して、該付加製造歯科デバイスの表面から未反応の、または残留する光重合性ポリマー組成物を除去するステップと;(c)該付加製造歯科デバイスの該歯槽内に人工歯を結合させるステップと;(d)該付加製造歯科デバイスで二次光硬化処置を実施して、該光重合されたポリマー組成物の硬化を実質的に完了するステップと;(e)該付加製造歯科デバイスから各着脱自在のブレーシングボディを分離するステップと、を含む、方法を提供する。
【0017】
別の実施形態において、本開示は、付加製造歯科デバイスから歯科補綴物を組み立てる方法であって、(a)光造形三次元プリント機器から付加製造歯科デバイスを得るステップであって、該付加製造歯科デバイスが、(i)頬に面した側;舌に面した側;および該頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽、を有する該歯列弓形態を含む義歯床と、(ii)該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;該歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および該歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、を含むように、複数の場所で該義歯床に接合された少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディと、を含み、該義歯床および着脱自在のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを得るステップと;(b)該付加製造歯科デバイスで少なくとも1回の洗浄処置を実施して、該付加製造歯科デバイスの表面から未反応の、または残留する光重合性ポリマー組成物を除去するステップと;(c)該付加製造歯科デバイスの該歯槽内に人工歯を結合させるステップと;(d)該付加製造歯科デバイスで二次光硬化処置を実施して、該光重合されたポリマー組成物の硬化を実質的に完了するステップと;(e)該付加製造歯科デバイスから各着脱自在のブレーシングボディを分離するステップと、を含む、方法を提供する。
【0018】
別の実施形態において、本開示は、付加製造歯科デバイスから歯科補綴物を組み立てる方法であって、(a)光造形三次元プリント機器から付加製造歯科デバイスを得るステップであって、該付加製造歯科デバイスが、(i)頬に面した側;舌に面した側;該頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って配設された複数の歯槽;および該歯列弓形態の該舌に面した側と一体成形されていて該舌に面した側に拡張している口蓋部、を有する該歯列弓形態を含む上顎義歯床と、(ii)該口蓋部の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点;および該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点、を含むように、複数の場所で該義歯床に接合された少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディと、を含み、該記義歯床および着脱自在のブレーシングボディが両者とも、光重合されたポリマー組成物を含む、付加製造歯科デバイスを得るステップと;(b)該付加製造歯科デバイスで少なくとも1回の洗浄処置を実施して、該付加製造歯科デバイスの表面から未反応の、または残留する光重合性ポリマー組成物を除去するステップと;(c)該付加製造歯科デバイスの該歯槽内に人工歯を結合させるステップと;(d)該付加製造歯科デバイスで二次光硬化処置を実施して、該光重合されたポリマー組成物の硬化を実質的に完了するステップと;(e)該付加製造歯科デバイスから各着脱自在のブレーシングボディを分離するステップと、を含む、方法を提供する。
【0019】
本発明のこれらおよび他の特色、態様、例示的実施形態および利点は、以下の記載、付属の特許請求の範囲および添付の図面においてより良好に理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】歯列弓形態に沿って配設された歯槽を有する下顎(下方)総義歯床または全部義歯床の三次元(3D)デジタル画像の透視図を示す。
【
図1B】歯列弓形態に沿って配設された歯槽を有する下顎(下方)総義歯床または全部義歯床の三次元(3D)デジタル画像の(歯槽上を垂直に見下ろした)上面図を示す。
【
図2A】歯列弓形態に沿って配設された歯槽を有する上顎(上方)総義歯床または全部義歯床の三次元(3D)デジタル画像の透視図を示す。
【
図2B】歯列弓形態に沿って配設された歯槽を有する上顎(上方)総義歯床または全部義歯床の三次元(3D)デジタル画像の(歯槽上を垂直に見下ろした)上面図を示す。
【
図3A】下顎(下方)全部義歯床に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の上面図を示す。
【
図3B】下顎(下方)全部義歯床に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の上面図を示す。
【
図3C】下顎(下方)全部義歯床に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の上面図を示す。
【
図3D】下顎(下方)全部義歯床に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の上面図を示す。
【
図3E】下顎(下方)全部義歯床に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の上面図を示す。
【
図3F】下顎(下方)全部義歯床に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の上面図を示す。
【
図3G】下顎(下方)全部義歯床に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の上面図を示す。
【
図3H】下顎(下方)全部義歯床に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の上面図を示す。
【
図4A】上顎(上方)全部義歯床に接合された着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の(後端から見た)背面図を示す。
【
図4B】上顎(上方)全部義歯床に接合された着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の(後端から見た)背面図を示す。
【
図4C】上顎(上方)全部義歯床に接合された着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の(後端から見た)背面図を示す。
【
図4D】上顎(上方)全部義歯床に接合された着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の(後端から見た)背面図を示す。
【
図4E】上顎(上方)全部義歯床に接合された着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の(後端から見た)背面図を示す。
【
図4F】上顎(上方)全部義歯床に接合された着脱自在のブレーシングボディの例示的実施形態の三次元(3D)デジタル画像の(後端から見た)背面図を示す。
【
図5A】歯列弓形態内の比較上「非常に薄い」断面幅を有する下顎義歯床の例示的断面の三次元(3D)デジタル画像の(後端から見た)背面図を示す。
【
図5B】歯列弓形態内の比較上「非常に厚い」断面幅を有する下顎義歯床の例示的断面の三次元(3D)デジタル画像の(後端から見た)背面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付の図面と共に上記の概要ならびに以下に提示される詳細な記載および特許請求の範囲において、本発明の個々の特色および実施形態が参照される。本明細書内の本発明の開示がそのような個々の特色の全ての可能な組み合わせを含むことが、理解されるべきである。例えば、個々の特色が、本発明の個々の態様もしくは実施形態、または個々の特許請求の範囲の文脈で開示されている場合、この特色はまた、本発明の他の個々の態様および実施形態と組み合わせて、そして/またはそれらの文脈において、そして一般に本発明において、可能な限り利用され得る。
【0022】
2つ以上の定義されたステップを含む方法を本明細書において参照する場合、この定義されたステップは、任意の順序で、または同時に実行され得(文脈がその可能性を除外する場合を除く)、その方法は、定義されたステップのいずれかの前に、定義されたステップの2つの間に、または定義されたステップ全ての後に、実行される1つまたは複数の他のステップを含み得る(文脈がその可能性を除外する場合を除く)。
【0023】
以下の追加的定義は、他に具体的に示されない限り、本発明の明細書および特許請求の範囲全体に適用される。
【0024】
用語「約」は、指定された値のプラスまたはマイナス5%、好ましくは指定された値のプラスまたはマイナス3%、より好ましくは指定された値のプラスまたはマイナス1%を意味する近似の用語として本明細書で用いられる。
【0025】
用語「本質的に」および「実質的に」は、記載されている基本的性質または主な特徴に関して、大部分であるが必ずしも全体または完全にではないことを表す近似の用語として本明細書で用いられる。
【0026】
数の前の用語「少なくとも」は、その数で始まる範囲の始点を表すために本明細書で用いられる(定義された変数に応じて、上限を有する範囲であっても、または上限を有さない範囲であってもよい)。例えば「少なくとも1」は、1、または1より多いことを意味する。
【0027】
数の前の用語「多くとも」または「以下」は、その数で終結する範囲の終点を表すために本明細書で用いられる(定義された変数に応じて、下限として1もしくは0を有する範囲、または下限を有さない範囲であってもよい)。例えば「多くとも100」または「100以下」は、100、または100未満を意味する。本明細書において、範囲が「(最初の数)から(二番目の数)」または「(最初の数)~(二番目の数)」として与えられる場合、これは、下限が最初の数であり上限が二番目の数である範囲を意味する。例えば1~5mmは、下限が1mmであり上限が5mmである範囲を意味する。
【0028】
本明細書で用いられる用語「および/または」は、関連の列挙された項目の1つまたは複数のあらゆる可能な組み合わせと、代替(「または」)で解釈される場合には組み合わせがないことを包含する。例えば「Aおよび/またはB」は、Aのみ、Bのみ、またはAおよびBを一緒に、またはそれらの混合を意味する。
【0029】
「~の下」、「~より下」、「~より低い」、「下方の」、「~の上」、「上方の」、「~より上」、「最上部の」、「左」、「右」および同様のものなどの方向的または空間的な相対的用語は、図に示された要素または特色と他の要素(複数可)または特色(複数可)との関連性を記載するための記載の容易さのために本明細書で用いられる場合がある。この空間的な相対的用語が図に表された方位に加えてデバイスの異なる方位を含むことは、理解されよう。例えば図の中のデバイスが、反転されるとすると、「上の」または「最上部の」他の要素または特色と記載された要素または特色は、他の要素または特色「より下」または「の下」に定位されることになる。デバイスは、他の方法で定位されてもよく(例えば、90°または他の方位に回転)、本明細書で用いられる空間的に相対的な記述語は、それに応じて解釈されてもよい。同様に用語「上向き」、「下向き」、「垂直」、「水平」および同様のものは、他に具体的に示されない限り、相対的説明のみを目的として本明細書で用いられている。
【0030】
用語「歯列弓形態」は、歯槽頂および歯列が存在する輪郭に似た上顎弓(上部アーチ)または下顎弓(下部アーチ)のどちらかの歯列弓の三次元曲線形態または形状を意味するために本明細書で用いられる。「歯列弓形態」が全部義歯床および補綴物のみならず、部分義歯床および補綴物にも適用されることを意味することも、理解されなければならない。
【0031】
用語「舌に面した側」は、口腔の舌に隣り合う、または舌に向かう方向または空間を意味するために本明細書で用いられる。
【0032】
用語「頬に面した側」は、口腔の頬および/または唇に隣り合う、または唇に向かう方向または空間を意味するために本明細書で用いられる。
【0033】
用語「ブレーシングボディ」は、隣接する、または取り囲む構造に機械的/物理的強化および/または補強を提供する硬性または半硬性部材を意味するために本明細書で用いられる。
【0034】
用語「前部」は、前歯(即ち、切歯および/または犬歯/糸切り歯)および/または前部歯槽が配列され得る義歯床の前方領域または前面部分を意味するために本明細書で用いられる。
【0035】
用語「後部」は、後歯(即ち、臼歯および/または小臼歯/双頭歯)および/または後部歯槽が配列され得る義歯床の背面領域または背部を意味するために本明細書で用いられる。
【0036】
用語「口蓋部」は、一般には上顎弓(上部アーチ)内に配置された硬口蓋の弓状形態と見なされる、口腔の最も上の部分または内部頂部にあてはまる曲面部を意味するために本明細書で用いられる。
【0037】
用語「正中線」または「ミッドライン」は、身体、そしてとくに顎を左半分と右半分に分割する架空の中心線を意味するために本明細書で用いられる。
【0038】
用語「近心-遠位方位」は、歯列弓の正中線またはミッドラインから歯列弓の遠位または遠隔端部への歯列弓の曲線方向を意味するために本明細書で用いられる。
【0039】
本明細書で提示された開示は、歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイス、および歯科補綴物を組み立てるためにこれらの付加製造歯科デバイスを使用する方法の説明および例示的実施例を提供する。
【0040】
付加製造歯科デバイス
本開示の付加製造歯科デバイスは、義歯床と、複数の場所で該義歯床に接合された少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディと、を含んでいてもよい。
【0041】
図1Aおよび1Bに示される通り、下顎義歯床(100)が、頬に面した側(
図1Aおよび1Bに示される「BF側」)と、舌に面した側(
図1Aおよび1Bに示される「LF側」)と、を有する歯列弓形態(110)で構成されていてもよい。複数の歯槽(120a、120p、120m)が、頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って凹状に配設されていてもよい。同様に
図2Aおよび2Bに示される通り、上顎義歯床(200)が、頬に面した側(
図2Aおよび2Bに示される「BF側」)と、舌に面した側(
図2Aおよび2Bに示される「LF側」)と、口蓋部(130)と、を有する歯列弓形態(110)で構成されていてもよく、該口蓋部は、歯列弓形態の舌に面した側と一体成形されていて、そこに拡張している。同じく複数の歯槽(120a、120p、120m)が、頬に面した側と舌に面した側の間の歯列弓形態に沿って凹状に配設されていてもよい。
【0042】
下顎義歯床および上顎義歯床の両者で、歯列弓形態は、「前部」、「左後部」および「右後部」の中に配置された1つまたは複数の歯槽を有していてもよい。「前部」は、切歯および糸切り歯/犬歯形態のための歯槽(120a)を有していてもよい。「左後部」および「右後部」は各々、小臼歯/双頭歯(120p)および臼歯(120m)形態のための歯槽を有していてもよい。歯槽は、近心-遠位方位で歯列弓形態に沿って近隣の、または隣接した位置に配列されていてもよい。より自然に見える歯科補綴物を確保するために、歯槽の各々が適切な人工歯形態を受けるように構成されることも、有利である。限定を意図するものではないが、適切な人工歯形態は、外部の輪郭、または形状プロファイル、およびサイズが、歯列弓に沿ったネイティブな口腔解剖学および場所または位置に関連して、適当な人工歯のタイプ(即ち、切歯、糸切り歯/犬歯、双頭歯/小臼歯、臼歯)および/または歯数(FDI 世界歯科連盟表記システムで用いられるなど)に対応するものである。そして
図1A/1Bおよび
図2A/2Bは、それぞれ下顎全義歯床および上顎全義歯床の代表的実施例を提供しているが、本開示が全義歯床のみに限定されないことも理解されなければならない。本発明の実施形態は、全義歯床および部分義歯床に適用されてもよい。
【0043】
少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディは、義歯床の舌に面した側の1箇所より多くの場所で義歯床に接合されてもよい。
図3A~3Hは、歯列弓形態の舌に面した側の複数の場所(301、302、303、304、305、311、312など)で下顎義歯床(100)に接合された1つまたは複数の着脱自在のブレーシングボディ(300、310)の様々な例示的実施形態を示す。同じく、
図3A~3Hの着脱自在のブレーシングボディの様々な例示的実施形態は、下顎義歯床に関して示されているが、これらの同一または類似のブレーシングボディが、上顎義歯床に適用され得ることが、理解されなければならない。さらに他の実施形態において、上顎義歯床(歯列弓形態の舌に面した側と一体成形されていて、そこに拡張している口蓋部の追加的特色を有する)を生成する特有の例では、
図4A~4Fは、歯列弓形態の舌に面した側の複数の場所(401、402、403、411、412、413、421など)で上顎義歯床(200)に接合された着脱自在のブレーシングボディ(400)の様々な例示的実施形態を示す。本明細書で用いられる着脱自在のブレーシングボディは、プリントの後、取り外す前に、隣接する義歯床に機械的/物理的強化および/または補強を提供するために歯列弓形態の舌に面した側の特有の位置に配置され得る剛性または半剛性部材である。
【0044】
本開示の着脱自在のブレーシングボディは、3Dプリント工程で用いられる従来の「着脱自在の支持構造」と識別されてもよく、性質が異なっていてもよい。比較考察すると、従来の「着脱自在の支持構造」は、最小の接触面積サイズおよび強度(即ち、プリントの間だけ「支持」機能を実施するために可能な限り小さくかつ弱い)で最終的な意図する対象物に接続するように適用され、対象物の最初のプリントに必要な場合には控えめ接続されるだけである。したがってそれらは、対象物にプリントさせるという一時的理由のために含有および配置されただけで、しかしその場合、プリントの後に即座に取り外されてきた。一般に、対象物が正確に再現され得る限り、支持のための要件を減らす方位で対象物をプリントすることにより、「着脱自在の支持構造」の使用を最小限にすることが、より望ましい実践とされてきた。
【0045】
さらに、最初の義歯床プリント/形成のプロセス境界を除けば、従来の「着脱自在の支持構造」は、歪ませ得る、さもなければ寸法の完全性を損ない得るプリントの後の追加的損傷(例えば、熱および/または圧力)に耐えるように、義歯床に機械的/物理的強化および/または補強を提供することが可能な手法で特有に設計されていない。実際に、一般には対象物に接合された追加的構造の適用(頻度/数および/またはサイズ)を最小にすることが、3Dプリントで推奨される実践または目標であった。これは、複数の理由で実行されている。1つの要因は、付加構造(複数可)の設計および/またはプリント、ならびにプリント後の取り外しに関連する余分な時間/労力である。別の要因は、最終的な対象物の表面仕上げ/外観への有害作用を最小限にすることであり得る。そして第三の要因は、典型的には対象物から取り外された後にもはや使用可能またはリサイクル可能でないために廃棄されなければならない、「消耗した」プリント材料であり得る。
【0046】
それゆえ、義歯床に関係して、樹脂組成物の選択、プリント方位、および/または他のプリント工程条件に応じて、歯列弓形態の舌に面した側の任意の部分に接合された任意の「着脱自在の支持構造」に頼らなくとも義歯床がプリントされ得るようなプリントシナリオが存在する。従来の「着脱自在の支持構造」は、本開示のブレーシングボディとして機能することを目的とする手法、または機能することが可能な手法で義歯床の舌に面した側に特有に構築、または特有に構成されてきていない。本開示の前は、義歯台がプリントされた後に義歯台に追加的利益を授与するために一時的な特殊構造を施設するという考慮がなされなかった。対照的に本開示のブレーシングボディは、予想外の手法で特有に設計および施設されて、驚くべき追加的利益を提供した。本開示のブレーシングボディは、最終的な歯科補綴物からブレーシングボディを取り外す前の、特に人工歯結合および二次硬化というプリント後加工ステップの際に、義歯床の寸法安定性/完全性を増強する。
【0047】
一実施形態において、着脱自在のブレーシングボディが、歯列弓形態の前部内の前部歯槽(120a)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽(120m)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽(120m)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、を含むように、該着脱自在のブレーシングボディは、複数の場所で該義歯床に接合されてもよい。任意選択による、または代わりの手法において、着脱自在のブレーシングボディは、歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽(120p)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽(120p)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、をさらに含んでいてもよい。
【0048】
別の実施形態において、着脱自在のブレーシングボディが、該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽(120m)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽(120m)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽(120p)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽(120p)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、を含み得るように、該着脱自在のブレーシングボディは、複数の場所で該義歯床に接合されてもよい。
【0049】
別の実施形態において、第一の着脱自在のブレーシングボディが、第二の着脱自在のブレーシングボディと接合または接続され得ないように、該第一の着脱自在のブレーシングボディが、義歯床に接合されてもよく、該第二の着脱自在のブレーシングボディが、義歯床に接合されてもよい。第一の着脱自在のブレーシングボディが、歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽(120m)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽(120m)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、を含み得るように、該第一の着脱自在のブレーシングボディが、2つ以上の場所で該義歯床に接合されてもよい。第二の着脱自在のブレーシングボディが、歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽(120p)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽(120p)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、を含むように、該第二の着脱自在のブレーシングボディが、2つ以上の場所で該義歯床に接合されてもよい。
【0050】
さらに別の実施形態において、特に上顎義歯床では、着脱自在のブレーシングボディが、該口蓋部(130)の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;該歯列弓形態の左後部内の臼歯部歯槽(120m)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;該歯列弓形態の右後部内の臼歯部歯槽(120m)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、を含み得るように、該着脱自在のブレーシングボディが、複数の場所で該上顎義歯床に接合されてもよい。好ましいが任意選択による手法において、該口蓋部(130)の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点は、実質的に歯列弓形態の正中線に位置してもよい。別の好ましいが任意選択による手法において、該口蓋部(130)の該舌に面した側との2つ以上の固定接合点は、歯列弓形態の正中線に対して実質的に等距離に位置してもよい。任意選択による、または代わりの手法において、該着脱自在のブレーシングボディは、歯列弓形態の左後部内の小臼歯部歯槽(120p)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と;歯列弓形態の右後部内の小臼歯部歯槽(120p)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点と、さらに含んでいてもよい。まだ別の任意選択による、または代わりの手法において、該着脱自在のブレーシングボディは、歯列弓形態の前部内の前部歯槽(120a)に近接した、該歯列弓形態の該舌に面した側との少なくとも1つの固定接合点をさらに含んでいてもよい。
【0051】
一実施形態において、歯列弓形態の舌に面した側との各固定接合点はさらに、該固定接合点が該舌に面した側に沿って近接した歯槽の境界の下の垂直高/深さ(即ち、
図4A~4Fに示されるような義歯床の背面または後端から見た場合)に配置されていてもよい。好ましい実施形態において、歯列弓形態の舌に面した側との各固定された接触点は、該固定接合点が該舌に面した側に沿って近接した歯槽の境界の少なくとも約1mm下に(境界より少なくとも約1mm低く)配置されてもよい。歯槽の境界の少なくとも約1mm下にこれらの固定された接触点の各々を有することが、プリントまたは他のプリント後手順のどちらかの際のブレーシングボディによる歯槽の寸法的歪みを予防するため、または少なくとも低減するのにより有利になり得ることが、観察された。
【0052】
一部の無歯症患者では、特に歯列弓形態の歯槽頂または残留顎堤の最上部のエリアの歯槽の直ぐ下に、1つまたは複数の比較上「非常に薄い」断面幅/厚さ(即ち、約1mm~約3mm)を有する口腔解剖的構造が、歯列弓形態の利用を左右する場合がある。本明細書では「AC
w」と称されるこの寸法幅は、比較上「非常に薄い」断面幅を有する下顎義歯床(500)について
図5Aに示されている。反対に、一部の他の無歯症患者では、特に歯列弓形態の歯槽頂または残留顎堤の最上部のエリアの歯槽の直ぐ下に、1つまたは複数の比較上「非常に厚い」断面幅/厚さ(即ち、約9mmを超える)を有する口腔解剖学的構造が、歯列弓形態の利用を左右する場合がある。この寸法幅もまた、比較上「非常に厚い」断面幅を有する下顎義歯床(510)について
図5Bに示されている。このように、歯槽に関して過去に述べられたものと類似の理由から、歯列弓形態の舌に面した側との各固定接合点が、該固定接合点が舌に面した側に沿って近接した歯槽の境界の下約4mm以下に(境界より約4mm以下低く)配置されることが、好ましくなり得る。具体的実施例において、歯槽の境界の下約4mm以下にこれらの接合点の各々を有することが、プリントまたは他のプリント後手順のどちらかの過程で歯列弓形態の舌に面した側に沿った寸法的歪みを予防する、または少なくとも低減するのにより有利になり得る。
【0053】
好ましい実施形態において、義歯床の歯列弓形態の舌に面した側および/または口蓋部との各固定接合点は、少なくとも約0.8mm2かつ約25mm2以下の断面積を有していてもよい。より好ましい実施形態において、義歯床の歯列弓形態の舌に面した側および/または口蓋部との各固定接合点は、少なくとも約1.5mm2かつ約20mm2以下の断面積を有していてもよい。さらにより好ましい実施形態において、義歯床の歯列弓形態の舌に面した側および/または口蓋部との各固定接合点は、少なくとも約2mm2かつ約15mm2以下の断面積を有していてもよい。
【0054】
各固定接合点の断面積は、義歯床に接続された他の固定接合点の各々の断面積と実質的に同一になるように設計されていてもよい。任意の理論に結び付けるのを望むものではないが、幾つかのブレーシングボディ構成では、このことが、義歯床により均衡のとれた/偏向のない、または均一に分布された機械的強化または補強を提供することに有利になり得る。代替例として、各固定接合点の断面積は、義歯床に接続された他の固定接合点の各々の断面積と実質的に異なるように設計されていてもよい。さらに別の代替例としては、義歯床に接続された2つ以上の固定接合点の断面積は、互いに実質的に同一になるように設計されていてもよく、これらの断面積が、義歯床に接続された1つまたは複数の他の固定接合点の断面積と実質的に異なっていてもよい。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、幾つかのブレーシングボディ構成では、これらの代替例は、義歯床の特有の場所でより堅牢なブレーシング力/補強のためのより大きな接続を施設しながら(例えば、より弱く、機械的応力による歪みをより受け易くなり得る部分)、義歯床の他の特有の場所でより堅牢性の低いブレーシング力/補強のためにより小さな接続も可能にするのに有利になり得る。
【0055】
幾つかの実施形態において、ブレーシングボディが歯列弓形態の正中線に関して形状および/またはサイズが実質的に対称であることが、(要求はされないが)好ましくなり得る、またはさらに有利になり得る。したがって、歯列弓形態の正中線の右の固定接合点の数に匹敵する、または一致する歯列弓形態の正中線の左の固定接合点の数を有することが、有利になり得る。先に議論された観察と類似して、幾つかのブレーシングボディ構成では、このことが、義歯床により均衡のとれた/偏向のない、または均一に分布された機械的強化または補強を提供することに有利になり得る。
【0056】
各固定接合点の断面プロファイルは、限定なく任意の形状であってもよい。しかし、設計努力にとって好都合であること、および/またはプリントもしくは取り外しの容易さなどの追加的因子も考慮した場合、ブレーシングボディに、より複雑で、そして/または非対称の幾何学的形態の代わりに単純で対称的な幾何学的形態(例えば、丸、楕円/長円、正方形)の使用を奨励することが、より効率的かつ有利になり得る。
【0057】
本開示の義歯床および着脱自在のブレーシングボディは、光重合されたポリマー組成物で構成されていてもよい。非限定的手法において、光造形3Dプリント機器から効果的に光硬化され得る任意の液体光重合性ポリマー組成物が、本開示の歯科デバイスの付加製造において使用するのに適し得る。液体光重合性組成物の効果的な光硬化は、そのものの位置でポリマー組成物の急速な架橋およびハードニングをもたらして、光造形3Dプリント機器により使用される3Dデジタルモデルに従って固体構造を形成する。液体光重合性組成物の効果的光硬化は、3Dプリント機器によるポリマー組成物の部分硬化(即ち、限定的または不完全な架橋およびハードニング)または全硬化(即ち、完全な、または本質的に完全な架橋およびハードニング)のどちらかで成就されてもよい。光重合されたポリマー組成物の化学的および物理的特性は、プリントされた義歯床の特有の望ましい最終用途特性(例えば、生体適合性、機械的耐久性(強度/可撓性)、色など)に合うように当業者の要件に応じて選択および/または適合されてもよい。該液体光重合性ポリマー組成物はまた、選ばれた3Dプリント機器の個々の制約または限定に合うように当業者の要件に応じて選択および/または適合されてもよい。好ましい実施形態において、該光重合されたポリマー組成物は、約35℃より高く約100℃未満のガラス転移温度(Tg)を有していてもよい。別の好ましい実施形態において、該光重合されたポリマー組成物は、ISO20795-1:2013に従って調製および測定された場合に、光重合されたポリマー組成物の最終硬化樹脂特性が約1MPam1/2~約4MPam1/2の間の破壊靭性、約300J/m2~約4000J/m2の間の破壊仕事、および23℃で約5MPa~約200MPaの曲げ強度を有するアクリル系ゴム衝撃改質樹脂組成物を含んでいてもよい。
【0058】
歯科デバイスおよび歯科補綴物の組み立て
本開示の付加製造歯科デバイスは、光造形3Dプリント機器から得られてもよい。3Dプリント機器は、レーザ式光造形法(レーザSLA)、デジタル光加工光造形法(DLP-SLA)、またはマスク式光造形法(masked stereolithography)(MSLA)などの任意の光造形式光硬化技術を利用してもよい。いわゆる連続デジタル光造形(cDLM)および連続液界面生産(CLIP)工程などの連続プリント工程のより近年の発展は、特に有利になり得る。本開示の付加製造歯科デバイスを得ることは、最も直接的に、より同時発生的または直後の使用のために現地でプリントすることにより成就されてもよい。代替例として、本開示の付加製造歯科デバイスを得ることはまた、より間接的に、歯科デバイスを遠隔または分離された手法で(例えば、分散型の製造環境またはネットワークの一部として)プリントさせ、その後、二次的な後続使用のために他者に分配させることにより成就されてもよい。
【0059】
選ばれた具体的3Dプリント機器の操作の必要条件または制約、プリントに選択された具体的な液体光重合性組成物の化学的および/または物理的特性、ならびに義歯床および着脱自在のブレーシングボディの厚さをはじめとする多数の用途に特有の検討を行うことを条件に、効果的なプリント工程パラメータが、光造形3Dプリント機器の操作制御における計算システムのソフトウエアで選択されてもよい。非限定的手法において、液体光重合性組成物が、3Dプリント機器に提供される歯科デバイス(および歯科デバイスのための任意の着脱自在の支持構造)の3Dデジタルモデルに従って効果的に光硬化され得るように、適切なプリント工程パラメータが、当業者により決定および選択されてもよい。
【0060】
付加製造歯科デバイスを得た後、本開示に従って歯科補綴物を組み立てる方法は、付加製造歯科デバイスの表面から未反応の、または残留する光重合性ポリマー組成物を除去するために付加製造歯科デバイスに少なくとも1回の洗浄処置を実施するステップを含んでいてもよい。洗浄処置は、極性溶媒組成物中に付加製造歯科デバイスを浸漬することにより実施されてもよい。該極性溶媒組成物は、実質的に純粋な溶媒種または溶媒種混合物で構成されていてもよい。好ましい実施形態において、該極性溶媒組成物は、イソプロパノールなどのC1~C3アルコールを含んでいてもよい。洗浄処置期間は、特に限定される必要はなく、どちらかと言えば付加製造歯科デバイスの表面から未反応の、または残留する光重合性ポリマー組成物を実質的に除去するのに充分な期間、実施されてもよい。一実施形態において、約1分~約15分の間の1回の洗浄処置期間が、実施されてもよい。代わりの実施形態において、それぞれ約1分~約5分の間での2回以上の別個の洗浄処置期間が、実施されてもよく、そこで極性溶媒組成物が、各洗浄処置期間に補給または交換される。
【0061】
本開示に従って歯科補綴物を組み立てる方法は、付加製造歯科デバイスの歯槽内に人工歯を結合させるステップをさらに含んでいてもよい。各人工歯の床表面のサイズおよび形状が、義歯床の歯槽で受け止められるよう適合されるように、予備成形された人工歯形態が、調製および/または予備選択されてもよい。適切な人工歯形態は、外部の輪郭、または形状プロファイル、およびサイズが、歯列弓に沿ったネイティブな口腔解剖学的構造および場所または位置に関連して、適当な人工歯のタイプ(即ち、切歯、糸切り歯/犬歯、双頭歯/小臼歯、臼歯)および/または歯数(FDI 世界歯科連盟表記システムで用いられるなど)に対応するものである。一実施形態において、各人工歯は、少なくとも1種の結合剤により歯槽コンパートメント内に結合されていてもよい。人工歯を義歯床に結合させるのに用いられる数多くの歯科用接着剤または結合剤(複数可)が、市販されている。これらは一般に、レドックス、加熱または可視光重合技術のどれかを用いて硬化されるアクリル系モノマーおよび/またはプレポリマーからなる。少なくとも1種の結合剤が、歯の挿入の直前に、歯槽に塗布される、歯の表面に塗布される、またはその両方に塗布される、のどれかであってもよい。歯は、歯槽内に挿入されてもよく、その後、熱および/または光が適用されて(典型的には歯槽周辺で局所的または指向的手法で)、結合工程を完了させてもよい。結合剤(複数可)は、歯の表面と義歯床の間の結合を形成する。結合剤(複数可)と組み合わせて、溶媒とモノマーの組み合わせを含む特別な結合剤が歯の表面を膨張させる歯の前処置も、利用され得る。これは、追加的な表面結合層を提供し、同時に全体的な結合強度を改善し得る。これらの接着剤または結合剤(複数可)の粘度、陰影および着色は、様々であってよく、義歯床および人工歯の所与の材料選択、ならびに/または他の患者特有の要件に合うように必要に応じて選択または改変されてもよい。
【0062】
本開示に従って歯科補綴物を組み立てる方法は、付加製造歯科デバイスでの二次的な光硬化処置を実施して、光重合されたポリマー組成物の硬化および光重合を実質的に完了するステップをさらに含んでいてもよい。初期3Dプリント(光硬化)は、初期固体歯科デバイスを形成するが、この二次硬化処置は、ポリマー組成物の完全な変換および架橋を確実に行い、患者使用に望ましい最終的な機械的特性および生体適合性プロファイルを全て実現するのにさらに有益になり得る。好ましい実施形態において、該歯科デバイスは、歯科デバイスの歯槽側および床側(下側)の両方でそれぞれ約5分~約15分の間で約10-8m(10ナノメータ)~約10-3m(1ミリメータ)の波長の電磁放射線に暴露されてもよい。紫外および可視波長範囲の広帯域スペクトル電磁放射線への暴露が、特に好ましくなり得る。ECLIPSE(登録商標) PROCESSING UNIT(Model No.9494800;120ボルト、12アンペア、1200ワット;Dentsply Sirona, Inc.から入手)は、このような二次光硬化処置を実施するのに用いられ得る市販の光硬化デバイスの一例である。
【0063】
人工歯を結合させるステップおよび二次光硬化処置を実施するステップは、それぞれ義歯床において追加的な熱的および/または物理的応力を生じる可能性があるため、本開示の1つまたは複数の実施形態による少なくとも1つの着脱自在のブレーシングボディを欠く義歯床は、より脆弱になる場合があり、これらのステップの間に有意な物理的歪みまたは寸法変化に見舞われる可能性がある。したがって本開示の歯科デバイスは、歯科補綴物の組み立ての際に義歯床の完全性を維持するために明確な利点を提供し得る。
【0064】
本開示に従って歯科補綴物を組み立てる方法は、付加製造歯科デバイスから各着脱自在のブレーシングボディを分離するステップをさらに含んでいてもよい。各着脱自在のブレーシングボディは、義歯床から着脱自在のブレーシングボディを分離し、義歯床への有害作用を回避するように、任意の適切な物理的および/または化学的取り外し手段により、義歯床との各固定接合点で分離されてもよい。一実施形態において、適切な物理的手段は、義歯床との各固定接合点で、またはそれに近接して実施される切断、摩耗、または他の類似の材料分断もしくは腐食技術を含んでいてもよい。
【0065】
一実施形態において、二次光硬化処置を実施することは、付加製造歯科デバイスの少なくとも1回の洗浄処置を実施するステップと、付加製造歯科デバイスの歯槽内に人工歯を結合させるステップの間に実行されてもよい。
【0066】
別の実施形態において、二次光硬化処置を実施することは、付加製造歯科デバイスの歯槽内に人工歯を結合させるステップと、付加製造歯科デバイスから各着脱自在のブレーシングボディを分離するステップの間に実行されてもよい。
【0067】
本発明のこれまでに記載された実施形態は、歯科補綴物を組み立てる際の使用のための付加製造歯科デバイスに、そして歯科補綴物を組み立てるためにこれらの付加製造歯科デバイスを使用する方法に、明確な利点を提供する。詳細には本発明の着脱自在のブレーシングボディを有する付加製造歯科デバイスは、特に歯科補綴物からのブレーシングボディ取り外しの前の人工歯結合および二次硬化というプリント後手順のステップの際に、改善された義歯床の寸法安定性/完全性を提供する。
【0068】
しかし、本発明が好ましい、もしくは有利な特色のすべてを必要とはせず、または全ての利点が本発明のそれぞれの実施形態に組み入れられる必要がないことも、認識されなければならない。本発明は、特定の好ましいバージョンを参照してかなり詳細に記載されているが、他のバージョンが、本発明の範囲内で可能である。それゆえ、添付の特許請求の範囲の主旨および範囲は、本明細書に含まれる好ましいバージョンの記載に限定されてはならない。任意の添付の特許請求の範囲、要約書、および図面をはじめとする本明細書に開示された特色の全ては、明示的に別段の定めをした場合を除き、同様の、均等な、または類似の目的に適う代わりの特色に置き換えられてもよい。したがって、明示的に別段の定めをした場合を除き、開示された各特色は、一般的な一連の均等な、または類似の特色の一例に過ぎない。