(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】靴底、及び、靴
(51)【国際特許分類】
A43B 13/04 20060101AFI20240802BHJP
A43B 13/02 20220101ALI20240802BHJP
【FI】
A43B13/04 Z
A43B13/02 Z
(21)【出願番号】P 2022504912
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009680
(87)【国際公開番号】W WO2021176685
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西 駿明
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-138168(JP,A)
【文献】特表2007-501873(JP,A)
【文献】特開2002-053700(JP,A)
【文献】特開平10-231384(JP,A)
【文献】国際公開第2008/013060(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/04
A43B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと活性炭とを含むゴム組成物で構成され、
前記ゴム組成物がさらにシリカとシランカップリング剤とを含み、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記シリカ100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、
前記ゴム組成物の引張弾性率が10MPa以下である靴底。
【請求項2】
前記ゴム組成物における前記活性炭の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である請求項1記載の靴底。
【請求項3】
前記活性炭は、75μmメッシュの通過割合が90質量%以上となる粒径を有している請求項1又は2記載の靴底。
【請求項4】
前記ゴム組成物における前記シリカの含有量は、前記ゴム100質量部に対して10質量部以上100質量部以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載の靴底。
【請求項5】
前記シリカが凝集粒子を含む請求項4記載の靴底。
【請求項6】
前記ゴム組成物がさらにポリエチレングリコールを含み、
該ゴム組成物における前記ポリエチレングリコールの含有量は、前記ゴム100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である請求項1乃至5の何れか1項に記載の靴底。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の靴底を備えた靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴底、及び、靴に関する。
【背景技術】
【0002】
靴は、雨天後又は雨天中の水で濡れた地面上において使用されることがある。水で濡れた地面は滑りやすいため、靴の着用者が濡れた地面上で行動する際に滑ってしまうことがある。
【0003】
従来技術において、靴のウェットグリップ性を高めることについては、靴底に高い吸水性を与えることが有効であると考えられている(例えば、以下の特許文献1の段落0009など参照)。そのため、優れたウェットグリップ性が求められる靴の靴底には、従来、吸水性の多孔質材が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
靴のウェットグリップ性を向上させる方法については上記のような方法が提案されているものの、ウェットグリップ性がさらに向上した靴は、常に求められ続けている。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、ウェットグリップ性が向上した靴底及び靴を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る靴底は、ゴムと活性炭とを含むゴム組成物で構成されている。
【0008】
本発明に係る靴は、上記靴底を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態の靴底を構成する弾性体の表面の概略図。
【
図2】
図1の弾性体が、水で濡れた対象物と接触する前の状態を示した概略図。
【
図3】
図1の弾性体が、水で濡れた対象物と接触した後の状態を示した概略図。
【
図4】一実施形態の装着品としての靴であって、靴底の地面に接触する位置に防滑部材が設けられた靴を示した概略図。
【
図5】実施例の予備的検討における摩擦試験を行い、ゴムと平板状ガラスとの接触部分を観察及び撮像するための装置を示した概略図。
【
図6】実施例の予備的検討において、ガラスと接触する頂点に平滑面を有するゴム上にて平板状ガラスを5mm滑らせた後における、それらの接触部分を示した写真。
【
図7】実施例の予備的検討において、ガラスと接触する頂点に約100μm
3の細孔が形成されたゴム上にて平板状ガラスを5mm滑らせた後における、それらの接触部分を示した写真。
【
図8】実施例の予備的検討において、ゴム上にて平板状ガラスを5mm滑らせた後における、それらの接触部分の面積を現したグラフ。
【
図9】実施例の予備的検討において、ゴム上にて平板状ガラスを5mm滑らせた後における、それらの間の静止摩擦係数を現したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の靴の一実施形態について説明する。ただし、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0011】
(ゴム組成物)
まず、本発明の靴底を構成するゴム組成物の機能について、該ゴム組成物で構成された弾性体をモデルにして
図1~3を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の前記弾性体10の表面を示した概略図である。本実施形態の弾性体10は、ゴム11と、活性炭12とを含んでおり、活性炭12の粒子の少なくとも一部が、弾性体10の表面に露出している。
【0012】
本発明者は、ゴム組成物で構成された靴底では、水が侵入し難い孔を有する粒子が該靴底に含まれることで、前記課題が解決され得ることを見出した。そして本発明者は、このような粒子として活性炭が適していることを見出した。
【0013】
活性炭は疎水性が高く、且つ、表面に開口している孔のサイズが概ね1μm程度であるため水に接しても孔に水が入り難い。本発明者は、水を吸収する目的には適さないと思われていた微細な孔を有する活性炭を靴底に配すると、靴底が水の膜を介して地面に接する際に靴底の歪みによって活性炭の孔から空気が放出され靴底と地面とが直接的に接する領域が形成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
図2は、本実施形態の靴底を構成するゴム組成物と同じゴム組成物で構成された弾性体10が、水Wで濡れた対象物Gと接触する前の状態を示した概略図であり、
図3は、弾性体10が、水Wで濡れた対象物Gと接触した後の状態を示した概略図である。ここでは、対象物Gは、水Wで濡れた地面として表されている。また、ここでは、弾性体10に矢印方向に応力が加わって地面との界面に歪が加わった状態を表している。
【0015】
活性炭12は、多数の細孔を有している。活性炭12は、水銀圧入法によって細孔分布を測定すると、通常、0.5μm以上3μm以下の範囲内の何れかにピークが現れる。即ち、活性炭12は、約1μmの径を中心にして0.5μmから3μmの径の細孔を多数有している。活性炭12は、通常、シリカやゼオライトなどの多孔質粒子に比べると親水性が低い(疎水性が高い)。水は、疎水性が高い活性炭12に対して、接触角が大きくなるため前記のような径の小さな細孔には進入し難い。
【0016】
図3に示すように、地面との界面に歪が加わった弾性体10の表面に露出している活性炭12は、細孔から空気Aを放出する。この時に放出される空気Aの量は僅かではあるが、弾性が低い弾性体10と地面との間にはギャップが形成され難いため、比較的広い範囲に広がることができる。弾性体10と地面との間に空気Aが介在すると、表面自由エネルギーの総和を最小とするようなドライビングフォースがはたらくことによって、空気Aが介在する領域において弾性体10と地面との間に水が追い出され、弾性体10の表面が地面と直接的に接触できるようになる。このようにして弾性体10と地面とが水を介さず直接的に接触する箇所が多数形成されることで弾性体10は高いグリップ性を発揮する。
【0017】
本実施形態の前記弾性体10は、前記ゴム組成物が活性炭などの特定の成分を含むことで上記のような特性を発揮する。前記弾性体10は、上記のような特性を発揮する上で前記ゴム組成物が特定の物性値を有すること好ましい。
【0018】
前記ゴム組成物における前記活性炭の含有量は、優れたウェットグリップ性を弾性体10に付与できることから0.1質量%以上であることが好ましい。前記活性炭の含有量は、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましい。前記活性炭の含有量は、ゴム組成物に優れた強度を弾性体10に付与できることから10質量%以下であることが好ましい。前記活性炭の含有量は、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
前記活性炭は、ヤシ殻、木材、竹などの植物を原料とするものでも、ピート、石炭、プラスチックなどを原料とするものであってもよい。前記活性炭は、前記のような細孔を多数有する点において植物原料から得られたものが好ましい。
【0020】
前記活性炭は、粉末活性炭であることが好ましい。粉末活性炭は、150μmメッシュの通過割合が90質量%以上となる粒径を有していることが好ましい。粉末活性炭は、75μmメッシュの通過割合が90質量%以上となる粒径を有していることがより好ましい。ただし、前記活性炭は、粉末活性炭に限らず、粒状活性炭であってもよい。
【0021】
前記弾性体10を構成するゴム組成物におけるゴムとしては、一般的に靴底の形成に用いられるエラストマーが使用される。そのようなエラストマーとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム(Si)等の加硫ゴム、又は、スチレン系エラストマー(TPS)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ウレタン系エラストマー(TPU)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリアミド系エラストマー(TPA)ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。引張強度や引裂強度、耐摩耗性に優れたIR、BR、SBR、NRが好適に選択される。
【0022】
前記ゴム組成物は、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、グラファイト、タルク、クレーなどの無機フィラーをさらに含んでもよい。前記ゴム組成物は、活性炭以外の部分を母相として考えた場合、該母相自体は親水性を有していることが好ましい。そのため、前記ゴム組成物には親水性に優れた無機フィラーが好適に含まれる。前記ゴム組成物に含まれる無機フィラーには親水性の官能基であるシラノール基(-Si-OH)を粒子表面に多数有しているシリカが好適に選択される。
【0023】
前記シリカは、湿式法シリカであっても乾式法シリカであってもよい。前記湿式法シリカは、沈降法シリカであってもゲル法シリカであってもコロイダルしりかであってもよい。前記乾式シリカは、火炎法シリカであってもアーク法シリカであってもよい。前記シリカは、湿式シリカであることが好ましい。該湿式シリカは、約20nmの一次粒子が複数凝集した凝集粒子を含有することが好ましい。一次粒子に分解し易い凝集粒子を多く含み、取り扱いが容易であるとともに一次粒子のゴムへの分散性に優れた沈降法シリカが好適である。
【0024】
前記ゴム組成物における前記シリカの含有量は、前記ゴム100質量部に対して10質量部以上であることが好ましい。前記シリカの含有量は、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。ゴム組成物における前記シリカの含有量は、前記ゴム100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。前記シリカの含有量は、90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましい。
【0025】
前記ゴム組成物は、シリカとともにシランカップリング剤を含有することが好ましい。本実施形態でのシランカップリング剤は、分子鎖の末端に加水分解性官能基を有し、該加水分解性官能基以外の有機官能基をさらに有してもよい。加水分解性官能基は、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などであってもよい。有機官能基は、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、スルフィド基、メルカプト基などであってもよい。本実施形態でのシランカップリング剤は、スルフィド基を有することが好ましい。即ち、本実施形態でのシランカップリング剤は、スルフィド系シランカップリング剤であることが好ましい。スルフィド系シランカップリング剤は、モノスルフィド系シランカップリング剤であってもポリスルフィド系シランカップリング剤であってもよい。
【0026】
前記スルフィド系シランカップリング剤は、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル-メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル-メタクリレート-モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシランなどとすることができる。本実施形態ではポリスルフィド系シランカップリング剤が好ましい。ポリスルフィド系シランカップリング剤は、ゴムの架橋においても有効に機能する。なかでもビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドが好ましい。
【0027】
前記シランカップリング剤は、前記ゴム組成物におけるシリカの含有量を100質量部としたときに、1質量部以上の割合で前記ゴム組成物に含まれ得る。前記シランカップリング剤の含有量は、前記シリカ100質量部に対して6質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましい。前記シランカップリング剤の含有量は、前記シリカ100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
【0028】
前記ゴム組成物には、さらにポリエチレングリコールのような親水性に優れた化合物を含有させてもよい。ポリエチレングリコールは、質量平均分子量が2,000以上5,000以下であることが好ましい。該質量平均分子量は、GPC法でポリスチレン換算値として求められる。前記ゴム組成物における前記ポリエチレングリコールの含有量は、前記ゴム100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましい。前記ポリエチレングリコールの含有量は、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることがさらに好ましい。前記ポリエチレングリコールの含有量は、10質量部以下であることがより好ましく2質量部以下であることがさらに好ましい。
【0029】
前記ゴム組成物は、パラフィンオイル(流動パラフィン)などの可塑剤を含有してもよい。パラフィンオイルなどの疎水性の高い可塑剤は、前記ゴム100質量部に対して30質量部以下の含有量であることが好ましい。
【0030】
本実施形態の前記ゴム組成物は、上記成分に加えて、加硫剤、加硫促進剤、架橋促進剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等、さらに他の任意の成分を含んでいてもよい。
【0031】
該ゴム組成物の硬度は、JIS K 6253-3:2012に基づくタイプAデュロメータの硬さを50以上80以下とすることが好ましい。
【0032】
該ゴム組成物の引張弾性率は、12MPa以下であることが好ましい。該ゴム組成物の引張弾性率は、10MPa以下であることがより好ましく、8MPa以下であることがさらに好ましい。該引張弾性率は1MPa以上であることが好ましい。引張弾性率は、JIS K6251:2017「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」の引張試験での低歪み領域での応力-歪み曲線の傾き(例えば、ε1=0.05%、及び、ε2=0.25%の歪み2点間に対応する応力/ひずみ曲線の傾き)から求めることができる。
【0033】
前記ゴム組成物は、靴底に求められる特性を発揮する点で、JIS K6251:2017「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に基づいて測定される引張強さが15MPa以上であることが好ましい。前記ゴム組成物は、同JISに基づいて測定される引張破断伸びが350%以上であることが好ましい。JIS K6252-1:2015「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引裂強さの求め方-第1部:トラウザ形,アングル形及びクレセント形」に基づいて求められる引裂強さが、40N/mm以上であることが好ましい。該引裂強さは、アングル形試験片(切込み無し)を用いて測定することができる。
【0034】
前記ゴム組成物の引張強さは、18MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることがさらに好ましい。該引張強さは、通常、50MPa以下である。
【0035】
前記ゴム組成物の引張破断伸びは、400%以上であることがより好ましく、500%以上であることがさらに好ましい。該引張破断伸びは、通常、1000%以下である。
【0036】
前記ゴム組成物の引裂強さは、50N/mm以上であることがより好ましく、60N/mm以上であることがさらに好ましい。該引張強さは、通常、120N/mm以下である。
【0037】
本実施形態のゴム組成物は、上記各成分、すなわち、ゴムと、活性炭と、任意にシリカ、シランカップリング剤、ポリエチレングリコールなどとを、当業者が通常実施する任意の方法により混練することによって製造することができる。例えば、混練方法としては、オープンロール又はニーダー等により上記各成分を混練する方法を用いることができる。
【0038】
本実施形態の靴底は、上記のように弾性体10を例示しつつ説明したように前記ゴム組成物で構成されることで高いウェットグリップ性を発揮する。
【0039】
図4は、一実施形態の靴20であって、靴底23の地面に接触する位置が前記ゴム組成物(弾性体)で構成された靴20を示した概略図である。
該靴20は、足の上面を覆うアッパー材21と、アッパー材21の下側に配置されているミッドソール22、地面と接するアウターソール23を有している。
【0040】
なお、本実施形態では、靴20はミッドソール22及びアウターソール23の両方を備えているが、靴20は、必ずしもこれらの両方を備えていなくてもよい。すなわち、靴20は、靴底としてアウターソール23のみを備え、ミッドソール22を備えていなくてもよい。その場合には、靴底23の地面に接する位置が前記ゴム組成物(弾性体)で構成されていればよい。
【0041】
以上のように、本実施形態に係る靴底は、ゴムと活性炭とを含むゴム組成物で構成されているため、高いウェットグリップ性を発揮することができる。
【0042】
好ましくは、本実施形態に係る靴底は、前記ゴム組成物の引張弾性率が10MPa以下である。その場合には、靴底のウェットグリップ性を効果的に高めることができる。
【0043】
好ましくは、本実施形態に係る靴底は、前記ゴム組成物における前記活性炭の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である。その場合には、ゴム組成物に優れたウェットグリップ性及び優れた強度を付与できる。
【0044】
好ましくは、本実施形態に係る靴底は、前記ゴム組成物がさらにシリカを含み、該ゴム組成物における前記シリカの含有量が、前記ゴム100質量部に対して10質量部以上100質量部以下である。その場合には、ゴム組成物の親水性を好適に高めることができる。
【0045】
好ましくは、本実施形態に係る靴底は、前記ゴム組成物がさらにポリエチレングリコールを含み、該ゴム組成物における前記ポリエチレングリコールの含有量は、前記ゴム100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である。その場合には、ゴム組成物の親水性を好適に高めることができる。
【0046】
また、本発明に係る靴は、上記靴底を備えているため、高いウェットグリップ性を発揮することができる。
【0047】
ここではこれ以上の詳細な説明を繰り返して行うことをしないが、上記に直接的に記載がされていない事項であっても、靴やゴム組成物について従来公知の技術事項については、本発明においても適宜採用可能である。
即ち、本発明は上記例示に何等限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0049】
(予備的検討)
まず、ゴムの表面に形成された細孔によるウェットグリップ性への影響を調査するため、表面に細孔が形成されたゴムと、細孔が形成されていないゴムとについて、水で濡れていない及び水で濡れた平板状ガラスとの摩擦試験を行った。
【0050】
ゴム
摩擦試験に使用されたゴムは、いずれも曲率半径7.6mmの半球状のシリコーンゴムであって、一方は、頂点に凹部等が設けられていない平滑な面を有するゴムSP1であり、他方は、ガラスと接触する頂点に約100μm3の凹部(細孔)が形成されたゴムSP2であった。これらのゴムには、摩擦試験時に平板状との接触状態の観察を容易にするため、蛍光粒子が練り込まれていた。
【0051】
摩擦試験
図5左に示されるように、各ゴムSP1,SP2を、それらの頂点が平板上ガラスGLの表面に接触するように、乾いた(無潤滑条件)又は水で濡れた(水潤滑条件)平板状ガラスGL上に配置した。その後、
図5右に示されるように、ゴムSP1,SP2の頂点の垂直荷重F=0.0981N、滑り速度0.10mm/sで、ゴムSP1,SP2上において平板状ガラスGLを、その表面と平行な方向に5.0mm滑らせた。
【0052】
この間、無潤滑条件及び水潤滑条件のそれぞれにおいて、ゴムSP1,SP2と平板状ガラスGLとの真実接触部を、
図5に示される装置を用いて観察し続け、平板状ガラスGLを5.0mm滑らせた後に、該真実接触部を撮像した。この装置は、該真実接触部を照らすための光源LSと、該真実接触部を撮像するためのCCD素子CDとを備えており、該真実接触部は、全反射法及び光干渉法とを組み合わせることによって観察及び撮像された。
【0053】
図6及び
図7に、無潤滑条件及び水潤滑条件においてそれぞれ撮像された該真実接触部の写真を示す。
図6及び
図7において、黒くなっている領域が該真実接触部であり、白い領域は、平板状ガラスGLがゴムSP1,SP2と接触していない部分である。また、
図7において、グレーの領域は、平板上ガラスGLが水と接触している(濡れている)部分であり、白い領域は、平板状ガラスGLがゴムSP1,SP2とも水とも接触していない(空気が存在する)部分である。
なお、図示されないが、水潤滑条件において平板状ガラスGLを滑らせる前のゴムSP2と平板状ガラスGLとの真実接触部には、空気の存在は細孔が形成された部分にのみ留まっており、平板状ガラスGLを滑らせると、該真実接触部の広範囲に気泡が拡散していく現象が観察されていた。
これらの
図6及び
図7の写真から導出された黒い領域(真実接触部)の面積(真実接触面積)を導出し、
図8に該面積のグラフを示す。
【0054】
さらに、平板状ガラスGLを5.0mm滑らせた後に、ゴムSP1,SP2と平板状ガラスGLとの間の静止摩擦係数を測定した。
図9に、測定された静止摩擦係数を示す。
【0055】
図6~9から理解されるように、無潤滑条件では、平板上ガラスGLを5.0mm滑らせた後のゴムSP2と平板状ガラスGLとの真実接触面積は、表面に形成された細孔の影響によりゴムSP1に比べて若干の低下が見られたものの、摩擦係数はゴムSP1とほぼ同じであることがわかる。そのため、無潤滑条件におけるグリップ性は、表面に形成された細孔の影響をほとんど受けていないことがわかる。
一方で、水潤滑条件では、平板上ガラスGLを5.0mm滑らせた後のゴムSP2と平板状ガラスGLとの真実接触面積は、ゴムSP1に比べて約38%増加しており、摩擦係数もまた約27%増加していることがわかる。加えて、表面に細孔が形成されたゴムSP2の場合には、水潤滑条件の方が無潤滑条件に比べて摩擦係数が向上していることがわかる。この結果から、表面に細孔が形成されたゴムでは、水潤滑条件におけるウェットグリップ性が、無潤滑条件を上回ることができるほど大きく向上することがわかる。
【0056】
(ゴム組成物の検討)
次に、本発明に係る様々なゴム組成物についてのウェットグリップ性を調査するため、以下の実施例及び比較例に係る種々のゴム組成物について、摩擦試験を行った。
【0057】
ゴム組成物に配合されるゴムの材料として、以下の材料を用意した。
・IR:イソプレンゴム(ハイシスタイプ、ムーニー粘度:約82)
・SiO2:沈降法シリカ
・CA:シランカップリング剤(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
・PEG:ポリエチレングリコール(質量平均分子量約3000、融点約60℃)
・PO:流動パラフィン(動粘度:約40mm2/s、分子量430)
・St:ステアリン酸
・ZnO:活性亜鉛華
・AO:2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール
・OA:有機アミン加硫促進剤
【0058】
これらの材料を、以下の表1に示される配合比率(質量比)により、3度に分けて順に配合及び混練して、ゴム(a)~(d)を調製した。
具体的には、以下の表1に示されるゴム原料の一次混練用材料である各種IRを、ニーダー(装置名:DS3-10MWB、日本スピンドル製造(株)製)を用いて80~130℃条件下で1分混練し、一次混練材を得た。
このようにして得られた一次混練材に、二次混練用材料であるSiO2、PO、CA、St及びZnOを、以下の表1に示される配合比率(質量比)により配合し、ニーダー(装置名:DS3-10MWB、日本スピンドル製造(株)製)を用いて80~130℃条件下で10分混練し、二次混練材を得た
これにより得られた二次混練材に、三次混練用材料であるOA、PEG及びAOを、以下の表1に示される配合比率(質量比)により配合して、オープンロール(装置名:KD-M2-8、利拿機械工業股フン有限公司(KNEADERMACHINERY CO., LTD.製)を用いて25~60℃条件下で10分混練し、ゴム(a)~(d)を得た。
【0059】
【0060】
ゴム組成物に配合される活性炭として、以下の材料を用意した。
・活性炭A:富士フィルム和光純薬製活性炭素粉末中性(原料:木くず)
・活性炭B:サンエイ化学製YD32-1(原料:ヤシ殻炭)
・活性炭C:前田家製Takesumipowder-150(原料:竹炭)
【0061】
また、上述のゴム及び活性炭に加えて、ゴム組成物に配合される他の材料として、以下の材料を用意した。
・S:イオウ
・DM:ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド
・D:1,3-ジフェニルグアニジン
【0062】
比較例1~4及び実施例1~6、参考例7、8、実施例9、10
上記のようにして調製されたゴムと、活性炭及び上記他の材料とを、以下の表2に示される配合比率(質量比)により配合し、オープンロール(装置名:KD-M2-8、利拿機械工業股フン有限公司(KNEADERMACHINERY CO.,LTD.製)を用いて25~60℃条件下で10分混練し、ゴム組成物を得た。
【0063】
【0064】
硬度の測定
比較例1~4及び実施例1~6、参考例7、8、実施例9、10のゴム組成物の硬度を、JIS K 6253-3:2012に基づくタイプAデュロメータとして高分子計器(株)製「アスカーゴム硬度計A型」を用いて測定した。結果を以下の表3に示す。
【0065】
引張強度及び破断伸び率の測定
比較例1~4及び実施例1~6、参考例7、8、実施例9、10のゴム組成物をそれぞれ裁断して厚み4mmの平板とした後、JIS K 6251:2017に基づくダンベル状2号形の打抜型を用いて該平板をそれぞれ裁断し、それぞれの樹脂複合体についてダンベル状試験片を得た。
これらの試験片に対し、オートグラフ精密万能試験機((株)島津製作所製、製品名「AG-50kNIS MS型」)を用いて、23℃下で、クロスヘッド速度500mm/分にてJIS K 6251:2017に基づく引張試験を行うことにより、各試験片の引張強度及び破断伸び率を測定した。結果を以下の表3に示す。
【0066】
初期弾性率の測定
比較例1~4及び実施例1~6、参考例7、8、実施例9、10のゴム組成物をそれぞれ平板状に成形した後、長さ33±3mm、幅5±1mm、厚さ2±1mmの短冊状に切断し、試験片を得た。これらの試験片の23℃における貯蔵弾性率[23℃]を、測定装置として(株)ユービーエム製動的粘弾性測定装置「Rheogel-E4000」を下記の条件で用い、JIS K 7244-4:1999(ISO 6721-4:1994に同じ)に従い測定し、各ゴム組成物の初期弾性率とした。結果を表3に示す。
測定モード :正弦波歪みの引張モード
周波数 :10Hz
チャック間距離:20mm
荷重 :自動静荷重
動歪み :5μm
昇温速度 :2℃/min
【0067】
引裂強度の測定
比較例1~4及び実施例1~6、参考例7、8、実施例9、10のゴム組成物を厚さ2mmの平板用モールドを用いて8~12分間160℃加熱することで2mm厚の平板状の試験片を得た。
これらの試験片に対し、抜型を用いて、規格形状の試験片にてJIS K 6252:2007に基づく引裂試験を行うことにより、各試験片の引裂試験を測定した。結果を以下の表3に示す。
【0068】
摩擦試験
比較例1~4及び実施例1~6、参考例7、8、実施例9、10のゴム組成物を、平板状の金型内に導入し、装置名:ラム径12”150トン(二名工機(株)製)を用いて160℃条件下で8~12分間(予め求められた適正加硫時間T90+2分間)プレスすることによって、2mm厚の平板状に成型された試験片を得た。
これらの試験片を水で濡らし、試験片上にプローブを滑らせることによって、水潤滑条件における静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。具体的には、雰囲気温度24℃、相対湿度75%RHの条件下、平面状に成型された弾性体の表面を水で濡らして、水で濡れた弾性体の表面上に、円柱状のアルミ製プローブ(直径10mm、長さ6.0mm)を、試験片の該表面と該円柱の側面とが接触するように配置した。その後、該円柱を、垂直荷重0.981N、滑り速度10.0mm/sで、プローブの長さ方向に直交する方向に試験片の表面上を滑らせて、その際の静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。結果を以下の表3に示す。
【0069】
【0070】
評価
表3から明らかなように、活性炭を含む実施例1~6、参考例7、8、実施例9、10のゴム組成物は、活性炭を含んでいない比較例1~4のゴム単体に比べて、水潤滑条件における静止摩擦係数及び動摩擦係数に優れていることがわかる。
例えば、ゴム(b)と活性炭を含む実施例1~5のゴム組成物は、比較例2に係る活性炭を含んでいないゴム(b)単体に比べて、水潤滑条件における静止摩擦係数及び動摩擦係数に優れていることがわかる。
【0071】
なお、ゴム(b)よりもシランカップリング剤の含有量が少ない比較例1に係るゴム(a)単体は、静止摩擦係数及び動摩擦係数については優れているものの、実施例1~5のゴム組成物に比べて、硬度等の機械的強度が大きく劣っている。よって、実施例1~5のゴム組成物は、十分な機械的強度を保ちつつ、水潤滑条件における静止摩擦係数及び動摩擦係数が高められていることがわかる。
この点について、活性炭含有量が1phr以下である実施例1~3のゴム組成物は、活性炭含有量が5phr以上である実施例4及び5のゴム組成物に比べて引張強度が高く保たれているため、機械的強度の側面において優れていることがわかる。
【0072】
なお、実施例1~7、参考例8の活性炭Aに代えて、他の市販の工業用活性炭である大阪ガスケミカル製 白鷺C M191、白鷺M M247、カルボラフィン M227及びカルボラフィン-6 M227をそれぞれ用いて、同様の試験を行ったところ、活性炭Aとほぼ同様の効果が得られるが確認された。すなわち、これらの活性炭を含むゴム組成物もまた、十分な機械的強度を保ちつつ、水潤滑条件における静止摩擦係数及び動摩擦係数が高められていることが確認された。
【符号の説明】
【0073】
10:弾性体、11:ゴム、12:活性炭