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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】二次電池用正極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240802BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240802BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240802BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022530991
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 KR2020017600
(87)【国際公開番号】W WO2021112607
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】10-2019-0162032
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ギ・ボム・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ワン・モ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】サン・ウク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ハク・ユン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ラ・ベク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ミン・ハン
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-302880(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189679(WO,A1)
【文献】特開2017-037766(JP,A)
【文献】特表2019-506703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、コバルト、およびマンガンを含むリチウム複合遷移金属酸化物を準備するステップと、
前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面にコーティング層を形成するステップと、
コーティング層が形成された前記リチウム複合遷移金属酸化物を後処理するステップとを含み、
前記後処理は、コーティング層が形成された前記リチウム複合遷移金属酸化物を25℃、相対湿度10%~50%で水分に露出させた後、前記リチウム複合遷移金属酸化物を熱処理して残りの水分を除去することであり、
前記コーティング層は、Bおよびらなる群から選択される少なくとも一つ以上を含むリチウム金属酸化物を含有し、
前記リチウム金属酸化物は、水溶性化合物である、二次電池用正極材の製造方法。
【請求項2】
前記後処理は、前記コーティング層が形成されたリチウム複合遷移金属酸化物を25℃、相対湿度10~30%で水分に露出させる、請求項1に記載の二次電池用正極材の製造方法。
【請求項3】
前記後処理は、前記コーティング層が形成されたリチウム複合遷移金属酸化物を1~240時間水分に露出させることである、請求項1または2に記載の二次電池用正極材の製造方法。
【請求項4】
前記残りの水分を除去するための熱処理は、100~500℃で行う、請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用正極材の製造方法。
【請求項5】
前記残りの水分を除去するための熱処理は、1~10時間行われる、請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用正極材の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、一次粒子が凝集した二次粒子であり、
前記後処理により、前記コーティング層が前記二次粒子の内部の一次粒子の表面まで分布する、請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用正極材の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される、請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用正極材の製造方法:
[化学式1]
LiNi1-b-c-dCoMn2+δ
前記式中、Qは、Al、B、W、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Sn、SrおよびZrからなる群から選択されるいずれか一つ以上の元素であり、1.0≦a≦1.5、0<b<0.5、0<c<0.5、0≦d≦0.1、0<b+c+d≦0.5、-0.1≦δ≦1.0である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年12月6日付けの韓国特許出願第10-2019-0162032号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、二次電池用正極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、携帯電話、ノート型パソコン、電気自動車など、電池を使用する電子機器の急速な普及に伴い、小型軽量であるとともに相対的に高容量である二次電池の需要が急速に増加している。特に、リチウム二次電池は、軽量であるとともに高エネルギー密度を有しており、携帯機器の駆動電源として脚光を浴びている。そのため、リチウム二次電池の性能向上のための研究開発の努力が活発になされている。
【0004】
リチウム二次電池は、リチウムイオンの挿入(intercalations)および脱離(deintercalation)が可能な活物質からなる正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させた状態で、リチウムイオンが正極および負極で挿入/脱離される時の酸化と還元反応によって電気エネルギーが生成される。
【0005】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO)などが使用されていた。中でも、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)は、作動電圧が高く容量特性に優れるという利点から広く使用されており、高電圧用正極活物質として適用されている。しかし、コバルト(Co)の値上がりおよび供給不安定のため、電気自動車などの分野の動力源として大量使用するには限界があり、これを代替可能な正極活物質開発の必要性が高まっている。
【0006】
したがって、コバルト(Co)の一部をニッケル(Ni)とマンガン(Mn)で置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合遷移金属酸化物(以下、簡単に「NCM系リチウム複合遷移金属酸化物」とする)が開発された。NCM系リチウム複合遷移金属酸化物が電解液と接触して発生し得る電解液の分解および表面抵抗の増加などの問題を制御するために、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物の表面コーティングが導入されている。しかし、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物のうち一次粒子が凝集した二次粒子形態の材料の場合、電極の圧延時に二次粒子が割れて表面コーティング処理が施されていない部分が露出し、電解液との副反応を起こすなど、電池性能の劣化の問題があった。そのため、電極エネルギー密度の向上のために、既存水準の圧延を維持し、且つ粒子の割れによって発生する電池性能の劣化を最小化することができる技術開発が依然として必要な状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物の正極材において、後処理により二次粒子の表面に形成されたコーティング層を二次粒子の内部まで浸透させることで、圧延時に、粒子の割れによって、内部にコーティング処理が施されていない部分が露わになって発生する電解液との副反応およびこれによる電池性能の劣化を改善することができる二次電池用正極材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ニッケル、コバルト、およびマンガンを含むリチウム複合遷移金属酸化物を準備するステップと、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面にコーティング層を形成するステップと、コーティング層が形成された前記リチウム複合遷移金属酸化物を後処理するステップとを含み、前記後処理は、コーティング層が形成された前記リチウム複合遷移金属酸化物を25℃、相対湿度10~50%で水分に露出させた後、前記リチウム複合遷移金属酸化物を熱処理して残りの水分を除去することである二次電池用正極材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、後処理によりNCM系リチウム複合遷移金属酸化物の二次粒子の表面に形成されたコーティング層を二次粒子の内部まで浸透させることができる。これにより、内部の一次粒子の表面までもコーティング処理が可能であることから、圧延時に粒子の割れが発生してもコーティング処理された一次粒子の表面が露わになり、内部にコーティング処理されていない部分が露わになって発生する電解液との副反応およびこれによる電池性能の劣化を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1によって製造された正極材の断面組成分析の写真である。
図2】比較例1によって製造された正極材の断面組成分析の写真である。
図3】比較例2によって製造された正極材の断面組成分析の写真である。
図4】比較例3によって製造された正極材の断面組成分析の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、本発明をより詳細に説明する。この際、本明細書および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0012】
<正極活物質の製造方法>
本発明は、ニッケル、コバルト、マンガンを含むリチウム複合遷移金属酸化物を準備するステップと、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面にコーティング層を形成するステップと、コーティング層が形成された前記リチウム複合遷移金属酸化物を後処理するステップとを含み、前記後処理は、コーティング層が形成された前記リチウム複合遷移金属酸化物を、25℃、相対湿度10~50%で水分に露出させた後、前記リチウム複合遷移金属酸化物を熱処理して残りの水分を除去する二次電池用正極材の製造方法を提供する。
【0013】
前記正極材の製造方法について、ステップ別に具体的に説明する。
【0014】
先ず、ニッケル、コバルト、およびマンガンを含むリチウム複合遷移金属酸化物を準備する。
【0015】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含むNCM系リチウム複合遷移金属酸化物である。前記リチウム複合遷移金属酸化物は、好ましくは、リチウム(Li)以外の金属の全含量に対してニッケル(Ni)の含量が50モル%以上である高含量ニッケル(High-Ni)NCM系リチウム複合遷移金属酸化物であることができ、より好ましくは、ニッケル(Ni)の含量が60モル%以上であることができ、さらに好ましくは、80モル%以上であることができる。前記リチウム複合遷移金属酸化物のリチウム(Li)以外の金属の全含量に対してニッケル(Ni)の含量が50モル%以上を満たすことで、より高容量の確保が可能である。
【0016】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されることができる。
【0017】
[化学式1]
LiNi1-b-c-dCoMn2+δ
【0018】
前記式中、Qは、Al、B、W、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Sn、SrおよびZrからなる群から選択されるいずれか一つ以上の元素であり、1.0≦a≦1.5、0<b≦0.5、0<c≦0.5、0≦d≦0.1、0<b+c+d≦0.5、-0.1≦δ≦1.0である。
【0019】
前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、Liは、aに該当する含量(モル比)、すなわち、1.0≦a≦1.5で含まれることができる。aが1.0未満であると、容量が低下する恐れがあり、1.5を超えると、焼成工程で粒子が焼結して正極活物質の製造が困難になり得る。Li含量の制御による正極活物質の容量特性の改善効果の顕著さおよび活物質の製造時の焼結性のバランスを考慮すると、前記Liは、より好ましくは1.0≦a≦1.2の含量で含まれることができる。
【0020】
前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、Niは、1-(b+c+d)に該当する含量(モル比)、例えば、0.5≦1-(b+c+d)<1で含まれることができる。前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物内のNiの含量が0.5以上の組成になると、充放電に十分資するNi量が確保されて高容量化を図ることができる。より好ましくは、Niは、0.60≦1-(b+c+d)≦0.99で含まれることができる。
【0021】
前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、Coは、bに該当する含量(モル比)、すなわち、0<b≦0.5で含まれることができる。前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物内のCoの含量が0.5を超える場合、コストアップの恐れがある。Coを含むことによる容量特性の改善効果の顕著さを考慮すると、前記Coは、より具体的には、0.05≦b≦0.2の含量で含まれることができる。
【0022】
前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、Mnは、cに該当する含量(モル比)、すなわち、0<c≦0.5の含量で含まれることができる。前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物内のcが0.5を超えると、かえって電池の出力特性および容量特性が低下する恐れがあり、前記Mnは、より具体的には、0.05≦c≦0.2の含量で含まれることができる。
【0023】
前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、Qは、リチウム複合遷移金属酸化物の結晶構造内に含まれたドーピング元素であることができ、Qは、dに該当する含量(モル比)、すなわち、0≦d≦0.1で含まれることができる。
【0024】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、一次粒子が凝集した二次粒子であることができる。本発明において、「一次粒子」は、走査電子顕微鏡(SEM)を介して正極活物質の断面を観察した時に1つの塊として区別される最小粒子単位を意味し、一つの結晶粒からなることもでき、複数個の結晶粒からなることもできる。本発明において、前記一次粒子の平均粒径は、正極活物質粒子の断面SEMイメージで区別されるそれぞれの粒子径を測定し、これらの算術平均値を測定する方法で測定されることができる。
【0025】
本発明において、「二次粒子」は、複数個の一次粒子が凝集して形成される二次構造体を意味する。前記二次粒子の平均粒径は、粒度分析装置を用いて体積累積分布で測定されることができ、本発明では、粒度分析装置としてMicrotrac社製のs3500を使用した。
【0026】
次に、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面にコーティング層を形成する。
【0027】
前記コーティング層を形成する方法は、特に制限されず、通常の二次電池用正極材のコーティング処理方法を適用することができる。例えば、前記リチウム複合遷移金属酸化物とコーティングソースを混合した後、熱処理して、表面にコーティング層を形成することができる。前記コーティングソースは、例えば、Al(OH)、Al、HBO、B、TiO、TiO、Ti、TiO、TiO、Zr(OH)、ZrO、ZnO、Mg(OH)、MgO、HWO、WO、VO、VO、V、V、GaO、Ga、In、RuO、RuO、NbO、NbO、Nb、SnO、SnO、Sr(OH)およびSrOからなる群から選択される少なくとも一つ以上であることができる。前記コーティングソースを混合した後、熱処理は、大気雰囲気下で行うことができ、100~600℃、より好ましくは100~500℃で1~10時間行うことができる。
【0028】
このように形成された前記コーティング層は、Al、B、W、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Sn、SrおよびZrからなる群から選択される少なくとも一つ以上を含むリチウム金属酸化物を含有することができる。具体的には、前記コーティング層は、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に残留するリチウム副生成物、例えば、LiOHおよび/またはLiCOとコーティングソースとの反応により形成されたリチウム金属酸化物を含有することができる。より好ましくは、前記コーティング層は、Al、BおよびWからなる群から選択される少なくとも一つ以上を含むリチウム金属酸化物を含有することができる。この際、前記リチウム金属酸化物は、水溶性化合物であることができる。前記コーティング層が前記水溶性化合物を含有することで、以降、後処理により二次粒子の表面に形成されたコーティング層内に含有されたコーティング化合物を二次粒子の内部まで効果的に浸透させることができる。
【0029】
次に、コーティング層が形成された前記リチウム複合遷移金属酸化物を後処理する。この際、前記後処理は、コーティング層が形成された前記リチウム複合遷移金属酸化物を25℃、相対湿度10~50%で水分に露出させた後、前記リチウム複合遷移金属酸化物を熱処理して残りの水分を除去することである。
【0030】
前記コーティング層に含有された水溶性のリチウム金属酸化物は、水に溶けることができ、前記後処理における水分への露出により、二次粒子の表面から内部まで浸透することができる。前記後処理時に、相対湿度は、25℃、10%~50%であり、より好ましくは10~40%、さらに好ましくは10~30%であることができる。相対湿度が前記範囲を満たす時に、リチウム複合遷移金属酸化物の表面と内部にコーティング層が均一に形成されることができる。相対湿度が10%未満の場合には、コーティング化合物が二次粒子の内部に浸透し難いため、一次粒子の表面にコーティングが十分に形成されず、相対湿度が50%を超える場合には、コーティング化合物が二次粒子の内部に過剰に浸透して二次粒子の表面でコーティング層が不均一に形成され、そのため、二次粒子の表面で電解液との副反応が発生し得る。
【0031】
前記相対湿度の範囲で水分への露出は、1~240時間行うことができ、より好ましくは24~240時間、さらに好ましくは24~168時間行うことができる。前記水分への露出を前記相対湿度の範囲で前記時間行うことで、前記二次粒子の表面に形成されたコーティング層内に含有されたコーティング化合物が表面吸着された水分に溶けて二次粒子の内部に効果的に浸透し、前記コーティング化合物が一次粒子の表面をコーティングすることができる。
【0032】
前記水分への露出後、残りの水分を除去するために、前記リチウム複合遷移金属酸化物を熱処理する。前記熱処理は、100~500℃で行うことができ、より好ましくは200~400℃、さらに好ましくは300~400℃で行うことができる。前記熱処理は、大気雰囲気で行うことができ、1~10時間、より好ましくは4~6時間行うことができる。
【0033】
このような後処理により、前記リチウム複合遷移金属酸化物の表面に形成されたコーティング層内に含有されたコーティング化合物を二次粒子の内部の一次粒子の表面まで分布するようにすることができる。したがって、圧延時に、粒子の割れが発生しても、コーティング処理された一次粒子の表面が露わになることから、内部にコーティング処理されていない部分が露わになって発生する電解液との副反応およびこれによる電池性能の劣化を改善することができる。
【0034】
<正極およびリチウム二次電池>
本発明の他の一実施形態によると、前記のように製造された正極材を含む二次電池用正極およびリチウム二次電池を提供する。
【0035】
具体的には、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に形成され、前記正極材を含む正極材層とを含む。
【0036】
前記正極において、正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが使用されることができる。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極材の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0037】
また、前記正極材層は、上述の正極材とともに、導電材およびバインダーを含むことができる。
【0038】
この際、前記導電材は、電極に導電性を与えるために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記導電材は、通常、正極材層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0039】
また、前記バインダーは、正極材粒子の間の付着および正極材と正極集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM rubber)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記バインダーは、正極材層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0040】
前記正極は、上記の正極材を用いる以外は、通常の正極の製造方法により製造されることができる。具体的には、上記の正極材、および、選択的に、バインダーおよび導電材を含む正極材層形成用組成物を正極集全体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されることができる。この際、前記正極材、バインダー、導電材の種類および含量は、上述のとおりである。
【0041】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であることができ、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して、前記正極材、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以降、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0042】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極材層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0043】
本発明のさらに他の一実施形態によると、前記正極を含む電気化学素子が提供される。前記電気化学素子は、具体的には、電池またはキャパシタなどであることができ、より具体的には、リチウム二次電池であることができる。
【0044】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりである。また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0045】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0046】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用されることができる。また、前記負極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有することができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化することもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0047】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダーおよび導電材を含む。前記負極活物質層は、一例として、負極集電体上に、負極活物質、および、選択的に、バインダーおよび導電材を含む負極形成用組成物を塗布し乾燥するか、または前記負極形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0048】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されることができる。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質の材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)およびハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソ相ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソ炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、メソ相ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0049】
また、前記バインダーおよび導電材は、先に正極で説明したとおりであることができる。
【0050】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに、電解液含湿能力に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されることができる。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタルレート繊維などからなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されることもでき、選択的に、単層または多層構造で使用されることができる。
【0051】
また、本発明で使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0052】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0053】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは、C2~C20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されることができる。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。
【0054】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが使用可能である。前記リチウム塩は、0.1~2.0Mの濃度範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0055】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などのために、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の全重量に対して0.1~5重量%含まれることができる。
【0056】
前記のように、本発明による正極材を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および容量維持率を安定的に示すことから、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどのポータブル機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0057】
したがって、本発明の他の一具現例よると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。
【0058】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられることができる。
【0059】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施するように本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な相違する形態に実現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0060】
実施例1
リチウム複合遷移金属酸化物LiNi0.7Co0.1Mn0.2にコーティングソースHBOを混合した後、大気雰囲気、400℃で5時間熱処理して表面にコーティング層を形成した。
【0061】
コーティング層が形成されたリチウム複合遷移金属酸化物を25℃、相対湿度30%のチャンバに投入し、48時間水分に露出させた。次に、大気雰囲気、400℃で5時間熱処理して残りの水分を除去し、後処理された正極材を製造した。
【0062】
比較例1
リチウム複合遷移金属酸化物LiNi0.7Co0.1Mn0.2とコーティングソースHBOを混合した後、大気雰囲気、400℃で5時間熱処理して表面にコーティング層が形成された正極材を製造した。以降、後処理は行っていない。
【0063】
比較例2
後処理時に、25℃、相対湿度5%のチャンバに投入した以外は、実施例1と同様に実施して後処理された正極材を製造した。
【0064】
比較例3
後処理時に、25℃、相対湿度60%のチャンバに投入した以外は、実施例1と同様に実施して後処理された正極材を製造した。
【0065】
[実験例1:正極材の断面組成の分析]
実施例1および比較例1~3で製造された正極材をFIB(Focused Ion Beam)処理し、これに対するNANO-SIMS分析を行って断面組成の分析を行い、これにより、二次粒子の内部に浸透されたコーティング組成を確認した。その結果を図1図4に示した。
【0066】
図1は、実施例1による正極材の断面組成分析の写真であり、本発明による後処理された正極材は、コーティング元素11Bが二次粒子の内部まで均一に分布することを確認することができる。
【0067】
一方、図2は、比較例1による正極材の断面組成分析の写真であり、後処理していない正極材は、コーティング元素11Bが二次粒子の表面のみに分布することを確認することができる。
【0068】
図3は、比較例2による正極材の断面組成分析の写真であり、相対湿度10%未満の条件で後処理を実施する場合、コーティング元素11Bが粒子の表面に主に存在し、粒子の内部には少量のみが浸透して、粒子の内部でコーティングが均一に形成されていないことを確認することができる。
【0069】
図4は、比較例3による正極材の断面組成分析の写真であり、相対湿度50%超の条件で後処理を実施する場合、コーティング元素11Bが粒子の内部に過量浸透して粒子の内部で高い含量で存在するが、粒子の内部と粒子の表面の両方で均一なコーティングを形成することができず、不均一に分布していることを確認することができる。
【0070】
[実験例2:高温貯蔵の評価]
実施例1および比較例1~3で製造されたそれぞれの正極材、カーボンブラック導電材およびPVdFバインダーをN-メチルピロリドン溶媒の中で、96:2:2の比率の重量比で混合して正極合剤を製造し、これをアルミニウム集電体の一面に塗布してから100℃で乾燥した後、圧延して正極を製造した。
【0071】
負極は、人造黒煙、カーボンブラック導電材およびPVdFバインダーをN-メチルピロリドン溶媒の中で、96:2:2の比率の重量比で混合して負極合剤を製造し、これを銅集電体の一面に塗布してから120℃で乾燥した後、圧延して正極を製造した。
【0072】
前記のように製造された正極と負極との間に多孔性ポリエチレンのセパレーターを介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をケース内部に位置させた後、ケース内部で電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。この際、電解液は、エチルレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート/(EC/EMC/DECの混合体積比=3/4/3)からなる有機溶媒に1.0Mの濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)を溶解させて製造した。
【0073】
このように製造された各リチウム二次電池フルセル(full-cell)に対して、25℃でCCCVモードで0.7C、4.2Vになるまで充電(終止電流1/20C)し、60℃で4週間高温貯蔵した後、0.5Cの定電流で4.2V~3.0Vの範囲で充放電を行って容量維持率および抵抗の変化を測定した。その結果を表1に示した。
【0074】
【表1】
【0075】
前記表1を参照すると、本発明の後処理を行った実施例1の場合、後処理を行っていない比較例1や、後処理時に相対湿度が過剰に低いか高い比較例2~3に比べて容量維持率が著しく向上し、抵抗変化率が低下したことを確認することができる。
図1
図2
図3
図4