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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240802BHJP
   B60W 30/08 20120101ALI20240802BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240802BHJP
   B60T 8/26 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/08
B60T7/12 C
B60T8/26 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022554975
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 IB2021059165
(87)【国際公開番号】W WO2022074581
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020171009
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】井苅 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】大西 由純
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024644(JP,A)
【文献】特開2020-015364(JP,A)
【文献】特開2018-176831(JP,A)
【文献】特開2020-029176(JP,A)
【文献】特開2017-001636(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130743(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131504(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/230770(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/086289(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/185578(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60T 7/12
B60T 8/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーン車両(100)の挙動を制御する制御装置(60)であって、
前記リーン車両(100)のライダーによるブレーキ操作が行われている状況下で行われる、環境センサ(44)の出力結果に基づいて取得される衝突可能性に応じて前記リーン車両(100)の制動力を増幅させるブレーキ動作を実行可能な制御部(62)を備え、
更に、前記ブレーキ動作における前記リーン車両(100)の前輪(3)と後輪(4)との制動力配分を設定する設定部(63)を備えており、
前記制御部(62)は、前記ブレーキ動作において、前記設定部(63)による前記制動力配分の設定に基づいて、前記前輪(3)及び前記後輪(4)の制動力を制御
前記設定部(63)は、前記前輪(3)に生じさせ得る制動力の最大値と、前記最大値と前記リーン車両(100)の目標制動力との大小関係と、に基づいて、前記ブレーキ動作における前記制動力配分を設定する、
制御装置。
【請求項2】
前記設定部(63)は、前記リーン車両(100)の姿勢情報に基づいて、前記ブレーキ動作における前記制動力配分を設定する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記姿勢情報は、前記リーン車両(100)のピッチ角情報を含む、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記姿勢情報は、前記リーン車両(100)のリーン角情報を含む、
請求項2又は3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記姿勢情報は、前記リーン車両(100)の加減速度情報を含む、
請求項2~4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記設定部(63)は、前記ブレーキ操作の操作状態量に基づいて、前記ブレーキ動作における前記制動力配分を設定する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記設定部(63)は、前記リーン車両(100)の走行路の勾配に基づいて、前記ブレーキ動作における前記制動力配分を設定する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
リーン車両(100)の挙動の制御方法であって、
制御装置(60)の制御部(62)が、前記リーン車両(100)のライダーによるブレーキ操作が行われている状況下で行われる、環境センサ(44)の出力結果に基づいて取得される衝突可能性に応じて前記リーン車両(100)の制動力を増幅させるブレーキ動作を実行可能であり、
更に、前記制御装置(60)の設定部(63)が、前記ブレーキ動作における前記リーン車両(100)の前輪(3)と後輪(4)との制動力配分を設定し、
前記制御部(62)が、前記ブレーキ動作において、前記設定部(63)による前記制動力配分の設定に基づいて、前記前輪(3)及び前記後輪(4)の制動力を制御
前記設定部(63)が、前記前輪(3)に生じさせ得る制動力の最大値と、前記最大値と前記リーン車両(100)の目標制動力との大小関係と、に基づいて、前記ブレーキ動作における前記制動力配分を設定する、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、リーン車両の安全性を適切に向上させることができる制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータサイクル等のリーン車両に関する従来の技術として、安全性を向上させるためのものがある。
【0003】
例えば、特許文献1では、走行方向又は実質的に走行方向にある障害物を検出するセンサ装置により検出された情報に基づいて、不適切に障害物に接近していることをモータサイクルのドライバへ警告する運転者支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-116882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、四輪を有する自動車の安全性を向上させるための技術として、ブレーキ操作が行われている状況下で衝突可能性に応じて制動力を増幅させるブレーキ動作がある。このようなブレーキ動作は、EBA(Emergency Brake Assist)とも呼ばれる。ここで、リーン車両の安全性を向上させるために、EBAをリーン車両に適用することが考えられる。しかしながら、リーン車両の姿勢は、四輪を有する自動車の姿勢と比較して、不安定になりやすい。ゆえに、EBAにより制動力が自動で増幅されることに起因して、リーン車両の姿勢が不安定になり、却って安全性が損なわれてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、リーン車両の安全性を適切に向上させることができる制御装置及び制御方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御装置は、リーン車両の挙動を制御する制御装置であって、前記リーン車両のライダーによるブレーキ操作が行われている状況下で行われる、環境センサの出力結果に基づいて取得される衝突可能性に応じて前記リーン車両の制動力を増幅させるブレーキ動作を実行可能な制御部を備え、更に、前記ブレーキ動作における前記リーン車両の前輪と後輪との制動力配分を設定する設定部を備えており、前記制御部は、前記ブレーキ動作において、前記設定部による前記制動力配分の設定に基づいて、前記前輪及び前記後輪の制動力を制御する。
【0008】
本発明に係る制御方法は、リーン車両の挙動の制御方法であって、制御装置の制御部が、前記リーン車両のライダーによるブレーキ操作が行われている状況下で行われる、環境センサの出力結果に基づいて取得される衝突可能性に応じて前記リーン車両の制動力を増幅させるブレーキ動作を実行可能であり、更に、前記制御装置の設定部が、前記ブレーキ動作における前記リーン車両の前輪と後輪との制動力配分を設定し、前記制御部が、前記ブレーキ動作において、前記設定部による前記制動力配分の設定に基づいて、前記前輪及び前記後輪の制動力を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る制御装置及び制御方法では、制御装置の制御部が、リーン車両のライダーによるブレーキ操作が行われている状況下で行われる、環境センサの出力結果に基づいて取得される衝突可能性に応じてリーン車両の制動力を増幅させるブレーキ動作を実行可能であり、更に、制御装置の設定部が、上記ブレーキ動作におけるリーン車両の前輪と後輪との制動力配分を設定し、制御部が、上記ブレーキ動作において、設定部による制動力配分の設定に基づいて、前輪及び後輪の制動力を制御する。それにより、上記ブレーキ動作により制動力が増幅されることに起因してリーン車両の姿勢が不安定になることを抑制できる。ゆえに、リーン車両の安全性を適切に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るリーン車両の概略構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るブレーキシステムの概略構成を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係るEBAにおけるブレーキ操作に応じた制動力とリーン車両の制動力との関係の一例を示す模式図である。
図5】本発明の実施形態に係る制御装置が行うEBAに関する処理の流れの第1の例を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態に係る制御装置が行うEBAに関する処理の流れの第2の例を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態に係る制御装置が行うEBAに関する処理の流れの第3の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る制御装置について、図面を用いて説明する。
【0012】
なお、以下では、二輪のモータサイクルに用いられる制御装置について説明しているが(図1中のリーン車両100を参照)、本発明に係る制御装置の制御対象となる車両は、旋回時に旋回方向に傾斜した状態で走行するリーン車両であればよく、例えば、三輪のモータサイクル、自転車等であってもよい。モータサイクルには、エンジンを推進源とする車両、電気モータを推進源とする車両等が含まれ、例えば、オートバイ、スクーター、電動スクーター等が含まれる。また、自転車は、ペダルに付与されるライダーの踏力によって路上を推進することが可能な乗物全般を意味する。自転車には、普通自転車、電動アシスト自転車、電動自転車等が含まれる。
【0013】
また、以下では、前輪制動機構及び後輪制動機構が、それぞれ1つずつである場合を説明しているが(図2中の前輪制動機構12及び後輪制動機構14を参照)、前輪制動機構及び後輪制動機構の少なくとも一方が複数であってもよい。
【0014】
また、以下で説明する構成及び動作等は一例であり、本発明に係る制御装置及び制御方法は、そのような構成及び動作等である場合に限定されない。
【0015】
また、以下では、同一の又は類似する説明を適宜簡略化又は省略している。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付すことを省略しているか、又は同一の符号を付している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0016】
<リーン車両の構成>
図1図3を参照して、本発明の実施形態に係るリーン車両100の構成について説明する。
【0017】
図1は、リーン車両100の概略構成を示す模式図である。図2は、ブレーキシステム10の概略構成を示す模式図である。図3は、制御装置60の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0018】
リーン車両100は、本発明に係るリーン車両の一例に相当する二輪のモータサイクルである。リーン車両100は、図1に示されるように、胴体1と、胴体1に旋回自在に保持されているハンドル2と、胴体1にハンドル2と共に旋回自在に保持されている前輪3と、胴体1に回動自在に保持されている後輪4と、ブレーキシステム10と、ブレーキシステム10に設けられる液圧制御ユニット50と、液圧制御ユニット50に設けられる制御装置(ECU)60とを備える。また、リーン車両100には、センサ類として、前輪車輪速センサ41と、後輪車輪速センサ42と、慣性計測装置(IMU)43と、環境センサ44と、マスタシリンダ圧センサ45(図2を参照)とが設けられている。なお、リーン車両100は、エンジン又はモータ等の駆動源を備えており、当該駆動源から出力される動力を用いて走行する。
【0019】
ブレーキシステム10は、図1及び図2に示されるように、第1ブレーキ操作部11と、少なくとも第1ブレーキ操作部11に連動して前輪3を制動する前輪制動機構12と、第2ブレーキ操作部13と、少なくとも第2ブレーキ操作部13に連動して後輪4を制動する後輪制動機構14とを備える。また、ブレーキシステム10は、液圧制御ユニット50を備え、前輪制動機構12の一部及び後輪制動機構14の一部は、当該液圧制御ユニット50に含まれる。液圧制御ユニット50は、前輪制動機構12によって前輪3に生じる制動力、及び、後輪制動機構14によって後輪4に生じる制動力を制御する機能を担うユニットである。
【0020】
第1ブレーキ操作部11は、ハンドル2に設けられており、ライダーの手によって操作される。第1ブレーキ操作部11は、例えば、ブレーキレバーである。第2ブレーキ操作部13は、胴体1の下部に設けられており、ライダーの足によって操作される。第2ブレーキ操作部13は、例えば、ブレーキペダルである。ただし、スクーター等のブレーキ操作部のように、第1ブレーキ操作部11及び第2ブレーキ操作部13の双方がライダーの手によって操作されるブレーキレバーであってもよい。
【0021】
前輪制動機構12及び後輪制動機構14のそれぞれは、ピストン(図示省略)を内蔵しているマスタシリンダ21と、マスタシリンダ21に付設されているリザーバ22と、胴体1に保持され、ブレーキパッド(図示省略)を有しているブレーキキャリパ23と、ブレーキキャリパ23に設けられているホイールシリンダ24と、マスタシリンダ21のブレーキ液をホイールシリンダ24に流通させる主流路25と、ホイールシリンダ24のブレーキ液を逃がす副流路26と、マスタシリンダ21のブレーキ液を副流路26に供給する供給流路27とを備える。
【0022】
主流路25には、込め弁(EV)31が設けられている。副流路26は、主流路25のうちの、込め弁31に対するホイールシリンダ24側とマスタシリンダ21側との間をバイパスする。副流路26には、上流側から順に、弛め弁(AV)32と、アキュムレータ33と、ポンプ34とが設けられている。主流路25のうちの、マスタシリンダ21側の端部と、副流路26の下流側端部が接続される箇所との間には、第1弁(USV)35が設けられている。供給流路27は、マスタシリンダ21と、副流路26のうちのポンプ34の吸込側との間を連通させる。供給流路27には、第2弁(HSV)36が設けられている。
【0023】
込め弁31は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。弛め弁32は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。第1弁35は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。第2弁36は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
【0024】
液圧制御ユニット50は、込め弁31、弛め弁32、アキュムレータ33、ポンプ34、第1弁35及び第2弁36を含むブレーキ液圧を制御するためのコンポーネントと、それらのコンポーネントが設けられ、主流路25、副流路26及び供給流路27を構成するための流路が内部に形成されている基体51と、制御装置60とを含む。
【0025】
なお、基体51は、1つの部材によって形成されていてもよく、複数の部材によって形成されていてもよい。また、基体51が複数の部材によって形成されている場合、各コンポーネントは、異なる部材に分かれて設けられていてもよい。
【0026】
液圧制御ユニット50の上記のコンポーネントの動作は、制御装置60によって制御される。それにより、前輪制動機構12によって前輪3に生じる制動力、及び、後輪制動機構14によって後輪4に生じる制動力が制御される。
【0027】
通常時(つまり、ライダーによるブレーキ操作に応じた制動力を車輪に生じさせるように設定している時)には、制御装置60によって、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が開放され、第2弁36が閉鎖される。その状態で、第1ブレーキ操作部11が操作されると、前輪制動機構12において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が前輪3のロータ3aに押し付けられて、前輪3に制動力が生じる。また、第2ブレーキ操作部13が操作されると、後輪制動機構14において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が後輪4のロータ4aに押し付けられて、後輪4に制動力が生じる。
【0028】
前輪車輪速センサ41は、前輪3の車輪速(例えば、前輪3の単位時間当たりの回転数[rpm]又は単位時間当たりの移動距離[km/h]等)を検出する車輪速センサであり、検出結果を出力する。前輪車輪速センサ41が、前輪3の車輪速に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。前輪車輪速センサ41は、前輪3に設けられている。
【0029】
後輪車輪速センサ42は、後輪4の車輪速(例えば、後輪4の単位時間当たりの回転数[rpm]又は単位時間当たりの移動距離[km/h]等)を検出する車輪速センサであり、検出結果を出力する。後輪車輪速センサ42が、後輪4の車輪速に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。後輪車輪速センサ42は、後輪4に設けられている。
【0030】
慣性計測装置43は、3軸のジャイロセンサ及び3方向の加速度センサを備えており、リーン車両100の姿勢を検出する。例えば、慣性計測装置43は、リーン車両100のピッチ角(具体的には、リーン車両100の前方向の水平方向に対するピッチ方向の傾斜角)を検出し、検出結果を出力する。慣性計測装置43が、リーン車両100のピッチ角に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。また、例えば、慣性計測装置43は、リーン車両100のリーン角(具体的には、リーン車両100の上方向の鉛直方向に対するロール方向の傾斜角)を検出し、検出結果を出力する。慣性計測装置43が、リーン車両100のリーン角に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。慣性計測装置43は、例えば、胴体1に設けられている。
【0031】
環境センサ44は、リーン車両100の前方の環境に関する環境情報を検出する。例えば、環境センサ44は、リーン車両100より前方に位置する車両である前走車を検出し、リーン車両100と前走車との車間距離、及び、前走車に対するリーン車両100の相対速度を検出する。環境センサ44が、リーン車両100と前走車との車間距離に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。環境センサ44が、前走車に対するリーン車両100の相対速度に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。環境センサ44は、例えば、胴体1の前部に設けられている。なお、環境センサ44は、前走車に換えて、リーン車両100より前方に位置する障害物(例えば、道路設備、落下物、人、動物等)を検出し、リーン車両100と障害物との車間距離、及び、障害物に対するリーン車両100の相対速度を検出してもよい。
【0032】
環境センサ44としては、例えば、リーン車両100の前方を撮像するカメラ、及び、リーン車両100から前方の対象物までの距離を検出可能なレーダーが用いられる。カメラにより撮像される画像を用いて前走車を検出し、前走車の検出結果及びレーダーの検出結果を利用することによって、リーン車両100と前走車との車間距離、及び、前走車に対するリーン車両100の相対速度を検出することができる。なお、環境センサ44の構成は上記の例に限定されない。例えば、環境センサ44として、ステレオカメラが用いられてもよい。
【0033】
マスタシリンダ圧センサ45は、マスタシリンダ21のブレーキ液圧(つまり、マスタシリンダ圧)を検出し、検出結果を出力する。マスタシリンダ圧センサ45が、マスタシリンダ圧に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。具体的には、マスタシリンダ圧センサ45は、前輪制動機構12及び後輪制動機構14にそれぞれ設けられており、第1ブレーキ操作部11に付設されるマスタシリンダ21のマスタシリンダ圧と、第2ブレーキ操作部13に付設されるマスタシリンダ21のマスタシリンダ圧とが個別に検出されるようになっている。
【0034】
制御装置60は、リーン車両100の挙動を制御する。例えば、制御装置60の一部又は全ては、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されている。また、例えば、制御装置60の一部又は全ては、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御装置60は、例えば、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。
【0035】
制御装置60は、図3に示されるように、例えば、取得部61と、制御部62と、設定部63とを備える。
【0036】
取得部61は、リーン車両100に搭載されている各装置から情報を取得し、制御部62へ出力する。例えば、取得部61は、前輪車輪速センサ41、後輪車輪速センサ42、慣性計測装置43、環境センサ44及びマスタシリンダ圧センサ45から情報を取得する。
【0037】
制御部62は、リーン車両100の挙動を制御するために、制動制御(つまり、リーン車両100に生じる制動力の制御)を行う。具体的には、制御部62は、制動制御において、ブレーキシステム10の液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御する。
【0038】
上述したように、通常時には、制御部62は、ライダーによるブレーキ操作に応じた制動力が車輪に生じるように、液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御する。一方、特定の場合に、制御部62は、通常時と異なる制動制御を行う。
【0039】
例えば、制御部62は、車輪にロック又はロックの可能性が生じた場合に、アンチロックブレーキ制御を実行する。アンチロックブレーキ制御では、車輪の制動力が、ロックを回避し得るような制動力に調整される。
【0040】
アンチロックブレーキ制御の作動時には、制御部62は、込め弁31が閉鎖され、弛め弁32が開放され、第1弁35が開放され、第2弁36が閉鎖された状態にし、その状態で、ポンプ34を駆動することにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を減少させて車輪に生じる制動力を減少させる。そして、制御部62は、上記の状態から込め弁31及び弛め弁32の双方を閉鎖することにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を維持し車輪に生じる制動力を保持する。その後、制御部62は、込め弁31を開放し、弛め弁32を閉鎖することにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を増大させて車輪に生じる制動力を増大させる。
【0041】
アンチロックブレーキ制御の作動時には、車輪に生じる制動力を減少させる上記の制御(つまり、制動力減少制御)、車輪に生じる制動力を保持する上記の制御(つまり、制動力保持制御)、及び、車輪に生じる制動力を増大させる上記の制御(つまり、制動力増大制御)が、この順に繰り返される。
【0042】
ここで、制御部62は、リーン車両100のライダーによるブレーキ操作が行われている状況下で前走車との衝突可能性が基準を超えた場合に、EBA(Emergency Brake Assist)と呼ばれるブレーキ動作を行う。EBAは、リーン車両100の制動力を増幅させるブレーキ動作である。リーン車両100の制動力の増幅は、ブレーキ操作に応じた制動力に対してリーン車両100の制動力を大きくすることを意味する。EBAでは、リーン車両100の制動力が、前走車との衝突の回避可能性を向上させ得るような制動力に調整される。
【0043】
衝突可能性は、環境センサ44の出力結果に基づいて取得される。例えば、制御部62は、リーン車両100と前走車との車間距離、及び、前走車に対するリーン車両100の相対速度に基づいて、前走車との衝突可能性が基準を超えたか否かを判定する。例えば、上記車間距離及び上記相対速度から決定される前走車までの到達時間が過度に短い場合に、制御部62は、前走車との衝突可能性が基準を超えたと判定し、EBAを開始する。
【0044】
EBAの作動時には、制御部62は、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が閉鎖され、第2弁36が開放された状態にし、ポンプ34を駆動することにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を増加させる。それにより、ブレーキ操作に応じた制動力に対して車輪に生じる制動力を大きくすることができる。つまり、リーン車両100の制動力を増幅させることができる。制御部62は、EBAにおいて、前輪制動機構12と後輪制動機構14とを独立して制御することによって、前輪3の制動力と後輪4の制動力とを独立して制御することができる。
【0045】
設定部63は、EBAにおけるリーン車両100の前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。設定部63による制動力配分の設定は、前輪3の制動力の目標値と、後輪4の制動力の目標値とを、それぞれどのような制動力にするかを設定することを意味する。
【0046】
上記のように、制御装置60では、設定部63は、EBAにおけるリーン車両100の前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。そして、制御部62は、EBAにおいて、設定部63による制動力配分の設定に基づいて、前輪3及び後輪4の制動力を制御する。それにより、リーン車両100の安全性を適切に向上させることが実現される。このような制御装置60が行うEBAに関する処理については、後述にて詳細に説明する。
【0047】
<制御装置の動作>
図4図7を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置60の動作について説明する。
【0048】
上述したように、本実施形態では、制御部62は、リーン車両100のライダーによるブレーキ操作が行われている状況下で衝突可能性に応じてEBAを行う。
【0049】
図4は、EBAにおけるブレーキ操作に応じた制動力とリーン車両100の制動力との関係の一例を示す模式図である。図4では、横軸Tは時間を示し、縦軸Bは制動力を示す。また、図4では、破線L1がブレーキ操作に応じた制動力を示し、実線L2がリーン車両100の制動力を示す。
【0050】
図4に示されるように、EBAでは、実線L2により示されるリーン車両100の制動力が、破線L1により示されるブレーキ操作に応じた制動力に対して大きくなるように、制御される。つまり、リーン車両100の制動力が増幅される。それにより、前走車との衝突の回避可能性が向上する。
【0051】
ここで、EBAにおいて、前輪3と後輪4との制動力配分が適正化されていないと、リーン車両100の姿勢が不安定になるおそれがある。例えば、リーン車両100の制動力の大部分が前輪3によって賄われ、後輪4の制動力が過度に小さい場合、後輪4に掛かる荷重が過度に小さくなる。この場合、後輪4の摩擦円が過度に小さくなる結果、後輪4がロックしやすくなってしまい、リーン車両100の姿勢が不安定になってしまう。
【0052】
そこで、本実施形態では、リーン車両100の姿勢が不安定になることを抑制するために、制御装置60の設定部63は、EBAにおけるリーン車両100の前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。それにより、EBAにおいて、前輪3と後輪4との制動力配分を適正化し、例えば、後輪4の制動力が過度に小さくなることを抑制できる。ゆえに、EBAにより制動力が増幅されることに起因してリーン車両100の姿勢が不安定になることを抑制できる。以下、このような制御装置60が行うEBAに関する処理の流れの第1の例、第2の例及び第3の例をこの順に説明する。
【0053】
図5は、制御装置60が行うEBAに関する処理の流れの第1の例を示すフローチャートである。図5に示される制御フローは、EBAの開始条件(つまり、前走車との衝突可能性が基準を超えたとの条件)が満たされた場合に開始される。図5におけるステップS101は、図5に示される制御フローの開始に対応する。図5に示される制御フローでは、ステップS102~S105の処理が1計算サイクルに相当し、各計算サイクルが所定時間間隔で繰り返される。なお、図5に示される制御フローの途中で、EBAの終了条件が満たされた場合、図5に示される制御フローは終了する。EBAの終了条件としては、例えば、ライダーによるブレーキ操作が解除されたとの条件が用いられ得る。
【0054】
図5に示される制御フローが開始されると、ステップS102において、設定部63は、今回の計算サイクルでのリーン車両100の目標制動力(つまり、制動力の目標値)を決定する。
【0055】
設定部63は、前走車との衝突の回避可能性を向上させ得るような制動力を、目標制動力として決定する。例えば、設定部63は、リーン車両100と前走車との車間距離、及び、前走車に対するリーン車両100の相対速度に基づいて、目標制動力を決定する。
【0056】
次に、ステップS103において、設定部63は、前輪3と後輪4との制動力の目標比率(つまり、制動力の比率の目標値)を設定する。具体的には、設定部63は、後述されるように、各種パラメータに基づいて目標比率を設定する。なお、目標比率は、前輪3が100%となり後輪4が0%となる比率、及び、前輪3が0%となり後輪4が100%となる比率を含み得る。また、目標比率は、予め設定された固定値であってもよく、その場合、ステップS103の処理は省略され得る。
【0057】
次に、ステップS104において、設定部63は、リーン車両100の目標制動力を、目標比率で前輪3と後輪4とに配分する。つまり、この場合、前輪3の目標制動力、及び、後輪4の目標制動力は、リーン車両100の目標制動力相当の制動力がリーン車両100全体に生じるように設定される。
【0058】
次に、ステップS105において、制御部62は、設定部63による前輪3と後輪4との制動力配分の設定に基づいて、前輪3及び後輪4の制動力を制御する。具体的には、制御部62は、設定部63により設定された前輪3の目標制動力になるように、前輪3の制動力を制御し、設定部63により設定された後輪4の目標制動力になるように、後輪4の制動力を制御する。
【0059】
ステップS105の次に、ステップS102に戻り、次の計算サイクルが行われる。
【0060】
上記のように、図5に示される制御フローでは、設定部63は、EBAにおいて、リーン車両100の目標制動力を、目標比率で前輪3と後輪4とに配分する。ここで、設定部63は、EBAにおける前輪3と後輪4との制動力配分を、各種パラメータに基づいて設定してもよい。例えば、図5に示される制御フローでは、設定部63は、各種パラメータに基づいて目標比率を設定してもよい。
【0061】
例えば、設定部63は、リーン車両100の姿勢情報に基づいて、目標比率を設定してもよい。姿勢情報は、リーン車両100の姿勢に反映される物理量に関する情報である。
【0062】
姿勢情報は、例えば、リーン車両100のピッチ角情報を含む。ピッチ角情報は、リーン車両100のピッチ角に関する情報であり、例えば、ピッチ角を示す情報、又は、ピッチ角速度(つまり、ピッチ角の時間変化率)を示す情報を含み得る。
【0063】
ここで、リーン車両100の前部が上側に傾いている場合(つまり、リーン車両100の前方向が水平方向に対して上側に傾いている場合)に、ピッチ角が正の値を取るものとする。設定部63は、例えば、ピッチ角又はピッチ角速度が負の値を取る場合において、ピッチ角又はピッチ角速度の絶対値が大きいほど、後輪4の比率が大きくなり前輪3の比率が小さくなるように目標比率を設定する。
【0064】
前輪3の制動力が大きいほど、前輪3の制動力によって生じるリーン車両100の前部を押し下げる力を大きくすることができる。一方、後輪4の制動力が大きいほど、後輪4の制動力によって生じるリーン車両100の後部を押し下げる力を大きくすることができる。ゆえに、ピッチ角又はピッチ角速度に基づいて上記のように目標比率を設定することによって、リーン車両100のピッチ方向の姿勢を安定化することができる。例えば、ピッチ角が負の値を取りピッチ角の絶対値が過度に大きい場合に、後輪4の制動力を大きくすることで、リーン車両100の後部が浮き上がるリアリフトアップを抑制することができる。一方、ピッチ角が負の値を取りピッチ角の絶対値があまり大きくない場合に、前輪3の制動力を大きくすることで、制動性能を向上させることができる。
【0065】
また、姿勢情報は、例えば、リーン車両100のリーン角情報を含む。リーン角情報は、リーン車両100のリーン角に関する情報であり、例えば、リーン角を示す情報、又は、リーン角速度(つまり、リーン角の時間変化率)を示す情報を含み得る。
【0066】
設定部63は、例えば、リーン車両100のリーン角の絶対値又はリーン角速度の絶対値が大きいほど、後輪4の比率が大きくなり前輪3の比率が小さくなるように目標比率を設定する。ここで、後輪4の制動力が大きいほど、後輪4のグリップが失われる事態が生じた場合であっても、ライダーによるリーン車両100のロール方向への立て直しが容易となる。つまり、ライダーはリーン車両100の姿勢をロール方向に変化させやすくなる。ゆえに、リーン角情報に基づいて上記のように目標比率を設定することによって、リーン車両100のロール方向の姿勢を安定化することができる。
【0067】
また、姿勢情報は、例えば、リーン車両100の加減速度情報を含む。加減速度情報は、リーン車両100の加減速度を示す情報である。例えば、設定部63は、前輪3の車輪速及び後輪4の車輪速に基づいて、加減速度情報を取得し得る。
【0068】
設定部63は、例えば、EBAの開始直前におけるリーン車両100の減速度が大きいほど、後輪4の比率が大きくなり前輪3の比率が小さくなるように目標比率を設定する。ここで、EBAの開始直前におけるリーン車両100の減速度が過度に大きい場合、前輪3の制動力によって生じるリーン車両100の前部を押し下げる力が過度に大きくなっていることが予想される。ゆえに、加減速度情報に基づいて上記のように目標比率を設定することによって、リアリフトアップを抑制することができるので、リーン車両100の姿勢を安定化することができる。一方、EBAの開始直前におけるリーン車両100の減速度があまり大きくない場合に、前輪3の制動力を大きくすることで、制動性能を向上させることができる。
【0069】
また、例えば、設定部63は、ライダーによるブレーキ操作の操作状態量に基づいて、目標比率を設定してもよい。ブレーキ操作の操作状態量は、ブレーキ操作部(具体的には、第1ブレーキ操作部11又は第2ブレーキ操作部13)の操作量を示す指標である。例えば、第1ブレーキ操作部11に関する操作状態量は、第1ブレーキ操作部11に付設されているマスタシリンダ21のマスタシリンダ圧であってもよく、第1ブレーキ操作部11の操作量自体(つまり、ブレーキ操作量)であってもよい。また、例えば、第2ブレーキ操作部13に関する操作状態量は、第2ブレーキ操作部13に付設されているマスタシリンダ21のマスタシリンダ圧であってもよく、第2ブレーキ操作部13の操作量自体(つまり、ブレーキ操作量)であってもよい。
【0070】
設定部63は、例えば、第2ブレーキ操作部13の操作量に対する第1ブレーキ操作部11の操作量の比率が小さいほど、前輪3の比率が小さくなり後輪4の比率が大きくなるように目標比率を設定してもよい。ここで、第1ブレーキ操作部11の操作量が小さい場合、EBAによって前輪3の制動力が急激に増幅されると、リーン車両100の挙動がライダーの意図に反した挙動となる。また、第2ブレーキ操作部13の操作量が小さい場合、EBAによって後輪4の制動力が急激に増幅されると、リーン車両100の挙動がライダーの意図に反した挙動となる。ゆえに、ライダーによるブレーキ操作の操作状態量に基づいて上記のように目標比率を設定することで、EBAによってリーン車両100がライダーの意図に反した挙動を示すことを抑制できる。
【0071】
また、例えば、設定部63は、リーン車両100の走行路の勾配に基づいて、目標比率を設定してもよい。例えば、設定部63は、リーン車両100のピッチ角に基づいて、走行路の勾配を取得することができる。
【0072】
設定部63は、例えば、走行路が登坂路である場合、走行路が降坂路である場合と比較して、前輪3の比率が大きくなり後輪4の比率が小さくなるように目標比率を設定する。上述したように、前輪3の制動力が大きいほど、前輪3の制動力によって生じるリーン車両100の前部を押し下げる力を大きくすることができる。一方、後輪4の制動力が大きいほど、後輪4の制動力によって生じるリーン車両100の後部を押し下げる力を大きくすることができる。ゆえに、走行路の勾配に基づいて上記のように目標比率を設定することによって、リーン車両100のピッチ方向の姿勢を安定化することができる。例えば、走行路が登坂路である場合に、リーン車両100の前部がより上側に傾くようにリーン車両100の姿勢が変化することを抑制できる。また、例えば、走行路が降坂路である場合に、リーン車両100の後部がより上側に傾くようにリーン車両100の姿勢が変化することを抑制できる。
【0073】
図6は、制御装置が行うEBAに関する処理の流れの第2の例を示すフローチャートである。図6に示される制御フローは、EBAの開始条件が満たされた場合に開始される。図6におけるステップS201は、図6に示される制御フローの開始に対応する。図6に示される制御フローでは、ステップS202~S205の処理が1計算サイクルに相当し、各計算サイクルが所定時間間隔で繰り返される。なお、図5に示される制御フローと同様に、図6に示される制御フローの途中で、EBAの終了条件が満たされた場合、図6に示される制御フローは終了する。
【0074】
図6に示される制御フローが開始されると、ステップS202において、設定部63は、今回の計算サイクルでのリーン車両100の目標制動力を決定する。なお、ステップS202の処理は、図5中のステップS102と同様である。
【0075】
次に、ステップS203において、設定部63は、前輪3と後輪4との制動力の目標比率を設定する。なお、ステップS203の処理は、図5中のステップS103と同様である。
【0076】
次に、ステップS204において、設定部63は、前輪3の制動力がリーン車両100の目標制動力になるように、かつ、前輪3と後輪4との制動力の比率が目標比率になるように、前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。つまり、この場合、前輪3の目標制動力、及び、後輪4の目標制動力は、リーン車両100の目標制動力以上の制動力がリーン車両100全体に生じるように設定される。
【0077】
次に、ステップS205において、制御部62は、設定部63による前輪3と後輪4との制動力配分の設定に基づいて、前輪3及び後輪4の制動力を制御する。なお、ステップS205の処理は、図5中のステップS105と同様である。
【0078】
ステップS205の次に、ステップS202に戻り、次の計算サイクルが行われる。
【0079】
上記のように、図6に示される制御フローでは、設定部63は、EBAにおいて、前輪3の制動力がリーン車両100の目標制動力になるように、かつ、前輪3と後輪4との制動力の比率が目標比率になるように、前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。ここで、設定部63は、EBAにおける前輪3と後輪4との制動力配分を、各種パラメータに基づいて設定してもよい。例えば、図6に示される制御フローでは、設定部63は、各種パラメータに基づいて目標比率を設定してもよい。なお、図6に示される制御フローにおいても、上述した図5に示される制御フローと同様に、設定部63は、例えば、リーン車両100の姿勢情報、ブレーキ操作の操作状態量、又は、走行路の勾配等に基づいて、目標比率を設定してもよい。
【0080】
図7は、制御装置が行うEBAに関する処理の流れの第3の例を示すフローチャートである。図7に示される制御フローは、EBAの開始条件が満たされた場合に開始される。図7におけるステップS301は、図7に示される制御フローの開始に対応する。図7に示される制御フローでは、ステップS302~S305の処理が1計算サイクルに相当し、各計算サイクルが所定時間間隔で繰り返される。なお、図5又は図6に示される制御フローと同様に、図7に示される制御フローの途中で、EBAの終了条件が満たされた場合、図7に示される制御フローは終了する。
【0081】
図7に示される制御フローが開始されると、ステップS302において、設定部63は、今回の計算サイクルでのリーン車両100の目標制動力を決定する。なお、ステップS302の処理は、図5中のステップS102と同様である。
【0082】
次に、ステップS303において、設定部63は、増幅後の前輪3の制動力を設定する。設定部63は、例えば、前輪3の制動力の上限値を加味して、増幅後の前輪3の制動力を設定する。前輪3の制動力の上限値は、リーン車両100の仕様等に基づいて、予め設定されている値であり、前輪3に生じさせ得る制動力の最大値である。
【0083】
例えば、前輪3のみで目標制動力を賄える場合(つまり、リーン車両100の目標制動力が前輪3の制動力の上限値以下である場合)、設定部63は、リーン車両100の目標制動力を、増幅後の前輪3の制動力として設定する。一方、例えば、前輪3のみでは目標制動力を賄いきれない場合(つまり、リーン車両100の目標制動力が前輪3の制動力の上限値よりも大きい場合)、設定部63は、前輪3の制動力の上限値を、増幅後の前輪3の制動力として設定する。
【0084】
次に、ステップS304において、設定部63は、増幅後の前輪3の制動力とリーン車両100の目標制動力との大小関係に基づいて、後輪4の制動力を設定する。
【0085】
例えば、増幅後の前輪3の制動力がリーン車両100の目標制動力よりも小さい場合(つまり、前輪3のみでは目標制動力を賄いきれない場合)、設定部63は、リーン車両100の目標制動力と増幅後の前輪3の制動力との差を、後輪4の制動力として設定する。一方、増幅後の前輪3の制動力がリーン車両100の目標制動力と一致する場合(つまり、前輪3のみで目標制動力を賄える場合)、設定部63は、例えば、第2ブレーキ操作部13の操作量に応じた制動力を、後輪4の制動力として設定する。つまり、この場合、後輪4の制動力は増幅されない。
【0086】
次に、ステップS305において、制御部62は、設定部63による前輪3と後輪4との制動力配分の設定に基づいて、前輪3及び後輪4の制動力を制御する。なお、ステップS305の処理は、図5中のステップS105と同様である。
【0087】
ステップS305の次に、ステップS302に戻り、次の計算サイクルが行われる。
【0088】
上記のように、図7に示される制御フローでは、設定部63は、EBAにおいて、増幅後の前輪3の制動力とリーン車両100の目標制動力との大小関係に基づいて、後輪4の制動力を設定する。それにより、リーン車両100の制動において主として用いられる前輪3の制動力が最大限活用されるように、EBAにおける前輪3と後輪4との制動力配分を設定できる。
【0089】
ここで、設定部63は、EBAにおける前輪3と後輪4との制動力配分を、各種パラメータに基づいて設定してもよい。例えば、図7に示される制御フローでは、設定部63は、ステップS304において決定された前輪3と後輪4との制動力の比率を、各種パラメータに基づいて調整してもよい。なお、図7に示される制御フローにおいても、上述した図5に示される制御フローと同様に、設定部63は、例えば、リーン車両100の姿勢情報、ブレーキ操作の操作状態量、又は、走行路の勾配等に基づいて、ステップS304において決定された前輪3と後輪4との制動力の比率を調整してもよい。
【0090】
<制御装置の効果>
本発明の実施形態に係る制御装置60の効果について説明する。
【0091】
制御装置60において、設定部63は、EBAにおけるリーン車両100の前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。そして、制御部62は、EBAにおいて、設定部63による制動力配分の設定に基づいて、前輪3及び後輪4の制動力を制御する。それにより、EBAにおいて、前輪3と後輪4との制動力配分を適正化し、例えば、後輪4の制動力が過度に小さくなることを抑制できる。ゆえに、EBAにより制動力が増幅されることに起因してリーン車両100の姿勢が不安定になることを抑制できる。よって、リーン車両100の安全性を適切に向上させることができる。
【0092】
好ましくは、制御装置60において、設定部63は、リーン車両100の姿勢情報に基づいて、前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。それにより、EBAにおいて、リーン車両100の姿勢情報に基づいて前輪3と後輪4との制動力配分を適正化することができる。ゆえに、EBAにより制動力が増幅されることに起因してリーン車両100の姿勢が不安定になることをより適切に抑制できる。よって、リーン車両100の安全性をより適切に向上させることができる。
【0093】
好ましくは、制御装置60において、姿勢情報は、リーン車両100のピッチ角情報を含む。それにより、EBAにおいて、リーン車両100のピッチ角情報に基づいて前輪3と後輪4との制動力配分を適正化することができる。ゆえに、リーン車両100のピッチ方向の姿勢を安定化することができる。
【0094】
好ましくは、制御装置60において、姿勢情報は、リーン車両100のリーン角情報を含む。それにより、EBAにおいて、リーン車両100のリーン角情報に基づいて前輪3と後輪4との制動力配分を適正化することができる。ゆえに、リーン車両100のロール方向の姿勢を安定化することができる。
【0095】
好ましくは、制御装置60において、姿勢情報は、リーン車両100の加減速度情報を含む。それにより、EBAにおいて、リーン車両100の加減速度情報に基づいて前輪3と後輪4との制動力配分を適正化することができる。ゆえに、リーン車両100の姿勢を安定化することができる。
【0096】
好ましくは、制御装置60において、設定部63は、ライダーによるブレーキ操作の操作状態量に基づいて、前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。それにより、EBAによってリーン車両100がライダーの意図に反した挙動を示すことを抑制できる。
【0097】
好ましくは、制御装置60において、設定部63は、リーン車両100の走行路の勾配に基づいて、前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。それにより、リーン車両100のピッチ方向の姿勢を安定化することができる。
【0098】
好ましくは、制御装置60において、設定部63は、EBAにおいて、リーン車両100の目標制動力を、目標比率で前輪3と後輪4とに配分する。それにより、EBAにおける前輪3と後輪4との制動力配分の適正化が適切に実現される。
【0099】
好ましくは、制御装置60において、設定部63は、EBAにおいて、前輪3の制動力がリーン車両100の目標制動力になるように、かつ、前輪3と後輪4との制動力の比率が目標比率になるように、前輪3と後輪4との制動力配分を設定する。それにより、EBAにおける前輪3と後輪4との制動力配分の適正化が適切に実現される。
【0100】
好ましくは、制御装置60において、設定部63は、EBAにおいて、増幅後の前輪3の制動力とリーン車両100の目標制動力との大小関係に基づいて、後輪4の制動力を設定する。それにより、リーン車両100の制動において主として用いられる前輪3の制動力が最大限活用されるように、EBAにおける前輪3と後輪4との制動力配分を設定できる。
【0101】
本発明は実施形態の説明に限定されない。例えば、実施形態の一部のみが実施されてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 胴体、2 ハンドル、3 前輪、3a ロータ、4 後輪、4a ロータ、10 ブレーキシステム、11 第1ブレーキ操作部、12 前輪制動機構、13 第2ブレーキ操作部、14 後輪制動機構、21 マスタシリンダ、22 リザーバ、23 ブレーキキャリパ、24 ホイールシリンダ、25 主流路、26 副流路、27 供給流路、31 込め弁、32 弛め弁、33 アキュムレータ、34 ポンプ、35 第1弁、36 第2弁、41 前輪車輪速センサ、42 後輪車輪速センサ、43 慣性計測装置、44 環境センサ、45 マスタシリンダ圧センサ、50 液圧制御ユニット、51 基体、60 制御装置、61 取得部、62 制御部、63 設定部、100 リーン車両。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7