(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】プラズマPVDプロセスのプロセス条件を監視するための方法、およびプラズマPVDプロセスを制御するための方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240802BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C23C14/34 U
H05H1/46 A
(21)【出願番号】P 2022559997
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 SE2021050282
(87)【国際公開番号】W WO2021206609
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-12-09
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】522385201
【氏名又は名称】イオノーティクス アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ルンディーン
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ・ヘルメルソン
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-534351(JP,A)
【文献】特表2017-534750(JP,A)
【文献】特開平11-158629(JP,A)
【文献】特開2007-335875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法(200)であって、前記プラズマPVDプロセスは、
プロセスチャンバ(2)と、
前記プロセスチャンバ(2)の内側に配置されたターゲット(3)と、
前記ターゲット(3)に接続され、プラズマ放電を生成するように構成された電力供給装置(10、10’)と、
無線周波数発生器(15)と、
無線周波数センサ(16)と、
を備える装置(1)内で実行され、
前記方法は、
前記電力供給装置によってプラズマが生成されたとき、前記無線周波数発生器(15)によって前記ターゲット(3)に振動電圧信号を印加するステップ(S201)と、
前記無線周波数センサ(16)によって、前記印加された振動電圧信号からの応答を記録するステップ(S203)と、
前記記録された応答に基づいて、前記ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップ(S205)と、
を含
み、
前記印加された振動電圧信号からの応答を記録する前記ステップ(S203)は、前記応答の電流振幅および電流位相シフトを記録することを含み、
前記振動電圧信号は100kHzから1MHzの周波数で印加され、
前記少なくとも1つのプラズマプロセス条件は前記ターゲット表面へのイオンフラックスを含む、方法。
【請求項2】
前記印加された振動電圧信号のピークツーピーク振幅は、10Vから300Vである、請求項
1に記載の方法(200)。
【請求項3】
前記電力供給装置(10、10’)は、パルスモードで動作するように構成され、少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出する前記ステップは、前記電力供給装置によって印加されるような2つの活性プラズマ放電パルス間に記録される応答に基づいて実行される、請求項1または2に記載の方法(200)。
【請求項4】
前記プラズマPVDプロセスは、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)である、請求項1または2に記載の方法(200)。
【請求項5】
前記方法は、
前記プラズマPVDプロセスの動作中、前記装置内の基板位置に配置されたプローブに第2の振動電圧信号を印加するステップと、
前記印加された第2の振動電圧信号からの応答を記録するステップと、
前記印加された第2の振動電圧からの前記記録された応答に基づいて、前記基板位置における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップと、
をさらに含む、
請求項1または2に記載の方法(200)。
【請求項6】
装置(1)内で実行されるプラズマPVDプロセスを制御するための方法(300)であって、前記装置(1)は、
プロセスチャンバ(2)と、
前記プロセスチャンバ(2)の内側に配置されたターゲット(3)と、
前記ターゲット(3)に接続され、プラズマ放電を生成するように構成された電力供給装置(10、10’)と、
無線周波数発生器(15)と、
無線周波数センサ(16)と、
を備え、
プラズマPVDプロセスを制御するための前記方法は、
請求項1または2に記載のプロセス条件を監視するための方法(200)を実行し、これによって少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップ(S301)と、
前記ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する前記導出された情報に基づいて、前記電力供給装置(10、10’)への入力信号および/または前記プロセスチャンバ内へプロセスガスを導入するように構成されたガス供給デバイス(12)への入力信号を調整し、これによって前記装置内のプラズマプロセス条件を調整するステップ(S303)と、
を含む、方法。
【請求項7】
前記プラズマPVDプロセスを制御するための前記方法は、前記プラズマPVDプロセス中に、連続的に実行される、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
命令を含むコンピュータプログラム(P)であって、前記命令は、制御デバイス(100)によって実行されると、前記制御デバイス(100)に、請求項1または2に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラム(P)。
【請求項9】
命令を含むコンピュータ可読媒体であって、前記命令は、制御デバイス(100)によって実行されると、前記制御デバイス(100)に、請求項1または2に記載の方法を実行させる、コンピュータ可読媒体。
【請求項10】
ターゲット(3)を含むように構成されたプロセスチャンバ(2)と、
前記ターゲットに接続されるように構成され、プラズマ放電を提供するように構成された電力供給装置(10、10’)と、
前記電力供給装置(10、10’)によってプラズマが生成されたとき、前記ターゲット(3)に振動電圧
信号を
、100kHzから1MHzの周波数で印加するように構成された無線周波数発生器(15)と、
前記印加された振動電圧信号から前記ターゲット(3)への応答を記録するように構成され
、前記応答は応答の電流振幅および電流位相シフトを含む、無線周波数センサ(16)と、
前記無線周波数センサ(16)によって記録された前記応答に基づいて、前記ターゲット(3)における、またはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するように構成された制御デバイス(100)と、
を備
え、
前記少なくとも1つのプラズマプロセス条件は前記ターゲット表面へのイオンフラックスを含む、プラズマPVDプロセス装置(1)。
【請求項11】
前記電力供給装置(10、10’)は、パルスモードで動作するように構成され、前記制御デバイス(100)は、前記電力供給装置によって印加されるプラズマ放電パルス間に前記無線周波数センサによって記録される前記応答に基づいて、前記少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するように構成される、請求項1
0に記載のプラズマPVDプロセス装置。
【請求項12】
前記制御デバイス(100)は、現場でプラズマプロセス条件を調整する目的で、前記ターゲットにおけるまたはその近くの少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する前記導出された情報に基づいて、前記電力供給装置(10、10’)への入力信号、および/または前記プロセスチャンバ(2)内へプロセスガスを導入するように構成されたガス供給デバイス(12)への入力信号を調整するようにさらに構成される、請求項1
0または1
1に記載のプラズマPVDプロセス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法に関する。本開示は、一般に、プラズマPVDプロセスを制御するための方法にさらに関する。本開示は、一般に、コンピュータプログラムおよびコンピュータ可読媒体にさらに関する。本開示は、一般に、プラズマPVDプロセス装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
物理蒸着(PVD)は、薄膜、コーティングまたはナノ粒子の製造に使用することができる様々な異なるプロセスのための総称である。これらのプロセスによれば、原材料が固相(または、いくつかの稀な場合において、液体状態)から気相に、次いで、たとえば基板上の薄膜として、再び固体状態になる。最も一般的なPVDプロセスは、原子または粒子が原材料から物理的に放出されるスパッタリング、および原材料が気相へと蒸発する蒸発を含む。
【0003】
様々なイオン化物理蒸着(IPVD)プロセスの導入で、堆積フラックスの実質的な量をイオン化および加速する可能性により、改善された特性で薄膜を調整する新たな方法が開かれてきた。現在多くの関心を集めているIPVD法の一例は高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)である。HiPIMSは、通常10%未満の、低いデューティサイクルでの短いパルスで、活性カソード表面にわたって平均して、kW/cm2のオーダーの非常に高い電力密度を利用する。HiPIMSによって、とりわけ、スパッタされた原材料の非常に高度なイオン化を得ることが可能である。
【0004】
多くのPVDプロセスには、短時間枠(秒)と長時間枠(分および時間)の両方で、プロセスパラメータが安定しないという問題がある。より安定したプロセスを提供する目的で、プロセスパラメータを連続的に、または定期的に決定し、データに基づいて、PVDプロセスの入力パラメータをシフトおよびガイドすることができれば望ましい。しかしながら、プラズマ特性を定義するいくつかのプロセスパラメータを決定するための一般的に知られている測定方法は複雑であり、いくつかはプロセスを妨害する可能性さえある。後者はひいては、たとえばバッチ全体で結果のフィルムまたはナノ粒子の品質が劣る結果になれば、製造環境において非常にコストがかかる可能性がある。
【0005】
スパッタリングプラズマ条件を分析する以前から知られている技術は、高周波バイアス電圧源に接続されたプローブを利用し、正確なプローブRF電圧およびRF電流の波形測定を行うことである。測定された信号を適切に分析することにより、プローブ表面へのイオンフラックスを決定することが可能になる。この方法は1990年代にSobolewskiによって最初に提案された(M.A. Sobolewski、J. Vac. Sci. Technol. A 10, 3550 (1992)参照)。
【0006】
D. Lundinら、Time-resolved ion flux and impedance measurements for process characterization in reactive high-power impulse magnetron sputtering、Journal of Vacuum Science & Technology A34, 041305 (2016)は、時間分解プラズマ特性評価のためのいわゆるSobolewski法に基づく平面イオンフラックスプローブを開示している。プローブは高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)プロセスにおいて評価された。プローブは基板位置に配置され、プローブに衝突する絶対イオンフラックスの時間分解測定値、ならびにプローブシースインピーダンスがHiPIMSパルス中に記録された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】M.A. Sobolewski、J. Vac. Sci. Technol. A 10, 3550 (1992)
【文献】D. Lundinら、Time-resolved ion flux and impedance measurements for process characterization in reactive high-power impulse magnetron sputtering、Journal of Vacuum Science & Technology A34, 041305 (2016)
【文献】Sezemskyら、Modified high frequency probe approach for diagnostics of highly reactive plasma、Plasma Sources Sci. Technol. 28, 115009 (2019)
【文献】Mullerら、Towards Fast Measurement of the Electron Temperature in the SOL of ASDEX Upgrade Using Swept Langmuir Probes、Contrib. Plasma Phys. 50, 847 (2010)
【文献】M. Cada、Z. Hubicka、P. Adamek、J. Kluson、およびL Jastrabik、Surf. Coatings Technol. 205, S317 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を決定する能力をさらに改善すると同時に、プラズマPVDプロセスを妨害するリスクを回避しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、添付の独立請求項の主題によって達成される。
【0010】
本開示によれば、装置内で実行される、プラズマPVDにおけるプロセス条件を監視するための方法が提供される。この装置は、プロセスチャンバと、プロセスチャンバの内側に配置されたターゲットと、ターゲットに接続され、プラズマ放電を生成するように構成された電力供給装置と、を備える。この装置は無線周波数発生器および無線周波数センサをさらに含む。この方法は、電力供給装置によってプラズマが生成されたとき、無線周波数発生器によってターゲットに振動電圧信号を印加するステップを含む。この方法は、印加された振動電圧信号からの応答を無線周波数センサによって記録するステップをさらに含む。この方法は、記録された応答に基づいて、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップをさらに含む。
【0011】
本方法により、ターゲットは、プラズマ生成電極として作用することに加えて、プラズマプロセス条件を決定するために使用されるプローブとしても作用する。これによって、プロセスチャンバ内へ追加のハードウェアを挿入する必要がなくなる。これによって、本方法は、本質的にプラズマPVDプロセスを妨害することなく実行することができ、これはひいては、生産速度の損失または生産される薄膜またはナノ粒子の品質低下のリスクを最小化する。
【0012】
さらに、本方法によって、ターゲットでのプラズマ特性に関する信頼できる情報を得ることができる。これにより、とりわけ、プラズマPVDプロセスを現場で能動的に制御する可能性を向上させることが可能になり、これによりひいては、より安定したプラズマPVDプロセスを得ることが可能になる。また、プラズマ特性に関する情報により、プロセス条件の追跡可能性が向上する。
【0013】
印加された振動電圧信号からの応答を記録するステップは、応答電流振幅および電流位相シフトを記録することを含むことができる。電流振幅および電流位相シフトを知ることによって、ターゲット表面へのイオンフラックスならびにターゲットでのプラズマシースインピーダンスに関する情報を得ることが可能である。さらに、ターゲットでの電子密度および電子温度に関する情報を導出することができる。
【0014】
振動電圧信号は100kHzから1MHzの周波数で適切に印加することができる。これによって、周波数がイオンプラズマ周波数よりはるかに低くなることが保証される。同時に、このような周波数により、非常に良好な時間分解能が可能になる。
【0015】
印加された振動電圧信号のピークツーピーク振幅は適切には10Vから300Vとすることができる。これによって、振幅は、記録された応答への電子の寄与が無視できるほど十分に高いが、同時にプラズマPVDプロセスに対して変更を引き起こさないように十分に低い。
【0016】
電力供給装置は、パルスモードで動作するように構成することができる。このような場合、少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップは、電力供給装置によって印加されるような2つの活性プラズマ放電パルス間に記録される応答に基づいて適切に実行することができる。これによって、活性放電中に電力供給装置によって供給される電力から、記録された応答を隔離しなければならないことを回避することができる。これによりひいてはこの方法が大幅に容易になる。応答が記録されるとき、活性プラズマ放電パルスはないが、装置内にまだ残留プラズマがあることになる。本方法は非常に良好な時間分解能を有するため、活性プラズマ放電から応答が記録される時間までの時間遅延は、プラズマのフェードアウトが無視できるほど十分に短くすることができる。
【0017】
一態様によれば、プラズマPVDプロセスは高出力インパルスマグネトロンスパッタリングとすることができる。
【0018】
また、この方法は、プラズマPVDプロセスの動作中、基板位置に配置されたプローブに第2の振動電圧信号を印加し、印加された第2の振動電圧信号からの応答を記録するステップをさらに含むことができる。この方法は、印加された第2の振動電圧からの記録された応答に基づいて、基板位置における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出することをさらに含むことができる。これによって、プラズマPVDプロセス中の、より具体的には基板位置における処理条件に関するさらなる情報を得ることができる。これによりひいてはプロセス条件の追跡可能性がさらに向上すると同時に、より安定したプロセスを得る目的で、および/または所望の薄膜またはナノ粒子特性を達成するため、現場でのプラズマPVDプロセスの能動制御がさらに可能になる。
【0019】
本開示はさらに、装置内で実行される、プラズマPVDプロセス、たとえば高出力インパルスマグネトロンスパッタリングプロセスを制御するための方法を提供する。この装置は、プロセスチャンバと、プロセスチャンバの内側に配置されたターゲットと、ターゲットに接続され、プラズマ放電を生成するように構成された電力供給装置と、を含む。この装置は無線周波数発生器および無線周波数センサをさらに含む。プラズマPVDプロセスを制御するための方法は、上述のようなプラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法を実行し、これによって少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップを含む。プラズマPVDプロセスを制御するための方法は、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する導出された情報に基づいて、装置内のプラズマプロセス条件を調整する目的で電力供給装置への入力信号を調整するステップをさらに含む。あるいは、または加えて、プラズマPVDプロセスを制御するための方法は、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する導出された情報に基づいて、装置内のプラズマプロセス条件を調整する目的で、プロセスチャンバ内へプロセスガスを導入するように構成されたガス供給デバイスへの入力信号を調整するステップを含む。
【0020】
プラズマPVDプロセスを制御するための方法は、プラズマPVDプロセス中に、連続的に実行することができる。これによって、より安定したプラズマPVDプロセスを達成することができる。
【0021】
本開示は、コンピュータプログラムにさらに関し、このコンピュータプログラムは、上述の方法のいずれか1つを制御デバイスに実行させるための命令を含む。
【0022】
本開示は、命令を含むコンピュータ可読媒体にさらに関し、命令は、制御デバイスによって実行されると、制御デバイスに、上述のような方法のいずれか1つを実行させる。
【0023】
また、本開示によれば、プラズマPVDプロセス装置が提供される。プラズマPVDプロセス装置は、
ターゲットを含むように構成されたプロセスチャンバと、
ターゲットに接続されるように構成され、プラズマ放電を提供するように構成された電力供給装置と、
電力供給装置によってプラズマが生成されたとき、ターゲットに振動電圧を印加するように構成された無線周波数発生器と、
印加された振動電圧信号からターゲットへの応答を記録するように構成された無線周波数センサと、
無線周波数センサによって記録された応答に基づいて、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するように構成された制御デバイスと、
を備える。
【0024】
プラズマPVD装置は、対応する方法を参照して上述した利点を有する。
【0025】
電力供給装置は、パルスモードで動作するように構成することができる。このような場合、制御デバイスは、電力供給装置によって印加されるプラズマ放電パルス間に無線周波数センサによって記録される応答に基づいて少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するように構成することができる。
【0026】
制御デバイスは、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する導出された情報に基づいて、電力供給装置への入力信号、および/またはプロセスチャンバ内へプロセスガスを導入するように構成されたガス供給デバイスへの入力信号を調整するようにさらに構成することができる。このような調整の目的は、現場でプロセス条件を調整することである。
【0027】
プラズマPVDプロセス装置はたとえば高出力インパルスマグネトロンスパッタリング装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本開示によるプラズマPVD装置の例示的な一実施形態の断面図を概略的に示す図である。
【
図2】本開示によるプラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法の例示的な一実施形態を概略的に示すフローチャートである。
【
図3】本開示によるプラズマPVDプロセスの制御のための方法の例示的な一実施形態を概略的に示すフローチャートである。
【
図4】HiPIMS電力供給装置、マグネトロン、無線周波数発生器および無線周波数センサ間の可能な接続の一例を概略的に示す図である。
【
図5a】HiPIMSプロセスにおいて無線周波数発生器によって振動電圧信号が重畳されるときのターゲット電圧特性の一例を示す図である。
【
図5b】
図5aに示すようにHiPIMSプロセスにおいて振動電圧信号を重畳するときの対応するターゲット電流特性を示す図である。
【
図6a】振動電圧信号がターゲットに印加されたときの、HiPIMSパルス後の、経時的なターゲット電圧の一例を示す図である。
【
図6b】振動電圧信号がターゲットに印加されたときの、HiPIMSパルス後の、経時的なターゲット電流の一例を示す図である。
【
図6c】振動電圧信号がターゲットに印加されたときの、HiPIMSパルス後の、経時的なターゲット電力の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
様々な例示的な実施形態および図面、ならびに実験結果を参照して、本発明を次において詳細に説明する。しかしながら、本発明は、説明する例示的な実施形態または実験結果に限定されず、独立請求項の範囲内で変更することができる。さらに、図面は、その中の特徴をより明確に示すために何らかの特徴を誇張していることがあるため、一定の縮尺で描かれていると見なされるべきではない。
【0030】
本開示において、「ターゲット」という用語は広く解釈されるべきであり、したがって物理蒸着プロセスにおける任意のプラズマ生成電極を包含する。堆積プロセスにおいて、ターゲットは、ターゲットの表面からスパッタされる(または場合によっては蒸発する)原材料で形成することができる。
【0031】
本開示によれば、プラズマ物理蒸着(PVD)プロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法が提供される。この方法は、プロセスチャンバの内側にいかなる追加の機器をも導入する必要性なく、たとえば大量生産に使用される堆積システムにおいてリアルタイムのプロセス特性評価を提供する。したがって、本開示による方法は、プロセスチャンバ内へ別個のプローブを導入する必要性を回避するが、これを実行して所望であればさらなる情報を導出することもできる。
【0032】
また、本方法によって、ターゲット表面におけるまたはそのごく近傍におけるプロセス条件に関する情報をリアルタイムで得ることができる。この情報は、とりわけ、ターゲットからのスパッタされた材料のイオン化度を支配し、これはひいては、基板に到達する材料フラックスのイオン化の可能な程度を支配し、したがって膜のテクスチャおよび微細構造の調整を可能にするため、非常に適切である。この方法は原材料の化学状態に関する情報も提供することができ、これにより、反応性作動ガスを使用するとき、プロセスの安定化およびより高い堆積速度が可能になる。ターゲット表面に近い容積内のプロセス条件をリアルタイムで、特に工業用蒸着システムにおいて確実に測定することが、さもなければ非常に困難になる可能性がある。
【0033】
本開示によるプラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法は、要求される情報を収集するために使用されるターゲットの浸食または汚染によってデータ取得が悪影響を受けないため、比較的汚れた工業用プラズマPVDプロセスにおいて使用することができるという利点をさらに有する。本質的に同じ理由で、本方法は、たとえば基板上に化合物コーティングを生成する目的でプロセス中に反応性ガスが導入される反応性プロセスにおいて使用することができる。
【0034】
本開示によるプラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法は、プロセスチャンバ(真空チャンバのような)と、プロセスチャンバの内側に配置されたターゲットと、ターゲットに接続され、プロセスチャンバの内側でプラズマ放電を生成するように構成された電力供給装置と、を含む装置において実行される。この装置は、プラズマPVDプロセスを実行するための任意の以前から知られている装置とすることができ、通常、少なくともプロセスチャンバと、プロセスチャンバの内側でプラズマ放電を生成するように構成された電力供給装置と、を含む。電力供給装置はたとえば、HiPIMS電力供給装置、RF電力供給装置、(パルス式または非パルス式)DC電力供給装置、またはマイクロ波電力供給装置とすることができる。プラズマPVDプロセス中に、ターゲットが装置の内側に配置される。このような以前から知られている装置とは対照的に、本方法が実行される装置は無線周波数発生器および無線周波数センサで補足される。無線周波数発生器は電力供給装置とは別個のデバイスである。換言すれば、上記無線周波数発生器は、プラズマを生成、または維持するために使用されない。代わりに、無線周波数発生器は、プラズマ放電を生成および/または維持する目的で電力供給装置によって供給される電力とは別個の(補助)振動電圧信号をターゲットに印加するように構成される。無線周波数センサは、印加された振動電圧からの応答に加えて、印加された振動電圧信号も記録することができるように、無線周波数発生器に適切に接続することができる。プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法は、このように構成された制御デバイスによって実行される。
【0035】
この方法は、電力供給装置によってプラズマが生成されたとき、無線周波数発生器によってターゲットに振動電圧信号を印加するステップを含む。振動電圧信号はたとえば、プラズマPVDプロセスの動作中、または予め選択された時間間隔でターゲットに連続的に印加することができる。振動電圧はたとえば、100kHzと1MHz(範囲の最終値を含む)との間、好ましくは250kHzから500kHzの周波数で印加することができる。このような周波数により、数マイクロ秒のオーダーの時間分解能になり、したがってたとえば、電力供給装置によって印加される活性プラズマ放電がない(が、以前のプラズマ放電からの残留プラズマがある)ときでも、プラズマプロセス条件に関する関連情報を得ることが可能になる。印加された振動電圧のピークツーピーク振幅は適切には10Vと300V(最終値を含む)との間、好ましくは40Vから100Vとすることができる。これによって、とりわけ、印加された振動電圧は、記録される応答への電子の寄与が無視できるほど十分に高いことが保証される。さらに、印加された振動電圧は、実質的な悪影響をプラズマPVDプロセスにそのように引き起こさないように十分に低いことが保証される。印加された振動電圧信号は正弦波形状の電圧信号とすることができる。また、無線周波数発生器によって印加される振動電圧電位は、プラズマ放電を生成または維持するのに十分ではない。無線周波数発生器によってターゲットに振動電圧信号を印加することによって生成される最大電力は通常、電力供給装置によってターゲットに供給される時間平均電力の10%未満に、または5%未満にさえすることができる。一例によれば、無線周波数発生器によってターゲットに振動電圧信号を印加することによって生成される最大電力は、電力供給装置によってターゲットに供給される時間平均電力の2%以下とすることができる。
【0036】
この方法は、印加された振動電圧信号からの応答を無線周波数センサによって記録するステップをさらに含む。より具体的には、この方法は、印加された振動電圧信号からプラズマの応答を記録するステップを含む。無線周波数センサは上記目的のためにターゲットに接続される。印加された振動電圧信号からプラズマの応答を記録するステップは、応答電流振幅を記録することを含むことができる。応答電流振幅および印加された振動電圧の振幅を知ることによって、ターゲット表面へのイオンフラックスに関する情報を導出することが可能である。印加された振動電圧信号からの応答を記録するステップは、電流位相シフト、すなわち振動電圧信号と電流応答との間の相対位相を記録することも含むことができる。より具体的には、印加された振動電圧信号からの応答を記録するステップは、電流および電圧の波形、ならびに電流および電圧の振幅を記録することを含むことができる。無線周波数発生器によって印加されるような振動電圧信号の振幅および/または波形を知る目的で、無線周波数センサは好ましくは、上記印加された振動電圧信号を記録するように構成することができる。これによりひいては、振動電圧が印加された時間が記録された応答に対して正確であることを保証することができ、無線周波数発生器への入力パラメータに依存すれば発生する可能性があるエラーのリスクが本質的にないため、信頼性が向上する。しかしながら、高周波信号の測定値を適切に較正すべきであることに留意すべきである。しかしながら、当業者はそのための技術を知っているため、これはここでは詳細に説明しない。
【0037】
この方法は、記録された応答に基づいて、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップをさらに含む。情報はたとえば、記録された応答からプラズマプロセス条件を計算することによって導出することができる。このような計算において、記録された応答から変位電流を差し引くことができる。
【0038】
本開示によるプロセス条件を監視するための方法によって導出することができるプラズマプロセス条件の例は、ターゲット表面へのイオンフラックス、ターゲットでのプラズマシースインピーダンス、ターゲットのごく近傍における電子温度ならびにターゲットの近傍における電子密度を含む。これらのプロセス条件から、さらなる情報を得ることができる。たとえば、原材料(すなわちターゲット材料)の化学状態は、ターゲットでのプラズマシースインピーダンスを決定することによって得ることができる。さらに、スパッタされた材料のイオン分率は、ターゲットでの電子密度および電子温度から得ることができる。
【0039】
本方法により、ターゲットは、プラズマ生成電極としてのその機能に加えて、実際にはプローブとして機能することになる。
【0040】
上述の方法は、プラズマPVDプロセス中に、または所望のとおり予め選択された時間間隔で連続的に実行することができる。さらに、上述の方法は、プラズマPVDプロセスの一時的な中断中に実行することもできる。このような一時的な中断は、本開示による監視のための方法を実行することを可能にする唯一の根拠のために実行することができる。一時的な中断中にこの方法を実行することは、たとえばプラズマ放電がパルスモードで提供されないプラズマPVDプロセスの場合に有用である。他の状況では、この方法を連続的にまたは予め選択された時間間隔で実行することが、概してより適切である。一時的な中断中にこの方法を実行する場合、印加された振動電圧信号からの応答を記録するステップは、プラズマをまだ存在させるため、そして最も関連する情報を得るため、プラズマPVDプロセスの中断後できるだけ早く実行すべきである。これは好ましくは、プラズマ放電の中断後、数マイクロ秒のオーダーであろう。
【0041】
プロセス条件を監視するための上述の方法から得られる、プロセス条件に関して導出される情報は、様々な目的のためにさらに利用することができる。たとえば、導出されるデータは、得られたプラズマ条件の追跡可能性の目的で使用することができる。また、導出されるデータは、意図されるプロセス条件の再現性を改善する目的で使用することができる。これは、以下でさらに説明するように、プラズマPVDプロセスを制御する目的で導出される情報を使用することによって行うことができる。さらに、導出されるデータにより、異なる用途向けの薄膜およびコーティングの開発および製造に利用可能なより広いプロセスパラメータ空間が可能になる。これは、プラズマPVDプロセスを現場で能動制御する能力を改善することによってPVDプロセス用のプロセス条件をより安定させることができるためである。さらに、プロセス条件を現場で監視する能力は、不安定な条件下で動作するときの反応性PVDプロセスの能動制御を改善することができるため、この方法は反応性堆積システムにおいても有利に使用することができる。これによりひいては、堆積した化合物膜の品質を改善することができる。
【0042】
プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法は、実際、印加された振動電圧からの応答をノイズから識別および隔離することができる限り、任意のプラズマPVDプロセスにおいて実行することができる。ここで、無線周波数発生器によって印加される振動電圧電位は、プラズマ放電を生成するために印加される電力よりかなり低い電力であることが認識されるべきである。本方法を利用することができるプラズマPVDプロセスの例は、たとえばDCマグネトロンスパッタリングおよび陰極アーク堆積(これは蒸発プロセスである)を含むが、これらに限定されない。しかしながら、この方法は、プラズマ放電がパルスで提供されるパルスプラズマPVDプロセスにおいて実行される場合に非常に容易になる。これは、活性プラズマ放電パルス間の時間に印加された振動電圧信号からの応答を記録する能力のためである。これによって、応答は、プラズマ放電を得るために使用される印加電力(すなわち電力供給装置によって提供される電力)によって形成される「ノイズ」から隔離される必要がない。活性プラズマ放電パルスの終了のしばらく後に印加された振動電圧からの応答を記録することによって、プロセスチャンバにプラズマがまだ残ることになる。活性プラズマ放電パルスの終了の本質的に直後に応答を記録する場合、プラズマはまだある程度存在している可能性がある(時として「残光プラズマ」と呼ばれる)。
【0043】
したがって、プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法は、パルスプラズマPVDプロセスにおいて適切に実行することができる。これは、電力供給装置がパルスモードで動作するように構成されていることを意味する。
【0044】
このようなプロセスの一例は高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)プロセスである。HiPIMSはマグネトロンスパッタリングに基づいているが、短いパルス(インパルス)でターゲットに印加される非常に高い電力密度を利用する。ピーク電力密度は通常、ターゲット表面にわたってkW/cm2のまたはMW/cm2のオーダーにさえなり得る。ピーク放電電流密度はターゲット表面にわたって数A/cm2に達する可能性がある。ターゲットの過熱または他の損傷を回避するため、パルスは、通常10%未満の低いデューティサイクルで印加される。デューティサイクルが低いにもかかわらず、経時的な平均放電電力は、従来のマグネトロンスパッタリングにおける時間平均放電電力と少なくとも本質的に同じになり得る。HiPIMSは、とりわけ、スパッタされた材料の非常に高度なイオン化を可能にするという利点を有する。HiPIMSプロセスは双極性HiPIMSプロセスとして実施することもでき、ターゲットに対して逆極性のパルスが活性放電パルスのそれぞれに続く。HiPIMSプロセスにおいて本開示によるプロセス条件を監視するための方法を実行するとき、印加された振動電圧信号からの応答を記録するステップは、活性放電パルス間の期間中に容易に実行することができる。
【0045】
本開示によるプラズマプロセス条件を監視するための方法を容易に使用することができるパルスプラズマPVDプロセスの他の例は、パルス陰極アーク堆積またはパルスDCマグネトロンスパッタリング、特に非対称双極性DCマグネトロンスパッタリングを含む。
【0046】
陰極アーク堆積プロセスにおいて、電気アークを使用してターゲットから材料を蒸発させる。このプロセスにおいて、高電流、低電圧のアークを使用して、いわゆる陰極点においてターゲットの表面を打つ。陰極点における局所的な温度は極端に高く、その結果、ターゲットから気化した材料が高速で噴射される。陰極点は短時間活性になるのみである。アークは、ターゲットの表面にわたってアークを急速に移動させる目的で電磁場を印加することによって影響を受ける可能性がある。パルス陰極アークプロセスにおいて、アークはパルスモードで提供され、これは、活性放電アークがない時間がプロセス中にあることを意味する。上記期間中、印加された振動電圧からの応答を記録するステップを容易に達成することができる。
【0047】
パルスDCマグネトロンスパッタリングにおいて、パルスDC電流(通常数百ボルトの)がターゲットに印加される。パルスマグネトロンスパッタリング構成は、非対称双極性パルスまたは単極性パルスのいずれかであり得る。非対称双極性パルスは、ターゲットが絶縁材料によって部分的に覆われている状態でも動作することができるため、反応性スパッタリングを通した導電性ターゲットからの絶縁膜の堆積によく使用される。パルスDC動作において、マグネトロンスパッタリング放電のパルシングは大抵10~250kHzの周波数範囲にあり、デューティサイクルは通常50~90%である。
【0048】
プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための上述の方法は、装置内の基板位置におけるプローブへの振動電圧信号によってさらに補足され得、この印加された振動電圧信号からの応答を記録し、記録された応答に基づいて、基板位置における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出する。これはたとえば、振動電圧信号を基板自体に印加することによって行うことができる。これによって、基板位置における条件に関する知見を得ることもできる。これによって、プロセスチャンバの最も適切な容積でプラズマプロセス条件を決定することができる。
【0049】
プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための上述の方法は当然、所望であれば、プロセス条件を決定するためのさらなる技術でさらに補足することができる。例として、上述以外の他の場所で別個のプローブを装置内へ導入することができる。この別個のプローブに振動電圧を印加して応答を記録することができる。さらに、所望であれば、ラングミュアプローブ、OES分析などの他の技術を、当該技術において以前から知られているように利用することができる。
【0050】
本開示はさらに、プラズマPVDプロセスを制御するための方法に関する。プラズマPVDプロセスを制御するための方法は、上述のようなプロセス条件を監視するための方法を実行し、これによって少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップを含む。プラズマPVDプロセスを制御するための方法は、ターゲットまたはその近くでの少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する導出された情報に基づいて、装置内のプラズマプロセス条件を調整する目的で電力供給装置への入力信号を調整するステップをさらに含む。あるいは、または加えて、プラズマPVDプロセスを制御するための方法は、ターゲットまたはその近くでの少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する導出された情報に基づいて、プロセスチャンバ内へプロセスガスを導入するように構成されたガス供給デバイスへの入力信号および/または装置の磁場配置を調整する(調整可能な磁場の場合)磁場生成デバイスへの入力信号を調整するステップを含む。
【0051】
プラズマPVDプロセスを制御するための方法は、プラズマPVDプロセス中に、連続的に適切に実行することができる。これは、このような、プラズマプロセス条件を監視するための方法を実行するステップが、プラズマPVDプロセス中に、連続的に実行されることも示唆する。「連続的に」という用語はこの文脈において、プラズマPVDプロセス中に、中断することなく繰り返し実行されることを意味すると見なされる。
【0052】
図1は、本開示によるプラズマPVD装置1の例示的な一実施形態の側断面図を概略的に示す。この装置はたとえば工業用堆積システムとして使用することができる。この例示的な実施形態による装置1は高出力インパルスマグネトロンスパッタリングに使用することができる。
【0053】
装置1は真空チャンバの形態のプロセスチャンバ2を含む。プロセスチャンバ2はたとえば本質的に円筒形とすることができるが、これに限定されない。少なくとも1つのターゲット3がプロセスチャンバに配置される。ターゲットの形状はたとえば、平面矩形、円筒形、または中空円筒形とすることができるが、これらに限定されない。ターゲットからの材料のスパッタリング中、ターゲット3はカソードを構成する。ターゲット3はマグネトロン4に取り付けられる。マグネトロン4は通常、ターゲット3を電力供給装置10に電気的に接続することもできる。マグネトロン4は、ターゲットの冷却(普通は水冷)を可能にするための導管をさらに含むことができる。マグネトロン4は、プロセスチャンバ2の内部に面するターゲット3の側とは反対のターゲット3の側に配置される。マグネトロン4は、プロセスチャンバ2の内部に面するターゲット3の表面に磁場(図示せず)を生成する。この磁場はプラズマ内の電子のトラップとして機能する。
【0054】
装置1はアノードをさらに含み、これはたとえばアノードリングの形態またはそのための任意の他の以前から知られている構成とすることができる。あるいは、プロセスチャンバの壁がアノードとして機能することができる。
【0055】
この装置は、ターゲットとアノードとの間でプラズマ放電を生成するように構成された電力供給装置10をさらに含む。これによって、プロセスチャンバ2の内部に面するターゲットの表面の前にプラズマが生成される。堆積プロセス中に、プロセスガス(アルゴンのような)のイオンがプラズマ内で生成され、プラズマから引き出され、カソードシースを横切って加速される。ターゲットは、プラズマが形成される領域より低い電位を有するため、ターゲット表面はイオンを引き付ける。陽イオンは高速でターゲットに向かって移動し、次いでターゲットに衝突し、これによってターゲットからの原子が表面から物理的に除去またはスパッタされる。
【0056】
電力供給装置10は、パルス電力モードで動作するように構成することができる。これによって、電力供給装置は、活性放電がない期間によってそれぞれ分離される、多数の連続するパルス中にプラズマ放電を生成することになる。活性プラズマ放電がない期間中、プラズマは次の活性放電パルスまでフェードアウトし始めることになる。
【0057】
装置1は、たとえばコーティングを堆積させるべき1つまたは複数の基板7を保持するように構成された基板ホルダ6をさらに含むことができる。図において、3つの異なる基板7が示されている。基板ホルダは、堆積プロセス中に、固定または回転可能に配置することができる。基板ホルダが回転可能に配置されている場合、これは、3重の遊星回転のために構成されても、単に単一の回転軸を中心に回転可能であってもよい。装置1は、基板ホルダ6に接続されたバイアス供給デバイス8をさらに含むことができる。バイアス供給デバイス8は、堆積プロセス中に、基板7のそれぞれにバイアスを供給するように構成することができる。
【0058】
装置1はガス入口11をさらに含む。プロセスガス、たとえばアルゴンを、装置のガス供給デバイス12によってガス入口11を介して導入することができる。この装置は、所望であれば、1つまたは複数の追加のガス入口をさらに含むことができる。たとえば、この装置は、所望であれば、反応性ガスの導入を意図した補助ガス入口を含むことができる。この装置は、プロセスチャンバ2の外にガスを導くことが可能になるように構成された排気口13をさらに含む。
【0059】
装置1は、ターゲット3に振動電圧信号を印加するように構成された無線周波数発生器15をさらに含む。これによって、ターゲットに振動電位を提供することができる。無線周波数発生器15はプラズマ放電の生成に使用されるように意図されていないため、電力供給装置10と混同すべきでない。無線周波数発生器15は、単に装置内のプロセス条件を監視することを可能にする目的が意図されている。無線周波数発生器は、10Vから300Vのピークツーピーク振幅を有する振動電圧を印加するように構成することができる。無線周波数発生器は、100kHzから1MHzの周波数で振動電圧信号を印加するように構成することができる。装置1は、無線周波数発生器15によってターゲット3に印加された振動電圧信号からの応答を記録するように構成された無線周波数センサ16をさらに含む。
【0060】
装置1は、装置1の構成要素の1つまたは複数を制御するように構成された制御デバイス100をさらに含む。より具体的には、制御デバイスは、少なくとも無線周波数発生器15および無線周波数センサ16を制御するように構成することができる。制御デバイスは、電力供給装置10を制御するようにも適切に構成することができる。例として、制御デバイスは、電力供給装置によってターゲットに印加されるようなパルス幅、デューティサイクル、パルス周波数、および電圧を制御するように構成することができる。
【0061】
制御デバイス100は1つまたは複数の制御ユニットを含むことができる。制御デバイスが複数の制御ユニットを含む場合、各制御ユニットは特定の機能を制御するように構成することができ、または特定の機能を1より多くの制御ユニット間で分割することができる。
【0062】
本明細書に記載のような方法の実行は、プログラムされた命令によって支配することができる。これらのプログラムされた命令は通常、制御デバイス(制御デバイス100のような)においてまたはこれによって実行されると、制御デバイスに所望の形態の動作を行わせるコンピュータプログラムPの形態をとる。このような命令は通常コンピュータ可読媒体に格納することができる。
【0063】
図1に示す例示的な実施形態において説明されるような装置1は、HiPIMS用に意図されているが、プラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法は、HiPIMSプロセスにおいて実行されることに限定されないことが留意されるべきである。陰極アークまたはパルスDCマグネトロンスパッタリングのような、他のプラズマPVDプロセスにおいて、これを使用することもできる。
【0064】
図2は、本開示によるプラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法200の例示的な一実施形態を概略的に示すフローチャートを表す。プラズマPVDプロセスは、前述のような装置、たとえば
図1に示す装置1において実行される。方法200は、無線周波数発生器によってターゲットに振動電圧信号を印加するステップS201を含む。ステップS201は連続的に実行することができるが、この方法はこれに限定されない。ステップS201は、少なくともプロセス条件を決定したいとき、すなわちプロセスチャンバにプラズマが存在するときに実行される。換言すれば、ステップS201は、電力供給装置によってプラズマが生成されたときに実行される。
【0065】
方法200は、無線周波数発生器によって印加されるような印加された振動電圧信号からの応答を記録するステップS203をさらに含む。応答は無線周波数センサによって記録される。
【0066】
方法200は、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するステップS205をさらに含む。この情報は、ステップS203で無線周波数センサによって記録されたような応答に基づいて導出される。
【0067】
図3は、本開示によるプラズマPVDプロセスを制御するための方法300の例示的な一実施形態を概略的に示すフローチャートを表す。方法300は、
図2を参照して上述したような方法200を実行するステップS301を含む。方法300は任意選択で、装置内のプラズマプロセス条件を調整する目的で電力供給装置への入力パラメータを調整するための要望または必要性があるか否かを判断するステップS302をさらに含むことができる。ステップS302は、このような場合、ステップS301で導出された情報に基づいて実行されるであろう。ステップS302はたとえば、少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する導出された情報を、このプラズマプロセス条件の対応する基準範囲と比較することによって実行することができる。電力供給装置への入力パラメータを調整する必要がなければ、この方法はステップS301に戻ることができる。このプロセスは、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する導出された情報に基づいて、必要であれば装置内のプラズマプロセス条件を調整する目的で電力供給装置への入力信号を調整するステップS303をさらに含む。
【0068】
方法300はプラズマPVDプロセスの全期間、適切に繰り返すことができる。これによって、比較的安定したプラズマプロセス条件を得ることができ、これによりたとえばプロセスの結果の製品の品質が向上する。あるいは、方法300はたとえば、電力供給装置への入力パラメータを調整する必要性が予想されるときに実行することができる。
【0069】
次において、ターゲットにおけるまたはそのごく近傍における少なくとも1つのプラズマプロセス条件に関する情報を導出するための理論的考察を説明する。これらの理論的考察は、たとえばSezemskyら、Modified high frequency probe approach for diagnostics of highly reactive plasma、Plasma Sources Sci. Technol. 28, 115009 (2019)に記載されたものと同様であるが、プラズマ内へ挿入された別個のプローブではなくターゲットがプローブとして機能するという重要な違いがある。
【0070】
無線周波数発生器を使用してターゲットに振動電圧信号を印加し、印加された振動電圧信号からの応答を記録することによって、様々なプラズマプロセス条件を現場で決定することができる。異なる説明をすると、この方法は、同時に測定された高周波電流および電圧特性を使用してプラズマを特徴付けることができる手順を提供する。
【0071】
RFセンサによって応答を記録すること
最初のステップは、印加されたRF電圧信号Us(t)および結果のRF電流信号Is(t)を注意深く測定することである。これは、通常RF発生器とターゲットとの間に配置されるRFセンサを使用して実行される。結果のUs(t)およびIs(t)の波形はオシロスコープまたはコンピュータに記録することができる。RF電流信号はたとえば変流器によって測定することができ、電圧信号はたとえば、RFセンサの内側に配置される容量プローブを使用して測定することができる。このような解決策の詳細は、上記のSezemskyらによって説明されている。RFセンサは好ましくは、たとえば100kHzから3MHzの広い周波数範囲で較正すべきである。較正は、周波数に依存しない抵抗を使用して実行することができ、結果、電圧および電流振幅および位相補正係数が得られる。Us(t)およびIs(t)の波形の正しい測定値は、測定された信号の離散フーリエ変換(DFT)を使用して得ることができ、DFTスペクトルは、振幅および位相補正係数に続く逆DFT変換で補正される。
【0072】
イオンフラックスおよびプラズマシースインピーダンス
Us(t)およびIs(t)の上述の較正された測定値を使用してUs(t)とIs(t)との間の相対位相φs(t)を決定することができる。これらの値を使用して、ターゲットに向かうイオンフラックスおよびターゲットでのプラズマシースインピーダンスを次のように推定することができる。
【0073】
ターゲットに印加されるRF電圧信号は、ターゲット表面から電子のほとんどを反発させるように十分に高い振幅(通常10V超)を有するべきである。Us(t)の振幅が少なくとも
【0074】
【0075】
≒-35Vのとき、たとえば典型的なHiPIMSプロセスにおいて測定されたIs(t)への電子の寄与はゼロに近いと想定される。したがって、HiPIMSプロセスの場合、少なくとも約70Vのピークツーピーク振幅を有利に使用することができる。(ここで、他のプラズマPVDプロセスの場合、ゼロに近い電子の寄与を依然として達成しながら、ピークツーピーク振幅のより低い値が可能であり得ることが留意されるべきである。)したがって、
【0076】
【0077】
で測定された総電流は、ターゲットへの正イオン電流のみに起因する。ターゲット表面へのイオンフラックスΓiは、同時に測定されたUs(t)がその最小値に達する、すなわち
【0078】
【0079】
である時点でプラズマ露出ターゲット表面Aによって除算されたIs(t)に等しい。
【0080】
プラズマシースインピーダンスは、シースに電圧がかかっているとき、シースを流れる電流の測定値を特徴付ける。プラズマ内で測定されるインピーダンスは一般に、これらの放電の容量性および誘導性挙動のため、複雑な量である。たとえばHiPIMSにおける場合である、高密度プラズマでは、プラズマインピーダンスはシースのインピーダンスと比較して無視できることに留意されたい。総プラズマシースインピーダンスZpl(t)の実および虚部(リアクタンス)、それぞれ、
【0081】
【0082】
および
【0083】
【0084】
は次のように推定することができる。
【0085】
【0086】
【0087】
ここで
【0088】
【0089】
である。
【0090】
ここで
【0091】
【0092】
および
【0093】
【0094】
は、それぞれ、測定されたRFプローブ電圧および電流のピーク値を表し、TはRFプローブ信号の期間である。
【0095】
記録された信号はプラズマシースインピーダンスZpl(t)のみによってではなく、ターゲット自体のインピーダンスおよびターゲットとRFセンサユニットとの間の給電線によっても与えられるということを理解することが重要である。このバックグラウンドインピーダンスは容量特性を有し、記録されたRF電流信号Is(t)に変位電流が追加されるという結果になる。したがって、正しいプラズマシースインピーダンスを得るため、同じセットアップを使用して、しかしプラズマなしで、バックグラウンドインピーダンスを測定し、計算されたインピーダンスZs(t)から差し引くべきである。
【0096】
電子(プラズマ)密度および電子温度
またターゲットに印加されるRF電圧信号が十分に高い振幅(通常10V超)を有する限り、Us(t)およびIs(t)の同じ測定値を使用して電子(プラズマ)密度および電子温度を推定することもできる。この方法は、ラングミュアプローブ診断中に高周波電圧スイープが使用された、たとえばMullerら、Towards Fast Measurement of the Electron Temperature in the SOL of ASDEX Upgrade Using Swept Langmuir Probes、Contrib. Plasma Phys. 50, 847 (2010)によって詳細に説明されたアプローチを利用する。この場合、この方法は、RF電流/電圧センサによって測定されたデータをラングミュア様電流電圧特性に変換することに基づいており、RF電圧Us(t)の各期間は、前方および後方部分を備えたスイープラングミュアプローブ電圧と同様であると見なされる。ここでも、測定された電流信号Is(t)から上述の変位電流を差し引いて総電流Itot(t)を得るべきである。しかしながら、総電流は差動シースキャパシタンスによる小さな容量性電流を依然として含み、その結果、順または逆方向に行く電圧スイープに応じてItot(t)に差が生じる。所望のラングミュア様電流Ip(t)はこれによって、総電流から容量性電流を差し引くことによって得られる。このような解決策の詳細がSezemskyらによって説明されている。このように、Ip(t)をUs(t)の関数としてプロットすることができ、この特性をラングミュアプローブデータと同様の方法でさらに処理することができる。たとえば、電子温度Te(eVの単位の)は、片対数プロットにおける浮遊電位でのIp(t)-Us(t)特性における電子電流の一次導関数から決定することができる。電子温度が分かると、電子(プラズマ)密度neはボーム基準にしたがって推定することができる。
【0097】
【0098】
ここで、ji0はイオン電流密度、すなわちIp(t)-Us(t)特性のイオン電流部分を外挿することによって得られる、浮動電位での、プラズマ露出ターゲット表面Aによって除算された記録されたイオン電流である。他の量は次のとおり、すなわち、qeは素電荷、Miはイオン質量、kBはボルツマン定数、およびTeはケルビンでの電子温度である。
【0099】
上の理論的考察を要約すると、ターゲットへのイオンフラックスは、無線周波数センサが高周波電圧Us(t)および電流Is(t)の振幅を記録することによって得ることができる。さらに、Us(t)およびIs(t)の完全な波形を記録することによって、プラズマシースインピーダンス、電子温度および電子(プラズマ)密度に関する情報も得ることが可能である。
【0100】
本開示によるプラズマPVDプロセスにおけるプロセス条件を監視するための方法の開示から明らかなように、この方法は、たとえば装置内へ専用のプローブを挿入する代わりにターゲットをプローブとして利用する。無線周波数発生器によって印加される、印加された振動電圧から記録される応答は、またターゲットに接続されている電力供給装置によって供給される電力から分離する必要があるため、ターゲットをプローブとして利用することは簡単ではない。これはたとえば、活性プラズマ放電がないときのみ応答を記録することによって、たとえば活性放電パルス間の時間に応答を記録することによって、またはプラズマPVDプロセスの一時的な短い中断によって行うことができる。しかしながら、電力供給装置によって作成されるノイズから応答を適切に分離することができれば、活性プラズマ放電中に応答を記録することも可能である。
【0101】
また、無線周波数発生器はまた、電力供給装置によって供給される電力から保護されなければならず、電力供給装置によって供給される電力が、無線周波数発生器において失われるのではなく、意図されたプラズマ放電を作成するために利用されることが保証されるべきである。これは様々な方法で達成することができ、その一例が高出力インパルスマグネトロンスパッタリング装置について
図4に示されている。より具体的には、
図4は、電力供給装置、無線周波数発生器および無線周波数センサをHiPIMS装置内でどのように接続することができるかの一例を概略的に示す。
【0102】
図4に示すように、HiPIMS電力供給装置10’がマグネトロン4に接続されている。HiPIMS電力供給装置をマグネトロンと接続するケーブルは寄生容量C1を有する。無線周波数発生器15をHiPIMS電力供給から保護するため、無線周波数発生器15はコンデンサC2を介してマグネトロン4に接続されている。無線周波数センサ16(
図1参照)は高周波電圧プローブ16aおよび電流プローブ16bを含む。無線周波数センサ16のこれらのプローブ16aおよび16bはそれぞれ、高周波電圧および電流信号を検出する。プローブ16aは、ターゲット電圧を測定するときに使用することができる第1の感知抵抗器R1を含む。プローブ16bは、誘導されたターゲット電流を電圧降下として測定することができる第2の感知抵抗器R2を含む。無線周波数センサ16のプローブ16aおよび16bからの信号は、データのさらなる処理のため、たとえばデジタルオシロスコープ20に導かれる。デジタルオシロスコープ20は制御デバイス100に接続することができる。制御デバイス100はHiPIMS電力供給装置10’にさらに接続することができる。
【0103】
実験
ターボ分子ポンプによって10-4Paを下回るベース圧力まで排気された特注の真空チャンバですべての実験を行った。システムにはLesker Torus 2HVマグネトロンを装備した。マグネトロン上へ固定された直径50mmおよび厚さ1.8mmのターゲットから鉄(純度99.9%)をスパッタした。アルゴン(純度99.999%)を作動ガスとして使用し、1.0Paの圧力で一定に保持した。1つの実験(以下のケース2)において、酸素ガス(純度99.995%)をマスフローコントローラおよび分離ガス入口を通してチャンバ内へ導入した。
【0104】
実験で使用したHiPIMS電力供給は、M. Cada、Z. Hubicka、P. Adamek、J. Kluson、およびL Jastrabik、Surf. Coatings Technol. 205, S317 (2011)に記載のような構成を有した。放電電圧を変化させることによって250Wの時間平均放電電力をすべての実験で一定に保った。パルスオン時間およびパルス周波数をそれぞれ、100μsおよび100Hzに固定した。
【0105】
ターゲットでのプラズマシースインピーダンス、ターゲットに向かうイオンフラックスならびにターゲットでの電子(プラズマ)密度および電子温度を測定するための実験装置は、
図4を参照して前述したとおりであった。ファンクションジェネレータ、Agilent 33220Aに接続された固定ゲインのTabor Electronics 9100高電圧広帯域増幅器によってターゲットRF電圧を提供した。ファンクションジェネレータは正弦波の350kHzの信号を送達するように設定した。増幅後、信号はターゲット上で
【0106】
【0107】
≒70Vのピークツーピーク値を有した。ターゲット電圧および電流はAgilent InfiniiVision DSO7104Bオシロスコープ上で監視した。
【0108】
HiPIMSプロセスにおいてRF電圧信号を重畳したときのターゲット電圧および電流特性の一例をそれぞれ、
図5aおよび
図5bに示す。
図5aおよび
図5bにおいて、RF電圧信号を全時間中連続的に印加したが、これは、HiPIMS放電パルス中ならびに連続する放電パルス間の両方でいかなる中断もなくこれが存在することを意味する。
図5aおよび
図5bに見られるように、HiPIMS放電パルスはt=0で開始され、t=100μsで終了している。
【0109】
結果
ケース1:追加の酸素がない鉄の非反応性スパッタリング
いかなる酸素ガスの導入なく、上述の実験装置を使用して26sccmの流量で純粋なアルゴン作動ガス中で鉄ターゲットをスパッタした。100μsの長さのHiPIMS放電パルスの開始後t=134μsの時点で、理論的な考察の下で上述したように、次のプラズマパラメータを抽出した。
【0110】
ターゲットに向かうイオンフラックスΓi:2.27・10-3A.cm-2
ターゲットでのプラズマシースインピーダンス:ReZ=229Ω、ImZ=212Ω
電子温度:4.45eV
電子密度:1.28・1016m-3
【0111】
ケース2:酸素での鉄の反応性スパッタリング
上述の実験装置を使用してアルゴン(流量26sccm)と酸素(流量2sccm)の作動ガス混合物中で鉄ターゲットをスパッタした。100μsの長さのHiPIMS放電パルスの開始後t=134μsの時点で、理論的な考察の下で上述したように、次のプラズマパラメータを抽出した。
【0112】
ターゲットに向かうイオンフラックスΓi:4.47・10-3A.cm-2
ターゲットでのプラズマシースインピーダンス:ReZ=188Ω、ImZ=256Ω
電子温度:3.3eV
電子密度:2.96・1016m-3
【0113】
議論
上に提示した実験結果から、2つの調査したケースの間で観察された相違点および類似点のいくつかをここで議論する。
【0114】
総イオンフラックスは、イオン化された作動ガスならびにイオン化されたスパッタ材料からなる。これらが一緒になった結果、プラズマ残光内で数mA.cm-2のターゲットへのイオンフラックスになる(t=134μs、すなわち、HiPIMS放電パルスの34μs後)。これは、D. Lundinら、Time-resolved ion flux and impedance measurements for process characterization in reactive high-power impulse magnetron sputtering、Journal of Vacuum Science & Technology A 34, 041305 (2016)によるほぼ同じ時点での典型的な基板位置におけるイオンフラックス測定値とよく一致している。上述の実験結果において、反応性の場合におけるイオンフラックスは非反応性(純粋なアルゴン)の場合におけるイオンフラックスのほぼ2倍であることが分かり、これは、同じ傾向を示す測定された電子密度ともよく相関する。イオンフラックスおよび電子密度に関する結果は放電電流密度と相関しており、これは、作動ガスに酸素を追加したとき、HiPIMSパルスの終わりで高くなった。
【0115】
測定された電子温度は数eVの範囲にあり、これは、理論的考察で説明したのと同じ分析方法を使用した、Sezemskyら、Modified high frequency probe approach for diagnostics of highly reactive plasma, Plasma Sources Sci. Technol. 28, 115009 (2019)によるプローブ測定値とよく一致している。
【0116】
文献におけるデータの欠如のため、ターゲットでのプラズマシースインピーダンスのいかなる直接の比較も行うことが困難である。しかしながら、D. Lundinら、Time-resolved ion flux and impedance measurements for process characterization in reactive high-power impulse magnetron sputtering、Journal of Vacuum Science & Technology A 34、041305 (2016)による典型的な基板位置におけるプラズマシースインピーダンス測定値は、ほぼ同じ時点でここに報告されたターゲット値と比較してImZ(リアクタンス)が約8倍高いことを示している。基板位置におけるより高いリアクタンスは、ターゲットの近傍でのより高密度のプラズマ領域と比較して基板位置におけるより低い残留プラズマ密度に関連している可能性がある。
【0117】
高周波電力
無線周波数発生器によってターゲットに振動電圧信号を印加した結果として生成される電力と、本開示による方法の実施中に電力供給装置によって生成される電力との間の差を示す目的で、印加された振動電圧信号がターゲット上で
【0118】
【0119】
≒60Vのピークツーピーク値を有したことを除いて本質的に上述の実験結果にしたがって試験を行った。
【0120】
図6aは経時的なターゲット電圧を示し、
図6bは経時的なターゲット電流を示す。
図6cは経時的なターゲット電力を示す。
図6a~
図6cのすべてにおいて、HIPIMSパルスはt=100μsで終了した。
【0121】
図6aに見られるように、印加された振動電圧は、HiPIMSパルスが終了した数マイクロ秒後に明らかになる。
図6cに見られるように、ターゲットでの電力はまず振動電圧の振幅が増加した結果として増加する。さらに、無線周波数発生器による振動電圧信号の印加から生じるターゲットの最大電力は2Wであり、約t=130μsで発生した。その後、電力は減少し、約t=180μsの後(プラズマ放電がフェードアウトしたとき)、電力は約0.3Wでほぼ一定である。これは、印加された振動電圧の振幅が本質的に一定であるが、電流の振幅が減少した結果である。
図6cに示す電力は、HiPIMS電力供給装置の250Wの時間平均放電電力と比較することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 プラズマPVD装置
2 プロセスチャンバ
3 ターゲット
4 マグネトロン
6 基板ホルダ
7 基板
8 バイアス供給デバイス
10 電力供給装置
10’ HiPIMS電力供給装置
11 ガス入口
12 ガス供給デバイス
13 排気口
15 無線周波数発生器
16 無線周波数センサ
16a 高周波電圧プローブ
16b 電流プローブ
20 デジタルオシロスコープ
100 制御デバイス
C1 寄生容量
C2 コンデンサ
P コンピュータプログラム
200 方法
300 方法