(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用分離膜、その製造方法及びそれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/443 20210101AFI20240802BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240802BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240802BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240802BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240802BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240802BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20240802BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20240802BHJP
【FI】
H01M50/443 B
H01M50/446
H01M50/443 M
H01M50/451
H01M50/489
H01M50/434
H01M50/403 D
H01M50/46
H01M50/443 E
H01M50/457
(21)【出願番号】P 2022568471
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2021013399
(87)【国際公開番号】W WO2022071775
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0127233
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0127237
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヘ-ジン・クォン
(72)【発明者】
【氏名】キュン-リュン・カ
(72)【発明者】
【氏名】スン-ヒュン・イ
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-072150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性高分子基材と、
前記多孔性高分子基材の少なくとも一側表面に形成され、無機物粒子、粒子型バインダー高分子及び分散剤を含む多孔性コーティング層と、を備え、
前記分散剤は、カルボキシ基とグリコール基とを含み、
前記多孔性コーティング層が、厚さ方向に上層、中層、及び下層に区分される時、
前記上層は、前記多孔性コーティング層を厚さ方向にn等分した時、最外郭層であり、
前記下層は、前記多孔性コーティング層を厚さ方向にn等分した時、前記多孔性高分子基材と対面する層であり、
前記中層は、前記多孔性コーティング層で前記上層と下層とを除いた残りの層であり、
前記nは、3~10のうち何れか1つの整数であり、
前記上層内の粒子型バインダー高分子の含量は、前記下層内の粒子型バインダー高分子の含量よりも大きなことを特徴とする、リチウム二次電池用分離膜。
【請求項2】
前記粒子型バインダー高分子の含量が、前記多孔性コーティング層の厚さ方向基準に下層から上層に行くほど増加する濃度勾配を有し、
前記無機物粒子の含量が、前記多孔性コーティング層の厚さ方向基準に上層から下層に行くほど増加する濃度勾配を有することを特徴とする、請求項
1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項3】
前記多孔性コーティング層において、前記中層は、前記粒子型バインダー高分子が漸進的な濃度勾配を有するか、または特異的な濃度勾配がないことを特徴とする、請求項
1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項4】
前記無機物粒子と前記分散剤との重量比は、99.5:0.5~95:5であることを特徴とする、請求項1から
3の何れか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項5】
前記粒子型バインダー
高分子の含量は、多孔性コーティング層100重量部を基準に10~50重量部であることを特徴とする、請求項1から
4の何れか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項6】
前記分散剤は、グリコール基の当量数/カルボキ
シ基の当量数の値が0.05~0.2
5であることを特徴とする、請求項1から
5の何れか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項7】
前記分散剤の重量平均分子量は、100~10,000であることを特徴とする、請求項1から
6の何れか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項8】
前記分散剤は、ポリアクリル酸及びポリエチレングリコールの共重合体であることを特徴とする、請求項1から
7の何れか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項9】
前記分散剤は、ポリアクリル酸とポリエチレングリコールとのブロック共重合体であることを特徴とする、請求項
8に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項10】
前記多孔性コーティング層の厚さは、2~10μmであることを特徴とする、請求項1から
9の何れか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項11】
前記無機物粒子は、板状型無機物粒子であることを特徴とする、請求項1から
10の何れか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項12】
前記板状型無機物粒子は、アスペクト比が3.5以上であることを特徴とする、請求項
11に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項13】
前記板状型無機物粒子は、Al(OH)
3、AlO(OH)、Mg(OH)
2、BaTiO
3またはこれらのうち1以上を含むことを特徴とする、請求項
11または
12に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項14】
請求項1に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法であって、
多孔性高分子基材の少なくとも一側表面に溶媒、無機物粒子、粒子型バインダー高分子及び分散剤を含む多孔性コーティング層形成用スラリーを塗布及び乾燥する段階を含み、
前記多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度は、200cP以下であり、
前記多孔性コーティング層形成用スラリー内の固形分の含量は、前記スラリー100重量部を基準に10~40重量部であることを特徴とする、分離膜の製造方法。
【請求項15】
前記溶媒は、水であり、
前記
粒子型バインダー高分子は、溶媒に分散されている粒子状であり、
前記乾燥段階で相分離が行われることを特徴とする、請求項
14に記載の分離膜の製造方法。
【請求項16】
前記分離膜は、
下記3つの式を満足することを特徴とする、請求項
14または
15に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法:
通気時間増加率≦100%
、
電極接着力≧70gf/25mm、
多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度≦20cP。
(この際、通気時間増加
率は、下記式で定義さ
れる。
通気時間増加率(%)=[(
分離膜の通気時間-
多孔性高分子基材の通気時間)/(多孔性高分子基材の通気時間)]×10
0
【請求項17】
正極、負極及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含み、
前記分離膜は、請求項1から
13のうち何れか一項に記載のものである、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などの電気化学素子に用いられる分離膜、その製造方法及びそれを含むリチウム二次電池に関する。
【0002】
本願は、2020年9月29日付の韓国特許出願番号第10-2020-0127233号及び2020年9月29日付の韓国特許出願番号第10-2020-0127237号に対する優先権主張出願であって、当該出願の明細書及び図面に開示されたあらゆる内容は、引用によって本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
最近、エネルギー貯蔵技術についての関心がさらに高まっている。携帯電話、カムコーダ及びノート型パソコン、さらには、電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡大されつつ、電気化学素子の研究と開発とについての努力が次第に具体化されている。
【0004】
電気化学素子は、このような側面において、最も注目されている分野であり、その中でも、充電・放電が可能な二次電池の開発は、関心の焦点となっており、最近、このような電池を開発するに当って、容量密度及び比エネルギーを向上させるために、新たな電極と電池との設計についての研究開発が進められている。
【0005】
現在、適用されている二次電池のうち、1990年代初めに開発されたリチウム二次電池は、水溶液の電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池などの従来式電池に比べて、作動電圧が高く、エネルギー密度が格段に大きいという長所を有することから脚光を浴びている。
【0006】
リチウム二次電池などの電気化学素子は、多くの会社で生産されているが、それらの安全性特性は、それぞれ異なる態様を示す。このような電気化学素子の安全性の評価及び安全性の確保は、非常に重要である。例として、分離膜は、正極と負極との短絡を防止し、それと同時にリチウムイオンの移動通路を提供する。これにより、分離膜は、電池の安全性及び出力特性に影響を及ぼす重要な因子である。
【0007】
このような分離膜は、ポリオレフィン系多孔性高分子基材を主に使用するが、多孔性高分子基材の熱収縮を防止し、電極との接着力を高めるために、多孔性高分子基材の少なくとも一面上に無機物粒子及びバインダー高分子を含んだ多孔性コーティング層を備えた分離膜を主に使用する。
【0008】
このような多孔性コーティング層は、水系溶媒を利用した水系コーティング分離膜と有機系溶媒を利用した油系コーティング分離膜とに大きく分けることができる。そのうち、水系コーティング分離膜は、均一な薄膜コーティングが可能であり、耐熱性に優れている。
【0009】
しかし、依然として多孔性コーティング層内の気孔度を高く保持すると共に、電極との接着力(Lami Strength)が高くなった分離膜が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、水系コーティング分離膜において、耐熱性に優れ、多孔性コーティング層の気孔度が高く、同時に電極との接着力が向上した分離膜、その製造方法及びそれを含むリチウム二次電池を提供するところにある。
【0011】
但し、本発明が解決しようとする技術的課題は、前述した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、下記に記載の発明の説明から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面は、下記の具現例によるリチウム二次電池用分離膜、その製造方法、それを含むリチウム二次電池を提供する。
【0013】
第1具現例は、多孔性高分子基材;及び前記多孔性高分子基材の少なくとも一側表面に形成され、無機物粒子、粒子型バインダー高分子及び分散剤を含む多孔性コーティング層;を備え、前記分散剤は、カルボキシ基とグリコール基とを含み、前記多孔性コーティング層が、厚さ方向に上層、中層、及び下層に区分される時、前記上層内の粒子型バインダー高分子の含量は、前記下層内の粒子型バインダー高分子の含量よりも大きなことを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0014】
第2具現例は、第1具現例において、前記上層は、前記多孔性コーティング層を厚さ方向にn等分した時、最外郭層であり、前記下層は、前記多孔性コーティング層を厚さ方向にn等分した時、前記多孔性高分子基材と対面する層であり、前記中層は、前記多孔性コーティング層で前記上層と下層とを除いた残りの層であり、前記nは、3~10のうち何れか1つの整数であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0015】
第3具現例は、第1または第2具現例において、前記粒子型バインダー高分子の含量が、前記多孔性コーティング層の厚さ方向基準に下層から上層に行くほど増加する濃度勾配(gradient)を有し、前記無機物粒子の含量が、前記多孔性コーティング層の厚さ方向基準に上層から下層に行くほど増加する濃度勾配を有することを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0016】
第4具現例は、第1ないし第3具現例のうち何れか一具現例において、前記多孔性コーティング層において、前記中層は、前記粒子型バインダー高分子が漸進的な濃度勾配を有するか、または特異的な濃度勾配がないことを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0017】
第5具現例は、第1ないし第4具現例のうち何れか一具現例において、前記無機物粒子と前記分散剤との重量比は、99.5:0.5~95:5であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0018】
第6具現例は、第1ないし第5具現例のうち何れか一具現例において、前記粒子型バインダーの含量は、多孔性コーティング層100重量部を基準に10~50重量部であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0019】
第7具現例は、第1ないし第6具現例のうち何れか一具現例において、前記分散剤は、グリコール基の当量数/カルボキシル基の当量数の値が0.05~0.25であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0020】
第8具現例は、第1ないし第7具現例のうち何れか一具現例において、前記分散剤の重量平均分子量は、100~10,000であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0021】
第9具現例は、第1ないし第8具現例のうち何れか一具現例において、前記分散剤は、ポリアクリル酸及びポリエチレングリコールの共重合体であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0022】
第10具現例は、第9具現例において、前記分散剤は、ポリアクリル酸とポリエチレングリコールとのブロック共重合体であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0023】
第11具現例は、第1ないし第10具現例のうち何れか一具現例において、前記多孔性コーティング層の厚さは、2~10μmであることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0024】
第12具現例は、第1ないし第11具現例のうち何れか一具現例において、前記無機物粒子は、板状型無機物粒子であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0025】
第13具現例は、第12具現例において、前記板状型無機物粒子は、アスペクト比(aspect ratio)が3.5以上であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0026】
第14具現例は、第12具現例において、前記板状型無機物粒子は、Al(OH)3、AlO(OH)、Mg(OH)2、BaTiO3またはこれらのうち1以上を含むことを特徴とするリチウム二次電池用分離膜に関するものである。
【0027】
第15具現例は、第1具現例ないし第14具現例のうち何れか一具現例による分離膜の製造方法において、多孔性高分子基材の少なくとも一側表面に溶媒、無機物粒子、粒子型バインダー高分子及び分散剤を含む多孔性コーティング層形成用スラリーを塗布及び乾燥する段階を含み、前記多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度は、200cP以下であり、前記多孔性コーティング層形成用スラリー内の固形分の含量は、前記スラリー100重量部を基準に10~40重量部であることを特徴とする分離膜の製造方法に関するものである。
【0028】
第16具現例は、第15具現例において、前記溶媒は、水であり、前記バインダー高分子は、溶媒に分散されている粒子状であり、前記乾燥段階で相分離が行われることを特徴とする分離膜の製造方法に関するものである。
【0029】
第17具現例は、第15具現例または第16具現例において、前記分離膜は、下記式のうち少なくとも3つ以上を満足することを特徴とするリチウム二次電池用分離膜の製造方法に関するものである:
通気時間増加率≦100%、
熱収縮率≦10%、
電極接着力≧70gf/25mm、
多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度≦20cP。
(この際、通気時間増加率と熱収縮率は、下記式で定義され、熱収縮率は、横方向(TD)熱収縮率と縦方向(MD)熱収縮率とのうち小さな値で算定する。
通気時間増加率(%)=[(多孔性高分子基材の通気時間-分離膜の通気時間)/(多孔性高分子基材の通気時間)]×100、
熱収縮率(%)=[(最初長さ-150℃/分間熱収縮処理後の長さ)/(最初長さ)]×100)
【0030】
本発明の他の一側面は、下記の具現例によるリチウム二次電池を提供する。
【0031】
第18具現例は、正極、負極及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含み、前記分離膜は、第1具現例ないし第14具現例のうち何れか一具現例に記載のものであるリチウム二次電池に関するものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の一実施例によれば、所定の特性を有する分散剤を使用することにより、分離膜の耐熱性を向上させながらも、同時に分離膜と電極との接着力が改善された分離膜及びそれを含むリチウム二次電池を提供することができる。
【0033】
具体的に、本発明の一実施例では、所定の特性を有する分散剤を使用して、多孔性コーティング層形成用スラリー内で無機物粒子と粒子型バインダー高分子との層分離を誘導する。これにより、多孔性高分子基材と近い多孔性コーティング層は、無機物粒子が多く(inorganic-rich)、多孔性コーティング層の最外郭部分は、粒子型バインダー高分子が多い(binder-rich)分離膜を提供することができる。
【0034】
このように、多孔性高分子基材側に無機物粒子が相対的に多く分布することにより、多孔性高分子基材の収縮を抑えて、結果として分離膜の耐熱性を高めうる。
【0035】
一方、多孔性コーティング層の表面側は、粒子型バインダー高分子が相対的に多く分布することにより、電極との接着力を向上させうる。
【0036】
また、本発明の具体的な一実施例によれば、本発明の分離膜に所定の特性を有する板状型無機物粒子を使用することにより、多孔性コーティング層の気孔度を高めうる。特に、本発明の一実施例では、低粘度の多孔性コーティング層形成用スラリーを多孔性高分子基材上に塗布するが、このような低粘度スラリーを利用すれば、塗布された板状型無機物粒子のパッキング密度が低くなって、スラリー内の溶媒を乾燥させる場合、板状型無機物粒子の移動度(migration)が高くなる。結果として多孔性コーティング層内で前記板状型無機物粒子がさらに不規則に配列されて、多孔性コーティング層の気孔度を高めうる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施例を例示したものであり、前述した発明の内容と共に本発明の技術思想をさらによく理解させる役割を行うものなので、本発明は、そのような図面に記載の事項のみに限定されて解釈されるものではない。一方、本明細書に収録された図面での要素の形状、サイズ、縮尺または比率などは、より明確な説明を強調するために誇張される。
【0038】
【
図1】本発明の実施例1による分離膜のSEM写真を示した図面である。
【
図2】本発明の比較例1による分離膜のSEM写真を示した図面である。
【
図3】本発明の比較例2による分離膜のSEM写真を示した図面である。
【
図4】本発明の分離膜の断面を概略的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の具現例を詳しく説明する。これに先立って、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は、通常の、または辞書的な意味として限定して解釈されてはならず、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義できるという原則を踏まえて、本発明の技術的思想に符合する意味と概念として解釈されなければならない。したがって、本明細書に記載の実施例に記載の構成は、本発明の最も望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をいずれも代弁するものではないので、本出願時点において、これらを代替しうる多様な均等物と変形例とがあるということを理解しなければならない。
【0040】
本願の明細書の全体において、ある部分が、ある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対となる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含みうることを意味する。
【0041】
本願の明細書の全体において、「A及び/またはB」の記載は、「AまたはBまたはこれらの全部」を意味する。
【0042】
繋がる詳細な説明で使われた特定の用語は、便宜のためのものであり、制限的なものではない。「右」、「左」の単語は、参照がなされた図面での方向を示す。このような用語は、前記で列挙された単語、その派生語及び類似した意味の単語を含む。
【0043】
リチウム二次電池などの電気化学素子において、分離膜は、多孔性の高分子基材を通常使うので、熱収縮挙動を示す問題がある。これにより、分離膜の熱収縮率を下げるために、多孔性コーティング層が導入された。
【0044】
このような分離膜は、多孔性コーティング層内に含有された無機物粒子を通じて耐熱性を確保することができるが、現在、開発されている電極組立体のエネルギー密度がさらに高くなるにつれて、分離膜も追加的な安全性の確保が要求される。
【0045】
特に、別途の接着層を備えずとも、電極との接着力が高い水系多孔性コーティング層の場合にも、電極との接着力を高めながら耐熱性を改善しようとする試みがある。
【0046】
本発明者らは、前述した問題を解決するために、所定の特性を有する分散剤を使用して、多孔性コーティング層形成用スラリー内で無機物粒子と粒子型バインダー高分子との層分離を誘導する。これにより、多孔性高分子基材と近い多孔性コーティング層は、無機物粒子が多く、多孔性コーティング層の最外郭部分は、粒子型バインダー高分子が多い分離膜の提供を図る。
【0047】
このように、多孔性高分子基材側に無機物粒子が相対的に多く分布することにより、多孔性高分子基材の収縮を抑えて、結果として分離膜の耐熱性を高めうる。
【0048】
一方、多孔性コーティング層の表面側は、粒子型バインダー高分子が相対的に多く分布することにより、電極との接着力を向上させうる。
【0049】
本発明の一側面によるリチウム二次電池用分離膜は、多孔性高分子基材;及び前記多孔性高分子基材の少なくとも一側表面に形成され、無機物粒子、粒子型バインダー高分子及び分散剤を含む多孔性コーティング層;を備え、前記分散剤は、カルボキシ基とグリコール基とを含み、前記多孔性コーティング層は、上層、中層、及び下層に区分される時、前記上層内の粒子型バインダー高分子の含量は、前記下層内の粒子型バインダー高分子の含量よりも大きなことを特徴とする。
【0050】
以下、具体的に、本発明の一側面によるリチウム二次電池用分離膜を説明する。
【0051】
本発明の一側面によるリチウム二次電池用分離膜は、多孔性コーティング層内に無機物粒子、粒子型バインダー高分子及び所定の特性を有する分散剤を含む。
【0052】
前記分散剤は、官能基としてカルボキシ基とグリコール基とを含むものである。
【0053】
前記カルボキシ基は、無機物粒子を効果的に分散させることができ、前記グリコール基は、多孔性コーティング層形成用スラリーの表面張力を下げ、多孔性コーティング層の気孔を容易に形成することができ、また、スラリーの粘度を下げることができる。もし、カルボキシ基またはグリコール基のうち何れか1つの官能基を含まない場合、多孔性コーティング層の形成が難しいか、接着力及び熱収縮面で劣った物性を示す。
【0054】
このような分散剤を無機物粒子、粒子型バインダー高分子と共に投入する場合、前記分散剤が多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度を下げて、粒子型バインダー高分子と無機物粒子との密度差を極大化することができる。これにより、多孔性高分子基材と近い多孔性コーティング層は、無機物粒子が多く、多孔性コーティング層の最外郭部分は、粒子型バインダー高分子が多い分離膜を提供することができる。
【0055】
もし、粒子型バインダーではない溶解型バインダーを無機物粒子と共に投入する場合、多孔性基材と近い多孔性コーティング層部分に溶解型バインダーが存在する。これにより、粒子型バインダーを投入する場合とは異なって、溶解型バインダーを投入する場合、電極接着力を確保しにくい。
【0056】
本発明の具体的な一実施形態において、前記分散剤は、ポリアクリル酸及びポリエチレングリコールの共重合体である。より具体的に、前記分散剤は、ポリアクリル酸とポリエチレングリコールとのブロック共重合体である。
【0057】
本発明の具体的な一実施形態において、前記分散剤は、カルボキシル基の当量数に対するグリコール基の当量数の比率(グリコール基の当量数/カルボキシル基の当量数)が0.05~0.25である。本発明で使用する分散剤は、無機物粒子を分散させるためのものであって、カルボキシル基の含量が80%以上である。
【0058】
本発明の具体的な一実施形態において、前記分散剤の重量平均分子量は、100以上、200以上または300以上であり、10,000以下、9,000以下、または8,000以下である。例えば、耐熱性及び接着性を確保しながらも、工程性が確保されるという側面において、100~10,000である。
【0059】
この際、分散剤の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:gel permeation chromatography、PL GPC220、Agilent Technologies)を用いて測定することができる。
【0060】
具体的に、下記の分析条件下で測定することができる:
-カラム:PL MiniMixed Bx2
-溶媒:DMF
-流速:0.3ml/min
-試料濃度:2.0mg/ml
-注入量:10μl
-カラム温度:40℃
-検出器:アジレント製 RI検出器
-標準:ポリスチレン(3次関数で補正)
-データ処理:ChemStation
【0061】
本発明の具体的な一実施形態において、前記無機物粒子と前記分散剤との重量比は、99.5:0.5~95:5である。
【0062】
本発明において、前記無機物粒子は、電気化学的に安定すれば、特に制限されない。すなわち、本発明で使用することができる無機物粒子は、適用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li+基準に0~5V)で酸化及び/または還元反応が起こらないものであれば、特に制限されない。特に、無機物粒子として誘電率が高い無機物粒子を使用する場合、液体電解質内の電解質塩、例えば、リチウム塩の解離度の増加に寄与して電解液のイオン伝導度を向上させうる。
【0063】
前述した理由によって、前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上である無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、またはこれらの混合物である。
【0064】
前記誘電率定数が5以上である無機物粒子は、Al2O3、SiO2、ZrO2、AlO(OH)、Al(OH)3、TiO2、Mg(OH)2、BaTiO3、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT、ここで、0<x<1)、Pb1-xLaxZr1-yTiyO3(PLZT、ここで、0<x<1、0<y<1である)、(1-x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-xPbTiO3(PMN-PT、ここで、0<x<1)、ハフニア(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、SiCまたはこれらのうち2以上の混合物である。
【0065】
前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子は、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムチタン(LixTiy(PO4)3、0<x<2、0<y<3)、リン酸リチウムアルミニウムチタン(LixAlyTiz(PO4)3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)xOy系ガラス(0<x<4、0<y<13)、チタン酸リチウムランタン(LixLayTiO3、0<x<2、0<y<3)、チオリン酸リチウムゲルマニウム(LixGeyPzSw、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、窒化リチウム(LixNy、0<x<4、0<y<2)、SiS2系ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、P2S5系ガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)、またはこれらのうち2以上の混合物である。
【0066】
前記無機物粒子の平均粒径は、特に制限はないが、均一な厚さの多孔性コーティング層の形成及び適切な孔隙率のために、0.001~10μmの範囲であることが望ましく、より望ましくは、100nm~2μm、さらに望ましくは、150nm~1μmである。
【0067】
前記無機物粒子は、あらかじめ所定の直径を有するように破砕された状態で添加することができ、または、前記バインダー高分子溶液に前記無機物粒子を添加した後、ボールミル法などを用いて所定の直径を有するように制御しながら破砕して分散させることもできる。
【0068】
本発明の具体的な一実施形態において、前記無機物粒子は、板状型無機物粒子である。板状型無機物粒子を使用する場合、球状無機物粒子を使用する場合に比べて、通気時間増加率を下げることができるという長所がある。また、本発明の具体的な一実施形態において、アスペクト比が大きな板状型無機物粒子を使用することにより、多孔性コーティング層の気孔度を高めうる。
【0069】
本発明において、「板状型無機物粒子」は、互いに対応または対面する2つの面が平坦であり、長径(横幅)が厚さに比べて大きなものである。本発明で使用することができる板状型無機物粒子について、以下で具体的に説明する。
【0070】
(1)長径、厚さ
前記板状型無機物粒子は、長径(横幅)が0.5μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上であり、1.5μm以下、1.3μm以下、または1.2μm以下である。
【0071】
この際、前記板状型無機物粒子は、厚さが0.05μm以上、0.1μm以上、0.15μm以上であり、0.3μm以下、0.2μm以下、または0.1μm以下である。このように、板状型無機物粒子が長径と厚さとの数値範囲をいずれも満足する時に、本発明で目的とする気孔度が高い分離膜を形成しうる。
【0072】
この際、長径、厚さの測定方法は、1)板状型無機物粒子のSEM写真中の任意の10個の決定要素の横幅、厚さの測定値の算術平均から求めうる。
【0073】
この際、2)長径、厚さを、レーザ回折散乱法で測定された平均2次粒径及びBET法で測定された比表面積から算定することもできる。
【0074】
この際、3)長径、厚さを、原子間力顕微鏡で実測することもできる。
【0075】
(2)アスペクト比
本発明において、「アスペクト比」とは、厚さの算術平均に対する長径の算術平均の比率(長径の算術平均/厚さの算術平均)を言うものである。この際、長径及び厚さは、前述した方法で求めうる。
【0076】
本発明において、前記板状型無機物粒子のアスペクト比は、3.5以上、または4以上であり、6以下、5.5以下、または5以下である。このように、板状型無機物粒子が、前記アスペクト比を満足する時に、本発明で目的とする気孔度が高い分離膜を形成しうる。
【0077】
(3)含量
本発明において、板状型無機物粒子の含量は、多孔性コーティング層形成用スラリー100重量部を基準に20重量部以上、25重量部以上、または30重量部以上であり、50重量部以下、45重量部以下、または40重量部以下である。
【0078】
(4)種類
本発明の具体的な一実施形態において、前記板状型無機物粒子は、Al(OH)3、AlO(OH)、Mg(OH)2、BaTiO3、またはこれらのうち2以上を含みうる。
【0079】
一方、本発明の一側面では、非粒子型バインダー高分子ではない粒子型バインダー高分子を使用し、このような粒子型バインダー高分子は、200nm以下のD50直径を有するものである。このように、非粒子型ではない粒子状を有したバインダー高分子を使用することにより、多孔性コーティング層内の気孔度を確保することができる。また、所定の数値範囲を有する粒子型バインダー高分子を使用することにより、多孔性高分子基材内の気孔に粒子型バインダー高分子が浸透されず、抵抗が増加しないという利点がある。
【0080】
このために、前記粒子型バインダー高分子は、多孔性高分子基材の気孔よりも大きなD50直径を有するものである。例えば、80nm以上、90nm以上または100nm以上のD50直径を有しうる。
【0081】
前記粒子型バインダー高分子は、アクリル系粒子型バインダー(例えば、ブチルアクリレートとエチルヘキシルアクリレートとの共重合体、メチルメタクリレートとエチルヘキシルアクリレートとの共重合体、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリシアノアクリレート(polycyanoacrylate)など)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム(acrylonitrile-butadiene-styrene rubber)、スチレンブタジエンゴム(Styrene Butadiene Rubber、SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、ポリ塩化ビニル(polyvinylchloride)、フッ化ポリビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol)、ポリスチレン(polystyrene)、またはこれらのうち2以上の混合物を含みうる。
【0082】
前記粒子型バインダーの含量は、多孔性コーティング層100重量部を基準に10~50重量部である。
【0083】
一方、本発明の一側面による多孔性コーティング層は、上層、中層、下層に区分される時、前記上層内の粒子型バインダー高分子の含量は、前記下層内の粒子型バインダー高分子の含量よりも大きなものである。
【0084】
具体的に、前記上層は、前記多孔性コーティング層を厚さ方向にn等分した時、最外郭層であり、前記下層は、前記多孔性コーティング層を厚さ方向にn等分した時、前記多孔性高分子基材と対面する層であり、前記中層は、前記多孔性コーティング層で前記上層と下層とを除いた残りの層である。この際、nは、3~10のうち何れか1つの整数である。
【0085】
この際、前記粒子型バインダー高分子の含量が、前記多孔性コーティング層の厚さ方向基準に下層から上層に行くほど増加する濃度勾配を有し、前記無機物粒子の含量が、前記多孔性コーティング層の厚さ方向基準に上層から下層に行くほど増加する濃度勾配を有する。
【0086】
この際、前記多孔性コーティング層において、前記中層は、前記粒子型バインダー高分子が漸進的な濃度勾配を有するか、または特異的な濃度勾配がないものである。
【0087】
換言すれば、前記多孔性コーティング層で前記上層に行くほど粒子型バインダー高分子が多く、前記多孔性コーティング層で前記下層に行くほど無機物粒子が多いことを特徴とする。
【0088】
換言すれば、本発明の一側面による分離膜は、前記多孔性コーティング層内の無機物粒子の含量(B)に対する粒子型バインダー高分子の含量比率(A)(粒子型バインダー高分子含量/無機物粒子の含量、(A/B))が、前記多孔性コーティング層の表面部に行くほど大きくなることを特徴とする。
【0089】
本発明の具体的な一実施形態において、多孔性高分子基材の一面または両面に多孔性コーティング層が形成されうる。
【0090】
本発明において、前記多孔性高分子基材は、多孔性膜として負極及び正極を電気的に絶縁させて短絡を防止しながらも、リチウムイオンの移動経路を提供することができるものであって、通常の電気化学素子の分離膜素材として使用可能なものであれば、特に制限なしに使用が可能である。
【0091】
前記多孔性高分子基材は、具体的に、多孔性高分子フィルム基材または多孔性高分子不織布基材である。
【0092】
前記多孔性高分子フィルム基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテンのようなポリオレフィンからなる多孔性高分子フィルムであり、このようなポリオレフィン多孔性高分子フィルム基材は、例えば、80~130℃の温度でシャットダウン機能を発現する。
【0093】
この際、ポリオレフィン多孔性高分子フィルム基材は、高密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンなどのポリオレフィン系高分子をそれぞれ単独またはこれらを2種以上混合した高分子で形成されうる。
【0094】
また、前記多孔性高分子フィルム基材は、ポリオレフィン以外にポリエステルなどの多様な高分子を用いてフィルム状に成形して製造されても良い。また、前記多孔性高分子フィルム基材は、2層以上のフィルム層が積層された構造で形成され、各フィルム層は、前述したポリオレフィン、ポリエステルなどの高分子単独で、またはこれらを2種以上混合した高分子で形成されうる。
【0095】
また、前記多孔性高分子フィルム基材及び多孔性不織布基材は、前記のようなポリオレフィン系以外にポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutyleneterephthalate)、ポリエステル(polyester)、ポリアセタール(polyacetal)、ポリアミド(polyamide)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリイミド(polyimide)、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリフェニレンオキシド(polyphenyleneoxide)、ポリフェニレンサルファイド(polyphenylenesulfide)、ポリエチレンナフタレン(polyethylenenaphthalene)などをそれぞれ単独で、またはこれらを混合した高分子で形成されうる。
【0096】
前記多孔性高分子基材の厚さは、特に制限されないが、詳細には、1~100μm、さらに詳細には、5~50μmである。最近では、電池の高出力/高容量化が進められているので、多孔性高分子基材として薄膜を用いることが有利である。前記多孔性高分子基材に存在する気孔直径は、10~100nm、または10~70nm、または10~50nm、または10~35nmであり、気孔度は、5~90%、望ましくは、20~80%に形成されうる。但し、本発明において、このような数値範囲は、具体的な実施形態または必要に応じて容易に変形される。
【0097】
前記多孔性高分子基材の気孔は、さまざまなタイプの気孔構造があり、ポロシメーター(porosimeter)を用いて測定された、またはFE-SEM上で観察された気孔の平均サイズのうち何れか1つでも、前記提示した条件を満足すれば、本発明に含まれる。
【0098】
ここで、一般的に知られている一軸延伸乾式分離膜の場合においては、FE-SEM上で、MD方向の気孔サイズではなく、TD方向の気孔サイズでの中央の気孔サイズを基準とすることができる。それ以外の網構造を有する多孔性高分子基材(例として、湿式PE分離膜)では、ポロシメーターで測定した気孔のサイズを基準とすることができる。
【0099】
前記多孔性コーティング層の厚さは、特に制限されないが、詳細には、2~10μm、さらに詳細には、1.5~6μmであり、前記多孔性コーティング層の気孔度も、特に制限されないが、35~65%であることが望ましい。
【0100】
本発明の一側面による分離膜は、多孔性コーティング層の成分として前述した無機物粒子及びバインダー高分子以外に、その他の添加剤をさらに含みうる。
【0101】
本発明の一側面による電気化学素子は、正極、負極、前記正極及び負極の間に介在された分離膜を含み、前記分離膜が前述した本発明の一実施例による分離膜である。
【0102】
このような電気化学素子は、電気化学反応を行うあらゆる素子を含み、具体例を挙げれば、あらゆる種類の一次、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタ素子のようなキャパシタ(capacitor)などがある。特に、前記二次電池のうち、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が望ましい。
【0103】
本発明の分離膜と共に適用される正極と負極との両電極としては、特に制限されず、当業者に知られている通常の方法によって、電極活物質を電極集電体に結着された形態に製造することができる。前記電極活物質のうち、正極活物質の非制限的な例としては、従来の電気化学素子の正極に使われる通常の正極活物質が使用可能であり、特に、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物またはこれらを組み合わせたリチウム複合酸化物を使用することが望ましい。負極活物質の非制限的な例としては、従来の電気化学素子の負極に使われる通常の負極活物質が使用可能であり、特に、リチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コークス(petroleum coke)、活性化炭素(activated carbon)、グラファイト(graphite)またはその他の炭素類のようなリチウム吸着物質などが望ましい。正極集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組み合わせによって製造されるホイルなどがあり、負極集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケルまたは銅合金またはこれらの組み合わせによって製造されるホイルなどがある。
【0104】
本発明の電気化学素子で使われる電解液は、A+B-のような構造の塩であって、A+は、Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組み合わせからなるイオンを含み、B-は、PF6
-、BF4
-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、AsF6
-、CH3CO2
-、CF3SO3
-、N(CF3SO2)2
-、C(CF2SO2)3
-のような陰イオンまたはこれらの組み合わせからなるイオンを含む塩が、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジプロピル(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトンまたはこれらのうち2以上の混合物からなる有機溶媒に溶解または解離されたものがあるが、これに限定されるものではない。
【0105】
前記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び要求物性によって、電池の製造工程中に適切な段階で行われる。すなわち、電池組み立て前または電池組み立て最終段階などで適用可能である。
【0106】
本発明によるリチウム二次電池用分離膜の製造方法は、具体的に限定しないが、下記に提示された方法または当該分野の通常の方法によって製造可能である。
【0107】
本発明の具体的な一実施形態において、前記分離膜は、無機物粒子、分散剤が溶媒に分散されている溶液に粒子型バインダー高分子をさらに投入して多孔性コーティング層形成用スラリー製造した後、それを多孔性基材に塗布及び乾燥して多孔性コーティング層を形成しうる。
【0108】
例えば、本発明において、前記多孔性コーティング層形成用スラリーを多孔性基材に塗布した後、溶媒が乾燥される過程で相分離が起こりうる。特に、溶媒が乾燥される過程に1つの多孔性コーティング層内の密度差によって相分離が起こることにより、多孔性高分子基材と近い多孔性コーティング層部分は、無機物粒子が多く、多孔性コーティング層の最外郭部分は、バインダー高分子が多い分離膜を提供することができる。
【0109】
一方、多孔性基材上に多孔性コーティング層形成用スラリーを順次コーティング方式でコーティングして、多重層の多孔性コーティング層を形成する場合には、1つの乾燥されたコーティング層上にコーティング溶液が触れるようになりながら、コーティング層で脱離現象が起こりうるので、接着力が非常に低下するという問題がある。
【0110】
本発明において、多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度は、200cP以下、150cP以下、100cP、50cP、または20cP以下であり、5cP以上、8cP以上、または10cP以上である。前記数値範囲内で無機物粒子とバインダー高分子との層分離が円滑に起こって、気孔度が高い分離膜を形成しうる。
【0111】
前記スラリーにおいての粘度は、振動式粘度計、E型粘度計で測定することができる。
【0112】
前記スラリーには、無機物粒子の凝集を防ぐ目的として適切に分散剤を添加することが可能である。
【0113】
前記無機物粒子を分散させる方法としては、当業者に知られている通常の方法を利用することができ、例えば、超音波分散機、ボールミル(ball-mill)、ビーズミル法(bead-mill)、ディスパーサー(disperser)、ミキサー(mixer)などを利用することができ、特に、ボールミル法またはビーズミル法が望ましい。この際、処理時間は、容量によって異なりうるが、1~20時間が適切であり、破砕された無機物粒子の粒度は、ボールミルまたはビーズミルに使われたビーズのサイズ及びボールミル(または、ビーズミル)時間によって制御することができる。
【0114】
前記多孔性コーティング層形成用組成物を前記多孔性高分子基材にコーティングする方法は、特に限定しないが、スロットコーティングやディップコーティング方法を使用することが望ましい。スロットコーティングは、スロットダイを通じて供給された組成物が基材の前面に塗布される方式で定量ポンプから供給される流量によってコーティング層の厚さの調節が可能である。また、ディップコーティングは、組成物が入っているタンクに基材を浸してコーティングする方法であって、組成物の濃度及び組成物タンクから基材を取り出す速度によってコーティング層の厚さの調節が可能であり、より正確なコーティング厚さの制御のために浸漬後、メイヤーバーなどを通じて後計量することができる。
【0115】
このように多孔性コーティング層形成用組成物がコーティングされた多孔性高分子基材をオーブンのような乾燥機を用いて乾燥することにより、多孔性高分子基材の少なくとも一面上に形成された多孔性コーティング層を形成する。
【0116】
前記乾燥は、乾燥チャンバ(drying chamber)で行われ、この際、非溶媒塗布によって乾燥チャンバの条件は、特に制限されない。
【0117】
前記乾燥段階は、相対湿度30%以上、35%以上、または40%以上であり、80%以下、75%以下、または70%以下で行われる。例えば、40~80%の範囲で行うことができる。また、前記乾燥段階は、20~70℃の温度範囲で、0.1~2分間行われる。
【0118】
本発明において、固形分(多孔性コーティング層形成用スラリーで溶媒を除去した重量)の含量は、多孔性コーティング層形成用スラリー100重量部基準に10重量部以上、15重量部以上、または20重量部以上であり、40重量部以下、35重量部以下、または30重量部以下である。
【0119】
本発明の具体的な一実施形態において、前記溶媒は、水系溶媒または有機系溶媒をいずれも使用することができる。
【0120】
この際、使われる溶媒は、使用しようとする粒子型バインダー高分子と溶解度指数が類似し、沸点(boiling point)が低いことが望ましい。これは、均一な混合とその後の溶媒除去とを容易にするためである。
【0121】
例えば、前記溶媒が有機系溶媒である場合には、前記バインダー高分子は、有機溶媒に溶解されたものである。
【0122】
この場合、前記有機系溶媒は、非制限的な例として、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサンの中から選択された1種の化合物または2種以上の混合物である。
【0123】
例えば、前記溶媒が水系溶媒である場合には、前記バインダー高分子は、溶媒に分散されている粒子状であり、多孔性コーティング層上に追加的に別途の接着層を含みうる。電極との接着力を高めるためである。
【0124】
この場合、前記水系溶媒は、非制限的な例として、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びトリプロピレングリコールの中から選択された1種以上を含みうる。
【0125】
さらに、本発明による分離膜は、下記式のうち少なくとも3つ以上を満足するものである。
【0126】
通気時間増加率≦100%、
熱収縮率≦10%、
電極接着力≧70gf/25mm、
多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度≦20cP。
(この際、通気時間増加率と熱収縮率は、下記式で定義され、熱収縮率は、横方向(TD)熱収縮率と縦方向(MD)熱収縮率とのうち小さな値で算定する。
通気時間増加率(%)=[(多孔性高分子基材の通気時間-分離膜の通気時間)/(多孔性高分子基材の通気時間)]×100、
熱収縮率(%)=[(最初長さ-150℃/分間熱収縮処理後の長さ)/(最初長さ)]×100)
【0127】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、さまざまな他の形態に変形され、本発明の範囲が、後述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0128】
実施例1
無機物粒子として板状型の水酸化アルミニウム(平均粒径:800nm、Huber社)、分散剤としてポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(アクリル酸)(poly(ethylene glycol)-block-poly(acrylic acid)、BYK社)を常温で水に投入して均一に撹拌した後、粒子型バインダー高分子としてアクリル系粒子型バインダー(Zeon社)を順次に投入して多孔性コーティング層形成用スラリーを準備した。前記スラリーのうち、無機物粒子と粒子型バインダー高分子との重量比は、70:30にした。また、前記無機物粒子と前記分散剤との重量比は、99.5:0.5であった。ドクターブレードを用いて、前記スラリーをポリエチレン多孔性基材の一面に塗布し、乾燥して多孔性コーティング層が形成された分離膜を準備した。それを表1に示した。実施例1によって製造された分離膜のSEM写真を
図1に記載した。
【0129】
比較例1
分散剤としてポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(アクリル酸)の代わりに、カルボキシメチルセルロース(CMC、GL chem社)を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で分離膜を製造した。それを表1に示した。比較例1によって製造された分離膜のSEM写真を
図2に記載した。
【0130】
比較例2
板状型の無機物粒子の代わりに、球状の無機物粒子であるアルミナ(Al
2O
3、平均粒径:600nm、Alteo社)を使用し、分散剤としてポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(アクリル酸)の代わりに、カルボキシメチルセルロース(CMC、GL chem社)を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で分離膜を製造した。それを表1に示した。比較例2によって製造された分離膜のSEM写真を
図3に記載した。
【0131】
比較例3
分散剤としてポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(アクリル酸)の代わりに、グリコール基の官能基のみを有するポリエチレングリコール(Poly ethylene glycol、Aldrich社)を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で分離膜を製造した。それを表1に示した。
【0132】
比較例4
分散剤としてポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(アクリル酸)の代わりに、カルボキシル基の官能基のみを有するポリアクリル酸(Poly acrylic acid、Aldrich社)を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で分離膜を製造した。それを表1に示した。
【0133】
【0134】
前記表1の実施例1のように、カルボキシ基とグリコール基とをいずれも含有する分散剤を使用した場合、通気時間増加率が73%と低く表われ、電極との接着力が高く、熱収縮率も低い分離膜を得ることができた。
【0135】
一方、比較例1及び比較例2のように、カルボキシメチルセルロース分散剤を使用した場合には、通気時間増加率が実施例1に比べて著しく高く、一方、電極との接着力は減少し、熱収縮率面でも、実施例1に比べて劣っていた。
【0136】
比較例3のように、グリコール基のみ有する分散剤を使用した場合には、無機物粒子が分散されず、多孔性コーティング層形成用スラリーを基材上にコーティングすることができなかった。
【0137】
比較例4のように、カルボキシ基のみを有する分散剤を使用した場合には、電極との接着力が低く、熱収縮率面でも、実施例1に比べて劣っていた。
【0138】
評価方法
1)厚さ測定方法
分離膜の厚さは、厚さ測定器(Mitutoyo社、VL-50S-B)を用いて測定した。
【0139】
2)多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度測定方法
25℃で多孔性コーティング層形成用スラリー100ccをDV 2T Viscometer(Brookfield viscometer)装置を通じて測定した。
【0140】
3)通気時間測定方法
通気時間測定器(製造社:Asahi Seiko、製品名:EG01-55-1MR)を用いて一定の圧力(0.05MPa)で100mlの空気が分離膜を通過するのにかかる時間(sec)を測定した。サンプルの左/中/右の各1pointずつ総3point測定して平均を記録した。
【0141】
4)電極と分離膜との接着力の測定方法
電極と分離膜との接着力を測定するために、次のように負極を準備した。
【0142】
まず、負極は、人造黒鉛、カーボンブラック、カルボキシメチルセルロース(CMC、Carboxy Methyl Cellulose)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を96:1:2:2の重量比で水と混合して負極スラリーを製造した。前記負極スラリーを3.5mAh/cm2の容量で銅ホイル(Cu-foil)上にコーティングして薄い極板の形態に作った後、135℃で3時間以上乾燥させた後、圧延(pressing)して負極を製造した。
【0143】
製造された負極を25mm×100mmのサイズに裁断して準備した。実施例及び比較例から製造された分離膜を25mm×100mmのサイズに裁断して準備した。準備された分離膜と負極とを互いに重ねた後、100μmのPETフィルムの間に挟んだ後、平板プレスを使用して接着させた。この際、平板プレス機の条件は、60℃の6.5MPaの圧力で1秒間加熱及び加圧した。接着された分離膜と負極は、両面テープを用いてスライドガラスに付着した。分離膜接着面の末端部(接着面端部で10mm以下)を取り外して25mm×100mmのPETフィルムと断面接着テープとを用いて長手方向が連結されるように貼り付けた。その後、UTM装置(LLOYD Instrument LF Plus)の下側ホルダーにスライドガラスを装着した後、UTM装置の上側ホルダーに分離膜と張り付いているPETフィルムを装着し、測定速度300mm/minで180°で力を加えて負極と負極に対向した多孔性コーティング層とが剥離されるのに必要な力を測定した。
【0144】
5)熱収縮率の測定方法
前記熱収縮率は、(最初長さ-150℃/分間熱収縮処理後の長さ)/(最初長さ)×100で算定する。
【0145】
この際、熱収縮率は、分離膜の縦方向(MD)と横方向(TD)とに対してそれぞれ測定した。
【0146】
6)スラリーに含まれた無機物粒子の平均粒径(D50)
スラリーに含まれた無機物粒子の平均粒径は、Particle Size Analyzer(製品名:MASTERSIZER 3000;製造社:Malvern)を用いて測定した。
【0147】
7)多孔性コーティング層内の粒子型バインダー高分子の組成比
多孔性コーティング層内の粒子型バインダーの組成比は、X線回折分析及びX線分光学組成分析(EDX)を通じて測定した。
【符号の説明】
【0148】
100:分離膜
10:多孔性高分子基材
20:多孔性コーティング層
21:無機物粒子
22:粒子型バインダー高分子