(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】リンパ誘導システム移植片
(51)【国際特許分類】
A61F 2/04 20130101AFI20240802BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20240802BHJP
A61M 31/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
A61F2/04
A61M37/00 550
A61M31/00
(21)【出願番号】P 2022580121
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 US2020039595
(87)【国際公開番号】W WO2021262176
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】521442637
【氏名又は名称】バード・ペリフェラル・バスキュラー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100137039
【氏名又は名称】田上 靖子
(72)【発明者】
【氏名】フォード,サマー
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0054867(US,A1)
【文献】国際公開第2017/015571(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/116636(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00-2/97
A61M 31/00
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ誘導システム移植片であって:
非多孔性の管状側壁を有するステントグラフトであって、前記非多孔性の管状側壁が、近位端および遠位端を有し、前記非多孔性の管状側壁が、前記近位端のところにある流入ポートおよび前記遠位端のところにある流出ポートを有するルーメンを画定
し、前記ステントグラフトのすべての露出表面が、第1の生体適合性材料で作られる、ステントグラフトと;
前記ステントグラフトの前記非多孔性の管状側壁の前記近位端に接続された多孔性膜であって、前記多孔性膜が、前記ステントグラフトの前記ルーメンの前記流入ポートの横断面積の全体に跨
り、前記多孔性膜が、第2の生体適合性材料で作られる、多孔性膜と、
を備え
、
前記多孔性膜は、リンパ液の圧力差及び濃度勾配の少なくとも一方を生じさせるように位置決めされる、リンパ誘導システム移植片。
【請求項2】
前記多孔性膜の前記第2の生体適合性材料が、再吸収可能な材料である、請求項1に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項3】
前記多孔性膜の前記第2の生体適合性材料が、PGAまたはPLGAを含む、請求項1または2に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項4】
前記多孔性膜が、エレクトロスピニング繊維のメッシュである、請求項1から3のいずれか一項に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項5】
前記非多孔性の管状側壁が、ePTFEを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項6】
前記非多孔性の管状側壁が、ePTFEの被覆物を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項7】
前記多孔性膜が、薬剤を担持する薬剤溶出多孔性膜である、請求項1から6のいずれか一項に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項8】
前記薬剤が、抗細菌薬剤、化学療法薬剤、および/または抗転移薬剤である、請求項7に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項9】
リンパ誘導システム移植片であって:
非多孔性の管状側壁を有するステントグラフトであって、前記非多孔性の管状側壁が、下側リンパアンギオン領域端部および上側リンパアンギオン領域端部を有し、前記非多孔性の管状側壁が、前記下側リンパアンギオン領域端部のところにある流入ポートおよび前記上側リンパアンギオン領域端部のところにある流出ポートを有するルーメンを画定
し、前記ステントグラフトのすべての露出表面が、第1の生体適合性材料で作られる、ステントグラフトと;
前記ステントグラフトの前記非多孔性の管状側壁の前記下側リンパアンギオン領域端部に接続された薬剤溶出多孔性膜であって、前記薬剤溶出多孔性膜が、前記ステントグラフトの前記ルーメンの前記流入ポートの横断面積の全体に跨
り、前記薬剤溶出多孔性膜が、第2の生体適合性材料で作られる、薬剤溶出多孔性膜と;
前記薬剤溶出多孔性膜によって担持される薬剤と、
を備え
、
前記薬剤溶出多孔性膜は、リンパ液の圧力差及び濃度勾配の少なくとも一方を生じさせるように位置決めされる、リンパ誘導システム移植片。
【請求項10】
前記多孔性膜の前記第2の生体適合性材料が、PGAまたはPLGAを含む再吸収可能な材料である、請求項
9に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項11】
前記多孔性膜が、エレクトロスピニング繊維のメッシュである、請求項
9または
10に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項12】
前記薬剤が、抗細菌薬剤、化学療法薬剤、および/または抗転移薬剤である、請求項
9から
11のいずれか一項に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項13】
前記非多孔性の管状側壁が、ePTFEを含む、請求項
9から
12のいずれか一項に記載のリンパ誘導システム移植片。
【請求項14】
前記非多孔性の管状側壁が、ePTFEの被覆物を有する、請求項
9から
13のいずれか一項に記載のリンパ誘導システム移植片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0002]本発明は、患者のリンパシステム(換言すれば、リンパ系)で使用されるためのデバイスに関し、より詳細には、リンパ誘導システム移植片(lymph conduction system implant)および当該リンパ誘導システム移植片を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0003]原発腫瘍から周囲組織へ癌が転移すると、癌性細胞がしばしば患者のリンパ節に捕捉される。結果として、医者が1つまたは複数のリンパ節を解剖することにより、癌が周囲組織から転移したか否かおよびそれがどの程度なのかを理解するという診断的利益を得ることができる。しかし、限定しないが、感染症、リンパ浮腫、浮腫、または血清腫の素因が患者に残ることなどを含めた、リンパ節解剖に付随する副作用が存在する可能性がある。
【0003】
[0004]リンパ節解剖部位においてリンパ液の適切な誘導を回復させるのを支援することにより、リンパ節解剖後の副作用を無効にするのを支援することになるデバイスが当技術分野で求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[0005]本発明は、リンパ節解剖部位においてリンパ液の適切な誘導を回復させるのを支援することにより、リンパ節解剖後の副作用を無効にするのを支援することになるデバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[0006]本発明は、一形態で、ステントグラフトおよび多孔性膜を有するリンパ誘導システム移植片を対象とする。ステントグラフトが、非多孔性の管状側壁を有する。非多孔性の管状側壁が、近位端および遠位端を有する。非多孔性の管状側壁が、近位端のところにある流入ポートおよび遠位端のところにある流出ポートを有するルーメンを画定するように構成される。ステントグラフトのすべての露出表面が、第1の生体適合性材料で作られる。多孔性膜が、ステントグラフトの非多孔性の管状側壁の近位端に接続される。多孔性膜が、ステントグラフトのルーメンの流入ポートの横断面積の全体に跨るように構成される。多孔性膜が、第2の生体適合性材料で作られる。
【0006】
[0007]本発明は、別の形態において、ステントグラフト、薬剤溶出多孔性膜、および薬剤を有するリンパ誘導システム移植片を対象とする。ステントグラフトが、非多孔性の管状側壁を有する。非多孔性の管状側壁が、下側リンパアンギオン(lymphangion)領域端部および上側リンパアンギオン領域端部を有する。非多孔性の管状側壁が、下側リンパアンギオン領域端部のところにある流入ポートおよび上側リンパアンギオン領域端部のところにある流出ポートを有するルーメンを画定するように構成される。ステントグラフトのすべての露出表面が、第1の生体適合性材料で作られる。薬剤溶出多孔性膜が、ステントグラフトの非多孔性の管状側壁の下側リンパアンギオン領域端部に接続される。薬剤溶出多孔性膜が、ステントグラフトのルーメンの流入ポートの横断面積の全体に跨るように構成される。薬剤溶出多孔性膜が、第2の生体適合性材料で作られる。薬剤が、薬剤溶出多孔性膜によって担持される。
【0007】
[0008]本発明の利点は、リンパ誘導システム移植片が、リンパ節解剖部位においてリンパ液の適切な誘導を回復させるのを支援することにより、リンパ節解剖後の副作用を無効にするのを支援する、ことである。
【0008】
[0009]別の利点は、薬剤溶出多孔性膜が、持続性のある/長期の放出による局部的なおよび/または全身的な薬剤送達を実現することができる、ことである。
【0009】
[0010]添付図面と併せて本発明の実施形態の以下の詳細を参照することにより、本発明の上で言及したおよび他の特徴および利点、ならびに、これらを達成する手法がより明らかとなり、本発明がより良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】[0011]本発明の態様によるリンパ誘導システム移植片を示す斜視図である。
【
図2】[0012]
図1の平面2-2~2-2に沿う、
図1のリンパ誘導システム移植片を示す断面図である。
【
図3】[0013]本発明の態様による、リンパシステムのリンパ管内に位置決めされた
図1および
図2のリンパ誘導システム移植片を示す実体図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[0014]複数の図を通して、対応する参照符号は対応する部分を示している。本明細書に記載される例示は本発明の少なくとも1つの実施形態を説明するものであり、このような例示は、本発明の範囲を限定するものとして一切解釈されない。
【0012】
[0015]次に、図面を、またより具体的には、
図1および
図2を参照すると、本発明の態様によるリンパ誘導システム移植片10が示されている。
【0013】
[0016]リンパ誘導システム移植片10が、ステントグラフト12および多孔性膜14を有する。ステントグラフト12が、非多孔性の管状側壁16を有する。非多孔性の管状側壁16が、近位端18および遠位端20を有する。機能的に、近位端18は、本明細書では、リンパ誘導システム移植片10の下側リンパアンギオン領域端部18とも説明され得、遠位端20は、本明細書では、リンパ誘導システム移植片10の上側リンパアンギオン領域端部20とも説明され得る。
【0014】
[0017]非多孔性の管状側壁16が、近位端18のところにある流入ポート24および遠位端20のところにある流出ポート26を有するルーメン(換言すれば、内腔)22を画定する高分子管状部材の形態であってよい。高分子管状部材およびひいてはルーメン22の横断面形状が、例えば、円形または楕円形であってよい。ステントグラフト12が、リンパ管内に緊密に嵌め込まれるのを実現することを目的として、例えば0.2ミリメートル(mm)から2mmの範囲内にある直径など、リンパ誘導システム移植片10が挿入されるリンパ管サイズの直径に近似する直径を有することができる。
【0015】
[0018]ステントグラフト12のすべての露出表面が、例えば延伸ポリテトラフルオロエチレン(expanded polytetrafluoroethylene)(ePTFE)などの、第1の生体適合性材料で作られる。本実施形態では、非多孔性の管状側壁16がePTFEを含み、例えば、ここでは、ステントグラフト12の非多孔性の管状側壁16が、ePTFEの被覆物(換言すれば、コーティング)を有する。例えば、ePTFEの被覆物が、非多孔性の管状側壁16の非多孔性を達成するのに使用され得る。
【0016】
[0019]多孔性膜14が、例えば、超音波溶接または他の溶接、熱溶融性接着剤、またはオーバーモールディングにより、ステントグラフト12の非多孔性の管状側壁16の近位端18に接続され得る。また、任意選択で、多孔性膜14が、高分子シートの表面への直接的なエレクトロスピニング(換言すれば、電界紡糸法)により形成され得、ここでは、高分子シートは、高分子シート表面への多孔性膜14のエレクトロスピニングの前にまたはその後で、ステントグラフト12に取り付けられ得る(例えば、熱溶融性接着剤、直接のワイヤ取り付け(direct wire attachment)、またはオーバーモールドを介して)。
【0017】
[0020]多孔性膜14は、そのサイズおよび形状に関して、ステントグラフト12のルーメン22の流入ポート24の横断面積の全体に跨るように構成される。多孔性膜14が、例えば50ナノメートル(nm)から100nmの範囲内にある、厚さを有することができる。多孔性膜14が第2の生体適合性材料で作られ得、再吸収可能な材料で作られてもよい。例えば、多孔性膜14の第2の生体適合性材料が、全体としてまたは部分的に、ポリグリコリドまたはポリグリコール酸(PGA)、あるいは、ポリ乳酸-コ-グリコール酸(PLGA)を含むことができる。本実施形態では、多孔性膜14が、例えば上述した接続方法のうちの1つの接続方法により、ステントグラフト12の非多孔性の管状側壁16の近位端18に連結されるエレクトロスピニング繊維のメッシュである。
【0018】
[0021]任意選択で、多孔性膜14が、薬剤を担持する薬剤溶出多孔性膜として構成され得る。薬剤が、例えば、抗細菌薬剤、化学療法薬剤、および/または抗転移薬剤であってよい。薬剤が、多孔性膜14を構成するエレクトロスピニング繊維の上におよびその間に浸透していてよい。したがって、薬剤溶出を選択する場合では、多孔性膜14が、場合によっては、薬剤溶出多孔性膜14とも称され得る。
【0019】
[0022]さらに、
図3を参照すると、リンパ誘導システム移植片10が、癌転移または他の原因の結果としてのリンパ節除去またはリンパ節解剖の後で、リンパ管30におけるリンパ液28(
図3では小さい円として表される)の誘導を促進するように構成される。リンパ誘導システム移植片10が、標準的なステントグラフトバルーンシステムを備えるリンパシステムの中に配備され得、ここでは、リンパ節解剖部位30-1のところにリンパ誘導システム移植片10が配置される。本使用方法は、リンパ管30内のリンパ誘導システム移植片10を、リンパアンギオン32内で、リンパアンギオン32の下側リンパアンギオン領域32-1に(つまり、下側リンパアンギオン領域32-1の近位端のところに)ある下側(入口)弁34と、リンパアンギオン32の上側リンパアンギオン領域32-2に(つまり、上側リンパアンギオン領域32-2の遠位端のところに)ある上側(出口)弁36との間で、位置決めすることを含む。
図3に描かれるリンパアンギオン32の向きでは、下側リンパアンギオン領域32-1が、リンパアンギオン32の下側部分(例えば、下側半分)であるとみなされ得、上側リンパアンギオン領域32-2が、リンパアンギオン32の上側部分(例えば、上側半分)であるとみなされ得る。下側(入口)弁34と上側(出口)弁36の各々が、リンパ液28の逆流(backwards drainage)を防止する一方向の二尖弁である。
【0020】
[0023]リンパ誘導システム移植片10の主要な機能は、リンパ節解剖後にリンパ浮腫、血清腫、または浮腫を防止するのを支援するために、リンパ液28の誘導を回復させることである。より具体的には、ステントグラフト12の遠位端20(例えば、開放端部)は、上側リンパアンギオン領域32-2内にある上側(出口)弁36に隣接するように位置決めされ、ステントグラフト12の近位端18(例えば、被覆端部)は、多孔性膜14が下側リンパアンギオン領域32-1内にある下側(入口)弁34に面するように、位置決めされる。これにより、流入するリンパ液28が、緩く層状にされてリンパ管30(複数可)を構成する内皮細胞40の間の連結部(junctions)40-1(曲線矢印によって表される)を介して、リンパ誘導システム移植片10の近位側の場所の下側リンパアンギオン領域32-1に入るときに、圧力差及び濃度勾配が発生し、これにより、各リンパアンギオン32に入るリンパ液28の流れが許容される。
【0021】
[0024]本実施形態では、リンパ液28の誘導を促進するために、リンパ誘導システム移植片10の長さ42が、リンパアンギオン32の全長44の半分以下である。別の言い方をすれば、リンパ誘導システム移植片10の長さ42が、下側リンパアンギオン領域32-1内にある下側(入口)弁34と上側リンパアンギオン領域32-2内にある上側(出口)弁36との間の距離(全長44に対応する)の半分以下である。例えば、リンパアンギオン32の平均長さが約2mmである可能性があることを理由として、ステントグラフト12の平均長さが約1mm以下であってよい。
【0022】
[0025]したがって、リンパ誘導システム移植片10の長さ42は、上側リンパアンギオン領域32-2の上側領域壁が、リンパ誘導システム移植片10のステントグラフト12の非多孔性の管状側壁16によって遮断される(換言すれば、ふさがれる)ように選択され、一方、下側半分(下側リンパアンギオン領域32-1)は覆われていない状態を維持する。これにより、リンパアンギオン32の下側リンパアンギオン領域32-1の中へのリンパ液28の自然な流入が許容される。リンパ液28のこの自然な流入は、個々の平らな上皮細胞(単層扁平上皮)つまり内皮細胞40からなる内側層から構成される内皮(管の内側層に対する一般的な用語)によって可能となる。この内皮は内皮細胞40の間の連結部40-1を有し、連結部40-1は、(毛細血管静水圧からなど)圧力が十分に大きいときに間質リンパ液28がリンパ管30に流入することを許容するが、通常、リンパ液28が間質腔の中へ逆方向に漏出することを許容しない。リンパアンギオン32の上側リンパアンギオン領域32-2を遮断することにより、および、リンパアンギオン32の下側リンパアンギオン32-1を遮らない状態で維持することにより、流入リンパ液28が内皮細胞40の間の連結部40-1を介してリンパアンギオン32の下側リンパアンギオン領域32-1に入るときに、圧力差及び濃度勾配が発生することになる。
【0023】
[0026]リンパ管30(複数可)を通してのリンパ液28の自然誘導は、リンパアンギオン32の下側リンパアンギオン領域32-1内にある一方向の下側(入口)弁34および上側リンパアンギオン流域32-2内にある上側(出口)弁36の開閉によって生じ、弁の開閉は、主として、平滑筋収縮さらには二次的な骨格筋収縮によって引き起こされる。これは、追加的に、リンパ液28の逆流を防止する。下側(入口)弁34が開くと、リンパ液28がリンパ管30の内皮壁を通って入ることに加えて、リンパ液28が下側リンパアンギオン領域32-1に流入する。下側リンパアンギオン領域32-1がリンパ液28で飽和状態になると、下側(入口)弁34の遠位側の流体圧力により下側(入口)弁34が強制的に閉じることになる。
【0024】
[0027]リンパ誘導システム移植片10のステントグラフト12の非多孔性の管状側壁16によって遮られることにより、リンパ液28がリンパ管30の内皮壁を通って上側リンパアンギオン領域32-2に入ることが不可能になる。従って、このような遮断により、リンパアンギオン32の下側リンパアンギオン領域32-1と上側リンパアンギオン領域32-2との間に負圧および/または濃度勾配が発生することになる。この差により、下側リンパアンギオン領域32-1内のリンパ液28が、直線の矢印46によって表されるように、受動拡散を介して多孔性膜14を通って流れるようになり、上側リンパアンギオン領域32-2の中に流れ、リンパアンギオン32内に平衡状態を作り出す。リンパアンギオン32が平衡状態を満たすと、リンパ液28は、内皮細胞40の間の連結部40-1が遮断されない下側リンパアンギオン領域32-1に入ることができるので、圧力が上昇し始め、圧力勾配および/または濃度勾配を大きくし、多孔性膜14を横切って連続的に拡散する。最終的に、上側(出口)弁36が、この圧力に屈し、および/または、平滑筋収縮を介して開かれる。上側(出口)弁36が開くと、これにより、残っているリンパシステムおよび後続の循環システムの中へのリンパ液28の十分な誘導が可能となる。
【0025】
[0028]以下の項目も本発明に関連する。
【0026】
[0029]一実施形態で、本発明が、ステントグラフトおよび多孔性膜を有するリンパ誘導システム移植片に関連する。ステントグラフトが、非多孔性の管状側壁を有する。非多孔性の管状側壁が、近位端および遠位端を有する。非多孔性の管状側壁が、近位端のところにある流入ポートおよび遠位端のところにある流出ポートを有するルーメンを画定するように構成され得る。ステントグラフトのすべての露出表面が、第1の生体適合性材料で作られる。多孔性膜が、ステントグラフトの非多孔性の管状側壁の近位端に接続され得る。多孔性膜が、ステントグラフトのルーメンの流入ポートの横断面積の全体に跨るように構成され得る。多孔性膜が、第1の生体適合性材料とは異なってよい第2の生体適合性材料で作られ得る。
【0027】
[0030]いくつかの実施形態では、多孔性膜の第2の生体適合性材料が、再吸収可能な材料であってよい。
【0028】
[0031]いくつかの実施形態では、多孔性膜の第2の生体適合性材料が、PGAまたはPLGAを含むことができる。
【0029】
[0032]いくつかの実施形態では、多孔性膜が、エレクトロスピニング繊維のメッシュであってよい。
【0030】
[0033]いくつかの実施形態では、非多孔性の管状側壁が、ePTFEを含むことができる。
【0031】
[0034]いくつかの実施形態では、非多孔性の管状側壁が、ePTFEの被覆物を有することができる。
【0032】
[0035]任意選択で、近位端が、下側リンパアンギオン領域端部であってよい。任意選択で、遠位端が、上側リンパアンギオン領域端部であってよい。任意選択で、リンパ誘導システム移植片の長さが、リンパアンギオンの全長の半分以下であってよい。任意選択で、リンパ誘導システム移植片の長さが、下側リンパアンギオン領域内にある入口弁と上側リンパアンギオン領域内にある出口弁との間の距離の半分以下である。任意選択で、いくつかの実施形態では、多孔性膜が、薬剤を担持する薬剤溶出多孔性膜であってよい。
【0033】
[0036]薬剤を有する実施形態では、薬剤が、抗細菌薬剤、化学療法薬剤、および/または抗転移薬剤であってよい。
【0034】
[0037]段落0026~0033の上で言及した実施形態のうちの任意の1つの実施形態によるリンパ誘導システム移植片を使用する方法が、リンパ節除去後のリンパ管内でのリンパ液誘導を促進することができ、リンパ管内のリンパ誘導システム移植片を、リンパアンギオン内で、リンパアンギオンの下側リンパアンギオン領域内にある入口弁とリンパアンギオンの上側リンパアンギオン領域内にある出口弁との間で、位置決めするステップを含み、ここでは、ステントグラフトの遠位端が、上側リンパアンギオン領域内にある出口弁に隣接するように位置決めされ得、ステントグラフトの近位端が、下側リンパアンギオン領域内にある入口弁に多孔性膜が面するように、位置決めされ得、それにより、流入リンパ液が、リンパ管の内皮細胞の間の連結部を介して、リンパ誘導システム移植片の近位側の場所で下側リンパアンギオン領域に入るときに、圧力差及び濃度勾配が発生する。
【0035】
[0038]リンパ誘導システム移植片を使用する方法を利用する実施形態では、リンパ誘導システム移植片の長さが、リンパアンギオンの全長の半分以下であってよい。
【0036】
[0039]リンパ誘導システム移植片を使用する方法を利用する実施形態では、リンパ誘導システム移植片の長さが、下側リンパアンギオン領域内にある入口弁と上側リンパアンギオン領域内にある出口弁との間の距離の半分以下であってよい。
【0037】
[0040]リンパ誘導システム移植片を使用する方法を利用する任意の実施形態で、本方法が、任意選択で、多孔性膜に、抗細菌薬剤、化学療法薬剤、および/または抗転移薬剤を再充填する別のステップを含むことができる。
【0038】
[0041]別の実施形態では、本発明が、ステントグラフト、薬剤溶出多孔性膜、および薬剤を有するリンパ誘導システム移植片に関連する。ステントグラフトが、非多孔性の管状側壁を有する。非多孔性の管状側壁が、下側リンパアンギオン領域端部および上側リンパアンギオン領域端部を有することができる。非多孔性の管状側壁が、下側リンパアンギオン領域端部のところにある流入ポートおよび上側リンパアンギオン領域端部のところにある流出ポートを有するルーメンを画定するように構成され得る。ステントグラフトのすべての露出表面が、第1の生体適合性材料で作られ得る。薬剤溶出多孔性膜が、ステントグラフトの非多孔性の管状側壁の下側リンパアンギオン領域端部に接続され得る。薬剤溶出多孔性膜が、ステントグラフトのルーメンの流入ポートの横断面積の全体に跨るように構成され得る。薬剤溶出多孔性膜が、第1の生体適合性材料とは異なってよい第2の生体適合性材料で作られ得る。薬剤が、薬剤溶出多孔性膜によって担持され得る。
【0039】
[0042]いくつかの実施形態では、多孔性膜の第2の生体適合性材料が、PGAまたはPLGAを含む再吸収可能な材料であってよい。
【0040】
[0043]いくつかの実施形態では、多孔性膜が、エレクトロスピニング繊維のメッシュであってよい。
【0041】
[0044]薬剤を有する任意の実施形態で、薬剤が、抗細菌薬剤、化学療法薬剤、および/または抗転移薬剤であってよい。
【0042】
[0045]いくつかの実施形態では、非多孔性の管状側壁が、ePTFEを含むことができる。
【0043】
[0046]いくつかの実施形態では、非多孔性の管状側壁が、ePTFEの被覆物を有することができる。
【0044】
[0047]段落0038~0043の上で言及した実施形態のうちの任意の1つの実施形態によるリンパ誘導システム移植片を使用する方法が、リンパ節除去後のリンパ管内でのリンパ液誘導を促進することができ、リンパ管内のリンパ誘導システム移植片を、リンパアンギオン内で、リンパアンギオンの下側リンパアンギオン領域内にある入口弁とリンパアンギオンの上側リンパアンギオン領域内にある出口弁との間で、位置決めするステップを含み、ここでは、ステントグラフトの上側リンパアンギオン領域端部が、上側リンパアンギオン領域内にある出口弁に隣接するように位置決めされ得、ステントグラフトの下側リンパアンギオン領域端部が、下側リンパアンギオン領域内にある入口弁に薬剤溶出多孔性膜が面するように、位置決めされ得、それにより、流入リンパ液が、リンパ管の内皮細胞の間の連結部を介して、リンパ誘導システム移植片の近位側の場所で下側リンパアンギオン領域に入るときに、圧力差及び濃度勾配が発生する。
【0045】
[0048]リンパ誘導システム移植片を使用する方法を利用する段落0044の実施形態では、リンパ誘導システム移植片の長さが、リンパアンギオンの全長の半分以下であってよい。
【0046】
[0049]少なくとも1つの実施形態に関連させて本発明を説明してきたが、本開示の趣旨および範囲内で本発明がさらに変更され得る。したがって、本出願は、その一般的な原理を使用して、本発明の任意の変形、使用、または適合を包含することが意図される。さらに、本出願は、本発明の関連の技術分野での既知のまたは慣例的な実施の範囲に入るような、および、添付の特許請求の範囲の限定に含まれる、本開示からの逸脱も包含することが意図される。