(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】癌を処置するためのパラアミノ馬尿酸(PAH)および放射能標識された複合体の組合せ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/196 20060101AFI20240802BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240802BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240802BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240802BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240802BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20240802BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20240802BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240802BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
A61K31/196
A61K9/08
A61K39/395 C
A61K39/395 E
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61K47/64
A61K47/68
A61K51/08
A61K51/10
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2023527358
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2021080822
(87)【国際公開番号】W WO2022096673
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/081143
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521489207
【氏名又は名称】アイティーエム アイソトープ テクノロジーズ ミューニック エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】メッケル,マリアン
(72)【発明者】
【氏名】オスル,テレーザ
(72)【発明者】
【氏名】チェルノセコフ,コンスタンティーン
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0025910(US,A1)
【文献】特開2006-176427(JP,A)
【文献】国際公開第2008/124660(WO,A1)
【文献】KWEKKEBOOM, Dik J et al.,Somatostatin receptor-based imaging and therapy of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors,Endocrine-Related Cancer,2010年,17,R53-R73,DOI:10.1677/ERC-09-0078
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)および(b)を含んでいる、癌の処置における使用のための組合せ医薬であって、
上記癌は、神経内分泌腫瘍、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、甲状腺髄様癌、小細胞肺癌、間質性卵巣癌、膵管腺癌、インスリノーマおよびガストリノーマから選択され、
(a)および(b)が組合せ投与されることによって、(a)の抗腫瘍効果を向上させる、組合せ医薬:
(a)放射能標識された複合体であって、(i)放射性核種および(ii)キレート剤と連結している標的化分子を含んでいる複合体、
ここで、上記標的化分子は、ペプチド、ペプチド模倣体、抗体断片、抗体模倣体および葉酸から選択される;
(b)パラアミノ馬尿酸(PAH)またはその塩;
ここで、上記組合せ医薬は、別々に投与され、または1つの組成物によって投与されるものである。
【請求項2】
上記標的化分子は、ソマトスタチンアナログ、PSMA阻害剤、ガストリンアナログ、インテグリン結合分子および葉酸から選択される、
請求項1に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項3】
上記標的化分子は、PSMAまたはソマトスタチン受容体(SSTR)と結合する、
請求項1または2に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項4】
上記標的化分子は、Tyr3-オクテオトリド、Tyr3-オクトレオテート、JR11、PSMA-11、サルガストリン、RGDおよび葉酸からなる群より選択
される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項5】
上記標的化分子は、オクトレオチドおよび/またはTyr3-オクテオトリドである、
請求項4に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項6】
上記キレート剤は、大環状キレート剤で
ある、
請求項1~
5のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項7】
上記キレート剤は、DOTA、HBED-CC、NOTA、NODAGA、DOTAGA、DOTAM、TRAP、NOPO、PCTA、DFO、DTPA、DO3AP、DO3AP
PrA
、DO3AP
ABn
およびHYNICからなる群より選択される、
請求項6に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項8】
上記放射能標識された複合体は、下記(i)および(ii)を含んでいるか、またはそれらからなる、請求項1~
7のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬:
(i)放射性核種;
(ii)DOTATOCまたはDOTATATE。
【請求項9】
上記放射性核種は、
94Tc、
99mTc、
90In、
111In、
67Ga、
68Ga、
86Y、
90Y、
177Lu、
161Tb、
186Re、
188Re、
64Cu、
67Cu、
55Co、
57Co、
43Sc、
44Sc、
47Sc、
225Ac、
213Bi、
212Bi、
212Pb、
227Th、
153Sm、
166Ho、
166Dy、
18Fおよび
131Iからなる群より選択
される、
請求項1~
8のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項10】
上記放射性核種は、
177
Lu(ルテチウム177)である、
請求項9に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項11】
上記放射能標識された複合体は、[
177Lu-DOTA-Tyr3]-オクトレオチド、
177Lu-DOTA-JR11、
177Lu-DOTA-RGD、
177Lu-DOTA-サルガストリンおよび
177Lu-PSMA-I&Tから選択
される、
請求項1~
10のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項12】
上記放射能標識された複合体は、
177
Lu-DOTATOCである、
請求項11に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項13】
上記組合せ医薬は、下記(a)および(b)を含んでいる、請求項1~
12のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬:
(a)放射能標識された複合体;
(b)パラアミノ馬尿酸(PAH)またはパラアミノ馬尿酸(PAH)の塩
ここで、上記PAHの塩は、パラアミノ馬尿酸ナトリウムである。
【請求項14】
下記(i)および/または(ii)を満たしている、請求項1~
13のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬:
(i)上記PAHまたはその塩の投与濃度は、体重1kgあたり5~500mgである;
(ii)上記(a)放射能標識された複合体と上記(b)PAHまたはその塩との投与比率は、1/240000(w/w)~1/8000(w/w)である。
【請求項15】
下記(i)および/または(ii)を満たしている、請求項1~
14のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬:
(i)上記(a)放射能標識された複合体および上記(b)PAHまたはその塩を、同じ日に投与する;
(ii)上記(a)放射能標識された複合体および(b)PAHまたはその塩を、同時に投与する。
【請求項16】
上記(a)放射能標識された複合体および上記(b)PAHまたはその塩は、同じ投与経路で投与される、
請求項1~
15のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項17】
上記(a)放射能標識された複合体および上記(b)PAHまたはその塩は、全身投与される、
請求項1~
16のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項18】
上記(a)放射能標識された複合体および上記(b)PAHまたはその塩は、同じ組成物において投与される、
請求項1~
17のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項19】
上記癌は、
神経内分泌腫瘍、前立腺癌および小細胞肺癌から選択
される、
請求項1~
18のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項20】
上記処置を必要とする被験体は、ヒトの癌患者である、
請求項1~
19のいずれか1項に記載の使用のための組合せ医薬。
【請求項21】
下記(a)~(c)を備えている、癌の処置における使用のためのキットであって、
上記癌は、神経内分泌腫瘍、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、甲状腺髄様癌、小細胞肺癌、間質性卵巣癌、膵管腺癌、インスリノーマおよびガストリノーマから選択され、
(a)および(b)が組合せ投与されることによって、(a)の抗腫瘍効果を向上させる、キット:
(a)放射能標識された複合体であって、(i)放射性核種および(ii)キレート剤と連結している標的化分子を含んでいる複合体、
ここで、上記標的化分子は、ペプチド、ペプチド模倣体、抗体断片、抗体模倣体および葉酸から選択される;
(b)パラアミノ馬尿酸(PAH)またはその塩;
(c)上記(a)および/または上記(b)の投与に関する指示を与えている、説明書、添付文書またはラベル。
【請求項22】
下記(i)および/または(ii)を満たしている、請求項
21に記載の使用のためのキット:
(i)上記放射能標識された複合体は、請求項2~
12のいずれか1項において定義されているものである;
(ii)上記パラアミノ馬尿酸(PAH)またはその塩は、請求項
13において定義されているものである。
【請求項23】
下記(a)および(b)を含んでいる、癌の処置における使用のための医薬組成物であって、
上記癌は、神経内分泌腫瘍、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、甲状腺髄様癌、小細胞肺癌、間質性卵巣癌、膵管腺癌、インスリノーマおよびガストリノーマから選択され、
(a)および(b)が組合せ投与されることによって、(a)の抗腫瘍効果を向上させる、医薬組成物:
(a)放射能標識された複合体であって、(i)放射性核種および(ii)キレート剤と連結している標的化分子を含んでいる複合体、
ここで、上記標的化分子は、ペプチド、ペプチド模倣体、抗体断片、抗体模倣体および葉酸から選択される;
(b)パラアミノ馬尿酸(PAH)またはその塩;
ここで、
上記医薬組成物は、薬学的に許容できる賦形剤、稀釈剤または担体をさらに含んでいる。
【請求項24】
上記
医薬組成物は、水溶液である、
請求項
23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
下記(i)および/または(ii)を満たしている、請求項
23または24に記載の使用のための医薬組成物:
(i)上記放射能標識された複合体は、請求項2~
12のいずれか1項において定義されているものである;
(ii)上記パラアミノ馬尿酸(PAH)またはその塩は、請求項
13において定義されているものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌を処置するための放射線医薬品の分野に関する。特に、本発明は、癌を処置するための放射線医薬品の併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線医薬品とは、放射性同位体(放射性核種)を含んでいる薬物である。放射線医薬品は、様々な状態の処置に利用できる。その例としては、癌、血液障害、甲状腺機能亢進症が挙げられる。放射線医薬品による癌の治療においては、分子標識された放射性核種を利用して、毒性レベルの放射線を疾患部位に送達する。つまり、疾患部位(特定の癌細胞など)への標的化のために分子を利用する。例えば、標的となる癌細胞に特異的に結合させたり、新生物に特有な種々の生理機構によって蓄積させたりする。したがって、放射性核種複合体においては、癌を標的とする特異性と、電離放射線による公知の抗腫瘍効果とが組合わされている。放射線医薬品は、原発腫瘍部位のみならず、転移腫瘍も標的にできる。放射線を腫瘍に送達する分子の選択は、通常、腫瘍の標的構造(抗原、受容体など)に対する選択性および親和性によって決定する。仮に、ある種の癌における標的構造が選択的でない場合には、過剰発現している標的構造に着目する。このような標的構造を利用すれば、過剰発現している標的細胞に高濃度の放射性核種複合体を送達しつつ、他の細胞(発現していないか発現量の少ない細胞)には実質的に影響を及ぼさないようにできるためである。通常、放射性核種と標的化分子とはキレート剤で連結されている。これによって、放射性核種の金属イオンとの間で、強固な複合体が形成できる。
【0003】
ほとんど全ての全身性癌処置オプションと比較すると、放射線医薬品は、最小限の毒性で有効性を呈する。近年では、FDAは、様々な新規な放射線医薬品療法(RPT)を承認している。その例としては、去勢抵抗性前立腺癌の骨転移の処置用のα線放射ラジウム223(223Ra)、ソマトスタチン受容体(SSTR)陽性膵・消化管神経内分泌腫瘍の処置用の[177Lu]Lu-DOTATATE(Lutathera(R))、悪性褐色細胞腫およびパラガングリオーマの処置用の[131I]I-mIBGが挙げられる。その他の放射線医薬品の例としては、153Sm-EDTMP(Quadramet(R);キレート剤であるエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)が、6個のリガンドを介してサマリウム153と結合している)、骨転移の一時的軽減用の塩化ストロンチウム89、イットリウム90を含有するマイクロスフェア(ガラス系のもの(TheraSphereTM)と樹脂系のもの(SIR-Sphere(R))がある)、低悪性度B細胞リンパ腫および関連する癌の処置用のイットリウム90イブリツモマブチウキセタン(Zevalin(R))が挙げられる。
【0004】
放射線医薬品は癌の処置において有効であるが、これらの薬剤に対する生物学的な耐性について考慮せねばならない(標的の発現が少ないまたは存在しない癌細胞の増殖が原因で、耐性を獲得する場合がある)。また、癌治療一般の有効性を向上させること、とりわけ、腫瘍の増殖を低減または遅延させ、生存期間を延長させることが望まれている。
【0005】
パラアミノ馬尿酸(PAH)は馬尿酸の誘導体であり、正常な人体には見られない。PAHは、腎血漿流量(とりわけ有効腎血漿流量(eGFR))および排泄能を測定する診断薬として知られている。また、PAHには、シスプラチンによる腎毒性の低減効果も報告されている(Natochin et al., 1989, Comp. Biochem. Physiol Vol. 94C, No.1 pp. 115-120)。未公開の国際特許出願EP2020/062950は、放射能標識された化合物の腎毒性がPAHにより低減される旨を開示している。
【発明の概要】
【0006】
上記に鑑みて、本発明の課題は、上述の欠点を克服し、癌を処置するための新規な組合せである、(i)放射性核種複合体および(ii)パラアミノ馬尿酸(PAH)の組合せを提供することにある。特に、本発明の課題は、癌の処置における放射線医薬品の有効性が向上するような、放射線医薬品のための新規な併用療法を提供することにある。
【0007】
この課題を、下記に添付した特許請求の範囲に記載の構成によって解決する。
【0008】
下記に、添付図の簡単な説明を付す。これらの図は、本発明を詳細に説明することを意図したものである。これらの図には、本発明の構成を限定する何らの意図もない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の実験デザインを表す。マウスを区別可能な3つの群に分けた。各群に、ビヒクルのみ(0.9%NaCl;第0群)、
177Lu-DOTATOCのみ(PAHなし;1.1群)、または
177Lu-DOTATOCおよびPAHの組合せ(第1.2群)を投与した。投与は、腫瘍細胞の播種から7日後に行った。
【
図2】実施例1の3つの実験群における腫瘍の増殖を表す。コントロールは、第0群を表す。NaClは、第1.1群を表す。PAHは、第1.2群を表す。処置後57日間にわたって観察した。
【
図3】実施例1の3つの実験群における体重の比率を表す。コントロール群は、第0群を表す。
177Lu-DOTATOC/NaCl0.9%は、第1.1群を表す。
177Lu-DOTATOC/PAは、第1.2群を表す。各時点における体重を、第0日における初期体重と比較した。
【
図4】実施例1の結果を表す。各腫瘍について腫瘍体積vs.実際の腫瘍重量をプロットして線形回帰分析した。n=36。マウス1匹あたり2個の腫瘍。
【
図5】実施例1の区別可能な実験群における生存率を表す。コントロールは、第0群を表す。
177Lu-DOTATOC+NaClは、第1.1群を表す。
177Lu-DOTATOC+PAHは、第1.2群を表す。
【
図6】実施例2の3つの実験群における腫瘍の増殖を表す。
177Lu-DOTATOC/NaCl0.9%は、第1群を表す。
177Lu-DOTATOC/PAは、第2群を表す。コントロール群-NaCl0.9%は、第3群を表す。処置後46日間にわたり観察した。
【
図7】実施例2の3つの実験群における体重の比率を表す。
177Lu-DOTATOC/NaCl0.9%は、第1群を表す。
177Lu-DOTATOC/PAは、第2群を表す。コントロール群-NaCl0.9%は、第3群を表す。各時点における体重を、第0日における初期体重と比較した。
【
図8】実施例2の結果を表す。各腫瘍について腫瘍体積vs.実際の腫瘍重量をプロットして線形回帰分析した。
【
図9】実施例2の区別可能な実験群における生存率を表す。
177Lu-DOTATOC/NaCl0.9%は、第1群を表す。
177Lu-DOTATOC/PAは、第2群を表す。コントロール群-NaCl0.9%は、第3群を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
下記に本発明を詳細に説明する。しかし理解すべきことには、本発明は、本明細書に記載されている特定の方法、プロトコルおよび試薬には限定されず、これらを変更してもよい。同じく理解すべきことには、本明細書で使用している用語には、本発明の範囲を制限する意図はない。そうではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって制限される。別途定義されていない限り、本明細書で使用している技術用語および科学用語の意味は、当業者によって通常に理解される意味と同じである。
【0011】
下記では本発明の要素を説明する。これらの要素は、特定の実施形態と共に列挙されている。しかし理解すべきことには、任意の手段によって、任意の数の要素を組合せることによって、さらなる実施形態が得られる。明示的に開示されている実施形態のみの本発明を制限するものとして、様々に記載されている実施例および好適な実施形態を解釈してはならない。明示的に開示されている実施形態と、開示されているまたは好適な任意の数の要素とを組合せた実施形態を、本明細書はサポートしており、その内容に含んでいると理解すべきである。さらに、文脈上異なる場合を除いて、本出願に開示されている全ての要素の任意の順列および組合せが、本明細書に開示されていると見做すべきである。
【0012】
文脈上異なる場合を除き、明細書および特許請求の範囲を通して、用語「含んでいる"comprise"」およびその変化形(「含む」など)は、記載されている部材、整数または工程の包含を意図しており、記載されていない他の任意の部材、整数または工程を排除していないと解する。用語「からなる"consist of"」は、用語「含んでいる」の特定の実施形態である。用語「からなる」は、記載されていない他の任意の部材、整数または工程が排除されている。本発明に関連して、用語「含んでいる」には、用語「からなる」が包含されている。したがって、「含んでいる"comprising"」には、「有している"including"」および「構成されている"consisting"」の両方が包含されている。例えば、Xを「含んでいる」組成物は、Xのみから構成されていてもよいし、他の成分を有していてもよい(X+Yなど)。
【0013】
本発明の説明に関連して(とりわけ特許請求の範囲に関連して)、本明細書に別途記載があるかまたは文脈上明らかに矛盾する場合を除き、用語"a", "an", "the"および類似の語は、単数および複数のいずれもを含むと解釈する。本明細書における数値範囲の記載は、当該数値範囲に含まれている個々の離散値を省略して記載しているに過ぎない。本明細書に別途記載のない限り、個々の値は、これらの値のそれぞれが本明細書に記載されているかのごとく、本明細書に組込まれる。本明細書に記載のいずれの語も、クレームされていない何らかの要素が本発明の実施に必須であると解釈すべきではない。
【0014】
用語「実質的に」には、「完全に」も包含される。例えば、「実質的にYを含んでいない」組成物は、Yを完全に含んでいなくてもよい。必要に応じて、本発明の定義から、用語「実質的に」を省略することがある。
【0015】
数値xに関連して、用語「約」とは、x±20%を意味し、好ましくはx±10%を意味し、より好ましくはx±5%を意味し、より一層好ましくはx±2%を意味し、さらにより好ましくはx±1%を意味する。
【0016】
〔癌を処置するためのPAHおよび放射能標識された複合体の組合せ〕
本発明の第一の態様は、下記(a)および(b)を含んでいる、癌の処置における使用のためのを提供する。
(a)放射能標識された複合体であって、(i)放射性核種および(ii)キレート剤と連結している標的化分子を含んでいる複合体
(b)パラアミノ馬尿酸(PAH)またはその塩もしくはカルボン酸誘導体
【0017】
本発明者らが見出したところによると、驚くべきことに、放射能標識された複合体およびPAHを組合せ投与すると、放射能標識された複合体の抗腫瘍効果をさらに向上させる。とりわけ、放射線医薬品の単独療法と比較すると、腫瘍の増殖をさらに低減または遅延させることができる。同様に、PAHとの組合せによれば、放射線医薬品の単独療法よりも、生存期間がさらに延長されることが認められた。したがって、放射線医薬品およびPAHの組合せ投与によって、驚くべきことに、放射線医薬品の抗腫瘍効果がさらに向上する。従前、PAHは、腎血漿流量を測定する診断薬としてや、特定の医薬による腎毒性副作用を軽減する腎保護剤として知られていた。しかし、本発明者らが見出した放射線医薬品の抗腫瘍作用を向上させる効果は、全く予想外のものであった。
【0018】
本明細書において、用語「組合せ」とは、要素のあらゆる種類の組合せを表す。とりわけ、(a)放射能標識された複合体と、(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)と、任意成分としてさらなる要素との、あらゆる種類の組合せを表す。具体的には、組合せの要素を、共に(すなわち、組合せた様式で)提供および/または投与する。いくつかの実施形態において、組合せは、キットであってもよい。すなわち、例えば、(少なくとも一部の)要素は、別々の様式で含まれている。他の実施形態において、組合せは、組成物であってもよい。すなわち、例えば、要素が1つの組成物に含まれてもよい。
【0019】
〔放射能標識された複合体〕
放射線医薬品は、非金属性の(有機の)放射性核種を含んでいてもよいし(18F、11C、13N、15O、124Iなど)、放射性金属を含んでいてもよい(90Y、99mTc、111In、131l、67Ga、68Ga、64Cu、161Tb、225Ac、44Sc、47Sc、67Cu、89Zr、177Luなど)。ある種の放射性金属は、金属塩または金属錯体の形態で特定の組織を標的化できる。しかし、多くの場合は、放射性核種/放射性金属と標的化用の生体分子(標的化分子)との複合体が必要となる。これにより、放射性核種を標的部位(腫瘍組織など)に、標的化した様式で送達できるようになる。標的化分子は、例えば、有機小分子、ペプチド、モノクローナル抗体(mAb)、mAb断片でありうる。これらは、ビヒクル(担体;標的化分子)として作用し、放射性核種を標的組織に送達する。放射性核種と標的化用の生体分子(担体)とを安定に複合体化させるための最も簡潔なアプローチは、(二機能性の)キレート剤を使用することである。キレート剤は、典型的には、放射性核種と強固に結合または配位し、それと同時に、生体分子との複合体化に利用する機能性部分を提示する。したがって、本発明で使用する放射能標識された複合体は、好ましくは、(i)放射性核種および(ii)キレート剤と連結している標的化分子を含んでいる。
【0020】
(i)放射性核種および(ii)キレート剤と連結している標的化分子を含んでいる放射能標識された複合体としては、様々なものが本技術分野において周知である。放射能標識された複合体の特に好適な例は、国際公開第2018/215627号に開示されている(参照により本明細書に組込まれる)。本明細書に記載のPAHと組合せて癌を処置できる、市販の放射能標識された複合体のさらなる例としては、[177Lu]Lu-DOTATATE(Lutathera(R))、[131I]I-mIBG、153Sm-EDTMP(Quadramet(R))、89Sr塩化物、90Yを含有するマイクロスフェア(TheraSphereTMまたはSIR-Sphere(R))、イットリウム90イブリツモマブチウキセタン(Zevalin(R))が挙げられる。
【0021】
放射性リガンド療法(「放射線医薬品療法」や「ペプチド受容体放射性核種療法」とも称する)において、放射線医薬品は、放射性リガンドによって標識されている。放射性リガンドは、通常、(腫瘍)細胞の標的と特異的に結合する。細胞の標的の例としては、腫瘍細胞の表面タンパク質またはマーカーが挙げられる。化合物が腫瘍の標的(受容体など)と結合すると、放射性核種は、標的部位において、α線またはβ線を正確に標的細胞に放射する。
【0022】
[放射性核種]
様々な放射性核種(放射性同位体)を放射性核種療法に利用できることが、本技術分野において知られている。具体的に、用語「放射性核種(または放射性同位体)」とは、中性子-陽子比率が不安定であり、崩壊して微粒子を放射する、天然または人工の同位体を表す。微粒子の放射とは、陽子放射(α線)、電子放射(β線)または電磁放射(γ線)である。つまり、放射性核種は、放射性崩壊する。好ましくは、放射性核種は、癌の処置に有用な放射性核種である。好適な放射性核種の非限定的な例としては、18F、131I、94Tc、99mTc、90In、111In、67Ga、68Ga、86Y、90Y、177Lu、151Tb、186Re、188Re、64Cu、67Cu、55Co、57Co、43Sc、44Sc、47Sc、211At、225Ac、213Bi、212Bi、212Pb、223Ra、227Th、153Sm、166Ho、152Gd、153Gd、157Gd、166Dyが挙げられる。したがって、放射性核種は、上述した例のうちのいずれか1つであってもよい。
【0023】
好ましくは、癌を処置するための放射性核種は、組織への浸透距離が短い電離放射線を放射し、標的近傍にエネルギーを放出する。このような放射線核種の例としては、α粒子またはβ粒子が挙げられる。
【0024】
α粒子は、放射エネルギーにもよるが、組織内を50~100μm移動する(わずか細胞数個分の直径に相当する)。α粒子とは、放射性原子の原子核から放射される、正に帯電したヘリウム原子核である(2個の陽子および2個の中性子が含まれる)。α粒子は、典型的には、電子よりも遥かに大きく(桁数が異なる)、線エネルギー付与が大きい。α粒子の経路に及ぼされる実質的なダメージは、電子によるダメージよりも大きい。そのため、従来技術であるX線の外部照射やβ粒子よりも、生物学的効果が大きい。好適なα粒子源の例としては、211At(アスタチン211)、212Bi(ビスマス212)、212Pb(鉛212)、213Bi(ビスマス213)、225Ac(アクチニウム225)、223Ra(ラジウム223)、227Th(トリウム227)が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0025】
β粒子は、癌の放射性リガンド療法において最も一般的に利用されている。β粒子とは、原子核から放射される電子である。典型的には、β粒子は組織内を約1~5mm移動する。したがって、本発明に関連して、放射性核種は、β粒子源が好ましい。153Sm(サマリウム153)、177Lu(ルテチウム177)、90Y(イットリウム90)および131I(ヨウ素131)は、過去40年以上にわたり、β粒子源として一般的に利用されてきた。例えば、131I(ヨウ素131)は、甲状腺癌の処置に利用できる。好適なβ粒子源の例としては、90Y(イットリウム90)、131I(ヨウ素131)、153Sm(サマリウム153)、177Lu(ルテチウム177)および89Sr(ストロンチウム89)が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。これらのβ粒子源は、ヒトにおける標的化放射線治療での使用が承認されている。
【0026】
好適な放射性核種は、とりわけ、キレート剤の化学構造およびキレート能と、得られる複合体に所望される適用(処置すべき癌の種類および/またはステージなど)に左右される。一例を挙げると、90Y、131I、161Tb、177Luなどのβ粒子源は、全身性の放射性核種療法に利用できる。例えば、キレート剤であるDOTA、DOTAGAまたはDOTAMは、放射性核種である68Ga、43、44、47Sc、177Lu、161Tb、225Ac、213Bi、212Biまたは212Pbに対して有利に利用できる。
【0027】
好ましくは、放射性核種は、131Iまたは90Yである。より一層好ましくは、放射性核種は、177Lu(ルテチウム177)である。ルテチウム177は、100~200keVの光子を放射し、これは画像化に最適な範囲である。また、ルテチウム177が放射するβ粒子のエネルギーは、治療に適している。したがって、177Luは、診断・治療に有用である。つまり、同じ分子を使用して、腫瘍への取込みの評価や癌の程度を診断するのみならず、癌の治療もできる。さらに、177Luの半減期は、抗体およびペプチドのいずれの薬物動態とも整合している。177Luの利用範囲は広く、複合体化の化学も比較的単純である。
【0028】
[キレート剤]
放射能標識された複合体において、放射性核種である金属イオンは、通常、キレート剤の官能基(アミン、カルボン酸など)と非共有結合を形成している。キレート剤は、典型的には、このような配位を形成する官能基を2つ以上有しており、キレート複合体を形成できる。
【0029】
本明細書において、用語「キレート剤」とは、多座配位するリガンド(複数の結合箇所があるリガンド)を表す。キレート剤は、配位している中心(金属)イオン(とりわけ、放射性核種である金属イオン)との間に、2つ以上の別々の配位結合を形成できる。特に、このような分子のうち、1対の電子対を共有できる分子のことを、ルイス塩基とも称する。中心(金属)イオンには、通常、キレート剤から2対以上の電子対が配位している。用語「二座配位キレート剤」「三座配位キレート剤」および「四座配位キレート剤」とは、本技術分野において周知であり、それぞれ2対、3対および4対の電子対を有しているキレート剤を表す。これらの電子対は、キレート剤が配位している金属イオンに対して、容易に同時に供与されうる。通常、キレート剤の電子対は、1個の中心(金属)イオンとの間で配位結合を形成する。しかし、特定の例においては、キレート剤が2つ以上の金属イオンと配位結合を形成してもよい。このときの結合様式には、様々なものがある。
【0030】
用語「配位」とは、1個の中心(金属)イオンに対して、複数電子対を有している1個のドナーが配位結合する際における(つまり、2つ以上の非共有電子対を共有する際における)相互作用を表す。
【0031】
キレート剤は、好ましくは、一端に金属をキレートする基を有しており、他端に反応性官能基を有している、大環状二機能性キレート剤である。反応性官能基は、他の部分(ペプチドなど)と結合できる。好ましくは、キレート剤と放射性核種とが双四角錐の複合体を形成するように、キレート剤を選択する。他の実施形態において、キレート剤は、平面状の複合体または平面四角形の複合体を形成しない。
【0032】
所望の中心(金属)イオン(通常は本明細書に記載の放射性核種)に対する配位能に基づいて、キレート剤を選択できる。好ましくは、キレート剤は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、N,N''-ビス[2-ヒドロキシ-5-(カルボキシエチル)-ベンジル]エチレンジアミン-N,N''-二酢酸(HBED-CC)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、2-(4,7-ビス(カルボキシメチル)-1,4,7-トリアゾナン-1-イル)ペンタン二酸(NODAGA)、2-(4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)-ペンタン二酸(DOTAGA)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)、1,4,7-トリアザシドノナン-1-[メチル(2-カルボキシエチル)-ホスフィン酸]-4,7-ビス[メチル(2-ヒドロキシメチル)ホスフィン酸](NOPO)、3,6,9、15-テトラアザビシクロ[9,3,1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-三酢酸(PCTA)、N’-{5-[アセチル(ヒドロキシ)アミノ]ペンチル}-N-[5-({4-[(5-アミノペンチル)(ヒドロキシ)アミノ]-4-オキソブタノイル}アミノ)ペンチル]-N-ヒドロキシスクシンアミド(DFO)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(DO3A)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)から選択される。
【0033】
したがって、キレート剤は、下記式(1a)~(1jj)のうち1つであってもよい。
【化1】
【0034】
より好ましくは、キレート剤は、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸;式(1a)で表される)、DOTAGA(2-[1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-4,7,10-三酢酸]-ペンタン二酸;式(1gg)で表される)、DOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン;式(1kk)で表される)、またはその誘導体である。
【0035】
本発明に関連して、他の好適なキレート剤の例としては、2-(4,7-ビス(カルボキシメチル)-1,4,7-トリアゾナン-1-イル)-ペンタン二酸(NODAGA)、1,4,7-トリアザシクロ-ノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、HBED-CC(N,N''-ビス[2-ヒドロキシ-5-(カルボキシエチル)ベンジル]エチレンジアミン-N,N''-二酢酸)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)、1,4,7-トリアザシド-ノナン-1-[メチル(2-カルボキシエチル)-ホスフィン酸]-4,7-ビス-[メチル(2-ヒドロキシメチル)-ホスフィン酸](NOPO)、3,6,9,15-テトラ-アザビシクロ[9,3,1]-ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-三酢酸(PCTA)、N’-{5-[アセチル(ヒドロキシ)アミノ]-ペンチル}-N-[5-({4-[(5-アミノペンチル)(ヒドロキシ)アミノ]-4-オキソブタノイル}-アミノ)ペンチル]-N-ヒドロキシスクシンアミド(DFO)、ジエチレン-トリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびヒドラジノニコチンアミド(HYNIC)が挙げられる。
【0036】
特に好ましくは、キレート剤は、DOTAである。有利なことに、DOTAと治療用放射性核種(90Y、177Luなど)は、効果的に複合体を形成できる。スカンジウムの放射性核種(43Sc、44Sc、47Sc)と複合体を形成できるDOTA誘導体も、好適に利用できる。このような誘導体の例としては、DO3AP(式(1hh)で表される)、DO3APPrA(式(4ii)で表される)、DO3APABn(式(4jj)で表される)が挙げられる。Kerdjoudj et al. Dalton Trans., 2016, 45, 1398-1409をも参照。
【0037】
キレート剤(DOTAなど)は、任意の公知の放射性核種(とりわけ、上述の放射性核種)を中心(金属)イオンとして、複合体を形成していてよい。あるいは、キレート基(DOTAなど)は、中心(金属)イオン(とりわけ、本明細書に記載の放射性核種)と複合体を形成せずに、複合体化していない形態で存在していてもよい。キレート剤(DOTAなど)が金属イオンと複合体を形成していないとき、キレート剤のカルボン酸基は、遊離酸の形態であるか、または塩の形態であるかのいずれかである。
【0038】
本技術分野の当業者は、その技術および知識の範囲内で、複合体および放射性核種の好適な組合せを選択できる。いくつかの実施形態において、キレート剤はDOTAであり、放射性核種は131Iである。他の実施形態において、キレート剤はDOTAであり、放射性核種は90Yである。特に好ましくは、キレート剤はDOTAであり、放射性核種は177Luである。
【0039】
[標的化分子]
本明細書において、用語「標的化分子(標的化部分とも称する)」とは、標的(標的細胞など、例えば癌細胞)に対して(特異的に)結合できる分子を表す。具体的には、標的は、標的細胞(癌細胞など)の細胞表面に位置している分子であってもよい。標的化分子が結合する表面分子は、例えば、細胞表面に位置している受容体であってもよい。具体的には、表面分子は、標的細胞において特異的に発現または過剰に発現している(細胞マーカーなど)。したがって、標的化分子は、通常、処置または診断すべき疾患に応じて選択する。疾患(癌など)に関連して、放射能標識された複合体の標的となる細胞(癌細胞など)は、通常、特定の分子を発現している(あるいは、特定の分子を過剰発現している)。この分子を、標的(表面分子)として利用できる。標的化分子は、典型的には、標的(表面分子。つまり癌細胞などの標的細胞)と結合するように選択する。標的化分子と表面分子との結合は、可逆的であってもよいし、不可逆的であってもよい。いくつかの実施形態において、標的化分子は、ペプチド、ペプチド模倣体、抗体断片、抗体模倣体、小分子および結び目から選択される。好ましくは、標的化分子は、ペプチドもしくはポリペプチド、または、改変ペプチドもしくはポリペプチドである。
【0040】
様々な表面分子が本技術分野において周知であり、これらには標的化分子が好適に結合できる。以下では、標的化分子の標的構造となりうる腫瘍細胞における受容体および細胞表面分子の例について、詳細に説明する。ただし、標的構造は、下記に説明する受容体および細胞表面分子には限定されない。癌細胞または他の疾患の細胞に存在しているさらなる受容体および細胞表面分子も、標的化分子の標的構造となることが意図されている。また、癌細胞または他の疾患の細胞に存在している受容体および細胞表面分子を、さらなる標的化分子が標的化することも意図されている。
【0041】
(PSMA標的化化合物)
ヒト前立腺特異膜抗原(PSMA)は、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(GCPII)、葉酸ヒドロラーゼ1、葉酸ポリ-γ-グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ(FGCP)、N-アセチル化-α-関連性酸性ジペプチダーゼI(NAALADase I)としても知られる。この酵素は、タイプIIの膜貫通型亜鉛メタロペプチダーゼであり、神経系、前立腺、腎臓および小腸において最も高発現している。この酵素は、前立腺癌の腫瘍マーカーであると考えられている。本明細書において、好ましくは、用語「ヒト前立腺特異膜抗原」または「PSMA」は、ヒトFOLH1遺伝子によってコードされているタンパク質を表す。より好ましくは、この用語は、UniProt Acc. No. Q04609であるタンパク質か(entry version 186;最終更新:2017年5月10日)、またはその機能性バリアント、アイソフォーム、断片もしくは(翻訳後修飾または他の修飾を受けた)誘導体を表す。
【0042】
PSMAに結合する標的化分子は、一般的に、(ヒト)前立腺特異膜抗原に対して選択的に(そして任意構成で不可逆的に)結合できる対象であってよい(例えば、Chang Rev Urol. 2004; 6(Suppl 10): S13-S18を参照)。好ましくは、PSMA標的化分子を、PSMAに対する選択的な親和能に基づいて選択する。好適なPSMA結合部分は、国際公開第2013/022797号、国際公開第2015/055318号、欧州特許出願公開第2862857号に開示がある(これらの文献は、参照によりその全体が本明細書に組込まれる)。
【0043】
したがって、PSMA標的化分子は、好ましくは、一般式(2)で表されてもよい。
【化2】
【0044】
一般式(2)において、
Xは、O、N、SまたはPから選択される。
R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、-COH、-CO2H、-SO2H、-SO3H、-SO4H、-PO2H、-PO3H、-PO4H2、-C(O)-(C1~C10)アルキル、-C(O)-O(C1~C10)アルキル、-C(O)-NHR8または-C(O)-NR8R9から選択される。
R8およびR9は、それぞれ独立に、H、結合、(C1~C10)アルキレン、F、Cl、Br、I、C(O)、C(S)、-C(S)-NH-ベンジル-、-C(O)-NH-ベンジル、-C(O)-(C1~C10)アルキレン、-(CH2)p-NH、-(CH2)p-(C1-C10)アルキレン、-(CH2)p-NH-C(O)-(CH2)q、-(CHrCH2)t-NH-C(O)-(CH2)p、-(CH2)p-CO-COH、-(CH2)p-CO-CO2H、-(CH2)p-C(O)NH-C[(CH2)q-COH]3、-C[(CH2)p-COH]3、-(CH2)p-C(O)NH-C[(CH2)q-CO2H]3、-C[(CH2)p-CO2H]3または-(CH2)p-(C5~C14)ヘテロアリールから選択される。
b、p、q、r、tは、それぞれ独立に、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10から選択される整数である。
【0045】
好適なPSMA標的化分子においては、下記の条件を満たしていてもよい。
・bは、1、2、3、4または5から選択される整数である。
・R3、R4およびR5は、いずれも、CO2Hである。
・Xは、Oである。
【0046】
PSMAの細胞外ドメインと結合できるPSMA標的化小分子の好適な例としては、放射能標識されたN-[N-[(S)-1,3-ジカルボキシプロピル]カルバモイル]-S-[11C]メチル-l-システイン(DCFBC)、尿素系のPSMA阻害ペプチド模倣体(Bouchelouche et al. Discov Med. 2010 Jan; 9(44): 55-61を参照)、MIP-1095(Hillier et al. Cancer Res. 2009 Sep 1;69(17):6932-40)、Benesova et alにより開発されたDOTAと複合体化したPSMA阻害剤であるPSMA-617(JNM 2015, 56: 914-920および欧州特許出願公開第2862857号を参照)が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0047】
尿素系PSMAリガンドには、通常、3つの要素が含まれている。具体的には、結合モチーフ(Glu-尿素-Lys)、リンカー、および放射能標識を有している部分(キレート剤分子用の放射能標識またはフッ素化剤用の補欠分子団)である。最も一般的に使用されている低分子量のPSMAリガンドの例としては、123I-MIP-1072および123I-MIP-1095(Barrett JA et al. J Nucl Med. 2013; 54:380-387; Zechmann et al., Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2014; 41:1280-1292)、PSMA-617系キレート剤(Afshar-Oromieh A et al., J Nucl Med. 2015; 56:1697-1705)、PSMA-I&T(Weineisen M et al., J Nucl Med. 2015; 56:1169-1176)、PSMA-I&S(Robu S et al., J Nucl Med. 2017; 58:235-242)が挙げられる。さらに、18F標識された尿素誘導体小分子には、18F-DCFPyL(Chen Y et al., Clin Cancer Res. 2011; 17:7645-7653)および18F-PSMA-1007(Giesel FL et al., Eur J Nucl Med Molecular Imaging. 2017; 44:678-688)がある。
【0048】
近年では、Kelly et al.が、PSMAおよびヒト血清アルブミン(HSA)の両方に親和性がある薬剤を評価している(Dual-Target Binding Ligands with Modulated Pharmacokinetics for Endoradiotherapy of Prostate Cancer. J Nucl Med. 2017 Sep; 58(9): 1442-1449. doi: 10.2967/jnumed.116.188722)。Kelly et al.が開発したリガンドには、HSAと結合するp-(ヨードフェニル)酪酸部分と、尿素系PSMA結合部分とが含まれている。Kelly et al.が開発した化合物においては、放射線治療用ヨウ素(131I)がHSA結合部分に共有結合している。HSA結合部分は、ヒドロカルビル鎖を介してPSMA結合部分と直接に連結されている。
【0049】
他の例としては、アルブミン結合部分を有している177Lu標識したホスホロアミデート系PSMA阻害剤がある(Choy et al. Theranostics 2017; 7(7): 1928-1939)。キレート剤であるDOTAと放射性核種である177Luとの複合体が、エーテル結合を介して、不可逆的なPSMA阻害剤であるCTT1298と連結している(欧州特許出願公開2970345号)。
【0050】
したがって、放射能標識された複合体に含まれている標的化分子は、好ましくは、上述のPSMA標的化分子である。PSMA標的化分子は、上述の放射性核種(177Luなど)と複合体を形成しており、キレート剤分子と連結されていてもよい。
【0051】
標的化分子およびキレート剤は、通常、(放射能標識に好適な)複合体または分子を共に形成している。このような複合体または分子は、様々なものが本技術分野において周知である。キレート剤およびPSMAと結合する標的化分子を含んでいる好適な複合体は、国際公開第2018/215627号に開示がある(この文献は、参照により本明細書に組込まれる)。
【0052】
標的化分子およびキレート剤を含んでいる複合体の好適な例としては、PSMA-617(下記式(3))、PSMA-I&T(下記式(4))、Ibu-Dα-PSMA(下記式(5))が挙げられる。
【化3】
【0053】
(ソマトスタチン受容体標的化化合物)
特に好適な他の標的化分子は、ソマトスタチン受容体と結合する。ソマトスタチン受容体と結合する分子は、本技術分野において周知である(ソマトスタチンアナログなど)。好ましくは、標的化分子は、ソマトスタチン受容体と結合するペプチドである。より好ましくは、ソマトスタチン受容体と結合するペプチドは、オクトレオチド、オクトレオテート、ランレオチド、バプレオチド、パシレオチド、イラトレオチド、ペンテトレオチド、デプレオチド、サトレオチド、ベルドレオチドから選択される。より一層好ましくは、標的化分子は、ソマトスタチン受容体に結合するペプチドであり、オクトレオチドおよびオクトレオテートから選択される。
【0054】
特に、中分化神経内分泌腫瘍(NET)を良好に処置するためには、ソマトスタチン受容体(SSTR)を標的化するペプチドを使用してもよい。NETにおいては、放射性リガンド療法がよく確立されており、長期にわたる腫瘍の寛解・安定化が高い割合で見られる。ソマトスタチン受容体を標的化するペプチドは、例えば、ソマトスタチンアナログであるTyr3-オクトレオチド(D-Phe-c(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)-Thr(ol))およびTyr3-オクトレオテート(D-Phe-c(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)-Thr)であってもよい(Capello A et al.: Tyr3-octreotide and Tyr3-octreotate radiolabeled with 177Lu or 90Y: peptide receptor radionuclide therapy results in vitro, Cancer Biother Radiopharm, 2003 Oct; 18(5): 761-8)。ソマトスタチン受容体アゴニストのさらなる例としては、ペプチドであるオクトレオチド(D-Phe-cyclo(Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、NOC(D-Phe-cyclo(Cys-1-Nal-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))が挙げられる。
【0055】
ソマトスタチン受容体を標的化化合物の他の例としては、ソマトスタチンアンタゴニストペプチドが挙げられる。その例としては、JR10(p-NO2-Phe-c(D-Cys-Tyr-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH2)、JR11(Cpa-c(D-Cys-Aph(Hor)-d-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH2)、BASS((p-NO2-Phe-cyclo(D-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH2)、LM3(p-Cl-Phe-cyclo(D-Cys-Tyr-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH2)が挙げられる。
【0056】
ソマトスタチンアナログ系の(放射線)医薬の好適な例としては、177Lu-DOTATOC(177Lu-DOTA-[Tyr3]-オクトレオチド;177Lu-DOTA-D-Phe-cyclo(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys]-Thr(ol))、177Lu-DOTANOC(177Lu-DOTA-D-Phe-cyclo(Cys-1-Nal-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、177Lu-DOTATATE(177Lu-DOTA-D-Phe-cyclo(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr)、68Ga-DOTATOC(68Ga-DOTA-D-Phe-cyclo(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、68Ga-DOTANOC(68Ga-DOTA-D-Phe-cyclo(Cys-1-Nal-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、90Y-DOTATOC(90Y-DOTA-D-Phe-cyclo(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、90Y-DOTATATE(90Y-DOTA-D-Phe-cyclo(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr)、111In-DTPA-オクトレオチド(111In-DTPA-D-Phe-cyclo(Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0057】
ソマトスタチンアナログ系の(放射線)医薬のさらなる例としては、111In-DOTA-BASS(111In-DOTA-p-NO2-Phe-cyclo-(D-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH2)、111In-DOTA-JR11(111In-DOTA-Cpa-cyclo[D-Cys-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys]D-Tyr-NH2)、68Ga-DOTA-JR11(Ga-OpS201;68Ga-DOTA-Cpa-cyclo[D-Cys-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys]D-Tyr-NH2)、68Ga-DODAGA-JR11(Ga-OPS202;68Ga-NODAGA-Cpa-cyclo[D-Cys-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys]D-Tyr-NH2)、177Lu-DOTA-JR11(Lu-OPS201;177Lu-DOTA-Cpa-cyclo[D-Cys-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys]D-Tyr-NH2)が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0058】
したがって、放射能標識された複合体に含まれている標的化分子は、好ましくは、ソマトスタチン受容体標的化分子である。ソマトスタチン受容体標的化分子は、上述の放射性核種(177Luなど)と複合体を形成しており、キレート剤分子と連結されていてもよい。
【0059】
キレート剤およびソマトスタチン受容体と結合できる標的化分子を含んでいる好適な複合体の例としては、DOTA-OC([DOTA0,D-Phe1]オクトレオチド)、DOTATOC([DOTA0,D-Phe1,Tyr3]オクトレオチド;INN:エドトレオチド)、DOTANOC([DOTA0,D-Phe1,1-Nal3]オクトレオチド)、DOTATATE([DOTA0,D-Phe1,Tyr3]オクトレオテート;INN:オキソドトレオチド)、DOTALAN([DOTA0,D-β-Nal3]オクトレオチド)、DOTAVAP([DOTA0,D-Phe1,Tyr3]バプレオチド)、サトレオチドトリゾキセタン、サトレオチドテトラキセタンが挙げられる。より好ましくは、キレート剤および標的化分子を含んでいる分子は、DOTATOCおよびDOTATATEから選択される。
【0060】
したがって、放射能標識された複合体は、好ましくは、(i)放射性核種と(ii)DOTATOCもしくはDOTATATEとを含んでいるか、またはそれらからなる。特に好ましくは、放射能標識された複合体(放射性核種、標的化分子およびキレート剤を含んでいる)は、177Lu-DOTATOC(177Lu-エドトレオチド)または177Lu-DOTATATE(177Lu-オキソドトレオチド)である。
【0061】
(葉酸複合体)
標的化療法のコンセプトでは、腫瘍関連標的として葉酸受容体α(FR-α)が大きな注目を集めている。in vitroおよびin vivoにおけるFR陽性腫瘍細胞の標的化について、多くの研究グループが、葉酸複合体および様々な治療プローブを利用して先行研究を残している。このように、葉酸の放射性複合体を利用するとすれば、FRは有用な原子核の標的であることが立証されている。
【0062】
しかし、治療用の葉酸系放射線医薬品は、到達できない目標であると長らく考えられていた。これは、腎臓への蓄積が無視できないためである。ところが、放射能標識された複合体とPAHとの組合せによれば、in vivoにおいて、望まない箇所における放射線医薬品の蓄積を低減でき、それゆえ、腫瘍-腎臓比率を高められる。
【0063】
葉酸複合体である放射線医薬品の好適な例としては、99mTcを用いたもの(Guo et al., J Nucl Med. 1999; 40: 1563-1569; Mathias et al., Bioconjug Chem. 2000; 11:253-257; Leamon et al., Bioconjug Chem. 2002; 13:1200-1210; Reddy et al., J Nucl. Med. 2004; 45:857-866; Mueller et al., J Nucl Med Mol Imaging 2006; 33:1007-1016; Mueller et al., Bioconjug Chem. 2006; 17:797-806)、111Inを用いたもの(Siegel et al., J Nucl Med. 2003; 44:700-707)、66/67/68Gaを用いたもの(Mathias et al., Nucl Med Biol. 1999; 26:23-25; Mathias et al., Nucl Med Biol. 2003; 30:725-731)、18Fを用いたもの(Bettio et al., J Nucl Med. 2006; 47:1153-1160)が挙げられる。
【0064】
葉酸複合体の代表例としては、
111In-DTPA-葉酸、
177Lu-EC0800、
177Lu-cm09、
149/161Tb-cm09、
99mTc(CO)
3、
99mTc-EC20、
111In-DTPA-葉酸、
111In/
177Lu-DOTA-click-葉酸、
67Ga-DOTA-Bz-葉酸(
67Ga-EC0800)、
68Ga-NODAGA-葉酸、式(6)の複合体が挙げられる。
【化4】
【0065】
(CCK2受容体標的化化合物)
PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、CCK2受容体を標的化する放射線医薬品との組合せも、好適に使用できる。
【0066】
CCK2受容体(コレシストキニン)は、中枢神経および末梢神経に位置しており、ある種のヒトの癌(甲状腺髄様癌、小細胞肺癌、間質性卵巣癌)では過剰発現している。in vivoにおいてCCK2受容体を標的化するための、好適な放射性リガンドの開発がなされている。様々な放射能標識されたCCK/ガストリン関連ペプチドが合成され、特徴付けされている。全てのペプチドは、CCK受容体と結合するテトラペプチド配列(Trp-Met-Asp-Phe-NH2)またはその誘導体を、C末端に共通して有している。これらのペプチドは、元となったペプチド(ガストリンまたはCCK)の配列や、その形状(線状、環状、多量体)に基づいて分類できる。
【0067】
CCK受容体リガンドの例としては、ガストリンアナログおよびCCK8アナログが挙げられる。ガストリンアナログの例としては、サルガストリン(Gln-Gly-Pro-Trp-Leu-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH2)、ミニガストリン0(MG-0;d-Glu-(Glu)5-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)、ミニガストリン11(MG-11;d-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)、シクロ-ミニガストリン1(cyclo-MG1;cyclo[γ-D-Glu-Ala-Tyr-D-Lys]-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)、シクロ-ミニガストリン2(cyclo-MG2;cyclo[γ-D-Glu-Ala-Tyr-D-Lys]-Trp-Nle-Asp-Phe-NH2)、デモガストリン1(d-Glu-(Glu)5-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)、デモガストリン2(d-Glu-(Glu)5-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)、H2-Met(His-His-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)、H2-Nle(His-His-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH2)、H6-Met((His)6-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)が挙げられる。CCK8アナログの例としては、CCK8(d-Asp-Tyr-Met-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)、CCK8(Nle)(d-Asp-Tyr-Nle-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH2)、sCCK8(D-Asp-Tyr(OSO3H)-Met-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)、sCCK8([Phe2(p-CH2SO3H),Nle3,6](d-Asp-Phe(p-CH2SO3H)-Nle-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH2)、sCCK8([Phe2(p-CH2SO3H),HPG3,6](d-Asp-Phe(p-CH2SO3H)-HPG-Gly-Trp-HPG-Asp-Phe-NH2)が挙げられる。
【0068】
CCK受容体を標的化するペプチドは、好ましくは、画像化適用または治療適用のために、放射性核種によって放射能標識されている。好適な放射性核種の例としては、上述した放射性核種が挙げられる。特に好適な放射性核種の例としては、99mTc、111In、18F、68Ga、131I、90Y、177Luが挙げられる。放射性核種で放射能標識するために、好ましくは、ペプチドと複合体化したキレート剤を利用する。キレート剤としては、上述したキレート剤を利用できる。その中でも、DOTA、DOTAGA、DOTAM、DTPA、HYNICが好ましい。
【0069】
したがって、放射能標識された複合体は、CCK2受容体標的化分子およびCCK8アナログを含んでいてもよい。CCK2受容体標的化分子の例としては、177Lu-DOTA-サルガストリン、111In-DTPA-MG0、111In-DOTA-MG11、111In-DOTA-MG11(Nle)、111In-DOTA-H2-Met、111In-DOTA-H2-Nle、111In-DOTA-H6-Met、[99mTc]2N4
0、d-Glu1-MG(99mTc-デモガストリン1)、[99mTc]2N4
0-1,Gly0,d-Glu1-MG(99mTc-デモガストリン2)、99mTc-HYNIC-MG11、99mTc-HYNIC-cyclo-MG1、99mTc-HYNIC-cyclo-MG2が挙げられる。CCK8アナログの例としては、111In-DTPA-CCK8、111In-DTPA-CCK8(Nle)、99mTc-HYNIC-CCK8、99mTc-HYNIC-sCCK8、111In-DOTA-sCCK8[Phe2(p-CH2SO3H),Nle3,6]、111In-DOTA-sCCK8[Phe2(p-CH2SO3H),HPG3,6]が挙げられる。
【0070】
(インテグリン結合分子)
PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、インテグリンを標的化する放射線医薬品との組合せも、好適に使用できる。
【0071】
インテグリンは、αサブユニットおよびβサブユニットからなる、ヘテロ二量体の糖タンパク質である。8個のβユニットおよび18個のαユニットについて、24種類の異なる組合せが知られている。インテグリンは、細胞-細胞および細胞-マトリクスの相互作用を媒介し、内から外および外から内のシグナリングによって原形質膜を跨いでシグナルを伝達する。ある種のインテグリンは、内皮細胞および腫瘍細胞の遊走や、腫瘍に誘導される血管新生、腫瘍の転移に重要な役割を果たす。血管新生とは、既に存在する脈管系からの新たな血管の形成である。これは、様々なヒトの腫瘍の発生および播種において、重要なステップである。腫瘍学における多種多様な治療戦略が、腫瘍に誘導される血管新生の阻害に焦点を当ててきた。インテグリンに関しては、インテグリンαVβ3およびインテグリンαVβ5の役割に多大な注目が払われてきた。これらは、血管内皮細胞の増殖において顕著であるためである。それゆえ、血管新生を画像化するための放射線医薬品の開発において、インテグリンαVβ3は、最も目立つ標的構造の一つである。
【0072】
Arg-Gly-Asp(RGD)というアミノ酸配列を有している小ペプチドによって、αVβ3インテグリンを拮抗阻害すると、腫瘍に誘導される血管新生をin vivoにおいて阻害できる。このトリペプチド配列は、天然には細胞外基質タンパク質に存在しており、αVβ3インテグリンの結合部位にとって特に重要である。腫瘍内ではαVβ3インテグリンが選択的に発現しているので、放射能標識されたRGDペプチドは、腫瘍内のαVβ3インテグリンを標的化する有望な候補である。過去10年間にわたり、数多くの線状および環状の放射能標識されたRGDペプチドが、SPECTまたはPETで腫瘍を画像化するための放射性トレーサーとして評価されてきたし、治療剤としても評価されてきた。
【0073】
PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、放射能標識されたRGDペプチドを含んでいる放射線医薬品との組合せも、好適に使用できる。
【0074】
好適な放射性核種の例としては、上述した放射性核種が挙げられる。特に好適な放射性核種の例としては、18F、99mTc、68Ga、111In、131I、90Y、67Cu、177Luが挙げられる。放射性核種で放射能標識するために、好ましくは、ペプチドと複合体化したキレート剤を利用する。キレート剤としては、任意の適切なキレート剤を利用できる(上述したキレート剤など)。その中でも、NOTA、DOTA、DOTAGA、DOTAM、DTPA、HYNICが好ましい。
【0075】
例えば、PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、18F-ガラクト-RGD、99mTc-NC100692(99mTc-マラシクラチド)、18F-AH11185(18F-フルシクラチド)、18F-RGD-K5、68Ga-NOTA-RGD、18F-FPPRGD2、18F-AlF-NOTA-PRGD2(18F-アルファチド)、18F-NOTA-E[PEG4-c(RGDfK)]2(18F-アルファチドII)、68Ga-NOTA-PRGD2、67Cu-サイクラム-RAFT-c(-RGDfK-)4、111In-DOTA-E-[c(RGDfK)]2、99mTc-HYNIC-E-[c(RGDfK)]2との組合せも、好適に使用できる。
【0076】
(ニューロテンシン受容体標的化化合物)
ニューロテンシン受容体1(NTR1)は、膵管腺癌において過剰発現している(この癌は、死亡率が最も高い癌の一種である)。NTR1アンタゴニストが何種類か開発されている。その例としては、SR142948A、SR48692が挙げられる。また、177Lu-3BP-2273は、177Lu標識されたDOTAとNTR1アンタゴニストとの複合体であり、SR142948Aを元に開発された。177Lu-3BP-2273は、は、膵管腺癌の処置に使用されている(Baum RP et al., The Journal of Nuclear Medicine, Vol. 59, No. 5, May 2018)。
【0077】
したがって、PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、ニューロテンシン受容体1を標的化する放射線医薬品との組合せも、癌の診断または治療に好適に使用できる。放射線医薬品は、具体的には放射能標識されたNTR1アンタゴニストであり、好ましくは177Luまたは68Gaで標識されたNTR1アンタゴニストであり、より好ましくは177Lu-3BP-2273である。ただし、他の放射性核種(上述した放射性核種など)や、他のキレート剤(上述したキレート剤など)を意図することもある。
【0078】
(グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体標的化化合物)
GLP-1受容体は、原則的に全ての良性インスリノーマおよびガストリノーマにおいて過剰発現している。良性インスリノーマは、膵臓のβ細胞に発生し、小結節として現れる。良性インスリノーマはインスリンを分泌するので、潜在的に死の危険がある低血糖を生じさせる。
【0079】
したがって、PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、GLP-1受容体を標的化する放射線医薬品との組合せも、好適に使用できる。このような放射線医薬の非限定的な例としては、111In、99mTcおよび68Gaで標識された、エキセンジン4(39アミノ酸のペプチド)系のペプチドが挙げられる。具体例としては、Lys40(Ahx-DOTA-111In)NH2-エキセンジン4が挙げられる。ただし、他の放射性核種(上述した放射性核種など)や、他のキレート剤(上述したキレート剤など)を意図することもある。
【0080】
(ガストリン放出ペプチド(GRP)受容体標的化化合物)
PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、GRP受容体を標的化する放射線医薬品との組合せも、好適に使用できる。
【0081】
ヒトの主要な腫瘍には、GRP受容体が存在することが示されている(乳癌、前立腺癌など)。ボンベシンは、14アミノ酸長の神経ホルモンであり、哺乳動物のGRP(27アミノ酸長のペプチド)の両生類におけるホモログである。ボンベシンアナログおよびボンベシンアンタゴニストが何種類か開発され、様々なキレート剤を利用して、放射性同位体(68Ga、64Cu、18Fなど)により標識化されている。その例としては、パンボンベシンアナログである68Ga-BZH3(Zhang H et al., Cancer Res 2004; 64: 6707-6715)、177Lu標識したボンベシン(7-14)誘導体がGly-4-アミノベンゾイルスペーサーを介してDOTAと連結されているもの(Bodei L et al., Eur J Nucl Med Mol Imaging 2007: 34(suppl 2): S221)が挙げられる。
【0082】
ただし、PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体とGRP受容体を標的化する放射線医薬品との組合せであって、他の放射性核種(上述した放射性核種など)や、他のキレート剤(上述したキレート剤など)を含んでいるものも、好適に使用できる。
【0083】
(ニューロキニン1受容体標的化化合物)
ニューロキニン1受容体は、神経膠腫細胞および腫瘍血管において恒常的に過剰発現している(Hennig IM et al., Int J Cancer 1995; 61: 786-792)。放射能標識された11アミノ酸長のペプチドである物質P(Arg Pro Lys Pro Gln Gln Phe Phe Gly Leu Met)は、ニューロキニン1受容体を介して作用し、悪性神経膠腫に対する標的として好適に利用できる。とりわけ、物質Pとキレート剤であるDOTAGAとは複合体化されており、90Yで標識化されたDOTAGA-物質Pは臨床研究で使用されている(Kneifel S et al., Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2007; 34: 1388-1395)。他の研究によると、脳腫瘍の標的化α放射性核種療法における実現可能性および有効性が、α線を放射する複合体である213Bi-DOTA-[THi8,Met(O2)11]-物質Pを使用して評価されている(Cordier et al., Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2010; 37: 1335-1344)。
【0084】
したがって、PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、ニューロキニン1受容体を標的化する放射線医薬品との組合せも、好適に使用できる。とりわけ、放射性核種および放射性核種に配位しているキレート剤を含んでいる物質P複合体は、特に好適に使用できる。
【0085】
(アリフィン)
PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と、抗体模倣体を含んでいる放射線医薬品との組合せも、好適に使用できる。
【0086】
アリフィンは人工タンパク質であり、抗原に選択的に結合するように設計されている。アリフィンタンパク質の構造は、ヒトユビキチンまたはγ-Bクリスタリンに由来している。アリフィンタンパク質は、これらのタンパク質における表面に露出するアミノ酸を改変し、提示技術(ファージディスプレイなど)およびスクリーニングによって単離している。アフィリンと抗体とは、抗原に対する親和性および特異性を示す点において共通するが、構造は異なっている。そのため、アフィリンは抗体模倣体の一種に分類されている。Affilin(R)は、生物薬学的医薬、診断用リガンドおよび親和性リガンドの潜在候補として、Scil Proteins GmbHによって開発された。アリフィン分子は改変が容易で、腫瘍細胞の殺傷(とりわけ、放射線照射による殺傷)に適している。
【0087】
多重特異性アリフィン分子も作製でき、これらは異なる標的に同時に結合する。放射性核種または細胞毒素をアリフィンタンパク質と複合体化することができ、これにより、腫瘍治療や診断への利用可能性が生まれている。放射性核種-キレート剤-アリフィン複合体が既に治療目的で設計されている(177Lu-DOTA-アリフィンなど)。PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体とアリフィン複合体との組合せも、好適に使用できる。また、他の放射性核種(上述したものなど)および他のキレート剤(上述したものなど)を含んでいる、さらなるアリフィン複合体との組合せにおいて使用してもよい。
【0088】
放射能標識された複合体の標的化分子が標的とする特に好適な表面分子は、PSMAおよびソマトスタチン受容体である。したがって、標的化分子は、好ましくは、PSMAまたはソマトスタチン受容体と結合できる(上述の標的化分子など)。
【0089】
標的化分子とキレート剤とは、直接的に連結されていてもよいし、間接的に連結されていてもよい(リンカーまたはスペーサーを使用するなどして)。標的化分子と、任意構成のリンカーまたはスペーサーと、キレート剤との間の連結の結合は、共有結合であってもよいし、非共有結合であってもよい。好ましくは、結合は、共有結合である。好ましくは、放射能標識された複合体は、リンカーを含んでいる。特に好適なリンカーおよびスペーサーは、国際公開第2018/215627号および国際公開第2020/109523号に開示されている(これらの文献は、参照により本明細書に組込まれる)。
【0090】
〔パラアミノ馬尿酸(PAH)〕
アミノ馬尿酸またはパラアミノ馬尿酸(PAH)とは、馬尿酸の誘導体であり、アミノ酸のグリシンとパラアミノ安息香酸とのアミド誘導体である。PAHは、正常な人体には見られない。グリシンとパラアミノ安息香酸とは、アミド結合により共有結合している。パラアミノ馬尿酸(PAH)の構造式を式(7)に示す。
【化5】
【0091】
PAHのナトリウム塩であるアミノ馬尿酸ナトリウムは、診断薬として知られており、腎機能の診断試験(とりわけ、腎血漿流量の測定)に広く使用されている。アミノ馬尿酸ナトリウム(パラアミノ馬尿酸ナトリウム)の構造式を式(8)に示す。
【化6】
【0092】
本明細書においては、用語「アミノ馬尿酸」「パラアミノ馬尿酸」および「PAH」を同義の語として用いる。別途記載のない限り、これらの語によって、パラアミノ馬尿酸、パラアミノ馬尿酸の塩(アミノ馬尿酸塩、とりわけ、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩)、およびパラアミノ馬尿酸のカルボン酸誘導体を一般的に表す。好ましくは、用語「アミノ馬尿酸」「パラアミノ馬尿酸」および「PAH」は、パラアミノ馬尿酸およびその塩(アミノ馬尿酸塩、とりわけ、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩)を表す。
【0093】
典型的には、PAHは、保存剤を含んでいない無菌の20%注射用水溶液として提供される。一般的に、PAHは忍容性が高く、実質的に副作用を呈さない。PAHの毒性は無視できる程度である(メスのマウスに静脈内投与したときのLD50は、7.22g/kgである)。嘔吐、悪心、高カリウム血症などの症状は報告されていないか、報告されていたとしてもごく稀である。
【0094】
いくつかの実施形態において、本発明の組合せは、(a)本明細書に記載の放射能標識された複合体と、(b)パラアミノ馬尿酸のカルボン酸誘導体を含んでいる。好ましくはは、この組合せは、パラアミノ馬尿酸またはその塩を含んでいない。
【0095】
好適なパラアミノ馬尿酸のカルボン酸誘導体は、PAHと同じ輸送体を介して、その効果を及ぼす。具体的に、「カルボン酸誘導体」とは、ベンゾイル部分とアミド結合を介して共有結合しているアミノ酢酸基(グリシン基)の、カルボン酸部分が保存されている誘導体である。したがって、このようなカルボン酸誘導体とは、典型的には、馬尿酸または馬尿酸誘導体であって、フェニル環系の置換基パターンが「パラ位に1個のアミノ置換基(PAHに対応)」ではないものである。
【0096】
いくつかの実施形態において、PAHのカルボン酸誘導体は、馬尿酸であってもよい。あるいは、PAHのカルボン酸誘導体は、NH2、I、ClおよびCH3からなる群より選択される1個以上の置換基によって誘導された馬尿酸であってもよい(ただし、PAHを除く)。
【0097】
いくつかの実施形態において、PAHのカルボン酸誘導体は、馬尿酸および馬尿酸誘導体であってもよい。この馬尿酸誘導体は、NH
2、I、ClおよびCH
3からなる群より選択される1個の置換基を有しており、式(9)で表されることを特徴とする(ただし、PAHを除く)。
【化7】
【0098】
カルボン酸誘導体は、例えば、環におけるアミノ置換基の位置がパラ位以外にあるアミノ馬尿酸であってもよいし(PAHに対応するものを除く)、2個以上のアミノ置換基を有しているアミノ馬尿酸であってもよいし、I、ClおよびCH3のうち1種類以上を有しているアミノ馬尿酸であってもよい。カルボン酸誘導体のより具体的な群は、馬尿酸、p-メチル馬尿酸、クロロ馬尿酸およびo-ヨード馬尿酸であってもよい。パラアミノ馬尿酸のカルボン酸誘導体の非限定的な例としては、好適には、馬尿酸、o-ヨード馬尿酸が挙げられる。
【0099】
好ましくは、本発明の組合せは、(a)本明細書に記載の放射能標識された複合体と、(b)パラアミノ馬尿酸とを含んでいる。好ましくは、この組合せは、パラアミノ馬尿酸の塩またはカルボン酸誘導体を含んでいない。
【0100】
より好ましくは、本発明の組合せは、(a)本明細書に記載の放射能標識された複合体と、(b)パラアミノ馬尿酸の塩とを含んでいる。好ましくは、この組合せは、パラアミノ馬尿酸またはそのカルボン酸誘導体を含んでいない。PAHの好適な塩の例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。PAHのナトリウム塩(アミノ馬尿酸ナトリウム)が特に好ましい。理解すべきことには、PAHの塩は、通常、薬学的に許容できるPAHの塩であり、とりわけ、有効投与量を投与した際に毒性を示さない塩である。
【0101】
好ましくは、PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)は、緩衝水溶液に含まれている。緩衝水溶液の例としては、注射用水(WFI)などの等張または高張な水溶液が挙げられる。特に好ましくは、注射用溶液としてPAHを提供する。注射溶液の例としては、10%(w/v)PAH(とりわけアミノ馬尿酸ナトリウム)注射用溶液、20%(w/v)PAH(とりわけアミノ馬尿酸ナトリウム)注射用溶液が挙げられる。このようなPAH注射用溶液は市販されている。PAH注射用溶液は、PAH(とりわけアミノ馬尿酸ナトリウム)および注射用水を含んでいてもよい。好ましくは、PAH注射用溶液は、PAH以外の有効成分を含んでいない。
【0102】
本発明において、PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用量は、放射能標識された複合体による抗腫瘍効果を上首尾に向上させるのに充分な量である。PAHの有効量は、例えば動物モデルを使用した通常の実験により決定できる。モデルの例としては、ウサギモデル、ヒツジモデル、マウスモデル、ラットモデル、イヌモデル、非ヒト霊長類モデルが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0103】
例えば、体重1kgあたりのPAHの投与量は、約0.1mg/kg~10g/kgであってよく、好ましくは約0.5mg/kg~5g/kgであり、より好ましくは約1mg/kg~1g/kgである。
【0104】
好ましくは、体重1kgあたりのPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用量は、約5mg~約500mgである。このような使用量の例としては、体重1kgあたり、約5mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mgから、最大で500mgの範囲が挙げられる。より好ましくは、体重1kgあたりのPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用量は、約50mg~約500mgであり、より好ましくは約50mg~約250mgである。このような使用量の例としては、体重1kgあたり、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mgまたは約250mgが挙げられる。より一層好ましくは、体重1kgあたりのPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用量は、約75mg~約200mgである。このような使用量の例としては、体重1kgあたり、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約105mg、約110mg、約115mg、約120mg、約125mg、約130mg、約135mg、約140mg、約145mg、約150mg、約155mg、約160mg、約165mg、約170mg、約175mg、約180mg、約185mg、約190mg、約195mgから最大で約200mgの範囲や、体重1kgあたり約200mgが挙げられる。さらにより好ましくは、体重1kgあたりのPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用量は、約80mg~約160mgである。このような使用量の例としては、体重1kgあたり、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約105mg、約110mg、約115mg、約120mg、約125mg、約130mg、約135mg、約140mg、約145mg、約150mg、約155mgから最大で約160mgの範囲や、体重1kgあたり約160mgが挙げられる。
【0105】
好ましくは、本明細書に記載の(共投与する)放射能標識された複合体よりも多くの量(モルおよび/またはw/w)のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体を使用する。
【0106】
いくつかの実施形態においては、放射能標識された複合体およびPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体、好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用比率は、約1/1,000,000(w/w)~1/10(w/w)であり、好ましくは約1/500,000~1/100(w/w)であり、より好ましくは約1/250,000(w/w)~約1/500(w/w)である。
【0107】
好ましくは、放射能標識された複合体およびPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体、好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用比率は、約1/250,000(w/w)~約1/5,000(w/w)である。このような使用比率の例としては、約1/250,000(w/w)、約1/200,000(w/w)、約1/150,000(w/w)、約1/100,000(w/w)または約1/50,000(w/w)から、約1/5,000(w/w)の範囲が挙げられる。より好ましくは、使用比率は、約1/240,000(w/w)~約1/8,000(w/w)である。このような使用比率の例としては、約1/240,000(w/w)、約1/230,000(w/w)、約1/220,000(w/w)、約1/210,000(w/w)、約1/200,000(w/w)、約1/190,000(w/w)、約1/180,000(w/w)、約1/170,000(w/w)、約1/160,000(w/w)、約1/150,000(w/w)、約1/140,000(w/w)、約1/130,000(w/w)、約1/120,000(w/w)、約1/110,000(w/w)、約1/100,000(w/w)、約1/90,000(w/w)、約1/80,000(w/w)、約1/70,000(w/w)、約1/60,000(w/w)、約1/50,000(w/w)、約1/40,000(w/w)、約1/30,000(w/w)、約1/20,000(w/w)、約1/19,000(w/w)、約1/18,000(w/w)、約1/17,000(w/w)、約1/16,000(w/w)、約1/15,000(w/w)、約1/14,000(w/w)、約1/13,000(w/w)、約1/12,000(w/w)、約1/11,000(w/w)、約1/10,000(w/w)、約1/9,000(w/w)または約1/8,000(w/w)が挙げられる。同じく好ましくは、放射能標識された複合体およびPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体、好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用比率は、約1/100,000(w/w)~約1/10,000(w/w)である。このような使用比率の例としては、約1/100,000(w/w)、約1/95,000(w/w)、約1/90,000(w/w)、約1/85,000(w/w)、約1/80,000(w/w)、約1/75,000(w/w)、約1/70,000(w/w)、約1/65,000(w/w)、約1/60,000、1/55,000(w/w)、約1/50,000(w/w)、約1/45,000(w/w)、約1/40,000(w/w)、約1/35,000(w/w)、約1/30,000(w/w)、約1/25,000(w/w)、約1/20,000(w/w)、約1/15,000(w/w)、約1/10,000(w/w)が挙げられる。同じく好ましくは、放射能標識された複合体およびPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体、好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の使用比率は、約1/50,000(w/w)~約1/40,000(w/w)である。このような使用比率の例としては、約1/50,000(w/w)、約1/49,000(w/w)、約1/48,000(w/w)、約1/47,000(w/w)、約1/46,000(w/w)、約1/45,000(w/w)、約1/44,000(w/w)、約1/43,000(w/w)、約1/42,000(w/w)、約1/41,000(w/w)、約1/40,000(w/w)が挙げられる。
【0108】
〔治療および使用〕
上述の組合せは、癌の処置において使用する。したがって、本発明は、それを必要とする被験体において癌を処置する、または抗腫瘍反応を開始、促進もしくは延長させる方法であって、当該被験体に上述の組合せを投与する工程を有する方法を提供する。また、本発明は、上述の組合せを投与する工程を有する、癌を処置するための併用療法をも提供する。いくつかの実施形態において、被験体はヒトであり、特にヒトの癌患者である。ヒトは、18歳以上のヒトであってもよい。
【0109】
さらに、本発明は、癌の処置における使用のための、上述のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体を提供する。ここで、上述のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体は、上述の放射能標識された複合体と組合せて投与する。
【0110】
一般的に、放射性核種療法を適用する癌は、放射性核種を送達する標的化の基準を満たしている任意の癌であってよい。PAHおよび放射能標識された複合体の組合せ投与により、放射能標識された複合体の抗腫瘍効果が向上する。そのため、この組合せ投与は、任意の放射性核種による癌治療に適用できる。したがって、放射能標識された複合体およびPAHの組合せ使用の原理は、特定の種類の癌に限定されるものではない。
【0111】
一般的に、通常の当業者は、処置すべき癌に応じて標的化分子を選択する。この標的化分子によって、標的となる癌細胞へと放射能標識された複合体が送達される。
【0112】
例えば、PSMAと結合する標的化分子を含んでいる放射能標識された複合体を、PSMAを発現している任意の癌の処置に使用してもよい。具体的に、PSMAを発現している細胞または組織の存在は、前立腺腫瘍(細胞)、転移性前立腺腫瘍(細胞)、腎腫瘍(細胞)、膵腫瘍(細胞)、膀胱腫瘍(細胞)、およびこれらの組合せを表していてもよい。したがって、処置すべき癌は、好ましくは、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌または膀胱癌である。
【0113】
例えば、ソマトスタチン受容体と結合する標的化分子を含んでいる放射能標識された複合体を、ソマトスタチン受容体を発現している任意の癌の処置に使用してもよい。ソマトスタチン受容体は、具体的にはソマトスタチン受容体2(SSTR-2)またはソマトスタチン受容体5(SSTR-5)であり、より具体的にはソマトスタチン受容体2(SSTR-2)である。したがって、癌は、好ましくは、神経内分泌腫瘍(NET)である。特に、NETは、膵・消化管神経内分泌腫瘍、カルチノイド腫瘍、褐色細胞腫、パラガングリオーマ、甲状腺髄様癌、肺神経内分泌腫瘍、胸腺神経内分泌腫瘍、カルチノイド腫瘍または膵神経内分泌腫瘍、下垂体腺腫、副腎腫瘍、メルケル細癌、乳癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、頭頚部腫瘍、尿路上皮癌(膀胱)、腎細胞癌、肝細胞癌、GIST、神経芽腫、胆管腫瘍、子宮頚部腫瘍、ユーイング肉腫、骨肉腫、小細胞肺癌(SCLC)、前立腺癌、黒色腫、髄膜腫、神経膠腫、髄芽腫、血管芽腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍および感覚神経芽腫からなる群より選択されてもよい。NETのさらなる非限定的な例としては、機能性カルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管活性腸ペプチド(VIP)産生腫瘍、グルカゴノーマ、セロトニノーマ、ヒスタミノーマ、ACTH産生腫瘍、褐色細胞腫、ソマトスタチノーマが挙げられる。
【0114】
いくつかの実施形態において、処置すべきヒトは、SSTR-2陽性と診断された腫瘍を罹患している。
【0115】
いくつかの実施形態において、NETは、カルチノイド腫瘍、褐色細胞腫、パラガングリオーマ、甲状腺髄様癌、肺神経内分泌腫瘍、胸腺神経内分泌腫瘍、カルチノイド腫瘍、下垂体腺腫、副腎腫瘍、メルケル細癌、乳癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、頭頚部腫瘍、尿路上皮癌(膀胱)、腎細胞癌、肝細胞癌、GIST、神経芽腫、胆管腫瘍、子宮頚部腫瘍、ユーイング肉腫、骨肉腫、小細胞肺癌(SCLC)、前立腺癌、黒色腫、髄膜腫、神経膠腫、髄芽腫、血管芽腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍および感覚神経芽腫からなる群より選択されてもよい。
【0116】
一般的に、処置すべき癌のうち好適な種類のものは、放射性核種療法が確立されており、近年研究されている癌である。通常、研究対象となる癌の種類は、利用できる標的(および、放射性核種を癌細胞に特異的に送達する標的化分子)に関する開発状況を主に反映している。好適な癌の例としては、悪性甲状腺腫瘍、悪性血液腫瘍、悪性肝腫瘍、前立腺癌、大腸癌、乳癌、神経内分泌およびソマトスタチン受容体癌が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。いくつかの実施形態において、癌は、神経内分泌腫瘍、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、脳腫瘍、消化管癌、甲状腺髄様癌、小細胞肺癌または非小細胞肺癌、間質性卵巣癌、膵管腺癌、インスリノーマ、ガストリノーマ、乳癌および肉腫から選択される。
【0117】
いくつかの実施形態において、癌は、神経内分泌腫瘍、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、脳腫瘍、消化管癌、甲状腺髄様癌、小細胞肺癌または非小細胞肺癌、間質性卵巣癌、インスリノーマ、ガストリノーマ、乳癌および肉腫から選択される。
【0118】
いくつかの実施形態において、癌は、神経内分泌腫瘍、前立腺癌、小細胞肺癌、乳癌および肝細胞癌から選択される。
【0119】
PAHおよび放射能標識された複合体の組合せ投与は、癌を処置するのみならず、放射能標識された複合体による腎毒性副作用を軽減する。したがって、上述のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体と上述の放射能標識された複合体との組合せを、(癌の処置に加えて)放射能標識された複合体による腎毒性副作用の軽減に使用してもよい。
【0120】
本明細書において、用語「(疾患の)処置」には、次の事項のうち1つ以上が含まれる:疾患の予防、軽減、遅延または疾患からの防護(すなわち、臨床症状を進行させない、または軽減もしくは遅延させて進行させること);疾患の阻害または軽減(すなわち、臨床症状の進行の停止、遅延、軽減または抑制);疾患の除去(すなわち、臨床症状を回復させること)。理解されるであろうことには、疾患または障害の「予防」と「抑制」とは、必ずしも区別できるとは限らない。というのも、最終的に誘起されるイベントは、不明であるか、潜在的であるからである。したがって、用語「予防」は、処置の一態様を構成していると理解すべきである(処置には、予防および抑制の両方が含まれる)。このように、用語「処置」には、予防が含まれる。それゆえ、用語「処置」には、予防的処置(疾患の発症前の処置)と治療的処置(疾患の発症後の処置)とが含まれる。
【0121】
本明細書において、用語「治療」は、好ましくは、生体に投与したときに最低限の生理効果を呈することを意味する。例えば、治療用抗腫瘍化合物を投与したときの生理効果は、腫瘍の増殖を阻害することであってもよいし、腫瘍の大きさを減少させることであってもよいし、腫瘍の再発を予防することであってもよい。好ましくは、癌または新生物疾患の処置において、腫瘍の増殖を阻害する化合物、腫瘍の大きさを減少させる化合物、または腫瘍の再発を防止する化合物のことを、治療上有効とみなす。したがって、用語「抗腫瘍薬物」とは、好ましくは、腫瘍、新生物疾患または癌に対する治療効果を呈する任意の治療剤を意味する。
【0122】
本明細書に記載の本発明の組合せの構成要素(すなわち、(i)上述の放射能標識された複合体および(ii)上述のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を、通常は、併用療法として投与する。これが意味しているのは、たとえ一方の要素(放射能標識された複合体またはPAH)と他方の要素(放射能標識された複合体またはPAHのうち他方)が同じ日などに投与されなかったとしても、その処置スケジュールが典型的には絡み合ったものであるということである。つまり、本発明における「組合せ」には、一方の要素(放射能標識された複合体またはPAH)による治療が完了した後に、他方の要素(放射能標識された複合体またはPAHのうち他方)による治療を開始する態様は含まれていない。ここで、治療が完了するとは、具体的には、これ以降には活性成分が効果を発揮しないことを意味する。つまり、治療の完了は、活性成分の最後の投与から数分後、数時間後または数日後である。その期間は、活性成分が(抗癌/抗腫瘍)効果をどれだけ長く発揮するかに依存する。より一般的に、放射能標識された複合体とPAHとの「絡み合った」処置スケジュールとは(すなわち、放射能標識された複合体およびPAHの組合せとは)、下記のいずれかを意味する。
(i)PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体の第1回目の投与(これによりPAHによる治療を完遂する)の開始時期を、放射能標識された複合体の全量の投与を完遂(これにより放射能標識された複合体による治療を完遂する)させてから、2週間(好ましくは3日間、より好ましくは2日間、より一層好ましくは1日間)が経過するまでとする。
(ii)放射能標識された複合体の第1回目の投与(これにより放射能標識された複合体による治療を完遂する)の開始時期を、PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体の全量の投与を完遂(これによりPAHによる治療を完遂する)させてから、2週間(好ましくは3日間、より好ましくは2日間、より一層好ましくは1日間)が経過するまでとする。
【0123】
例えば、本明細書に記載の放射能標識された複合体と本明細書に記載のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体との組合せにおいて、一方の要素(放射能標識された複合体またはPAH)を週に1回投与してもよいし、他方の要素(放射能標識された複合体またはPAHのうち他方)を月に1回投与してもよい。この例示的な本発明の組合せを実施するためには、少なくとも1回は、毎月投与する要素と毎週投与する要素とを同じ週に投与することになる。
【0124】
本明細書に記載の組合せおよび医薬組成物を、1回だけ投与(単回投与)してもよい。具体的には、本明細書に記載の放射能標識された複合体は、1回だけ投与(単回投与)してもよい。本明細書に記載のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体は、1回または2回投与してもよい。
【0125】
いくつかの実施形態においては、組合せまたは医薬組成物を、繰返し投与する。投与回数は、例えば2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回または10回であり、好ましくは7回以下であり、より好ましくは5回以下であり、より一層好ましくは3回以下である。具体的には、本明細書に記載の放射能標識された複合体の投与回数は、好ましくは7回以下であり、より好ましくは5回以下であり、より一層好ましくは3回以下である。通常は、1回またはごく少数回だけ放射性核種複合体を投与すれば、充分な抗腫瘍効果が発揮される。
【0126】
好ましくは、本発明に係る組合せに含まれている放射能標識された複合体および/またはPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を、同じ日に投与してもよい。例えば、本発明に係る組合せに含まれている放射能標識された複合体および/またはPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を繰返し投与する場合には、放射能標識された複合体を投与する複数の日と同じ日に、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を投与する。
【0127】
本明細書に記載の放射能標識された複合体と本明細書に記載のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)との組合せにおいては、放射能標識された複合体およびPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を、好ましくは、ほぼ同時に投与する。
【0128】
本明細書において「ほぼ同時に」とは、具体的には、同時投与を表す。同時投与には、放射能標識された複合体を投与した直後にPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を投与する態様や、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を投与した直後に放射能標識された複合体を投与する態様も含まれる。当業者が理解するところによると「直後」には、第2の投与を準備するのに必要な時間が含まれる。具体的には、第2の投与位置の露出および消毒に必要な時間や、投与器具(シリンジ、ポンプなど)の準備に必要な時間が含まれる。同時投与には、放射能標識された複合体とPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)との投与期間が重複する態様も含まれる。また、同時投与には、点滴などによる一方の要素(放射能標識された複合体またはPAH)の投与期間の方がより長く(例えば、30分間、1時間、2時間またはそれ以上長い)、他方の要素(放射能標識された複合体またはPAH)の投与が当該投与期間内に同時に行われる態様も含まれる。
【0129】
好ましくは、本明細書に記載の放射能標識された複合体および本明細書に記載のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を、同じ日に投与する。より好ましくは、これらをほぼ同時に投与する。より一層好ましくは、これらを同時に投与する。このような投与を、1回の組合せ投与のみによって実施してもよい。いくつかの実施形態においては、本明細書に記載のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)をほぼ同時に(例えば同時に)組合せ投与する前に、本明細書に記載のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を投与してもよい(放射能標識された複合体の投与に伴わずに投与してもよい)。例えば、(放射能標識された複合体の投与を伴わない)PAHの投与を実施し、その後120分間以内(好ましくは90分間以内、より好ましくは60分間以内、より一層好ましくは30分間以内、さらにより好ましくは20分間以内、例えば15分間または10分間以内)に、本明細書に記載の放射能標識された複合体と本明細書に記載のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)とを組合せ投与してもよい(ほぼ同時に投与、例えば同時に投与してもよい)。
【0130】
PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)を、放射能標識された複合体の投与前および投与中に投与してもよいし、投与前および投与後に投与してもよい。放射能標識された複合体の投与よりも約60分前、約30分前、約10分前または約5分前に、PAHを事前投与してもよい。好ましくは、放射能標識された複合体を投与よりも約0.5~5時間前または約10~60分前に、PAHを投与する。特定の実施形態においては、放射能標識された複合体の投与前と、投与後(例えば、0.5~5時間後または10~60分後)にPAHを投与してもよい。あるいは、放射能標識された複合体の投与前と、投与中と、投与後にPAHを投与してもよい。
【0131】
いくつかの実施形態においては、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体、好適にはパラアミノ馬尿酸ナトリウム)を、放射能標識された複合体の投与よりも5~30分前、5~20分前または5~15分前に事前投与し(具体的には、5~30分間、5~20分間または5~15分間連続して投与し)、50~90分間または40~60分間さらに継続投与してもよい(例えば、放射能標識された複合体の投与を開始するまで)。これによって、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を、合計で60~90分間または60~80分間にわたって連続投与することになる。PAH(またはその塩もしくは誘導体)の投与に伴って、放射能標識された複合体を、10~25分間または10~20分間にわたって連続投与してもよい。
【0132】
PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)および放射能標識された複合体は、とりわけ全身投与し、好ましくは静脈内投与する。好適には、点滴により投与を実施する。投与には、例えば、シリンジポンプまたは輸液ポンプと、輸液カテーテルとを利用する。いずれの要素も、三方活栓またはルアーロックによって効果的に投与できる。したがって、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)溶液および放射能標識された複合体溶液の投与に使用するシリンジポンプまたは輸液ポンプは、それぞれ、三方活栓またはルアーロックの区別可能なポートに接続されていてもよい。
【0133】
PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)および/または放射能標識された複合体を投与する期間は、流速、体積、ならびに投与する溶液に含まれているPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)および放射能標識された複合体の濃度に応じて変化してよい。PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の流速は、0.9mL/分~約2mL/分の範囲で選択してよい。放射能標識された複合体の流速は、1.7mL/分~約2.5mL/分の範囲で選択してよい。いくつかの実施形態においては、(連続投与の間中)いずれの要素の流速も一定に維持する。他の実施形態においては、一方または両方の要素の流速を、連続投与の間に変化させる。いくつかの実施形態において、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の流速は、開始時には速く(開始時投与量)とりわけ事前投与の期間中は速い。その後、放射能標識された複合体の投与の開始の直前(例えば、0.2~3分前)または投与の開始と実質的に同時に、流速を遅くする。PAH(またはそのカルボン酸誘導体)の流速を、開始時の流速の15~40%まで遅くしてもよい(例えば、0.9~1.3mL/分)。いくつかの実施形態において、PAH(またはその塩もしくは誘導体)の流速は、開始時には速く(開始時投与量)、とりわけ事前投与の期間中は速い。その後、放射能標識された複合体の投与の開始直前(例えば、0.2~3分前)または投与の開始と実質的に同時に流速を遅くする。このとき、放射能標識された複合体の流速は、投与期間中を通じて一定である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の処置プロトコルにおけるPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)溶液を投与するときの濃度は、20mLあたり、1~3mgまたは1.5~2.5mgであってもよい。溶液の濃度は、例えば、5~15%である。PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)溶液(特に水溶液)を投与するときの体積は、75~130mLまたは90~120mLであってもよい。
【0134】
いくつかの実施形態において、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を投与するときの患者の血漿中のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の濃度は、500~900mg/mLまたは700~900mg/mLである。具体的には、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の投与の終了時における血漿中の濃度が、上記の範囲である。
【0135】
本明細書に記載の処置プロトコルの開始に先立って、処置すべき被験体(神経内分泌腫瘍、前立腺癌、小細胞肺癌、乳癌または肝細胞癌に罹患している癌患者など)に、流体(特に水)を摂取させると有利である。好ましくは、処置プロトコルの30~60分前に、0.5~1Lの流体を経口摂取させる。
【0136】
理解されるであろうことに、医療目的においては、通常、「有効量」の放射能標識された複合体およびPAH(またはその塩もしくは誘導体)を投与する。例えば、放射能標識された複合体および/またはPAHが(医薬)組成物に含まれているならば、この(医薬)組成物は、通常、有効量の放射能標識された複合体を含んでいる。本明細書において、「有効量」とは、処置すべき疾患に対して好ましい変化を起こさせるのに充分な薬剤の量を意味する。しかし、それと同時に、「有効量」とは、重篤な副作用を起こさない程度に充分に少ない量である。言うなれば、効用とリスクとの間に微妙な関係がある。有効量は、処置すべき具体的な状態、処置すべき患者の年齢・健康状態、状態の重篤度、処置の期間、並行している治療の性質、使用している具体的な薬学的に許容できる賦形剤または担体、その他の因子によって変わってくる。医師であれば、特定の条件における有効量を容易に決定できる。一般的に、有効投与量は、動物モデルを用いる実験などの通常の実験によって決定できる。モデルの例としては、ウサギモデル、ヒツジモデル、マウスモデル、ラットモデル、イヌモデル、非ヒト霊長類モデルが挙げられる(ただし、これらには限定されない)。放射能標識された複合体およびPAHの治療上の有効性および毒性は、培養細胞または実験動物を用いた標準的な薬学プロセスによって決定できる。例えば、LD50(集団の50%が致死する投与量)と、ED50(集団の50%に有効な治療効果が認められる投与量)を決定すればよい。毒性効果をもたらす投与量と治療効果をもたらす投与量との比率を、治療指数と呼ぶ。治療指数は、LD50/ED50の比率でありうる。培養細胞でのアッセイや動物での研究から得られたデータを利用すれば、ヒトにおける投与量の範囲を決定できる。複合体の投与量は、好ましくは、ED50を満たし、かつ、毒性が微小またはない循環濃度となる範囲である。
【0137】
このように、個体に対して投与すべき用量(1回以上の投与量として)は、様々な因子によって変化する。因子の例としては、薬物動態特性、被験体の状態および特性(性別、年齢、体重、健康、大きさ)、症状の程度、並行している処置、処置の頻度、所望の効果が挙げられる。
【0138】
本発明に係る組合せに含まれている放射能標識された複合体と、本発明に係る組合せに含まれているPAH(またはその塩もしくは誘導体)とは、様々な投与経路で投与できる。投与経路の例としては、全身投与または局所投与(腫瘍内投与など)が挙げられる。全身投与(特に、非経口投与)が好ましい。好適な投与経路の非限定的な例としては、静脈内投与(i.v.)、血管内投与、皮下投与、筋肉内投与、皮内投与が挙げられる。いくつかの実施形態においては、静脈内投与が好ましい。あるいは、患部などに局所的に投与してもよい(腫瘍内投与など)。
【0139】
好ましくは、本発明に係る組合せに含まれている放射能標識された複合体と、本発明に係る組合せに含まれているPAH(またはその塩もしくは誘導体)とを、全身投与する。いくつかの実施形態においては、放射能標識された複合体を腫瘍内投与し、PAH(またはその塩もしくは誘導体)を全身投与する。
【0140】
好ましくは、本発明に係る組合せに含まれている放射能標識された複合体と、本発明に係る組合せに含まれているPAH(またはその塩もしくは誘導体)とを、同じ投与経路で投与する。好ましくは、同じ全身性の投与経路で投与する。より好ましくは、同じ非経口的な投与経路で投与する。より一層好ましくは、いずれも静脈内投与する。
【0141】
いくつかの実施形態において、本発明に係る組合せは、(a)上述の放射能標識された複合体および(b)上述のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を含んでおり、この組合せを、さらなる追加の活性化合物(腫瘍/癌の処置に関連する化合物など)と共に投与する。他の実施形態において、本発明に係る組合せは、(a)上述の放射能標識された複合体および(b)上述のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を含んでおり、この組合せは、さらなる追加の活性化合物(腫瘍/癌の処置に関連する化合物など)と共には投与しない。つまり、本発明の組合せは、それ自体のみでも治療上有用でありうる。
【0142】
一般的に、組合せを構成する(a)放射能標識された複合体および(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の両要素は、同じ組成物に含まれていてもよいし、異なる組成物に含まれていてもよい。好ましくは、組合せを構成する(a)放射能標識された複合体および(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の両要素は、同じ組成物に含まれている。したがって、組合せを構成する(a)放射能標識された複合体および(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の両要素は、異なる容器(シリンジなど)に収容されていてもよい。好ましくは、組合せを構成する(a)放射能標識された複合体および(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の要素は、同じ容器(シリンジなど)に収容されている。
【0143】
したがって、本発明は、癌の処置における使用のための組成物の組合せをも提供する。第1組成物は、上述の放射能標識された複合体を含んでおり、好ましくは上述のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体を含んでいない。第2組成物は、上述のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)を含んでおり、好ましくは上述の放射能標識された複合体を含んでいない。
【0144】
好ましくは、組合せを構成する(a)放射能標識された複合体および(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の要素は、同じ組成物に含まれている。したがって、本発明は、癌の処置における使用のための(医薬)組成物をも提供する。この(医薬)組成物は、(a)本明細書に記載の放射能標識された複合体と、(b)本明細書に記載のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)とを含んでいる。
【0145】
組成物に関する詳細を下記に説明する。一般的に、(医薬)組成物は、下記に記載の薬学的に許容できる賦形剤、稀釈剤または担体を含んでいてもよい。
【0146】
〔組成物〕
上記では、放射能標識された複合体(特に、放射性核種、標的化分子およびキレート剤)、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)、投与(特に、スケジュールおよび投与経路)、処置すべき癌などについて詳述した。これらの事項は、本発明の医薬組成物にも適用される。
【0147】
例えば、本発明の医薬組成物に含まれている標的化分子は、ペプチド、ペプチド模倣体、抗体断片、抗体模倣体、小分子および結び目から選択される。好ましくは、標的化分子は、上述のソマトスタチンアナログ、PSMA阻害剤、ガストリンアナログ、インテグリン結合分子および葉酸から選択される。より好ましくは、
標的化分子は、上述のPSMAまたはソマトスタチン受容体と結合する。標的化分子は、Tyr3-オクテオトリド、Tyr3-オクトレオテート、JR11、PSMA-11、サルガストリン、RGDおよび葉酸からなる群より選択されてもよい。好ましくは、標的化分子は、オクトレオチドである。より好ましくは、上述のTyr3-オクテオトリドである。
【0148】
また、例えば、本発明医薬組成物に含まれているキレート剤は、上述の大環状キレート剤であり、好ましくはDOTA、HBED-CC、NOTA、NODAGA、DOTAGA、DOTAM、TRAP、NOPO、PCTA、DFO、DTPA、DO3AP、DO3APPrA、DO3APABnおよびHYNICからなる群より選択される、またはその誘導体であってもよい。より好ましくは、キレート剤は、上述のDOTAである。より一層好ましくは、放射能標識された複合体は、(i)放射性核種と、(ii)上述のDOTATOCまたはDOTATATEとを含んでいるか、またはそれらからなる。
【0149】
例えば、本発明の医薬組成物において、放射性核種は、上述の94Tc、99mTc、90In、111In、67Ga、68Ga、86Y、90Y、177Lu、161Tb、186Re、188Re、64Cu、67Cu、55Co、57Co、43Sc、44Sc、47Sc、225Ac、213Bi、212Bi、212Pb、227Th、153Sm、166Ho、166Dy、18Fおよび131Iからなる群より選択されてもよい。好ましくは、放射性核種は、90In、111In、67Ga、68Ga、86Y、90Y、177Lu、161Tb、64Cu、67Cu、55Co、57Co、43Sc、44Sc、47Sc、225Ac、213Bi、212Bi、212Pb、153Sm、166Ho、225Acおよび166Dyからなる群より選択される。より好ましくは、放射性核種は、177Lu、68Ga、111In、90Y、99mTc、225Acおよび161Tbからなる群より選択される。より一層好ましくは、放射性核種は、177Lu、225Acおよび68Gaであるか、または、3価の放射性核種から選択される。3価の放射性核種は、好ましくは、177Lu、90Y、67Ga、68Ga、111In、225Ac、161Tb、44Scおよび47Scからなる群より選択される。特に好ましくは、放射性核種は、上述の177Lu(ルテチウム177)である。
【0150】
例えば、本発明の医薬組成物において、放射能標識された複合体は、好ましくは、上述の[177Lu-DOTA-Tyr3]-オクトレオチド、177Lu-DOTA-JA11、177Lu-DOTA-RGD、177Lu-DOTA-サルガストリンおよび177Lu-PSMA-I&Tから選択される。より好ましくは、放射能標識された複合体は、上述の177Lu-DOTATOCである。
【0151】
例えば、本発明医薬組成物は、上述の放射能標識された複合体およびPAHを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、本発明の医薬組成物は、上述の放射能標識された複合体と、上述のパラアミノ馬尿酸(PAH)のカルボン酸誘導体とを含んでいる。好ましくは、本発明医薬組成物は、上述の放射能標識された複合体と、上述のPAHの塩とを含んでいる。より好ましくは、本発明の医薬組成物は、上述の放射能標識された複合体とパラアミノ馬尿酸ナトリウムとを含んでいる。
【0152】
例えば、本発明の医薬組成物において、上述のPAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の投与濃度は、好ましくは、体重1kgあたり、5~500mgである。
【0153】
例えば、本発明の医薬組成物に含まれている上述の(a)放射能標識された複合体と(b)PAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体との比率は、1/240000(w/w)~1/8000(w/w)である。
【0154】
一般的に、医薬組成物に含まれているPAHまたは薬学的に許容できるその塩またはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の量は、放射能標識された複合体よりも多い。
【0155】
例えば、医薬組成物に含まれている放射能標識された複合体ならびにPAHまたは薬学的に許容できるその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の比率は、約1/1,000,000(w/w)~1/10(w/w)であり、好ましくは約1/500,000(w/w)~1/100(w/w)であり、より好ましくは約1/250,000(w/w)~約1/500(w/w)である。
【0156】
好ましくは、医薬組成物に含まれている放射能標識された複合体ならびにPAHまたは薬学的に許容できるその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)の比率は、約1/250,000(w/w)~約1/5,000(w/w)である。この比率の例としては、約1/250,000(w/w)、約1/200,000(w/w)、約1/150,000(w/w)、約1/100,000(w/w)または約1/50,000(w/w)から、約1/5,000(w/w)が挙げられる。より好ましくは、この比率は、約1/240,000(w/w)~約1/8,000(w/w)である。この比率の例としては、約1/240,000(w/w)、約1/230,000(w/w)、約1/220,000(w/w)、約1/210,000(w/w)、約1/200,000(w/w)、約1/190,000(w/w)、約1/180,000(w/w)、約1/170,000(w/w)、約1/160,000(w/w)、約1/150,000(w/w)、約1/140,000(w/w)、約1/130,000(w/w)、約1/120,000(w/w)、約1/110,000(w/w)、約1/100,000(w/w)、約1/90,000(w/w)、約1/80,000(w/w)、約1/70,000(w/w)、約1/60,000(w/w)、約1/50,000(w/w)、約1/40,000(w/w)、約1/30,000(w/w)、約1/20,000(w/w)、約1/19,000(w/w)、約1/18,000(w/w)、約1/17,000(w/w)、約1/16,000(w/w)、約1/15,000(w/w)、約1/14,000(w/w)、約1/13,000(w/w)、約1/12,000(w/w)、約1/11,000(w/w)、約1/10,000(w/w)、約1/9,000(w/w)または1/8,000(w/w)が挙げられる。より好ましくは、医薬組成物に含まれている放射能標識された複合体とPAHまたは薬学的に許容できるその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)との比率は、約1/100,000(w/w)~約1/10,000(w/w)である。この比率の例としては、約1/100,000(w/w)、約1/95,000(w/w)、約1/90,000(w/w)、約1/85,000(w/w)、約1/80,000(w/w)、約1/75,000(w/w)、約1/70,000(w/w)、約1/65,000(w/w)、約1/60,000、1/55,000(w/w)、約1/50,000(w/w)、約1/45,000(w/w)、約1/40,000(w/w)、約1/35,000(w/w)、約1/30,000(w/w)、約1/25,000(w/w)、約1/20,000(w/w)、約1/15,000(w/w)、約1/10,000(w/w)が挙げられる。また好ましくは、医薬組成物に含まれている放射能標識された複合体とPAHまたは薬学的に許容できるその塩もしくはカルボン酸誘導体(好適にはアミノ馬尿酸ナトリウム)との比率は、約1/50,000(w/w)~約1/40,000(w/w)である。この比率の例としては、約1/50,000(w/w)、約1/49,000(w/w)、約1/48,000(w/w)、約1/47,000(w/w)、約1/46,000(w/w)、約1/45,000(w/w)、約1/44,000(w/w)、約1/43,000(w/w)、約1/42,000(w/w)、約1/41,000(w/w)、約1/40,000(w/w)が挙げられる。
【0157】
[製剤、担体および賦形剤]
医薬組成物は、好ましくは、液体組成物または半液体組成物である。より好ましくは、医薬組成物は、液体組成物または半液体組成物である。より好ましくは、医薬組成物は、水溶液である。水溶液は、緩衝されているか、あるいは、等張な特性を示していてもよい。
【0158】
上述の(医薬)組成物は、薬学的に許容できる賦形剤、稀釈剤または担体を含んでいてもよい。本明細書において、用語「薬学的に許容できる」とは、医薬組成物の要素(とりわけ、(抗癌性を有する)活性化合物)と同等であり、治療活性を阻害したり実質的に低減させたりしない化合物または薬剤を表す。薬学的に許容できる担体は、好ましくは、純度が充分に高く、毒性が充分に低い。これにより、処置すべき被験体への投与に適した組成物となる。
【0159】
薬学的に許容できる賦形剤は、様々な機能を示す。賦形剤の例としては、稀釈剤、フィラー、充填剤、担体、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、滑剤、コーティング、溶媒および共溶媒、緩衝剤、防腐剤、アジュバント、酸化防止剤、湿潤剤、抗発泡剤、増粘剤、甘味料、香料、保湿剤が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。
【0160】
好適な薬学的に許容できる賦形剤は、典型的には、医薬組成物の製剤に基づいて選択する。
【0161】
液体形態の医薬組成物に関して、薬学的に許容できる賦形剤の一般的な例としては、溶媒、稀釈剤または担体が挙げられる。これらの例としては、(発熱物質を含んでいない)水、(等張な)生理食塩水溶液(リン酸またはクエン酸で緩衝した生理食塩水)、不揮発性油、植物油(落花生油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油など)、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)が挙げられる。賦形剤のさらなる例としては、レシチン;界面活性剤;防腐剤(ベンジルアルコール、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど);等張化剤(糖、マンニトールやソルビトールなどのポリアルコール、塩化ナトリウムなど);モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチン;酸化防止剤(アスコルビン酸、重亜硫酸ナトリウムなど);キレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など)、緩衝液(酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩や、塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの浸透圧を調整する薬剤)が挙げられる。酸または塩基によってpHを調整してもよい(塩酸、水酸化ナトリウムなど)。緩衝液は、特定の参照溶媒に対して高張であってもよいし、等張であってもよいし、低張であってもよい。つまり、緩衝液の塩含有率は、特定の参照溶媒と比較して、高くてもよいし、同じでもよいし、低くてもよい。好ましくは、使用する塩の濃度は、浸透圧または濃度の効果によって細胞にダメージを与えない程度である。参照溶媒の例としては、in vivoの方法によって生じる液体が挙げられる(血液、リンパ液、細胞質液、または他の体液など)。あるいは、参照溶媒は、in vitroの方法において用いられる液体であってもよい(一般的な緩衝液または液体など)。一般的な緩衝液または液体は、当業者に知られている。
【0162】
注射により(特に血管内注射により、より好ましくは静脈内注射により)投与する液体医薬組成物は、好ましくは、無菌であり、かつ、製造および保存の条件において安定であるべきである。このような組成物は、典型的には、発熱物質を含んでおらず、好適なpHであり、等張なであり、有効成分が安定している、非経口的に許容できる水溶液として製剤化する。
【0163】
液体医薬組成物に関して、好適な薬学的に許容できる賦形剤および担体の例としては、水(典型的には、発熱物質を含んでいない水);等張な生理食塩水または緩衝した(水性)溶液(リン酸塩、クエン酸塩など)、緩衝液が挙げられる。特に、注射用の(医薬)組成物においては、水または好ましくは緩衝液であり、より好ましくは水性緩衝液である。緩衝液は、ナトリウム塩(50mM以上のナトリウム塩など)、カルシウム塩(0.01mM以上のカルシウム塩(例えば、)など)および任意成分としてカリウム塩(3mM以上のカリウム塩など)を含んでいてもよい。
【0164】
ナトリウム塩、カルシウム塩および任に成分であるカリウム塩は、ハロゲン化物(塩化物、ヨウ化物、臭化物など)、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩などの形態であってもよい。これらの例としては、NaCl、NaI、NaBr、Na2CO3、NaHCO3、Na2SO4などのナトリウム塩;KCl、KI、KBr、K2CO3、KHCO3、K2SO4などのカリウム塩;CaCl2、CaI2、CaBr2、CaCO3、CaSO4、Ca(OH)2などのカルシウム塩が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。さらに、上述したカチオンの有機アニオン塩が緩衝液に含まれていてもよい。
【0165】
上述した注射用に好適な緩衝液は、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(Cal2)、および任意成分である塩化カリウム(KCl)から選択される塩を含んでいてもよい。これらの塩化物に加えて、さらなるアニオンが含まれていてもよい。CaCl2は、他の塩(KClなど)に置換えられていてもよい。典型的には、注射用緩衝液における塩の濃度は、塩化ナトリウム(NaCl)は50mM以上であり、塩化カリウム(KCl)は3mM以上であり、塩化カルシウム(CaCl2)は0.01mM以上である。注射用緩衝液は、特定の参照溶媒に対して、高張であってもよいし、等張であってもよいし、低張であってもよい。つまり、緩衝液の塩の含有率は、特定の参照溶媒よりも高くてもよいし、同じでもよいし、低くてもよい。好ましくは、使用する塩の濃度は、浸透圧または濃度の効果によって細胞にダメージを与えない程度である。
【0166】
(半)固体形態の医薬組成物に関して、好適な薬学的に許容できる賦形剤および担体の例としては、結合剤(微結晶セルロース、トラガカントガム、ゼラチンなど);デンプンまたはラクトース;糖(ラクトース、グルコース、スクロースなど);デンプン(トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプンなど);セルロースおよびその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロースなど);崩壊剤(アルギン酸など);滑沢剤(ステアリン酸マグネシウムなど);滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、硫酸カルシウム、コロイド状二酸化ケイ素など);甘味料(スクロース、サッカリンなど);香料(ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ香料など)が挙げられる。
【0167】
一般的に、局所投与用の医薬組成物は、クリーム、軟膏、ゲル、ペーストまたは粉末に製剤化されていてもよい。経口投与用の医薬組成物は、錠剤、カプセル、液体、粉末または徐放形態に製剤化されていてもよい。ただし、好適な実施形態においては、医薬組成物を、非経口に投与し、特に静脈内注射または腫瘍内注射する。それゆえ、医薬組成物は、非経口投与用に液体または凍結乾燥の形態に製剤化されている。非経口製剤は、バイアル、IVバッグ、アンプル、カートリッジまたは充填済シリンジに貯蔵されていてもよい。非経口惣菜は、注射、吸入またはエアロゾルによって投与でき、注射が好ましい。
【0168】
凍結乾燥の形態で医薬組成物を提供してもよい。好ましくは、凍結乾燥した医薬組成物を、投与前に好適な緩衝液で(好ましくは水性担体によって)再構成する。
【0169】
好ましくは、医薬組成物は、水溶液である。特に、医薬組成物は、水溶液の放射線医薬品である。本明細書において、「水溶液」とは、通常、1つ以上の溶質が水に含まれている溶液である。医薬組成物を、静脈内(IV)使用/適用/投与してもよい。医薬組成物は、典型的には、安定であり、濃縮であり、調製済である。
【0170】
さらに、癌を処置するための医薬の調製における使用のための医薬組成物も提供される。
【0171】
〔キット〕
さらなる態様において、本発明は、癌の処置における使用のための(パーツの)キットを提供する。このキットは、(a)放射能標識された複合体と、(b)パラアミノ馬尿酸(PAH)またはその塩もしくはカルボン酸誘導体とを備えている。ここで、(a)放射能標識された複合体は、(i)放射性核種と、(ii)キレート剤と連結している標的化分子とを含んでいる。
【0172】
上述の詳細な説明に、放射能標識された複合体(特に、放射性核種、標的化分子およびキレート剤)、PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)、投与(特に、スケジュールおよび投与経路)、処置すべき癌などに関するの詳細が記載されている。これらの記載は、本発明のキットにも適用される。
【0173】
例えば、本発明のキットに備わっている標的化分子は、ペプチド、ペプチド模倣体、抗体断片、抗体模倣体、小分子および結び目から選択される。好ましくは、標的化分子は、上述のソマトスタチンアナログ、PSMA阻害剤、ガストリンアナログ、インテグリン結合分子および葉酸から選択される。より好ましくは、標的化分子は、上述のPSMAまたはソマトスタチン受容体と結合する。標的化分子は、Tyr3-オクテオトリド、Tyr3-オクトレオテート、JR11、PSMA-11、サルガストリン、RGDおよび葉酸からなる群より選択されてもよい。好ましくは、標的化分子は、上述のオクトレオチドである。より好ましくは、標的化分子は、上述のTyr3-オクテオトリドである。
【0174】
例えば、本発明のキットに備わっているキレート剤は、上述の大環状キレート剤であってもよい。キレート剤は、好ましくは、上述のDOTA、HBED-CC、NOTA、NODAGA、DOTAGA、DOTAM、TRAP、NOPO、PCTA、DFO、DTPA、DO3AP、DO3APPrA、DO3APABnおよびHYNICからなる群より選択される、またはその誘導体である。より好ましくは、キレート剤は、上述のDOTAである。より一層好ましくは、放射能標識された複合体は、(i)上述の放射性核種と、(ii)上述のDOTATOCまたはDOTATATEとを含んでいるか、またはそれらからなる。
【0175】
例えば、本発明のキットに備わっている放射性核種は、上述の94Tc、99mTc、90In、111In、67Ga、68Ga、86Y、90Y、177Lu、161Tb、186Re、188Re、64Cu、67Cu、55Co、57Co、43Sc、44Sc、47Sc、225Ac、213Bi、212Bi、212Pb、227Th、153Sm、166Ho、166Dy、18Fおよび131Iからなる群より選択されてもよい。好ましくは、放射線核種は、90In、111In、67Ga、68Ga、86Y、90Y、177Lu、161Tb、64Cu、67Cu、55Co、57Co、43Sc、44Sc、47Sc、225Ac、213Bi、212Bi、212Pb、153Sm、166Ho、225Acおよび166Dyからなる群より選択される。より好ましくは、放射性核種は、177Lu、68Ga、111In、90Y、99mTc、225Acおよび161Tbからなる群より選択される。より一層好ましくは、放射線核種は、177Lu、225Acおよび68Gaであるか、あるいは3価の放射性核種から選択される。好ましくは、放射線核種は、177Lu、90Y、67Ga、68Ga、111In、225Ac、161Tb、44Scおよび47Scからなる群より選択される。特に好ましくは、放射性核種は、上述の177Lu(ルテチウム177)である。
【0176】
例えば、本発明のキットに備わっている放射能標識された複合体は、好ましくは、上述の[177Lu-DOTA-Tyr3-オクトレオチド]、177Lu-DOTA-JA11、177Lu-DOTA-RGD、177Lu-DOTA-サルガストリンおよび177Lu-PSMA-I&Tから選択される。より好ましくは、放射能標識された複合体は、上述の177Lu-DOTATOCである。
【0177】
例えば、本発明のキットは、上述の放射能標識された複合体と、上述のPAHとを備えていてもよい。いくつかの実施形態において、本発明のキットは、上述の放射能標識された複合体と、上述のパラアミノ馬尿酸(PAH)のカルボン酸誘導体とを備えていてもよい。好ましくは、本発明のキットは、上述の放射能標識された複合体と、上述のPAHの塩とを備えていてもよい。より好ましくは、本発明のキットは、上述の放射能標識された複合体と、パラアミノ馬尿酸ナトリウムとを備えていてもよい。
【0178】
一般的に、キットに備わっている(a)放射能標識された複合体および(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の要素は、それぞれ、異なる容器(シリンジなど)に収容されていてもよい。好ましくは、キットに備わっている(a)放射能標識された複合体および(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の要素は、同じ容器(シリンジなど)に収容されている。したがって、キットに備わっている(a)放射能標識された複合体および(b)PAH(またはその塩もしくはカルボン酸誘導体)の要素は、それぞれ、上述した異なる(医薬)組成物に含まれていてもよいし、上述した同じ(医薬)組成物に含まれていてもよい。
【0179】
例えば、キットの一部分に上述のパラアミノ馬尿酸(PAH)または薬学的に許容できるその塩もしくはカルボン酸誘導体が備わっており、キットの他の部分に上述の放射能標識された複合体が備わっていてもよい。また、キットには、PAH(または薬学的に許容できるその塩もしくはカルボン酸誘導体)および/または放射能標識された複合体を稀釈するためなどの溶液が、(区別可能な部分として)備わっていてもよい。溶液は、等張であってもよいし、高張であってもよい。溶液は、緩衝水溶液などにより、さらに緩衝されていてもよい。緩衝水溶液の例としては、NaCl水溶液、注射用水(WFI)が挙げられる。
【0180】
任意構成で、キットは、1種類以上のさらなる薬剤を含んでいてもよい。さらなる薬剤の例としては、アミノ酸(リシン、アルギニン、これらの混合物など);ゼラチン;アミホスチン;アルブミン由来ペプチド;PSMA結合分子(PMPAなど);ビタミン;放射性核種;抗菌剤;可溶化剤が挙げられる。
【0181】
キットは、上記に例示した任意の要素を適当な容器に収容している、2つ以上のパーツのキットであってもよい。各容器の例としては、バイアル、ボトル、スクイズボトル、ジャー、密封スリーブ、エンベロープ、ポーチ、チューブ、ブリスター包装、または他の任意の適当な容器が挙げられる。好ましくは、容器においては、各要素の事前の混合が防止される。全ての上述の要素が別々に提供されてもよいし、上述の要素のうち一部が一緒に(同じ容器で)提供されてもよい。
【0182】
バイアル、チューブ、ジャー、エンベロープ、スリーブ、ブリスター包装またはボトルの中において、容器が区分けされていてもよい。これにより、薬剤師または医師が意図的に混合するまでは、ある区分に収容されている要素と他の区分に収容されている要素とが物理的に関連付けられなくなる。
【0183】
キットは、説明書、添付文書またはラベルを備えていてもよい。これらは、好ましくは、(a)上述の放射能標識された複合体および/または(b)上述のPAHまたはその塩もしくはカルボン酸誘導体の投与について指示を与えるものである。
【実施例】
【0184】
本発明の様々な実施形態および態様について説明する具体的な実施例を下記に示す。ただし、本発明の範囲は、本実施例に記載の特定の実施形態に制限されるものではない。下記の調製例および実施例は、当業者が本発明を理解・実施しやすくするために設けられている。しかし、本発明の範囲は、例示されている実施形態に制限されるものではない。これらの実施形態は、本発明の一態様を説明しているに過ぎない。機能的に等価な方法も、本発明の範囲に含まれる。現に、上記の記載、添付の図面および下記の実施例に基づけば、本明細書に記載の実施形態に加えて本発明の様々な変更も、当業者にとっては明白となろう。このような変更は全て、添付の特許請求の範囲の範囲に含まれる。
【0185】
〔実施例1:マウス腫瘍モデルにおけるPAHおよび放射能標識された複合体の組合せ〕
パラアミノ馬尿酸(PAH)および放射能標識された複合体の組合せの効果を検討するために、in vivoの腫瘍モデル(AR42J膵腫瘍を移植したヌードマウスモデル)を使用した。放射能標識された化合物としては、177Lu標識された化合物である、177Lu-DOTATOCを使用した。
【0186】
概略すると、次の通りである。CD1ヌードマウス(Crl:CD1-Foxn1nu;実験開始時において8週齢)を使用した。AR42J細胞株(ラットの膵腺房細胞)を培養して、AR42J腫瘍移植片を作製した。培養条件は、37℃、5%CO2にて、不活性化20%FBS(Sigma Aldrich, Ref F7524)を添加したHam's F-12K培地(Gibco, Ref 21127022)中で培養した。7日ごとに、トリプシン処理して新しいフラスコに等分することにより、継代培養した。ウシ胎児血清を添加していないHam's F-12K培地中において、AR42J細胞の懸濁液(50×106細胞/mL)を調製した。マウスの左右両側の側腹部の皮下に、5×106細胞(100μLのHam's F-12K培地中の懸濁液として)を播種した。播種後は、目視観察および触診により、投与日(播種後7日)までの腫瘍の増殖をコントロールした。明確な小結節を呈している動物のみを実験に利用した。
【0187】
実験では、18匹の腫瘍移植マウスを、3種類の区別可能な実験群に振分けた(下記表1を参照)。
【表1】
【0188】
図1に実験デザインを示す。腫瘍細胞の播種から7日後に、表1に記載の組成物をマウスに1回静脈内注射した。つまり、ビヒクル(0.9%NaCl;第0群)、40MBqの
177Lu-DOTATOCのみ(0.9%NaCl溶液として;第1.1群)、または
177Lu-DOTATOCとPAHとの組合せ(20%PAH溶液(Merck Sharp & Dohme Corp)として;第1.2群)のいずれかを注射した。第1.1群および第1.2群のマウスは、
177Lu-DOTATOCの投与より10分前に、50μLの生理食塩水またはPAHを腹腔内注射した。
【0189】
処置から57日後まで(または腫瘍の大きさが上限に達するまで)、2~3日ごとに体重および腫瘍体積を評価した。腫瘍の長さ、幅および奥行きをデジタルノギスで測定し、腫瘍体積を決定した。具体的には、次の式を利用して腫瘍体積を計算した。
腫瘍体積=(長さ×幅×奥行き)×0.5
【0190】
個々の腫瘍の大きさが1500mm3に達するまで、マウスをモニタリングした。このエンドポイントに達するか、処置から57日間が経過した時点で、マウスを安楽死させた。実験期間を通じて、AR42J移植CD1ヌードマウスの腫瘍体積および体重の平均値を処置群ごとに計算した。
【0191】
実験期間を通じた、処置群ごとにおけるマウスの腫瘍体積および体重の平均値とその標準誤差(SD)を、下記の表2、3に示す。
【表2】
【表3】
【0192】
マウスの腫瘍の増殖曲線および体重の比率(D0における初期体重と比較した各時点の体重)を
図2、3に示す。腫瘍の大きさが1500mm
3超になった時点で実験を終了しているので、増殖曲線で示される平均腫瘍体積には、その影響が及んでいる。
【0193】
図2の示すところによると、
177Lu-DOTATOCを注射したマウスとコントロール群を比較すると、腫瘍の増殖が10日間も有意に遅延している。
177Lu-DOTATOCでの処置によって、腫瘍の増殖を20日間抑制できたことから、
177Lu-DOTATOCには実質的な腫瘍の増殖阻害効果があることが分かる。さらに、
177Lu-DOTATOCとPAHとの組合せ処置と
177Lu-DOTATOCのみでの処置とを比較すると、前者の方が腫瘍の増殖の再開がより遅かった。
【0194】
図3から分かるように、放射能標識されたDOTATOCで処置したAR42J移植CD1ヌードマウスの平均体重は、未処置の腫瘍移植コントロールマウスの平均体重と同様に増加した。つまり、放射能標識されたDOTATOCで処置したマウスも、未処置のコントロールマウスも、実験期間を通じて健康な外見を保っていた。
【0195】
次に、個々の腫瘍について、腫瘍体積を実際の腫瘍重量(n=36;マウス1匹あたり2個の腫瘍)に対してプロットして、線形回帰分析した。結果を
図4に示す。
図4の線形回帰分析によると、腫瘍体積と腫瘍重量には、非常に有意な相関があった(r
2=0.9598)。このデータにより、腫瘍体積の推定式が実際の腫瘍の大きさをよく反映していることが確かめられた。
【0196】
図5に、各処置群の生存曲線を示す。各群について、腫瘍の大きさの最大値(1500mm
3)に達するまでの生存期間中央値(MST)を計算した。第0群(コントロール群)における生存期間中央値は、23日間であった。第1.1群(
177Lu-DOTATOCのみで処置)における生存期間中央値は、39日間であった。第1.2群(
177Lu-DOTATOCとPAHとの組合せで処置)における生存期間中央値は、44.5日間であった。
【0197】
要約すると、放射能標識された複合体のみを投与することにより、腫瘍移植マウスにおける腫瘍の増殖を低減または遅延させることができ、生存期間を延長できた。放射能標識された複合体およびPAHを組合せ投与することにより、腫瘍移植マウスにおける腫瘍の増殖をより一層低減または遅延させることができ、生存期間をより一層延長できた。
【0198】
〔実施例2:マウス腫瘍モデルにおけるPAHおよび放射能標識された複合体の組合せ〕
実施例1で観察された、in vivoの腫瘍モデル(AR42J膵腫瘍を移植したヌードマウスモデル)における、パラアミノ馬尿酸(PAH)と放射能標識された複合体との組合せの効果を検証するために、本実施例を行った。実施例1と同様に、放射能標識された化合物としては、177Lu-DOTATOCを使用した。
【0199】
概略すると、次の通りである。SWISSヌードマウス(Crl: NU(Ico)-Foxn1nu;実験開始時において8週齢)を使用した。AR42J細胞株(ラットの膵腺房細胞)を培養して、AR42J腫瘍移植片を作製した。培養条件は、37℃、5%CO2にて、不活性化20%FBS(Sigma Aldrich, Ref F7524)を添加したHam's F-12K培地(Gibco, Ref 21127022)中で培養した。7日ごとに、トリプシン処理して新しいフラスコに等分することにより、継代培養した。ウシ胎児血清を添加していないHam's F-12K培地中において、AR42J細胞の懸濁液(50×106細胞/mL)を調製した。マウスの右側腹部の皮下に、5×106細胞(100μLのHam's F-12K培地中の懸濁液として)を播種した。播種後は、目視観察および触診により、投与日(播種後7日)までの腫瘍の増殖をコントロールした。明確な小結節を呈している動物のみを実験に利用した。
【0200】
実験では、36匹の腫瘍移植マウスを、3種類の区別可能な実験群に振分けた(下記表4を参照)。
【表4】
【0201】
実験デザインは、基本的には実施例1に対応している(
図1を参照)。腫瘍細胞の播種から7日後に、表1に記載の組成物をマウスに1回静脈内注射した。つまり、ビヒクル(0.9%NaCl;第3群)、41~42MBqの
177Lu-DOTATOCのみ(0.9%NaCl溶液として;第1群)、または
177Lu-DOTATOCとPAHとの組合せ(20%PAH溶液(Merck Sharp & Dohme Corp)として;第2群)のいずれかを注射した。第1群および第2群のマウスは、
177Lu-DOTATOCの投与より10分前に、50μLの生理食塩水またはPAHを腹腔内注射した。
【0202】
処置から46日後まで(または腫瘍の大きさが上限に達するまで)、2~3日ごとに体重および腫瘍体積を評価した。腫瘍の長さ、幅および奥行きをデジタルノギスで測定し、腫瘍体積を決定した。具体的には、次の式を利用して腫瘍体積を計算した。
腫瘍体積=(長さ×幅×奥行き)×0.5
個々の腫瘍の大きさが1500mm3に達するまで、マウスをモニタリングした。このエンドポイントに達するか、処置から46日間が経過した時点で、マウスを安楽死させた。実験期間を通じて、AR42J移植SWISSマウスの腫瘍体積および体重の平均値を処置群ごとに計算した。
【0203】
実験期間を通じた、処置群ごとにおけるマウスの腫瘍体積および体重の平均値とその標準誤差(SD)を、下記の表5、6に示す。
【表5】
【表6】
【0204】
マウスの腫瘍の増殖曲線および体重の比率(D0における初期体重と比較した各時点の体重)を
図6、7に示す。腫瘍の大きさが1500mm
3超になった時点で実験を終了しているので、増殖曲線で示される平均腫瘍体積には、その影響が及んでいる。
【0205】
図6の示すところによると、
177Lu-DOTATOCを注射したマウスとコントロール群を比較すると、腫瘍の増殖が約14日間も有意に遅延している。
177Lu-DOTATOCでの処置によって、腫瘍の増殖を15日間抑制できたことから、
177Lu-DOTATOCには実質的な腫瘍の増殖阻害効果があることが分かる。
177Lu-DOTATOCとPAHとの組合せ処置と
177Lu-DOTATOCのみでの処置とを比較すると、前者の方が腫瘍の増殖の再開がより遅かった。
【0206】
図7から分かるように、マウスに対する処置の有無にかかわらず、有意な体重減少は見られなかった。このことは、放射能標識された化合物がもたらす放射能毒性が低いことを示唆している。ただし、放射能標識された化合物で処置したAR42J移植マウスの平均体重の増加は、腫瘍移植コントロールマウスよりも僅かに遅かった。PAHとの組合せの有無にかかわらず、
177Lu-DOTATOCで処置したマウスの体重増加は、実験期間を通じて同様であった。つまり、放射能標識されたDOTATOCで処置したマウスも、未処置のコントロールマウスも、実験期間を通じて健康な外見を保っていた。
【0207】
図8を参照する。腫瘍体積と体重との相関を示す線形回帰分析によると、高い相関が認められた(r
2=0.9101)。このデータにより、腫瘍体積の推定式が実際の腫瘍の大きさをよく反映していることが確かめられた。
【0208】
図9に、各処置群の生存曲線を示す。予想通り、コントロール群と放射能標識されたDOTATOCでの処置群を比較すると、前者の方が、腫瘍の増殖のために安楽死させるまでの期間が短かった。実施例1と同様に、
177Lu-DOTATOCのみよりも、
177Lu-DOTATOCとPAHとを組合せた方が、生存期間が延長された。
【0209】
したがって、実施例2によって実施例1の結果が検証された。つまり、放射能標識された複合体およびPAHを組合せ投与することにより、腫瘍移植マウスにおける腫瘍の増殖をより一層低減または遅延させることができ、生存期間をより一層延長できた。