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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】多層構造体及び容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240805BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240805BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B27/32 101
B65D65/40 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020129862
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026404
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】田口 智啓
(72)【発明者】
【氏名】丹生 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】清藤 晋也
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/188883(WO,A1)
【文献】特開平03-128942(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123217(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層として配置された、液体で構成される液層と、
前記液層に隣接して設けられた、前記液体と樹脂とを含む液体含有層と、
前記液体含有層の、前記液層と接する表面とは反対側の表面に隣接して設けられた、アイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含む液拡散防止層と、
を含む多層構造体であって、
前記液拡散防止層がアイオノマーを含み、前記アイオノマーが金属塩であり、該金属塩の金属イオンが、Na 、Li 、Mg 2+ 又はZn 2+ である多層構造体
【請求項2】
前記液層の液量が0.1~5.0g/mである請求項に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記アイオノマーの190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.3~16.0g/10minである請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項4】
前記液拡散防止層の厚みが1.0~1500μmである請求項1からのいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項5】
前記液体が脂肪酸トリグリセライド又は植物油である請求項1からのいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項6】
前記液層を最内層として有する、請求項1からのいずれか一項に記載の多層構造体で構成される容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層構造体及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、成形が容易であり、種々の形態に容易に成形できることなどから、各種の用途に広く使用されている。特に、容器壁の内面が低密度ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂で形成されたオレフィン系樹脂ボトルは、内容物を絞り出し易い観点から、ケチャップなどの粘稠なスラリー状又はペースト状の内容物を収容するための容器として好適に使用されている。
【0003】
また、粘稠な内容物を収容するボトルでは、該内容物を速やかに排出するため、或いは該内容物をボトル内に残存させることなくきれいに最後まで使いきるために、ボトルを倒立状態で保管することが多い。そのため、該ボトルは、ボトルを倒立させたときに、粘稠な内容物がボトル内壁面に付着残存せずに、速やかに落下する特性を有することが望まれている。
【0004】
例えば特許文献1には、内側から、液層と、プラスチック製下地層と、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)を含む液拡散防止層と、をこの順序で有する、容器の形態をする多層構造体か開示されている。該多層構造体の内表面には液層が設けられているため、該液層が内容物に対する滑り性を向上させることができる。また、該多層構造体は中間層として液拡散防止層を有するため、液層を構成する液体の多層構造体内部への拡散を抑制でき、滑り性を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5673905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された多層構造体では、液層と液拡散防止層との間に少なくともプラスチック製下地層が存在するため、該プラスチック下地層に液層の液体が拡散し、十分に滑り性を維持できない場合がある。また、前記液拡散防止層の液拡散防止性能の更なる向上が望まれている。
【0007】
本発明では、液層による高い滑り性が長期にわたって維持される多層構造体及び該多層構造体で構成される容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る多層構造体は、
最外層として配置された、液体で構成される液層と、
前記液層に隣接して設けられた、アイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含む液拡散防止層と、
を含む。
【0009】
本発明に係る多層構造体は、
最外層として配置された、液体で構成される液層と、
前記液層に隣接して設けられた、前記液体と樹脂とを含む液体含有層と、
前記液体含有層の、前記液層と接する表面とは反対側の表面に隣接して設けられた、アイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含む液拡散防止層と、
を含む。
【0010】
本発明に係る容器は、前記液層を最内層として有する、本発明に係る多層構造体で構成される容器である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液層による高い滑り性が長期にわたって維持される多層構造体及び該多層構造体で構成される容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一の実施形態に係る多層構造体の一例を示す断面図である。
図2】本発明の第二の実施形態に係る多層構造体の一例を示す断面図である。
図3】実施例及び比較例における、経過日に対する液体のブリードアウト量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[多層構造体]
<第一の実施形態>
本発明の第一の実施形態に係る多層構造体は、液層と、液拡散防止層とを含む。液層は多層構造体の最外層(表面層)として配置され、液体で構成される。液拡散防止層は、前記液層に隣接して設けられ、アイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含む。
【0014】
本実施形態に係る多層構造体では、液層に隣接して液拡散防止層が設けられているため、液層を構成する液体の多層構造体内部への拡散を十分に抑制できる。また、液拡散防止層がアイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含むため、アイオノマー及び酸共重合体が有する電荷(イオン)が液体を寄せ付けず、液体の多層構造体への移行を十分に抑制できる。したがって、本実施形態に係る多層構造体では、多層構造体の表面に液層を長期間保持することができ、高い滑り性を長期にわたって維持することができる。
【0015】
本実施形態に係る多層構造体は、最外層(表面層)としての液層と、該液層に隣接して設けられた液拡散防止層と、を少なくとも含み、他の層をさらに含んでもよい。他の層としては、例えばポリオレフィン層、エチレン-ビニルアルコール共重合体層、ポリエチレンテレフタレート層、金属層等が挙げられる。多層構造体は、これらの層を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。該多層構造体の厚みは特に限定されないが、例えば0.01~1.5mmであることができる。
【0016】
本実施形態に係る多層構造体の一例を図1に示す。図1に示される多層構造体は、液層1と、液拡散防止層2と、ポリオレフィン層3とがこの順序で積層されている。液層1は、液拡散防止層2の表面に液膜として設けられている。液拡散防止層2と、ポリオレフィン層3との接着には接着剤が用いられていてもよい。該多層構造体では、液層1の液体の浸透を防ぐ液拡散防止層2が、液層1に直接接して設けられているため、該液体の液拡散防止層2及びポリオレフィン層3への移行を十分に抑制することができる。
【0017】
(液層)
本実施形態に係る多層構造体は、最外層として液層を含む。該液層を構成する液体は、対象物の滑り性を向上させることができる液体であれば特に限定されないが、経時における液体の揮発を防ぐ観点から、大気圧下での蒸気圧が低い不揮発性の液体が好ましい。例えば、該液体の沸点は200℃以上であることが好ましい。また、該液体は可食性の液体であることができる。該液体としては、例えばフッ素系界面活性剤、シリコーンオイル、脂肪酸トリグリセライド、植物油等が挙げられ、脂肪酸トリグリセライド又は植物油が好ましい。植物油としては、例えば大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油等が挙げられる。これらの液体は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0018】
液層の液量は、0.1~50.0g/mであることが好ましく、0.7~30.0g/mであることがより好ましく、5.0~13.0g/mであることがさらに好ましい。前記液量が0.1g/m以上であることにより、十分な滑り性が付与される。また、前記液量が50.0g/m以下であることにより、多層構造体表面からの液体の脱落を十分に抑制できる。また、経時における液量の変動を低減でき、安定した滑り性を発現することができる。なお、液層は液拡散防止層の表面の少なくとも一部を覆っていればよいが、全体を覆っていることが好ましい。後述するように、液層は例えば液拡散防止層の表面に液体をスプレー等で付与することで形成することができる。
【0019】
(液拡散防止層)
本実施形態に係る多層構造体は、液層の外気と接する表面とは反対側の表面に隣接して設けられた液拡散防止層を含む。液拡散防止層は、液層を構成する液体の浸透を抑制し、液体の多層構造体内部への拡散を防ぐ層である。該液拡散防止層はアイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含む。すなわち、該液拡散防止層はアイオノマー及び酸共重合体のいずれか一方を含んでもよく、両方共を含んでもよい。アイオノマー及び酸共重合体は電荷(イオン)を有するため、液体を寄せ付けず、液体の多層構造体への移行を十分に抑制できる。該電荷による作用は、液体が特に油であるときにより有効に機能する。
【0020】
前記アイオノマーは、疎水性の高分子主鎖に、イオン基を側鎖、末端基又は主鎖に有する高分子であり、金属塩であることができる。前記アイオノマーは、成形加工の観点から、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体の金属塩であることが好ましい。ここで、該共重合体は、エチレンと一種の不飽和カルボン酸との二成分系共重合体であることが好ましい。不飽和カルボン酸としては、成形加工の観点から、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。該共重合体における不飽和カルボン酸由来の単位の含有量(酸含量)は、3~20質量%が好ましい。該共重合体の酸基(カルボキシル基)の少なくとも一部は、金属イオンにより中和(イオン化)されている。該金属イオンとしては、例えばNa、Li、Mg2+、Zn2+等が挙げられる。該金属イオンによる中和度(イオン化度)は、酸基(カルボキシル基)の5~90モル%であることが好ましい。
【0021】
前記アイオノマーの190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.3~16.0g/10minであることが好ましく、1.0~5.5g/10minであることがより好ましい。該MFRが0.3g/10min以上であることにより、中空成形や押出成形が可能となる。該MFRが16.0g/10min以下であることにより、前記アイオノマーに含まれるイオンの量が増え、液体の多層構造体への移行をより抑制することができる。なお、該MFRはJIS K7210:1999に準拠して測定される値である。
【0022】
前記酸共重合体としては、オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体が挙げられ、例えばエチレンと不飽和カルボン酸との共重合体が挙げられる。該共重合体は、エチレンと一種の不飽和カルボン酸との二成分系共重合体であることが好ましい。不飽和カルボン酸としては、成形加工の観点から、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。該共重合体における不飽和カルボン酸由来の単位の含有量(酸含量)は、3~20質量%が好ましい。
【0023】
液拡散防止層は、アイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含むが、これら以外に他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えばポリオレフィンやエチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。しかしながら、アイオノマー及び酸共重合体による液体の拡散防止性能を十分に発現させる観点から、液拡散防止層100質量%に対する、アイオノマー及び酸共重合体の合計質量の割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、液拡散防止層はアイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方からなってもよい。
【0024】
液拡散防止層の厚みは1.0~1500μmであることが好ましく、1.0~800μmであることがより好ましく、2.0~50.0μmであることがさらに好ましい。該厚みが1.0μm以上であることにより、液体の多層構造体への移行を十分に抑制できる。また、多層容器の場合に層の一部として該厚みが5.0μm以下であることにより、コストを特に低減することができる。
【0025】
(ポリオレフィン層)
本実施形態に係る多層構造体は、コストやスクイズ性、搬送性などの使用性の観点からポリオレフィン層をさらに含んでもよい。多層構造体はポリオレフィン層を一層含んでもよく、二層以上含んでもよい。ポリオレフィン層に含まれるポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)等のポリエチレンや、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。ポリオレフィン層は、必要に応じて、滑剤、改質剤、顔料、紫外線吸収剤等をさらに含んでもよい。ポリオレフィン層の厚みは特に限定されないが、例えば300~1500μmであることができる。
【0026】
<第二の実施形態>
本発明の第二の実施形態に係る多層構造体は、液層と、液体含有層と、液拡散防止層とを含む。液層は多層構造体の最外層(表面層)として配置され、液体で構成される。液体含有層は、前記液層に隣接して設けられ、前記液体と樹脂とを含む。液拡散防止層は、前記液体含有層の、前記液層と接する表面とは反対側の表面に隣接して設けられ、アイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含む。
【0027】
本実施形態に係る多層構造体では、液体含有層の樹脂にブレンドされた液体の一部が液体含有層の表面にブリードアウトする(滲み出す)ことで、液層が形成される。したがって、仮に液層の液量が経時と共に減少しても、液体含有層から液体が徐々にブリードアウトすることで液層に液体が供給され、長期にわたって高い滑り性が維持される。特に、本実施形態では、液体含有層に隣接して液拡散防止層が設けられているため、液体含有層に含まれる液体の多層構造体への拡散が抑制される。これにより、経時における液体含有層に保持される液量の低減が抑制され、液体の液体含有層表面へのブリードアウトが促進されるため、長期にわたって高い滑り性が維持される。さらに、第一の実施形態と同様に、液拡散防止層がアイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含むため、アイオノマー及び酸共重合体が有する電荷(イオン)が液体を寄せ付けず、液体の多層構造体への移行を十分に抑制でき、高い滑り性を長期にわたって維持できる。なお、本実施形態においては、液体含有層と液拡散防止層とを接着するため、液体含有層と液拡散防止層との間に接着剤(接着層)が介在していてもよい。すなわち、「隣接」とは接着剤(接着層)を介する隣接であってもよい。
【0028】
本実施形態に係る多層構造体は、最外層(表面層)としての液層と、該液層に隣接して設けられた液体含有層と、該液体含有層に隣接して設けられた液拡散防止層と、を少なくとも含み、他の層をさらに含んでもよい。他の層としては、例えばポリオレフィン層、エチレン-ビニルアルコール共重合体層、ポリエチレンテレフタレート層、金属層等が挙げられる。多層構造体は、これらの層を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。該多層構造体の厚みは特に限定されないが、例えば250~1500μmであることができる。液拡散防止層、ポリオレフィン層としては、第一の実施形態と同様の層を用いることができる。
【0029】
本実施形態に係る多層構造体の一例を図2に示す。図2に示される多層構造体は、液層1と、液体含有層4と、液拡散防止層2と、ポリオレフィン層3とがこの順序で積層されている。液層1は、液体含有層4に含まれる液体がブリードアウトすることで、液体含有層4の表面に液膜として形成されている。液拡散防止層2と、液体含有層4及びポリオレフィン層3との接着には、それぞれ接着剤が用いられていてもよい。該多層構造体では、液体の浸透を防ぐ液拡散防止層2が、液体含有層4に隣接して設けられているため、液体含有層4に含まれる液体の液拡散防止層2及びポリオレフィン層3への移行が十分に抑制され、液体のブリードアウト量を増加させることができる。
【0030】
(液体含有層)
本実施形態に係る多層構造体は、液拡散防止層と隣接した液体含有層を含む。液体含有層は液体と樹脂とを含む。該液体含有層に含まれる液体が表面にブリードアウトすることで、液層が液膜として形成される。液体としては、第一の実施形態と同様の液体を用いることができる。樹脂としては、液体とブレンドでき、経時と共に液体を徐々にブリードアウトできる樹脂であれば特に限定されないが、例えばポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、環状オレフィン共重合体等)等が挙げられる。これらの樹脂は一種を用いてもよく、二種以上併用してもよい。液体含有層には、液体及び樹脂以外にも、例えば酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤等の他の成分が含まれていてもよい。液体含有層は、液体、樹脂、及び任意の他の成分をブレンドすることで形成することができる。
【0031】
液体含有層に含まれる液体の含有量は、液体含有層100質量%に対して2.0~25.0質量%が好ましく、3.0~15.0質量%がより好ましい。該含有量が上記の範囲であることにより、液層形成に十分な量の液体を表面にブリードアウトさせることができる。
【0032】
液層の液量(液体のブリードアウト量)は、0.1~5.0g/mであることが好ましく、0.5~4.5g/mであることがより好ましい。前記液量が0.1g/m以上であることにより、十分な滑り性が付与される。また、前記液量が5.0g/m以下であることにより、多層構造体表面からの液体の脱落を十分に抑制できる。また、経時における液量の変動を低減でき、安定した滑り性を発現することができる。なお、液層は液体含有層の表面の少なくとも一部を覆っていればよいが、全体を覆っていることが好ましい。
【0033】
液体含有層の厚みは2.0~1500μmであることが好ましく、45.0~280μmであることがより好ましい。該厚みが2.0μm以上であることにより、十分な量の液体を保持することができる。また、該厚みが280μm以下であることにより、特に内容物の排出性とコストを両立することができる。
【0034】
[多層構造体の製造方法]
本発明に係る多層構造体の製造方法は特に限定されず、例えばキャスト法、Tダイ法、カレンダー法、インフレーション法等の方法により、液層以外の各層となるフィルムを成形し、これを加熱圧着することにより形成することができる。また、前記各層を形成する材料を同時押出することにより形成することもできる。液層については、第一の実施形態では、液体をスプレー、浸漬、コーティング等により付与して形成することができる。一方、第二の実施形態では、液体含有層に含まれる液体がブリードアウトすることで自然に液層が形成されるため、別途液体を付与する必要はない。
【0035】
[容器]
本発明に係る容器は、本発明に係る多層構造体で構成され、液層を最内層(容器の内表面)として有する。該容器は本発明に係る多層構造体で構成されているため、容器の内表面において、液層による高い滑り性が長期にわたって維持され、粘稠な内容物であっても容器の内表面に付着残存せず、速やかに落下、排出させることができる。
【0036】
容器の形態は特に制限されず、例えばカップ状、コップ状、ボトル状、袋状(パウチ)、シリンジ状、ツボ状、トレイ状等、材質に応じた形態であってよい。また、該容器は延伸成形されていてもよい。
【0037】
第一の実施形態に係る多層構造体で構成される容器は、例えば、前述した方法により、液層以外の各層となるフィルムを成形し、これを加熱圧着することで前成形体を成形し、これをプラグアシスト成形等の真空成形、ブロー成形等の後加工に付して容器の形態とし、該容器の内表面に液体をスプレー噴霧、浸漬等の手段で付与することで、製造することができる。また、ブロー容器では、ブローと同時に液体を供給することにより、液拡散防止層の表面(容器の内表面)全体にわたってムラなく液層を形成することができる。なお、液体付与直後に内容物を充填することで、液体が流れ落ちる量を最小限にすることができる。一方、、第二の実施形態に係る多層構造体で構成される容器の製造においては、液体含有層に含まれる液体がブリードアウトすることで自然に液層が形成されるため、別途液体を付与する必要がない。
【0038】
本発明に係る容器は、内表面において高い滑り性が長期にわたって維持されるため、例えばケチャップ、水性糊、蜂蜜、各種ソース類、マヨネーズ、マスタード、ドレッシング、ジャム、チョコレートシロップ、乳液等の化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス等の粘稠な内容物が充填された容器として好適である。該容器では、容器を傾斜又は倒立させることにより、内容物が容器内壁に付着することなく、内容物を速やかに排出できる。例えば、容器の内容物がケチャップ、各種ソース類、蜂蜜、マヨネーズ、マスタード、ジャム、チョコレートシロップ、乳液等の水分を含む親水性物質である場合には、液層を構成する液体としては、例えばシリコーンオイル、グリセリン脂肪酸エステル、食用油等の食品添加物として認可されている油性液体が好適に使用される。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。アイオノマーのMFRの測定、経時における液体のブリードアウト量の評価は、以下の方法により実施した。
【0040】
[アイオノマーのMFRの測定]
アイオノマーの190℃、2.16kg荷重におけるMFRは、JIS K7210:1999に準拠して測定した。
【0041】
[経時における液体のブリードアウト量の評価]
各実施例、比較例で製造した多層構造体を、室温23℃の条件下で保管し、所定の経過日において多層構造体表面における液体のブリードアウト量を測定した。液体のブリードアウト量は、ヘプタン洗浄した洗浄液の蒸発残留物の重量である。
【0042】
[実施例1]
以下の方法により、以下の層構成を有する多層構造体を製造した。この多層構造体は、(外側)ポリオレフィン層/接着層A/液拡散防止層/接着層B/液体含有層(内側)で構成されている。ポリオレフィン層にS131DG(商品名、住友化学(株)製、ランダム)、接着層に変性オレフィン、液体含有層には脂肪酸トリグリセライド8質量%を含有する、PPとLLDPEからなる混合物を使用した。なお、使用したアイオノマーは金属塩の金属イオンとしてNaを含み、190℃、2.16kg荷重におけるMFRは1.3g/10minであった。得られた多層構造体全体の厚みは560μm、液体含有層の厚みは98μm、接着層Bの厚みは24μm、液拡散防止層の厚みは42μm、接着層Aの厚みは19μm、ポリオレフィン層の厚みは361μmであった。前記多層構造体について、前記方法により経時における液体のブリードアウト量を評価した。結果を図3に示す。
【0043】
[実施例2]
液拡散防止層の厚みを10μmに変更した以外は、実施例1と同様に多層構造体を作製し、評価した。結果を図3に示す。
【0044】
[実施例3]
アイオノマーとして、1555(商品名、三井・ダウポリケミカル(株)製、金属塩の金属イオン:Na、190℃、2.16kg荷重におけるMFR:10g/10min)を使用し、液拡散防止層の厚みを48μmに変更した以外は、実施例1と同様に多層構造体を作製し、評価した。結果を図3に示す。
【0045】
[実施例4]
アイオノマーとして、1557(商品名、三井・ダウポリケミカル(株)製、金属塩の金属イオン:Zn2+、190℃、2.16kg荷重におけるMFR:5.5g/10min)を使用し、液拡散防止層の厚みを44μmに変更した以外は、実施例1と同様に多層構造体を作製し、評価した。結果を図3に示す。
【0046】
[比較例1]
アイオノマーの代わりにEVOH(商品名:エバールL171B、(株)クラレ製)を使用し、液拡散防止層の厚みを61μmに変更した以外は、実施例1と同様に多層構造体を作製し、評価した。結果を図3に示す。
【0047】
図3に示されるように、実施例1~4の多層構造体では、経時における液体のブリードアウト量が多いことが確認され、液層による高い滑り性が長期にわたって維持されることが理解できる。一方、液拡散防止層の材料としてEVOHを使用した比較例1では、アイオノマーを使用した実施例1~4と比較して、経時における液体のブリードアウト量が少なく、経時において実施例1~4よりも滑り性が低いことが理解できる。
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]最外層として配置された、液体で構成される液層と、
前記液層に隣接して設けられた、アイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含む液拡散防止層と、
を含む多層構造体。
[2]最外層として配置された、液体で構成される液層と、
前記液層に隣接して設けられた、前記液体と樹脂とを含む液体含有層と、
前記液体含有層の、前記液層と接する表面とは反対側の表面に隣接して設けられた、アイオノマー及び酸共重合体の少なくとも一方を含む液拡散防止層と、
を含む多層構造体。
[3]前記液層の液量が0.1~50.0g/m である請求項1に記載の多層構造体。
[4]前記液層の液量が0.1~5.0g/m である請求項2に記載の多層構造体。
[5]前記アイオノマーが金属塩であり、該金属塩の金属イオンが、Na 、Li 、Mg 2+ 又はZn 2+ である請求項1から4のいずれか一項に記載の多層構造体。
[6]前記アイオノマーの190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.3~16.0g/10minである請求項1から5のいずれか一項に記載の多層構造体。
[7]前記液拡散防止層の厚みが1.0~1500μmである請求項1から6のいずれか一項に記載の多層構造体。
[8]前記液体が脂肪酸トリグリセライド又は植物油である請求項1から7のいずれか一項に記載の多層構造体。
[9]前記液層を最内層として有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の多層構造体で構成される容器。
【符号の説明】
【0048】
1 液層
2 液拡散防止層
3 ポリオレフィン層
4 液体含有層
図1
図2
図3