(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】電極保持器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/06 20060101AFI20240805BHJP
G01F 23/24 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G01N27/06 A
G01F23/24 A
(21)【出願番号】P 2021010513
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004082
【氏名又は名称】弁理士法人北大阪特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100141092
【氏名又は名称】山本 英生
(72)【発明者】
【氏名】井上 大志
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰祐
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-046629(JP,A)
【文献】特開2015-049055(JP,A)
【文献】国際公開第2006/092905(WO,A1)
【文献】特開2013-190329(JP,A)
【文献】特開2020-085700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01F 23/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に固定され、前記容器内に電極を保持する電極保持器であって、
上下を軸方向とする略筒状に形成されており、前記容器に固定される導電性の容器取付部材と、
前記容器取付部材の内部を通って上下へ延びるとともに、上方への動きが阻止されるよう配置されており、前記電極が固定される導電性の電極軸と、
前記容器取付部材の内部の隙間に充填されている略筒状の樹脂部材と、を備え、
前記樹脂部材は、
前記容器取付部材に設けた径方向外向きの窪みを充填する窪み充填部を有し、
前記窪み充填部の下端位置より上側の内周面において、上方または斜め上方を向いた箇所を有さ
ず、
前記窪み充填部は、前記樹脂部材の上端部において周方向全体から径方向外向きに突出していることを特徴とする電極保持器。
【請求項2】
容器に固定され、前記容器内に電極を保持する電極保持器であって、
上下を軸方向とする略筒状に形成されており、前記容器に固定される導電性の容器取付部材と、
前記容器取付部材の内部を通って上下へ延びるとともに、上方への動きが阻止されるよう配置されており、前記電極が固定される導電性の電極軸と、
前記容器取付部材の内部の隙間に充填されている略筒状の樹脂部材と、を備え、
前記樹脂部材は、
前記容器取付部材に設けた径方向外向きの窪みを充填する窪み充填部を有し、
前記窪み充填部の下端位置より上側の内周面において、上方または斜め上方を向いた箇所を有さず、
前記樹脂部材は、前記下端位置より下側において、内径が当該下端位置での内径よりも小さい縮径部を有し、
前記縮径部の上端が、前記電極軸に接していることを特徴とする電極保持器。
【請求項3】
容器に固定され、前記容器内に電極を保持する電極保持器であって、
上下を軸方向とする略筒状に形成されており、前記容器に固定される導電性の容器取付部材と、
前記容器取付部材の内部を通って上下へ延びるとともに、上方への動きが阻止されるよう配置されており、前記電極が固定される導電性の電極軸と、
前記容器取付部材の内部の隙間に充填されている略筒状の樹脂部材と、を備え、
前記樹脂部材は、
前記容器取付部材に設けた径方向外向きの窪みを充填する窪み充填部を有し、
前記窪み充填部の下端位置より上側の内周面において、上方または斜め上方を向いた箇所を有さず、
径方向外側部が前記樹脂部材の内周面に接するOリングを、前記電極軸に設けたことを特徴とする電極保持器。
【請求項4】
容器に固定され、前記容器内に電極を保持する電極保持器であって、
上下を軸方向とする略筒状に形成されており、前記容器に固定される導電性の容器取付部材と、
前記容器取付部材の内部を通って上下へ延びるとともに、上方への動きが阻止されるよう配置されており、前記電極が固定される導電性の電極軸と、
前記容器取付部材の内部の隙間に充填されている略筒状の樹脂部材と、を備え、
前記樹脂部材は、
前記容器取付部材に設けた径方向外向きの窪みを充填する窪み充填部を有し、
前記窪み充填部の下端位置より上側の内周面において、上方または斜め上方を向いた箇所を有さず、
前記電極軸は、内部に当該電極軸が挿通される略筒状に形成された絶縁性を有する部材を介して、前記容器取付部材に引っ掛ることにより、上方への動きが阻止されており、
径方向外側部が前記樹脂部材の内周面に接するOリングを、前記絶縁性を有する部材の外周面に設けたことを特徴とする電極保持器。
【請求項5】
電極保持器の製造方法であって、
前記電極保持器は、
容器に固定され、前記容器内に電極を保持するものであり、上下を軸方向とする略筒状に形成されており、前記容器に固定される導電性の容器取付部材と、前記容器取付部材の内部を通って上下へ延びるとともに、上方への動きが阻止されるよう配置されており、前記電極が固定される導電性の電極軸と、前記容器取付部材の内部の隙間に充填されている略筒状の樹脂部材と、を備え、
前記樹脂部材は、
前記容器取付部材に設けた径方向外向きの窪みを充填する窪み充填部を有し、前記窪み充填部の下端位置より上側の内周面において、上方または斜め上方を向いた箇所を有さないものであって、
前記容器取付部材および前記電極軸を含む各部材を組み立てる組立工程と、
前記組立工程の後に、前記容器取付部材の内部の隙間を含む空間に加熱溶融させた熱可塑性樹脂を充填して、前記樹脂部材を形成する形成工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極保持器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラの缶体内や給水タンク内の液体の液位や電気伝導度等の検出が行われており、このような用途に電極保持器が利用されている。例えば、ボイラの缶体や給水タンクと連通する金属製容器に対して、電極保持器により絶縁状態で検出用電極を取り付け、検出用電極と金属製容器との間の電気的な導通状態に基づいて、液位や電気伝導度が検出される。
【0003】
このような電極保持器の従来例は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された電極保持器は、導電性部材である容器取付部材と電極軸の間に絶縁部材を介在させた構成となっており、容器に固定された容器取付部材が絶縁部材(樹脂製の部材)を介して電極軸を保持することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように導電性部材である容器取付部材と電極軸を備える電極保持器においては、これらを絶縁させるため絶縁部材を介在させることになり、これら複数の部材を組合わせた構成とされる。しかし部材同士の間においてシール性が適切に確保されなければ、金属製容器内の蒸気等が外部へ漏れ出す虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、導電性部材同士の間に絶縁部材を介在させた構成であって、部材同士の間において良好なシール性を確保することが可能となる電極保持器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電極保持器は、容器に固定され、前記容器内に電極を保持する電極保持器であって、上下を軸方向とする略筒状に形成されており、前記容器に固定される導電性の容器取付部材と、前記容器取付部材の内部を通って上下へ延びるとともに、上方への動きが阻止されるよう配置されており、前記電極が固定される導電性の電極軸と、前記容器取付部材の内部の隙間に充填されている略筒状の樹脂部材と、を備え、前記樹脂部材は、前記容器取付部材に設けた径方向外向きの窪みを充填する窪み充填部を有し、前記窪み充填部の下端位置より上側の内周面において、上方または斜め上方を向いた箇所を有さない構成とする。
【0008】
本構成によれば、導電性部材同士の間に絶縁部材を介在させた構成であって、部材同士の間において良好なシール性を確保することが可能となる。また上記構成としてより具体的には、前記窪み充填部は、前記樹脂部材の上端部において周方向全体から径方向外向きに突出している構成としても良い。
【0009】
上記構成としてより具体的には、前記樹脂部材は、前記下端位置より下側において、内径が当該下端位置での内径よりも小さい縮径部を有し、前記縮径部の上端が、前記電極軸に接している構成としても良い。本構成によれば、樹脂の軸方向の成形収縮を利用して、部材同士の間における良好なシール性を確保することが可能となる。
【0010】
上記構成としてより具体的には、径方向外側部が前記樹脂部材の内周面に接するOリングを、前記電極軸に設けた構成としても良い。本構成によれば、樹脂の径方向の成形収縮を利用して、電極軸と樹脂部材の間における良好なシール性を確保することが可能となる。
【0011】
上記構成としてより具体的には、前記電極軸は、内部に当該電極軸が挿通される略筒状に形成された絶縁性を有する部材を介して、前記容器取付部材に引っ掛ることにより、上方への動きが阻止されており、径方向外側部が前記樹脂部材の内周面に接するOリングを、前記絶縁性を有する部材の外周面に設けた構成としても良い。本構成によれば、樹脂の径方向の成形収縮を利用して、当該絶縁性を有する部材と樹脂部材の間における良好なシール性を確保することが可能となる。
【0012】
本発明に係る製造方法は、上記構成の電極保持器の製造方法であって、前記容器取付部材および前記電極軸を含む各部材を組み立てる組立工程と、前記組立工程の後に、前記容器取付部材の内部の隙間を含む空間に加熱溶融させた熱可塑性樹脂を充填して、前記樹脂部材を形成する形成工程と、を含む製造方法とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電極保持器によれば、導電性部材同士の間に絶縁部材を介在させた構成であって、部材同士の間において良好なシール性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る電極保持器の構成図である。
【
図2】本実施形態に係る電極保持器の上側部分の拡大構成図である。
【
図3】本実施形態に係る容器取付部材の構成図である。
【
図4】本実施形態に係る電極保持器の製造工程に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る電極保持器について、各図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本実施形態に係る電極保持器1の構成図である。
図2は、電極保持器1の上側部分の拡大構成図である。なお電極保持器1は、後述する露出部11の本体部13の外周面を除き、基本的に
図1に示す中心軸Xに対して軸対称となっている。本願の各図面(
図1~
図4)は、中心軸Xを含む平面で切断した場合の断面図として示している。
【0016】
以下の説明では、中心軸Xが延びる方向を軸方向(上下方向)とする。また以下の説明における径方向および周方向は、中心軸Xを基準とした径方向および周方向とする。本実施形態の例では、電極保持器1はボイラの缶体と連通する金属製の容器2(
図1を参照)に設置され、容器2内の液体の液位や電気伝導度等の検出に使用することが可能である。
【0017】
電極保持器1は、容器2に対して固定される容器取付部材10と、容器2内の液体に浸される検出用の電極を保持する電極軸20と、容器取付部材10と電極軸20との間に介在して両者を絶縁する絶縁部材30(後述する荷重部31と撥水カバー部35を含む部材)とを備えている。絶縁部材30は、樹脂により形成された絶縁性を有する部材である。
【0018】
電極軸20は、容器取付部材10の中空内部を貫通して設置されており、電極軸20と容器取付部材10との隙間に、絶縁部材30が充填されている。このような構成において、容器2に固定された容器取付部材10は、絶縁部材30を介して電極軸20を保持している。
【0019】
容器取付部材10は、導電性を有するステンレス製の部材であり、内部が中空の略円筒形状をしている。容器取付部材10は、
図1において上側に位置する露出部11と、下側に位置する嵌合部15とを有している。
【0020】
露出部11は、容器取付部材10が容器2に嵌合設置された状態で、容器2の外側に露出する部分であり、上端に位置する小径部12と、本体部13とを備えている。小径部12は、容器取付部材10の中で内径および外径が最も小さく薄肉となっており、荷重部31を挟んで電極軸21と径方向に対向している。
【0021】
ここで容器取付部材10の構成図を
図3に示す。本図に示すように容器取付部材10の内周面は、上側から順に、径方向内向きの第1内周面部W1、下向きの第2内周面部W2、径方向内向きの第3内周面部W3、下向きの第4内周面部W4、概ね径方向内向きの第5内周面部W5、概ね上向きの第6内周面部W6、および径方向内向きの第7内周面部W7が連接した形態となっている。なお第1内周面部W1は、小径部12の上端から、小径部12の下端よりも下側の位置まで延在している。
図1に示すように、第1~第3内周面部W1~W3は荷重部31に接し、第4~第7内周面部W4~W7は撥水カバー部35に接する。
【0022】
小径部12の内周面(第1内周面部W1の一部)には、周方向全周に渡って径方向外向きに掘られた環状溝121が設けられている。環状溝121には、Oリング51が装着されている。また、第5内周面部W5の上端には、周方向全周に渡って径方向外向きに掘られた窪み14が設けられている。窪み14の上側の壁面は、第4内周面部W4と同一平面上にある。
【0023】
容器取付部材10の内径については、第1内周面部W1が最も小さくなっており、第3内周面部W3と第7内周面部W7はこれよりも大きく、第5内周面部W5は更に大きくなっている。なお、第5内周面部W5の上端に設けられた窪み14において、容器取付部材10の内径は最大となっている。
【0024】
容器取付部材10の内周面と電極軸20の外周面との距離は、第1内周面部W1において最も小さくなっている。すなわち、絶縁部材30の肉厚は、第1内周面部W1と対向する領域において最も薄くなっている。また小径部12は、後述するように、製造時に径方向内側へとかしめられている。
【0025】
ここで、容器20内が高圧になった際に電極軸20がその圧力により受ける力は、荷重部31を介して、第2内周面部W2に集中し、容器取付部材10は、電極軸20から受ける荷重を実質的に第2内周面部W2において受ける。嵌合部15は、容器2に嵌合固定される部分であり、嵌合部15の外周表面には、容器2にねじ込んで固定設置するための雄ネジ部16が形成されている。なお、露出部11の本体部13の外周面は、容器取付部10の取り付け時にスパナを掛ける必要があるため、上方視で正六角形となるように形成されている。
【0026】
電極軸20は、ステンレス製の棒状部材であり、容器取付部材10の中空内部を貫通して上下に延在して設置されている。電極軸20は上側から順に、端子部21と、軸方向と直交する径方向に突出した径方向突出部であるフランジ部23と、電極取付部28とを備えている。
【0027】
電極軸20の上端に位置する端子部21は、電極保持器1を容器2に設置した状態で容器2の外側に露出しており、電源へと接続される端子である。フランジ部23は、電極軸20の径方向において外側に向けてフランジ形状に突出した部分であり、電極軸20の軸周り全周に渡って突出している。フランジ部23の外周面には、周方向全周に渡って径方向内向きに掘られた環状溝231が形成されており、この環状溝231には、Oリング52が装着されている。
【0028】
電極軸20の下端に位置する電極取付部28は、容器2内の液中に浸される電極がねじ込まれて接続固定される部分であり、雌ねじが形成されている。
【0029】
絶縁部材30は、端子部21の下部付近から電極取付部28の上部付近まで電極軸20を被覆するように設置されており、全体として中空のチューブ形状をしている。絶縁部材30は、
図1において上側に位置し、容器2内に露出しない荷重部31(本発明に係る「絶縁性を有する部材」に相当する)と、下側に位置し、容器2内に露出する撥水カバー部35(本発明に係る「樹脂部材」に相当する)とを備えている。本実施形態では、この荷重部31と撥水カバー部35とで異なる素材を採用している。
【0030】
荷重部31は、内径が電極軸20の外径(フランジ部23より上側部分の外径)と同等である略円筒状に形成されている。但し荷重部31の外径は、上側部分においては第1内周面部W1の内径と同等であるが、下側部分においては第3内周面部W3の内径と同等となるように拡径している。これにより荷重部31は、外周面が第1~第3内周面部W1~W3に接しており、第2内周面部W2に引っ掛ることで上方へ逸脱しないようになっている。
【0031】
また、荷重部31は、絶縁部材30の上端部分に位置しており、その下端は、電極軸20のフランジ部23の上端と接している。荷重部31において、容器20内が高圧になった際にその圧力を受けて電極軸20が上方に移動しようとする力は、電極軸20と水平な境界で接する荷重部31の下端部分に集中する。
【0032】
このように電極軸20からの荷重が集中する部分を含む荷重部31は、電極保持器1を設置した状態で容器2の内側に露出しておらず、液体に浸されることもないため、容器2内の雰囲気に接する場合に必要とされる撥水性、耐薬品性(例えば、ボイラ水に対する耐アルカリ性)等が要求されない。よって、本実施形態では、荷重部31を構成する素材として、耐高圧性に優れた高強度の樹脂素材であるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を用いている。
【0033】
また荷重部31は、通常の雰囲気において、ステンレス製の部材である容器取付部材10及び電極軸20との間に微小の隙間ができるようなサイズで構成されている。荷重部31における外径を拡径させた部分の外周面には、周方向全周に渡って径方向内向きに掘られた環状溝311が形成されており、この環状溝311には、Oリング53が装着されている。Oリング53は、撥水カバー部35の上端近傍を介して、窪み14と径方向に対向している。
【0034】
また、後述するように、容器取付部材10の小径部12は、径方向内側へとかしめられている。よって、荷重部31と容器取付部材10との間に微小の隙間を設けても、小径部12のかしめとOリング51の装着により両者の境界におけるシール性を担保することができる。
【0035】
このように、小径部12を内側へかしめた状態で、絶縁部材30の荷重部31とステンレス製の容器取付部材10及び電極軸20との間に微小の隙間ができるように構成すると、高温環境下で荷重部31が熱膨張した場合に、これらの隙間により熱膨張を吸収することができ、熱膨張による破損を防止し、電極保持器1の耐久性を向上させることができる。また、隙間を設けておくことで、後述する組み立て時に、荷重部31を容器取付部材10及び電極軸20と容易に組み立てることができる。なお、この隙間は、荷重部31と容器取付部10との間、荷重部31と電極軸20との間の何れか一方にだけ設けられていても良い。
【0036】
撥水カバー部35は、荷重部31の下側に位置する絶縁部材30の残りの部分であり、電極軸20のフランジ部23から電極取付部28の上側近傍において電極軸20の表面を覆っている。なお、撥水カバー部35の上面および外周面は、容器取付部材10の内周面に接しており、撥水カバー部35の内周面は、荷重部31における外周面と下面の一部、および、電極部21におけるフランジ部23から下側の外周面に接している。
【0037】
撥水カバー部35は、容器2内に露出する部分であるが、容器取付部材10が電極軸20を保持することによる荷重はそれほどかからない。よって、撥水カバー部35は、強度はそれほど要求されないが、撥水性、耐薬品性(例えば、ボイラ水に対する耐アルカリ性)、シール性(柔軟性)、耐熱性等が要求される。本実施形態では、撥水カバー部35を構成する素材として、撥水性、耐薬品性、シール性、耐熱性に優れた樹脂素材であるフッ素樹脂(PFA:テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)を用いた。
【0038】
荷重部31を構成する素材は適宜変更可能であり、耐荷重性に優れた高強度絶縁素材を適宜用いることができる。荷重部31の素材としては、例えば、PAI(ポリアミドイミド)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)等のエンジニアリングプラスチックやセラミック等を用いることができる。
【0039】
撥水カバー部35を構成する素材も適宜変更可能であり、高撥水性、高柔軟性を有する絶縁素材を適宜用いることができる。撥水カバー部35の素材としては、例えば、PFA以外のフッ素系の絶縁樹脂やシリコン等を用いることができる。
【0040】
以上、電極保持器1の構成について説明したが、続いて、電極保持器1の製造方法について説明する。
【0041】
まず、ステンレス製の容器取付部材10と電極軸20とをそれぞれ製造する。また、絶縁部材30のうちPEEK製の荷重部31を、撥水カバー部35とは別体に樹脂成形により製造する。続いて、電極軸20の環状溝231にOリング52を装着し、かつ荷重部31の環状溝311にOリング53を装着した状態で、電極軸20を単独成形した荷重部31に挿入する。なおOリング52およびOリング53の一方または両方は、電極軸20を荷重部31に挿入した後に装着されても良い。
【0042】
続いて、容器取付部材10の環状溝121にOリング51を装着した状態で、荷重部31が被せられた電極軸20を容器取付部材10の中空内部に挿入し、
図1に示す場所に位置させる。これにより
図4に示すように、まず、容器取付部材10、電極軸20及び絶縁部材30の荷重部31が組み立てられる。なおこの際に電極軸20は、荷重部31を介して容器取付部材10に引っ掛ることにより、上方への動きが阻止される。
【0043】
次に、容器取付部材10と電極軸20との間の隙間を埋めると共に、電極軸20の容器取付部材10から下方に突出した部分を覆うように(
図4に破線で示す外周面を有するように)、熱可塑性樹脂であるPFAを充填してインサート成形することで、撥水カバー部35を形成する。すなわち撥水カバー部35は、容器取付部材10の内部の隙間を含む空間に加熱溶融させたPFAを充填して、これを冷却固化させることにより形成される。なおこの際、PFAは成形収縮を生じることになる。
【0044】
そして小径部12を径方向内側へ所定寸法かしめることで、電極保持器1が完成する。上記のとおり電極保持器1は、容器取付部材10、電極軸20、および荷重部31の各部材を組み立てる工程(組立工程)と、この組立工程の後に、容器取付部材10の内部の隙間を含む空間に加熱溶融させたPFAを充填して、撥水カバー部35を形成する工程(形成工程)と、を含む製造方法によって製造される。なお、成形工程の終了後は、所定の条件(例えば、230℃前後で1時間)でアニール処理を施し、撥水カバー部35の残留応力を取り除くのが望ましい。
【0045】
以上に説明したとおり電極保持器1においては、容器取付部材10と電極軸20との間に介在する絶縁部材30を、素材の異なる荷重部31と撥水カバー部35とから構成し、容器2内の高圧時に電極軸20から受ける荷重の集中する荷重部31は、耐荷重性に優れた高強度絶縁素材を使用し、高温高圧環境になり得る容器2内に露出する撥水カバー部35は、高撥水性、高柔軟性を有する絶縁素材から構成している。そのため、電極保持器1を高温高圧下の容器2に設置した場合でも安定した良好なシール性能を維持すると共に、耐久性を向上させることができる。
【0046】
例えば、電極保持器1が設置された容器2内が高温高圧になった場合、容器2の外側の大気圧との圧力差により電極軸20が外に飛び出そうとする力が荷重部31に集中してかかることになるが、荷重部31を形成するPEEKが高強度の素材であるため、過大な荷重による破壊を防ぐことができる。
【0047】
また、容器2内が高温のアルカリ環境になった場合であっても、容器2内に露出している撥水カバー部35を形成するPFAが、撥水性、耐薬品性、シール性、耐熱性に優れた素材であるため、電極軸20を確実に保護し、劣化を防止することができる。
【0048】
更に電極保持器1では、容器2内の蒸気等が漏れ出さないように、上述したPFAの成形収縮も利用して、各部材同士の間において良好なシール性が確保されるよう配慮されている。以下、この点について詳細に説明する。
【0049】
まず、容器取付部材10の本体部13の内周面に窪み14を設けたことにより、撥水カバー部35には、この窪み14を充填する窪み充填部351が形成される。そのため上述したPFAの成形収縮が生じても、窪み充填部351は、窪み14の下端(下側の壁面)に引っ掛かることによって下方への移動が拘束される。これにより、PFAの上下方向(軸方向)の成形収縮に着目すると、窪み14の下端の上下方向位置(
図1に示す位置P)よりも下側の領域においては、PFAは上方へ成形収縮することになる。
【0050】
そして撥水カバー部35は、位置Pより下側において、内径が位置Pでの内径よりも小さい縮径部352(
図2を参照)を有し、この縮径部352の上端がフランジ部23(電極軸21の一部分)に接している。このため縮径部352は、PFAの成形収縮によって、白抜矢印で示すようにフランジ部23を上方へ押し付けるように作用する。その結果、各部材同士の間における上下方向のシール性、すなわち、撥水カバー部35(縮径部352の上端)と電極軸21(フランジ部23の下端)の間のシール性、電極軸21(フランジ部23の上端)と荷重部31の間のシール性、および、荷重部31と容器取付部材10(第2内周面部W2)の間のシール性が、PFAの成形収縮を利用して高められる。
【0051】
なお、位置Pより上側の領域においては、PFAの軸方向の成形収縮は拘束されず、PFAは下方へ成形収縮する可能性がある。そのため、仮に、撥水カバー部35が位置Pよりも上側の内周面において上方または斜め上方を向いた箇所を有していれば、PFAの成形収縮の作用により、その箇所では撥水カバー部35と他の部材との間に隙間が生じ易くなることが懸念される。
【0052】
一例を挙げれば、縮径部352の上端(内周面における上方を向いた箇所)が位置Pよりも上側にあると仮定すると、PFAの下方への成形収縮によって縮径部352の上端が下方へ動く可能性がある。このような現象が生じると、撥水カバー部35(縮径部352の上端)と電極軸21(フランジ部23の下端)の間に隙間が生じ易くなり、シール性の低下を招く虞がある。
【0053】
しかし本実施形態の撥水カバー部35は、内周面における位置Pよりも上側の全ての領域(位置Pから第4内周面部W4までの領域)が径方向内向きの面となっており、上方または斜め上方を向いた箇所を有していない。そのため、このような隙間が生じ易くなるという問題は回避される。なお位置Pよりも上側の内周面においては、下方または斜め下方を向いた箇所が存在していても構わず、径方向内向き、下向き、および斜め下向きの箇所のみとなっていれば、基本的に同等の効果を得ることが可能である。このように電極保持器1は、撥水カバー部35と他の部材との間に隙間が生じ易くならないよう配慮されており、部材同士の間において良好なシール性を確保することが可能となっている。
【0054】
また電極保持器1においては、径方向外側部が撥水カバー部35の内周面に接するOリング52を、フランジ部23(電極軸21)に設けている。そのためPFAの径方向内向きの成形収縮によって、撥水カバー部35の内周面がOリング52をフランジ部23に向けて押さえ付ける格好となり、Oリング52を利用して撥水カバー部35と電極軸21の間のシール性が十分に高められる。
【0055】
更に電極保持器1においては、径方向外側部が撥水カバー部35の内周面に接するOリング53を、荷重部31の外周面に設けている。そのためPFAの径方向内向きの成形収縮によって、撥水カバー部35の内周面がOリング53を荷重部31に向けて押さえ付ける格好となり、Oリング53を利用して撥水カバー部35と荷重部31の間のシール性が十分に高められる。
【0056】
このように電極保持器1では、PFAの径方向の成形収縮を利用して、撥水カバー部35と電極軸21の間、および撥水カバー部35と荷重部31の間のシール性が高められるようになっている。なお、電極保持器1ではPFAのほぼ全体が上方へ成形収縮するとともに、本体部13の内側に設けた2個のOリング52,53に対して撥水カバー部35を径方向へ接触させており、撥水カバー部35とOリングとの接触面積が十分に確保され、軸方向でもシール性が向上するようになっている。
【0057】
ところで、本実施形態においては、内部が高温高圧となるボイラの缶体と連通する金属製の容器2に電極保持器1を取り付けるため、絶縁部材30が撥水カバー部35に加えて別部材の荷重部31を有するように構成した。電極保持器1を内部が常温常圧である給水タンク等の容器に取り付ける場合、撥水カバー部35と荷重部31とは一体に構成されていてもよい。すなわち、絶縁部材30の全体をPFAで形成してもよい。なお、この常温常圧用の構成では、電極軸20に容器内部から圧力が加わることはないので、容器取付部材10の内周面に荷重を受けるための第2内周面部W2および第3内周面部W3を設ける必要はなく、第1内周面部W1および第4内周面部W4を連続させた内周面形状とすることもできる。
【0058】
以上に説明したとおり電極保持器1は、上下を軸方向とする筒状に形成されており、容器2に固定される導電性の容器取付部材10と、容器取付部材10の内部を通って上下へ延びるとともに上方への動きが阻止されるよう配置されており、電極が固定される導電性の電極軸20と、容器取付部材10の内部の隙間に充填されている筒状の撥水カバー部35と、を備える。なお電極軸20は、内部に電極軸20が挿通される筒状に形成された荷重部31(絶縁性を有する部材)を介して、容器取付部材10に引っ掛ることにより、上方への動きが阻止されている。
【0059】
そして撥水カバー部35は、容器取付部材10に設けた窪み14を充填する窪み充填部351を有し、窪み充填部351の下端位置より上側の内周面において、上方または斜め上方を向いた箇所を有さないようになっている。そのため電極保持器1は、導電性部材同士の間に絶縁部材を介在させた構成でありながらも、部材同士の間において良好なシール性を確保することが可能となっている。
【0060】
なお、本実施形態における窪み14は円環状の溝となっており、これを充填するように形成された窪み充填部351は、撥水カバー部35の上端部において周方向全体から径方向外向きに突出した形態となっている。そのため、撥水カバー部35の上端近傍を下方へ移動しないように拘束し、PFAのほぼ全体の軸方向の成形収縮を、上方への収縮とすることができる。更に、窪み充填部351と窪み14の下端との接触が周方向全体で確保され、窪み充填部351の下方への移動をより確実に拘束することが可能となっている。
【0061】
但し本発明に係る「窪み」および「窪み充填部」の具体的形態は、上述した形態には限られない。例えば、本発明に係る「窪み」は周方向へ並ぶように配置された複数の穴としても良く、本発明に係る「窪み充填部」はこれらの穴を充填する形態であっても良い。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、容器内に電極を保持する電極保持器に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 電極保持器
2 容器
10 容器取付部材
11 露出部
12 小径部
121 環状溝
13 本体部
14 窪み
15 嵌合部
16 雄ネジ部
20 電極軸
21 端子部
23 フランジ部
231 環状溝
28 電極取付部
30 絶縁部材
31 荷重部(絶縁性を有する部材)
311 環状溝
35 撥水カバー部(樹脂部材)
351 窪み充填部
352 縮径部
51~53 Oリング
P 窪み14の下端の上下方向位置
W1~W7 第1~第7内周面部
X 中心軸