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特許7531792シランを、塩化メチルを用いて脱水素化及びメチル化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】シランを、塩化メチルを用いて脱水素化及びメチル化する方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20240805BHJP
   C07F 7/12 20060101ALI20240805BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20240805BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
C07F7/08 B
C07F7/12 P
C07F7/12 Q
B01J31/02 102Z
C07F7/12 M
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022564406
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2020061367
(87)【国際公開番号】W WO2021213661
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ティルマン
(72)【発明者】
【氏名】リヒャルト、バイドナー
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-053911(JP,A)
【文献】国際公開第2020/048597(WO,A1)
【文献】特開2002-167391(JP,A)
【文献】国際公開第2019/060486(WO,A1)
【文献】特開昭62-046916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C07F,B01J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のアンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩の存在下において、70~350℃の温度範囲にて、SiH、HSiMe、HSiMeCl、HSiMe、HSiCl及びHSiMelからなる群から選ばれるシランと塩化メチルとを反応させる工程を有する、シランを脱水素化及びメチル化する方法。
【請求項2】
前記温度範囲が100~350℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩化メチルに対するシランのモル比が1:1~1:10の範囲にある、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
シランに対する触媒のモル比が0.01:1~0.2:1の範囲にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩が、四級アンモニウムハライド[RN]X、四級ホスホニウムハライド[RP]X、及び三級アンモニウムハライド[RNH]Xからなる群から選ばれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
(各式中、
X=Cl、Br又はIであり、
R=(i)C~C12のアルキル基、
(ii)C~Cのアルキルで置換された、C~C14のアリール基、及び
(iii)フェニル基
からなる群から独立して選ばれる。)
【請求項6】
前記アンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩が、[n-BuN]Cl、[EtN]Cl、[PhP]Cl及び[n-BuP]Clからなる群から選ばれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
連続式又はバッチ式で行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のアンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩の存在下において、70~350℃の温度範囲にて、シランを、塩化メチル(MeCl)を用いて脱水素化及びメチル化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルクロロシラン(MCSs)は、例えば疎水化用シリコーンの製造や、有機合成に使用される。
Me-Si結合を工業的規模で効率良く形成する唯一の方法は、ミュラー・ロショー法である。ミュラー・ロショー法は、元素シリコンと、MeCl等の単純な有機塩素化合物とから進行する。
しかしながら、ミュラー・ロショー法では、メチル-H-シラン又はH-シランを、メチル化されたメチルクロロシラン(MCSs)やより高度にメチル化されたメチルクロロシラン(MCSs)へ変換させることができない。
【0003】
塩化物の触媒でH-含有シランを脱水素化する方法は、文献から知られている。
【0004】
米国特許出願公開2002/0082438 A1には、トリクロロシラン、ジクロロシラン又はジクロロメチルシランから進行する、オルガノクロロシランの合成が記載されている。式RCHX(式中、X=Cl又はBrであり、RはC1~17アルキル、部分的又は完全にフッ素化されたC1~10フッ素化アルキル、C1~5アルケニル、(CHSiMe3-mCl(式中、n=0~2であり、m=0~3である。)、(CHX(式中、p=1~9であり、X=Cl又はBrである。)、又はArCHX(式中、Ar=C6~14芳香族炭化水素であり、X=Cl又はBrである。)から選ばれ、RはH、C1~6アルキル、Ar(R‘)(式中、Ar=C6~14芳香族炭化水素であり、R=C1~4アルキル、ハロゲン、アルコキシ又はビニルであり、q=0~5である。)から選ばれる。)のハロゲン化炭化水素を、出発物質として更に使用する。様々な四級ホスホニウムハライドを触媒として使用する。反応機構は、全反応において塩化水素の脱離を伴った脱塩化水素化と考えられている。
【0005】
国際出願PCT/EP2018/073933号明細書には、ジクロロシランと、(i)ハロゲン化水素、又は、(ii)式(I)のハロゲン化炭化水素(塩化メチルも含まれる)と、の反応が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、H-含有シランからメチルクロロシランを経済的に製造することに使用できる方法の提供を、目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、少なくとも1種のアンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩の存在下において、70~350℃の温度範囲にて、SiH、HSiMe、HSiMeCl、HSiMe、HSiCl、HSiMeCl及びHSiMeClからなる群から選ばれるシランと塩化メチルとを反応させる工程を有する、シランを脱水素化及びメチル化する方法により、達成される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の方法では、触媒として、少なくとも1種のアンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩の存在下で、塩化メチル(MeCl)は、SiH、HSiMe、HSiMeCl、HSiMe、HSiCl、HSiMeCl及びHSiMeClからなる群から選ばれるシランと反応する。
最初の反応工程では、シランから水素が除去されることで、分離不可能な中間体がまず形成される。このアニオンを、形式的な求核置換で更に反応させるか、又はシリレンとして挿入することができる。MeClとの反応であれば、生成物は常に、いずれの場合でもメチル基及びCl基が追加されたシランである。いずれの場合でも塩化物イオンは再び取り除かれ、その後は同様に触媒として使用できる。
【0009】
本発明の方法では、使用する触媒は、少なくとも1種のアンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩である。このアンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩は、例えばシリコーン樹脂上、シリカ上、無機担体上又は有機ポリマー上に、固定化した形態で使用することもできる。アンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩は、アミン又はホスフィンとHClとから、そのまま調製することもできる。
アンモニウム塩及び/又はホスホニウム塩は、四級アンモニウムハライド[RN]X、四級ホスホニウムハライド[RP]X、及び三級アンモニウムハライド[RNH]Xからなる群から選ばれることが好ましい。
(各式中、
X=Cl、Br又はIであり、
Cl又はBrが好ましく、
R=(i)C~C12のアルキル基、
(ii)C~Cのアルキルで置換された、C~C14のアリール基、及び
(iii)フェニル基
からなる群から独立して選ばれ、
エチル、n-ブチル及びフェニルが好ましい。)
特に好ましい化合物は、[n-BuN]Cl、[EtN]Cl、[PhP]Cl及び[n-BuP]Clである。
【0010】
本発明の方法は、触媒の熱安定性によるが、典型的には70~350℃の温度範囲にて行う。100~350℃の温度範囲が好ましい。[n-BuN]Cl、[EtN]Cl及び[n-BuP]Clの場合には、100~180℃の温度範囲がより好ましく、150~180℃の温度範囲が更に好ましく、170~180℃の温度範囲が特に好ましい。[PhP]Clの場合には、70~350℃の温度範囲が好ましく、250~350℃の温度範囲がより好ましい。
【0011】
MeClに対するシランのモル比は、当業者が自由に選択できる。典型的には、モル比は1:1~1:10の範囲にある。シランが全てSiH以外の群の場合、MeClの添加量は、変換されるシランの化学量論の量以上と一致することが好ましく、従って、モル比は1:1~1:2が好ましい。SiHの場合、MeClの添加量は、変換されるシランの化学量論の量の2倍以上と一致することが好ましく、従って、モル比は1:2~1:4が好ましい。
【0012】
シランに対する触媒のモル比は、当業者が自由に選択できる。このモル比は0.01:1~0.2:1の範囲にあることが好ましい。
【0013】
シランを脱水素化する本発明の方法は、経済的に妥当な手段で、メチルクロロシランの製造に使用できる。
【実施例
【0014】
GC測定は、Agilent 6890N(WLD検出器;カラム:アジレント社製HP5(長さ30m/直径0.32mm/膜厚0.25μm)、レステック社製RTX-200(長さ60m/直径0.32mm/膜厚1μm))を用いて行った。保持時間は市販の物質と比較し、化学品は全て購入したものを使用した。MS測定は、イリジウム陰極を備えたサーモスター(商標)GSD 320 T2を用いて行った。
【0015】
実施例1:SiH とMeClとの反応
SiH(9g;0.50mol)、[n-BuP]Cl(2.1g;7mmol)及びMeCl(64.0g;1.27mol)で、高圧滅菌器を満たした。高圧滅菌器を150℃で13時間加熱した。冷却後には、約30バールの圧力が高圧滅菌器内に残っていた。10バールまで減圧し、高圧滅菌器を再度150℃で13時間加熱した。冷却後には、約15バールの圧力が高圧滅菌器内に残っていた。高圧滅菌器を減圧し、ガス空間をアルゴンでパージした。生成した液体の混合物は、60重量%程度のHSiMeCl、14重量%程度のMeSiCl、10重量%程度のHSiMeCl、8重量%程度のMeSiCl、4重量%程度のMeCl、並びに4重量%程度の他の塩素置換シラン、メチル置換シラン又は/及びメチレン置換シランからなるものであった。反応で生成したガスが水素であることは、質量分析にて明白に確認できた。
【0016】
実施例2:SiH とMeClとの反応
SiH(9g;0.34mol)、[n-BuP]Cl(2.2g;7mmol)及びMeCl(48.0g;0.95mol)で、高圧滅菌器を満たした。高圧滅菌器を145℃で13時間加熱した。冷却後には、約25バールの圧力が高圧滅菌器内に残っていた。高圧滅菌器を減圧し、ガス空間をアルゴンでパージした。生成した液体の混合物は、89重量%程度のMeSiCl、9重量%程度のMeCl及び2重量%程度のMeSiClからなるものであり、これに加えて少量のHSiMeClを検出できた。反応で生成したガスが水素であることは、質量分析にて明白に確認できた。
【0017】
実施例3:SiH とMeClとの反応
SiH(7g;0.34mol)、[PhP]Cl(2.1g;6mmol)及びMeCl(25.0g;0.50mol)で、高圧滅菌器を満たした。高圧滅菌器を300℃で13時間加熱した。冷却後には、約25バールの圧力が高圧滅菌器内に残っていた。高圧滅菌器を減圧し、ガス空間をアルゴンでパージした。生成した液体の混合物は、56重量%程度のMeSiCl、2重量%程度のMeCl及び42重量%程度のMeSiClからなるものであり、これに加えて少量のHSiMeClを検出できた。反応で生成したガスが水素であることは、質量分析にて明白に確認できた。
【0018】
実施例4:SiH 及びSiCl の混合物とMeClとの反応
SiH(9g;0.34mol)、[n-BuP]Cl(2.2g;0.7mmol)、MeCl(70.0g;1.38mol)及びSiCl(50.0g;0.29mol)で、高圧滅菌器を満たした。高圧滅菌器を190℃で13時間加熱した。冷却後には、約50バールの圧力が高圧滅菌器内に残っていた。高圧滅菌器を減圧し、ガス空間をアルゴンでパージした。生成した液体の混合物は、48重量%程度のSiCl、47重量%程度のMeSiCl、3重量%程度のMeCl及び2重量%程度のMeSiClからなるものであり、これに加えて少量のHSiMeCl及びSiClを検出できた。反応で生成したガスが水素であることは、質量分析にて明白に確認できた。
【0019】
実施例5:HSiCl MeとMeClとの反応
HSiClMe(85g;0.75mol)、[n-BuP]Cl(2.1g;7mmol)及びMeCl(50.0g;0.99mol)で、高圧滅菌器を満たした。高圧滅菌器を130℃で13時間加熱した。冷却後には、約5バールの圧力が高圧滅菌器内に残っていた。高圧滅菌器を減圧し、ガス空間をアルゴンでパージした。生成した液体の混合物は、56重量%程度のHSiClMe、31重量%程度のMeSiCl、7重量%程度のMeSiCl、5重量%程度のMeCl、並びに1重量%程度の他の塩素置換シラン、メチル置換シラン又は/及びメチレン置換シランからなるものであった。反応で生成したガスが水素であることは、質量分析にて明白に確認できた。
【0020】
実施例6:HSiCl MeとMeClとの反応
HSiClMe(85g;0.75mol)、[n-BuP]Cl(2.5g;8mmol)及びMeCl(51.0g;1.01mol)で、高圧滅菌器を満たした。高圧滅菌器を176℃で13時間加熱した。冷却後には、約20バールの圧力が高圧滅菌器内に残っていた。高圧滅菌器を減圧し、ガス空間をアルゴンでパージした。生成した液体の混合物は、16重量%程度のHSiClMe、41重量%程度のMeSiCl、33重量%程度のMeSiCl、9重量%程度のMeCl、並びに1重量%程度の他の塩素置換シラン、メチル置換シラン又は/及びメチレン置換シランからなるものであった。反応で生成したガスが水素であることは、質量分析にて明白に確認できた。
【0021】
実施例7:HSiClMe とMeClとの反応
HSiClMe(85g;0.75mol)、[n-BuP]Cl(2.5g;8mmol)及びMeCl(48.0g;0.95mol)で、高圧滅菌器を満たした。高圧滅菌器を176℃で13時間加熱した。冷却後には、約30バールの圧力が高圧滅菌器内に残っていた。高圧滅菌器を減圧し、ガス空間をアルゴンでパージした。生成した液体の混合物は、16重量%程度のHSiClMe、67重量%程度のMeSiCl、7重量%程度のMeSiCl、9重量%程度のMeCl、並びに1重量%程度の他の塩素置換シラン、メチル置換シラン又は/及びメチレン置換シランからなるものであった。反応で生成したガスが水素であることは、質量分析にて明白に確認できた。