(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】毛髪処理剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/36 20060101AFI20240805BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20240805BHJP
A61Q 5/04 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
A61K8/36
A61K8/46
A61Q5/04
(21)【出願番号】P 2020106540
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】518035145
【氏名又は名称】株式会社イングラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】518035156
【氏名又は名称】株式会社CUTICULA
(72)【発明者】
【氏名】中谷 靖章
(72)【発明者】
【氏名】一木 登紀男
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-123701(JP,A)
【文献】特開2013-053113(JP,A)
【文献】特開2007-176826(JP,A)
【文献】特開昭48-040945(JP,A)
【文献】特開平08-268849(JP,A)
【文献】特開2020-070282(JP,A)
【文献】国際公開第2019/195901(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対イオンを有しないレブリン酸を2~20質量%と、
(b)還元成分を2~11質量%と、
を含有し、かつpHが4.0~5.5の範囲であることを特徴とする
縮毛矯正効果を有する毛髪処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の傷みと弾力の低下を十分に抑制し、かつ、良好な縮毛矯正効果を有する毛髪処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な縮毛矯正剤は、主成分の還元剤、酸化剤の作用及び高温での機械的処理によりクセを矯正することができる。具体的には、チオグリコール酸又はその塩、システアミン又はその塩等の還元剤と、アンモニア水、モノエタノールアミン、炭酸水素アンモニウム、アルギニン等のアルカリ剤を含有する第1剤を毛髪に塗布することによりケラチンタンパクに存在するジスルフィド結合を還元開裂した後中間水洗し、ドライヤーなどで乾燥し、アイロンによる高温での機械的処理によりストレート状に伸ばした上で、過酸化水素あるいは臭素酸ナトリウム等の酸化剤を主成分とする第2剤で処理して、ジスルフィド基を酸化再形成させ、毛髪をストレート状に固定する。しかし、アルカリ性の第1剤を作用させると毛髪が膨潤軟化し、ドライヤーなどでの乾燥及びアイロンによる高温での機械的処理により毛髪の傷みと弾力が低下し、処理後の時間経過に伴い毛髪の傷みにより感触が悪くなるという問題がある。このため、毛髪の傷みと弾力の低下を十分に抑制し、かつ、良好な縮毛矯正効果を有する毛髪処理剤の開発が望まれている。
【0003】
毛髪の傷みと弾力の低下の少ない縮毛矯正方法及び毛髪処理剤として、特許文献1には、R1-O-(CH2CH2O)nCH2COOM(式中、R1は飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは1~10の数を示し、Mはリシン、ヒスチジン又はアルギニンを示す。)で表されるアルキルエーテルカルボン酸アミノ酸塩及び還元剤を含み、pHが中性領域であり、前記還元剤が、システアミン及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である縮毛矯正用の毛髪処理剤が開示されている。当該特許の明細書において「中性領域」とは、pH6.0~8.0の範囲を意味するとの記載がある。この毛髪処理剤では、pHが中性領域であっても、弱~強アルカリ性における場合と同等以上のストレートデザイン形成効果を有し、かつ毛髪の傷みを抑制することが可能ではあるが、毛髪の等電点付近であるpH4.5~5.5よりアルカリ寄りであるため、毛髪の傷みと弾力の低下を十分に解消することができない。
【0004】
毛髪の傷みと弾力の低下の少ない縮毛矯正方法及び毛髪処理剤として、特許文献2には、縮毛矯正剤として、チオグリコール酸と、有機酸及び/又はリン酸と、有機酸塩及び/又はリン酸塩と、を含み酸性である、毛髪処理剤組成物が開示されている。この方法では、毛髪の傷みを十分に抑制し、かつ、良好な縮毛矯正効果を発現できることが可能ではあるが、毛髪の弾力の低下を十分に解消することができない。また、有機酸及び/又はリン酸は、チオグリコール酸の酸解離定数に近い酸解離定数を有するものを選択することが好ましく、チオグリコール酸は、そのほとんどが解離ないし中和されておらず、酸の状態で存在し、酸性pHに調整することないし酸性pHを維持することが容易になると考えられるとの記載がある。すなわち、当該特許に配合されている有機酸及び/又はリン酸の少なくとも1種は、チオグリコール酸の酸解離定数に近い酸解離定数を有し、チオグリコール酸のほとんどが解離ないし中和されておらず、酸の状態で存在することが当該特許の効果を提供するための必要条件である。
【0005】
毛髪の傷みと弾力の低下の少ない縮毛矯正方法及び毛髪処理剤として、特許文献3には、(i)還元剤、アルカリ剤及び水を含む第1の薬剤を毛髪に塗布する工程、(i-2)前記毛髪を洗浄し、その後に、前記毛髪を乾燥する工程、(i-3)ボイラー部及びハンドピース部を備える噴霧器の、前記ボイラー部で水を沸騰させて水蒸気を生成し、前記水蒸気を130℃以上3気圧以上で加熱する工程、(i-4)前記ハンドピース部で前記水蒸気を200℃以上に再加熱することにより0.26~1nmの粒径を有し、かつ200~230℃の温度を有する過熱水蒸気を得る工程、(ii)前記工程(i-4)の後に、前記過熱水蒸気を前記毛髪に向けて噴霧する工程、及び(iii)前記噴霧の直後に又は前記噴霧を行いながら、前記毛髪に160~170℃の温度をかけて前記毛髪を伸ばす工程を含む毛髪にストレートパーマをかける方法が開示されている。この方法では、より毛髪の傷みが少なく、毛髪の艶がより改善されるが、毛髪の弾力の低下を十分に解消することができず、さらに手間と時間、及び/又は過熱水蒸気を得る専用の装置が必要になり、実益に乏しいのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6522571号
【文献】特開2016-204282号
【文献】特許第6317515号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の欠点に鑑みてなされたものであり、毛髪の傷みと弾力の低下を十分に抑制し、かつ、良好な縮毛矯正効果を有する毛髪処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、対イオンを有しないレブリン酸と、還元成分とを含有し、かつpHが4.0~5.5の範囲に調整するにより、毛髪の傷みと弾力の低下を十分に抑制し、かつ、良好な縮毛矯正効果を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の毛髪処理剤は、
(a)対イオンを有しないレブリン酸を2~20質量%と、
(b)還元成分を2~11質量%と、
を含有し、かつpHが4.0~5.5の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の毛髪処理剤により、髪の傷みと弾力の低下を十分に抑制し、かつ、良好な縮毛矯正効果が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<毛髪処理剤>
本発明の毛髪処理剤は、対イオンを有しないレブリン酸と還元成分とを必須に含有する。以下、本発明について詳述する。
【0012】
対イオンを有しないレブリン酸の含有量は、本発明の毛髪処理剤の全量に対して、2~20質量%、好ましくは7.5~15質量%である。含有量が2質量%未満では十分な毛髪の傷みと弾力の低下を抑制する効果を得ることができず、一方、20質量%を超えて含有しても、含有量に見合った毛髪の傷みと弾力の低下を抑制する効果の向上は期待できない。
【0013】
還元成分の含有量は、本発明の毛髪処理剤の全量に対して、2~11質量%、好ましくは5~7質量%である。含有量が2質量%未満では十分な縮毛矯正効果を得ることができず、一方、11質量%を超えて含有すると、毛髪の傷みと弾力の低下が発生してしまう。
【0014】
前記還元成分としては、チオール基を有していてかつ、酸解離定数がレブリン酸より小さい値を有している又は、チオール基を有していてかつ、酸解離定数を有しない種々の公知のものを使用することができる。チオール基を有していてかつ、酸解離定数がレブリン酸より小さい値を有している還元成分では、レブリン酸は、対イオンを有することなく、その効果を発揮することができる。また、酸を対イオンとして有する還元剤に用いられる酸はレブリン酸より小さい酸解離定数を有する必要がある。これにより、レブリン酸は、対イオンを有することなく、その効果を発揮することができる。チオール基を有していてかつ、酸解離定数がレブリン酸より小さい値を有している還元成分として例えば、チオグリコール酸又はその塩、チオ乳酸又はその塩、システイン又はその塩等が挙げられる。また、チオール基を有していてかつ、酸解離定数を有しない還元成分として例えば、システアミン又はその塩、チオグリセリン等が挙げられる。チオール基を有していてかつ、酸解離定数がレブリン酸より小さい値を有している還元成分及び、チオール基を有していてかつ、酸解離定数を有しない還元成分より選択される1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明の毛髪処理剤は、pHを4.0~5.5の範囲、好ましくは4.5~5.5の範囲に保持することが必要である。pHが4.0未満では、十分な縮毛矯正効果を得ることができず、pHが5.5を超えると、毛髪の傷みと弾力の低下が発生してしまう。即ち、毛髪の等電点付近であることが必要である。
毛髪処理剤のpHを前記範囲に調整するための対イオンを有しない塩基としては、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の無機塩基、アンモニア水やトリエタノールアミン、塩基性アミノ酸等の有機塩基を用いることができる。又、対イオンを有する塩基としては、対イオンを有する塩基に用いられるレブリン酸以外の酸は、レブリン酸より小さい酸解離定数を有する必要がある。これにより、レブリン酸は、対イオンを有することなく、その効果を発揮することができる。例えば、グリコール酸や乳酸等のモノカルボン酸のナトリウム塩等である対イオンを有する塩基、マレイン酸やリンゴ酸等のジカルボン酸のナトリウム塩等である対イオンを有する塩基、クエン酸等のトリカルボン酸のナトリウム塩等である対イオンを有する塩基、グルタミン酸やアスパラギン酸である酸性アミノ酸のナトリウム塩等である対イオンを有する塩基、リン酸やポリリン酸等の無機酸のナトリウム塩等である対イオンを有する塩基、エチドロン酸、エデト酸、フィチン酸等のキレート効果を特に有する酸のナトリウム塩等である対イオンを有する塩基、等を用いることができる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
毛髪処理剤のpHを前記範囲に調整するための酸としては、レブリン酸より小さい酸解離定数を有する酸であれば、特に限定されるものではない。
【0016】
前記毛髪処理剤には、レブリン酸と還元成分以外にも、通常化粧品や医薬部外品等に用いられる他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲内で任意に添加することができる。このような成分として、例えばカチオン性高分子、アニオン性高分子、非イオン高分子、両性高分子、多価アルコール、糖類、アミノ酸、ペプチド、プロテイン、金属イオン封鎖剤、油分、粉末成分、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、増粘剤、粉末成分、香料、粉末成分、色素、水等を含有することができる。
【0017】
本発明にかかる毛髪処理剤の剤型は、所望の効果が充分に発揮されるのであれば特に限定されないが、例えば、液状、乳液状、ゲル状、フォーム状、クリーム状などの剤型を採りうる。
【実施例】
【0018】
以下に具体例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例等における配合量は特に断らない限り質量%を示す。
【0019】
(実施例1~8及び比較例1~2)
下記の表1に掲げた組成を有する毛髪処理剤を、精製水に各成分を均一になるまで撹拌混合することにより調製した。
得られた毛髪処理剤の毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果及び縮毛矯正効果の評価を、下記の方法により評価した。
【0020】
また、臭素酸ナトリウムの7質量%水溶液を調整し、第2剤とする。
【0021】
<試験毛束の作成>
天然クセ毛(インド人黒毛)を伸長時の長さが30cmになるように切りそろえ、重さ3gの毛束を作成した。ついで、各毛束を市販の8レベルの酸化染毛剤にて処理し、市販のシャンプーにて2回洗浄し、十分にタオルドライし、毛束の一端を固定して垂直方向に吊し、24時間室温放置する。その後、再度、各毛束を市販の8レベルの酸化染毛剤にて処理し、市販のシャンプーにて2回洗浄し、十分にタオルドライし試験毛束とした。
【0022】
<毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果の評価>
試験毛束に調整した毛髪処理剤を3g塗布し、40℃で20分間放置する。その後、お湯で十分に毛髪処理剤を洗い流す。十分にタオルドライしてからドライヤーで乾燥させ、190℃に熱した毛髪矯正アイロンにて10秒間かけて毛髪をストレート状にした。次に、前記第2剤を5g塗布し、室温にて15分間放置し、お湯で十分に第2剤を洗い流す。十分にタオルドライし、この毛束の一端を固定して垂直方向に吊し、24時間室温放置する。その後、60℃の2%ポリオキシエチレンラウリル硫酸Na水溶液に1時間浸漬し、十分にお湯で洗い流した後、十分にタオルドライし、この毛束の一端を固定して垂直方向に吊し、24時間室温放置して十分に乾燥した時に、下記の評価基準により、10年以上の美容師経験を有する3名が評価した。
<評価基準>
毛髪の傷みは、毛髪の手触りで評価する。毛髪の傷みと弾力の低下は、毛束の一端を固定して垂直方向に吊し、24時間室温放置して十分に乾燥した試験毛束との比較にて評価する。
1.ゴワツキがあり手触りが悪い。弾力がやや弱い~弱い。
2.ゴワツキがややあり手触りがやや悪い。弾力はやや弱い。
3.ゴワツキがない。弾力はキープしている。
4.しなやかさがあり手触りがよい。弾力はキープしている。
5.しなやかさがあり手触りがとてもよい。弾力はキープしている。
【0023】
<縮毛矯正効果の評価>
試験毛束に調整した毛髪処理剤を3g塗布し、40℃で20分間放置する。その後、お湯で十分に毛髪処理剤を洗い流す。十分にタオルドライしてからドライヤーで乾燥させ、190℃に熱した毛髪矯正アイロンにて10秒間かけて毛髪をストレート状にした。次に、前記第2剤を5g塗布し、室温にて15分間放置し、お湯で十分に第2剤を洗い流す。十分にタオルドライし、この毛束の一端を固定して垂直方向に吊し、24時間室温放置した後、市販のシャンプーにて1回洗浄し、十分にタオルドライし、この毛束の一端を固定して垂直方向に吊し、24時間室温放置してして十分に乾燥した時に、下記の評価基準により、10年以上の美容師経験を有する3名が評価した。
<評価基準>
1.クセが残っており、まとまりが悪い。
2.クセは少し残っており、まとまりがやや悪い。
3.クセがわずかに残っているが、まとまりがある。
4.クセがほぼ伸びていて、まとまりが良い。
5.クセが伸びていて、ツヤとまとまりが良い。
【0024】
【0025】
実施例1~8に示されるように、対イオンを有しないレブリン酸を2~20質量%を含有した場合に、十分な毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果及び、縮毛矯正効果が得られた。これに対し、比較例1~2に示されるように、対イオンを有しないレブリン酸の配合量が前記範囲未満である場合には、十分な毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果が不十分であった。
【0026】
(実施例9~16及び比較例3~7)
下記の表2に掲げた組成を有する毛髪処理剤を、精製水に各成分を均一になるまで撹拌混合することにより調製した。
得られた毛髪処理剤の毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果及び縮毛矯正効果の評価を前記の方法により評価した。
【0027】
【0028】
実施例9~16に示されるように、還元剤を2~11質量%を含有した場合に、十分な毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果及び、縮毛矯正効果が得られた。これに対し、比較例3~7に示されるように、還元剤の配合量が前記範囲外である場合には、毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果又は、縮毛矯正効果が不十分であった。
【0029】
(実施例17~24及び比較例8~15)
下記の表3に掲げた組成を有する毛髪処理剤を、精製水に各成分を均一になるまで撹拌混合することにより調製した。
得られた毛髪処理剤の毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果及び縮毛矯正効果の評価を前記の方法により評価した。
【0030】
【0031】
実施例17~24に示されるように、pHが4.0~5.5の場合に、十分な毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果及び、縮毛矯正効果が得られた。これに対し、比較例8~17に示されるように、pHが前記範囲外である場合には、毛髪の傷みと弾力の低下抑制効果又は、縮毛矯正効果が不十分であった。