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  • 特許-水素発生クリーム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】水素発生クリーム
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20240805BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20240805BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240805BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20240805BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/31
A61Q19/08
A61K8/81
A61K8/92
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021095444
(22)【出願日】2021-06-07
(65)【公開番号】P2022187415
(43)【公開日】2022-12-19
【審査請求日】2023-03-22
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】500101298
【氏名又は名称】有限会社 アクアサイエンス
(73)【特許権者】
【識別番号】517432879
【氏名又は名称】中野 親人
(73)【特許権者】
【識別番号】517432880
【氏名又は名称】嶝 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】大河内 正一
(72)【発明者】
【氏名】嶝 公一
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199672(JP,A)
【文献】国際公開第2007/055146(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069811(WO,A1)
【文献】特開2015-089880(JP,A)
【文献】特開2017-137282(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111834(WO,A1)
【文献】特開2014-019689(JP,A)
【文献】特開2007-308467(JP,A)
【文献】特開2015-042618(JP,A)
【文献】特開2018-197212(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0323190(US,A1)
【文献】特開2014-028714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ホウ素化合物と、
該水素化ホウ素化合物と混合されている水分を含まない油性のクリーム基材と、
該クリーム基材に含まれていて前記水素化ホウ素化合物を前記クリーム基材に分散させるための分散材とを備え
前記クリーム基材は、ワセリンと水添ポリデセンと水添(スチレン又はイソプレン)コポリマーとを含み、
前記分散材はテトラデカンであることを特徴とする水素発生クリーム。
【請求項2】
前記水素化ホウ素化合物は水素化ホウ素ナトリウムであことを特徴とする請求項1に記載の水素発生クリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を与えることで水素を発生することができる水素発生クリームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素が水に溶解することで、水のORP(酸化還元電位)を下げ、還元系になることは公知である。このORPを測定することで、それらの水が老化や様々な人体の悪影響を与える要因となる活性酸素の存在、すなわち酸化系なのか、それともそれら活性酸素を消去する還元系の水なのか評価可能となる。それ故、水素はORPを高め且つ強力な酸化力を有する活性酸素やフリーラジカルの解消に有効となる。具体的には、水素は、皮膚や毛髪のORPを下げる還元系の働きにより、それら酸化の大きな原因となる紫外線のダメージを抑制し、皮膚柔軟性や弾力性を向上させ、毛髪の滑らかさや艶の向上に有効である。
【0003】
しかし、水素は、常温下では気体の存在であり体積が非常に大きい。このため、化粧水や飲料水に溶解しても不安定であり、すぐに空気中に蒸散してしまう。また、ペットボトルをはじめとしたプラスチック系容器に水素を密封したとしても、水素分子は非常に小さいため、容器を構成する分子間の隙間から外気中に拡散してしまう。すなわち、水素を保存しておくことは困難である。
【0004】
換言すれば、水素は、その医学的・薬学的知見からもお肌のアンチエイジング・紫外線ダメージからの回復・美白作用に効果があることが知られているが、常温で気体であると同時に地球で最も小さい原子であることから捕捉・保管に難があり、しかも空気中濃度によっては爆発の危険性を伴う取り扱いに非常に難がある物質となっている。
【0005】
このような水素をクリームに含ませて、特に肌へ水素を提供して皮膚を還元系に保つことが求められている。このため、水素クリームなるものが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、水素を発生させるクリームを開示しているが、クリーム中での水素の分散は撹拌により実現しようとしている。
【0006】
この水素のクリーム中での分散性は特に重要である。クリームのどの部分を使用しても水素を均一に発生させ、さらにはクリームのどの部分を使用しても同様の効果を奏することにも寄与するためである。したがって、クリーム中での水素の確実な分散性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-42618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、水素を安定して分散保持でき、したがって皮膚への還元系を付与するに際して同様の効果を安定して供給することができる水素発生クリームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明では、水素化ホウ素化合物と、該水素化ホウ素化合物と混合されている油性のクリーム基材と、該クリーム基材に含まれていて前記水素化ホウ素化合物を前記クリーム基材に分散させるための分散材とを備えたことを特徴とする水素発生クリームを提供する。
【0010】
好ましくは、前記水素化ホウ素化合物は水素化ホウ素ナトリウムであり、前記分散材はテトラデカンである。
【0011】
好ましくは、前記クリーム基材は、ワセリンと水添ポリデセンとを含む。
【0012】
好ましくは、前記クリーム基材は、さらに水添(スチレン又はイソプレン)コポリマーを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クリーム基材中に分散材が含まれているため、水素を発生すべき水素化ホウ素化合物が効率よく分散し、水素を安定してクリーム基材中に分散保持でき、したがって皮膚への還元系を付与するに際して同様の効果を安定して供給することができる。
【0014】
また、水素化ホウ素化合物を水素化ホウ素ナトリウムとし、分散材をテトラデカンとすれば、微粉末状の水素化ホウ素ナトリウムがこのテトラデカンにより効率よくクリーム基材中で分散する。
【0015】
また、クリーム基材としてワセリンと水添ポリデセンとを含むものとすれば、油脂原料からなるワセリンを水添ポリデセンがジェル化させて増粘させるので、クリームの延びがよくなり、分散保持されている水素化ホウ素化合物をさらに満遍なく塗布部に行き渡らせることができる。
【0016】
また、クリーム基材に水添(スチレン又はイソプレン)コポリマーを含めることで、水添ポリデセンと相俟ってクリームの延びがさらによくなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る水素発生クリームを皮膚に塗布した際のORPとpHの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る水素発生クリームは、水素が発生する元となる水素化ホウ素化合物を含んでいる。この水素化ホウ素化合物は、例えば水素化ホウ素ナトリウムである。ただし、水素化ホウ素化合物としては、水素化ホウ素カリウムや水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素カルシウムも使用することができる。
【0019】
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)は、水又は酸と反応分解することで以下のように水素を発生する。
NaBH+2HO→NaBO+4H
【0020】
すなわち、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)は、水又は酸に反応分解するまでは安定で、水素を発生しない。なお、水素化ホウ素ナトリウム3は微粉末状である。この水素化ホウ素ナトリウムは水分を含まない油性のクリーム基材と混合されている。これにより、水素発生クリームが皮膚に塗布されて使用されるまで、水素の発生を防止できる。そして、クリーム基材には、分散材も混合されている。この分散材は、水素化ホウ素ナトリウムをクリーム基材に分散して保持させておくためのものである。このように、クリーム基材中に分散材が含まれているため、水素を発生すべき水素化ホウ素ナトリウムが効率よく分散し、水素を安定してクリーム基材中に分散保持でき、したがって皮膚への還元系を付与するに際して同様の効果を安定して供給することができる。
【0021】
このように油性のクリーム基材中に安定して分散保持されている水素化ホウ素ナトリウムは、上述したように、水と反応することで水素を発生する。すなわち、水素化ホウ素ナトリウムが水素発生剤となって容易に水素を発生させることができる水素発生クリームを得ることができる。例えば水素発生クリームを皮膚に塗布すれば、皮膚からの蒸散水分、汗による水分の供給や、あるいは意図的に水分を供給するなりして水素が発生する。この水素発生クリームを用いて、水素を手軽に皮膚や毛髪表面で発生させることにより、効率よく皮膚表面や毛髪に水素を供給することができる。さらに皮膚や毛髪の表面のORPの低下や経皮吸収も可能となり体内に有効に水素を取り込むことができる。したがって、美容効果を高める素材として、持ち運びに便利で使用方法も簡便な水素発生クリームを得ることができる。
【0022】
クリーム基材には、ワセリンと水添ポリデセンとが含まれていることが好ましい。このようにクリーム基材としてワセリンと水添ポリデセンとを含むものとすれば、油脂原料からなるワセリンを水添ポリデセンがジェル化させて増粘させるので、クリームの延びがよくなり、分散保持されている水素化ホウ素化合物をさらに満遍なく塗布部に行き渡らせることができる。ワセリンはクリームのベース基材となり、鉱物系油脂原料である。水添ポリデセンは増粘剤の役割を果たしている。
【0023】
さらに、クリーム基材に水添(スチレン又はイソプレン)コポリマーを含めると、水添ポリデセンと相俟ってクリームの延びがさらによくなるため好ましい。水添(スチレン又はイソプレン)コポリマーの存在はクリームのジェル化もさらに促進させる(増粘剤の役割を果たしている)。
【0024】
ここで、分散材としてテトラデカンを用いることが特に好ましい。微粉末状の水素化ホウ素ナトリウムがこのテトラデカンにより効率よくクリーム基材中で分散するためである。このテトラデカンが特に水素化ホウ素ナトリウムを油性のクリーム基材中で安定して分散させることを発明者らは確認している。まず、増粘剤たる水添ポリデセンや水添(スチレン又はイソプレン)コポリマーでも水素化ホウ素ナトリウムの分散材としての利用が可能のように思えるが、これらは添加時に75℃以上の加熱処理が必要となる。このため、60℃以上の環境下で反応を起こし、水素を派生してしまう水素発生原料「水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)」の分散剤としては不適当である。また、ワセリンは融点35℃~60℃のペースト状原料である。したがってこのままの状態で、粉体原料である「水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)」を均等に分散することは非常に困難である。これに対し、テトラデカンは融点5.863℃の液状の安定した炭化水素系油成分であり、塗料や顔料の希釈・分散剤として利用されているように粉体分散性にも優れている。油成分であるが故、クリーム中で水素化ホウ素ナトリウムから水素が発生することもない。以上の理由により、水素化ホウ素ナトリウムの分散材としてはテトラデカンが好適である。テトラデカン以外であっても、物性の許容される直鎖アルカン系の炭化水素類であれば使用は可能であるが、化粧品原料(クリーム)に用いるという点から、テトラデカンがやはり好適であると考える。
【0025】
なお、クリーム中には酸化防止剤を含めてもよい。酸化防止剤としては、酢酸トコフェロールを使用できる。本発明の水素発生クリームは、美白を目的とした美容成分、例えば油溶性ビタミンC・油溶性プラセンタ、消炎作用を期待した油溶性甘草エキス・グリチルレチン酸ステアリル、アンチエイジング効果の期待できるセラミドなどの配合も可能である。さらに、化粧品としての応用例として、「ナイトクリーム(栄養クリーム)」・「リップクリーム」等の他、紫外線吸収剤・紫外線散乱剤を配合することで、日焼け止めクリームや肌荒れや乾燥を防ぐボディークリームなどといった応用も可能である。
【0026】
本発明に係る水素発生クリームを使用して以下のような実験を行った。人体の皮膚としての前腕屈側に、水素発生クリームを薄く塗り、時間経過による前腕屈側のORP及びpHを測定した。なお、水素を発生させるために、電解質を含む水(ここでは、生理食塩水)で塗布部を濡らした。使用した水素発生クリームは、水素化ホウ素化合物として水素化ホウ素ナトリウム、クリーム基材としてワセリン、水添ポリデセン、水添(スチレン又はイソプレン)コポリマー、分散材としてテトラデカン、酸化防止剤として酢酸トコフェロールが成分として含まれているものである。
【0027】
図1に示すように、生理食塩水(F)はグラフの真ん中の破線(平衡ORP)上の平衡系にあり、したがってpHは中性を示している。一方、生理食塩水で濡らした前腕屈側(A)では、平衡系より低い還元系にあり、pHは弱酸性を示している。これまでの皮膚は弱酸性で還元系であることが確認できた。すなわち、(A)は水素発生クリーム塗布前の皮膚の状態を示している。次に、水素発生クリームを前腕屈側に薄く塗り、5分後に生理食塩水で濡らした。この状態では、ORPは大きく低下した(B)。これは、水素化ホウ素ナトリウムと水分の反応により、水素が発生したことを示している。水分を与えてから15分経過後、ORPは上昇した(C)。これは、時間とともに発生した水素が徐々に抜けていっていることを示している。30分経過後では、さらにORPは上昇している(D)。そして30分経過後、前腕屈側の水素発生クリームを十分拭き取ったところ、クリーム塗布前(A)よりも還元系となっていることがわかった(E)。
【0028】
一方、pHに関して検討すると、クリーム塗布前の前腕屈側の弱酸性の皮膚(A)に水素発生クリームを塗布することにより、中性付近まで上昇し(B)、その後時間の経過とともに酸性側にpHは徐々にシフトしている(B→C→D)。その後クリームを拭き取っても、アルカリ性の水素化ホウ素ナトリウムの影響が多少残っているので、クリーム塗布前よりはアルカリ性側になっている(E)。
【0029】
以上より、本発明に係る水素発生クリームを用いれば、皮膚への塗布により水素を発生させることができ、皮膚を還元系に保つことが確認できた。特にテトラデカンによる水素化ホウ素ナトリウムの分散を実現できたため、同じクリームの様々な部分で実験したが、どれも同様の結果を得られている。
図1