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特許7531803水素機器としてのアルミニウム銅合金の使用、及び水素機器用耐水素部材及びその使用方法
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  • 特許-水素機器としてのアルミニウム銅合金の使用、及び水素機器用耐水素部材及びその使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】水素機器としてのアルミニウム銅合金の使用、及び水素機器用耐水素部材及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/01 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
C22C9/01
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024503248
(86)(22)【出願日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2023006647
(87)【国際公開番号】W WO2023163088
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2022027874
(32)【優先日】2022-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592134848
【氏名又は名称】株式会社鷹取製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100229389
【弁理士】
【氏名又は名称】香田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】藤山 幸二郎
(72)【発明者】
【氏名】山辺 純一郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 健太郎
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-292235(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0127292(US,A1)
【文献】JIS ハンドブック 3非鉄,第1版,財団法人日本規格協会,2007年01月19日,P.1052-1055,ISBN 978-4-542-17483-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00- 9/10
C22F 1/00- 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素機器としての、アルミニウム銅合金の使用であって、
当該アルミニウム銅合金は、Alを9.2115質量%以上10.276質量%以下、Feを3.2795質量%以上3.7628質量%以下、Niを1.6093質量%以上3.9179質量%以下、Mnを0.92346質量%以上0.98139質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である、ことを特徴とする前記使用(但し、前記水素機器が、口金部にアルミニウム銅合金を使用した圧力容器用バルブアッセンブリである場合及び当該圧力容器用バルブアッセンブリを備えた圧力容器である場合、並びに液体水素タンク内に設置するロータである場合を除く。)。
【請求項2】
前記水素機器が、水素と接触する状態で用いられる、収容器、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナから選択される1種以上である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
鋳造物である請求項1に記載の使用。
【請求項4】
Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有するアルミニウム銅合金からなり、
当該アルミニウム銅合金は、Alを9.2115質量%以上10.276質量%以下、Feを3.2795質量%以上3.7628質量%以下、Niを1.6093質量%以上3.9179質量%以下、Mnを0.92346質量%以上0.98139質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である、ことを特徴とする水素機器用の耐水素部材(但し、前記水素機器が、口金部にアルミニウム銅合金を使用した圧力容器用バルブアッセンブリである場合及び当該圧力容器用バルブアッセンブリを備えた圧力容器である場合、並びに液体水素タンク内に設置するロータである場合を除く。)。
【請求項5】
鋳造物である請求項に記載の耐水素部材。
【請求項6】
水素と接触する状態で用いられる、収容器、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナから選択される1種以上に使用される耐水素部材である請求項4または5に記載の耐水素部材。
【請求項7】
請求項4または5に記載の耐水素部材を水素と接触する状態で用いる、耐水素部材の使用方法。
【請求項8】
水素機器の製造のための、アルミニウム銅合金の使用であって、
当該アルミニウム銅合金は、Alを9.2115質量%以上10.276質量%以下、Feを3.2795質量%以上3.7628質量%以下、Niを1.6093質量%以上3.9179質量%以下、Mnを0.92346質量%以上0.98139質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である、ことを特徴とする前記使用(但し、前記水素機器が、口金部にアルミニウム銅合金を使用した圧力容器用バルブアッセンブリである場合及び当該圧力容器用バルブアッセンブリを備えた圧力容器である場合、並びに液体水素タンク内に設置するロータである場合を除く。)。
【請求項9】
前記水素機器が、水素と接触する状態で用いられる、収容器、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナから選択される1種以上である、請求項に記載の使用。
【請求項10】
前記水素機器を鋳造によって製造するための請求項またはに記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2022年2月25日に出願された日本国特許出願(特願2022-27874号)の利益および優先権を主張する。前述の特許出願に対する優先権を明示的に主張するものであり、参照により、その出願の全開示内容が、あらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、水素機器(水素と接触する状態で用いられる水素の貯蔵又は輸送のための機器)としてのアルミニウム銅合金の使用、及び耐水素部材及び耐水素部材の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、世界的な脱炭素社会への移行に向けてクリーンエネルギーの導入・普及が必要不可欠である中、水素関連技術が注目されている。水素を燃料とする燃料電池を動力源とする燃料電池自動車(FCV)はすでに市販され、今後トラックやバス、船舶などへの用途拡大と普及展開が期待されている。また、燃料電池自動車の利用拡大のためには、水素を供給するための水素ステーション等のインフラの整備が必要となる。
燃料電池自動車は、ガソリンと同様の航続距離を確保するためには35MPaや70MPaといった高圧水素燃料タンク(35~70MPa程度)を必要とする。また、FCVへ水素を供給する水素ステーションでは、このような高圧な水素を供給するために45MPaや90MPaといったさらに高圧の水素を取り扱う必要がある。
【0004】
燃料電池自動車や水素ステーション等の高圧水素を使用する水素機器には、水素と直接接触する構成部材が不可欠であるが、水素下で金属からなる構成部材を使用すると、水素が金属内に侵入し、侵入した水素によって、金属の引張強度、伸びあるいは絞りなどが低下する「水素脆化」が生じるという問題がある。
【0005】
現在のところ日本では高圧水素用として使用できる金属材料は、安定オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316、SUS316L)のニッケル量を規定したニッケル当量品とアルミニウム基合金6061-T6(35MPaのFCVのみ)である。関連して、オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、特許文献1,2)やアルミニウム基合金(例えば、特許文献3)等が高圧水素用金属材料として開発されている。また、銅基合金を、水素機器用の構成部材に使用した数少ない例として、特許文献4には特定の組成のベリリウム銅合金からなる耐水素部材について報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-44204号公報
【文献】特開2018-135592号公報
【文献】特開2021-188102号公報
【文献】特開2017-145472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水素機器の構成部材として、安定オーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム基合金は、優れた耐水素脆化性を有するが、引張強度が低く高価格という問題があった。
【0008】
また、特許文献3で開示されたベリリウム銅合金からなる耐水素部材は、耐水素脆化性に優れ、かつ高い引張強度を示すという利点がある。しかしながら、ベリリウム銅合金は、ベリリウム自体に毒性があるため、ベリリウムフリー材料の開発という点で改善の余地があった。そのため、ベリリウム銅合金を代替する、耐水素脆化性及び引張強度に優れた新たな銅基合金からなる耐水素部材の開発が望まれていた。
【0009】
かかる状況下、本発明は、耐水素脆化性と引張強度に優れた新たな水素機器用の耐水素部材及び耐水素部材の使用方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐水素脆化性と引張強度に優れたアルミニウム銅合金の水素機器としての使用を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐水素脆化性と引張強度に優れたアルミニウム銅合金の水素機器の製造のための使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の組成のアルミニウム銅合金が、耐水素脆化性及び引張強度に優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有するアルミニウム銅合金からなる水素機器用の耐水素部材。
<2> 鋳造物である<1>に記載の耐水素部材。
<3> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下含有する<1>または<2>に記載の耐水素部材。
<4> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下、Feを2.5質量%以上5.0質量%以下、Niを1.0質量%以上3.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である<1>または<2>に記載の耐水素部材。
<5> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下、Feを3.0質量%以上6.0質量%以下、Niを3.0質量%以上6.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である<1>または<2>に記載の耐水素部材。
<6> 水素と接触する状態で用いられる、収容器、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナから選択される1種以上に使用される耐水素部材である<1>から<5>のいずれかに記載の耐水素部材。
<7> <1>から<6>のいずれかに記載の耐水素部材を水素と接触する状態で用いる、耐水素部材の使用方法。
<8> <1>から<6>のいずれかに記載の耐水素部材を少なくとも水素と接触する部分に含む水素機器。
<9> 水素と接触する状態で用いられる、収容器、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナのうち1以上である<8>に記載の水素機器。
<10> <8>または<9>に記載の水素機器を具備する水素ステーション。
【0012】
<1A> 水素機器としての、アルミニウム銅合金の使用であって、当該アルミニウム銅合金は、Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有する前記使用。
<2A> 前記水素機器が、水素と接触する状態で用いられる、収容器、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナから選択される1種以上である、<1A>に記載の使用。
<3A> 鋳造物である<1A>または<2A>に記載の使用。
<4A> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下含有する<1A>から<3A>のいずれかに記載の使用。
<5A> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下、Feを2.5質量%以上5.0質量%以下、Niを1.0質量%以上3.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である<1A>から<3A>のいずれかに記載の使用。
<6A> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下、Feを3.0質量%以上6.0質量%以下、Niを3.0質量%以上6.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である<1A>から<3A>のいずれかに記載の使用。
【0013】
<1B> 水素機器の製造のための、アルミニウム銅合金の使用であって、当該アルミニウム銅合金は、Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有する前記使用。

<2B> 前記水素機器が、水素と接触する状態で用いられる、収容器、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナから選択される1種以上である、<1B>に記載の使用。
<3B> 前記水素機器を鋳造によって製造するための<1B>または<2B>に記載の使用。
<4B> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下含有する<1B>から<3B>のいずれかに記載の使用。
<5B> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下、Feを2.5質量%以上5.0質量%以下、Niを1.0質量%以上3.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である<1B>から<3B>のいずれかに記載の使用。
<6B> 前記アルミニウム銅合金が、Alを5質量%以上15質量%以下、Feを3.0質量%以上6.0質量%以下、Niを3.0質量%以上6.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である<1B>から<3B>のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐水素脆化性及び引張強度に優れた水素機器用の耐水素部材、及び耐水素部材の使用方法が提供される。
また、本発明によれば、耐水素脆化性及び引張強度に優れたアルミニウム銅合金の水素機器としての使用が提供される。
また、本発明によれば、耐水素脆化性及び引張強度に優れたアルミニウム銅合金の水素機器の製造のための使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る水素ステーション(オフサイト型)の構成の概略図である。
図2】配管の一例の概略図である。
図3】収容器の一例の概略図である。
図4】ストレーナの一例の概略図である。
図5】自動開閉バルブ(電磁バルブ)の一例の概略図である。
図6】手動開閉バルブの一例の概略図である。
図7】実験例1の試験片の応力-ストローク線図であり、(a)が大気中試験、(b)が100MPa水素ガス中試験の結果である。
図8】実験例1の試験片の引張試験後の破面中心部付近の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(a)が大気中試験、(b)が100MPa水素ガス中試験の結果である。
図9】実験例1~4の試験片の応力-ストローク線図であり、それぞれ実線が未曝露材、破線が水素曝露材の結果である。
【符号の説明】
【0016】
1 水素ステーション
20 水素供給源
21 収容器
30 圧縮機
40 ストレーナ
50 開閉バルブ
51 自動開閉バルブ(電磁バルブ)
52 手動開閉バルブ
60 蓄圧器
61 収容器(蓄圧器用)
70 ディスペンサー
80 燃料電池自動車
90 配管
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「A及び/又はB」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「A及びBの双方」が含まれる。
【0018】
本明細書において、「水素機器(hydrogen equipment)」とは、水素と接触する状態で用いられ、水素の貯蔵又は輸送のための設備(equipment)を意味する。
本明細書において、「(水素機器用の)耐水素部材」とは、水素ガス環境下で使用される水素機器に使用され、水素と接触する状態で用いられる部材を意味する。
【0019】
本発明は、Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有するアルミニウム銅合金からなる水素機器用耐水素部材(以下、「本発明の耐水素部材」と称す場合がある。)に関する。
【0020】
また、本発明は、水素機器としての、アルミニウム銅合金の使用であって、当該アルミニウム銅合金は、Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有する前記使用(以下、「本発明のアルミニウム銅合金の使用」又は「本発明の合金の使用」と称す場合がある。)に関する。
【0021】
また、本発明は、水素機器の製造のための、アルミニウム銅合金の使用であって、当該アルミニウム銅合金は、Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有する前記使用(以下、「本発明のアルミニウム銅合金の製造のための使用」又は「本発明の合金の製造のための使用」と称す場合がある。)に関する。
【0022】
以下、上記「本発明の耐水素部材」、「本発明のアルミニウム銅合金の使用」、及び「本発明のアルミニウム銅合金の製造のための使用」に共通する内容を記載する場合には、総称して単に「本発明」と称すものとする。
【0023】
また、「Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有するアルミニウム銅合金(後述する好適な態様である場合も含む)を、「本発明に係るアルミニウム銅合金」又は「本発明に係る合金」と称す場合がある。
【0024】
本発明に係るアルミニウム銅合金は、Cuを母材として、Cuの次にAlを多く含有するアルミニウム銅合金からなる。本発明に係るアルミニウム銅合金は、例えば、Alを5質量%以上15質量%以下含有してもよく、7.5質量%以上13質量%以下含有していてもよい。
【0025】
本発明に係るアルミニウム銅合金は、高い耐水素脆化性及び引張強度を有する。また、このアルミニウム銅合金は、より高い機械的強度を有する場合がある。更に、このアルミニウム銅合金は、より高い熱伝導性を有する場合がある。更にまた、このアルミニウム銅合金は、より高い導電性を有する場合がある。そして、このアルミニウム銅合金は、より高い加工性を有する場合がある。
【0026】
本発明に係るアルミニウム銅合金は、CuとAl以外の金属種を含んでいてもよい。CuとAl以外の金属種としては、例えば、Fe,Ni及びMnが挙げられ、これらは1種または2種以上が含まれてよい。
本発明に係るアルミニウム銅合金において、CuとAl以外の金属種の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜設定することができる。
【0027】
また、本発明に係るアルミニウム銅合金は、本発明の目的を損なわない範囲で、不可避的不純物を含んでいてもよい。
不可避的不純物としては、例えば、P、Sn、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo及びWなどのうち1以上が挙げられる。この不可避的不純物は、例えば、可能な限り少ないことが好ましく、全体で0.1質量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明に係るアルミニウム銅合金の好適な組成例は、Alを5質量%以上15質量%以下、Feを2.5質量%以上5.0質量%以下、Niを1.0質量%以上3.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である。
本発明に係るアルミニウム銅合金の好適な組成例は、Alを7.5質量%以上13質量%以下、Feを2.5質量%以上5.0質量%以下、Niを1.0質量%以上3.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である。
【0029】
本発明に係るアルミニウム銅合金の他の好適な組成例は、Alを5質量%以上15質量%以下、Feを3.0質量%以上6.0質量%以下、Niを3.0質量%以上6.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である。
本発明に係るアルミニウム銅合金の他の好適な組成例は、Alを5質量%以上15質量%以下(7.5質量%以上13質量%以下)、Feを3.0質量%以上6.0質量%以下、Niを3.0質量%以上6.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCu(不可避的不純物を除く。)である。
【0030】
本発明の対象となる水素機器は、水素と接触する状態で用いられ、水素の貯蔵又は輸送のための設備であれば特に制限はない。このような水素機器として、例えば、水素を収容する収容器(蓄圧器である場合も含む)、水素を流通し熱交換する熱交換器、水素を流通する配管、水素を流通する配管等に接続されるバルブ、シール部、バルブフィッティング(バルブ取り付け用部品)、ポンプ、ストレーナ、等が挙げられる。
【0031】
本発明の耐水素部材は、例えば、水素と接触する状態で用いられる、収容器(蓄圧器である場合も含む)、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナから選択される1種以上の部材であることが好適である。
【0032】
また、本発明の合金の使用及び本発明の合金の製造のための使用において、水素機器が、水素と接触する状態で用いられる、収容器(蓄圧器である場合も含む)、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナから選択される1種以上が好適な対象である。
【0033】
本発明に係るアルミニウム銅合金を水素機器に使用する場合、当該本発明に係るアルミニウム銅合金が接触する水素の圧力の下限は、本発明の目的を損なわない限り制限はなく、対象となる水素機器の種類や耐水素部材の形状、厚み等にもよって適宜選択される。
水素の圧力の下限は、0.01MPa以上、0.1MPa以上、1MPa以上、10MPa以上、30MPa以上、45MPa以上、70MPa以上、90MPa以上を例示することができる。
【0034】
水素圧力の上限も本発明の目的を損なわない限り制限はなく、対象となる水素機器の種類や耐水素部材(アルミニウム銅合金)の形状、厚み等によって適宜決定されるが、120MPa以下、100MPa以下、90MPa以下、70MPa以下、45MPa以下、30MPa以下、10MPa以下、1MPa以下を例示することができる。
【0035】
また、後述するように、本発明に係る水素機器は、水素ステーションの設備として使用することができる。
水素ステーションや燃料電池車(FCV)を想定した場合、水素機器としては、例えば、水素用の収容器(蓄圧器)、熱交換器、配管、バルブ、シール部及びストレーナ等が例示できる。このような用途の場合、本発明に係る水素機器は、30MPa以上70MPa未満(例えば、45MPa以上70MPa未満)の中圧水素、70MPa以上120MPa以下(例えば、70MPa以上90MPa未満、90MPa以上120MPa以下)の高圧水素と接触する状態で用いられる。
【0036】
本発明の耐水素部材の使用方法は、本発明に係るアルミニウム銅合金からなる耐水素部材を水素と接触する状態で用いるものである。特に水素ステーションの設備として使用する場合、耐水素部材を30MPa以上70MPa未満(例えば、45MPa以上70MPa未満)の中圧水素、70MPa以上120MPa以下(例えば、70MPa以上90MPa未満、90MPa以上120MPa以下)の高圧水素と接触する状態で用いるものとすることが好ましい。
【0037】
本発明に係る耐水素部材は、本発明の目的を損なわない限り、対象の水素機器に応じて任意の製造方法によって製造(成形)することができる。
また、本発明に係るアルミニウム銅合金は、対象の水素機器のために使用することができ、対象の水素機器に応じて任意の製造方法によって製造(成形)することができる。
例えば、当該アルミニウム銅合金に対応する所定割合の金属原料を溶融した後に、例えば、鋳造加工(重力鋳造、ダイカスト鋳造、低圧鋳造等)によって製造(成形)したり、連続鋳造による伸銅品(棒材・板材等)を鍛造加工(自由鍛造、型打ち鍛造等)によって製造(成形)したりしてもよい。
高圧で使用される水素機器用の中空部材や複雑な形状の部材を製造できる点で、本発明の耐水素部材は、鋳造物であることが好ましく、本発明に係るアルミニウム銅合金は鋳造のために使用されることが好ましい。
【0038】
本発明に係るアルミニウム銅合金は、低ひずみ速度引張(SSRT:Slow Strain Rate Tensile)試験において、ニッケル当量品の引張強度の実力値(550MPa程度)を上回る、水素ガス中での引張強度が600MPa以上であることが好ましく、700MPa以上であることがより好ましい。本発明に係るアルミニウム銅合金は、耐水素脆化性に優れると共に高い引張強度を有する。この低ひずみ速度引張試験は、ASTM―G―142に準じて行うものとする。
【0039】
低ひずみ速度引張試験では、ASTM―G―142に準じて、定形の試験片(平滑試験片)を用いて行う。一般的に、平滑試験片では、水素ガス中の引張強度や絞りを水素の影響のない参照ガス中の引張強度や絞りで除した相対引張強度RTSや相対絞りRRAを用いて水素感受性を評価する。なお、水素曝露材の引張強度や絞りを未曝露材の引張強度や絞りで除してRTSやRRAを求めてもよい。
平滑試験片の低ひずみ速度引張試験では、例えば、変位速度を0.0015mm/sec(ひずみ速度0.00005/sec)で測定するものとしてもよい。き裂先端に集積した水素が材料の劣化を引き起こすことから、変位速度がより遅ければ、試験片が水素曝露による影響を受けやすく、水素脆性をより適切に評価することができる。
【0040】
70MPa級のFCVや水素ステーションを想定し、この低ひずみ速度引張試験を、100MPa以上の水素ガス圧力で行うものとする。水素ガス圧がより高ければ、材料中に侵入する水素量が多くなるため、試験片が水素曝露による影響を受けやすく、水素脆性をより適切に評価することができる。水素曝露材を用いる場合には、100MPa以上の水素ガス圧力で、試験片内の水素量を一様にするため、270℃といった温度で水素曝露を行う。
【0041】
本発明に係るアルミニウム銅合金では、上記低ひずみ速度引張試験において、引張強度が600MPa以上であるときに、RRAが0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましい。
【0042】
以下に本発明に係るアルミニウム銅合金を使用した水素機器の例として、水素ステーションの一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明に係るアルミニウム銅合金は、水素ステーションを構成する設備(水素機器)のうち、1以上の設備における水素と接触する部分に使用されていればよい。
【0043】
図1は、本発明の実施形態に係る水素ステーション(オフサイト型)の全体構成を概略的に示している。
図1において水素ステーション1は、燃料電池自動車80へ水素を供給する施設であり、水素供給源20、圧縮機30、ストレーナ40、開閉バルブ50、蓄圧器60、及びディスペンサー70を備えており、これらの設備は配管90によって接続されている。
【0044】
水素供給源20は、圧縮機30、ストレーナ40、及び開閉バルブ50を介して蓄圧器60と配管90によって接続している。蓄圧器60は、配管90によってディスペンサー70と接続し、水素供給源20からディスペンサー70へと水素が供給される。
【0045】
配管90は、高圧水素又は中圧水素が流通する管状部材である。図2に配管90の一例の概略図を示す。本発明に係るアルミニウム銅合金は、配管90の配管本体(特に水素と接触する部分)やシール部などに用いられるものとしてもよい。
【0046】
水素供給源20は、工業プラント等で大規模に製造された水素を高圧で充填した設備であり、複数の収容器21(水素タンク)を備える。図3に収容器21の一例の概略図を示す。収容器21には図示しないバルブなどが配設されていてもよい。
本発明に係るアルミニウム銅合金は、収容器21の本体(特に水素と接触する部分)、バルブ、シール部などに用いられるものとすることができる。本実施形態では収容器21には、約20MPaの圧力で水素が充填されている。
【0047】
水素供給源20から供給される水素は、そのままでは燃料電池自動車80に供給するには供給圧が低いため昇圧する必要がある。圧縮機30は、水素供給源20から供給される水素を例えば70MPa以上の高圧に圧縮する装置である。収容器21にはシール部などが配設されていてもよい。
本発明に係るアルミニウム銅合金は、圧縮機30の本体(特に水素と接触する部分)、シール部などに用いられるものとすることができる。
【0048】
高圧に圧縮された水素は、ストレーナ40と開閉バルブ50を通過して蓄圧器60に送られる。
ストレーナ40は、圧縮機30の吐出側(2次側)に設けられ、圧縮された水素に含まれる異物を除去する機能を有する。図4にストレーナ40の一例の概略図を示す。
水素ステーション1の稼働中、水素供給源20及び圧縮機30から微細な異物(例えば、金属片、塵芥、等)が放出される場合があり、後段に設けられた開閉バルブ50、蓄圧器60、ディスペンサー70に異物が混入する可能性がある。異物がこれらの設備に混入すると、例えば、開閉バルブの閉止不良、蓄圧器の圧力低下、ディスペンサーの流量調整不良といった不具合が生じる可能性があるが、ストレーナ40をこれらの設備の1次側に設置することで、上記不具合を未然に防ぐことができる。
本発明に係るアルミニウム銅合金は、ストレーナ40の本体(特に水素と接触する部分)、シール部などに用いられるものとすることができる。
【0049】
開閉バルブ50は、ストレーナ40の2次側に設けられ、圧縮機30により昇圧された水素の圧力に応じて、水素の流路を開閉する。具体的には、蓄圧器60の圧力が所定の値を下回ると、圧縮機30の稼働とともに開閉バルブ50を開き、圧縮機30により昇圧された水素を蓄圧器60に供給する。その後、供給された水素により蓄圧器60の圧力が上昇して所定の値を上回ると、開閉バルブ50を閉止するとともに圧縮機30を停止する。
本発明に係るアルミニウム銅合金は、開閉バルブ50の本体(特に水素と接触する部分)、シール部などに用いられるものとすることができる。
開閉バルブ50は、開閉バルブ50を流通する水素の圧力や流量に応じて適宜選択されるが、自動開閉バルブ(電磁バルブ)51でもよく、手動開閉バルブ52でもよい。図5に自動開閉バルブ(電磁バルブ)51の一例の概略図、図6に手動開閉バルブ52の一例の概略図を示す。
【0050】
蓄圧器60は、圧縮機30により高圧となった水素を貯蔵する複数の収容器61(水素タンク)でから構成され、蓄圧した高圧の水素を差圧充填方式によりディスペンサー70を介して燃料電池自動車80に供給する。収容器61の構成は、図3に示した収容器21と同様である。
本発明に係るアルミニウム銅合金は、収容器61の本体(特に水素と接触する部分)、バルブ、シール部などに用いられるものとすることができる。本実施形態では収容器61には、70MPa以上の圧力で水素が充填されている。
【0051】
ディスペンサー70は、燃料電池自動車80に接続して、蓄圧器60から供給される水素を充填用ノズルを介して燃料電池自動車80に供給する装置である。また、ディスペンサー70内には、図示しないプレクーラー(熱交換器)が配置され、蓄圧器60から供給される水素を例えば-40℃に冷却する。
本発明に係るアルミニウム銅合金は、ディスペンサー70の本体及びプレクーラー(熱交換器)(特に水素と接触する部分)、バルブ、シール部などに用いられるものとすることができる。
【0052】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、今回開示された実施形態は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【実施例
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
1.評価試料(引張試験用試験片)の作製
評価試料(ASTM-E8Mに準拠した平滑丸棒試験片(平行部の長さ:30.0mm、直径:6mm))は以下の手順で作製した。また、成分分析には発光分光分析装置((株)島津製作所製 型式名 PDA-5500)を使用した。
【0055】
(実験例1)
まず、引張試験片用木型に砂を詰めた後に、木型を抜き取って引張試験片用砂型を得た。溶解炉にアルミニウム銅(CAC702)インゴットを入れ、約1200℃まで昇温して溶湯を得た。得られた溶湯をサンプリングして成分分析を行った後に、上記砂型へ溶湯を注入した。溶湯が固まった後に砂型を解枠して、鋳物を取り出し、バリやその他不要な部分を除去した後に、得られた鋳物を試験片の寸法に合わせて、旋盤等で機械加工を行うことで、実験例1のアルミニウム銅合金からなる引張試験用試験片を得た。実験例1のアルミニウム銅合金の成分分析結果を表1に示す。
【0056】
(実験例2)
アルミニウム銅(CAC702)インゴットに、金属Alを加えた溶湯を使用した以外は、実験例1と同様にして、実験例2のアルミニウム銅合金からなる引張試験用試験片を得た。実験例2のアルミニウム銅合金の成分分析結果を表1に併せて示す。
【0057】
(実験例3)
アルミニウム銅(CAC702)インゴットに代えて、アルミニウム銅(CAC703)インゴットを使用した以外は、実験例1と同様にして、実験例3のアルミニウム銅合金からなる引張試験用試験片を得た。実験例3のアルミニウム銅合金の成分分析結果を表1に併せて示す。
【0058】
(実験例4)
アルミニウム銅(CAC703)インゴットに、金属Alを加えた溶湯を使用した以外は、実験例3と同様にして、実験例4のアルミニウム銅合金からなる引張試験用試験片を得た。実験例4のアルミニウム銅合金の成分分析結果を表1に併せて示す。
【0059】
実験例1~4のアルミニウム銅合金の成分分析結果を表1に示す。単位は、質量%である。なお、表1には原料に使用したアルミニウム銅CAC702、CAC703のJIS規定値を併せて示す。
【0060】
【表1】

【0061】
2.評価
[低ひずみ速度引張SSRT試験:Slow Strain Rate Tensile試験]
作製した平滑試験片の低ひずみ速度引張試験を行い、水素環境下における引張特性の評価を行った。低ひずみ速度引張試験は、ASTM-G-142に準じ、平滑試験片では変位速度を0.0015mm/sec(ひずみ速度0.00005/sec)で行った。平滑試験片は、平行部の長さを30.0mm、その直径を6.0mmとした。
なお、平滑試験片の低ひずみ速度引張試験では、RRAにより水素脆化特性を評価した。また、SSRT試験を実施した試験片の破断面を走査型電子顕微鏡(島津製作所SS-550S)により観察した。
【0062】
図7に実験例1の試験片の応力-ストローク線図を示す。図7において、(a)が大気中試験、(b)が100MPa水素ガス中試験の結果である。大気中試験の絞りはRA=0.223、水素ガス中試験の絞りはRA=0.215で、水素感受性の指標である相対絞りはRRA=RA/RA=0.97であった。
【0063】
図8は、実験例1の試験片における破断面のSEM写真であり、(a)が大気中試験、(b)が100MPa水素ガス中試験の結果である。大気中試験と100MPa水素ガス中試験の破面形態に変化はなく、アルミニウム銅合金の引張破壊には水素の影響が認めらなかった。相対絞りRRAと破面形態から、実験例1のアルミニウム銅合金は、高圧水素ガス環境において優れた耐水素脆化性を有していた。
【0064】
図9は、実験例1~4の試験片の応力-ストローク線図であり、それぞれ実線が未曝露材、破線が水素曝露材の結果である。「水素曝露材」は、試験前に100MPa、270℃の高圧水素下で試験片を200時間曝露し、あらかじめ材料中に水素を一様濃度で吸蔵させたものである。
図9に示される通り、実験例1~4のアルミニウム銅合金からなる試験片は、相対絞りはRRA=1以上であり、いずれも優れた耐水素脆化性を示していた。
【0065】
以上、本発明の実施形態及び実施例を説明したが、今回開示された実施形態及び実施例は例示であって特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、水素と接触する状態で用いられる技術分野、特に、高圧水素を用いる技術分野に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9