(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】プログラム、画像処理装置及び画像処理方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20240805BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240805BHJP
【FI】
G01T1/161 D
G06T7/00 612
(21)【出願番号】P 2020179200
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】322005219
【氏名又は名称】PDRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福間 一樹
(72)【発明者】
【氏名】猪原 匡史
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 悟見
【審査官】佐藤 賢斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-026144(JP,A)
【文献】特開2015-190763(JP,A)
【文献】特開2007-155432(JP,A)
【文献】特開2013-250085(JP,A)
【文献】特開2011-167333(JP,A)
【文献】特開2009-153870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161 - 1/166
A61B 5/055
A61B 6/00 - 6/58
G06T 7/00 - 7/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳内の放射能分布を写した核医学画像を取得する取得部と、
前記核医学画像における前記脳内の放射能分布を示す脳領域を左右反転させた左右反転画像を生成し、前記核医学画像の脳領域と前記左右反転画像の脳領域の差分を示す差分画像を生成し、さらに前記核医学画像及び前記左右反転画像の少なくとも一方に基づき、脳領域における前記放射能分布が前記脳内の正常な集積を示す領域を含む正常条件を満たす正常集積領域を設定する差分画像生成部と、
前記正常集積領域の各画素の画素値の標準偏差に基づいて、前記差分画像の各画素の画素値を変換した統計画像を生成する統計画像生成部と、をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【請求項2】
前記差分画像生成部は、
前記核医学画像及び前記左右反転画像のそれぞれについて、画素値が所定値以上の領域を正常候補領域として選択し、前記核医学画像の正常候補領域と前記左右反転画像の正常候補領域との両方に含まれる画素の集合を前記正常集積領域として設定するか、又は
前記核医学画像及び前記左右反転画像のいずれか一方について、画素値が所定以上の領域を正常候補領域として選択し、前記正常候補領域と前記正常候補領域を左右反転させた反転正常候補領域との両方に含まれる画素の集合を前記正常集積領域として設定する、請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記統計画像生成部は、前記差分画像の各画素の画素値を前記標準偏差で除算した前記統計画像を生成する、請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記統計画像における画素値が正の基準値以上の画素及び/又は画素値が負の基準値以下の画素に所定の色を付ける画像処理を行う画像処理部をさらに実現させるための請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項5】
前記画像処理部は、前記画像処理を前記差分画像における左脳側の領域及び右脳側の領域の一方に対してのみ行う、請求項4に記載のプログラム。
【請求項6】
前記統計画像における画素値が基準値以上の画素の領域に関する指標値を算出する画像処理部をさらに実現させるための請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項7】
前記核医学画像を解剖学的標準化した標準化画像を生成する標準化部をさらに実現させ、
前記差分画像生成部は、前記核医学画像として前記標準化画像を用いて前記差分画像を生成する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項8】
前記差分画像の生成により、てんかん焦点に対応するてんかん焦点領域が抽出されることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項9】
脳内の放射能分布を写した核医学画像を取得する取得部と、
前記核医学画像における前記脳内の放射能分布を示す脳領域を左右反転させた左右反転画像を生成し、前記核医学画像の脳領域と前記左右反転画像の脳領域の差分を示す差分画像を生成し、さらに前記核医学画像及び前記左右反転画像の少なくとも一方に基づき、脳領域における前記放射能分布が前記脳内の正常な集積を示す領域を含む正常条件を満たす正常集積領域を設定する差分画像生成部と、
前記正常集積領域の各画素の画素値の標準偏差に基づいて、前記差分画像の各画素の画素値を変換した統計画像を生成する統計画像生成部と、を有する画像処理装置。
【請求項10】
脳内の放射能分布を写した核医学画像を取得し、
前記核医学画像における前記脳内の放射能分布を示す脳領域を左右反転させた左右反転画像を生成し、前記核医学画像の脳領域と前記左右反転画像の脳領域の差分を示す差分画像を生成し、
前記核医学画像及び前記左右反転画像の少なくとも一方に基づき、脳領域における前記放射能分布が前記脳内の正常な集積を示す領域を含む正常条件を満たす正常集積領域を設定し、
前記正常集積領域の各画素の画素値の標準偏差に基づいて、前記差分画像の各画素の画素値を変換した統計画像を生成する、画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、核医学用の画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
てんかんの診断は、発作症状や脳波検査上のてんかん性放電に基づかれてきた。しかしながら、脳卒中後てんかんでは、診断根拠となる典型的な発作症状が認められない症例が存在し、脳波検査による診断が難しい場合が多い。その理由として、脳波診断に熟練した医師が少ないことや、脳卒中後てんかんにおけるてんかん性脳波異常の出現率が50%に満たないこと等があげられる。
【0003】
これに対して、てんかん活動の焦点であるてんかん焦点(てんかんの源になる脳の一部分の異常活動)、てんかん原性及び脳波異常の拡がりを反映した所見を画像化する検査技術として、放射性医薬品を被験者に投与し、その放射性医薬品から放出される放射線を検出して3次元の核医学画像を取得するSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography:単一光子放射断層撮影)又はPET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)を用いる脳核医学検査も知られている。脳血流SPECTでは、脳卒中後てんかんのてんかん活動の診断能が約86%あり、脳波検査の診断能と比べて高いことが近年に報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
また、脳核医学検査によるてんかん活動の診断には、てんかんの発作時に脳の一部の脳血流・代謝が増加し、発作間欠時には脳血流・代謝の増加が認められないか、又は脳血流・代謝が減少するという現象を利用している。具体的には、てんかんの発作時に撮像された核医学画像とてんかんの発作間欠時に撮像された核医学画像との差分を視覚的又は統計学的画像解析により評価することで、てんかん焦点が診断されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Fukuma K, Kajimoto K, Tanaka T, Takaya S, Kobayashi K, Shimotake A, Matsumoto R, Ikeda A, Toyoda K, Ihara M. “Visualizing prolonged hyperperfusion in post- stroke epilepsy using postictal subtraction SPECT”, Journal of Cerebral Blood Flow & Metablism, 2020, Feb 16, 271678X20902742.
【文献】O’Brien TJ, So EL, Mullan BP, et al. “Subtraction ictal SPECT co-registered to MRI improves clinical usefulness of SPECT in localizing the surgical seizure focus”, Neurology 1998, Vol. 50, No 2, p. 445-454.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脳核医学検査による脳疾患の診断では、上述したてんかん焦点の診断のように複数の核医学画像が必要となることが多い。この場合、脳核医学検査を複数回行わなければならず、患者の負担が大きく、さらには診断するまでにかかる時間が長いという問題がある。
【0007】
本開示は、上記問題を鑑みてなされたものであり、患者の負担を軽減しつつ迅速に診断を行うことが可能なプログラム、画像処理装置及び画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に従うプログラムは、脳内の放射能分布を写した核医学画像を取得する取得部と、前記核医学画像における前記脳内の放射能分布を示す脳領域を左右反転させた左右反転画像を生成し、前記核医学画像の脳領域と前記左右反転画像の脳領域の差分を示す差分画像を生成し、さらに前記核医学画像及び前記左右反転画像の少なくとも一方に基づき、脳領域における前記放射能分布が前記脳内の正常な集積を示す領域を含む正常条件を満たす正常集積領域を設定する差分画像生成部と、前記正常集積領域の各画素の画素値の標準偏差に基づいて、前記差分画像の各画素の画素値を変換した統計画像を生成する統計画像生成部と、をコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、患者の負担を軽減しつつ迅速に診断を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態の画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本開示の一実施形態の画像処理装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】異常集積領域の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態の画像処理装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す画像処理装置100は、例えば、プロセッサ(コンピュータ)及びメモリ(共に図示せず)を備えたコンピュータシステムにより構成される。この場合、以下で説明する画像処理装置100の各構成要素及び各機能は、例えば、プロセッサがプログラムを読み取り、その読み取ったプログラムを実行することで実現される。プログラムは、メモリのようなコンピュータにて読み取り可能な記録媒体に記録可能である。
【0013】
また、画像処理装置100は、入出力装置101と、補助記憶装置102とに接続されている。入出力装置101は、キーボード、タッチパネル及びポインティングデバイスのような画像処理装置100を利用するユーザから種々の情報を受け付ける入力装置と、ディスプレイ装置及びプリンタのようなユーザに対して種々の情報を出力する出力装置とを有する。また、入出力装置101は、インターネットなどの通信網を介して種々の情報の送受信を行うネットワークインタフェース装置を含んでもよい。補助記憶装置102は、例えば、大容量記憶装置のような種々の情報を記憶する記憶装置である。
【0014】
画像処理装置100は、取得部1と、標準化部2と、抽出部3と、差分画像生成部4と、統計画像生成部5と、画像処理部6とを有する。
【0015】
取得部1は、放射性医薬品を投与した被験者からの放射線に基づいて生成された核医学画像を取得する。核医学画像は、例えば、SPECTにより生成された核医学画像であるSPECT画像、又は、PETにより生成された核医学画像であるPET画像などの3次元画像である。3次元画像は、3次元に配置された複数の画素位置と、各画素位置の画素値とを示す。画素値は、被験者から放出された放射線に応じて定まる値であり、例えば、放射線をカウントしたカウント値に応じて定まる。
【0016】
本実施形態では、核医学画像は、脳の検査、特に脳卒中後てんかんの検査を目的にしたSPECT画像又はPET画像であり、被験者を写した被験者領域(被験者の像)として、被験者の脳内の放射能分布(放射性医薬品の分布)を示す脳領域を含む。被験者に投与する放射性医薬品は、脳卒中後てんかんの発作時に脳血流が増加するてんかん焦点を検出できるように、脳血流に相関した放射能分布を示す放射性医薬品が望ましい。この種の放射性医薬品としては、例えば、99mTc-ECD、99mTc-HMPAO、123I-IMP又は15O-gasなどが挙げられる。この場合、核医学画像は、脳血流を反映した放射能分布を示す画像となる。
【0017】
また、取得部1は、核医学画像に加えて、被験者の脳の形態を写した脳形態画像をさらに取得してもよい。脳形態画像は、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)により生成された脳形態画像であるMRI画像、又は、CT(Computed Tomography:コンピュータ断層診断装置)により生成された脳形態画像であるCT画像である。
【0018】
標準化部2は、取得部1にて取得された核医学画像を、解剖学的標準化を行うことで所定脳領域を含むテンプレート画像に合うように変形した標準化画像を生成する。
【0019】
解剖学的標準化は、2枚の画像のそれぞれに写っている像の互いに対応する箇所が同じ座標となるように画像を変形する処理であり、標準化部2は、解剖学的標準化を行うことで、被験者の個人差、体格及び姿勢などに応じて異なる脳領域を所定脳領域に揃える(標準化する)ことができる。なお、解剖学的標準化は、例えば、核医学分野で慣用されているSPM(Statistical Parametric Mapping)技術を用いて行うことができる。
【0020】
所定脳領域は、本実施形態では、標準的な形態(形状及び大きさなど)を有する脳組織全体を写した標準脳領域である。この場合、テンプレート画像は、例えば、実存する特定の被験者(脳疾患を有さない健康な被験者が望ましい)の脳領域をそのまま標準脳領域として含む画像でもよいし、デジタルファントムなどで作成した架空の被験者の脳領域を標準脳領域として含む画像でもよい。
【0021】
なお、取得部1が脳形態画像を取得している場合、標準化部2は、脳形態画像を用いて、標準化画像を生成してもよい。例えば、標準化部2は、先ず、脳形態画像を、解剖学的標準化によって、所定の脳形態を含む形態用テンプレート画像に合うように変形し、解剖学的標準化に使用した標準化パラメータを取得する。続いて、標準化部2は、その標準化パラメータを用いて、核医学画像を解剖学的標準化によってテンプレート画像に合うように変形することで、標準化画像を生成する。この場合、脳卒中後てんかん患者の脳に生じる梗塞のような放射線医薬品の集積が少ない異常低集積部位に対応する異常低集積領域の影響を受けずに標準化画像を生成することが可能になるため、標準化画像をより正確に行うことが可能となる。
【0022】
抽出部3は、標準化部2にて生成された標準化画像から、画素値が所定範囲に含まれる画素の集合を解析対象の脳領域として抽出した抽出画像を生成する。なお、解析対象の脳領域は、互いに離れた複数の領域を含んでもよい。所定範囲は、例えば、画素値が閾値以上の範囲である。閾値は、例えば、標準化画像内の最大の画素値の15%の値である。これにより、標準化画像からノイズを除去し、脳領域を抽出した画像を抽出画像として生成することができる。
【0023】
差分画像生成部4は、抽出部3にて生成された抽出画像の左右反転画像を生成し、抽出画像と左右反転画像との差分を示す差分画像を生成する。
【0024】
具体的には、差分画像生成部4は、先ず、抽出画像における脳領域を左右反転させた画像を抽出画像の左右反転画像として生成する。脳領域の左右反転は、より具体的に言えば、矢状面を挟んで左右対称の位置にある画素値を交換することである。矢状面は、例えば、所定脳領域上に予め設定されていてもよいし、差分画像生成部4が抽出画像を画像解析することで特定されてもよい。
【0025】
続いて、差分画像生成部4は、抽出画像及び左右反転画像の少なくとも一方に基づき、脳領域における放射能分布が脳内の正常な集積を示す領域を含む正常条件を満たす正常集積領域を設定する。例えば、差分画像生成部4は、抽出画像及び左右反転画像のそれぞれについて、画素値が所定値以上の領域を正常候補領域として選択し、各正常候補領域の積(論理積)を正常集積領域として設定する。つまり、差分画像生成部4は、抽出画像の正常候補領域と左右反転画像の正常候補領域との両方に含まれる画素の集合を正常集積領域として設定する。または、差分画像生成部4は、抽出画像及び左右反転画像のいずれか一方について、画素値が所定値以上の領域を正常候補領域として選択し、さらに正常候補領域を左右反転させた領域を反転正常候補領域とし、正常候補領域と反転正常候補領域との積(理論積)を正常集積領域として設定してもよい。所定値は、例えば、抽出画像内の最大の画素値の50%の値である。これにより、脳内の脳血流(及びそれに相関する放射性医薬品)が少ない部位に対応する低集積領域を抽出画像の脳領域から除いた領域、つまり、放射性医薬品が正常に集積する部位に対応する領域を正常集積領域として設定することができる。なお、低集積領域は、例えば、脳室に対応する領域、及び、脳卒中後てんかん患者の脳に生じる梗塞部のような異常低集積部に対応する異常低集積領域などである。
【0026】
また、取得部1が脳形態画像を取得している場合、差分画像生成部4は、脳形態画像から正常集積領域を設定してもよい。例えば、差分画像生成部4は、脳形態画像をその画素値に基づいて解析して、例えば、脳室に対応する領域、及び、脳卒中後てんかん患者の脳に生じる梗塞部のような異常低集積部に対応する低集積領域を特定することもできるので、その低集積領域を脳領域から除いた領域を正常集積領域として設定する。
【0027】
そして、差分画像生成部4は、抽出画像と左右反転画像との差分(具体的には、抽出画像の脳領域と左右反転画像の脳領域との差分)を示す差分画像を生成する。以下では、差分画像生成部4は、抽出画像から左右反転画像を差し引いた画像を差分画像として生成するが、左右反転画像から抽出画像を差し引いた画像を差分画像としてもよい。
【0028】
図2は、差分画像の一例を説明するための図である。
図2では、脳卒中後てんかん患者の核医学画像から生成した抽出画像、左右反転画像及び差分画像のそれぞれの脳領域201~203が示されている。抽出画像の脳領域201の右脳側に、てんかん焦点に対応するてんかん焦点領域211が生じている。てんかん焦点では脳血流が脳の他の箇所よりも増加しているため、てんかん焦点領域211は、画像値が他の領域よりも高い領域となる異常高集積領域となる。
【0029】
この場合、左右反転画像の脳領域202では、左脳側にてんかん焦点領域212が現れる。また、てんかん焦点以外での脳血流の分布は概ね左右対称となるため、抽出画像から左右反転画像を差し引くと、てんかん焦点領域211以外の領域の画素値がキャンセルされて、差分画像の脳領域203において、てんかん焦点領域213が抽出される。ただし、差分画像の脳領域203には、左右反転画像の左脳側のてんかん焦点領域212の影響で、左脳側に、負の画素値を有する疑似的なてんかん焦点領域214が現れる。
【0030】
図1の説明に戻る。統計画像生成部5は、差分画像生成部4にて生成された差分画像における正常集積領域の各画素の画素値の標準偏差を算出する。そして、統計画像生成部5は、算出した標準偏差に基づいて、差分画像の各画素の画素値を変換した統計画像を生成する。統計画像生成部5は、例えば、差分画像の各画素の画素値を以下の計算式(1)にて統計値に変換した統計画像を生成する。
統計値=(差分画像の画素値)/(正常集積領域の標準偏差) (1)
この場合、正常集積領域の各画素の画素値のばらつきを抑え、正常集積領域の画素値から外れた画素値を有する異常集積領域を表した統計画像を生成することが可能となる。
【0031】
なお、計算式(1)で算出する統計値を単なる一例であり、統計値はこの例に限らない。例えば、統計値は、(差分画像の画素値-正常集積領域の平均値)/正常集積領域の標準偏差のようなZ値(Z-Score)などでもよい。
【0032】
画像処理部6は、統計画像生成部5にて生成された統計画像を入出力装置101に表示する。このとき、画像処理部6は、統計画像に対して所定の画像処理を行い、その画像処理を行った統計画像を表示してもよい。また、画像処理部6は、統計画像に基づく指標値を算出し、その指標値をさらに表示してもよい。また、画像処理部6は、取得部1が脳形態画像を取得している場合、脳形態画像(又は、解剖学的標準化を行った脳形態画像)を統計画像と共に又は重ねて表示してもよい。この場合、統計画像に示されるてんかん領域などの位置情報を把握しし易くすることができる。なお、画像処理部6は、統計画像を入出力装置101に表示される代わりに、入出力装置101を介して外部装置(図示せず)に送信してもよいし、補助記憶装置102に記憶してもよい。
【0033】
図3は、画像処理装置100の動作を説明するためのフローチャートである。
【0034】
先ず、取得部1は、被験者の脳内の放射性医薬品の分布を示す脳領域を含む核医学画像と、同じ被験者の脳の形態を写した脳形態画像とを取得する(ステップS301)。例えば、取得部1は、入出力装置101を介して外部から核医学画像及び脳形態画像を取得してもよいし、補助記憶装置102に記憶された核医学画像及び脳形態画像を取得してもよい。
【0035】
標準化部2は、取得部1にて取得された核医学画像を、解剖学的標準化によってテンプレート画像に合うように変形した標準化画像を生成し、取得部1にて取得された脳形態画像を、解剖学的標準化によって形態用テンプレート画像に合うように変形した画像を生成する(ステップS302)。テンプレート画像及び形態用テンプレート画像は、例えば、画像処理装置100又は補助記憶装置102に予め記憶されていてもよいし、解剖学的標準化を行う際に入出力装置101を介して外部から取得されてもよい。
【0036】
抽出部3は、標準化部2にて生成された標準化画像から、画素値が所定範囲に含まれる画素からなる領域を解析対象の脳領域として抽出した抽出画像として生成する(ステップS303)。
【0037】
差分画像生成部4は、抽出部3にて生成された抽出画像の左右反転画像を生成する(ステップS304)。差分画像生成部4は、抽出画像及び左右反転画像のそれぞれについて、画素値が所定値以上の領域を正常候補領域として選択し、各正常候補領域の積を正常集積領域として設定する(ステップS305)。差分画像生成部4は、抽出画像から左右反転画像を差し引いた画像を差分画像として生成する(ステップS306)。
【0038】
統計画像生成部5は、差分画像生成部4にて生成された差分画像における正常集積領域の画素値の標準偏差を算出し、その標準偏差に基づいて差分画像の各画素の画素値を変換した統計画像を生成する(ステップS307)。
【0039】
画像処理部6は、統計画像生成部5にて生成された統計画像に基づく指標値を算出する(ステップS308)。そして、統計画像生成部5にて生成された統計画像に対して所定の画像処理を行い。画像処理部6は、その画像処理を行った統計画像と、算出した指標値と、取得部1が取得した脳形態画像とを入出力装置101に表示し(ステップS309)、処理を終了する。
【0040】
ステップS309で行う画像処理としては、統計画像の各画素にその画素の画素値である統計値に基づいて色を付ける色加工処理が挙げられる。例えば、画像処理部6は、統計画像において、統計値が基準値以上の画素に所定の色を付けてもよい。この場合、統計画像における統計的に有意なてんかん焦点領域を抽出することができる。なお、各画素に付ける色は、単色でもよいし、画素値に応じて異なっていてもよい。また、各画素に付ける色は、予め定められていてもよいし、操作者にて設定されてもよい。
【0041】
また、画像処理部6は、統計画像において、統計値が正の基準値以上の画素と、統計値が負の基準値以下の画素に色を付けてもよい。この場合、統計画像におけるてんかん焦点領域に加えて、脳卒中後てんかん患者の脳に生じる梗塞部などに対応する異常低集積領域を抽出することができる。なお、正の基準値と負の基準値の絶対値とは同じでもよいし、異なってもよい。正の基準値以上の画素に付ける色と、負の基準値以下の画素に付ける色とは、同じでもよいし、異なっていてもよい。また、正の基準値以上の画素に付ける色と、負の基準値以下の画素に付ける色とは、それぞれ単色でもよいし、画素値に応じて異なっていてもよい。
【0042】
図4は、異常な低集積領域の一例を示す図である。
図4では、
図2に示した抽出画像、左右反転画像及び差分画像において、異常低集積領域として、脳卒中後てんかん患者の脳に生じる梗塞部に対応する梗塞領域がさらに示されている。
【0043】
一般的にてんかん焦点は梗塞部の近傍に生じるため、
図4に示したように抽出画像では、てんかん焦点領域211の近傍に梗塞領域401が存在する。梗塞部は脳血流が少ない箇所であるため、梗塞領域401の画素値は周囲と比べて小さい。このため、抽出画像から左右反転画像を差し引いた差分画像では、梗塞領域403の画素値は負の値となる。したがって、統計値が正の基準値以上の画素と、統計値が負の基準値以下の画素に色を付けると、差分画像において、てんかん焦点領域213だけでなく、梗塞領域403も抽出されることとなる。ただし、差分画像では、疑似的なてんかん焦点領域214だけでなく、左右反転画像の梗塞領域402に起因する疑似的な梗塞領域404も抽出される。
【0044】
また、てんかん焦点のような部位は、通常、左脳及び右脳の一方にのみ生じるため、統計画像には、左右の脳領域のうち、てんかん焦点領域が形成された側の反対側の脳領域には、上述した疑似的なてんかん焦点領域(及び疑似的な梗塞領域)が生じる。このため、画像処理部6は、統計画像の脳領域の左脳側の領域及び右脳側の領域の一方、具体的には、これらの領域のうち、てんかん焦点領域が形成された焦点側領域にのみ色を付け、疑似的なてんかん焦点領域が形成された疑似焦点側領域には色を付けなくてもよい。
【0045】
焦点側領域の選択は、画像処理装置100の操作者にて行われてもよいし、画像処理部6にて行われてもよい。なお、医師などが核医学画像又は標準化画像などを視認すれば、脳領域の左右の領域のうち焦点が存在する側を把握する程度のことは容易であることも多いため、操作者によって焦点側領域を適切に選択することができる。
【0046】
また、画像処理部6が焦点側領域を選択する場合、例えば、画像処理部6は、左右の領域のうち、差分画像生成部4にて抽出画像から抽出された正常候補領域の画素数が小さい方を焦点側領域として選択してもよい。これは、上述したように、てんかん焦点領域の周辺には異常低集積領域が生じるため、焦点側領域の方が疑似焦点側領域よりも正常集積領域が小さくなるためである。なお、取得部1が脳形態画像を取得している場合、画像処理部6は、脳形態画像に基づいて、焦点側領域を選択してもよい。例えば、画像処理部6は、脳形態画像を解析して、脳領域の左右の領域のうち、面積の小さい方を焦点側領域として選択してもよい。
【0047】
また、画像処理部6が統計画像の焦点側領域のみに色を付ける代わりに、統計画像生成部5が差分画像から統計画像を生成する際に、差分画像の焦点側領域のみを処理対象として統計画像を生成することで、疑似焦点側領域を除いた統計画像を生成してもよい。
【0048】
なお、画像像処理部6は、統計画像において、統計値が正の基準値以上の画素に色を付けず、統計値が負の基準値以下の画素にのみ色を付けることで、梗塞領域のような異常低集積領域を抽出してもよい。また、左右反転画像から抽出画像を差し引いた画像を差分画像として生成する場合、統計値が正の基準値以上の画素に色を付けると、異常低集積領域が抽出され、統計値が負の基準値以下の画素に色を付けると、異常高集積領域が抽出されることとなる。
【0049】
ステップS308で画像処理部6が算出する指標値は、例えば、画素値が基準値以上の画素の領域であるてんかん焦点領域に関する値である。この場合、てんかん焦点を定量的に評価することができる。
【0050】
例えば、指標値は、てんかん焦点の容積、全脳の容積に対するてんかん焦点の容積の割合、(てんかん焦点領域の画素値の合計)/(てんかん焦点領域の画素数)、及び、てんかん焦点の容積と異常低集積部の容量との比又は差などである。てんかん焦点及び異常低集積部の容量は、てんかん焦点領域及び異常低集積領域の大きさ(画素数)から算出することができる。なお、容積の単位は、例えば、mLである。
【0051】
また、画像処理部6は、脳を解剖学的に分類した解剖学的区域ごとに、指標値を算出してもよい。例えば、画像処理部6は、解剖学的区域ごとに、解剖学的区域に含まれるてんかん焦点の容量、解剖学的区域の容量に対するその解剖学的区域に含まれるてんかん焦点の容量の割合、(解剖学的区域に対応する統計画像の領域に含まれるてんかん焦点領域の画素値の合計)/(解剖学的区域に対応する統計画像の領域に含まれるてんかん焦点領域の画素数)、及び、解剖学的区域に含まれるてんかん焦点の容積と解剖学的区域に含まれる異常低集積領域との容積の比又は差などを、指標値として算出してもよい。
【0052】
脳の解剖学的な分類は、例えば、ブロードマンの脳地図などである。なお、ブロードマンの脳地図では、脳を1~52番までの番号を割り当てた52の領域に分類している。このとき、画像処理部6は、指標値を、ブロードマンの脳地図の52の領域のそれぞれに対して算出してもよいし、52の領域の一部の領域又は52の領域を統廃合して生成した複数の領域のそれぞれに対して算出してもよい。
【0053】
以上説明したように本実施形態によれば、取得部1は、脳内の放射能分布を写した核医学画像を取得する。差分画像生成部4は、核医学画像における脳内の放射能分布を示す脳領域を左右反転させた左右反転画像を生成し、核医学画像の脳領域と左右反転画像の脳領域の差分を示す差分画像を生成し、さらに核医学画像及び左右反転画像の少なくとも一方に基づき、脳領域における放射能分布が脳内の正常な集積を示す領域を含む正常条件を満たす正常集積領域を設定する。統計画像生成部5は、正常集積領域の各画素の画素値の標準偏差に基づいて、差分画像の各画素の画素値を変換した統計画像を生成する。したがって、1枚の核医学画像を用いて、左右の脳のいずれかに生じるてんかん焦点のような異常な部位を検出することが可能となるため、脳核医学検査を複数回行わずに、脳核医学検査による脳機能障害の診断を行うことが可能となる。このため、患者の負担を軽減しつつ迅速に診断を行うことが可能になる。
【0054】
また、本実施形態では、差分画像生成部4は、核医学画像及び左右反転画像のそれぞれについて、画素値が所定値以上の領域を正常候補領域として選択し、核医学画像の正常候補領域と左右反転画像の正常候補領域との両方に含まれる画素の集合を正常集積領域として設定する。又は、差分画像生成部4は、核医学画像及び左右反転画像のいずれか一方について、画素値が所定以上の領域を正常候補領域として選択し、正常候補領域と正常候補領域を左右反転させた反転正常候補領域との両方に含まれる画素の集合を正常集積領域として設定する。したがって、正常集積領域を適切に設定することが可能となり、脳機能障害の診断をより適切に行うことが可能となる。
【0055】
また、本実施形態では、統計画像生成部5は、差分画像の各画素の画素値を標準偏差で除算した統計画像を生成する。したがって、正常集積領域の各画素の画素値にばらつきのある統計画像に対し、異常な部位をより客観的に検出することが可能となる。
【0056】
また、本実施形態では、画像処理部6は、統計画像における画素値が正の基準値以上の画素又は画素値が負の基準値以下の画素に所定の色を付ける画像処理を行う。このため、てんかん焦点領域のような異常高集積領域又は梗塞領域のような異常低集積領域を視認し易くすることが可能になるため、脳機能障害の診断をより容易に行うことが可能となる。
【0057】
また、本実施形態では、画像処理部6は、統計画像における画素値が正の基準値以上の画素と画素値が負の基準値以下の画素とに所定の色を付ける画像処理を行う。このため、異常高集積領域及び異常低集積領域を視認し易くすることが可能になるため、脳機能障害の診断をより容易に行うことが可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、画像処理部6は、画像処理を差分画像における左脳側の領域及び右脳側の領域の一方に対してのみ行う。このため、てんかん焦点のような左脳及び右脳の一方にのみ生じる異常な部位をより適切に検出することができる。
【0059】
また、本実施形態では、画像処理部6は、統計画像における画素値が基準値以上の画素の領域に関する指標値を算出する。したがって、異常な部位に関する指標値を得ることが可能となるため、脳機能障害の診断をより容易に行うことが可能となる。
【0060】
また、本実施形態では、標準化部2は、核医学画像を解剖学的標準化した標準化画像を生成する。この場合、被験者の個人差、体格及び姿勢などに応じて異なる脳領域を所定脳領域に揃えてから、差分画像を生成することが可能になるため、脳機能障害の診断をより容易に行うことが可能になる。
【0061】
上述した本開示の実施形態は、本開示の説明のための例示であり、本開示の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本開示の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本開示を実施することができる。
【0062】
例えば、上述した実施形態では、特に脳卒中後てんかんの検査に適した画像処理装置100について説明したが、本開示は、脳卒中後てんかんの検査の用途に限るものではなく、脳の検査一般に適用できる。また、被験者に投与する放射性医薬品は、例えば、脳代謝に相関した脳内分布を示す放射性医薬品でもよい。この場合、取得部1で取得される核医学画像は、脳代謝を反映した画像となる。
【符号の説明】
【0063】
1:取得部、2:標準化部、3:抽出部、4:差分画像生成部、5:統計画像生成部、6:画像処理部、100:画像処理装置、101:入出力装置、102:補助記憶装置