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特許7531813リハビリテーション支援システム、プログラム及び制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】リハビリテーション支援システム、プログラム及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/02 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
A61H1/02 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021074696
(22)【出願日】2021-04-27
(65)【公開番号】P2022168966
(43)【公開日】2022-11-09
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】709007009
【氏名又は名称】株式会社桜十字
(74)【代理人】
【識別番号】100163267
【弁理士】
【氏名又は名称】今中 崇之
(72)【発明者】
【氏名】松田 鶴夫
(72)【発明者】
【氏名】金田 純也
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-097238(JP,A)
【文献】特開2009-112578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0199045(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻痺側の手指に装着され、全ての該手指を動かす力を加えるグラブと、
曲げ伸ばしする健常側の手指及び前記グラブが装着された前記麻痺側の手指の動きを検出するセンサ部と、
前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きに倣って対応する前記麻痺側の手指が動くように、前記グラブを制御する駆動制御部と、
前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きを表す健常部位画像及び前記センサ部によって検出された前記麻痺側の手指の動きを表す麻痺部位画像を、それぞれ表示器に表示する表示制御部と、を備え
前記センサ部が、赤外線を照射する照射器と、
前記健常側の手指及び前記グラブが装着された麻痺側の手指の動きを撮像する赤外線カメラと、を有するリハビリテーション支援システム。
【請求項2】
請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、
前記表示制御部が、前記麻痺部位画像の動きを前記麻痺側の手指の動きよりも大きくなるように表示するリハビリテーション支援システム。
【請求項3】
請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、
前記表示制御部が、前記麻痺側の手指の動きの大きさを示すグラフ又は数値を前記表示器に表示するリハビリテーション支援システム。
【請求項4】
請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、
前記表示制御部が、前記患者を励ますメッセージを前記表示器に表示するリハビリテーション支援システム。
【請求項5】
請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、
前記患者を励ます音声をスピーカを介して出力する音響出力制御部を更に備えるリハビリテーション支援システム。
【請求項6】
請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、
前記音響出力制御部が、前記麻痺側の手指の動きに応じて特性が変化する音を出力するリハビリテーション支援システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のリハビリテーション支援システムにおいて、
前記麻痺側の手指の拘縮を和らげるための刺激を前記患者に加える刺激装置を更に備えたリハビリテーション支援システム。
【請求項8】
麻痺側の手指に装着され、全ての該手指を動かす力を加えるグラブと、
患者が自らの意思により健常側の手指及び前記グラブが装着された全ての前記麻痺側の手指をそれぞれ握ったり開いたりする際の該健常側の手指の動きを検出するセンサ部と、
前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きに倣って対応する前記麻痺側の手指が動くように、前記グラブを制御する駆動制御部と、を備え
前記センサ部が、赤外線を照射する照射器と、
前記健常側の手指及び前記グラブが装着された麻痺側の手指の動きを撮像する赤外線カメラと、を有するリハビリテーション支援システム。
【請求項9】
麻痺側の手指に装着され、全ての該手指を動かす力を加えるグラブと、
前記麻痺側の手指及び健常側の手指の動きを検出するセンサ部と、を備え
前記センサ部が、赤外線を照射する照射器と、前記健常側の手指及び前記グラブが装着された麻痺側の手指の動きを撮像する赤外線カメラと、を有するリハビリテーション支援システムの制御装置を、
前記赤外線カメラによって検出された前記健常側の手指の動きに倣って対応する前記麻痺側の手指が動くように、前記グラブを制御する駆動制御手段、
前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きを表す健常部位画像及び前記センサ部によって検出された前記麻痺側の手指の動きを表す麻痺部位画像を、それぞれ表示器に表示する表示制御手段、として機能させるプログラム。
【請求項10】
麻痺側の手指に装着され、全ての該手指を動かす力を加えるグラブと、前記麻痺側の手指及び健常側の手指の動きを検出するセンサ部と、を備え、前記センサ部が、赤外線を照射する照射器と、前記健常側の手指及び前記グラブが装着された麻痺側の手指の動きを撮像する赤外線カメラと、を有するリハビリテーション支援システムの制御装置であって、
前記赤外線カメラによって検出された前記健常側の手指の動きに倣って対応する前記麻痺側の手指が動くように、前記グラブを制御する駆動制御部と、
前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きを表す健常部位画像及び前記センサ部によって検出された前記麻痺側の手指の動きを表す麻痺部位画像を、それぞれ表示器に表示する表示制御部と、を備えるリハビリテーション支援システムの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リハビリテーション支援システム、プログラム及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳卒中等による片麻痺者に対し、麻痺手側にアシストグラブや手指装具を装着して手指を動かすリハビリテーションが行われている。
一般に、従来のリハビリテーションは、患者の意思とは無関係に単調な動作を繰り返すものであり、大脳皮質運動野へのフィードバック、すなわち運動のための新たなパスの生成に寄与する効果が十分ではなかった。そのため、リハビリテーションの効率は必ずしも高いとは言えなかった。
【0003】
特許文献1には、身体の一部の運動機能が麻痺した患者の運動意思が運動指令となって運動経路を伝達することが困難な場合であっても、運動経路の伝達をさせる運動経路を確立する訓練を行うことができるリハビリテーション装置が記載されている。
このリハビリテーション装置は、患者の視覚に対して提示を行う提示部と、外力を用いて患者の麻痺した身体の一部である麻痺部を動かす動作を補助するアシスト動作をする駆動部と、患者の脳波に基づいて駆動部にアシスト動作をさせる制御部と、を備える。提示部は、麻痺部と同一な部位である対象部位であって、少なくとも静止した状態の対象部位を含む画像を提示する。制御部は、駆動部にアシスト動作をさせるか否かを判定する判定項目に脳波を構成する信号に含まれる所定の周波数帯域のスペクトル強度の変化を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-29728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、治療効果が高いリハビリテーション支援システム、プログラム及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、麻痺側の手指に装着され、全ての該手指を動かす力を加えるグラブと、曲げ伸ばしする健常側の手指及び前記グラブが装着された前記麻痺側の手指の動きを検出するセンサ部と、前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きに倣って対応する前記麻痺側の手指が動くように、前記グラブを制御する駆動制御部と、前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きを表す健常部位画像及び前記センサ部によって検出された前記麻痺側の手指の動きを表す麻痺部位画像を、それぞれ表示器に表示する表示制御部と、を備え、前記センサ部が、赤外線を照射する照射器と、前記健常側の手指及び前記グラブが装着された麻痺側の手指の動きを撮像する赤外線カメラと、を有するリハビリテーション支援システムである。
【0007】
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
請求項に記載の発明は、請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、前記表示制御部が、前記麻痺部位画像の動きを前記麻痺側の手指の動きよりも大きくなるように表示する。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、前記表示制御部が、前記麻痺側の手指の動きの大きさを示すグラフ又は数値を前記表示器に表示する。
【0017】
請求項に記載の発明は、請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、前記表示制御部が、前記患者を励ますメッセージを前記表示器に表示する。
【0018】
請求項に記載の発明は、請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、前記患者を励ます音声をスピーカを介して出力する音響出力制御部を更に備える。
【0019】
請求項に記載の発明は、請求項記載のリハビリテーション支援システムにおいて、前記音響出力制御部が、前記麻痺側の手指の動きに応じて特性が変化する音を出力する。
請求項7に記載の発明は、請求項1~6のいずれか1項に記載のリハビリテーション支援システムにおいて、前記麻痺側の手指の拘縮を和らげるための刺激を前記患者に加える刺激装置を更に備える。
請求項8に記載の発明は、麻痺側の手指に装着され、全ての該手指を動かす力を加えるグラブと、患者が自らの意思により健常側の手指及び前記グラブが装着された全ての前記麻痺側の手指をそれぞれ握ったり開いたりする際の該健常側の手指の動きを検出するセンサ部と、前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きに倣って対応する前記麻痺側の手指が動くように、前記グラブを制御する駆動制御部と、を備え、前記センサ部が、赤外線を照射する照射器と、前記健常側の手指及び前記グラブが装着された麻痺側の手指の動きを撮像する赤外線カメラと、を有するリハビリテーション支援システムである。
【0020】
請求項に記載の発明は、麻痺側の手指に装着され、全ての該手指を動かす力を加えるグラブと、前記麻痺側の手指及び健常側の手指の動きを検出するセンサ部と、を備え、前記センサ部が、赤外線を照射する照射器と、前記健常側の手指及び前記グラブが装着された麻痺側の手指の動きを撮像する赤外線カメラと、を有するリハビリテーション支援システムの制御装置を、前記赤外線カメラによって検出された前記健常側の手指の動きに倣って対応する前記麻痺側の手指が動くように、前記グラブを制御する駆動制御手段、前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きを表す健常部位画像及び前記センサ部によって検出された前記麻痺側の手指の動きを表す麻痺部位画像を、それぞれ表示器に表示する表示制御手段、として機能させるプログラムである。
【0021】
請求項10に記載の発明は、麻痺側の手指に装着され、全ての該手指を動かす力を加えるグラブと、前記麻痺側の手指及び健常側の手指の動きを検出するセンサ部と、を備え、前記センサ部が、赤外線を照射する照射器と、前記健常側の手指及び前記グラブが装着された麻痺側の手指の動きを撮像する赤外線カメラと、を有するリハビリテーション支援システムの制御装置であって、前記赤外線カメラによって検出された前記健常側の手指の動きに倣って対応する前記麻痺側の手指が動くように、前記グラブを制御する駆動制御部と、前記センサ部によって検出された前記健常側の手指の動きを表す健常部位画像及び前記センサ部によって検出された前記麻痺側の手指の動きを表す麻痺部位画像を、それぞれ表示器に表示する表示制御部と、を備えるリハビリテーション支援システムの制御装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、治療効果が高いリハビリテーション支援システム、プログラム及び制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施の形態に係るリハビリテーション支援システムの説明図である。
図2】同リハビリテーション支援システムの構成図である。
図3】同リハビリテーション支援システムを使用したリハビリ方法を示すフローチャートである。
図4】(A)、(B)は、同リハビリテーション支援システムによるリハビリテーション前のグラフであって、それぞれ、左手(健常側)の運動状態を示すグラフ及び右手(麻痺側)の運動状態を示すグラフである。
図5】(A)、(B)は、同リハビリテーション支援システムによるリハビリテーション後のグラフであって、それぞれ、左手(健常側)の運動状態を示すグラフ及び右手(麻痺側)の運動状態を示すグラフである。
図6】指屈曲度θを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。なお、説明に関連しない部分は図示を省略する場合がある。
【0025】
本発明の一実施の形態に係るリハビリテーション支援システム10は、身体の一部である一方の手指に麻痺症例を有する片麻痺患者のリハビリテーションを支援するためのシステムである。麻痺症例として、例えば、神経伝達物質の欠乏や手指の拘縮により微振動が出現する振戦疾患が挙げられる。
リハビリテーション支援システム10は、図1に示すように、(1)患者の意思により動く、機能が残存する健常側の手指の運動感覚、(2)麻痺側(非健常側)の手指の感覚及び(3)健常側の手指及び麻痺側の手指の動きを視認することによる視覚が、それぞれ患者の脳にフィードバックされることにより、麻痺側の手指の機能回復を促進することができる。
【0026】
リハビリテーション支援システム10は、図2に示すように、グラブ12、グラブ駆動装置13、センサ部14、刺激装置15、制御装置16並びに表示器18及びスピーカ20を備えている。
グラブ(アシスト部の一例)12は、麻痺側の手指(麻痺部位の一例)に装着され、手指を動かす力を加えることができる。
グラブ12の駆動源は、空圧である。駆動源を空圧とすることにより、駆動源をモータとした場合と比較して、グラブが柔軟かつ軽量となり、治療する患者の負担が軽減される。
【0027】
グラブ12は、手の甲の全体及び各手指を覆い、ベローズ(空気袋)122及びチューブ124を有している。
ベローズ122は、手の甲側の各指関節に対応する位置に合計で15個設けられている。
チューブ124は、手首の甲側に設けられたマニホールド126から各指に沿って先端まで延び、一本の指につき3つのベローズを直列に接続するように空気の供給経路を形成する。
各ベローズ122は、チューブ124の内部の圧力に応じて膨張又は収縮し、これによりグラブ12が手指関節を屈伸運動する力を加えることができる。
【0028】
グラブ駆動装置13は、グラブ12に空圧を供給するための駆動源である。空圧は、マニホールド126から延びるチューブ132を介してグローブ12に供給される。
グラブ駆動装置13は、制御装置16に接続され、制御装置16が出力した制御信号(指令信号)に基づいて、チューブ132を介してチューブ124の内部の圧力を増減させ、グラブ12を駆動できる。
【0029】
センサ部14は、赤外線を照射する照射器(不図示)及び2つの赤外線カメラ(不図示)を有し、健常側の手指(健常部位の一例)及びグラブ12が装着された麻痺側の手指の動きを撮像したカメラ画像をセンサ情報として取得できる。このセンサ情報には、センサ部14の内部にてカメラ画像を処理して求められた、各指や掌の空間座標も含まれる。
【0030】
刺激装置15は、医療用として用いられる外部磁気装置又は電気刺激装置であり、患者の例えば手根部、前腕及び上腕等にそれぞれ装着され、刺激を与える複数の刺激部152を有している。なお、図2においては、手根部に装着される刺激部152のみを示し、その他の刺激部は割愛している。
刺激装置15は、制御装置16によって制御され、ケーブルを介して各刺激部152を駆動できる。
制御装置16からトリガ信号を受信すると、刺激装置15は、各刺激部152を駆動し、各装着部位が刺激される。その結果、刺激装置15は、麻痺側の手指の拘縮を和らげるための刺激を患者に加えることができる。刺激装置15は、予め設定されたパターンによる刺激を加えることもできる。
【0031】
制御装置16は、グラブ駆動装置13、センサ部14及び刺激装置15が接続され、グラブ12の動作を制御したり、表示器18に所定の画像を表示したり、スピーカ20から音を出力したりすることができる。
制御装置16は、例えば、パーソナルコンピュータであり、画像処理部161、駆動制御部162、表示制御部164及び音響出力制御部166を有している。
【0032】
画像処理部161は、センサ部14から送信されたセンサ情報を処理することで、健常側の手指及び麻痺側の手指の動きを第1のデータ及び第2のデータとして取得できる。
第1のデータは、手指を構成する各骨(末節骨、中節骨、基節骨及び中手骨)の中心座標及び各骨の両端の座標のうち少なくとも一方である。
第2のデータは、各骨の長手方向のベクトルである。
【0033】
駆動制御部162は、健常側の手指の動きに基づいて、グラブ駆動装置13に対して制御信号を出力し、グラブ12の動作を制御できる。
また、駆動制御部162は、健常側の手指及び麻痺側の手指のうち少なくとも一方の動きに基づいて、刺激装置15に対してトリガ信号を出力する。その結果、刺激装置15が患者に刺激部152を介して刺激を与え、麻痺側の手指の拘縮を緩和できる。
【0034】
表示制御部164は、第1のデータ及び第2のデータに基づいて、患者の健常側の手指及び麻痺側の手指の動きをそれぞれ表す健常側指画像(健常部位画像の一例)及び麻痺側指画像(麻痺部位画像の一例)を擬似的な三次元画像として生成し、表示器18に表示できる。
また、表示制御部164は、左右の各指の開閉度合い(後述する指屈曲度θ)を示すグラフの画像を生成し、表示器18に表示できる。
なお、表示制御部164は、予め設定されたパラメータである拡大率に基づいて、麻痺側指画像の動きやグラフの動きを実際の麻痺側の手指の動きよりも大きくなるように誇張して表示器18に表示することも可能である。
更に、表示制御部164は、患者を励ます応援メッセージを表示器18に表示することも可能である。
【0035】
音響出力制御部166は、リハビリテーションを行っている患者に対し、患者を励ます音声や麻痺側の手指の動きに応じて特性が変化する音をスピーカ20を介して出力できる。
【0036】
付言すると、前述の画像処理部161、駆動制御部162、表示制御部164及び音響出力制御部166は、それぞれ、制御装置が内蔵するCPUにて実行されるプログラムによって実現される。
また、制御装置16は、制御装置16にて実行されるプログラムによって、センサ部14によって検出された健常側の手指の動きに基づいて、グラブ12を制御する制御手段として機能する。
【0037】
表示器18は、例えば液晶表示器やヘッドマウントディスプレイであり、制御装置16に接続されている。
患者がリハビリテーションを行っている間、表示器18には、制御装置16の表示制御部164によって生成された画像等の情報が表示される。
詳細には、表示器18の画面上側の領域182Uには、健常側指画像及び麻痺側指画像が、それぞれ擬似的な手指の三次元動画として表示される。表示器18の画面下側の領域182Lには、左右の各指の開閉度合い(後述する指屈曲度θ)を示す棒グラフが並んで表示される。これらの棒グラフは、対応する手指の開閉に伴って増減して表示される。
なお、左右の各指の開閉度合いは、対応する棒グラフの近傍に、数値又は時系列チャートとして表示されてもよい。また、棒グラフは、患者にとって最適な任意のチャートであればよい。
【0038】
スピーカ20は、制御装置16に接続されている。スピーカ20からは、患者がリハビリテーションを行っている間、制御装置16の音響出力制御部166によって生成された音声や音が出力される。
【0039】
このようなリハビリテーション支援システム10によれば、患者は、麻痺側の手指にグラブ12を装着した状態において健常側の手指を動かすと、この健常側の手指の動きに倣って、グラブ12から力が加えられ、麻痺側の手指を動かすことができる。
なお、リハビリテーション支援システム10は、患者が健常側の手指を動かしてから麻痺側の手指が動くまでの反応時間の遅れが、予め決められた時間Td以下となるように構成されている。この予め決められた時間Tdは、治療を受ける患者が違和感を抱かない時間であり、短ければ短いほど好ましい。具体的には、時間Tdは、1000ms以下であり、好ましくは500ms以下であり、更に好ましくは、300ms以下である。
【0040】
次に、リハビリテーション支援システム10の詳細な動作(リハビリテーション方法)について説明する。
リハビリテーション支援システム10は、図3に示す以下のステップS1~S4に従って使用され、患者のリハビリテーションが行われる。
なお、同図3において、ステップS2が開始されると、前述の反応時間の遅れが経過した後にステップS3が開始される。従って、ステップS2及びステップS3は、完全な並列処理ではなく実質的な並列処理として実行される。
【0041】
(ステップS1)
患者の麻痺側の手指にグラブ12が装着される。
【0042】
(ステップS2)
予め決められた時間、センサ14の検出範囲にて、患者が左右で同じ動きをするように手指の運動を繰り返す。この手指の運動(リハビリテーション)は、全ての手指を握ったり開いたりする屈運動である。
【0043】
(ステップS3)
運動する健常側の手指の動きは、前述の第1のデータ及び第2のデータとして、センサ14を介して制御装置16の画像処理部161によって取得され、駆動制御部162は、グラブ駆動装置13に対し、健常側の手指の動きに倣って麻痺側の手指が動くように制御信号を出力する。
患者が運動を繰り返す間、表示器18の画面上側の表示領域182Uには、運動を行っている左右の手指の動きが擬似的な手の三次元動画として表示され、画面下側の表示領域182Lには、左右の各指の開閉度合い(後述する指屈曲度θ)を示す棒グラフが表示される。
従って、患者は、表示器18に表示される屈運動を繰り返す擬似的な三次元動画やグラフを見ながら、麻痺側の手指が健常側の手指と同じ屈運動をするようにグラブ12から力が加えられるとともに患者自ら麻痺側の手指を動かそうとする意思を持った状態で手指の運動を行う。
ただし、表示器18に表示された擬似的な手指の三次元動画を見ることなく、自らの健常側及び麻痺側の手指の動きだけを見ながらリハビリテーションを行ってもよい。
【0044】
本ステップS3の実行中は、表示器18に表示制御部164が生成した応援メッセージが表示され、患者のリハビリテーションに対する意欲の低下が抑制される。
【0045】
拘縮が強く麻痺側の手指を大きく開閉できない患者がリハビリテーションを行う場合には、予め制御装置に設定された拡大率に基づいて、麻痺側指画像の動きやグラフの動きが、実際の麻痺側の手指の動きよりも大きくなるように誇張して表示される。
従って、拘縮が強い患者であっても、麻痺側の手指を動かそうとする意思を持たせ、その運動感覚が大脳にフィードバックされる。
また、拘縮が強い患者に対して、刺激装置15が患者に刺激を加えることで、麻痺側の手指を動かしやすくすることができる。
【0046】
視覚に障害を持っている患者がリハビリテーションを行う場合には、制御装置16の音響出力制御部166が、麻痺側の手指の動きに応じて特性(周波数又は/及び振幅)が変化する音をスピーカ20を介して出力する。
具体的には、音響出力制御部166が、麻痺側の手指の速度又は加速度の変化に応じて、20Hz~20kHzの可聴域の範囲内で周波数特性が変化する音に変換することで、患者が手指の動きの状態を聴覚にて把握できるようになる。
なお、周波数に代えて、振幅としてもよいし、周波数及び振幅を変化させてもよい。また、音響出力制御部166は、麻痺側の手指の動きに応じて患者を励ます合成音声を出力してもよい。
従って、視覚に障害を持っている患者であっても、表示器18に表示される情報に頼ることなく、リハビリテーションを行うことができる。
【0047】
(ステップS4)
予め決められた時間が経過するまで、前述のステップS3及びステップS4が繰り返される。
予め決められた時間が経過した後、患者はリハビリテーションを終える。
【0048】
すなわち、リハビリテーション支援システム10によるリハビリテーション方法は、患者が健常側の手指を動かす第1のステップ(前述のステップS2)と、麻痺側の手指に装着された補助手段が、健常側の手指の動きに倣うように麻痺側の手指に力を加える第2のステップ(前述のステップS3)と、を含み、患者が、健常側の手指及び麻痺側の手指のうち少なくとも一方の動きを見ながら、第1のステップ及び第2のステップが実施される。
このようなリハビリテーション方法により、治療効果が高いリハビリテーションが提供される。
【0049】
次に、リハビリテーション支援システム10を用いたリハビリテーションの効果を示し、リハビリテーション支援システム10について更に説明する。
発明者らは、右手側に麻痺を有する初発の脳卒中患者に対してリハビリテーション支援システム10を用いたリハビリテーションを約20分間行い、リハビリテーションの前後において、それぞれ、全ての手指を握ったり開いたりする10回の屈運動の状態を測定した。
リハビリテーション支援システム10のグラブ12及びグラブ駆動装置13は、パワーアシストハンド(株式会社エルエーピー製)とし、センサ部14(ハードウェア)は、Leap Motion Controller(Leap Motion社製)とした。
【0050】
図4及び図5にその結果を示す。各図において、横軸は、時間t(ms)であり、縦軸は、指屈曲度θ(deg)である。
ここで、指屈曲度θは、図6に示すように、末節骨の長手方向に延びる直線と基節骨の長手方向に延びる直線とがなす角αの補角である。従って、指屈曲度θは、手指を屈曲させると大きい値をとり、反対に手指を伸展させると小さい値をとることになる。
【0051】
リハビリテーション前においては、図4(A)及び図4(B)に示すように、右手(麻痺側)には、左手(健常側)の動きに対応するような円滑な屈運動は見られなかった。
一方、リハビリテーション後においては、図5(A)及び図5(B)に示すように、右手(麻痺側)には、左手(健常側)の動きに対応したリズミカルな屈運動が発現した。
すなわち、リハビリテーション支援システム10を使用したリハビリテーションにより、麻痺側の手指の機能回復が促進されたことが明らかとなった。
【0052】
リハビリテーション支援システム10を使用したリハビリテーションによって、麻痺側の手指の機能回復が促進されるメカニズムは以下の通りであると推察される。
(1)患者が、自発的な意思により、健常側の手指を動かそうとすると、大脳皮質運動野の対象筋支配領域が発火(活動)する。これにより対象とする手指の運動が生じる。
(2)健常側の手指の運動状態(状況)が、患者の感覚神経を通して大脳皮質感覚野や関連領域へフィードバックされる。
(3)麻痺側の手指に装着されたグラブ12が、非接触で検出された健常側の手指の運動の情報に基づき、この健常側の手指の運動に倣うように麻痺側の手指へ運動する力を加える。これにより生じる麻痺側の手指の運動状態は、麻痺側の手指の感覚として、健常側の手指と同期した情報として大脳へ向かう。
(4)この際の両手の運動状態は、直接目視されるか表示器18を介して目視され、患者の視覚を通して大脳内の各部位へとフィードバックされる。
(5)以上の状況が、患者が違和感を抱かない反応時間(時間Td以下)で実現される。
(6)その結果、健常側の手指の運動に起因する健常側の手指についての運動意思及び感覚情報に対して、麻痺側の手指の感覚情報(わずかに残る運動情報を含む)及び視覚による情報が加わり、最終的には、実際にはグラブ12の作用により麻痺側の手指が動いているにもかかわらず、麻痺側の手指が動いたという喜び(大脳への強い報酬)が患者に提示される状態が作られる。
すなわち、麻痺側の手指が自分の意思で動かせるという報酬を伴う錯覚した状態が患者の脳内に構成され、脳内ネットワークの新規構築又は再構成が促される。
【0053】
このように、本実施の形態に係るリハビリテーション支援システム10によれば、麻痺側の手指の機能回復が促進される。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
リハビリテーション支援システムは、手指の機能回復に限定されるものではない。リハビリテーション支援システムが、グラブ12に代わる麻痺側の足指に装着可能なアシスト部と、麻痺側の足指に対応する健常部位(健常側の足指)の動きを検出するセンサ部と、健常部位の動きに基づいてアシスト部を制御する駆動制御部と、を備えることによって、麻痺側の足指の機能回復を促すことも可能である。
また、リハビリテーション支援システムが、グラブ12に代わる麻痺側の肢体(上肢又は下肢)に装着可能なアシスト部と、麻痺側の肢体に対応する健常部位(健常側の肢体)の動きを検出するセンサ部と、健常部位の動きに基づいてアシスト部を制御する駆動制御部と、を備えることによって、麻痺側の肢体の機能回復を促すことも可能である。
すわなわち、リハビリテーション支援システムは、麻痺部位を動かす力を加えるアシスト部と、麻痺部位に対応する健常部位の動きを検出するセンサ部と、センサ部によって検出された健常部位の動きに基づいて、アシスト部を制御する駆動制御部と、を備えることによって、麻痺部位の機能回復を促すことができる。
【符号の説明】
【0055】
10 リハビリテーション支援システム
12 グラブ
13 グラブ駆動装置
14 センサ部
15 刺激装置
16 制御装置
18 表示器
20 スピーカ
122 ベローズ
124 チューブ
126 マニホールド
132 チューブ
161 画像処理部
162 駆動制御部
164 表示制御部
166 音響出力制御部
182U 上側の領域
182L 下側の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6