(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】廃プラスチックの熱分解油化方法、熱分解油化装置、及び廃プラスチックの熱分解に用いるFCC触媒
(51)【国際特許分類】
C08J 11/16 20060101AFI20240805BHJP
C08J 11/18 20060101ALI20240805BHJP
C10G 1/10 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
C08J11/18
C10G1/10
(21)【出願番号】P 2023565583
(86)(22)【出願日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2023009792
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022060803
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022177690
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】324006186
【氏名又は名称】株式会社シンコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 和行
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-191825(JP,A)
【文献】特開2001-049024(JP,A)
【文献】特開2001-240697(JP,A)
【文献】特開2021-188023(JP,A)
【文献】国際公開第2007/086348(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/079380(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00
B01J 29/00
B01J 37/02
C08J 11/16
C08J 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合禁止剤と、
触媒の主成分を保持する母体とを備え、
前記母体の表面は、前記重合禁止剤でコーティングされている
廃プラスチックの熱分解に用いるFCC(Fluid Catalytic Cracking)触媒。
【請求項2】
前記重合禁止剤は、ヒドロキノンを含むキノン系重合禁止剤である請求項1記載の
廃プラスチックの熱分解に用いるFCC触媒。
【請求項3】
廃プラスチック及び請求項1又は2に記載の前記重合禁止剤を備えた前記FCC触媒を加熱し、前記重合禁止剤を気化させるとともに、前記廃プラスチックを前記FCC触媒と接触させて熱分解して分解ガスを発生させて、気相において前記重合禁止剤を前記分解ガスと反応させるステップと、
前記分解ガスを冷却して分解油を生成するステップと
を備える廃プラスチックの熱分解油化方法。
【請求項4】
前記廃プラスチックを分解蒸発槽に供給するステップと、
前記重合禁止剤を備えた前記FCC触媒を収容する触媒タンクから前記重合禁止剤を備えた前記FCC触媒を前記分解蒸発槽に供給するステップと
をさらに備え、
加熱する前記ステップは、前記分解蒸発槽において前記廃プラスチック、前記重合禁止剤を備えた前記FCC触媒を加熱するステップを含む請求項3記載の廃プラスチックの熱分解油化方法。
【請求項5】
廃プラスチック及び請求項1又は2に記載の前記重合禁止剤を備えた前記FCC触媒を加熱し、前記重合禁止剤を気化させるとともに、前記廃プラスチックを前記FCC触媒と接触させて熱分解して分解ガスを発生させて、気相において前記重合禁止剤を前記分解ガスと反応させるように構成された分解蒸発槽と、
前記分解蒸発槽に接続され、前記分解蒸発槽から供給された前記分解ガスを冷却して分解油を生成するように構成されたコンデンサと
を備える廃プラスチックの熱分解油化装置。
【請求項6】
前記分解蒸留槽に接続され、かつ、前記廃プラスチックを貯留するとともに、前記廃プラスチックを前記分解蒸発槽に供給するように構成された原料貯留槽をさらに備える請求項5記載の廃プラスチックの熱分解油化装置。
【請求項7】
前記分解蒸留槽に接続され、かつ、前記重合禁止剤を備えた前記FCC触媒を収容するとともに、前記重合禁止剤を備えた前記FCC触媒を前記分解蒸発槽に供給するように構成された触媒タンクをさらに備える請求項5記載の廃プラスチックの熱分解油化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックを熱分解して分解油として再生する廃プラスチックの熱分解油化方法、熱分解油化装置、及び廃プラスチックの熱分解に用いるFCC触媒(Fluid Catalytic Cracking)に関する。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者は、特許文献1に開示されている廃プラスチックの熱分解油化方法を提供している。この方法では、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチロール(PS)など、組成が異なる樹脂が混在した廃プラスチックを破砕して、粉砕原料を生成する。粉砕原料を触媒と共に分解蒸発槽に投入して、破砕原料を触媒と反応させながら熱分解する。分解蒸発槽で蒸発した分解ガスを冷却して、第一次分解油を生成する。第一次分解油を蒸留して第二次分解油を生成する。さらに第二次分解油を定温加熱して引火点調整する。こうして廃プラスチックを灯油等の石油製品なるように再生している。
【0003】
ところが、第一次分解油が、粘稠、つまり粘性が高いドロドロの状態となって生成されて、いわゆる重質化する。その結果、その後の処理である蒸留工程、定温加熱による引火点調整工程、さらに最後の貯溜までのラインにおいて、配管経路や装置内で詰まりを生じるという問題があった。また、貯溜しておいたものを燃料として利用する場合、バーナーのノズルに詰まりが生じ燃焼不良を起こすなどの問題があった。
【0004】
ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチロール(PS)をそれぞれ熱分解したときの特性が、次の表1のようになることは従来知られている。
【0005】
【0006】
この表1に示すように、ポリエチレン(PE)はエチレン鎖を重合させた直鎖の脂肪族系であり、ポリプロピレン(PP)はプロピレン鎖を重合させた直鎖の脂肪族系である。ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)の熱分解はランダムである。
【0007】
これに対し、ポリスチロール(PS)はベンゼン環を有する芳香族系で、しかもビニル基を備えたスチレンが重合した分子構造である。それゆえ、ポリスチロール(PS)の熱分解は主として解重合となり、ビニル基による反応性が高い。このため、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)に対してポリスチロール(PS)を混合させて熱分解すると、分解油の重質化が格段に高まるという問題に直面した。
【0008】
そこで、本願の発明者は特許文献2に開示されている方法を提案した。この方法では、廃プラスチックを脂肪族系と芳香族スチレン系とに分けて別々に熱分解を行い、反応性が高い後者からの分解油成分が前者からの分解油成分と重合しないように重合禁止剤を混合させることにより、流動性の高いサラサラの分解油となって次の蒸留工程に進むようにした。
【0009】
しかし、特許文献2に開示された方法では、廃プラスチックを脂肪族系と芳香族スチレン系とに分けて別々に熱分解を行う必要があるため、それに対応するための設備や作業上の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第6631795号公報
【文献】特開2021-188023号公報
【文献】国際公開番号WO2007/086348A1公報
【文献】特開2001-89768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、廃プラスチックを脂肪族系と芳香族スチレン系とに分けて熱分解するようなことなしに、すなわちこれらを混合して熱分解しても、分解油の重質化を的確に防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の廃プラスチックの熱分解方法は、廃プラスチック及び重合禁止剤を加熱し、重合禁止剤を気化させるとともに、廃プラスチックを熱分解して分解ガスを発生させて、気相において重合禁止剤を分解ガスと反応させるステップと、分解ガスを冷却して分解油を生成するステップとを備える。
【0013】
本発明の廃プラスチックの熱分解装置は、廃プラスチック及び重合禁止剤を加熱し、重合禁止剤を気化させるとともに、廃プラスチックを熱分解して分解ガスを発生させて、気相において重合禁止剤を分解ガスと反応させるように構成された分解蒸発槽と、分解蒸発槽に接続され、分解蒸発槽から供給された分解ガスを冷却して分解油を生成するように構成されたコンデンサとを備える。
【0014】
本発明の廃プラスチックの熱分解に用いるFCC触媒は、重合禁止剤を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、廃プラスチックの熱分解過程において、重合禁止剤を気化させ、気相において重合禁止剤を廃プラスチックの分解ガスと反応させる。これにより、分解ガスを冷却して分解油を生成する際に、分解油の重質化が起こらない。従って、本発明によれば、廃プラスチックを脂肪族系と芳香族スチレン系とに分けずに熱分解しても、分解油の重質化を的確に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1の処理の流れを示すフローシートである。
【
図2A】
図2Aは、ヒドロキノンを添加した場合における第一次分解油の分析結果を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、ヒドロキノンを添加しなかった場合における第一次分解油の分析結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ヒドロキノン及びベンゾキノンの分子構造図である
【
図4】
図4は、メチルヒドロキノンの分子構造図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態2の処理の流れを示すフローシートである。
【
図6】
図6は、実施の形態2において使用するFCC触媒の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[原理]
本発明の実施の形態では、廃プラスチックの熱分解過程において、重合禁止剤を気化させ、気相において重合禁止剤を廃プラスチックの分解ガスと反応させる。重合禁止剤の代表例としてヒドロキノン(分子式:C6H6O2)を用いて、その反応をについて説明する。
【0018】
処理する廃プラスチックをポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)とポリスチロール(PS)とが混合したものとする。これらの物質が熱分解する温度は、表1に示したように通常380℃~420℃程度である。これに対し、ヒドロキノンの沸点は、それ以下の約285℃である。このため、ヒドロキノンの気化が先行する。しかし、ヒドロキノンは昇華性があるので消失し難い。
【0019】
一方、廃プラスチックの分解ガスの分解成分は、解離によりランダムな分布になる。そのうえ、PS由来の成分の場合はさほどではないとしても、PP及びPE由来の成分は、PS由来の成分(主に、反応性が高いビニル基を有するスチレンモノマー)の反応により、容易にランダムに再重合する。これが重質化の大きな要因となる。
【0020】
ヒドロキノンの分子構造は
図3に示すようになっている。ヒドロキノンは、エネルギーが与えられると、水素ラジカル2個を放出する。これが、活性水素を引き抜く連鎖移動反応により、熱分解のラジカル反応におけるランダムな再結合や重合をクエンチ(抑止)する。分解ガスからの高温のエネルギーにより2個の水素ラジカル放出が促進されるため、クエンチ(抑止)効果が高い。
【0021】
また、PS由来の成分に対するヒドロキノンの反応に注目すると、ヒドロキノンからの水素ラジカルによる活性水素の連鎖的引き抜き作用により、PS由来の成分であるスチレンモノマーのラジカルが多量に存在することが出来なくなる。その結果、PP及びPE由来の成分のラジカルも多量に存在することが不可能になる。このようなことから、過度な軽質分や重質分の生成が抑制され、適度な成分の分解油の収率向上が図れる。
【0022】
一方で、
図3に示すように、ヒドロキノンは、水素ラジカル2個を放出してベンゾキノン(分子式:C
6H
4O
2)に変化した後、水素ラジカルと反応すると元のヒドロキノンに戻る還元力が強い。このため、ヒドロキノンは容易に酸化されてp-ベンゾキノンとなる性質もある。このp-ベンゾキノンもまた重合禁止作用がある。このため、クエンチ(抑止)効果が長く持続するとともに、還元による副反応を抑制しつつ分解できる。
【0023】
以上のようなことが、分解油となる前の分解ガスの段階で行われるため、分解油となったときには重質化は起こらないばかりか、不要な成分も排除される。加えて、ランダム切断も抑制されるので、成分の炭素数の分布範囲の拡がりも狭まる。
【0024】
特許文献2及び特許文献4に開示されているように、従来この分野において重合禁止剤を使用する目的は、配管経路や装置内での閉塞防止が主眼であった。このため、重合禁止剤は分解油を生成した後に添加(液相での添加)されるだけであった。これでは重合禁止剤の特質である水素ラジカル反応を充分に活かし切れなかった。
【0025】
これに対し、本実施の形態では、廃プラスチックの熱分解過程において、重合禁止剤を気化させ、気相において重合禁止剤を廃プラスチックの分解ガスと反応させる。これにより、重合禁止剤の特質である水素ラジカル反応を存分に活かして、不要な成分の混在も排除できる。
【0026】
また、本実施の形態では、重合禁止剤とFCC触媒とを共存させて加熱して、重合禁止剤を気化させるとともに、廃プラスチックをFCC触媒と接触させて熱分解する。
【0027】
FCC触媒は、そもそも重質油を分解して軽質油に転換するための固体酸触媒である。このFCC触媒が廃プラスチックに対してカルベニウムイオンを生成して分解する反応は、特許文献3に開示されている通りである。しかし、重質分に多く含まれる多環芳香族は安定性が高く、FCCプロセスでの多環芳香族の分解は一般に起こり難いと見られている。
【0028】
ここで、FCCプロセスでの水素移行反応に着目すると、水素移行反応を促進すれば多環芳香族の分解も可能になると推測される。そこで、FCC触媒による廃プラスチックの接触熱分解過程において重合禁止剤を共存させると、重合禁止剤からの水素ラジカルが水素移行反応を促進してFCC触媒による重質分の軽質化が助長されると推定される。
【0029】
FCC触媒自体に重合禁止剤を付着させてもよい。この場合、FCC触媒の一粒一粒に重合禁止剤が共存している形態となる。これにより重合禁止剤による上記の水素移行反応促進効果がFCC触媒の一粒毎に行われることになるので、FCC触媒による重質分の軽質化効果を向上させることができる。また、FCC触媒に対する重合禁止剤の割合を、相互の効果が最適になるように予め調整することができる。さらに、重合禁止剤をFCC触媒とは別途に添加する作業が不要になる。
【0030】
[実施の形態1]
本発明を適用した廃プラスチックの熱分解油化方法及び装置の実施の形態1について
図1を参照して説明する。PP、PE、PSが混在した廃プラスチックの原料のうち、ハード形態のものは第1の粉砕機71で粉砕し、原料貯溜槽74に送る。廃プラスチックの原料のうち、ソフト形態やフィルム形態のものは、第2の粉砕機72で粉砕し、さらに減容機73により例えば150℃の温風にて熱分解しない程度に低温加熱して減容し、原料貯溜槽74に送る。原料貯溜槽74は、送られてきた粉砕原料74aを貯溜して自然冷却する。
【0031】
粉砕原料74aは、原料貯溜槽74から配管75中をエアー搬送され、サイクロン42によって捕集され、原料投入ホッパ43に一時貯溜される。粉砕原料74aは、ロータリーバルブ17によって原料投入ホッパ43から所定流量ずつ送り出され、触媒タンク76からの触媒と水冷式熱遮断器18において混合されて、分解蒸発槽2内に投入される。ここでは、触媒として、使用済みFCC触媒を再利用するFCC廃触媒76aを用いる。FCC廃触媒76aの投入量は、粉砕原料74aに対して重量比で20%~30%程度とする。
【0032】
分解蒸発槽2はドラム形である。熱媒体による間接加熱とするため、分解蒸発槽2の周壁及び底壁はいずれも二重壁構造となっていて、周壁及び底壁の内部空洞に熱媒体を循環させるようになっている。熱媒体は、熱媒体ヒータ60によって加熱され、配管を通じて分解蒸発槽2に送られて来る。その配管には流量調整弁62が設けられている。
【0033】
なお、内部空洞内で熱媒体を循環させるのではなく、内部空洞の中に熱媒体を閉じ込め、内部空洞の外周に温風通路を設けて、温風通路に温風を循環させて熱媒体を間接加熱してもよい。このようにすると、分解蒸発槽2に対する加熱ムラが少なくなる。あるいは、分解蒸発槽2の外周に電熱ヒータを巻き付けて加熱してもよい。
【0034】
分解蒸発槽2内には、モータ(M)39によって回転される撹拌機30が装備されている。粉砕原料74aとFCC廃触媒76aとは、撹拌機30によって撹拌及び底壁中央に収斂して行くように移送されながら、熱媒体の熱により間接的に加熱される。このとき、熱媒体ヒータ60からの熱媒体の温度を温度センサー61で検知し、その温度に応じて流量制御弁62で熱媒体の流量を制御することにより温度調整し、分解蒸発槽2内の温度を350℃~450℃の範囲内、好ましく380℃~400℃に維持する。この温度範囲内でFCC廃触媒76aは粉砕原料74aに接触反応して熱分解を起こす。分解蒸発槽2の底壁中央に収斂してきた残渣2bは、残渣排出スクリュー31によって排出され、残渣回収タンク32に回収される。
【0035】
FCC廃触媒76aは低廉で、資源再利用の観点から有益である。その一方、FCC廃触媒76aは、バージンのFCC触媒に比べると、酸強度が低下しているためプラスチックに対する反応が劣る。このため、熱分解が炭素数の広い範囲で生じ、第一次処理での熱分解で生ずる分解ガス2aの炭素数の範囲は概して広くなる傾向となるとともに、不要な成分も残り易い。しかし、廃プラスチックの熱分解再生処理には、酸強度の観点からFCC廃触媒76aの方が適している。もし、バージンのFCC触媒の酸強度がFCC廃触媒76aの酸強度程度であれば、バージンのFCC触媒を用いても構わない。
【0036】
実施の形態1では、重合禁止剤としてヒドロキノン3aを収容する重合禁止剤添加器3が設けられている。この重合禁止剤添加器3から水冷式熱遮断器18を通じてヒドロキノン3aを量調整しながら分解蒸発槽2に投入する。ヒドロキノン3aの投入量は、粉砕原料74aに対して重量比で約1%程度とする。
【0037】
分解蒸発槽2内の温度は上記のように380℃~400℃に維持されている。ヒドロキノン3aの沸点は約285℃である。これに対し、表1に示したように、PSとPPとPEの熱分解特性温度は、それぞれ358℃~410℃、378℃~425℃、396℃~441℃である。従って、ヒドロキノン3aの気化が先行し、FCC廃触媒76aによるPSとPPとPEの接触熱分解は、ヒドロキノン3aが共存した状態においてPS、PP、PEの順で起きる。ヒドロキノン3aは、FCC廃触媒76aによるPS、PP、PEの接触熱分解過程においてその分解に関与するとともに、気化したヒドロキノン3aは、PS、PP、PEの分解ガス2aと気相で反応する。
【0038】
分解蒸発槽2内でヒドロキノン3aと反応した分解ガス2aは、この分解蒸発槽2の天井壁に配管を介して接続された第1のコンデンサ46で冷却されて、第一次分解油46aとなる。この分解油46aについて、分解ガス2aにヒドロキノン3aを添加した場合と、ヒドロキノン3aを添加しなかった場合との比較実験をして、次のような定性分析を行った。
【0039】
(A)ヒドロキノン3aを添加した場合:
粉砕原料74aに対して重量比で約1%のヒドロキノン3aを添加して分解油46aを生成し、分解油46aのサンプルをN-ヘキサン1mlに添加し、オートサンプラーでガスクロマトグラフィー質量分析器に注入して分析した。その分析の結果、トルエン、エチルベンゼン、スチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ベンズアルデヒド、メチルピラジン、アセトフェノン、ベンゼン環2つとアルキル基を有すると推定される化合物が検出された。また、ヒドロキノン3aを添加しなかった場合(B)の分解油に比較すると、多くの量の低沸点化合物が検出された。
【0040】
(B)ヒドロキノン3aを添加しなかった場合(ヒドロキノン無添加):
ヒドロキノン3aを添加せずに生成された分解油のサンプルをN-ヘキサン1mlに添加し、オートサンプラーでガスクロマトグラフィー質量分析器に注入して分析した。その分析の結果、トルエン、エチルベンゼン、スチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ベンズアルデヒド、メチルピラジン、アセトフェノンの他、ナフタリン、フェニルナフタレン化合物、アントラセンと推定される化合物と、多くの不明な化合物が検出された。ここで、ナフタリン、フェニルナフタレン化合物、アントラセンはいずれも多環芳香族炭化水素であり、これらはヒドロキノン3aを添加した場合(A)には検出されなかった。また、ヒドロキノン3aを添加した場合(A)の分解油46aに比較すると、多種類の高沸点化合物が検出された。
【0041】
図2Aはヒドロキノン添加の場合の分析結果を示し、
図2Bはヒドロキノン無添加の場合の分析結果を示している。
図2A及び
図2Bにおいて、横軸は炭素数を示し、縦軸はある炭素数に占める成分割合(%)を示している。
図2A及び
図2Bを比較すると、ヒドロキノン無添加の場合(B)には、トルエン、エチルベンゼン、スチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ベンズアルデヒド、メチルピラジン、アセトフェノンの他に、ナフタリン、フェニルナフタレン化合物、アントラセンが含まれている。これらはいずれも多環芳香族炭化水素であり、しかも生成油とするには不要と思われる炭素数が20以上の不明な成分の多種類が混在している。これに対し、ヒドロキノン添加の場合(A)には、そのようなものがなく、炭素数がほぼ14以下に絞られ、炭素数20以上は僅かである。不明な多種類の成分の混在がないことは、FCC廃触媒76a由来のそのような成分の混入がないことも示唆している。
【0042】
表2は、ヒドロキノン添加の場合(A)におけるガスクロマトグラフィー分析結果の炭素数分布を面積百分率で示したものである。
【0043】
【0044】
これらの分析結果から、FCC廃触媒76aによるPS、PP、PEの接触熱分解過程においてヒドロキノン3aを共存させ、気化したヒドロキノン3aと分解ガス2aとを気相において反応させると、次のようなことが生じていると推定される。
【0045】
(1)PP、PE、PSの廃プラスチックを熱分解させる熱分解特性温度は通常380℃~420℃程度であるのに対し、ヒドロキノン3aの沸点は約285℃である。このため、ヒドロキノン3aの気化が先行し、ヒドロキノン3aがFCC廃触媒76aによるPS、PP、PEの接触熱分解に関与し、気化したヒドロキノン3aが気相において分解ガス2aと直ちに混合してラジカル反応する。ヒドロキノン3aは昇華性があるため消失し難く、ラジカル反応を持続する。
【0046】
(2)熱分解成分中にナフタリン、フェニルナフタレン化合物、アントラセンなどの多環芳香族炭化水素が含まれていない。このことから、FCC廃触媒76aによるPS、PP、PEの接触熱分解過程において、ヒドロキノン3aが水素移行反応を促進して多環芳香族炭化水素の分解に寄与したものと推測される。
【0047】
(3)分解ガス2aの分解成分は解離してランダムな分布になる。そのうえ、前述のように、PP及びPE由来の成分は、PS由来の成分により容易にランダムに再重合する。これが重質化の大きな要因となる。ところが、ヒドロキノン3aは
図3に示した分子構造を有している。ヒドロキノン3aは、エネルギーが与えられると、水素ラジカル2個を放出する。これが熱分解のラジカル反応におけるランダムな再結合や重合をクエンチ(抑止)する。気化したヒドロキノン3aについては、分解ガス2aからの高温のエネルギーにより2個の水素ラジカル放出が促進されるため、クエンチ(抑止)効果が高い。
【0048】
(4)PS由来の成分に対するヒドロキノン3aの反応に注目すると、ヒドロキノン3aからの水素ラジカルによる活性水素の連鎖的引き抜き作用により、PS由来の成分であるスチレンモノマーのラジカルが多量に存在することが出来なくなる。その結果、PP及びPE由来の成分のラジカルも多量に存在することが不可能になる。このような理由から、分解成分の炭素数の分布範囲の拡がりも狭まったと推測される。
【0049】
(5)一方で、
図3に示すように、ヒドロキノン3aは水素ラジカル2個を放出してベンゾキノンに変化した後、水素ラジカルと反応すると元のヒドロキノン3aに戻る還元力が強い。このため、ヒドロキノン3aは容易に酸化されてp-ベンゾキノンとなる性質もある。しかし、熱分解反応では酸欠状態であるため、そのようなことは起こり難い。このため、クエンチ(抑止)効果が長く持続するとともに、還元による副反応を抑制しつつ分解できる。
【0050】
(6)以上のようなことが相俟って、多環芳香族炭化水素などの重質化をもたらす分解成分及び不要な成分が排除されるうえ、ランダム切断も抑制されるので炭素数の分布範囲の拡がりも狭まる。
【0051】
図1に戻る。上記のような性質の第一次分解油46aは、蒸留して精製するため、蒸留安定装置47の蒸留槽48へ流入される。蒸留槽48は分解蒸発槽2と同様の間接加熱方式を採用している。蒸留槽48の底壁及び周壁が空洞を形成する二重構造となっていて、その空洞に熱媒体ヒータ60からの熱媒体を循環させて蒸留槽48内を間接加熱する。ここでの加熱温度は、熱媒体を温度センサー64で検出して流量調整弁65で熱媒体の流量を調整することにより、分解蒸発槽2での加熱温度より低い所定温度範囲内とする。また、蒸留槽48内の第一次分解油46aを撹拌しながら蒸留するため、蒸留安定装置47は槽外のモータ(M)49によって回転される撹拌機50を装備している。
【0052】
蒸留槽48内で蒸発したガス分は、蒸留槽48の上方に設置され配管を介して接続された第2のコンデンサ51で冷却される。このコンデンサ51は第二次分解油生成装置として機能し、ここでの冷却によって炭素数C6~C15程度の第二次分解油51aが生成される。この炭素数より低い炭素数C1~C5の低炭素数分解ガス(オフガス)51bは、ここでもそのままとなる。
【0053】
蒸留槽48と分解蒸発槽2とは、電磁バルブを介在させた返戻用配管52によって接続されている。蒸留槽48内に炭素数C16以上のものが一定量だけ溜まると、返戻分解油48aとして返戻用配管52を介して分解蒸発槽2へ返戻され、分解蒸発槽2内で再度熱分解処理される。
【0054】
第2のコンデンサ51で生成された第二次分解油51aは、第2のコンデンサ51の下方に設置されて配管を介して第2のコンデンサ51に接続された分離タンク53にいったん流入し、不純物などを沈殿分離してから引火点調整装置の定温加熱槽55へ入る。
【0055】
定温加熱槽55は、分解蒸発槽2及び蒸留槽48と同様に熱媒体で加熱する。第二次分解油51aの加熱温度は、蒸留槽48での加熱温度よりもさらに低いほぼ一定温度とする。そのため、熱媒体ヒータ60からの熱媒体の温度を温度センサー66で検知し、その温度に応じて流量制御弁67で熱媒体の流量を制御する。例えば引火点を30℃とする場合、炭素数C8の沸点である126℃を基準とした温度とすれば、炭素数C9~15の範囲内のものが定温加熱槽55に残り、これを超える炭素数C6~C8の分解油55bが分離される。この炭素数C6~C8の分解油55bは引火点が比較的高い高引火点分解油であるので、熱媒体ヒータ60の液体燃料として利用することができる。
【0056】
一方、分離タンク53をそのまま通過した炭素数C1~C5の低炭素数分解ガス(オフガス)51bは可燃性が高い。このため、低炭素数分解ガス51bをガス清浄装置69で清浄しながら、真空ポンプ70で熱媒体ヒータ60へ送れば、熱媒体ヒータ60の気体燃料として利用することができる。
【0057】
定温加熱槽55内に残った炭素数C9~C15の生成油55aは、ポンプ(P)68で製品貯溜タンク56へ適時に送入されて、貯溜タンク56に貯溜される。この再生した生成油55aは、炭素数がC9~C15の範囲内の市場性の高い石油製品である灯油となる。
【0058】
このような温度調整と同様に、蒸留槽48での加熱温度及び定温加熱槽55での加熱温度を調整すれば、炭素数が異なる軽油や重油等の他の石油製品も生成できることは明かである。
【0059】
第一次分解油46aは上述したような性質で重質化していないので、流動性が高いサラサラの性状のまま第二次混合処理系にて蒸留及び引火点調整の精製が行われることになり、蒸留と引火点調整との間の配管経路や装置や槽内において閉塞を起こすことはない。
【0060】
なお、実施の形態1では、反応促進のためFCC触媒を利用しているが、FCC触媒を用いなくても廃プラスチックの熱分解油化は可能である。よって、実施の形態1において、FCC触媒は必須でない。
【0061】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態1では、重合禁止剤(ヒドロキノン3a)を触媒(FCC廃触媒76a)とは別に分解蒸発槽2に投入した。これに対し、実施の形態2では、重合禁止剤が付着したFCC触媒(実施の形態2でもFCC廃触媒81)を用い、このFCC触媒を分解蒸発槽2に投入する。よって、実施の形態2では、触媒を収容する触媒タンク76及び重合禁止剤を収容する重合禁止剤添加器3の代わりに、
図5に示すように、重合禁止剤が付着したFCC廃触媒81を収容する触媒タンク80が設けられている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0062】
図6は、重合禁止剤が付着したFCC廃触媒81の模式図である。FCC廃触媒81は、一般的なFCC触媒と同じく、シリカなどからなる母体82の中で、FCC触媒の主成分であるゼオライト83が、カオリンなどの鉱物84と、結合剤85で結合された構造を有している。よって、母体82は、ゼオライト83や、その他の構成要素を保持している。母体82の形状は、
図6に示すような球形でもよいし、ペレット状などであってもよい。実施の形態2で用いられるFCC廃触媒81では、母体82表面が重合禁止剤としてヒドロキノン86でコーティングされている。具体的には、母体82の表面が、ヒドロキノン86を混ぜたコーティング剤でコーティングされている。コーティング剤としては、例えば、シリカを主成分としたガラス系コーティング剤を用いることができる。FCC廃触媒81に対するヒドロキノン86の付着割合は、両者の相互作用が最適になるように調整される。
【0063】
このようなFCC廃触媒81を分解蒸発槽2に投入すると、実施の形態1で説明したことと同様のことが起きる。ただし、FCC廃触媒81は重合禁止剤としてヒドロキノン86が付着したものであるので、FCC廃触媒81の一粒一粒にヒドロキノン86が共存した形態となる。それによりヒドロキノン86による上記の水素移行反応促進効果がFCC廃触媒81の一粒毎に行われることになるので、FCC廃触媒81による重質分の軽質化効果を向上させることができる。また、FCC廃触媒81に対するヒドロキノン86の割合を、相互の効果が最適になるように、ヒドロキノン86の付着量により予め調整することができる。さらに、ヒドロキノン86を実施の形態1のようにFCC廃触媒81とは別途に添加する作業が不要になる。
【0064】
上述した実施の形態1,2では、重合禁止剤としてヒドロキノン86を使用したが、ヒドロキノン86と同様の性質を有する他の重合禁止剤、例えば
図4に示す分子構造のメチルヒドロキノン(分子式:CH
3C
6H
3(OH)
2)などのキノン系重合禁止剤や、4-メトキシフェノール(分子式:CH
3OC
6H
4OH)などのフェノール系重合禁止剤などを用いることもできる。
【0065】
また、PPとPEとPSとを混合した廃プラスチックを例にして実施の形態1,2を説明したが、廃プラスチックは熱分解再生処理可能なものであれば何でもよい。例えば、塩化ビニル(PVC)やポリエチレンテレフタレート(PET)からなる廃プラスチックにも適用可能である。
【0066】
このように、廃プラスチックの材料と重合禁止剤の種類には、様々な組合せが考えられる。いずれの組合せでも、重合禁止剤の特質である水素ラジカル反応(水素移行反応)を充分に活かすためには、重合禁止剤の沸点が廃プラスチックの熱分解特性温度より低いことが好ましい。
【0067】
[本発明の態様]
本発明の第1の態様は、廃プラスチック(74a)及び重合禁止剤を加熱し、重合禁止剤を気化させるとともに、廃プラスチック(74a)を熱分解して分解ガス(2a)を発生させて、気相において重合禁止剤を分解ガス(2a)と反応させるステップと、分解ガス(2a)を冷却して分解油(46a)を生成するステップとを備える廃プラスチックの熱分解油化方法である。
【0068】
加熱するステップは、廃プラスチック(74a)及び重合禁止剤とともにFCC(Fluid Catalytic Cracking)触媒を加熱して、廃プラスチック(74a)をFCC触媒と接触させて熱分解するステップを含んでいてもよい。
【0069】
この場合、熱分解油化方法は、廃プラスチック(74a)を分解蒸発槽(2)に供給するステップと、FCC触媒(76a)を収容する触媒タンク(76)からFCC触媒(76a)を分解蒸発槽(2)に供給するステップと、重合禁止剤(3a)を収容する重合禁止剤添加器(3)から重合禁止剤(3a)を分解蒸発槽(2)に供給するステップとをさらに備え、加熱するステップは、分解蒸発槽(2)において廃プラスチック(74a)、FCC触媒(76a)、及び重合禁止剤(3a)を加熱するステップを含んでいてもよい。
【0070】
あるいは、熱分解油化方法は、廃プラスチック(74a)を分解蒸発槽(2)に供給するステップと、重合禁止剤(86)が付着したFCC触媒(81)を収容する触媒タンク(80)から重合禁止剤(86)が付着したFCC触媒(81)を分解蒸発槽(2)に供給するステップとをさらに備え、加熱するステップは、分解蒸発槽(2)において廃プラスチック(74a)、重合禁止剤(86)が付着したFCC触媒(81)を加熱するステップを含んでいてもよい。FCC触媒(81)は、重合禁止剤(86)でコーティングされていてもよい。
【0071】
本発明の第2の態様は、廃プラスチック(74a)及び重合禁止剤を加熱し、重合禁止剤を気化させるとともに、廃プラスチック(74a)を熱分解して分解ガス(2a)を発生させて、気相において重合禁止剤を分解ガス(2a)と反応させるように構成された分解蒸発槽(2)と、分解蒸発槽(2)に接続され、分解蒸発槽(2)から供給された分解ガス(2a)を冷却して分解油(46a)を生成するように構成されたコンデンサ(46)とを備える廃プラスチックの熱分解油化装置である。
【0072】
この熱分解油化装置は、分解蒸発槽(2)に接続され、かつ、廃プラスチック(74a)を貯留するとともに、廃プラスチック(74a)を分解蒸発槽(2)に供給するように構成された原料貯留槽(74)と、分解蒸留槽(2)に接続され、かつ、重合禁止剤(3a)を収容するとともに、重合禁止剤(3a)を分解蒸発槽(2)に供給するように構成された重合禁止剤添加器(3)とをさらに備えていてもよい。
【0073】
分解蒸発槽(2)は、廃プラスチック(74a)及び重合禁止剤とともにFCC触媒を加熱して、廃プラスチック(74a)をFCC触媒と接触させて熱分解するように構成されていてもよい。
【0074】
この場合、熱分解油化装置は、分解蒸発槽(2)に接続され、かつ、FCC触媒(76a)を収容するとともに、FCC触媒(76a)を分解蒸発槽(2)に供給するように構成された触媒タンク(76)をさらに備えていてもよい。
【0075】
あるいは、熱分解油化装置は、分解蒸発槽(2)に接続され、かつ、重合禁止剤(86)が付着したFCC触媒(81)を収容するとともに、重合禁止剤(86)が付着したFCC触媒(81)を分解蒸発槽(2)に供給するように構成された触媒タンク(80)をさらに備えていてもよい。FCC触媒(81)は、重合禁止剤(86)でコーティングされていてもよい。この場合、重合禁止剤添加器(3)を別途設ける必要はない。
【0076】
本発明の第3の態様は、重合禁止剤(86)を備えたFCC触媒(81)である。
【0077】
このFCC触媒(81)は、触媒の主成分(83)を保持する母体(82)をさらに備え、母体(82)の表面は、重合禁止剤(86)でコーティングされていてもよい。母体(82)の表面は、重合禁止剤(86)を混ぜたコーティング剤でコーティングされていてもよい。コーティング剤としては、例えば、シリカを主成分としたガラス系コーティング剤を用いることができる。
【0078】
第1及び第2の態様において、廃プラスチック(74a)は、脂肪族系のプラスチックと、芳香族スチレン系のプラスチックとを含んでいてもよい。脂肪族系のプラスチックは、ポリプロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つであってもよい。芳香族スチレン系のプラスチックは、ポリスチロールであってもよい。
【0079】
第1及び第2の態様において、重合禁止剤(3a,86)は、ヒドロキノン、メチルヒドロキノンなどのキノン系重合禁止剤であってもよい。重合禁止剤(3a,86)は、4-メトキシフェノールなどのフェノール系重合禁止剤であってもよい。重合禁止剤(3a,86)は、廃プラスチック(74a)の熱分解特性温度よりも低い沸点を有するものであってもよい。
【0080】
第1及び第2の態様において、重合禁止剤は、廃プラスチック(74a)に対して、重量比で1%であってもよい。FCC触媒は、廃プラスチック(74a)に対して、重量比で20%~30%であってもよい。分解蒸発槽(2)内の温度は、350℃~450℃であってもよい。分解蒸発槽(2)内の温度は、380℃~400℃であってもよい。
【0081】
第1乃至第3の態様において、FCC触媒(76a,81)は、使用済みFCC触媒を再利用するFCC廃触媒(76a,81)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係るFCC触媒は、廃プラスチックの熱分解処理ばかりでなく、重質分を軽質化する石油精製技術にも利用可能である。
【符号の説明】
【0083】
2…分解蒸発槽、3…重合禁止剤添加器、18…水冷式熱遮断器、43…原料投入ホッパ、46…コンデンサ、47…蒸留安定装置、48…蒸留槽、51…コンデンサ、53…分離タンク、55…定温加熱槽、56…製品貯溜タンク、74…原料貯溜槽、76,80…触媒タンク、81…FCC廃触媒、82…母体、83…ゼオライト、84…鉱物、85…結合材、86…重合禁止剤。
【要約】
廃プラスチックの熱分解油化方法は、廃プラスチック及び重合禁止剤を加熱し、重合禁止剤を気化させるとともに、廃プラスチックを熱分解して分解ガスを発生させて、気相において重合禁止材を分解ガスと反応させるステップと、分解ガスを冷却して分解油を生成するステップとを備える。これにより、分解油を生成する際に、分解油の重質化が起こらない。従って、廃プラスチックを脂肪族系と芳香族スチレン系とに分けずに熱分解しても、分解油の重質化を防止できる。