(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】コヒーレント光源のアレイに基づくフーリエ変換分光計
(51)【国際特許分類】
G01J 3/45 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
G01J3/45
(21)【出願番号】P 2023127090
(22)【出願日】2023-08-03
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】202210981496.X
(32)【優先日】2022-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】500080546
【氏名又は名称】鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HON HAI PRECISION INDUSTRY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】66,Chung Shan Road,Tu-Cheng New Taipei,236(TW)
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲ライ▼ 麗文
(72)【発明者】
【氏名】柳 鵬
(72)【発明者】
【氏名】周 段亮
(72)【発明者】
【氏名】李 群慶
(72)【発明者】
【氏名】▲ハン▼ 守善
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-047696(JP,A)
【文献】特表2016-525802(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113566983(CN,A)
【文献】中国実用新案第211978137(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01B 11/00-11/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源、光伝送装置、制御回路、検出器、増幅回路及びコンピュータを含むコヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計において、
前記制御回路は、前記光伝送装置に電気的に接続され、前記光伝送装置の光ビームのオン・オフを制御するために使用され、
前記検出器は、光ビームがサンプルを通過した後の光電信号を検出するために使用され、
前記増幅回路は、前記検出器に接続され、前記検出器で得られた光電信号を記録し、増幅することに使用され、
前記コンピュータは、前記増幅回路に接続され、前記コンピュータにはスペクトル解析ソフトがインストールされ、前記スペクトル解析ソフトがフーリエ変換を実行するために使用され、
前記コヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計は、更にコヒーレント光源アレイを含み、前記光伝送装置の始端が前記光源に固定され、前記光伝送装置の終端が前記コヒーレント光源アレイに固定され、前記光伝送装置は、前記光源によって出射された光ビームを前記コヒーレント光源アレイに伝送するために
使用され、前記コヒーレント光源アレイは、エリアコヒーレント光源アレイであり、複数の光源ピクセルスポットは、前記エリアコヒーレント光源アレイの同一表面に配置され、前記コヒーレント光源アレイの各ピクセルスポットに位置する光源の、異なる時間でのオン・オフは、プログラムによって制御して、それによって、異なる光路を有する光ビームが得られ、前記光路は、異なる光源のピクセルスポットからサンプルの中心までの距離であり、前記コヒーレント光源アレイの平面では、前記光源ピクセルスポットは、異なる光路差によってグループ化され、異なるグループの光源ピクセルスポットの間に形成される光路差は、微小な光路差の倍数になるように設計されることを特徴とするコヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計。
【請求項2】
前記コヒーレント光源アレイでは、第一時刻に第一グループの光源ピクセルスポットを点灯して、第二時刻に第二グループの光源ピクセルスポットを点灯して、これによって類推される動作を繰り返して、異なる光路差を有する複数の光ビームを得ることを特徴とする、
請求項1に記載のコヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトル解析の技術分野に属し、フーリエ変換分光計における干渉計と光源をコヒーレント光源からなるエリアアレイに置き換えたフーリエ変換分光計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換分光計(FTR Spectrometer)は主に、光源、絞り、ビームスプリッター、固定ミラー、精密制御された移動ミラー、サンプルチャンバー、検出器、各種反射鏡、制御回路基板、増幅回路で構成される。フーリエ変換分光計のコアコンポーネントは干渉計である。干渉計は主に、固定ミラー、移動ミラー及び移動ミラーの動きを特定の方法で精密に制御する機械部品で構成される。移動ミラーの移動は、移動ミラーと固定ミラーとの間にある光ビームの光路差を常に変化させ、光路差がゼロである時、干渉強度が最も高い。移動ミラーの移動は、検出器で受信した信号を光路差に応じて常に変化させ、つまりインターフェログラムが得られ、インターフェログラムからフーリエ変換により最終的なスペクトログラムが得られる。
【0003】
従来のフーリエ変換分光計は、主に機械部品で移動ミラーと固定ミラーの間にある光ビームの光路差を変更することによって、測定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フーリエ変換分光計は、機械部品の存在により大型化し、持ち運びが難しいため、実験室で使用されることが多い。さらに、機械部品は使用中に信号変動を引き起こし、試験の再現性や精度に影響を与えるので、機械部品による信号変動を防ぐために、従来のフーリエ変換分光計の干渉計は、移動ミラーの正確な移動を確保し、移動中に移動ミラーを固定ミラーと平行に保つように非常に精密に設計されることが多い。従って、従来のフーリエ変換分光計は非常に高価になる。さらに、光源から出射された光ビームは、干渉計に入る前にいくつかの反射鏡を通過する必要があるので、分光計のサイズとコストがさらに増加する。
【0005】
従って、より小型で低コストのフーリエ変換分光計を設計することは、非常に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
光源、光伝送装置、制御回路、検出器、増幅回路及びコンピュータを含むコヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計において、前記制御回路は、前記光伝送装置に電気的に接続され、前記光伝送装置の光ビームのオン・オフを制御するために使用され、前記検出器は、光ビームがサンプルを通過した後の光電信号を検出するために使用され、前記増幅回路は、前記検出器に接続され、前記検出器で得られた光電信号を記録し、増幅することに使用され、前記コンピュータは、前記増幅回路に接続され、前記コンピュータにはスペクトル解析ソフトがインストールされ、前記スペクトル解析ソフトがフーリエ変換を実行するために使用され、前記コヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計は、更にコヒーレント光源アレイを含み、前記光伝送装置の始端が前記光源に固定され、前記光伝送装置の終端が前記コヒーレント光源アレイに固定され、前記光伝送装置は、前記光源によって出射された光ビームを前記コヒーレント光源アレイに伝送するために使用される。
【0007】
前記コヒーレント光源アレイは、エリアコヒーレント光源アレイであり、複数の光源ピクセルスポットは、前記エリアコヒーレント光源アレイの同一表面に配置される。
【0008】
前記コヒーレント光源アレイの各ピクセルスポットに位置する光源の、異なる時間でのオン・オフは、プログラムによって制御して、それによって、異なる光路を有する光ビームが得られ、前記光路は、異なる光源のピクセルスポットからサンプルの中心までの距離である。
【0009】
前記コヒーレント光源アレイの平面では、前記光源ピクセルスポットは、異なる光路差によってグループ化され、異なるグループの光源ピクセルスポットの間に形成される光路差は、微小な光路差の倍数になるように設計される。
【0010】
前記コヒーレント光源アレイでは、第一時刻に第一グループの光源ピクセルスポットを点灯して、第二時刻に第二グループの光源ピクセルスポットを点灯して、これによって類推される動作を繰り返して、異なる光路差を有する複数の光ビームを得る。
【発明の効果】
【0011】
従来技術と比べて、本発明から提供されるコヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計は、コヒーレント光源アレイで干渉計及び光源を置き換えることにより、干渉計の中の機械部品及び光源と干渉計との間にある反射鏡によって増加される体積が直接的に削減され、非常に効果的にフーリエ変換分光計の体積が削減される。フーリエ変換赤外分光計のコストが大幅に削減され、使用がよりポータブルになる。本発明では、電気回路でコヒーレント光源アレイを制御するので、干渉計の機械部品による信号変動によって引き起こされる試験結果の再現性の低下を回避し、最終的にフーリエ変換分光計の安定性を向上させる。また、本発明のエリアコヒーレント光源アレイは、3次元干渉計と比べて精度が1次元低減され、さらに体積が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態によって提供されるコヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計の概略図である。
【
図2】本発明の実施形態によって提供されるフーリエ変換分光計のコヒーレント光源アレイのある瞬間における発光状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面及び具体的な実施形態を参照して、本発明の技術方案の実施形態をさらに詳細に説明する。
【0014】
図1を参照すると、本発明の実施形態は、コヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計100(以下、フーリエ変換分光計100と呼ぶ)を提供し、フーリエ変換分光計100は、光源10、光伝送装置20、制御回路30、コヒーレント光源アレイ40、検出器50、増幅回路60及びコンピュータ70を含む。
【0015】
光源10は、レーザーであることが好ましいが、これに限定されない。本実施形態では、光源10は、赤外レーザーである。もちろん、光源10は、本実施形態の赤外レーザーに限定されるものではなく、他の波長帯域レーザーであってもよい。
【0016】
光伝送装置20は、始端が光源10に固定され、終端がコヒーレント光源アレイ40に固定される。光伝送装置20は、光源10によって出射された光ビームをコヒーレント光源アレイ40に伝送するために使用される。本実施形態では、光伝送装置20は光ファイバである。
【0017】
制御回路30は、光伝送装置20に電気的に接続され、光伝送装置20の光ビームのオン・オフを精密に制御するために使用される。制御回路30は、さらに制御回路基板として設計されてもよい。
【0018】
コヒーレント光源アレイ40は、基板402及び複数の光源ピクセルスポット404を含む。複数の光源ピクセルスポット404は、基板402に配置される。複数の光源ピクセルスポット404は、基板402の同一表面又は対向して設置された2つの表面に配置される。複数の光源ピクセルスポット404は、コヒーレント光源のピクセルスポットである。複数の光源ピクセルスポット404の数量、間隔及び配列方式は、実際のニーズに応じて設計することができる。本実施形態では、コヒーレント光源アレイ40は、エリアコヒーレント光源アレイであり、複数の光源ピクセルスポットは、コヒーレント光源アレイ40の同一表面に配置され、且つ基板402の表面にマトリクス状に配置される。
【0019】
基板402は、複数の光源ピクセルスポット404を固定するために使用される。いくつかの実施形態では、基板402は、例えば、PET基板、PI基板、PMMA基板、石英ガラスなどの透明基板である。他の実施形態では、基板402は、不透明なグリッドである。もちろん、基板402は、複数の光源ピクセルスポット404を固定できる限り、上述の実施形態に限定されない。
【0020】
光源ピクセルスポット404の分布形状は限定されず、長方形、円形、菱形等であってもよい。本実施形態では、光源ピクセルスポット404の分布は円形であり、円周の点からテスト領域の中心までの距離は同じであるので、光源ピクセルスポット404の制御回路の設計が容易になる。
【0021】
コヒーレント光源アレイ40の各ピクセルスポットに位置する光源の、異なる時間でのオン・オフは、正確なプログラムを設計することによって制御することができる。それによって、異なる光路を有する光ビームが得られる。光路は、異なる光源のピクセルスポットからサンプルの中心までの距離である。例えば、いくつかの実施形態では、コヒーレント光源アレイ40の中の各ピクセルスポットに位置する光源をアドレス指定して、サンプルの中心からの距離を記録して、且つコヒーレント光源アレイ40の中の各ピクセルスポットに位置する光源をマークして、サンプルの中心までの距離が同じである光源ピクセルスポットは、同じグループとしてマークされる。好ましくは、隣接する光源ピクセルスポットのグループからサンプルの中心までの距離は、等差数列を形成し、これは干渉計の中の移動ミラーの動きに類似する。隣接する光源ピクセルスポットのグループの点灯時間も、等差数列を形成することが好ましい。このようにして、異なる光路差を有する光ビームが得られ、光路差は、異なる光源のピクセルからサンプルの中心までの差である。コヒーレント光源アレイ40の中の各ピクセルスポットに位置する光源の、異なる時間でのオン・オフを、正確なプログラムを設計することによって制御する方法は、本実施形態に限定されず、実際の状況に応じて他のプログラムを設計して制御することもできる。
【0022】
コヒーレント光源アレイ40の平面では、光源ピクセルスポットは、光路が等差数列を形成することによってグループ化され、異なるグループの光源ピクセルスポットの間に形成される光路差は、微小な光路差の倍数になるように設計され、これは、フーリエ変換赤外分光計の中の移動ミラーの動きによって引き起こされた、干渉計で生成される2つの光ビームが一連の光路差を形成することに類似する。好ましくは、微小な光路差は、0mmより大きく2mm以下であり、例えば、微小な光路差は2mm、1mmなどである。同様に、光路差の設計も上記方法に限定されず、具体的な条件に応じて設計してもよい。
【0023】
図2を参照すると、コヒーレント光源アレイ40において、黒点は、ある瞬間に点灯された光源ピクセルスポットのグループであり、次の瞬間には、次の光源ピクセルスポットのグループが点灯される。これによって類推して、異なる光路差を有する複数の光ビームを得る。異なるグループの光源ピクセルスポットによって形成された光ビームがサンプルに当たるので、光路差に応じて光の強度が連続的に変化する。電気回路でコヒーレント光源アレイ40を制御することは、従来のフーリエ変換分光計における干渉計の機械部品による信号変動によって引き起こされる試験結果の再現性の低下を回避し、最終的にフーリエ変換分光計の安定性を改善する。
【0024】
検出器50は、異なる光路差を有する光ビームがサンプルを通過した後の光強度を検出するために使用され、それによって、インターフェログラムを得る。検出器50は、従来のフーリエ変換分光計で一般的に使用される検出器であり、例えば、硫酸チタントリグリセリド(TGS)、ニオブ酸バリウムストロンチウム、テルル化水銀カドミウム、アンチモン化インジウム、ヒ化インジウムガリウムなどである。
【0025】
増幅回路60は、検出器50に接続され、検出器50で得られた光電信号を記録し、増幅することに使用される。増幅回路60は、さらに増幅回路基板として設計されてもよい。
【0026】
コンピュータ70は、増幅回路60に接続され、コンピュータ70にはスペクトル解析ソフトがインストールされ、スペクトル解析ソフトでインターフェログラムをフーリエ変換し、干渉信号図を直接的に変換してサンプルのスペクトログラムを得る。コンピュータ70は、フーリエ変換することができるスペクトル解析ソフトウェアをインストールできるものであれば、その機種は限定されない。
【0027】
フーリエ変換分光計100が使用される時、光源10はレーザービームを出射し、レーザービームは、光伝送装置20を介してコヒーレント光源アレイ40に伝送される。各ピクセルスポットに位置する光源の、異なる時間でのオン・オフを制御することにより、異なる光路差を有する複数の光ビームを生成する。複数の光ビームはサンプルを通過した後、検出器50に当たり、検出器50は、異なる光路差を有する光ビームがサンプルを通過した光強度を検出して、それによってインターフェログラムを取得する。インターフェログラムは、増幅回路60によって記録及び増幅された後、コンピュータ70に送信される。最後に、コンピュータ70のスペクトルソフトウェアがインターフェログラムに対してフーリエ変換を実行して、サンプルのスペクトログラムを取得する。
【0028】
光源10から出射する光ビームの異なる波長帯域によって、フーリエ変換分光計100は、異なる波長帯域のサンプルのスペクトログラムを取得することができる。本実施形態では、レーザービームは、赤外レーザービームであり、フーリエ変換分光計100が取得するのは、サンプルの赤外スペクトログラムである。
【0029】
本発明が提供するコヒーレント光源アレイに基づくフーリエ変換分光計は、干渉計と光源を同一平面に位置するコヒーレント光源アレイで置き換えることにより、干渉計の中の機械部品及び光源と干渉計の間にある反射鏡によって増加される体積を直接的に削減し、非常に効果的にフーリエ変換分光計の体積を削減することができる。本発明では、電気回路でコヒーレント光源アレイを制御するので、干渉計の機械部品による信号変動によって引き起こされる試験結果の再現性の低下を回避し、最終的にフーリエ変換分光計の安定性を向上させる。また、従来のフーリエ変換分光計のコアコンポーネントは、干渉計であり、干渉計が非常に精密に製造され、且つ3次元空間での高精度が必要であるので、フーリエ変換分光計は非常に高価になり、且つ応用の場所が制限される。本発明のエリアコヒーレント光源アレイは、3次元構造の干渉計と比べて精度が1次元低下される。同時に、電気回路で光路のオン・オフを実現することが、電気回路で機械部品の精密な動作を実現することと比べて、その操作性や再現性が高く、それによって、システムの安定性が向上する。本発明は、エリアコヒーレント光源アレイを採用して、フーリエ変換分光計のコストが大幅に削減され、使用がよりポータブルになる。
【0030】
また、当業者であれば、本発明の精神の範囲内で他の変更を行うことができる。もちろん、本発明の精神に従ってなされたこれらの変更は、いずれも本発明の保護請求する範囲に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0031】
100 フーリエ変換分光計
10 光源
20 光伝送装置
30 制御回路
40 コヒーレント光源アレイ
50 検出器
60 増幅回路
70 コンピュータ
402 基板
404 光源ピクセルスポット