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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】抗菌性樹脂繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/50 20060101AFI20240805BHJP
   D01F 8/16 20060101ALI20240805BHJP
   C08L 59/00 20060101ALI20240805BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240805BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
D01F6/50 A
D01F8/16
C08L59/00
C08L67/02
C08L67/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020028937
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021134431
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】717000414
【氏名又は名称】株式会社プレジール
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】野村 学
(72)【発明者】
【氏名】梅村俊和
(72)【発明者】
【氏名】圓井 良
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-148025(JP,A)
【文献】特開2019-178206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/50
D01F 8/16
C08L 59/00
C08L 67/02
C08L 67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂(POM)50~90wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のポリブチルサクシネート樹脂(PBS)又はPBSの類似構造樹脂あるいはポリ乳酸樹脂10~45wt%、及び、カルボジイミド化合物~5wt%である樹脂組成物よりなる繊維径0.5~20μmの単層あるいは多層の抗菌性繊維であって、
前記ポリブチルサクシネート樹脂(PBS)の類似構造樹脂が、ポリブチルサクシネートアジペート(PBSA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-コヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、及び、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)からなる群から選ばれた1種以上の樹脂である、抗菌性繊維
【請求項2】
前記抗菌性繊維が、繊維径0.5~20μmの単層繊維である、請求項1に記載の抗菌性繊維。
【請求項3】
前記抗菌性繊維が、繊維径0.5~20μmの多層繊維であって、
前記多層繊維が芯鞘構造を有し、芯が、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、又は、ポリウレタン樹脂の何れかであり、鞘が、ポリアセタール樹脂(POM)50~90wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のポリブチルサクシネート樹脂(PBS)又はPBSの類似構造樹脂10~45wt%、及び、カルボジイミド化合物1~5wt%である樹脂組成物よりなり、
前記ポリブチルサクシネート樹脂(PBS)の類似構造樹脂が、ポリブチルサクシネートアジペート(PBSA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-コヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、及び、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)からなる群から選ばれた1種以上の樹脂である、請求項1に記載の抗菌性繊維。
【請求項4】
前記抗菌性繊維が、繊維径0.5~20μmの多層繊維であって、
前記多層繊維が芯鞘構造を有し、芯が、ポリアセタール樹脂であり、鞘がポリアセタール樹脂(POM)50~90wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のポリブチルサクシネート樹脂(PBS)あるいはポリ乳酸樹脂10~45wt%、及び、カルボジイミド化合物1~5wt%である樹脂組成物よりなる、請求項1に記載の抗菌性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤を使用せずに、ポリアセタール樹脂と特定のポリブチルサクシネート(PBS)樹脂またはポリ乳酸(PLA)樹脂とカルボジイミド化合物からなる組成物を活用した抗菌性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂繊維は衣類のみならず様々な分野で重要な製品として使用されている。その製品の中には抗菌性を必要とするものも多く存在する。しかし従来繊維として多用されているポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維等は抗菌性を有しておらず、そのため抗菌性を付与する様々な技術が提案されている。抗菌剤を、バインダー樹脂を介して繊維に付着させる技術が特許文献1、特許文献2等で開示されている。また別の方法として、抗菌剤を樹脂の中に練り込む方法等も特許文献3、特許文献4等で開示されている。抗菌剤としては銀イオンを使用したものが多く、アパタイト、ガラス、ゼオライト、粘土化合物等の無機化合物に担持させたものが提案されている。こうした方法は、初期には効果を発揮するものの摩耗や洗濯によって脱落し、効果が早期に失われる課題を有していた。更に紡糸加工後の処理工程や経時変化により変色する等の欠点も有していた。
【0003】
多くの樹脂は抗菌性が無く抗菌性繊維とするには、前述の方法を採る必要があるが、唯一ポリアセタール樹脂は樹脂そのものが抗菌性を有しており、射出成形品や押出成形品として水回りの用途で有用に用いられている。しかしポリアセタール樹脂は、結晶性に優れ、結晶化速度が速く結晶化度も大きいことから繊維として用いることは困難とされてきた。近年ポリアセタール樹脂を繊維として用いる検討が盛んに行なわれ始めている。ポリアセタール樹脂の繊維化技術は特許文献5、特許文献6、特許文献7等に開示されている
【0004】
また特許文献8には、ポリアセタール樹脂の持つ撥菌性・抗菌性を生かす目的で繊維とすることが開示されている。しかし、先にも述べたようにポリアセタール樹脂は結晶化速度が速く且つ結晶化度が高いため伸び難く、そのため細線化が困難な欠点を有している。実際に抗菌性繊維は不織布あるいは編物、織物、ウェブなどに加工されて用いられるが、各種バクテリアや空気中の極めて小さい塵埃を効率よく捕集するには、繊維径を20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下にしなければならず、ポリアセタール樹脂では、この細線化が極めて困難であった。
【0005】
【文献】特開平11-279952号公報
【文献】特開平10-325075号公報
【文献】特開平7-238421号公報
【文献】特開平7-3527号公報
【文献】特開平1-272821号公報
【文献】特開平8-144128号公報
【文献】特開平11-293523号公報
【文献】WO2016/147998A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗菌性繊維の内、抗菌剤を使用した繊維は長期の抗菌持続性や変色の課題がある。一方唯一抗菌性能のあるポリアセタール樹脂を用いた繊維は細線化が難しく用途が限定される。抗菌剤を使用せずに優れた抗菌性能を有する細線繊維(繊維径20μm以下)が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはポリアセタール樹脂50~90wt%とメルトフローレート(MFR)4~30g/10分のポリブチルサクシネート樹脂(PBS)又はPBSの類似構造樹脂あるいはポリ乳酸樹脂10~45wt%、カルボジイミド化合物0~5wt%である樹脂組成物から製造した単層繊維あるいは多層繊維で且つ繊維径を0.5~20μmにした繊維が極めて優れた抗菌性を有し、高い延伸加工性を持つことからフィルター、編物、織物、ウェブなどに容易に加工出来ることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明者らの製造法によれば通常の溶融紡糸装置を用いて繊維径が20~100μmの繊維を溶融紡糸し、これを一段ないしは多段で延伸することにより繊維径を0.1~20μmに加工することが出来る。空気中のサブミクロンのダスト、細菌の捕集にはフィルターの繊維径を細かくする必要があるが、そのような細い繊維の製造の為にダイス穴の直径を100μm以下に加工することはコストがかかり、そもそもヤケ、ゴミによる閉塞などのトラブルが生じる。また細い繊維径のダイスでは生産効率が極めて劣る。これに対して高い延伸性を有する本発明によるポリアセタール樹脂アロイ繊維は通常の溶融紡糸装置で極めて生産効率の良い極細繊維の製造が可能である。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
【0010】
1)ポリアセタール樹脂(POM)50~90wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のポリブチルサクシネート樹脂(PBS)又はPBSの類似構造樹脂あるいはポリ乳酸樹脂10~45wt%、カルボジイミド化合物0~5wt%である樹脂組成物よりなる繊維径0.5~20μmの単層あるいは多層の抗菌性繊維。
【0011】
2)ポリアセタール樹脂(POM)50~90wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のポリブチルサクシネート樹脂(PBS)又はPBSの類似構造樹脂あるいはポリ乳酸樹脂10~45wt%、カルボジイミド化合物0~5wt%である樹脂組成物が最外層を形成してなる前項記載の多層の抗菌性繊維
【0012】
3)ポリブチルサクシネート樹脂(PBS)の類似構造樹脂が、ポリブチルサクシネートアジペート(PBSA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-コヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)からなる群から選ばれた1種以上の樹脂である前項1および前項2記載の抗菌性繊維
【0013】
4)多層繊維が芯鞘構造を有し、芯がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂の何れかであり、鞘がポリアセタール樹脂(POM)50~90wt%、MFRが4~30g/10分のポリブチルサクシネート樹脂(PBS)又はPBSの類似構造樹脂又はポリ乳酸樹脂を10~45wt%、カルボジイミド化合物を0~5wt%である樹脂組成物よりなる前項1~前項3記載の抗菌性繊維
【0014】
本発明におけるポリオキシメチレン樹脂としては、ポリオキシメチレン樹脂のホモポリマー又はコポリマーが使用できる。ポリオキシメチレンコポリマーは、単独で又はコモノマーの種類、含有量の異なるポリオキシメチレンコポリマー同士を混合して使用することができる。ポリオキシメチレンコポリマーは、分子中にオキシメチレン単位以外に、下記式(1)で表されるオキシアルキレン単位を有する。
【化1】

(式中、R0及びR0’は、同一又は異なってもよく、水素原子、アルキル基、フェニル基又は1以上のエーテル結合で中断されているアルキル基であり、mは2~6の整数である)
【0015】
アルキル基は、非置換又は置換された炭素原子数1~20の直鎖又は分岐状のアルキル基であり、炭素原子数1~4の直鎖又は分岐状のアルキル基が好ましい。アルキル基として、メチル、エチル、n―プロピル、i―プロピル、n―ブチル、i―ブチル、t―ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル及びオクタデシル等が挙げられる。置換基として、ヒドロキシ基、アミノ基、アルコキシ基、アルケニルオキシメチル基及びハロゲンが挙げられる。ここで、アルコキシ基として、メトキシ、エトキシ及びプロポキシ等が挙げられる。また、アルケニルオキシメチル基として、アリルオキシメチル等が挙げられる。
【0016】
フェニル基は、非置換、又は非置換若しくは置換されたアルキル基、非置換若しくは置換されたアリール基、若しくはハロゲンで置換されているフェニル基である。ここで、アリール基として、フェニル、ナフチル及びアントラシル等が挙げられる。
【0017】
1以上のエーテル結合で中断されているアルキル基は、下記式(2)で表される基が挙げられる。
-CH2-O-(R3-O)P-R4 (2)
(式中、R3はアルキレン基であり、Pは0~20の整数を表し、R4は水素原子、アルキル基、フェニル基又はグリシジル基であり、ここで各(R3-O)単位は、同一であっても、異なっていてもよい)
【0018】
アルキレン基は、直鎖又は分岐状であり、非置換又は置換されている、炭素原子数2~20のアルキレン基であり、エチレン、プロピレン、ブチレン及び2―エチルへキシレン等が挙げられる。R1としてのアルキレンは、エチレン及びプロピレンが好ましい。
【0019】
R0及びR0’は、同一であって水素原子であるのが好ましい。式(1)で表わされるオキシアルキレン単位としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位、オキシペンチレン単位、及びオキシヘキシレン単位が挙げられ、好ましくはオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、及びオキシブチレン単位であり、より好ましくは、オキシジメチレン単位、オキシトリメチレン単位、及びオキシテトラメチレン単位である。
【0020】
ポリオキシメチレンコポリマーは、更に、下記式(3)で表される単位を有することができる。
-CH(CH3)-CHR5- (3)
(式中、R5は、下記式(4)で表される基である)
-O-(R3-O)P-R6 (4)
(式中、R6は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、フェニル基又はフェニルアルキル基であり、R3及びPは、式(2)で定義されたとおりである)
【0021】
アルケニル基は、直鎖又は分岐状であり、非置換又は置換されている、炭素原子数2~20のアルケニル基であり、ビニル、アリル及び3-ブテニル等が挙げられる。フェニルアルキル基におけるアルキル部分及びフェニル部分は、上記したアルキル基及びフェニル基の例示が挙げられる。フェニルアルキル基として、ベンジル、フェニルエチル、フェニルブチル、2―メトキシベンジル、4―メトキシベンジル及び4―(アリルオキシメチル)ベンジル等が挙げられる。本発明において、存在する場合、式(2)で表される基におけるアルケニル基及びグリシジル基、又は式(4)で表される基におけるアルケニル基は、更なる重合反応における架橋点となることができ、これにより架橋構造が形成される。
【0022】
ポリオキシメチレンコポリマーの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ホルムアルデヒドの3量体であるトリオキサンと、コモノマーとを、必要に応じて三フッ化ホウ素等カチオン重合触媒を用いて塊状重合させる方法が挙げられる。コモノマーとしては、例えば、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,3,5―トリオキセパン及び1,3,6―トリキソカン等の炭素原子数2~8の環状エーテル;グリコールの環状ホルマール及びジグリコールの環状ホルマール等の炭素原子数2~8の環状ホルマール等が挙げられる。これらのコモノマーにより、R0及びR0’が、同一であって水素原子である式(1)で表されるオキシアルキレン単位が形成される。
【0023】
本発明において、ポリポリオキシメチレンコポリマーは、2元共重合体及び多元共重合体も含む。従って、本発明のポリアセタールコポリマーとして、オキシメチレン単位及び上記式(1)で表されるオキシアルキレン単位を有するポリポリオキシメチレンコポリマー、オキシメチレン単位、上記式(1)で表されるオキシアルキレン単位及び式(3)で表わされる単位を含むポリアセタールコポリマー、並びに、更に架橋構造を有する前記コポリマー等を広く用いることができる。本発明において、R0及びR0’が、同時に水素原子ではない式(1)で表わされる単位は、例えば、グリシジルエーテル化合物又はエポキシ化合物を共重合することで形成することができ、式(3)で表される単位は、例えば、アリルエーテル化合物を共重合することで形成することができる。
【0024】
グリシジルエーテル及びエポキシ化合物は、特に限定されないが、エピクロルヒドリン;メチルグリシジルホルマール、エチルグリシジルホルマール、プロピルグリシジルホルマール及びブチルグリシジルホルマール等のアルキルグリシジルホルマール;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4―ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾンシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリブチレングリコールジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル;グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等のトリグリシジルエーテル;ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等のテトラグリシジルエーテル;が挙げられる。
【0025】
アリルエーテル化合物として、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールジアリルエーテル、フェニルエチルアリルエーテル、フェニルブチルアリルエーテル、4―メトキシベンジルアリルエーテル、2―メトキシベンジルアリルエーテル及び1,4―ジアリルオキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0026】
中でも、量産性と熱安定性の観点から、トリオキサン100重量部に対し、トリオキサン以外の1種又は2種以上の環状エーテル及び/又は環状ホルマールからなるコモノマーを0.5~30重量部、好ましくは1~15重量部を添加して得られるポリポリオキシメチレンコポリマーが好ましい。コモノマーが0.5重量部以上であれば、溶融紡糸に必要な耐熱性が十分であり、押出機内部や紡糸ノズル内の滞留部でポリポリオキシメチレンコポリマーの分解、発泡が生じにくく、加工性に優れる。30重量部以下であれば、ポリポリオキシメチレンコポリマーを製造する際の歩留まりが向上する。また、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化合物及びアリルエーテル化合物の量は、特に限定されないが、好ましくはトリオキサン100重量部に対し、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化合物及びアリルエーテル化合物を0.05~20重量部添加することができる。
【0027】
本発明に用いるポリポリオキシメチレン樹脂は、ISO1133に則ったMFRが50g/10分以下であることが好ましい。MFRが大きいほど溶融紡糸で細い糸を得るのに適しているが、50g/10分以下であれば、機械物性(特に靭性)に優れるという利点がある。MFRは、重合反応における連鎖移動剤の量を適宜調整することによって調整することができる。
【0028】
ポリブチルサクシネート樹脂は、コハク酸とブタンジオールを原料として公知の方法で製造することができる。例えば、コハク酸とブタンジオールとのエステル化反応および/またはエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができる。経済性や製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重合で製造する方法が好ましい。
【0029】
ポリブチルサクシネート樹脂(ポリブチレンサクシネート樹脂と同義)として使用可能な製品(市販品)としては、三菱ケミカル製ポリブチレンサクシネート系樹脂「BioPBS(バイオPBS)」(登録商標)、昭和電工社製ポリブチレンサクシネート樹脂「ビオノーレ」(登録商標)、Shandong Fuwin New Material社製ポリブチレンサクシネート樹脂、BASF社製ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂「エコフレックス」(登録商標)等が挙げられる。
【0030】
ポリブチルサクシネート樹脂には構造が類似する樹脂(類似構造樹脂)が存在し、類似構造樹脂としてはポリブチルサクシネートアジペート(PBSA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-コヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)が挙げられ、本発明の樹脂組成物においては、ポリブチルサクシネート樹脂と等価に扱うことができる。
【0031】
ポリブチルサクシネート樹脂あるいはその類似構造物の最適なMFRは4~30g/10分である。MFRが4g/10分以下の高分子量である場合、あるいはMFRが30g/10分以上の低分子量である場合は、当該樹脂とポリアセタール樹脂との相溶性が悪く、繊維に高い延伸度を与えることが出来ない。
【0032】
ポリ乳酸樹脂は、乳酸のL体のみを重合させたポリ-L-乳酸であるかD体のみを重合させたポリ-D-乳酸であるか、D体、L体がランダムに重合、あるいはブロック重合したポリ-DL-乳酸を用いることが出来る。ポリ乳酸樹脂は、公知の方法で製造することができ、例えば、一般的に工業プロセスで採用されるラクチド法では乳酸を加熱脱水重合して得られるオリゴマーをさらに減圧下加熱分解して乳酸の二量体であるラクチドを得て、これを金属塩の触媒存在下で重合してポリ乳酸を得る。あるいは直接重合法ではジフェニルエーテルなどの溶媒中で乳酸を減圧化に加熱し、水を取り除きながら重合させることによりポリ乳酸を製造することが出来る。
【0033】
ポリ乳酸樹脂は米国のカーギル・ダウ社がポリマーを製造し、Nature Worksという商品名で供給している。これを輸入して日本ではカネボウ合繊(株)、(株)クラレ、ユニチカ(株)、三井化学(株)が加工して包装容器、農業土木、コンポスト関連、スポーツウエア、寝具製品など多岐に渡り販売されている。ユニチカ(株)からは「テラマック」(登録商標)としてポリ乳酸樹脂が市販されている。
【0034】
本発明で使用されるカルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するものであれば良い。例えばジシクロヘキシルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジーt-ブチルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0035】
その他、繊維の性能を損なわない範囲で、ポリオキシメチレン樹脂にあるいはポリブチルサクシネート樹脂、ポリ乳酸樹脂に一般的に添加される添加剤、例えば、酸化安定剤、内部滑剤、核化剤、紫外線吸収剤、着色剤等が使用可能である。
【0036】
ポリアセタール樹脂を主成分、MFRが4~30g/10分のポリブチルサクシネート樹脂又はその類似構造樹脂およびカルボジイミド化合物を副成分とする樹脂組成物、又はポリアセタール樹脂を主成分とし、ポリ乳酸樹脂およびカルボジイミ化合物を副成分とする樹脂組成物は公知の方法に従い単軸または二軸押出機で混練することで得られる。
【0037】
ポリブチルサクシネート樹脂又はその類似構造樹脂の比率、あるいはポリ乳酸樹脂の比率は10~45wt%が好ましい。10wt%以下では繊維の延伸性が劣り、繊維径を20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下にすることが困難である。一方45wt%以上では繊維の抗菌性が低下する。
【0038】
カルボジイミド化合物の比率は0~5wt%が好ましい。カルボジイミド化合物を加えることにより、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が向上し、紡糸工程で安定した繊維の細線化(延伸)が可能となる。特に紡糸温度が高温になる場合に有効となる。5wt%以上では、それ以上の効果は期待できず経済的でなくなる。
【0039】
本発明の多層繊維において、最外層を除いた内層、例えば芯鞘構造を有する繊維の芯層に用いられる樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂の何れかである。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂が好適である。ポリエズテル樹脂やポリアミド樹脂は融点が240℃以下であるような共重合体が好ましい。
【0040】
<繊維の製造方法>
本発明の抗菌性樹脂繊維を製造するための方法は、公知の溶融紡糸法により製造することが出来る。即ち、あらかじめ所定の比率でポリアセタール樹脂とポリブチルサクシネート樹脂又はその類似構造樹脂とカルボジイミド化合物を、あるいはポリアセタール樹脂とポリ乳酸樹脂とカルボジイミド化合物を、単軸または2軸押出機により溶融混練し、ペレットを製造する。得られたポリアセタール樹脂組成物を紡糸機によって溶融し繊維用ダイから押出し、巻取機にて引取り紡糸繊維を製造する。
【0041】
更に、この紡糸した繊維を所望の繊度に調整するために延伸処理を行う。延伸処理は公知の延伸方法にて行うことができる。一例として温水浴中で行う湿式延伸、乾燥空気中あるいは加熱した金属ロールを用いて行う乾式 延伸、100℃以上の温度に加熱した、過熱水蒸気雰囲気中で行う水蒸気延伸といった延伸方法が挙げられる。この中で、本発明のコアシェル型複合繊維の製造に際しては、40~100℃の温水浴中、好ましくは50~90℃の温水浴中で湿式延伸するのが好ましい。あるいは80~120℃の熱板に押し出し繊維を接触させて乾式で延伸することが出来る。
【0042】
繊維はモノフィラメントあるいはマルチフィラメント繊維として生産されるが、極細の繊維を製造する方法としてはマルチフィラメントを製造する方法が好ましい。マルチフィラメントの製造は複数のダイ穴から溶融した樹脂を冷却し、得られた繊維を引き取りロールによって巻き取り、次に延伸用ロールにて繊維を延伸する。あるいは溶融紡糸した繊維径が20~100μmの繊維を一旦巻き取って、別の延伸機によって0.5~10μmの繊維径とすることが出来る。
【0043】
延伸した繊維から製造した織布利用方法としては、その抗菌性を生かした下着、シーツ、枕カバー、靴下、医療用ユニフォームなどが有用である。また0.5~10μmに非常に細くした繊維は、これを捲縮し、カーディング装置にて繊維の配向方向を揃え、次にニードルパンチ装置によって繊維同士を絡め合うことにより、不織布を製造することが出来る。
【発明の効果】
【0044】
本発明のポリアセタール樹脂を主成分としたポリアセタールアロイ樹脂繊維は、容易に高い延伸を行い、極細繊維の製造が可能であるため、バクテリアや微細なダスト、PM2.5のような空気中の浮遊物、花粉などの捕集に極めて有効なフィルターを作る事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下に、発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例に制限されるものではない。
<実施例及び比較例>
【0047】
<原料>
・ポリアセタール樹脂(POM)としては、
POM-1:ユピタールF20-02(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
POM-2:ユピタールF30-03(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を用いた。
・ポリブチルサクシネート(PBS)樹脂としては
PBS-1:MFRが22のバイオBPS FZ71(三菱ケミカル製)
PBS-2:MFRが5のバイオBPS FZ91(三菱ケミカル製)
PBS-3:MFRが1.5のビオノーレ#1001(昭和電工製)
PBS-4:バイオBPS FZ71に3重量%のステアリン酸カルシウムを加えて、樹脂温度200℃で溶融押出して、MFRを35に調整した。
・PHBH樹脂としては、AONILEX(カネカ製)を用いた
・ポリ乳酸樹脂としては、テラマックス TP-4000(ユニチカ製)
・ポリプロピレン(PP)樹脂としてはプライムポリプロ F-730NV(プライムポリマー製)を、またポリエステル(PET)樹脂としてはMA-1340(ユニチカ製)、またポリアミド(PA)樹脂としては、6/66共重合体の5034(宇部興産製)を用いた。
・カルボジイミド樹脂としては、カルボジライト LA-1(日清紡ケミカル製)を用いた。
【0048】
<評価用組成物の作製>
評価用サンプルの組成を表―1に示す。各成分を計量した後ドライブレンドを行ない、二軸混練機のホッパーに投入し、溶融混練を行ない所望の組成物のペレットを製造した。得られたペレットを乾燥後、紡糸実験に使用した。
【0049】
(表―1)

【0050】
<溶融紡糸>
溶融紡糸には縦型の単軸押出機が2台(A、B)組み合わされた紡糸機を用いた。単層の繊維を製造する時は、A、Bそれぞれに同じ材料を投入して押し出しを行い、二重構造の繊維を製造する際にはA、Bの押出機に違う材料を投入することによってコアシェルで性質の異なる繊維を製造することが出来る。A、Bの押出機は軸径25mmのスクリュウとその周りに加熱シリンダーを有し、溶融した樹脂はダイスに接続された流路を通りダイスに導かれる。ダイス穴は円型に配置された24個の穴を有し、1ケ1ケのダイ穴は2重構造となっており、Aの押出機からは内部のダイ穴へ、Bの押出機からは外周のダイ穴へ溶融樹脂は導かれてコアシェル型の溶融樹脂が糸状になって排出される。ダイ穴の外径は300μm、コア部の内径は200μmである。押出し機のスクリュウ、シリンダー、溶融樹脂が流れる流路内面、ダイス内面はクロムメッキ加工が施されている。
【0051】
押出機及びダイスの温度は使用する樹脂の溶融温度に応じて160~250℃に制御できる。ノズルから排出した溶融樹脂は5本のローラーを用いて引き取られ、通常、各ローラーの回転速度を順次、早くして延伸できる。この場合、ローラーの表面温度を80~120℃に制御しておくことが有効である。この様にして繊維径が20~100μmコアシェル繊維を製造した。単層の繊維の場合は、A,Bそれぞれの押出機に同じ材料を投入して紡糸を行なった。多層繊維の場合は、A、Bに異なった材料を投入することで行なった。Aに投入した樹脂が芯を、Bに投入した樹脂が鞘となる芯鞘構造を有する繊維径が20~100μmの多層繊維を製造した。
【0052】
さらに一旦、巻き取った繊維を再び加熱して延伸し、繊維径が0.5~20μmの繊維を製造した。ボビンに巻き取られた繊維は延伸装置へ導かれ、延伸用の加熱装置の手前の回転ロールの速度と、加熱装置の後の巻き取りロールの回転速度や直径の差で延伸倍率を調整した。加熱装置は100~140℃の空気式加熱機を通過させる方法を用いた。なお他にも湯槽やオイルバスをくぐらせる方法等も有効である。加熱装置は一段でも良く、複数段用いて所望の延伸度まで上げることも出来る。
【0053】
<MFRの測定>
JIS K7210、ISO1133、ASTM D1238に準拠する。測定温度190℃、荷重2.16Kg、MFRの単位はg/10分である。
【0054】
<繊維の抗菌性の評価>
JIS L1902に菌液吸収法が規定されている。この方法は衣類の着用時を想定した試験であり、標準布と試験布に対する菌の増殖性を比較することにより抗菌効果を評価するものである。試験菌としては、(1)黄色ぶどう球菌はStaphylococcusaureus NBRC12732 (2)大腸菌はEscherichia coli NBRC3301を用い、試験前の試料はオートクレーブ減菌を行った。接種菌液濃度(CFU/ml)は1.5*10である。繊維の抗菌性は、抗菌活性値「A」で示した。この抗菌活性値は(1)式で計算される。
A=(LogCb-LogCa)-(LogC2-LogC1) (1式)
Ca:標準布の生菌数 Cb:標準布での24時間培養後の生菌数
C1:評価試料の生菌数 C2:評価試料での24時間培養後の生菌数
【0055】
<結果>
実施例及び比較例を表―2に示した。実施例-1~実施例―3は、POM樹脂50~90wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のPBS樹脂又はPBSの類似構造樹脂又はポリ乳酸樹脂10~45wt%、カルボジイミド化合物0~5wt%の範囲にあるポリアセタール組成物の単層繊維で、延伸した繊維の繊維径は20μ以下となっており、抗菌活性値「A」も5以上と高い抗菌性を示している。JIS基準では「A」が2以上で、またSEK基準では「A」が2.2以上で抗菌加工製品とされており、その値よりも遥かに優れた抗菌性を示している。実施例-4~実施例―8は、本発明のポリアセタール樹脂組成物が最外層に存在する多層繊維で、何れも高い抗菌活性値「A」を示している。
【0056】
比較例―1,2は、PBSのメルト・フロー・レート(MFR)が請求範囲から外れた組成であり、何れも繊維を20μ以下になるまで延伸しようとした場合、繊維破断が生じ細線化が困難であることを示している。比較例―3は、ポリアセタール樹脂組成物中のPBSの割合が70wt%と請求範囲から外れると抗菌効果が大幅に低下することを示している。比較例―4は、多層繊維の最外層にポリアセタール樹脂が存在しない場合、比較例―5及び比較例7は多層繊維の最外層に形成しているポリアセタール樹脂組成物中のPBSもしくはPLAの割合が請求範囲から外れる場合で、何れも抗菌性が大幅に低いことを示している。比較例―6は、多層繊維の最外層を形成しているポリアセタール樹脂組成物中のPBSのメルト・フロー・レート(MFR)が請求範囲から外れる場合で、また比較例―8は、多層繊維の最外層を形成する樹脂をポリアセタール樹脂組成物ではなくポリアセタール樹脂単体にした場合で、何れも繊維径が20μ以下になるよう延伸すると繊維破断が発生することを示している。
【0057】
(表―2)