IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シーバイエス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】水性艶消コーティング剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 129/04 20060101AFI20240805BHJP
   C09D 105/00 20060101ALI20240805BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240805BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240805BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C09D129/04
C09D105/00
C09D5/02
C09D133/00
C09D175/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020049542
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147527
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】319001710
【氏名又は名称】シーバイエス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】栢森 聡
(72)【発明者】
【氏名】前川 美紀
(72)【発明者】
【氏名】石井 重和
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02657308(EP,A1)
【文献】特開2006-002152(JP,A)
【文献】特表2006-510560(JP,A)
【文献】特開2013-064112(JP,A)
【文献】特表2013-515103(JP,A)
【文献】特表2014-529639(JP,A)
【文献】特開2005-082779(JP,A)
【文献】特開平06-278245(JP,A)
【文献】米国特許第06331582(US,B1)
【文献】特開昭57-051761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)15,000以上の重量平均分子量を有する水性ポリマーと、
(B)ポリマーのエマルションとを含み、
前記(B)のみで形成される塗膜と比べて60度鏡面光沢度が10以上低下した塗膜を形成することを特徴とし、
(A)水性ポリマーがポリビニルアルコール、ならびに、多糖類及びその誘導体からなる群から選択される一又は複数を含む、水性コーティング剤。
【請求項2】
(B)ポリマーがアクリル系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選択される一又は両方を含む、請求項1に記載の水性コーティング剤。
【請求項3】
(B)ポリマーが、ガラス転移温度が70℃未満であるアクリル系ポリマーである、請求項2に記載の水性コーティング剤。
【請求項4】
粘度が50mPa・S(25℃)以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性コーティング剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水性コーティング剤を、原液又は希釈して、対象面に適用することを含む、前記対象面の艶消しコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象面に適用することによって、艶消し化された塗膜となって当該面をコーティングして保護する水性艶消コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木質、合成樹脂、コンクリートや大理石等、各種材質の床や壁等の硬表面の美観を保つとともに、当該表面を保護することを目的として、フロアーポリッシュ剤やコーティング剤等が用いられている。フロアーポリッシュ剤やコーティング剤は一般的に、対象面に適用されると乾燥して塗膜となって当該面をコーティングして保護する。なかでも、扱いやすさや優れた耐久性等から水性のフロアーポリッシュ剤やコーティング剤が人気を博している。例えば、特許文献1には、水性分散状態にあるエチレン性不飽和化合物の乳化重合体であって、亜鉛化合物を含有させてなるフロアーポリッシュ用組成物が開示されている。また特許文献2には、カルボキシル基を有する所定のアクリルポリマーの水分散体とカルボキシル基を有するウレタンポリマーの水分散体、ならびに硬化剤としてポリカルボジイミドとを含有することを特徴とするフロアコーティング剤組成物が開示されている。
【0003】
一方、近年の高級化指向に伴い、床や壁等の硬表面は艶消し化されたものが好まれる傾向があり、当該表面を保護するために用いられるフロアーポリッシュ剤やコーティング剤等についても、従来主流となっていた高光沢の塗膜を形成するものよりも、艶消し化された塗膜を形成するものが求められている。
【0004】
従来、艶消し化された塗膜を形成するためには、非水分散性の有機ポリマー微粒子粉末や、微粉ケイ酸等の艶消剤を配合し、これによって塗膜表面に凹凸を形成し、可視光を乱反射させて艶消し状態をつくり出していた。しかしながら、この場合、塗膜は平坦な表面を形成せず、外観や手触りが好ましくない場合があるだけでなく、汚れが付着しやすい等の問題があった。
【0005】
このような課題を解決すべく、特許文献3にはスチレンから誘導されるモノマーを含むポリマー粒子の乳化分散エマルションと、酢酸ビニルから誘導されるモノマーを含むポリマー粒子の乳化分散エマルションと、ウレタン樹脂エマルションとからなる艶消塗料エマルションが開示されている。この艶消塗料エマルションでは、相溶性の良くない数種のエマルションを混合することにより、塗膜形成時に相分離を生じさせ、これによって不透明で艶のない塗膜を形成させる。しかしながら、このようにして形成される塗膜は、酢酸ビニルに起因して比較的柔らかいものとなり耐久性が乏しく、床面等の用途には用いることができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3942044号公報
【文献】特許第6592469号公報
【文献】特許第2968077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐久性を有し、かつ平坦な表面を有する艶消し化された塗膜を形成することが可能な水性のフロアーポリッシュ剤やコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、15,000以上の重量平均分子量を有する水性ポリマーと、任意のポリマーのエマルションとを含んでなる水性コーティング剤が、フロアーポリッシュ剤やコーティング剤としての耐久性を保持しながら、平坦でざらつきのない表面を有する艶消し化された塗膜を形成できることを見出した。
【0009】
本発明はこれらの知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] (A)15,000以上の重量平均分子量を有する水性ポリマーと、
(B)ポリマーのエマルションとを含み、
前記(B)のみで形成される塗膜と比べて60度鏡面光沢度が10以上低下した塗膜を形成することを特徴とする、水性コーティング剤。
[2] (A)水性ポリマーがポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、セルロース及びその誘導体、多糖類及びその誘導体、ならびに、シリカ系凝集体からなる群から選択される一又は複数を含む、[1]の水性コーティング剤。
[3] (B)ポリマーがアクリル系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選択される一又は両方を含む、[1]又は[2]の水性コーティング剤。
[4] (B)ポリマーが、ガラス転移温度が70℃未満であるアクリル系ポリマーである、[3]の水性コーティング剤。
[5] 粘度が50mPa・S(25℃)以下である、[1]~[4]のいずれかの水性コーティング剤。
[6] [1]~[5]のいずれかの水性コーティング剤を、原液又は希釈して、対象面に適用することを含む、前記対象面の艶消しコーティング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐久性を有し、かつ平坦でざらつきのない表面を有する艶消し化された塗膜を形成することが可能な水性コーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において(A)「水性ポリマー」とは、水溶解性もしくは水に均一分散するポリマーであり、一般的に、ゲル化剤、増粘剤、粘稠剤、レオロジーコントロール剤、増粘安定剤、糊料等として利用されるものを挙げることができる。このような水性ポリマーとしては例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、セルロース及びその誘導体、多糖類及びその誘導体、シリカ系凝集体等が挙げられる(これらに限定はされない)。
【0012】
より詳細には、「ポリビニルアルコール」は、部分ケン化型、中間ケン化型、又は完全ケン化型のポリビニルアルコールを利用することができ、また、カルボキシル基変性、アセトアセチル基変性、シラノール変性、カチオン変性等の各種変性ポリビニルアルコールを利用することもできる。「ポリアクリル酸塩」としては、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩等を利用することができる(これらに限定はされない)。「セルロース及びその誘導体」としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースや、それらの塩や化学変性体等を利用することができる(これらに限定はされない)。「多糖類及びその誘導体」としては、例えば、グアーガム、カジブビーンガム、タラガム、タマリンドシードガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、アルギン酸、カラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、ペリチン、キチン、キトサン、キトサミンや、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、加工デンプン(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等)等の塩や変性体を利用することができる(これらに限定はされない)。「シリカ系凝集体」とは、親水性のフュームドシリカを意味し、AEROSIL(登録商標)のような市販品を利用することができる。
【0013】
本発明においては、単一の水性ポリマーを用いても良いし、あるいは一又は複数種の水性ポリマーを組み合わせて用いても良い。
【0014】
本発明において水性ポリマーは、13,200を超える、例えば、15,000以上の重量平均分子量を有するものを利用する。水性ポリマーの重量平均分子量が15,000未満である場合、対象面に適用された水性コーティング剤が乾燥して形成する膜(以下、「塗膜」と記載する)を十分に艶消し化できない場合がある。好ましくは、本発明において水性ポリマーは、74,000以上、77,000以上、又は、83,000以上の重量平均分子量を有する。水性ポリマーの重量平均分子量の上限は特に限定されないが、例えば、100,000,000以下、好ましくは10,000,000以下とすることができる。なお、本明細書中に記載される「重量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、又は水溶液の粘度測定によって求めることができる。
【0015】
本発明の水性コーティング剤には水性ポリマーを、塗膜を十分に艶消し化できる量にて含めることができる。含める水性ポリマーの量が少なすぎると十分な艶消し効果を得ることができない場合があり、一方、含める量が多すぎると当該水性コーティング剤の保存安定性や耐水性の低下を生じる場合があり、また粘度が高くなりすぎて使い勝手が悪くなる場合や、塗膜表面にムラや凹凸を生じる場合があり好ましくない。例えば、本発明の水性コーティング剤には、(B)ポリマーのエマルション100質量%に対して、水性ポリマーを純分として0.01~2.0質量%、好ましくは0.03~1.0質量%、更に好ましくは0.1~0.7質量%の範囲より選択される量にて適宜含めることができる。
【0016】
本発明において(B)「ポリマーのエマルション」とは、ポリマーの水分散体を意味する。ポリマーはフロアーポリッシュ剤やフロアコーティング剤の主剤として従来一般的に使用されているものを使用することができ、特に限定はされないが、例えば、アクリル系ポリマーやウレタン系ポリマー等が挙げられる。また、ポリエステル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、シリコン系ポリマー、フッ素系ポリマー等のエマルションも、本発明の(B)「ポリマーのエマルション」として利用することができる。これらより選択される一又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0017】
「アクリル系ポリマー」は、フロアーポリッシュ剤やフロアコーティング剤の主剤として従来一般的に使用されているものを利用することができる。特に、アクリル系ポリマーは、ガラス転移温度(以下、「Tg」と記載する)が70℃未満であることが好ましく、より好ましくは5~65℃、さらに好ましくは10~60℃である。このようなポリマーを利用することによって、造膜させるための可塑剤や皮膜形成助剤を過剰に加えることなく、形成される塗膜に耐久性を付与することができる。アクリル系ポリマーのTgが70℃を超えると、塗膜が硬く脆くなり、対象面(例えば床面)に適用した場合に追従性が悪くなる場合がある。また、Tgが5℃未満では、塗膜にブロッキング(ベタツキ)を生じる場合がある。アクリル系ポリマーの「Tg」は、従来公知の手法(すなわち、Fox式)を用いて算出することができる。このようなアクリル系ポリマーは、カルボキシル基を有するアクリル系単量体の少なくとも一種と、カルボキシル基を有さないアクリル系単量体の少なくとも一種とを、適宜組み合わせて共重合することによって得ることができる。あるいは、その一部に、アクリル系単量体以外の、他の重合性不飽和単量体を組み合わせることもできる。そして、上記他の重合性不飽和単量体において、カルボキシル基を有する単量体を用いてもよい。
【0018】
「カルボキシル基を有するアクリル系単量体」としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0019】
「カルボキシル基を有さないアクリル系単量体」としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、オクチルメタクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシポリオキシエチレンメタクリレート、ヒドロキシポリオキシエチレンアクリレート、ヒドロキシポリオキシプロピレンメタクリレート、ヒドロキシポリオキシプロピレンアクリレート、ヒドロキシポリオキシブチレンメタクリレート、ヒドロキシポリオキシブチレンアクリレート、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート等のアクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類が挙げられる。また、「カルボキシル基を有さないアクリル系単量体」の別の例としては、シクロヘキシルメタアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソボニルメタクリレート、イソボニルアクリレート等の脂肪族環状構造を有するアクリル系単量体や、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート等の芳香環状構造を有するアクリル系単量体等を挙げることができる。
【0020】
カルボキシル基を有する「他の重合性不飽和単量体」としては、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸およびマレイン酸、モノメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノブチルフマレート、シトラコン酸、無水マレイン酸等を挙げることができる。また、カルボキシル基を有さない「他の重合性不飽和単量体」の別の例としては、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン等のジエン類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、メタアクリロニトリル、アクリロニトリルおよびN-ビニルピロリドン、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メトキシスチレン、2-ヒドロキシメチルスチレン、4-エチルスチレン、4-エトキシスチレン、3,4-ジメチルスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロ-3-メチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、2,4-ジクロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、1-ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。
【0021】
「アクリル系ポリマー」は、従来公知の手法(例えば、特許第6592469号公報)に準じて、乳化剤や重合開始剤を用いた乳化重合法により上述の単量体を重合することにより調製することができる。アクリル系ポリマーは、100,000以上、例えば、300,000以上の重量平均分子量を有する。
【0022】
また、アクリル系ポリマーの酸価は、30~160となることが好ましく、より好ましくは50~150である。アクリル系ポリマーの酸価が上記の範囲よりも低いと、架橋のためのカルボキシル基の密度が低くなり、塗膜の耐久性が損なわれる場合があり、一方、上記の範囲よりも高いと、水性コーティング剤を対象面(例えば床面)に適用した場合に追従性が悪くなる場合がある。「酸価」は、試料をキシレンとジメチルホルムアミド(1/1、容積比)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により、0.1mol/Lの水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点(中和点)とする。そして、水酸化カリウム・エタノール溶液の終点までの滴定量から算出することができる。
【0023】
「ウレタン系ポリマー」は、フロアーポリッシュ剤やフロアコーティング剤の主剤として従来一般的に使用されているものを利用することができる。このようなウレタン系ポリマーは、従来公知の手法(例えば、特許第6592469号公報)に準じて、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られたものを利用することができる。ウレタン系ポリマーは、重量平均分子量が3,000~200,000であることが好ましく、3,000~100,000であることがより好ましい。
【0024】
「ポリオール」としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてよい。これらのなかでも、芳香環をもたないポリオールが、製造時や時間経過後、着色しにくいものとなり、好適である。
【0025】
上記ポリエステルポリオールは、多価カルボン酸と多価アルコールとをエステル化反応させて得られたものであり、多価カルボン酸のうち、芳香環を有さないものとしては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、イタコン酸、セバシン酸、クロレンド酸、1,2,4-ブタン-トリカルボン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、又はそのエステル化物が挙げられる。これらの多価カルボン酸又はそのエステル化物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0026】
ポリオールは、親水性基を有するポリオールであることが好ましい。上記親水性基としては、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基があげられる。そして、少なくとも親水性基としてカルボキシル基を有するものが好適に用いられる。親水性基としてカルボキシル基を有するポリオールとしては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等があげられる。これらのなかでも、2,2-ジメチロールプロピオン酸が好ましい。また、上記カルボキシル基を有するポリオールと多価カルボン酸とを反応させて得られるカルボキシル基を有するポリエステルポリオールも用いることができる。
【0027】
「ポリイソシアネート」としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0028】
「ポリエステル系ポリマー」は、多価カルボン酸とポリアルコールとを反応させて得られるポリマーであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等、ならびに市販品としては「エリーテルKT-8803」(UNITIKA社製)、「ペスレジンA-645GH」(高松油脂株式会社製)、「バイロナールMD-2000」(東洋紡株式会社製)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0029】
「エポキシ系ポリマー」は、分子中にエポキシ基を2個以上含む化合物のポリマーであり、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA/Fのジグリシジルエーテル、N,N-ジブリシジルアニリン、ポリグリコールジグリシジルエーテル等、ならびに市販品としては「アデカレジンEMシリーズ」(ADEKA社製)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0030】
「シリコン系ポリマー」はケイ素と酸素からなるシロキサン結合を骨格とし、そのケイ素にメチル基を主体とする有機基が結合したポリマーであり、側鎖に反応性のアルコキシシラン基を導入したポリマーも含まれ、例えば、市販品としては「ATW-008S」(大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0031】
「フッ素系ポリマー」は、フッ素を含むオレフィンを重合して得られるポリマーであり、例えば、フッ素系ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロエチレン-プロペンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー等、ならびに市販品としては「ルミフロンFE-4500」(AGC株式会社製)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0032】
本発明におけるポリマーのエマルションには、ポリマーを固形分濃度にして10~90重量%、好ましくは20~70重量%の量にて含めることができる。
【0033】
本発明の水性コーティング剤には、必要に応じてさらに、硬化剤(「架橋剤」とも称される)、を含めることができる。
【0034】
硬化剤は、上述のポリマーと反応して、複雑な三次元架橋構造を形成して塗膜形成に寄与することができる。硬化剤は、上述のポリマーを架橋可能なものであればよく、例えば、ポリカルボジイミド、ポリイソシアネート、多価金属化合物等を利用することができる。ポリカルボジイミドとしては、例えば、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニルカルボジイミド)等の芳香族ポリカルボジイミド;ポリ(ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂環族ポリカルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等の脂肪族ポリカルボジイミド等を利用することができる。ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。多価金属化合物とは、2価以上の金属、具体的には、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マンガン、銅、カドミウム、鉛、ビスマス、バリウム、アンチモン、ジルコニウム等の多価金属を含有する化合物であり、例えば、酸化亜鉛、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸亜鉛アンモニア、炭酸カルシウムエチレンジアミン-アンモニア、酢酸亜鉛アンモニア、アクリル酸亜鉛アンモニア、リンゴ酸亜鉛アンモニア、アラニンカルシウムアンモニア等を利用することができる。
【0035】
本発明の水性コーティング剤には硬化剤を、上述のポリマーの含有量100重量%に対して、0.5~25重量%の割合で含めることができる。
【0036】
本発明におけるポリマーのエマルションには、必要に応じてさらに、可塑剤、アルカリ可溶性樹脂、滑り調整剤、皮膜形成助剤、濡れ性向上剤を含めることができる。
【0037】
可塑剤としては、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、リン酸トリブトキシエチル等のリン酸エステル類、アジピン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル類、ペンタジオールのイソブチルエステル誘導体、塩素化パラフィン等を用いることができる。
【0038】
アルカリ可溶性樹脂としては、ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体、ロジン変性マレイン酸、スチレン-マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、シェラック等を用いることができる。
【0039】
滑り調整剤としては、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス、蜜蝋、ラノリン、鯨ロウ等の動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成炭化水素系ワックス、(酸化)ポリエチレンワックス、(酸化)ポリプロピレンワックス等の合成ワックス等およびその乳化エマルションを用いることができる。
【0040】
皮膜形成助剤としては、エタノール等のアルコール類、エチレングリコール等の多価アルコール類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート(TXIB)、テキサノール等を用いることができる。
【0041】
濡れ性向上剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、アニオン界面活性剤、脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド類、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。
【0042】
また、本発明におけるポリマーのエマルションには、必要に応じてさらに、アンモニア等のpH調整剤、防腐剤、消泡剤、抗菌剤、香料、染料、コロイダルシリカ、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等のその他の成分を含めることができる。
【0043】
本発明の水性コーティング剤は、上述の水性ポリマーとポリマーのエマルション、ならびに上述のその他の成分とを混合することによって得ることができる。混合に際し、各成分の投入・混合の順序は特に限定されず、全ての成分を同時に投入・混合してもよいし、各成分を単独でもしくは任意の組み合わせで、複数回に分けて投入・混合してもよい。
【0044】
本発明の水性コーティング剤は、25℃における粘度が50mPa・S以下であることが好ましく、より好ましくは20mPa・S以下であり、さらに好ましくは12mPa・S以下である。当該水性コーティング剤の25℃における粘度が50mPa・Sを超える場合には、対象面に対する塗布感やのびが悪くなる場合があり、これによって滑らかな表面を有する塗面を得ることができない場合や、作業効率が低下する場合がある。本発明の水性コーティング剤の粘度は、上述の水性ポリマーの配合量を増減させることにより、所望の値に調整することができる。なお、水性コーティング剤の粘度は実施例において詳述する方法により測定することができる。
【0045】
本発明の水性コーティング剤は、対象面に適用し乾燥させることで、艶消し化された塗膜を形成することができる。本発明において「艶消し」とは、前記(A)の水性ポリマーを含まず、前記(B)のポリマーのエマルションのみで形成された塗膜と比べて、形成された塗膜の60度鏡面光沢度の値が10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、又は90以上低下していることを意味する。なお、一般的に、60度鏡面光沢度が50以下である場合には光沢がない、又は光沢が抑えられていると判断することができる。例えば、60度鏡面光沢度が50程度である場合は「5部艶」又は「半艶消し」とも呼ばれ、特に、10以下である場合を「艶消し」または「全艶消し」と呼ばれている。一方、光沢が高い場合は「艶有り」又は「全艶」と呼ばれる。本発明の水性コーティング剤における塗膜の艶消し化は、基本の塗膜性能を大幅に低下させることなく、水性ポリマーの配合量を増減させることにより、所望の低光沢度を実現することができる。なお、水性コーティング剤が形成する塗膜の60度鏡面光沢度は実施例において詳述する方法により測定することができる。
【0046】
本発明の水性コーティング剤は、ビニル系、プラスチック系、石系、セメント系、木材系等、各種の材質の床や壁等の硬表面に適用することができる。
【0047】
本発明の水性コーティング剤は、スプレー塗布、ローラー塗布、ブラシ塗布、刷毛塗り、モップによる塗布等の通常の方法により対象面に適用することができる。この塗布作業において、本発明の水性コーティング剤は、原液のまま、又は水や水混和性溶剤等の適当な溶剤で希釈して、使用することができる。その他の塗布条件としての温度、湿度等の調節は、適宜乾燥機、送風機、エアコンディショナー等によって行うことができる。
【0048】
対象面に適用された本発明の水性コーティング剤は、通常、5~35℃、より好適には15~30℃で乾燥して、塗膜となって対象面をコーティングして保護する。なお、塗膜の形成過程において、水分の蒸発を促進させるために、送風手段、加熱手段のいずれかの使用または両者の併用を適宜行うことができる。これにより、塗膜形成の時間が調整しやすくなるが、加熱手段は、あくまでも水分の蒸発のためのものであって、塗膜形成のために加熱を必須構成要件とするものではない。
【0049】
このようにして得られる本発明の水性コーティング剤の塗膜は、上述のとおり、光沢がない、もしくは光沢が抑えられた艶消し化されたものである。
【実施例
【0050】
以下、本発明の水性コーティング剤について、実施例と比較例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
I.材料
1.水性ポリマー
・ポリビニルアルコール(PVA)
(1)JP18:日本酢ビ・ポバール株式会社、部分ケン化型PVA(ケン化度87.0-89.0モル%)、重合度1,700(重量平均分子量83,400)、10%水溶液で用いた。
(2)JF17L:日本酢ビ・ポバール株式会社、完全ケン化型PVA(ケン化度98.0-99.0モル%)、重合度1,700(重量平均分子量74,800)、10%水溶液で用いた。
(3)JC33:日本酢ビ・ポバール株式会社、完全ケン化型PVA(ケン化度99.0モル%以上)、重合度3,300(重量平均分子量145,200)、10%水溶液で用いた。
(4)JC40:日本酢ビ・ポバール株式会社、完全ケン化型PVA(ケン化度99.0-99.5モル%)、重合度4,000(重量平均分子量176,000)、5%水溶液で用いた。
(5)JP45:日本酢ビ・ポバール株式会社、部分ケン化型PVA(ケン化度86.5-89.5モル%)、重合度4,500(重量平均分子量220,700)、5%水溶液で用いた。
(6)JC25:日本酢ビ・ポバール株式会社、完全ケン化型PVA(ケン化度99.0モル%以上)、重合度2,500(重量平均分子量110,000)、10%水溶液で用いた。
・ポリアクリル酸系ポリマー(PAA)
(7)ポリアクリル酸アンモニウム:A-30:東亞合成株式会社、重量平均分子量10万、30%水溶液で用いた。
・ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)
(8)セルニーL:日本曹達株式会社、重量平均分子量140,000、5%水溶液で用いた。
【0052】
2.比較用のポリマー
ア)低分子量の水性ポリマー
JF03:日本酢ビ・ポバール株式会社、完全ケン化型PVA(ケン化度98.0-99.0モル%)、重合度300(重量平均分子量13,200)、5%水溶液で用いた。
イ)非水分散性の有機ポリマー微粒子粉末
・ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
タフチックAR750SQ:日本エクスラン工業株式会社、平均粒子径18μmの有機球状微粒子、粉末で添加した。
タフチックAR750SSQ:日本エクスラン工業株式会社、平均粒子径8μmの有機球状微粒子、粉末で添加した。
【0053】
3.ポリマーのエマルション
ポリマーを含むエマルションとして、従来公知の標準フロアーポリッシュ(例えば、特許第6592469号公報、特許第3942044号公報等)に準じた下記表1に示す組成にてエマルションA~Eを利用した。表中の各成分の量は質量%にて示され、原料名の括弧内の数値は固形分濃度%を示す。表中の各成分は有姿での配合量を示す。
【0054】
【表1】
なお、表中の各原料は以下のものを用いた。
【0055】
【表2】
【0056】
II.試験方法・結果
下記表3-1~3-5に示す組成にて、実施例1~43及び比較例1~9の水性コーティング剤を調製し、その粘度、60度鏡面光沢度、外観、及び耐水性について評価した。その結果を表3-1~3-5に併記する。表中の各成分の量(質量)は、(B)エマルションの質量を100質量%にて示し、それに(A)水性ポリマーを所定の割合で含めた。(A)水性ポリマーの量は純分にて示す。
【0057】
各項目の試験方法および評価基準は以下に示すとおりである。
[粘度]
各水性コーティング剤の25℃における粘度を、JIS K-3920(フロアーポリッシュ試験方法)に準拠し、単一円筒粘度計、スピンドル#1、ガード付き、60rpm、1分で測定した。
<評価基準>
計測された値より、以下のとおり判定した。
◎:12mPa・S以下
〇:20mPa・S以下
△:50mPa・S以下
×:50mPa・Sを超える
【0058】
[耐水性]
耐水性はJIS K-3920(フロアーポリッシュ試験方法)に準じて評価した。すなわち、所定のコンポジションビニル床タイル(KT)を試験基材とし、これを洗浄・乾燥させた。試験基材を水平に置き、これに水性コーティング剤を10±2mL/m2となる量で移し、医療ガーゼで均一に塗り広げた。1回目の塗布後、30分以上乾燥させてから2回目を塗布し、同様にして3回目を塗布し、塗布後24時間経過したものを試験片として用いた。
【0059】
試験片の中央部に0.1mLの水を滴下して、ペトリ皿で覆い、1時間静置した後にペトリ皿を除き、試験片に残っている水滴を柔らかな布等で吸い取ってから1時間又は2時間放置し、試験片の白化状態を目視で判定した。
<評価基準>
◎:白化現象なし(高い耐水性を示す)
〇:白化現象わずかにあり(30cm離れた目視にて、わずかにわかる)
△:白化現象少しあり(2m離れた目視にて、わずかにわかる)
×:白化現象あり(耐水性なし。2m離れた目視にて、はっきりわかる)
【0060】
[60度鏡面光沢度]
60度鏡面光沢度はJIS K-3920(フロアーポリッシュ試験方法)に準じて評価した。すなわち、上記試験片の光沢を、入射角と受光角が60°のときの反射率を測定して、鏡面光沢度の基準面の光沢度を100としたときの百分率で表した。
<評価基準>
〇:同一のエマルションのみを含む場合に得られた測定値と比べて10以上低下した
×:同一のエマルションのみを含む場合に得られた測定値と比べて10未満低下、又は低下しなかった
【0061】
[塗膜外観]
試験片の外観を目視で判定した。
<評価基準>
〇:ざらつきやムラが認められない
△:塗装スジのムラが認められる
×:ざらつきやムラが認められる
【0062】
【表3-1】
【0063】
【表3-2】
【0064】
【表3-3】
【0065】
【表3-4】
【0066】
【表3-5】
【0067】
上記結果に示すとおり、ポリマーを含むエマルションに水性ポリマーを添加することにより、フロアーポリッシュとしての特性、すなわち、粘度、耐水性等を損なうことなく、塗膜を艶消し化できることが確認された。
【0068】
また、従来の微粉ケイ酸等の艶消剤がつくりだす艶消状態とは異なり、塗膜表面に凹凸やムラは認められず(目視にて)、またざらつきも感じられない、平滑な表面を形成できることが確認された。
【0069】
一方で、非水分散性の有機ポリマー微粒子粉末を光沢度が50以下になるのに必要な量にて添加した場合(比較例8、比較例9)には、塗布した場合に艶消し化された塗膜を形成できたが、その表面はムラがあり、ざらつきも感じられ良好な平滑表面は得られなかった。
【0070】
また、水性ポリマーであっても分子量が小さい場合(比較例5、比較例6)には、塗膜の艶消し効果を得られないことが確認された。