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特許7531881流量制御システム、流量制御システムの制御方法、流量制御システムの制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】流量制御システム、流量制御システムの制御方法、流量制御システムの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020053123
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152786
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【弁理士】
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 喜幹
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【弁理士】
【氏名又は名称】狩生 咲
(72)【発明者】
【氏名】グエン プゥ トゥ
(72)【発明者】
【氏名】北野 真史
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/151647(WO,A1)
【文献】特開2018-096848(JP,A)
【文献】特開2012-033188(JP,A)
【文献】特表2013-527520(JP,A)
【文献】特開2017-219444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被制御対象に供給される流体の流量を制御して所望の流量設定値に保つ流量制御装置を含む流量制御システムであって、
前記流体の流量を計測する流量センサと、
前記流量制御装置の1次側の圧力を計測する圧力センサと、
少なくとも前記流体の物性値に応じた物性値係数と、前記流量センサの種類に応じたセンサ固有値と、に基づいてPI校正値を決定するPI校正値決定部と、
前記PI校正値および前記圧力センサの計測値に基づいて、前記流量センサによる推定流量の補正を行う補正部と、
前記補正部により補正された推定流量に基づいて、前記被制御対象に前記流体を供給するバルブの開度を調整し、前記流体の流量が前記流量設定値になるように制御する駆動制御回路と、
前記流量センサの計測値のデジタルゲインを変更することで、前記流量センサで計測される流量の計測レンジを変更するレンジ変更部と、
を備える、
流量制御システム。
【請求項2】
前記PI校正値決定部は、少なくとも前記流体の物性値係数と、前記センサ固有値と、基準ガスの物性値に応じた物性値係数と、によりPI校正値を決定する、
請求項1記載の流量制御システム。
【請求項3】
前記流体の物性値係数を取得する物性取得部と、
前記流量制御装置において、前記補正に用いる前記PI校正値を格納する格納部と、
をさらに備え、
前記格納部に格納されるPI校正値は、取得される前記流体の物性値係数に応じて変更可能である、
請求項1又は2記載の流量制御システム。
【請求項4】
前記PI校正値決定部は、前記流体の種類および前記PI校正値が互いに対応付けられる校正値テーブルを参照し、前記格納部に格納されるPI校正値を決定する、
請求項3記載の流量制御システム。
【請求項5】
前記流量センサは、熱式流量センサである、
請求項1乃至のいずれかに記載の流量制御システム。
【請求項6】
被制御対象に供給される流体の流量を制御して所望の流量設定値に保つ流量制御装置を含む流量制御システムの制御方法であって、
前記流量制御装置は、
前記流体の流量を計測する流量センサと、
前記流量制御装置の1次側の圧力を計測する圧力センサと、
前記流量センサの計測値のデジタルゲインを変更することで、前記流量センサで計測される流量の計測レンジを変更するレンジ変更部と、
を備え、
少なくとも前記流体の物性値に応じた物性値係数と、前記流量センサの種類に応じたセンサ固有値と、に基づいてPI校正値を決定するステップと、
前記PI校正値および前記圧力センサの計測値に基づいて、前記流量センサによる推定流量の補正を行うステップと、
前記補正を行うステップにより補正された推定流量に基づいて、前記被制御対象に前記流体を供給するバルブの開度を調整し、前記流体の流量が前記流量設定値になるように制御するステップと、
を含む、
流量制御システムの制御方法。
【請求項7】
被制御対象に供給される流体の流量を制御して所望の流量設定値に保つ流量制御装置を含む流量制御システムの制御プログラムであって、
前記流量制御システムは、
前記流体の流量を計測する流量センサと、
前記流量制御装置の1次側の圧力を計測する圧力センサと、
前記流量センサの計測値のデジタルゲインを変更することで、前記流量センサで計測される流量の計測レンジを変更するレンジ変更部と、
を備え、
少なくとも前記流体の物性値に応じた物性値係数と、前記流量センサの種類に応じたセンサ固有値と、に基づいてPI校正値を決定する命令と、
前記PI校正値および前記圧力センサの計測値に基づいて、前記流量センサによる推定流量の補正を行う命令と、
前記補正を行う命令により補正された推定流量に基づいて、前記被制御対象に前記流体を供給するバルブの開度を調整し、前記流体の流量が前記流量設定値になるように制御する命令と、
をコンピュータに実行させる、
流量制御システムの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御システム、ならびにその制御方法および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハの表面に薄膜を形成する成膜処理においては薄膜の微細化が求められ、近年では原子レベルや分子レベルの厚さで薄膜を形成するALD (Atomic Layer Deposition)という成膜方法が使われている。薄膜の微細化に伴い流量制御装置の高精度化が求められている。
【0003】
ここで、同一ラインに接続される流量制御装置が複数並列されてなる装置において、1次側に設けられる圧力センサの計測値を用いて、他の流量制御装置の脈動による1次圧変動の影響を除去した上で流量制御を行う圧力不感応型流量制御装置(PI-MFC;Pressure insensitive - Mass Flow Controller)が知られている。
【0004】
特許文献1には、圧力センサと組み合わされた熱質量流量センサを含む質量流量コントローラであって、圧力センサが絞りとコントロールバルブの間に設けられ、測定された圧力を用いて入口流率を補償することで、圧力の揺らぎに鈍感な質量流量制御の方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2005-531069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1台で複数種類のガスに対応するマルチガスマスフローコントローラにおいては、1次圧変動の影響を流体の種類に関わらず適切に除去できることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、圧力不感応型の流量制御装置において、流体の種類に関わらず流量を正確に求めることを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の観点に係る流量制御システムは、被制御対象に供給される流体の流量を制御して所望の流量設定値に保つ流量制御装置を含む流量制御システムであって、前記流体の流量を計測する流量センサと、前記流量制御装置の1次側の圧力を計測する圧力センサと、少なくとも前記流体の物性値に応じた物性値係数に基づいてPI校正値を決定するPI校正値決定部と、前記PI校正値および前記圧力センサの計測値に基づいて、前記流量センサによる推定流量の補正を行う補正部と、前記補正部により補正された推定流量に基づいて、前記被制御対象に前記流体を供給するバルブの開度を調整し、前記流体の流量が前記流量設定値になるように制御する駆動制御回路と、を備える。
【0009】
前記PI校正値決定部は、少なくとも前記流体の物性値係数と、基準ガスの物性値に応じた物性値係数と、によりPI校正値を決定するものとしてもよい。
【0010】
前記流体の物性値係数を取得する物性取得部と、前記流量制御装置において、前記補正に用いる前記PI校正値を格納する格納部と、をさらに備え、前記格納部に格納されるPI校正値は、取得される前記流体の物性値係数に応じて変更可能であるものとしてもよい。
【0011】
PI校正値決定部は、前記流体の種類および前記PI校正値が互いに対応付けられる校正値テーブルを参照し、前記格納部に格納されるPI校正値を決定するものとしてもよい。
【0012】
前記流量センサで計測される流量の計測レンジを変更するレンジ変更部をさらに備えるものとしてもよい。
【0013】
前記PI校正値決定部は、前記流量センサの種類に応じたセンサ固有値に基づいてPI校正値を決定するものとしてもよい。
【0014】
前記流量センサは、熱式流量センサであるものとしてもよい。
【0015】
本発明の別の観点に係る流量制御システムの制御方法は、被制御対象に供給される流体の流量を制御して所望の流量設定値に保つ流量制御装置を含む流量制御システムの制御方法であって、前記流量制御装置は、前記流体の流量を計測する流量センサと、前記流量制御装置の1次側の圧力を計測する圧力センサと、を備え、少なくとも前記流体の物性値に応じた物性値係数に基づいてPI校正値を決定するステップと、前記PI校正値および前記圧力センサの計測値に基づいて、前記流量センサによる推定流量の補正を行うステップと、前記補正を行うステップにより補正された推定流量に基づいて、前記被制御対象に前記流体を供給するバルブの開度を調整し、前記流体の流量が前記流量設定値になるように制御するステップと、を含む、流量制御システムの制御方法。
【0016】
本発明のさらに別の観点に係る流量制御システムの制御プログラムは、被制御対象に供給される流体の流量を制御して所望の流量設定値に保つ流量制御装置を含む流量制御システムの制御プログラムであって、前記流量制御システムは、前記流体の流量を計測する流量センサと、前記流量制御装置の1次側の圧力を計測する圧力センサと、を備え、少なくとも前記流体の物性値に応じた物性値係数に基づいてPI校正値を決定する命令と、前記PI校正値および前記圧力センサの計測値に基づいて、前記流量センサによる推定流量の補正を行う命令と、前記補正を行う命令により補正された推定流量に基づいて、前記被制御対象に前記流体を供給するバルブの開度を調整し、前記流体の流量が前記流量設定値になるように制御する命令と、をコンピュータに実行させる。
【0017】
なお、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードによって提供したり、コンピュータ読み取り可能な各種の記録媒体に記録して提供したりすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧力不感応型の流量制御装置において、流体の種類に関わらず流量を正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明にかかる第1実施形態の流量制御システムが有するインターフェース装置、校正値決定装置および流量制御装置の概略構成図および機能ブロック図である。
図2】上記流量制御装置の全体概略図である。
図3】上記流量制御装置の流量センサにより流量を推定した様子を示すグラフであって、(a)圧力センサによる計測値の推移、および流量センサの計測値を、上記流量制御システムが決定するPI校正値により補正して得られた推定流量の推移を示すグラフ、(b)流量設定値が変更されたときの、流量の推移の様子を示すグラフである。
図4】上記流量制御システムがPI校正値を決定するフローチャートである。
図5】上記流量制御システムが上記PI校正値を参照して計測値を補正し、流量制御を行うフローチャートである。
図6】本発明にかかる流量制御システムの第2実施形態を示す全体概略図である。
図7】関連技術の流量制御装置による流量制御の様子を示すグラフであって、(a)流量センサにより推定した流量の1例を示すグラフ、(b)流量設定値が変更されたときに、上記流量センサの計測値に基づいて制御された様子を示すグラフである。
図8】別の関連技術の流量制御装置において、流量センサに基づく推定流量の様子を示すグラフであって、(a)六フッ化硫黄ガスを制御させているときの様子、(b)アルゴンガスを制御させているときの様子である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる流量制御システム、ならびにその制御方法および制御プログラムの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
●流量制御システムの概要
流量制御システム100は、被制御対象内の流量が流量設定値に保持されるように制御するシステムである。
図1に示すように、流量制御システム100は、例えば、インターフェース装置10、校正値決定装置20および流量制御装置30がネットワークNW1、NW2を通じて互いに接続されて構成される。NW1およびNW2は、データの送受信を可能とするためのものであれば特に限定されず、赤外線通信、ZigBee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、LAN(Local Area Network)、所定の専用回線や通信ケーブルなどによって構成され、有線又は無線のいずれであるかを問われることもない。また、NW1およびNW2は、データの送受信が一時的に可能なものも含む。
【0022】
●流量制御装置30の物理的構成
図2に示すように、流量制御装置30は、バルブボディ101、流量センサ102、圧力センサ103、制御部104、およびバルブ105を備える。流量制御装置30は、流量センサ102により流体の流量を計測した上で、1次圧変動を計測する圧力センサ103の値で流量を補正する、圧力不感応型流量制御装置である。
【0023】
バルブボディ101は、ステンレス等の鋼材により構成され、外形が直方体形状の部材である。バルブボディ101は、被制御対象に供給される流体の供給路上にあり、バルブボディ101の上流は上流流路101a、下流は下流流路101bとなっている。上流流路101aの上流側および下流流路101bの下流側は、制御対象の流体が流れる管にそれぞれ接続されている。
【0024】
上流流路101aは、上流側から流体が流入する流路である。上流流路101aは途中で、流量センサ102を通る流路、すなわちセンサチューブ102aとバイパス流路101cとに分岐した後に合流し、バルブ105へと流出する。バルブ105は、上流流路101aと下流流路101bとの間を連通する開度等が制御可能な弁体であり、例えばボイスコイルによって駆動される電磁弁である。下流流路101bは、上流側からバルブ105により流量制御された流体が流入し、流量制御装置30の下流側、すなわち被制御対象に流出するように構成されている。
【0025】
流量センサ102は、センサチューブ102aに流れる流体の流量を計測するセンサである。流量センサ102は、例えば熱式流量センサであり、センサチューブ102aの上流および下流に発熱抵抗体102b、102cを有していて、発熱抵抗体102b、102cの温度の違いに基づいて、センサチューブ102aに流れる流体の流量を電圧に変換する。バイパス流路101cに流れる流量とセンサチューブ102aに流れる流量の割合は既知であるので、センサチューブ102aに流れる流量を計測することにより、上流流路101aの流量を算出することができる。
【0026】
圧力センサ103は、上流流路101a中に配置され、流量制御装置30の1次側の圧力を計測するセンサである。
【0027】
複数ラインに同一の流体を流入させる際、並列する別の流量制御装置の脈動の影響を受けて、1次側の圧力は大きく変動する。この1次圧変動は、流量センサ102の計測値の誤差を引き起こす。そこで、流量制御装置30においては、1次側の圧力を測定する圧力センサ103が配置され、当該圧力センサ103の計測値に基づいて流量センサ102の計測値を補正し、別の流量制御装置の脈動による急激な1次圧変動の影響を抑制することができる。
【0028】
制御部104は、流量設定値を取得し、流量センサ102の計測値および流量設定値に基づいてバルブ105を制御する装置であり、例えば電子基板により構成されている。制御部104は、外部の流量設定装置に有線又は無線により接続されていて、当該流量設定装置から流量設定値を取得してもよい。制御部104は、例えばフィードバック制御を行うことにより、下流流路101bから排出される流量が流量設定値となるように、バルブ105の開度を制御する。
【0029】
●インターフェース装置10
図1に示すように、インターフェース装置10は、流量制御システム100の管理者が操作する端末であり、例えばパーソナルコンピュータである。インターフェース装置10は、実ガスの種類又は物性値に関する情報や、流量制御装置30に含まれる流量センサ102の種類等の入力を受け付ける。また、インターフェース装置10は、表示部を備え、入力された情報および現在の流量等の情報が表示される。
【0030】
●校正値決定装置20
校正値決定装置20は、実際に使用される制御対象の流体、すなわち実ガスの物性値に応じた物性値係数に基づいて、圧力センサ103による流量センサ102の補正値の程度を校正するPI校正値を決定する機能部である。校正値決定装置20は、記憶部21と、物性取得部22と、PI校正値決定部23と、を備える。
【0031】
記憶部21は、PI校正値を決定するために必要なデータが格納される機能部である。記憶部21は、例えば、流体の種類と物性値係数とが対応付けられる物性値係数テーブルを格納している。記憶部21は、これに加えて、又は代えて、流体の種類およびPI校正値が互いに対応付けられる校正値テーブルを格納していてもよい。また、記憶部21は、PI校正値の算出の基準となる基準ガスの物性値係数、および基準ガスのPI校正値を記憶している。基準ガスは、例えば、窒素ガスである。
【0032】
物性取得部22は、被制御対象である流体の物性値係数を取得する機能部である。物性値係数は、流体の1又は複数の物性値に基づいて、流体の種類ごとに算出される係数である。物性取得部22は、例えばインターフェース装置10に入力される流体の物性に基づいて、物性値係数を計算してもよい。また、物性取得部22は、記憶部21に格納される物性値係数テーブルを参照し、インターフェース装置10に入力される流体の種類に基づいて物性値係数を取得してもよい。
【0033】
PI校正値決定部23は、少なくとも流体の物性値に応じた物性値係数に基づいてPI校正値を決定する機能部である。
【0034】
PI校正値決定部23は、少なくとも実ガスの物性値係数Qgasと、基準ガスの物性値に応じた物性値係数と、により、制御対象の流体、すなわち実ガスのPI校正値PIgasを算出してもよい。また、PI校正値決定部23は、流量センサの種類に応じたセンサ固有値Mに基づいてPI校正値を決定する。すなわち、基準ガスが窒素ガスであるとき、以下の式で表される。
・・・(1)
ここで、QN2は窒素ガスの物性値係数、PIN2は、窒素ガスのPI校正値である。この構成によれば、実ガスを実際に流して調整しなくてもPI校正値を得ることができ、簡便に正確な流量制御を実現できる。
【0035】
また、PI校正値決定部23は、窒素ガスに対する実ガスの流量補正係数(コンバージョンファクター)CFを取得し、流量補正係数CFに基づいて以下の式により求めてもよい。
・・・(2)
【0036】
また、PI校正値決定部23は、流体の種類およびPI校正値が互いに対応付けられる校正値テーブルを参照し、インターフェース装置10に入力される流体の種類に基づいて、流量制御装置30が有する後述する格納部32に格納されるPI校正値を決定してもよい。この構成によれば、演算の処理負担が軽減される。
【0037】
PI校正値決定部23は、決定したPI校正値を、ネットワークNW2を介して流量制御装置30に送信し、格納部32がこれを記憶する。
【0038】
●流量制御装置30内部の回路構成
図1に示すように、流量制御装置30は、主として、流体情報取得機構31、制御部104および駆動制御回路35により構成される。
【0039】
流体情報取得機構31は、流量センサ102および圧力センサ103の計測値を取得する機能部である。
【0040】
制御部104は、流量設定装置からの流量設定値、流量センサ102の計測値、および圧力センサ103の計測値を取得し、駆動制御回路35がバルブ105の駆動を制御するために参照する信号を出力する装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)である。流量センサ102により計測された信号は、増幅およびフィルタリングするセンサ回路、およびデジタル化するA/D変換回路等を介して制御部104に入力されてもよい。制御部104からの出力信号は、D/A変換回路を介してアナログ化され、駆動制御回路35に入力されてもよい。駆動制御回路35は、制御部104からの信号に応じてバルブ105を制御する。
【0041】
●制御部104の機能ブロック
制御部104は、ソフトウェア資源として少なくとも、格納部32、補正部33およびレンジ変更部34を備える。
【0042】
格納部32は、校正値決定装置20により決定されるPI校正値を格納する機能部である。格納部32は、記録内容が上書き可能なメモリ等により構成されている。すなわち、格納部32に格納されるPI校正値は、変更可能である。この構成によれば、流体の種類が変更されるマルチガス対応の流量制御システムにおいても、校正値決定装置20と都度通信を行うことなく、適切なPI校正値を使用して流量を制御することができる。
【0043】
補正部33は、圧力センサ103の計測値およびPI校正値に基づいて、流量センサ102の計測値を補正する機能部である。補正部33は、この流量制御装置30又は並列される流量制御装置30の流量設定値が変化した後の過渡状態において、圧力センサ103の計測値に基づく補正を行う。流量設定値が変化すると、1次圧変動が大きくなり、圧変動による流量センサ102の計測誤差が大きくなるためである。
【0044】
補正部33は、格納部32に格納されるPI校正値を参照して補正を行うため、補正処理の度に校正値決定装置20と通信する必要がなく、通信負荷が少ない。駆動制御回路35は、補正部33により生成される推定流量に基づいて、推定流量が流量設定値となるように、バルブ105の駆動を制御する。
【0045】
レンジ変更部34は、流量制御装置30の計測レンジを変更する機能部である。レンジ変更部34は、流量センサ102の計測値のデジタルゲインを変更することで、計測レンジを変更する。この構成によれば、マルチレンジの流量制御システムが実現でき、様々な流量範囲の流量制御が可能である。
【0046】
ここで、図3図7および図8を用いて、本発明に係る流量制御システム100による制御の様子を説明する。図7(a)および(b)は、関連技術における流量制御装置であって、PI校正値による補正を行わない場合の制御の様子を示すグラフである。図7(a)においては、流量センサ102による推定流量は、別途の圧力センサで求めた実流量と大きく異なっている。その結果、図7(b)に示すように、特に流量設定値が変更された過渡状態において流量が大きく変化し、流量が流量設定値に収束するまでに時間を要している。
【0047】
また、図8に示すように、圧力不感応型の補正態様に関し、PI校正値を窒素ガスで求めた値とし、流体の種類に応じて変更しない場合、6フッ化硫黄ガスおよびアルゴンガスを実ガスとして流した場合には、流量センサの値が実流量と大きくずれる。
【0048】
図3(a)は、流量センサ102の補正後の計測値と、別途の圧力センサに基づく流量推定値とを示すグラフである。図3(a)に示すように、流量センサ102の補正後の推定流量は、圧力センサにより得られる実流量とよく重なっている。また、図3(b)は、流量設定値が図中略中央において変更されたときの制御の様子を示すグラフである。同図に示すように、流量制御システム100によれば、流量設定値が変更された過渡状態においても、流量の大きな変化が抑制され、迅速かつ正確に流量を流量設定値に収束させることができる。
【0049】
なお、上述の実施形態においては、校正値決定装置20と流量制御装置30がネットワークNW2で接続されている構成について説明したが、図6に示されるように、流量制御装置30自身が校正値決定装置20を備える構成であってもよい。この構成によれば、PI校正値を変更するときの通信負荷が軽減される。また、校正値決定装置20の機能の一部又は全部がインターフェース装置10に設けられていてもよい。
【0050】
●PI校正値を決定するフローチャート
図4に示すように、まず、流体の物性値係数を取得する(S1)。次いで、センサ固有値を読み出し(S2)、流体の物性値係数、基準ガスの物性値係数、およびセンサ固有値に基づいて、PI校正値を決定する(S3)。
【0051】
●流量を制御するフローチャート
図5に示すように、まず、流量センサ102および圧力センサ103の計測値を取得する(S11)。次いで、格納部32からPI校正値を読み出す(S12)。読み出したPI校正値に基づいて、流量センサ102の計測値を補正する(S13)。次いで、補正された流量センサ102の計測値および圧力センサ103の計測値に基づいて、流量を推定し、流量を制御する(S14)。なお、ステップS13およびS14に替えて、PI校正値、流量センサ102の計測値および圧力センサ103の計測値に基づいて流量を推定してもよい。
【0052】
このように、本発明にかかる流量制御システムによれば、圧力不感応型の流量制御装置において、流体の種類に関わらず流量を正確に求めることができる。
【符号の説明】
【0053】
100 流量制御システム
20 校正値決定装置
23 PI校正値決定部
30 流量制御装置
33 補正部
102 流量センサ
103 圧力センサ
105 バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8