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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】TGF-βを含む組織の線維化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/19 20060101AFI20240805BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240805BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240805BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20240805BHJP
   C12N 15/19 20060101ALN20240805BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240805BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
A61K38/19 ZNA
A61K48/00
A61K35/12
A61P43/00 105
A61P9/04
A61P13/12
A61P9/14
A61P3/10
A61P9/12
A61P31/18
A61P13/02
A61P11/00
A61P1/16
A61P9/10 101
A61P17/00
A61P13/10
A61P17/02
A61P39/02
C12N15/19
C12N5/10
C12N15/63 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020130301
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026709
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】服部 文幸
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-543757(JP,A)
【文献】特表2015-527307(JP,A)
【文献】特開2005-290009(JP,A)
【文献】LIN, Xianchai, et al.,Molecular Vision,2018年,Vol. 24,pp. 789-800
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
A61K 35/00-35/768
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、組織の線維化抑制剤:
(1)TGF-β1
(2)TGF-β1をコードする塩基配列を含む核酸、または
(3)TGF-β1を分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞。
【請求項2】
TGF-β1を分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞が、投与対象に由来する細胞である、請求項1に記載の線維化抑制剤。
【請求項3】
TGF-β1を分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞が、TGF-β1をコードする塩基配列を含む核酸を導入された、線維化が抑制される対象となる組織の細胞である、請求項1または2に記載の線維化抑制剤。
【請求項4】
TGF-β1をコードする塩基配列を含む核酸を導入された、線維化が抑制される対象となる組織の細胞が、TGF-β1をコードする塩基配列を含む核酸を導入された多能性幹細胞から分化した、線維化が抑制される対象となる組織の細胞である、請求項3に記載の線維化抑制剤。
【請求項5】
TGF-β1をコードする塩基配列を含む核酸が、TGF-β1をコードする塩基配列を含む発現ベクターである、請求項1~4のいずれか1項に記載の線維化抑制剤。
【請求項6】
TGF-β1が、配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の線維化抑制剤。
【請求項7】
TGF-β1が、細胞外マトリクスに局在するための機能ドメインをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の線維化抑制剤。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の線維化抑制剤を含む、組織の線維化に起因する疾患の予防または治療剤。
【請求項9】
組織の線維化に起因する疾患が、慢性心不全、拡張型心筋症、肥大型心筋症、組織に対する侵襲による局所的線維化、急性腎不全、糸球体腎炎、血管炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、HIV腎症、IgA腎症、ループス腎炎、間質性腎炎、尿管閉塞による閉塞腎、肺線維症、肝硬変、動脈硬化症、強皮症、経皮経管冠動脈血管拡張術(PTCA)後の冠動脈再狭窄、間質性心筋炎、間質性膀胱炎、熱傷後の皮膚瘢痕化、または中毒に伴う線維症である、請求項に記載の予防または治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Transforming Growth Factor β (TGF-β)(またはTGF-βをコードする塩基配列を含む核酸、TGF-βを分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞)を含む、組織の線維化抑制剤に関する。本発明はまた、TGF-β(またはTGF-βをコードする塩基配列を含む核酸、TGF-βを分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞)を含む、組織の線維化に起因する疾患の予防または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
線維化は内臓などの組織を構成している結合組織と呼ばれる部分が異常増殖する現象のことで、肺、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、血管など各種組織、臓器において起こり、疾患の原因となることが知られている。たとえば、心筋に線維化が生じたときには心臓の働きに異常が起き、呼吸困難や心悸亢進(動悸)などの症状が出る。また関節リウマチにおける骨の萎縮や変性、肝臓全体の線維化を示す肝硬変の病態なども、結合組織が異常増殖すなわち線維化した例としてよく知られている。腎臓においても線維化によって間質の肥大が起こり、尿細管の壊死あるいは減少により最終的には腎不全へと進行する。組織の線維化は組織中に存在する線維芽細胞の細胞外マトリクスの異常産生がおもな原因となる。
【0003】
TGF-βは、主に3種のアイソフォーム(TGF-β1~β3)及び白血球細胞系譜により産生される他の多くのシグナル伝達タンパク質を含むトランスフォーミング増殖因子スパーファミリーに属する多機能性のサイトカインである。活性化したTGF-βは、1型及び2型の受容体サブユニットからなるTGF-β受容体に結合する。TGF-βが結合すると、2型受容体キナーゼが1型受容体キナーゼをリン酸化して活性化し、それによってシグナル伝達カスケードが活性化され、分化、遊走、増殖、免疫細胞の活性化などに機能する種々の標的遺伝子の転写を含む、下流因子の活性化が引き起こされる。TGF-βは、線維化促進因子としても広く認知され、従来よりTGF-βの線維化促進作用に関する多くの報告がなされている(非特許文献1~3)。このため、臓器の線維化に対する治療には、現在コルチコステロイドなどの一般的な免疫抑制薬剤、抗炎症剤の使用に加えて、TGF-βの抑制剤の併用が検討されてきた。このようなTGF-βの発現や機能を抑制することによって線維化を抑制するという戦略は、TGF-βが線維化促進のエフェクターであるとの解釈に基づくものである。しかし、TGF-βの抑制剤を抗線維化薬として開発しようとする取り組みは成功を成しておらず、創薬ターゲットとしての妥当性を満たしているとは言えない。したがって、線維化を減少させあるいは防止することを含めて、線維性障害を調節する新しい治療を開発する必要性がなおも存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J Dermatol Sci. 2018 May;90(2):199-208.
【文献】Sci Transl Med. 2018 Sep 26;10(460)
【文献】J Biomed Sci. 2018 Aug 16;25(1):63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、組織の線維化に対するTGF-βの関わりを検証し、効果が高い新たな線維化抑制剤、および線維化に起因する疾患の新たな予防または治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、線維芽細胞を培養皿に播種し、培養した後、細胞層に模擬傷を作り、TGF-β存在下でさらに培養を行った。その結果、本発明者は、模擬傷の治癒はコントロールに比べて有意に遅延し、さらにコラーゲン線維の架橋に必要な酵素Prolyl 4-Hydroxylaseおよびcollagen3型の発現量も減少することを確認した。また、マウス心室にTGF-βを含むゲルを注入し、2週間後に摘出した心室の凍結切片を顕微鏡観察した。その結果、本発明者は、予想外にも、TGF-βを含むゲルを注入したマウスでは、コントロールに比べて、ゲル内へ細胞の浸潤が有意に減少し、線維化も減少することを確認した。また、本発明者は、マウスの肺に線維化誘発剤(Bleomycin)を噴霧した場合、組織染色では肺の線維化が確認されたが、TGF-βを含む線維化誘発剤を肺に噴霧されたマウスでは、線維化が有意に抑制されることを確認した。以上の発見から、本発明が完成されるに至った。即ち、本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1]以下を含む、組織の線維化抑制剤:
(1)TGF-β、
(2)TGF-βをコードする塩基配列を含む核酸、または
(3)TGF-βを分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞。
[2]TGF-βを分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞が、投与対象に由来する細胞である、[1]に記載の線維化抑制剤。
[3]TGF-βを分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞が、TGF-βをコードする塩基配列を含む核酸を導入された、線維化が抑制される対象となる組織の細胞である、[1]または[2]に記載の線維化抑制剤。
[4]TGF-βをコードする塩基配列を含む核酸を導入された、線維化が抑制される対象となる組織の細胞が、TGF-βをコードする塩基配列を含む核酸を導入された多能性幹細胞から分化した、線維化が抑制される対象となる組織の細胞である、[3]に記載の線維化抑制剤。
[5]TGF-βをコードする塩基配列を含む核酸が、TGF-βをコードする塩基配列を含む発現ベクターである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の線維化抑制剤。
[6]TGF-βが、TGF-β1である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の線維化抑制剤。
[7]TGF-β1が、配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含む、[6]に記載の線維化抑制剤。
[8]TGF-βが、細胞外マトリクスに局在するための機能ドメインをさらに含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の線維化抑制剤。
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載の線維化抑制剤を含む、組織の線維化に起因する疾患の予防または治療剤.
[10]組織の線維化に起因する疾患が、慢性心不全、拡張型心筋症、肥大型心筋症、組織に対する侵襲による局所的線維化、急性腎不全、糸球体腎炎、血管炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、HIV腎症、IgA腎症、ループス腎炎、間質性腎炎、尿管閉塞による閉塞腎、肺線維症、肝硬変、動脈硬化症、強皮症、経皮経管冠動脈血管拡張術(PTCA)後の冠動脈再狭窄、間質性心筋炎、間質性膀胱炎、熱傷後の皮膚瘢痕化、または中毒に伴う線維症である、[9]に記載の予防または治療剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、TGF-βを含む、組織の線維化抑制剤、あるいは組織の線維化に起因する疾患の予防または治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】新生仔ラット心室由来線維芽細胞で覆われた培養皿に作られた模擬傷の治癒反応に対するTGF-βによる治癒反応抑制効果を示す図である。*:P<0.05
図2】新生仔ラット心室由来線維芽細胞を用いたコラーゲン3型およびprolyl 4-Hydroxylaseの定量を示す図である。*:P<0.05、**:P<0.01
図3】ヒト成人心室由来線維芽細胞で覆われた培養皿に作られた模擬傷の治癒反応に対するTGF-βによる治癒反応抑制効果を示す図である。*:P<0.05
図4】新生仔ラット背皮膚由来線維芽細胞で覆われた培養皿に作られた模擬傷の治癒反応に対するTGF-βによる治癒反応抑制効果を示す図である。
図5】成獣マウス耳由来線維芽細胞で覆われた培養皿に作られた模擬傷の治癒反応に対するTGF-βによる治癒反応抑制効果を示す図である。
図6】新生仔ラット肺由来線維芽細胞で覆われた培養皿に作られた模擬傷の治癒反応に対するTGF-βによる治癒反応抑制効果を示す図である。*:P<0.05
図7】マウス心室へ注入したゲルから浸出するTGF-βによる浸潤細胞のゲル内への侵入阻止効果を示す図である。破線枠に囲われた部分がゲル領域である。*:P<0.05
図8】マウス心室へ注入したゲルから浸出するTGF-βによる線維化抑制効果を示す図である。実線枠に囲われた部分がゲル領域である。上段:TGF-βを含まないゲル、下段:TGF-β(30 ng)を含むゲル
図9】マウス心室へ注入したゲルから浸出するTGF-βによる線維化抑制効果を示す図である。*:P<0.05
図10】マウスに吸引させたBleomycinによる肺の線維化に対するTGF-βの線維化抑制効果を示す図である。
図11】マウスに吸引させたBleomycinによる肺の線維化に対するTGF-βの線維化抑制効果を示す図である。*:P<0.05
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
(1)TGF-β(本発明のTGF-β)
本発明のTGF-βは、4種のアイソフォーム(TGF-β1~β4)を含み、いずれのTGF-βアイソフォームであってもよいが、TGF-β1、TGF-β2またはTGF-β3が好ましく、TGF-β1が最も好ましい。TGF-β1~β3はいずれも前駆体TGF-βとして発現される。前駆体型TGF-βは、N末端の20~30アミノ酸からなるシグナルペプチド、LAPと呼ばれるプロ領域、およびプロテアーゼ切断によりプロ領域から遊離される112~114アミノ酸からなるC末端領域(活性化型TGF-β)を有する。細胞内で翻訳された前駆体型TGF-βは、シグナルペプチドが切断されることによって不活性な潜在型TGF-βに変換され、二量体化し、細胞外でLTBP-1 (latent TGF-β binding protein-1)とジスルフィド結合を介して結合する。さらに潜在型TGF-βはLAPの切断によって活性化型TGF-βに変換される。本発明のTGF-βは、前駆体型TGF-β、潜在型TGF-β、および活性化型TGF-βのいずれであってもよいが、活性化型TGF-βが好ましい。
【0011】
本発明のTGF-βのアミノ酸配列は公知のデータベースに開示されており、本発明のTGF-βの後述する活性を有するアミノ酸配列であればいずれのアミノ酸配列であっても使用することができる。そのようなアミノ酸配列としては、例えば、下記のアミノ酸配列が挙げられる。
本発明のTGF-β1は、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
本発明のTGF-β2は、配列番号:4で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
本発明のTGF-β3は、配列番号:6で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
TGF-βは、ヒトの細胞から単離、精製されるタンパク質であってよい。また、化学合成もしくは無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよいし、あるいは上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸を導入された細胞から産生される組換えタンパク質であってもよい。
【0012】
配列番号:2(または4、6)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号:2(または4、6)で表されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら,Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J .Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
より好ましくは、配列番号:2(または4、6)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号:2(または4、6)で表されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0013】
配列番号:2(または4、6)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質としては、例えば、前記の配列番号:2(または4、6)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号:2(または4、6)で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質などが好ましい。ここで「活性」とは、例えば、組織の線維化抑制活性、線維芽細胞の遊走抑制活性などをいう。「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的(例えば、生理学的または薬理学的)に同じであることを示す。したがって、前記活性は同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例えば、約0.1~約10培、好ましくは約0.5~約2倍)やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
【0014】
本発明のTGF-βは、好ましくは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質である。配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質としては、それに限定されるものではないが、例えば、配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質は、ヒトTGF-β1の変異タンパク質であり、配列番号:7のアミノ酸番号33番のセリンは野生型ではシステイン残基である。該変異によって、ヒトTGF-β1は生物学的活性が3~5倍に上昇することが報告されている(Amy M. Brunner et al., THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, Vol. 264, No. 23, pp. 13660-13664, 1989)。
【0015】
本発明のTGF-βによって発揮される組織の線維化抑制活性は、組織内への線維芽細胞の集積を妨げることによって線維芽細胞から組織内へ分泌される細胞外マトリクスの量を抑制していると思われる。本発明のTGF-βが細胞外マトリクスに局在することによって、さらなる組織の線維化を効率よく抑制することができる。従って、本発明のTGF-βは、細胞外マトリクスに局在するための機能ドメインをさらに含んでもよい。本発明のTGF-βが局在する細胞外マトリクスとしては、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。細胞外マトリクスに局在するための機能ドメインとしては、インテグリンなどが挙げられる。
【0016】
細胞外マトリクスに局在するための機能ドメインは、細胞外マトリクスに局在する機能を維持する限りどのような態様で本発明のTGF-βに含まれてもよいが、例えば、本発明のTGF-βのN末端アミノ酸またはC末端アミノ酸に連結されてもよい。本発明のTGF-βと機能ドメインとの間にスペーサーを組み入れてもよく、該スペーサーとしては、通常300アミノ酸以下、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは20~50アミノ酸からなるペプチドを用いることができる。具体的には、GSリンカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書において、タンパク質は、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質をはじめとする、本発明のTGF-βは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
本発明のTGF-βがC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明のタンパク質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明のTGF-βには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども含まれる。
【0018】
本発明で用いられるTGF-βは塩の形態であってもよい。例えば、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0019】
本発明のTGF-βは、ヒトの細胞から自体公知のタンパク質の精製方法によって製造することができる。具体的には、ヒトの細胞をホモジナイズし、低速遠心により細胞デブリスを除去した後、上清を高速遠心して細胞膜含有画分を沈澱させ、TGF-βを含む上清を得ることができる。あるいは、ヒトの細胞を培養し、上清中にTGF-βを分泌させ、TGF-βを含む該上清を得ることができる。上清を、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー等に付すことにより精製されたTGF-βまたはその塩を調製することができる。
【0020】
本発明のTGF-βは、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。TGF-βを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするタンパク質を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)および(2)に記載された方法に従って行われる。
(1)M. BodanszkyおよびM. A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966年)
(2)SchroederおよびLuebke, The Peptide, Academic Press, New York(1965年)
【0021】
このようにして得られたTGF-βは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られるTGF-βが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にTGF-βが塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0022】
(2)本発明のTGF-βをコードする塩基配列を含む核酸(本発明のTGF-β核酸)
本発明のTGF-βは、本発明のTGF-βをコードする塩基配列を含む核酸を導入された細胞から分泌されることによって提供することもできる。本発明のTGF-βをコードする塩基配列を含む核酸を本発明のTGF-β核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
本発明のTGF-β核酸としては、ゲノムDNA、ヒトの細胞由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。TGF-βをコードする塩基配列を含むゲノムDNAであれば、ヒトのあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例、褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]より調製したゲノムDNA画分を鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)によって直接増幅することができ、TGF-βをコードする塩基配列を含むcDNAであれば、細胞より調製した全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、PCR法およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、TGF-βをコードする塩基配列を含むゲノムDNAおよびcDNAは、上記したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0023】
本発明のTGF-β核酸としては、各TGF-βアイソフォームごとに以下のDNAが挙げられる。
本発明のTGF-β1をコードする塩基配列を含む核酸は、配列番号:1で表される塩基配列と同一または実質的に同一な塩基配列を含む核酸である。
本発明のTGF-β2をコードする塩基配列を含む核酸は、配列番号:3で表される塩基配列と同一または実質的に同一な塩基配列を含む核酸である。
本発明のTGF-β3をコードする塩基配列を含む核酸は、配列番号:5で表される塩基配列と同一または実質的に同一な塩基配列を含む核酸である。
配列番号:1(または3、5)で表される塩基配列と実質的に同一な塩基配列を含む核酸としては、例えば、配列番号:1(または3、5)で表される塩基配列と約80%以上、好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、前記した各TGF-βアイソフォームと実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする核酸などが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0024】
本発明のTGF-β核酸は、好ましくは、配列番号:1で表される塩基配列を含む核酸である。
【0025】
本発明のTGF-β核酸は、本発明のTGF-βをコードする塩基配列を含む発現ベクター(本発明のTGF-β発現ベクター)であってもよい。
本発明のTGF-β発現ベクターは、例えば、本発明のTGF-βをコードする塩基配列を含む核酸を切り出し、該核酸を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、動物細胞発現プラスミド、ウイルス、人工染色体などが挙げられる。動物細胞発現プラスミドとしては、pCY4B、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。ウイルスとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが用いられる。人工染色体としては、ヒト人工染色体(HAC)などが用いられる。
プロモーターとしては、SV40プロモーター、 LTRプロモーター、CMV (cytomegalovirus)プロモーター、RSV (Rous sarcoma virus)プロモーター、MoMuLV (Moloney mouse leukemia virus) LTR、HSV-TK (herpes simplex virus thymidine kinase)プロモーター、EF-αプロモーター、CAGプロモーターおよび薬剤応答性プロモーターが例示される。薬剤応答性プロモーターとしては、対応する薬剤の存在下で遺伝子を発現するTREプロモーター(tetO 配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV 最小プロモーター)が例示される。
【0026】
発現ベクターは、上記の他に、本発明のTGF-βが発現可能なように、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。
また、必要に応じて、シグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、本発明のTGF-βをコードする塩基配列を含む核酸の5’末端側に付加(またはネイティブなシグナルコドンと置換)してもよい。例えば、インスリンシグナル配列、α-インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などがそれぞれ用いられる。
【0027】
(3)TGF-βを分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞(本発明のTGF-β分泌細胞)
本発明のTGF-βは、線維化を抑制しようとする組織の細胞からTGF-βを分泌させることによって提供することもできる。
本発明のTGF-β分泌細胞は、投与対象に拒絶反応を生じさせない細胞であれば特に制限されない。そのような細胞は、投与対象に由来する細胞であっても、投与対象の全ての主要組織適合遺伝子と完全一致する主要組織適合遺伝子セットまたはその一部と一致する主要組織適合遺伝子セットを有する、投与対象と同種動物由来の細胞のいずれであってもよいが、好ましくは、投与対象に由来する細胞である。細胞が、投与対象の主要組織適合遺伝子の一部と一致する主要組織適合遺伝子セットを有する、投与対象と同種動物由来の細胞である場合、一致する主要組織適合遺伝子セットは制限されるものではないが、例えばヒトの場合、HLA-A、HLA-B、HLA-DR等が挙げられる。
また、本発明のTGF-β分泌細胞は、TGF-β分泌することができる細胞であれば制限されないが、線維化を抑制しようとする組織の細胞に上記した本発明のTGF-β核酸をex vivo導入することによって提供できる。本発明のTGF-β核酸を導入する細胞は、単離された線維化が抑制される対象となる組織の細胞そのものであってもよいし、単離された細胞を初期化することに得られる多能性幹細胞であってもよいが、好ましくは、後者の細胞である。
【0028】
本発明のTGF-β核酸を導入する細胞が、多能性幹細胞である場合、多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)が挙げられるが、好ましくはiPS細胞(より好ましくはヒトiPS細胞)である。
【0029】
多能性幹細胞がiPS細胞である場合、iPS細胞は、体細胞に核初期化物質を導入することにより作製することができる。iPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、哺乳動物(例えば、マウス又はヒト)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよい。例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝/貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、及びそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。体細胞の分化の程度に特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、例えば、脂肪由来間質(幹)細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0030】
iPS細胞の作製のために体細胞に導入される核初期化物質としては、これまでに報告されている種々の初期化遺伝子の組合せ(例えば、WO 2007/069666、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007)、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009)、Nature, 451, 141-146 (2008)、Science, 318, 1917-1920 (2007)、Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)、Cell Research (2008) 600-603、Nature 454: 646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2: 525-528(2008)、WO2008/118820、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009)、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009)、Science, 324: 797-801 (2009)を参照)が挙げられる。また、上記初期化遺伝子によってコードされるタンパク質を、核初期化物質として体細胞に導入することもできる(Cell Stem Cell, 4: 381-384(2009)、Cell Stem Cell, doi:10.1016/j.stem.2009.05.005 (2009))。とりわけ、得られるiPS細胞を治療用途に用いることを念頭においた場合、Oct3/4、Sox2およびKlf4の3因子の組み合わせが好ましい。
【0031】
iPS細胞コロニーの選択は、薬剤耐性とレポーター活性を指標とする方法(Cell, 126, 663-676 (2006)、Nature, 448, 313-317 (2007))や目視による形態観察による方法(Cell, 131, 861-872 (2007))により行うことができる。iPS細胞であることの確認は、各種ES細胞特異的遺伝子の発現やテラトーマ形成を指標として行うことができる。
【0032】
本発明のTGF-β核酸を線維化が抑制される対象となる組織の細胞または多能性幹細胞に導入する方法は特に限定されないが、例えば、発明のTGF-β核酸をリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって細胞内に導入することができる。
【0033】
本発明のTGF-β核酸を導入された細胞が多能性幹細胞である場合、自体公知の方法に従って多能性幹細胞を目的の線維化が抑制される対象となる組織の細胞に分化させることができる。多能性幹細胞を心筋細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2009/118928号および国際公開第2014/185358号に記載されている。多能性幹細胞を軟骨細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2010/071210号、国際公開第2015/064754号および国際公開第2016/133208号に記載されている。多能性幹細胞を骨格筋細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2011/004911号、国際公開第2011/132799号、国際公開第2013/073246号および国際公開第2016/108288号に記載されている。多能性幹細胞を神経細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2011/19092号、国際公開第2014/148646号、国際公開第2019/078263号、国際公開第2018/199142号、国際公開第2016/167372号、国際公開第2017/159380号および国際公開第2014/104409号に記載されている。多能性幹細胞を腸管上皮細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2014/132933号に記載されている。多能性幹細胞を膵細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2014/104403号、国際公開第2015/020113号、国際公開第2015/178431号および国際公開第2017/047797号に記載されている。多能性幹細胞を肺胞上皮細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2014/168264号および国際公開第2016/143803号に記載されている。多能性幹細胞を気道上皮細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2016/148307号に記載されている。多能性幹細胞を肝細胞に分化させる具体的な方法は、例えば、国際公開第2016/104717号および国際公開第2018/097127号に記載されている。
【0034】
(4)TGF-βを含有する医薬組成物(本発明の医薬組成物)
後述する実施例の通り、本発明者は、TGF-βを含むゲルを心室に注入したマウスでは、コントロールに比べて、ゲル内へ細胞の浸潤が有意に減少し、線維化も減少することを確認した。また、本発明者は、TGF-βを含む線維化誘発剤を肺に噴霧されたマウスでは、線維化誘発剤による肺の線維化がTGF-βによって有意に抑制されることを確認した。以上のことから、TGF-β(特に言及しない限り、医薬組成物に関する記述においては、TGF-βはTGF-βタンパク質だけでなく、TGF-βをコードする塩基配列を含む核酸およびTGF-βを分泌する、線維化が抑制される対象となる組織の細胞をも含む)を含有する医薬組成物は、組織の線維化を抑制できることが示唆される。従って、本発明のTGF-βを含有する医薬組成物は、組織の線維化抑制剤として用いることができる。
【0035】
本発明において組織の線維化とは、組織内において細胞外マトリクスの産生が異常に亢進している状態を指す。ここで、組織とは、結合組織を有する組織であれば特に限定されず、例えば、腎臓、肺、肝臓、心臓、膵臓、脾臓、胃、脊髄、下垂体、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、消化管(例、大腸、小腸)、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、膀胱、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、皮膚、血管、脂肪組織、骨格筋などが挙げられる。
【0036】
本発明の医薬組成物はまた、組織の線維化に起因する疾患の予防または治療剤として用いることができる。組織の線維化に起因する疾患としては、線維化された組織を含む臓器の機能不全または機能喪失によって生じる疾患であれば特に制限されず、例えば、慢性心不全、拡張型心筋症、肥大型心筋症、組織に対する侵襲(例えば、細胞移植治療等)による局所的線維化、急性腎不全、糸球体腎炎、血管炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、HIV腎症、IgA腎症、ループス腎炎、間質性腎炎、尿管閉塞による閉塞腎、肺線維症、肝硬変、動脈硬化症、強皮症、経皮経管冠動脈血管拡張術(PTCA)後の冠動脈再狭窄、間質性心筋炎、間質性膀胱炎、熱傷後の皮膚瘢痕化、または中毒に伴う線維症等をあげることができる。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与対象は、ヒトまたは他の温血動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリなど)があげられる。
【0038】
本発明の医薬組成物は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは他の温血動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができ、非経口投与が好ましい。
【0039】
非経口投与のための医薬組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明のTGF-βを通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記TGF-βを通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
【0040】
経口投与のための医薬組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0041】
本発明の医薬組成物は、例えば、投与対象に注射により投与する場合、線維化が亢進するおそれのあるまたは線維化した組織のある部位、またはその周辺部に、上記医薬組成物を直接注射により局所投与することができる。また、その投与量は、投与範囲、投与対象の年齢、体重、線維化の程度等を考慮して、1回あたりのTGF-βの投与量を0.1 ng~1000μg、好ましくは10 ng~1μgとすることができる。また、本発明のTGF-β核酸の投与量は、上記のTGF-βの投与量に対応する核酸量であってよい。また、本発明のTGF-β分泌細胞の投与する細胞数は、適用する疾患や部位に合わせ適宜1回あたり10 cells~109 cellsとすることができる。また、投与回数も投与範囲、投与対象の年齢、体重、線維化の程度等を考慮して適宜決定することができる。
【0042】
なお、前記した各組成物は、本発明のTGF-βとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分などを含有してもよい。他の活性成分としては例えば、抗線維化薬(ニンテダニブエタンスルホン酸塩、ピルフェニドンなど)、ステロイド系抗炎症薬(糖質コルチコイド、合成糖質コルチコイドなど)および非ステロイド系抗炎症薬(アスピリン、イブプロフェン、インドメタシンなど)などが挙げられる。
【実施例
【0043】
実施例1:培養新生仔ラット心室線維芽細胞に対する、TGF-βの模擬傷治癒反応の活性抑制作用
新生仔ラットに対して5%Isoflurane(和光純薬 099-06571)含有空気にて麻酔導入を行った。体動が無く、かつ痛み刺激に対して不感となっていることを確認し、安楽死を実施した。胸壁を大きく切開し、胸腔圧迫により心室を露出させた。心室をハサミで切断し、回収した。心室を1 %コラゲナーゼ(和光純薬 032-22364)、0.1 %トリプシン(Difco 215240)を含むAdsバッファー(116 mM NaCl, 20 mM HEPES, 12.5 mM NaH2PO4, 5.6 mM glucose, 5.4 mM KCl, 0.8 mM MgSO4; pH 7.35 at 25℃)に浸し、37℃で撹拌を行った。分散した細胞を含む上清を回収し、牛胎仔血清(biowest S1820-500)を用いて酵素反応を中和した後、Adsバッファーにて洗浄を行った。回収した細胞から新生仔ラット心室由来非心筋細胞をパーコール(GEヘルスケア)を用いた不連続密度勾配遠心法(密度1.086, 1.060, 1.0)によって取得した。具体的には、密度1.06パーコール層と密度1.0パーコール層の間に集積する線維芽細胞を回収した。この心室線維芽細胞を6ウェルに播種し、約3日間培養することで、細胞が細胞培養皿の底面を覆いつくした状態を得た。1 mlピペットマンチップを用いて細胞培養皿の底面を覆いつくした細胞を一文字に削り落とすことによって模擬傷を作り、アッセイ用のαMEM(和光純薬135-15175)に100倍希釈したITS-A液(Invitrogen 51300)を添加したメディウムにて洗浄した。各サイトカインを添加した同メディウムで24時間細胞培養を行い、位相差顕微鏡(オリンパス IX-71, pixera pro 600es)装置で撮影し、模擬傷の閉鎖度を測定、定量化した。有意差検定はEZR(自治医科大学 オープンソース)を用い、一元配置分散分析と続くTukey-Kramer検定によって行った。
図1の通り、10 ng/mlの組み換えヒトTGF-β1 (和光純薬209-16544)の添加によって模擬傷の治癒は有意に遅延した。また、TGF-β1の添加により細胞形態が遊走型から定着型へと変化した。25 ng/mlの不活性化型TGF-βであるLAP(R&D systems 246-LP)は、上記のいずれの作用も示さなかった。以上から、TGF-βの活性により模擬傷の治癒反応が抑制されることが判明した。
【0044】
実施例2:培養新生仔ラット心室線維芽細胞に対する、TGF-βのコラーゲンおよびコラーゲン成熟化酵素の発現抑制作用
実施例1と同様に作製した新生仔ラット心室線維芽細胞に対し、20 ng/ml TGF-βもしくは、25 ng/mlのLAPを添加し、3日間培養後、4%パラフォルムアルデヒド溶液(和光純薬 163-20145)を用いて細胞を固定化し、コラーゲン線維の架橋による成熟化に必要な酵素Prolyl 4-Hydroxylaseおよびcollagen3型を、蛍光二重免疫染色で可視化した。用いた一次抗体は、共和ファーマケミカル社、型番F-51および、アブカム社、型番ab7778である。二次抗体は、それぞれInvitrogen社 donkey anti-rabbit IgG-Alexa fluor488およびdonkey anti-mouse IgG-Alexa fluor546を使用した。蛍光染色した6ウェルディッシュの3ウェルの内ランダムな3視野を蛍光顕微鏡(オリンパス IX-71, pixera pro 600es)装置で撮影し、画像解析ソフトImageJ(アメリカ国立衛生研究所 オープンソース)を用いて各色の蛍光シグナル強度×面積を測定視野で除した値を求めて定量化した。有意差検定はEZR(自治医科大学 オープンソース)を用い Student-t解析によって実施した。
この結果、図2の通り、TGF-βの添加によりProlyl 4-Hydroxylaseおよびcollagen3型の発現量が有意に減少していた。
【0045】
実施例3:ヒト成人心室線維芽細胞における模擬傷の治癒反応
市販のヒト成人心室由来心室線維芽細胞(タカラバイオ社 製品コードC-12375)を製造者の指示に従って培養した。完全に培養皿を覆うまで細胞を培養した後に、実施例1と同様の模擬傷の治癒活性を測定した。TGF-βの濃度を10 ng/mlおよび100 ng/mlの2種類とし、濃度依存性を測定した。有意差検定はEZR(自治医科大学 オープンソース)を用い、一元配置分散分析と続くTukey-Kramer検定によって実施した。
この結果、図3の通り、濃度に依存してTGF-βの模擬傷の治癒抑制効果に有意な差が観察された。
【0046】
実施例4:げっ歯類における他臓器の線維芽細胞に対する模擬傷の治癒抑制作用の検出
新生仔ラットを実施例1に記載の方法で麻酔し、背部の皮膚を切除して回収した。実施例1と同様、皮膚を1 %コラゲナーゼ、0.1 %トリプシンを含むAdsバッファーに浸し、37℃で撹拌を行った。分散した細胞を含む上清を回収し、牛胎仔血清を用いて酵素反応を中和した後、Adsバッファーにて洗浄を行った。また、成獣マウスを実施例1に記載の方法で麻酔し、耳の先端を切り取った。この組織を、70%エタノール液にくぐらせ、殺菌した後、実施例1と同様、1 %コラゲナーゼ、0.1 %トリプシンを含むAdsバッファーに浸し、37℃で撹拌を行った。分散した細胞を含む上清を回収し、牛胎仔血清を用いて酵素反応を中和した後、Adsバッファーにて洗浄を行った。また、新生仔ラットを実施例1に記載の方法で麻酔し、胸部を切除し、肺を摘出した。実施例1と同様、これを1 %コラゲナーゼ、0.1 %トリプシンを含むAdsバッファーに浸し、37℃で撹拌を行った。分散した細胞を含む上清を回収し、牛胎仔血清を用いて酵素反応を中和した後、Adsバッファーにて洗浄を行った。上記の3種類の線維芽細胞を実施例1の方法で培養皿表面を完全に覆うまで培養した。さらに、実施例1に記載の方法で、模擬傷の治癒反応を測定した。新生仔ラット背部皮膚線維芽細胞、成獣マウス耳由来皮膚線維芽細胞については、TGF-β添加濃度を10, 30, 100 ng/mlとして実験を実施した。また、新生仔ラット肺由来線維芽細胞に対しては、30 ng/mlとした。有意差検定はEZR(自治医科大学 オープンソース)を用い Student-t解析によって実施した。
この結果、新生仔ラット心室由来線維芽細胞(図4)、成獣マウス耳由来線維芽細胞(図5)、新生仔ラット肺由来線維芽細胞(図6)では、共にTGF-βの添加によって、模擬傷の治癒反応の抑制が確認された。
【0047】
実施例5:成獣マウス心室に対するTGF-β徐放ビーズによる抗線維化作用の解析
8週齢のNOD-SCIDマウスに対して3%Isoflurane含有空気にて麻酔導入を行った。気管に対してカニューレを挿入し、人工呼吸器に接続した。人工呼吸器にIsoflurane気化装置を接続し、連続的に深い麻酔を維持した。胸部皮膚および胸筋を切断し、左第3肋間筋肉を切開し、さらに胸膜を切開し、開胸器を挿入し開胸状態を維持した。徐放剤としてのペプチド性ハイドロゲル(Corning社 Puramatrix (354250))30 μlにTGF-β1 30 ngまたは300 ng及び蛍光色素(PHK 67 Green)を混合した後、塩を加えてゲル化させ、29ゲージの注射針付シリンジ(テルモSS-10M2913)を用いてマウス心室壁に注入した。注入0時間後、もしくは2週間後、Isoflurane気化麻酔でマウスに麻酔導入を行い、ソムノペンチル1 μl/体重1 g (ペントバルビタール65 μg/体重1 g当量)を腹腔内に投与することで、深い麻酔を行った。麻酔下で胸部を切開し、心室を露出させ摘出した。心室を4%パラフォルムアルデヒド(和光純薬 163-20145)で固定化し、20% Sucrose(和光純薬 195-07925)を含有するTBS液(Bio-rad 1706435)でパラフォルムアルデヒドを置換後、OCTコンパウンド(サクラ ティシュ―テック)内に固定化された心室を包埋し、凍結させ、Leica社クリオスタット CM3050Sを用いて、心室の凍結切片を作成した。凍結切片をTBS液で洗浄し組織像を顕微鏡観察したところ、緑蛍光ラベルの残像により、ゲル注入領域が確認できた。核染色試薬DAPI(Molecular probe社)で染色を行い、注入したゲルが認められる視野を実施例2に記載の機材で撮像した。
この結果、注入後0時間のゲル内には浸潤細胞の核を認めなかったのに対し、注入後2週間では、TGF-βを含まないゲル(コントロール)内に周囲よりも高密度の浸潤細胞核の存在を認めた。しかし、TGF-βを含むゲル内に浸潤した細胞の数はコントロールに比べて有意に少なかった(図7)。さらに、病理組織染色ハンドブック(ISBN 4260243748)に従い、ゲルを含む切片をAzan染色に供し、透過顕微鏡(オリンパス IX-70 pixera pro 600es)にて撮像を行った。Azan染色により線維化組織(コラーゲン)を発色させ、ゲル内の線維化組織量を定量化するために、ImageJ(アメリカ国立衛生研究所 オープンソース)を用いて画像を単色化し示した(図8)。さらに注入したゲル内の色素沈着量を定量した。図9の通り、TGF-β 30 ngの添加により有意な線維化の抑制作用が確認された。
【0048】
実施例6:Bleomycinによる成獣マウス肺の線維化モデルに対する、TGF-βによる抗線維化作用の解析
肺の線維化を誘発させるための試験溶液として、phosphate buffer saline (PBS) (和光純薬045-29795)、43 μg Bleomycin(和光純薬 B4518)を含むPBS、100 ng TGF-βを含むPBSまたは43 μg Bleomycinおよび100 ng TGF-βを含むPBSを一匹当たり50 μl用意した。次に、実施例5に記載の方法で、8週齢C57BL6マウスを麻酔した。24ゲージ留置針(サーフロー社)の外針を気管内に挿管し、人工呼吸器に連結し、麻酔を維持した。一時的に人工呼吸器と外針の接続を外し、上記試験溶液を吸引したMicro-Sprayer(Penn-Century社)を外針内に挿入し、気管内に上記試験溶液を噴霧した。この後、再び外針を人工呼吸器に接続し、3分経過後、脱麻酔を行いケージに戻した。上記術後1週間でマウスを安楽死させ、肺を摘出した。肺を4%パラフォルムアルデヒドに10分浸けて固定化し、実施例5に記載の方法で凍結切片を作製した。作製した切片を実施例5に記載のAzan染色に供し、実施例5に記載の方法で撮像した。実施例5に記載したようにImageJを用いて画像処理した。有意差検定はEZR(自治医科大学 オープンソース)を用い 一元配置分散解析を実施した後、post-hoc検定であるTukey-Kramer法によって実施した。
上記の結果、Bleomycinによって誘発される気管および気管周囲の線維化は、TGF-βにより抑制されることが示された(図10、11)。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、TGF-βを含む、組織の線維化抑制剤、あるいは組織の線維化に起因する疾患の予防または治療剤を提供することができる。
図1
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【配列表】
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