(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】スペクトルの相違を数値化することに適したスペクトル測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20240805BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G01N21/27 B
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2020191690
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000232689
【氏名又は名称】日本分光株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁子
(72)【発明者】
【氏名】大山 泰史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 吉朗
(72)【発明者】
【氏名】真砂 央
(72)【発明者】
【氏名】堀口 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】永森 浩司
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189511(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034205(WO,A1)
【文献】特開2002-340793(JP,A)
【文献】特開昭60-205336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/27
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横軸をデータポイント列として、縦軸をデータポイント毎のスペクトル値としてプロットされるスペクトルを測定するとともに、基準物質の測定によって取得される基準スペクトルと、対象試料の測定で得られる試料スペクトルとの相違を数値化するスペクトル測定装置であって、
複数回の基準物質の測定において光検出器に印加されるデータポイント毎のゲイン調整用電圧値と、取得された前記基準スペクトルとに基づいて、あるデータポイントにおける前記ゲイン調整用電圧値(HTi)と、そのデータポイントにおいて測定された複数のスペクトル値のバラツキ度(σi)と、の関係を重み付け関数(σ=f(HT))として導出する重み付け関数導出手段と、
前記重み付け関数を記憶する記憶手段と、
前記重み付け関数を利用して、1回以上の基準物質の測定で得られる基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化する数値化手段と、
を備え、前記数値化手段は、
データポイント毎に、前記試料スペクトルと前記基準スペクトルとの個別一致度を算出し、前記試料スペクトルを測定する際のデータポイント毎の前記ゲイン調整用電圧値(HTi)を前記重み付け関数(σ)に当て嵌めて得られる前記バラツキ度(σi)を、重み付け値として算出するとともに、
データポイント毎の前記重み付け値が適用された前記個別一致度に基づいて、前記基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化するように構成されていること、を特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項2】
横軸をデータポイント列として、縦軸をデータポイント毎のスペクトル値としてプロットされるスペクトルを測定するとともに、基準物質の測定によって取得される基準スペクトルと、対象試料の測定で得られる試料スペクトルとの相違を数値化するスペクトル測定装置であって、
基準物質に対して外部刺激を付与する外部刺激付与手段と、
対象試料のスペクトル、および、外部刺激を付与する前後の基準物質の各スペクトルをそれぞれ測定するスペクトル測定手段と、
基準物質について前記外部刺激を付与する前後におけるデータポイント毎のスペクトル値(Ri,Ri’)の変化量に応じた重み付け値(ξi)を与える重み付け関数(ξ=f(R,R’))を導出する重み付け関数導出手段と、
前記重み付け関数を記憶する記憶手段と、
前記重み付け関数を利用して、前記基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化する数値化手段と、
を備え、前記数値化手段は、
データポイント毎に、前記試料スペクトルと前記基準スペクトルとの個別一致度を算出し、前記重み付け関数(ξ)によって与えられるデータポイント毎の重み付け値(ξi)を用いて、当該重み付け値(ξi)が適用された前記個別一致度に基づいて、前記基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化するように構成されている、ことを特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項3】
請求項2記載のスペクトル測定装置において、
前記重み付け関数導出手段は、前記外部刺激を付与する前後の前記基準物質の各スペクトル値(Ri,Ri’)の差分の絶対値(|Ri’-Ri|)をデータポイント毎の重み付け値(ξi)として与える重み付け関数(ξ)を導出するように構成されることを特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項4】
横軸をデータポイント列として、縦軸をデータポイント毎のスペクトル値としてプロットされるスペクトルを測定するとともに、基準物質の測定によって取得される基準スペクトルと、対象試料の測定で得られる試料スペクトルとの相違を数値化するスペクトル測定装置であって、
複数の成分又は複数の構造を含んでいる試料を測定対象とし、
前記基準スペクトルに基づいて基準物質に含まれる各成分又は各構造のそれぞれの比率を取得する成分又は構造解析手段と、
前記成分毎又は構造毎の基準スペクトルの絶対値に、当該成分又は構造についての前記比率を掛け合わせたものを、すべての成分又は構造について合算することによって、合算スペクトルを算出し、当該合算スペクトルを、データポイント毎の重み付け値(ηi)を与える重み付け関数(η)として導出する重み付け関数導出手段と、
前記重み付け関数を記憶する記憶手段と、
前記重み付け関数を利用して、前記基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化する数値化手段と、を備え、前記数値化手段は、
データポイント毎に、前記試料スペクトルと前記基準スペクトルとの個別一致度を算出し、前記重み付け関数(η)によって与えられるデータポイント毎の重み付け値(ηi)を用いて、当該重み付け値(ηi)が適用された前記個別一致度に基づいて、前記基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化するように構成されている、ことを特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項5】
横軸をデータポイント列として、縦軸をデータポイント毎のスペクトル値としてプロットされるスペクトルを測定するとともに、基準物質の測定によって取得される基準スペクトルと、対象試料の測定で得られる試料スペクトルとの相違を数値化するスペクトル測定装置であって、
複数の成分又は複数の構造を含んでいる試料を測定対象とし、
基準物質に対して外部刺激を付与する外部刺激付与手段と、
対象試料のスペクトル、および、外部刺激を付与する前後の基準物質の各スペクトルをそれぞれ測定するスペクトル測定手段と、
前記外部刺激を付与する前の基準物質のスペクトル(R)に基づいて、基準物質に含まれる各成分又は各構造のそれぞれの比率を取得するとともに、前記外部刺激を付与した後の基準物質のスペクトル(R’)に基づいて、前記外部刺激付与後の基準物質に含まれる各成分又は各構造のそれぞれの比率を取得する成分又は構造解析手段と、
基準物質の成分毎又は構造毎に、前記外部刺激を付与する前後における前記比率の変化量の絶対値を算出する変化量算出手段と、
前記成分毎又は構造毎の基準スペクトルの絶対値に、当該成分又は構造についての前記比率の変化量の絶対値を掛け合わせたものを、すべての成分又は構造について合算することによって、合算スペクトルを算出し、当該合算スペクトルを、データポイント毎の重み付け値(φi)を与える重み付け関数(φ)として導出する重み付け関数導出手段と、
前記重み付け関数を記憶する記憶手段と、
前記重み付け関数を利用して、前記基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化する数値化手段と、
を備え、前記数値化手段は、
データポイント毎に、前記試料スペクトルと前記基準スペクトルとの個別一致度を算出し、前記重み付け関数(φ)によって与えられるデータポイント毎の重み付け値(φi)を用いて、当該重み付け値が適用された前記個別一致度に基づいて、前記基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化するように構成されている、ことを特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のスペクトル測定装置は、さらに、
測定された前記基準スペクトルおよび前記試料スペクトルの測定データに対してノイズ除去処理を実行するノイズ除去手段を備え、
前記数値化手段は、前記ノイズ除去手段によってノイズ除去された基準スペクトルおよび試料スペクトルに対して前記個別一致度を算出することを特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のスペクトル測定装置において、
前記数値化手段は、前記重み付け値が適用された個別一致度に基づいて、ユークリッド距離、マンハッタン距離および相関係数のうちのいずれかの数値によって、スペクトルの差異を算出するように構成されることを特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項8】
請求項7記載のスペクトル測定装置において、
前記数値化手段は、前記基準スペクトルと前記試料スペクトル間の前記ユークリッド距離または前記マンハッタン距離の数値を算出する際、前記基準スペクトルおよび前記試料スペクトルをそれぞれのスペクトル面積で除算したものを用いて前記ユークリッド距離または前記マンハッタン距離の数値を算出することを特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のスペクトル測定装置において、
前記数値化手段は、前記重み付け値が適用された個別一致度に対して、さらに、異なる重み付け値を適用するように構成されることを特徴とするスペクトル測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトル測定装置に関し、特に、基準スペクトルと試料スペクトルとの違い等、スペクトル間の相違を数値化することに適したスペクトル測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の内部構造の変化が分光スペクトルに反映される場合、基準となるスペクトル(Rで示す。)に対して分析対象である試料のスペクトル(Uで示す。)がどの程度違っているかを定量的に把握することは、試料の内部構造の変化を評価する上で非常に重要になる。
【0003】
本書において、スペクトルの相違とは、例えば、
・異なる試料をそれぞれ測定して得た2つのスペクトル間の違い、
・タンパク質等の試料について一方は外部刺激を付与する前のスペクトルであり、もう一方は外部刺激を付与した後のスペクトルである場合のスペクトルの変化、
・分析対象の試料のスペクトルとデータベース化された既知物質のスペクトルとの類似度(一致度)、などを指す。
【0004】
スペクトルの相違を定量的に把握するには、通常、同じデータポイントにおけるスペクトル値の一致度(個別一致度と呼ぶ。)を算出し、この個別一致度を、すべてのデータポイントについて個々に算出する。例えば、
図8のように、2つのスペクトルR,Uの形状の差が微小である場合、全てのデータポイントにおける個別一致度を一様の条件で演算して、数値化するよりも、データポイント毎に個別一致度の重み付けを変化させて数値化する方が好ましい。つまり、データポイント毎の個別一致度に、そのデータポイント毎に設定された重み付け値を付与し、重み付けされた個別一致度を合算する等の演算を行って、スペクトルの微差を数値化する。
【0005】
非特許文献1には、ユークリッド距離を用いた数値化の手法である重み付けスペクトル差分(WSD)法が記載されている。まず、2つのスペクトルR、Uの個別一致度として、データポイントi(i=1,2,・・・,n)のスペクトル値の差の2乗を算出する。これを「(Ui-Ri)
2」と表す(
図9参照)。次に、データポイント毎の重み付け値として、基準スペクトルのスペクトル値の絶対値(|Ri|)を、その平均値(|Ri|ave)で規格化した値を用いる。重み付け値を式(1)に示す。
【数1】
【0006】
ここで、式(1)の分母は、式(2)で表される。
【数2】
【0007】
非特許文献1による数値化では、データポイントごとの重み付け値を上記の個別一致度に掛け合わせて、重み付けされた個別一致度の平均値を得て、その平方根を算出する。その結果、式(3)に示すような、スペクトルの相違を表す数値Iが得られる。
【数3】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】N.N.Dinh et al, Analytical Biochemistry, 2014, Vol. 464, p. 60-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1の数値化の方法は、実質的に基準スペクトル値の大きさ(|Ri|)のみに基づく重み付けを実施するものと言える。この方法を、例えばCDスペクトルに当て嵌めると、データポイントの中でCD値の絶対値が大きいところほど、重み付けが大きく、数値化への寄与が大きくなる。
【0010】
発明者らは、スペクトルの相違を数値化するにあたって、非特許文献1の方法のように基準スペクトル値の大きさ(|Ri|)を考慮した重み付けも重要だが、その他にも、数値化に反映すべき要因があることに着目した。
【0011】
基準スペクトル値の大きさ(|Ri|)以外で、スペクトルの相違の数値化に反映すべき要因として、例えば、検出器からの信号に含まれるノイズ成分の大小や、試料に応じて、スペクトル値が大きく変化するデータポイントと、あまりスペクトル値が変化しないデータポイントとがあること、等である。また、発明者らは、試料が複数の既知成分で構成されているケースにおいて、どのような数値化の手法が適切であるかを鋭意研究してきた。
【0012】
本発明の目的は、スペクトルの相違の数値化に大きな影響を与えたいデータポイントを適切に選択できるような重み付け関数を見出し、そのような重み付け関数を利用したスペクトル測定装置を提供することにある。また、試料が複数の既知の成分で構成されているケースにおいて、その成分構成に応じてスペクトルの相違を適切に数値化することが可能なスペクトル測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、まず、試料の吸光に応じて検出器へのゲイン調整用電圧値が高くなるほど、そのデータポイントにおける検出信号中のノイズ成分が大きくなることに着目した。ノイズ成分が大きいデータポイントにおいての重み付けが小さくなるように、データポイント毎のゲイン調整用電圧値(HT電圧値)に基づく重み付け関数の導入方法を見出した。
【0014】
すなわち、本発明の第一態様であるスペクトル測定装置は、横軸をデータポイント列として、縦軸をデータポイント毎のスペクトル値としてプロットされるスペクトルを測定するとともに、基準物質の測定によって取得される基準スペクトルと、対象試料の測定で得られる試料スペクトルとの相違を数値化するスペクトル測定装置であり、以下の特徴点を備える。
【0015】
第一態様では、試料スペクトルを「U」で表す。また、試料スペクトルとの相違を算出する際に用いる基準スペクトル(及びデータポイント毎の基準スペクトル値)を、式(4)で表す。式(4)の基準スペクトルは、基準物質を複数回測定して得た複数個のスペクトルの平均スペクトルである。「平均スペクトル」は、複数のスペクトルについてのデータポイント毎のスペクトル値の平均値を算出して得られるスペクトルを意味する。式(4)の基準スペクトルは、上述の式(2)で定義される基準スペクトルの絶対値の平均とは異なる概念である。なお、試料スペクトルとの相違を算出する際に用いる基準スペクトルは、複数個のスペクトルの平均スペクトルに限られず、基準物質を1回測定して得られる基準スペクトルを用いてもよい。
【数4】
【0016】
第一態様のスペクトル測定装置は、複数回の基準物質の測定において光検出器に印加されるデータポイント毎のゲイン調整用電圧値(HT電圧値)と、取得された基準スペクトルとに基づいて、あるデータポイント(i)における前記ゲイン調整用電圧値(HTi)と、そのデータポイントにおいて測定された複数のスペクトル値(Ri)のバラツキ度(σi)と、の関係を次式で表される重み付け関数(σ)として導出する重み付け関数導出手段を備えている。
σ=f(HT) ・・・(4A)
【0017】
また、第一態様のスペクトル測定装置は、前記重み付け関数を記憶する記憶手段と、前記重み付け関数を利用して、1回以上の基準物質の測定で得られる基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化する数値化手段と、を備えている。
【0018】
ここで、前記数値化手段は、データポイント(i)毎に、前記試料スペクトル(U)と前記基準スペクトルとの個別一致度を算出するように構成されている。基準スペクトルとして、複数個のスペクトルの平均スペクトルを用いる場合、個別一致度を例えば、次式のように定義してもよい。
【数5】
【0019】
また、前記数値化手段は、前記試料スペクトル(U)を測定する際のデータポイント(i)毎の前記ゲイン調整用電圧値(HTi)を前記重み付け関数に当て嵌めて得られる前記バラツキ度(σi)を、重み付け値として算出し、
データポイント(i)毎の前記重み付け値が適用された前記個別一致度に基づいて、前記基準スペクトルと前記試料スペクトルとの相違を数値化するように構成されている。
【0020】
ここで、前記重み付け値を適用した前記個別一致度を、例えば次式のように定義してもよい。
【数6】
【0021】
また、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を表す数値(I)を、例えば次式のように定義してもよい。ここで、「n」は、2以上の自然数であり、スペクトルのデータポイントの数を表す。
【数7】
【0022】
例えば、従来のCDスペクトル測定装置においては、あるデータポイントにおいて試料のUV吸収があると、光検出器への光量が少なくなり、検出信号が弱くなる。そのため、光電子増倍管等の光検出器に印加する電圧値(HT電圧値)を調整して、光検出器のゲインを増減させ、検出信号の大きさを一定に保つようにしている。しかしながら、光検出器のゲイン調整用電圧を大きくしてゲインを増加させると、同時に検出信号中のノイズ成分も増幅されることになる。発明者らは、そのようなノイズ成分の影響を抑制するため、ノイズ成分が大きいデータポイントにおいては、重み付け値が軽くなるように、重み付けの設定を考慮すべきと考えた。
【0023】
そこで、発明者らは、複数回の基準物質のスペクトル測定の結果から、あるデータポイントにおけるスペクトル値のバラツキ度(σi)を、そのデータポイントにおけるノイズ成分の大きさと見なせると判断した。
【0024】
上記の第一態様のスペクトル測定装置は、スペクトル測定の際、データポイント毎に、ゲイン調整用電圧値(HTi)とスペクトル値のバラツキ度(σi)とのデータの組み合わせを得ることができる。全てのデータポイント(i)について得たデータの組み合わせを、例えばゲイン調整用電圧値の軸とバラツキ度の軸とを有する2軸座標系にプロットする。既存の直線近似法やカーブフィット法によって、2つの変数(HTi、σi)の関係、つまり、ゲイン調整用電圧値とノイズ成分の大きさとの関係を表す重み付け関数(σ=f(HT))を導出することができる。
【0025】
上記の第一態様のスペクトル測定装置は、導出した重み付け関数(σ=f(HT))を用いて、ある試料のスペクトル測定のデータポイント毎に、試料の吸収に起因するノイズ成分の大きさを取得することができる。重み付け関数から得たバラツキ度(σi)を重み付け値とすることで、スペクトル間の個別一致度に対してノイズ成分の大きさに応じた重み付けが可能になった。つまり、試料の吸光に起因してノイズ成分が大きくなるデータポイントにおいては、重み付け関数の利用によって、重み付けを軽くすることができ、逆に、ノイズ成分が小さいデータポイントにおいては、重み付けを重くすることができる。
【0026】
なお、第一態様では、スペクトル間の個別一致度に重み付け値(バラツキ度σi)を適用する方法としては、個別一致度をその重み付け値で除算する、という方法を採用してもよい。
【0027】
次に、発明者らは、基準物質に何らかの外部刺激を付与する前後のスペクトルをそれぞれ実際に測定することで、外部刺激に対してスペクトルが大きく変化するデータポイントとスペクトルがあまり変化しないデータポイントとを区別することができることに着目した。予備的なスペクトル測定値を利用して、基準物質毎にスペクトルが変化しやすいデータポイントに対して、重み付けが大きくなるように重み付け値を設定する。
【0028】
基準物質に加える外部刺激としては、温度、pH、圧力、電場、磁場、光、応力、蛋白濃度、バッファーの種類、バッファー濃度、添加物の種類、添加物の濃度のいずれか1つ以上の条件を変化させることが好ましい。また、変性剤を添加すること等でもよい。外部刺激を付与する前後のタイミングには、外部刺激を段階的に変化させる場合(例えば、温度を25℃から50℃まで連続的に変化させる場合)においては、その変化途中の2点のタイミング(例えば、30℃および45℃の2点のタイミング)も含まれる。
【0029】
すなわち、本発明の第二態様であるスペクトル測定装置は、横軸をデータポイント列として、縦軸をデータポイント毎のスペクトル値としてプロットされるスペクトルを測定するとともに、基準物質の測定によって取得される基準スペクトルと、対象試料の測定で得られた試料スペクトルとの相違を数値化するスペクトル測定装置であり、以下の特徴点を備える。
【0030】
第二態様では、試料スペクトルを「U」で表す。また、基準スペクトルを「R」で表し、データポイント毎の基準スペクトル値を「Ri」で表す。なお、基準スペクトルとしては、1回の基準物質の測定によって取得される基準スペクトルに代えて、複数回の基準物質の測定によって取得される複数個のスペクトルの平均スペクトル(上述の式(4)と同じ)を用いてもよい。また、外部刺激を付与した後に測定した基準物質のスペクトルを「R’」で表して、基準スペクトル「R」と区別する。
【0031】
第二態様のスペクトル測定装置は、
基準物質に対して外部刺激を付与する外部刺激付与手段と、
対象試料のスペクトル(U)、および、外部刺激を付与する前後の基準物質の各スペクトル(R,R’)をそれぞれ測定するスペクトル測定手段と、
基準物質について前記外部刺激を付与する前後におけるデータポイント毎のスペクトル値(Ri,Ri’)の変化量に応じた重み付け値(ξi)を与える重み付け関数(ξ=f(R,R’))を導出する重み付け関数導出手段と、を備えている。
【0032】
また、第二態様のスペクトル測定装置は、前記重み付け関数(ξ)を記憶する記憶手段と、前記重み付け関数(ξ)を利用して、前記基準スペクトル(R)と前記試料スペクトル(U)との相違を数値化する数値化手段と、を備えている。
【0033】
ここで、前記数値化手段は、データポイント(i)毎に、前記試料スペクトル(U)と前記基準スペクトル(R)との個別一致度を算出するように構成されている。個別一致度を例えば、上述の式(5)のように定義してもよい。
【0034】
また、前記数値化手段は、前記重み付け関数によって与えられるデータポイント毎の重み付け値を用いて、当該重み付け値が適用された前記個別一致度に基づいて、前記基準スペクトル(R)と前記試料スペクトル(U)との相違を数値化するように構成されている。
【0035】
ここで、前記重み付け関数導出手段は、前記外部刺激を付与する前後の前記基準物質の各スペクトル値(Ri,Ri’)の差分の絶対値(|Ri’-Ri|)をデータポイント毎の重み付け値として与える重み付け関数(ξ)を導出するように構成してもよい。この場合、重み付け関数は、次式のように表される。
ξ=|R’-R| ・・・(7A)
【0036】
また、前記重み付け値(ξi)が適用された前記個別一致度を、例えば次式のように定義してもよい。
【数8】
【0037】
また、基準スペクトル(R)と試料スペクトル(U)との相違を表す数値(I)を、例えば次式のように定義してもよい。
【数9】
【0038】
以上の第二態様のスペクトル測定装置の構成によれば、外部刺激付与手段およびスペクトル測定手段が、予め、基準物質に何らかの外部刺激を付与し、その前後のスペクトルを実際に測定するとともに、重み付け関数導出手段が、外部刺激の付与前後のスペクトル値の変化量に応じた重み付け値(ξi)を与える関数(ξ=f(R,R’))を導出する。つまり、重み付け関数(ξ)は、何らかの外部刺激によってスペクトルが変化しやすいデータポイントがどのように分布しているかを表す関数と言える。その結果、数値化手段は、何らかの外部刺激が付与された対象試料に対して基準物質とのスペクトルの相違を数値化する際に、試料スペクトル(U)と基準スペクトル(R)との個別一致度のうち、基準物質においてスペクトルの変化が大きいデータポイントにおける個別一致度に対して、重み付けを大きくし、スペクトルの変化が小さいデータポイントにおける個別一致度に対して、重み付けを小さくすることができ、その試料のスペクトルが変化しやすいデータポイントの情報が数値化に大きく反映される。
【0039】
なお、第二態様では、スペクトル間の個別一致度に重み付け値(ξi)を適用する方法として、個別一致度に重み付け値(ξi)を掛け合わす、という方法を採用してもよい。
【0040】
次に、発明者らは、複数の成分や複数の構造を含んでいる試料を対象にスペクトルの相違を数値化する場合は、
(1)予め、その基準物質の基準スペクトルに基づいて成分又は構造の解析を実行し、それぞれの成分又は構造の比率を取得すること、および、
(2)基準物質の成分毎又は構造毎の基準スペクトルを用いて、当該基準スペクトルの絶対値にそれぞれの比率を掛け合わせたものを合算して合算スペクトルを取得して、当該合算スペクトルを数値化における重み付け関数として用いること、
により、複数の成分又は構造を含む対象試料についてのスペクトルの相違の数値化を適切に実行できることを見出した。
【0041】
例えば、複数の成分からなる化合物については、既知の成分解析ソフトウェアなどを用いて、その化合物のスペクトルに基づいた各成分の比率(%)を取得する。
【0042】
すなわち、本発明の第三態様であるスペクトル測定装置は、横軸をデータポイント列として、縦軸をデータポイント毎のスペクトル値としてプロットされるスペクトルを測定するとともに、基準物質の測定によって取得される基準スペクトルと、対象試料の測定で得られた試料スペクトルとの相違を数値化するスペクトル測定装置であり、以下の特徴点を備える。
【0043】
第三態様では、試料スペクトルを「U」で表す。また、基準スペクトルを「R」で表し、データポイント毎の基準スペクトル値を「Ri」で表す。なお、基準スペクトルとしては、1回の基準物質の測定によって取得される基準スペクトルに代えて、複数回の基準物質の測定によって取得される複数個のスペクトルの平均スペクトル(上述の式(4)と同じ)を用いてもよい。
【0044】
第三態様のスペクトル測定装置は、
複数の成分又は複数の構造を含んでいる試料を測定対象とし、
前記基準スペクトル(R)に基づいて基準物質に含まれる各成分又は各構造のそれぞれの比率を取得する成分又は構造解析手段と、
前記成分毎又は構造毎の基準スペクトルの絶対値に、当該成分又は構造についての前記比率を掛け合わせたものを、すべての成分又は構造について合算することによって、合算スペクトルを算出し、当該合算スペクトルを、データポイント毎の重み付け値(ηi)を与える重み付け関数(η)として導出する重み付け関数導出手段と、を備える。
【0045】
また、第三態様のスペクトル測定装置は、前記重み付け関数(η)を記憶する記憶手段と、前記重み付け関数(η)を利用して、前記基準スペクトル(R)と前記試料スペクトル(U)との相違を数値化する数値化手段と、を備えている。
【0046】
ここで、前記数値化手段は、データポイント(i)毎に、前記試料スペクトル(U)と前記基準スペクトル(R)との個別一致度を算出するように構成されている。個別一致度を例えば、上述の式(5)のように定義してもよい。
【0047】
また、前記数値化手段は、前記重み付け関数(η)によって与えられるデータポイント毎の重み付け値(ηi)を用いて、当該重み付け値(ηi)が適用された前記個別一致度に基づいて、前記基準スペクトル(R)と前記試料スペクトル(U)との相違を数値化するように構成されている。
【0048】
ここで、前記重み付け関数導出手段は、前記成分毎または構造毎の基準スペクトルの絶対値に、当該成分または構造についての前記比率を掛け合わせたものを、すべての成分または構造について合算することによって、合算スペクトルを算出してもよい。
【0049】
例えば、タンパク質からなる試料を構成する二次構造がαヘリックス、βシート、βターンおよびランダムコイルである場合、各二次構造の基準スペクトルを「Rα、Rβ、Rt、Rr」で表し、その試料の各二次構造の比率(%)を「dα、dβ、dt、dr」で表すならば、この場合の重み付け関数は、次式の合算スペクトルで表される。
η=(|Rα|・dα
+|Rβ|・dβ
+|Rt|・dt
+|Rr|・dr)/100 ・・・(9A)
【0050】
また、前記重み付け値が適用された前記個別一致度を、例えば次式のように定義してもよい。
【数10】
【0051】
また、基準スペクトル(R)と試料スペクトル(U)との相違を表す数値(I)を、例えば次式のように定義してもよい。
【数11】
【0052】
次に、発明者らは、基準物質に何らかの外部刺激を付与する前後のスペクトルをそれぞれ実際に測定することで、外部刺激に対してスペクトルが大きく変化するデータポイントとスペクトルがあまり変化しないデータポイントとを区別することができることに着目した。予備的なスペクトル測定値を利用して、基準物質毎にスペクトルが変化しやすいデータポイントに対して、重み付けが大きくなるように重み付け値を設定する。そして、これを、例えばタンパク質など、複数の成分や複数の構造を含んでいる試料を対象にスペクトルの相違を数値化する場合に適用した。すなわち、
(1)予め、その基準物質の基準スペクトルに基づいて成分又は構造の解析を実行し、それぞれの成分又は構造の比率を取得すること、
(2)次に、基準物質に何らかの外部刺激を付与した後のスペクトルに基づいて成分又は構造の解析を実行し、それぞれの成分又は構造の比率を取得すること、
(3)基準物質の成分毎又は構造毎に、外部刺激を付与する前後の比率の変化量を算出し、その絶対値を得ること、および、
(4)基準物質の成分毎又は構造毎の基準スペクトルの絶対値に対して、それぞれの比率の変化量の絶対値を掛け合わせたものを合算して合算スペクトルを取得し、これを数値化における重み付け関数として用いること、
により、複数の成分又は構造を含む対象試料についてのスペクトルの相違の数値化を適切に実行できることを見出した。
【0053】
基準物質に加える外部刺激、および、その外部刺激を付与する前後のタイミングについては、上述の第二態様と同様である。
【0054】
すなわち、本発明の第四態様であるスペクトル測定装置は、横軸をデータポイント列として、縦軸をデータポイント毎のスペクトル値としてプロットされるスペクトルを測定するとともに、基準物質の測定によって取得される基準スペクトルと、対象試料の測定で得られる試料スペクトルとの相違を数値化するスペクトル測定装置であり、以下の特徴点を備える。
【0055】
第四態様では、試料スペクトルを「U」で表す。また、基準スペクトルを「R」で表し、データポイント毎の基準スペクトル値を「Ri」で表す。なお、基準スペクトルとしては、1回の基準物質の測定によって取得される基準スペクトルに代えて、複数回の基準物質の測定によって取得される複数個のスペクトルの平均スペクトル(上述の式(4)と同じ)を用いてもよい。また、外部刺激を付与した後に測定した基準物質のスペクトルを「R’」で表して、基準スペクトル「R」と区別する。
【0056】
第四態様のスペクトル測定装置は、
複数の成分又は複数の構造を含んでいる試料を測定対象とし、
基準物質に対して外部刺激を付与する外部刺激付与手段と、
対象試料のスペクトル(U)、および、外部刺激を付与する前後の基準物質の各スペクトル(R,R’)をそれぞれ測定するスペクトル測定手段と、
前記外部刺激を付与する前の基準物質のスペクトル(R)に基づいて、基準物質に含まれる各成分又は各構造のそれぞれの比率を取得するとともに、前記外部刺激を付与した後の基準物質のスペクトル(R’)に基づいて、前記外部刺激付与後の基準物質に含まれる各成分又は各構造のそれぞれの比率を取得する成分又は構造解析手段と、
基準物質の成分毎又は構造毎に、前記外部刺激を付与する前後における前記比率の変化量の絶対値を算出する変化量算出手段と、
前記成分毎又は構造毎の基準スペクトルの絶対値に対して、当該成分又は構造についての前記比率の変化量の絶対値を掛け合わせたものを、すべての成分又は構造について合算することによって、合算スペクトルを算出し、当該合算スペクトルを、データポイント毎の重み付け値(φi)を与える重み付け関数(φ)として導出する重み付け関数導出手段と、を備えている。
【0057】
また、第四態様のスペクトル測定装置は、前記重み付け関数(φ)を記憶する記憶手段と、前記重み付け関数(φ)を利用して、前記基準スペクトル(R)と前記試料スペクトル(U)との相違を数値化する数値化手段と、を備えている。
【0058】
ここで、前記数値化手段は、データポイント(i)毎に、前記試料スペクトル(U)と前記基準スペクトル(R)との個別一致度を算出するように構成されている。個別一致度を例えば、上述の式(5)のように定義してもよい。
【0059】
また、前記数値化手段は、前記重み付け関数(φ)によって与えられるデータポイント毎の重み付け値(φi)を用いて、当該重み付け値(φi)が適用された前記個別一致度に基づいて、前記基準スペクトル(R)と前記試料スペクトル(U)との相違を数値化するように構成されている。
【0060】
ここで、前記重み付け関数導出手段は、前記成分毎又は構造毎の基準スペクトルの絶対値に対して、当該成分又は構造についての前記比率の変化量の絶対値を掛け合わせたものを、すべての成分又は構造について合算することによって、合算スペクトルを算出してもよい。
【0061】
例えば、タンパク質からなる試料を構成する二次構造がαヘリックス、βシート、βターンおよびランダムコイルである場合、各二次構造の基準スペクトルを「Rα、Rβ、Rt、Rr」で表し、その試料の各二次構造の比率(%)を「dα、dβ、dt、dr」で表し、その試料に外部刺激を付与した後の各二次構造の比率(%)を「dα’、dβ’、dt’、dr’」で表すならば、この場合の重み付け関数は、次式の合算スペクトルで表される。
φ=(|Rα|・|dα-dα’|
+|Rβ|・|dβ-dβ’|
+|Rt|・|dt-dt’|
+|Rr|・|dr-dr’|)/100 ・・・(11A)
【0062】
また、前記重み付け値が適用された前記個別一致度を、例えば次式のように定義してもよい。
【数12】
【0063】
また、基準スペクトル(R)と試料スペクトル(U)との相違を表す数値(I)を、例えば次式のように定義してもよい。
【数13】
【0064】
上述の各態様の装置は、測定された前記基準スペクトルおよび前記試料スペクトルの測定データに対して、スムージング処理、FFTノイズ除去フィルター処理、及び主成分分析(PCA)処理などのノイズ除去処理を実行するノイズ除去手段を備え、前記数値化手段は、前記ノイズ除去手段によってノイズ除去された基準スペクトルおよび試料スペクトルに対して前記個別一致度を算出することが好ましい。
【0065】
また、上述の各態様での、2つのスペクトルの相違を数値化する代表的な手法について説明する。上述の式(7)は、2つのスペクトルの相違をユークリッド距離によって数値化することを示す。他に、マンハッタン距離を用いて数値化する場合は、式(14)のようにスペクトル値の差の絶対値で定義された個別一致度を用いて、数値Iを式(15)から求めることができる。
【数14】
【0066】
【0067】
その他、スペクトルの相関係数を用いて数値化する場合は、式(16)のような個別一致度を用いて、数値Iを式(17)から求めることができる。
【数16】
【0068】
【0069】
なお、式(15)および式(17)において、基準スペクトルとしては、複数回の基準物質の測定によって取得される複数個のスペクトルの平均スペクトル(上述の式(4)と同じ。)に代えて、1回の基準物質の測定によって取得されるスペクトル(R)を用いてもよい。
【0070】
式(7)、式(15)および式(17)に示すように、本発明のスペクトル測定装置において前記数値化手段は、前記重み付け値が適用された個別一致度に基づいて、ユークリッド距離、マンハッタン距離および相関係数のうちのいずれかの数値によって、スペクトルの差異を算出するように構成されることが好ましい。
【0071】
ここで、前記数値化手段は、前記基準スペクトルと前記試料スペクトル間の前記ユークリッド距離または前記マンハッタン距離の数値を算出する際、前記基準スペクトルおよび前記試料スペクトルをそれぞれのスペクトル面積で除算したものを用いて前記ユークリッド距離または前記マンハッタン距離の数値を算出することが好ましい。
【0072】
また、本発明のスペクトル測定装置において前記数値化手段は、前記重み付け値が適用された個別一致度に対して、さらに、異なる重み付け値を適用するように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0073】
本発明の第一態様のスペクトル測定装置によれば、スペクトル間の相違を数値化する際において、試料スペクトルのデータポイント毎に、試料の吸収に起因するノイズ成分の大きさに応じた重み付けを実行することができるようになった。
【0074】
また、本発明の第二態様のスペクトル測定装置によれば、試料に応じて、スペクトル値が大きく変化するデータポイントに対しては重み付けを重くし、あまりスペクトル値が変化しないデータポイントに対しては重み付けを軽くするという重み付けの差を、基準物質を対象とするスペクトルの実測値に基づいて、適切に設定することができるようになった。
【0075】
また、本発明の第三および第四態様のスペクトル測定装置によれば、試料が複数の既知の成分で構成されているケースにおいて、その成分構成に応じてスペクトルの相違を適切に数値化することができるようになった。
【0076】
このように、本発明のスペクトル測定装置によれば、スペクトルの相違の数値化に大きな影響を与えたいデータポイントを適切に選択することができ、スペクトルの相違を高感度に検出することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】第一実施形態に係るCDスペクトル測定装置の概略構成図である。
【
図2】重み付け関数(σ)の導出方法の一例を示す図である。
【
図3】第二実施形態に係るスペクトル測定装置の概略構成図である。
【
図5】第三実施形態に係るスペクトル測定装置の概略構成図である。
【
図6】タンパク質を構成する二次構造毎の基準スペクトルの一例を示す図。
【
図7】第四実施形態に係るスペクトル測定装置の概略構成図である。
【
図8】スペクトル形状の差が微小である2つのスペクトル(R,U)を示す図。
【
図9】2つのスペクトルの個別一致度((Ui-Ri)
2)の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0078】
第一実施形態
図1に基づいて、第一実施形態に係るCDスペクトル測定装置の構成を説明する。このCDスペクトル測定装置10は、試料のCDスペクトルを測定する機能と、測定されたCDスペクトルの変化を数値化して出力する機能とを備え、試料の構造変化を定量的に評価することができる。特に、タンパク質の変性の有無を定量的に評価するのに好適であり、例えば、タンパク質製剤を含むバイオ医薬の開発や製造での品質管理などに有効である。
【0079】
CD(円二色性)は、試料に対して左右の円偏光を照射した場合の吸光度の差で定義される。一般にCDスペクトル測定装置は、試料に対して左右の円偏光を交互に照射し、その透過光等を光検出器で検出し、検出信号の直流(DC)成分電圧および微弱な交流(AC)成分電圧を抽出し、その比率(AC/DC)に基づいて試料のCD値を算出するタイプが多い。そのような測定装置では、光検出器からの信号が微弱な波長域においても、一定の出力電圧(例えば1V)の信号が検出できるように、検出信号を増幅している。
【0080】
図1のCDスペクトル測定装置10は、測定本体部20と、信号処理部30と、スペクトルの変化の定量評価部40とから構成される。
【0081】
測定本体部20は、CDスペクトルを測定する上で一般的に必要な光学構成および制御構成を有する。一例として、光源ランプ1、分光器2、偏光変調子(PEM)3、試料部4、光検出器5、アンプ6およびHT電圧調整器7を備えたものを示す。
【0082】
測定本体部20では、分光器2が光源ランプ1からの照射光を分光して単波長の光を取り出す。その単波長の光は、PEM3の変調によって、左回り・右回りの円偏光に連続かつ周期的に偏光する。PEM3によって作り出された連続的に交替する左右の円偏光は、測定光として試料部4の試料を透過し、その透過光が光検出器5で検出される。
【0083】
試料部4は、試料をその状態(固体、液体または気体、もしくはこれらの混合状態)に応じて保持し、または連続的に流すことが可能な試料セルなどで構成される。試料として、予め用意された対象試料と、その対象試料に応じた基準物質とを用いる。
【0084】
試料に円二色性がある場合は、左円偏光に対する吸光度と右円偏光に対する吸光度とに差が生じるため、光検出器5で検出される光強度の変動は、PEM3の変調周波数fで変化する交流成分(AC成分)ということになる。
【0085】
アンプ6は、光検出器5で検出された光強度信号を増幅して信号処理部30に送る。
【0086】
信号処理部30は、PEMドライバーからの参照信号に基づいて光強度信号中のAC成分を読み取り、試料の円二色性の測定値(CD値)を算出する。また、分光器2が測定光の波長を段階的に変化させて、その都度、信号処理部30が試料のCD値を算出することによって、試料のCDスペクトルが得られる。CDスペクトルのデータは、スペクトルの変化の定量評価部40に出力される。
【0087】
アンプ6からの増幅信号は、HT電圧調整器7にも送られる。このHT電圧調整器7は、図示しないDCフィードバック回路およびHT電圧調整部を含む。まず、アンプ6からの増幅信号はDCフィードバック回路に取り入れられ、増幅信号中の直流成分(DC成分)が例えば1Vの基準電圧と比較される。そして、HT電圧調整部は、増幅信号中のDC成
分の出力が基準電圧と同じ(例えば1V)になるように、光検出器5への印加電圧をコントロールする。つまり、HT電圧調整器7は、光検出器の受光量が少ない程、光電変換後の電圧の増幅が大きくなるように印加電圧値を調整し、検出信号を自動的に一定の信号レベルにする。本書では、光検出器5への印加電圧値を「ゲイン調整用電圧値」あるいは「HT電圧値」とも呼ぶ。
【0088】
CDスペクトルのデータは、CD値を取得するn個の波長ポイントiのポイント毎のCD値からなるデータである。通常は、横軸に測定光の波長をとり、縦軸にCD値をとって表示される。
【0089】
ここで、本発明に特徴的なスペクトルの変化の定量評価部40について説明する。定量評価部40は、コンピューター等で構築され、そこに記録されたプログラムの実行動作によって機能する重み付け関数導出手段42、記憶手段44および数値化手段46を備えている。
【0090】
重み付け関数導出手段42は、信号処理部30から複数個の基準物質についてそれぞれ測定された(または、1つの基準物質を複数回測定して得られた)複数のスペクトルデータRを受け取り、また、HT電圧調整器7から基準物質の測定において光検出器5に印加したHT電圧値の信号を受け取る。
【0091】
重み付け関数導出手段42は、これらの情報に基づいて、ある波長ポイントiにおけるHT電圧値と、その波長ポイントiにおいて測定された複数のスペクトル値Riのバラツキ度σiとの関係を、式(4A)のような重み付け関数σとして導出する。
σ=f(HT) ・・・(4A)
【0092】
重み付け関数導出手段42は、バラツキ度σiとして、例えば、その波長ポイントiにおける複数のスペクトル値Riの標準偏差SDiを算出してもよい。以下にm個のスペクトル値Riに関する標準偏差SDiの式の一例を示す。
【数18】
【0093】
図2に、重み付け関数σの導出方法の一例を示す。図中のスペクトル2Aは、基準物質を測定して得た複数のスペクトルデータRの平均スペクトルである。スペクトル2Aには、説明のため、波長ポイントiにおけるスペクトル値Riのバラツキ度σiを縦方向の棒で示す。次に、グラフ2Bは、波長ポイントi毎のHT電圧値(HTi)をプロットしたものである。また、グラフ2Cは、縦軸にバラツキ度σi、横軸にHT電圧値HTiをプロットしたものである。重み付け関数導出手段42は、既存の直線近似法やカーブフィット法を利用して、グラフ2Cにプロットしたデータに基づいて、重み付け関数σを導出する。グラフ2Cの直線近似に基づく重み付け関数σを一例に過ぎない。
【0094】
図1の記憶手段44には、導出された重み付け関数σが平均スペクトルのデータと共に記憶され、適宜、数値化手段46が読み取れるように構成されている。
【0095】
数値化手段46は、信号処理部30から対象試料について測定された試料スペクトルUのデータを受け取り、また、HT電圧調整器7から対象試料の測定において光検出器5に印加したHT電圧値の信号を受け取る。試料スペクトルと基準スペクトルとの相違を数値化する際に、数値化手段46は、記憶手段44に平均スペクトルとして記憶された基準スペクトルを用いてもよい(式(4)参照)し、信号処理部30から新たに1回または複数回の基準物質の測定を行って得た基準スペクトルを用いてもよい。そして、これらの情報に基づいて、波長ポイントi毎に、試料スペクトルUと基準スペクトルとの個別一致度(例えば、式(5))を算出する。1回の基準物質の測定を行って得た基準スペクトルを用いる場合は、個別一致度は「(Ui-Ri)
2」で表される。
【数19】
【0096】
また、数値化手段46は、試料スペクトルUを測定した際のHT電圧値(HTi)を重み付け関数σに当て嵌めて、波長ポイントi毎の重み付け値σiを算出する。そして、数値化手段46は、式(6)のように波長ポイント毎の個別一致度を「σi/σave」で除算することにより、個別一致度を重み付けする。ここでは、重み付け値の平均値(σave)で重み付け値(σi)を規格したものを用いるが、式(6)の代わりに、個別一致度を「σi」で除算する、という方法で重み付けをしてもよい。
【数20】
【0097】
最後に、式(7)に従って、重み付けされた個別一致度の平均値を得て、その平方根を算出することで、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を数値化する。
【数21】
【0098】
以上の構成によって、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を表す数値Iが算出され、数値化手段46から出力される。
【0099】
なお、第一実施形態では、CDスペクトル測定装置の場合を示したが、本発明のスペクトル測定装置は、CDスペクトル、赤外吸収スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、蛍光スペクトル、ラマンスペクトル等、スペクトルを測定する装置全般に適用可能である。スペクトルの種類に応じて、データポイントiを波数、波長、ラマンシフト量などから適宜選択すればよい。
【0100】
第二実施形態
次に、
図3に基づいて、第二実施形態に係るスペクトル測定装置の構成を説明する。このスペクトル測定装置110は、試料のスペクトルを測定する機能と、測定されたスペクトルの変化を数値化する機能とを備え、試料の構造変化を定量的に評価することができる。特に、タンパク質の変性の有無を定量的に評価するのに好適であり、例えば、タンパク質製剤を含むバイオ医薬の開発や製造での品質管理などに有効である。
【0101】
図3のスペクトル測定装置110は、測定本体部120と、信号処理部130と、スペクトルの変化の定量評価部140とから構成される。
【0102】
測定本体部120は、スペクトルを測定する上で一般的に必要な光学構成および制御構成を有する。一例として、光源ランプ1、分光器2、試料部4、光検出器5およびpH又は温度変更部8を備えたものを示す。
【0103】
測定本体部120では、分光器2が光源ランプ1からの照射光を分光して単波長の光を取り出す。その単波長の光は、測定光として試料部4の試料を透過し、その透過光が光検出器5で検出される。
【0104】
試料部4は、第一実施形態の試料部と同様であるが、pH又は温度変更部8によって、試料セル内の試料のpH又は温度が制御されるように構成されている。
【0105】
信号処理部130は、光検出器5から検出信号を受け取って、スペクトル値を読み取る。また、分光器2が測定光の波長を段階的に変化させることによって、信号処理部130は試料のスペクトルデータを算出することができる。スペクトルデータは、n個の波長ポイントiのポイント毎のスペクトル値からなるデータであり、通常は、横軸に測定光の波長をとり、縦軸にスペクトル値をとって表示される。
【0106】
ここで、本発明に特徴的なスペクトルの変化の定量評価部140について説明する。定量評価部140は、コンピューター等で構築され、そこに記録されたプログラムの実行動作によって機能する重み付け関数導出手段142、記憶手段144および数値化手段146を備えている。
【0107】
試料部4の基準物質は、pH又は温度変更部8によってpH変化又は温度変化という外部刺激を付加される。測定本体部120は、このような外部刺激の付加前後の基準物質に対してスペクトルを測定する。そのため、信号処理部130から、外部刺激の付加前の基準物質のスペクトルRと、外部刺激の付加後の基準物質のスペクトルR’とが、それぞれ重み付け関数導出手段142に送られる。
【0108】
重み付け関数導出手段142は、外部刺激を付与する前後の基準物質の各スペクトル値Ri,Ri’の差分の絶対値をデータポイント毎の重み付け値として与える重み付け関数(ξ)を導出する。この重み付け関数を式(7A)に示す。
ξ=|R’-R| ・・・(7A)
【0109】
また、スペクトル測定装置110がCDスペクトル測定装置である場合に、基準物質の温度条件を25℃から50℃に変更してそれぞれのCDスペクトルデータを測定し、これらのデータに基づく重み付け関数ξの具体例を
図4に示す。
【0110】
図3の記憶手段144には、導出された重み付け関数ξが基準スペクトルのデータRと共に記憶され、適宜、数値化手段146が読み取れるように構成されている。
【0111】
数値化手段146は、信号処理部130から対象試料について測定された試料スペクトルUのデータを受け取る。試料スペクトルと基準スペクトルとの相違を数値化する際に、数値化手段146は、記憶手段144に記憶された基準スペクトルを用いてもよいし、新たに基準物質の測定を行って得た基準スペクトルを信号処理部130から受け取ってもよい。そして、これらの情報に基づいて、波長ポイントi毎に、試料スペクトルUと基準スペクトルRとの個別一致度((Ui-Ri)2)を算出する。
【0112】
また、数値化手段146は、重み付け関数ξを用いて、波長ポイントi毎の重み付け値ξiを得る。そして、数値化手段146は、式(8)のように波長ポイント毎の個別一致度に「ξi/ξave」を掛け合わすことにより、個別一致度を重み付けする。ここでは、重み付け値の平均値(ξave)で重み付け値(ξi)を規格したものを用いるが、式(8)の代わりに、個別一致度に「ξi」を掛け合わす、という方法で重み付けをしてもよい。
【数22】
【0113】
最後に、式(9)に従って、重み付けされた個別一致度の平均値を得て、その平方根を算出することで、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を数値化する。
【数23】
【0114】
以上の構成によって、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を表す数値Iが算出され、数値化手段146から出力される。
【0115】
第三実施形態
次に、
図5に基づいて、第三実施形態に係るスペクトル測定装置の構成を説明する。このスペクトル測定装置210は、基本的な構成は、第二実施形態の装置に共通するので、重複する説明を省略し、相違する構成について詳しく説明する。
【0116】
スペクトル測定装置210は、測定本体部220と、信号処理部230と、スペクトルの変化の定量評価部240と、タンパク質の二次構造解析部250とから構成される。
【0117】
測定本体部220は、タンパク質のスペクトル、例えばCDスペクトル、IRスペクトル、ラマンスペクトル、NMRスペクトルなどを測定する。
【0118】
タンパク質の二次構造解析部250は、基準スペクトルのデータRに基づいて、基準物質であるタンパク質に含まれている二次構造(αヘリックス、βシート、βターン、ランダムコイル等)を解析し、各二次構造の比率(%)を得ることができる。ここでは、αヘリックスの比率をdα、βシートの比率をdβ、βターンの比率をdt、ランダムコイルの比率をdrで表す。
【0119】
重み付け関数導出手段242は、二次構造解析部250が解析した各二次構造の比率データを受け取り、記憶手段244から各二次構造の基準スペクトル(Rα、Rβ、Rt、Rr)を読み出して、式(9A)で表される合算スペクトルを重み付け関数ηとして導出する。
η=(|Rα|・dα
+|Rβ|・dβ
+|Rt|・dt
+|Rr|・dr)/100 ・・・(9A)
【0120】
ここで、タンパク質の各二次構造の基準スペクトルの公知データの一例であるヤング教授の基準スペクトルを
図6に示す。(出典:Jen Tsi Yang, Chuen-Shang C. Wu, and Hugo M. Martinez, Methods in Enzymology, 130, 208-269, (1986).)
【0121】
図5の記憶手段244には、導出された重み付け関数ηが基準スペクトルのデータRと共に記憶され、適宜、数値化手段246が読み取れるように構成されている。
【0122】
数値化手段246は、信号処理部230から対象試料について測定された試料スペクトルUのデータを受け取る。試料スペクトルと基準スペクトルとの相違を数値化する際に、数値化手段246は、記憶手段244に記憶された基準スペクトルを用いてもよいし、新たに基準物質の測定を行って得た基準スペクトルを信号処理部230から受け取ってもよい。そして、これらの情報に基づいて、波長ポイントi毎に、試料スペクトルUと基準スペクトルRとの個別一致度((Ui-Ri)2)を算出する。
【0123】
また、数値化手段246は、重み付け関数ηを用いて、波長ポイントi毎の重み付け値ηiを得る。そして、数値化手段246は、式(10)のように波長ポイント毎の個別一致度に「ηi/ηave」を掛け合わすことにより、個別一致度を重み付けする。ここでは、重み付け値の平均値(ηave)で重み付け値(ηi)を規格したものを用いるが、式(10)の代わりに、個別一致度に「ηi」を掛け合わす、という方法で重み付けをしてもよい。
【数24】
【0124】
最後に、式(11)に従って、重み付けされた個別一致度の平均値を得て、その平方根を算出することで、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を数値化する。
【数25】
【0125】
以上の構成によって、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を表す数値Iが算出され、数値化手段246から出力される。
【0126】
第四実施形態
次に、
図7に基づいて、第四実施形態に係るスペクトル測定装置の構成を説明する。このスペクトル測定装置310は、基本的な構成は、第二実施形態の装置に共通するので、重複する説明を省略し、相違する構成について詳しく説明する。
【0127】
スペクトル測定装置310は、測定本体部320と、信号処理部330と、スペクトルの変化の定量評価部340と、タンパク質の二次構造解析部350と、変化量算出部360とから構成される。
【0128】
測定本体部320の試料部4には基準物質としてタンパク質が配置され、pH又は温度変更部8によってpH変化又は温度変化という外部刺激を付加される。測定本体部320は、このような外部刺激の付加前後のタンパク質に対してスペクトルを測定する。そのため、信号処理部330から、外部刺激の付加前の基準物質のスペクトルRと、外部刺激の付加後の基準物質のスペクトルR’とが、それぞれタンパク質の二次構造解析部350に送られる。なお、測定本体部320は、タンパク質のスペクトル、例えばCDスペクトル、IRスペクトル、ラマンスペクトル、NMRスペクトルなどを測定する。
【0129】
タンパク質の二次構造解析部350は、外部刺激の付加前の基準スペクトルのデータRに基づいて、基準物質であるタンパク質に含まれている二次構造(αヘリックス、βシート、βターン、ランダムコイル等)を解析し、各二次構造の比率(%)を得ることができる。ここでは、αヘリックスの比率をdα、βシートの比率をdβ、βターンの比率をdt、ランダムコイルの比率をdrで表す。また、外部刺激の付加後の基準スペクトルのデータR’に基づいて、タンパク質の二次構造を解析し、各二次構造の比率dα’、dβ’、dt’、dr’(%)を得ることができる。
【0130】
変化量算出部360は、二次構造解析部350からの各二次構造の比率データを受け取って、外部刺激を付与する前後の比率の変化量の絶対値(例えば、|dα-dα’|)を二次構造毎に算出する。
【0131】
重み付け関数導出手段342は、変化量算出部360が算出した比率の変化量の絶対値のデータを受け取り、記憶手段344から各二次構造の基準スペクトル(Rα、Rβ、Rt、Rr)を読み出して、式(11A)で表される合算スペクトルを重み付け関数φとして導出する。
φ=(|Rα|・|dα-dα’|
+|Rβ|・|dβ-dβ’|
+|Rt|・|dt-dt’|
+|Rr|・|dr-dr’|)/100 ・・・(11A)
【0132】
図7の記憶手段344には、導出された重み付け関数ηが基準スペクトルのデータRと共に記憶され、適宜、数値化手段346が読み取れるように構成されている。
【0133】
数値化手段346は、信号処理部330から対象試料について測定された試料スペクトルUのデータを受け取る。試料スペクトルと基準スペクトルとの相違を数値化する際に、数値化手段346は、記憶手段344に記憶された基準スペクトルを用いてもよいし、新たに基準物質の測定を行って得た基準スペクトルを信号処理部330から受け取ってもよい。そして、これらの情報に基づいて、波長ポイントi毎に、試料スペクトルUと基準スペクトルRとの個別一致度((Ui-Ri)2)を算出する。
【0134】
また、数値化手段346は、重み付け関数φを用いて、波長ポイントi毎の重み付け値φiを得る。そして、数値化手段346は、式(12)のように波長ポイント毎の個別一致度に「φi/φave」を掛け合わすことにより、個別一致度を重み付けする。ここでは、重み付け値の平均値(φave)で重み付け値(φi)を規格したものを用いるが、式(12)の代わりに、個別一致度に「φi」を掛け合わす、という方法で重み付けをしてもよい。
【数26】
【0135】
最後に、式(13)に従って、重み付けされた個別一致度の平均値を得て、その平方根を算出することで、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を数値化する。
【数27】
【0136】
以上の構成によって、基準スペクトルと試料スペクトルとの相違を表す数値Iが算出され、数値化手段346から出力される。
【0137】
以上説明した各実施形態のスペクトル測定装置は、さらに、測定した基準スペクトルRおよび試料スペクトルSに対して、スムージング処理、高速フーリエ変換(FFT)を用いたノイズ除去フィルター処理、及び主成分分析(PCA)処理などのノイズ除去処理のうちの少なくとも1つの処理を実行可能なノイズ除去手段を備えていてもよい。スムージング処理とは、スペクトルの波形を平滑化するデータ処理のことを指し、「単純移動平均法」など公知のデータ処理法を採用できる。ノイズ除去手段を、例えば、各スペクトル測定装置のデータ処理部に含めることができ、或いは、定量評価部に含めることができる。そして、定量評価部の数値化手段は、このノイズ除去手段によってノイズ除去された基準スペクトルおよび試料スペクトルに対して個別一致度を算出するようにしてもよい。このようなノイズ除去手段を設けることで、スペクトル測定装置が、より高感度にスペクトル形状の差異を検出することができる。
【0138】
なお、第一実施形態、第二実施形態のスペクトル測定装置では、重み付け関数導出手段42,142において、ノイズ除去された基準スペクトルに基づく重み付け関数が導出されるようにしてもよい。また、第三実施形態、第四実施形態のスペクトル測定装置では、二次構造解析部(成分又は構造解析手段に相当)250,350において、ノイズ除去された基準スペクトルに基づく二次構造の比率(%)の解析が行われるようにしてもよい。
【0139】
なお、第一実施形態の式(7)の数値化において、さらに、別の重み付け値を適用するようにしてもよい。例えば、上記の重み付け関数σと、基準スペクトル値の大きさ(|Ri|)とを組み合わせて、2重の重み付けをしてもよい。また、重み付け関数σと、式(7A)の重み付け関数ξとを組み合わせて、2重の重み付けをしてもよい。あるいは、重み付け関数σと、式(9A)の重み付け関数ηとを組み合わせて、2重の重み付けをしてもよい。あるいは、重み付け関数σと、式(11A)の重み付け関数φとを組み合わせて、2重の重み付けをしてもよい。これらの数値化の式(19)から(22)に示す。さらに、多重の重み付けをしてもよい。
【0140】
【0141】
【0142】
重み付け値(σi,ξi,φi,ηi,|Ri|)をそれぞれの重み付け値の平均値(σave,ξave,φave,ηave,|Ri|ave)で規格化することにより、例えば次のような利点がある。二重の重み付け(例えばσiとξi)をする際に、一方の重み付け値が他方よりも過大(例えばσi<<ξi)であれば、一方の重み付け値(ξi)の影響が大きくなり、他方の重み付け値(σi)の影響が小さくなってしまう。そこで、式(19)から(22)の例示のように、平均値で規格化された重み付け値を用いることで、多重の重み付けをする際でもそれぞれの重み付けを等価に実行することができる。
【0143】
なお、第二実施形態および第四実施形態におけるpH又は温度変更部8は、本発明の外部刺激付与手段の一例であり、基準物質に加える外部刺激としては、温度、pH、圧力、電場、磁場、光、応力、蛋白濃度、バッファーの種類、バッファー濃度、添加物の種類、添加物の濃度の各条件を変化させることでもよく、また、変性剤を添加することでもよい。
【0144】
また、第二実施形態から第五実施形態のスペクトル測定装置は、CDスペクトル、赤外吸収スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、蛍光スペクトル、ラマンスペクトル等、スペクトルを測定する装置全般に適用可能である。
【0145】
また、第二実施形態から第四実施形態のスペクトル測定装置において、基準スペクトルとして、1回の基準物質の測定によって取得される基準スペクトルRに代えて、複数回の基準物質の測定によって取得される複数個のスペクトルの平均スペクトル(式(4)参照)を用いてもよい。
【0146】
以上の各実施形態では、スペクトルの相違をユークリッド距離によって数値する場合を具体的に説明したが、その他、式(14)のようなマンハッタン距離、式(16),式(17)のような相関係数によって数値化することもできる。
【0147】
なお、各実施形態の数値化手段が、基準スペクトルと試料スペクトル間のユークリッド距離(例えば式(5))やマンハッタン距離(例えば式(14))の数値を個別一致度として算出する際に、基準スペクトルおよび試料スペクトルをそれぞれのスペクトル面積(二乗和の平方根)で除算したものを用いてユークリッド距離やマンハッタン距離の数値を算出するようにしてもよい。このようなデータ処理を行なえば、試料および基準物質の試料調整時の濃度誤差の影響を受けずにスペクトル形状の差異を求めることができる。具体的には、ユークリッド距離を用いる場合、式(5)に代えて、式(23)を個別一致度として用いるとよい。また、マンハッタン距離を用いる場合は、式(14)に代えて、式(24)を個別一致度として用いるとよい。
【0148】
【0149】
なお、式(16),式(17)のような相関係数によって数値化する場合は、式(23)、式(24)のような面積での規格化をする必要はない。
【符号の説明】
【0150】
1 光源ランプ
2 分光器
3 偏光変調子(PEM)
4 試料部
5 光検出器
6 アンプ
7 HT電圧調整器
8 pH又は温度変更部(外部刺激付与手段)
10 CDスペクトル測定装置
20 測定本体部(スペクトル測定手段)
30 信号処理部
40 定量評価部
42 重み付け関数導出手段
44 記憶手段
46 数値化手段
110 スペクトル測定装置
120 測定本体部(スペクトル測定手段)
130 信号処理部
140 定量評価部
142 重み付け関数導出手段
144 記憶手段
146 数値化手段
210 スペクトル測定装置
220 測定本体部(スペクトル測定手段)
230 信号処理部
240 定量評価部
242 重み付け関数導出手段
244 記憶手段
246 数値化手段
250 タンパク質の二次構造解析部(成分又は構造解析手段)
310 スペクトル測定装置
320 測定本体部(スペクトル測定手段)
330 信号処理部
340 定量評価部
342 重み付け関数導出手段
344 記憶手段
346 数値化手段
350 タンパク質の二次構造解析部(成分又は構造解析手段)
360 変化量算出部