(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】鉄鋼用脱硫助剤及び鉄鋼用脱硫助剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 1/02 20060101AFI20240805BHJP
C21C 7/064 20060101ALI20240805BHJP
C22B 9/10 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
C21C1/02 103
C21C7/064 Z
C22B9/10 101
(21)【出願番号】P 2020194982
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000189464
【氏名又は名称】上田石灰製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木藤 知尋
(72)【発明者】
【氏名】古田 貴之
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-106817(JP,A)
【文献】特開昭56-077314(JP,A)
【文献】特開平10-017913(JP,A)
【文献】特開平06-322431(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102312049(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/02
C21C 7/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼製錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分と反応し、その硫黄分の除去を促進するために酸化カルシウムとともに用いられる鉄鋼用脱硫助剤であって、
酸化マグネシウム及び溶湯の表面に存在するスラグに溶融し、スラグを低粘度化する塩素系化合物を含有
し、
前記塩素系化合物は、塩化水酸化カルシウム〔CaCl(OH)〕又は塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕であることを特徴とする鉄鋼用脱硫助剤。
【請求項2】
酸化マグネシウム100質量部に対して塩素系化合物の含有量が5~50質量部である請求項
1に記載の鉄鋼用脱硫助剤。
【請求項3】
二酸化珪素を、酸化マグネシウム100質量部に対して5~20質量部含有する請求項1
又は請求項2に記載の鉄鋼用脱硫助剤。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の鉄鋼用脱硫助剤の製造方法であって、
酸化マグネシウム及び溶湯の表面に存在するスラグに溶融し、スラグを低粘度化する塩素系化合物を含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製することを特徴とする鉄鋼用脱硫助剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の鉄鋼用脱硫助剤の製造方法であって、
マグネシウム源及び塩素源を含有する混合物を造粒して造粒物を成形し、その造粒物を焼成する
工程を有し、
前記マグネシウム源は酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネサイト又はドロマイトであり、前記塩素源は塩化カルシウム又は塩化マグネシウムであることを特徴とする鉄鋼用脱硫助剤の製造方法。
【請求項6】
前記造粒物を焼成した後、破砕又は粉砕して平均粒子径が1mm未満の細粒物とした請求項
5に記載の鉄鋼用脱硫助剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製鉄所の高炉又は電炉から取り出される溶湯(溶銑)中に含まれる硫黄成分等の不純物を溶湯中から取り除いて鉄鋼の品質を向上させるために酸化カルシウムとともに使用される鉄鋼用脱硫助剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に鉄鋼用脱硫剤として生石灰(CaO)を主成分とするものが多く用いられている。この場合、生石灰が硫黄(S)と反応する脱硫反応が起き、硫黄は硫化カルシウムとなって取り除かれる。この脱硫反応は、塩基度が高いほど進行しやすいことから、蛍石(CaF2)等の成分が配合される。
【0003】
この種の鉄鋼用の脱硫剤が例えば特許文献1に開示されている。この従来構成の脱硫剤は、転炉滓10~40質量%に対し、酸化カルシウム(生石灰)が55~85質量%及び蛍石が10質量%以下配合されている。この脱硫剤によれば、スラグの滓化性が高められ、脱硫率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載されている従来構成の脱硫剤には蛍石が含まれていることによって脱硫剤の塩基度が高められ、溶融スラグの流動性が良好になって脱硫反応の促進が図られる。その結果、溶湯の脱硫率が実用上有用な程度まで高められる。しかしながら、蛍石はフッ素化合物であり、フッ素原子を有していることから、脱硫後にはスラグ中にフッ素が残存し、スラグの廃棄時や利用時にスラグからフッ素が溶出し、そのフッ素が環境を汚染するという問題があった。このため、蛍石等のフッ素化合物を使用することなく、フッ素化合物を使用したときと同等の脱硫性能が得られる脱硫剤の代替品が求められている。
【0006】
そこで、この発明の目的とするところは、フッ素化合物を用いることなく、スラグの粘度を下げることができて、脱硫率の向上を図ることができる鉄鋼用脱硫助剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明の鉄鋼用脱硫助剤は、鉄鋼製錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分と反応し、その硫黄分の除去を促進するために酸化カルシウムとともに用いられる鉄鋼用脱硫助剤であって、酸化マグネシウム(MgO)及び溶湯の表面に存在するスラグに溶融し、スラグを低粘度化する塩素系化合物を含有することを特徴とする。
【0008】
前記塩素系化合物は、塩化水酸化カルシウム〔CaCl(OH)〕又は塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕であることが好ましい。
前記酸化マグネシウム100質量部に対して塩素系化合物の含有量が5~50質量部であることが好ましい。
【0009】
二酸化珪素を、酸化マグネシウム100質量部に対して5~20質量部含有することが好ましい。
前記鉄鋼用脱硫助剤の製造方法は、酸化マグネシウム及び溶湯の表面に存在するスラグに溶融し、スラグを低粘度化する塩素系化合物を含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製することを特徴とする。
【0010】
前記鉄鋼用脱硫助剤の製造方法は、マグネシウム源及び塩素源を含有する混合物を造粒して造粒物を成形し、その造粒物を焼成することを特徴とする。
前記マグネシウム源は炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム又はドロマイトであり、塩素源は塩化カルシウム又は塩化マグネシウムであることが好ましい。
【0011】
前記造粒物を焼成した後、破砕又は粉砕して平均粒子径が1mm未満の細粒物とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明の鉄鋼用脱硫助剤によれば、フッ素化合物を用いることなく、スラグの粘度を下げることができて、脱硫率の向上を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例9について、焼成温度(℃)と脱硫率(%)との関係を示すグラフ。
【
図2】実施例9について、焼成温度(℃)と塩素揮発量(質量%)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における鉄鋼用脱硫助剤(以下、単に脱硫助剤ともいう)は、鉄鋼製錬炉内の溶湯に含まれる硫黄(S)分と反応し、その硫黄分の除去を促進するために、酸化カルシウム(生石灰、CaO)に配合され、鉄鋼用脱硫剤として使用されるものである。すなわち、この鉄鋼用脱硫助剤は、酸化カルシウムに蛍石が配合された従来構成の鉄鋼用脱硫剤における蛍石の代替品となるものである。
【0015】
この鉄鋼用脱硫助剤は、酸化マグネシウム(MgO)及び溶湯の表面に存在するスラグ(鉱滓)に溶融し、スラグを低粘度化する塩素系化合物を必須成分として含有する。酸化マグネシウムに塩素系化合物を配合することにより、スラグに対する鉄鋼用脱硫助剤の溶融性を高めることができるとともに、スラグの流動性(粘性)を向上させ、脱硫反応の効率を高めることができる。
【0016】
前記酸化マグネシウムは、酸化カルシウムと同様に溶湯中の硫黄と直接反応(脱硫反応)し、溶湯から不純物の硫黄を除去することができる。このとき、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムは、溶湯中の燐(P)分とも同様に反応することから、燐も除去することができる。
【0017】
前記塩素系化合物は、溶湯に対する酸化マグネシウムや酸化カルシウムの溶融性を高めるとともに、スラグを低粘度化してその流動性(粘性)を向上させ、脱硫反応の効率を高めることができる。この塩素系化合物として具体的には、塩化水酸化カルシウム〔CaCl(OH)〕、塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕等が挙げられる。塩化水酸化カルシウムは、スラグに対する酸化マグネシウムや酸化カルシウムの溶融性を高めるとともに、スラグを低粘度化して流動性を改善し、脱硫性能を向上させる。
【0018】
また、塩化水酸化マグネシウムも、スラグ中への酸化マグネシウムや酸化カルシウムの溶融性を高め、スラグの低粘度化により流動性を改善し、脱硫性能を向上させる。このため、塩化水酸化マグネシウムは塩化水酸化カルシウムと相乗的に作用し、脱硫率を向上させることができる。
【0019】
前記鉄鋼用脱硫剤助中の塩素系化合物の配合量は、酸化マグネシウム100質量部に対して塩素系化合物の含有量が5~50質量部であることが好ましい。前記塩素系溶融物の含有量が5質量部を下回る場合には、スラグの粘度が高く、流動性の改善が難しくなるとともに、スラグ中での脱硫助剤の溶融速度を高めることも難しくなる。その一方、塩素系化合物の含有量が50質量部を上回る場合には、スラグが高粘度化したり、酸化マグネシウムの含有量が相対的に減少したりして好ましくない。
【0020】
前記塩素系化合物のうち塩化水酸化カルシウムの含有量は、酸化マグネシウム100質量部に対して5~45質量部であることが好ましい。塩化水酸化カルシウムの含有量が5質量部より少ない場合、酸化カルシウムや酸化マグネシウムとの相乗的な機能を十分に発現することが難しくなって好ましくない。その一方、塩化水酸化カルシウムの含有量が45質量部より多い場合、酸化カルシウムや酸化マグネシウムの含有量が相対的に減少して脱硫助剤の本来の機能を発揮することが困難になる。
【0021】
前記塩素系化合物のうち塩化水酸化マグネシウムの含有量は、酸化マグネシウム100質量部に対して2~10質量部であることが好ましい。塩化水酸化マグネシウムの含有量が2質量部未満の場合、塩化水酸化マグネシウムの機能発現が不足するとともに、塩化水酸化カルシウムとの相乗作用も得られず好ましくない。一方、塩化水酸化マグネシウムの含有量が10質量部を超える場合、他の必須成分とのバランスが悪くなるとともに、他成分の含有量が相対的に減少して好ましくない。
【0022】
前記鉄鋼用脱硫助剤には、二酸化珪素(シリカ、SiO2)を配合することが望ましい。この二酸化珪素を配合することにより、スラグ中における酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩素系化合物の溶解性を一層高めることができるとともに、スラグの粘度低下を図ることができる。
【0023】
この二酸化珪素の配合量は、酸化マグネシウム100質量部に対して5~20質量部であることが好ましい。二酸化珪素の配合量が5質量部より少ない場合、スラグ中における脱硫助剤の各成分の溶解性を高めることが難しく、スラグの低粘度化を図ることが困難である。一方、二酸化珪素の配合量が20質量部より多い場合、脱硫助剤の他成分の配合量が低下して成分間のバランスが悪くなり、スラグ中への各成分の溶解を妨げ、スラグの低粘度化が難しくなる。
【0024】
前記鉄鋼用脱硫助剤にはカーボン(C)、カルシウムアルミネート(CaO・Al2O3)等のその他の添加成分を含有することができる。カーボンを含有することにより、スラグに対する脱硫助剤の溶融速度を高めることができる。また、カルシウムアルミネートは融点が低いことから、スラグに対する脱硫助剤の溶融速度を向上させることができる。
【0025】
前述のように、鉄鋼用脱硫助剤は酸化カルシウムに配合されて使用される。この場合、鉄鋼用脱硫助剤と酸化カルシウムとの配合量は、鉄鋼用脱硫助剤が10~50質量%、酸化カルシウムが50~90質量%であることが好ましい。鉄鋼用脱硫助剤が10質量%未満の場合又は酸化カルシウムが90質量%を超える場合には、スラグの粘性が高く、流動性が低下して脱硫反応の進行が妨げられるおそれがある。一方、鉄鋼用脱硫助剤が50質量%を超える場合又は酸化カルシウムが50質量%未満の場合には、酸化カルシウムと硫黄との脱硫反応や酸化カルシウムと燐との反応が低下する傾向を示して好ましくない。
【0026】
本実施形態の鉄鋼用脱硫助剤は、酸化カルシウムとは別体で調整して使用される。そして、鉄鋼用脱硫助剤を鉄鋼用脱硫剤として使用する場合には、鉄鋼用脱硫助剤を酸化カルシウムに添加した混合物として溶湯に投入し、或いは鉄鋼用脱硫助剤と酸化カルシウムをそれぞれ溶湯に投入して使用される。
【0027】
次に、前述した鉄鋼用脱硫助剤の製造方法について説明する。
この鉄鋼用脱硫助剤の製造方法としては、2つの製造方法が挙げられる。
鉄鋼用脱硫助剤の第1の製造方法は、酸化マグネシウム、塩素系化合物及び所望により二酸化珪素等のその他の添加成分を含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製するものである。この製造方法では、必須成分を含有する混合物を加圧成形するだけで鉄鋼用脱硫助剤を簡易に製造することができる。
【0028】
この場合、前記混合物中の各成分の配合量は、鉄鋼用脱硫助剤における各成分の含有量が適用される。加圧成形(プレス成形)は常法に従って行われ、得られる造粒物の平均粒子径は、例えば5~40mmである。
【0029】
鉄鋼用脱硫助剤の第2の製造方法は、マグネシウム源、塩素源及び所望により二酸化珪素等のその他の添加成分を含有する混合物を加圧成形(プレス成形)して造粒物を成形し、その造粒物を焼成するものである。加圧成形は常法に従って行われ、得られる造粒物の平均粒子径は例えば5~40mmである。
【0030】
前記マグネシウム源としては酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネサイト又はドロマイト及び塩素源としては塩化カルシウム又は塩化マグネシウムが好ましい。焼成温度は900~1200℃の範囲が好ましく、950~1100℃の範囲がより好ましい。
【0031】
焼成温度が900℃未満ではマグネシウム源から酸化マグネシウムを生成することが難しく、1200℃を超えると塩素揮発量が増大して塩化水酸化マグネシウムの生成量が低下して好ましくない。この製造方法では、焼成後に必須成分として酸化マグネシウム及び塩素系化合物が生成する。
【0032】
前記造粒物を焼成した後には、破砕又は粉砕して細粒物を形成することが好ましい。このようにして得られる鉄鋼用脱硫助剤の細粒物は、スラグに対する鉄鋼用脱硫助剤の溶融を促し、スラグの流動性を改善し、脱硫率を高めることができる。該細粒物の平均粒子径は1mm未満であることが望ましい。なお、この細粒物の平均粒子径の下限は、1μm程度である。
【0033】
次に、前記のように構成された鉄鋼用脱硫助剤について作用を説明する。
さて、鉄鋼製錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分等の不純物を取り除く場合には、溶湯に対して所定量の鉄鋼用脱硫助剤を酸化カルシウムとともに添加して撹拌する。このとき、鉄鋼用脱硫助剤中には必須成分として酸化マグネシウム及びスラグに溶融し、スラグを低粘度化する塩素系化合物が含まれている。
【0034】
このため、酸化マグネシウムが酸化カルシウムとともに溶湯とスラグとの界面で硫黄と反応する脱硫反応が起き、硫黄は硫化マグネシウムや硫化カルシウムとなって取り除かれる。このとき、鉄鋼用脱硫助剤には塩素系化合物としての塩化水酸化カルシウム、塩化水酸化マグネシウムが含まれていることから、スラグに対して酸化マグネシウムや酸化カルシウムが速やかに溶融し、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの機能が迅速かつ有効に発現される。
【0035】
加えて、塩素系化合物としての塩化水酸化カルシウム、塩化水酸化マグネシウムはスラグを低粘度化してその流動性を改善することができる。その結果、鉄鋼用脱硫助剤の脱硫性能は一層向上し、脱硫反応が促進されて脱硫率の向上が図られる。
【0036】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)この実施形態の鉄鋼用脱硫助剤は、必須成分として酸化マグネシウム及び塩素系化合物を含有する。塩素系化合物は、スラグに溶融するとともに、スラグを低粘度化し、脱硫反応を促すことができる。
【0037】
従って、実施形態の鉄鋼用脱硫助剤によれば、フッ素化合物を用いることなく、スラグの粘度を下げることができて、脱硫率の向上を図ることができる。加えて、この鉄鋼用脱硫助剤はフッ素化合物を含まないように構成することができ、脱硫後のスラグからフッ素を溶出するおそれがなく、環境汚染を回避することができる。
【0038】
(2)前記塩素系化合物は、塩化水酸化カルシウム又は塩化水酸化マグネシウムである。この場合、鉄鋼用脱硫助剤は、スラグの低粘度化を促してスラグの流動性を良好にでき、脱硫反応を促進することができる。
【0039】
(3)前記酸化マグネシウム100質量部に対して塩素系化合物の含有量は5~50質量部である。このため、各必須成分の機能をバランス良く発揮することができ、脱硫率を高めることができる。
【0040】
(4)前記鉄鋼用脱硫助剤には、二酸化珪素が酸化マグネシウム100質量部に対して5~20質量部含まれる。この場合には、スラグ中における酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩素系化合物の溶融性を一層高めることができるとともに、スラグの粘度低下を図ることができる。
【0041】
(5)鉄鋼用脱硫助剤の第1の製造方法は、酸化マグネシウム及び塩素系化合物を含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製する。この製造方法によれば、焼成を行うことなく、加圧成形のみにより鉄鋼用脱硫助剤を簡易に製造することができる。
【0042】
(6)鉄鋼用脱硫助剤の第2の製造方法は、マグネシウム源及び塩素源を含有する混合物を造粒して造粒物を成形し、その造粒物を焼成するものである。この製造方法によれば、焼成により鉄鋼用脱硫助剤の必須成分を生成させることができ、その必須成分を含む造粒物を得ることができる。
【0043】
(7)前記マグネシウム源は炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム又はドロマイトであり、塩素源は塩化カルシウム又は塩化マグネシウムである。この場合、焼成後に鉄鋼用脱硫助剤中における必須成分の生成率を高めることができる。
【0044】
(8)前記造粒物を焼成した後、破砕又は粉砕して平均粒子径が1mm未満の細粒物とする。この場合には、鉄鋼用脱硫助剤の細粒物により、脱硫性能の向上を図ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例、比較例及び対照例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、以下の各例において、部は質量部を表す。表1~表3中の数値も質量部を表す。
(実施例1)
炭酸マグネシウム80部に対して塩化カルシウム20部を混合し、常法によりプレス成形して造粒物を得た。この造粒物を1050℃で焼成して、平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫助剤を調製した。この鉄鋼用脱硫助剤の原料組成を表1に示した。また、鉄鋼用脱硫助剤の組成をX線回折及び蛍光X線分析によって分析し、その結果を表3に示した。
【0046】
(実施例2)
炭酸マグネシウム90部に対して塩化カルシウム10部を混合し、常法によりプレス成形して造粒物を得た。この造粒物を1050℃で焼成して、平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫助剤を調製した。この鉄鋼用脱硫助剤の原料組成を表1に示した。また、鉄鋼用脱硫助剤の組成をX線回折及び蛍光X線分析によって分析し、その結果を表3に示した。
【0047】
(実施例3)
実施例1で得られた鉄鋼用脱硫助剤を粉砕し、細粒化して平均粒子径が1mm未満(1μm以上)となる細粒物として実施例3の鉄鋼用脱硫助剤を調製した。この鉄鋼用脱硫助剤の原料組成を表1に示し、X線回折及び蛍光X線分析により分析した鉄鋼用脱硫助剤の組成を表3に示した。
【0048】
(実施例4)
酸化マグネシウム65部に対して、塩化水酸化カルシウム25部及び塩化水酸化マグネシウム10部を混合し、常法によりプレス成形した後、粉砕して平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫助剤を調製した。この鉄鋼用脱硫助剤の組成を表1に示した。
【0049】
(実施例5)
炭酸マグネシウム82部に対して塩化カルシウム16部及び二酸化珪素2部を混合し、常法によりプレス成形して造粒物を得た。この造粒物を1050℃で焼成して、平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫助剤を調製した。この鉄鋼用脱硫助剤の原料組成を表1に示した。また、鉄鋼用脱硫助剤の組成をX線回折及び蛍光X線分析によって分析し、その結果を表3に示した。
【0050】
(実施例6)
炭酸マグネシウム82部に対して塩化カルシウム12部及び二酸化珪素6部を混合し、常法によりプレス成形して造粒物を得た。この造粒物を1050℃で焼成して、平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫助剤を調製した。この鉄鋼用脱硫助剤の原料組成を表1に示した。また、鉄鋼用脱硫助剤の組成をX線回折及び蛍光X線分析によって分析し、その結果を表3に示した。
【0051】
(実施例7)
炭酸マグネシウム81部に対して塩化カルシウム11部及び二酸化珪素8部を混合し、常法によりプレス成形して造粒物を得た。この造粒物を1050℃で焼成して、平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫助剤を調製した。この鉄鋼用脱硫助剤の原料組成を表1に示した。また、鉄鋼用脱硫助剤の組成をX線回折及び蛍光X線分析によって分析し、その結果を表3に示した。
【0052】
(実施例8)
酸化マグネシウム65部に対して、塩化水酸化カルシウム25部、塩化水酸化マグネシウム5部及び二酸化珪素10部を混合し、常法によりプレス成形した後、粗砕して平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫助剤を調製した。この鉄鋼用脱硫助剤の組成を表1に示した。
【0053】
(比較例1)
酸化マグネシウム単体を常法によりプレス成形して造粒物を調整し、比較例1の鉄鋼用脱硫剤とした。この鉄鋼用脱硫剤の組成を表2に示した。
【0054】
(比較例2)
酸化カルシウム単体を常法によりプレス成形して造粒物を調整し、比較例2の鉄鋼用脱硫剤とした。この鉄鋼用脱硫剤の組成を表2に示した。
【0055】
(比較例3)
塩化カルシウム単体を常法によりプレス成形して造粒物を調整し、比較例3の鉄鋼用脱硫剤とした。この鉄鋼用脱硫剤の組成を表2に示した。
【0056】
(対照例1)
酸化カルシウム67部に対してフッ化カルシウム粉を33部混合し、常法によりプレス成形して対照例1の鉄鋼用脱硫剤を調製した。
【0057】
【0058】
【0059】
【表3】
次に、前記実施例1~8の鉄鋼用脱硫助剤を酸化カルシウムとともにそれぞれルツボ(ルテニウム20質量%を含む白金製)に入れるとともに、比較例1~3及び対照例1の鉄鋼用脱硫剤をそれぞれルツボに入れ、その中にアルミナ及びシリカよりなるスラグ成分を加え、1600℃に加熱した。実施例1~8の鉄鋼用脱硫助剤と酸化カルシウムとの配合比は、いずれも酸化カルシウムが67質量%で鉄鋼用脱硫助剤が33質量%である。また、比較例1、3及び対照例1の鉄鋼用脱硫剤における酸化カルシウムとその他の成分との配合比は、酸化カルシウムが67質量%で鉄鋼用脱硫助剤が33質量%である。なお、比較例2の鉄鋼用脱硫剤は、酸化カルシウムのみである。
【0060】
前記加熱によりスラグ成分と鉄鋼用脱硫剤とが溶融して液状になった後、粘度測定用のロッド(ルテニウム20質量%を含む白金製)を挿入して高温スラグの粘度(mPa・s)を測定した。その結果を表4に示した。
【0061】
【表4】
表4の結果より、実施例1~8の鉄鋼用脱硫助剤では高温スラグの粘度がいずれも60mPa・sであり、鉄鋼メーカーで使用されている対照例1の鉄鋼用脱硫剤を用いた高温スラグの粘度と同じであって同等の流動性を示した。また、実施例5~8においては鉄鋼用脱硫助剤に二酸化珪素が配合されており、高温スラグの粘度は実施例1~4と同等の粘度を示し、良好な流動性が発揮された。
【0062】
次に、前記実施例1~8、比較例1~3及び対照例1の鉄鋼用脱硫剤について、高周波誘導炉を使用して脱硫率(%)を測定した。
すなわち、高周波誘導炉内に鉄源50kgと、硫黄含有率が0.05質量%となるように硫化鉄とを混合して溶解させ、溶湯を得た。この溶湯に前記鉄鋼用脱硫剤1kgとスラグ成分とを投入し、15分間撹拌した。その後に溶湯の一部を採取し、硫黄含有率を分析した。そして、下記の計算式に基づいて脱硫率(%)を算出した。その結果を表5に示した。
【0063】
脱硫率(%)=〔(試験前の硫黄含有率-試験後の硫黄含有率)/試験前の硫黄含有率〕×100
【0064】
【表5】
表5の結果より、実施例1~8の鉄鋼用脱硫助剤の場合には脱硫率が67%以上の高い値を示し、対照例1の鉄鋼用脱硫剤の場合における脱硫率に近い値を示した。すなわち、フッ素を含まない構成でもフッ素含有脱硫剤と同等の脱硫性能を有することが示された。また、実施例5~8に示したように、鉄鋼用脱硫助剤に二酸化珪素を配合した場合には脱硫率が70%以上を示し、二酸化珪素が配合されていない実施例1~4より高い値が得られ、二酸化珪素の配合により脱硫性能の向上を図ることができた。
【0065】
次に、前記実施例1~8、比較例1~3及び対照例1の鉄鋼用脱硫剤について脱硫速度を測定した。
すなわち、前記脱硫率(%)の測定において、溶湯に鉄鋼用脱硫剤を投入し、その5分後、10分後及び15分後における硫黄含有率を測定し、前記計算式に基づいて脱硫率(%)を算出した。その結果を表6に示した。
【0066】
【表6】
表6の結果より、実施例1~8における鉄鋼用脱硫助剤の溶融速度は、比較例1~3の鉄鋼用脱硫剤に比べて速く、初期段階から高い脱硫率を示し、対照例1における初期段階の脱硫率及び脱硫速度に近い値を示した。また、実施例3では、実施例1及び2に比べて初期の脱硫速度が速くなり、鉄鋼用脱硫助剤の細粒化による効果が認められた。さらに、二酸化珪素を配合した実施例5~8の鉄鋼用脱硫助剤では、二酸化珪素が配合されていない実施例1~4に比べて初期段階から脱硫速度が速い傾向が示された。
【0067】
(実施例9)
前記実施例1の鉄鋼用脱硫助剤について、焼成温度を1050℃、1100℃、1200℃及び1300℃に変化させたときの脱硫率(%)を前述した方法で測定した。そして、焼成温度(℃)と脱硫率(%)との関係を
図1に示した。
【0068】
図1に示したように、焼成温度が1100℃を超えると脱硫率が次第に低下し始める傾向が示された。
さらに、実施例1の鉄鋼用脱硫助剤について、焼成温度950℃、1050℃、1150℃、1450℃と、各焼成温度における焼成後の鉄鋼用脱硫剤中の塩素(Cl)含有率(質量%)を測定することにより、各焼成温度における塩素揮発量(質量%)を算出した。そして、焼成温度(℃)と塩素揮発量(質量%)との関係を
図2に示した。
【0069】
図2に示したように、焼成温度が1100℃を超えると塩素揮発量が増大する傾向が見られた。これは、塩化水酸化カルシウムが分解して塩素が揮発しているものと考えられることから、有効成分である塩化水酸化カルシウムを含有させるためには、焼成温度は1100℃以下であることが望ましい。また、炭酸カルシウムが酸化カルシウムに化学変化するための温度は950℃以上であることが好ましい。従って、焼成温度は950~1100℃の範囲であることが好ましい。
【0070】
なお、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・前記鉄鋼用脱硫助剤の必須成分の含有量を、溶湯中の硫黄成分との反応に加えて燐成分との反応をも考慮して総合的に設定してもよい。
【0071】
・前記鉄鋼用脱硫助剤の第1の製造方法において、塩化水酸化カルシウムと塩化水酸化マグネシウムのいずれか一方のみを使用してもよい。
・前記鉄鋼用脱硫助剤の第2の製造方法において、マグネシウム源又は塩素源は、前記製造方法に示された単一物質に限定されるものではなく、マグネシウム又は塩素を含む物質を複数混合して製造してもよい。