(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】鉄鋼用脱硫剤及び鉄鋼用脱硫剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 1/02 20060101AFI20240805BHJP
C21C 7/064 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C21C1/02 103
C21C7/064 Z
(21)【出願番号】P 2020194983
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000189464
【氏名又は名称】上田石灰製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木藤 知尋
(72)【発明者】
【氏名】古田 貴之
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-077314(JP,A)
【文献】特開昭59-070711(JP,A)
【文献】特開昭59-222513(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102312049(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/02
C21C 7/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼製錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分と反応し、その硫黄分の除去を促進する脱硫剤であって、
酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)及び塩化水酸化カルシウム〔CaCl(OH)〕を含有することを特徴とする鉄鋼用脱硫剤。
【請求項2】
前記酸化カルシウム100質量部に対して酸化マグネシウムの含有量が40~80質量部であり、塩化水酸化カルシウムの含有量が2~20質量部である請求項1に記載の鉄鋼用脱硫剤。
【請求項3】
塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕を含有する請求項1又は請求項2に記載の鉄鋼用脱硫剤。
【請求項4】
請求項1
又は請求項2に記載の鉄鋼用脱硫剤の製造方法であって、
酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムを含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製することを特徴とする鉄鋼用脱硫剤の製造方法。
【請求項5】
請求項
3に記載の鉄鋼用脱硫剤の製造方法であって、
酸化カルシウム、酸化マグネシウム
、塩化水酸化カルシウム
及び塩化水酸化マグネシウムを含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製することを特徴とする鉄鋼用脱硫剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鉄鋼用脱硫剤の製造方法であって、
カルシウム源、マグネシウム源及び塩素源を含有する混合物を造粒して造粒物を成形し、その造粒物を焼成する
工程を有し、
前記カルシウム源は炭酸カルシウムであり、前記マグネシウム源は炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム又はドロマイトであり、前記塩素源は塩化カルシウムであることを特徴とする鉄鋼用脱硫剤の製造方法。
【請求項7】
前記造粒物を焼成した後、破砕又は粉砕して細粒物とした請求項
6に記載の鉄鋼用脱硫剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製鉄所の高炉又は電炉から取り出される溶湯(溶銑)中に含まれる硫黄成分等の不純物を溶湯中から取り除いて鉄鋼の品質を向上させるための鉄鋼用脱硫剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に鉄鋼用脱硫剤として石灰(CaO)を主成分とするものが多く用いられている。この場合、石灰が硫黄(S)と反応する脱硫反応が起き、硫黄は硫化カルシウムとなって取り除かれる。この脱硫反応は、塩基度が高いほど進行しやすいことから、蛍石(CaF2)等の成分が配合される。
【0003】
この種の鉄鋼用脱硫剤が例えば特許文献1に開示されている。この従来構成の鉄鋼用脱硫剤は、CaO/MgOが1.0~2.1の比率でCaO及びMgOを含むドロマイトを主成分とするものである。この脱硫剤では、ドロマイト中にCaOが極めて微細に存在しているため、蛍石等を配合しなくても良好な脱硫性能を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載されている従来構成の脱硫剤においては、ドロマイトを主成分とし、そのドロマイトのCaO/MgOの比率が1.0~2.1であるとともに、その他の成分として石灰等のCaO源やアルミニウム等の脱酸成分が配合されるに過ぎない。このため、溶湯に対する脱硫剤の溶融速度が遅く、溶湯の粘度低下に時間を要し、流動性の向上を図ることが難しい。従って、脱硫反応の進行が遅くなり、その結果同一時間内では脱硫率の低下を招くという欠点があった。
【0006】
そこで、この発明の目的とするところは、溶湯に対する溶融速度を速くできて、脱硫率の向上を図ることができる鉄鋼用脱硫剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明の鉄鋼用脱硫剤は、鉄鋼製錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分と反応し、その硫黄分の除去を促進する脱硫剤であって、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)及び塩化水酸化カルシウム〔CaCl(OH)〕を含有することを特徴とする。
【0008】
前記酸化カルシウム100質量部に対して酸化マグネシウムの含有量が40~80質量部であり、塩化水酸化カルシウムの含有量が2~20質量部であることが好ましい。
塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕を含有することがより好ましい。
【0009】
前記鉄鋼用脱硫剤の第1の製造方法は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムを含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製することを特徴とする。
前記鉄鋼用脱硫剤の第2の製造方法は、カルシウム源、マグネシウム源及び塩素源を含有する混合物を造粒して造粒物を成形し、その造粒物を焼成することを特徴とする。
【0010】
前記カルシウム源は炭酸カルシウムであり、前記マグネシウム源は炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム又はドロマイトであり、前記塩素源は塩化カルシウムであることが好ましい。
【0011】
前記造粒物を焼成した後、破砕又は粉砕して細粒物とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明の鉄鋼用脱硫剤によれば、溶湯に対する溶融速度を速くできて、脱硫率の向上を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例7において、焼成温度と塩素揮発量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における鉄鋼用脱硫剤は、鉄鋼製錬炉内の溶湯に含まれる硫黄(S)分と反応し、その硫黄分の除去を促進するものである。この鉄鋼用脱硫剤は、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)及び塩化水酸化カルシウム〔CaCl(OH)〕を必須成分として含有する。酸化カルシウムと酸化マグネシウムに塩素化合物である塩化水酸化カルシウムを配合することにより、溶湯に対する脱硫剤の溶融性を高めることができるとともに、スラグ(鉱滓)の流動性(粘性)を向上させ、脱硫反応の効率を高めることができる。
【0015】
前記酸化カルシウム及び酸化マグネシウムは、溶湯中の硫黄と直接反応(脱硫反応)し、溶湯から不純物の硫黄を除去することができる。このとき、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムは、溶湯中の燐(P)分とも同様に反応することから、燐も除去することができる。塩化水酸化カルシウムは、溶湯に対する酸化カルシウムや酸化マグネシウムの溶融性を高めるとともに、スラグを低粘度化して流動性を改善し、脱硫性能を向上させる。
【0016】
前記鉄鋼用脱硫剤には塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕が含まれていることがより好ましい。この塩化水酸化マグネシウムは、溶湯中への酸化カルシウムや酸化マグネシウムの溶融性を高め、スラグの低粘度化により流動性を改善し、脱硫性能を向上させる。このため、塩化水酸化マグネシウムは塩化水酸化カルシウムと相乗的に作用し、脱硫率を向上させることができる。
【0017】
前記鉄鋼用脱硫剤中の各成分の配合量は、酸化カルシウム100質量部に対して酸化マグネシウムの含有量が40~80質量部であり、塩化水酸化カルシウムの含有量が2~20質量部であることが好ましい。また、塩化水酸化マグネシウムは、酸化カルシウム100質量部に対して1~5質量部であることが好ましい。
【0018】
前記酸化マグネシウムの含有量が40質量部を下回る場合には、スラグの粘度が高く、流動性の改善が難しくなるとともに、溶湯中での脱硫剤の溶融速度を高めることも難しくなる。その一方、酸化マグネシウムの含有量が80質量部を上回る場合には、スラグが低粘度化し過ぎたり、他の成分の含有量が相対的に減少したりして好ましくない。
【0019】
前記塩化水酸化カルシウムの含有量が2質量部より少ない場合、酸化カルシウムや酸化マグネシウムとの相乗的な機能を十分に発現することが難しくなって好ましくない。その一方、塩化水酸化カルシウムの含有量が20質量部より多い場合、酸化カルシウムや酸化マグネシウムの含有量が相対的に減少して脱硫剤の本来の機能を発揮することが困難になる。
【0020】
前記塩化水酸化マグネシウムの含有量が1質量部未満の場合、塩化水酸化マグネシウムの機能発現が不足するとともに、塩化水酸化カルシウムとの相乗作用も得られず好ましくない。一方、塩化水酸化マグネシウムの含有量が5質量部を超える場合、他の必須成分とのバランスが悪くなるとともに、他成分の含有量が相対的に減少して好ましくない。
【0021】
前記鉄鋼用脱硫剤にはカーボン(C)を含有することが好ましい。このカーボンを含有することにより、溶湯に対する脱硫剤の溶融速度を高めることができる。このカーボンの含有量は常法に従って設定されるが、例えば酸化カルシウム100質量部に対して5~15質量部であることが好ましい。
【0022】
また、鉄鋼用脱硫剤にはカルシウムアルミネート(CaO・Al2O3)を含有することが好ましい。このカルシウムアルミネートは融点が低いことから、溶湯に対する脱硫剤の溶融速度を向上させることができる。カルシウムアルミネートの含有量も常法に従って設定されるが、例えば酸化カルシウム100質量部に対して40~60質量部であることが好ましい。
【0023】
次に、前述した鉄鋼用脱硫剤の製造方法について説明する。
この鉄鋼用脱硫剤の製造方法としては、2つの製造方法が挙げられる。
鉄鋼用脱硫剤の第1の製造方法は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムを含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製するものである。この製造方法では、必須成分を含有する混合物を加圧成形するだけで鉄鋼用脱硫剤を簡易に製造することができる。
【0024】
この場合、混合物中の各成分の配合量は、前記鉄鋼用脱硫剤における各成分の含有量が適用される。加圧成形は常法に従って行われ、得られる造粒物の平均粒子径は例えば5~40mmである。
【0025】
鉄鋼用脱硫剤の第2の製造方法は、カルシウム源、マグネシウム源及び塩素源を含有する混合物を造粒して造粒物を成形し、その造粒物を焼成するものである。前記カルシウム源としては炭酸カルシウムであり、マグネシウム源としては炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム又はドロマイトであり、塩素源としては塩化カルシウムが好ましい。焼成温度は900~1200℃の範囲が好ましく、900~1100℃の範囲がより好ましい。
【0026】
焼成温度が900℃未満ではカルシウム源から酸化カルシウムを生成することが難しく、1200℃を超えると塩素揮発量が増大して塩化水酸化カルシウムの生成量が低下して好ましくない。この製造方法では、焼成後に必須成分として酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムが生成するほか、所望成分として塩化水酸化マグネシウム等が生成する。
【0027】
前記造粒物を焼成した後には、破砕又は粉砕して細粒物を形成することが好ましい。このようにして得られる鉄鋼用脱硫剤の細粒物は、溶湯に対する鉄鋼用脱硫剤の溶融を促し、溶湯の流動性を改善し、脱硫率を高めることができる。該細粒物の平均粒子径は1mm未満であることが望ましい。
【0028】
次に、前記のように構成された鉄鋼用脱硫剤について作用を説明する。
さて、鉄鋼製錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分を取り除く場合には、溶湯に対して所定量の鉄鋼用脱硫剤を添加して撹拌する。このとき、鉄鋼用脱硫剤中には必須成分として酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムが含まれている。
【0029】
このため、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムが溶湯中の硫黄と反応する脱硫反応が起き、硫黄は硫化カルシウムや硫化マグネシウムとなって取り除かれる。このとき、鉄鋼用脱硫剤には塩化水酸化カルシウムが含まれていることから、溶湯に対する酸化カルシウムや酸化マグネシウムの溶融性が高められ、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムの機能が迅速かつ有効に発現される。加えて、塩化水酸化カルシウムはスラグを低粘度化してその流動性を改善することができる。その結果、鉄鋼用脱硫剤の脱硫性能は一段と向上する。
【0030】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)この実施形態の鉄鋼用脱硫剤は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムを必須成分(有効成分)として含有する。このため、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムが溶湯中の硫黄等と反応する脱硫反応が進行するとともに、塩化水酸化カルシウムによりその脱硫反応の進行が促進される。
【0031】
従って、実施形態の鉄鋼用脱硫剤によれば、溶湯に対する溶融速度を早くできて、脱硫率の向上を図ることができる。加えて、この鉄鋼用脱硫剤はフッ素を含有しないことにより、脱硫又は脱リン後のスラグからフッ素を溶出することがなく、環境汚染を回避することができる。
【0032】
(2)前記酸化カルシウム100質量部に対して酸化マグネシウムの含有量が40~80質量部であり、塩化水酸化カルシウムの含有量が2~20質量部である。このため、各必須成分の機能をバランス良く発揮することができ、脱硫率を高めることができる。
【0033】
(3)前記鉄鋼用脱硫剤は、塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕を含有する。この場合、塩化水酸化マグネシウムが塩化水酸化カルシウムと相乗的に働いて、溶湯中への酸化カルシウムや酸化マグネシウムの溶融性を一層高め、スラグを低粘度化して流動性をさらに改善でき、脱硫性能の一層の向上を図ることができる。
【0034】
(4)前記鉄鋼用脱硫剤の第1の製造方法は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムを含有する混合物を加圧成形して造粒物を調製するものである。この製造方法によれば、焼成を行うことなく、加圧成形のみにより鉄鋼用脱硫剤を簡易に製造することができる。
【0035】
(5)また、鉄鋼用脱硫剤の第2の製造方法は、カルシウム源、マグネシウム源及び塩素源を含有する混合物を造粒して造粒物を成形し、その造粒物を焼成するものである。この製造方法によれば、焼成により鉄鋼用脱硫剤の必須成分を生成させることができ、その必須成分を含む造粒物を得ることができる。
【0036】
(6)前記カルシウム源は炭酸カルシウムであり、前記マグネシウム源は炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム又はドロマイトであり、前記塩素源は塩化カルシウムである。この場合には、焼成後に鉄鋼用脱硫剤の必須成分である酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムの生成率を高めることができる。
【0037】
(7)前記後者の製造方法において、前記造粒物を焼成した後、破砕又は粉砕して細粒物とした。この場合、鉄鋼用脱硫剤の細粒物により、脱硫性能の向上を図ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例、比較例及び対照例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、以下の各例において、部は質量部を表す。
(実施例1)
炭酸カルシウム71部に対して炭酸マグネシウム26部及び塩化カルシウム3部を混合し、常法によりプレス成形して、平均粒子径が5~40mmの造粒物を得た。この造粒物を1050℃で焼成して、平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫剤を調製した。得られた鉄鋼用脱硫剤の組成をX線回折によって分析し、その結果を表1に示した。
【0039】
(実施例2)
炭酸カルシウム53部に対して炭酸マグネシウム40部及び塩化カルシウム7部を混合し、常法によりプレス成形して、平均粒子径が5~40mmの造粒物を得た。この造粒物を1050℃で焼成して、平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫剤を調製した。得られた鉄鋼用脱硫剤の組成をX線回折によって分析し、その結果を表1に示した。
【0040】
(実施例3)
酸化カルシウム65部に対して酸化マグネシウム30部及び塩化水酸化カルシウム5部を混合した後、常法によりプレス成形して、平均粒子径が5~40mmの造粒物として鉄鋼用脱硫剤を調製した。
【0041】
(実施例4)
実施例1で得られた鉄鋼用脱硫剤を粉砕し、細粒化して平均粒子径が1mm未満となる細粒物として実施例4の鉄鋼用脱硫剤を調整した。
【0042】
(実施例5)
実施例1で得られた鉄鋼用脱硫剤に、平均粒子径が5mm未満となるカーボン粒状品を5部混合して実施例5の鉄鋼用脱硫剤を調整した。
【0043】
(実施例6)
実施例1で得られた鉄鋼用脱硫剤に、平均粒子径が5mm未満となるカルシウムアルミネート粒状品を30部混合して実施例6の鉄鋼用脱硫剤を調整した。
【0044】
(比較例1)
炭酸カルシウム90部に対して塩化カルシウム10部を混合し、常法によりプレス成形して造粒物を得た。この造粒物を1050℃で焼成して比較例1の鉄鋼用脱硫剤を調整した。この鉄鋼用脱硫剤の組成をX線回折により分析し、結果を表2に示した。
【0045】
(比較例2)
酸化カルシウム95部に対してカーボン5部を混合した後、常法によりプレス成形して比較例2の鉄鋼用脱硫剤を調整した。
【0046】
(比較例3)
酸化カルシウム70部に対してカルシウムアルミネート粒状品30部を混合し、常法によりプレス成形して比較例3の鉄鋼用脱硫剤を調整した。
【0047】
(比較例4)
酸化カルシウム65部に対して酸化マグネシウム35部を混合し、常法によりプレス成形して比較例4の鉄鋼用脱硫剤を調整した。
【0048】
(対照例1)
酸化カルシウム85部に対してフッ化カルシウム粉を15部混合し、常法によりプレス成形して対照例1の鉄鋼用脱硫剤を調製した。
【0049】
【0050】
【表2】
次に、前記実施例1~6、比較例1~4及び対照例1の鉄鋼用脱硫剤をルツボ(ルテニウム20質量%を含む白金製)に入れ、その中にアルミナ及びシリカよりなるスラグ成分を加え、1600℃に加熱した。この加熱によりスラグ成分と鉄鋼用脱硫剤とが溶融して液状になった後、粘度測定用のロッド(ルテニウム20質量%を含む白金製)を挿入して高温スラグの粘度(mPa・s)を測定した。その結果を表3に示した。
【0051】
【表3】
表3の結果より、実施例1~4の鉄鋼用脱硫剤では高温スラグの粘度がいずれも60mPa・sであり、鉄鋼メーカーで使用されている対照例1の鉄鋼用脱硫剤を用いた高温スラグの粘度と同じであって同等の流動性を示した。実施例5及び6では高温スラグの粘度が実施例1~4よりも上昇したが、従来の鉄鋼用脱硫剤を用いた比較例1~4に比べれば明らかに低粘度であった。
【0052】
次に、前記実施例1~6、比較例1~4及び対照例1の鉄鋼用脱硫剤について、高周波誘導炉を使用して脱硫率(%)を測定した。
すなわち、高周波誘導炉内に鉄源50kgと、硫黄含有率が0.1質量%となるように硫化鉄とを混合して溶解させ、溶湯を得た。この溶湯に前記鉄鋼用脱硫剤1kgとスラグ成分とを投入し、15分間撹拌した。その後に溶湯の一部を採取し、硫黄含有率を分析した。そして、下記の計算式に基づいて脱硫率(%)を算出した。その結果を表4に示した。
【0053】
脱硫率(%)=〔(試験前の硫黄含有率-試験後の硫黄含有率)/試験前の硫黄含有率〕×100
【0054】
【表4】
表4の結果より、実施例1~4の鉄鋼用脱硫剤の場合には脱硫率が70%前後の高い値を示し、対照例1の鉄鋼用脱硫剤の場合における脱硫率に近い値を示した。すなわち、フッ素を含まない構成でもフッ素含有脱硫剤と同等の脱硫性能を有することが示された。実施例5及び6の鉄鋼用脱硫剤の場合には、脱硫率が実施例1~4の脱硫率に比べて若干低い値を示したが、従来の鉄鋼用脱硫剤を用いた比較例1~4の脱硫率に比べれば十分に高い値であった。
【0055】
次に、前記実施例1~6、比較例1~4及び対照例1の鉄鋼用脱硫剤について脱硫速度を測定した。
すなわち、前記脱硫率(%)の測定において、溶湯に鉄鋼用脱硫剤を投入し、その5分後、10分後及び15分後における硫黄含有率を測定し、前記計算式に基づいて脱硫率(%)を算出した。その結果を表5に示した。
【0056】
【表5】
表5の結果より、実施例1、2及び4における鉄鋼用脱硫剤の溶融速度が速く、初期段階から高い脱硫率を示し、脱硫速度が速く、対照例1における初期段階の脱硫率及び脱硫速度に近い値を示した。実施例3、5及び6における鉄鋼用脱硫剤の脱硫速度は、実施例1、2及び4の場合に比べれば遅いが、比較例1~4に比べれば十分に速い脱硫速度を示した。
【0057】
前記特許文献1に記載されているような酸化カルシウムと酸化マグネシウムを含む鉄鋼用脱硫剤(ドロマイトに相当)である比較例4では、高温スラグの粘度が高くなり、よって脱硫率が低くなり、脱硫速度も遅い結果が示された。従って、本発明の鉄鋼用脱硫剤は、特許文献1に記載された従来構成の鉄鋼用脱硫剤に比べて極めて良好な脱硫性能を発揮できることが明らかになった。
【0058】
(実施例7)
前記実施例1の鉄鋼用脱硫剤について、焼成温度950℃、1050℃、1150℃、1450℃と、各焼成温度における焼成後の鉄鋼用脱硫剤中の塩素(Cl)含有率(質量%)を測定することにより、各焼成温度における塩素揮発量(質量%)を算出した。そして、焼成温度(℃)と塩素揮発量(質量%)との関係を
図1に示した。
【0059】
図1に示したように、焼成温度が1100℃以上では塩素揮発量が急激に増大した。これは、塩化水酸化カルシウムが分解して塩素が揮発していると考えられることから、有効成分である塩化水酸化カルシウムを含有させるためには、焼成温度は1100℃以下であることが望ましい。また、炭酸カルシウムが酸化カルシウムに化学変化するための温度は900℃以上であることが好ましい。従って、焼成温度は900~1100℃の範囲であることが好ましい。
【0060】
なお、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・前記鉄鋼用脱硫剤の第1の製造方法において、原料として塩化水酸化マグネシウムを用い、その塩化水酸化マグネシウムを酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び塩化水酸化カルシウムに混合するように構成してもよい。
【0061】
・前記鉄鋼用脱硫剤の各必須成分の含有量を、溶湯中の硫黄成分との反応に加えて燐成分との反応をも考慮して総合的に設定してもよい。
・前記鉄鋼用脱硫剤の第2の製造方法において、カルシウム源、マグネシウム源又は塩素源は、前記製造方法に示された単一物質に限定されるものではなく、カルシウム、マグネシウム又は塩素を含む物質を複数混合して製造してもよい。
【0062】
・前記実施例6では、実施例1で得られた鉄鋼用脱硫剤に、カルシウムアルミネート粒状品を混合したが、他のアルミニウム系化合物粒状品を混合するようにしてもよい。