(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】多重チャネルオーディオ再生システムに時間に基づく効果を提供するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G10K 15/12 20060101AFI20240805BHJP
H04S 3/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G10K15/12
H04S3/00 200
(21)【出願番号】P 2020540557
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2019051725
(87)【国際公開番号】W WO2019145408
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2022-01-21
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517380477
【氏名又は名称】エル アコースティックス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム・ル・ノスト
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク・ロスカム
(72)【発明者】
【氏名】エティエンヌ・コーティール
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・ヘイル
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-341800(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01056310(EP,A2)
【文献】特表2007-525083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0086130(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0083383(US,A1)
【文献】特開2014-049885(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039168(WO,A1)
【文献】特表2005-525022(JP,A)
【文献】特開2015-041842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/12
H04S 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状を有する1組のラウドスピーカーの上で再生するために、Nチャネルオーディオ入力信号に時間に基づく効果を適用するための信号処理システムであって、このシステムは、
Nチャネルのオーディオ入力信号を受信し、そこから第1のKチャネルのオーディオ信号を生成する複数の直接音処理ユニットであって、各直接音処理ユニットは、Nチャネルのオーディオ入力信号のNチャネルのうちのnチャネルを受信し、処理する、複数の直接音処理ユニットと、
Nチャネルオーディオ入力信号を受信して、そこから第1のMチャネルオーディオ信号を作成する複数の第1のサブシステムであって、各第1のサブシステム(24)が、Nチャネルのオーディオ入力信号のNチャネルのうちのnチャネルを受信し、処理する複数の第1のサブシステムと、
それぞれが第1のMチャネルオーディオ信号を受信する少なくとも1つの第2のサブシステムであって、それぞれの第2のサブシステムは、
Mチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルに時間に基づく効果を適用するための効果ユニットであって、時間に基づく効果は最小遅延値を含む効果ユニットと、
信号配信ユニットであって、
第1のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルを、ラウドスピーカーのサブセットに関連づけ、
MxMマトリックスに従って第1のMチャネルオーディオ信号から第2のMチャネルオーディオ信号を作成し、MxMマトリックス中の要素aijのそれぞれは、遅延時間を含み、信号配信ユニットは、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセットの2つのラウドスピーカーの間の最大距離に従い、それぞれの要素aijで遅延時間の最小値を決定する、信号配信ユニットと、
第2のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルに、時間に基づく効果を適用するように形成された効果ユニットと、を含み、
このシステムは、さらに、
複数の第2のMチャネルオーディオ信号の
各信号から第2のKチャネルオーディオ信号を作成するミキシングユニットであって、さらに、第1および第2のKチャネルオーディオ信号からKチャネル出力信号を形成するように構成されたミキシングユニットと、を含む信号処理システム。
【請求項2】
少なくとも1つの第2のサブシステムは、複数の第2のサブシステムを含む請求項1に記載の信号処理システム。
【請求項3】
それぞれの第2のサブシステムの効果ユニットは、第1の最小遅延値または第2の最小遅延値のいずれかを有する複数の時間に基づく効果を適用するように形成される請求項2に記載の信号処理システム。
【請求項4】
それぞれの第2のサブシステムの信号配信ユニットは、以下の1つ:
(a)ラウドスピーカーのjサブセット中の、隣り合うラウドスピーカーの間の距離、
(b)ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中の、ラウドスピーカーの間の最大距離、
に従って、それぞれの要素aijの遅延時間の最小値を決定する請求項2または3に記載の信号処理システム。
【請求項5】
それぞれの第2のサブシステムの信号配信ユニットは、第2のサブシステムの効果ユニットの最小遅延値が予め決めた閾値より小さい場合、ラウドスピーカーのj個のサブセット中の隣接するラウドスピーカー間の距離に従って、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を決定するように形成される請求項4に記載の信号処理システム。
【請求項6】
それぞれの第2のサブシステムの信号配信ユニットは、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値に、予め定めた一定の遅延値を加えるように形成される請求項1~5のいずれかに記載の信号処理システム。
【請求項7】
所定の形状を有する1組のラウドスピーカーの上で再生するために、Nチャネルオーディオ入力信号に、時間に基づく効果を適用する、信号処理方法であって、この方法は、信号処理システムに、
Nチャネルオーディオ入力信号から第1のKチャネルオーディオ信号を作成させる工程、
オーディオ入力信号の各チャンネルの空間パラメータに従って、Nチャネルオーディオ入力信号から第1のMチャネルオーディオ信号を作成させる工程、
第1のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルを、ラウドスピーカーのサブセットに関連させる工程、
MxMマトリックスに従って第1のMチャネルオーディオ信号から少なくとも1つの第2のMチャネルオーディオ信号を作成させ、MxMマトリックス中のそれぞれの要素aijは遅延時間を含み、さらに、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中のラウドスピーカーの間の最大距離に従い、それぞれの要素aij中で遅延時間の最小値を決定させる工程、
各第2のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルに、時間に基づく効果を適用させる工程であって、時間に基づく効果は、最小遅延値を含み、各第2のMチャネルオーディオ信号に適用される時間に基づく効果は異なる最小遅延値を使用する工程、
複数の第2のMチャネルオーディオ信号の
各信号から第2のKチャネルオーディオ信号を作成させ、第1および第2のKチャネルオーディオ信号からKチャンネル出力信号を作成させる工程、
を含む信号処理方法。
【請求項8】
少なくとも1つの第2のMチャネルオーディオ信号を作成させる工程は、それぞれの第2のMチャネルオーディオ信号のための対応するMxMマトリックスに従って、第1のMチャネルオーディオ信号からの複数の第2のMチャネルオーディオ信号を作成させる工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値は、以下の内の1つ:
(a)ラウドスピーカーのjサブセット中の、隣り合うラウドスピーカーの間の距離、
(b)ラウドスピーカーのiおよびjサブセットの、ラウドスピーカーの間の最大距離、
に従って決定される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
時間に基づく効果によりチャネルに適用される最小遅延値が、予め決めた閾値より小さい場合、ラウドスピーカーのj個のサブセット中の隣接するラウドスピーカー間の距離に従ってそれぞれの要素aij中の遅延時間の最小値が決定される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
さらに、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値に、予め定めた一定の遅延値を加える工程を含む請求項7~10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重チャネルオーディオ再生システムに時間に基づく効果を提供するための方法およびシステムに関する。時間に基づく効果は、これに限定されるものではないが、遅延および/または反響に基づいた処理を意味する。それらの効果は、信号原因作用を保証する分野で知られた様々な技術で得ることができる。効果は例えばフィードバック遅延ネットワークのような時間領域または分割された畳み込みのようなフーリエ領域で処理されても良い。
【背景技術】
【0002】
コンサートホールのような広い会場で使用される多重チャネルオーディオシステムは、聴衆がいる領域を超えるより均一な音圧を提供する2つ以上のラウドスピーカーを有しても良い。例えば、ラウドスピーカーは聴取領域の側方および後方に提供され、ステージから遠い聴衆に対して音圧レベルが低くなるのを防止しても良い。これは、「拡声(sound reinforcement)」として知られ、ステージまたは聴衆領域の前で再生成されるのと同じように、側方および聴衆の後方において、オーディオチャネルを再生成することからなる。拡声の文言は、1つの囲いまたは複数のドライバを言い、囲いは同じ入力信号から動き、多重チャネルオーディオシステムは、それぞれがラウドスピーカーで再生される2またはそれ以上の信号を有する。
【0003】
代わりに、または追加として、信号処理は、大きな会場で使用される多重チャネルオーディオシステムにおいてラウドスピーカーで再生されるオーディオチャネルに適用してもよい。そのような信号処理は、聴衆領域の音の「音響的増大(acoustics enhancement)」に貢献してもよい。例えば、残響または「リバーブ(reverb)」、エコーおよび他の信号処理は、側方または後方のライドスピーカーで再生された1またはそれ以上のチャネルに適用してもよい。リバーブ、エコー、および他の信号処理の効果は、当業者によく知られている。例えば、Dolby international ABの米国特許出願2011/0261966は、ダウンミックスされたチャネルにリバーブが適用され、続いてラウドスピーカー上で再生のためのアップミックスが行われることが開示されている。
【0004】
大きな会場では、ステージから遠い聴衆のメンバーが、前方のラウドスピーカーからの音の前に、側方または後方のラウドスピーカーの1つからの音を聞くことも可能である。これは望まない結果であり、影響される聴衆のメンバーが、前方で行われるパーフォーマンスを見ながら、後方または側方から来る音を聞くことになる。これを避けるために、一定時間の遅延または「プレディレイ(predelay)」が、ステージから距離のあるラウドスピーカーにより再生されるオーディオ信号に適応される。この時間遅延は、前方のラウドスピーカーからの音が聴衆に、後方または側方のラウドスピーカーからの音より、少なくとも15ms早く到達するように選択されて、音の知覚される方向が、前方/ステージから出るように維持される。
【発明の概要】
【0005】
本発明の1つの形態では、所定の形状を有する1組のラウドスピーカーの上で再生するために、Nチャネルオーディオ入力信号に時間に基づく効果を適用するための信号処理システムが提供され、このシステムは、
Nチャネルオーディオ入力信号を受信して、そこから第1のMチャネルオーディオ信号を作成する第1のサブシステムと、
それぞれが第1のMチャネルオーディオ信号を受信する少なくとも1つの第2のサブシステムであって、それぞれの第2のサブシステムは、
Mチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルに時間に基づく効果を適用するための効果ユニットであって、時間に基づく効果は最小遅延値を含む効果ユニットと、
信号配信ユニットであって、
第1のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルを、ラウドスピーカーのサブセットに関連づけ、
MxMマトリックスに従って第1のMチャネルオーディオ信号から第2のMチャネルオーディオ信号を作成し、MxMマトリックス中の要素aijのそれぞれは、遅延時間を含み、信号配信ユニットは、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセットの少なくとも1つの少なくとも2つのラウドスピーカーの間の距離に従い、および最小遅延値に従い、それぞれの要素aijで遅延時間の最小値を決定する、信号配信ユニットと、
第2のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルに、時間に基づく効果を適用するように形成された効果ユニットと、を含み、
このシステムは、さらに、それぞれの第2のMチャネルオーディオ信号またはそのそれぞれからKチャネルオーディオ信号を作成するミキシングユニットと、を含む。
【0006】
好適には、信号配信ユニットは、それぞれの要素aijの遅延時間の最小値が、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中ラウドスピーカーの間の最大距離を音が伝わる時間に少なくともなるように決定する。
【0007】
好適には、信号処理システムは、更に、複数の第2のサブシステムを含む。
【0008】
好適には、それぞれの第2のサブシステムの効果ユニットは、第1の最小遅延値または第2の最小遅延値のいずれかを有する複数の時間に基づく効果を適用するように形成される。
【0009】
好適には、それぞれの第2のサブシステムの信号配信ユニットは、以下の1つに従って、それぞれの要素aijの遅延時間の最小値を決定する。
(a)ラウドスピーカーのjサブセット中の、隣り合うラウドスピーカーの間の距離
(b)ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中の、ラウドスピーカーの間の最大距離を音が伝わるための時間
【0010】
好適には、それぞれの第2のサブシステムの信号配信ユニットは、第2のサブシステムの効果ユニットの最小遅延値が予め決めた閾値より小さい場合、基準(a)に従って、それぞれの要素aijの遅延時間の最小値を決定するように形成される。
【0011】
好適には、それぞれの第2のサブシステムの信号配信ユニットは、それぞれの要素aijの遅延時間の最小値に、予め定めた一定の遅延値を加えるように形成される。
【0012】
本発明の他の形態では、所定の形状を有する1組のラウドスピーカーの上で再生するために、Nチャネルオーディオ入力信号に時間に基づく効果を適用するための信号処理方法が提供され、この方法は、以下の処理工程:
Nチャネルオーディオ入力信号から第1のMチャネルオーディオ信号を作成する工程、
第1のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルを、ラウドスピーカーのサブセットに関連させる工程、
MxMマトリックスに従って第1のMチャネルオーディオ信号から第2のMチャネルオーディオ信号を作成し、MxMマトリックス中のそれぞれの要素aijは遅延時間を含み、さらに、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセットの少なくとも1つの、少なくとも2つのラウドスピーカーの間の距離に従い、および最小遅延値に従い、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を決定する工程、
第2のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルに、時間に基づく効果を適用する工程であって、時間に基づく効果は最小遅延値を含む工程、
それぞれの第2のMチャネルオーディオ信号からKチャネルオーディオ信号を作成する工程、
を含む。
【0013】
好適には、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値が、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセットの間の最大距離を音が伝わる時間に、少なくともなるように決定される。
【0014】
好適には、それぞれの第2のMチャネルオーディオ信号のための対応するMxMマトリックスに従って、第1のMチャネルオーディオ信号からの複数の第2のMチャネルオーディオ信号を作成する工程をさらに含む。
【0015】
好適には、時間に基づく効果は、第1の最小遅延値または第2の最小遅延値のいずれかを含む。
【0016】
好適には、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値は、以下の内の1つ:
(a)ラウドスピーカーのjサブセットの、隣り合うラウドスピーカーの間の距離、
(b)ラウドスピーカーのiおよびjサブセットの、ラウドスピーカーの間の最大距離、
に従って決定される。
【0017】
好適には、時間に基づく効果によりチャネルに適用される最小遅延値が、予め決めた閾値より小さい場合、基準(a)に従って、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値が決定される。
【0018】
好適には、この方法は、さらに、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値に、予め定めた一定の遅延値を加える工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明は、添付の図面を、例示の方法により参照して記載される。
【0020】
【
図1】本発明の具体例が使用される例示の会場の図である。
【
図2】本発明の具体例にかかる信号処理システムを示す。
【
図3A】
図2の信号処理システムの具体例で使用される例示のラウドスピーカー構成と音チャネルを示す。
【
図3B】
図2の信号処理システムの具体例で使用される例示のラウドスピーカー構成と音チャネルを示す。
【
図4A】
図2の信号処理システムにより適用された時間遅延の範囲を示す。
【
図4B】
図2の信号処理システムにより適用された時間遅延の範囲を示す。
【
図5A】
図2の信号処理システムの例示の構成の、要素aijの時間遅延の最小値を決定するために使用される距離を示す。
【
図5B】
図2の信号処理システムの例示の構成の、要素aijの時間遅延の最小値を決定するために使用される距離を示す。
【
図6】本発明の具体例にかかるデジタル信号処理方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の具体例が使われる例示の会場の図である。会場10は、複数のマイクロフォン14が配置されたステージ12を有する。「マイクロフォン」の用語は、ここでは、音を補足する装置をいい、例えばギターのピックアップを含む。
【0022】
会場10は、聴衆領域16を含む。聴衆領域16の人から見た場合、ステージ12が前方で、後方および側方の用語は、このデータから通常の意味を有する。
【0023】
全体が18で表される1組のラウドスピーカーは、聴衆領域16の外周を囲むように配置され、前部ラウドスピーカー18a、右側部ラウドスピーカー18b、後部ラウドスピーカー18c、および左側部ラウドスピーカー18dからなる。ラウドスピーカー18の数、位置、および形状は、会場によって変わっても良い。
【0024】
信号処理システム20は、ラウドスピーカーのセットの上で再生するために、Nチャネルチャネルオーディオ入力信号に時間に基づく効果を適用するために提供され、以下において更に詳細に述べる。いくつかの具体例では、マイクロフォン14からの信号は、Nチャネルのオーディオ入力信号を形成する。他の具体例では、マイクロフォン14からの信号は、例えばマイクロフォン14からの信号のグループを組み合わせるような、前処理が行われてNチャネルのオーディオ入力信号を形成しても良い。いくつかの応用では、信号処理システム20は、前処理されたNチャネルオーディオ入力信号と共に用いられても良い。
【0025】
図2を参照すると、信号処理システム20は、直接音処理ユニット22、第1のサブシステム24、少なくとも1つの第2のサブシステム26、およびミキシングユニット28を含む。
【0026】
直接音処理ユニット22は、Nチャネルオーディオ入力信号を受信し、これから、例えばNxKマトリックスを用いて、Kチャネル直接オーディオ信号23を作成する。直接音処理ユニット22は、また、直接または「乾いた(dry)」音チャネルのためにこの分野で用いられている他の信号処理を適用しても良い。本発明の具体例では、直接音ユニット22は、側方のラウドスピーカー18b、18d、および後方のラウドスピーカー18cにより再生されるKチャネル直接オーディオ入力通のチャネルに一定の時間遅延を提供するように形成されて、先行を維持しても良い。
【0027】
第1のサブシステム24は、Nチャネルオーディオ入力信号を受信し、これから、第1のMチャネルオーディオ信号30を作成する。第1のMチャネルオーディオ信号30のそれぞれのチャネルは、音場の一部を形成する。
【0028】
図2に示すように、複数の直接音処理ユニット22と第1のサブシステム24があり、それらのそれぞれは、Nチャネルオーディオ入力信号中のNチャネルのnを受信し処理しても良い。一般に、それぞれのnチャネルは、リードボーカル、ギター等のような音目的を代表し、この場合、nは通常1または2チャネルからより多くのチャネルが用いられても良い。
【0029】
いくつかの具体例では、第1のMチャネルオーディオ信号30は、n番目の、フルスフェアおよびプレーンBフィールドを含むアンビソニックBフィールドに由来する、バーチャルマイクロフォンのセットに基づくスピーカー不可知音場エンコーディングでも良い。それぞれのチャネルは、アンビソニックバーチャルマイクロフォン方向により規定されるような、音場中の公知の位置を有する。
【0030】
他の具体例では、第1のMチャネルオーディオ信号30中のチャネルの空間分布は、以下に詳しく述べるように、ラウドスピーカーの特定のセットの形状に従って規定されても良い。
【0031】
図3Aおよび
図3Bは、2つの例示のラウドスピーカーの形状のためのMチャネルの分布を示す。
図3Aでは、ラウドスピーカー18は、聴衆領域を完全に囲む矩形形状に配置される。この配置では、最小方位角(ラウドスピーカー)=-180°、最大方位角(ラウドスピーカー)=180°であり、0°は、例えばステージに面する前/前方方向に対応する。Mチャネルは、最小方位角と最大方位角の間に均等に分配され、
図3Aにおいて矢印32で表される。
図3Aは、M=8の場合の配置を示すが、他のMの値が使用されても良い。
図3Bにおいて、ラウドスピーカー18は、最大方位角=-45°で最小方位角=45°である線上に配置される。Mチャネルは、最小方位角と最小方位角との間に均等に分配され、これらは
図3Bで、矢印32’で表される。
【0032】
フルスフェアやハーフスフェア形状のような高い構成を有するラウドスピーカー形状の場合、それぞれのMチャネルの方位は第1のサブシステム24により決定され、方位角の値と高さの値により決定される。Mチャネルは、好適には、ラウドスピーカーの形状によって決められる方位角および高さの値の間に均等に分配される。好適には、Mチャネルのために決定される方位角おより高さの値は、ラウドスピーカー形状により規定される空間の正規メッシュを規定する。いずれのラウドスピーカー形状に対しても、-180°≦最小方位角(ラウドスピーカー)<最大方位角(ラウドスピーカー)≦180°、および-90°≦最小高さ(ラウドスピーカー)<最大高さ(ラウドスピーカー)≦90°となる。
【0033】
一旦チャネルの配信が決定すれば、またはスピーカー不可知エンコーディングが用いられた場合、例えばnxMマトリックスを用いて、第1のサブシステム24が、続いて、1またはそれ以上の第1のMチャネルオーディオ信号30の間に、nチャネルのオーディオ入力信号のそれぞれのチャネルを分配する。マトリックスの要素は、方位角、高さ、距離のようなnチャネルオーディオ入力信号のそれぞれのチャネルの空間パラメータに従って決定される。Nチャネルのそれぞれのnを分離して処理する工程は、それぞれのnチャネルにより表されるそれぞれの音の対象が、方位角、高さ、およびnチャネルと関係した距離のような空間パラメータを用いて、Mチャネルの中で分離して配置されることを可能にする。
【0034】
それぞれの第2のサブシステム26は、Mチャネルオーディオ信号30を受信し、それから、以下で述べるようなそれらに適用される時間に基づく効果を有する第2のMチャネルオーディオ信号34を作成する。それぞれの第2のサブシステム26は、配信ユニット36と効果ユニット38を含む。第2のサブシステム26により作成された第2のMチャネルオーディオ信号34は、直接音プロセッサ22により作成された「乾いた(dry)」音チャネル」と比較して「湿った(wet)」音チャネルとなる。
【0035】
信号配信ユニット36は、第1および第2の信号30、24の中のMチャネルのそれぞれの信号を、使用されるラウドスピーカー、つまりそのチャネルが再生されるラウドスピーカー、の特定の形状に対するラウドスピーカーのサブセットに関連させる。1つの例では、この関連付けは、以下で述べるようなミキシングユニット28により使用されるMxkアレイのゼロでない値の存在により決定される。サブセットは、いくつかの形状では重複しても良い。即ち、所定のラウドスピーカー18は、第1のMチャネルオーディオ入力信号30の1つ以上のチャネルを再生しても良い。
【0036】
信号配信ユニット36は、続いて、MxMマトリックスに従って、第1のMチャネルオーディオ信号30から第2のMチャネルオーディオ信号40を作成する。MxMマトリックス中のそれぞれの要素aijは、遅延時間を含んでも良く、利得時間を含んで、第2のMチャネルオーディオ信号40中のそれぞれのチャネルが、第1のMチャネルオーディオ信号30中の遅延チャネルの加重和でも良い。MxMマトリックス中の利得時間は、使用者が決定する。信号配信ユニット36は、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット少なくとも1つの中の少なくとも2つのラウドスピーカーの間の距離、および以下に述べる効果ユニット38により適用される最小遅延値に従って、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を決定する。信号配信ユニット36は、例えばフィルタリングによるMxMマトリックスのそれぞれの入力の相の非相関性のような、この分野で使用される他の信号処理に適用しても良い。
【0037】
いくつかの具体例では、信号配信ユニット36は、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値に、予め決められた所定の遅延値を加えるように形成されても良い。
【0038】
効果ユニット38は、第2のMチャネルオーディオ信号40のそれぞれのチャネルに、時間に基づく効果を適用する。いくつかの具体例では、効果ユニット38は、第2のMチャネルオーディオ信号40のそれぞれのチャネルに、この技術分野で知られたような、モノラルのエコー/残響アルゴリズムを適用する。この技術分野で知られたいずれかの好ましい時間に基づく遅延/残響アルゴリズムが使用されても良い。
【0039】
効果ユニット38により適用される時間の基づく効果は、
図4Aに示すような最小遅延値42を含む。
図4Aでは、Mチャネルオーディオ信号30からの入力信号が「直接」と表示され、効果ユニット38からの出力は一般に、入力チャネルから配信される多くの時間遅延信号を含む。図に示すように、効果ユニット38からの時間遅延信号出力は、最小遅延値42を含み、これは、効果ユニット38からの出力がその後に発生する、直接信号からの最小時間オフセットに対応する。
【0040】
ミキシングユニット28は、例えばMxkマトリックスのような第2のMチャネルオーディオ信号40から、またはそれぞれから、Kチャネルオーディオ信号44を作成する。選択的に、非相関性フィルタが、ミキシングユニット28により、Kチャネルオーディオ信号44のそれぞれのチャネルに適用されても良い。ミキシングユニット28は、Kチャネル直接オーディオ信号23とKチャネルオーディオ信号44とを組み合わせてラウドスピーカー18のセットでの増幅および再生のためのKチャネル出力信号を作成する加算器46を含む。本質ではないが、特にライブ環境では、効果的な処理のためにM<kが好ましく、この場合、Mxkマトックスは、知られたパンニング技術を用いてKチャネルの1つ以上を横切ってMチャネルのそれぞれを配信する。
【0041】
いくつかの具体例では、ミキシングユニット28は、1またはそれ以上のKチャネルオーディオ入力信号44に対してプレディレイを加えて、先行を尊重するようにしても良い。
【0042】
いくつかの具体例では、1つの第2のサブシステム26が用いられるが、一般には1つより多くの第2のサブシステム26が用いられる。1つより多くの第2のサブシステム26が用いられた場合、第2の加算器48が、ミキシングユニット28による処理の前に、複数の第2のMチャネルオーディオ信号40を組み合わせるために提供されても良い。
【0043】
信号処理システム20は、以下の例が示すように、1つより多くの可能な形状を有することが、当業者に理解されるであろう。
【0044】
例1
この例示の形状では、それぞれの信号配信ユニット36は、それぞれの要素aijの中の最小値を、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中のラウドスピーカーの間の最大距離を音が伝わる時間に、少なくともなるように決定する。
図5Aは、この形状を示す。第1のMチャネルオーディオ信号30の例示のiおよびjのチャネルが、18iおよび18jとして示されるラウドスピーカーの対応するサブセットと共に示されている。信号配信ユニット36は、破線50で示される、サブセットiのいずれかのラウドスピーカーと、サブセットjのいずれかのラウドスピーカーとの間の最大距離を決定し、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値が、この距離を音が伝わる時間に少なくともなるように決定する。
【0045】
例2
この例示の形状では、第2のサブシステム26の組が提供される。第2のサブシステム26のそれぞれの組の1つの効果ユニット38は、第1の最小遅延値42aを有する時間効果を適用するように形成され、一方、第2のサブシステム26のそれぞれの組の他の効果ユニット38は、第2の最小遅延値42bを有する時間効果を適用するように形成される。
図4Bは、最小遅延値42a、42bの例を示す。
【0046】
この例示の形状の好適な配置では、最小遅延値42aは初期の反射に対応し、最小遅延値42bは後期の反射に対応する。そのような形状は、第2のサブシステム26のそれぞれの組の中の信号配信ユニット36が、スピーカー形状および効果ユニットの最小遅延値を考慮に入れて、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を決定する。例えば、それぞれの第2のサブシステム26の信号配信ユニット36は、以下の1つ:
a.ラウドスピーカーのjサブセット中の隣り合ったラウドスピーカーの間の距離d、
b.ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中のラウドスピーカーの間の最大距離、
を音が伝わるための時間により、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を決定するように形成されても良い。
【0047】
図5Bは、この形状が示され、破線50で示されるラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中のラウドスピーカーの間の最大距離に加えて、ラウドスピーカーのjサブセットの距離dが示されている。
【0048】
効果ユニット38が、最小遅延値42aを有する時間に基づく効果を適用するように形成された場合、第2のサブシステム26中の信号配信ユニット36は、基準(a)に従ってそれぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を決定するように形成される。効果ユニット38が、最小遅延値42bを有する時間に基づく効果を適用するように形成された場合、第2のサブシステム26中の信号配信ユニット36は、基準(b)に従ってそれぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を決定するように形成される。これは、聴衆領域で先行を維持する一方で、初期の反射は後期の反射より短い時間の遅れであり、結果としてより自然な音になるという優位点を有する。
【0049】
他の形状も可能である。例えばそれぞれの第2のサブシステム26の信号配信ユニット36は、第2のサブシステム26の効果ユニット36が、所定の閾値より小さな最小遅延値を有するか否かを決定するように形成しても良い。その場合、信号配信ユニット36は、基準(a)に従って、そうでなければ基準(b)に従って、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を計算する。
【0050】
さらに、第2のサブシステム26の全てが同じように形成される必要はない。いくつかの第2のサブシステム26は、上述の例1のように形成されても良く、他は、上述の例2のように形成されても良い。
【0051】
最小遅延値42a、42bの特定の値は、ラウドスピーカーの形状に依存するであろう。例示のように、6m間隔のラウドスピーカーに対して、最小遅延値42aは約15~23msであり、一方、25mx40mの矩形形状に配置されたスピーカーでは、最小遅延値42bは、一般には、50msと100msの間になるであろう。次に
図6を参照すると、所定の形状を有するラウドスピーカーのセットで再生するために、Nチャネルオーディオ入力信号に時間に基づく効果を適用するために信号処理方法100が示されている。プロセッサ実行工程を含むこの方法100について以下に述べる。
【0052】
最初に、工程102はNチャネルオーディオ入力信号からMチャネルオーディオ信号を作成する工程を含む。工程103は、第1のMチャネルオーディオ信号をラウドスピーカーのサブセットと組み合わせる工程を含む。
【0053】
次に、工程104は、MxMマトリックスに従って第1のMチャネルオーディオ信号から少なくとも1つの第2のMチャネルオーディオ信号を作成する工程を含み、MxMマトリックス中のそれぞれの要素aijは利得時間と遅延時間とを含み、この工程104はさらに、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセットの少なくとも1つの中の少なくとも2つのラウドスピーカーの間の距離に従い、および遅延値の範囲に従い、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値を決定する工程を含む。
【0054】
いくつかの具体例では、工程104で、それぞれのMチャネルオーディオ信号に対して対応するMxMマトリックスに従い、第1のMチャネルオーディオ信号から複数の第2のMチャネルオーディオ信号が形成される。
【0055】
いくつかの具体例では、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値が、ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中のラウドスピーカーの間の最大距離を少なくとも音が伝わる時間になるように決定される。
【0056】
いくつかの具体例では、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値が、以下の1つ:
a.ラウドスピーカーのjサブセット中の隣り合ったラウドスピーカーの間の距離d、
b.ラウドスピーカーのiおよびjのサブセット中のラウドスピーカーの間の最大距離、
に従って決定される。
【0057】
いくつかの具体例では、予め決められた一定の遅延値が、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値に加えられる。
【0058】
工程106は、第2のMチャネルオーディオ信号のそれぞれのチャネルに、時間に基づく効果を適用する工程を含む。
【0059】
いくつかの具体例では、時間に基づく効果は、第1の最小遅延値または第2の最小遅延値を含む。
【0060】
いくつかの具体例では、もし時間に基づく効果によりそのチャネルに適用される最小遅延値が、所定の閾値より小さい場合、基準(a)に従って、それぞれの要素aij中の遅延時間の最小値が工程104で決定される。
【0061】
最後に、工程108は、第2のMチャネルオーディオ信号またはそのそれぞれからKチャネルオーディオ信号を作成する工程を含む。
【0062】
上記具合例を参照して、本開示の形態が特に示され、記載されたが、記載された精神および範囲から離れることなく、記載された機械、システム、および方法の変形により、様々な追加の具体例が考え得ることは、当業者により理解されるであろう。そのような具体例は、請求の範囲およびその均等に基づき決定されるような、本開示の範囲の中に入ることが理解されるであろう。