(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】医学訓練における血液シミュレーションのための熱変色性インクの使用
(51)【国際特許分類】
A61M 1/14 20060101AFI20240805BHJP
G09B 23/28 20060101ALI20240805BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20240805BHJP
G09B 19/24 20060101ALI20240805BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
A61M1/14
G09B23/28
G09B9/00 Z
G09B19/24 Z
G09B19/00 Z
(21)【出願番号】P 2020541925
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 IB2019051045
(87)【国際公開番号】W WO2019159051
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-02
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520277047
【氏名又は名称】カタール ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】QATAR UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】Office of Innovation and Intellectual Property P.O. Box 2713 Doha Qatar
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルサレミ,アブドラ
(72)【発明者】
【氏名】アル ディシ,モハメッド
(72)【発明者】
【氏名】アルホムシ,ヤーヤ
(72)【発明者】
【氏名】アフメド,イブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】ベンサーリ,ファイカル
(72)【発明者】
【氏名】アミラ,アッベス
(72)【発明者】
【氏名】アリニール,ギヨーム
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0070603(US,A1)
【文献】特開2009-251440(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010299(WO,A1)
【文献】Abdullah Alsalemi, et al.,Using thermochromic ink for medical simulations,Qatar Medical Journal, 4th Annual ELSO-SWAC Conference Proceedings,QA,2017年02月14日,Article 63,doi: 10.5339/qmj.2017.swacelso.63
【文献】Mohammed Aldsi, et al.,Design and implementation of a modular ECMO simulator,Qatar Medical Journal, 4th Annual ELSO-SWAC Conference Proceedings,QA,2017年02月14日,Article 62,doi: 10.5339/qmj.2017.swacelso.62
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-A61M 1/38
G09B 1/00-G09B 29/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療訓練において血液シミュレーションのために熱変色性インクを使用する方法であって:
血液の色が模擬されるべき血液シミュレーションのための熱変色性流体を提供するステップであって、前記熱変色性流体は熱変色性インク、水、及び非染色性色素又は非染色性色素の組合せを含む、熱変色性流体を提供するステップと;
前記熱変色性流体の温度を調節して、それによって前記熱変色性流体の色を変えるステップであって、前記熱変色性流体の前記温度が31℃又はより高い場合に前記熱変色性流体の前記色は、明赤色であり、前記熱変色性流体の前記温度が28℃又はより低い場合に前記熱変色性流体の前記色は暗赤色である、前記熱変色性流体の色を変えるステップと;を備え、
前記明赤色は、酸素化された状態における実際の血液の色に似ており、前記暗赤色は、脱酸素状態における実際の血液の色に似て
おり、
前記非染色性色素又は前記非染色性色素の組合せは、非染色性イエロー色素を備える、
方法。
【請求項2】
前記熱変色性流体の前記温度を調節する前記ステップは、温水を用いて前記熱変色性流体を加熱することによって、又は冷水を用いて前記熱変色性流体を冷却することによってである、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱変色性流体の前記温度を調節する前記ステップは、前記熱変色性流体を31℃若しくはより高く加熱することによって、又は前記熱変色性流体を28℃若しくはより低く冷却することによってである、
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱変色性インクは、ブラックである、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記熱変色性流体は、前記非染色性色素の組合せを備え、
前記非染色性色素
の組合せは
、非染色性ピンク色素
を備える、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記熱変色性インクの濃度は16.7g/Lである、
請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記非染色性イエロー色素の濃度が蒸留水1リットル当たり0.2リットルであり、前記非染色性ピンク色素の濃度が蒸留水1リットル当たり0.4リットルである、
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記血液シミュレーションは、体外式膜型人工肺(ECMO)シミュレーション用である、
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱変色性流体の前記温度を調節する前記ステップが、前記熱変色性流体を28℃若しくはより低く冷却し、引き続いて前記熱変色性流体を31℃若しくはより高く加熱すること;又は、前記熱変色性流体を31℃若しくはより高く加熱し、引き続いて前記熱変色性流体を28℃若しくはより低く冷却する、ことを含む、
請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記熱変色性流体の前記温度を調節する前記ステップは、前記熱変色性流体を24℃又はより低く冷却し、引き続いて前記熱変色性流体を35℃若しくはより高く加熱すること;又は、前記熱変色性流体を35℃又はより高く加熱し、引き続いて前記熱変色性流体を24℃若しくはより低く冷却する、ことを含む、
請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
体外式膜型人工肺(ECMO)シミュレーション用の血液シミュレーションのために熱変色性インクを使用する方法であって、前記方法は:
(1)タンクの内に熱変色性流体を提供するステップであって、前記タンクは、2つの出口を含み、前記出口の一方がチュービング回路に接続され、前記出口の他方がポンプに接続され、前記熱変色性流体は、熱変色性インク、水、及び非染色性色素又は非染色性色素の組合せを含み、
前記非染色性色素又は前記非染色性色素の組合せは、非染色性イエロー色素を備える、熱変色性流体を提供するステップと;
(2)前記ポンプにより前記タンクから第1チュービングセクションに前記熱変色性流体を送り込むステップであって、前記第1チュービングセクションは第1熱交換器を通過する、前記熱変色性流体を送り込むステップと;
(3)前記熱変色性流体が前記第1チュービングセクション内を流れる間に前記第1熱交換器によって前記熱変色性流体の温度を第1温度に調節するステップと;
(4)前記第1熱交換器から第2チュービングセクションに前記熱変色性流体を流すステップであって、前記第2チュービングセクションは第2熱交換器を通る、前記熱変色性流体を流すステップと;
(5)前記熱変色性流体が前記第2チュービングセクション内を流れる間に前記第2熱交換器によって前記熱変色性流体の前記温度を第2温度に調節するステップと;
(6)前記第2熱交換器から前記タンクに戻すように前記熱変色性流体を流すステップと;
を備え、
前記第1温度及び前記第2温度は異なり;
前記チュービング回路は、任意選択的に、追加チュービングセクションを備え、前記追加チュービングセクションは、前記タンク及び前記ポンプ、前記ポンプ及び前記第1チュービングセクション、前記第1チュービングセクション及び前記第2チュービングセクシ
ョン、又は前記第2チュービングセクション及び前記タンクを接続する、
方法。
【請求項12】
前記第1熱交換器が冷却デバイスであり、前記第2熱交換器が加熱デバイスである、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(3)において、前記第1温度が28℃又はより低く、前記熱変色性流体の色が暗赤色になる、
請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(5)において、前記第2温度が31℃又はより高く、前記熱変色性流体の色が明赤色になる、
請求項11~請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(3)において、前記第1温度が24℃であり、前記熱変色性流体の色が暗赤色になる、
請求項11~請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(5)において、前記第2温度が35℃であり、前記熱変色性流体の色が明赤色になる、
請求項11~請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示された発明は、血液の色の変化が意味のある視覚的手がかりである医療訓練、例えば体外式膜型人工肺(ECMO:Extracorporeal Membrane Oxygenation)シミュレーション、における血液シミュレーションに関する。ECMOシミュレーションに加えて、他の医学的応用があり得る。
【背景技術】
【0002】
医学的なシミュレーション及び訓練(トレーニング)では、血液が、状況における血液の異なる振る舞いを示すために使用される。場合によっては、血液の色の差異は、高い忠実度の訓練及び実践的な理解を確実にするために必須の視覚効果である。高いシミュレーション現実性は、動物又は(血液のいくつかの生物学的特徴を模倣する)人工の血液を使用することによって大抵の場合に達成され、該血液は、高コストを有し、人工肺といった使い捨て器具を必要とし、及び汚染又は感染のリスクを伴う。
【0003】
体外式膜型人工肺(ECMO)は、死すべき運命を回避するために迅速かつ協調的な行動が必要とされる危機的な状態に患者を置き得る機械的合併症だらけの高い複雑性の救命処置である。これ故に、ECMOを受けている患者は、高度に訓練された看護師及びかん流技師(perfusionist)によって一日中監視されている。現在、ECMO訓練プログラムは、様々なレベルの成功で実施された患者の緊急シミュレーションを含む。一部のトレーニング施設では、心拍数や酸素飽和度といった、コンピュータ制御による生理学的パラメータを有するマネキンを使用する。圧力といった巡回パラメータが、状況(シナリオ)毎に手動で調整され、空気及び人工血液が、空気塞栓症、及び血液量減少といった問題を示すために手動で注入される。ヒトの能力を改善する。以下の文献を参照する:Anderson J、Boyle K、Murphy A、Yaeger K、LeFlore J、Halamek L。Simulating extracorporeal membrane oxygenation emergencies to improve human performance. Part I:Methodologic and technologic innovations. Simul Healthc.2006;1(4):220-227.実際的であるにもかかわらず、シミュレーション訓練のための目的で実際のECMO回路を使用することには、高価な使い捨て機器(酸素化膜)の使用、酸素化の色差の欠如、並びに手動の巡回調整及び注入といった不便がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明のある実施形態では、医療訓練において血液シミュレーションのために熱変色性インクを使用する方法が提供され、この方法は以下を含む:
血液の色を模擬すべき血液シミュレーションのための熱変色性の流体を提供すること;熱変色性の流体は、熱変色性インクを含み;
該流体の温度を調節し、これによって該流体の色を変化させること;該流体の色は、該流体の温度が31℃又は31℃より大きいときに明赤色(bright red)であり、28℃又は28℃より低いときに流体の色が暗赤色(dark red)である。
【0005】
本発明のある実施形態では、体外式膜型人工肺(ECMO)シミュレーションのための血液シミュレーション用に熱変色性インクを使用する方法が提供され、該方法は以下を含む:
(1)タンク内に熱変色性流体を提供することであって、該タンクは、2つの出口を含み、出口の一方がチュービング回路に接続されており、出口の他方がポンプに接続されており、該流体は、熱変色性インクを含み;
(2)ポンプにより流体をタンクから第1チュービングセクションに送り込むことであって、第1チュービングセクションは、第1熱交換器を通り抜けており;
(3)流体の温度が第1温度に調節されるように流体が第1チュービングセクション内を流れる間に、第1熱交換器によって流体を調整すること;
(4)第1熱交換器から第2チュービングセクションに流体を流すことであって、第2チュービングセクションは、第2熱交換器を通り抜けており;
(5)流体の温度が第2温度に調節されるように流体が第2チュービングセクション内を流れる間に、第2熱交換器によって流体を調整すること;
(6)第2熱交換器から流体を流してタンクに戻すこと;
第1温度及び第2の温度は、異なり;
チュービング回路は、任意選択的に、タンク及びポンプ、ポンプ及び第1チュービングセクション、第1チュービングセクション及び第2チュービングセクション部、又は第2チュービングセクション及びタンクを繋ぐ追加のチュービングセクションを備える。
【0006】
本方法のある実施形態では、第1熱交換器は冷却が生じる場所であり、第2熱交換器は加熱が生じる場所である。
【0007】
本明細書のある実施形態では、血液シミュレーション用の熱変色性液体が提供され、この組成物は、熱変色性インク、水、及び非染色性色素を含む。
【0008】
本発明のある実施形態では、ここに開示された熱変色性流体を用いて体外式膜型人工肺(ECMO)をシミュレーション(模擬)するためのシステムが提供され、このシステムは、加熱デバイス、及び冷却デバイス、チュービング回路を含み、加熱デバイス及び冷却デバイスは、チュービング回路に接続される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、熱変色性システムのダイアグラムを図示する。
【0010】
【
図2】
図2は、温度調整による熱変色性インクの色変化を示す実験結果を描く。
【0011】
【
図3】
図3は、熱変色性インクを用いて血液の色変化シミュレーションの予備的結果を示す。
【0012】
【
図4】
図4は、ECMOシミュレータのブロック図を示す。
【0013】
【
図5】
図5は、ECMOシミュレータのプロトタイプを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これまでの血液シミュレーション(血液模擬)の実務は、人工血液又は動物(例えば、ヒツジ)の血液の使用、及び人工肺と呼ばれる特殊な機械による酸素化を含み、該人工肺は、非常に高価であって、再利用できず、また高度に汚染している。ここに開示された発明は、該問題に対する解決策を提供しており、これは、著しくより少ない費用であり、再利用性を維持し、汚染されない一方で、高忠実な血液色調変化シミュレーション法を提供する。本明細書で提供される血液の模擬は、粘度、匂い、分子構造、及び酸性度といった他の血液特徴と類似していない。この解決法を特徴づけるものは、模擬された血液に対して(非染色性色素と混合された)熱変色性インクを使用すること、及び模擬血液の色を変える(血液の酸素化/脱酸素化を模擬する)ために温度を調整することである。これらの特徴は、本発明が為された前における血液シミュレーションの分野において使用されてきていない。
【0015】
本出願は、熱変色性インクの熱特性を用いた血液の模擬のための新規な方法を提供する。熱変色性インクの色は、温度の調整によって変化させることができる。カメレオン(Rマーク、白抜きの丸印内にアルファベットのR)熱変色性の水性スクリーンインク[インターネット]、LCR Hallcrest Ltd.を参照する。血液の独特な赤色は、熱変色性インクのカスタム色相を用いて、高い忠実度に模倣することができる。それ故に、その温度を調節することによって、現実的な暗赤色及び明赤色が採用されることができて、それぞれ、血液の低酸素濃度及び高酸素濃度を模擬できる。
【0016】
本出願の発明は、血液模擬が用いられる医療の訓練及びシミュレーションにおいて有用である。
【0017】
本発明の血液模擬は、血液模擬を必要とするモジュール式の体外式膜型人工肺(ECMO)シミュレータ、また特に、ECMO巡回結合を示す視覚的手がかりとしての色差について試験されてきた。実験結果は、医学シミュレーションの実用的な解決としての有効性を証明した。ヒータ/クーラ回路(
図1を参照)が、熱変色性流体の連続的な加熱/冷却を行うこと、及び色変化をシミュレートすることを可能にするために採用された。ECMOシミュレーションに加えて、他の医学的応用が検討されている。
図2は、温度調整を介する熱変色性インクの色変化を示す。熱変色性液の色は、24℃で暗赤色、35℃で明赤色である。
【0018】
一実施形態では、
図1に示されるように、ECMOシミュレーションのためのシステムが提供される。
図1は、熱変色性のループ又は回路を示す。回路は、少なくとも2つの出口を有するタンクを備え、出口の一方は。チュービング(配管類、配管組織、配管)の一端部に接続され、他方はポンプに接続される。タンクは、熱変色性液を収容する。ポンプは、該チュービングへの他端に接続される。該チュービングのあるセクション(つまり、第1セクション)は、熱交換器(下部の熱交換器、冷却デバイス)を通って走り抜ける。ポンプは、流体をチュービング内にポンプ動作により流し込み、また流体を、該チュービング内を流すために前に押し出す。流体は、下部の熱交換器を通って流れるとき、第1所定温度(例えば、28℃又は28℃より低く)に冷却されて、流体の色が濃い赤色になる。冷却プロセスは、患者の体内における脱酸素プロセスを模擬(シミュレーション)する。該チュービングの別のセクション(つまり、第2セクション)は、加熱デバイス(上側の熱交換器)を通っており、加熱デバイスは、実際のECMOの人工肺(酸素供給器)レプリカに連結される。流体は、加熱デバイスを通って流れるとき、第2所定温度(例えば、31℃又は31℃より高く)に加熱されて、流体の色が明赤色になる。加熱プロセスは、患者の体内の酸素化プロセスを模擬(シミュレート)する。流体は、該チュービング内を元に向けて流れ続けて、タンクに戻る。必要に応じて、タンクとポンプとの間、ポンプと第1チュービィングセクションとの間、第1チュービィングセクションと第2チュービィングセクションとの間、第2チュービィングセクションとタンクとの間にチュービィングセクションがある。各セクションの長さは、設計に依存して異なる。タンク及びポンプは、関連技術において知られている接続手段によって接続されることができる。
【0019】
提案された解決策の主要な利点又は独自の側面は、再利用可能性及び費用である。熱変色性インクは、品質において目立った変化無しに複数のシミュレーションに使用されることができる。また、これは、実際の又は人工の血液を使用することより大幅に低い費用である。したがって、医療センター/病院にかなりの費用を節約することは、本発明の再利用可能性のおかげである。
【0020】
体外式膜型人工肺(ECMO)シミュレーションにおける血液色の変化を模擬する予備実験結果は、
図3に示される。
図3は、血液模擬における冷却の前及び冷却の後における熱変色性流体の色を示す。熱変色性インクによる膜閉塞を防ぐために、後者は、バイパスとして穿孔され又は複製される必要がある。ECMOシミュレーションに加えて、他の医学的な応用が検討されている。
【0021】
医療訓練における熱変色性インクを使用することによって、全ての回路構成要素を再利用できるときの装備コスト及び汚染リスクを大幅に低く維持しながら、血液模擬の色変化の再現性の特徴が提供される。
【0022】
本出願は、熱変色性インク及び指導者/臨床医インターフェースの使用に中心を置いたモジュール式のECMOシミュレータの設計を提供して、実際のECMOマシンの存在を必要としない手頃な価格な、再利用可能な、及び拡張可能な機構を用いてECMO回路及びその機能を再現する。シミュレータのブロック図が、
図4に示される。酸素化は、熱変色性インクを加熱し及び冷却することによって視覚的に模擬され、熱変色性インクが暗赤色と明赤色の間で切り替わることを可能にする。ECMOマシンのコンソールインターフェイスのレプリカ(複製)は、タブレット指導者アプリケーションを介したパラメータの手動調節を無線で可能にする。さらに、アクセスラインシャッタリング(shattering、破砕)といった機械的合併症の視覚的及び聴覚的な合図は、機械的振動器を用いて容易に実現されることができる。
【0023】
本発明の提案された応用の利点は、現行のECMOシミュレータのコスト障壁及び不便性の除去を含み、一方、多数の緊急シナリオを模擬するためにモジュール性及びカスタマイズ可能性を追加し、これ故に、ECMO患者管理トレーニングのアクセス可能性、忠実性、及び汎用性を増大させる。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、医療トレーニングにおいて血液シミュレーションのために熱変色性インクを使用する方法が提供され、この方法は以下を含む:
血液の色が模擬されるべき血液シミュレーションのための熱変色性流体を提供すること;熱変色性流体は、熱変色性インクを含み;
該流体の温度を調節して、それにより流体の色を変化させること、流体の温度が31℃又はそれより高い場合に、流体の色が明赤色であり、流体の温度が28℃又はそれより低い場合、流体の色が暗赤色である。
【0025】
鮮やかな赤色は、酸素化された状態における実際の血液の色に似ている。暗い赤色は、脱酸素状態の実際の血液の色に似ている。
【0026】
上述の方法のいくつかの実施形態では、流体の温度を調節することは、温水を用いて流体を加熱することに、又は冷水を用いて流体を冷却することによってである。
【0027】
上記の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、流体の温度を調節することは、流体を31℃以上に加熱すること、又は流体を28℃以下に冷却することによってである。
【0028】
前述の実施形態のいずれかを含む現在の実施形態では、流体は、さらに、水及び非染色性色素を含む。
【0029】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、血液シミュレーションは、体外膜人工肺(ECMO)シミュレーション用である。
【0030】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、流体の温度を調節することは、流体を24℃に冷却すること、引き続いて流体を35℃に加熱すること、又は流体を35℃以上に加熱すること、引き続いて流体を24℃以下に冷却すること、を含む。
【0031】
本発明のある実施形態では、体外式膜型人工肺(ECMO)シミュレーションのための血液模擬用に熱変色性インクを使用する方法が提供され、この方法は以下を含む:
(1)タンク内に熱変色性流体を提供することであって、タンクは、2つの出口を含み、該出口の一方がチュービング回路に接続され、該出口の他方がポンプに接続されており、該流体は熱変色性インクを含み;
(2)ポンプにより流体をタンクから第1チュービングセクションに送り込むことであって、第1チュービングセクションは第1熱交換器を通り抜け;
(3)該流体が第1チュービングセクション内を流しながら、第1熱交換器によって流体の温度を第1温度に調節すること;
(4)第1熱交換器から第2チュービングセクションに流体を流すことであって、第2チューブセクションは第2熱交換器を通り抜け;
(5)該流体が第2チュービングセクション内を流しながら、第2熱交換器により流体の温度を第2温度に調節すること;
(6)第2熱交換器からタンクに戻すように流体を流すこと;
第1温度及び第2温度は異なり;
該チュービング回路は、追加のチュービングセクション(配管部)を備え、追加のチュービングセクションは、任意の選択で、タンク及びポンプ、ポンプ及び第1チュービングセクション、第1チュービングセクション及び第2チュービングセクション、又は第2チュービングセクション及びタンクを接続する。
【0032】
上述の方法のある実施形態では、第1熱交換器は、冷却が起こる場所であり、第2熱交換器は、加熱が起こる場所である。
【0033】
上述の方法のいくつかの実施形態では、加熱デバイスは、該流体を加熱するために温水を使用し、冷却デバイスは、流体を冷却するために冷水を使用する。
【0034】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、該液体は、冷却デバイスによって28℃又はより低く冷却される。いくつかの実施形態では、該流体は、24℃に冷却される。流体の色は、該流体が28℃又は28℃より低いとき、暗赤色になる。暗赤色は、脱酸素状態における実際の血液の色に似ている。
【0035】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、該流体は、加熱デバイスによって31℃又は31℃より高く加熱される。いくつかの実施形態では、流体は、35℃に加熱される。流体の色は、該流体が31℃又はより高いとき、明赤色になる。明赤色は、酸素化された状態における実際の血液の色に似ている。
【0036】
前述の実施形態のいずれかを含む本発明のある実施形態では、体外式膜型酸素化(ECMO)シミュレーションにおいて血液シミュレーションのために熱変色性インクを使用する方法を提供し、この方法は、以下を含む:
(1)タンク内に熱変色性流体を供給すること、タンクは2つの出口を含み、該出口の一方がチュービング回路の一端に接続され、該出口の他方がポンプに接続され、流体は、熱変色性インクを含み;
(2)ポンプによって該流体をタンクから第1チュービングセクションに送り出すこと、第1チュービングセクションは、冷却デバイスを通過し;
(3)流体が28℃又はより低く冷却されるように、該流体が第1チュービングセクションに流れている間に、冷却デバイスによって該流体を冷却すること、該流体の色が暗赤色になり;
(4)第1チュービングセクションから第2チュービングセクションに流体を流し、第2チュービングセクションは、加熱デバイスを通過し;
(5)流体が31℃又はより高く加熱されるように、該流体が第2チュービングセクションを流れている間に、加熱デバイスによって該流体を加熱すること、該流体の色が明赤色になり;
(6)加熱デバイスによって加熱された流体をタンクに戻すように流すこと;
ここで、チュービング回路は、任意選択的に、追加のチュービングセクションを含み、追加のチュービングセクションは、タンクとポンプと、ポンプと第1チュービングセクションと、第1チュービングセクションと第2チュービングセクションと、又は第2チュービングセクションとタンクと、を接続し;及び
冷却デバイスは、脱酸素化をシミュレーションし、加熱デバイスは、酸素化又は人工肺をシミュレーションする。
【0037】
上記の方法のいくつかの実施形態では、加熱デバイスは、温水を使用して該流体を加熱し、冷却デバイスは、冷水を使用して該流体を冷却する。
【0038】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、ステップ(3)において、該流体は、24℃の温度に冷却される。
【0039】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、ステップ(5)において、該流体は、35℃の温度に加熱される。
【0040】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態において、本方法は、流体の色及び色の変化を観察することを含む。該流体が31℃又はより高くに加熱されると、該流体の色は明赤色になる。該流体が28℃又はより低くに冷却されると、該流体の色は暗赤色になる。明赤色は、酸素化された状態における実際の血液の色に似ている。暗赤色は、脱酸素状態における実際の血液の色に似ている。
【0041】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、流体は、更に、水、及び非染色性色素又は非染色性色素の組み合わせを含む。
【0042】
本発明のある実施形態では、血液シミュレーションのための熱変色性流体が提供され、該流体は、熱変色性インク、水、任意選択的に少なくとも1つの非染色染料を含む。熱変色性流体は、本明細書に開示され及び請求された方法のいずれにも使用できる。該流体の温度が31℃以上になるとき、該液体の色は明赤色になる。該流体の温度が28℃以下であるとき、該流体の色は暗赤色である。明赤色は、酸素化された状態における実際の血液の色に似ている。暗赤色は、脱酸素状態における実際の血液の色に似ている。
【0043】
熱変色性流体のいくつかの実施形態においては、熱変色性インクは、例えばグッドライフ イノベーションズ リミテッド(Good Life Innovations Ltd.)から入手可能なブラックサーモクロミック(Black Thermochromic)インク31℃である。前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態においては、非染色性色素は、例えばメイヘムズ ソリューションズ リミテッド(Mayhems Solutions Ltd.)から入手可能な非染色イエロー色素である。いくつかの実施形態においては、非染色性色素は、非染色ピンク/レッド色素であり、例えば、メイヘムズ ソリューションズ リミテッドで入手可能である。いくつかの実施形態において、熱変色性流体は、非染色染料の組み合わせを含む。
【0044】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、ブラック熱変色性インクの濃度は、約16.7グラム/リットルである。前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、ブラック熱変色性インクの濃度は、リットル当たり約10~約20グラムである。
【0045】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態においては、非染色性イエロー素の濃度は、蒸留水1リットル当たり約0.2リットルであり、非染色性ピンク色素の濃度は、蒸留水1リットル当たり約0.4リットルである。前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態において、非染色性イエロー色素の濃度は、蒸留水1リットル当たり約0.1~約0.4リットルであり、非染色性ピンク色素の濃度は、蒸留水1リットル当たり約0.2~約0.5リットルである。
【0046】
本発明のある実施形態では、本件に開示された熱変色性流体を用いて体外式膜型人工肺(ECMO)をシミュレーションするためのシステムが提供され、このシステムは、タンク、ポンプ、チュービング回路、加熱デバイス、及び冷却デバイスを含む。本システムは、本明細書に開示されまた請求された方法のいずれにも使用されることができる。
【0047】
システムのいくつかの実施形態では、タンクは、2つの出口を備え、ここで、該出口の一方は、チュービング回路の一端に接続され、該出口の他方は、ポンプに接続される。タンクは、熱変色性流体を収容する。ポンプは、チュービング回路の他端に接続される。ポンプは、配管(tubing)内に該流体を流し込み、また流体を押し出して配管(tubing)内を流す。
【0048】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、チュービング回路は、冷却デバイス内を通り抜けるセクションを含む。冷却デバイスは、流体が冷却デバイスを通過して流れるとき、流体が第1所定温度(例えば、28℃以下)に冷却されて、流体の色が濃い赤色になる。いくつかの実施形態では、第1所定温度は24℃である。冷却プロセスは、患者体内の脱酸素プロセスを模擬する。
【0049】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、チュービング回路は、チュービングセクションを含み、チュービングセクションは、実際のECMOの人工肺レプリカに連結された加熱デバイスを通り抜ける。加熱デバイスは、該流体が加熱デバイスを通って流れるとき、該流体を第2所定温度{例えば、31℃以上}に加熱して、流体の色は、明赤色になる。いくつかの実施形態では、第2所定温度は、35℃である。加熱プロセスは、ECMOにおける酸素化プロセスを模擬する。
【0050】
前述の実施形態のいずれかを含むいくつかの実施形態では、チュービング回路は、追加のチュービングセクションを含み、追加のチュービングセクションは、タンク及びポンプ、ポンプ及び第1チュービングセクション、第1チュービングセクション及び第2チュービングセクション、又は第2チュービングセクション及びタンク、を接続する。いくつかの実施形態では、タンクとポンプとの間にチュービングセクションがある。いくつかの実施形態では、冷却デバイスを通り抜けるセクションと加熱デバイスを通り抜けるセクションとの間にチュービングセクションがある。いくつかの実施形態では、加熱デバイスを通り抜けるセクションとタンクとの間にチュービングセクションがある。各チュービングセクション(配管部)の長さは、設計に依存して異なる。
【0051】
例示及び実験
実施例1
【0052】
チュービング回路に接続されたヒータ/クーラシステムを用いて、熱変色性インク及び水の混合液が、該回路を介して流れる。活性化温度(31℃)を上に超えて加熱されると、混合色は、明赤色となる(血液の酸素化を模したもの)。活性化温度(28℃)より下に超えて冷却すると、混合物は、暗赤色になる(血液の脱酸素化を模したもの)。インクは室温で暗赤色のままである。
実施例2
【0053】
インク色の写実性を高めるために、熱変色性流体の組成が調整された。赤色及び黄色の追加の非染色色素を加えると、血液に近い赤色の色合いという結果になった。色変化の詳細なパターンを得るために、インクは、特定の温度範囲に関して試験された。加えて、異なる濃度の熱変色性インク及び染料が、最適な血液カラーレシピを特定するために、試験された。
実施例3
【0054】
物理的な忠実度及びモジュール性の理念に基づくスタンドアローンのECMOシミュレータが開発されてきた。物理的な忠実度は、必ずしもそれを生理学的に生成する必要ない一方で、与えられた現象の視覚的な及び聴覚的な手がかりを模擬することに取り組み解決しようとする。一方では、モジュール性は、手頃な価格の、拡張可能な、独立したコンポーネントを用いて、ECMOシステムの現象を再現する機構を実現することに設計プロセスの焦点を合わせる。基本的なECMO機能が、最初に追求された。血液の酸素化及び循環は、2つの熱交換器を通して熱変色性流体の連続流を生成することによって市販のポンプを用いて模擬される。熱変色性インクは、特殊な化学組成を持つ物質であって、特殊な化学組成は、該物質が温度調整に基づきその色を変えることを可能にする。「ECMO回路」の異なる部分における液体を加熱し及び冷却することは、明るい赤と暗い赤との間においてその色を絶えず転じさせて、血液の酸素化及び循環を模擬する。回路の人工肺のレプリカは、3Dプリンターで作成され、外面的にはMAQUET HLS人工肺の外観に似ている。内部から、レプリカは、バイパスチューブを含み、アクセス口からリターン(戻り)ポートへ熱変色性流体を循環させる。基本的な機能を結論付けると、ECMOコンソールインターフェースは、タッチスクリーンに接続されたシングルボードコンピュータ上で模擬(エミュレート)される。「ECMOスクリーン」上に見えるパラメータは、タブレットアプリケーションを用いて指導者によって遠隔アクセス可能なリアルタイムクラウドに保存される。これにより、回路及び血液パラメータをその場で調整すること、並びにシステムモジュールを制御することが可能になる。加えて、指導者のタブレットアプリケーションは、シーケンスデザイナーを提供し、該シーケンスデザイナーは、標準化されたトレーニングカリキュラムの青写真を作る(ブループリントする)ためのシミュレーションシナリオを指導者が作成し及び保存することを可能にし、また指導者によって望まれるものとして又はタイムライン上のいくつかのパラメトリック変化を自動化することを可能にする。
図5は、そのようなプロトタイプシミュレータを示す。
【0055】
シミュレータの基本レイヤーの上部において、追加のワイヤレスに制御されるモジュールが、特定のECMO緊急事態の視覚的な又は聴覚的な影響を模擬するために追加される。直線運動デバイスが、ラインシャッタリング(line shattering、ライン破砕)を模擬するために排水管内に振動を生成するために使用される。出血モジュールは、マネキン上のどこにでも血液様の液体を排出することができて、患者の出血を模擬する。弁は、熱変色性流体の温度変化を無効化するために使用されて、単色の巡回(モノカラー回路)を生成し、低酸素血症又は再循環を模擬する。表1は、シミュレータモジュールと、シミュレータモジュールを使用する場合の潜在的なケースをまとめている。
【0056】
ECMOシミュレーションのための現実的な及び汎用性のあるプラットフォームを提供することに加えて、例示のシミュレータは、高い忠実度の他のソリューションと比較して手頃な価格である考えられる。システムモジュールは、市販のコンポーネント(ポンプ、熱交換器、マイクロコントローラ、等)から構築されている。また、それらは、低コストの3Dプリンターで作成されたケーシングによっても囲まれている。
実施例4
【0057】
熱変色性色素は、蒸留水のリットル毎に以下のように混合することによって調整された:ブラック熱変色性インク31C(16.7g)、非染色性イエロー色素(0.3L)、及び非染色性ピンク色素(0.4L)。
【0058】
明細書で引用される参考文献
1. LCR Hallcrest Ltd. Chameleon(Rマーク) Thermochromic Water Based Screen ink [Internet]. Connah’s Quay; 2016.以下から入手可能:http://www.lcrhallcrest.com/chameleoninks/resources/pdf/from%20Linda/TDS/Therm ochromic%20WB%20Screen%20lnk%201 %20Part% 20System.pdf [2016年10月29日にアクセスされた]
2. Anderson J, Boyle K, Murphy A, Yaeger K, LeFlore J, Halamek L. Simulating extracorporeal membrane oxygenation emergencies to improve human performance. Part I: Methodologic and technologic innovations. Simul Healthc. 2006;1(4):220-227.