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特許7531931VGLL1ペプチドを含む癌治療用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】VGLL1ペプチドを含む癌治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20240805BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20240805BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240805BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240805BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240805BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240805BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20240805BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C07K14/47
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
C07K19/00
A61K38/16
A61K38/08
A61K38/10
A61P35/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022558391
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-22
(86)【国際出願番号】 KR2021003496
(87)【国際公開番号】W WO2021194186
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0037335
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522293526
【氏名又は名称】ワンキュアジェン カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ミ ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ボ キョン
(72)【発明者】
【氏名】イム,ジュ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ダ ミ
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/067869(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0050681(KR,A)
【文献】Cancers,2019年,Vol.11,1923
【文献】ChemBioChem,2014年,Vol.15,pp.537-542
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
A61P
C12N 15/
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VGLL1ペプチド断片またはその変異体であって、
ここで、VGLL1ペプチド断片は、7から35アミノ酸の長さを有するペプチド;および細胞透過性ペプチドをさらに有していてもよく、
ここで、7から35アミノ酸の長さを有するペプチドは、配列番号1の52~115番目の間のアミノ酸配列において連続した7から35アミノ酸からなり、配列番号1の84番目のセリンおよびそれに隣接する連続したアミノ酸からなり、
ここで、前記変異体は、VGLL1ペプチド断片の7から35アミノ酸の長さを有するペプチドと少なくとも90%の配列同一性を有し、配列番号1の84番目のセリンに対応する位置にセリンを含んでなるペプチド;および細胞透過性ペプチドをさらに有していてもよいVGLL1ペプチド断片またはその変異体。
【請求項2】
前記VGLL1ペプチド断片またはその変異体は、配列番号2~9からなる群から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列によるペプチド;および細胞透過性ペプチドをさらに有していてもよい、請求項1に記載のVGLL1ペプチド断片またはその変異体。
【請求項3】
請求項1に記載のVGLL1ペプチド断片またはその変異体であって、
ここで、VGLL1ペプチド断片は、7から15アミノ酸の長さを有するペプチド;および細胞透過性ペプチドをさらに有していてもよく、
ここで、7から15アミノ酸の長さを有するペプチドは、配列番号1の52~115番目の間のアミノ酸配列において連続した7から15アミノ酸からなり、配列番号1の84番目のセリンおよびそれに隣接する連続したアミノ酸からなり、
ここで、前記変異体は、VGLL1ペプチド断片の7から15アミノ酸の長さを有するペプチドと少なくとも90%の配列同一性を有し、配列番号1の84番目のセリンに対応する位置にセリンを含んでなるペプチド;および細胞透過性ペプチドをさらに有していてもよいVGLL1ペプチド断片またはその変異体。
【請求項4】
前記細胞透過性ペプチドは、配列番号12~19からなる群から選択されるいずれかである、請求項に記載のVGLL1ペプチド断片またはその変異体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のVGLL1ペプチド断片またはその変異体を含む癌の予防または治療用薬剤学的組成物。
【請求項6】
前記癌は、胃癌、肝臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、頭頸部扁平上皮癌、食道癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、中皮腫、黒色腫、肉腫、骨肉腫、脂肪肉腫、甲状腺癌、類腱腫および血液癌からなる群から選択されるいずれかである、請求項に記載の癌の予防または治療用薬剤学的組成物。
【請求項7】
前記癌は、胃癌である、請求項に記載の癌の予防または治療用薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VGLL1ペプチドを含む癌治療用組成物およびこれを用いた癌を治療する方法に関する。
【0002】
本発明は、科学技術情報通信部の課題番号1711098598、「理工分野基礎研究事業」に伴い、韓国政府の支援を受けて成し遂げられた。
【0003】
本発明は、科学技術情報通信部の課題番号1711081422、「源泉技術開発事業(バイオ医療技術)」に伴い、韓国政府の支援を受けて成し遂げられた。
【0004】
本発明は、科学技術情報通信部の課題番号1711100103、「主要事業(2019~2023)」に伴い、韓国政府の支援を受けて成し遂げられた。
【背景技術】
【0005】
癌は、世界的に高い死亡率を見せており、西洋社会では心血管疾患に次いで最も一般的な死因である。特に、人口の高齢化、食生活の西洋化による高脂肪食摂取の一般化、環境汚染物質の急激な増加、飲酒量の増加などにより大腸癌、乳癌、前立腺癌などが持続的に増加する傾向にある。このような実情から癌の早期予防及び治療を可能にし、ヒトの健康増進、生活の質の向上、及び人類の保健増進に寄与できる抗癌物質を創出することが切実に求められている。
【0006】
癌が発生する最大の要因としては、遺伝子に突然変異を引き起こすことによる。突然変異を引き起こす性質を発癌性(carcinogen)といい、この発癌性によって遺伝子変異を起こす段階をイニシエーション(initiation)という。イニシエーション段階に含まれる遺伝子らの中には、発癌抑制遺伝子(例えば、p53、PTEN、INKファミリー、RB)等と、突然変異によって常に活性がある状態の構造的活性(constitutive active)突然変異(活性突然変異体、例:EGFRmt、RasG12V)がある。正常細胞には、上皮成長因子(epidermal growth factor)がEGF受容体(EGF receptor)に結合することによって活性信号を生成するが、活性突然変異体らは受容体にリガンド(ligand)が結合しなくても常に活性信号を下流シグナル伝達システムに送る。この過程で産生された一つの突然変異細胞は、体内にある免疫防御システムを突破し、腫瘍塊として成長しなければならないが、この過程をプロモーション(promotion)という。一般に、プロモーション過程には長い時間がかかるので、主にシグナル伝達システムの活性化からなる。
【0007】
癌の多くは、サイトカインを介した様々なシグナル伝達システムの活性化によって癌関連遺伝子の機能が調節される。TGF-β(Transforming growth factor-β)は、SMAD、Rho、PP2Aおよび癌関連遺伝子のシグナル伝達経路の調節を通じて細胞成長抑制、アポトーシス、分化および上皮間充織転移(epithelial-mesenchymal transition;EMT)のような多様な機能に関与している。動物モデルおよび患者におけるTGF-βの発現因子(pleiotropic factor)としての多様な機転と広範囲な役割について数々の研究が行われている。
【0008】
ショウジョウバエ転写因子コアクチベーター(coactivator)であるvestigial(vg)遺伝子と構造類似性を有するVestigial-like(VGLL)遺伝子は、TEA部位に結合する転写因子TEADs(TEA domain transcription factors)の補因子(cofactor)として作用する。胃癌におけるVGLLファミリータンパク質の機能および基本メカニズムが研究されてきた。胃癌患者におけるVGLL3過剰発現は、患者の低い生存率と関連していることが知られている。YAP(Yes-associated protein)と競合的にTEAD結合するVGLL4は、腫瘍阻害剤として報告されている。VGLL1は、YAPおよびTAZ(transcrition coactivator with a PDZ-binding motif)と構造的に相同性が高く、VGLL1-TEAD複合体を形成する。本発明者らは、胃癌において、発現量が高くて、PIK3CAまたはPIK3CBが過剰発現される患者の予後と相関性のあるVGLL1を、胃癌の悪性化に関連する遺伝子として報告した。また、PI3K-AKT-β-カテニンシグナル伝達機構を通じてVGLL1の転写が調節されることを明らかにした。さらに、VGLL1-TEAD複合体は、MMP9(Matrix metallopeptidase 9)の発現を増加させ、胃癌の増殖と転移に関与することを確認した。
一連の癌細胞の増殖および転移に関連し、VGLL1の具体的な作用については知られていない。VGLL1に関連し、VGLL1をバイオマーカーとして用いて肺癌を患う患者の生存期間を予測する方法や、VGLL1の発現増進に関連する癌細胞増殖または癌転移についていくつかの文献に報告されている。
このような背景の下、本発明者らは、VGLL1のペプチド断片がMMP9の発現を抑制するだけでなく、癌細胞の増殖を抑制することを見出し、癌治療剤として本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、VGLL1ペプチド断片またはその変異体を対象体に投与する工程を含む癌の治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を提供する。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、前記VGLL1ペプチド断片またはその変異体は、6~25個のアミノ酸配列を有するものであるVGLL1ペプチド断片またはその変異体であってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、前記VGLL1ペプチド断片またはその変異体は、配列番号1の52番~115番目の間のアミノ酸配列において84番目のセリン配列を含むものである、VGLL1ペプチド断片またはその変異体であってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、前記VGLL1ペプチド断片またはその変異体は、84番目のセリンおよびそれに隣接する6個~20個のアミノ酸からなるものであるVGLL1ペプチド断片またはその変異体であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、前記VGLL1ペプチド断片またはその変異体は、配列番号2~9からなる群から選択されるいずれかであるVGLL1ペプチド断片またはその変異体であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、細胞透過性ペプチドをさらに含むVGLL1ペプチド断片またはその変異体であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、前記細胞透過性ペプチドは、配列番号12~19からなる群から選択されるいずれかであるVGLL1ペプチド断片またはその変異体であってもよい。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、前記VGLL1ペプチド断片またはその変異体を含む癌の予防または治療用薬剤学的組成物であってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、前記癌は、胃癌、肝臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、頭頸部扁平上皮癌、食道癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、中皮腫、黒色腫、肉腫、骨肉腫、脂肪肉腫、甲状腺癌、 腱腫および血液癌からなる群から選択されるいずれかである癌の予防または治療用薬剤学的組成物であってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、前記癌は、胃癌である癌の予防または治療用薬剤学的組成物であってもよい。
【0021】
本発明のもう一つの態様は、前記組成物を対象体に投与する工程を含む癌の治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の84番目のセリンを含むVGLL1のペプチド断片は、癌細胞の増殖を抑制し、癌細胞の浸潤を抑制することによって癌の予防および治療に優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】癌細胞にTGF-β処理によるMMP9の発現増加を確認した結果を示す。
図2】癌細胞において、MMP9の発現抑制による癌細胞の増殖及び浸潤抑制を確認した結果を示す。
図3】癌細胞において、VGLL1およびTEAD4阻害によるTGF-βによって増加したMMP9プロモーター活性の減少を、ルシフェラーゼ(luciferase)活性検証により確認した結果を示す。
図4】癌細胞において、VGLL1およびTEAD4阻害によるTGF-βによって増加したMMP9プロモーター活性の減少を、RT-PCRを介して確認した結果を示す。
図5】TGF-βによるVGLL1のリン酸化にVGLL1のS84が関連していることを確認した結果を示す。
図6】VGLL1のセリン84番の位置がTEAD4との結合に重要な部位であることを確認した結果を示す。
図7】TGF-βによるMMP9の発現の増加にVGLL1のリン酸化が影響を及ぼすことを確認した結果を示す。
図8】VGLL1の84番のセリン位置を含むペプチド断片処理により、TGF-β処理により増加したMMP9の発現を減少させることを確認した結果を示す。
図9】VGLL1の84番のセリン位置を含むペプチド断片処理により癌細胞の増殖が抑制されることを確認した結果を示す。
図10】VGLL1の84番のセリン位置を含むペプチド断片処理により癌細胞の浸潤が抑制されることを確認した結果を示す。
図11】VGLL1のペプチド断片及びその変異体処理による癌細胞の増殖抑制を確認した結果を示す。
図12】VGLL1のS84ペプチド断片処理による各種癌細胞の増殖抑制を確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を提供する。
【0025】
具体的には、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片の変異体は、配列番号1の84番目のセリン(Serine)を含み、且つ、52番~115番目の間に35個以下を有する任意の配列またはその変異体であってもよい。
【0026】
本発明において、「ペプチド」および「タンパク質」は、互換的に使用され、アミノ酸残基の重合体への言及を含む。前記用語は、天然アミノ酸重合体だけでなく、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的な化学的類似体であるアミノ酸重合体に適用する。前記用語は、またタンパク質が機能性のままであるように保存的なアミノ酸置換を含有する前記重合体にも適用する。本発明におけるペプチドは、遺伝子組換えとタンパク質発現系を用いて合成されたものであってもよく、好ましくはペプチド合成機等を介してインビトロで合成されたものであってもよい。
【0027】
本発明において、「VGLL1ペプチド」は、全長VGLL1タンパク質に対応するポリペプチドを意味する。また、前記用語は、VGLL1タンパク質の全ての相同体、類似体、断片または誘導体を含む。一実施形態において、単離されたVGLL1ペプチドは、アミノ酸配列(SEQ ID NO:1)を有する。「VGLL1コード核酸」は、VGLL1ポリペプチドまたはその変異体の少なくとも一部分を暗号化するDNAまたはRNAを意味する。
【0028】
本発明において、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片は、7~35個のアミノ酸、好ましくは7~25個のアミノ酸残基、及びさらにより好ましくは6~15個のアミノ酸であってもよい。または5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、または35個のアミノ酸の長さ、またはその中、推定可能な任意の範囲を含むアミノ酸鎖を含む。
【0029】
本開示のVGLL1ペプチド断片は、いくつかの実施形態において、配列番号1のVGLL1ペプチド配列の52番目~115番目の間のアミノ酸配列において、35個以下の連続的なアミノ酸を有し、84番目のセリン(Serine)を含む任意の配列からなることができる。
【0030】
例えば、本発明によるVGLL1ペプチド断片は、配列の84番目のセリン(Serine)を末端に含む場合、配列番号1の55番~84番のアミノ酸配列を有する30個のアミノ酸配列であってもよい。また、VGLL1ペプチド断片は、配列の80番目のセリン(Serine)を末端に含む配列番号1の80番~114番のアミノ酸配列を有する35個のアミノ酸配列であってもよい。
【0031】
また、前記配列番号1の52番~115番目の間のアミノ酸配列に84番目のセリン配列を含む任意の35個以下の配列であってもよい。すなわち、84番目のセリン配列を中心にこれに隣接して35個以下のアミノ酸配列を有するアミノ酸は、本発明のカテゴリーに含まれるVGLL1ペプチドの断片である。
【0032】
例えば、配列番号1の84番セリン配列を中心として総アミノ酸配列数が35個以下になるようにする任意の配列であってもよい。例えば、VGLL1タンパク質のアミノ酸配列のうち、84番目のセリンおよびそれに隣接する8個~25個、好ましくは7個~20個のアミノ酸、より好ましくは6個~15個をさらに含むまたはこれからなる配列であってもよい。
【0033】
より好ましくは、配列番号1の84番配列を中心として20個以下、15個以下または10個以下、9個以下、8個以下、7個以下の配列からなることができる。
【0034】
具体的には、本願発明による任意の配列は、例えば、配列番号1のVGLL1ペプチド配列の52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、または82番目の任意の選択されたアミノ酸配列から始まり、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、または115番目の任意の選択されたアミノ酸配列までのアミノ酸配列を含むものであり、その長さが上述した35個以下を満たすものであれば、どのような配列であっても本発明の範疇のペプチド断片に含まれることができる。
【0035】
より具体的には、VGLL1の77番~91番配列からなる配列番号2のアミノ酸配列であってもよい。より具体的には、VGLL1の82~88番配列からなる配列番号9のアミノ酸配列であってもよい。
【0036】
これらの例示的なVGLL1ペプチド断片配列を、以下の「表1」の配列番号2~9に示し、そのような配列は、VGLL1ペプチドの84番目のセリン配列を含むものであり、例示的に示される配列に該当し、これらの配列の例示には、限定されるものではない。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明において、「生物学的に活性のある」は、個別の野生型ポリペプチドと類似の構造的機能、および/または類似の調節機能、および/または類似の生化学的機能を有するペプチド断片もまた本発明によるペプチドを意味する。
【0039】
本発明において、「変異体」は、野生型ペプチドと比較し、対立遺伝子の変異を含む1つ(またはそれ以上)のアミノ酸から、または配列への置換、欠失または付加(またはそれらの任意の組み合わせ)を有する任意のペプチド(当該核酸によって暗号化されるペプチドを含む)を意味する。いくつかの実施形態において、その結果として得られるポリペプチドは、本発明で使用される場合、野生型ポリペプチドと比較して、生物学的活性の少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれ以上を保有する。具体的には、本発明による変異体は、配列番号1のS84を必ず含む配列であって、52番目~115番目の間でVGLL1ペプチドの任意の部位に変異が発生した35個以下のアミノ酸を有する配列であって、上記言及された生物学的活性を維持することを含む。
【0040】
配列一致率または相同性は、従来知られている標準技術を用いて測定することができる。配列は、配列されるシーケンスにギャップを導入することを含む。また、ここに開示されたタンパク質に比べてより多いかまたはより少ないアミノ酸を含む配列について、相同性の割合は、全アミノ酸の数と比較し、相同アミノ酸の数に基づいて測定されるものと理解される。その結果、VGLL1ポリペプチドの変異体(当該核酸によって暗号化されるポリペプチドを含む)は、配列番号1のペプチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列相同性を有してもよい。具体的には、本発明による変異体は、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片の変異体であり、配列番号1の52番目~115番目の間で変異を有し、上記52番目~115番目の間で相応する配列を考慮し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列相同性を有するものであってもよい。
【0041】
本発明において、「欠失」は、野生型ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較して、それぞれ1つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基を持たないヌクレオチドまたはアミノ酸配列における変化として定義される。
【0042】
本発明において、「挿入」または「付加」は、野生型ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較して、それぞれ1つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の付加によるヌクレオチドまたはアミノ酸配列における変化である。
【0043】
本発明において、「置換」は、野生型ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較して、それぞれ異なるヌクレオチドまたはアミノ酸による1つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸の交換から来ている。
【0044】
サイトカインTGF-bは、細胞内シグナル伝達タンパク質のリン酸化を誘導する。癌細胞において、TGF-bを処理すればVGLL1がリン酸化を誘導することができる。例えば、VGLL1のS84を含むペプチド断片を、競合的にVGLL1とTEAD4の結合を阻害させることによってMMP9の発現を阻害することができる。これらのTGF-bによってリン酸化が起こり得るアミノ酸には、セリン(serine)、スレオニン(threonine)およびチロシン(tyrosine)がある。これによってこれらに限定されるものではないが、配列番号1のアミノ酸配列において、54、59、61、62、64、66、74、76、82、83、84、および96番の配列は、変異なしで維持されることが好ましい場合がある。
【0045】
一方、置換位置で好ましいアミノ酸変異は、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性および/または両親媒性特性の類似性に基づいて行われることができる。例えば、これに限定されるものではないが、負に荷電(negatively charged)したアミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含み、正に荷電(positively charged)したアミノ酸としては、リジンおよびアルギニンを含み;そして類似の親水性値を有する非荷電性極性ヘッド基を有するアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシンおよびバリン;グリシンおよびアラニン;アスパラギンおよびグルタミン;セリン、スレオニン、フェニルアラニンおよびチロシン;が挙げられる。前記変異は、保存的置換を含むことができる。「保存的置換」とは、あるアミノ酸が同様の特性を有する別のアミノ酸により置換され、当業者であれば、そのポリペプチドの二次構造及びハイドロパシー性質(hydropathic nature、疎水性又は親水性性質)が実質的に変化しないと予測できる置換である。一般に、以下のアミノ酸群が保存性変化を示す:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2)cys、ser、tyr、thr;(3)val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。
【0046】
例えば、生物学的活性に修飾を示さない例示的なアミノ酸置換であって、これに限定されるものでないが、配列番号1の85番、87番の位置の変異を含むことができる。例えば、配列番号1においてP85A、T85A変異であってもよい。
【0047】
これに限定されるものではないが、本発明では、上述の置換位置で次のアミノ酸変異を含む:S-A、P->A、T->A、またはY->A。
【0048】
前記変異体は、非保存的変更を含むことができる。好ましい実施形態において、変異体ポリペプチドは、5個のアミノ酸またはそれより少ないアミノ酸の置換、欠失または付加によって天然配列とは異なってもよい。変異体はまた、例えば、ポリペプチドの二次構造およびハイドロパシー(hydropathic)特性に対して有する影響が最小であるアミノ酸の欠失または付加によって修飾することができる。
【0049】
場合によっては、前記変異体は、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)およびアミド化(amidation)などで修飾(modification)することもできる。
【0050】
例示的なアミノ酸置換された変異配列を「表2」に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体は、細胞内を透過するための細胞透過性ペプチド配列をさらに含むことができる。
【0053】
細胞透過性ペプチドとは、シグナルペプチドの一種であって、細胞内に物質の送達を目的とするペプチド配列である。主に7~30個のアミノ酸ペプチド配列からなり、細胞内に送達され得るシグナルペプチドを有する配列であれば、如何なる配列であっても本発明に含まれることができる。
【0054】
例えば、細胞透過性ペプチドは、リジン/アルギニンなどの基本的なアミノ酸残基を主に含んでいるので、これと融合したタンパク質を細胞膜透過して細胞内に浸透させる役割をする。前記細胞透過性ペプチドは、HIV-1のTatタンパク質、ドロソフィラアンテナペディアのホメオドメイン(ペネトラチン)、HSV VP22転写調節タンパク質、vFGFに由来するMTSペプチド、PTD-5、トランスポータンまたはPep-1ペプチドに由来する配列などを含むが、これに限定されるものではない。このように、ウイルスまたはカチオン性ペプチドから同定/合成された様々なCPPs(例えば、TAT48-60、ペネトラチン(pAntp)43-58、ポリアルギニン、Pep-1、トランスポータンなど)の生物学的活性物質は、薬物運搬体の移動を媒介するために細胞内在化(internalization)が可能な活性を有する。
【0055】
このような配列の場合、VGLL1ペプチド断片またはその変異体のN末端に連結されたものであってもよい。
【0056】
例示的な配列の場合、以下の配列番号12~19に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
好ましくは、前記配列番号12の配列がVGLL1ペプチド断片またはその変異体に連結されたものであってもよい。このような配列は、例えば、配列番号27、配列番号29などの配列ペプチド断片であってもよい。また、配列番号30または配列番号31のように、ペプチド断片の変異体と細胞透過性配列が連結されたものであってもよい。
【0059】
すなわち、本発明では細胞透過性ペプチド;及び配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を含む融合ペプチドを提供することができる。
【0060】
本発明では、前記VGLL1ペプチド断片またはその変異体、それに細胞透過性ペプチドが連結された融合ペプチドをコードする核酸配列もさらに提供する。「核酸」は、DNAおよびRNAを含むことを意図しており、二本鎖または一本鎖であってもよい。
【0061】
ペプチドをコードする核酸は、発現ベクターおよび分子生物学の分野においてよく知られている方法を使用して、適切な発現系で産生されたペプチドに作動可能に連結することができる。本明細書に開示されたペプチドをコードする核酸は、ペプチドの適切な発現を保証する任意の発現ベクターに組み込むことができる。可能な発現ベクターは、ベクターが宿主細胞の形質転換に適している限り、これらに限定されるものではないが、プラスミド、または修飾ウイルス(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)を含む。
【0062】
「宿主細胞の形質転換に適した」組換え発現ベクターは、本開示の核酸分子、核酸分子に作動的に連結されたものであり、発現に使用される宿主細胞に基づいて選択された調節配列を含む。用語「作動的に連結された」または「作動可能に連結された」という用語は、相互混用され、核酸が核酸の発現を可能にする方式で調節配列に連結されていることを意味することを意図する。
【0063】
したがって、本開示は、ペプチドをコードする核酸および挿入されたタンパク質配列の転写および翻訳に必要な調節配列を含む組換え発現ベクターを提供する。適切な調節配列は、ウイルス、真菌またはウイルス遺伝子を含む様々な供給源に由来し得る。適切な調節配列の選択は一般に選択された宿主細胞に依存的であり、当業者によって容易に達成することができる。このような調節配列の例は、翻訳開始シグナルを含み、転写プロモーターおよびエンハンサーまたはRNAポリメラーゼ結合配列、リボソーム結合配列が含まれる。さらに、選択された宿主細胞および使用されるベクターに応じて、複製起点、追加のDNA制限部位、エンハンサーおよび転写誘導性を付与する配列などの他の配列を発現ベクターに組み込まれることができる。必要な調節配列は、天然タンパク質および/またはその隣接領域によって供給され得ることもまた理解されるであろう。
【0064】
組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、形質転換宿主細胞を産生することができる。「形質転換宿主細胞」という用語は、本開示の組換え発現ベクターで形質転換されるか、またはトランスフェクションされた原核細胞および真核細胞を含むことが意図される。用語「~で形質転換された」、「~でトランスフェクションされた」、「形質転換」および「トランスフェクション」は、当技術分野で知られている数々の可能な技法のうちの1つにより細胞内への核酸(例えば、ベクター)の導入を含むことが意図される。適切な宿主細胞は、非常に多様な原核および真核宿主細胞を含む。例えば、本開示のタンパク質は、大腸菌などの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルスを使用する)、酵母細胞または哺乳動物細胞において発現され得る。
【0065】
さらに本開示の核酸分子は、標準的な技法を使用して化学的に合成することができる。ペプチド合成のように、商業的に利用可能なDNA合成機で完全に自動化された固相合成を含み、ポリデオキシヌクレオチドを化学的に合成する様々な方法が公知されている。
【0066】
本発明はまた、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を含む薬学的組成物を提供する。
【0067】
本発明はまた、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を含む癌の予防または治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0068】
本発明はまた、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を含む癌の転移抑制用薬剤学的組成物を提供する。
本発明による組成物は、VGLL1のペプチドが癌細胞の増殖を阻害させ、癌細胞の浸潤を阻害させることによって癌の予防、転移の抑制および治療に優れた効果を有する。本発明による組成物は、直接治療効果、転移抑制効果のみならず、抗癌補助剤としての作用全部を含む。
【0069】
本発明において、「治療」および「治療する」とは、疾患または健康関連状態の治療上の利点を得る目的の対象体への治療薬の投与または適用、または対象体における手続きまたは方法の実施を指す。「予防」、「予防する」などは、疾患または病態の発生または再発の可能性を予防、阻害または軽減するためのアプローチを指す。また、疾患または病態の開始または再発を遅らせるまたは疾患または病態の発生または再発を遅延させることを指します。
【0070】
本発明において、「対象体」および「患者」は、ヒトまたは非ヒト、例えば霊長類、哺乳類、脊椎動物を指す。特定の実施形態において、対象体はヒトである。
【0071】
本発明において、「治療上の利点」または「治療上有効な」とは、そのような状態の医学的治療に関連して対象体の健康を促進または増大させる任意のものを指す。これはこれらに限定されるものでないが、疾病の徴候または症状の頻度または重症度の減少が含まれる。例えば、癌の治療は、腫瘍の大きさの減少、腫瘍の侵襲性の減少、癌の成長速度の減少、または転移防止を含み得る。癌の治療はまた、癌を有する対象体の生存を延長させることを指すことができる。
【0072】
本発明において、癌は、胃癌、肝臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、 頭頸部扁平上皮癌、食道癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、中皮腫、黒色腫、肉腫、骨肉腫、脂肪肉腫、甲状腺癌、類腱腫、血液癌などを含む。
【0073】
本発明において、抗癌は、例えば、癌細胞の死を促進したり、癌細胞にてアポトーシスを誘導するか、または癌細胞の成長速度を低下させるか、転移の有病率もしくは数を減少させるか、または腫瘍の大きさを減少させるか、腫瘍成長を抑制するか、腫瘍もしくは癌細胞への血液供給を減少させるか、癌細胞または腫瘍に対する免疫応答を促進するか、癌の進行を防止または抑制するか、癌を有する対象体の寿命を増加させることにより、対象体の癌細胞/腫瘍に悪影響を及ぼすことを意味する。
【0074】
本発明において「薬剤学的または薬理学的に許容される」という語句は、適切な場合、動物、例えばヒトに投与した場合、副作用、アレルギー反応または他の不適切な反応を引き起こさない分子性物質および組成物を指す。本開示に照らして、当業者は、抗体または追加の活性成分を含む薬剤学的組成物の製造を認識するであろう。さらに、動物(例えば、ヒト)の投与の場合、製造は、FDA生物標準局の要求通り、滅菌、発熱性、一般安全性および純度基準を満たさなければならないことが理解されるであろう。
【0075】
本発明によるペプチド断片またはその変異体は、前述のように細胞透過性ペプチドをさらに含むことによって、体内細胞送達をより容易にすることができる。
【0076】
本発明で使用するための前記薬剤学的組成物を1以上の生理学的に許容される担体または賦形剤を用いて標準技法に従って製剤化することができる。適切な薬剤学的担体は、本発明および文献[Remington:The Science and Practice of Pharmacy、21st Ed.、University of the Sciences in Philadelphia、Lippencott Williams & Wilkins(2005)]に開示されている。
【0077】
本発明のペプチドは、任意の適切な経路、例えば、吸入を介して、局所、鼻、経口、非経口または経直腸に投与するために製剤化することができる。したがって、上述の薬剤学的組成物の投与は、皮内、皮下、静脈内、筋肉内、鼻腔内、吸入を介して、大脳内、気管内、動脈内、腹腔内、膀胱内、胸膜内、冠状動脈内、皮下または腫瘍内注射により、注射器または他の装置を用いて行うことができる。経皮投与もまた、吸入またはエアロゾル投与のように考慮される。錠剤およびカプセルを経口、経直腸または経膣内投与することができる。
【0078】
前記薬剤学的組成物は、通常、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体中に溶解されたペプチド、またはペプチドを含む。ペプチドは、一緒にまたは別々に提供し得る。多様な水性担体、例えば、緩衝食塩水などを使用することができる。これらの溶液は、殺菌性であり、一般的に好ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来の周知の殺菌技法によって滅菌してもよい。前記組成物は、生理学的条件に近づけるために必要とされる薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整および緩衝剤、毒性調節剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含んでもよい。これら製剤中のペプチドの濃度は、幅広く変えることができ、選択された特定の投与モードおよび患者の必要に応じて、主に流体の体積、粘度、体重などに基づいて選択される。
【0079】
本発明の薬剤学的組成物は、静脈内投与または体腔内投与を含む非経口投与に適している。
【0080】
本発明のペプチドを、注射による、例えば、ボーラス注入または持続注入による非経口投与用に製剤化することができる。注射用製剤は、単位投与形、例えばアンプルまたは複数回用量容器中に添加された保存剤と共に存在してもよい。注射可能な組成物は、好ましくは水性等張性溶液または懸濁液であり、坐剤は、好ましくは脂肪乳化液または懸濁液から製造する。前記組成物を滅菌し/殺菌したり、または前記組成物が補助剤、例えば、保存剤、安定剤、湿潤または乳化剤、溶解促進剤、浸透圧調節用塩および/または緩衝剤を含んでもよい。なお、前記活性成分は、使用前に、適切なビヒクル、例えば、無菌のパイロジュエンフリー水で組成される粉末の形態で存在することができる。また、前記活性成分は、他の治療上有益な物質をさらに含んでもよい。前記組成物は、慣用の各混合、造粒またはコーティング方法に従って製造し、これらは約0.1~75%、好ましくは約1~50%の活性成分を含有する。
【0081】
経口投与の場合、薬剤学的組成物または薬剤は、薬学的に許容される賦形剤と共に、例えば、従来の手段によって調製された錠剤またはカプセルの形態とすることができる。活性成分、すなわち本発明の組成物を、(a)希釈剤または充填剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース(例えば、エチルセルロース、微結晶セルロース)、グリシン、ペクチン、ポリアクリル酸塩および/またはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、(b)潤滑剤、例えば、シリカ、タルカム、ステアリン酸、それらのマグネシウムまたはカルシウム塩、金属ステアレート、コロイド状二酸化ケイ素、水素化植物油、トウモロコシデンプン、ナトリウム安息香酸、酢酸ナトリウムおよび/またはポリエチレングリコールと共に;錠剤の場合もまた、(c)結合剤、例えば、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドンおよび/またはヒドロキシプロピルメチルセルロース;場合によっては、(d)崩壊剤、例えばデンプン(例えば、ジャガイモデンプンまたはナトリウムデンプン)、グリコール酸、寒天、アルギン酸もしくはそれらのナトリウム塩、または発泡性混合物;(e)湿潤剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、および/または(f)吸収剤、着色剤、風味剤および甘味剤を含む錠剤およびゼラチンカプセル剤が好ましい。
【0082】
本発明は、癌などの疾患またはその悪性状態を予防、治療、または抑制するために治療上有効な用量で薬剤学的組成物を患者に投与する。前記薬剤学的組成物は、患者において有効な治療的または診断応答を誘発するのに十分な量で前記患者に投与する。有効な治療的または診断応答は、上記の病状または悪性状態の症状または合併症を少なくとも部分的に阻止または遅らせる応答である。これを成し遂げるのに適切な量を「治療的有効量」として定義する。
【0083】
投与するペプチドの用量は、哺乳動物の種、体重、年齢、個々の条件、治療しようとする領域の表面積および投与形態によって異なる。前記用量の大きさはまた、特定の患者における特定の化合物の投与に伴う任意の副作用の存在、性質および程度によって決定される。
【0084】
約50~80kgの哺乳動物、好ましくはヒトに投与するための単位投与量は、ペプチドに対して約1mg/kg~5mg/kgの量を含有することができる。
【0085】
典型的には、本発明の化合物の投与量は、所望の効果を達成するのに十分な投与量である。最適の投薬スケジュールは、ペプチドの測定、患者の体内での累積から計算することができる。1日、1週間、1ヶ月、または1年に1回以上提供することができる。当業者は、最適投与量、投与法、および反復周期を容易に決定することができる。当業者は、当技術分野で公知され、本発明に開示された確立されたプロトコルに従ってヒトへのペプチドの投与のための最適投与を決定することができる。しかし、有効成分の実際投与量は、治療しようとする疾患、疾患の重症度、投与経路、患者の体重、年齢および性別などの様々な関連因子に照らして決定されるべきであることが理解されなければならず、したがって、前記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0086】
本発明はまた、癌の予防または治療に使用するための配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を提供する。
本発明はまた、癌の予防または治療に使用するための薬剤の製造において、配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体の使用を提供する。
【0087】
本発明はまた、治療学的に有効な量の配列番号1のVGLL1のペプチド配列の84番目のセリン(Serine)を含み、35個以下のアミノ酸の長さを有するVGLL1ペプチド断片またはその変異体を対象体に投与する工程をさらに含む癌の治療方法を提供する。
【0088】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、以下の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0089】
本発明では、VGLL1のペプチド断片またはその変異体が癌細胞増殖を抑制させ、癌細胞の浸潤を抑制させることにより、癌の予防および治療に優れた効果があることを確認し、本発明を完成した。以下ではこれについて具体的に検討する。
【0090】
<実施例1>TGF-βによるMMP9の発現の増加による癌細胞の増殖及び転移の確認
実施例1-1.TGF-βによるMMP9の発現の確認
胃癌細胞株におけるTGF-β処理によるMMP9の発現の変化を確認するために、ヒト胃癌細胞株NUGC3にTGF-βを各時間帯別に処理した後、細胞からmRNAを抽出し、相補的DNAを合成した後、Matrix metalloproteinase 9(MMP9)プライマー(表4)を用いてRT-PCRを行った。
【0091】
【表4】
【0092】
その結果を図1に示す。
【0093】
図1に示すように、TGF-βにより6時間以後からMMP9の発現が増加したことが確認できた。
【0094】
実施例1-2.MMP9による癌細胞の増殖及び浸潤の確認
MMP9の発現が胃癌細胞の増殖及び転移に及ぼす影響を確認するために、siMMP9を処理し、癌細胞の増殖及び浸潤に及ぼす影響を確認した。
具体的には、胃癌細胞株NUGC3を6ウェルプレート(6-well plate)に一晩培養した後、20nM siSC、siMMP9(配列番号22)をリポフェクタミン2000と混合し、前記細胞株に処理した。48時間後、細胞からmRNAを抽出し、相補的DNAを合成した後、MMP9プライマーを用いてRT-PCRを行った(図2A)。
【0095】
【表5】
【0096】
また、MMP9の細胞増殖能を確認するために、胃癌細胞株NUGC3を96ウェルプレート(96-well plate)に培養した翌日、20nM siSC、siMMP9をリポフェクタミン2000と混合し、前記細胞株に処理した。48時間後、1%ホルマリン(formalin)溶液を用いて細胞を固定した。その後、0.4%Sulforhodamine B溶液で前記細胞を1時間染色した後、酢酸(acetic acid)で洗浄して乾燥させた。それから、前記細胞を10mM Tris溶液に溶解し、ELISAプレートリーダー(ELISA plate reader)を用いて540nmで吸光度を測定した(図2B)。
【0097】
次に、MMP9の細胞浸潤能を確認するために、24ウェルプレート(24-well plate)に細胞培養用インサート(cell culture insert)を固定し、マトリゲル(matrigel)を20倍希釈し、100μl添加し、37℃で1時間以上反応させた。インサート下部24ウェルプレートに、10%血清が含まれた培地700μLを添加した。前記siRNAでMMPがノックダウン(knockdown)した細胞を5×10濃度になるように血清を含まない培地300μlに合わせてインサートに添加した。48時間インキュベートした後、インサートを取り出し、10%ホルマリン溶液に固定させた。インサートの内側に残った細胞を綿棒で除去し、水で洗浄した。0.4%Sulforhodamine B溶液で細胞を1時間染色した後、酢酸(acetic acid)で洗浄して乾燥させた。その後、光学顕微鏡で写真を撮り、インサートの膜(membrane)を切り出した後、10mMのTris溶液に溶かし、 ELISAプレートリーダー(ELISA plate reader)を用いて540nmで吸光度を測定した(図2C)。
【0098】
上記の各実験結果を図2A~Cに示す。
【0099】
図2Aは、siRNA(siMMP9)処理により、MMP9の発現が減少した結果を示す。また、図2Bは、siRNA(siMMP9)処理によりMMP9の発現が減少したことにより細胞生存率が大きく減少する結果を示す。また、図2Cは、siRNA(siMMP9)処理により細胞の浸潤特性が大きく減少した結果を示す。
【0100】
上記の結果から分かるように、siMMP9によってMMP9の発現が抑制され、それにより胃癌細胞株NUGC3において増殖および浸潤能が大幅に減少する結果が確認された。
【0101】
<実施例2>MMP9のプロモーター活性の確認及びそのmRNA発現に対するVGLL1とTEAD4の作用の確認
実施例2.1 TGF-βによるMMP9のプロモーター活性の確認およびVGLL1とTEAD4の調節能の確認
NUGC3ヒト胃癌細胞株において、MMP9のプロモーター活性にVGLL1とTEAD4が関与するかどうかを確認するために、TGF-βを処理した後、MMP9プロモータールシフェラーゼ(luciferase)活性を確認した。
【0102】
具体的には、胃癌細胞株NUGC3を48ウェルプレート(48-well plate)に2×10細胞/ウェル濃度で細胞を培養した。その翌日、MMP9遺伝子が挿入されたpGL4.17-luciferaseベクターをリポフェクタミン2000を用いて細胞に形質導入した。24時間後、20nM siSC(配列番号23:5′-CCUACGCCACCAAUUUCGUdTdT-3′)siVGLL1(配列番号24:5′-AGCCUAUAAAGACGGAAUGGAAUdGAdTdT-3′)、siTEAD4(配列番号25:5′-GACACUACUCUUACCGCAUdTdT-3′)、siYAP(配列番号26:5′-CCACCAAGCUAGAUAAAGAAAdTdT-3′)をリポフェクタミン2000と混合し、細胞株に処理した。その翌日、TGF-βを18時間処理した後、細胞溶解緩衝液(passive lysis buffer)を用いて前記細胞を破砕した。その後、前記細胞を遠心分離した後、上澄み液を収得し、得られた前記上澄み液を基質(製品名dual-luciferase assay kit)とともに反応させると、ルシフェラーゼ酵素と基質反応により光を発するので、このとき、ビクター(victor X Light)を用いて細胞の発光度を確認した。
【0103】
その結果を図3に示す。図3に示すように、siVGLL1とsiTEAD4で形質導入した細胞は、対照群(siSC)に比べてTGF-βによって増加したMMP9プロモーター活性が減少した。これらの結果は、VGLL1とTEAD4がMMP9のプロモーター活性を調節することを示す。
【0104】
実施例2-2.TGF-βによるMMP9のmRNA発現に対するVGLL1とTEAD4の作用の確認
NUGC3ヒト胃癌細胞株において、MMP9のmRNA発現にVGLL1とTEAD4が関与するかどうかを確認するために、TGF-βを処理した後、MMP9 mRNA発現をRT-PCRで確認した。
【0105】
具体的には、胃癌細胞株NUGC3を6ウェルプレート(6-well plate)に培養した翌日、20nMのsiSC、siVGLL1、siTEAD4、siYAPをリポフェクタミン2000と混合し、前記細胞株に処理した。その翌日、TGF-βを18時間処理した後、細胞からmRNAを抽出し、相補的DNAを合成した後、RT-PCRを行った。
【0106】
その結果を図4に示す。図4に示すように、siVGLL1とsiTEAD4で形質導入した細胞は、対照群(siSC)に比べてTGF-βによって増加したMMP9 mRNA発現を減少させることが確認された。
【0107】
<実施例3>TGF-βによるVGLL1のセリン(Serine)84番目のリン酸化の確認
TGF-βによりVGLL1がリン酸化されるかどうかを確認するために、VGLL1アミノ酸配列の50、84、124番目のセリン(Serine)をアラニン(Alanine)で突然変異させた後、VGLL1のリン酸化の有無を確認した。
【0108】
具体的には、VGLL1の特定のアミノ酸を突然変異させるために、pcDNA3-HA-VGLL1-ベクターでsite-direct mutagenesis製品を用いて50、84、124番目のセリンをアラニンに変えた。
【0109】
また、胃癌細胞株NUGC3を6ウェルプレート(6-well plate)に培養した翌日、pcDNA3-HA(EV)、pcDNA3-HA-VGLL1(WT)、pcDNA3-HA-VGLL1-S50A(S50A変異)、pcDNA3-HA-VGLL1-S84A(S84A変異)、pcDNA3-HA-VGLL1-S124A(S124A変異)をターボフェクトと混合し、細胞株に形質転換した。48時間後、TGF-βを15分間処理し、前記細胞からRIPAバッファー(RIPA buffer)を用いてタンパク質を抽出した。抽出されたタンパク質は、HA抗体が結合したアガロースを用いて免疫沈降(Immunoprecipitation)し、電気泳動で分離した後、移動したポリフッ化ビニリデン膜(polyvinylidene fluoride membrane)で抗体を用いて遺伝子のタンパク質発現を確認した。
【0110】
その結果を図5に示す。図5に示すように、TGF-βによるVGLL1のリン酸化は、WT、S50A、およびS124Aにおいてセリン/スレオニンリン酸化(pSer/Thr)抗体によって検出された。それに対し、S84A突然変異で形質転換させた細胞株からは、VGLL1のリン酸化を確認することができなかった。これは、VGLL1のセリンの84番目の位置がTGF-βによってリン酸化される部位であることを示す結果である。
【0111】
<実施例4>リン酸化されたVGLL1とTEAD4結合の確認
VGLL1が転写因子TEAD4と結合することを確認するために免疫沈降法を行い、VGLL1のリン酸化が重要に作用するかを確認するために<実施例3>にて使用したベクターを用いた。
【0112】
具体的には、GFP-TEAD4ベクターとpcDNA3-HA(EV)、pcDNA3-HA-VGLL1(WT)、pcDNA3-HA-VGLL1-S50A(S50A変異)、pcDNA3-HA-VGLL1-S84A(S84A変異)、pcDNA3-HA-VGLL1-S124A(S124A変異)をターボフェクトと混合し、24時間培養した細胞株に形質転換させた。48時間後、前記細胞かRIPAバッファーを用いてタンパク質を抽出し、HA抗体を結合したアガロースを用いて免疫沈降させ、電気泳動で分離した後、移動したフッ化ポリビニリデン膜(polyvinylidene fluoride membrane)にて抗体を用いて遺伝子のタンパク質の発現を確認した。
【0113】
その結果を図6に示す。図6に示すように、VGLL1とTEAD4の結合は、WT、S50A、S124Aでジエフピ(GFP)抗体によって検出された。その反面、S84A突然変異で形質転換させた細胞株からはTEAD4の結合を確認することができなかった。これは、VGLL1のセリン84位がTEAD4との結合に重要な部位に対応することを示す結果である。
【0114】
<実施例5>TGF-βによるMMP9の発現の増加に対するVGLL1のリン酸化の作用の確認
NUGC3ヒト胃癌細胞株におけるMMP9のタンパク質発現にVGLL1のリン酸化が関与するかどうかを確認するために、前記<実施例3>にて使用したVGLL1ベクターを用いて、MMP9のタンパク質発現をウェスタンブロット<Western blot>で確認した。
【0115】
具体的には、胃癌細胞株NUGC3を6ウェルプレート(6-well plate)に培養した翌日、pcDNA3-HA(EV)、pcDNA3-HA-VGLL1(WT)、pcDNA3-HA-VGLL1-S50A(S50A)、pcDNA3-HA-VGLL1-S84A(S84A)、pcDNA3-HA-VGLL1-S124A(S124A)をターボフェクトと混合し、細胞株に形質転換した。24時間後、TGF-βを18時間処理し、前記細胞からRIPAバッファーを用いてタンパク質を抽出した。抽出したタンパク質を電気泳動で分離した後、移動したフッ化ポリビニリデン膜(polyvinylidene fluoride membrane)にてMMP9、HA、GAPDH抗体を用いてタンパク質発現を確認した。
【0116】
その結果を図7に示す。図7に示すように、TGF-βによるMMP9タンパク質の発現は、VGLL1の84番目のセリンをアラニンに置換した細胞株にて減少することが確認された。これは、TGF-βによるVGLL1のリン酸化がMMP9の発現に重要であることを示し、VGLL1ペプチドの84番目のセリンが重要因子であることを示す。
【0117】
<実施例6>S84 VGLL1ペプチド断片のMMP9の発現の抑制と癌細胞増殖及び浸潤阻害の効果の確認
実施例6-1.S84 VGLL1ペプチド断片はTGF-βによるMMP9の発現を減少させる
ヒト胃癌細胞株においてVGLL1とTEAD4の結合を阻害するペプチド断片を処理する場合、MMP9の発現を阻害させることができることを確認するために、下記表6の配列を有するペプチド断片を作製し、そのMMP9の発現抑制の効果を確認した。
【0118】
【表6】
【0119】
上記表6におけるペプチド断片配列は、VGLL1のS84を含むVGLL1の77~91番目の配列を提供する。具体的には、配列番号27の配列は、フルオレセイン部分(fluorescein moiety(FITC))と細胞内導入に必要なHIV TAT形質導入ドメインの配列(transduction domain sequence)であるYGRKKRRQRRRを含み、これにVGLL1の77~91番目の配列が連結された配列である。配列番号28は、VGLL1のS84をS84Aで置換した配列を示す。配列番号12は、コントロール配列によるHIV TAT形質導入ドメインの配列(transduction domain sequence)を示す。
【0120】
上記合成ペプチド断片を用いて実験を行った。胃癌細胞株NUGC3を6ウェルプレート(6-well plate)に培養した翌日、無血清細胞培養物で24時間培養させた。TGF-βとコントロールペプチド断片(配列番号12)、VGLL1の84番目のセリンを含むペプチド断片(配列番号27)、VGLL1の84番目のアラニンを含む変異ペプチド断片(配列番号28)を18時間処理した。前記細胞からRIPAバッファーを用いてタンパク質を抽出し、電気泳動で分離した後、移動したフッ化ポリビニリデン膜(polyvinylidene fluoride membrane)で抗体を用いて遺伝子のタンパク質発現を確認した。
【0121】
その結果を図8に示す。図8に示すように、TGF-βで増加したMMP9の発現は、VGLL1の84番目のセリンを含むペプチド断片処理によって減少した。その反面、VGLL1の84番目のアラニンを含む変異ペプチド断片配列の場合、ペプチド断片の処理によって何ら影響も受けなかった。このような結果から、本発明によるVGLL1の84番目のセリンを含むペプチド断片配列が癌の治療に優れた効果を示すことが確認された。
【0122】
実施例6-2.S84 VGLL1ペプチド断片による癌細胞増殖抑制の効果の確認
胃癌細胞においてVGLL1とTEAD4の結合を阻害させ、MMP9の発現を減少させると、癌細胞の増殖にも影響を与え得るので、S84を含むVGLL1ペプチド断片によって細胞増殖が抑制されるか否かを確認した。
【0123】
具体的には、胃癌細胞株NUGC3を96ウェルプレート(96-well plate)に培養した翌日、ペプチド断片を処理し、リアルタイム細胞分析システム(製品名Incucyte)を用いて細胞増殖を分析した。
【0124】
その結果を図9に示す。図9に示すように、S84 VGLL1ペプチド断片は、癌細胞増殖を抑制させる効果を示した。その反面、コントロールペプチド断片またはS84の位置が変異した84番目の位置にアラニンを含む変異VGLL1ペプチド断片は、癌細胞増殖抑制に何ら影響も及ぼすことができなかった。
【0125】
以上の結果から、本発明によるS84 VGLL1ペプチド断片配列が癌細胞増殖抑制に優れた効果を示すことが確認できた。
【0126】
<実施例7>S84 VGLL1ペプチド断片による癌細胞浸潤抑制の確認
VGLL1ペプチド断片による胃癌細胞浸潤実験を実施例1-2と同様の方法で行った。
【0127】
胃癌細胞株NUGC3をペプチド断片と共にインサート(insert)に入れ、48時間細胞培養後、インサートを10%ホルマリン溶液に固定し、下方に移動した細胞を0.4%スルホローダミンB溶液で染色して確認した。
その結果を図10に示す。図10に示すように、S84を含むVGLL1ペプチド断片配列は、癌細胞浸潤を抑制させる効果を示すのに対し、当該位置が変異した配列の場合、そのような効果が奏されなかった。
【0128】
<実施例8>S84 VGLL1ペプチド断片変異体の癌細胞増殖抑制の効果の確認
VGLL1 S84ペプチド配列中の主要アミノ酸の突然変異による細胞増殖抑制の効果を確認するために、表7のようにペプチドを作製した。
【0129】
【表7】
【0130】
胃癌細胞株NUGC3を96ウェルプレート(96-well plate)にインキュベートした翌日、60μMのペプチドを処理し、リアルタイム細胞分析システム(商品名Incucyte)を用いて細胞増殖を分析した。
その結果を図11に示す。図11図Aは、リアルタイム細胞増殖グラフであり、図Bは、4日後、細胞増殖をコントロールペプチド100%基準で描いたグラフである。
【0131】
図に示すように、S84 VGLL1ペプチドだけでなく、S84-S、P85A、T87Aなどを処理した場合、癌細胞増殖を抑制するのに優れた効果を示した。
【0132】
これらの結果に基づいて、細胞増殖抑制効果が示されるペプチドの配列としてS84配列が最も重要であることが確認された。
【0133】
以上の結果から、本発明によるVGLL1のS84位のセリンを含むペプチド断片配列が癌細胞の増殖抑制および浸潤抑制を通じて癌の治療に優れた効果を示すことを確認した。
【0134】
<実施例9>S84 VGLL1ペプチド断片の様々な癌細胞増殖抑制効果の確認
S84 VGLL1ペプチド断片変異体の種々の癌細胞増殖抑制効果を確認するために、配列番号27のVGLL1 S84ペプチド配列を様々な癌細胞株に処理した。
【0135】
具体的には、表8の癌細胞を96ウェルプレート(96-well plate)に培養した翌日、60μMのペプチドを処理し、リアルタイム細胞分析システム(商品名Incucyte)を用いて細胞増殖を分析した。
【0136】
【表8】
【0137】
その結果、図12に示すように、S84 VGLL1ペプチド断片は、胃癌細胞だけでなく、大腸癌、肺癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、子宮頸癌および卵巣癌細胞の増殖を抑制させることに優れた効果を示すものであることが確認された。
【0138】
これらの結果に基づいて、多様な癌細胞増殖抑制効果が奏されるペプチドの配列としてS84配列が重要であることが確認された。
【0139】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したところ、関連技術分野の通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述はただ単に好ましい実施形態に過ぎず、これに本発明の範囲が限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付された特許請求の範囲およびそれらの等価物によって定義されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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