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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】セルロースカルバメートを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/06 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
C08B15/06
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2023552147
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 FI2022050126
(87)【国際公開番号】W WO2022180309
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】20215213
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522360965
【氏名又は名称】インフィニティッド ファイバー カンパニー オイ
【氏名又は名称原語表記】INFINITED FIBER COMPANY OY
【住所又は居所原語表記】Tekniikantie 14 Espoo Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】マラニン,エルッキ
(72)【発明者】
【氏名】マケラ,ヤニ
(72)【発明者】
【氏名】シレン,サカリ
(72)【発明者】
【氏名】ストイエルンベルグ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ハルリン,アリ
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-525437(JP,A)
【文献】特開昭57-143301(JP,A)
【文献】特表2000-505135(JP,A)
【文献】特開昭60-210601(JP,A)
【文献】特表昭58-502217(JP,A)
【文献】特表2017-521513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 3/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相でセルロースカルバメートを製造する方法であって、
a)セルロース原料を提供するステップと、
b)尿素を提供するステップと、
c)セルロースと尿素とを混合して混合物を提供するステップと、
d)混合物を350mbar abs以下の減圧にかけるステップと、
e)混合物を130~150℃の温度に加熱し、液体アンモニアの非存在下に、セルロースを尿素と反応させて、セルロースカルバメートを形成させるステップと、
f)圧力を解放するステップと、
g)セルロースカルバメートを回収するステップと、
h)回収されたセルロースカルバメートに含まれる水溶性窒素化合物であって、セルロースカルバメートと水溶性窒素化合物との合計重量に対して12%以下を占める水溶性窒素化合物を除去するためにセルロースカルバメートを水で洗浄するステッと、
含む方法。
【請求項2】
尿素が尿素の水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
混合物を130~140℃で、60~240分間加熱する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
セルロースと尿素との混合物を、減圧加熱中に不活性ガスで任意にフラッシングしてセルロースカルバメートを形成する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
セルロースと尿素との反応の完了後に圧力を解放する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
回収されたセルロースカルバメートを水で洗浄して、セルロースカルバメートから非尿素化合物を除去する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水溶性の非ガス状窒素化合物および非尿素化合物が、セルロースカルバメートから別々に回収され、水溶液の形態で回収される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
非尿素化合物が水溶液から分離される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
回収された水溶液が、蒸発によって濃縮される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
非尿素化合物の分離が、イオン交換、膜ろ過、電気透析および晶析からなる群から分離方法を選択することによって行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
尿素が回収される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
尿素が尿素供給ステップbにリサイクルされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
リサイクルされた尿素が、ステップbにおいて尿素の任意の新鮮な供給と組み合わされる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
セルロースと尿素との間の反応中に放出されたアンモニアを別個にかつ連続的に引き抜くことを含む、請求項1~1のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
アンモニアを回収する、請求項1~1のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
回収したアンモニアを酸と反応させて、対応する酸のアンモニウム塩を形成する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
混合物300mbar abs以下の圧力をかける、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ステップfで圧力を解放して常圧にする、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
セルロースと尿素との混合物を形成する間に、セルロースと尿素とに機械的加工を施す、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
機械的作業が、機械的混合装置においてせん断混合するステップを含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
セルロースと尿素との混合物が、少なくとも25重量%の初期固形分を含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
ステップc)で得られた混合物が、混合物から水を除去する中間ステップを経ずに、ステップd)で減圧に付される、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
ステップd)およびe)の間、混合物を、カルバメート化反応が完了するまで連続的に混合する、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本方法は、セルロースカルバメートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、世界で最も広く使用されているバイオポリマーであり、たとえばセルロースカルバメート、セルロースアセテート、エーテルおよびエステルなど、セルロースおよびセルロースの誘導体としてどちらも、紙および段ボール産業、繊維産業などの様々な産業で用途を見出している。セルロースの溶解は、その半結晶構造、ポリマーシート中の強い水素結合、ポリマー中の親水性末端と疎水性末端との存在のために困難である。このため、セルロースには誘導体化による構造の改変か、繊維の開繊と反応性の向上が必要である。
【0003】
誘導体化の方法は当技術分野でいくつか知られている。最もよく知られているのはビスコース法で、セルロースをまずアルカリで処理し、次に二硫化炭素で処理してセルロース・キサンテートを生成する。ビスコース法は、二硫化炭素の有毒性と、ビスコース法が環境に与える好ましくない影響のため、ますます敬遠されるようになっている。他の誘導体化方法、特に安価で、ビスコース法のような毒性問題や環境問題がなく、なおかつ利用可能なインフラで実施可能な方法、たとえばビスコース湿式紡績工場で実施可能な方法にますます注目が集まっている。
【0004】
セルロースカルバメートの製造のためのカルバメート化プロセスは、そのような誘導体化プロセスの一つである。セルロースカルバメートは、セルロースを尿素と反応させることによって生成する。セルロースカルバメートの製造方法は、たとえばフィンランド特許第112869号およびフィンランド特許第112795号ならびに国際特許出願に記載されている。このような一例では、尿素をセルロースに含浸させ、セルロース、液体、尿素、および任意だが、過酸化水素の混合物中で、セルロースと尿素との反応を行う。
【0005】
カルバメート化プロセスでは、ビウレットおよびカルバミン酸アンモニウムのような有害な副生成物が生成され、セルロースカルバメートの収率およびその純度に悪影響を及ぼす。このような副生成物は、カルバメート化プロセスにおけるセルロースカルバメートの重合度(DP)の制御不能な低下、セルロースカルバメート紡糸ドープ調製におけるアルカリ水溶液への好ましい溶解性の欠如に寄与し、それによって、製造されたセルロースカルバメートの有用性に悪影響を及ぼす。
【0006】
窒素性副生成物および未反応尿素の除去は、フィンランド特許番号128164号に記載されている。窒素性副生成物および未反応尿素を含む廃棄物の流れは、乾燥肥料を製造するために蒸発プラントに導くことができる。しかし、蒸発はエネルギー集約的なプロセスであり、カルバメート化反応による尿素の損失に加え、さらに経済的な問題が加わる。乾燥肥料の製造では、土壌条件などによって植物に有毒な窒素性副生成物、すなわちビウレットの問題に対処できない。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、上述した問題の少なくともいくつかを克服し、セルロースカルバメートを製造する方法を提供することである。この方法は、セルロースと尿素とを混合し、形成された混合物を反応させてセルロースカルバメートを形成することを含む。
【0008】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的な実施形態は従属請求項に定義されている。
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、セルロース原料を提供するステップと、尿素を提供するステップと、セルロースと尿素とを混合して混合物を提供するステップと、混合物を350mbar(a)以下の減圧にかけるステップと、混合物を130~150℃の温度に加熱してセルロースを尿素と反応させてセルロースカルバメートを形成させるステップと、圧力を解放するステップと、セルロースカルバメートを回収するステップと、セルロースカルバメートを水で洗浄して水溶性窒素化合物を除去するステップとを含み、水溶性窒素化合物がセルロースカルバメートおよび水溶性窒素化合物の総重量の最大12%、好ましくは6%以下を占める、水相中でセルロースカルバメートを製造する方法が提供される。
【0010】
本発明によって、かなりの利点が得られる。本発明は、セルロースカルバメートの製造方法を提供する。本発明によって、驚くべきことに、紡糸ドープに使用するのに適した高品質のセルロースカルバメートを、減圧下で経済的かつ信頼性の高い方法で高収率で製造できることが見出された。また、驚くべきことに、ビウレットおよびカルバミン酸アンモニウムのような望ましくない窒素性副生成物の形成が、本発明によって最小限に抑えられることも見出された。望ましくない副生成物の形成が最小化されるので、より多くの尿素をプロセスにリサイクルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】温度に対するパーセンテージとして尿素の量をプロットしたグラフであり、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従って、130~150℃の範囲の温度で250mbar(a)の減圧下でのカルバメート化プロセスにおける未反応洗浄画分中に存在する尿素の量を示す。
図2】温度に対するパーセンテージとしてビウレットの量をプロットしたグラフであり、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従って、130~150℃の範囲の温度で250mbar(a)の減圧下でのカルバメート化プロセスにおける、未反応洗浄画分中に存在するビウレットの量を示す。
図3】温度に対するパーセンテージとして、カルバミン酸アンモニウムなどの尿素およびビウレット以外の窒素化合物の量をプロットしたグラフであり、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従って、130~150℃の範囲の温度で250mbar(a)の減圧下でのカルバメートプロセスにおいて、未反応洗浄画分中に存在する、カルバミン酸アンモニウムなどの尿素およびビウレット以外の窒素化合物の総量を示す。
図4】圧力に対して尿素の量を百分率でプロットしたグラフであり、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従って、500~50mbar(a)の間の減圧下でのカルバメート化プロセスにおける未反応洗浄画分中に存在する尿素の量を示す。
図5】圧力に対するパーセンテージとしてビウレットの量をプロットしたグラフであり、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従って、500~50mbar(a)の間の減圧下でのカルバメート化プロセスにおける未反応洗浄画分中に存在するビウレットの量を示す。
図6】圧力に対するパーセンテージとして、カルバミン酸アンモニウムなどの尿素およびビウレット以外の窒素化合物の量をプロットしたグラフであり、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従って、500~50mbar(a)の間の減圧下でのカルバメートプロセスにおける未反応洗浄画分中に存在する、カルバミン酸アンモニウムなどの、尿素およびビウレット以外の窒素化合物の総量を示す。
図7】カルバメート温度に対するろ過性指数(K)をプロットしたグラフであり、1013mbar(a)の通常の大気圧および250mbar(a)の減圧でのカルバメート化によって調製されたドープの品質を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
「高コンシステンシー・パルプ」とは、5wt%より多いセルロースの固形分含量と液体とを含み、典型的には20wt%より多いセルロースの固形分含量と液体とを含むものである。
【0013】
「エクストラ・ハイ・コンシステンシー・パルプ」とは、セルロースの固形分含量が20wt%より多く、自由水を放出しない液体のパルプである。
【0014】
セルロースとは、本発明の実施形態の目的のために、木材種または非木材種およびそれらの混合物から調製される化学パルプまたは溶解パルプからなる群から選択されるセルロース源を含む、カルバメート化に適したセルロース系材料を意味し、木材種は、マツ、トウヒ、シラカバ、ブナ、アスペン、カエデ、カラマツ、アカシア、ユーカリ、ヘムロック、ツペロ、およびオークなどであり、非木材種は、茎繊維(小麦わら、稲わら、大麦わら、竹、バガス、および葦)などである。原料の起源は、化学パルプおよび/または溶解パルプの未使用形態、および/または化学パルプまたは溶解型パルプを含む古紙および/または段ボールのような再生原料のいずれかである。さらに、セルロースには、セルロース系天然植物繊維およびそれらの混合物が含まれ、そのまま、または化学パルプおよび/もしくは溶解パルプの形態で、あるいは綿廃パルプのような溶解型パルプがセルロースの供給源となる。天然植物繊維の起源は、未使用形態および/または天然植物繊維含有繊維製品および/または再生天然繊維含有繊維製品であり得る。天然植物繊維には、綿、カポックなどの種子繊維、麻、ジュート、ケナフ、ラミー、アバカ、リネン(亜麻)などの靭皮繊維、マニラ、サイザル麻、アナナス、バナナなどの葉繊維、コアーなどの果実繊維およびそれらの混合物が含まれる。
【0015】
本発明は、セルロースカルバメートを製造する方法に関する。実施形態によって、驚くべきことに、未反応尿素を含む流れ中の望ましくない窒素性副生成物の量が最小化され、それによって、未反応尿素が回収されるかまたはさらなる処理に向けられる前にそれらを除去する必要性が緩和または低減されることが見出された。いくつかの窒素性副生成物は、選択された合成方法に関係なく、カルバメート化反応で形成される。そのため、副生成物またはその他の不純物がプロセス中に蓄積する。
【0016】
図1は、250mbar(a)で実施されたカルバメート化プロセスにおいて、未反応洗浄液中に存在する割合として計算された尿素の量を示すグラフである。プロセスは130℃、140℃および150℃で実施される。グラフからわかるように、未反応洗浄液中に存在する尿素の割合は、未反応洗浄液の全重量に対する百分率として示され、カルバメート処理中に適用される温度が高くなるにつれて減少する。未反応洗浄液中の尿素の割合が減少するにつれて、未反応洗浄液中のビウレットおよびカルバミン酸アンモニウムのような他の窒素性副生成物のような望ましくない副生成物の量が増加することになる。
【0017】
図2は、250mbar(a)で実施されたカルバメート化プロセスにおける未反応洗浄液中に存在する割合として計算されたビウレットの量を示すグラフである。プロセスは、130℃、140℃および150℃で実施される。グラフから分かるように、未反応洗浄液中に存在するビウレットの割合は、未反応洗浄液の全重量に対する百分率として示され、カルバメート化プロセス中の温度が上昇するにつれて増加する、すなわち、カルバメート化がより高い温度で実施される場合、より多くの望ましくないビウレットが生成される。
【0018】
図3は、250mbar(a)で実施されたカルバメート化プロセス中における未反応洗浄液中に存在する割合として計算された、尿素およびビウレット以外の窒素化合物、たとえばカルバミン酸アンモニウムのような副生成物の総量を示すグラフである。各プロセスは130℃、140℃、150℃で行われる。グラフからわかるように、未反応洗浄液中に存在するカルバミン酸アンモニウムのような他の窒素性副生成物の割合は、未反応洗浄液の全重量に対する百分率として示され、カルバメート化プロセス中の温度が上昇するにつれて増加する、すなわち、カルバメート化がより高い温度で実施されると、カルバミン酸アンモニウムのようなより望ましくない窒素性副生成物が増加する。
【0019】
図4は、圧力に対してプロットされた、カルバメート化処理における未反応洗浄液中に存在する百分率として計算された尿素の量を示すグラフである。グラフから分かるように、未反応洗浄液の全重量に対する百分率として示される、未反応洗浄液中に存在する尿素の割合は、カルバメート化プロセス中の圧力が低下するにつれて増加する。未反応洗浄液中の尿素の割合が増加するにつれて、未反応洗浄液中の、ビウレット、およびカルバミン酸アンモニウムのような他の窒素性副生成物など、望ましくない副生成物の量が減少することになる。
【0020】
図5は、圧力に対してプロットされた、カルバメート化プロセスにおける未反応洗浄液中に存在する百分率として計算されたビウレットの量を示すグラフである。グラフから分かるように、未反応洗浄液の全重量に対する百分率として示される、未反応洗浄液中に存在するビウレットの割合は、カルバメート化プロセス中の圧力が低下するにつれて減少する、すなわち、カルバメート化がより低い圧力で実施される場合、望ましくないビウレットの生成はより少ない。
【0021】
図6は、圧力に対してプロットされた、カルバメート化プロセスにおける未反応洗浄液中に存在する割合として計算された、尿素およびビウレット以外の窒素化合物、たとえばカルバミン酸アンモニウムのような副生成物の総量を示すグラフである。グラフからわかるように、未反応洗浄液中に存在するカルバミン酸アンモニウムのような他の窒素性副生成物の割合は、未反応洗浄液の全重量に対するパーセンテージとして示され、カルバメート化プロセス中の圧力が低下するにつれて減少する。
【0022】
図7は、常圧1013mbar(a)および減圧250mbar(a)で調製したセルロースカルバメートドープの、130~150℃の範囲の温度におけるろ過性を示すグラフである。粘度補正K値に相当するK指数は、セルロースカルバメート溶液のろ過性を示す。この値が低いほど、回収されたセルロースカルバメート溶液中に見られる、10μmを超える大きさを有するフィルター目詰まり性未反応粒子の量が少ないことを意味する。見てわかるように、250mbar(a)の減圧下でカルバメート化によって調製されたドープのろ過性は、この範囲のすべての温度で安定したままであるのに対し、通常の大気圧下でカルバメート化によって製造されたドープの品質は、140℃を超える温度で調製されると著しく悪化する。
【0023】
上述したように、本技術は、セルロースカルバメートを製造する方法に関する。一実施形態において、セルロースカルバメートを製造する方法は、a)セルロース原料を提供するステップ;b)尿素を提供するステップ;c)セルロースおよび尿素を混合して混合物を提供するステップ;d)混合物を350mbar(a)以下の減圧に供するステップ;e)混合物を130~150℃の温度に加熱して、セルロースを尿素と反応させてセルロースカルバメートを形成させるステップ;f)圧力を解放するステップ;およびg)セルロースカルバメートを回収するステップ;およびh)セルロースカルバメートを水で洗浄して水溶性窒素化合物を除去するステップであって、水溶性窒素化合物がセルロースカルバメートおよび水溶性窒素化合物の合計重量の最大12%、好ましくは6%以下を占めるステップ、を含む。
【0024】
セルロースカルバメートは、通常、水相で製造され、典型的には、特別に高いコンシステンシーのセルロースパルプまたはセルロース媒体を加工することによって製造される。セルロースと尿素との反応では、反応媒体として有機溶媒は使用されない。したがって、一実施形態では尿素は水溶液として提供される。尿素が添加され、尿素とセルロースとの接触が液体アンモニアの非存在下で行われる。
【0025】
実施形態に従った、カルバメート化に適したセルロース系材料の範囲は多様であり、一実施形態では、木材種または非木材種およびそれらの混合物から調製される化学パルプまたは溶解パルプからなる群から選択されるセルロース源を含み、木材種は、マツ、トウヒ、シラカバ、ブナ、アスペン、カエデ、カラマツ、アカシア、ユーカリ、ヘムロック、ツペロ、およびオークなどであり、非木材種は、茎繊維(小麦わら、稲わら、大麦わら、竹、バガス、および葦)などである。原料の起源は、化学パルプおよび/または溶解パルプの未使用形態、および/または化学パルプまたは溶解型パルプを含む古紙および/または段ボールなどの再生原料のいずれかである。
【0026】
さらなる実施形態では、天然植物繊維およびその混合物は、そのままで、または化学パルプおよび/または溶解パルプの形態で、セルロースの供給源を提供する。天然植物繊維の起源は、それらの未使用形態および/または天然植物繊維含有繊維製品および/または再生天然繊維含有繊維製品であり得る。天然植物繊維には、綿、カポックなどの種子繊維;麻、ジュート、ケナフ、ラミー、アバカ、リネン(亜麻)などの靭皮繊維、マニラ、サイザル麻、アナナス、バナナなどの葉繊維、コアーなどの果実繊維およびそれらの混合物が含まれる。
【0027】
混合物を350mbar(a)以下の減圧に付すことによって、未反応尿素と、ビウレットのような望ましくない窒素性副生成物およびカルバミン酸アンモニウムのような他の窒素性副生成物の最小量のみを含む流れから回収可能な高品質のセルロースカルバメート生成物が得られることが見出された。好ましくは、未反応尿素はプロセスのステップb)にリサイクルされ、ステップc)の前に任意に新鮮な尿素と混合され、それによって尿素の使用に関するプロセスの効率が改善される。
【0028】
さらなる実施形態では、混合物は130~140℃、特に135±3℃で60~240分間、好ましくは120~180分間、好適には150分間加熱される。混合物を加熱するための好ましい範囲は130~135℃の範囲であり、これは反応の効率と原料およびエネルギーの使用とのバランスをとるために最適である。
【0029】
一実施形態では、セルロースと尿素との混合物は、減圧での加熱中に任意に不活性ガスでフラッシングされ、セルロースカルバメートを形成する。好ましくは、不活性ガスは窒素ガスである。不活性ガスによるフラッシングは、反応容器または反応ゾーンに存在する酸素の量をさらに減少させ、それによって反応器または反応器が位置するプラントにおける爆発の可能性を減少させる。
【0030】
さらなる実施形態では、圧力は、セルロースと尿素との反応の完了後に解放され、それによってセルロースカルバメートが形成される。好ましくは、これによって、反応器からセルロースカルバメートを最も容易に回収することができる。セルロースと尿素との反応によってセルロースカルバメートが形成される反応の完全性は、好ましくは、発生または遊離するアンモニアの量を監視することによって確認される。代替的または付加的に、これは、カルバメート反応器から直接採取した試料中の全窒素含有量の減少を測定することによって行うことができる。全窒素含量は、アンモニアが発生または遊離している間に減少する。特に、セルロースに結合した窒素の量を測定することによって、反応の完全性の程度を監視し、決定することができる。反応器から直接採取した試料中の全窒素含量の減少、または水溶性窒素化合物を含まないように洗浄した試料中のセルロース中に結合した窒素の量は、たとえばNIR分光測定によって容易に測定することができる。
【0031】
実施形態によって、本発明に従ったプロセスによって生成されるビウレットの量はかなり低減され、他の窒素性副生成物、たとえばカルバミン酸アンモニウムの生成量はかなり低減されるが、セルロースと尿素との反応によって得られるセルロースカルバメートは、一実施形態では、好ましくは、水で洗浄されて、セルロースカルバメートから、水溶性窒素化合物および非尿素化合物が除去される、ならびに、任意だが、他の水溶性化合物が除去される。一実施形態では、洗浄によって除去される水溶性窒素化合物は、たとえば尿素、ビウレット、カルバミン酸アンモニウム、および尿素の存在下でカルバメート化反応において反応したセルロースポリマーの分解生成物である。さらなる実施形態では、有機物、たとえばセルロースポリマーの分解生成物および無機物、たとえば1価、2価および多価の陽イオンおよび陰イオン、たとえば塩化物、硫酸塩および炭酸塩を含む他の水溶性化合物。好ましい実施形態では、水溶性非ガス状窒素化合物および非尿素化合物、ならびに任意に他の水溶性化合物、好ましくは水溶性有機物および水溶性無機物は、セルロースカルバメートから別々に回収され、水溶液の形態で回収される。特定の実施形態では、非尿素化合物、好ましくは非尿素化合物の大部分が水溶液から分離され、好ましくは、水溶液中の尿素を実施形態のステップb)にリサイクルすることができる。
【0032】
水溶液から非尿素化合物を分離する種々の方法は、本技術の実施形態に適している。好ましい実施形態では、非尿素化合物の分離は、イオン交換、膜ろ過、電気透析および晶析からなる群から分離方法を選択することによって行われる。さらなる実施形態では、晶析は、遠心分離またはろ過によって続く。膜ろ過には、たとえばナノろ過および逆浸透が含まれる。
【0033】
上述のように、生成されるビウレットの量は、好ましくは、各実施形態によって低減される。同様に、他の窒素性副生成物の量は、好ましくは、低減され、特に、他の窒素性副生成物の量は、いくつかの実施形態において最小化される。一実施形態では、反応ステップf)の後、固体の水溶性窒素化合物は、セルロースカルバメートおよび水溶性窒素化合物の総重量に対して多くても12%、好ましくは6%以下を占める。反応で放出されたガス状アンモニアは蒸発し、混合物中には固体の水溶性窒素化合物のみが残る。各実施形態において窒素化合物とは、未反応の尿素およびビウレットなどの非尿素化合物を意味する。
【0034】
セルロースカルバメートから回収された2価および多価の金属イオンのような水溶性物質は、尿素をステップbにリサイクルする前に除去しなければ、プロセス中に蓄積する。実施形態では、可溶性の形態で尿素および非尿素化合物を含む洗浄濾液は回収され、好ましくは、たとえば適切なカラムに充填されたイオン交換樹脂、好ましくは陽イオン交換樹脂タイプ、より好適には強酸性陽イオン交換樹脂タイプ、最も好適にはAmberlite SR1L NAを含むイオン交換樹脂を通して溶出される。好ましい実施形態では、ろ液を陽イオン交換樹脂を通して溶出し、ろ液から二価およびまたは多価陽イオン、好適にはカルシウムイオンおよび任意にマグネシウムイオンを除去し、それによって溶出液を提供する。溶出液中の二価および多価陽イオンの量はごくわずかである。一実施形態では、洗浄ろ液供給は、選択された陽イオン交換樹脂タイプ1kg当たり2~75dm3/kg/h、好ましくは5~25dm3/kg/hの間で好適に変化させた速度で溶出された。陽イオン交換処理は、洗浄ろ液供給において、ナトリウムイオンのような一価陽イオンの存在下で行うことができる。一実施形態では、洗浄ろ液は、最大3000mg/dm3、より好適には最大600mg/dm3のナトリウムイオンを含む。さらなる実施形態では、供給温度は5~80℃、好ましくは25~45℃である。
【0035】
セルロースカルバメートから回収される二価および多価金属イオンのような水溶性物質に加えて、ナトリウムイオンのような一価イオン、塩化物、硫酸塩および炭酸塩のような水溶性陰イオン、並びにセルロースポリマーの水溶性有機分解生成物も、回収された洗浄ろ液中に存在し得、これらは、尿素をステップbにリサイクルする前に除去されなければ、プロセス中に蓄積する。一実施形態では、イオン交換処理から得られた溶出液は、好ましくは膜ろ過によって処理され、一価イオン、陰イオン、セルロースポリマーの溶解分解生成物、および好ましくはナトリウムおよびアンモニウムカルバメートなどの他の窒素化合物、および尿素の存在下でカルバメート化反応において反応したセルロースポリマーの分解生成物のほとんどを、尿素およびビウレットから分離するのに適している。特定の実施形態では、膜ろ過は、好適には膜孔径<1000Da、好ましくは100~400Daのスパイラル巻きイオン選択性タイプの膜を用いて実施される。一実施形態では、供給圧力は1.0~80bar(g)、より好適には5~45bar(g)、好適には4.0~20bar(g)である。4と20bar(g)との間である。さらなる実施形態では、供給温度は10~70℃、好適には25~45℃である。実施形態において、イオン交換処理溶液の少なくとも一部は透過液として回収され、好適には、イオン交換処理溶液の60%より多く、好適には80%より多くが透過液として回収され、またはイオン交換処理溶液の体積画分が、透過液およびイオン交換処理溶液の第二部分として回収され、または残りの体積画分、好適には<40%、好ましくは<20%が、濃縮液として回収される。一実施形態では、濃縮物は、尿素およびビウレットの回収収率を増加させるために、二重ろ過され、たとえば、水で希釈され、さらに濃縮される。さらなる実施形態では、二重ろ過された透過液は透過液と混合されるか、あるいはイオン交換処理された溶出液フィードと混合される。溶出液フィードの色と回収された透過液の色は、セルロースポリマーの可溶性分解物と、尿素存在下でのカルバメート化反応で反応したセルロースポリマーの分解物の存在を示す。膜ろ過から回収された透過液は、通常、視覚的には無色であることがわかった。あるいは、430nmで分光光度計により色を測定することもできる。
【0036】
さらなる実施形態では、イオン交換処理された溶出液の脱塩は、電気透析によって行われる。溶出液中の無機塩の量は、電気透析処理によって軽減される。
【0037】
さらなる実施形態では、膜ろ過ステップから得られた透過液は、濃縮され、好ましくは、約0.1重量%の全溶解固形分から蒸発により約70重量%の全溶解固形分含量まで濃縮される。
【0038】
さらなる実施形態は、蒸発した濃縮物からのビウレットの除去、特にビウレット結晶化による除去に関する。一実施形態では、蒸発した濃縮物は、その後好適には5~50℃、好ましくは15~30℃まで、好ましくは連続的に攪拌しながら冷却され、それによって沈殿物が得られる。
【0039】
実施形態では、得られた沈殿物は、母液からろ過または遠心分離される。好ましい実施形態では、未洗浄の沈殿物は60~95重量%のビウレットを含み、典型的には75重量%以上のビウレットを含む(分析法:ビウレットは酒石酸カリウムナトリウムおよびCu2+イオンと錯体とを形成し、これは規則(EC)No2003/2003に公表された方法に従って546nmで分光光度計によって定量的に測定されるか、あるいはHPLC法によって測定される)。ビウレットの大部分は、ビウレットに富む沈殿物中に見出される。一実施形態では、ビウレットの総量の80~95%、特に90%以上が、ビウレットに富む沈殿物中に存在する。さらなる実施形態では、ビウレットの総量の5~20%、好適には10%以下が母液中に見出された。母液中の、尿素:ビウレット比は、好ましくは、25:1より良好であり、好適には、30:1より良好である。さらなる実施形態において、ろ過または遠心分離されたビウレットに富む沈殿物は、好適には、回収された沈殿物のビウレット含有量をさらに増加させ、尿素含有量を減少させるために洗浄され得る。沈殿物の洗浄は、好適には、遠心分離機中またはフィルター装置中で行うことができる。洗浄水は蒸発にリサイクルすることができる。
【0040】
特に好ましい実施形態では、尿素は回収され、好ましくは尿素供給ステップbにリサイクルされ、そこで尿素は好ましくは任意の新鮮な尿素供給と組み合わされる。尿素のこの再利用は、原料の使用を大幅に削減し、それによって環境への負荷を低減し、特に廃水系に流入する窒素の量を低減する。
【0041】
さらなる実施形態は、反応器からのアンモニアの抽出に関する。実施形態において、セルロースと尿素との間の反応中に放出されたアンモニアは、別個に、好ましくは連続的に取り出される。好ましい実施形態では、アンモニアは、真空ポンプによって反応器から回収され、その後の水への吸収によって回収され、任意に酸と直接反応させて、使用される酸のアンモニウム塩、たとえば硫酸アンモニウムを形成するために硫酸と反応させる。さらなる実施形態では、不活性ガス流、たとえば窒素流を反応器に注入することによって、アンモニア回収が促進される。水中のアンモニア溶液は、通常、最大約33重量%のアンモニア溶液、好ましくは25重量%のアンモニア溶液の濃度を有する。気体アンモニアは、任意に他の統合プロセスに導くか、または凝縮して液体アンモニアにすることができる。アンモニアと酸との塩、たとえば硫酸アンモニウムは、通常、水中の飽和溶液として回収されるか、あるいはさらに結晶化され、固体形態の水和塩または脱水塩となる。
【0042】
上述のように、混合物がかけられる圧力は好ましくは350mbar(a)以下である。一実施形態では、混合物は300mbar(a)以下の圧力、特に10mbar(a)から250mbar(a)未満の圧力、たとえば50~200mbar(a)の圧力にかけられる。好ましい実施形態では、ステップc)で得られた混合物は、混合物から水を除去する中間ステップを経ることなく、ステップd)で減圧に付される。好ましくは、混合物から水を除去する中間ステップを省くことで、プロセスの複雑さが軽減される。減圧の使用は、カルバメート化反応の初期段階におけるセルロースと尿素との混合物からの残留遊離水の除去に寄与する。
【0043】
実施形態において上述したように、カルバメート化反応後、圧力は解放される。特定の実施形態では、圧力はステップf)で常圧になるように解放される。
【0044】
実施形態では、セルロースと尿素との混合物を形成する間に、セルロースと尿素とを機械的加工に付す。機械的加工は、好ましくは、セルロース系繊維の尿素への接近性を変化させ、それによって、たとえば、カルバメート化反応の収率を向上させ、特に、カルバメート化反応から回収されるセルロースカルバメートの均質性を向上させる。さらなる実施形態において、機械的作業は、機械的混合装置、特に連続機械的混合装置においてせん断混合するステップを含む。本発明の実施形態では、様々な混合装置を採用することができる。実施形態において、機械的混合装置は、ナイフミル、ハンマーミル、ボールミル、ディスク型ミル、ペレットプレスおよび押出機からなる群から選択される。好ましい実施形態において、機械的装置はペレットプレス、たとえばKahlプレスである。本明細書に記載されるようなセルロース系材料の機械的混合に適した他のペレットプレスも、本発明の実施形態における使用に同様に適している。
【0045】
さらなる実施形態では、混合物は、ステップd)およびe)の間、カルバメート化水素化反応が完了するまで連続的に混合される。好適には、連続混合は、カルバメート化反応を完了まで促進する。最適化された連続混合は、カルバメート化反応中にセルロース-尿素混合物から遊離アンモニアを追い出すのに寄与する。連続混合は同時に、カルバメート化反応中の反応器の高温表面とセルロース-尿素混合物との間の長時間の接触を防止することにも寄与する。反応器内でセルロース-尿素混合物の接触が起こったとしても、使用される減圧が、セルロースと尿素との化学反応速度と副反応で生成する副生成物の速度とのバランスをとる。
【0046】
実施形態では、水相中のセルロースと尿素との混合物は、組成物の少なくとも25重量%、好ましくは組成物の少なくとも50重量%、好適には組成物の少なくとも65重量%、特に混合物の最大75重量%、最も好ましくは混合物の71重量%または72重量%または73重量%または74重量%の水中初期固形分を含む。低コンシステンシーセルロース媒体またはセルロースパルプと比較して、これらのような超高コンシステンシーセルロース媒体またはセルロースパルプの機械的加工は、繊維細胞壁のラメラの改良された転位を提供し、混合物またはパルプ中の分子レベルでの尿素のような化学物質の吸収の改善につながる。混合物の初期固形分含量が少なくとも25wt%であれば、セルロースの効率的な取り扱いが保証される、すなわち、セルロース壁に十分なせん断力が作用し、セルロース壁が効果的に破壊され、セルロース繊維が溶剤や化学薬品に接触しやすくなる。セルロースの最良の取り扱いは、初期固形分含量が混合物の少なくとも50重量%、好ましくは初期固形分含量が混合物の50重量%以上、たとえば混合物の50重量%以上、たとえば混合物の51重量%、混合物の52重量%またはたとえば混合物の55重量%、好適には混合物の少なくとも65重量%、特に混合物の75重量%まで、最も好ましくは混合物の71重量%または72重量%または73重量%または74重量%である場合に生じる。
【0047】
一実施形態では、セルロース原料と尿素とから形成される混合物は、50重量%を超える、特に60重量%を超える、典型的には約65~95重量%の乾物含量を有する。
【0048】
セルロース原料は、所望の水分レベルで提供することができ、水性スラリーとして提供する場合には、所望のコンシステンシーで提供することができる。任意の前処理の後、水性スラリーとして提供される場合のセルロース原料のコンシステンシーは、脱水または乾燥によって高めることができる。脱水または乾燥ステップは、尿素との混合前、または好ましくは混合後に実施することができる。
【0049】
アルカリ性pHは、原料の供給源に関係なく、セルロースの繊維化または尿素との反応性の向上に有益である。一実施形態では、いくつかのアルカリは、典型的には、ステップcに供給するために脱水される前にセルロース媒体と混合されることが必要である。あるいは、アルカリは、脱水ステップ中に、または脱水後に、たとえば、ステップcに混合物を供給する前にセルロース媒体にアルカリ溶液を吸引させることによって添加することができる。アルカリ化セルロース媒体のpHは、10gのアルカリ化脱水セルロース媒体を100gの水に静置または抽出し、得られた水抽出液または水溶液のpHを測定することによって測定される液体のpHに相当する。液体の好ましいpHを達成するために、典型的には乾燥セルロース1kg当たり1~15gのアルカリを添加する。アルカリは、アルカリ金属水酸化物もしくは炭酸塩またはそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。好ましくは、アルカリは水酸化ナトリウムである。セルロース原料の調製と前記原料のカルバメート化のための統合ユニットの場合、セルロース媒体のpHは、原料調製の最新のプロセス段階ですでにカルバメート化プロセスに好ましいレベルに調整することができる。
【0050】
別の実施形態では、セルロース媒体は、アルカリを加えることなく脱水され、機械的に処理される。
【0051】
一実施形態では、ステップaのセルロース原料は、DP250~800、好ましくはDP270~400の重合度(DP)を有する。DP250の重合度の値は、ISO 5351による197ml/gの固有粘度に相当する。さらに、綿由来原料のような天然繊維由来のセルロース原料の場合、または化学パルプ原料もしくは溶解型パルプ原料の場合、DPの調整は、DP270~400の好ましい範囲より高い場合、一実施形態では、過酸化水素または他のペルオキソ化合物を使用して実施することができる。セルロース系原料の場合、DPの調整は、一実施形態では、過酸化水素または他のペルオキソ化合物を用いて実施される。別の実施形態では、DPの調整は、鉱酸、有機酸などの酸、または酸の組み合わせを使用して実施される。DPを調整するための酸としては、硫酸を採用することができる。供給原料の最適な分子量分布のためには、セルロース供給原料の調製に酸処理によるDP調整を含めるか、またはステップcでセルロースと尿素とを混合する前に供給原料を酸処理することが有益である。
【0052】
ステップcでは、好ましくは乾燥セルロースパルプの重量に対して11~22%の尿素を添加する。
【0053】
一実施形態では、ステップgで回収され、洗浄され、乾燥されたセルロースカルバメートは、DP200~DP400、特に約DP250以上の重合度(DP)を有する。重合度DP250の値は、197ml/gの固有粘度に相当する。
【0054】
一実施形態では、ステップgで回収され、洗浄され、乾燥されたセルロースカルバメートは、0.1~0.3、特に約0.25以下の置換度(DS)を有する。溶解後、セルロースカルバメートのDSはわずかに減少する。セルロースカルバメートの置換度は、SFS 5505:1988に従った全窒素含有量測定によって決定される。置換度0.24は、セルロースカルバメートの絶対乾燥水不溶性画分あたり2.0%の全窒素含量に相当する。
【0055】
一実施形態では、ステップgで回収され、洗浄され、乾燥されたセルロースカルバメートは、既知量のセルロースカルバメートを既知量の熱水で抽出し、ろ過後の水抽出物中の溶解固体含量を測定することによって重量測定で決定される、水不溶解性物質の量(%)=100%-水可溶解性物質(%)である水不溶解性物質の含量として、典型的には少なくとも99.0%、好適には少なくとも99.2%、好ましくは少なくとも99.5%、を有する。
【0056】
一実施形態では、ステップgで回収され、洗浄され、任意に乾燥されたセルロースカルバメートは、繊維のステープル繊維またはフィラメント、不織繊維、フィルム、スポンジおよびケーシングの製造のための原料として使用することができる。
【0057】
次に、実施形態を以下の例によって説明する。
【0058】
実施例
実施例1:混合反応器での減圧下バッチカルバメート化
413の重合度(DP)(修正ISO 5351に従ってCED粘度として決定される)を有するセルロースカルバメート製造に使用するのに適したセルロースパルプ原料を、再生綿繊維廃棄物から調製した。パルプ調製プロセスは、フィンランド特許出願第FI20205250号に記載されているように実施した。
【0059】
セルロースカルバメートはレーディゲ型混合反応器で製造した。再生綿繊維廃棄物から調製したパルプを、真空条件下で、空気乾燥セルロース材料1kg当たり6gの量の水酸化ナトリウムの存在下で、混合物の乾物含量が約85重量%になるまで脱水した。アルカリ処理物の液のpH値は、100gの水に10gの脱水物を静置して測定し、測定された水溶液のpH値は10.5であった。過酸化水素(乾燥セルロースパルプ重量に対して0.24%のH2O2)を尿素水溶液(乾燥セルロースパルプ重量に対して18.5%の尿素)と混合し、混合物をパルプに添加した。尿素水溶液と過酸化水素との添加後、得られたセルロース-尿素-水酸化ナトリウム混合物の乾物含量は、混合物の重量に対して72±2%であり、柔軟な機械的処理が容易であった。機械的前処理は、ペレットプレス型連続機械混合装置でせん断混合することによって、6回(6)連続して行った。
【0060】
機械的に前処理したパルプ、尿素、過酸化水素および水の混合物を混合反応器に戻した。この混合物を350mbar(a)の減圧にかけ、連続的に混合し、同時に減圧および昇温下で窒素ガスでフラッシングしてセルロースカルバメートを形成させた。温度が133℃に達した時点でカルバメート化反応時間の計算を開始し、約135℃まで昇温して実際のカルバメート化反応を行った。目標初期温度133℃到達後の総反応時間は180分であった。カルバメート化反応中に放出されたアンモニアガスは水中で洗浄され、アンモニア水(水酸化アンモニウム水溶液として)として回収された。
【0061】
ペレットプレス装置によって得られたペレット状の混合物をカルバメート化した後、セルロースカルバメートペレットを粉砕した。粉砕された粉末状のセルロースカルバメートは、可溶性窒素化合物を除去するために水で洗浄された。洗浄手順は、粉砕したセルロースカルバメートを50℃の水中でスラリー化することによって行い、スラリーは約10重量%のセルロースカルバメートを含んでいた。セルロースカルバメートスラリーをフィルタープレス装置に送り込み、水溶性窒素化合物および非尿素化合物の大部分を含むろ液を圧搾した。ろ液は、未反応の尿素を再利用し、反応副生成物の大部分を分離するために回収した。
【0062】
洗浄したセルロースカルバメートを約54重量%の乾物含量で回収し、その後130℃以下の温度で乾燥した。セルロースカルバメートの重合度はDP268(ISO 5351に従ってCED粘度として決定)、置換度は0.19(SFS5505:1988に従って全窒素含量として決定)、水不溶性物質の含量は99.2%(既知量のセルロースカルバメートを既知量の熱水で抽出し、ろ過後の水抽出液中の溶存固形分含量を測定することによって重量法で決定、水不溶性物質量(%)=100%-水可溶分(%))であり、洗浄・乾燥したセルロースカルバメート試料で測定した。
【0063】
セルロースカルバメートの溶解は、フィンランド特許出願第FI20206386号に記載されているように行った。
【0064】
セルロースカルバメート繊維湿式紡糸のために、得られたセルロースカルバメート溶液は、その後、第2のろ過段階で15μmのフィルター媒体を使用する2段階バックフラッシュろ過プロセスを使用してろ過された。ろ過され脱気されたセルロースカルバメートドープの湿式紡糸は、たとえば硫酸ナトリウムおよび遊離硫酸を含むセルロースカルバメートプロセスに最適化されたスピン浴を用いて実施した。ファイバーサンプリング時のゴデット延伸応力は、ホットバス延伸条件下で73~80%であった。得られたフィラメントの繊度は1.3dtexであった。フィラメントサンプルから測定された繊維の破断強力は22cN/texより大きかった(SFS-EN ISO 5079)。
【0065】
実施例2:未反応尿素の再利用、セルロースカルバメート洗浄ろ液からの有機カルバメート反応副生成物および無機塩の分離
実施例1で説明したフィルタープレスから、カルバメート化反応から回収したセルロースカルバメート250kgに相当する、脱塩水2.5mに懸濁した洗浄ろ液1mを得た。イオン交換処理として、36kgの陽イオン交換樹脂タイプのAmberlite SR1L NAを充填したイオン交換カラムを通して、約500dm3/hの速度でろ液を溶出し、ろ液からカルシウムイオンとマグネシウムイオンを除去した。
【0066】
【表1】
【0067】
イオン交換処理から得られた溶出液は、その後、膜ろ過によって処理され、尿素およびビウレットから、一価イオン、およびナトリウムおよびアンモニウムカルバメートなどの他のほとんどの窒素化合物を分離した。膜ろ過は、空隙率200Daのイオン選択性膜を用い、溶液を膜に通して濃縮液として供給容器に戻す循環方式で行った。供給速度は440~700dm3/h、供給圧力は12.0~13.7bar(g)の間で変化させた。イオン交換処理溶液の87%は透過液として回収され、残りの13%は濃縮液として回収された。
【0068】
【表2】
【0069】
膜ろ過ステップから得られた透過液は、その後、蒸発によって全溶解固形分含量0.5重量%から60重量%まで濃縮された。
【0070】
その後、蒸発した濃縮物を、連続的に攪拌しながら、高温の濃縮物を約25℃まで冷却することによって、ビウレット結晶化処理を行った。得られた沈殿物を母液からろ過した。未洗浄の沈殿物には77重量%のビウレットが含まれていた(分析方法:ビウレットは酒石酸ナトリウムカリウムとCu2+イオンと複合体を形成し、これは規則(EC)No2003/2003に公表されている方法に従って546nmの分光光度計で定量的に測定されるか、あるいはHPLC法で測定される)。ビウレットの総量の8%は母液中に検出され、残りの92%はビウレットに富む沈殿物中に検出された。母液中の尿素:ビウレット比は、30:1であった。
【0071】
実施例3:減圧下でのカルバメート
セルロースパルプ原料を、実施例1に記載した手順に従って処理した。セルロースと尿素とのアルカリ性混合物をペレットの形態で機械的混合装置から回収した。
【0072】
ペレットバッチを、500gずつ6等分した。各ペレット部分を別々にステンレス鋼の調理鍋に約1cmの薄い層として広げた。クッキングパン中の各部分を、真空オーブン中で以下の条件で別々にカルバメート化した。1)130℃、250mbar(a)で180分間、2)140℃、250mbar(a)で180分間、3)150℃、250mbar(a)で180分間、4)135℃、500mbar(a)で180分間、5)135℃、150mbar(a)で180分間、6)135℃、50mbar(a)で180分間。試験No.1~4は、窒素フラッシング下で実施され、試験No.5~6は、窒素フラッシングで実施した。
【0073】
得られたセルロースカルバメートペレットを回収し、粉砕した。粉末状の原料は、以下のようにして水溶性窒素化合物を除去した。含水率既知のセルロースカルバメート約25gを1000ml容フラスコに正確に量り取り、沸騰脱塩水約800mlを加え、セルロースカルバメートから水溶性化合物を水溶液中に抽出した。セルロースカルバメートの水スラリーを、冷却し、20℃に調整した。メスフラスコに脱塩水を(1000ml)の印まで満たした。セルロースカルバメートスラリーをメスフラスコ内で沈降させた。溶液の一部を採取し、未溶解の粒子がないようにろ過した。ろ液中の尿素およびビウレット含量をHPLC法によって選択的に測定し、全窒素含量をSFS 5505:1988によって測定した。水溶液中の水溶性化合物の総量は、水溶液のアリコート部分を蒸発させて重量測定した。HPLC分析に基づき、尿素と窒素とを化学量論的に窒素に換算し、全窒素含有量から尿素とビウレット窒素とを差し引いて、尿素とビウレットとを除くその他の窒素化合物の含有量を算出した。これらの結果は、回収されたセルロースカルバメートの水溶性画分中の尿素、ビウレットおよびその他の窒素化合物の割合として計算された。
【0074】
【表3】
【0075】
開示された本発明の実施形態は、本明細書に開示された特定の構造、プロセス、ステップ、または材料に限定されるものではなく、関連する技術分野における通常の当業者によって認識されるであろうそれらの等価物に拡張されることを理解されたい。 また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のみに使用され、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0076】
本明細書全体を通して、一実施形態または実施形態への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な箇所で「一実施形態では」または「実施形態では」という表現が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。たとえば、約、実質的になどの用語を用いて数値に言及する場合、正確な数値も開示される。
【0077】
本明細書で使用される場合、複数の項目、構造要素、構成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストで示されることがある。しかしながら、これらのリストは、リストの各部材が別個の固有の部材として個々に識別されるものとして解釈されるべきである。したがって、このようなリストの個々の部材は、反対の指示なしに、共通のグループにおけるそれらの提示にのみ基づいて、同じリストの他の部材の事実上の同等物として解釈されるべきではない。さらに、本発明の様々な実施形態および実施例が、その様々な構成要素の代替案とともに本明細書で言及される場合がある。このような実施形態、実施例、および代替案は、互いの事実上の等価物とは解釈されず、本発明の別個の自律的な表現と見なされるべきである。
【0078】
さらに、記載された特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。以下の説明では、本発明の実施形態の十分な理解を提供するために、長さ、幅、形状などの例のような多数の具体的な詳細が提供される。しかしながら、関連技術分野の当業者であれば、本発明は、具体的な詳細の1つ以上がなくても、または他の方法、構成要素、材料などを用いても実施できることを認識するであろう。他の例では、本発明の態様を不明瞭にすることを避けるために、周知の構造、材料、または操作は詳細に示されず、または説明されない。
【0079】
上述の実施例は、1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理を例示するものであるが、形態、使用法および実施の細部における多数の変更が、発明能力を行使することなく、本発明の原理および概念から逸脱することなくなされ得ることは、当業者には明らかであろう。したがって、以下に記載する特許請求の範囲による以外は、本発明を限定することを意図していない。
【0080】
本明細書では、「含む(comprise)」および「有する(include)」という動詞は、引用されていない特徴の存在を除外することも要求することもない開放的な限定として使用される。従属請求項に記載された特徴は、特に明示しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。さらに、本書を通じて「a」または「an」、すなわち単数形の使用は、複数形を排除するものではないことを理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、セルロースカルバメートの製造において、特に、織布および不織布の両方の織物に使用するセルロースカルバメート繊維を紡糸するためのスピンドープの調製に適したセルロースカルバメートの製造において、産業上の応用を見出す
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【文献】フィンランド特許第112869号
【文献】フィンランド特許第112795号
【文献】フィンランド特許第128164号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7