(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】シールド部材のケーブル貫通部構造
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240805BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20240805BHJP
G21F 3/00 20060101ALI20240805BHJP
H01R 13/74 20060101ALI20240805BHJP
H02G 3/22 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H05K9/00 P
H01Q1/52
G21F3/00 P
H01R13/74 Z
H02G3/22
(21)【出願番号】P 2021172962
(22)【出願日】2021-10-22
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 公志
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-111637(JP,A)
【文献】特開2015-225989(JP,A)
【文献】特開平08-125378(JP,A)
【文献】特開平08-162794(JP,A)
【文献】米国特許第04733013(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01Q 1/52
G21F 3/00
H01R 13/74
H02G 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非電導性ケーブルの少なくとも1本の芯線が、遮蔽対象とする電磁波の1/2波長未満の孔径で、かつ前記孔径の6倍以上の厚みのある金属製の貫通孔パネルに開けられた挿通孔に挿通されて
おり、前記貫通孔パネルの両面は、前記芯線を保護する保護カバーで塞がれており、一方の保護カバーは、ケーブルを保持するケーブル保持パネルであり、他方の保護カバーは、前記芯線を保持するコネクターが設置されたコネクター設置パネルであることを特徴とする本発明に係るシールド部材のケーブル貫通部構造。
【請求項2】
請求項1記載のシールド部材のケーブル貫通部構造において、前記貫通孔パネルは、1枚物の板もしくは複数枚重ねで前記孔径の6倍以上の厚みを有することを特徴とするシールド部材のケーブル貫通部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールドルーム等のシールド壁を光ケーブル等の非電導性ケーブルが貫通することによる電磁波漏洩を防止するシールド部材のケーブル貫通部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電磁波を遮蔽する空間(以下、シールド空間)は、金属板など電磁波を遮断する材料から成る部材(以下、シールド部材)にて覆われているが、配管等のように設備の必要上、シールド部材を貫通して設置されることが多い。最近では、シールドルームに光ケーブル等の非電導性ケーブルを引き込む事案も出て来ている。その場合、光ケーブル等のケーブル貫通部における電磁波漏洩を防ぐことが、そのシールド空間のシールド性能を確保する上で極めて重要である。
【0003】
前記のような貫通部において、ケーブルが挿通される金属管が全周アースされてシールド面に取付いている場合、「導波管の原理」によれば、その金属管の内径が遮蔽対象とする電磁波の波長の1/2以下で、かつ減衰に必要な長さとして管内径の6倍を超えていれば、その波長の電磁波は通過できないとされている。例えば、10GHzの電磁波は波長が30mmなので内径が15mm未満の金属管を用いると高いシールド効果が得られる。
【0004】
しかし、周波数が40GHzになると内径は4mm未満にする必要があり、そのような極細の金属管をロウ付けした貫通部金物を製作することは手間がかかる。まして、配線するケーブルの本数が多いと、なお更に大変な労力と手間およびコストがかかるという問題があった。
【0005】
以上のようなシールド部材のケーブル貫通部における電磁波漏洩防止に関連する先行技術としては、例えば、特許文献1がある。特許文献1では、シールドされた部屋の仕切り壁に設けられた貫通孔に筒状の金属管が挿入固定され、シールド層で被覆されたシールドケーブルが前記金属管に挿入され、そのシールドケーブルと前記金属管内面との隙間が金属繊維で充填された、電磁波漏洩防止構造が開示されている。
【0006】
前記シールドケーブルのケーブル芯は電導体であって、そのシールド層が部分除去され露出されたケーブル芯と前記金属管の内面とが、前記金属繊維の充填により電気的に短絡された状態になることにより、10KHz~1000KHz(1MHz)の電磁波に対して75dB以上の減衰率を示す(漏洩防止できる)ことが、実験結果として示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された電磁波漏洩防止構造の性能確認実験は、シールド対象としている電磁波周波数域が10KHz~1000KHz(1MHz)の低周波域範囲での限られた結果でしかなく、しかも、前記電磁波遮蔽材の仕様が明示されておらず、本発明が対象としている40GHzにも及ぶ高周波域での効果の推定は、この分野の技術者であっても、実験データのない1GHz超の領域を、所謂“外挿”で予測することは困難である。また、1GHz超の高周波域におけるシールド性能確保方法についての示唆は皆無であって、なおかつ、本発明は非電導性ケーブルを対象としている。
【0009】
本発明は、シールド空間を覆うシールド部材を非電導性の光ケーブル等が貫通する貫通部において、40GHzにも及ぶ高周波帯の電磁波に対しても漏洩防止効果が高く、かつその製作が容易であるシールド部材のケーブル貫通部構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の手段は、以下のような構造から成る、シールド部材のケーブル貫通部構造である。
【0011】
本発明に係るシールド部材のケーブル貫通部構造は、光ケーブル等の非電導性ケーブルの少なくとも1本の芯線(以下、単に芯線と称す。) が、遮蔽対象とする電磁波の1/2波長未満の孔径で、かつ前記孔径の6倍以上の厚みのある金属製の貫通孔パネルに開けられた挿通孔に挿通されており、前記貫通孔パネルの両面は、前記芯線を保護する保護カバーで塞がれており、一方の保護カバーは、ケーブルを保持するケーブル保持パネルであり、他方の保護カバーは、前記芯線を保持するコネクターが設置されたコネクター設置パネルであることを特徴とするものである。前記挿通孔に挿通される前記芯線の本数は1本、もしくは前記挿通孔に挿通できれば複数本であってもよい。
【0012】
前記貫通孔パネルは、必要厚である前記孔径の6倍以上の厚みを有していれば、1枚物の板もしくは2枚以上の薄板重ねでもよい。重ね板の場合、1枚の板厚が薄いので極細の穴開けが容易である。
【0014】
前記ケーブル貫通ボックスの内外の前記芯線を接続するための前記コネクターは、前記芯線の1本ずつに対応して設けてもよいし、前記芯線を複数本に纏めて集約した束数に合わせて2箇所以上に設置してもよい。
【0015】
以上のようなケーブル貫通部構造なので、遮蔽対象の高周波電磁波は、前記芯線が挿通された前記貫通孔パネルの極細孔部分で遮断されると共に、前記芯線は、前記ケーブル保持パネルとコネクター設置パネルにより保護される。
【0016】
また、前記芯線は、前記ケーブルを挿通する孔径よりも遥かに細い孔に挿通することになるが、比較的薄い金属板に必要数の孔を開けるのみなので、芯線の径に合わせた極細の金属管を1本ずつ取付ける従来の方法よりも極めて製作が容易である。
【0017】
本発明は、以上のような手段によるので、次のような効果が得られる。
(1) 本発明のケーブル貫通部構造は、光ケーブル等のケーブルが貫通するシールド部材から成る壁面において、40GHzにも及ぶ高周波域の電磁波の遮蔽に有効である。
(2) 前記のような高性能のケーブル貫通部を、簡易にかつ低コストに製作できる。
(3) 芯線を挿通する金属板から成る貫通孔パネルの厚さは、極細の芯線の挿通孔径の6倍程度のため薄くて済み、ケーブル保持パネルとコネクター設置パネルが取付いても、コンパクトに納めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施例であり、シールド部材を光ケーブルが貫通するケーブル貫通ボックスの断面図である。
【
図2】
図1のイ-イ断面視であり、光ケーブルをケーブル貫通ボックスに保持するケーブル保持パネルである。
【
図3】
図1のロ-ロ断面視であり、芯線を1本ずつ挿通する孔を開けた金属製の貫通孔パネルである。
【
図4】
図1のハ-ハ断面視であり、芯線を1本ずつ、ケーブル貫通ボックスの内外を接続するコネクター設置パネルである
【
図5】本発明の第2実施例であり、シールド部材を光ケーブルが貫通するケーブル貫通ボックスの断面図である。
【
図6】
図5のハ-ハ断面視であり、ケーブル貫通ボックス内外の芯線を接続するコネクター設置パネルであり、(a)は芯線を全て1箇所纏めた場合、(b)は芯線を2箇所に纏めた場合の例を示す。
【
図7】本発明に係るケーブル貫通ボックスを、シールドルームのシールド壁に設置した1例を示す、シールド建物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1実施例を、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、光ケーブル6がシールド部材1を貫通するケーブル貫通ボックス2の断面図であり、保護被覆付きの光ケーブル6をケーブル貫通ボックス2に保持するケーブル保持パネル3と、芯線6a、6a、…を1本ずつ挿通する挿通孔4a、4a、…を開けた金属製の貫通孔パネル4と、ケーブル貫通ボックス2の内外の芯線6a、6a、…を接続するコネクター5a、5a、…を設置したコネクター設置パネル5と、から成り、貫通孔パネル4がシールド壁のシールド部材1と電気的導通状態にて固定されている。
【0020】
貫通孔パネル4に開けられた挿通孔4a、4a、…は、遮蔽対象とする電磁波の1/2波長未満の孔径であり、貫通孔パネル4の厚さは、挿通孔4a、4a、…の孔径の6倍以上であることが必要である。例えば、周波数が40GHzの時、孔の内径はその1/2波長の3.75mm未満とし、孔の長さはその6倍の22.5mm以上を必要とするので、貫通孔パネル4の厚さは23mm以上となる。
【0021】
例えば、芯線6a、6a、…の直径が1mmであれば、孔の内径は1.5mm程度あれば挿通可能であり、厚さ23mmの金属板を貫通させる芯線6a、6a、…の本数だけ、3.75mm未満の孔を開けることになる。光ケーブル6が100芯を束ねたものであれば、100個の穴開けが必要となる。
【0022】
金属板に極細の孔を開けるためにはドリル歯の径が細くなるが、板厚が厚いとドリル歯が破損し易くなるので、貫通孔パネル4は1枚物ではなく、薄板を複数枚重ねにして個別に穴開けすればドリル歯の破損を避けることができる。但し、重なった薄板の全周縁の隙間は溶接等で封じて、電磁波の漏洩防止措置が必要である。
【0023】
また、挿通孔4a、4a、…の孔径が、遮蔽対象とする電磁波の1/2波長未満の孔径であり、かつ貫通孔パネル4の厚さが、挿通孔4a、4a、…の孔径の6倍以上である限りにおいて、挿通孔4a、4a、…の孔径をより太くすることができ、その場合、前記の100芯ケーブルであっても、穴開けは100個よりも少なくでき、しかも、ドリル歯の径も太くなるため穴開けによる破損を減らすことができる。
【0024】
仮に、従来の考え方に基づき、100芯の光ケーブル6をそのままシールド部材1に貫通させる場合は、その孔径が大きいので、40GHzに対して、挿通孔4a、4a、…を開けられた貫通孔パネル4により得られるのと同等の電磁波遮蔽効果を確保するためには、かなり長い金属の貫通管を通過させる必要があり、設置場所の確保が問題となる。
【0025】
本発明の第2実施例を
図5および
図6に示す。
図5は、シールド部材1を光ケーブル6が貫通するケーブル貫通ボックス2の断面図であり、
図5のイ-イ断面視で示す、保護被覆付きの光ケーブル6を保持するケーブル保持パネル3と、
図5のロ-ロ断面視で示す、芯線6a、6a、…を1本ずつ挿通する挿通孔4a、4a、…を開けた金属製の貫通孔パネル4は、第1実施例と同じである。
【0026】
第2実施例は、
図5のハ-ハ断面視である
図6(a)、(b)に図示のように、ケーブル貫通ボックス2の内外の芯線6a、6a、…を接続するコネクター5aの数を、複数本纏めて集約した芯線6aの束数に合わせたものであって、
図6(a)は芯線6a、6a、…を全て1箇所に纏めた場合、
図6(b)は芯線6a、6a、…を2箇所に纏めた場合である。必要に応じて、3箇所以上に纏めてもよいことは言うまでもない。
【0027】
上記のようなケーブル貫通ボックス2を、シールドルームを有する建物に設置した例を
図7に示す。
図7は、シールド対策のない作業室から、両側にあるシールドルームA、Bに光ケーブル6を引き込んだ状況を示す。作業室内では、光ケーブル6は全芯線を束ねた保護被覆付きのままであり、その両端はケーブル貫通ボックス2、2のケーブル保持パネル3、3のケーブル挿通孔3a、3aに挿通され、ケーブル保持パネル3、3の中で、
図1に図示のように、芯線6a、6a、…に分離され、それぞれ1本ずつが金属製の貫通孔パネル4の挿通孔4a、4a、…に挿通され、シールドルームAでは、芯線6a、6a、…がそれぞれコネクター設置パネル5のコネクター5a、5a、…により、ケーブル貫通ボックス2の外側(シールドルームA内)の芯線6a、6a、…に接続されている(第1実施例に対応)。
【0028】
また、シールドルームBでは、ケーブル貫通ボックス2の中で1本ずつに分離された芯線6a、6a、…が、コネクター設置パネル5に設置された3つのコネクター5a、5a、…により3箇所に集約され、ケーブル貫通ボックス2の外側(シールドルームB内)の光ケーブル6、6、…に接続されている(第2実施例に対応)。
【0029】
従って、シールド対策のない作業室から両側のシールドルームA、Bに引き込まれる光ケーブル6のために必要なシールド部材(壁)のケーブル貫通部において、ケーブル貫通ボックス2内に設置された金属製の貫通孔パネル4の挿通孔4a、4a、…を電磁波が通過できないので、電磁波の漏洩は阻止される。
【0030】
以上のように、多数の芯線が束ねられて保護被覆された光ケーブル6を、芯線6a、6a、…に分離し、それぞれを金属製の貫通孔パネル4に開けられた極細の挿通孔4a、4a、…に挿通すれば、40GHzのような高周波の電磁波に対しても高い遮蔽性能が得られる。
【0031】
なお、挿通孔4a、4a、…が、遮蔽対象とする電磁波の1/2波長未満の孔径で、かつ前記孔径の6倍以上の厚みのある金属製の貫通孔パネルに開けられたものであれば、電磁波遮蔽効果は、挿通孔4a、4a、…に挿通する芯線6aが複数本であっても変りがないので、本発明は、前記実施例のように単線に限定されるものではない。
【0032】
本発明のように、芯線6a、6a、…を挿通するための極細の挿通孔4a、4a、…を金属製の貫通孔パネル4に開ける方式は、高い周波数における電磁波遮蔽効果が大であり、また、従来の考え方に基づいて、光ケーブル6そのものを長い貫通管(ハニカム管含む)に挿通するよりも、極めてコンパクトであり、かつ製作が容易なシールド部材のケーブル貫通部を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、シールドルームのシールド部材のケーブル貫通部における高い電磁波遮蔽性能を、コンパクトかつ製作容易な構造で提供できるので、シールドルームに光ケーブル等の非電導性ケーブルを引き込む事案のように、今後増えると予想されるニーズに対しても、40GHzにも及ぶより高い周波数帯における電磁波シールド技術の向上に大いに貢献するものである。
【符号の説明】
【0034】
1:シールド部材
2:ケーブル貫通ボックス
3:ケーブル保持パネル
3a:ケーブル挿通孔
4:貫通孔パネル
4a:挿通孔
5:コネクター設置パネル
5a:コネクター
6:光ケーブル
6a:芯線