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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】構造物のダンパー付き支承部構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240805BHJP
   E04B 1/36 20060101ALI20240805BHJP
   E04B 7/00 20060101ALI20240805BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
E04H9/02 351
E04B1/36 F
E04B7/00 Z
F16F15/06 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021205802
(22)【出願日】2021-12-20
(65)【公開番号】P2023091189
(43)【公開日】2023-06-30
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】向山 洋一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 淳史
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-152696(JP,A)
【文献】特開2013-019103(JP,A)
【文献】特開2006-283476(JP,A)
【文献】特開2016-130405(JP,A)
【文献】特開2018-080447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 7/00
E04B 1/32-1/36
F16F 15/02,15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物をダンパー付き支承部を介して下部躯体により支える、ダンパー付き支承部構造であって、
1)前記ダンパー付き支承部は、支承と台座およびダンパーの組合せから成る。
2)前記支承の支承ベースプレートと前記台座の台座天端プレートとの間、および前記台座の台座ベースプレートの下面に接して下部躯体上端との間には、滑り材が挟み込まれている。
3)前記支承ベースプレートには、建物内外方向に支承アンカーボルト用の長孔が開けられており、前記支承アンカーボルトは前記支承アンカーボルト用の長孔を貫通して、前記台座天端プレートに固定されている。
4)前記台座ベースプレートには、前記支承アンカーボルト用の長孔と直交する方向に、台座アンカーボルト用の長孔が開けられており、前記台座アンカーボルトは前記台座アンカーボルト用の長孔を貫通して、前記下部躯体上端に固定されている。
5)前記ダンパーは、ウェブプレートと、そのウェブプレートを囲んで、両側縁のフランジプレート、上縁のダンパー頂部プレート、および下縁のダンパー定着プレートと、から成り、前記ダンパー定着プレートは、前記下部躯体上端に固定されたダンパーアンカーボルトにより、前記下部躯体上端に固定されている
6)前記ダンパーの前記ダンパー頂部プレートは、連結材によって、前記台座天端プレートに連結されている。
以上のような構成から成る、構造物のダンパー付き支承部構造。
【請求項2】
請求項1記載の構造物のダンパー付き支承部構造において、前記フランジプレートと前記ウェブプレートは、前記ダンパー全体として曲げ降伏する時のせん断力と前記ウェブプレートのせん断降伏耐力とが、同じもしくは概ね同じになる板厚および幅寸法を有し、かつ、降伏比が少なくともSN490鋼よりも高くLY225鋼またはLY225鋼と同等の機械的特性を有する材料であることを特徴とする、構造物のダンパー付き支承部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根等構造物を支える支承部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大地震が発生する度に、体育館等の屋根を支える支承のアンカーボルト破断、その近傍のコンクリート破損などの被害が少なからず発生している。その原因の多くは、設計時に想定した以上の地震力が支承部に作用し、アンカーボルトやその周辺コンクリートの許容耐力を超えたためである。
【0003】
従来、このような損傷を避けるため、これらの部材サイズあるいは材料強度を大きく設定する、あるいは、前記支承のベースプレートに開けるアンカーボルト孔を、前記支承と前記支承が設置された柱等下部躯体頂部との想定される相対変位よりも長い長孔とし、その長孔方向の支承可動範囲に余裕を持たせて、前記支承のベースプレートと前記アンカーボルトとが接触しないようにするなどの工夫がされてきた。
【0004】
しかし、それでも想定以上の地震力が作用する場合があり、前記アンカーボルト孔の縁が前記アンカーボルトに接触し、その支圧力により当該アンカーボルトやその周辺のコンクリートが損傷してしまうこともあった。
【0005】
以上のような損傷を減らすため、屋根と屋根を支える下部躯体との間にダンパーを設置して、地震エネルギーを吸収して振動を低減する方法も試みられている。例えば、特許文献1では、屋根を支える支承にダンパーを連結する技術が開示されている。
【0006】
特許文献1記載の発明は、屋根支承部のベースプレートの下に、その台座となる支持部材が設けられ、前記支持部材の下部ベースプレートはアンカーボルトにて下部構造に固定され、前記屋根支承部のベースプレートが、スライディング部材を挟んで、前記支持部材上部の受けプレートに載っている。
【0007】
前記屋根支承部のベースプレートと前記受けプレートには、それぞれ長孔が相互に直交するように開けられ、相互に直交した前記長孔の交差部にボルトが両プレートを貫通して挿通されている。従って、前記屋根支承部は前記受けプレート即ち前記下部構造に対して、水平のどの方向にも前記長孔の範囲で移動が可能である。
【0008】
そして、前記屋根支承部のベースプレートには、前記下部構造に固定されたダンパーが連結されているので、地震時に、前記屋根支承部のベースプレートと前記下部構造との間に一定の相対変位が生じた場合、前記ダンパーによりエネルギー吸収がなされる。
【0009】
この特許文献1には、鉛直に下部構造に固定された鋼棒ダンパーや、建物の内外方向と直交する方向(壁付方向)の相対変位に対してエネルギー吸収するように連結部材で連結されたダンパー等が開示されている。
【0010】
体育館等の柱は建物の内外方向に片持ち状であることが多く、地震時において、建物の内外方向への柱頭変位が大きくなるが、曲げによるエネルギー吸収を期待する前記鋼棒ダンパーは、前記屋根支承部のベースプレートと前記支持部材の下部ベースプレートとのレベル差分しか長さがないので、柱頭変位が大きい場合、前記鋼棒ダンパーは大きく曲がり、前記鋼棒ダンパー上端のナットが鋼棒の抜け出しを拘束するため引張り力が働き、この支承部に想定以上の水平力が作用することになる。
【0011】
また、前記連結部材で連結されたダンパーにおいては、前記連結材に直交方向(建物の内外方向)について、上記のようなことを避けるため、前記連結材を十分長くすれば、ある程度、前記のような不都合は回避できるが、長くなった連結材の軸剛性がダンパーのエネルギー吸収効率を低下させる問題があり、また、設置範囲も広くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-152696号
【文献】特許第5284425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のように、特許文献1記載の発明に係る屋根支承部のベースプレートに連結されたダンパーは、前記屋根支承部が設置された下部構造の建物内外方向変位による影響を受け、そのエネルギー吸収能力を十分発揮できないという問題があった。
【0014】
本発明は、建物の屋根等構造物を支える支承部において、前記支承部が設置される柱等下部躯体の地震動による建物内外方向変位に影響されることなく、効率的にエネルギー吸収能力を発揮でき、また、屋根等構造物への地震入力が一定以上にならないように制御可能で、かつ簡易なダンパー付き支承部構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明の手段は、以下のような構成から成る、構造物のダンパー付き支承部構造である。
【0016】
1)前記ダンパー付き支承部は、支承と台座およびダンパーの組合せから成る。
2)前記支承の支承ベースプレートと前記台座の台座天端プレートとの間、および前記台座の台座ベースプレートの下面に接して下部躯体上端との間には、滑り材が挟み込まれている。
3)前記支承ベースプレートには、建物内外方向に支承アンカーボルト用の長孔が開けられており、前記支承アンカーボルトは前記支承アンカーボルト用の長孔を貫通して、前記台座天端プレートに固定されている。
4)前記台座ベースプレートには、前記支承アンカーボルト用の長孔と直交する方向に台座アンカーボルト用の長孔があけられており、前記台座アンカーボルトは前記台座アンカーボルト用の長孔を貫通して、前記下部躯体上端に固定されている。
5)前記ダンパーは、エネルギー吸収部であるウェブプレートと、そのウェブプレートを囲んで、両側縁のフランジプレート、上縁のダンパー頂部プレート、および下縁のダンパー定着プレートと、から成り、前記ダンパー定着プレートは、前記下部躯体上端に固定されたダンパーアンカーボルトにより、前記下部躯体上端に固定されている
6)前記ダンパーの前記ダンパー頂部プレートは、連結材によって、前記台座天端プレートに連結されている。
なお、前記ダンパーのダンパー定着プレートはダンパーアンカーボルトにより、前記下部躯体に固定することができる。
【0017】
本発明は以上のような構成であるので、前記支承部が設置された前記下部躯体の柱等上端が地震動により建物内外方向に変位(振動)した場合、前記台座と前記ダンパーは前記下部躯体と一緒に建物内外方向に変位する一方で、前記支承は、前記支承ベースプレートと前記台座天端プレートとの間に挟持された滑り材により摩擦抵抗が大幅に低減されるので、前記支承アンカーボルトの長孔の可動範囲で、前記下部躯体の変位に追随することなく建物内外方向に滑らかに水平移動できる。
【0018】
従って、地震動により前記下部躯体の柱等上端が建物内外方向に大きく変位(振動)しても、前記台座の前記台座天端プレートに連結された前記ダンパー本体は、前記支承の建物内外方向の変位と縁が切られているので、前記ダンパーに影響を与えない。
【0019】
一方、前記支承が地震動により建物内外方向と直交する方向に変位した場合は、前記支承は、前記支承ベースプレートが前記支承アンカーボルトに接触し、前記支承アンカーボルトが前記台座天端プレートを押すので、前記台座は前記台座ベースプレートの前記台座アンカーボルト用の長孔方向に水平移動することになる。
【0020】
前記台座ベースプレートの下には前記下部躯体との間に滑り材が挟持されているため、摩擦抵抗が大幅に低減されるので、前記台座は、前記台座アンカーボルトの長孔の可動範囲で滑らかに水平移動できる。
【0021】
そして、前記台座天端プレートには、連結材によって、前記ダンパーの前記ダンパー頂部プレートが連結されているので、上記のような前記台座の水平変位は、そのまま前記ダンパー頂部プレートを介して、前記ウェブプレートのせん断変形を惹き起こし、エネルギー吸収がなされることになる。
【0022】
また本発明は、前記ダンパーにおいて、前記フランジプレートと前記ウェブプレートは、前記ダンパー全体として曲げ降伏する時のせん断力と前記ウェブプレートのせん断降伏耐力とが、同じもしくはほぼ同じになる板厚および幅寸法を有し、かつ、降伏比が少なくともSN490鋼よりも高くLY225鋼またはLY225鋼と同等の機械的特性を有する材料であることを特徴とする、構造物のダンパー付き支承部構造である。
【0023】
前記ダンパーの前記フランジプレートと前記ウェブプレートが、前記ダンパー全体として曲げ降伏する時のせん断力と前記ウェブプレートのせん断降伏耐力とが、同じもしくはほぼ同じになる板厚および幅寸法であって、しかも両者の材質として降伏後のひずみ硬化が出来るだけ少ない、即ち降伏比がSN490鋼よりも高い材料、例えばLY225材(降伏比の規格は上限80%)を用いることにより、一定の水平荷重が作用した時、前記ダンパーとして、前記フランジプレートと前記ウェブプレートがほぼ同時に降伏すると共に、降伏後の大変形時における変位増大に伴うせん断力上昇がほとんどなくなるので、このようなダンパー付き支承を用いれば、屋根等構造物への作用地震力が一定以上にならないように制御することが可能になる。
【0024】
なお、前記ダンパーアンカーボルトおよび当該アンカーボルト定着部の下部躯体部分は、その耐力を前記ダンパーの最大耐力よりも十分余裕のあるものとすることで、大地震によりダンパーが能力限界に達して取り替えが必要になった場合でも、ダンパー取り替えのみで、その他は継続して使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、以上のようなダンパー付き支承部構造であるので、以下のような効果がある。
【0026】
1)台座およびダンパーが設置されている下部躯体が地震動により発生する建物内外方向変位と、屋根に取り付いた支承の建物内外方向変位とは、前記支承ベースプレートと前記台座天端プレートとに挟持された滑り材により縁が切られるので、前記支承にではなく前記下部躯体に取付いた台座に連結されたダンパーは、前記支承の建物内外方向変位の影響を受けることがなく、前記ダンパーのエネルギー吸収能力を十分に発揮できる。
2)ダンパーが降伏した後の耐力上昇を一定以下に抑制できるので、想定以上の地震動に対しても、屋根等構造物に地震力が過度に作用することを防ぐことができる。
3)ダンパーと台座との連結をボルト接合にすれば、ダンパーの取り換えが容易である。
4)ダンパーは、コンパクトで支承の直近に設置でき、狭い場所でも据え付けが可能である。
5)本発明に係るダンパー付き支承は、構成が単純で製作容易であると共に、設置および取り換えが簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例の側面図である。
図2図1における矢視図であり、(a)はイ矢視、(b)はロ矢視である。
図3図1における矢視図であり、(c)はハ矢視、(d)はニ矢視である。
図4】本発明に係る支承が、建物の内外方向に移動した状態を示す図であり、(a)は図2(a)に対応する平面図、(b)は(a)のホ-ホ矢視図を示す。
図5図4に図示の移動方向と直交する方向に移動した状態を示す図であり、(a)は図2(b)に対応する平面図、(b)は(a)のへ-へ矢視図を示す。
図6】本発明に係るダンパーの試験体に対して実施した、実験結果とFEM解析結果のせん断力~層間変位関係を比較したグラフであり、変位振幅±4.5mm程度までの繰り返し履歴曲線である。
図7図6でFEM解析対象とした解析モデル(No.1)と、当該解析モデルのフランジプレートのサイズおよび材質を変更した解析モデル(No.2)と、の解析結果のせん断力~層間変位関係を比較したグラフであり、(a)は変位振幅±4.5mm程度までの繰り返し履歴曲線、(b)は変位振幅±1mm程度までの履歴曲線を拡大したグラフである。
図8】ダンパーのウェブプレートおよびフランジプレートの板厚がそれぞれt1、t2である時、両者同時降伏する場合のフランジプレート幅Bを求める条件式を説明した説明図である。
図9図6の実線で示す試験体に用いた材料(LY225、SN490B)の引張試験から得られた応力~ひずみ関係図である。
図10】本発明に係るダンパー付き支承部で支持される屋根架構(一部のみ表示)の、ダンパー付き支承部の配置例を示す伏図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施例を図1~3を参照して説明する。図1は、本実施例の側面図であり、図2、3は、図1におけるイ~ニの矢視図である。
【0029】
支承部は、支承1と台座4およびダンパー8の組合せから成り、各部は以下のように構成されている。
1)支承1の支承ベースプレート2と台座4の台座天端プレート6との間、および台座4の台座ベースプレート5の下面に接して下部躯体100上端との間には、それぞれ滑り材2a、5aが挟み込まれている。
2)支承ベースプレート2には、建物内外方向に支承アンカーボルト3、3、…用の長孔3a、3a、…が開けられており、台座天端プレート6に開けられた丸孔(図示せず。)に挿通され固定された支承アンカーボルト3、3、…が、長孔3a、3a、…に挿通されている。
3)台座ベースプレート5には、支承アンカーボルト3、3、…用の長孔3a、3a、…と直交する方向に台座アンカーボルト7、7、…用の長孔7a、7a、…が開けられており、下部躯体100上端に固定された台座アンカーボルト7、7、…は長孔7a、7a、…に挿通されている。
4)ダンパー8は、エネルギー吸収部であるウェブプレート9と、そのウェブプレート9を囲んで、両側縁のフランジプレート10、10、上縁のダンパー頂部プレート12、および下縁のダンパー定着プレート11とから成る。
5)ダンパー8のダンパー定着プレート11はダンパーアンカーボルト13、13、…により、下部躯体100上端に固定されている。
6)ダンパー8のダンパー頂部プレート12は、連結材14によって、台座天端プレート6に連結されている。
【0030】
なお、ウェブプレート9は、一部に孔やスリットを設ける、あるいは、両側縁のフランジプレート10、10との接合を全長ではなく一部に限定する等により、そのせん断降伏力の調整をすることができる。
【0031】
また、以上のようなダンパー付き支承部の配置された屋根架構の1例を図10に示す。屋根架構(部分表示)は、上弦材20、20、…、下弦材21、21、…、ラチス材22、22、…から成る立体トラスである。同図中の矢印は、支承1の水平移動可能方向を示す。
【0032】
以上のような構成であるので、地震動により下部躯体100(柱等)の上端が振動して、支承1が建物内外方向に変位した場合、図4(a)、(b)に図示のように、台座4とダンパー8は下部躯体100に対して移動拘束されており、これに対し支承1は、支承ベースプレート2の下面と台座天端プレート6の上面にそれぞれ滑り材2aが設けられており、挟持された滑り材2aにより摩擦力が大幅に低減されるので、下部躯体100の変位に追随することなく、支承アンカーボルト3、3、…の長孔3a、3a、…の可動範囲で滑らかに、同図中の矢印方向(または逆方向)に移動できる。従って、下部躯体100上端の地震動による台座4の建物内外方向変位は、支承1の建物内外方向変位と縁が切られるので、台座天端プレート6に連結されているダンパー8に影響を与えない。
【0033】
一方、屋根架構が地震動により建物内外方向と直交する方向に変位した場合は、図5(a)、(b)に図示のように、支承1の支承ベースプレート2が支承アンカーボルト3、3、…の長孔3a、3a、…の縁に接触(支圧)し、支承アンカーボルト3、3、…が前記台座天端プレート6を押すので、台座4は台座ベースプレート5の台座アンカーボルト7、7、…用の長孔7a、7a、…方向(同図中の矢印方向または逆方向)に、支承1と共に移動することになる。
【0034】
台座ベースプレート5の下面と下部躯体100の上面にそれぞれ滑り材5aが設けられており、挟持された滑り材5aにより摩擦力が大幅に低減されるので、台座アンカーボルト7、7、…の長孔7a、7a、…の可動範囲で滑らかに移動できる。
【0035】
そして、台座天端プレート6には、連結材14がボルト15、15、…にてダンパー1のダンパー頂部プレート12が連結されているので、上記のような台座4の水平変位は、そのままダンパー8のダンパー頂部プレート12を介して、ウェブプレート9のせん断変形を惹き起こし、エネルギー吸収がなされることになる。
【0036】
ここで、図1に図示のダンパー8の具体的なモデルについて、図5に図示の矢印方向または逆方向に変位を正負に繰り返す加力実験とFEM解析を試みた結果の1例を図6に示す。
【0037】
図6は、フランジプレート10、10がダンパー特性に及ぼす作用を調べた1例として、降伏後のひずみ硬化が少ないLY225(厚さ6mm)をウェブプレート9に、通常の鋼材SN490B(厚さ9mm×幅200mm)をフランジプレート10、10に用いた場合における、試験体の加力実験および解析モデル(No.1)について求めた、せん断力Q~層間変位δ関係(図中のδは、ダンパー8頂部の水平変位を示す。以下同じ。)を比較して示したものである。
【0038】
表1および図9に、前記試験体に用いた材料の降伏応力値および引張試験で得られた応力~ひずみ関係を示す。図9(a)はLY225の、図9(b)はSN490Bの引張試験による応力~ひずみ関係である。図9(b)に図示のSN490Bでは、降伏後の応力上昇(ひずみ硬化)は、図9(a)に図示のLY225に比べてかなり大きいことが分かる。表1および図9から分かるように、実際の降伏応力値は公称値より高いので、解析においては引張試験結果を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
図6に示すグラフの実線が実験結果である。フランジプレート10、10(厚さ9mm×幅200mm)に降伏後のひずみ硬化が大きい鋼材SN490Bを用いているため、降伏後のひずみ硬化が少ないLY225を用いたウェブプレート9(厚さ6mm)が全断面ともせん断降伏している大変形時であっても、ダンパー8全体として、水平変位δ(変形)が大きい程、せん断力Qが大きくなることが分かる。その傾向は、破線で示す解析結果でもよく追跡できている。
【0041】
また、図7は、図6の解析モデル(No.1)のフランジプレート10、10を厚さ6mm×幅100mmに変更し、材質もLY225に変更した解析モデル(No.2)について解析し、図6の解析モデル(No.1)と比較したものであり、(a)は変位振幅±4.5mm程度までの繰り返し履歴曲線、(b)は(a)の変位振幅±1mm程度までの履歴曲線を拡大したものである。
【0042】
解析モデルNo.2は、フランジプレート10、10の降伏によってダンパー8全体としての曲げ降伏耐力に達した時のせん断力が、なるべくウェブ9のせん断降伏耐力と同じになるように、フランジプレート10、10の断面を小さくし(厚さ6mm×幅100mm)、かつフランジプレート10、10にもLY225を用いたものである。
【0043】
図7(a)より、解析モデルNo.2(実線)は、ダンパー8全体として、水平変位δ(変形)が大きくても、せん断力Qはほぼ一定になっており、同図のモデルNo.1(破線)との差が明確に分かる。
【0044】
また、図7(b)より、両モデルの加力開始から初めて降伏に至る履歴線(δ≒0~0.4mm)を比較すると、フランジプレート10、10が厚いNo.1(破線)の方が勾配は高いが、弾性限界(降伏開始時)のせん断力の大きさについては、両者の差はわずかであることが分かる。
【0045】
これらのことから、解析モデルNo.2のように、ダンパー8のウェブプレート9がせん断降伏するのとほぼ同時にフランジプレート10、10も降伏するように、両者の板厚および幅寸法を調整し、かつ両者の材質としてLY225のような降伏後のひずみ硬化の少ない材料を用いることにより、ダンパー8全体として、大変形時においてもせん断力がほぼ一定になるようにすることができることが分かる。即ち、このようなダンパー付き支承を用いれば、屋根等構造物への作用地震力が一定以上にならないように制御することが可能となる。
【0046】
なお、前記試験体および解析モデルにおいて、ウェブプレート9とフランジプレート10、10以外の部位は、弾性範囲内に止まるように設定した。
【0047】
ここで、図8を参照して、ダンパー8のウェブプレート9およびフランジプレート10、10の板厚がそれぞれt1、t2の時、両者が同時降伏する時のフランジプレート10、10の幅Bを求める条件を説明する。図8では、ウェブプレート9とフランジプレート10、10の同時降伏の説明を分かり易くするため、作用力Pに対して、せん断力は全てウェブプレート9が負担し、曲げモーメントは全てフランジプレート10、10が負担すると仮定した簡略モデルを考える。
【0048】
ウェブプレート9とフランジプレート10、10の同時降伏条件は、ダンパー全体の曲げ降伏耐力をMfy、ダンパー高さをH、ウェブプレートの降伏耐力をQwyとした時、Mfy/H=Qwyであることから、図8に記載のように、必要なフランジプレート10、10の幅Bが求められる。
【0049】
実際には、ウェブプレート9にも若干の曲げ応力が、フランジプレート10、10にも若干のせん断応力が作用するが、その絶対値は小さいので、本モデルでは無視する。
【0050】
図7の解析モデル(No.1、No.2)の降伏応力値は表1に記載の引張試験値を用いる。表2および3に、各解析モデル(No.1、No.2)について、ウェブプレート9とフランジプレート10、10の同時降伏を満たすフランジプレート幅Bを求めた結果を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表2の解析モデルNo.1では、ウェブプレート9とフランジプレート10、10の同時降伏を満たすフランジプレート幅Bは、3.8cmとなった。即ち、SN490Bのフランジプレート幅Bの20cmは、断面力に余裕があり過ぎということになるが、フランジプレート10、10の断面余力は、図7(b)で示されたように、ダンパー8全体としての初期降伏耐力にはあまり影響しない。
【0054】
表3の解析モデルNo.2では、ウェブプレート9とフランジプレート10、10の同時降伏を満たすフランジプレート幅Bは、8.6cmとなった。即ち、LY225のフランジプレート幅Bの10cmは、断面力にやや余裕がある程度ということになる。
【0055】
フランジプレート10、10の差異による影響は、ダンパー8としてのウェブ降伏せん断力Qwyは、解析モデルNo.1と2とで大差ないが、変形が大きい領域でのせん断力は、図9(a)、(b)に図示の応力~ひずみ関係の比較から分かる通り、フランジプレート10、10に使用した材料の降伏後における応力増大傾向(ひずみ硬化)の差として現れる。
【0056】
以上のことから、ダンパー8に作用するせん断力が、大変形時においても目標とする一定レベル以下に留まるようにするためには、ウェブプレート9およびフランジプレート10、10の材質を、LY225のように降伏後のひずみ硬化がなるべく少ない材料とし、かつ、フランジプレート10、10は、ダンパー8全体としての曲げ降伏時のせん断力が、ウェブプレート9の降伏せん断力に同じもしくは概ね等しくなるような断面寸法にすればよいことが分かる。
【0057】
なお、ダンパー8のウェブプレート9とフランジプレート10、10以外の部位は、ダンパー8が最大耐力に達していても、十分に弾性状態を維持するように設計する必要がある。
【0058】
以上の実施例では、ダンパー8は支承1の片側のみに設置していたが、必要に応じて両側に設置(図示せず。)してもよい。その場合、支承1に作用する地震水平力が大きくても、ダンパー8と下部躯体100との接合部に生じる反力が分散されるので、損傷の可能性を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、屋根等構造物を支える支承部にダンパーを付加する場合おいて、ダンパーが効率的にエネルギー吸収能力を発揮でき、かつ屋根等構造物に作用する地震力を設計目標に合わせて制御できる、明快で簡易な支承部構造を提供するので、想定以上の大地震に対しても建物の耐震安全性向上に大いに貢献できる。
【符号の説明】
【0060】
1:支承
2:支承ベースプレート
2a:滑り材
3:支承アンカーボルト
3a:長孔
4:台座
5:台座ベースプレート
5a:滑り材
6:台座天端プレート
7:台座アンカーボルト
7a:長孔
8:ダンパー
9:ウェブプレート
10:フランジプレート
11:ダンパー定着プレート
12:ダンパー頂部プレート
13:ダンパーアンカーボルト
20:上弦材
21:下弦材
22:ラチス材
100:下部躯体
図1
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図10