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特許7532018受信信号のシンボル判定装置、方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】受信信号のシンボル判定装置、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/22 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
H04L27/22 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019151289
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2021034816
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 鎮男
(72)【発明者】
【氏名】尾形 真輝
【審査官】谷岡 佳彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107707494(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0182387(US,A1)
【文献】Yaqi Wang, et al.,An Automatic Decoding Methof for Morse Signal based on Clustering Algorithm,Advances in Intelligent Information Hiding and Multimedia Signal Processing,2016年11月,pp.235-242,link.springer.com/chapter/10,1007/978-3-319-50209-0_29
【文献】MACHINE RECOGNITION OF HAND-SENT MORSE CODE USING THE PDP-12 COMPUTER,AD-786 492,1973年12月,pp.8-22[online],Retrieved from the Internet:<URL: http://apps.dtic.mil/sti/pdf/AD0786492.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号のシンボル判定を行うためのシンボル判定装置であって、
前記受信信号のおのおのを、いずれかのシンボルに分類した第1のシンボル判定結果を作成する第1のシンボル判定処理を行う一次シンボル判定部と、
前記第1のシンボル判定結果に基づいて、前記受信信号のシンボル判定を行う二次シンボル判定部とを具備し、
前記二次シンボル判定部は、
前記受信信号と前記第1のシンボル判定結果とを用いて、正規化処理または自然対数処理によって、分布情報を作成する分布情報作成部と、
前記分布情報を用いて、前記第1のシンボル判定結果を必要に応じてクラスタリング処理を用いて修正する第2のシンボル判定処理を行うことによって、前記受信信号のシンボル判定を行う分布情報判定部とを備え、
前記受信信号は、モールス通信による受信信号であり、
前記分布情報は、前記モールス通信におけるマークと時系列的にその直後に連続するスペースを構成単位とした、マークの長さとスペースの長さとの組み合わせによって決定される二次元の分布情報であり、
前記分布情報作成部は、前記第1のシンボル判定処理を行った後、前記二次元の分布情報を構成する2つの座標軸のうち、少なくとも1つの座標軸が対数表示された分布情報を作成する、シンボル判定装置。
【請求項2】
受信信号のシンボル判定を行うためのシンボル判定装置であって、
前記受信信号のおのおのを、いずれかのシンボルに分類した第1のシンボル判定結果を作成する第1のシンボル判定処理を行う一次シンボル判定部と、
前記第1のシンボル判定結果に基づいて、前記受信信号のシンボル判定を行う二次シンボル判定部とを具備し、
前記二次シンボル判定部は、
前記受信信号と前記第1のシンボル判定結果とを用いて、正規化処理または自然対数処理によって、分布情報を作成する分布情報作成部と、
前記分布情報を用いて、前記第1のシンボル判定結果を必要に応じてクラスタリング処理を用いて修正する第2のシンボル判定処理を行うことによって、前記受信信号のシンボル判定を行う分布情報判定部とを備え、
前記受信信号は、モールス通信による受信信号であり、
前記分布情報は、前記モールス通信におけるマークと時系列的にその直後に連続するスペースを構成単位とした、マークの長さとスペースの長さとの組み合わせによって決定される二次元の分布情報であり、
前記第2のシンボル判定処理は、
前記二次元の分布情報における各受信信号の座標を求め、
前記第1のシンボル判定処理の結果に基づいて、クラスタ毎に、各受信信号の座標からの距離の合計が最小となる中心座標と、各受信信号の各座標と前記中心座標との間の平均距離とを求め、
前記クラスタ毎に、前記中心座標を中心として、前記平均距離を半径の基準とする円を描き、
前記円内に座標が含まれる受信信号を、前記円に対応するクラスタに属すると判定するシンボル判定装置。
【請求項3】
前記分布情報判定部は、前記円内に座標が含まれない受信信号を、この受信信号の座標の最も近くに描かれている円に対応するクラスタに分類変更する、請求項に記載のシンボル判定装置。
【請求項4】
受信信号のシンボル判定を行うため、シンボル判定装置によって実施されるシンボル判定方法であって、
前記シンボル判定装置が、
各受信信号のシンボル判定のために、前記受信信号のおのおのを、いずれかのシンボルに分類した第1のシンボル判定結果を作成する第1のシンボル判定処理を行い、
前記受信信号と前記第1のシンボル判定結果を用いて、正規化処理または自然対数処理によって、分布情報を作成し、
前記分布情報に基づいて、前記第1のシンボル判定処理の結果を必要に応じてクラスタリング処理を用いて修正する第2のシンボル判定処理を行い、第2のシンボル判定処理の結果に基づいて、前記受信信号のシンボル判定を行い、
前記受信信号は、モールス通信による受信信号であり、
前記分布情報は、前記モールス通信におけるマークと時系列的にその直後に連続するスペースを構成単位とした、マークの長さとスペースの長さとの組み合わせによって決定される二次元の分布情報であり、
前記受信信号と前記第1のシンボル判定結果を用いて、正規化処理または自然対数処理によって、分布情報を作成する場合、前記第1のシンボル判定処理を行った後、前記二次元の分布情報を構成する2つの座標軸のうち、少なくとも1つの座標軸が対数表示された分布情報を作成する、シンボル判定方法。
【請求項5】
モールス通信による受信信号のシンボル判定を行うためのプログラムであって、
各受信信号のシンボル判定のために、前記受信信号のおのおのを、いずれかのシンボルに分類する第1のシンボル判定処理を行う機能、
前記受信信号と前記第1のシンボル判定処理の結果とを用いて、正規化処理または自然対数処理によって、前記モールス通信におけるマークと時系列的にその直後に連続するスペースを構成単位とした、マークの長さとスペースの長さとの組み合わせによって決定される二次元の分布情報を作成する機能、
前記分布情報に基づいて、前記第1のシンボル判定処理の結果を必要に応じてクラスタリング処理を用いて修正する第2のシンボル判定処理を行い、前記第2のシンボル判定処理の結果に基づいて、前記受信信号のシンボル判定を行う機能、
前記第1のシンボル判定処理を行った後、前記二次元の分布情報を構成する2つの座標軸のうち、少なくとも1つの座標軸が対数表示された分布情報を作成する機能、
をプロセッサに実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線通信における受信信号のシンボル判定を行うための装置、方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信のデジタル通信方式にはモールス通信やQPSK通信がある。
【0003】
モールス通信では、非特許文献1に示されるように、マークシンボル(ON)とスペースシンボル(OFF)が存在し、マークは短点シンボルおよび長点シンボル、スペースは文字内シンボル、文字間シンボルおよび単語間シンボルで構成され、この組み合わせから6つのクラスタに分けることができる。
【0004】
しかしながら、手打ち送信の場合はユーザの癖によってマークやスペースの長さが異なる、通信速度が時間の経過とともに加速したり減速したり変化する、あるいは、手ブレによってランダムに変動するため、6つのクラスタの境界は固定的に決まらない。そのため、教科書的な境界判定を行うとマークとスペースとを正しく判定できないことがある。
【0005】
モールス信号をより一般化したOOK信号においてブレがある場合でも同じことが当てはまり、ONとOFFとを正しく判定できないことがある。
【0006】
また、QPSK通信においては、IQ平面上の受信シンボルがどの象限に存在するかで4つのクラスに分けて情報シンボルの判定を行うことができる。
【0007】
しかしながら、通信路歪が大きいときには一定の補正を行っても歪成分が残留し、情報シンボルを正しく判定できないことがある。これは他のデジタル通信であるPSK通信やQAM通信でも同じである。
【0008】
非特許文献1では、上述したような手打ち送信の場合におけるユーザの癖や手ブレによるバラつきに対処したシンボル判定を行うために、マークおよびスペースの移動平均をとることで基準となる信号長を求め、対象がマークであれば短点か長点、スペースであれば文字内、文字間、または単語間かが判定されている。
【0009】
しかしながら、この判定では各シンボルの前後、すなわち短時間の時系列情報しか考慮していない。このような短時間の時系列情報のみによるシンボルの判定においては、例えば、分布で見ると明らかに判定を誤っているとわかるシンボルであっても、正しく判定されないことがあるため、十分なものとはいえない。
【0010】
このため、短時間の時系列情報だけではなく、比較的長時間の受信信号の分布を求めてシンボル判定を行うことが好ましい。このようなシンボル判定の一例として、クラスタリングを用いることが考えられる。クラスタリングの代表例にはk-means法がある。しかしながら、k-means法は、分けたいクラスタの数が予め決められている必要があったり、クラスタの分散や集団のサイズに偏りがあったりする場合には適さないことが知られている。
【0011】
非特許文献2には、不均衡なデータに対しても高精度でクラスタリングを行うための手法が提案されている。しかしながら、この手法は、不均衡なデータに対する汎用性が高く有効な手法ではあるが、データの予測分布と、データとノイズを加えた予測分布から、KL距離を最小化する処理が必要であり、この処理のために、多大な計算コストがかかってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/786492.pdf(令和1年7月16日検索)
【文献】http://proceedings.mlr.press/v95/tao18a/tao18a.pdf(令和1年7月16日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、無線通信における不均衡な受信信号に対しても、簡易的かつ高い精度でシンボル判定を行うための装置、方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施形態のシンボル判定装置は、一次シンボル判定部と、二次シンボル判定部とを具備している。一次シンボル判定部は、受信信号のおのおのを、いずれかのシンボルに分類した第1のシンボル判定結果を作成する第1のシンボル判定処理を行う。二次シンボル判定部は、一次シンボル判定部によって作成された第1のシンボル判定結果に基づいて、受信信号のシンボル判定を行う。二次シンボル判定部は、受信信号と第1のシンボル判定結果とを用いて、正規化処理または自然対数処理によって、分布情報を作成する分布情報作成部と、分布情報を用いて、第1のシンボル判定結果を必要に応じて修正する第2のシンボル判定処理を行うことによって、受信信号のシンボル判定を行う分布情報判定部とを備えている。受信信号は、モールス通信による受信信号であり、分布情報は、モールス通信におけるマークと時系列的にその直後に連続するスペースを構成単位とした、マークの長さとスペースの長さとの組み合わせによって決定される二次元の分布情報である。分布情報作成部は、第1のシンボル判定処理を行った後、二次元の分布情報を構成する2つの座標軸のうち、少なくとも1つの座標軸が対数表示された分布情報を作成する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態のシンボル判定方法が適用されたシンボル判定装置の構成例を示すブロック図である。
図2】モールス通信による受信信号の二次元分布の一例を示す図である。
図3】モールス通信による受信信号の二次元分布の別の例を示す図である。
図4図3の縦軸と横軸との両方を、短点を基準に自然対数をとることによって対数表示した二次元分布を示す図である。
図5】分布情報作成部および分布情報判定部の処理の流れを合わせて説明するための図である。
図6】中心座標を説明するための図である。
図7】第2のシンボル判定処理において一定の受信信号を除外することによる効果を説明するための図である。
図8】QPSKの場合におけるクラスタ分類を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0017】
(モールス通信の場合)
図1は、実施形態のシンボル判定方法が適用されたシンボル判定装置の構成例を示すブロック図である。
【0018】
実施形態のシンボル判定装置10は、受信信号aのシンボル判定を行うための装置であって、一次シンボル判定部20と、二次シンボル判定部30とを備えている。
【0019】
一次シンボル判定部20は、各受信信号のシンボル判定のために、受信信号aのおのおのを、いずれかのシンボルに属するように分類する第1のシンボル判定処理を行い、第1のシンボル判定結果bを出力する。ここでのシンボル判定処理は、非特許文献1に示す方法、その他一般の機械学習によるクラスタリング方法など、短時間の時系列情報を利用した任意の方法をとることができる。なお、本明細書ではシンボル判定を、短点、長点、文字内、文字間、単語間のいずれかに分類することと定義し、クラスタリングをマークと時系列的にその直後に連続するスペースを構成単位として6クラスタのいずれかに分類することと定義する。
【0020】
この分類では、モールス通信においてマークが1:3、スペースが1:3:7の比率となるのが原則であるため、例えば、マークが長さ2、長さ1と続いた場合は、長さ2のマークを長点、長さ1のマークを短点と判断する。しかし、例えば、10秒、20秒といったより長時間を観測した場合、長点のマークが長さ5であると判明したときには、長さ2のマークは短点に属することが正しい結果となるため、短時間の時系列情報のみを用いると分類を誤る。本例では前後のマークとスペースの組み合わせで説明したが、モールス通信の送信文字数が数文字程度の短時間の時系列情報でも同様である。
【0021】
受信信号aの一例は、モールス通信による受信信号である。
【0022】
以下では、受信信号aが、モールス通信による受信信号である場合を例に説明する。
【0023】
モールス通信による受信信号の場合、第1のシンボル判定結果bは、図2に例示するように、モールス通信におけるマークの長さとスペースの長さとの組み合わせによってXY平面上に二次元分布として描くことができる。
【0024】
図2は、モールス通信による受信信号の二次元分布の一例を示す図である。
【0025】
図2は、非特許文献1から引用した図であり、横軸がマークの持続時間(秒)、縦軸がスペースの持続時間(秒)である。モールス通信による受信信号は、前述したように、6つのクラスタからなる。したがって、モールス通信の第1のシンボル判定結果bは図2に例示するように、各受信信号を、6つのクラスタA、B、C、D、E、Fのいずれかに分類したものとなる。
【0026】
クラスタAは、短点が出現し、その直後に単語間スペースが出現した場合における受信信号の集合である。クラスタBは、短点が出現し、その後、文字間スペースが出現した場合における受信信号の集合である。クラスタCは、文字内スペースが出現した場合における受信信号の集合である。クラスタDは、長点が出現した後に、単語間スペースが出現した場合における受信信号の集合である。クラスタEは、長点が出現した後に、文字間スペースが出現した場合における受信信号の集合である。クラスタFは、文字内スペースが出現した場合における受信信号の集合である。
【0027】
二次シンボル判定部30は、受信信号aと第1のシンボル判定結果bから分布情報cを作成する分布情報作成部40と、分布情報cをもとに一次シンボル判定部20で判定したシンボルを必要に応じて修正する第2のシンボル判定処理を実施して、シンボル判定結果dを出力する分布情報判定部50から構成される。
【0028】
モールス通信の場合、マークが1:3、スペースが1:3:7の比率となるのが原則であるが、通常の軸でプロットすると、図2に例示するように、ユーザの癖や手ブレによって各クラスタの平均や分散がバラバラとなるため、シンボル判定が容易ではない。
【0029】
このため、分布情報作成部40は、図3に例示するように、二次元の分布情報cを構成する2つの座標軸のうち、図4に例示するように、少なくとも1つの座標軸が対数表示された分布情報を作成する。
【0030】
図3は、モールス通信による受信信号の二次元分布情報の別の例を示す図である。
【0031】
図4は、図3の縦軸と横軸との両方を、短点を基準に自然対数をとることによって対数表示した二次元分布情報を示す図である。
【0032】
図3および図4は、対数表示の効果を説明するための図であり、図3の縦軸および横軸の単位は、図2のものと同様である。
【0033】
図4のように対数をとることによって、図3と比較して、各クラスタ間の距離が等間隔に近くなるためどのクラスタに属しているのかが、より明確に表示される。
【0034】
分布情報判定部50は、一次シンボル判定部20による第1のシンボル判定処理の第1のシンボル判定結果bを必要に応じて修正する第2のシンボル判定処理を行うことで受信信号のシンボル判定を行い、最終的な出力であるシンボル判定結果dを出力する。分布情報作成部40および分布情報判定部50の処理について、図5を用いて説明する。
【0035】
図5は、分布情報作成部40および分布情報判定部50の処理の流れを合わせて説明するための図である。
【0036】
図5(I)~(V)に示す各二次元分布図は、簡略のために図4から受信信号が適宜間引かれたものであり、各二次元分布図における縦軸および横軸は、図4における縦軸および横軸と同じである。
【0037】
図5(I)は、分布情報作成部40によって作成された分布情報cの一例を示す図である。図5(I)~(V)では、短点を基準に、XY座標軸が正規化され、さらに自然対数がとられて表示されている。
【0038】
図5(II)は、図5(I)の情報に一次シンボル判定部20によってなされた第1のシンボル判定結果bが反映され表記された図である。すなわち、モールス通信による受信信号は、理想的には、前述したように6つのクラスタに分類されるので、図5(II)に示されるように、受信信号の6つの密集部分が、クラスタA、B、C、D、E、Fに分類される。図5(II)では、クラスタAに分類された受信信号が黒丸印のプロットで示されている。以下、クラスタBに分類された受信信号が×印で、クラスタCに分類された受信信号が四角印で、クラスタDに分類された受信信号が三角印で、クラスタEに分類された受信信号が白丸印で、クラスタFに分類された受信信号が逆三角印でそれぞれ示されている。
【0039】
ただし、この分類結果は、前述のとおり短時間の時系列情報に基づくため判定を誤っている可能性がある。
【0040】
そこで、分布情報判定部50は、図5(II)に例示されるような第1のシンボル判定処理の結果を必要に応じて修正するために、第2のシンボル判定処理を行う。
【0041】
分布情報判定部50は、第2のシンボル判定処理を行うために、まず、図5(II)のように二次元表示された分布情報cにおける各受信信号の座標を求めた後、クラスタ毎に、中心座標と、平均距離とを求める。中心座標とは、クラスタに属する各受信信号の各座標からの距離の合計が最小となる座標である。
【0042】
図6は、中心座標を説明するための図である。
【0043】
図6には、1つのクラスタに属する5つの受信信号の各座標S1~S5と、中心座標Gとが二次元表示された例が示されている。
【0044】
図6におけるL1~L5は、各座標S1~S5の、中心座標Gとの距離である。
【0045】
分布情報判定部50は、距離L1~L5の合計が最小となる座標を、中心座標Gとして決定する。
【0046】
分布情報判定部50はさらに、各受信信号の各座標S1~S5と中心座標Gとの間の平均距離を求める。すなわち、図6の例で説明すると、距離L1~L5の平均値が平均距離Laveである。
【0047】
分布情報判定部50は次に、図5(III)に例示するように、クラスタ毎に、中心座標Gを中心として、平均距離Laveを半径の基準とする円Rを描く。クラスタ毎に、中心座標Gは異なり、また、平均距離Laveも異なり得るので、図5(III)の例では、クラスタDについては比較的大きな半径の円Rが描かれる一方、クラスタEについては比較的小さな半径の円Rが描かれている。なお、本明細書では、円を総称的に説明する場合には、円Rと表現し、クラスタ毎の個別の円を説明する場合には、Rの後にクラスタを識別する接尾語を付すことによって、例えばクラスタAに対応する円Rについては、円Rのように表現するものとする。
【0048】
分布情報判定部50はさらに、図5(III)に例示するように、クラスタ毎にそのクラスタに属する受信信号の座標から最小二乗法等の手法を活用して回帰直線Y=αX+βを求める。ここで、Xはマーク軸、Yはスペース軸、αは傾き、βはY切片である。図5(III)ではクラスタ毎に求めた回帰直線を円と同様に回帰直線Lと表現する。
【0049】
そして、分布情報判定部50は、円R内に座標が含まれる受信信号を、この円Rに対応するクラスタに属すると判定する。
【0050】
一方、いずれの円R内にも座標が含まれない受信信号については、分布情報判定部50は、まず、一次シンボル判定部で分類されたクラスタに属する回帰直線から第2のシンボル判定による修正を実施するか否かを判定する。図5(III)の例において、座標S6の受信信号は一次シンボル判定部でクラスタAに属するため、回帰直線Lの傾きαと、回帰直線LからクラスタAに属する受信信号までの最短距離の分散値σと、座標S6から回帰直線Lまでの最短距離を求める。
【0051】
次に、分布情報判定部50は、回帰直線Lの傾きαが一定範囲内にあり、かつ、分散値σが一定範囲内にあるという条件を満たした上で、座標S6から回帰直線Lまでの最短距離が一定範囲内にある場合は、第2のシンボル判定処理として、第1のシンボル判定処理に基づく第1のシンボル判定結果を、そのままクラスタAとして確定する。
【0052】
分布情報判定部50は、上記の条件による拘束を与えることによって、通信速度が加速したり減速したりする特徴をもったモールス通信に対して第2のシンボル判定によってかえって誤りを増やす可能性を低減することができる。本条件による効果を説明するために図7に、図5において着目する受信信号を座標S7とした場合を示す。図7(III)の座標S7の受信信号はクラスタDに属しており、回帰直線Lの傾きαは1である。分散値σは小さく、すなわちクラスタDに属する受信信号は回帰直線Lで十分に説明できる。このような場合、座標S7の受信信号が回帰直線Lに近ければモールス通信は加速または減速することによるバラツキが支配的であるとして第2のシンボル判定処理として、第1のシンボル判定処理に基づくシンボル判定結果をそのまま確定した方が妥当である。
【0053】
そして、いずれの円R内にも座標が含まれない受信信号であって、上記条件を満たさなかった受信信号に対して、分布情報判定部50は、この受信信号の座標の最も近くに描かれている円Rに対応するクラスタに属すると判定し、第1のシンボル判定処理による結果を修正する。この判定方法の一例を、図5(IV)を用いて説明する。
【0054】
例えば、図5(IV)において座標S8は、円Rに含まれているので、二次シンボル判定部30は、座標S8に対応する受信信号がクラスタBに属していると判定する。すなわち、座標S8は、一次判定されたクラスタであるクラスタBに属することが確認された。
【0055】
一方、図5(IV)において座標S6は、どの円Rにも含まれていない。
【0056】
座標S6のように、どの円Rにも含まれていない座標に対して、分布情報判定部50はまず、第1のシンボル判定処理によって分類されたクラスタの円Rまでの最短距離を求める。
【0057】
座標S6は、第1のシンボル判定処理によってクラスタAに分類されているので、分布情報判定部50は、まず、クラスタAに対応する円Rまでの最短距離を求める。
【0058】
さらに、分布情報判定部50は、座標S6から、周囲に存在する他の円Rまでの最短距離をそれぞれ求める。周囲に存在する円Rは、単数に限定されず、複数である場合もあり得る。6つの円の全てとの最短距離を比較してもよいが、効率的に探索する一例として、ここでは第1のシンボル判定処理で分類されたクラスタの最近隣の上下左右のクラスタを候補に含める。
【0059】
例えば、図5(IV)に例示する場合、座標S6の周囲に存在する円R以外の円として、クラスタAの直下にクラスタBに対応する円RとクラスタAの右隣りにクラスタDに対応する円Rが存在する。このような場合、二次シンボル判定部40は、座標S6から、円Rまでの最短距離、円Rまでの最短距離をそれぞれ求める。
【0060】
図5(IV)では、以上の説明に関する例として、座標S6から、円Rまでの最短距離(1)、円Rまでの最短距離(2)、および円Rまでの最短距離(3)が示されている。
【0061】
最短距離(1)、(2)、(3)を比較すると、最短距離(3)が最も短い。したがって、分布情報判定部50は、座標S6に対応する受信信号を、クラスタBに属すると判定し、第1のシンボル判定処理による結果を修正する。
【0062】
このようにして、分布情報判定部50は、いずれの円R内にも座標が含まれないすべての受信信号について、回帰直線Lで説明できる受信信号を確定し、それ以外の受信信号に対してどの円Rに最も近いのかに基づいて、どのクラスタに属するのかを判定することによって、第1のシンボル判定処理の結果を修正する。なお、いずれの円R内にも座標が含まれない受信信号のうち、一部のみを修正対象にすることもでき、この場合の基準として、円Rまでの最短距離が一定値を超えないものを修正対象として絞るなど、様々な方法が考えられる。また、円R内に存在する受信信号のクラスタを先に確定し、残る受信信号を回帰直線の条件により絞るように順序を入れ替えて実施してもよい。
【0063】
非特許文献1では、モールス通信におけるクラスタ境界はマークよりもスペースの方が長短が激しく、分散が大きくなると報告されているが、上述したように、中心座標Gと平均距離Laveとを用いて円Rを描き、円Rからの最短距離に基づいて、受信信号が属しているクラスタを判定すれば、分散が大きくなるスペース側においても、高精度でクラスタ境界を判定できるようになる。
【0064】
以上説明したように、実施形態のシンボル判定装置10によれば、まず、第1のシンボル判定処理によって受信信号の一時的なシンボル判定を行い、次に、モールス通信による受信信号aおよび第1のシンボル判定結果bから分布情報cを作成し、必要に応じて、分布情報cの作成過程において短点等を基準とした正規化処理や、自然対数処理を行う。その後、分布情報cを用いて一定の条件にある受信信号のクラスタを確定して、第2のシンボル判定処理によって、第1のシンボル判定処理による第1のシンボル判定結果bの妥当性を確認するとともに、必要な場合には、第1のシンボル判定処理による結果を修正することができる。そのため、クラスタ境界に関する詳細な判定処理を容易に行いながらも、高い精度でクラスタを分類できるので、このクラスタ分類結果に基づいて、シンボル判定を高い精度で実施することが可能となる。
【0065】
なお、第2のシンボル判定処理は、図5(II)~(V)を用いて説明したような手法に限定されず、以下に説明するような他の任意の手法を適用することも可能である。
【0066】
例えば、第2のシンボル判定処理として、図5(II)~(V)を用いて説明したような処理に代えて、k-means法、群平均法、ウォード法のような一般的な機械学習のクラスタリング手法を適用することもできる。
【0067】
なお、これら一般的なクラスタリング手法を適用する場合、当業者によって認識されているような、各クラスタリング手法に応じた固有の前処理を実施することが必要となる。
【0068】
例えば、k-means法を使用する場合、前述したように、各クラスタが同じ大きさで分布していることが好ましい。また、受信信号の分布の形状が、あるクラスタについては円であり、他のクラスタについては楕円であるというような場合については適用しても改善は期待しにくい。
【0069】
また、モールス通信による受信信号の場合、マークが1:3、スペースが1:3:7の比率となっているため、そのままk-means法を実施するとクラスタリングの結果が適切とならない場合もあり得る。
【0070】
そこで、上述したように、例えば、短点を基準に正規化・自然対数をとるなどして正規化自然対数処理を行った後に実施するようにする。また、一次シンボル判定部20によって分類された各クラスタから、同数の受信信号を選択する。
【0071】
このような前処理を行った後にk-means法を適用して第2のシンボル判定処理を行うことによって、k-means法を適用した場合であっても、受信信号の分布情報を考慮でき、高い精度でシンボルを判定することが可能となる。
【0072】
また、上記では、ユーザの癖や手ブレ等の歪があるモールス通信のように分散が大きい受信信号の分布情報を考慮する場合、通常の軸でプロットすると、各受信信号の分散がバラバラとなるため、例えば、簡易な処理である正規化処理や対数処理をすることについて説明したが、計算コストが制約条件にならない場合は、代わりに、混合ガウス分布等を仮定してその分散を考慮することや、非特許文献2のようにKL距離を考慮して実施してもよい。
【0073】
(デジタル通信の場合)
上述したようなシンボル判定装置10は、モールス通信による受信信号のみならず、MPSK通信のような受信信号に対しても、同様に適用することが可能である。ただし、分布情報作成部40によって作成される分布情報は、図2図5図7に示されるようなXY平面による二次元の分布情報ではなく、複素平面(IQ平面)上における二次元の分布情報となる。
【0074】
図8は、QPSKの場合におけるクラスタ分類を説明するための図である。
【0075】
MPSK通信の場合、受信信号は、M個のクラスタに分類される。例えば、M=4であるQPSKの場合、図8に例示されるように、IQ平面上の4つの象限(00、01、10、11)によって画定される4つのクラスタに分類される。M=2であるBPSKの場合は、2つのクラスタに分類されることになる。
【0076】
このような違いがあるものの、実施形態のシンボル判定装置10は、本質的にはモールス通信による受信信号と同様に、クラスタ境界に関する詳細な判定処理を容易に行いながらも高い精度でクラスタを分類できるので、高い精度でシンボル判定を実施することが可能となる。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0078】
10・・・シンボル判定装置、20・・・一次シンボル判定部、30・・・二次シンボル判定部、40・・・分布情報作成部、50・・・分布情報判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8