(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】レーダ装置、干渉判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/36 20060101AFI20240805BHJP
G01S 7/40 20060101ALI20240805BHJP
G01S 13/95 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G01S7/36
G01S7/40 121
G01S13/95
(21)【出願番号】P 2019154729
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-03-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】青木 朝海
(72)【発明者】
【氏名】五味 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵一
(72)【発明者】
【氏名】和田 将一
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-160548(JP,A)
【文献】特開2011-059078(JP,A)
【文献】特開2010-175289(JP,A)
【文献】特開2010-014483(JP,A)
【文献】特開平05-113478(JP,A)
【文献】中国実用新案第204649960(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0265120(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0333475(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の観測範囲に向けて送信され
る送信パルス信号が反射され
る受信パルス信号を
第1時刻および前記第1時刻の直前の受信間隔における第2時刻に受信するレーダ装置であって、
前記
第1時刻に受信される受信パルス信号における偏波間の関係を示す
第1偏波間情報、
前記第2時刻に受信される受信パルス信号における偏波間の関係を示す第2偏波間情報、および前記
第1偏波間情報
および前記第2偏波間情報の差分と、を算出し、
前記差分に基づいて前記受信パルス信号
が前記送信パルス信号とは異なる信号により干渉を受け
ているか否かを判定する、処理部を備える、レーダ装置。
【請求項2】
前記処理部は、
前記第1時刻に受信され
る受信パルス信号
における偏波間の関係を示す前記第1偏波間情報および前記第1時刻の直前の受信となる
前記第2時刻に受信される受信パルス信号における
偏波間の関係を示す第2偏波間情報の前記差分が第1閾値よりも大きい第1条件を満たした場合には、前記差分に基づいて前記受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定し、前記第1条件を満たさない場合は干渉を受けていないと判定する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記第2時刻に受信され
る受信パルス信号
における偏波間の関係を示す前記第2偏波間情報および前記第2時刻の直前の受信となる第3時刻に受信される受信パルス信号における
偏波間の関係を示す第3偏波間情報の差分が第2閾値未満である第2条件および前記第1条件を満た
す場合には、前記受信パルス信号は干渉を受けたと判定し、前記第1条件及び前記第2条件の少なくとも一方を満たさない場合には、前記受信パルス信号は干渉を受けていないと判定する、請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記受信パルス信号の電力を示す信号レベルを算出し、
前記信号レベルおよび雑音の電力を示す雑音レベルとのレベル差を算出し、
前記レベル差にさらに基づいて、前記受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記レベル差が第3閾値未満である場合、干渉を受けていないと判定し、前記レベル差が前記第3閾値以上である場合、
前記差分に基づいて前記受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定する、請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記受信パルス信号の電力を示す信号レベルを算出し、
異なる時刻における前記信号レベルのレベル差を算出し、
前記レベル差に基づいて雑音の影響を判定し、
判定した前記雑音の影響にさらに基づいて、前記受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記処理部は、
前記第1時刻に受信され
る受信パルス信号の信号レベルおよび前記第1時刻の直前の受信となる
前記第2時刻に受信され
る受信パルス信号の信号レベルとのレベル差が第4閾値より大きい第3条件と、前記第2時刻に受信される受信パルス信号の信号レベルおよび前記第2時刻の直前の受信となる第3時刻に受信され
る受信パルス信号の前記信号レベルとのレベル差が第5閾値未満である第4条件と、を満たした場合には、前記差分に基づいて干渉を受けたか否かを判定し、前記第3条件及び前記第4条件の少なくとも一方を満たさない場合には、前記受信パルス信号が干渉を受けていないと判定する、請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記受信パルス信号が干渉を受けているか否かの判定結果を示す情報を出力する出力部をさらに備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
所定の観測範囲に向けて送信パルス信号を送信し、前記送信パルス信号が前記観測範囲で反射され
る受信パルス信号を受信するレーダ装置であって、
第1時刻および第2時刻に前記受信パルス信号を受信する受信部と、
前記送信パルス信号の送信および前記受信パルス信号の受信を切り替える切替器と、
前記受信パルス信号に基づいて、前記受信パルス信号に対応する前記送信パルス信号を復元し、
復元された前記送信パルス信号に基づいて、前記
第1時刻に受信される受信パルス信号における偏波間の関係を示す
第1偏波間情報
、前記第2時刻に受信される受信パルス信号における偏波間の関係を示す第2偏波間情報を算出し、
前記
第1偏波間情報
および前記第2偏波間情報の少なくとも一方に基づいて、前記送信パルス信号における偏波間の関係を示す偏波間情報を制御する制御情報を算出し、
前記
第1偏波間情報
および前記第2偏波間情報の差分と、を算出し、
前記差分に基づいて、前記受信パルス信号
が前記送信パルス信号とは異なる信号により干渉を受け
ているか否かを判定する、処理部と、を備える、レーダ装置。
【請求項10】
前記処理部は、前記送信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号を復元し、
前記送信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号に基づいて、
前記第1時刻に受信される前記受信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号の
前記第1偏波間情報と前記第2時刻に受信される前記受信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号の前記第2偏波間情報とを算出し、
前記受信パルス信号における
前記第1偏波間情報及び前記第2偏波間情報に基づいて、前記送信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波間情報を制御する前記制御情報を算出する、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記制御情報は、前記送信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号の、振幅および位相の少なくとも一方を制御する情報であり、
前記処理部は、前記制御情報を前記送信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号に乗じることにより、前記送信パルス信号の前記偏波間情報を制御する、請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記処理部は、前記送信パルス信号における前記水平偏波信号及び前記垂直偏波信号の前記偏波間情報が、
前記第1時刻に受信される前記受信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号の
前記第1偏波間情報及び前記第2時刻に受信される前記受信パルス信号における水平偏波信号及び垂直偏波信号の前記第2偏波間情報と所定値以上異なるように、前記制御情報を算出する、請求項10又は11に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記処理部は、前記制御情報に基づいて、前記送信パルス信号を制御し、
前記切替器は、制御された前記送信パルス信号をアンテナに送出する、請求項9乃至12のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記受信パルス信号が
前記送信パルス信号とは異なる信号により干渉を受けているか否かを判定された結果を示す情報を出力する出力部をさらに備える、請求項9乃至13のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記処理部は、観測対象の粒子が液体であるか固体であるかを判定し、
液体と判定した場合、前記差分に基づいて前記受信パルス信号が
前記送信パルス信号とは異なる信号により干渉を受けたか否かを判定し、固体と判定した場合、前記差分に基づいて前記受信パルス信号が
前記送信パルス信号とは異なる信号により干渉を受けたか否かを判定しない、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記受信パルス信号は、水平偏波信号及び垂直偏波信号を含んでおり、
前記受信パルス信号の
前記第1偏波間情報及び前記第2偏波間情報は、水平偏波信号及び垂直偏波信号についての偏波間位相差、レーダ反射因子、偏波間位相係数、又は偏波間位相差変化率の少なくとも一つを含む情報である、請求項1乃至15のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項17】
所定の観測範囲に向けて送信される送信パルス信号が反射され
る受信パルス信号を
第1時刻および前記第1時刻の直前の受信間隔における第2時刻に受信するレーダ装置における干渉判定方法であって、
前記
第1時刻に受信される受信パルス信号における偏波間の関係を示す
第1偏波間情報、
前記第2時刻に受信される受信パルス信号における偏波間の関係を示す第2偏波間情報、および前記
第1偏波間情報
および前記第2偏波間情報の差分と、を算出し、
前記差分に基づいて前記受信パルス信号
が前記送信パルス信号とは異なる信号により干渉を受け
ているか否かを判定する、干渉判定方法。
【請求項18】
所定の観測範囲に向けて送信され
る送信パルス信号が反射され
る受信パルス信号を
第1時刻および前記第1時刻の直前の受信間隔における第2時刻に受信するレーダ装置を制御するプログラムであって、
コンピュータに、
前記
第1時刻に受信される受信パルス信号における偏波間の関係を示す
第1偏波間情報、
前記第2時刻に受信される受信パルス信号における偏波間の関係を示す第2偏波間情報、および前記
第1偏波間情報
および前記第2偏波間情報の差分と、を算出する手順と、
前記差分に基づいて前記受信パルス信号
が前記送信パルス信号とは異なる信号により干渉を受け
ているか否かを判定する手順と、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーダ装置及び干渉判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置では、観測エリア内に山やビルなどの遮蔽物があると、その後方に不感地帯が発生することに加えて、データ精度が低下しやすいという問題がある。このため、観測範囲の狭い複数台のレーダ装置で漏れなく観測を行うことが望ましい。その一方で、複数台のレーダ装置を配置すると、他のレーダサイト等からの信号が干渉信号となり、データ精度が低下するという問題が生じる。
【0003】
データ精度を向上させる一方策として、干渉信号と雨粒からの所望の反射信号との信号レベルの差異に着目して、閾値を適切に設定することで、干渉信号を除去することが考えられるが、干渉信号と所望の反射信号との信号レベル差に大きな差異がない場合には、干渉信号を除去することができず、データ精度が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、受信時に干渉を受けたか否かを精度よく判定できるレーダ装置及び干渉判定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態によれば、所定の観測範囲に向けて送信された送信パルス信号が反射された受信パルス信号を受信するレーダ装置であって、
前記受信パルス信号における偏波間の関係を示す偏波間情報、および前記受信パルス信号における前記偏波間情報の差分を算出し、
前記偏波間情報の差分に基づいて前記受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定する、処理部を備える、レーダ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態によるレーダ装置内の主要部分の構成を示すブロック図。
【
図2】偏波間情報として偏波間位相差を用いる例を示す図。
【
図3】
図1のレーダ装置の処理動作の一例を示すフローチャート。
【
図4】
図1の干渉判定部の後段側に干渉除去部と雨量推定部を追加した一変形例によるレーダ装置のブロック図。
【
図5】受信系統及び送信系統を備えたレーダ装置のブロック図。
【
図6】第2の実施形態によるレーダ装置の概略構成を示すブロック図。
【
図7】
図6のレーダ装置の処理動作の一例を示すフローチャート。
【
図8】第2の実施形態の一変形例によるレーダ装置の概略構成を示すブロック図。
【
図9】
図8のレーダ装置の処理動作の一例を示すフローチャート。
【
図10】第3の実施形態によるレーダ装置の概略構成を示すブロック図。
【
図12】
図10のレーダ装置の処理動作の一例を示すフローチャート。
【
図13】
図10の構成に干渉判定に関する処理部を追加したブロック図。
【
図14】第4の実施形態によるレーダ装置の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、レーダ装置及び干渉判定方法の実施形態について説明する。以下では、レーダ装置及び干渉判定方法の主要な構成部分を中心に説明するが、レーダ装置には、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態によるレーダ装置1内の主要部分の構成を示すブロック図である。
図1のレーダ装置1は、必須の構成部分として、偏波間情報差算出部2と干渉判定部3とを備えている。
【0010】
図1のレーダ装置1は、所定の観測範囲に向けて複数の時刻に送信された複数の送信パルス信号に応じて観測範囲から反射された複数の受信パルス信号を受信するものである。
図1のレーダ装置1は、例えば気象を予測するために用いられ、観測範囲は、例えばレーダ装置1を中心とする環状の領域である。なお、レーダ装置1の用途は任意であり、観測範囲のサイズも任意である。
【0011】
偏波間情報差算出部2は、受信パルス信号における偏波間の関係を示す偏波間情報、および受信パルス信号における前記偏波間情報の差分を算出する。より具体的には、偏波間情報差算出部2は、複数の受信パルス信号の受信間隔(PRI:Pulse Repetition Interval)での受信パルス信号の偏波間情報の差分を算出する。偏波間情報は、例えば偏波間情報算出部4で算出される情報である。偏波間情報算出部4は、アンテナ5の受信信号に基づいて、偏波間情報を算出する。
【0012】
図1のレーダ装置1は、アンテナ5でのIQ検波部6を備えている。IQ検波部6は、アンテナ5の受信信号に対してIQ(直交)検波処理を行う。より具体的には、IQ検波部6は、アンテナ5の受信信号である水平偏波信号と垂直偏波信号の各偏波信号に対してIQ検波処理を行う。
【0013】
上述した偏波間情報算出部4は、IQ検波部6でIQ検波された水平偏波信号と垂直偏波信号から偏波間情報を算出する。偏波間情報は、例えば以下の式(1)で表される偏波間位相差φdp、式(2)で表されるレーダ反射因子差Zdr、式(3)で表される偏波間相関係数ρhv、及び式(4)で表される偏波間位相差変化率Kdpの少なくとも一つを有する。
φdp=φh-φv …(1)
Zdr=Zh-Zv …(2)
ρhv=E[Sh×Sv*]/[sqrt(zh×zv)] …(3)
Kdp=[φdp(r2)-φdp(r1)]/[2×(r2-r1)] …(4)
【0014】
式(1)の偏波間位相差φdpは、水平偏波信号の位相φhと垂直偏波信号φvの位相差である。式(2)のレーダ反射因子差Zdrは、水平偏波信号の強度のデシベル値Zhと垂直偏波信号の強度のデシベル値Zvの差である。式(3)の偏波間相関係数ρhvとは、水平偏波信号Shと垂直偏波信号Svとの相関である。式(3)のE[ ]は時間平均、「*」は複素共役、sqrt[ ]は平方根を表す。zhは水平偏波信号の平均電力、zvは垂直偏波信号の平均電力である。式(4)の偏波間位相差変化率Kdpは、伝送経路上の二点間(r1,r2)を往復する間に生じる偏波間位相差の単位距離当たりの差である。
【0015】
偏波間情報は、微弱な干渉信号との識別性能に優れており、干渉信号が発生したとしても、偏波間情報は変化し難い。
【0016】
偏波間情報差算出部2は、観測範囲内の着目位置の偏波間情報のヒット間の差分を算出する。ここで、ヒット間の差分とは、受信パルス信号の受信間隔における受信パルス信号の偏波間情報の差分である。
【0017】
干渉判定部3は、偏波間情報差算出部2で算出された偏波間情報の差分に基づいて、複数の受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定し、判定結果を示す信号処理データを出力する。すなわち、干渉判定部3は、第1時刻に受信された受信パルス信号および第1時刻の直前の受信となる第2時刻に受信された受信パルス信号における偏波間情報の差分が第1閾値よりも大きい第1条件を満たした場合には、偏波間情報の差分に基づいて受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定し、第1条件を満たさない場合は干渉を受けていないと判定する。より具体的には、干渉判定部3は、着目している時刻(第1時刻)に受信された受信パルス信号の偏波間情報と、第1時刻の直前の第2時刻に受信された受信パルス信号の偏波間情報との差分(偏波間情報差1)が第1閾値より大きい第1条件と、第2時刻に受信された受信パルス信号の偏波間情報と、第2時刻の直前の第3時刻に受信された受信パルス信号の偏波間情報との差分(偏波間情報差2)が第2閾値未満である第2条件とを満たすか否かを判定する。すなわち、干渉判定部3は、第2時刻に受信された受信パルス信号および第2時刻の直前の受信となる第3時刻に受信された受信パルス信号における偏波間情報の差分が第2閾値未満である第2条件および第1条件を満たした場合には、受信パルス信号は干渉を受けたと判定し、第1条件及び第2条件の少なくとも一方を満たさない場合には、受信パルス信号は干渉を受けていないと判定する。上述した第1条件と第2条件は、以下の式(5)と式(6)の両方を満たすことを意味する。
偏波間情報差1>第1閾値 …(5)
偏波間情報差2<第2閾値 …(6)
【0018】
干渉判定部3は、式(5)の第1条件と式(6)の第2条件をともに満たす場合に、受信パルス信号は干渉を受けたと判定する。また、干渉判定部3は、第1条件と第2条件の少なくとも一方を満たさない場合には、受信パルス信号は干渉を受けていないと判定する。
【0019】
図1のレーダ装置1における、IQ検波部6、偏波間情報算出部4、偏波間情報差算出部2、及び干渉判定部3の各処理は、後述する信号処理部(処理部とも呼ぶことがある)によって行うことができる。
【0020】
図2は偏波間情報として偏波間位相差を用いる例を示す図である。
図2の横軸は干渉混信が起きる範囲内のヒット番号、縦軸は偏波間位相差[deg]である。ヒット番号とは、受信パルス信号の識別番号である。
図2では、雨粒で反射された降水エコー信号(所望信号とも呼ぶ)の平均S/Nを20dB、干渉信号の平均S/Nを26dBとした場合の受信パルス信号の偏波間位相差を図示している。
図2では、降水エコー信号の偏波間位相差の基準値(真値)を0[deg]、干渉信号の偏波間位相差の基準値すなわち真値を180[deg]としている。
【0021】
図2によれば、干渉信号の受信時以外の偏波間位相差の平均値は-0.79[deg]、所望信号の真値に対する変動は50[deg]以下であることがわかる。また、干渉信号の受信時の偏波間位相差の平均値は119[deg]、所望信号の真値に対する変動値は90[deg]以上である。よって、干渉の有無により、偏波間位相差の平均値に120[deg]もの差異が生じている。
【0022】
図2の結果から、所望信号と干渉信号との電力差が6dBと小さくても、干渉の有無で偏波間情報に有意な差が発生することがわかる。よって、偏波間情報の値を検出することで、干渉信号の有無を見逃すおそれを軽減できる。このように、受信パルス信号が微弱な干渉を受けた場合でも、受信パルス信号の偏波間情報を算出すると、偏波間情報は大きく変化する。したがって、偏波間情報の変化により、受信パルス信号が干渉を受けたか否かを精度よく判定できる。
【0023】
図3は
図1のレーダ装置1の処理動作の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定の観測範囲からの受信パルス信号を受信している間、継続して実行される。
【0024】
まず、IQ検波部6は、アンテナ5の受信信号をIQ検波して水平偏波信号と垂直偏波信号を出力し、偏波間情報算出部4は、IQ検波された水平偏波信号と垂直偏波信号に基づいて、偏波間情報を算出する(ステップS1)。偏波間情報とは、上述したように、偏波間位相差、レーダ反射因子差、偏波間相関係数、及び偏波間位相差変化率の少なくとも一つを含む。
【0025】
次に、偏波間情報差算出部2は、偏波間情報のヒット間の差分を算出する(ステップS2)。より詳細には、偏波間情報差算出部2は、受信パルス信号の受信間隔の間に変化する偏波間情報の差分を算出する。
【0026】
次に、干渉判定部3は、上述した式(5)と式(6)の両方の条件を満たすか否かを判定する(ステップS3)。干渉判定部3は、式(5)と式(6)の両方の条件を満たす場合には、干渉ありと判定し(ステップS4)、少なくともいずれか一つの条件を満たさない場合には、干渉なしと判定する(ステップS5)。
【0027】
図4は
図1の干渉判定部3の後段側に干渉除去部7と雨量推定部8を追加した一変形例によるレーダ装置1のブロック図である。
図4のレーダ装置1は、雨量を推定する用途に使用される気象レーダ装置の例を示している。
【0028】
干渉除去部7は、干渉判定部3にて干渉を受けていると判定された受信パルス信号を除去し、干渉を受けていないと判定された受信パルス信号をそのまま出力する。雨量推定部8は、干渉除去部7から出力された受信パルス信号に基づいて雨量を推定する。
【0029】
図1及び
図4のレーダ装置1は、受信系統のブロック構成しか図示していないが、送信系統のブロック構成を追加することができる。
図5は受信系統及び送信系統を備えたレーダ装置1のブロック図である。
図5のレーダ装置1は、アンテナ5と、送受切替部11と、電力増幅部12と、低雑音増幅部13と、周波数変換部14と、信号処理部15と、送信制御部16と、データ変換部17と、データ表示部18と、データ蓄積部19とを備えている。
【0030】
送信制御部16は、パルス幅、チャープ幅、テーパ率等の所要の制御を施した送信デジタル信号を生成する。信号処理部15は、送信デジタル信号をアナログ送信信号に変換する。周波数変換部14は、信号処理部15が変換したアナログ送信信号の周波数をアップコンバートする。電力増幅部12は、アップコンバートされたアナログ送信信号を増幅する。電力増幅部12で増幅されたアナログ送信信号は、送受切替部11を介して、アンテナ5から送信される。送受切替部11は、電力増幅部12で増幅された送信信号をアンテナ5に送るか、アンテナ5の受信信号を低雑音増幅部13に送るかを切り替える。
【0031】
アンテナ5は、所定の観測範囲内に複数の送信パルス信号を送ることを想定している。アンテナ5は回転可能であり、アンテナ5の回転方向に応じて、送信パルス信号の送信方向及び受信パルス信号の受信方向が変化する。アンテナ5が静止している状態では、同一の観測範囲に送信パルス信号が複数回送信される。アンテナ5が回転している状態では、アンテナ5の回転速度に応じて、送信パルス信号が送信される観測範囲が変化する。
図5のレーダ装置1を気象レーダの用途に用いる場合、観測対象は、所定の観測範囲内に存在する降雨粒子である。アンテナ5から送信された送信パルス信号は、降雨粒子で反射されて、その受信パルス信号がレーダ装置1で受信される。
【0032】
図5のレーダ装置1内の受信系統における低雑音増幅部13は、アンテナ5の微弱な受信信号レベルを増幅する。周波数変換部14は、低雑音増幅部13で増幅された受信信号の周波数を低くするダウンコンバートを行う。
【0033】
信号処理部15は、ダウンコンバートされた受信信号に対する各種の信号処理を行う。より具体的には、信号処理部15は、ダウンコンバートされた受信信号に対して、アナログデジタル変換、IQ検波、偏波間情報算出、干渉検出、干渉除去、受信電力算出、ドップラ速度算出等の各種の信号処理を行う。上述した
図1及び
図4に図示した各ブロックの処理は、信号処理部15で行われる。信号処理部15は、信号処理プロセッサなどのハードウェアで構成されていてもよいし、信号処理部15の少なくとも一部の処理をCPU(Central Processing Unit)がソフトウェア処理として実行してもよい。
より具体的には、信号処理部15は、偏波間情報の差分に基づいて受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定する。また、信号処理部15は、第1時刻に受信された受信パルス信号および第1時刻の直前の受信となる第2時刻に受信された受信パルス信号における偏波間情報の差分が第1閾値よりも大きい第1条件を満たした場合には、偏波間情報の差分に基づいて受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定し、第1条件を満たさない場合は干渉を受けていないと判定することができる。また、信号処理部15は、第2時刻に受信された受信パルス信号および第2時刻の直前の受信となる第3時刻に受信された受信パルス信号における偏波間情報の差分が第2閾値未満である第2条件および第1条件を満たした場合には、受信パルス信号は干渉を受けたと判定し、第1条件及び第2条件の少なくとも一方を満たさない場合には、受信パルス信号は干渉を受けていないと判定することができる。
【0034】
データ変換部17は、信号処理部15が処理したデータの変換処理を行い、その結果をデータ表示部18及びデータ蓄積部19に送る。データ表示部18は、信号処理部15が処理してデータ変換部17が変換したデータを表示する。データ蓄積部19は、信号処理部15が処理してデータ変換部17が変換したデータを記録媒体に蓄積する。データ蓄積部19は、レーダ装置1の内部に限られず、レーダ装置1の外部に接続されるものでもよいし、インターネットなどを通じたクラウドなどでもよい。また、データ変換部17は、変換処理したデータをデータ表示部18やデータ蓄積部19に送る他、レーダ装置1の内部または外部に電子機器に出力するようにしてもよい。この電子機器は、例えば変換処理したデータを表示する機器であってもよいし、分析、解析する機器であってもよい。なお、データ変換部17がデータ表示部18やデータ蓄積部19に送ることも、出力に含まれる。
【0035】
このように、第1の実施形態では、微弱干渉の影響に敏感な偏波間情報に基づいて、複数の受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定するため、干渉を受けたか否かを高精度に判定できる。
【0036】
(第2の実施形態)
偏波間情報のみでは、雑音を干渉と誤検出するおそれがある。すなわち、一般に雑音の偏波間情報は、受信パルス信号を受信するたびにランダムに変動するため、雑音があると、受信パルス信号同士の偏波間情報の差分は増大しやすくなり、偏波間情報の差分のみでは雑音と干渉を区別するのが困難である。雑音を干渉と誤判定した場合、レーダ装置1内の干渉判定部3の後段側に雑音と干渉を識別して除去するブロックを設ける必要があり、レーダ装置1の構成が複雑になることに加えて、干渉を識別して除去するブロックを設けたとしても、精度よく干渉を除去できる保証はない。
【0037】
図6は第2の実施形態によるレーダ装置1の概略構成を示すブロック図である。
図6のレーダ装置1は、
図1の構成部分に加えて、信号レベル算出部21と、信号対雑音レベル差算出部22と、第1雑音判定部23と、を備えている。
【0038】
信号レベル算出部21は、複数の受信パルス信号の電力を表す信号レベルを算出する。より詳細には、信号レベル算出部21は、IQ検波部6でIQ検波処理を行った水平偏波信号及び垂直偏波信号の信号レベルをそれぞれ算出する。信号レベル算出部21で算出された信号レベルは、信号対雑音レベル差算出部22に入力される。
【0039】
信号対雑音レベル差算出部22は、水平偏波信号及び垂直偏波信号の信号レベルと、雑音の電力を示す雑音レベルとのレベル差を算出する。より詳細には、信号対雑音レベル差算出部22は、水平偏波信号の信号レベルPhと雑音レベルNhとのレベル差Ph/Nhを算出するとともに、垂直偏波信号の信号レベルPvと雑音レベルNvとのレベル差Pv/Nvを算出する。信号対雑音レベル差算出部22で算出されたレベル差は、第1雑音判定部23に入力される。
【0040】
第1雑音判定部23は、信号対雑音レベル差算出部22で算出されたレベル差に基づいて雑音の影響を判定する。より具体的には、第1雑音判定部23は、レベル差が所定の閾値以下か否かを判定する。信号対雑音レベル差算出部22が水平偏波信号と垂直偏波信号に分けてレベル差を算出した場合、第1雑音判定部23は、両方のレベル差がそれぞれ対応する閾値以下か否かを判定する。
【0041】
干渉判定部3は、第1雑音判定部23の判定結果に基づいて、複数の受信パルス信号が干渉を受けていないか否かを判定する。より具体的には、干渉判定部3は、第1雑音判定部23にてレベル差が第3閾値未満と判定されると、干渉なしと判定し、第1雑音判定部23にてレベル差が第3閾値以上と判定されると、偏波間情報の差分に基づいて複数の受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定する。
【0042】
図7は
図6のレーダ装置1の処理動作の一例を示すフローチャートである。まず、信号レベル算出部21は、IQ検波部6でIQ検波された水平偏波信号及び垂直偏波信号の信号レベルを算出する(ステップS11)。信号レベル算出部21が算出する信号レベルは、電力レベルでもよいし、振幅レベルでもよい。信号レベルは、信号強度を類推できる値であれば、その他の物理量でもよい。
【0043】
次に、信号対雑音レベル差算出部22は、複数の受信パルス信号の各受信間隔での信号レベルと雑音レベルとのレベル差(信号対雑音レベル差)を算出する(ステップS12)。雑音レベルは、事前に測定した各偏波信号の平均的な雑音レベルを用いてもよいし、無音区間データから運用中に計算した値でもよい。より詳細には、このステップS12では、上述したように、各受信パルス信号の水平偏波信号の信号レベルPhと雑音レベルNhとのレベル差Ph/Nhと、垂直偏波信号の信号レベルPvと雑音レベルNvとのレベル差Pv/Nvとを算出する。
【0044】
次に、第1雑音判定部23は、ステップS12で算出された信号対雑音レベル差が第3閾値未満か否かを判定する(ステップS13)。より詳細には、第1雑音判定部23は、レベル差Ph/Nhが水平偏波信号用の第3閾値未満で、かつレベル差Pv/Nvが水平偏波信号用の第3閾値未満か否かを判定する。
【0045】
干渉判定部3は、ステップS13の判定結果がYESであれば、雑音の可能性が高いことから、干渉なしと判定する(ステップS14)。より詳細には、干渉判定部3は、レベル差Ph/Nhが第3閾値未満で、かつレベル差Pv/Nvが第3閾値未満の場合に、干渉なしと判定する。
【0046】
ステップS13の判定結果がNOの場合は、
図3のステップS2~S6と同様の処理が行われる(ステップS15~S18、S14)。すなわち、各受信パルス信号の各偏波信号の信号レベルと雑音レベルとのレベル差が第3閾値以上であれば、受信パルス信号の水平偏波信号と垂直偏波信号の偏波間情報の大小によって、干渉があるか否かを判定する。
【0047】
このように、
図7の処理では、各受信パルス信号の各偏波信号の信号レベルと雑音レベルとのレベル差が第3閾値未満であれば、干渉なしと判定するため、雑音信号を誤って干渉信号と判断するおそれを低減できる。
【0048】
図6及び
図7では、雑音レベルを何らかの手段で検出した後に、信号レベルと雑音レベルとのレベル差を算出する例を示したが、雑音レベル自体を検出せずに、信号レベルの一時的な変動により雑音レベルを推定することも考えられる。
【0049】
図8は第2の実施形態の一変形例によるレーダ装置1の概略構成を示すブロック図である。
図8のレーダ装置1は、
図6の信号対雑音レベル差算出部22の代わりに信号レベル差算出部24を備え、第1雑音判定部23の代わりに第2雑音判定部25を備えている。
【0050】
信号レベル差算出部24は、異なる時刻での信号レベルのレベル差を算出する。より詳細には、信号レベル差算出部24は、着目している第1時刻に受信された受信パルス信号の偏波信号の信号レベルと、第1時刻の直前の第2時刻に受信された受信パルス信号の偏波信号の信号レベルとの差分1と、第2時刻に受信された受信パルス信号の偏波信号の信号レベルと、第2時刻の直前の第3時刻に受信された受信パルス信号の偏波信号の信号レベルとの差分2とを算出する。偏波信号が水平偏波信号と垂直偏波信号とを含んでいる場合には、水平偏波信号と垂直偏波信号のそれぞれについて、差分1と差分2を算出する。
【0051】
第2雑音判定部25は、信号レベル差算出部24で算出されたレベル差に基づいて、雑音の影響を判定する。より詳細には、第2雑音判定部25は、着目している第1時刻に受信された受信パルス信号の信号レベルと、第1時刻の直前の第2時刻に受信された受信パルス信号の信号レベルとの差分(信号レベル差1)が第4閾値より大きい第3条件と、第2時刻に受信された受信パルス信号の信号レベルと、第2時刻の直前の第3時刻に受信された受信パルス信号の信号レベルとの差分(信号レベル差2)が第5閾値未満である第4条件とを満たすか否かを判定する。これらの第3条件と第4条件は、以下の式(7)と式(8)で表される。
信号レベル差1>第4閾値 …(7)
信号レベル差2<第5閾値 …(8)
【0052】
第2雑音判定部25は、式(7)の第3条件と式(8)の第4条件とをともに満たす場合に、干渉の可能性があると判断する。第2雑音判定部25は、第3条件と第4条件の少なくとも一方を満たさない場合には、受信パルス信号は干渉を受けていないと判定する。
【0053】
第4閾値と第5閾値は、干渉と雑音とを区別するために必要最小限の値に設定しておくことで、雑音や降水エコーを誤って干渉信号として誤検出する可能性を減らせる。
【0054】
図9は
図8のレーダ装置1の処理動作の一例を示すフローチャートである。まず、信号レベル算出部21は、IQ検波部6でIQ検波された水平偏波信号と垂直偏波信号の信号レベルを算出する(ステップS21)。次に、信号レベル差算出部24は、着目している時刻(第1時刻)での受信信号パルスの信号レベルと、その直前の第2時刻での受信パルス信号の信号レベルとの差分(信号レベル差1)を算出する。同様に、信号レベル差算出部24は、第2時刻での受信信号パルスの信号レベルと、その直前の第3時刻での受信パルス信号の信号レベルとの差分(信号レベル差2)を算出する(ステップS22)。
【0055】
次に、雑音判定部は、式(7)の第3条件と式(8)の第4条件を両方とも満たすか否かを判定する(ステップS23)。ステップS23の条件の少なくとも一つを満たさない場合、干渉なしと判定する(ステップS24)。
【0056】
なお、より詳細には、上述したステップS22では、受信パルス信号の水平偏波信号と垂直偏波信号のそれぞれについての信号レベル差1と信号レベル差2を算出し、各偏波信号ごとに式(7)の第3条件と式(8)の第4条件を満たすか否かを判定し、いずれか一つの条件でも見たなさい場合は、干渉なしと判定する。
【0057】
ステップS23のすべての条件を満たす場合、
図3のステップS2~S6と同様の処理を行う(ステップS25~S28、S23)。
【0058】
上述した
図6及び
図8のレーダ装置1の処理は、
図5のレーダ装置1内の信号処理部15で行ってもよい。この場合、
図6及び
図8のレーダ装置1の処理を、
図5の信号処理部15がハードウェアで実施してもよいし、少なくとも一部の処理をソフトウェアで実施してもよい。また、
図6及び
図8のレーダ装置1内の干渉判定部3の後段側に、
図4の干渉除去部7と雨量推定部8を設けてもよい。
【0059】
より具体的には、信号処理部15は、アンテナで受信された受信パルス信号の電力を示す信号レベルを算出し、信号レベルおよび雑音の電力を示す雑音レベルとのレベル差を算出し、レベル差にさらに基づいて、受信パルス信号が干渉を受けていないか否かを判定する。また、信号処理部15は、レベル差が第3閾値未満である場合、干渉を受けていないと判定し、レベル差が第3閾値以上である場合、偏波間情報の差分に基づいて受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定することができる。また、信号処理部15は、アンテナで受信された受信パルス信号の電力を示す信号レベルを算出し、異なる時刻における信号レベルのレベル差を算出し、レベル差に基づいて雑音の影響を判定し、判定した雑音の影響にさらに基づいて、受信パルス信号が干渉を受けていないか否かを判定することができる。また、信号処理部15は、第1時刻に受信された受信パルス信号の信号レベルおよび第1時刻の直前の受信となる第2時刻に受信された受信パルス信号の信号レベルとのレベル差が第4閾値より大きい第3条件と、第2時刻に受信された受信パルス信号の信号レベルおよび第2時刻の直前の受信となる第3時刻に受信された受信パルス信号の信号レベルとのレベル差が第5閾値未満である第4条件と、を満たした場合には、受信パルス信号は偏波間情報の差分に基づいて干渉を受けたか否かを判定し、第3条件及び第4条件の少なくとも一方を満たさない場合には、受信パルス信号干渉を受けていないと判定することができる。
【0060】
このように、第2の実施形態では、信号対雑音レベル差算出部22又は信号レベル差算出部24を設けて、雑音と判断できる場合には干渉なしと判断するようにしたため、雑音信号を干渉信号と誤って判断するおそれを低減できる。
【0061】
(第3の実施形態)
第1及び第2の実施形態では、偏波間情報の差分に基づいて受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定しているが、場合によっては、本来検出するべき所望信号と干渉信号の偏波間情報が同等になる場合がある。この場合、偏波間情報の差分が小さくなり、干渉信号の検出精度が低下してしまう。そこで、第3の実施形態では、所望信号と干渉信号の偏波間情報の差分に有意な差を生じさせるような送信パルス信号を送信することで、確実に干渉を検出するものである。
【0062】
図10は第3の実施形態によるレーダ装置1の概略構成を示すブロック図、
図11は
図10のレーダ装置1の処理動作を模式的に示す図である。
【0063】
図11に示すように、
図10のレーダ装置1が少なくとも2台設けられており、2台とも同一の観測範囲に送信パルス信号を送信している。このとき、一方のレーダ装置1が他方のレーダ装置1に干渉信号を与える与干渉レーダ装置1aであり、他方のレーダ装置1が与干渉レーダ装置1aからの干渉信号を受ける被干渉レーダ装置1bである。
【0064】
本実施形態では、被干渉レーダ装置1bが偏波間情報を算出する際に、被干渉レーダ装置1bが本来受信するべき受信パルス信号(所望信号)と与干渉レーダ装置1aからの送信パルス信号(干渉信号)とを確実に識別できるように、所望信号と干渉信号の偏波間情報(例えば偏波間位相差)の差を大きくするものである。
【0065】
図10のレーダ装置1は、送受切替部11と、IQ検波部6と、偏波間状態復元部31と、観測偏波間情報算出部32と、偏波制御情報算出部33と、送信偏波制御部34とを備えている。
図11の与干渉レーダ装置1aと被干渉レーダ装置1bのいずれも、
図10のレーダ装置1と同様の構成を備えている。
【0066】
観測偏波間情報算出部32は、所定の観測範囲から反射された受信パルス信号の水平偏波信号と垂直偏波信号に基づいて、偏波間の関係を示す偏波間情報を算出する。
【0067】
偏波制御情報算出部33は、観測偏波間情報算出部32で算出された偏波間情報に基づいて、送信パルス信号の偏波間情報を制御する制御情報を算出する。より具体的には、偏波制御情報算出部33は、所望信号と干渉信号との偏波間位相差の差分を大きくするための制御情報を算出する。
【0068】
送信偏波制御部34は、制御情報に基づいて送信パルス信号の偏波間情報を制御する。より具体的には、送信偏波制御部34は、偏波制御情報算出部33で算出された振幅制御情報又は位相制御情報を、送信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の少なくとも一方に乗じることにより、偏波間情報を制御する。
【0069】
偏波制御情報算出部33は、送信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波間情報が、複数の受信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波間情報と所定値以上異なるように、振幅制御情報又は位相制御情報を含む制御情報を算出する。
【0070】
偏波間状態復元部31は、制御情報に基づいて、送信パルス信号の偏波状態を復元する。より詳細には、偏波間状態復元部31は、制御情報に基づいて、送信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波状態を復元する。すなわち、偏波間状態復元部31は、送信パルス信号を生成する際に考慮した偏波間情報に基づいて、元の偏波間状態を復元する。観測偏波間情報算出部32は、偏波間状態復元部31で復元された偏波間状態に基づいて、偏波間情報を算出する。
【0071】
図12は
図10のレーダ装置1の処理動作の一例を示すフローチャートである。以下では、偏波間位相差を制御する例に従い説明を行う。まず、偏波制御情報算出部33は、以下の式(9)にて、送信パルス信号に対する制御情報(偏波間位相差情報)φcont,nを算出する(ステップS31)。また、送信パルス信号の送信回数を示す変数nを1だけインクリメントする。
φcont,n=φdp,n+φA …(9)
【0072】
式(9)において、φdp,nはn回目の観測で得られた所望信号の偏波間位相差であり、初回は事前に設定した初期値φ0である。φAは、所望信号と干渉信号の偏波間位相差を大きくするための値である。φAは、事前に設定してもよいし、運用中に所望信号の状態に応じて設定してもよい。
【0073】
次に、送信偏波制御部34は、式(9)で算出した制御情報φcont,nに基づいて、送信パルス信号の水平偏波信号Stx,h,nと垂直偏波信号Stx,v,nの位相差を以下の式(10)と式(11)で制御する(ステップS32)。
Stx,h,n=Stx,h0 …(10)
Stx,v,n=Stx,v0×exp(1j×φcont,n) …(11)
【0074】
Stx,h,nとStx,v,nは、送信信号の水平偏波と垂直偏波の種信号である。1jは虚数単位である。式(10)と式(11)により、送信パルス信号の偏波間位相差がφcont,nとなるように制御することができる。
【0075】
次に、与干渉レーダ装置1aと被干渉レーダ装置1bは、送受切替部11を介して送信偏波信号をアンテナ5から送信する(ステップS33)。
【0076】
その後、被干渉レーダ装置1bは、アンテナ5にて受信パルス信号を受信し、IQ検波部6にてIQ検波処理を行って、IQ検波された水平偏波信号Srx,h,nと垂直偏波信号Srx,v,nを受信する(ステップS34)。
【0077】
次に、偏波間状態復元部31は、以下の式(12)と式(13)にて、送信時に制御した位相差を復元し、復元後の偏波信号Srx',h,nとSrx',v,nを生成する(ステップS35)。
Srx',h,n=Srx,h,n …(12)
Srx',v,n=Srx,v,n×exp(-1j×φcont,n) …(13)
【0078】
上述した例では、式(10)~式(13)からわかるように、偏波間位相差を大きくする処理は垂直偏波信号に対してのみ行っており、水平偏波信号の偏波間位相差はそのままである。ただし、水平偏波信号の偏波間位相差を大きくする処理を行ってもよい。また、水平偏波信号と垂直偏波信号の両方とも偏波間位相差を大きくする処理を行ってもよい。
【0079】
次に、式(12)と式(13)で生成された偏波信号Srx',h,nとSrx',v,nに基づいて、受信パルス信号の偏波間情報φdp,nを算出する(ステップS36)。
【0080】
上述したステップS31~S36の処理は、複数回繰り返される。なお、ステップS31~S33の送信パルス信号の偏波間位相差制御は、必ずしも受信パルス信号を受信するたびに行う必要は無い。例えば、観測偏波間情報の差分の受信間隔毎の変動が小さい場合は、ステップS31の制御情報を更新しなくてもよい。また、所定の期間ごと(例えば数時間ごと)に制御情報を更新してもよい。
【0081】
上述した
図10のレーダ装置1は、干渉判定に関する処理ブロックを備えていないが、干渉判定に関する処理ブロックを追加してもよい。この場合、例えば
図13のような構成になる。
図13のレーダ装置1は、
図10の構成に加えて、偏波間情報差算出部2と、干渉判定部3とを備えている。偏波間情報差算出部2は、観測偏波間情報算出部32で算出された観測偏波間情報に基づいて、偏波間情報差を算出する。
【0082】
また、
図13の構成に加えて、
図6の信号レベル算出部21と信号対雑音レベル差算出部22を追加してもよいし、あるいは8の信号レベル算出部21と信号レベル差算出部24を追加してもよい。さらに、
図10や
図13のレーダ装置1の処理は、
図5のレーダ装置1内の信号処理部15で行ってもよい。この場合、
図10や
図13のレーダ装置1の処理を、
図5の信号処理部15がハードウェアで実施してもよいし、少なくとも一部の処理をソフトウェアで実施してもよい。また、
図10や
図13のレーダ装置1内の干渉判定部3の後段側に、
図4の干渉除去部7と雨量推定部8を設けてもよい。
【0083】
より具体的には、信号処理部15は、受信パルス信号における偏波間の関係を示す偏波間情報を算出し、受信パルス信号の偏波間情報に基づいて、送信パルス信号における偏波間の関係を示す偏波間情報を制御する制御情報を算出し、制御情報に基づいて、送信パルス信号の偏波間情報を制御し、制御情報に基づいて、送信パルス信号の偏波状態を復元し、偏波状態が復元された送信パルス信号の偏波間情報を算出する。また、信号処理部15は、送信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波間情報を制御するための制御情報を算出し、制御情報に基づいて、送信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波間情報を制御し、制御情報に基づいて、送信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波状態を復元することができる。制御情報は、振幅および位相の少なくとも一方を制御する情報であり、信号処理部15は、制御情報を、送信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号に乗じることにより、送信パルス信号の偏波間情報を制御することができる。また、信号処理部15は、送信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波間情報が、受信パルス信号の水平偏波信号及び垂直偏波信号の偏波間情報と所定値以上異なるように、制御情報を算出することができる。また、信号処理部15は、複数の受信パルス信号における偏波間情報の差分を算出し、受信パルス信号における偏波間情報の差分に基づいて受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定することができる。また、信号処理部15は、処理部で算出された送信パルス信号の偏波間情報に基づいて、アンテナから送信される送信予定パルス信号の送信予定偏波間情報を制御し、切替器は、送信予定偏波間情報が制御された送信予定パルス信号をアンテナに送出することができる。
【0084】
このように、第3の実施形態では、干渉レーダ装置1から送信される送信パルス信号を干渉信号として受信する被干渉レーダ装置1bが受信処理を行う際に、所望信号と干渉信号の偏波間位相差に有意な差が生じるように、干渉レーダ装置1から送信される送信パルス信号の垂直偏波の振幅値を制御する。これにより、被干渉レーダ装置1bでは所望信号と干渉信号とを明確に区別でき、干渉信号を誤って所望信号と見なすおそれを軽減できる。
【0085】
(第4の実施形態)
観測範囲内に存在する粒子形状によって、受信パルス信号の信号レベルが変化し、偏波間情報の差分にも影響を与え、所望信号を干渉信号と誤ってみなすおそれがある。より具体的には、所望信号が雹のような固体粒子の場合、所望信号の偏波間情報の差分がより大きくなる可能性があり、所望信号を干渉信号と誤って判断するおそれがある。そこで、第4の実施形態では、粒子が固体か否かを判定することにより、観測範囲内の液体粒子で反射された受信パルス信号が受信された場合のみ、偏波間情報の差分を用いた干渉検出処理を行うものである。
【0086】
図14は第4の実施形態によるレーダ装置1の概略構成を示すブロック図である。
図14のレーダ装置1は、IQ検波部6と、粒子判定部35と、偏波間情報差利用決定部36と、偏波間情報算出部4と、偏波間情報差算出部2と、干渉判定部3とを備えている。
【0087】
IQ検波部6は、受信パルス信号の水平偏波信号と垂直偏波信号に対してIQ検波処理を行い、IQ検波後の水平偏波信号と垂直偏波信号に基づいて、所望信号のレーダ反射因子、ドップラ速度、偏波間情報等の所望信号の情報を推定する。
【0088】
粒子判定部35は、推定された所望信号に基づいて、粒子が固体か液体かの粒子判定を行う。粒子判定の手法は、レーダ反射因子やレーダ反射因子差を用いたファジーロジック・アルゴリズムなどを用いる。より具体的に説明すると、レーダ反射因子やレーダ反射因子差と粒子の状態を関係づけるメンバシップ関数を生成し、それぞれのメンバシップ関数の和集合に基づいて粒子形状を判定する。
【0089】
偏波間情報差利用決定部36は、粒子判定を行った結果、雨水と判定された場合のみ、偏波間情報差を利用することを決定する。偏波間情報差利用決定部36で、偏波間情報差の利用が決定されると、偏波間情報算出部4にて偏波間情報が算出され、続いて偏波間情報差算出部2にて偏波間情報の差分が算出され、算出された差分に基づいて干渉判定部3にて干渉を受けているか否かの判定処理が行われる。干渉判定部3は、粒子判定部35にて液体と判定されると、偏波間情報の差分に基づいて複数の受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定し、粒子判定部35にて固体と判定されると、偏波間情報の差分に基づく干渉判定を停止する。
【0090】
上述した
図14のレーダ装置1の処理は、
図5のレーダ装置1内の信号処理部15で行ってもよい。この場合、
図14のレーダ装置1の処理を、
図5の信号処理部15がハードウェアで実施してもよいし、少なくとも一部の処理をソフトウェアで実施してもよい。また、
図14のレーダ装置1内の干渉判定部3の後段側に、
図4の干渉除去部7と雨量推定部8を設けてもよい。
【0091】
より具体的には、信号処理部15は、観測対象の粒子が液体であるか固体であるかを判定し、液体と判定した場合、偏波間情報の差分に基づいて受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定し、固体と判定した場合、偏波間情報の差分に基づいて受信パルス信号が干渉を受けたか否かを判定しない。
【0092】
このように、第4の実施形態では、受信パルス信号をIQ検波した後に粒子判定を行い、粒子が液体であると判定された場合のみ、偏波間情報の差分に基づく干渉判定を行うため、干渉判定の精度を向上できる。
【0093】
上述した実施形態で説明したレーダ装置1の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、レーダ装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0094】
また、レーダ装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1 レーダ装置、2 偏波間情報差算出部、3 干渉判定部、4 偏波間情報算出部、5 アンテナ、6 IQ検波部、7 干渉除去部、8 雨量推定部、11 送受切替部、12 電力増幅部、13 低雑音増幅部、14 周波数変換部、15 信号処理部、16 送信制御部、17 データ変換部、18 データ表示部、19 データ蓄積部、21 信号レベル算出部、22 信号対雑音レベル差算出部、23 第1雑音判定部、24 信号レベル差算出部、25 第2雑音判定部、31 偏波間状態復元部、32 観測偏波間情報算出部、33 偏波制御情報算出部、34 送信偏波制御部、粒子判定部、36 偏波間情報差利用決定部